説明

音響センサ

【課題】音響検知部と振動検知部との間における機械的振動の伝達効率を向上させることによって音響センサのノイズ除去効果を高めることにある。
【解決手段】シリコン基板28に2つのバックチャンバ31a、31bを形成する。シリコン基板28の上面には、一方のバックチャンバ31aを覆うように形成された振動電極板33aと振動電極板33aに対向する固定電極板34aによって音響検知部29が作製されている。また、他方のバックチャンバ31bを覆うように形成された振動電極板33bと振動電極板33bに対向する固定電極板34bによって振動検知部30が作製されている。また、音響検知部29の固定電極板34aには、音響振動を通過させるための音響孔43を設ける。振動検知部30の固定電極板34bは振動電極板33bを覆うように形成されており、固定電極板34bは音響孔その他の孔を有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響センサに関し、具体的には、外部振動ノイズの除去機能を備えたMEMS型の音響センサに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロフォン等に用いられる音響センサは、空気を伝達媒体とする音響振動を検知するものであるが、通常何らかの機器に設置されているため、外来の機械的振動などによりノイズを発生しやすい。
【0003】
このような外来の機械的振動によるノイズ(外部振動ノイズ)を低減するため、従来のコンデンサマイクでは、音響振動を検知する音響検知部と機械的振動だけを検知する振動検知部とを組み合わせている。このようなノイズ除去方式のコンデンサマイクとしては、特許文献1に開示されたものがある。
【0004】
特許文献1に開示されたコンデンサマイクの構造を図1に示す。このコンデンサマイク11では、ほぼ同一構造のエレクトレットコンデンサマイクユニットからなる音響検知部12と振動検知部13を剛体のホルダ14に納めている。音響検知部12と振動検知部13は、いずれもケーシング12a、13a内に振動検知用の振動膜15が保持され、振動膜15に対向して音響孔16が開口されている。音響検知部12と振動検知部13は、ホルダ14に設けられた隣接する納入部17、18内にほぼ平行に納められている。納入部17に納められた音響検知部12の音響孔16は、納入部17の開口19によって外部に開放されている。一方、納入部18に納められた振動検知部13の音響孔16はホルダ14により閉塞されている。
【0005】
したがって、音響振動は、開口19を通して音響検知部12でのみ検知される。また、外来の機械的振動は、ホルダ14を通じて音響検知部12と振動検知部13により検知される。図2(a)は音響検知部12から出力された信号波形(外部振動ノイズの乗った音響振動)の一例を表し、図2(b)は振動検知部13から出力された信号波形(機械的振動)の一例を表す。なお、図2においては、音響振動の信号波形は正弦波と仮定している。
【0006】
このような2種の信号波形を用いて外部振動ノイズを除去するには、一般に差動アンプやノイズキャンセリング回路が用いられる。差動アンプを用いる場合には、図2(a)のような外部振動ノイズの乗った音響振動波形と図2(b)のような機械的振動波形を差動アンプに入力し、差動アンプから両信号波形の差分信号を出力させる。図2(b)に示す振動検知部13の出力波形は、音響検知部12から出力された音響振動に乗っているノイズ成分と同じであるので、図2(a)の信号波形と図2(b)の信号波形の差分信号を出力させれば、外部振動ノイズが除去されて音響振動波形のみを取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平4−53394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなコンデンサマイクでも、音響検知部12で検知する機械的振動と振動検知部13で検知する機械的振動との間に位相差(時間的なずれ)があると、ノイズ除去後の信号にかなりのノイズが残っていた。外来の機械的振動は、ホルダ14やケーシング12a、13aを通じ両検知部12、13の振動膜15に伝わって振動膜15を振動させるが、振動の伝わってくる方向や伝わり方によって音響検知部12の振動膜15に伝わる機械的振動と振動検知部13の振動膜15に伝わる機械的振動とで時間的なずれが生じることがある。そのため、振動検知部13の出力信号を利用して音響検知部12の出力信号から外部振動ノイズを除去しようとしても、図2(c)のような音響振動波形となりノイズが残っていた。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは音響検知部と振動検知部との間における機械的振動の伝達効率を向上させることによって音響センサのノイズ除去効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明に係る音響センサは、一枚の基板に、音響振動及び機械的振動を感知して電気信号を出力する第1のトランスデューサと、機械的振動のみを感知して電気信号を出力する第2のトランスデューサとを設けたことを特徴としている。
【0011】
本発明の音響センサにあっては、共通の基板に第1のトランスデューサと第2のトランスデューサを設けているので、音響センサに機械的振動が加わったとき、第1のトランスデューサの第1の振動電極板に伝わる機械的振動と第2のトランスデューサの第2の振動電極板に伝わる機械的振動との時間的ずれや機械的振動の信号強度の大小を小さくできる。特に、MEMS技術を利用して作製される音響センサ(センサ本体)の場合には、基板材料としてシリコン等の硬くて弾性率の大きな材料が用いられるので、両トランスデューサの各振動電極板に伝わる機械的振動の時間的ずれや機械的振動の信号強度の大小を非常に小さくすることができる。よって、第2のトランスデューサで検知した機械的振動を利用して第1のトランスデューサの出力信号から外部振動ノイズを精度よく除去することができ、音響センサのS/N比を向上させることができる。また、MEMS技術を利用して音響センサを製造する場合には、共通の基板上に同一工程で第1のトランスデューサと第2のトランスデューサを作製することができ、音響センサの量産性が向上するとともに第1のトランスデューサと第2のトランスデューサにおける機械的振動に対する感度ばらつきを小さくできる。なお、この音響センサは、静電容量型のものであってもよく、ピエゾ抵抗型のものでもよい。
【0012】
本発明に係る音響センサのある実施態様においては、前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、前記第2のトランスデューサは、前記基板の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向し且つ開口のない第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴としている。
【0013】
この実施態様では、第1のトランスデューサは第1の固定電極板に音響孔が開口されているので、音響孔を通じて音響振動が第1の振動電極板に達することができ、第1のトランスデューサは音響振動と外来の機械的振動を感知する。一方、第2のトランスデューサは第2の固定電極板に開口を有しないので、音響振動は第2の振動電極板に達せず、第2のトランスデューサは外来の機械的振動のみを感知する。
【0014】
また、この実施態様の前記第2のトランスデューサにおいては、前記第2の振動電極板に対向させて前記基板に第2のバックチャンバを形成することが望ましい。この実施態様では、第2のトランスデューサの第2の固定電極板に開口を設けていないが、第2のバックチャンバを備えているので、音響センサの製造工程において、基板表面と第2の固定電極板の間に存在していた犠牲層を第2のバックチャンバを通してエッチング除去することができる。
【0015】
本発明に係る別な実施態様においては、前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、前記第2のトランスデューサは、前記基板のバックチャンバが形成されていない領域の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向して設けられた第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力することを特徴としている。
【0016】
この別な実施態様では、第1のトランスデューサは第1の振動電極板の裏面側に第1のバックチャンバを有しているので、第1の振動電極板は音響孔から伝搬した音響振動に対して感度を持ち、第1のトランスデューサは音響振動と外来の機械的振動を感知する。一方、第2のトランスデューサは基板上のバックチャンバが形成されていない領域に設けられているので、第2の振動電極板は音響振動に対して感度を持たず、第2のトランスデューサは外来の機械的振動のみを感知する。
【0017】
また、この別な実施態様においては、前記第2の固定電極板に開口を設けることが望ましい。この別な実施態様では、第2のトランスデューサの第2の固定電極板に開口を設けているので、音響センサの製造工程において、基板表面と第2の固定電極板の間に存在していた犠牲層を第2の固定電極板の開口を通してエッチング除去できる。
【0018】
本発明に係るさらに別な実施態様においては、前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、前記第2のトランスデューサは、前記基板の表面に設けられ且つ通気孔を開口された第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向して設けられた第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴としている。
【0019】
このさらに別な実施態様では、音響孔を通じて音響振動が第1の振動電極板に達することができ、第1のトランスデューサは音響振動と外来の機械的振動を感知する。一方、第2のトランスデューサは第2の振動電極板に通気孔を開口されているので、第2の振動電極板の表面に達した音響振動は通気孔を通過して第2の振動電極板の裏面に伝わる。その結果、第2の振動電極板の表裏で圧力差が生じず、第2の振動電極板は音響振動によってはほぼ振動しなくなり、第2のトランスデューサは外来の機械的振動のみを感知する。
【0020】
また、このさらに別な実施態様の前記第2のトランスデューサにおいては、前記第2の固定電極板に形成された開口と前記第2の振動電極板に対向して前記基板に形成された第2のバックチャンバのうち少なくとも一方を設けていることが望ましい。この別な実施態様では、音響センサの製造工程において、第2の固定電極板の開口、または前記基板の第2のバックチャンバを通して、基板表面と第2の固定電極板の間に存在していた犠牲層をエッチング除去できる。しかも、第2の振動電極板も通気孔を有しているので、犠牲層をエッチングする際には、通気孔を通ってエッチング液が第2の振動電極板を通過するので、より確実にエッチングを行うことができるとともにエッチング所要時間を短縮できる。
【0021】
本発明に係るさらに別な実施態様においては、前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、前記第2のトランスデューサは、前記基板に形成された第2のバックチャンバと、前記第2のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向し且つ開口を設けられた第2の固定電極板と、前記第2のバックチャンバと外部の空間とをつなげる前記基板内の通路とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴としている。
【0022】
このさらに別な実施態様では、第1のトランスデューサは第1の固定電極板に音響孔が開口されているので、音響孔を通じて音響振動が第1の振動電極板に達することができ、第1のトランスデューサは音響振動と外来の機械的振動を感知する。一方、第2のトランスデューサでは、第2のバックチャンバと外部の空間とをつなげる前記基板内の通路とを有しているので、第2の固定電極板の開口を通って伝搬した音響振動と、前記通路及び第2のバックチャンバを通って伝搬した音響振動が第2の振動電極板の表裏に達する。その結果、第2の振動電極板の表裏で圧力差が生じず、第2の振動電極板は音響振動によってはほぼ振動しなくなり、第2のトランスデューサは外来の機械的振動のみを感知する。
【0023】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、特許文献1に開示された音響センサの断面図である。
【図2】図2(a)は図1のコンデンサマイクにおける音響検知部の出力波形を示す図、図2(b)は図1のコンデンサマイクにおける振動検知部の出力波形を示す図、図2(c)は図2(b)の出力波形を用いて図2(a)の出力波形からノイズを除去した波形を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1による音響センサの構造を示す概略断面図である。
【図4】図4は、実施形態1の音響センサに用いられているセンサ本体の分解斜視図である。
【図5】図5(a)は実施形態1の音響センサの音響検知部からの出力波形を示す図、図5(b)は実施形態1の音響センサの振動検知部からの出力波形を示す図、図5(c)は図5(b)の出力波形を用いて図5(a)の出力波形からノイズを除去した波形を示す図である。
【図6】図6は、比較例を示す概略断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態2による音響センサの一部を示す概略断面図である。
【図8】図8は、実施形態2におけるセンサ本体の分解斜視図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態3による音響センサの一部を示す概略断面図である。
【図10】図10は、実施形態3におけるセンサ本体の分解斜視図である。
【図11】図11は、本発明の実施形態4による音響センサの一部を示す概略断面図である。
【図12】図12は、実施形態4におけるセンサ本体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々設計変更することができる。
【0026】
(第1の実施形態)
以下、図3〜図6を参照して本発明の実施形態1による音響センサ21を説明する。図3は音響センサ21の概略断面図である。この音響センサ21は、図3に示すように、主としてセンサ本体22と回路素子23、24(ICチップ)とからなり、センサ本体22及び回路素子23、24の下面は配線パターンを形成された配線基板25の上面に接着剤で固定されている。センサ本体22及び回路素子23、24は、配線基板25の上面に接合された電磁シールド用のカバー26によって覆われていて、配線基板25とカバー26によって形成された空間27内に納められている。
【0027】
図4はセンサ本体22の構造を示す分解斜視図である。このセンサ本体22はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用して作製されたMEMS素子であり、一枚のシリコン基板28(基板)に音響検知部29(第1のトランスデューサ)と振動検知部30(第2のトランスデューサ)を設けている。シリコン基板28は表面から裏面に貫通した2つのバックチャンバ31a(第1のバックチャンバ)及びバックチャンバ31b(第2のバックチャンバ)を有している。バックチャンバ31a、31bは内周面が垂直面となっていてもよく、テーパー状に傾斜していてもよい。シリコン基板28のサイズは、平面視で一辺の長さが数mm以下であり、厚みが400〜500μm程度である。シリコン基板28の上面には酸化膜(SiO膜)等からなる絶縁被膜32が形成されている。
【0028】
音響検知部29は、一方のバックチャンバ31aの上方においてシリコン基板28の上面に振動電極板33a(第1の振動電極板)と固定電極板34a(第1の固定電極板)を対向させて配置することによって構成されている。また、振動検知部30は、他方のバックチャンバ31bの上方においてシリコン基板28の上面に振動電極板33b(第2の振動電極板)と固定電極板34b(第2の固定電極板)を対向させて配置することによって構成されている。すなわち、振動電極板33a、33bは、各バックチャンバ31a、31bを覆うようにしてシリコン基板28の上面に設けられ、それぞれの振動電極板33a、33bの上方には微小ギャップ(空隙)を介して固定電極板34a、34bが設けられている。
【0029】
振動電極板33a、33bは、膜厚が1μm程度のポリシリコン薄膜によって形成されている。振動電極板33a、33bはほぼ矩形状の薄膜であって、その四隅部分には対角方向外側に向けて支持脚35a、35bが延出している。さらに、支持脚35a、35bの一つからは延出部36a、36bが延びている。振動電極板33a、33bは、各バックチャンバ31a、31bの上面を覆うようにしてシリコン基板28の上面に配置され、四隅の各支持脚35a、35bと延出部36a、36bを絶縁被膜32の上に固定されている。振動電極板33a、33bのうちバックチャンバ31a、31bの上方で宙空に支持された部分(この実施形態では、支持脚35a、35b及び延出部36a、36b以外の部分)はそれぞれダイアフラム37a、37b(振動膜)となっている。
【0030】
固定電極板34a、34bは、いずれも窒化膜からなるバックプレート38a、38bの上面に金属薄膜からなる固定電極39a、39bを設けたものである。図4に示すように、固定電極板34a、34bは、それぞれダイアフラム37a、37bと対向する領域においては3μm程度の微小ギャップをあけてダイアフラム37a、37bを覆っており、固定電極39a、39bはダイアフラム37a、37bと対向してキャパシタを構成している。固定電極板34a、34bの外周部、すなわちダイアフラム37a、37bと対向する領域の外側の部分は、酸化膜等からなる絶縁被膜32を介してシリコン基板28の上面に固定されている。
【0031】
固定電極39a、39bからは引出し部40a、40bが延出されており、引出し部40a、40bの先端にはそれぞれ固定電極39a、39bと導通した電極パッド41a、41b(Au膜)が設けられている。さらに、固定電極板34a、34bには、振動電極板33a、33bの延出部36a、36bに接合して振動電極板33a、33bと導通させる電極パッド42a、42b(Au膜)が設けられている。電極パッド42a、42bはバックプレート38a、38bの上面に配置しており、電極パッド42a、42bはバックプレート38a、38bの開口内に位置している。
【0032】
固定電極39a及びバックプレート38aには、上面から下面に貫通するようにして、音響振動を通過させるための音響孔43(アコースティックホール)が穿孔されており、ダイアフラム37aとバックチャンバ31aは音響的につながっている。一方、固定電極39b及びバックプレート38bには音響孔その他の孔は開口されておらず、固定電極板34bは振動電極板33bの上方を気密的に覆っている。なお、振動電極板33a、33bは、音響振動や機械的振動に共鳴して振動するものであるから、1μm程度の薄膜となっているが、固定電極板34a、34bは音響振動や機械的振動によって励振されない電極であるので、その厚みは例えば2μm以上というように厚くなっている。
【0033】
配線基板25の上面には、音響検知部29の出力信号を処理するための回路素子23が熱硬化性樹脂によって接着されており、音響検知部29と回路素子23はボンディングワイヤにより、あるいは配線基板25の配線パターンを通じて接続される。同様に、配線基板25の上面には、振動検知部30の出力信号を処理するための回路素子24が熱硬化性樹脂によって接着されており、振動検知部30と回路素子24はボンディングワイヤにより、あるいは配線基板25の配線パターンを通じて接続される。
【0034】
カバー26は、導電性接着剤によって外周裏面を配線基板25に接着されており、カバー26は配線基板25の接地パターンに電気的に接続されている。また、カバー26の下面と配線基板25との間の隙間は、導電性接着剤によって封止されている。カバー26は、外部からの電磁ノイズを遮断するために電磁シールド機能を備えている。このためには、カバー26自体を導電性金属によって形成してもよく、樹脂製のカバーの内面をメッキ等の金属被膜で覆ってもよい。また、カバー26は開口44を形成されており、開口44と音響検知部29の間の空間は音響振動を伝搬させるための経路となっている。
【0035】
この音響センサ21にあっては、開口44から音響振動(音圧)が伝搬すると、音響孔43を通して音響検知部29内に音響振動が入ってダイアフラム37aを振動させる。ダイアフラム37aが振動すると、ダイアフラム37aと固定電極39aとの間のギャップ距離が変化するので、それによってダイアフラム37aと固定電極39aの間の静電容量が変化する。よって、電極パッド41a、42a間に直流電圧を印加しておき、この静電容量の変化を電気的な信号として取り出すようにすれば、音響振動を電気的な信号に変換して検出することができる。
【0036】
一方、振動検知部30では、固定電極板34bが音響孔を有していないので、開口44から音響振動が入ってもダイアフラム37bに音響振動が伝わらず、音響振動は振動検知部30で検知されない。
【0037】
これに対し、機械的振動は、シリコン基板28を通じて音響検知部29のダイアフラム37aと振動検知部30のダイアフラム37bに伝達するので、音響検知部29と振動検知部30の双方で検知される。しかも、音響検知部29と振動検知部30は、同じ感度で機械的振動を検知できるように構成されている。
【0038】
音響検知部29では、外来の機械的振動は検知対象ではないので、音響振動と同時に機械的振動が伝わると、音響検知部29からの出力信号では、図5(a)に示すように機械的振動は音響振動波形に乗ったノイズとなる。一方、振動検知部30では機械的振動のみが検知され、振動検知部30からは図5(b)のような音響検知部29のノイズに対応する機械的振動が出力される。よって、たとえば外部の差動アンプに音響検知部29の出力信号と振動検知部30の出力信号をそれぞれ入力して音響検知部29の出力と振動検知部30の出力との差分信号を出力させるようにすれば、ノイズが除去されて音響振動のみが出力される。
【0039】
しかも、音響検知部29と振動検知部30は一枚のシリコン基板28の上に形成されており、シリコン基板28は硬度が高くて弾性定数が大きいので、シリコン基板28を通じて伝わる機械的振動は音響検知部29と振動検知部30とで時間差が非常に小さくなり、両検知部29、30で検知される機械的振動の位相差や減衰がほとんどなくなる。その結果、音響検知部29の出力から精度よくノイズを除去することができ、図5(c)のようにきれいな音響振動波形を取り出すことが可能になる。
【0040】
なお、図6に示す音響センサは比較例であって、音響検知部29と振動検知部30はそれぞれ別個のシリコン基板28a、28bの上に形成されている。このような比較例の場合には、シリコン基板28aと28bとの界面で機械的振動の反射や時間遅れが発生し、従来例のコンデンサマイクと同様にノイズが十分に除去されなくなる(図2(c)参照)。
【0041】
また、本実施形態の音響センサ21では、音響検知部29及び振動検知部30としてMEMS素子を用いているので、音響センサ21を小型化することができる。さらに、音響検知部29と振動検知部30が一枚のシリコン基板28の上に形成されているので、センサ本体22の製造工程や配線基板25への実装工程が簡単になり、音響センサ21の製造効率が向上する。
【0042】
(第2の実施形態)
図7は本発明の実施形態2による音響センサの一部を示す概略断面図である。実施形態2の音響センサの構造は、センサ本体を除けば実施形態1と同一であるので、図7ではセンサ本体51の部分だけを表している(実施形態3、4についても同様)。また、図8は実施形態2のセンサ本体51の分解斜視図である。
【0043】
このセンサ本体51では、振動検知部30側のバックチャンバ(31b)を無くすことによって振動検知部30が音響振動に対して感度を持たないようにしている。すなわち、音響検知部29側にだけバックチャンバ31aを設けてあり、振動検知部30側にはバックチャンバを設けていない。
【0044】
また、振動検知部30にバックチャンバが存在しないので、製造工程においてシリコン基板28の表面と固定電極板34bとの間に存在していた犠牲層(バックプレート38aとなる半導体層を成膜するための支持層;図示せず)をシリコン基板28の裏面側からエッチングにより除去することができない。そのため、この実施形態では、振動検知部30の固定電極板34bにエッチング用孔52を開口し、エッチング用孔52から犠牲層をエッチングで除去している。
【0045】
このセンサ本体51の振動検知部30は、ダイアフラム37bの下にバックチャンバを有していないので、固定電極板34bにエッチング用孔52が開口していても音響振動に対して感度を持たず、機械的振動だけを検知する。
【0046】
そして、音響検知部29と振動検知部30が一枚のシリコン基板28の上に形成されているので、音響検知部29と振動検知部30において検知する機械的振動に時間差や減衰が起こりにくく、機械的振動による外部振動ノイズを精度よく除去することができる。また、音響センサの製造効率も向上する。
【0047】
(第3の実施形態)
図9は本発明の実施形態3による音響センサの一部であるセンサ本体61を示す概略断面図である。また、図10は実施形態3のセンサ本体61の分解斜視図である。
【0048】
このセンサ本体61では、振動検知部30において、固定電極板34bにエッチング用孔62(あるいは、音響孔)を設けるとともに、ダイアフラム37bに表裏に貫通した通気孔63を設けている。なお、振動検知部30側のバックチャンバ31bは無くてもよい。
【0049】
このセンサ本体61では、エッチング用孔62から音響振動が入ってきても、その音響振動はダイアフラム37bの通気孔63を通り抜けるので、音響振動(音圧)がダイアフラム37bの表裏から加わってダイアフラム37bの表裏で圧力差がなくなる。その結果、ダイアフラム37bは振動せず、音響振動に対して感度を持たず、機械的振動だけを検知する。
【0050】
そして、音響検知部29と振動検知部30が一枚のシリコン基板28の上に形成されているので、音響検知部29と振動検知部30において検知する機械的振動に時間差や減衰が起こりにくく、機械的振動による外部振動ノイズを精度よく除去することができる。また、音響センサの製造効率も向上する。さらに、この実施形態では、バックチャンバ31bを設けない場合には、シリコン基板28の表面と振動電極板33bの間の犠牲層をエッチング除去する際、通気孔63を通ってエッチング液が振動電極板33bの下面に達しやすくなり、犠牲層エッチングを行い易くなる。
【0051】
(第4の実施形態)
図11は本発明の実施形態4による音響センサの一部であるセンサ本体71を示す概略断面図である。また、図12は実施形態4のセンサ本体71の分解斜視図である。
【0052】
このセンサ本体71では、振動検知部30において、固定電極板34bにエッチング用孔62(あるいは、音響孔)を設けるとともに、センサ本体71の外部とバックチャンバ31bを連通させる通路72をシリコン基板28に形成している。図示例では通路72をシリコン基板28に横穴状に形成しているが、どのような位置、形状であってもよい。
【0053】
このセンサ本体71では、エッチング用孔62から入ってきた音響振動と通路72及びバックチャンバ31bを伝わってきた音響振動がダイアフラム37bの表裏に加わるので、ダイアフラム37bが音響振動によって振動せず、音響振動に対して感度を持たない。
【0054】
そして、音響検知部29と振動検知部30が一枚のシリコン基板28の上に形成されているので、音響検知部29と振動検知部30において検知する機械的振動に時間差や減衰が起こりにくく、機械的振動による外部振動ノイズを精度よく除去することができる。また、音響センサの製造効率も向上する。
【符号の説明】
【0055】
21、51、61、71 音響センサ
22 センサ本体
25 配線基板
28 シリコン基板
29 音響検知部
30 振動検知部
31a、31b バックチャンバ
33a、33b 振動電極板
34a、34b 固定電極板
37a、37b ダイアフラム
38a、38b バックプレート
39a、39b 固定電極
43 音響孔
52、62 エッチング用孔
72 通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の基板に、音響振動及び機械的振動を感知して電気信号を出力する第1のトランスデューサと、機械的振動のみを感知して電気信号を出力する第2のトランスデューサとを設けたことを特徴とする音響センサ。
【請求項2】
前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、
前記第2のトランスデューサは、前記基板の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向し且つ開口のない第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項3】
前記第2のトランスデューサにおいて、前記第2の振動電極板に対向させて前記基板に第2のバックチャンバを形成したことを特徴とする、請求項2に記載の音響センサ。
【請求項4】
前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、
前記第2のトランスデューサは、前記基板のバックチャンバが形成されていない領域の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向して設けられた第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力することを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項5】
前記第2の固定電極板に開口を設けたことを特徴とする、請求項4に記載の音響センサ。
【請求項6】
前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、
前記第2のトランスデューサは、前記基板の表面に設けられ且つ通気孔を開口された第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向して設けられた第2の固定電極板とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。
【請求項7】
前記第2のトランスデューサにおいて、前記第2の固定電極板に形成された開口と前記第2の振動電極板に対向して前記基板に形成された第2のバックチャンバのうち少なくとも一方を設けたことを特徴とする、請求項6に記載の音響センサ。
【請求項8】
前記第1のトランスデューサは、前記基板に形成された第1のバックチャンバと、前記第1のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第1の振動電極板と、前記第1の振動電極板に対向し且つ音響孔を開口された第1の固定電極板とを有し、前記第1の振動電極板の変位による前記第1の振動電極板と前記第1の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであり、
前記第2のトランスデューサは、前記基板に形成された第2のバックチャンバと、前記第2のバックチャンバを覆うようにして前記基板の表面に設けた第2の振動電極板と、前記第2の振動電極板に対向し且つ開口を設けられた第2の固定電極板と、前記第2のバックチャンバと外部の空間とをつなげる前記基板内の通路とを有し、前記第2の振動電極板の変位による前記第2の振動電極板と前記第2の固定電極板の間の静電容量の変化に基づいて電気信号を出力するものであることを特徴とする、請求項1に記載の音響センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−176533(P2011−176533A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38291(P2010−38291)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】