説明

顕微鏡システム

【課題】試料の三次元位置と該試料の蛍光スペクトルとの計測を行うための顕微鏡システムの提供。
【解決手段】光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と該試料の蛍光スペクトルとの計測を行うための顕微鏡システムであって、試料の明視野像を得るための光源と、試料の蛍光像を得るための光源と、結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、明視野像及び蛍光像を取得する画像取得部と、磁場を発生させることにより試料に張力を与える磁場発生部と、画像取得部にて得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する解析部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡を用いて試料の三次元位置と蛍光スペクトルとを計測可能な顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基礎研究の分野において、分子結合や蛋白質間相互作用などを、ナノメートルやピコニュートンの精度で計測することが試みられている。例えば、原子間力顕微鏡を用いることによって、観察試料の表面状態をナノメートル精度で観察したり、蛋白質が発する力をピコニュートン精度で計測することが行われている。
【0003】
微細な対象物を光学的に捕捉する方法として、レーザー光を用いた光ピンセット法(以下、「レーザートラップ法」ともいう)が提案されている。光ピンセット法とは、開口数の大きな対物レンズを介して強力なレーザー光を標本上に集光させると、標本内に存在するビーズ等の微小粒子が該集光点に捕捉されるという技術である。捕捉可能な物体はビーズ等に限られず、例えば、細胞や染色体のような生物標本中の微細な物体であっても可能である。また、複数の集光点を形成することにより、複数の微小粒子を捕捉かつ操作する方法及び装置も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
上記光ピンセット法とあわせて蛍光顕微鏡技術も、近年、基礎研究の分野において有用であるとされている。例えば、全反射照明を装備した蛍光顕微鏡を用いることにより、蛍光色素を検出感度が1分子のレベルで観察できる(例えば、特許文献2)。このように、上記技術は蛍光色素1分子の観察が可能であることから、1分子可視化技術とも呼ばれている。また、上記1分子可視化技術と従来の分光方法とが融合された装置も提案されており(例えば、非特許文献1)、この装置によれば、蛍光色素1分子の分光スペクトルを検出することができる。
【0005】
蛋白質の力の発生とそのエネルギー入力とを同時に計測することを目的として、光ピンセット法と全反射照明を装備した蛍光顕微鏡とを融合させることが提案されている(例えば、非特許文献2)。標的となる蛋白質(ミオシン等)に微小粒子を付加させ、これを上記蛍光顕微鏡を用いて観察することにより、上記標的蛋白質の運動を微小粒子の運動として検出することができる。レーザートラップ法において微小粒子に掛かる引力は力学的にバネと等価であることから、上記微小粒子の運動変位から蛋白質が発生する力を見積もることができる。また、上記蛋白質のエネルギー源はアデノシン3リン酸であることから、アデノシン3リン酸を有機蛍光色素によって標的しておくことにより、アデノシン3リン酸と上記蛋白質との結合を、全反射照明を装備した蛍光顕微鏡によって可視化することができる。
【0006】
しかしながら、光ピンセット法と全反射照明を装備した蛍光顕微鏡との融合には大きな問題点がある。すなわち、光ピンセット法で使用するレーザーの出力が大きいことから、上記レーザーの照射により観察すべき蛍光色素が褪色してしまうからである。上記非特許文献2には、技術的な解決方法は示されていないが、例えば、糸状の蛋白質を用いて標的蛋白質と微小粒子とを結合させてトラップに使用するレーザーを照射する位置を観察範囲から遠ざけることにより測定が行われている。
【0007】
上記したとおり、光ピンセット法と全反射照明を装備した蛍光顕微鏡との融合技術には大きな問題があるため、現時点において、蛋白質に掛かる力又は蛋白質が発する力と蛍光画像とを同時に計測する技術の多くは、原子間力顕微鏡と蛍光顕微鏡との融合技術である(例えば、非特許文献3)。非特許文献3には、原子間力顕微鏡と蛍光顕微鏡との融合技術の方法及び装置の詳細が開示されている。しかしながら、原子間力顕微鏡では、走査プローブが一つであるため、網羅的な実験及び解析を行うことができない。
【0008】
一方、レーザートラップ法を用いることなく、かつ、多数の微小粒子を捕捉及び操作可能な方法として、外部磁場を利用する方法(以下、「磁気トラップ法」ともいう)が提案されている(例えば、非特許文献4及び5)。非特許文献4には、微小磁性粒子を静磁場によって補足して蛋白質が発する力を測定する方法が開示されている。また、非特許文献5には、微小磁性粒子を同磁場によって捕捉及び操作して蛋白質に外力を加える方法及び装置が開示されている。これらの方法によれば、磁場によって微小粒子を捕捉及び操作することができるため、粒子の捕捉及び操作のためのレーザーを用いた光学系が不要となり、蛍光観察のための方法及び装置が簡易となる。
【0009】
上記のようにレーザートラップ法又は磁気トラップ法を用いて粒子に掛かる力を計測するためには、上記粒子の位置を取得する必要がある。非特許文献6及び7に、微小粒子の三次元位置を取得する方法が開示されている。非特許文献6には、粒子の水平面上の位置は四分割フォトダイオードによって、光軸方向の位置は像の散乱強度によって取得する方法が開示されている。非特許文献7には、2光子励起法を用いて集光したレーザー光を水平面に走査するとともに、対物レンズを走査することによって三次元位置を取得する方法が開示されている。また、非特許文献7の方法では、走査範囲を狭くすることにより高速化を図っている。非特許文献6及び7の方法では、1つの粒子の三次元位置を計測することは可能であるが、複数の粒子の三次元位置を計測することはできない。さらに、これらの方法では、粒子の散乱光の強度を指標として光軸方向の位置を計測しているため、粒子の大きさが測定精度に大きな影響を与えるという問題がある。
【0010】
このため、蛍光粒子又は蛍光色素を用いることにより、散乱光に代えて蛍光を用いる方法も提案されている。しかしながら、蛍光粒子や蛍光色素の直径が小さい場合、フォトンを発する過程が確率的であるため、蛍光強度が激しく揺らぎ、光軸方向の位置を高い精度で測定できないという問題がある。そこで、直径の大きな微小粒子を用い、その蛍光像から該微小粒子の三次元位置を計測する技術が提案されている(例えば、非特許文献8)。該方法によると、微小粒子の蛍光像における最外輪帯の半径と、該微小粒子の光軸方向の位置とには相関があることが知られていることから、最外輪帯の半径及び中心位置を計測することにより、該微小粒子の三次元位置を得ることができる。さらに、非特許文献8の方法は、非常に簡単であり、複雑な装置を必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2005−528194号公報
【特許文献2】特開平9−159922号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Shinohara K., Yamaguchi S., Wazawa T. (2001) Polymer. 42, 7915-7918
【非特許文献2】Ishijima A., Kojima H., Funatsu T., Tokunaga M., Higuchi H., Tanaka H., Yanagida T. (1998) Cell. 92, 161-171
【非特許文献3】Lipfert J., Koster D.A., Vilfan I.D., Hage S., Dekker N.H. (2009) Methods in Molecular Biology 582, 71-89
【非特許文献4】Strick T.R., Allemand J.F., Bensimon D., Bensimon A., Croquette V. (1996) Science. 71,1835-1837
【非特許文献5】Hirono-Hara, Y., Ishizuka, K., Kinosita, K, Jr., Yoshida, M. and Noji, H. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 102, 4288-93
【非特許文献6】Peters IM, van Kooyk Y, van Vliet SJ, de Grooth BG, Figdor CG, Greve J. (1999) Cytometry. 36, 189-194
【非特許文献7】Levi V, Ruan Q, Gratton E. (2005) Biophys J. 88, 2919-2928
【非特許文献8】Wu M., Roberts J.W. and Buckley M. (2005) Experiments in Fluids 38, 461-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非特許文献8の方法では、微小粒子の蛍光像のうち最外輪帯のみを情報として使用するため、三次元位置の検出精度が十分であるとはいい難い。例えば、非特許文献8に開示されている微小粒子の位置検出精度は1μm程度である。また、測定において蛍光粒子が必須となるため、明視野観察には適応できないという問題もある。
【0014】
そこで、本発明は粒子の三次元位置を簡単かつ精度よく測定できるとともに、該粒子周辺の蛍光スペクトルの測定を行うことができる顕微鏡システム又は試料計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と該試料の蛍光スペクトルとの計測を行うための顕微鏡システムであって、試料の明視野像を得るための光源と、試料の蛍光像を得るための光源と、結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、明視野像及び蛍光像を取得する画像取得部と、磁場を発生させることにより試料に張力を与える磁場発生部と、画像取得部にて得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する解析部とを備える顕微鏡システムに関する。
【0016】
本発明は、その他の態様として、光学顕微鏡を用いて試料の三次元位置と試料の蛍光スペクトルの計測を行うための試料計測方法であって、試料周辺に磁場を発生させる磁場発生工程と、光学顕微鏡を用いて試料の明視野像及び蛍光像を取得する画像取得工程と、コンピュータが得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する三次元位置算出工程とを含む試料計測方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の顕微鏡システム又は試料計測方法によれば、試料の三次元位置を簡単かつ精度良く測定することができる。このため、本発明の顕微鏡システム又は試料計測方法によれば、試料の三次元位置と該試料周辺の蛍光スペクトルとを簡便かつ精度よく同時に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における光学装置と該光学装置に設置する磁場発生装置の一例を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における光学装置により得られる磁性粒子(直径1μm)の明視野像の一例である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態により得られる磁性粒子(直径1μm)の明視野像を数式(1)にて近似して得られるパラメータrと磁性粒子光軸方向の位置との相関を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施の形態において磁性粒子の三次元位置の時間変化を取得して磁性粒子に掛かる力を計算するための概念図である。
【図5】図5は、図1で示す光学装置によって取得される顕微鏡画像の一例であって、図5Aは磁性粒子の明視野像であり、図5Bは蛍光分光像である。
【図6】図6は、図5Bに示す蛍光分光像の三次元プロファイルの一例である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態において与える磁力を変化させながら15秒間の磁性粒子の三次元位置を追跡した結果を表すグラフの一例である。
【図8】図8Aは、本発明の実施の形態において与える磁力を変化させながら15秒間の磁性粒子の光軸方向の位置を測定した結果を表すグラフの一例であり、図8Bは、上記測定の際に上記磁性粒子に掛かる力を表すグラフである。
【図9】図9は、本発明の実施の形態において磁性粒子に様々な磁力を与えた際の磁性粒子とガラスとを架橋する緑色蛍光蛋白質の蛍光スペクトルの一例である。
【図10】図10は、本発明の光学装置のその他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、磁気トラップ法と1分子分光法とを組み合わせた顕微鏡システムを使用し、かつ、試料の明視野像を近似式を用いて近似することにより、試料の三次元位置を簡便かつ高精度で取得できるという知見に基づく。さらに、得られた使用の三次元位置を用いることにより、試料に掛かる力を簡便かつ高精度で取得できるという知見に基づく。
【0020】
[顕微鏡システム]
本発明は、一つの態様として、光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と該試料の蛍光スペクトルとの計測を行うための顕微鏡システムであって、試料の明視野像を得るための光源と、試料の蛍光像を得るための光源と、結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、明視野像及び蛍光像を取得する画像取得部と、磁場を発生させることにより試料に張力を与える磁場発生部と、画像取得部にて得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する解析部とを備える顕微鏡システムに関する。
【0021】
本発明の顕微鏡システムによれば、試料、好ましくは試料中の粒子、より好ましくは試料中の磁性粒子の三次元位置を簡単かつ精度良く得ることができる。また、本発明の顕微鏡システムによれば、例えば、一対一に対応した磁性粒子等の試料の明視野像と各磁性粒子の周辺の蛍光スペクトルとを取得することができる。このため、本発明の顕微鏡システムによれば、例えば、試料の三次元位置の計測と蛍光スペクトルの測定とを同時に行うことができる。さらに、本発明の顕微鏡システムによれば、複数の試料について三次元位置の計測と蛍光スペクトルの測定とを同時に行うことができる。
【0022】
本明細書において「試料周辺の蛍光スペクトル」とは、例えば、試料そのものの蛍光スペクトル、試料を含む領域における蛍光スペクトルを含むものである。試料が磁性粒子と蛍光蛋白質とが結合した試料である場合、試料周辺の蛍光スペクトルとは、磁性粒子に結合した蛍光蛋白質の蛍光スペクトルのことをいう。本明細書において磁性粒子の大きさとしては、例えば、0.5〜5.0μmの磁性微小粒子が考えられる。
【0023】
本発明の顕微鏡システムにおいて、解析部は、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含むことが好ましい。
【0024】
【数1】

上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは明視野像の最内輪帯の半径(μm)を示す。
【0025】
上記数式(1)で明視野像を近似することにより、より簡便かつ高精度で試料の三次元位置を算出することができる。反復近似法としては、例えば、ガウス・ニュートン法、レーベン・マルカート法等の最小自乗近似法が挙げられる。
【0026】
解析部は、得られたx0、y0及びrを用いて試料に掛かる力を算出することを含むことが好ましい。これにより、例えば、試料に掛かる力とそのときの試料の蛍光特性を同時に計測することができる。試料に掛かる力の算出は、例えば、得られたx0、y0及びrに基づき下記数式(2)を用いて行うことができる。
【0027】
【数2】

上記数式(2)において、xは水平面における位置、<x2>は位置xの時間変化の分散、Rは試料の中心からガラス表面との結合位置までの距離(nm)、kBはボルツマン定数、Tは温度(K)である。
【0028】
上記数式(2)におけるx(水平面における位置)は、上記数式(1)により得られたx0及びy0を用いて式(x=√x02+y02)より得ることができる。上記数式(2)におけるRは、z位置の時系列データを球体表面の一部(R2=x02+y02+z2)で近似計算することにより得ることができる。なお、z位置の時系列データは、上記数式(1)により得られたrから求めることができる。
【0029】
磁場発生装置は、磁場を発生可能な公知の磁場発生装置が使用でき、例えば、電磁石及び電磁石に電流を付与するための電流発生装置を含む構成が考えられ、さらに電力発生装置を制御するための電流制御装置を備えていてもよい。
【0030】
本発明の顕微鏡システムは、さらに、ダイクロイックミラーで分けられた蛍光像を分光するための光学素子の少なくとも一つを備えることが好ましい。これにより、画像取得装置において蛍光分光像を得ることができる。光学素子としは、例えば、ペラン・ブロカプリズム(Pellin-Broca prism)、三角プリズム又は回折格子が挙げられる。
【0031】
本発明の顕微鏡システムは、さらに、リレーレンズ、ミラー等を含んでいてもよい。リレーレンズは、結像面の実像を同倍又は数倍に伝達するためのものであって、その配置箇所及び枚数等は、結像面の位置、焦点位置等に応じて適宜決定できる。
【0032】
画像取得部は、明視野像及び又は蛍光像をデジタルデータとして取得してもよいし、アナログ画像として取得してもよい。
【0033】
本発明の顕微鏡システムは、さらに、画像取得部で取得された明視野像及び又は蛍光像若しくは蛍光分光像の画像を処理する画像処理部をさらに備えていてもよい。画像処理部は、明視野像及び又は蛍光像のアナログ画像をデジタル化することを含んでいてもよい。
【0034】
試料の明視野像を得るための光源は、試料に照射して試料の明視野像を得るためのものである。また、試料の蛍光像を得るための光源は、試料に照射して試料中の蛍光物質を励起するためのものである。明視野像を得るために試料に照射される光の波長と、蛍光像を得るために試料に照射される光の波長とは重ならないように設定することが好ましい。試料の明視野像を得るための光源及び試料の蛍光像を得るための光源は、後述するものが使用できる。
【0035】
[試料計測方法]
次に、本発明は、さらにその他の態様として、光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と試料の蛍光スペクトルの計測を行うための試料計測方法であって、試料周辺に磁場を発生させる磁場発生工程と、光学顕微鏡を用いて試料の明視野像及び蛍光像を取得する画像取得工程と、コンピュータが、得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する三次元位置算出工程とを含む試料計測方法に関する。
【0036】
本発明の試料計測方法によれば、試料の三次元位置を簡単かつ精度良く測定することができる。また、本発明の試料計測方法によれば、例えば、一対一に対応した磁性粒子等の試料の明視野像と各磁性粒子の周辺の蛍光スペクトルとを取得することができる。このため、本発明の試料計測方法によれば、例えば、試料の三次元位置と蛍光スペクトルとを同時に測定することができ、さらには、複数の試料についてその三次元位置の計測と蛍光スペクトルの測定とを同時に行うことができる。
【0037】
三次元算出工程において、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含むことが好ましい。これにより、より簡便かつ高精度で試料の三次元位置を算出することができる。
【0038】
【数3】

上記数式(1)において、(x0、y0)及びrは上記の通りである。
【0039】
本発明の試料計測方法は、さらに、得られたx0、y0及びrを用いて試料に掛かる力を算出する張力算出工程を含むことが好ましい。試料の三次元位置及び蛍光スペクトルとともに、試料に掛かる力を得ることができる。試料に掛かる力の算出は、例えば、得られたx0、y0及びrに基づき下記数式(2)を用いて行うことができる。
【0040】
【数4】

上記数式(2)におけるx、<x2>、R、kB及びTは上記の通りである。
【0041】
本発明の試料計測方法は、さらに、コンピュータが、得られた蛍光像から蛍光スペクトルを生成する蛍光スペクトル生成工程を含んでいてもよい。
【0042】
[三次元位置解析装置、方法、プログラム]
本発明は、さらにその他の態様として、試料の三次元位置の解析を行う三次元位置解析装置であって、光学顕微鏡により測定された明視野像又はそのデータを取得するデータ取得部と、得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する三次元位置算出部とを備える三次元位置解析装置に関する。また、本発明は、さらにその他の態様として、試料の三次元位置を解析するための方法であって、光学顕微鏡により測定された明視野像又はそのデータを取得するデータ取得工程と、コンピュータが、得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する算出工程とを含む三次元位置解析方法に関する。本発明は、さらにその他の態様として、試料の三次元位置を解析するためのプログラムであって、光学顕微鏡により測定された試料の明視野像のデータを受け付ける入力処理と、入力された明視野像のデータから試料の三次元位置を算出する算出処理とをコンピュータに実行させる三次元位置解析プログラムに関する。本発明の三次元位置計測装置、方法又はプログラムによれば、明視野像から、試料の三次元位置を簡便かつ精度よく測定することができる。
【0043】
顕微鏡内にある全ての光学系の焦点距離、開口数、球面度を事前に正確に取得することができれば、それらの情報を用いてあらゆる位置に存在する粒子の明視野像を予測することができる。このため、実際に観測された粒子の明視野像から当該粒子の三次元位置を算出することができる。しかしながら、光学顕微鏡を用いた実際の測定では、使用者が対物レンズ以外の情報を得ることは困難である。また、得られた粒子の明視野像から三次元位置を算出する逆関数問題は複雑である。これに対し、本発明の三次元位置解析装置、方法又はプログラムによれば、ガウス・ニュートン法やレーベン・マルカート法等の反復近似計算法を用いて、測定対象となる試料の明視野像を上記数式(1)で近似することにより、測定対象となる試料の明視野像から測定対象となる試料の三次元位置(x,y,z)を、簡便かつ精度良く得ることができる。さらに、本発明の方法によれば、水平方向(x,y)の位置情報については、例えば、2nm程度、好ましくは1nm程度の精度で得ることができる。また、光軸方向(z)については、例えば、6nm程度、好ましくは4nm程度の計算精度で得ることができる。
【0044】
本発明の三次元位置計測装置、方法又はプログラムにおいて、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含むことが好ましい。これにより、より簡便かつ精度よく試料の三次元位置を計測することができる。
【0045】
【数5】

上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは明視野像の最内輪帯の半径(μm)を示す。
【0046】
上記三次元位置計測プログラムは、記録媒体に記録された形態であってもよい。
【0047】
[光学装置]
次に、本発明は、さらにその他の態様として、光学顕微鏡に装着して使用する光学装置であって、試料の明視野像を得るための光源と、試料の蛍光像を得るための光源と、結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、前記ダイクロイックミラーで分けられた蛍光像を分光するための光学素子と、前記ダイクロイックミラーによって光路が分けられた前記明視野像と前記分光後の蛍光像とを取得する画像取得部とを備え、本発明の試料計測方法に用いる光学装置に関する。
【0048】
本発明の光学装置によれば、例えば、一対一に対応した磁性粒子等の試料の明視野像と各試料の周辺の蛍光スペクトルとを取得することができる。また、本発明の光学装置によれば、例えば、複数の試料について、一対一で対応した明視野像と蛍光スペクトルを同時に取得することができる。
【0049】
蛍光像を分光するための光学素子としては、例えば、ペラン・ブロカプリズム、三角プリズム又は回折格子が挙げられる。
【0050】
本発明の光学装置は、さらに、リレーレンズ、ミラー等を含んでいてもよい。リレーレンズは、結像面の実像を同倍又は数倍に伝達するためのものであって、その配置箇所及び枚数等は、結像面の位置、焦点位置等に応じて適宜決定できる。また、その他の光学素子を適宜含んでいてもよい。本発明の光学装置は、例えば、本発明の試料計測方法のみならず、三次元位置計測装置又は方法等に使用できる。
【0051】
試料の明視野像を得るための光源は、試料に照射して試料の明視野像を得るためのものである。また、試料の蛍光像を得るための光源は、試料に照射して試料中の蛍光物質を励起するためのものである。明視野像を得るために試料に照射される光の波長と、蛍光像を得るために試料に照射される光の波長とは重ならないように設定することが好ましい。試料の明視野像を得るための光源及び試料の蛍光像を得るための光源は、後述するものが使用できる。
【0052】
上記したとおり、本発明は、光学顕微鏡下において、ナノメートル領域における極微粒子の変位を高精度に計測することができ、かつ同時に、蛍光色素1分子の蛍光スペクトルを計測する方法として用いることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記三次元位置計測装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム及びそのようなプログラムを記録した記録媒体、並びに、コンピュータが実行する試料計測方法又は三次元位置計測方法も本発明の実施形態に含まれる。
【0054】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0055】
〔第1の実施の形態〕
[顕微鏡システム]
本実施の形態に係る顕微鏡システムは、光学装置、磁場発生装置及びこれらに接続されたコンピュータを備える。コンピュータには、モニタ及び入力デバイスが接続されうる。光学装置は、測定対象となる試料の明視野像及び蛍光スペクトルを得るための光学装置であって、明視野像を得るための光源、蛍光を励起するための光源及び画像取得装置を備える。また、磁場発生装置は、上記光学装置に設置して磁場を発生させるものであって、電磁石、電磁石に電流を与えるための電流発生装置及び電流発生装置を制御するための電流制御装置を備えうる。
【0056】
図1に、本実施の形態における光学装置及び磁場発生装置の一例を示す。
【0057】
[光学装置]
図1に示すように、光学装置は、試料301に照射し明視野像を得るための光源304、光源フィルター305、試料301を載置するステージ302、無限遠系対物レンズ303、ダイクロイックミラー306、試料301中の蛍光物質を励起するための光源312、無限遠系対物レンズ303からの光を結像させるための結像レンズ307、視野絞り315、ダイクロイックミラー316及び画像取得装置314を備える。光学装置は、さらに、光源312からの励起光を試料301に照射するための、レンズ308,309、ミラー311、レンズ310及び光学フィルター313を備え、ダイクロイックミラー316で反射された蛍光像を分光しかつ画像取得装置314にリレーするためのリレーレンズ317、分光するためのペラン・ブロカプリズム320及びリレーレンズ319を備え、ダイクロイックミラー316を透過した透過像を画像取得装置314にリレーするためのリレーレンズ318、ミラー321及び三角プリズム322を備える。なお、リレーレンズ317とリレーレンズ319との間は無限遠系である。また、本実施の形態では、蛍光観察には全反射照明観察法を用いた。
【0058】
光源304は、ステージ302に載置された試料301に照射して試料301の明視野像を得るための光源である。光源304の波長は、蛍光物質を励起するための光源312の波長と重ならないように設定することが好ましい。緑色蛍光蛋白質を観察する場合は、例えば、光源304としてハロゲン白色光源を使用し、光学フィルター305として波長700nm以上の波長を透過するハイパスフィルターを使用することが好ましい。
【0059】
光源312は、ステージ302に載置された試料301中の蛍光物質を励起するためのものである。光源312の波長は、試料301中の蛍光物質に応じて適宜設定できる。緑色蛍光蛋白質を観察する場合は、例えば、光源312として波長488nmのレーザーを使用し、光源フィルター313として波長488nmを通過するノッチフィルターを使用することが好ましい。また、光源312としてレーザー光源を使用し、かつ、全反射照明光学系を用いることによって、試料301におけるスライドガラス表面近傍200nm付近のみを励起することができる。
【0060】
ダイクロイックミラー306は、光源312から照射される蛍光物質を励起するための波長の光を反射し、それ以外の波長の光を透過するためのものである。緑色蛍光蛋白質を観察する場合、ダイクロイックミラー306として波長500nm以下を反射しかつそれ以外の波長を透過するダイクロイックミラーを使用することが好ましい。
【0061】
ダイクロイックミラー316は、励起された蛍光物質の波長の光を反射し、かつ、それ以外の波長の光を透過するためのものである。例えば、緑色蛍光蛋白質を観察する場合、ダイクロイックミラー316として波長650nm以下を反射しかつそれ以外の波長を透過するダイクロイックミラーを使用することが好ましい。
【0062】
ペラン・ブロカプリズム320は、蛍光像を分光するためのものである。本実施の形態では、蛍光像を分光するための光学素子としてペラン・ブロカプリズムを用いたが、これに限られず、ペラン・ブロカプリズムに替えて、例えば、三角プリズムや回折格子を用いても良い。また、ペラン・ブロカプリズム320のように分光する光学系に替えて偏光を取得する光学系を使用しても良い。
【0063】
三角プリズム322は、ミラー321からの光路を画像取得装置314に伝達するためのである。本実施の形態では三角プリズムを用いたが、これに限られず三角プリズムに替えて、例えば、ミラーを用いても良い。また、三角プリズム322は、ペラン・ブロカプリズム320からの蛍光像の光路を妨げないように配置されている。
【0064】
画像取得装置314は、試料301の透過像と蛍光像とをその受光面で結像させてそれらの画像を得るためのものであって、例えば、CCDカメラ等を使用できる。なお、図1では、ミラー321と三角プリズム322とを用いて、一つの画像取得装置314に試料301の透過像と蛍光像とを結像させたが、これに限られるものではなく、それぞれの光路に対して別々に画像取得装置を配置し透過像と蛍光像とを異なる画像取得装置に結像させても良い。
【0065】
上記光学装置を用いた蛍光スペクトル及び明視野像の取得は、下記のようにして行われる。
【0066】
光源312により照射された光によって試料301から発せられる蛍光像は、無限遠系対物レンズ303、ダイクロイックミラー306及びレンズ307を介して、視野絞り315上に結像する。ついで、上記蛍光像はダイクロイックミラー316によって反射された後、リレーレンズ317を通過してペラン・ブロカプリズム320によって分光されかつ直角に反射し、リレーレンズ319を介して画像取得装置314に伝達される。この光路によって画像取得装置314に伝達された蛍光像から試料301周辺の蛍光スペクトルを得ることができる。このように全反射照明光学系を用いることによって、蛍光蛋白質1分子の蛍光スペクトルを取得することができる。なお、上記蛍光像が通る光路を「光路イ」とする。
【0067】
一方、光源304から照射された白色光は、波長700nm以上の光が光学フィルター305を透過し、透過した光が試料301に照射される。試料301の透過像は、無限遠系対物レンズ303、ダイクロイックミラー306及びレンズ307を介して視野絞り315上に結像する。結像した透過像は、ダイクロイックミラー316を透過した後、リレーレンズ318、ミラー321、三角プリズム322及びリレーレンズ319を介して画像取得装置314に伝達される。この光路によって画像取得装置314に伝達された透過像から試料301の明視野像を得ることができる。なお、上記磁性粒子の透過像が通る光路を「光路ロ」とする。
【0068】
このように、本実施の形態の光学装置によれば、試料301の明視野像と試料301周辺の蛍光スペクトルとが一対一の対応で取得することができる。
【0069】
光路イの光路長と光路ロの光路長とは、ペリンブロカプリズム320を通過することや色収差によって多少の違いが生じる場合がある、このような違いが生じた場合には、例えば、リレーレンズ317,318の位置をそれぞれ光軸方向に調整することによって、光路イの光路長と光路ロの光路長とを一致させることができる。
【0070】
本実施の形態では、全反射照明光学系として、レンズ308,309,310及びミラー311を備える光学系を使用したが、これに限定されるものではなく、公知の全反射照明を可能とする光学系を使用できる。
【0071】
本実施の形態では、蛍光試料を励起するために全反射照明を使用したが、これに限られることはなく、例えば、落射照明光学系を用いても良い。落射照明光学系を用いた場合、スライドガラス表面近傍ではなく試料301の内部が励起される。
【0072】
[磁場発生装置]
磁場発生装置は、図1に示すように、電磁石323,324、電磁石323,324に電流を与えるための電流発生装置325及び電流発生装置325を制御する電流制御装置326を備える。
【0073】
電磁石323,324を配置する箇所は特に制限されないが、例えば、試料301の上部に配置することが好ましい。電磁石323,324を試料301の上部に配置し、電磁石323,324に磁場を発生させることにより、試料301に対して光軸方向(ステージ302から光源304への方向)への引力を付与することができる。
【0074】
電磁石323,324と試料301との距離(高さ)、電磁石323と電磁石324との間の距離は、特に制限されず、付与する磁場及び引力の大きさ等に応じて適宜設定できる。また、電磁石323,324には、電磁石323及び電磁石324の双方の磁力が相反するように電流発生装置325から電流が与えられることが好ましい。
【0075】
[明視野像からの三次元位置の解析方法(「明視野三次元粒子追跡法」ともいう)]
次に、明視野像から測定対象である試料の三次元位置を算出する方法について説明する。図2(a)〜(e)に、蛍光顕微鏡により得られた直径1μmの磁性粒子の明視野像を示す。なお、各図において図の下に記載した数字は、磁性粒子の光軸方向の位置を示す。図2(a)〜(e)に示す明視野像は、図2(c)の磁性粒子の光軸方向の位置(0.0)を基準とした場合に、それぞれ、光軸方向に対して−1.0.−0.5、0.0、0.5及び1.0μm離れた位置で測定した磁性粒子の明視野像である。図2(a)〜(e)に示すように、磁性粒子の明視野像における最外輪帯あるいは最内輪帯の半径は、粒子の光軸方向の位置と相関を有している。このように、最外輪帯あるいは最内輪帯の半径と粒子の光軸方向の位置とが相関(比例)することは知られており、例えば、非特許文献8に記載されている蛍光像についても同様のことがいえる。
【0076】
このように、明視野像の最内輪帯の半径と粒子の光軸方向の位置とが比例していることに基き、反復近似法を用いて明視野像を下記数式(1)で近似することにより、試料の二次元座標(x座標及びy座標)及び円状パターン(最内輪帯)の半径(r)を得ることができる。
【0077】
【数6】

【0078】
上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは円状パターン(最内輪帯)の半径(μm)を示す。反復近似法としては、例えば、ガウス・ニュートン法、レーベン・マルカート法等が挙げられる。
【0079】
上記数式(1)は、下記の点を考慮することにより得られた近似式である。すなわち、理想的な点光源を用いた場合、単一のレンズ又は複数のレンズによって構成される光学系を通った光は、観察面上に回折パターンを発生させる。その回折パターンは、その中心にエアリーディスクと呼ばれる明るい領域と、その周りにエアリーパターンと呼ばれる複数の同心円環とにより構成される。このため、単一のレンズ又は複数のレンズから構成される光学系によって得られる二次元画像は、元の物体(粒子)の像にエアリーディスクとエアリーパターンとが畳み込みされて該光学系の後方に結像した画像である。つまり、透過光を用いて観察した粒子(直径:r(μm))の明視野像は、単一のレンズ又は複数のレンズから構成される光学系を通して、観察面上に、半径r(μm)の円の中にエアリーディスクとエアリーパターンとが畳み込みされて結像した像となる。また、粒子は実際には円ではなく球体であるため、光学焦点の上の光及び下の光の結像も考慮する必要があることからその点を考慮すると、光学焦点からx(μm)離れた位置の粒子(直径:rμm)の場合、観察面上において、半径√(r×r−x×x)(μm)の円の中にエアリーディスクとエアリーパターンとが畳み込みされて結像した像が形成されている。上記数式(√(r×r−x×x))からも明らかなように、エアリーディスク及びエアリーパターンは、光学焦点からの距離x(μm)に依存して変化することから、直径がr(μm)である粒子の明視野像は、近似的に、半径√(r×r−x×x)(μm)の円の中に光学焦点との距離xに依存したエアリーディスクとエアリーパターンとを畳み込みし、かつ、xについて「−焦点面位置」から「r」まで足し合わせた像が観察面上に形成されている。これらの点を考慮し、明視野像を表す式として得られた式が上記数式(1)である。なお、上記数式(1)は、粒子の明視野像を完全に表す式ではなく、ガウス・ニュートン法、レーベン・マルカート法などの反復近似計算法によって迅速な解の収束を可能にするために、簡素化された数式である。
【0080】
〈明視野像の数式(1)による近似計算例〉
直径1μmの粒子を用い、焦点位置を固定した状態で、粒子を光軸方向に100nmずつ移動させて明視野像の撮像を行い、反復近似法を用いて得られた明視野像を上記数式(1)によって近似してパラメータrを得た。その結果を図3に示す。図3は、粒子の光軸方向の位置(x軸)と、上記数式(1)より得られたパラメータr(y軸)との相関の一例を示すグラフである。図3に示すように、粒子の光軸方向の位置と上記数式(1)より得られたパラメータrとの間に線形関係があることが確認できた。このため、上記数式(1)を近似計算することによってパラメータrを取得することができれば、粒子の光軸方向の位置(z0)が一意に求めることができる。また、上記数式(1)におけるパラメータx0,y0は粒子の二次元座標である。これらのことから、粒子の明視野像を数式(1)を用いて近似することによって、粒子の三次元位置を取得することができる。
【0081】
また、本発明の明視野像からの三次元位置の解析方法(明視野三次元粒子追跡法)の精度は、CCDカメラの1画素で受光されるフォトン数に大きく依存する。画像取得装置として1画素で受光されるフォトン数が10000になるように照射強度を設定した場合、三次元位置の精度は、水平方向(x及びy方向)で1nmであり、光軸方向(z方向)で4nmであった。
【0082】
[試料に掛かる力の解析方法]
次に、明視野像から測定対象である試料に掛かる力を算出する方法について説明する。試料(粒子)に掛かる力は、試料(粒子)の三次元位置の時間変化を取得することによって得ることができる。その概念図を図4に示す。なお、図4は、簡略化のために水平面を一次元としている。そして、図4に示す式から、粒子に掛かる力(Fm)は下記数式(2)で表される。
【0083】
【数7】

上記数式(2)において、xは水平面における位置、<x2>は位置xの時間変化の分散、Rは粒子の中心からガラス表面との結合位置までの距離(nm)、kBはボルツマン定数、Tは温度(K)である。
【0084】
上記数式(2)における<x2>は位置xの時間変化の分散であり、位置xは、上記明視野三次元粒子追跡法によって得られたx0及びy0から算出することができる。Rは、明視野三次元粒子追跡法によって得られた三次元位置の時間変化から算出することができる。すなわち、粒子は、サンプル内でブランウン運動をしているが、本実施の形態では試料として蛋白質を介してガラス面に固定された磁性粒子を使用しているため、粒子はある半径(R)を持った球面上を運動することになる。このため、例えば、後述する図7のように測定時間内の粒子の三次元位置をプロットすると半径Rの球面が現れ、そして、この球面の半径(R)は、上記時間における粒子の三次元位置を球面(R2=x02+y02+z2)ですることで得られる。
【0085】
〈本実施の形態の装置を用いた解析例〉
図1に示す光学装置及び磁場発生装置を用い、明視野像及び蛍光スペクトルの測定、得られた明視野像及び蛍光スペクトルからの解析を行った。
【0086】
光学装置において、光源304としてハロゲン白色光源、光学フィルター305として波長700nm以上の波長を透過するハイパスフィルター、光源312として波長488nmのレーザー、光源フィルター313として波長488nmを通過するノッチフィルター、ダイクロイックミラー306として波長500nm以下を反射しかつそれ以外の波長を透過するダイクロイックミラー、ダイクロイックミラー316として波長650nm以下を反射しかつそれ以外の波長を透過するダイクロイックミラー、画像取得装置314としてCCDカメラを使用した。
【0087】
磁場発生装置において、電磁石323,324は、試料301の上部であって、試料301から10mm高さの位置に配置し、また、電磁石323と電磁石324との間の距離は5mmとした。また、試料301における静磁場は最大200ガウスであり、かつ、電磁石323,324の温度が30℃以下となるようにした。
【0088】
試料301として、緑色蛍光蛋白質のC末端を磁性粒子(直径:1μm)に、該緑色蛍光蛋白質のN末端をスライドガラス表面にそれぞれ架橋したものを準備した。つまり、該試料は、磁性粒子とスライドガラス表面とが緑色蛍光蛋白質を介して繋がれている。また、緑色蛍光蛋白質は、波長488nmの光により励起され、波長500〜650nmの蛍光を発する。図1に示す装置のステージ302に該試料を配置し、磁性発生装置によって磁場を発生させることにより、該磁性粒子に対して光軸方向(ステージ302から光源304への方向)への引力が働くため、緑色蛍光蛋白質にステージ302から光源304に向かう張力が付与される。
【0089】
図5に、上記装置を用いて得られた像の一例を示す。図5Aが磁性粒子の明視野像であり、図5Bが分光された蛍光像である。図5Bにおいて、各線状の像が各蛍光スペクトルを示し、横方向が緑色蛍光蛋白質(磁性粒子)の位置を示す。全反射照明光学系を用いて励起光を照射しているため、図5Bに示すように、磁性粒子表面に架橋されている緑色蛍光蛋白質のうちガラス表面近傍に位置する蛍光蛋白質のみが励起されている。また、図5Bに示すように、蛍光像はペラン・ブロカプリズム320によって分光されているため、線状の画像となって画像取得装置314に取得されている。
【0090】
図6に、図5Bの蛍光像から得られた強度分布に基き得られた三次元プロファイルを示す。このように、全反射照明光学系を用いることによって、蛍光蛋白質1分子の蛍光スペクトルを取得することができる。
【0091】
図5Aに示す明視野像は、複数の磁性粒子の像を含む。上記明視野三次元粒子追跡法を用いることにより、複数の磁性粒子の像からそれぞれの磁性粒子の三次元位置を取得することができる。
【0092】
磁性粒子に付与する磁力を変化させながら明視野像及び蛍光スペクトルの測定を行い、得られた明視野像から上記明視野三次元粒子追跡法により得られた三次元位置を算出した。その結果を図7に示す。
【0093】
図7は、15秒間追跡した磁性粒子の三次元位置を三次元的にプロットした図の一例である。図7に示すように、磁性粒子が球面上をブラウン運動している様子が確認できる。また、上記明視野三次元粒子追跡法により得られた三次元位置をプロットした図7から磁性粒子がブラウン運動する球面の半径(R)を計算すると516nmであった。
【0094】
一方、磁性粒子表面には緑色蛍光蛋白質が架橋されており、該緑色蛍光蛋白質はガラス表面に架橋されている。このため、磁性粒子がブラウン運動する球面の半径(R)は、使用した磁性粒子の半径、緑色蛍光蛋白質の大きさ及び架橋に係る長さとを足し合わせることにより見積もることもできる。磁性粒子の直径は1μmであり、緑色蛍光蛋白質の大きさが約4nmであり、緑色蛍光蛋白質とガラス表面との架橋に用いたペプチドの大きさが約10nmであることから、これらから得られる上記半径(R)は514nmであり、図7から得られた値は妥当な数字であるといえる。
【0095】
次に、磁性粒子の直径が1μmであるとして計算した場合に、磁性粒子に掛かる力が0.0、2.0、7.5、50.0、90.0ピコニュートン(pN)になるように電磁石323,324に与える電流を変化させながら、明視野像及び蛍光スペクトルの測定を行った。得られた明視野像から上記明視野三次元粒子追跡法により得られた三次元位置を算出した。その結果を図8及び9に示す。
【0096】
図8は、光軸方向の位置を追跡した結果及び該磁性粒子に掛かる力の変化を示すグラフであって、図8Aは、明視野三次元粒子追跡法によって得られた磁性粒子の光軸方向の時間変化を示すグラフであり、図8Bは、電磁石323,324に付与した電流から算出した磁性粒子に掛かる力の時間変化を示すグラフである。
【0097】
図8Aに示すように、磁性粒子に掛かる力の増加に伴い、該磁性粒子のブラウン運動が小さくなっている様子が確認できた。
【0098】
図8Aに示す光軸方向(z方向)の位置を上記磁性粒子がブラウン運動する球面の半径(R)として、上記数式(2)を用いて磁性粒子に掛かる力を算出したところ、それぞれ、0.0、2.2、7.5、52.5、94.3ピコニュートンとなった。この値は、磁性粒子の直径を1μmと仮定して見積もった値よりも若干大きくなった。これは、磁性粒子の直径を1μmと仮定したが、実際は、磁性粒子を作成する過程で、磁性粒子の直径を厳密に一致させることは困難であることから、磁性粒子の直径にバラツキが生じうること、上記実験に用いた磁性粒子の直径が1μmよりも若干大きかったため上記誤差が生じたものと予測される。または、本実施形態で使用した無限遠系対物レンズ303が、完全な非磁性体ではないため、電磁石323,324によって作り出される静磁場が乱れた可能性も考えられる。その他にも磁性粒子に掛かる力を正確に計算で算出することは困難である。このため、本実施の形態のように上記明視野三次元粒子追跡法により得られた実測値を使用すれば、磁性微粒子に掛かる力を正確にえることができるといえる。
【0099】
図9は、磁性粒子に様々な磁力を与えたときの磁性粒子とガラスとを架橋している緑色蛍光蛋白質の蛍光スペクトルである。図9の各グラフ中の数字は緑色蛍光蛋白質に掛かる力(外力)である。本実施の形態の装置によれば、例えば、磁性微粒子の明視野像と各磁性粒子の周辺の蛍光スペクトルとが一対一に対応して取得することができる。このため、任意の時間における磁性粒子の三次元位置、すなわち磁性粒子に掛かる力と磁性粒子周辺の蛍光スペクトルの双方を同時に取得することができることから、例えば、緑色蛍光蛋白質に替えて、外力によって蛍光スペクトルが変化する色素等を用いることによって、与えた外力に対する蛍光スペクトルの変化を取得することができる。
【0100】
〔第2の実施の形態〕
[蛍光分光画像取得装置]
本発明は、さらに、その他の態様として、無限遠系対物レンズ及び結像レンズ、又は、有限遠系対物レンズを備える蛍光分光画像取得装置であって、結像側の光路を二つに分けるハーフミラー又はハーフミラーキューブと、分けられた二つの光路を一つにまとめるためのミラーと、像を取得するための画像取得装置とを備える。本発明の蛍光分光画像取得装置によれば、例えば、観察試料内に存在する蛍光粒子の蛍光スペクトルを単粒子単位で一度に取得することができる。
【0101】
本実施の形態における蛍光分光画像取得装置の一例を図10に示す。なお、本実施の形態の蛍光分光画像取得装置は、例えば、図1に示す光学装置の一部を改変することにより作製できる。
【0102】
図10に示すように、蛍光分光画像取得装置は、試料を載置するステージ1001、無限遠系対物レンズ1002、ダイクロイックミラー1003、試料内の蛍光粒子を励起する光源1009、無限遠系対物レンズ1002からの光を結像させるための結像レンズ1004、視野絞り1012、ハーフミラーキューブ1013及び画像取得装置1011を備える。蛍光分光画像取得装置は、光源1009からの励起光を試料に照射するための光源フィルター1010、レンズ1007、ミラー1008、レンズ1006,1005を備え、また、ハーフミラーキューブ1013で反射された蛍光像を画像取得装置1011にリレーするためのリレーレンズ1015、ミラー1018及びリレーレンズ1016を備え、ハーフミラーキューブ1013を透過した蛍光像を画像取得装置1011にリレーするためのリレーレンズ1014、分光するためのペラン・ブロカプリズム1017及び三角プリズム1019を備える。
【0103】
ハーフミラーキューブ1013は、蛍光像の一部を反射し、その残りの蛍光像を透過するためのものである。ハーフミラーキューブ1013としては、例えば、透過率が反射率よりも大きい方が好ましく、反射・透過率が1.1よりも1.2、1.3又はそれ以上がより好ましい。本実施の形態では、ハーフミラーキューブ1013として、反射・透過率が1.9であるハーフミラーキューブを用いた。
【0104】
三角プリズム1019は、ミラー1018からの光路を画像取得装置314に伝達するためのである。本実施の形態では三角プリズムを用いたが、これに限られるものではなく、三角プリズムに替えて、例えば、ミラーを用いても良い。また、三角プリズム322は、ペラン・ブロカプリズム320からの蛍光像の光路を妨げないように配置されている。
【0105】
ペラン・ブロカプリズム1017は、蛍光像を分光するためのものである。本実施の形態では、蛍光像を分光するためにペラン・ブロカプリズム1017を用いたが、これに限られるものではなく、三角プリズムでも良いし、回折格子を用いても良い。
【0106】
本実施の形態の蛍光分光画像取得装置を用いた蛍光スペクトルの取得は、下記のようにして行われる。
【0107】
光源1009により照射された光によって試料から発せられる蛍光像は、無縁遠系対物レンズ1002と結像レンズ1004とによって視野絞り1012上に結像する。ハーフミラーキューブ1013は、光の一部のみを反射し残りの光は透過することから、該蛍光像の光の一部はハーフミラーキューブ1013によって反射され、レンズ1015,1016及びミラー1018を介して画像取得装置1011に伝達される。ハーフミラーキューブ1013を透過した蛍光像は、リレーレンズ1014を介してペラン・ブロカプリズム1017で分光され、分光された光(蛍光像)は三角プリズム1019及びリレーレンズ1016を介して画像取得装置1011に伝達される。
【0108】
このように、画像取得装置1011には、二種類の蛍光像が伝達される。本実施の形態の画像取得装置1011は、上部に通常の蛍光像、下部の蛍光分光像が配された画像を取得することができる。このため、本実施の形態の蛍光分光画像取得装置によれば、上部の蛍光像を参照像とすることによって、例えば、下部の蛍光分光像から該蛍光像に含まれる各蛍光粒子の蛍光スペクトルを取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、分子イメージング分野、分子ナノメトリー分野及び蛋白質の構造解析分野等の様々な分野において有用であり、具体的には生細胞内における蛋白質が発する力の計測、蛋白質等の生体高分子の単分子レベルでの相互作用解析や構造解析等で有用である。
【符号の説明】
【0110】
301 試料
302 顕微鏡ステージ
303 無限遠系対物レンズ
304 光源
305 光学フィルター
306 ダイクロイックミラー
307 結像レンズ
308,309,310 レンズ
311 ミラー
312 光源
313 光学フィルター
314 画像取得装置
315 視野絞り
316 ダイクロイックミラー
317,318,319 リレーレンズ
320 ペラン・ブロカプリズム
321 ミラー
322 三角プリズム
323,324 電磁石
325 電流発生装置
326 電流制御装置
1001 顕微鏡ステージ
1002 無限遠系対物レンズ
1004 ミラー
1004 結像レンズ
1005,1006,1007 レンズ
1008 ミラー
1009 光源
1010 光学フィルター
1011 画像取得装置
1012 視野絞り
1013 ハーフミラーキューブ
1014,1015,1016 リレーレンズ
1017 ペラン・ブロカプリズム
1018 ミラー
1019 三角プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と該試料の蛍光スペクトルとの計測を行うための顕微鏡システムであって、
試料の明視野像を得るための光源と、
試料の蛍光像を得るための光源と、
結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、
明視野像及び蛍光像を取得する画像取得部と、
磁場を発生させることにより試料に張力を与える磁場発生部と、
画像取得部にて得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する解析部とを備える、顕微鏡システム。
【請求項2】
前記解析部は、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含む、請求項1記載の顕微鏡システム。
【数1】

上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは明視野像の最内輪帯の半径(μm)を示す。
【請求項3】
前記解析部は、得られたx0、y0及びrを用いて試料に掛かる力を算出することを含む、請求項2記載の顕微鏡システム。
【請求項4】
光学顕微鏡を用いて、試料の三次元位置と試料の蛍光スペクトルの計測を行うための試料計測方法であって、
試料周辺に磁場を発生させる磁場発生工程と、
光学顕微鏡を用いて試料の明視野像及び蛍光像を取得する画像取得工程と、
コンピュータが、得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する三次元位置算出工程とを含む、試料計測方法。
【請求項5】
前記三次元位置算出工程において、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含む、請求項4記載の試料計測方法。
【数2】

上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは明視野像の最内輪帯の半径(μm)を示す。
【請求項6】
さらに、得られたx0、y0及びrを用いて試料に掛かる力を算出する張力算出工程を含む、請求項5記載の試料計測方法。
【請求項7】
さらに、得られた蛍光像から蛍光スペクトルを生成する蛍光スペクトル生成工程を含む、請求項4から6のいずれかに記載の試料計測方法。
【請求項8】
試料の三次元位置の解析を行う三次元位置解析装置であって、
光学顕微鏡により測定された明視野像又はそのデータを取得するデータ取得部と、
得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する三次元位置算出部とを備える、三次元位置解析装置。
【請求項9】
前記三次元位置算出部は、反復近似法を用いて前記明視野像を下記数式(1)で近似することによってx0、y0及びrを算出することを含む、請求項8記載の三次元位置解析装置。
【数3】

上記数式(1)において、(x0、y0)は光軸に直交したxy軸からなる平面座標系における試料の二次元座標であり、rは明視野像の最内輪帯の半径(μm)を示す。
【請求項10】
試料の三次元位置を解析するための方法であって、
光学顕微鏡により測定された明視野像又はそのデータを取得するデータ取得工程と、
コンピュータが、得られた明視野像から試料の三次元位置を算出する算出工程とを含む、三次元位置解析方法。
【請求項11】
試料の三次元位置を解析するためのプログラムであって、
光学顕微鏡により測定された試料の明視野像のデータを受け付ける入力処理と、
入力された明視野像のデータから試料の三次元位置を算出する算出処理とをコンピュータに実行させる、三次元位置解析プログラム。
【請求項12】
光学顕微鏡に装着して使用する光学装置であって、
試料の明視野像を得るための光源と、
試料の蛍光像を得るための光源と、
結像側の光路を明視野像の光路と蛍光像の光路とに分けるためのダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーで分けられた蛍光像を分光するための光学素子と、
前記ダイクロイックミラーによって光路が分けられた前記明視野像と前記分光後の蛍光像とを取得する画像取得部とを備え、
請求項4から7のいずれかに記載の試料計測方法に用いる、光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−191199(P2011−191199A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58121(P2010−58121)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本生物物理学会 「生物物理 vol.49 第47回年会講演予稿集」 平成21年(2009年)9月20日独立行政法人 科学技術振興機構 「生命現象解明のための計測分析 さきがけ・CREST研究報告会 講演要旨集」 平成22年(2010年)1月12日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】