説明

高周波回路

【課題】低電圧のバッテリを用いて高電力を得ることが可能であり、且つ、低電力時の動作安定性を確保した高周波回路を提供する。
【解決手段】送信すべき高周波信号を増幅する増幅回路を複数並列に接続し、各増幅回路の出力を合成して空中線に供給する増幅部と、増幅部に低出力の動作をさせるローパワーモード時に、ローパワー信号を出力する制御部と、ローパワー信号によって複数の増幅回路のうち一部を停止させる動作抑制回路とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信用の高周波回路に関し、特にはハンディトランシーバ用の高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
VHF帯でFM通信を行う船舶通信用のハンディトランシーバは、小型化が要請される。このため、内蔵するバッテリにも小型化が要求され、たとえば1セル(3.7V)のものが搭載される。
【0003】
その一方で、船舶通信用のトランシーバは、ある程度(たとえば5W程度)の空中線電力も要求される。しかし、上記のような低い電源電圧では、通常のシングル増幅回路で5W程度の空中線電力を得ることができない。そこで、たとえば特許文献1に示すような形態で、パワー増幅回路を並列に接続して低い電源電圧で高い空中線電力を得る構成が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−322136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶通信用のトランシーバは、5W程度の高出力モード以外に、1Wや0.5Wといった低出力モードの動作も要求される。特許文献1のような複数のパワー増幅回路を並列に接続した構成では回路特性のばらつきが重畳されるため、低出力モード時にこのばらつきが強く現れて動作が不安定になるという問題点があった。
【0006】
また、近年のトランシーバは一般的に内蔵のCPUによって制御されており、パワー増幅回路の出力もCPUから出力される8ビット程度のパワーコントロール信号によって制御される。ここで、8ビット(255ステップ)で0〜5Wの出力を制御することとすると、1Wはその1/5(51ステップ)、0.5Wはさらにその1/2(約26ステップ)にしかならず、低出力を制御する場合にステップ数が少なく分解能が悪くなるという問題点があった。
【0007】
この発明は、このような不都合に鑑みてなされたものであり、低電圧のバッテリを用いて高電力を得ることが可能であり、且つ、低電力時の動作安定性、制御分解能の細かさを確保した高周波回路を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、高周波信号を増幅する増幅回路を複数並列に接続し、各増幅回路の出力を合成して空中線に供給する増幅部と、前記増幅部に低出力の動作をさせるローパワーモード時に、ローパワー信号を出力する制御部と、前記ローパワー信号によって前記複数の増幅回路のうち一部を停止させる動作抑制回路と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、前記増幅回路は、ゲイン制御電圧によって設定されるゲインで前記高周波信号を増幅し、前記制御部は、前記増幅回路の出力を制御するパワーコントロール電圧を発生し、さらに、前記パワーコントロール電圧を所定の分圧比で分圧する分圧回路と、この分圧されたパワーコントロール電圧に相関させて前記ゲイン制御電圧を発生するゲイン制御電圧発生回路と、前記ローパワー信号によって前記分圧回路に接続され、前記分圧回路の分圧比を低下させる分圧比変更回路と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、前記制御部は、所定ビット数のデジタルデータであるパワーコントロール信号を出力し、このパワーコントロール信号をデジタル・アナログ変換することにより、パワーコントロール電圧を発生させることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、前記制御部は、電源電圧に基づいて前記パワーコントロール信号を補正するための補正データを記憶した電圧補正テーブル、送信周波数に基づいて前記パワーコントロール信号を補正するための補正データを記憶した周波数補正テーブルのうち、少なくともいずれか一方を備え、該補正テーブルは、温度範囲別に複数の補正データを記憶していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、低電圧のバッテリを用いて高電力を得ることが可能であり、且つ、低電力時の動作安定性、制御分解能の細かさを確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態であるトランシーバのブロック図である。
【図2】同トランシーバのCPUが有するテーブルを示す図である。
【図3】同テーブルの値をグラフ化した図である。
【図4】同トランシーバのRF回路のブロック図である。
【図5】同RF回路のオートパワーコントロール回路の概略回路図である。
【図6】同トランシーバのCPUの動作を示すフローチャートである。
【図7】同トランシーバのCPUの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照してこの発明の実施形態である無線通信装置であるトランシーバについて説明する。この実施形態のトランシーバは、たとえば、VHF帯でFMの音声通信を行う船舶通信用のハンディトランシーバである。船舶通信用のハンディトランシーバは5W程度の空中線出力が要求される反面、小型化の要請があり、大型のバッテリを搭載することができず、1セル(3.7V)のバッテリが使用されるという特徴がある。
【0015】
図1はトランシーバ1のブロック図である。装置全体の動作を制御するCPU10にはRF回路11、オーディオ回路12、温度センサ13、電圧計14、操作部15、表示部16が接続されている。RF回路11は、送信回路11A、受信回路11Bを有し、相手装置に送信するVHF帯の送信信号、および、相手装置から受信したVHF帯の受信信号を処理する回路である。RF回路11には送信信号を輻射するとともに相手装置からの信号を受信するアンテナ19が接続されている。RF回路11のうち送信回路11Aの詳細は、図4、図5を参照して後述する。
【0016】
オーディオ回路12には、マイク17、スピーカ18が接続されている。オーディオ回路12は、マイク17から入力された発話音声をRF回路11の送信回路11Aに入力するとともに、RF回路11の受信回路11Bから入力された受話音声を増幅してスピーカ18(またはイヤホン)から音響出力する。送信回路11Aは、オーディオ回路12から入力された発話音声信号でVCO30(図4参照)を制御してFM変調されたキャリア信号を発振する。
【0017】
なお、以下の説明では、RF回路11のうち送信回路11Aについて専ら説明するため、RF回路11の送信回路11Aを単にRF回路11と呼ぶこととする。
【0018】
温度センサ13は、トランシーバ1のハウジング内の温度(内部温度)を検出するセンサである。RF回路11の送信出力(空中線電力)は温度によって大きく変動する。CPU10は、温度センサ13が検出した温度に基づいてRF回路11を制御することにより送信出力の変動を補償する。電圧計14はバッテリ20の電圧(電源電圧)を検出するためのセンサである。RF回路11の送信出力は供給される電源電圧によって変動する。CPU10は、電圧計14が検出した電源電圧に基づいてRF回路11を制御することにより送信出力の変動を補償する。
【0019】
操作部15は、送受信を切り換えるPTTスイッチ150、通信チャンネル(周波数)を選択するチャンネル選択スイッチ151、送信出力を切り換えるパワー切換スイッチ152等のスイッチ類を含んでいる。パワー切換スイッチ152の操作により、このトランシーバ1は、RF回路11の送信出力を、ハイパワー(High Power):5W、ローパワー(Low Power):1W、エコローパワー(Eco Low Power:Eローパワー):0.5Wの3段階に切り換え可能である。表示部16は、液晶ディスプレイを含み、チャンネル選択スイッチ151によって選択されたチャンネル、パワー切換スイッチ152によって選択された送信出力等を表示する。
【0020】
CPU10は、上記センサ13、14の検出内容および操作部15の操作内容に応じて、RF回路11に対してパワーコントロール信号(PCON)、ローパワー信号(LOW)、ミュート(MUTE)信号およびチャンネル選択信号(CH)を出力する。このうちMUTE信号は、RF回路11の送信機能を停止させるための信号であり、トランシーバ1の受信モード時に出力される。
【0021】
パワーコントロール信号は、RF回路11の送信出力を、設定されたパワー値(5W、1Wまたは0.5W)に制御するための信号であり、8ビットの数値データとして出力される。RF回路11では、このパワーコントロール信号に基づき、オートパワーコントロール回路41によってゲイン制御電圧が生成される。ゲイン制御電圧は、ドライバ回路31および2つのパワーアンプ33、34に供給され、同回路のゲインを制御して送信出力を制御する。
【0022】
ローパワー信号(LOW)は、選択されたパワーモードがローパワーまたはEローパワーのとき、CPU10からRF回路11に対して出力される信号である。ローパワー信号は、RF回路11(図4参照)のオートパワーコントロール回路41およびシャントスイッチ42に供給される。
【0023】
シャントスイッチ42は、ローパワー信号の入力により、2つのパワーアンプ33、34のうち一方のパワーアンプ34の動作を停止する。
【0024】
また、オートパワーコントロール回路41は、ローパワー信号により、後述のパワーコントロール信号による制御範囲(レンジ)を0〜5Wから0〜1Wに切り換えられる。すなわち、RF回路11のオートパワーコントロール回路41は、ハイパワーモード時には、8ビット(255ステップ)のパワーコントロール信号で送信出力を0〜5Wの範囲に制御するゲイン制御電圧を出力するが、ローパワーモード・Eローパワーモード時には、ローパワー信号により、8ビットのパワーコントロール信号で送信出力を0〜1Wの範囲に制御するゲイン制御電圧を出力するよう切り換えられる。これにより、ローパワーモード・Eローパワーモード時には、8ビットの255ステップを全て使って0〜1Wの範囲を制御すればよくなり、制御の分解能を高くすることが可能になる。図2に示すテーブルに書き込まれている数値もこの制御範囲にあわせた値である。
【0025】
図2は、CPU10が有しているパワーコントロール信号算出テーブルを示す図である。CPU10は、フラッシュメモリ等の記憶手段を備えており、パワーコントロール信号算出テーブルはこの記憶手段に記憶されている。
【0026】
図2(A)〜(D)は、それぞれ、基本テーブル、温度補正テーブル、電源電圧補正テーブルおよび周波数補正テーブルである。各テーブルは、それぞれ、3つのパワーモード、すなわち、ハイパワー、ローパワーおよびEローパワー毎のデータ欄を有している。送信出力によって特性の変化が異なるためである。
【0027】
また、電源電圧補正テーブルおよび周波数補正テーブルでは、パワーモード別のデータ欄がさらに内部温度に応じた高温用データ欄、低温用データ欄に分かれている。高温用データ欄は内部温度が0°C以上のときに用いられ、低温用データ欄は内部温度が0°C未満のときに用いられる。内部温度によって電源電圧,送信周波数による特性変化が大きく異なるため、この実施形態では、このように温度に応じた2つのデータ欄を設けている。なお、データ欄はテーブルは2つに限定されない。
【0028】
図2(A)は、パワーコントロール信号の標準値(Init)およびアジャスト値(Adjust)が記憶された基本テーブルである。標準値はこのトランシーバ1のRF回路11の標準的な機能に基づいて割り出されたパワーコントロール信号値であり製造時に予め書き込まれる数値である。アジャスト値は製造後の調整時に個別の機器のバラツキを補正するための値として書き込まれたものである。標準値にアジャスト値を加算した値がパワーコントロール信号の基準値となる。
【0029】
図2(B)、(C)、(D)は、温度補正テーブル、電源電圧補正テーブル、周波数補正テーブルである。これらのテーブルは、そのときの内部温度、電源電圧、送信周波数によるRF回路11の特性変化を推定し、この特性変化を補償して送信出力を一定に保つための補正値を割り出すためのデータが書き込まれたテーブルである。このテーブルに基づいて割り出された補正値を基準値に加算した値が最終的なパワーコントロール信号の値となる。
【0030】
温度補正テーブルには、温度補正値を割り出すための折れ線グラフのプロット点の温度temp1〜3および折れ線グラフの傾きinc1〜4が、パワーモード別に書き込まれている。電源電圧補正テーブルには、電圧補正値を割り出すための折れ線グラフのプロット点の温度batt1,2および折れ線グラフの傾きVinc1〜3が、各パワーモードの高温時/低温時別に書き込まれている。周波数補正テーブルには、周波数補正値を割り出すための折れ線グラフのプロット点の送信周波数freq1,2および折れ線グラフの傾きFinc1,2が、各パワーモードの高温時/低温時別に書き込まれている。
【0031】
以下、図2(B)の温度補正テーブルのEローパワー欄の数値を例にあげて、補正テーブルを用いた補正値の割り出し手法について説明する。
【0032】
図3(A)は、温度補正テーブル(図2(B))のEローパワー欄の数値に基づき、温度センサ13の出力値を横軸、温度補正値を縦軸にとったグラフである。
【0033】
図2(A)の基準値(Init)が温度センサ13の出力値が0のときの初期値として用いられる。ここから温度センサ13の出力値がtemp1(73)になるまでinc1の傾斜で補正値が推移(増減)する。このtemp1のプロット点から温度センサ13の出力値がtemp2(145)になるまでinc2の傾斜で補正値が推移する。このtemp2のプロット点から温度センサ13の出力値がtemp3(200)になるまでinc3の傾斜で補正値が推移する。なおinc3=0であるため、temp2からtemp3までの区間は補正値は変動しない。また、temp3のプロット点よりも温度センサ13の出力値が大きい領域ではinc4の傾斜で補正値が推移する。
【0034】
CPU10は、温度センサ13からハウジング内部温度の検出値を取得すると、図2(B)の温度補正テーブルの数値を用いて図3(A)の折れ線グラフを示すような演算を行い、その検出値に対応した温度補正値を割り出す。
【0035】
また、図3(B)は、図3(A)のグラフの横軸を温度(摂氏度)に変換したものである。すなわち、温度センサ13の検出値は温度に対してリニアでないため、温度補正値がハウジングの内部温度に対してどのように変化するかの理解を容易にするため、このグラフを示しておく。
【0036】
以下、図4、図5を参照してRF回路11について説明する。図4はRF回路11のブロック図、図5はRF回路11のオートパワーコントロール回路41の概略回路図である。このトランシーバのRF回路11は低い電源電圧(3.7V)で高い送信出力(5W)を得るために、並列に接続された2つのパワーアンプ(PA)33、34を有している。
【0037】
さらに、このRF回路11は以下の回路部を有している。すなわち、VHF帯のキャリア信号を発振するVCO(電圧制御発振器)30、VCO30から出力されたキャリア信号を、パワーアンプ33,34を駆動可能なレベルまで増幅するドライバ(Driver)31、ドライバ31によって増幅されたキャリア信号を2つのパワーアンプ33,34に分配して入力する分配器32、2つのパワーアンプ33,34から出力されたキャリア信号を合成する合成器35、合成器35で合成されたキャリア信号のパワーを検出するパワー(Power)検出部36、増幅されたキャリア信号をアンテナ19に供給するアンテナ回路37、CPU10から入力される8ビットのパワーコントロール信号を電圧値に変換するD/Aコンバータ40、ドライバ31のゲインを調整するオートパワーコントロール(APC)回路41、ローパワーモード時、Eローパワーモード時に第2のパワーアンプ34の動作を停止させるシャントスイッチ(Shunt SW)42を有している。
【0038】
VCO30には、CPU10から送信チャンネル(周波数)を指定するチャンネル選択信号、および、オーディオ回路12から発話音声信号が入力される。VCO30は、チャンネル選択信号で指定されたチャンネルの周波数を発音音声信号でFM変調したキャリア信号を発振する。
【0039】
ドライバ31は、オートパワーコントロール回路41から入力されるゲイン制御電圧に基づき、VCO30から入力されたキャリア信号の増幅ゲインを制御し、パワーアンプ33、34の出力を制御する。
【0040】
分配器32、合成器35は、ともにLC素子で時定数が設定されたウイルキンソン型ハイブリッド回路で構成される。マリン用トランシーバは、使用するバンド幅が狭いため.ストリップラインよりも狭帯域且つ小型化が可能なLC素子を用いている。
【0041】
パワーアンプ33、34は、パワーMOS・FETを有するソース接地型の電力増幅回路である。また、パワーアンプ33、34にもゲイン制御電圧が入力され、所定の空中線電力となるように、パワーアンプ33,34の出力が制御される。
【0042】
第2のパワーアンプ34には、シャントスイッチ42が接続されている。シャントスイッチ42は、パワーアンプ34に対するゲイン制御電圧をシャントしてパワーアンプ34の動作を停止させる回路である。シャントスイッチ42には、CPU10から出力されるローパワー信号が入力される。したがって、第2のパワーアンプ34はローパワーモード、Eローパワーモード時に動作を停止し、パワー増幅段はパワーアンプ33のシングルとなる。
【0043】
パワー検出回路36は、合成器35によって合成されたパワーを検出する。検出したパワー(パワー検出電圧)は、オートパワーコントロール回路41にフィードバック入力される。
【0044】
オートパワーコントロール回路41は、D/Aコンバータ40から入力される(電圧値に変換された)パワーコントロール信号、CPU10から入力されるローパワー信号(LOW)、MUTE信号、パワー検出回路36から入力されるパワー検出信号に基づいてゲイン制御電圧を出力する。上述したように、このゲイン制御電圧は、ドライバ31および2つのパワーアンプ33、34に入力される。電圧値に変換されたパワーコントロール信号がこの発明のパワーコントロール電圧に対応する。
【0045】
図5の概略回路図を参照してオートパワーコントロール回路41についてさらに説明する。オートパワーコントロール回路41はゲイン制御電圧を発生する能動素子として差動増幅回路50を有している。差動増幅器50の非反転入力端子50AにはD/コンバータ40から出力された(電圧値に変換された)パワーコントロール信号(PCON)が分圧抵抗51を介して入力される。非反転端子50Aと接地との間には分圧抵抗52、53が接続されている。分圧抵抗53には直列に半導体スイッチ54が挿入されている。半導体スイッチ54がオンしたとき分圧抵抗53は分圧抵抗52に並列に非反転入力端子50Aと接地との間に挿入される。半導体スイッチ54はCPU10から出力されるローパワー信号によってオンされる。
【0046】
すなわち、パワーモードがローパワー、Eローパワーのとき、CPU10からローパワー信号が出力されて非反転入力端子50A−接地間の抵抗値が低くなって、パワーコントロール信号の分圧比が低くなる。これにより、D/Aコンバータ40から高い電圧が出力されても差動増幅器50の非反転入力端子50Aに入力される電圧値は低く抑えられ、CPU10は、小出力を指示するワーパワーコントロール信号として大きな値を用いることができ高分解能のパワー制御が可能になる。
【0047】
また、差動増幅器50の反転入力端子50Bには、パワー検出回路からパワー検出電圧がフィードバック入力されている。これにより、差動増幅器50は、現在の出力値に基づきパワーアンプ33,34の合成出力が安定するようにゲイン制御電圧を制御する。また、反転入力端子50Bと電源電圧Vccとの間にはMUTEスイッチ56が接続されている。MUTEスイッチ56がオンすると、反転入力端子50BはVccにプルアップされ、非反転入力端子50Aにどんな電圧が入力されてもパワー制御電圧を出力しなくなる。すなわち、ドライバ31、パワーアンプ33、34が休止状態になり、空中線出力は0になる(ミュート状態になる)。
【0048】
MUTEスイッチ56は、CPU10が出力するMUTE信号によってオンされる。MUTE信号はトランシーバが受信状態のとき常に出力されており、送信ボタンがオンされたときのみ停止する。
【0049】
図6、図7のフローチャートを参照してCPU10の動作を説明する。図6(A)はパワーモードの切り換え動作を示すフローチャートである。ユーザによりパワー切換スイッチ152が操作されたとき、この動作が実行される。選択されたパワーモードを記憶する(S1)。選択されたパワーモードがハイパワーであるか、ローパワーまたはEローパワーであるかを判定する(S2)。ハイパワーの場合には、ローパワー信号を停止する(S3)。これにより、第2のパワーアンプ34がオンするとともに、オートパワーコントロール回路41の第2の分圧抵抗53が切り離される。一方、ローパワーまたはEローパワーの場合には、RF回路11に向けてローパワー信号を出力する(S4)。これにより、第2のパワーアンプ34がシャントされるとともに、オートパワーコントロール回路41の第2の分圧抵抗53が接続され、パワーコントロール信号の分圧比が小さくなり、レンジが狭くなり分解能が高くなる。
【0050】
図6(B)はチャンネル切換動作を示すフローチャートである。ユーザによりチャンネル切換スイッチ151が操作されたとき、この動作が実行される。選択されたチャンネルを記憶する(S10)。そしてその選択されたチャンネルを指示するチャンネル選択信号をVCO30に出力する(S11)。これにより、VCO30は選択されたチャンネルの周波数のキャリアを発振するようになる。
【0051】
図7はパワーコントロール信号発生処理を示すフローチャートである。まず、パワーコントロール信号を補正するための情報を収集する。すなわち、温度センサ13から内部温度を取得し(S20)、電圧計14から電源電圧を取得し(S21)、現在選択されている送信チャンネルを読み出す(S22)。次に、そのときのパワーモードに対応する標準値およびアジャスト値を基本テーブル(図2(A))から読み出し(S23)、これらを加算して基準値を算出する(S24)。図2(B)の温度補正テーブルを用い、S20で取得した内部温度に対応する温度補正値を割り出す(S25)。この処理は、図2(B)の温度補正テーブルの値で描かれる折れ線グラフ(図3(A)参照)に内部温度の検出値を当てはめて補正値を割り出す処理である。
【0052】
次に、検出された内部温度が0°C以上であるか否かを判断する(S26)。0°C以上であれば(S26でYES)、電源電圧補正テーブル(図2(C))の対応するパワーモードの高温用データ欄のデータを用いて、そのときの電源電圧に対応する電圧補正値を算出し(S27)、周波数補正テーブル(図2(D))の対応するパワーモードの高温用データ欄のデータを用いて、そのとき選択されている送信チャンネルに対応する周波数補正値を算出する(S28)。
【0053】
一方、検出温度が0°C度未満であれば(S26でNO)、電源電圧補正テーブル(図2(C))の対応するパワーモードの低温用データ欄のデータを用いて、そのときの電源電圧に対応する電圧補正値を算出し(S29)、周波数補正テーブル(図2(D))の対応するパワーモードの低温用データ欄のデータを用いて、そのとき選択されている送信チャンネルに対応する周波数補正値を算出する(S30)。
【0054】
以上の処理で算出された補正値を基準値に加算してパワーコントロール信号の最終値を算出し(S31)、このパワーコントロール信号をRF回路11のD/Aコンバータ40に出力する(S32)。
【0055】
なお、パワーコントロール信号の最終値は、最大値が255になるように正規化されるものとする。また、この実施形態では、各補正値をパワーコントロール信号の基準値に加算して最終値を求めたが、各補正値を係数として求め、パワーコントロール信号の基準値に乗算することによって最終値を求めるようにしてもよい。
【0056】
この実施形態では、船舶通信用のハンディトランシーバ1を例にあげて説明したが、本発明は船舶通信用のハンディトランシーバに限定されない。高い電源電圧を得ることができない高周波回路、または、高出力モードと低出力モードが切り換えられる高周波回路であれば、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 トランシーバ
10 制御部
11 RF回路
13 温度センサ
14 電圧計
15 操作部
33、34 パワーアンプ
41 オートパワーコントロール回路
42 シャントスイッチ
50 差動増幅器
50A 非反転入力端子
50B 反転入力端子
51、52、53 分圧抵抗
54 (分圧抵抗53を分圧回路に接続する)半導体スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を増幅する増幅回路を複数並列に接続し、各増幅回路の出力を合成して空中線に供給する増幅部と、
前記増幅部に低出力の動作をさせるローパワーモード時に、ローパワー信号を出力する制御部と、
前記ローパワー信号によって前記複数の増幅回路のうち一部を停止させる動作抑制回路と、
を備えた高周波回路。
【請求項2】
前記増幅回路は、ゲイン制御電圧によって設定されるゲインで前記高周波信号を増幅し、前記制御部は、前記増幅回路の出力を制御するパワーコントロール電圧を発生し、
さらに、
前記パワーコントロール電圧を所定の分圧比で分圧する分圧回路と、
この分圧されたパワーコントロール電圧に相関させて前記ゲイン制御電圧を発生するゲイン制御電圧発生回路と、
前記ローパワー信号によって前記分圧回路に接続され、前記分圧回路の分圧比を低下させる分圧比変更回路と、
を備えた請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記制御部は、所定ビット数のデジタルデータであるパワーコントロール信号を出力し、このパワーコントロール信号をデジタル・アナログ変換することにより、パワーコントロール電圧を発生させる請求項2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記制御部は、電源電圧に基づいて前記パワーコントロール信号を補正するための補正データを記憶した電圧補正テーブル、送信周波数に基づいて前記パワーコントロール信号を補正するための補正データを記憶した周波数補正テーブルのうち、少なくともいずれか一方を備え、
該補正テーブルは、温度範囲別に複数の補正データを記憶している請求項3に記載の高周波回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−15678(P2012−15678A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148573(P2010−148573)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】