説明

音響センサ及びマイクロフォン

【課題】センサの小型化を妨げることなくセンサのS/N比を向上させることのできる音響センサを提供する。
【解決手段】シリコン基板42にバックチャンバ45を上下に開口する。当該基板42の上面には、バックチャンバ45を覆うようにして、可動電極板となる薄膜状のダイアフラム43を形成する。基板42の上面には、ダイアフラム43を覆うようにしてバックプレート48を固定し、バックプレート48の下面に固定電極板49を設ける。さらに、スリット47によってダイアフラム43を複数領域に分割し、複数に分割された各ダイアフラム43a、43bと固定電極板49によって複数個の並列に接続されたキャパシタ(音響センシング部60a、60b)を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響センサ及びマイクロフォンに関する。具体的には、本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術もしくはマイクロマシニング技術を用いて製作される静電容量型の音響センサに関する。また、当該音響センサを用いたマイクロフォン関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ICレコーダーなど種々の機器においてマイクロフォンが用いられている。このようなマイクロフォンに内蔵されている音響センサにおいては、そのS/N比の向上と小型化が求められている。
【0003】
音響センサのS/N比を高くする方法としては、まず第1に、音響センサの感度を高くする方法がある。静電容量型音響センサの感度を高くするためには、ダイアフラムの面積を広くする方法と、ダイアフラムのバネ性を小さくしてダイアフラムの変位量を大きくする方法とが採用可能である。しかし、前者のダイアフラムの面積を広くする方法では、音響センサの小型化が妨げられる。また、後者のようにダイアフラムのバネ性を小さくする方法では、ダイアフラムの変位量が大きくなるために音響センサの耐久性が低下する。
【0004】
音響センサのS/N比を高くする第2の方法は、音響センサのノイズを小さくするものである。静電容量型音響センサのノイズとしては、ダイアフラム(可動電極板)とバックプレート(固定電極板)との間に形成されるエアギャップに発生する熱雑音が問題となる。
【0005】
エアギャップにおける熱雑音とは、図1(A)に示すような機構により発生するノイズである。図1(A)に示すように、ダイアフラム11とバックプレート12との間のエアギャップ13、すなわち準密閉空間内にある空気分子αは、揺らぎ(熱運動)によってダイアフラム11に衝突している。ダイアフラム11には空気分子αとの衝突による微小力が加わるとともに、ダイアフラム11に加わる微小力がランダムに変動している。そのため、ダイアフラム11は空気分子αの衝突によって振動し、振動センサに電気的なノイズが発生している。特に、感度の高い音響センサ又はマイクロフォンでは、このような熱雑音に起因するノイズが大きく、S/N比が悪くなる。
【0006】
このような熱雑音に起因するノイズは、図1(B)に示すようにバックプレート12に開口されている音響孔14の開口比率を大きくし、エアギャップ13内の空気が音響孔14を通過しやすくすることにより軽減される。また、ダイアフラム11とバックプレート12の間のエアギャップ13を広げることによっても軽減される。しかし、音響孔14の開口比率を大きくしたり、エアギャップ13を広げたりすると、ダイアフラム11とバックプレート12によって構成されるキャパシタの静電容量が小さくなる。そのため、単にノイズを小さくするという方法では、ノイズが小さくなると同時に音響センサの感度も低下し、音響センサのS/N比を改善することができなかった。
【0007】
(従来公知の振動センサ)
特許文献1には、S/N比を向上させることを目的とした差分検知方式のマイクロフォンが開示されている。このマイクロフォン21では、図2に示すように、一枚の基板22に2つの音響センサ23a、23bが設けられていて、両センサ23a、23bは上下の構成が反転している。すなわち、一方の音響センサ23aでは、ダイアフラム24aの上に音響孔26aを有する固定プレート25aが形成されていて音響検知用のキャパシタが構成されている。他方の音響センサ23bでは、音響孔26bを有する固定プレート25bの上にダイアフラム24bが形成されていて音響検知用のキャパシタが構成されている。
【0008】
音響センサ23a、23bは、いずれもダイアフラム24a、24bから検知信号が出力されているので、両センサ23a、23bが同じ音響振動を検出すると、両センサ23a、23bからは位相が180°ずれた検知信号が出力される。音響センサ23aの出力と音響センサ23bの出力は信号処理回路(ASIC)に入力され、信号処理回路内で減算処理される。この結果、両センサ23a、23bによる音響の検出信号は足し合わされることになるので、マイクロフォン21の検出感度が向上し、S/N比の向上が期待される。
【0009】
このような差分検知方式のマイクロフォンでは、2つの音響センサが検出する音響検出信号の位相、周波数及び感度が全く同じでなければ、その検出感度が低下する。ところが、同一の基板上に別々に形成された音響センサの特性を同一にすることは困難である。さらに、このマイクロフォンのように両センサ23a、23bでキャパシタの極性が逆になっている場合には、寄生容量のために等価な2つの音響センサ23a、23bを作製することは難しい。そのため実際には、特許文献2のようなマイクロフォンでは、S/N比を向上させることは困難であった。
【0010】
また、このようなマイクロフォンでは、ミスマッチングに由来するノイズが発生しやすく、S/N比の向上に限界がある。
【0011】
さらに、信号処理回路に余分な演算機能を付与しなければならないので、信号処理回路の高コスト化を招く。基板上に複数個の音響センサを設けなければならないので、マイクロフォンの小型化が困難になるという不具合も問題となっている。
【0012】
(従来公知の別な振動センサ)
特許文献2には、従来の別なマイクロフォンが開示されている。このマイクロフォン31は、基本的には、特許文献1のマイクロフォン21と同様な構造を有している。特許文献2のマイクロフォン31では、図3(A)に示すように、共通の基板32の上に同じ構造を有する独立した複数個の音響センサ33a、33b、…が設けられている。すなわち、いずれの音響センサ33a、33b、…も、音響孔36を開口された固定プレート35の上面に対向させてダイアフラム34が形成されている。さらに、図3(B)に示すように、基板32の上面には信号処理回路37が設けられており、各音響センサ33a、33b、…の出力は基板32上に配線された電極引出線38を通じて信号処理回路37に接続されている。このマイクロフォン31の場合には、各音響センサ33a、33b、…が同じ構造を有しているので、各センサ33a、33b、…の出力を信号処理回路37において加算処理することによってS/N比を向上させることが期待される。
【0013】
しかし、特許文献2に記載されたマイクロフォンでも、つぎのような問題がある。マイクロフォンの作製プロセスにおいてダイアフラムに発生する反りがばらつくため、各音響センサどうしの感度ばらつきが大きくなりやすい。その一方、このばらつきを小さくしようとすればマイクロフォンの生産性が低下する。また、基板上において各音響センサと信号処理回路とを結ぶ電極引出線の長さが長くなると、マイクロフォンの寄生容量や寄生抵抗が大きくなり、感度などの特性が悪くなる問題がある。
【0014】
また、独立した複数個の音響センサを設けているので、各センサどうしの間に感度以外の音響特性のずれが発生しやすくなる。たとえば、周波数特性、位相などは各センサのバックチャンバやベントホールによって影響を受けるので、各センサ間で異なった特性になりやすい。
【0015】
特許文献2のマイクロフォンでは、このように各音響センサにおける感度その他の音響特性にばらつきが生じやすいので、実際には、S/N比の改善効果を得ることが難しかった。
【0016】
また、基板上に複数個の独立した音響センサを並べて配置しなければならないので、マイクロフォンを小型化することができないという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−5439号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0047746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、センサの小型化を妨げることなくセンサのS/N比を向上させることのできる音響センサと、当該音響センサを用いたマイクロフォンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る音響センサは、空洞部を有する基板と、前記空洞部を覆うようにして前記基板の上方に配設された薄膜状のダイアフラムと、前記ダイアフラムに形成された可動電極板と、前記ダイアフラムに対向させるようにして前記基板の上面に固定されたバックプレートと、前記可動電極板と対向する位置において前記バックプレートに設けた固定電極板とを備えた音響センサであって、前記ダイアフラム及び前記可動電極板が複数領域に実質的に分割されていて、分割された各可動電極板と前記固定電極板によって複数個の並列に接続されたキャパシタが構成されていることを特徴としている。なお、可動電極板は、ダイアフラムに設けてあってもよく、ダイアフラム自体が可動電極板となっていてもよい。
【0020】
本発明の音響センサにあっては、ダイアフラムが複数領域に実質的に分割されているだけであるので、音響振動に対する静電容量や感度は、ダイアフラムが分割される前と実質的に変化がない。一方、ダイアフラムの分割された各領域はほぼ独立して動くことができるので、各領域は熱雑音に対しては独立して不連続に変位し、各領域のノイズを加え合わせると、ノイズが打ち消し合って小さくなる。その結果、音響センサのS/N比が向上する。しかも、ダイアフラムを複数領域に分割して各領域で音響を検知しているので、音響センサの小型化が妨げられることがない。
【0021】
本発明に係る音響センサのある実施態様は、前記ダイアフラム及び前記可動電極板をスリットによって分割したことを特徴としている。ダイアフラム及び可動電極板の開口が広くなるとダイアフラム及び可動電極板を空気が通過して漏れやすくなり、音響センサの低周波特性が悪くなる。この実施態様では、ダイアフラム及び可動電極板をスリットによって分割しているので、ダイアフラム及び可動電極板を分割するための開口を狭くでき、音響センサの低周波特性の劣化を防止し、感度の低下を防ぐことができる。
【0022】
スリットを形成された音響センサの別な実施態様においては、前記スリットが、前記ダイアフラムの最大変位箇所を通過する位置に形成されていることを特徴としている。かかる実施態様では、ダイアフラムの最大変位箇所を通過するようにスリットを設けているので、音響センサのS/N比改善効果を大きくできる。
【0023】
スリットを形成された音響センサのさらに別な実施態様においては、前記スリットによって分割された前記ダイアフラムの各領域が、前記スリットを挟んでそれぞれ最大変位箇所を有していることを特徴としている。かかる実施態様では、分割されたダイアフラムの各領域が、スリットを挟んでそれぞれ最大変位箇所を有しているので、音響センサのS/N比改善効果を大きくできる。
【0024】
スリットを形成された音響センサのさらに別な実施態様においては、前記スリットが、前記ダイアフラムの支持箇所のうちいずれか2つの支持箇所を結ぶ線分上に位置していることを特徴としている。この実施態様に置いては、ダイアフラムの支持箇所を結ぶ線分上にスリットを形成しているので、スリットの端の変位を小さくでき、スリットの端における応力集中を小さくすることができる。
【0025】
また、スリットを形成された音響センサのさらに別な実施態様においては、前記スリットが部分的に途切れていて、当該スリットを挟んでその両側に位置するダイアフラムの各領域どうしが当該スリットの途切れた部分を通して部分的につながっていてもよい。
【0026】
スリットを形成された音響センサのさらに別な実施態様においては、前記スリットの幅が10μm以下であることを特徴としている。一般的なサイズのMEMS音響センサでは、スリットの幅が10μmを超えるとロールオフ周波数が500Hzにもなって低周波特性が悪化することがあるので、スリットの幅は当該実施態様のように10μm以下であることが望ましい。
【0027】
スリットを形成された音響センサのさらに別な実施態様においては、前記スリットの長さが、当該スリットの延長方向における前記ダイアフラムの差し渡し長さの1/2以上であることを特徴としている。スリットの長さがダイアフラムの幅の1/2よりも短いと、スリットによって分割されたダイアフラムの各領域間における変位の不連続性が損なわれ、全体としてノイズを低減する効果が悪くなるので、スリットの延長方向におけるダイアフラムの差し渡し長さの1/2以上であることが望ましい。
【0028】
本発明に係る音響センサにおいては、ダイアフラムの形状は特に限定されないが、音響センサの特性上からは、円形状や矩形状のダイアフラムを用いることが望ましい。
【0029】
本発明に係る音響センサのさらに別な実施態様は、前記ダイアフラムが、その縁を複数箇所で前記基板又は前記バックプレートに支持されており、当該支持箇所のうち隣接する支持箇所の間の少なくとも一箇所に空隙が形成されていることを特徴としている。ダイアフラムの全周を固定した場合には、ダイアフラムのバネ性が高くなって音響センサの感度が低下しやすくなるが、当該実施態様ではダイアフラムを部分的に固定しているので、ダイアフラムのバネ性が高くなるのを防ぐことができ、音響センサの感度低下を防ぐことができる。また、支持箇所間の空隙は、ベンチホールとして利用することができる。
【0030】
本発明に係る音響センサのさらに別な実施態様は、音響振動が前記空洞部を通って前記ダイアフラムに到達することを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板内の空洞部がフロントチャンバとなり、音響センサの外部の空間がバックチャンバとなるので、バックチャンバの容積を大きくでき、音響センサの感度を向上させることができる。
【0031】
本発明に係るマイクロフォンは、本発明に係る音響センサと、前記音響センサから出力された信号を処理するための回路とを備えたものである。本発明のマイクロフォンは、本発明の音響センサを用いているので、マイクロフォンのS/N比を改善することができる。
【0032】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1(A)及び図1(B)は、音響センサの熱雑音を説明するための概略図である。
【図2】図2は、特許文献1に開示されたマイクロフォンの概略説明図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、特許文献2に開示されたマイクロフォンの断面図及び平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1に係る音響センサの断面図である。
【図5】図5は、実施形態1の音響センサの平面図である。
【図6】図6は、実施例1の音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図7】図7は、音響センサを単純化した等価回路を表した図である。
【図8】図8は、一方の音響センシング部のみに音響振動やノイズが加わった状況を表した等価回路図である。
【図9】図9(A)は一方の音響センシング部のみに音響振動が加わったときに音響センサから出力される感度信号を示す波形図である。図9(B)は他方の音響センシング部のみに音響振動が加わったときに音響センサから出力される感度信号を示す波形図である。図9(C)は両方の音響センシング部に同時に音響信号が加わったときに音響センサから出力される感度信号を示す波形図である。
【図10】図10(A)は一方の音響センシング部のみにノイズが発生したときに音響センサから出力されるノイズ信号を示す波形図である。図10(B)は他方の音響センシング部のみにノイズが発生したときに音響センサから出力されるノイズ信号を示す波形図である。図10(C)は両方の音響センシング部に同時にノイズが発生したときに音響センサから出力されるノイズ信号を示す波形図である。
【図11】図11は、ロールオフ周波数を説明する図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態2に係る音響センサを示す平面図である。
【図13】図13は、実施形態2の音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図14】図14は、本発明の実施形態3に係る音響センサを示す断面図である。
【図15】図15は、実施形態3の音響センサの平面図である。
【図16】図16は、本発明の実施形態4に係る音響センサの分解斜視図である。
【図17】図17は、実施形態4の音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図18】図18は、本発明の実施形態5に係る音響センサの平面図である。
【図19】図19は、実施形態5の音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図20】図20は、実施形態5の変形例におけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図21】図21は、本発明の実施形態6に係る音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図22】図22は、実施形態6の音響センサにおけるダイアフラムの異なる形状を示す平面図である。
【図23】図23は、本発明の実施形態7に係る音響センサにおけるダイアフラムの形状を示す平面図である。
【図24】図24は、本発明の実施形態8に係るマイクロフォンの断面図である。
【図25】図25は、実施形態8のマイクロフォンの、カバーを外した状態の平面図である。
【図26】図26は、実施形態8における異なる構造のマイクロフォンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。
【0035】
(第1の実施形態)
図4−図6を参照して本発明の実施形態1による音響センサの構造を説明する。図4は実施形態1の音響センサ41を示す断面図である。図5は、音響センサ41の平面図である。また、図6は、音響センサ41から天蓋部44を取り除いた状態の平面図である。
【0036】
この音響センサ41はMEMS技術を利用して作製された静電容量型素子である。図4に示すように、音響センサ41は、シリコン基板42(半導体基板)の上面にアンカー46を介してダイアフラム43(振動電極板)が設けられ、その上に微小なエアギャップ(空隙)50を介して天蓋部44が固定されている。
【0037】
単結晶シリコンからなるシリコン基板42には、表面から裏面に貫通したバックチャンバ45(空洞部)が開口されている。バックチャンバ45は内周面が垂直面となっていてもよく、テーパー状に傾斜していてもよい。
【0038】
ダイアフラム43の外周縁下面を支持するための複数個のアンカー46は、シリコン基板42の上面にほぼ等間隔に設けられている。さらに、シリコン基板42の上面には、ダイアフラム43を囲むようにして土台部51が形成されている。アンカー46及び土台部51は、SiOによって形成されている。
【0039】
図6に示すように、ダイアフラム43は、略円形状に形成されている。ダイアフラム43は、導電性を有するポリシリコン薄膜によって形成されていてダイアフラム43自体が可動電極板となっている。ダイアフラム43は、バックチャンバ45の上方を覆うようにしてシリコン基板42の上に配置され、アンカー46によって基板42上でほぼ等間隔に支持されている。よって、ダイアフラム43は宙空に支持されるととともに、隣接するアンカー46間においては、音響振動を通過させるための狭いベントホール52が、ダイアフラム43の外周部下面とシリコン基板42の上面との間に形成されている。また、ダイアフラム43からは外側に向けて帯板状の引出配線53が延びている。
【0040】
ダイアフラム43の全周をシリコン基板42に固定した場合には、ダイアフラム43の拘束力が強くなり、ダイアフラム43のバネ性が高くなって音響センサ41の感度が低下する。そのため、上記のようにダイアフラム43をアンカー46によって等間隔に支持して、アンカー46間にベントホール52(空隙)を形成している。
【0041】
ダイアフラム43は、その最大変位箇所である中央を通過するように位置を定められた幅の狭い直線状のスリット47により、均等に2分割されている。ただし、ダイアフラム43はスリット47によって完全に2分割されているというのではなく、スリット47の端部付近で機械的及び電気的につながっている。以下においては、スリット47によって分割されたダイアフラム43の2つの半円形をした領域をそれぞれダイアフラム43a、43bと呼ぶことにする。両ダイアフラム43a、43bは、同一形状かつ同一寸法に形成されている。
【0042】
天蓋部44は、SiNからなるバックプレート48(固定膜)の下面にポリシリコンからなる固定電極板49を設けたものである。天蓋部44は、ドーム状に形成されていてその下に空洞部分を有しており、その空洞部分でダイアフラム43を覆っている。天蓋部44の下面(すなわち、固定電極板49の下面)とダイアフラム43の上面との間には微小なエアギャップ50(空隙)が形成されている。固定電極板49とダイアフラム43は互いに対向していてキャパシタを構成している。
【0043】
天蓋部44のほぼ全体には、上面から下面に貫通するようにして、音響振動を通過させるためのアコースティックホール54(音響孔)が多数穿孔されている。図4及び図5に示すように、アコースティックホール54は規則的に配列されている。図示例では、アコースティックホール54は、互いに120°の角度を成す3方向に沿って三角形状に配列されているが、矩形状や同心円状などに配置されていてもよい。
【0044】
図4に示すように、天蓋部44の下面には、円柱状をした微小なストッパ55(突起)が突出している。ストッパ55は、バックプレート48の下面から一体に突出しており、固定電極板49を貫通して天蓋部44の下面に突出している。ストッパ55はバックプレート48と同じくSiNからなるので、絶縁性を有する。このストッパ55は、静電気力によってダイアフラム43が固定電極板49に固着して離れなくなるのを防ぐためのものである。
【0045】
天蓋状をしたバックプレート48の外周縁からは、全周にわたって保護膜56が連続的に延出している。保護膜56は、土台部51とその外側の領域を覆っている。
【0046】
引出配線53は土台部51に固定されており、固定電極板49から延出された引出配線57も土台部51の上面に固定されている。一方、保護膜56には開口があけられており、当該開口を通して引出配線53の上面に可動側電極パッド58が形成され、可動側電極パッド58は引出配線53を通じてダイアフラム43に導通している。また、バックプレート48の上面に設けられた固定側電極パッド59は、スルーホールなどを介して引出配線57に導通し、さらに固定電極板49に導通している。
【0047】
この音響センサ41では、ダイアフラム43がダイアフラム43aとダイアフラム43bに2分割されている。そのため、共通の天蓋部44とバックチャンバ45の間において、ダイアフラム43aと固定電極板49のうちダイアフラム43aに対向する領域からなるキャパシタによって一方の音響センシング部60aが構成されている。また、ダイアフラム43bと固定電極板49のうちダイアフラム43bに対向する領域からなるキャパシタによって他方の音響センシング部60bが構成されている。しかも、両センシング部60a、60bは、天蓋部44内の同じ箇所において一体的に形成され、同じ構造、同じ形状、同じ寸法を有していて、実質的に同一の特性を有している。
【0048】
この音響センサ41にあっては、音響振動がアコースティックホール54を通過して天蓋部44内のエアギャップ50に入ると、薄膜であるダイアフラム43a、43bが音響振動によって同じ位相で振動する。ダイアフラム43a、43bが振動して各ダイアフラム43a、43bと固定電極板49との間のギャップ距離が変化すると、各センシング部60a、60bの静電容量が変化する。この結果、各センシング部60a、60bにおいては、ダイアフラム43a、43bが感知している音響振動(音圧の変化)がダイアフラム43a、43bと固定電極板49の間の静電容量の変化となり、電気的な信号として出力される。また、ダイアフラム43a、43bはいずれも可動側電極パッド58につながっており、固定電極板49は共通しているので、音響センシング部60a(キャパシタ)と音響センシング部60b(キャパシタ)とは、電気的に並列接続されている。
【0049】
この音響センサ41では、ダイアフラム43aとダイアフラム43bが電気的に導通していて、固定電極板49が共通となっている。しかも、基板42上の同じ位置に音響センシング部60aと60bが設けられていて、両センシング部60a、60bは同位相の音響振動を検知する。そのため、スリット47によってダイアフラム43a、43bどうしが分離されていても、音響センサ41の音響振動に対する静電容量や感度は、スリット47を形成する前と実質的に変化がない。
【0050】
これに対し、ダイアフラム43aと43bはスリット47により分割されていてほぼ独立して動くことができるので、スリット47の両側においてはダイアフラム43a、43bの変位は不連続となることができる。そのため、音響センシング部60aに発生する熱雑音と音響センシング部60bに発生する熱雑音とは、異なる位相の信号として検知される。よって、両センシング部60a、60bのノイズを加え合わせると、ノイズが打ち消し合って小さくなる。その結果、音響センサ41のS/N比が向上する。
【0051】
以上においては、音響センサ41のS/N比が向上する理由を簡単に説明したが、以下においては、等価回路を用いてさらに説明する。図7は、音響センサ41を単純化した等価回路を表している。スリット47で分離された2つの音響センシング部60a、60bは、並列に接続された2つの可変キャパシタCP1、CP2で表すことができる。ここで、2つの可変キャパシタCP1、CP2は同じ性能を有している。さらに、音響振動やノイズなどの信号発生源は、可変キャパシタCP1、CP2に直列に接続したそれぞれの交流電源SG1、SG2で表す。この結果、図7に示すように、音響センシング部60aは可変キャパシタCP1と交流電源SG1を直列に接続した回路で表され、音響センシング部60bは可変キャパシタCP2と交流電源SG2を直列に接続した回路で表される。さらに、音響センサ41は、両直列接続回路を並列に接続した等価回路で表される。
【0052】
図7の等価回路における特性又は回路定数を、つぎのような記号で表す。
Ca/2[F] :可変キャパシタCP1の静電容量
Cb/2[F] :可変キャパシタCP2の静電容量
ΔCa/2[F] :可変キャパシタCP1の受圧時の静電容量変化
ΔCb/2[F] :可変キャパシタCP2の受圧時の静電容量変化
V[V] :音響センサ41への印加電圧
Sa[V] :音響センシング部60aの感度出力
Sb[V] :音響センシング部60bの感度出力
Na[V] :音響センシング部60aのノイズ出力
Nb[V] :音響センシング部60bのノイズ出力
Sa/Na :音響センシング部60aのS/N比
Sb/Nb :音響センシング部60bのS/N比
ここで、感度出力とは、交流電源で発生した音響振動によって音響センシング部(あるいは、可変キャパシタ)から出る信号出力であって、電圧×固定キャパシタの静電容量変化/固定キャパシタの静電容量で表される。したがって、音響センシング部60aの感度出力は、
Sa=V×(ΔCa/2)/(Ca/2)=V×ΔCa/Ca
となる。同様に、音響センシング部60bの感度出力は、
Sb=V×(ΔCb/2)/(Cb/2)=V×ΔCb/Cb
となる。
【0053】
いま、図8に示すように、音響センシング部60aのみに音響振動やノイズが加わった状況を考える。音響センシング部60bでは音響振動やノイズによる信号は発生していないので、音響センシング部60bの交流電源SG2は省略し、可変キャパシタCP1の静電容量は変化しないと考える。
【0054】
まず、交流電源SG1から音響振動だけが出力されているとすると、音響センシング部60aから出力される感度出力は、上記のように、
Sa=V×ΔCa/Ca
となる。しかし、この音響センシング部60aには、音響センシング部60bのキャパシタCP2が並列に接続されているので、キャパシタCP2は音響センシング部60aに対しては寄生容量として働き、音響センシング部60aの感度を減衰させる。キャパシタCP1とCP2は同じ静電容量を有しているので、音響センサ41から出力される感度出力(すなわち、信号処理回路へ入力される感度出力)Stotは、次式で表されるように半減する。
Stot=〔(Ca/2)/{(Ca/2)+(Cb/2)}〕×Sa
=Sa/2
【0055】
つぎに、電源SG1からノイズだけが出力されている場合を考える。この場合も、音響センシング部60aから出ているノイズ出力をNaとすると、音響センシング部60aに並列に接続されたキャパシタCP2の影響により、音響センサ41から出力されるノイズ出力(すなわち、信号処理回路へ入力されるノイズ出力)Ntotは、次式で表されるように半減する。
Ntot=〔(Ca/2)/{(Ca/2)+(Cb/2)}〕×Na
=Na/2
【0056】
図8とは反対に音響センシング部60bのみに音響振動が加わった状況では、図8の場合と同様に考えて、音響センサ41から出力される感度出力Stotは、音響センシング部60bの感度出力Sbが半減して次式のようになる。
Stot=〔(Cb/2)/{(Cb/2)+(Ca/2)}〕×Sb
=Sb/2
【0057】
また、音響センシング部60bのみにノイズが発生している状況を考えると、音響センシング部60aのキャパシタCP1の影響により、音響センサ41から出力されるノイズ出力Ntotは、音響センシング部60bのノイズ出力Nbが半減して次式で表される。
Ntot=〔(Cb/2)/{(Cb/2)+(Ca/2)}〕×Nb
=Nb/2
【0058】
つぎに、図7のように、音響センシング部60aと60bで同時に感度出力Sa、Sbとノイズ出力Na、Nbが発生している場合を考える。感度出力とノイズ出力を分けて考える。感度出力は、音響振動を感知する各ダイアフラム43a、43bが同一の天蓋部44内において極く近接した位置に配置されているので、両ダイアフラム43a、43bは同じ時刻においては同じ位相と振幅で振動している。しかも、音響センシング部60aの可変キャパシタCP1と音響センシング部60bの可変キャパシタCP2は並列に接続されている。その結果、音響センサ41の感度出力Stotは、上で求めた各音響センシング部60a、60bの感度出力Sa/2、Sb/2の和となる。
Stot=Sa/2+Sb/2
ここで、Sa=Sbであるから、上式は、
Stot=Sa
となる。これは、図9(A)−図9(C)に示すように、音響センサ41では、位相と振幅が同じ2つの信号(図9(A)及び図9(B)の感度出力Sa/2、Sb/2)が重ね合わされたものが全体の感度出力Stot=Sa(図9(C))として出力されることを表し、スリット47を設けても音響センサ41の感度出力Stotはスリット47を設ける前と変わりがないことを示している。
【0059】
一方、ノイズは熱雑音に由来するので、スリット47によって互いに分離している音響センシング部60aと60bではそれぞれ独立してランダムにノイズが発生している。このため音響センシング部60aのノイズと音響センシング部60bのノイズは、図10(A)及び図10(B)に示すように、位相や振幅の揃っていない独立な信号となっている。よって、音響センサ41から出力されるノイズ出力Ntotは、図10(C)に示すように、音響センシング部60aから出力されるノイズ出力Na/2と音響センシング部60bから出力されるノイズ出力Nb/2との分散を加法する際の演算で求められる。すなわち、次式のようになる。
Stot=√{(Na/2)+(Nb/2)
ここで、Na=Nbであるから、上式は、
Stot=Na/√(2)
となる。
【0060】
上記のように、音響センサ41の感度出力Stotは加算され、ノイズ出力Ntotは分散を加法する際の演算で求められる。その結果、音響センサ41のS/N比は、√(2)Sa/Naとなり、スリット47を設けていない場合と比較すると、S/N比は√(2)倍となる(もしくは、3dB向上する)。試作品によれば、スリット47を形成する前後で感度出力には変化が見られなかったが、ノイズ出力はスリット47を設けることによって3dB低下した。よって、S/N比は、スリット47を設けることによって+3dB高くなった。
【0061】
よって、ダイアフラム43にスリット47を設けることによって音響センサ41のS/N比を向上させられることが定量的に示された。
【0062】
つぎに、ダイアフラム43に設けるスリット47の長さ及び幅について考える。スリット47の長さL(図6参照)は、ダイアフラム43の幅を50%以上横断していることが望ましい。すなわち、スリット47の長さLは、スリット47を延長した線上におけるダイアフラム43の幅に対して1/2以上の長さを有していることが望ましい。スリット47は、ダイアフラム43a側における変位とダイアフラム43b側における変位を隔絶させて不連続にするために設けられるが、スリット47の長さLがダイアフラム43の幅の1/2よりも短いと、ダイアフラム43a側とダイアフラム43b側における変位の不連続性が損なわれるからである。
【0063】
また、スリット47の幅W(図6参照)は、10μm以下であることが望ましい。スリット47の幅Wが広すぎるとスリット47を通ってエアギャップ50からバックチャンバ45へ漏れる空気量が増大し、ロールオフ周波数が高くなって音響センサ41の低周波特性が悪化するからである。ロールオフ周波数Froll-offとは、図11に示すように、低周波数側で感度出力が一定デシベル低下したところの周波数である。一般的にロールオフ周波数Froll-offは、ベントホール52の音響抵抗Rventholeと、バックチャンバ45内の空気のコンプライアンスCbackchamber(=空気バネ定数)に反比例し、次式で表される。
Froll-off ∝ 1/(Rventholl・Cbackchamber)
従って、スリット47の幅Wが大きくなると音響抵抗Rventholeが小さくなり、ロールオフ周波数Froll-offが高くなり、音響センサ41の低周波特性が悪くなる。音響抵抗Rventholeはスリット47の長さLにも影響されるが、例えばスリット47の幅Wが1μmであればロールオフ周波数Froll-offは50Hz以下であり、スリット47の幅が10μmになるとロールオフ周波数Froll-offは500Hzにもなる。このようにスリット47の幅が10μmを超えると著しくロールオフ周波数が高くなって低周波特性が悪化し、音響センサ41の感度が大きく損なわれてしまうので、スリット47の幅Wは10μm以下であることが望ましい。
【0064】
また、熱雑音によってダイアフラムの各部分に加わる圧力の合力は、ダイアフラムが剛性を有するとすれば、ダイアフラムの最大変位箇所に働く。スリット47を形成する前のダイアフラム43の最大変位箇所はその中心にあるから、スリット47はダイアフラム43の中心を通過するように形成し、分割された各ダイアフラム43a、43bがスリット47を挟んでその両側にそれぞれ最大変位箇所を有するようにすることが望ましい。
【0065】
なお、上記実施形態1では、もっとも好ましい実施形態として、ダイアフラム43a、43bどうしを同じ形状及び同じ寸法とし、音響センシング部60a、60bが互いに実質的に同じ特性を持つようにしていた。しかし、本発明は、必ずしもこのような実施形態に限られるものではなく、ダイアフラム43aとダイアフラム43bが異なる形状又は異なる寸法を有していて、音響センシング部60aと音響センシング部60bが異なる特性を有していても差し支えない。
【0066】
(第2の実施形態)
図12に本発明の実施形態2による音響センサ61の平面図を示す。図13は、天蓋部44を除いた状態における音響センサ61の平面図である。
【0067】
実施形態2の音響センサ61では、ダイアフラム43に複数本(図示例では3本)のスリット47を設けて、ダイアフラム43を3領域以上(図示例では4領域)に分割し、実質的に独立した複数個のダイアフラム43a、43b、…を設けている。そして、各ダイアフラム43a、43b、…と共通の固定電極板49とによって複数個の音響センシング部60a、60b、…(キャパシタ)を構成している。
【0068】
実施形態2の音響センサ61は、実施形態1の音響センサ41よりもダイアフラム43の分割数を大きくしたものである。このようにスリット47を増やしてダイアフラム43の分割数を増加させた場合にも(各ダイアフラム43a、43b、…の形状や面積が異なっていてもよい。)、実施形態1と同様な理由により音響センサ61のS/N比を高くできる。さらに、ダイアフラム43の分割数を増加させれば、それだけますます音響センサ61のノイズを低減してS/N比を向上させる効果が高くなる。
【0069】
(第3の実施形態)
図14は本発明の実施形態3による音響センサ62の断面図である。図15は、実施形態3の音響センサ62の平面図である。
【0070】
実施形態3の音響センサ62にあっては、ダイアフラム43は実施形態1のようにアンカー46によって支持されておらず、単にシリコン基板42の上面に置かれているだけである。一方、バックプレート48の下面のうち、ダイアフラム43の外周部に対向する位置からは、ダイアフラム43の上面に当接させるための突起71が下方へ向けて突出させられている。したがって、ダイアフラム43と固定電極板49との間に電圧が印加されると、ダイアフラム43は静電引力によって固定電極板49へ向けて引き上げられる。上方へ引き上げられたダイアフラム43は突起71の下端面に当接して固定され、ダイアフラム43と固定電極板49との間には一定間隔のエアギャップ50が形成される。そして、このダイアフラム43に音響振動が加わると、ダイアフラム43と固定電極板49で構成されるキャパシタの静電容量が変化するので、音響振動が検出される。
【0071】
また、ダイアフラム43には、1本(複数本であってもよい。)のスリット47が設けられており、分割されたダイアフラム43a、43bと固定電極板49によって2つの音響センシング部60a、音響センシング部60bが構成されている。よって、この音響センサ62にあっても、実施形態1の場合と同様にして、音響センサ62のS/N比が向上させられる。
【0072】
(第4の実施形態)
図16は、本発明の実施形態4による音響センサ63の分解斜視図である。図17は、音響センサ63の、天蓋部44を取り除いた状態の平面図である。
【0073】
この音響センサ63は、矩形のダイアフラム34を用いたものである。シリコン基板42には角柱状のバックチャンバ45が開口されており、バックチャンバ45の上面開口を覆うようにしてシリコン基板42の上面にダイアフラム43が配置されている。ダイアフラム43の四隅には脚部72が設けられており、ダイアフラム43は、シリコン基板42の上面に設けられたアンカー46によって各脚部72が固定されている。ダイアフラム43は、対角方向のスリット47によってダイアフラム43aと43bに分割されている。天蓋部44も、矩形状のダイアフラム43を覆うように略矩形状に形成されている。
【0074】
図17の破線は、ダイアフラム43が音響振動で変位しているときの変位量を等高線で表したものであり、中心に近づくほど変位量が大きくなっている。このように四隅を固定されたダイアフラム43では、中心が最大変位箇所となっており、ダイアフラム43の最大変位箇所を通過するようにスリット47を形成すれば、音響センサ63のS/N比改善効果を大きくできる。
【0075】
(第5の実施形態)
図18は、本発明の実施形態5による音響センサ64の平面図である。図19は、音響センサ64の、天蓋部44を取り除いた状態の平面図である。
【0076】
この音響センサ64では、ダイアフラム43の中心を通過するようにして、ダイアフラム43の端から端までスリット47を形成している。したがって、ダイアフラム43は、スリット47によって2つのダイアフラム43aと43bに完全に分離されている。こうして分離された両ダイアフラム43a、43bは、シリコン基板42の上面に形成された二股状の引出配線53によって接続されている。
【0077】
このようにダイアフラム43a、43bを完全に分離させるようにすれば、音響センシング部60a、60bどうしの独立性が高くなる。
【0078】
なお、ダイアフラム43をスリット47によって完全に分割する場合、図20に示すように、各ダイアフラム43a、43bに別々に引出配線53a、53bを設けてもよい。この引出配線53a、53bは、音響センサの外部で接続してもよく、信号処理回路(ASIC)内で接続してもよい。
【0079】
(第6の実施形態)
ダイアフラム43にスリット47を設ける場合には、ダイアフラム43の最大変位箇所を通過するように設けることが好ましいが、スリット47の方向については特に限定されるものではない。たとえば、実施形態4の音響センサ63では、矩形状のダイアフラム43の固定箇所を結ぶ方向、すなわちダイアフラム43の対角方向にスリット47を設けたが、必ずしもこれに限るものではない。図21に示すように、矩形状のダイアフラム43の辺と平行な方向にスリット47を形成してもよい。この場合には、左右のベントホール52の中央を結ぶ方向となるので、分割されたダイアフラム43a、43bはいずれも片持ち梁状に支持されることになる。
【0080】
また、図22に示すように、スリット47は、ダイアフラム43の対角方向や辺に平行な方向から傾いていても差し支えない。
【0081】
図21や図22のように、スリット47の方向がダイアフラム43の固定箇所を向いていない場合には、分割されたダイアフラム43a、43bは片持ち梁状に支持される。そのためスリット47の端の変位が大きくなり、スリット47の端に応力集中が発生しやすくなる。応力集中が大きくなると、ダイアフラム43が応力集中の影響を受けて破損しやすくなる。これに対し、実施形態4のようにスリット47が対角方向を向いている場合には、スリット47の端の変位が小さくなるので、スリット47の端における応力集中も小さくなる。したがって、図21や図22のようなスリット47の配置も可能であるが、スリット47は実施形態4のようにダイアフラム43の固定箇所どうしを結ぶ方向に設けることが望ましい。
【0082】
(第7の実施形態)
スリットの両側に形成される各ダイアフラムは、スリットを通過して一部つながっていても差し支えない。たとえば、図23に示す実施形態では、1本のスリット47が部分的に途切れていて、2本のスリット47が直線状に並んだようになっている。したがって、スリット47を挟んでその両側に位置するダイアフラム43a、43bどうしは、スリット47の途切れた部分を通して部分的につながっている。このような形態であっても、スリット47の途切れている部分の長さがあまり長くなければ問題ない。
【0083】
(第8の実施形態)
図24は上記各実施形態の音響センサを用いたMEMSマイクロフォンの断面図である。また、図25は、カバーを外した状態のマイクロフォンの平面図である。
【0084】
このマイクロフォン81は、回路基板82とカバー83からなるパッケージ内に音響センサ65と信号処理回路84(ASIC)を内蔵させたものである。音響センサ65と信号処理回路84は、回路基板82の上面に実装されている。音響センサ65の電極パッド58、59は、それぞれボンディングワイヤ91によって信号処理回路84のパッド85a、85bに接続されている。回路基板82の下面にはマイクロフォン81を外部と電気的接続するための端子88が複数個設けられ、回路基板82の上面には端子88と導通した電極部89a−89c;90a、90bが設けられている。回路基板82に実装された84の各パッド86a−86c;87a、87bは、それぞれボンディングワイヤ92によって電極部89a−89c;90a、90bに接続されている。なお、信号処理回路84のパッドは、音響センサ65へ電源を供給する機能や、音響センサ65の容量変化信号を外部へ出力する機能を有するものである。
【0085】
回路基板82の上面には、音響センサ65及び信号処理回路84を覆うようにしてカバー83が取り付けられている。カバー83の上面には、パッケージ内に音響振動を導き入れるための音導入孔93が開口されている。また、パッケージは電磁シールドの機能を有しており、外部からの電気的な外乱や機械的な衝撃からマイクロフォン81を保護している。
【0086】
したがって、音導入孔93からパッケージ内に入った音響振動は、音響センサ65によって検出され、信号処理回路84によって所定の信号処理を施された後に出力される。ここで、音響センサ65として本発明に係る音響センサを用いているので、S/N比の高いマイクロフォン81となっている。
【0087】
なお、図26は別な構造のマイクロフォン94を示す。このマイクロフォン94では、音導入孔93はカバー83でなく、シリコン基板42の空洞部の下面に対向する位置において回路基板82に開口されている。このマイクロフォン94においては、回路基板82の音導入孔93から音響振動が導入されるので、シリコン基板42の空洞部はフロントチャンバ95となり、パッケージ内部の空間がバックチャンバ45となる。よって、このような形態によれば、バックチャンバ45の体積を大きくすることができ、マイクロフォン81の感度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0088】
41、61−65: 音響センサ、 42: シリコン基板、
43、43a、43b: ダイアフラム、 44: 天蓋部、
45: バックチャンバ、 46: アンカー、
47: スリット、 49: 固定電極板、
50: エアギャップ、 52: ベントホール、
60a、60b: 音響センシング部、 81、94: マイクロフォン、
82: 回路基板、 83: カバー、 84: 信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部を有する基板と、
前記空洞部を覆うようにして前記基板の上方に配設された薄膜状のダイアフラムと、
前記ダイアフラムに形成された可動電極板と、
前記ダイアフラムに対向させるようにして前記基板の上面に固定されたバックプレートと、
前記可動電極板と対向する位置において前記バックプレートに設けた固定電極板とを備えた音響センサであって、
前記ダイアフラム及び前記可動電極板が複数領域に実質的に分割されていて、分割された各可動電極板と前記固定電極板によって複数個の並列に接続されたキャパシタが構成されていることを特徴とする音響センサ。
【請求項2】
前記ダイアフラム及び前記可動電極板は、スリットによって分割されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項3】
前記スリットは、前記ダイアフラムの最大変位箇所を通過する位置に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項4】
前記スリットによって分割された前記ダイアフラムの各領域は、前記スリットを挟んでそれぞれ最大変位箇所を有していることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項5】
前記スリットは、前記ダイアフラムの支持箇所のうちいずれか2つの支持箇所を結ぶ線分上に位置していることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項6】
前記スリットが部分的に途切れていて、当該スリットを挟んでその両側に位置するダイアフラムの各領域どうしが当該スリットの途切れた部分を通して部分的につながっていることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項7】
前記スリットの幅が10μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項8】
前記スリットの長さは、当該スリットの延長方向における前記ダイアフラムの差し渡し長さの1/2以上であることを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項9】
前記ダイアフラムが円形状であることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項10】
前記ダイアフラムが矩形状であることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項11】
前記ダイアフラムは、その縁を複数箇所で前記基板又は前記バックプレートに支持されており、当該支持箇所のうち隣接する支持箇所の間の少なくとも一箇所に空隙が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項12】
音響振動が前記空洞部を通って前記ダイアフラムに到達することを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項13】
請求項1に記載した音響センサと、前記音響センサから出力された信号を処理するための回路とを備えたマイクロフォン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−175508(P2012−175508A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36903(P2011−36903)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【特許番号】特許第4924853号(P4924853)
【特許公報発行日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】