説明

面状ヒータ及びその製造方法ならびに画像定着装置

【課題】本発明は、熱的衝撃による基板破損を防止することができ、基板の熱伝導率が低く抵抗発熱体の発熱量を効果的に定着処理に用いることができ、さらに非通紙部昇温を制御できる面状ヒータを提供することを目的とする。
【解決手段】面状ヒータは、絶縁基板、発熱体、電極、および耐熱絶縁層を備える。絶縁基板は、ポリイミド樹脂から成る。発熱体は、導電性物質が混合分散されたポリイミド樹脂から形成されており、絶縁基板上に設けられる。電極は、発熱体に電力を供給するためのものである。耐熱絶縁層は、絶縁基板と発熱体とを覆うように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機やレーザービームプリンター等においてトナー画像を熱定着する面状ヒータおよびその製造方法、並びに面状ヒータを用いた画像定着装置に関する。詳しくは複写機やレーザービームプリンターなどの画像定着装置において薄膜のシームレスベルトを介してトナー画像を熱定着する面状ヒータ、およびこの面状ヒータを用いた画像定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を利用した複写機やレーザービームプリンターでは、近年、複写紙上に形成される未定着のトナー像を熱定着するための定着方式としてポリイミド樹脂シームレスベルトや金属薄膜シームレス管を使用したベルト定着方式が主流になってきている。
このようなベルト定着方式が採用される画像定着装置では、例えば、厚みが20〜80μmの薄膜ポリイミド樹脂シームレスベルトの内側に面状のセラミックスヒータが配置され、ポリイミド樹脂シームレスベルトの外面が駆動源と連結される加圧ロールと圧接されている。そして、このような画像定着装置において、定着ベルトと加圧ロールとの間に、トナー像が形成された複写紙が順次送り込まれると、トナーがセラミックスヒータにより加熱溶融してトナー像が複写紙上に定着される。なお、このとき、定着ベルトは、複写紙を介して伝達されてくる加圧ロールの駆動力によって回転駆動され、加圧ロールと共同して複写紙を繰り送って排紙する。
【0003】
ところで、このようなベルト定着方式の画像定着装置に用いられるセラミックスヒータは、例えば、セラミックス等の絶縁基板上に銀・パラジウム合金等からなる抵抗発熱体をスクリーン印刷などにより形成した後にヒータ面の長手方向の両端部に抵抗発熱体に通電するための電極やサーミスタの信号取出用電極等を形成して製造される。より具体的には、下記特許文献1で提案されているように、アルミナセラミックス基板上に銀・パラジウム合金をスクリーン印刷により形成して高温で焼成した後、ガラス質保護層を設けてセラミックスヒータとしている。このようなセラミックスヒータは、通電後の立ち上がりが非常に速いため待ち時間がなく、また従来のハロゲンランプを使った定着ロール方式と比較して消費電力を著しく低減できる(オンデマンデ定着方式)。このため、最近では、このようなセラミックスヒータを用いて、A4サイズの複写紙を1分間に36〜40枚の高速で熱定着できるレーザープリンターも市販されている。
【0004】
ところで、A3用紙対応のベルト定着方式画像定着装置で同サイズの用紙を定着機に挿入した場合、ヒータには定着ベルトを介して長手方向全部に紙面が通過するため、ヒータの均一な発熱量により、用紙全面が加熱され正常な熱定着が行われる。しかし、葉書等のように小さい用紙の場合には、葉書がヒータの長さ方向の中央部、あるいは片端部を通過することになり、葉書が通過している部分ではヒータの熱量は葉書に吸収され所定の定着が行われるが、葉書が通過していない部分では熱の消費が行われないためセラミックス基板上で局部的な温度差が生じることになる(非通紙部昇温と呼ばれる)。また、ベルト定着方式の画像定着装置に使用されるヒータには、瞬間的に200℃前後の定着温度を得るための発熱容量が要求される。このため、ベルト定着方式の画像定着装置に搭載されるヒータとしてセラミックヒータを採用した場合、ヒータ面状では局部的な温度差が発生し、これらの熱的衝撃によってセラミックス基板が破壊しやすい。このような問題を解決するために、セラミックス基板材料を、アルミナではなくアルミナよりも熱伝導率の高い窒化アルミニウムや窒化ケイ素等とすることが提案されている。ちなみに、下記特許文献2では、セラミックスヒータを構成する基板を、酸化ジルコニウム粉末材料を添加した酸化アルミニウム粉末材料の焼結体で形成することが提案されている。
【0005】
しかし、上記のように改良されたセラミックス基板では、抵抗発熱体で発生した熱がセラミックス基板を伝わって放熱されやすくなっているため、熱ロスが生じやすい。また、セラミックスヒータ全長の温度の均一性にも問題が生じ、定着不良が発生しやすい。さらに、酸化ジルコニウム粉末材料は高価でありヒータ価格を上昇させる問題があった。
そこで、本願発明者らは上記セラミックス基板材料をポリイミド樹脂粉末に代えて基板を作製し、この基板上に金属製電気抵抗発熱体を積層一体化して面状ヒータを作製した(特許文献3参照)。この面状ヒータをベルト定着装置の定着ヒータとして使用した場合、基板が有機質であるため、熱的衝撃による基板破損を防ぐことができ、ヒータ全長の均熱性が維持され、金属製電気抵抗発熱体から生じる熱を効果的に定着処理に用いることができる。
【特許文献1】特開平03−114755号公報
【特許文献2】特開平11−143265号公報
【特許文献3】特開2005−26185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このようなポリイミド樹脂基板から成る面状ヒータは、金属製電気抵抗発熱体の作製及び抵抗値の調整が煩雑である。また、ポリイミド樹脂基板上に金属製電気抵抗発熱体を耐熱接着剤で接着する必要があるため、定着温度(約200℃)から常温までの繰返し使用による接着力の耐久性に対する問題があった。
本発明は、熱的衝撃による基板破損を防止することができ、基板の熱伝導率が低く抵抗発熱体の発熱量を効果的に定着処理に用いることができ、さらに非通紙部昇温を制御できる面状ヒータおよびその製造方法、並びにこの面状ヒータを用いた画像定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る面状ヒータは、絶縁基板、発熱体、電極、および耐熱絶縁層を備える。絶縁基板は、ポリイミド樹脂から成る。発熱体は、導電性ポリイミド樹脂から形成されており、絶縁基板上に設けられる。なお、ここにいう「導電性ポリイミド樹脂」とは、導電性物質が混合分散されたポリイミド樹脂である。電極は、発熱体に電力を供給するためのものである。耐熱絶縁層は、絶縁基板と発熱体とを覆うように形成される。
【0008】
なお、本発明に係る面状ヒータにおいて、導電性ポリイミド樹脂はポリイミド前駆体に導電性物質を混合分散した後にイミド転化して得られるのが好ましい。なお、ここにいう「ポリイミド前駆体」は(1)少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体と少なくとも1種のジアミン又はその誘導体とを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液か(2)少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物と少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体とを極性溶媒中で反応させて得られる非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液であるのが好ましい。なお、「ポリイミド前駆体」が少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物と少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体とを極性溶媒中で反応させて得られる非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液である場合、テトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物は下記化学式(A)〔式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1から8である炭化水素基(芳香環、−O−、−CO−、−OH等の官能基を有してもよい)、又はフェニル基を表わす。また、R’は化学式(A−1)または化学式(A−2)(式中、XはO、S、SO、SO2、CH2、C(CH32、CO、又は直接結合を表わす)〕で表されるテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物から成る群より選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物であるのが好ましく、ジアミン又はその誘導体は下記化学式(I)〔式中、R”は化学式(I−1)または化学式(
I−2)(式中、YはO、S、SO、SO2、CH2、C(CH32、CO、又は直接結合
を表わす)〕で表されるジアミン又は誘導体から成る群より選ばれる少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体であるのが好ましく、また、テトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物とジアミンまたはその誘導体との混合モル比は80:100以上99:100以下であるのが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
また、本発明に係る面状ヒータにおいて、導電性物質は窒化タンタル(TaN)、炭化タンタル(TaC)、三珪化モリブデン(Mo5Si3)、レニウム−タングステン合金、二珪化モリブデン(MoSi2)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、チタンカーバイト(TiC)、金属、カーボンブラック、およびグラファイト、カーボンナノチューブから成る群より選択される少なくとも1つであるのが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る面状ヒータにおいて、発熱体は温度自己制御特性を有するのが好ましい。
また、本発明に係る面状ヒータにおいて、絶縁基板はポリイミド前駆体粉末を成形した後またはポリイミド前駆体粉末を成形しながらイミド転化した粉末成形体であって無機絶縁物質から成るフィラーを含むのが好ましい。
【0017】
そして、このような面状ヒータは、フィラー混合工程、粉末化工程、絶縁基板作製工程、電極設置工程、導電性物質混合工程、塗布工程、および耐熱絶縁層形成工程を経て製造されるのが好ましい。フィラー混合工程では、第1ポリイミド前駆体溶液中に無機絶縁物質から成るフィラーが混合されてフィラー入りポリイミド前駆体溶液が調製される。粉末化工程では、フィラー入りポリイミド前駆体溶液が粉末化されてフィラー入りポリイミド前駆体粉末が調製される。絶縁基板作製工程では、フィラー入りポリイミド前駆体粉末が成形された後またはフィラー入りポリイミド前駆体粉末が成形されながらイミド転化されて絶縁基板が作製される。電極設置工程では、絶縁基板上に少なくとも一対の電極が設けられる。導電性物質混合工程では、第2ポリイミド前駆体溶液中に導電性物質が混合されて導電性物質入りポリイミド前駆体溶液が調製される。塗布工程では、導電性物質入りポリイミド前駆体溶液が電極の一部と重なるように絶縁基板上に部分的に塗布される。イミド転化工程では、導電性物質入りポリイミド前駆体がイミド転化されて発熱体が形成される。耐熱絶縁層形成工程では、絶縁基板と発熱体とを覆うように耐熱絶縁層が形成される。なお、第1ポリイミド前駆体溶液と第2ポリイミド前駆体溶液とは同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0018】
そして、このような面状ヒータは、画像形成装置の定着機の発熱源として利用することができる。
また、このような面状ヒータは定着ベルトおよび加圧ロールを備える画像定着装置において、定着ベルトの内側であって加圧ロール側に配置されることによりその機能を発揮することができる。なお、加圧ロールは、定着ベルトに複写紙を押しつけるためのものである。また、面状ヒータと加圧ロールとの間にトナー像を形成した複写紙が順次送り込まれると、トナーが加熱溶融させられ、ニップ点で複写紙上にトナー像が定着される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る面状ヒータは、ベルト定着方式の画像定着装置に採用される面状ヒータの基板として採用された場合、絶縁基板材料がポリイミドで有機質であるため、通電直後の急激な温度上昇等に伴う熱的衝撃や、サイズの異なる複写紙を通過させた場合に生じる発熱体上での温度差(非通紙部昇温)による破損もなく、基板が破損するという従来の問題を解決できる。また、ポリイミド粉末成形基板は複雑な形状であっても容易に成形でき、低価格で製造できる。また、本発明に係る面状ヒータでは、絶縁基板材料としてポリイミド粉末を、発熱体のマトリックス材料としてポリイミド樹脂を用いているため、絶縁基板と発熱体とを強固に一体化でき耐久性に優れている。また、ポリイミド粉末成形基板は熱伝導率が低いため基板側から放熱する熱量が少なく、発熱体で発生した熱量を有効に定着性の向上に用いることができる。また、発熱体を形成させるための組成物はペースト状であるため、印刷法やコート法によって所望の形状やサイズが容易に得られる。このため、本発明に係る面状ヒータでは、精度の高い抵抗値の調整ができる。また、抵抗値は、ポリイミド前駆体に混合分散させる導電性物質の種類や混合量を選定することによっても規定できる。
【0020】
本発明に係る面状ヒータでは、導電性物質として最適なものを選定し、ポリイミド前駆体に混合分散することによって、温度自己制御型の発熱体、つまり、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性あるいはNTC(Negative Temperature Coefficient)特性を示す発熱体を調製することができる。また、本発明に係る面状ヒータは、ベルト定着方式で問題になっている非通紙部昇温の制御が可能となる。また、ポリイミド前駆体のイミド転化温度は最高でも400〜450℃であり、従来のセラミックスヒータのように800〜1200℃を超える焼結温度などでの大掛りな製造ラインを持たなくても製造できる。このため、製造コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係る面状ヒータは、主に、絶縁基板、発熱体、電極、および耐熱絶縁層から構成される。
絶縁基板としては、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂からなるフィルムやシート状、板状などの成形体を使用することができる。本発明の実施の形態においてより好ましい絶縁基板はポリイミド前駆体粉末をプレス成形し、イミド転化したポリイミド粉末成形基板であって、無機絶縁物質からなるフィラーを含有した基板である。ポリイミド粉末成形基板は熱伝導率が低く、基板からの放熱を抑え発熱体で発生した熱量を定着性の向上に有効に生かすことができ最も好ましい絶縁基板である。
【0022】
ポリイミド粉末成形基板は、平均粒子径0.1〜50μmの範囲のポリアミック酸粉末から成形され、イミド転化を経て完成される。このポリイミド粉末成形基板は、強度や寸法安定性など機械的特性に優れる。粉末成形体の成形はポリアミック酸粉末の粒子径、粉末成形方法やプレス圧力などの条件、あるいはポリアミック酸粉末に添加するフィラー等の特性によって影響を受けるがより好ましいポリアミック酸粉末の平均粒子径は1〜30μmの範囲である。
【0023】
ポリアミック酸粉末の粒子径は、ポリイミド前駆体溶液の製造工程において全芳香族ジアミンと全芳香族テトラカルボン酸二無水物との混合モル比を調整することにより、最適化することができる。例えば、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(DDE=オキシジアニリン(ODA))と無水ピロメリット酸(PMDA)とをN−メチル−2ピロリドン溶媒中で重合させた場合、DDE100mol%に対し、PMDAを94mol%以上配合すると、溶媒共沈法等で精製したポリアミック酸粉末の粒子径は急激に大きくなり、この粉末で成形した基板は機械的強度が低く破損しやすい。また、PMDAを70mol%以下とした場合、分子量が小さくなって機械的強度が低下し、面状ヒータの基板として使用することができなくなる。このように全芳香族ジアミンと全芳香族テトラカルボン酸二無水物の配合比を適切に条件設定することにより、重合時の分子量を変化させて、ポリイミド粉末成形基板を成形するのに最適なポリアミック酸粉末を精製することができる。また、モノマーの組み合せや、粉末精製方法によっても粒子径の異なるポリアミック酸粉末を精製することができ、粉末の用途や粉末成形体の要求特性に応じて適宜、ポリアミック酸の製造方法を選定することができる。
【0024】
また、ポリイミド粉末成形基板に無機絶縁物質からなるフィラーが含まれる場合、フィラーの混合量は、ポリイミド粉末100重量部に対して43〜900重量部の範囲であることが好ましい。無機絶縁物質の添加は絶縁基板の線膨張係数を調整することが目的であり、絶縁基板上に形成する発熱体、あるいは発熱体に電力を供給するための金属製電極の線膨張係数とのレベルを合わせるためのものである。一般的なポリイミド樹脂の線膨張係数は1.0〜2.5×10-5cm/cm/℃であるが、ポリイミド粉末成形基板は粉末成形することによって高くなりその線膨張係数は5〜6×10-5cm/cm/℃となる。なお、金属製電極としてニッケル箔を採用する場合、ニッケル箔の線膨張係数は、1.69×10-5cm/cm/℃であるため、ポリイミド粉末成形基板の線膨張係数の2.9〜3.5倍になる。したがって、無機絶縁フィラーを混合していないポリイミド粉末成形基板を用いた面状ヒータに通電すると、発熱により面状ヒータがバイメタルのように反り曲がってしまう。このような問題を解決するためにはポリイミド粉末成形基板中に線膨張係数の小さい無機絶縁物質からなるフィラーを混合し、金属製電極あるいは発熱体等の線膨張係数に合わせることが好ましい。つまり、本発明の実施の形態で使用される無機絶縁フィラーは線膨張係数が小さければ特に限定されるものではない。
【0025】
無機絶縁物質フィラーの特に好ましい配合量はポリイミド粉末100重量部に対して100〜700重量部の範囲である。この範囲であると線膨張係数の調整とポリイミド粉末成形基板の機械的特性を兼ね備える絶縁基板を得ることができるからである。無機絶縁フィラーは平均粒径が0.5〜15μmの範囲のものが好ましく、粒径の細かなものが線膨張係数を変化させやすい。また、無機絶縁フィラーの形状は粒子状、繊維状などいずれの形状でもよい。熱的衝撃を改良するためには針状結晶状の粉末を添加することも好ましい。
【0026】
無機絶縁物質からなるフィラーとしては、電極あるいは発熱体の材料、形状、発熱量などによってその種類、粒子径、形状あるいは配合量など最適なものを選定できる。窒化硼素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化アルミニウム、石英、ガラス粉末、酸化マグネシウムなどは単体、あるいは混合して使用することができる好ましい材料である。
ポリイミド粉末と無機絶縁フィラーを混合する方法は、あらかじめポリイミド前駆体溶液中に無機絶縁フィラーを混合する方法が溶液中で混合できるため均一に分散でき好ましい。その後の粉末精製工程を経てポリイミド・無機絶縁フィラーが均一に混合分散された粉末を得ることができる。また、あらかじめポリイミド粉末、あるいはポリアミック酸粉末単体を精製し、その後、無機絶縁フィラーをそれぞれ粉末状で混合してもよい。ポリイミド前駆体溶液から粉末を精製する方法としては、溶媒共沈法、乳化重合法、沈殿重合法などが挙げられる。ここで、ポリアミック酸粉末の一般的な精製方法である溶媒共沈法について説明すると、溶媒共沈法とは、ポリイミド前駆体溶液をエチルアルコールなどのポリイミド前駆体に対して溶解度の低い溶媒(貧溶媒)中に滴下して沈殿物を生じさせ、その後、貧溶媒と分離する方法である。なお、精製方法は、前述のように乳化重合法、沈殿重合法など粉末の用途や特性を考慮して適宜、選択することができる。
【0027】
また、ポリアミック酸粉末からポリイミド粉末成形基板を製造する場合、所定のサイズの成形金型でプレス成形後、ポリアミック酸のイミド転化温度まで加熱し製造することができる。また、ポリアミック酸粉末を金型で成形しながらイミド転化させていくこともでき、ポリイミド粉末成形基板の要求特性に合わせて形状や、寸法を決めプレス圧力、イミド転化温度などの条件を設定することができる。
【0028】
ポリイミド粉末成形基板を製造するための基本となるポリイミド前駆体溶液は、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを、有機極性溶媒中で反応させることによって得ることができる。このような芳香族テトラカルボン酸の代表例としては、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリト酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。また、これらの芳香族テトラカルボン酸は、テトラカルボン酸エステルとされていてもよい。つまり、上述したような絶縁基板の特性が得られるものであれば限定されるものではない。
【0029】
一方、芳香族ジアミンとしては特に制限はなく、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3−ジアミノジフェニルメタン、3,3−ジメトキシベンジジン、4,4−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0030】
有機極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で又は混合物としてあるいはトルエン、キシレン、アセトン、すなわち芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、すなわちアルコールなどの他の溶媒と混合して用いることができる。
【0031】
発熱体は、一般的な導電性特性を有する金属粉末等を混合分散したポリイミド前駆体組成物、およびPTCまたはNTC特性を得るための導電性材料を混合分散したポリイミド前駆体組成物により作製することができる。すなわち、本発明の実施の形態では、2種類の絶縁基板と2種類のポリイミド前駆体組成物とをそれぞれを組み合わせて面状ヒータを作製することができる。なお、これらの組合せは、面状ヒータの用途や特性に合わせて選定することができる。
【0032】
ポリイミド前駆体組成物はポリイミド前駆体溶液中に導電性物質を混合分散したペースト状の組成物であることが好ましい。ポリイミド前駆体溶液は、前述したポリイミド粉末成形基板を製造するために用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と、香族ジアミン、及び有機極性溶媒などの原料から調製することができる。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物「BPDA」とパラフェニレンジアミン「PPD」とを用いた組成物は耐熱性が高く機械的特性に優れ、発熱体を作製するために好ましい組成物である。
【0033】
さらに、本発明の実施形態において最も好ましい発熱体は、マトリックス材料が実質的にポリイミド樹脂からなる発熱体であって、電気抵抗体としての発熱特性と同時に温度自己制御特性(PTC又はNTC特性)を有するものである。例えば、発熱体がPTC特性を有する場合、発熱体の長手方向に沿って一対の電極を設け、電極間(発熱体の幅方向)に電流を流す構造とする。PTC特性を有する発熱体に所定の電圧が印加されると、発熱体の温度が徐々に上昇していき所定の温度に達すると発熱体の抵抗値が急激に高くなり、電流が制御されると同時に温度も自己制御され、いわゆる温度自己制御特性が発現する。また、発熱体がNTC特性を有する場合、発熱体の長手方向両端に電極を設け、電極間(発熱体の長手方向)に電流を流す構造とする。発熱領域のうち長手方向の一部の領域が他の部分より高温となると、その領域の抵抗値は他の部分に対して低くなる。すると、この領域の発熱量が小さくなって過昇温を抑制することができる。これらの特性を有する発熱体では、非通紙部昇温を防ぐことができる。
【0034】
そして、このような温度自己制御特性を有する発熱体は、少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物(以下、テトラカルボン酸エステル化合物という)、ジアミンまたはその誘導体(以下、ジアミン化合物という)、極性溶媒、および導電性粉末を含有する組成物から形成される。また、テトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物との混合モル比は80:100〜99:100であるのが好ましい。テトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物との混合モル比はポリイミド樹脂の分子量を決定することになり、テトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物との混合モル比が1:1であるとき最も高い分子量のポリイミド樹脂を得ることができる。このようなポリイミド樹脂は分子鎖が剛直でガラス転移温度を示しても溶融流動することはない。したがって、このようなポリイミド樹脂に導電性粉末を混合分散して得られる発熱体は十分な機械特性と寸法安定性を有する。しかしながら、本発明者らの実験によると温度自己制御特性は再現性に乏しく抵抗値の変化率も大きい。このような現象は特にテトラカルボンエステル酸化合物とジアミン化合物との混合モル比が1:1であるときに現れやすい。テトラカルボンエステル酸化合物とジアミン化合物との混合モル比が1:1であるとき、ポリイミド樹脂は最高の分子量になるため、剛直な分子鎖が絡み合い、室温から定着温度まで繰返しによりポリイミド樹脂中に分散している導電性物質の動きが固定されるためであると考えられる。このため、本願発明者らはテトラカルボンエステル酸化合物とジアミン化合物との混合モル比を1:1以外の特定のモル比とすることによりポリイミドの分子量を小さくした。この結果、発熱を繰り返しても抵抗値の変化率の小さい、すなわち再現性の高い発熱体を得ることができた。すなわち、ポリイミドの分子量を小さくした発熱体では、通電し発熱させると、分子量の高い剛直なポリイミドと比較してポリイミドが動きやすくなり、ポリイミド樹脂中に混合した導電性物質もポリイミドの熱的な動きの中で規則的な接触や、乖離あるいは移動を繰り返すことできると考えられる。なお、温度自己制御特性を向上させ、且つ発熱体としての十分な機械特性を得るためには、上記混合モル比が80:100〜99:100の範囲であることが好ましい。混合モル比はテトラカルボン酸エステル化合物あるいはジアミン化合物のいずれが多くてもよい。より好ましくはテトラカルボン酸エステル化合物に対するジアミン化合物の混合モル比が85:100〜95:100の範囲である。テトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物との混合モル比が80:100未満の場合には、ポリイミドの分子量が低くなると同時に発熱体としての強度が著しく低下する結果、加熱イミド化時の収縮に耐えきれなく、発熱体に割れやクラックなどが発生する。また、上記混合モル比が99:100よりも大きい場合はポリイミドが剛直になり温度自己制御特性が悪くなる。
【0035】
本発明の実施の形態において好ましいテトラカルボン酸エステル化合物は、下記の化学式(A)〔式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1から8である炭化水素基(芳香環、−O−、−CO−、−OH等の官能基を有してもよい)、又はフェニル基を表わす。また、R’は化学式(A−1)または化学式(A−2)(式中、XはO、S、SO、SO2、CH2、C(CH32、CO、又は直接結合を表わす)〕から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物である。
【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
また、本発明の実施の形態において好ましいジアミン又はその誘導体は下記の化学式(I)
〔式中、R”は化学式(I−1)または化学式(I−2)(式中、YはO、S、SO、SO2
、CH2、C(CH32、CO、又は直接結合を表わす)〕から選ばれる少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体である。
【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
なお、本発明の実施の形態で使用されるテトラカルボン酸エステル化合物は、対応するテトラカルボン酸二無水物をアルコールでエステル化することにより極めて簡単に得られる。なお、エステル化は50乃至150℃の温度で行うのが好ましい。
テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するためのテトラカルボン酸二無水物としては3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリト酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホントラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルスルメタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニル(2,2−イソプロピリデン)テトラカルボン酸二無水物などが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0044】
また、テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するためのアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、シクロヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、フェノール、1−ヒドロキシ−2−プロパノン、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、3−ヒドロキシ−2−ブタノン、1−ヒドロキシ−2−ブタノン、2−フェニルエタノール、1−フェニル−1−ヒドロキシエタン、2−フェノキシエタノールなどが挙げられ、さらに1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセロール、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、2,2’−ジヒドロキシジエチルエーテル、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、3,6−ジオキサオクタン−1,8−ジオール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコールも挙げることができる。なお、これらのアルコールは単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0045】
なお、テトラカルボン酸エステル化合物は、他の方法、例えばテトラカルボン酸の直接エステル化によっても製造することができる。
また、本発明の実施の形態で使用されるジアミンとしては4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジクロロベンジジン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノトルエン、3,4’−ビフェニルジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ビフェニルジアミン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ビフェニルジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3−アミノフェニル)(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、3,3’−ヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルなどが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態において有用な極性有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。これらの中でも特に好ましい溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である。これらの溶媒は、単独で又は混合物としてあるいはトルエン、キシレン、すなわち芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、すなわちアルコールなどの他の溶媒と混合して用いることができる。
【0047】
本発明の実施の形態において発熱体を形成するための好ましいポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物として下記の化学式(A-3)の3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を使用するものである。具体的には、このBTDAをアルコール好ましくはエタノールおよび極性溶媒好ましくはN−メチル−2−ピロリドン中で50乃至150℃の温度に加熱、攪拌しテトラカルボン酸のエステル化合物の溶液とする。そして、この溶液にモル分率でテトラカルボン酸成分の80乃至99mol%、より好ましくは90mol%のジアミン、好ましくは以下の化学式(I-3)の4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)を加え室温乃至150℃の温度で攪拌し、最後に導電性物質を加える。
【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
ポリイミド前駆体溶液の取り扱いを容易にするためには、溶液中の固形分濃度を30〜80重量%とするのが好ましく、40〜70重量%の範囲とするのがより好ましい。固形分濃度が低くなるとポリイミド前駆体溶の粘度が極端に低くなり、混合分散されている導電性物質が沈降し、発熱体としての特性を得ることが困難になる。また、固形分濃度が高すぎるとポリイミド前駆体の流動性が著しく失われるため、導電性物質の混合および分散ならびに成形が極めて困難となる。
【0051】
なお、本発明の実施の形態に係るポリイミド前駆体溶液には温度自己制御特性に悪影響を及ぼさない範囲で酸化防止剤などの添加剤を含有することもできる。
本発明の実施の形態で使用される導電性物質としては窒化タンタル(TaN)、炭化タンタル(TaC)、三珪化モリブデン(Mo5Si3)、レニウム−タングステン合金、二珪化モリブデン(MoSi2)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)炭化タングステン(WC)、チタンカーバイト(TiC)および金属粉末、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどが挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。なお、導電性物質は繊維状、針状結晶状などの形状のものが使用できるが、粒子状粉末がポリイミド前駆体溶液に混合分散させやすく好ましい。また、炭化タングステン粉末はより好ましい導電性粉末の一つである。導電性粉末の配合量は、導電粉末材料の選定によって異なるが、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度に対して20重量%〜90重量%である。
【0052】
そして、このような面状ヒータは、フィラー混合工程、粉末化工程、絶縁基板作製工程、電極設置工程、導電性物質混合工程、塗布工程、および耐熱絶縁層形成工程を経て製造されるのが好ましい。フィラー混合工程では、ポリイミド前駆体溶液中に無機絶縁物質から成るフィラーが混合されてフィラー入りポリイミド前駆体溶液が調製される。粉末化工程では、フィラー入りポリイミド前駆体溶液が粉末化されてフィラー入りポリイミド前駆体粉末が調製される。絶縁基板作製工程では、フィラー入りポリイミド前駆体粉末が成形された後またはフィラー入りポリイミド前駆体粉末が成形されながらイミド転化されて絶縁基板が作製される。電極設置工程では、絶縁基板上に少なくとも一対の電極が設けられる。なお、電極は、具体的には、銀ペーストなどの導電性塗料あるいは金属箔などにより形成することができる。導電性物質混合工程では、ポリイミド前駆体溶液中に導電性物質が混合されて導電性物質入りポリイミド前駆体溶液が調製される。塗布工程では、導電性物質入りポリイミド前駆体溶液が電極の一部と重なるように絶縁基板上に部分的に塗布される。なお、この塗布工程において、発熱体は導電性物質入りポリイミド前駆体溶液をポリイミド粉末成形基板あるいはポリイミドシートなどの表面にバーコートあるいはスクリーン印刷などの周知の方法によって成形できる。イミド転化工程では、導電性物質入りポリイミド前駆体がイミド転化されて発熱体が形成される。なお、このイミド転化工程では、塗布工程において塗布された導電性物質入りポリイミド前駆体溶液をオーブン等で段階的に加熱して極性溶媒を除去すると共にイミド転化を逐次に又は同時に行うのが好ましい。また、導電性物質入りポリイミド前駆体溶液は絶縁基板上に塗布された後、80〜120℃の温度で30〜120分間乾燥させられ、次に、200℃の温度で10〜180分間加熱された後、250〜400℃の温度で30〜120分間加熱されてイミド化されるのがより好ましい。耐熱絶縁層形成工程では、絶縁基板と発熱体とを覆うように耐熱絶縁層が形成される。なお、このとき、電力供給用の外部端子との接触部を除き電極、及び発熱体をポリイミド前駆体溶液で周知の方法で被覆し、加熱によりイミド化を完結させ耐熱絶縁層を形成するのが好ましい。なお、耐熱絶縁層の材料としては基板や発熱体との接着力、耐熱性、電気絶縁性等の特性からポリイミド樹脂が特に好ましい。また、ポリイミド樹脂以外の耐熱絶縁材料としては、ゾルゲル法等によって得られる無機コーティング材や、フッ素系、シリコーン系などの材料を用いることができる。ところで、画像定着装置の定着ヒータは発熱体の表面がポリイミド管状物の内面に接することになる。このため、発熱体のポリイミド管状物内面に対する摩擦抵抗を下げるのが好ましい。このようにするためには、耐熱絶縁層をフッ素樹脂単体、あるいはフッ素樹脂を混合分散させたポリイミド樹脂などで形成することが好ましい。
【0053】
図1は、本発明の一実施形態に係る面状ヒータの上面図および長手方向の縦断面図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係る面状ヒータの幅方向の縦断面図である。図1および図2に示されるように、この面状ヒータは、主に、ポリイミド粉末成形基板1、発熱体3、電極部2、および耐熱絶縁層4から構成される。
また、図5は、本発明の一実施形態に係る定着機の縦断面図である。この定着機10は、主に、定着ベルト11、支持体12、面状ヒータ13、および加圧ロール14から構成される。定着ベルト11には内側に支持体12が配置されており、支持体12により定着ベルト11の形状が維持されるようになっている。また、定着ベルト11の内側には面状ヒータ13が支持体12に挟まれるように配置されている。なお、この面状ヒータ13の上面にはサーミスタ15が配置されている。そして、サーミスタ15から出力される温度データに基づいて面状ヒータ13の発熱温度が制御されるようになっている。加圧ロール14は、芯金16にゴム層を設けたものであり、定着ベルト11を介して面状ヒータ13に圧接される。そして、面状ヒータ13と加圧ロール14との間にトナー像が形成された複写紙17が順次送り込まれると、面状ヒータ13によりトナー18が加熱溶融させられ、ニップ点Nで複写紙上にトナー像19が定着させられる。
【0054】
以下実施例を示してさらに本発明の内容を具体的に説明する。本実施の形態では、下記の条件および測定器により面状ヒータを評価した。
(1)線膨張係数
線膨張係数測定装置:島津製作所社製、熱機械分析装置TMA−50
温度範囲:室温〜300℃、昇温速度10℃/min、荷重:2g(引張り荷重)
チャック間距離:10mm
同一試料を2回続けて測定し2回目の値を採用した。
【0055】
(2)熱伝導率
熱伝導率測定装置:京都電子工業社製QTM−500
(3)平均粒子径
粒度分布測定:堀場製作所社製LA920
【実施例1】
【0056】
(1)ポリイミド粉末成形基板の作製
4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)25.74g(0.129mol)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)249gに溶解させた後、その溶液を攪拌しながらその溶液に無水ピロメリット酸(PMDA)25.26g(0.116mol)を3回に分けて添加し、室温にて12時間攪拌した。この結果、固形分17重量%で酸−アミンの混合モル比が90:100のポリイミド前駆体溶液を得た。
【0057】
次いで、32.94gのNMPに平均粒径1μmの酸化アルミニウム粉末(日本軽金属株式会社製:A32)を18.67g添加し超音波をかけながら15分間攪拌した。この酸化アルミニウム分散液に上記ポリイミド前駆体溶液47.06gを加え5分間攪拌し混合スラリーを得た。
続いて、上記混合スラリーを、スターラーで強力に攪拌している800mLのエタノールに45分かけ滴下し、滴下完了後さらに30分間攪拌した。そして、生じた沈殿物を吸引ろ過により回収し、エタノールで洗浄後、減圧下で6時間、常圧80℃で1時間乾燥させポリイミド前駆体・酸化アルミニウムの混合粉末を得た。なお、酸化アルミニウム粉末を添加しない状態でポリイミド前駆体のみ粉末化した場合の平均粒径は約30μmであった。
【0058】
上記ポリイミド前駆体・酸化アルミニウム混合粉末を長さ320mm、幅10mm、深さ10mmの金型に均一に入れ、プレス機を用い常温で2.058×107Pa(210kg/cm2)の圧力をかけた後にその圧力を開放する操作を2〜3回繰返し最終的に9.8×107Pa(1000kg/cm2)の圧力を10分間加えた。その後、その成形物を金型から取り出し乾燥炉で80℃から200℃まで5時間かけて昇温させ、そのまま200℃で1時間加熱した。さらに、300℃で1時間、400℃で1時間焼成して全長310mm、幅9.7mm、厚さ1mmのポリイミド粉末成形基板(ポリイミド・酸化アルミニウム混合粉末成形基板:酸化アルミニウム含有量70重量%)を得た。
【0059】
このポリイミド粉末成形基板の線膨張係数を測定するため上記の成形体から縦13mm×幅3.5mm×厚さ0.75mmの試験片を切り出した。なお、この試験片は、長手方向が成形体の長手方向に一致するように切り出した。そして、測定の結果、線膨張係数は1.84×10-5cm/cm/℃(100℃〜250℃の平均膨張係数)であった。また、熱伝導率の測定のために実施例1の条件で幅100mm、長さ150mm、厚み1.0mmの試験片を作成し熱伝導率を測定した結果0.44W/m・kであった。
【0060】
(2)電極の作成
発熱体に電力を供給するための電極を作製するために、厚さ50μm、長さ300mm、幅110mmで線膨張係数1.69×10-5cm/cm/℃(100℃〜250℃)のニッケル箔(東洋精箔株式会社製)の片面をサンドペーパーで研磨し、洗浄した。この後、ニッケル箔の研磨側表面にポリイミドワニス((株)アイ.エス.テイ製RC5019)を200μmの厚みにコーティングし120℃で30分間、200℃で30分間、さらに300℃で60分間加熱した。この結果、厚み20μmのポリイミド被膜が積層された電極材料膜が作製された。
【0061】
次いで、電極材料のニッケル箔にエッチングレジストインキにより電極パターンを印刷し、インキを乾燥させた後、エッチング液(塩化第二鉄溶液:サンハヤト株式会社製)でエッチングレジストインキが印刷されていない部分をエッチング処理した。そして、エッチング処理完了後、エッチングレジストインキを除去した。このエッチング処理により電極間が3mmで長手方向に平行に形成された幅1mmの電極部と電力供給端子部とを具備した電極回路が得られた。そして、この電極回路が形成されたフィルムを幅10mm長さ300mmにカットした。
【0062】
(3)ポリイミド粉末成形基板への電極回路の接着
ポリイミド粉末成形基板上(ポリイミド・酸化アルミニウム混合粉末成形基板)にポリイミド系接着剤(株式会社アイ.エス.テイ製SKYBOND703)を10μmの厚みに塗布後、電極回路を形成したポリイミドフィルムをポリイミドフィルム面が接着面となるように貼り付けた。そして、全面に100Nの圧力を掛け、そのまま120℃で30分間、200℃で30分間、さらに300℃で60分間加熱した後、徐冷し、ポリイミド粉末成形基板上に電極回路を接着した。
【0063】
(4)発熱体の作製
(a)ポリイミド前駆体の作製
500mLの3つ口フラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付けた攪拌棒を取り付けて合成容器とした。そして、その合成容器に、ポリイミド前駆体溶液の固形分が55質量%となるように酸成分としてALLCO製の3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)32.667g(0.1014mol)を、溶媒として三菱ガス化学社製のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)30.326gを、エステル化剤として和光純薬工業株式会社製のエタノール14.011g(0.3041mol)を投入し、60℃に加熱して2時間撹拌し、BTDAのエステル化合物を得た。その後、テトラカルボン酸成分のモル数がジアミン成分のモル数の0.9倍となるようにCiba−Geigy社製の4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)21.333g(0.1126mol)を加えさらに60℃で1時間撹拌してポリイミド前駆体溶液を得た。
【0064】
(b)導電性粉末の配合
次いで、導電性粉末として平均粒子径1.0μmの炭化タングステン粉末(株式会社アライドマテリアル製WC10)を上記ポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して277重量部、ポリイミド前駆体溶液に配合し、超音波を当てながら攪拌機で30分間攪拌、混合し炭化タングステンが均一に混合分散されたポリイミド前駆体組成物を得た。なお、このポリイミド前駆体組成物はペースト状であった。
【0065】
(c)ポリイミド前駆体組成物の塗布と焼成
電極回路が積層されたポリイミド粉末成形基板上に、ポリイミド前駆体組成物をスクリーン印刷法により幅5mm、長さ222mm、厚み20μm(固形分含量基準)で均一に塗布した。その後、そのポリイミド粉末成形基板をオーブンに入れ、80℃で20分間、110℃で30分間、120℃で30分間、150℃で20分間、200℃で20分間、次に300℃で1時間、その後400℃の温度で20分間加熱し、発熱体を得た。
【0066】
(d)耐熱絶縁層の形成
耐熱絶縁層を形成するための材料としてポリイミド前駆体溶液((株)アイ.エス.テイ製Pyre−ML RC5063:BPDA−PPD系ポリイミド前駆体溶液、固形分濃度18重量%)を用意した。続いて、電力供給端子部を除いて基板全体を覆うように、発熱体上にポリイミド前駆体溶液を塗布し、定法の通り加熱イミド化させ、厚み20μmのポリイミド絶縁層を設け本発明に係る面状ヒータを完成させた。なお、この面状ヒータの電極間の抵抗値は室温(23℃)で25Ω(デジタルマルチメーターModel17562 横河電機(株)製を用いた)であった。この面状ヒータを300℃まで加熱したが反りなどの変形は認められなかった。また、この面状ヒータは図3に示すように正の温度抵抗特性を有し、300℃付近まで発熱すると抵抗値が急激に上昇し電流が流れなくなり発熱が抑制されるPTC特性を示した(図3参照)。ちなみに、図3のグラフは面状ヒータの電極にリード線を接続し、恒温槽に挿入後、室温から350℃まで徐々に昇温し、温度上昇に伴う電気抵抗値の変化を測定した温度−抵抗曲線である。なお、このとき、温度の上昇に伴う抵抗値の変化は250℃近傍で非常にシャープに立ち上り、350℃時の抵抗値は室温時の抵抗値の15倍まで上昇した。また、室温から350℃までの昇温・冷却操作を10回繰り返したが、安定したPTC特性が得られた。
【0067】
レーザービームプリンター等に発生する非通紙部昇温の現象を想定し、この面状ヒータの発熱体の長さ方向ほぼ中央部分にアルミニウム放熱板を当て、発熱体に電圧を加え熱伝対により放熱部(通紙により定着が行われている面)と非放熱部(非通紙部)の温度上昇を測定した。図4は放熱部と非放熱部の温度上昇を比較図である。図4から、放熱部では温度の上昇が続いていることがわかる。一方、非放熱部では急激に温度が上昇するが300℃を近辺で温度自己制御特性により温度が一定になり上昇していないことがわかる。したがって、この面状ヒータでは、レーザービームプリンター等の非通紙部昇温などの異常昇温が抑えられることが明らかになった。
【0068】
そして、この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着して定着試験を行った。なお、定着試験では、定着ベルト11として「ポリイミド樹脂製シームレスチューブの表面にイオン導電性オフセット防止剤を混合したフッ素樹脂をコーティング一体化した複合管状物(株式会社アイ.エス.テイ製定着ベルト、直径24mm、厚さ62μm、長さ232mm)」を用い、定着ベルト13と加圧ロール14との間にトナー像を形成した複写紙17を順次送り込みながらトナー18を加熱溶融させ、ニップ点Nで複写紙上にトナー像19を定着させた。A4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例2】
【0069】
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)28.384g(0.0965mol)をNMP35.727gとメタノール9.273g(0.2894mol)との混合溶媒に投入した後に80℃で2時間攪拌しテトラカルボン酸エステル化合物を調製した。そして、テトラカルボン酸エステル化合物成分がジアミン成分に対して90:100の混合モル比となるように4、4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)26.616g(0.1072mol)を加え、80℃で1時間攪拌し、発熱体調製用のポリイミド前駆体溶液を得た。次いで、ポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して炭化タングステン粉末277重量部配合し、実施例1と同様の条件で面状ヒータを作製した。そして、実施例1と同様に面状ヒータの評価を行った。この面状ヒータでは280℃近傍まで発熱すると抵抗値がシャープに立ち上り電流が流れなくなり発熱が抑制されるPTC特性が示された。そして、この面状ヒータを実施例1と同様のレーザービーム定着機10に装着し定着テストを実施した結果、非通紙部昇温を制御でき良好な画像が安定して得られた。
【実施例3】
【0070】
発熱体を作製するためのポリイミド前駆体溶液として(株)アイ.エス.テイ製のPyre−ML RC5063(BPDA−PPD系のポリイミド前駆体溶液)を採用した。なお、このポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は18質量%に調整された。次いで、このポリイミド前駆体溶液中に平均粒子径1.0μmのニッケル粉末(福田金属工業(株)製Ni−Flake94)を、ポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対してニッケル粉末が257重量部となるように混合した。そして、この混合物を攪拌しながら、無水ピロメリット酸(PMDA)を加え粘度を1000ポイズに調整しニッケル粉末混合ポリイミド前駆体溶液を調製した。そして、実施例1と同様にニッケル粉末混合ポリイミド前駆体溶液をスクリーン印刷法により実施例1と同一の基板上に均一に塗布した。次に、先程と同じポリイミド前駆体溶液((株)アイ.エス.テイ製のPyre−ML RC5063)に平均粒子径3.0μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(デュポン社製商品名“Zonyl MP1200”)(以下、PTFE粉末と略する)をポリイミド前駆体溶液100質量部に対してPTFE粉末が20質量部の割合になるように添加して攪拌し、PTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液を調製した。その後、PTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液を250メッシュのステンレス金網に通してPTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液中の粗い異物を濾過した。続いて、電力供給端子部を除いて基板全体を覆うように、基板および発熱体上に濾過後のPTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液を塗布した。そして、120℃で30分間乾燥した後、200℃まで40分間で昇温させ、同温度で20分間加熱した。そして、最終イミド化処理として250℃で10分間加熱した後、400℃まで15分で昇温し、同温度で10分間加熱して20μmの耐熱絶縁層が設けられた面状ヒータを完成させた。なお、発熱体の電極間の抵抗値は室温(23℃)で25Ω(デジタルマルチメーターModel17562 横河電機(株)製を用いた)であった。そして、この面状ヒータを300℃まで加熱したが反りなどの変形は認められなかった。この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着してA4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし、定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例4】
【0071】
実施例1で発熱体作製用に用意したポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して炭化タンタル粉末(和光一級)を438重量部配合し、実施例1と同様に面状ヒータを作製した。そして、実施例1と同様に、この面状ヒータの温度抵抗特性を測定した。温度上昇に伴う電気抵抗値の変化を測定したところ200℃の近傍で抵抗値がシャープに立ち上り、その抵抗値は265℃までに2.5倍まで上昇した。また、室温から265℃までの昇温・冷却操作を10回繰り返したが、このときの試験体の抵抗値の変化率は+10%であった(図6参照)。また、この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着してA4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし、定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例5】
【0072】
実施例1で発熱体作製用に用意したポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対してフィラメント状ニッケル粉末(INCO社製Type210)を51.5重量部配合し、実施例1と同様に面状ヒータを作製した。そして、実施例1と同様に、この面状ヒータの温度抵抗特性を測定した。温度上昇に伴う電気抵抗値の変化を測定したところ300℃の近傍で抵抗値がシャープに立ち上り、その抵抗値は350℃までに2.2倍まで上昇した。また、室温から350℃までの昇温・冷却操作を10回繰り返したが、このときの試験体の抵抗値の変化率は−3%であった(図7参照)。また、この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着してA4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし、定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例6】
【0073】
酸成分としてBTDA29.627g(0.0922mol)を、溶媒としてNMP43.408gを、エステル化剤としてエチレングリコール6.292g(0.1014mol)を用い60℃で2時間攪拌してテトラカルボン酸エステル化合物を作製し、エステル化合物成分とジアミン成分との混合モル比が90:100となるようにMDA20.303g(0.102mol)を用いた以外は、実施例1と同様に発熱体作成用のポリイミド前駆体溶液を合成した。このポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対してチタンカーバイド粉末(アライドマテリアル製OP10)を189重量部配合し、実施例1と同様に面状ヒータを作製した。そして、実施例1と同様に、この面状ヒータの温度抵抗特性を測定した。温度上昇に伴う電気抵抗値の変化を測定したところ250℃の近傍で抵抗値がシャープに立ち上り、その抵抗値は300℃までに33倍まで上昇した。また、室温から300℃までの昇温・冷却操作を10回繰り返したが、このときの試験体の抵抗値の変化率は+2%であった(図8参照)。また、この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着してA4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし、定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例7】
【0074】
酸成分としてBTDA32.180g(0.0999mol)を、溶媒としてNMP43.181gを、エステル化剤としてエチレングリコール6.819g(0.1099mol)を用い60℃で2時間攪拌してテトラカルボン酸エステル化合物を作製し、エステル化合物成分とジアミン成分との混合モル比が100:90となるようにMDA17.820g(0.0899mol)を用いた以外は、実施例1と同様に発熱体作製用のポリイミド前駆体溶液を合成した。このポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対してチタンカーバイド粉末を151重量部配合し、実施例1と同様に面状ヒータを作製した。そして、実施例1と同様に、この面状ヒータの温度抵抗特性を測定した。温度上昇に伴う電気抵抗値の変化を測定したところ250℃の近傍で抵抗値がシャープに立ち上り、その抵抗値は300℃までに17倍まで上昇した。また、室温から300℃までの昇温・冷却操作を10回繰り返したが、このときの試験体の抵抗値の変化率は−5%であった(図9参照)。また、この面状ヒータを図5に示すレーザービーム定着機10に装着してA4版用紙を毎分16枚定着できるようにセットし、定着耐久テストを行った結果、良好な画像が安定して得られた。
【実施例8】
【0075】
耐熱絶縁層の成形に用いるポリイミド前駆体溶液として(株)アイ.エス.テイ社製Pyre−ML RC5063を用意した。そして、このポリイミド前駆体溶液に窒化ホウ素粉末(三井化学(株)MBN−010T)を、ポリイミド前駆体溶液の固定分100質量部に対して窒化ホウ素粉末が20質量部になるように混合して窒化ホウ素混合ポリイミド前駆体溶液を調製した以外は、実施例1と同様の条件で面状ヒータを完成させた。この面状ヒータは絶縁層に窒化ホウ素を混合することによって熱伝導性が高く、かつ、定着ベルト内面との摺動抵抗も低い。そして、実施例1と同様に定着テストを行った結果、良好な画像が得られた。
(比較例1)
発熱体を作製するためのポリイミド前駆体溶液においてテトラカルボン酸エステル化合物とジアミンとの混合モル比を1:1とした以外は実施例1と同様にしてポリイミド前駆体溶液を合成した。なお、ポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して炭化タングステン粉末277重量部配合し、実施例1と同様に面状ヒータを作製し特性評価を行った。この面状ヒータは温度の上昇とともに300℃近傍でPTC特性を発現したが、繰返し発熱テストにおいてPTC特性の発現する温度にばらつきが大きく、温度自己制御発熱体として用いることができなかった。
(比較例2)
ジアミン成分であるMDA6.903g(0.0348mol)をNMP83.0gに投入し、MDAをNMPに完全に溶解させた後、ジアミン成分に対してモル比で100:90の割合になるように酸二無水物成分であるBTDA10.097g(0.0313mol)を固体のままで5分間かけて添加し、室温で12時間反応させてポリイミ前駆体溶液を得た。なお、このポリイミド前駆体溶液の固形分は17質量%となるように調節されている。この後、ポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して炭化タングステン粉末277重量部配合し、実施例1と同様の条件で面状ヒータを作製しようとしたが、加熱イミド化中にひび割れが発生した。テトラカルボン酸二無水物をエステル化しない状態で、酸成分とジアミン成分の混合モル比のみ90:100にして調製したポリイミド組成物は脆弱で成形することができないことが明らかとなった。
(比較例3)
実施例1のポリイミド粉末成形基板の作製において酸化アルミニウムを添加しない以外は実施例1と同じ条件で面状ヒータを作製した。なお、この面状ヒータの発熱体の線膨張係数は5.3×10-5cm/cm/℃であり、通電して加熱すると発熱体を内側にして反りが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る面状ヒータの上面図および長手方向の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る面状ヒータの幅方向の縦断面図である。
【図3】実施例1に示された発熱体の温度・抵抗特性を示す図である。
【図4】実施例1に示された発熱体の温度自己制御特性を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るレーザービーム定着機の縦断面図である。
【図6】実施例4に示された発熱体の温度・抵抗特性を示す図である。
【図7】実施例5に示された発熱体の温度・抵抗特性を示す図である。
【図8】実施例6に示された発熱体の温度・抵抗特性を示す図である。
【図9】実施例7に示された発熱体の温度・抵抗特性を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ポリイミド粉末成形基板
2 電極端子部
3 発熱体
4 耐熱絶縁層
5 接着層
10 画像定着装置
11 定着ベルト
12 支持体
13 ヒータ
14 加圧ロール
15 サーミスタ
16 加圧ローラの芯金
17 複写紙
18 トナー
19 トナー像
N ニップ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂から成る絶縁基板と、
前記絶縁基板上に設けられ、導電性物質が混合分散されたポリイミド樹脂である導電性ポリイミド樹脂から形成される発熱体と、
前記発熱体に電力を供給するための電極と、
前記絶縁基板と前記発熱体とを覆うように形成される耐熱絶縁層と、
を備える、面状ヒータ。
【請求項2】
前記導電性ポリイミド樹脂は、ポリイミド前駆体に前記導電性物質を混合分散した後にイミド転化して得られる、
請求項1に記載の面状ヒータ。
【請求項3】
前記絶縁基板は、ポリイミド前駆体粉末を成形した後または前記ポリイミド前駆体粉末を成形しながらイミド転化した粉末成形体であって、無機絶縁物質から成るフィラーを含む、
請求項1または2に記載の面状ヒータ。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体は、少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体と、少なくとも1種のジアミン又はその誘導体とを極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液である、
請求項2に記載の面状ヒータ
【請求項5】
前記ポリイミド前駆体は、少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物と、少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体とを極性溶媒中で反応させて得られる非熱可塑性ポリイミド前駆体溶液である、
請求項2に記載の面状ヒータ。
【請求項6】
前記テトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物と前記ジアミンまたはその誘導体との混合モル比は、80:100以上99:100以下である、
請求項5に記載の面状ヒータ。
【請求項7】
前記テトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物は、下記化学式(A)〔式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1から8である炭化水素基(芳香環、−O−、−CO−、−OH等の官能基を有してもよい)、又はフェニル基を表わす。また、R’は化学式(A−1)または化学式(A−2)(式中、XはO、S、SO、SO2、CH2、C(CH32、CO、又は直接結合を表わす)〕で表される前記テトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物から成る群より選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸から誘導されるエステル化合物である、
請求項4から6のいずれかに記載の面状ヒータ。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項8】
前記ジアミン又はその誘導体は、下記化学式(I)〔式中、R”は化学式(I−1)または
化学式(I−2)(式中、YはO、S、SO、SO2、CH2、C(CH32、CO、又は
直接結合を表わす)〕で表される前記ジアミン又は前記誘導体から成る群より選ばれる少なくとも1種のジアミンまたはその誘導体である、
請求項4から6のいずれかに記載の面状ヒータ。
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項9】
前記導電性物質は、窒化タンタル(TaN)、炭化タンタル(TaC)、三珪化モリブデン(Mo5Si3)、レニウム−タングステン合金、二珪化モリブデン(MoSi2)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、チタンカーバイト(TiC)、金属、カーボンブラック、グラファイト、およびカーボンナノチューブから成る群より選択される少なくとも1つである、
請求項1から8のいずれかに記載の面状ヒータ。
【請求項10】
前記発熱体は、温度自己制御特性を有する、
請求項1から9のいずれかに記載の面状ヒータ。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の面状ヒータを発熱源として備える、
画像形成装置の定着機。
【請求項12】
定着ベルトと、
前記定着ベルトに複写紙を押しつけるための加圧ロールと、
前記定着ベルトの内側であって加圧ロール側に配置される請求項1から9のいずれかに記載の面状ヒータと、
を備える、画像定着装置。
【請求項13】
第1ポリイミド前駆体溶液中に無機絶縁物質から成るフィラーを混合してフィラー入りポリイミド前駆体溶液を調製するフィラー混合工程と、
前記フィラー入りポリイミド前駆体溶液を粉末化してフィラー入りポリイミド前駆体粉末を調製する粉末化工程と、
前記フィラー入りポリイミド前駆体粉末を成形した後または前記フィラー入りポリイミド前駆体粉末を成形しながらイミド転化して絶縁基板を作製する絶縁基板作製工程と、
前記絶縁基板上に少なくとも一対の電極を設ける電極設置工程と、
第2ポリイミド前駆体溶液中に導電性物質を混合して導電性物質入りポリイミド前駆体溶液を調製する導電性物質混合工程と、
前記導電性物質入りポリイミド前駆体溶液を前記電極の一部と重なるように前記絶縁基板上に部分的に塗布する塗布工程と、
前記導電性物質入りポリイミド前駆体をイミド転化して発熱体を形成するイミド転化工程と、
前記絶縁基板と前記発熱体とを覆うように耐熱絶縁層を形成する耐熱絶縁層形成工程と、
を備える、面状ヒータの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−294604(P2006−294604A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73283(P2006−73283)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】