説明

電界放射低減構造

【課題】パワー半導体素子からの熱を放熱させると共に、筐体への漏れ電流を抑制して電界放射を低減することが可能な電界放射低減構造を提供すること。
【解決手段】パワー半導体素子2及びこのパワー半導体素子2が実装される基板3を収容する筐体4を備え、この筐体4にパワー半導体素子2で発生した熱を伝熱し、筐体4を用いて放熱させる構成とする。また、パワー半導体素子2から筐体4へ漏れ電流が流れる経路に電気的に接続され、筐体4を介さずに漏れ電流をパワー半導体素子2へ循環させる導電部材11を備える構成とし、漏れ電流を循環させることで、筐体4へ流れる電流を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体素子から発生する熱を筐体を用いて放熱すると共に、パワー半導体素子からの漏れ電流による電界放射を低減させる電界放射低減構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子から導出されたリード線を基板に接続固定する際に、高熱伝導性を有するセラミックス製の放熱スペーサーを用いることで、素子で発生した熱を放熱する技術がある。この放熱スペーサーでは、素子から発生するスパイクノイズを除去するため、リード線を貫通させる部分にフェライトビーズコアが埋め込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−65199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、人工衛星に搭載される冷凍機を駆動するインバータ回路で使用されるパワー半導体素子では、素子から発生した熱を筐体に伝達し、この筐体を用いて熱を放熱させるものである。このようなパワー半導体素子は、絶縁体を介して筐体に取り付けられているため、この絶縁体は、筐体との間に形成されたコンデンサーとして機能し、パワー半導体素子からの漏れ電流(高周波電流)は筐体へ流れることになる。
【0005】
一方、筐体は金属で構成され、その材質、構成などにより制御が困難なインピーダンスを持ち、このインピーダンスに上記の高周波電流が流れることで、筐体に電圧が発生することとなる。筐体表面に生じた電界から電磁波が放射され、周辺機器に影響が及ぶおそれがあるため、放射される電磁波の抑制が求められている。
【0006】
そして、筐体への漏れ電流を減少させるための絶縁性を向上させた場合には、伝熱性が低下し排熱が困難になるため、筐体への高周波電流の漏れ対策よりも排熱性の確保が優先されていた。また、特許文献1の技術は、パワー半導体素子からの熱を筐体を用いて放熱させるものではなく、筐体表面に生じた電界から電磁波が放射されることについて考慮されているものでもなかった。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、パワー半導体素子からの熱を放熱すると共に、筐体への漏れ電流を抑制して電界放射を低減することが可能な電界放射低減構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スイッチングに用いられるパワー半導体素子と、パワー半導体素子が実装される基板と、パワー半導体素子及び基板を収容し、パワー半導体で発生した熱を放熱させる筐体と、パワー半導体素子から筐体へ漏れ電流が流れる経路に電気的に接続され、筐体を介さずに漏れ電流をパワー半導体素子へ循環させる導電部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る電界放射低減構造は、パワー半導体素子及びこのパワー半導体素子が実装される基板を収容する筐体を備え、この筐体にパワー半導体素子で発生した熱を伝熱して、筐体を用いて放熱させるものである。この電界放射低減構造は、パワー半導体素子から筐体へ漏れ電流が流れる経路に電気的に接続され、筐体を介さずに漏れ電流をパワー半導体素子へ循環させる導電部材を備えているため、漏れ電流を循環させることで、筐体へ流れる漏れ電流を減少させることができる。その結果、筐体表面での電界の発生を抑え、電磁波の放射を減少させることができる。
【0010】
また、導電部材は、パワー半導体素子と筐体との間に配置され、パワー半導体素子で発生した熱を放熱させる放熱部材であることが好ましい。これにより、パワー半導体素子と筐体との間に配置された導電部材によって、パワー半導体素子で発生した熱を放熱させることができる。その結果、放熱性能の向上を図ることができる。
【0011】
また、導電部材は、パワー半導体素子と基板との間に配置され、パワー半導体素子で発生した熱を放熱する放熱部材であることが好適である。パワー半導体素子で発生した熱を放熱させる放熱部材が、パワー半導体素子と基板との間に配置されているため、筐体での放熱に加え、放熱部材によって放熱を行うことができる。これにより放熱性能の向上を図ることができる。
【0012】
また、パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって筐体へ伝える熱伝導部材と、熱伝導部材に設けられ、パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構と、を更に備えることが好ましい。この電界放射低減構造は、パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって筐体へ伝える熱伝導部材を備えているため、パワー半導体素子からの熱を筐体に伝熱し、筐体を用いて放熱を行うことができる。また、熱伝導部材には、パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構が設けられているため、熱伝導部材におけるインピーダンスを増大させることで、パワー半導体素子からの漏れ電流が熱伝導部材を通り筐体へ流れることが防止される。その結果、筐体表面での電界の発生を抑え、電磁波の放射を減少させることができる。
【0013】
また、本発明は、スイッチングに用いられるパワー半導体素子と、当該パワー半導体素子が実装される基板と、パワー半導体素子及び基板を収容し、パワー半導体で発生した熱を放熱させる筐体と、パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって筐体へ伝える熱伝導部材と、熱伝導部材に設けられ、パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る電界放射低減構造は、パワー半導体素子及びこのパワー半導体素子が実装される基板を収容する筐体を備え、この筐体にパワー半導体素子で発生した熱を伝熱して、筐体を用いて熱を放熱させるものである。この電界放射低減構造は、パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって筐体へ伝える熱伝導部材を備えているため、パワー半導体素子からの熱を筐体に伝熱し、筐体を用いて放熱を行うことができる。また、熱伝導部材には、パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構が設けられているため、熱伝導部材におけるインピーダンスを増大させることで、パワー半導体素子からの漏れ電流が熱伝導部材を通り筐体へ流れることが防止される。その結果、筐体表面での電界の発生を抑え、電磁波の放射を減少させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パワー半導体素子からの熱を放熱させると共に、筐体への漏れ電流を抑制して電界放射を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電界放射低減構造が適用されるパワー半導体素子を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電界放射低減構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る電界放射低減構造の等価回路図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電界放射低減構造を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る電界放射低減構造の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電界放射低減構造の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態の電界放射構造は、例えば人工衛星に搭載される冷凍機を駆動する冷凍機駆動用電源装置に採用されるものであり、宇宙環境で使用可能な構成とされている。この冷凍機駆動用電源装置は、太陽電池によって発電された直流の電力を交流に変換するインバータとしての機能を有する。そして、交流に変換された電力は、冷凍機の駆動に利用される。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態の電界放射低減構造について説明する。図1及び図2に示す電界放射低減構造1は、インバータ回路で使用されるパワー半導体素子(スイッチング素子)2を備えている。パワー半導体素子2は、配線が形成された回路基板3に搭載され、これらのパワー半導体素子2及び回路基板3は、金属製のシャシー(筐体)4内に収容されている。このシャシー4は、パワー半導体素子2から発生した熱が伝熱され、パワー半導体素子2からの熱を放熱させる機能を有する。
【0019】
パワー半導体素子2は、プラスチック製のパッケージ2a内にトランジスタ2bなどの電子部品を有するものであり、パワー半導体素子2から導出されたリード端子2cは、回路基板3のグランドプレーンGに電気的に接続されている。そして、パワー半導体素子2は、金属製のボルト5によって、シャシー4の側壁4aに固定されている。
【0020】
また、パッケージ2aは箱形を成し、このパッケージ2aの側壁4aと対面する面には熱を放熱させる金属製の放熱フィン6が当接されて接着されている。この放熱フィン6は例えば銅製であり、放熱フィン6とパッケージ2aとは面接触されて、熱伝導性が向上されている。また、放熱フィン6には、図示上下方向において、パッケージ2aの上方まで張り出す張出部6aが形成され、この張出部6aには、ボルト5が挿通される貫通穴が形成されている。
【0021】
放熱フィン6とシャシー4の側壁4aとの間には、絶縁性を有する絶縁シート7が配置されている。この絶縁シート7は、対面する放熱フィン5と略同じ面積を有し、厚さ方向において略同じ形状とされている。また、絶縁シート7には、放熱フィン5の貫通穴に対応する位置に、ボルト5が挿通される貫通穴が形成されている。そして、ボルト5は、放熱フィン5の貫通穴、絶縁シート7の貫通穴に挿通され、シャシー4の側壁4aに形成されたねじ穴4cに螺合されることで、放熱フィン5及び絶縁シート7をシャシー4に固定している。すなわち、絶縁シート7は、放熱フィン6及び側壁4aに挟持され、対面する放熱フィン6及び側壁4aと面接触している。また、ボルト5は、放熱フィン6との間に配置された絶縁ワッシャー8を介して取り付けられている。
【0022】
一方、パワー半導体素子2を実装する基板3は、シャシー4の底板4bと対面して配置され、ボルト9によって、シャシー4の底板4bに固定されている。この底板4bには、ボルト9を螺合するねじ穴4dが設けられ、このねじ穴4dに対応する位置には、基板3を下方から支持する円筒状の支持部10が設けられている。基板3には、ボルト9を挿通する貫通穴が設けられ、この貫通穴は、支持部10に対応する位置に配置されている。そして、ボルト9は、基板3の貫通穴、支持部10の貫通穴に挿通され、シャシー4の底板4dのねじ穴4dに螺合されることで、基板3をシャシー4に固定している。
【0023】
ここで、電界放射低減構造1は、パワー半導体素子2をシャシー4の側壁4aに固定するボルト5と、基板3のグランドプレーンGとを電気的に接続するワイヤー11を備えている。ワイヤー11の一方の端部には、圧着端子11aが設けられ、この圧着端子11aは、絶縁ワッシャー8と放熱フィン6との間に挟まれて固定されている。ワイヤー11により、パッケージ2aから放熱フィン6へ漏れた電流を回路基板3のグランドプレーンGへ流すことで、絶縁シート7からシャーシ4の側壁4aへの電流の漏れを低減できる。
【0024】
ワイヤー11は、パワー半導体素子2からシャシー4へ漏れ電流が流れる経路に電気的に接続され、シャシー4を介さずに漏れ電流をパワー半導体素子2へ循環させる本発明の導電部材として機能するものである。また、ワイヤー11は、パワー半導体素子2とシャシー4との間に配置され、パワー半導体素子2で発生した熱を放熱させる本発明の放熱部材として機能する。
【0025】
次に、電界放射低減構造1の等価回路について説明する。図3は、電界放射低減構造の等価回路図である。パワー半導体素子2のトランジスタ2bは、その動作に伴い熱を発生させる共に、スイッチングノイズに起因する漏れ電流を生じさせる。ここで、トランジスタ2bからの漏れ電流の発生源は、高周波電源eとみなすことができる。パワー半導体素子2のパッケージ2aは、絶縁性を有するプラスチックによって形成されているため、高周波電源eと直列に接続されたコンデンサーCとみなすことができる。
【0026】
パワー半導体素子2のパッケージ2aは金属製の放熱フィン6と当接し、この放熱フィン6は絶縁性を有する絶縁シート7と当接している。これにより、絶縁シート7は、コンデンサーCと直列に接続されたコンデンサーCとみなすことができる。絶縁シート7と当接する金属製のシャシー4は、側壁4a及び底板4bにおいて所定の長さを有するため、コンデンサーCと直列に接続されたインダクタンスL及び電気抵抗Rとみなすことができる。
【0027】
シャシー4の底板4bは、金属製のボルト9を介して基板3のグランドプレーンGと電気的に接続されている。また、基板3は、所定の長さを有しパワー半導体素子2のトランジスタ2と電気的に接続されているため、電気抵抗R及び高周波電源eとの間で直列に接続された電気抵抗R及びインダクタンスLとみなすことができる。
【0028】
すなわち、電界放射低減構造1には、高周波電源e、コンデンサーC,C、インダクタンスL、電気抵抗R,R、及びインダクタンスLが直列に接続された電気回路が形成されているとみなすことができる。ここで、電界放射低減構造1は、ボルト5及び基板3のグランドプレーン3を電気的に接続するワイヤー11を備えている。このワイヤー11は、所定の長さを有するため、コンデンサーCと直列に接続されたインダクタンスL及び電気抵抗Rとみなすことができ、これらのインダクタンスL及び電気抵抗Rは、コンデンサーC、インダクタンスL、電気抵抗R,R、及びインダクタンスLと並列に接続されている。そして、ワイヤー11のインダクタンスL及び電気抵抗Rは、シャシー4のインダクタンスL及び電気抵抗Rと比較して、小さくされている。ワイヤー11のインダクタンスLは、シャシー4のインダクタンスLと比較して小さく、ワイヤー11の電気抵抗Rは、シャシー4の電気抵抗Rと比較して小さい。これにより、漏れ電流をワイヤー11に流れ易くすることで、シャシー4に流れる漏れ電流iを減少させることができる。そのため、シャシー4に発生する電圧eを減らし、シャシー4表面での電界の発生を抑えて、電磁波の放射を減少させることができる。
【0029】
このような電界放射低減構造1では、パワー半導体素子2のパッケージ2aが、放熱フィン6に当接され、この放熱フィン6が絶縁シート7を介して、シャシー4の側壁4aに面接触されている。これにより、パワー半導体素子2で発生した熱は、放熱フィン6に伝達されてその一部が放熱され、残りの熱は、シャシー4に伝達されて放熱される。そのため、パワー半導体素子2からの熱を好適に放熱することができるので、排熱性を確保してパワー半導体素子2を冷却することができる。
【0030】
また、電界放射低減構造1によれば、ワイヤー11を備え、シャシー4を介さずに漏れ電流を循環させる経路を構成することができるため、シャシー4へ流れる漏れ電流iを抑制することができる。これにより、シャシー4に発生する電圧eを減らし、シャシー4表面での電界の発生を抑えて、電磁波の放射を減少させることが可能となる。その結果、電界放射低減構造1では、パワー半導体素子2からの熱を確実に放熱させると共に、シャシー4への漏れ電流を抑制して電界放射を低減することが可能とある。
【0031】
電界放射低減構造1では、伝熱性を損なうことなく高周波での絶縁性能を向上させることができる。また、漏れ電流が流れる経路が制御され、シャシー4へ流れる漏れ電流を低減することができる。パワー半導体素子2のスイッチング周波数及びその高調波での放射が低減される。従って、パワー半導体素子2を冷却することで、装置の信頼性を向上させることができ、電磁波の放射を減少させることで、周辺機器へ影響を及ぼすおそれが低減されている。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態の電界放射低減構造について説明する。図4に示す電界放射低減構造21は、インバータ回路で使用されるパワー半導体素子(スイッチング素子)22を備えている。パワー半導体素子22は、配線が形成された回路基板23に搭載され、これらのパワー半導体素子22及び回路基板23は、金属製のシャシー(筐体)24内に収容されている。このシャシー24は、パワー半導体素子22から発生した熱が伝熱され、パワー半導体素子22からの熱を放熱させる機能を有する。
【0033】
パワー半導体素子22は、プラスチック製のパッケージ22a内にトランジスタ22bなどの電子部品を有するものであり、パワー半導体素子22から導出されたリード端子22cは、回路基板23のグランドプレーンGに電気的に接続されている。そして、パワー半導体素子22は、金属製のボルト25及びナット25bによって、基板23に固定されている。
【0034】
また、パッケージ22aは箱形を成し、このパッケージ22aの基板23と対面する面(底面)には熱を放熱させる金属製の放熱フィン26が当接されて接着されている。この放熱フィン6は例えば銅製であり、放熱フィン26とパッケージ22aとは面接触されて、熱伝導性が向上されている。また、放熱フィン26には、図示左右方向において、パッケージ22aの上方まで張り出す張出部26aが形成され、この張出部26aには、ボルト25が挿通される貫通穴が形成されている。
【0035】
そして、放熱フィン26は、基板23の表面(天面)に形成されたグランドプレーンG上に配置されている。放熱フィン26の底面は、基板23のグランドプレーンGと面接触した状態となっている。放熱フィン26は、基板23(ガラスエポキシ基板)に固定され、グランドプレーンGと電気的に接続されている。また、放熱フィン26の底面は、その全面においてグランドプレーンGと電気的接続されている。
【0036】
また、基板23には、放熱フィン26の貫通穴に対応する位置に、ボルト25が挿通される貫通穴が形成されている。また、放熱フィン26の張出部26aの天面(基板23とは反対側の面)には、絶縁性を有する絶縁シート27が配置されている。この絶縁シート27は、例えばリング状に形成されその中央の開口は、放熱フィン26の貫通穴に対応して配置されている。また、この絶縁シート27と、放熱フィン26との接触面積は、極力小さくすることが好ましい。
【0037】
また、この絶縁シート27上には、後述する熱パス31の圧着端子31a、及びこの圧着端子31aを上方から押し付けるワッシャー32が配置されている。これらの基板23、グランドプレーンG、放熱フィン26、絶縁シート27、圧着端子31a、及びワッシャー32は、この順で積層されてボルト25及びナット25bによって締結されている。
【0038】
また、パワー半導体素子22を実装する基板23は、シャシー24の底板24bと対面して配置され、ボルト29によって、シャシー24の底板24bに固定されている。この底板24bには、ボルト29を螺合するねじ穴24dが設けられ、このねじ穴24dに対応する位置には、基板23を下方から支持する円筒状の支持部30が設けられている。基板23には、ボルト29を挿通する貫通穴が設けられ、この貫通穴は、支持部30に対応する位置に配置されている。そして、ボルト29は、基板23の貫通穴、支持部30の貫通穴に挿通され、シャシー24の底板24dのねじ穴24dに螺合されることで、基板23をシャシー24に固定している。
【0039】
ここで、電界放射低減構造21は、パワー半導体素子22からの熱をシャシー4へ伝熱する熱パス(熱伝導部材)31を備えている。この熱パス31は、良好な伝熱性能を有する線材料によって形成されている。また、熱パス31の両端に設けられた圧着端子31a,31bは、例えば線材料やグラファイトシートを用いて形成されている。そして、一方の圧着端子31aは、ボルト25及びナット25bによる締結力により、絶縁シート27に押し付けられている。また、他方の圧着端子31bは、ボルト35によって締め付けられ、ワッシャー36によって押圧され、シャシー24の側壁24aと面接触している。側壁24aに設けられたねじ穴24cにボルト35を螺合させることで、圧着端子31bは、側壁24aに押し付けられている。すわなち、放熱フィン26に伝えられた熱は、熱パス31における熱伝導により伝熱され、シャシー24に伝達される。
【0040】
また、この熱パス31には、フェライトビーズ33が取り付けられている。このフェライトビーズ33は、熱パス31のインピーダンスを増大させる機能を有するものであり、具体的には、パワー半導体素子2のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるものである。このフェライトビーズ33が、本発明のインピーダンス調整機構に相当する。フェライトビーズ33は、例えば円筒状を成し、その内部に熱パス31を挿通させる。
【0041】
次に、電界放射低減構造21の等価回路について説明する。図5は、電界放射低減構造の等価回路図である。パワー半導体素子22のトランジスタ22bは、その動作に伴い熱を発生させる共に、スイッチングノイズに起因する漏れ電流を生じさせる。ここで、トランジスタ22bからの漏れ電流の発生源は、高周波電源eとみなすことができる。パワー半導体素子22のパッケージ22aは、絶縁性を有するプラスチックによって形成されているため、高周波電源eと直列に接続されたコンデンサーCとみなすことができる。
【0042】
パワー半導体素子22のパッケージ22aは金属製の放熱フィン26と当接し、この放熱フィン26は絶縁性を有する絶縁シート27と当接している。これにより、絶縁シート27は、コンデンサーCと直列に接続されたコンデンサーCとみなすことができる。絶縁シート27と接続された熱パス31には、インピーダンスを増大させるフェライトビーズが取り付けられているため、コンデンサーCと直列に接続されたインダクタンスLとみなすことができる。熱パス31と接続された金属製のシャシー24は、側壁24a及び底板24bにおいて所定の長さを有するため、インダクタンスLと直列に接続されたインダクタンスL及び電気抵抗Rとみなすことができる。
【0043】
シャシー24の底板24bは、金属製のボルト29を介して基板23のグランドプレーンGと電気的に接続されている。また、基板23は、所定の長さを有しパワー半導体素子22のトランジスタ22と電気的に接続されているため、電気抵抗R及び高周波電源eとの間で直列に接続された電気抵抗R及びインダクタンスLとみなすことができる。
【0044】
すなわち、電界放射低減構造21には、高周波電源e、コンデンサーC,C、インダクタンスL,L、電気抵抗R,R、及びインダクタンスLが直列に接続された電気回路が形成されているとみなすことができる。ここで、電界放射低減構造21では、放熱フィン26が基板23のグランドプレーンGに面接触され電気的に接続されている。これにより、グランドプレーンGは、放熱フィン26と当接して電気的に接続されているため、コンデンサーCと直列に接続されたインダクタンスL及び電気抵抗Rとみなすことができ、これらのインダクタンスL及び電気抵抗Rは、コンデンサーC、インダクタンスL,L、電気抵抗R,R、及びインダクタンスLと並列に接続されている。そして、放熱フィン26と面接触するグランドプレーンGのインダクタンスL及び電気抵抗Rは、シャシー4のインダクタンスL及び電気抵抗Rと比較して、小さくされている。グランドプレーンGのインダクタンスLは、シャシー24のインダクタンスLと比較して小さく、グランドプレーンGの電気抵抗Rは、シャシー24の電気抵抗Rと比較して小さい。これにより、シャシー4を介さずに漏れ電流をトランジスタ22bへ循環させる経路を形成することができるので、シャシー24に流れる漏れ電流iを減少させることができる。そのため、シャシー24に発生する電圧eを減らし、シャシー24表面での電界の発生を抑えて、電磁波の放射を減少させることができる。
【0045】
このような電界放射低減構造21では、パワー半導体素子22のパッケージ22aが、放熱フィン26に当接され、この放熱フィン26が絶縁シート27、熱パス31を介して、シャシー24の側壁24aに接続されている。これにより、パワー半導体素子22で発生した熱は、放熱フィン26に伝達されてその一部が放熱され、残りの熱は、熱パス33の熱伝導により伝熱され、シャシー24に伝達されて放熱される。そのため、パワー半導体素子22からの熱を好適に放熱することができるので、排熱性を確保してパワー半導体素子22を冷却することができる。
【0046】
また、電界放射低減構造21によれば、放熱フィン26とグランドプレーンGとが面接触されて、互いの接触面積が大きく確保されるため、インダクタンスL1及び電気抵抗R1を小さくすることができ、シャシー24を介さずに漏れ電流をトランジスタ22bへ循環させる経路を構成することが可能となり、シャシー24へ流れる漏れ電流iを抑制することができる。更に、電界放射低減構造21では、インピーダンスを増大させるフェライトビーズ33が熱パス31に取り付けられ、インダクタンスL4を通ってシャシー24へ流れる漏れ電流を効果的に抑制することができる。これらにより、シャシー24に発生する電圧eを減らし、シャシー24表面での電界の発生を抑えて、電磁波の放射を減少させることが可能となる。その結果、電界放射低減構造21では、パワー半導体素子22からの熱を確実に放熱させると共に、シャシー24への漏れ電流を抑制して電界放射を低減することが可能とある。
【0047】
また、電界放射低減構造21では、絶縁シート27と放熱フィン26との接触面積、絶縁シート27と熱パス31の圧着端子31aとの接触面積を小さくすることで、コンデンサーCを小さくして、シャシー24へ流れる漏れ電流を抑制することができる。
【0048】
電界放射低減構造21では、伝熱性を損なうことなく高周波での絶縁性能を向上させることができる。また、漏れ電流が流れる経路が制御され、シャシー24へ流れる漏れ電流を低減することができる。パワー半導体素子22のスイッチング周波数及びその高調波での放射が低減される。従って、パワー半導体素子22を冷却することで、装置の信頼性を向上させることができ、電磁波の放射を減少させることで、周辺機器へ影響を及ぼすおそれが低減されている。
【0049】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、本発明の電界放射低減構造を人工衛星に搭載される冷凍機駆動用電源装置に適用しているが、その他のパワー半導体素子を備える装置に電界放射低減構造を適用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,21…冷凍機駆動用電源装置、2,22…パワー半導体素子、2b,22b…トランジスタ、3,23…基板、4,24…シャシー(筐体)、6,26…放熱フィン(熱伝導部材)、11…ワイヤー(導電部材)、31…熱パス(熱伝導部材)、33…フェライトビーズ(インピーダンス調整機構)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチングに用いられるパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子が実装される基板と、
前記パワー半導体素子及び前記基板を収容し、前記パワー半導体で発生した熱を放熱させる筐体と、
前記パワー半導体素子から前記筐体へ漏れ電流が流れる経路に電気的に接続され、前記筐体を介さずに漏れ電流を前記パワー半導体素子へ循環させる導電部材と、を備えることを特徴とする電界放射低減構造。
【請求項2】
前記導電部材は、前記パワー半導体素子と前記筐体との間に配置され、前記パワー半導体素子で発生した熱を放熱させる放熱部材であることを特徴とする請求項1記載の電界放射低減構造。
【請求項3】
前記導電部材は、前記パワー半導体素子と前記基板との間に配置され、前記パワー半導体素子で発生した熱を放熱させる放熱部材であることを特徴とする請求項1記載の電界放射低減構造。
【請求項4】
前記パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって前記筐体へ伝える熱伝導部材と、
前記熱伝導部材に設けられ、前記パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構と、を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の電界放射低減構造。
【請求項5】
スイッチングに用いられるパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子が実装される基板と、
前記パワー半導体素子及び前記基板を収容し、前記パワー半導体で発生した熱を放熱させる筐体と、
前記パワー半導体素子で発生した熱を熱伝導によって前記筐体へ伝える熱伝導部材と、
前記熱伝導部材に設けられ、前記パワー半導体素子のスイッチング周波数におけるインピーダンスを増大させるインピーダンス調整機構と、を備えることを特徴とする電界放射低減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−187729(P2011−187729A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52106(P2010−52106)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】