説明

骨の形成と再構築のための組成物および方法

Wnt共役受容体LRP5の高骨量(HBM)変異(G171V)が標準的Wntシグナル伝達を調節する機序について研究調査した。この変異は、Dkkタンパク質−1による拮抗作用を低減させることがすでに分かっており、G171が局在する第1のYWTD繰り返しドメインがDkkタンパク質による拮抗作用を担っているのではないかと考えられる。しかしながら、本発明者らは、DKK1による拮抗作用には、第1の繰り返しドメインではなく第3のYWTD反復配列が必要であることを見いだした。そうではなく、本発明者らは、G171V変異が細胞表面でLRP5とMesdすなわちLRP5/6分子のシャペロンタンパク質との相互作用を乱すことを見いだした。細胞表面LRP5分子のレベルが低下すると傍分泌の枠組みでのWntシグナル伝達も低減されるが、変異は、自己分泌の枠組みで同時発現されたWntの活性に影響するようには見えなかった。骨芽細胞が自己分泌的に標準的WntであるWnt7bを生成し、骨細胞が傍分泌Dkk1を生成するという観察結果とあわせて、本発明者らは、G171V変異が、傍分泌Dkk1の標的数を減らして自己分泌Wntの活性に影響することなく拮抗させることで、骨芽細胞でWnt活性の増加を引き起こすのではないかと考えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願への参照
本願は、発明の名称「Compositions and Methods for Stimulation of Bone Formation(骨形成を刺激するための組成物および方法)」で2003年9月22日に出願された米国仮特許出願第60/504,860号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本願は、発明の名称「Compositions and Methods for the Stimulation or Enhancement of Bone Formation and the Self−Renewal of Cells(骨形成および細胞の自己複製を刺激または促進するための組成物および方法)」で2004年5月19日に出願されたダン・ウ(Dan Wu)らによる特許出願に関連したものであり、その内容全体を本願明細書に援用する。
【0003】
発明の分野
本発明は、骨折、骨疾患、骨損傷、骨異常、腫瘍、増殖またはウイルス感染の治療の際の治療方法、組成物およびその用途の分野に関する。特に、本発明の方法および組成物は、骨形成または骨再構築の刺激、促進、阻害を対象とするものである。
【0004】
本願に引用または本願で確認した特許、特許出願、特許出願公開公報、化学論文などについてはいずれも、本発明が属する技術分野の状況を一層よく説明する目的で、その全体を本願明細書に援用する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
公衆衛生上の大きな問題のひとつに骨粗鬆症があり、特に高齢者のあいだでは普通に見られる(1,15,21)。65歳よりも高齢の人々の骨折の大多数は骨粗鬆症(15,40)が原因である。骨粗鬆症による骨折の危険性を明確にする際の判断要素のひとつがピーク骨量(ヒーニー(Heaney)ら、2000)であるが、このピーク骨量の変動には遺伝因子が大きくかかわっていることが研究から分かっている。最近になって、骨量を調節する遺伝子のうちの1種がポジショナルクローニングで同定された。低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質5(LRP5)の機能喪失型変異すなわち、標準的Wntシグナル伝達経路の共役受容体(27)が、ヒトでの骨密度の減少を主徴とする常染色体劣性疾患である骨粗鬆症−偽性神経膠腫症候群(OPPG)に関連していることが明らかになった(9)。また、家族性高骨量(HBM)の表現型を示す2つの独立した家系(kindred)には、LRP5にGly171からValへの置換変異(G171V)があることも明らかになった(5,22)。ごく最近では、G171V変異の同じ構造ドメインで別のHBM変異が報告された(36)。さらに、標的遺伝子組み換えによってLRP5遺伝子を不活化したマウスには、OPPG患者のものと同様の表現型が認められ(16)、マウスでLRP5G171Vをトランスジェニック発現させるとHBMが得られた(2)。さらに、マウス初代骨芽細胞ではLRP5の不在下でWntに対する応答性が低下(16)し、Wnt(9)または活性化β−カテニン(4)によって標準的Wntシグナル伝達活性が刺激されて、骨芽細胞様細胞で骨芽細胞マーカーであるアルカリホスファターゼ(AP)の産生が誘導された。まとめると、これらの証拠から、標準的Wntシグナル伝達経路が骨の発達の調節に重要な役割を果たしていることが分かる。
【0006】
最近まで、標準的Wntシグナル伝達経路はWntがfrizzled Fzタンパク質に結合すると開始されると考えられていた。7つの膜貫通ドメインを含有するFzタンパク質が、Dishevelledタンパク質が関与するはっきりしない機序でβ−カテニンのグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)依存性リン酸化を抑制する。この抑制によってβ−カテニンが安定する。こうして安定すると、β−カテニンはリンパ系増強因子−1(LEF−1)やT細胞因子(TCF)をはじめとする転写調節因子と相互作用して、遺伝子転写を活性化することができる(7,10,38)。最近、遺伝学的な研究や生化学的な研究によって、標準的Wntシグナル伝達にはFzタンパク質だけでなく共役受容体が必要だということを示す確かな証拠が得られている(27,28)。また、LRP5/6(LRP5またはLRP6)のハエオーソログArrowが、Wnt−1のハエオーソログであるWgのシグナル伝達に必要であることが明らかになった(37)。LRP5とLRP6は、発現パターンこそ異なるが基本的には同じように機能する、よく似たホモログである。一方、LRP6は、ツメガエル胚でWnt1に結合し、Wnt誘導発生過程を調節することが明らかになった(34)。また、LRP6欠損マウスには、さまざまなWntタンパク質が欠乏したときに生じる発育障害に類似した発育障害が認められた(30)。さらに、LRP5、LRP6、Arrowが、アキシンを結合してアキシンの分解とβ−カテニンの安定化を引き起こすことで、標準的Wntシグナルの形質導入に関与していることも明らかになった(25,35)。LRP5/6−によるシグナル伝達過程がDishevelledタンパク質に依存しているようには見えない(18,31)。最近になって、シャペロンタンパク質であるMesdが、細胞表面へのLRP5/6輸送に必要なものとして同定された(6,11)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ツメガエルのDickkopf(Dkk)−1は、最初は頭部形成に重要な役割を果たすWntアンタゴニストとして発見された(8)。これまでのところ、Dkkは哺乳動物で4種類のメンバーが同定されている(17,26)。これらのメンバーは、Dkk1、Dkk2、Dkk3、Dkk4である。Dkk1とDkk2は、LRP5またはLRP6と単一膜貫通タンパク質Kremenに同時に結合して標準的Wntシグナル伝達を阻害する(3,23,24,32)。以前、LRP5 HBM G171V変異が標準的Wntシグナル伝達に対するDkk1による拮抗作用を減弱させるように見えることが報告されている(5)。本発明は、この減弱の機序について説明するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、骨形成または骨再構築に関与する受容体または共役受容体のドメインのキャビティと、同様に機能するDkk、Wnt、Mesdまたは他のタンパク質との機能的相互作用を明らかにするモデルについて説明するものである。これらの受容体としては、LRP5受容体、LRP6受容体、frizzled受容体があげられるが、これに限定されるものではない。LRP5受容体は、4つのYWTD繰り返しドメインで構成される。各ドメインには、複数のアミノ酸YWTD反復配列が含まれる。また、LRP5受容体にはLDL受容体反復配列もある。LRP5とLRP6はいずれもよく似たホモログであり、基本的に同じように機能するが、発現パターンは異なっている。
【0009】
本発明は、これらのキャビティに結合またはこれと相互作用してWntシグナル伝達を刺激、阻害または調節し、ひいては骨形成、腫瘍形成ならびにWntシグナル伝達によって調節される他のあらゆる生物学的過程および病理学的過程を刺激、阻害または調節する外来化合物または外因性化合物を同定するための方法を提供するものである。外来化合物とは、外部ソースから導入されるものではない天然化合物との対比で、細胞または生物に自然にはあるいは通常は見られない化合物を含む。化合物については、さまざまなスクリーニング法とアッセイを用いて米国国立癌研究所(National Cancer Institute(NCI))のデータベースから同定した。これらの化合物を修飾して、同じように効果的に機能する、NCIのデータベースや自然界には見られない派生物(derivate)またはアナログを作出することも可能であった。DkkとLRP5/6との相互作用、WntとLRP5/6との相互作用、MesdとLRP5/6との相互作用を乱す化合物を同定した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
すでに報告されているように(5)、C末端にHBM G171V変異とHA−エピトープタグとを含有するLRP5変異体タンパク質(LRP5G171V)を発現させ(図3A)ても、野生型(Wt)LRP5(LRP5Wt)(図3A)に比してLEF−1依存性転写活性は増加しなかった。また、G171V変異は、自己分泌の枠組みで同時発現されたWnt1によって刺激される活性をさらに増強するには至らなかった(図3B)。LEF−1は、標準的Wntシグナル伝達経路の下流側標的転写因子である。ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイで測定されるその活性が、標準的Wnt活性を測るのに広く用いられている(12,20)。このように、LRP5G171Vは、Wntシグナル伝達の形質導入にあたって構成的に活性でもなければ一層コンピテントであるわけでもない。驚いたことに、LRP6での対応する変異であるG−158残基からVal残基への置換によって、おそらくは受容体が不活化されて、これがWnt−1と相乗作用することはできなくなった(図3A)。
【0011】
LRP5G171Vは、Kremenの非存在下でLRP5WtよりもDkk1による阻害に対する感受性が低いことが明らかになった(5)。Dkk1誘導阻害を容易にすることが知られているDkk結合単一膜貫通タンパク質である(23)。この研究では、本発明者らはKremenの存在下で、この変異による影響を試験した。Kremen1の同時発現によってDkkによる阻害が有意に増強され(図3B)、すでに報告がなされているKremenの作用(23)が確認された。すなわち、Kremenの非存在下で観察されたものと同様に、Kremen1およびDkk1の両方の存在下で、WntはLRP5Wtを発現しているものよりも、LRP5G171Vを発現しているHEK細胞の方で高い活性を示した(図3B)。この違いがマルチプラスミドトランスフェクションの結果ではないことを裏付けるために、Dkk1、Kremin1およびLRP5のタンパク質発現(図3C)について検討した。NIH3T3細胞と2種類の骨芽細胞様細胞株MC3T3および2T3で自己分泌型Wnt1活性のDkkによる阻害に対する耐性が上昇するという同様の結果が観察された。
【0012】
なぜLRP5 G171Vの方がDkk1による阻害に対する感受性が低いのかを説明する有力な仮説に、LRP5とDkk1との間の相互作用が変異によって乱れる可能性があるというものがある。Dkk1による拮抗作用にはG171を含有する第1のYWTD繰り返しドメインが必要であるという仮説には筋が通っている。この仮説を試験するために、第3および第4のYWTD繰り返しドメインが欠失したLRP5R12と、第1および第2のYWTD繰り返しドメインが欠失したLRP5R34という2つのLRP5欠失変異体を生成した(図1)。LRP6(24)に対してすでに報告がなされているように、欠失があってもLRP5R12はWnt刺激LEF−1活性を増強できたが、LRP5R34ではそうはいかなかった(図6A)ことから、LRP5R12はWnt共役受容体の機能を保持しているのではないかと考えられる。しかしながら、LRP5R12が存在すると、Kremenが同時発現されていてもDkk1はWntシグナル伝達を阻害することができなかった(図6A)。このことから、Dkk1による阻害には最後の2つのYWTD繰り返しドメインが必要なのかもしれないと考えられる。Dkk1による阻害に必要な配列をさらに明確にするために、第3のYWTD繰り返しドメインが欠失した別のLRP5変異体であるLRP5R124を生成した(図1)。LRP5R12と同様に、LRP5R124もDkk1による阻害に対する耐性があった(図6A)ことから、Dkk1による阻害には第3のYWTD繰り返しドメインが必要なであることが分かる。
【0013】
第3のYWTD繰り返しドメインが完全に欠失すると、LRP5のコンホメーション全体が変化する可能性があるため、Dkk1による阻害を乱すことが可能であろうこのドメインの点変異を作製した。LDL受容体の三次元構造(13)から推定した第3のYWTD繰り返しドメインの三次元構造に基づいて、第3のYWTD繰り返しドメインの表面にAla置換変異を含有する19のLRP5変異体を作製した(図7A)。これらの変異体LRP5タンパク質のDkk1による阻害に耐える機能を判断し、これを図3Aに示す。変異体のうちの9つ(5%超)にDkk1による阻害に対する感受性の変化が見られ、そのすべてに同一表面に局在する変異が含まれていた(図7A)。これらの変異のうち、E721変異に最も強い影響が認められ、津続いてW781、次はY719であった(図7B)。第1および第2のYWTD繰り返しドメインにおけるE721対応残基の変異(それぞれD111およびD418)では、Dkkによる阻害に対する感受性は有意に変化しなかった。Dkk1による阻害に対する耐性のある変異体はすべて、Dkk2による阻害に対しても耐性があった。このデータはすべて、Dkkによる阻害に第3のYWTD繰り返しドメインが必要であるという結論を裏付けるものとなっている。
【0014】
Dkkによる阻害に第3のYWTD繰り返しドメインが必要であることの明らかな理由のひとつに、このドメインがDkk1結合を担っているということがある。HEK細胞の表面で発現されるLRP5へのDkk1−AP融合タンパク質の直接的な結合を測定した(23)。図6Cに示されるように、Dkk1−APは飽和を示した。LRP5を発現しているHEK細胞に対する結合曲線。この結合は、LRP5/6の折りたたみと輸送を容易にすることが分かっているMesdすなわちLRP5/6シャペロン(6,11)が同時発現されるときにだけ測定できた。驚いたことに、LRP5E721は依然としてDkk1の有意な結合を示し、LRP5G171Vで見られるものよりも結合率が高かった(図6C)。LRP5E721は、LRP5G171Vに比してDkk1による阻害に対する耐性が極めて高い(図7B)が、LRP5G171VよりもDkk1に対する結合性がよかった(図6C)。第3のYWTD繰り返しドメインが実際にDkk1と結合できることを示すために、R34またはR34E(R34EはE721変異のあるR34である)を発現しているHEK細胞に対するDkk1−APの結合について検討した。R34にはDkk1−APの有意な結合が認められたが、R34Eではこのようにならなかった(図15A)ことから、R34はDkk1を結合でき、結合を生じるにはE721が必要であることが分かる。これについては、第3のYWTD繰り返しドメインだけがDkk1と結合する機能をLRP5E721に持たせることのできるLRP5上の唯一のDkk結合部位ではないという観察結果から説明できる。この説明を、R12もDkk1に結合可能であった(図15A)という観察結果を得ることで裏付けた。R12およびR34はいずれもDkk1と結合できるが、Dkk1に対するその親和性は全長LRP5の親和性(最大結合率の半分から推測)よりも少なくとも5分の1未満であるように思われる。R12またはR34を発現している細胞への最大結合率は、LRP5Wtの最大結合率に匹敵するか、おそらくはこれよりも高い(R12またはR34への結合は可能な限り最大の入力でも飽和に達したようには見えなかった)が、R12およびR34の発現レベルをウェスタン分析で推測すると(図15B)、LRP5Wtの場合のほぼ2倍であった。このことは、LRP5またはLRP6にはDkk1への結合部位が2ヶ所以上あるという結論の裏付けとなる。
【0015】
第1のYWTD繰り返しドメインの点変異であるG171Vは、Dkk1の見かけ上の結合を劇的に減らす(図6C)。LRP5G171VについてのDkk1結合曲線の特徴からみて、最大結合率が6分の1に落ちる(図6C)のにもかかわらず、G171V変異がDkk1への親和性を変化させているとは思えない。LRP5WtとLRP5G171はいずれも同じようなレベルで発現される(図6C)が、G171V変異の方が細胞表面でのLRP5受容体が少なかった。Mesdが細胞表面へのLRP5受容体の輸送に重要な役割を果たしていることは周知であるため、G171V変異を調べて、これがMesdの機能を妨害したのか否かを判断した。Mesdについては、LRP5またはLRP6と相互作用することがすでに分かっている(11)。この所見と一致して、LRP5およびMesdの共免疫沈降が(図2A)。R12とMesdとの相互作用も検出した(図2B)。これらの結果から、G171V変異がLRP5とMesdとの相互作用(図2A、レーン1および3)とR12とMesdとの相互作用(図2B、レーン1および2)の両方を乱すのに対し、E721変異はこの相互作用には影響しない(図2A、レーン2および3)ということが分かった。Mesdの機能(折りたたみとLRP5またはLRP6の輸送)にLRP5とMesdとの間の相互作用が重要であれば、G171V変異も膜貫通ドメインのないLRP5変異体の分泌を妨げるはずである。予想どおり、G171V変異は、それぞれ膜貫通ドメインと細胞内ドメインのないR12および全長LRP5であるR12T(図2C)およびRl−4(図2D)の分泌を阻害した。E721変異を持つRl−4は、その分泌を阻害しなかった。また、LRP5WtおよびLRP5G171Vを発現している生きた細胞を表面でビオチン標識し、LRP5タンパク質を免疫沈降した上でストレプトアビジン−HRPを用いてウェスタン分析で細胞表面でのLRP5タンパク質レベルを比較した。図2Eに示すように、ビオチン標識されたLRP5G171Vの量はLRP5Wtの量よりも明らかに少ないが、免疫複合体における2種類のLRP5分子のレベルは同じである。このことから、G171V変異がLRP5の細胞表面輸送を妨害していることが確認される。
【0016】
G171V変異は、LRP5ヌルまたは低形質の変異で見られるものとは逆の骨の表現型と関連しているため、高形質のアレルではないかと予測された(5,9,16,22)。細胞表面の受容体が少なくなればなるほどWntも低くなるはずだという仮定に基づくと、LRP5G171Vの細胞表面での提示が弱いことは、上記の予測内容と矛盾するであろう。しかしながら、傍分泌または内分泌の枠組みを模する外因的なWntを加えると、LRP5G171Vを発現している細胞はLRP5Wtを発現している細胞よりも少ない応答を示した(図16A)。これは、WntがLRP5分子と同時発現された場合には起こらなかった(図3A)。変異は自己分泌型のWnt活性に影響するようには思えず、Wntタンパク質は、受容体が実際に細胞表面まで輸送される前にその受容体に結合してシグナル伝達イベントを活性化させることができるのではないかと考えられる。これらの観察結果から、LRP5G171Vが骨芽細胞でその分化時にどのようにしてWnt活性を高めるのかが明らかになる。骨芽細胞がその分化時に自己分泌的に標準的Wntを生成し、骨でDkk1が傍分泌的に生成される場合に、変異はWnt活性よりもDkkによる拮抗作用の方に一層大きく影響する。骨髄間質細胞の骨芽細胞培養における19のマウスWnt遺伝子すべての発現を調べた。Wnt遺伝子のうちのひとつであるWnt7bで、分化誘導後にその発現に顕著な増加が認められた(図16A)。Wnt7bがLEF−1レポーター遺伝子と標準的Wnt経路を刺激する機能が示された(図16B)。また、骨細胞と最終分化した骨芽細胞でDkk1が高いレベルで発現され、骨芽細胞を分化させるための傍分泌因子として機能していた(図16C)。
【0017】
本発明は、HBM G171V変異がどのようにして標準的Wntシグナル伝達を促進するのかを説明するものである。G171V変異が高形質ではないかという仮定は、この変異に関連する表現型と、同時発現されたWnt活性のDkkによる阻害に対して変異体LRP5受容体が一層高い耐性を持つようだという過去の観察結果に基づくものであった(5)。最初の仮説は、変異がLRP5のDkk1結合領域に局在しているため、DkkとLRP5の直接的な相互作用が妨害されるのではないかというものであった。本発明は、G171V変異が局在する第1のドメインではなくLRP5受容体の第3のYWTD繰り返しドメインで、G171V変異がLRP5とDkk1との間の相互作用を直接妨害することはないことを示している。そうではなくて、G171V変異はLRP5とそのシャペロンMesdとの相互作用を妨害し、細胞表面へのLRP5の輸送を妨げるため、細胞表面に到達するLRP5分子の数が少なくなる。
【0018】
分化している骨芽細胞が自己分泌型Wntタンパク質を生成し、骨の傍分泌型Dkkタンパク質を利用できるかぎり、骨芽細胞が分化する際にG171V変異によってWnt活性が増加する可能性がある。これは、LRP5WtまたはLRP5G171Vを発現している骨芽細胞は同じように自己分泌的に標準的Wntに応答するが、傍分泌Dkkには変異体LRP5を発現している細胞に対する拮抗作用が少ないためである。このため、LRP5G171Vを発現している細胞でWntシグナル伝達活性が高まる。図16に示されるように、骨芽細胞が標準的WntであるWnt7bを発現し、骨細胞から生成されるDkk1を利用できるという、両方の状態が存在する。
【0019】
G171V変異があればそのWnt共役受容体の役割とは無関係な機序によって骨量が増えるかもしれないが、G171V変異がWnt活性を落として骨量を増やすことは非常に考えにくい。ヒトとマウスでの遺伝的な証拠や生化学的な証拠をはじめとして、入手可能な証拠からはいずれも、Wnt活性と骨形成との間に正の関係があることが分かる。ヒトとマウスのどちらでも、LRP5ヌルまたは低形質の変異によって、G171V変異のあるヒトまたはマウスで見られる表現型とは逆の骨の表現型が得られる(5,9,16,22)。また、標準的Wntタンパク質は骨芽細胞の増殖と分化の両方を刺激する(9,16)のに大使、Dkk1は骨髄間質細胞培養系で骨芽細胞の分化を阻害する。これらの所見に、骨芽細胞の分化後にWnt7bの発現が劇的に上方制御される(図16B)という所見をあわせて考えると、標準的Wntシグナル伝達活性が増大することで骨形成量が増すのではないかと思われる。他方、Dkk1は分化している骨芽細胞では低いレベルで生成され、最終分化した骨芽細胞である骨細胞ではこれよりも高いレベルで生成される。骨細胞によって生成されるDkk1は、骨芽細胞活性の調節における負のフィードバック機序として骨再構築機能の調節に関与していた。
【0020】
最初の2つのYWTD反復配列はDkk1と結合できる(図15A)が、これらの配列はWntシグナル伝達のDKKによる阻害には必要ない(図6A)。これは、図16Dに示されるように、最初の2つのYWTD反復配列に対するDkk1の結合、ドメインが、Dkk1とKremenの同時相互作用とは両立されないためである。Wntシグナル伝達のDKK1による阻害には、KremenおよびLRP5/6の両方に対してDkk1が同時に相互作用する必要がある(24)。LDL受容体YWTD繰り返しドメインの構造に基づいて、LRP5の最初の3つのYWTD繰り返しドメイン各々が、一端に広い開口、他端に狭い開口のある樽状構造を形成する(第4の繰り返しドメインには構造的に推定できるだけの十分なアミノ酸配列相同性がない)。この構造情報から、Dkk1結合のために重要な第3のYWTD繰り返しドメイン上のアミノ酸残基を同定することができた。これらの結果から、Dkk1は樽状構造の広い方の開口を介して第3のYWTD繰り返しドメインと相互作用することが分かった。最初の2つのYWTD繰り返しドメインでの同時ではあるが別個ではないE721の変異相当の残基(それぞれD111およびD481)がR12に対するDkk1−APの結合を無効にするため、Dkk1はこれら2つの繰り返しドメインと同じような形で相互作用する。このLRP5のE721残基はDkk1の塩基性残基との間で塩橋を形成し得る。この推論は、結晶学を用いたニドジェンとラミニンとの相互作用についての最近の研究によって裏付けられる。ニドジェンのラミニン相互作用ドメインは、LRP5のYWTD繰り返しドメインとアミノ酸配列相同性で同じ樽状構造を持ち、このニドジェンドメインの接触残基のうちのひとつがラミニンのLys残基との間で塩橋を形成するE721相当のGluである(33)。
【0021】
本発明では、細胞に提供されると、骨形成または骨再構築の刺激、促進、阻害または調節に関与する共役受容体のドメインに見られる部位またはキャビティに結合し、これと相互作用し、あるいはこれに適合する化合物を同定した。これらの受容体としては、LRP5受容体、LRP6受容体、frizzled受容体あるいは、LRP5またはLRP6(LRP5/6)受容体系に関与する他のあらゆる受容体があげられる。frizzled受容体は、Wnt活性を増大または低減させるよう機能するドメイン含有CRDすなわちWnt結合部位を持つ共役受容体である。
【0022】
化合物については、実施例にて説明するスクリーニング法で同定した。これらの化合物のうちのいくつかは、DkkとLRP5の相互作用を乱すことが明らかになった。他の化合物は、おそらくはLRP5/6に対するWntの結合を阻害することでWntシグナル伝達を阻害した。本発明の化合物は、細胞には存在しないが、外部ソースに由来する外来化合物または外因性化合物である。これらの化合物は、アゴニストすなわち受容体と組み合わさってイベントを開始できる作用物質と、アンタゴニストすなわち受容体と組み合わさってアゴニスト(agaonists)の作用を阻害する作用物質と、あるときはアクションを引き起こすように見え、別の時にはアゴニストの作用を弱めることでアクションを阻害するなど、アゴニストとアンタゴニストの両方の特徴を持つ部分アゴニストと、を含む。これらの化合物のなかには、親和性または製剤や化合物が受容体の結合部位に誘引される度合いを高めることが明らかになっているもある。
【0023】
骨密度を高くするLRP5Gl7lV変異はMesd−LRP5相互作用を弱め、細胞表面に存在するLRP5受容体が少なくなる。同じようにMesd−LRP5相互作用を乱し、骨形成または骨再構築によって骨密度を増す化合物が見いだされた。
【0024】
Wnt活性(が高い状態は、多くの癌と関連してきた。LRP5受容体の第2のドメインへのWntの結合を乱すことで、このWnt活性を落とし、Wnt活性を阻害するとともに、Wnt活性の増大を特徴とする腫瘍および増殖を治療する化合物が見いだされた。
【0025】
Wntシグナル伝達は骨形成の正の調節因子であることが分かっている。Wnt活性を高めて骨形成、骨形成または骨再構築を助長することができる化合物も同定された。
【0026】
Dkkは、LRP5受容体の第3のドメインに結合またはこれと相互作用すると、Wntアンタゴニストとして働く。Dkk−LRP5相互作用を阻害して骨の形成または再構築を助長する化合物が同定された。ひとつの化合物であるNCI366218の骨芽細胞分化を組織培養モデルで試験した。GFPを骨芽細胞のマーカーとして利用できる、2.3KbのCollAlプロモーター(2.3Col−GFP)で制御される緑色蛍光タンパク質(GFP)トランスジーンを持つ3ヶ月齢のマウスから骨髄間質(BMS)細胞を単離した。8日目と12日目に、培養をNCI366218化合物で処理した。同じ日に、培養を対照としてのDMSOでも処理した。細胞をNCI366218で処理した後、DMSOで処理した場合よりも多くの細胞がGFP陽性になった。これらの結果から、NCI366218化合物が骨芽細胞の分化を刺激することが分かる。WntのDkkによる阻害を減弱する化合物(NCI366218およびNCI8642など)には、骨粗鬆症および他の骨疾患を治療する潜在的な治療用途がある。
【0027】
WntおよびDkkは、間葉系幹細胞の増殖と分化を調節することが分かっている。骨形成を調節し、造血(hemaetopoietic)幹細胞を発達・分化させるためのメセンチル(mesenchyl)幹細胞調節因子として機能する化合物が同定されている。
【0028】
Wntは造血(hematopoietic)幹細胞の増殖と分化を調節することが分かっている。骨形成を調節し、in vivoおよびin vitroにて幹細胞を増殖・増大させるための造血(hemaetopoietic)幹細胞調節因子として機能する化合物が同定されている。
【0029】
材料および方法
細胞培養、トランスフェクション、CMの調製、ルシフェラーゼアッセイ。
ヒト胚腎臓細胞(HEK)株A293Tとマウス線維芽細胞株NIH3T3を維持し、上述したようにトランスフェクトした(1)。10%FCS含有α−MEM中で前骨芽細胞株2T3およびMC3T3を培養した。ルシフェラーゼアッセイのために、24ウェルのプレートの細胞を5×10個/ウェルで播種し、リポフェクタミンプラス(インヴィトロジェン、カリフォルニア州)を製造業者が提案しているように用いて、1ウェルあたり0.5μgのDNAをトランスフェクトした。通常、LacZプラスミドを用いて、各トランスフェクションごとのDNA濃度を等しくした。トランスフェクションの24時間後に細胞抽出物を回収した。上述したようにしてルシフェラーゼアッセイを実施した(1、2)。GFPの蛍光強度に対してルミネセンス強度を正規化した。Dkk1−AP含有CMを調製するために、6ウェルのプレートに細胞4×10個/ウェルでHEK細胞を播種し、1ウェルあたり1μgのDNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後にCMを回収した。
【0030】
発現プラスミドの構成と変異誘発
高フィデリティの熱安定性DNAポリメラーゼPfuウルトラ(ストラタジーン(Stratagene)、カリフォルニア州)を用いるPCRによって、ヒトLRP5、LRP6、マウスWnt1、Dkk1、Dkk2の野生型と変異体型を生成した。HAエピトープタグまたはFlagエピトープタグを全長分子と変異体分子のC末端に導入した。これらの分子の発現をCMVプロモーターによって駆動した。外部のソースからLEF−1レポーター遺伝子コンストラクトを得た(3)。
【0031】
Dkk1−AP結合アッセイおよび免疫沈降アッセイ。
24ウェルのプレートに入れたHEK細胞にLRP5とその変異体をトランスフェクトした。1日後、細胞を冷たい洗浄緩衝液(BSAおよびNaNを含有するHBBS)で洗浄し、マウスDkk1−AP条件培地を用いて氷上で2時間インキュベートした。続いて、細胞を洗浄緩衝液で3回洗浄し、溶解させた。ライセートを65℃で10分間加熱し、トロピックス(Tropix)ルミネセンスAPアッセイキットを用いてそのAP活性を求めた。免疫沈降アッセイを上述したようにして実施した(4)。
【0032】
細胞表面タンパク質のビオチン化
HEK細胞に、LacZ、LRP5、LRP5G171V発現プラスミドをトランスフェクトした。細胞を氷冷PBS中にて0.5mg/mlのスルホ−NHS−ビオチン(ピアース(Pierce))で標識し、上述したようにして洗浄し、溶解させた(5)。抗HA抗体およびA/Gアガロースタンパク質を用いて細胞ライセートを免疫沈降させた。
【0033】
初代骨芽細胞培養
3ヶ月齢のマウスから得た骨髄間質細胞(BMS)の骨芽細胞培養を上述したようにして生成した(6)。10nMのデキサメタゾン、8mMβ−グリセロホスフェート、50ug/mlのアスコルビン酸の存在下、細胞が骨原性分化するように誘導した。2日ごとに培地を交換した。
【0034】
相同性モデリング
スイスプロット/TrEMBLデータベース(エントリー名Q9UP66[8])から得た配列を用いて、ICM(モルソフト(Molsoft)L.L.C.、カリフォルニア州ラホーヤ(La Jolla))でLRP5の第3のYWTD−EGFドメインの相同性モデルを構築した。LDL受容体(低密度リポタンパク質)YWTD−EGFドメイン(PDBコード1IJQ[9])をテンプレートとして選択した。
【0035】
仮想スクリーニング
UNITYTMプログラム(トリポスインコーポレイテッド(Tripos,Inc.))を用いて、米国国立癌研究所(NCI)のデータベースで、Glu456末端で6つのプロペラによって形成されたキャビティに適合できる化合物をスクリーニングした。次に、エネルギー最小化用のFlexXTMプログラム(トリポスインコーポレイテッド(Tripos,Inc.))を用いて候補化合物をLRP5ドメインのDkk1結合キャビティにドッキングさせた[10]。以後の実験的な試験用に、計算で最も高い結合親和性を示した化合物を、米国国立癌研究所の癌治療・診断部門(Division of Cancer Treatment and Diagnosis)発生学的治療プログラム(Developmental Therapeutics Program)製剤合成&化学部(Drug Synthesis&Chemistry Branch)から得た。スクリーニングの第2ラウンドおよび第3ラウンドを、生化学的アッセイの結果に基づいて実施した。
【実施例】
【0036】
1.LRP5の欠失変異体
一組のPCRプライマーを設計し、PCR反応を実施し、PCRフラグメントをベクターにサブクローンし(sucloned)て、いくつかのLRP5欠失変異体を得た。第3および第4のドメイン(残基646から1198)の欠失がLRP5R12となり、第1および第2のドメイン(残基1から646)の欠失はLRP5R34、第3のドメイン(残基947から1198)の欠失はLRP5R124となった。(図1参照)。
【0037】
2.LRP5のドメインIはMesdによるLRP5の機能に不可欠である。
2.1 LRP5の第1のドメインにおけるG171V変異がLRP5の輸送を乱す。
(A)LRP5とMesdの相互作用
図2Aに示すようにしてHEK細胞に発現プラスミドをトランスフェクトした。1日後、細胞を溶解させ、抗Flag抗体を用いて免疫沈降を実施した。MesdにはFlagタグを付加し、LRP5分子にはすべてHAタグを付加した。これらの結果から、ドメインIのG171V変異はLRP5とMesdとの相互作用(図2A、レーン1および3)とR12とMesdとのそうご作用(図2B、レーン1および2)の両方を乱すが、ドメインIIIのE721変異はこれらの相互作用に対して何ら影響を示さない(図2A、レーン2および3)ということが分かった。
【0038】
(B)LRP5変異体は自ら細胞表面に効率よく存在することはない。
図2Bおよび図2Cに示すように、HEK細胞にMesdプラスミドと発現プラスミドをトランスフェクトした。R12TGV、R12T、R1−4およびR1−4GV(GV)は、細胞培養培地に分泌される膜貫通ドメインのないLRP5変異体であるAP融合タンパク質である。1日後、条件培地(CM)を回収し、高速で遠心処理した。上清を抗HA抗体で免疫沈降(図2C)させるか、APアッセイに用いた(図2D)。細胞をSDS−PAGEサンプル緩衝液にも溶解させ、ウェスタンブロッティングで分析した(図2Cおよび図2Dの下側のパネル)。これらの結果から、G171V変異が細胞表面に対するLRP5の提示を減弱することが分かる。
【0039】
(C)細胞表面LRP5レベルの評価
HEK細胞に、LacZ、野生型HA−LRP5またはHA−LRP5G171V発現プラスミドをトランスフェクトした。細胞表面をビオチン標識して抗HA抗体でLRP5分子を沈降させた後、ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(SA−HRP)を用いるウェスタン分析によって細胞表面LRP5分子レベルを検出した(図2Eの上側のパネル)。免疫複合体におけるLRP5のレベルを下側のパネルに示す。これらの結果から、G171V変異体の細胞表面提示が減少することが分かる。
【0040】
2.2 LRP5G171Vは同時発現されたWntの活性のDkk1による阻害に対する感受性が低い。
(A)G171V変異が標準的Wntシグナル伝達活性に対して及ぼす影響。
図3Aに示すようにして、LEF−1発現プラスミド、LEF−1ルシフェラーゼレポータープラスミド、GFP発現プラスミドと一緒に、HEK細胞にプラスミドをトランスフェクトした。1日後、細胞を溶解させた。「材料および方法」で説明したようにして溶解後の細胞のGFPレベルとルシフェラーゼ活性を求め、GFPレベルに対して正規化した。LacZをトランスフェクトした細胞の活性を100%として、対照を得た。LRP5タンパク質または抗LRP6抗体が持つHAタグに特異的な抗体を用いて、LRP5、LRP5G171V、LRP6、LRP6G158Vの発現を検出した(図3A)。これらの結果から、野生型(Wt)LRP5(LRP5Wt)に比してHBM G171V変異が、それ自体または同時発現されたWntに対する形質導入シグナルでLEF−1依存性転写活性の増大につながらなかったことが分かる。
【0041】
(B)G171 V変異が同時発現されたWnt1によって刺激された標準的シグナル伝達活性に対して及ぼす影響
図3Bに示すように、LRP5WtまたはLRP5G171Vの存在下、HEK細胞に、LEFレポーター、Wnt−1、Dkk1、Kremenのプラスミドをトランスフェクトした。LRP5またはLRP5G171Vの存在下、ヒトHEK細胞にLacZをトランスフェクトするか、Dkk1、Kremen1およびWnt1を同時トランスフェクトした。ウェスタンブロッティングでタンパク質の発現レベルを確認した(図3C)。Kremen1およびDKK1の両方の存在下、WntはLRP5G171Vを発現しているHEK細胞でLRP5Wtを発現しているものよりも高い活性を示した(図3B)。これらの結果から、Dkk1の存在下では、LRP5G171Vの方が野生型よりも多くのシグナルを伝達する(tranduce)ことが分かる。
【0042】
2.3 LRP5およびLRP5変異体に対するDkk1−APの結合
図4に示すようにしてHEK細胞にMesdプラスミドとLRP5プラスミドをトランスフェクトし、Dkk1−APを発現しているHEK細胞から調製したCMを用いて氷上でインキュベートした。「材料および方法」で説明したようにして、AP活性を任意単位(AU)で求めた。Wtおよび変異体LRP5分子の発現を図4Bに示す。これらの結果から、LRP5G171V変異体を発現している細胞の方がLRP5Wtを発現している細胞よりも明白なDkk結合が少ないことが分かる(図4A)が、これは図2に示す細胞表面にLRP5G171Vが少ないことと一致する。
【0043】
3.Wnt活性にはLRP5のドメインIIが必要である。
図5に示すようにHEK細胞にLEF活性レポータープラスミドと発現プラスミドをトランスフェクトした。発現プラスミドLRP5R494QおよびLRP5G479Vは、第2のドメインに点変異のあるLRP5受容体である。1日後、細胞を溶解させた。「材料および方法」で説明したようにして、溶解後の細胞のGFPレベルとルシフェラーゼ活性を求め、GFPレベルに対して正規化した。図5は、LRP5Wtに比して、LRP5R494QおよびLRP5G479VがWntシグナル伝達を無効にできることを示している。これらの結果から、Wnt活性にはドメインIIが必要だということが分かる。
【0044】
4.Dkkによる阻害にはドメインIIIが必要である。
4.1 ドメインIIIの分析
(A)ドメインIIIの機能的分析
図6Aに示すようにして、HEK細胞に、LEF活性レポータープラスミド、Kremen1プラスミドおよび発現プラスミドをトランスフェクトした。Wt LRP5とその変異体分子の発現を図6Bに示す。これらの結果から、LRP5R12またはLRP5R124は依然としてWnt刺激LEF−1活性を増強できたが、LRP5R34ではそうはいかなかった(図6A)ということが分かり、LRP5R12またはLRP5R124はWnt共役受容体の機能を保持しているのではないかと考えられる。しかしながら、LRP5R12またはLRP5R124が存在すると、Dkk1はWntシグナル伝達を阻害することができなかった(図6A)。このことから、Dkk1による阻害にはドメインIIIが必要なのかもしれないと考えられる。
【0045】
(B)LRP5およびLRP5変異体に対するDKK1−APの結合
図6Cに示すようにしてHEK細胞にMesdプラスミドおよびLRP5プラスミドをトランスフェクトし、Dkk1−APを発現しているHEK細胞から調製したCMを用いて氷上でインキュベートした。「方法および材料」で説明したようにして、AP活性を任意単位で求めた。Wtおよび変異体LRP5分子の発現を図6Cの右側のパネルに示す。これらの結果から、LRP5R34はDkk1結合部位を含有し、Dkk1結合にはR34のE721が必要であるということが分かる。(図6C)
【0046】
4.2 Dkk阻害に必要なドメインIIIの相互作用表面でのアミノ酸残基の同定
(A) 相互作用表面IIIでのAla置換変異の概略図
LDL受容体YWTD繰り返しドメインの構造(13)に基づいて、ドメインIIIの空間充填モデルを推定した。スイスプロット/TrEMBLデータベース(エントリー名Q9UP66[18])から得た配列を用いて、ICM(モルソフト(Molsoft)L.L.C.、カリフォルニア州ラホーヤ(La Jolla))でDkk1のドメインIIIの相同性モデルを構築した。低密度リポタンパク質(LDL)受容体YWTD−EGFドメイン(PDBコード1 IJQ[22])をテンプレートとして選択した。この三次元構造に基づいて、本発明者らは、ドメインIIIの表面にAla置換変異を含有する19のLRP5変異体を生成した(図7A)。これらの変異体LRP5タンパク質のDkk1による阻害に耐える機能を判断し、これを図7Aに示す。変異体のうちの9つ(5%超)にDkk1による阻害に対する感受性の変化が見られ、変異同一表面に局在する変異が含まれていた(図7A)。
【0047】
(B) 代表的な点変異がLRP5のWnt共役受容体活性に対して及ぼす影響
図7Bに示すようにして、HEK細胞に、LEF活性レポータープラスミド、Kremen1プラスミド、発現プラスミドをトランスフェクトした。Wtおよび変異体LRP5分子の発現を下側のパネルに示す。19の変異のうち、E721変異でDkk1による阻害に対する最も強い影響が認められ、続いてW781、次がY719であった(図7B)。
【0048】
5.LRP5の特定ドメインと相互作用するスクリーニング化合物
5.1 ドメインIIIをテンプレートとして用いたスクリーニング化合物
(A) 仮想スクリーニング
UNITYTMプログラム(トリポスインコーポレイテッド(Tripos,Inc.))を用いて、米国国立癌研究所(NCI)のデータベース(http://129.43.27.140/ncidb2)で、ドメインIIIのキャビティに適合できる化合物をスクリーニングした。このデータベースは自由に検索可能なものであり、250,251の小さな化合物の配位を含む。公差0.3ÅのR764およびE721と、キャビティに向かってTrp781から3.2Å離れている公差1.0Åの疎水性中心からなるように検索クエリを設計した。化合物の柔軟性を考慮して、高速でコンホメーション的に柔軟な三次元検索[21]に対応できるUNITYTMプログラムのディレクテッドトウィーク(Directed Tweak)アルゴリズムを適用した。
【0049】
続いて、UNITYTMプログラムを用いて得られた候補化合物を、リガンドをタンパク質結合部位に短時間かつ柔軟にドッキングさせる[44]、エネルギー最小化用のFlexxTMプログラム(トリポスインコーポレイテッド(Tripos,Inc.))でDkk1結合表面にドッキングさせた[17]。Dkk1認識に不可欠であることが分かっている、残基E721、W864、Y719、R764、D877、F888、G782、W781およびM891(図7A)を、計算時に考慮した。ドッキング手順に続いて、Dkk1結合ポケットに結合する予測した機能に基づいて、CscoreTMプログラムを用いて化合物をランク付けした。CscoreTMでは、タンパク質リガンド複合体の個々のスコアリング機能がどれだけうまく果たされるかに基づいて、相対的なコンセンサススコアを生成した[8]。次に、CscoreTMで手作業での最終的な目視検査を行った。コンセンサススコアが最も高かった40の化合物をNCIにリクエストしたが、入手不可のものがあったため17の化合物を手に入れた。次に、これらの化合物でDkk−1結合アッセイを行った(セクション5参照)。これらの化合物のうちの3つが、LRP−5に対するDkk1の結合に影響することが明らかになった。すなわち、NCI106164(図8A)はDkk1結合を32%阻害し、一方NCI39914(図8B)およびNCI660224(図8C)はDkk1結合をそれぞれ645%および275%刺激した。NCI39914およびNCI660224の刺激作用は、これらの化合物と第3のドメインのDkk1結合キャビティとの相互作用が促進されたことによるものかもしれない。この促進は、Dkk1とLRP5の相互作用表面間に存在するギャップがブリッジされたことによる可能性がある。アントラ−9,10−キノン(図9A)は化合物NCI39914およびNCI660224に共通の部分構造であるため、アントラ−9,10−クニノン(quninone)がLRP5との結合相互作用において鍵となる役割を果たしているのかもしれない。UNITYTMプログラムの類似性検索アルゴリズムを用いて、アントラ−9,10−キノンに近いNCIデータベースに見られた化合物の二次元検索を実施した。次に、FlexXTMプログラムを用いて上述したようにしてヒットしたものをドッキングさせた。スコアが最も高かった25の化合物をNCIから得て試験した。化合物NCI657566(図9B)およびNCI366218(図10A)が、Wntシグナル伝達のDkk1による阻害を逆転できた。図9Cに示すNCI366218由来のテンプレートを用いて新規な二次元類似性検索を実施し、13の候補化合物を同定した。(後述するような)生物学的アッセイから、Wntシグナル伝達のDkkによる阻害を逆転させ、LRP5に対するDkk1結合を乱すには、NCI8642(図10B)が最適な化合物であることが分かった。
【0050】
(B)生物学的アッセイ
生物学的アッセイを利用して、仮想スクリーニングで同定された化合物をスクリーニングした。
【0051】
(1)Dkk−I結合アッセイ
セクション2(図4)で説明したようにして、最初の2つのドメインがない全長LRP5またはLRP5R34変異体を発現しているHEK細胞に対するDkk1−APの結合を実施した。17の化合物からなる第1のバッチで、まずは全長LRP5に対するDkk1結合の阻害についてスクリーニングした。本発明者らは、NCI106164がDkk1結合に対して68%の阻害作用を示すのに対し、NCI39914およびNCI660224はDkk1結合をそれぞれ654%および276%刺激することを明らかにした。(表I参照)
【0052】
(II)Wnt活性アッセイ
Wntシグナル伝達にはLRP5の第2および第3のドメインが必要であり、これらのドメインはおそらく、Wnt分子と直接的に相互作用する。これらのドメインは広範囲にわたってアミノ酸配列が相同であるが、第3のドメインに結合する特定の化合物が最初の2つのドメインにも結合し、潜在的にWnt活性の阻害を引き起こしているという可能性がある。化合物の第2のバッチについては、まずWnt活性アッセイを用いてスクリーニングした上で、結合アッセイを用いてスクリーニングし、Dkk阻害を逆転させる化合物がLRP5に対するDkk結合を阻害することを確認した。表IIに示されるように、第2のバッチのうち25の化合物をWnt活性アッセイでスクリーニングした。これらの化合物を以下の項目について調べた。1)基礎レポーター活性の阻害、2)Wnt活性の阻害、3)Wnt活性のDkkによる阻害の逆転。表IIに示されるように、25の化合物のうちの17がWnt活性を30%よりも多く阻害することが明らかになった。NCI366218およびNCI657566という2つの化合物が、Wnt活性に影響せずにWntシグナル伝達のDkk1による阻害を逆転させることが明らかになった。
【0053】
どの化合物がDkkによる阻害を逆転させるのかを判断するために、仮想スクリーニングを用いて化合物の第3のバッチを同定した。13の化合物を同定し、Wnt活性スクリーニングを行った。表IIIに示されるように、3つの化合物がWnt活性を大幅に阻害し、1つの化合物(NCI8642)がDkkによる阻害を有意に逆転させることが明らかになった。
【0054】
図11および図12に示すように、NCI8642およびNCI366218の両方をWnt活性アッセイおよびDkk結合アッセイでさらに特徴付けした。Dkkによる阻害を逆転させるにはNCI8642の方が効果的であった。NCI8642にもNCI366218より広い範囲の有効濃度があった。どちらの化合物も、高い濃度でWnt阻害を示しはじめた。どちらの化合物も最初の2つのドメインのない全長LRP5およびLRP5 R34変異体に対するDkk1−APの結合を阻害するため、どちらの化合物もDkk1とLRP5との相互作用を乱してDkkによる阻害を逆転させた。Dkk1結合の阻害にはNCI366218よりもNCI8642の方が効果的であることが分かったが、これはWntシグナル伝達に対するDkkによる拮抗作用の逆転で有効性が増した結果と一致していた。
【0055】
(III)骨原性アッセイ
a)培養での骨原性アッセイ
Wntは培養した骨芽細胞の増殖と分化を刺激し、Dkkはこの過程を阻害する。したがって、これらの化合物は骨形成量を増す。BSP、オステオカルシン、コラーゲンの発現をはじめとする骨形成マーカーの発現または石灰化を調べれば、このことをモニターすることができる。2.3KbのCollAlプロモーターによって駆動されるGFPの発現もモニターした。図13は、NCI366218がGFP発現を刺激し、骨芽細胞の分化が増しているのではないかということを示している。図14は、NCI366218が石灰化を刺激することを示している。NCI366218も頭蓋冠の有機培養(organoculture)で骨形成を刺激する。
【0056】
b)in vivoでの骨原性アッセイ
in vivoでのこれらの化合物の有効性についての試験を行い、これらの化合物がin vivoで骨形成量を増すのかどうかを判断することができる。頭蓋冠の外面と骨髄キャビティ内にさまざまな化合物用量を注入することができる。骨形成の増加については、組織学的に調べることができ、また、pQCT、DNX、X線ラジオオートグラフィを用いて調べることもできる。
【0057】
(IV)β−カテニンレベルアッセイ
Wntシグナル伝達によってサイトゾルのB−カテニンを安定させる。このようにして得られるβ−カテニンのレベルによって、これらの化合物がWntシグナル伝達に対して及ぼす影響を調べることができる。たとえば、Wnt3a CMまたはDkk1−Wnt3a CM混合物と組み合わせた化合物でマウスL1細胞を8時間処理した。対照として用いた細胞もWnt3a CMまたはDkk1−Wnt3a CM混合物だけで8時間処理した。特異的抗β−カテニン抗体を利用して、細胞ライセートでのβ−カテニンレベルをウェスタンブロッティングまたはELISAで測定した。化合物で処理した細胞のβ−カテニンレベルを、対照での場合と比較した。この方法を利用して、化合物を生物学的にスクリーニングしても構わない。[49]
【0058】
(V)LRP5/6のPPPSP部位のリン酸化
最近になって、WntがLRP5の細胞内ドメインにおいてPPPSPモチーフでLRP5のリン酸化を刺激することが発見された(タマイ(Tamai)ら、2004)。リン酸化したPSPPPに特異的な抗体を得て、Wnt活性を調べるのに利用することができる(タマイら、2004)。このアッセイの利点は、受容体の活性化だけしか測定しない点にある。このイベントに加わる化合物は、他のアッセイでスクリーニングされた化合物よりもWnt細胞内シグナル伝達イベントに影響する可能性が低い。たとえば、Wnt3a CMまたはDKK1−Wnt3a CM混合物と組み合わせた化合物でHEK細胞を10〜60分間処理した。対照として用いた細胞については、Wnt3a CMまたはDKK1−Wnt3a CM混合物だけで6時間処理した。リン酸化PPPSP部位に対する特異的抗体を用いて、LRP5またはLRP6のPPPSP部位のリン酸化をウェスタンブロッティングまたはELISAで測定した。リン酸化LDLR−PPPSP部位のレベルに基づいて、Wnt活性に対する影響を示す化合物をスクリーニングする目的で、化合物で処理した細胞を対照と比較した。この方法を利用して、化合物を生物学的にスクリーニングしても構わない。[49]
【0059】
5.2 LRP5のドメインIIをテンプレートとして用いて化合物をスクリーニング
(A)仮想スクリーニング
「材料および方法」で説明したような相同性モデリングを用いて、このドメインの構造を推定することができる。セクション4.2で説明したように、部位特異的変異誘発を利用して、Wntシグナル伝達に必要な残基をマッピングした。セクション5.1(A)で説明した方法を用いて、このWntシグナル伝達表面に仮想スクリーニング法を適用した。ドメインIIはWntシグナル伝達に関与するため、ドメインIIをテンプレートとして用いて同定される化合物がWntシグナル伝達を上昇またはWntシグナル伝達を低減させる可能性がある。ドメインIIとドメインIIIは相同であるため、仮想スクリーニングで同定される化合物は、1)Dkk結合を増大させる、2)Dkk結合を低減させる、3)Dkk拮抗作用を増大させるおよび/または4)Dkk拮抗作用を低減させる可能性がある。
【0060】
(B)生物学的アッセイ
セクション5.1(B)で説明した生物学的アッセイを用いて化合物を試験した。セクション5.1(B)、I〜Vで説明した方法で、Wnt活性を増大または低減させる化合物を同定した。また、5.1(B)、Iで説明したアッセイを用いて、Dkk1結合を促進または阻害する化合物を求めた。さらに、5.1(B)、IIで説明したアッセイを用いて、Dkk1拮抗作用を促進または阻害する化合物を求めた。
【0061】
5.3 LRP5のドメインIをテンプレートとして用いて化合物をスクリーニング
(A)仮想スクリーニング
「材料および方法」で説明したような相同性モデリングを用いて、このドメインの構造を推定することができる。図2で説明したように、部位特異的変異誘発を利用して、Mesdの結合と機能に必要な残基をマッピングした。セクション5.1(A)で説明した方法を用いて、このMesd結合表面に仮想スクリーニング法を適用した。ドメインIはMesd機能に関与するため、ドメインIをテンプレートとして用いて同定される化合物は、細胞表面へのLRP5提示を増大または低減させることでWntシグナル伝達を増大または低減させるおよび/またはDkk拮抗作用を増大または低減させる可能性がある。ドメインIとドメインIIは相同であるため、仮想スクリーニングで同定される化合物はWntシグナル伝達を増大または低減させる可能性がある。ドメインIとドメインIIIは相同であるため、仮想スクリーニングで同定される化合物は、1)Dkk結合を増大させる、2)Dkk結合を低減させる、3)Dkk拮抗作用を増大させるおよび/または4)Dkk拮抗作用を低減させる可能性がある。
【0062】
(B)生物学的アッセイ
セクション5.1(B)、I〜Vで説明した方法で、Wnt活性を増大または低減させる化合物を同定した。また、セクション5.1(B)、Iで説明したアッセイを用いて、Dkk1結合を促進または阻害する化合物を求めた。さらに、セクション5.1(B)、IIで説明したアッセイを用いて、Dkk1拮抗作用を促進または阻害する化合物を求めた。図2に示すアッセイで、Mesd機能に影響する化合物を求めた。
【0063】
6.frizzled受容体のCRDと相互作用する化合物のスクリーニング。
Wntは、frizzledファミリの膜貫通受容体を介してシグナル伝達する。このfrizzled受容体は、細胞膜を数回通り抜ける。frizzledのN末端細胞外領域に局在する保存されたシステインリッチドメイン(CRD)がWnt結合部位として作用する。分泌されたfrizzled関連タンパク質Frzb−1がCRDを含有し、Wntシグナル伝達発現のアンタゴニストとして機能する。
【0064】
Frizzled 8およびマウスから分泌されたFrizzled関連タンパク質3のCRDの結晶構造が求められている。(ダン(Dann)C.ら)Wnt結合アッセイおよび変異誘発アッセイによってWnt結合部位も求められている。
【0065】
6.1 仮想スクリーニング
5.1(A)で説明した仮想スクリーニング法を用いて、CRDと相互作用してWntシグナル伝達経路を調節する潜在的な化合物をスクリーニングした。−マウスタンパク質から得た周知のCRD構造をテンプレートとして用いて相同性モデルを作製した。他のfrizzledファミリメンバーまたはヒトfrizzledタンパク質CRD領域の相同性モデルを作製した。CRD−Wnt相互作用に関与する構造とアミノ酸に基づいて、エネルギー最小化法を利用して各化合物の生物学的活性をさらに試験するための化合物をスクリーニングした。生物学的活性が高かった化合物については、同様の構造クエリを用いて別の候補化合物を同定した。
【0066】
6.2 生物学的アッセイ
Wnt−結合アッセイを利用して、化合物がfrizzledタンパク質のCRD領域に対して及ぼす影響をスクリーニングした。CRDペプチド(またはfrizzledタンパク質)が、検出可能なマーカー(Myc−タグなど)のある細胞の表面で発現された。化合物およびWntアルカリホスファターゼ融合タンパク質(Wnt8−APなど)を含有する培地を用いた。インキュベーション後、免疫組織化学染色を利用して結合を求めた。候補化合物がWnt結合に対する影響を示したら、(5.1(B)で説明したような)他の生物学的アッセイを適用して、Wntシグナル伝達に対する各化合物の影響を求めた。[27,38,12]
【0067】
7.Dkkと相互作用する化合物のスクリーニング
7.1 仮想スクリーニング
Dkk1の構造を解明し、セクション4.2で説明したようにして、KremenおよびLRP5/6に対するその相互作用表面を変異誘発でマッピングした。セクション5.1(A)で説明した方法で仮想スクリーニングを実施した。LRP5またはKremenへのDkk結合を増大または低減させるか、あるいはWntのDkkによる阻害を増大または低減させる化合物が明らかになった。
【0068】
7.2 生物学的(Bilogical)アッセイ
セクション5.1(B)、Iで説明したようにして、LRP5に対するDkk結合を増大または低減させる化合物を求めた。また、細胞にLRP5ではなくKremenをトランスフェクトしたこと以外はセクション5.1(B)、Iで説明したようにして、Kremenに対するDkk結合を増大または低減させる化合物を求めた。さらに、セクション5.1(B)、II〜IIIで説明したようにして、Dkk拮抗作用を増大または低減させる化合物を求めた。
【0069】
8.Dvlドメインと相互作用する化合物のスクリーニング
Wnt−frizzled受容体複合体によって細胞質のdishevelled(Dvl)タンパク質が活性化される。これらのタンパク質は、標準的と非標準的の両方のWntシグナル伝達経路に不可欠である。Dvlタンパク質は、N末端のDIXドメイン、中央のPDZドメイン、C末端のDEPドメインで構成される。これらの3つの保存ドメインは各々、異なるタンパク質に関連しているため、各々異なる経路で機能する。
【0070】
DIXドメインはホモダイマーとして存在し、優勢に螺旋構造を形成する。パルスフィールド勾配NMR研究でこれを判断した。DIXドメインは、in vivoでアクチンストレスファイバおよび細胞質小胞への標的を媒介する。よって、これはWntシグナル伝達における分岐点を表す可能性がある。標準的Wntシグナル伝達によるβ−カテニンの安定化には、Dvlのメンバランス(memberance)標的を伴う。マウスDvl2のLys 58、Ser 59、Met 60は、アクチン相互作用に決定的に関与する。Lys 68およびGlu 69は細胞質小胞の局在化に重要である。
【0071】
PDZドメインは、いくつかの分子と相互作用し、標準的と非標準的の両方のWnt経路で重要な役割を果たす。ツメガエルの三次元PDZドメイン構造が求められている(シェイット(Cheyette)ら)。化学シフト摂動NMR分光法と結合アッセイを用いることで、frizzledの保存されたモチーフKTXXXWとマウスDvl1のPDZドメインとの間に直接的な相互作用があることが分かった。これによって、結合領域を判断することができる。(ウォング(Wong)ら)。
【0072】
Dvlタンパク質のDEPドメインは、Wnt経路でDvl下流のエフェクタータンパク質にシグナルを伝達する。哺乳類の細胞におけるβ−カテニン活性の上方制御とLef−Iによる転写の刺激には、dishevelledのDEPドメインが必要である。マウスDvl1 DEPドメインの構造が求められている。(ウォング(Wong)ら)Lys434、Asp445、Asp 448が、タンパク質−タンパク質相互作用において重要な役割を果たし、その変異であるWnt−1がLef−1の活性化を誘導したことが分かっている。
【0073】
8.1 仮想(Vitual)スクリーニング
DIXドメインの二次構造と機能性残基が求められているため、既存のタンパク質ドメインのスクリーニングを用いて三次構造配置についての情報を得ることができる。潜在的な候補とこれについてのシミュレーションによって、結合分析用の候補化合物を生成できる。結合に影響する候補化合物を分析することができ、似たような化合物からなる新しいグループを生物学的にアッセイすることができる。PDZおよびDEPの三次元構造は周知であるため、セクション5.1で説明した方法と似た仮想スクリーニング法を利用すればよい。この構造をテンプレートとして利用して、ヒトタンパク質ドメインまたは他の同様の機能的タンパク質ドメインの相同性モデルを作製することができる。特定の機能に関与する構造とアミノ酸とに基づいて、エネルギー最小化法を利用して化合物をスクリーニングすることができる。各化合物の生物学的活性を試験することができる。高い生物学的活性を示す化合物については、同様の構造クエリを用いてさらに候補化合物を見つけることができ、生物学的活性をさらにアッセイすることになる。
【0074】
8.2 生物学的アッセイ
DIXドメイン小胞の局在化には、アクチン結合領域のアクチン結合阻害アッセイと、Xnr3またはSiamoisの発現レベルを利用することができる。化合物の処理後は、タグ付きDIXを含有する構成済みのベクターを細胞にトランスフェクトすることができる。続いて、免疫蛍光(Immunofluorenscence)染色を利用して、アクチン結合阻害を求めることができる。また、RT−PCRを利用して、小胞局在化のXnr3またはSiamois レベルを検出することができる。
【0075】
PDZドメインの初期スクリーニングにはin vitro結合アッセイを利用することができる。DvlのPDZドメインに結合するペプチド(Drp C末端領域など)を利用すればよい。ビーズに結合した精製後のタグ付きペプチドをPDZドメインおよび各化合物と混合し、インキュベーション後に、抗体を使って結合した化合物を検出することができる。各化合物の結合効率の作用(efficiency effect)を求めることができる。
【0076】
標準的Wnt経路に影響する化合物をスクリーニングするには、ドメインにルシフェラーゼアッセイを用いればよい。細胞にDvlドメインをトランスフェクトすることができる。これらの細胞を化合物と一緒にインキュベートすると、Wnt/β−カテニン活性化ルシフェラーゼ活性をアッセイできるため、これによって各化合物の作用を測定できる。
【0077】
続いて、化合物をその構造に基づいて分類し、同定された化合物をさらにスクリーニングする。タンパク質結合に影響する候補の化合物を同定したら、5.1(B)においてセクションで説明した他の生物学的アッセイを使って各化合物がWntシグナル伝達に対して及ぼす影響を判断することができる。[57,6,58,55,7]
【0078】
9. β−カテニンと相互作用する化合物のスクリーニング
β−カテニンは核へのWntシグナルの伝達を媒介することで、標的遺伝子を活性化させる。Wntシグナルはβ−カテニンの分解を防止し、β−カテニンが蓄積して後から核に転座してTcf/LEFファミリー(familiy)のタンパク質のメンバーとの間で転写活性化複合体を形成できるようにする。
【0079】
β−カテニンならびに、これがアキシン、Lef、TCFおよび他のいくつかのタンパク質との間で形成する複合体の結晶構造が解明されている。この情報は、標準的Wntシグナル伝達を調節する化合物のスクリーニングに利用することができる。
【0080】
β−カテニンは、APC、LEF/TCF、E−カドヘリン、コンダクチン(conductin)/アキシンの結合部位であるN末端 アルマジロ反復配列を含有する。これらの結合部位はいずれも、β−カテニンのアルマジロ反復配列単位3〜8に局在している。因子の結合によってグルーブが占領されるため、他の競合するβ−カテニンパートナーが同時に結合することはできなくなる。
【0081】
9.1 仮想スクリーニング
セクション5.1で説明した仮想スクリーニングに近い改変ストラテジーを利用して、結合対象となるβ−カテニン相互作用の化合物を同定することができる。β−カテニンをテンプレートとして用いて、異なる種から得られるβ−カテニンの相同性モデルを生成することができる。LEF/TCF、アキシンおよびAPCとの相互作用に関与する必須アミノ酸と構造とに基づいて、エネルギー最小化法を利用して化合物をスクリーニングし、候補化合物のグループを作製することができる。上述したタンパク質はいずれもβ−カテニンの似たような位置を占めるため、生物学的アッセイを使って各化合物をスクリーニングすると、4つの相互作用がすべて試験される。初期の生物学的活性に基づいて、有効化合物の構造を分析し、似たような方法を使って化合物の新しいグループを試験する。別の生物学的アッセイを実施して、最も有効な化合物を同定してもよい。
【0082】
9.2 生物学的アッセイ
β−カテニンパートナーはいずれも似たような位置を占めるため、in vitroでの翻訳およびタンパク質結合アッセイを利用して各化合物の有効性を求めることができる。タグ付きβ−カテニン、TCF、APC、LEFまたはアキシンコンストラクトを、in vitroにて転写して、翻訳することができる。対象となる化合物を用いてインキュベート後、イムノブロッティングを利用して結合を検出すればよい。Wnt結合に影響する化合物を同定したら、セクション5.1(B)で説明したような他の生物学的アッセイを利用して、各化合物がWntシグナル伝達に対して及ぼす影響を判断することができる。[52,43,16,59,11]
【0083】
10.LEF−1/TCF転写因子と相互作用する化合物のスクリーニング
調節因子ヌクレオタンパク質複合体のアセンブリと機能において構築的な役割を果たすDNA結合タンパク質に、リンパ球エンハンサー結合因子(LEF)がある。これは、高移動度群(HMG)ドメインによって特異的なヌクレオチド配列を認識する。TCR−α遺伝子エンハンサーからの最適な結合部位を含有する15塩基対のオリゴヌクレオチドデュプレックスと複合化したマウスLEF−lのHMGドメインのソリューション(solution)構造が解明されている。
【0084】
10.1 仮想スクリーニング
セクション5.1で説明した仮想スクリーニングに近いストラテジーを利用して、HMG−オリゴヌクレオチド結合と相互作用し、これによって遺伝子発現調節の活性に影響する潜在的な化合物をスクリーニングすることができる。構造に基づいて、HMGドメインを含有するタンパク質は、自らが結合する対象となるDNAを屈曲させる。DNAの屈曲または結合能に影響する化合物はいずれも、遺伝子発現の調節に影響をおよぼす。周知の構造をテンプレートとして用いて、異なる種のLEF HMGドメインの相同性モデルを作製することができる。HMG−オリゴ相互作用に関与するアミノ酸と構造とに基づいて、エネルギー最小化法を利用して化合物をスクリーニングすることができる。強制的に屈曲させるか、屈曲を禁止する化合物を選択する。DNA結合(biding)活性を利用して化合物をスクリーニングした。生物学的活性がかなり高いか、かなり低い化合物についても、同様の構造クエリを用いて別の候補化合物(comopound)を同定することができる。
【0085】
10.2 生物学的アッセイ
DNA結合アッセイを利用して、化合物をスクリーニングすることができる。オリゴヌクレオチドとHMGドメインを、これらの化合物と一緒にインキュベートする。ゲル遅延度アッセイを用いて、DNA結合を求める。均一に13C標識したNMRを用いて結合実験を改変し、ドメインの屈曲を分析することができる。LEF制御された遺伝子調節が直接影響するため、ルシフェラーゼアッセイも利用して化合物の影響を検出することができる。タンパク質の結合に影響している化合物を同定したら、5.1(B)で説明した他の生物学的アッセイを利用して各化合物がWntシグナル伝達に対して及ぼす影響を求めることができる。[33]
【0086】
11. 他の何らかのWntシグナル伝達関連タンパク質と相互作用する化合物のスクリーニング
Wntシグナル伝達に関与する別のタンパク質因子が存在する。将来的に、その構造を解明することができるかもしれない。相互作用表面構造に基づいて、セクション5で説明したようにして化合物をスクリーニングし、その生物学的活性を試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図面の簡単な説明
【図1】野生型LRP5とその欠失変異体の概略図を示す。
【図2】G171V変異がLRP5の輸送を乱すことを説明するための図である。図示のように、HEK細胞に発現プラスミドをトランスフェクとした。1日後、この細胞を溶解させ、抗Flag抗体を用いて免疫沈降を実施した。MesdにはFlagタグを付加し、LRP5分子にはすべてHAタグを付加した。G171V変異がLRP5とMesdとの相互作用(図2A、レーン1および3)ならびにR12とMesdとの相互作用(図2B、レーン1および2)の両方を乱したのに対し、E721変異はこれらの相互作用に影響しなかった(図2A、レーン2および3)。図2Aおよび図2Bの下側のパネルは、免疫沈降用の等量のWtおよび変異体LRP5投与量を示す。[HEK細胞に、図示のMesdプラスミドと発現プラスミドをトランスフェクトした。]R12TGV、R12T、R1−4およびRl−4GV(GV)は、細胞培養の上清に分泌されることのある膜貫通ドメインが欠如したLRP5変異体であるAP融合タンパク質である。1日後、条件培地(CM)を回収し、高速で遠心分離した。上清を抗HA抗体によって免疫沈降(図2C)させるか、あるいはAPアッセイに利用した(図2D)。細胞をSDS−PAGEサンプル緩衝液にも溶解させ、ウェスタンブロッティングで分析した(図2Cおよび図2Dの下側のパネル)。このデータから、G171V変異がR12およびRl−4の分泌を阻害することが分かる。図2Eは、細胞表面のLRP5を検出する結合アッセイを用いて、G171V変異がLRP5の細胞表面輸送に干渉することを確かめるものである。細胞表面をビオチン標識し、LRP5分子を抗HA抗体で沈降させた(図2E、上側のパネル)後、ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(SA−HRP)を用いるウェスタン分析で細胞表面のLRP5分子濃度を検出した。免疫複合体中のLRP5濃度を図2Eの下側のパネルに示す。
【図3】LRP5のHBM G171V変異が、同時発現したWnt活性のDkk1による阻害よりも影響されにくいことを示す。図3Aの左側のパネルは、Wnt1、HBM G171V変異の存在下または非存在下でLEF−1ルシフェラーゼレポータープラスミドと一緒に図示のようにHEK細胞にプラスミドをトランスフェクトしても、野生型(Wt)LRP5(LRP5Wt)に比してLEF−1依存性転写活性が上昇しなかったことを示す。図3Aの右側のパネルは、LRP5タンパク質または抗LRP6抗体のHAタグに特異的な抗体によって求めた、LRP5、LRP5G171V、LRP6、LRP6G158Vの発現レベルを示す。図3Bは、HEK細胞にLEF−1ルシフェラーゼレポータープラスミドをトランスフェクトすると、Wnt−1、Dkk1およびKremenが、WtまたはG171V LRP5の存在下で図示のようになることを示す。Dkkが存在する場合、LRP5Wtを発現しているHEK細胞よりも、LRP5G171Vを発現しているHEK細胞の方が、LEF−1レポーター指標Wnt活性が有意に高い。Dkk1、Kremen、LRP5のタンパク質発現レベルを、図3Cに示すようにしてウェスタンブロッティングで確認した。
【図4】LRP5G171を発現している細胞の方が、LRP5Wtを発現している細胞よりもDkk1結合部位が少ないことを説明するための図(図4A)である。図4Bは、トランスフェクション後のWtと変異体LRP5の同じ量の発現を示している。
【図5】Wnt活性にLRP5の第2のドメインが必要であることを示す。HEK細胞に、LEF活性レポータープラスミドと発現プラスミドをトランスフェクトした。1日後、LEFレポーター活性を上述したようにして測定した。図5に示す結果から、LRP5WtよりもLRP5R494QおよびLRP5G479V(第2のドメインに点変異があるLRP5)の方がWntシグナル伝達を無効にする可能性があることが分かる。
【図6】Dkkによる拮抗作用にはLRP5の第3のドメインが必要であることを説明するための図である。図6Aは、Dkkによる阻害に第3のYWTD繰り返しドメインが必要であることを示している。HEK細胞に、LEF活性レポータープラスミド、Kremen1プラスミド、発現プラスミドをトランスフェクトした。LRP5R12またはLRP5R124は依然としてWnt刺激LEF−1活性を増強できたが、LRP5R34はこれができなかったことから、LRP5R12またはLRP5R124のいずれかがWnt共役受容体機能を保持しているのではないかと考えられる。しかしながら、LRP5R12またはLRP5R124が存在すると、Kremenの同時発現にもかかわらずDkk1はWntシグナル伝達を阻害することができなかった。このことから、Dkk1による阻害には第3のYWTD繰り返しドメインが必要なのではないかと考えられる。LRP5Wtとその変異体分子の発現レベルを図6Bに示す。図6Cは、LRP5R34がDkk1結合部位を含有し、Dkk1結合にはR34のE721が必要であることを説明するための図である。図6Dは変異の概略図である。
【図7】WntをDkkで阻害するには、相互作用表面を構成している第3のYWTD繰り返しドメインのアミノ酸残基が必要であることを示す。図7Aでは、LDL受容体YWTD繰り返しドメインの構造(13)に基づいて第3のYWTD繰り返しドメインの空間充填モデルを推定した。三次元構造に基づいて、第3のYWTD繰り返しドメインの表面にAla置換変異を含有する19のLRP5変異体を生成した。これらの変異体LRP5タンパク質のDkk1による阻害に耐える能力を判断した。この変異体のうちの9つ(5%超)で、Dkk1による阻害に対する感受性の変化が認められたが、いずれも同一表面に局在した変異を含有していた。図7Bでは、HEK細胞に、LEF活性レポータープラスミド、Kreminlプラスミド、発現プラスミドをトランスフェクトした。Wtおよび変異体LRP5分子の発現を下側のパネルに示す。19の変異のうち、E721変異でWntのDkk1による阻害に対する最も強い影響が認められ、続いてW781、次はY719であった。LRP5G171VでもWntのDkk1による阻害に対する影響が認められた。
【図8】米国国立癌研究所(National Cancer Institute(NCI))から得られた3種類の化合物の二次元構造を示す。NCI106164(図8A)はDkk1結合に対して68%の阻害作用を示し、NCI39914(図8B)とNCI660224(図8C)はそれぞれ、Dkk1結合を654%および276%増加させる。
【図9】NCI39914およびNCI660224における共通の部分構造であるアントラ−9,10−キノン(図9A)の二次元構造を説明するための図である。図9Bは、NCI 657566の二次元構造を示す。図9Cは、二次元の類似性探索に用いたテンプレートを示す。
【図10】Dkk1−LRP5相互作用を特異的に妨害し、Dkk1によるWntシグナル伝達の阻害を逆転させる化合物であるNCI366218(IIC8、図10A)とNCI8642(IIIC3、図10B)の二次元構造を示す。
【図11】NCI366218とNCI8642がDkk1阻害を逆転させることを説明するための図である。HEK細胞に、LEF−1発現プラスミド、LEF−1ルシフェラーゼレポータープラスミド、GFP発現プラスミドと共にLRP5プラスミドをトランスフェクとした。次に、これらの細胞を異なる濃度のNCI366218化合物とNCI8642化合物で処理し、続いて対照としてのCM、Wnt3a CMまたはWnt 3a/Dkk1 CM混合物で6時間処理した。DMSOで処理した細胞のレポーター活性を100%とした。図11は、特定の濃度で、NCI366218(図11A)とNCI8642(図11B)がWnt活性のDkkによる阻害を有意に逆転可能であることを示している。
【図12】NCI366218およびNCI8642がLRP5に対するDkk1の結合を阻害できることを示す。HEK細胞に、MesdプラスミドとLRP5またはLRP5R34とをトランスフェクトした。1日後、細胞を異なる濃度のNCI366218とNCI8642で処理し、mDkk1−APを発現しているHEK細胞から調製した条件培地(CM)を用いて氷上でインキュベートした。AP活性を上述したようにして求めた。DMSOで処理した細胞のAP活性を100%とした。図12は、NCI366218(図12A)とNCI8642(図12B)が、LRP5Wtに対するDkk1の結合ならびにLRP5R34に対するDkkタンパク質の結合を阻害することを示している。
【図13】NCI366218(IIC8)によって骨芽細胞の分化を刺激できることを説明するための図である。GFPを骨芽細胞のマーカーとして利用できる、2.3KbのCollAlプロモーター(2.3Col−GFP)11で制御される緑色蛍光タンパク質(GFP)トランスジーンを持つ3ヶ月齢のマウスから骨髄間質(BMS)細胞を単離した。8日目と12日目に、それぞれ9μMと26μMのIIC8化合物で培養を処理した。これと同じ時点、対照としてのDMSOで培養を処理した。図13は、BMS培養をIIC8で処理した場合に骨芽細胞分化マーカー2.3Col−GFPの供給が開始された(turned on)ことを示している。
【図14】骨原性アッセイを示す。NCI366218の存在下および非存在下で初代骨髄間質骨芽細胞(primary bone marrow stromal osteoblast)を培養し、分化を誘導した。20日後、骨形成過程を反映している骨芽細胞の石灰化がキシレンオレンジ染色で観察された。NCI366218は石灰化を2倍刺激した。
【図15】LRP5R12とLRP5R34のどちらもDkk1結合部位を含有し、Dkk1結合にはR34のE721が必要であり、G171V LRP5変異体が細胞表面に対するDkk結合を無効にし得ることを説明するための図である。図4Aは、Dkk1がLRP5R12とLRP5R34のどちらにも結合可能であるが、R12GV(LRP5R12におけるG171V変異)およびR34E(E721変異のあるLRP5R34)でトランスフェクトした細胞では細胞表面に対するDkk1結合が有意に低かったことを示す。図4Bは、トランスフェクション後のWtと変異体LRP5の同じ量の発現を示している。
【図16】骨原性細胞でのDkk1とWnt7bの発現を説明するための図である。分化誘導後の異なる時点で骨髄間質細胞の細胞培養から全RNAを単離した。リアルタイムのRT−PCRでDkkとWntの発現レベルを求めた。Wnt7bでは、分化誘導後にその発現に顕著な増加が認められた(図7A)。Wnt 7bがLEF−1レポーター遺伝子を刺激する能力を試験したところ、標準的Wnt経路を刺激することができた(図7B)。図7Cは、マウス長骨部分のインサイチュハイブリダイゼーション画像である。この画像から、Dkk1の大半が骨細胞で発現されることが分かる。図Dは、Kremen、Dkk、LRP、Wnt、Fz間の相互作用について説明するための図である。


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【公表番号】特表2008−505190(P2008−505190A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527363(P2007−527363)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017199
【国際公開番号】WO2005/115354
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(500334070)エンゾー セラピューティクス, インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Enzo Therapeutics, Inc.
【住所又は居所原語表記】C/O Enzo Biochem, Inc., 527 Madison Avenue, 9th Floor, New York, New York 10022, United States of America
【出願人】(506385852)
【出願人】(506384327)
【出願人】(506383984)
【出願人】(506385863)
【出願人】(506385874)
【出願人】(506383939)
【Fターム(参考)】