説明

3−アミノチオアクリルアミド誘導体および5−アミノイソチアゾール誘導体の製造方法

【課題】3−アミノチオアクリルアミド誘導体を、環境負荷が少なくて安全で工業的に有利な方法によって簡便かつ高収率に製造する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を塩化マグネシウム存在下に硫化水素ナトリウムと反応させることにより、下記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を製造する。


(Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはヘテロ環基;Wは電子求引性基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料および医薬品等の合成中間体として有用な3−アミノチオアクリルアミド誘導体および5−アミノイソチアゾール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−アミノチオアクリルアミド誘導体および5−アミノイソチアゾール誘導体は、種々の機能性材料や医薬品合成中間体として有用な化合物である。
3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミド類の合成方法として、α−アミノベンジリデンマロノニトリルと硫化水素との反応が知られている(例えば非特許文献1)。しかしながら、この方法を用いた場合、反応を完結させるためには毒性の高い硫化水素が過剰量必要であった。そのため、硫化水素を用いない方法が望まれていた。
また、5−アミノ−3−フェニルイソチアゾール−4−カルボニトリル類の合成方法として、上記合成方法により合成された3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドと過酸化水素との反応が知られている(例えば非特許文献1)。しかしながら、この合成法では3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミド合成系中に過剰量用いた硫化水素が残存しており、残存する硫化水素と過酸化水素との混触による激しい発熱の危険性が伴うため一度単離する必要があり、簡便な手法が求められていた。
一方、ベンゾニトリルを硫化水素ナトリウムと塩化マグネシウムを使用して、ベンゾチオアミドを合成する手法が報告されている(非特許文献2参照)。しかし、ここに示されている基質はベンゾニトリル類のみであり、しかもプロトン性溶媒では低収率であった。
【0003】
【非特許文献1】HETEROCYCLES,Vol.37,No.3,p.1615−1622(1994)
【非特許文献2】Synthetic Communications,Vol.35,p.761−764(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる実情を鑑みてなされたものであり、写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料および医薬品等の合成中間体として有用な3−アミノチオアクリルアミド誘導体および5−アミノイソチアゾール化合物を、環境負荷が少なくて安全で工業的に有利な方法によって簡便かつ高収率に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、合成経路、反応条件等を種々、詳細に検討した結果、上記課題は下記の手段で達成できることを見出した。
【0006】
(1)下記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体を、塩化マグネシウム存在下に硫化水素ナトリウムと反応させることを特徴とする下記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(一般式(1)、(2)において、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、Wは電子求引性基を表す。ここで、一般式(1)および(2)は、Rと−NH2の置換する炭素原子における位置でWとの幾何異性体を包含し、RはWとトランスであってもシスであっても構わない。)
(2)下記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体を、塩化マグネシウム存在下に硫化水素ナトリウムと反応させ、下記一般式(2)で表される化合物を合成した後、該化合物を単離することなく、引き続いて過酸化水素を加えて反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール類の製造方法。
【0009】
【化2】

【0010】
(一般式(1)〜(3)において、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、Wは電子求引性基を表す。ここで、一般式(1)および(2)は、Rと−NH2の置換する炭素原子における位置でWとの幾何異性体を包含し、RはWとトランスであってもシスであっても構わない。)
(3)前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を得る反応の溶媒が、アルコール系溶媒であることを特徴とする(1)または(2)の製造方法。
(4)前記アルコール系溶媒が、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする(3)に記載の製造方法。
(5)前記一般式(1)〜(3)におけるWがシアノ基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料および医薬品等の合成中間体として有用な3−アミノチオアクリルアミド誘導体および5−アミノイソチアゾール化合物を、環境負荷が少なくて安全で工業的に有利な方法によって簡便かつ高収率で製造することができる。
【発明を実地するための最良の形態】
【0012】
本発明の明細書中において、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
以下に、本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法では、硫化水素を使用することなく前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を工業的に製造できる。しかもアルコール系溶媒が使用できることは得られた化合物の取り出し工程、または後の反応工程での化合物の取り出し工程でも有利である。加えて、硫化水素を使用しないため、過酸化水素による酸化反応を一貫して行うことができ、アクリロニトリル誘導体から5−アミノイソチアゾール誘導体を環境負荷が少なく安全で簡便かつ高収率で工業的に有利に製造することが可能である。
【0014】
最初に、本発明における前記一般式(1)、(2)または(3)で表される各々の化合物を詳細に説明する。
Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表す。
上記アルキル基としては、直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でも、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、総炭素数1〜20のアルキル基がさらに好ましい。
具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルオクチル基、2−エチルヘキシル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ベンジル基、フェネチル基、4−クロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、(4−エトキシフェニル)メチル基、N,N−ジエチルカルバモイルメチル基、N,N−ジブチルカルバモイルメチル基、1−(N,N−ジブチルカルバモイル)エチル基、または2−メトキシエチルオキシ基が好ましく、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ノルマルヘキシル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、またはN,N−ジブチルカルバモイルメチル基がより好ましく、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、または2,4−ジクロロベンジル基が特に好ましい。
【0015】
前記シクロアルキル基は、置換基を有していてもよく、総炭素数3〜30のシクロアルキル基が好ましく、総炭素数5〜20のシクロアルキル基がさらに好ましい。
具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルシクロヘキシル基が好ましく、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基がより好ましい。
【0016】
前記アリール基としては、無置換でも置換基を有していてもよく、総炭素数6〜30のアリール基が好ましく、総炭素数6〜20のアリール基がさらに好ましい。
具体的には、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−フェニルフェノキシ基、4−クロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−ブトキシフェニル基、2,4−ジエトキシフェニル基、2,5−ジブトキシフェニル基、4−フェノキシフェニル基、ナフチル基、4−(N,N−ジブチルカルバモイル)フェニル基、または4−(N,N−ジブチルスルファモイル)フェニル基が好ましく、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−ブトキシフェニル基、4−フェノキシフェニル基、4−(N,N−ジブチルカルバモイル)フェニル基、または4−(N,N−ジブチルスルファモイル)フェニル基がより好ましく、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、または4−ブトキシフェニル基が特に好ましい。
【0017】
前記ヘテロ環基としては、ヘテロ環基におけるヘテロ環が、飽和ヘテロ環、不飽和ヘテロ環でもよく、3員環〜10員環のヘテロ環が好ましく、4員環〜8員環のヘテロ環がさらに好ましく、5員環〜7員環のヘテロ環がより好ましく、5員環または6員環のヘテロ環が特に好ましい。ヘテロ環自身を構成するヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が好ましく、これらを1種有していても、同種で複数有していても、異なる種類で複数有していてもよい。
ヘテロ環基におけるヘテロ環は、具体的には、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イソオキサゾール環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、またはトリアジン環が好ましく、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イソオキサゾール環、フラン環、チオフェン環、ピリミジン環、またはトリアジン環より好ましく、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、フラン環、またはチオフェン環が特に好ましい。
【0018】
上記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基およびヘテロ環基が有してもよい置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、またはスルファモイル基が挙げられ、これらの基は複数有してもよい。
【0019】
前記Rとして好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−ブトキシフェニル基、オキサゾール環基、チアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、トリアゾール環基、イソオキサゾール環基、フラン環基、またはチオフェン環基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブトキシフェニル基、チアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、トリアゾール環基、フラン環基、またはチオフェン環基であり、最も好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基、フェニル基、4−クロロフェニル基、または4−ブトキシフェニル基である。
【0020】
Wは電子求引性基を示す。電子求引性基とは、電子効果で電子求引的な性質を有する置換基であり、置換基の電子求引性、電子供与性の尺度であるHammett則の置換基定数σpを用いれば、σp値が0以上の置換基である。Hammett則はベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年にL.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。Hammett則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J.A.Dean編,「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(Mc Graw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)に詳しい。なお、本実施の形態において、各置換基をHammettの置換基定数σpにより限定したり、説明したりするが、これは上記の成書で見出せる、文献既知の値がある置換基にのみ限定されるという意味ではなく、その値が文献未知であってもHammett則に基づいて測定した場合にその範囲内に含まれるであろう置換基をも含むことはいうまでもない。
【0021】
置換基定数σp値として好ましくは0.1〜1.0、より好ましくは0.2〜1.0、最も好ましくは0.3〜1.0である。例えば、シアノ基、ニトロ基、置換および無置換のスルホ基、スルファモイル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基およびトリフルオロメチル基などである。Wとして好ましい置換基は、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基であり、より好ましくはシアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基であり、特に好ましくはシアノ基である。
【0022】
RとWの組み合わせとして好ましくは、Rがメチル基でWがシアノ基、Rがメチル基でWがカルボキシ基、Rがメチル基でWがアルコキシカルボキシ基、Rがtert−ブチル基でWがシアノ基、Rがtert−ブチル基でWがカルボキシ基、Rがtert−ブチル基でWがアルコキシカルボキシ基、Rがフェニル基でWがシアノ基、Rがフェニル基でWがカルボキシ基、Rがフェニル基でWがアルコキシカルボキシ基、Rが4−クロロフェニル基でWがシアノ基、Rが4−クロロフェニル基でWがカルボキシ基、Rが4−クロロフェニル基でWがアルコキシカルボキシ基、Rがフラン環基でWがシアノ基、Rがフラン環基でWがカルボキシ基、Rがフラン環基でWがアルコキシカルボキシ基、Rがチオフェン環基でWがシアノ基、Rがチオフェン環基でWがカルボキシ基、またはRがチオフェン環基でWがアルコキシカルボキシ基であり、より好ましくはRがメチル基でWがシアノ基、Rがメチル基でWがカルボキシ基、Rがtert−ブチル基でWがシアノ基、Rがtert−ブチル基でWがカルボキシ基、Rがフェニル基でWがシアノ基、Rがフェニル基でWがカルボキシ基、Rが4−クロロフェニル基でWがシアノ基、またはRが4−クロロフェニル基でWがカルボキシ基であり、最も好ましくはRがメチル基でWがシアノ基、Rがtert−ブチル基でWがシアノ基、またはRがフェニル基でWがシアノ基である。
【0023】
前記一般式(1)において、Rおよび−NH2の結合手が波線で表示されているのは、一般式(1)が幾何異性体を包含することを示すものである。すなわち、一般式(1)がRおよび−NH2の置換する炭素原子における位置でWとの幾何異性体を包含することを示しており、具体的には、RがWに対してシスの位置に結合していてNH2がWに対してトランスの位置に結合している化合物(すなわち下記一般式(4)で表される化合物)と、RがWに対してトランスの位置に結合していてNH2がWに対してシスの位置に結合している化合物(すなわち下記一般式(5)で表される化合物)を包含することを示している。
なお、前記一般式(2)において、波線で表される結合も同様である。
【化3】

【0024】
前記一般式(1)、(2)または(3)で表される化合物の具体的な化合物例を以下に示すが、本発明を適用することができる化合物はこれらに限定されるものではない。
なお、フェニル基をC65と表す。
【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
本発明は、前記一般式(1)で表される化合物から硫化水素を使用することなく前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を合成するものであり、さらには、該一般式(2)で表される化合物を単離することなく一貫で過酸化水素による酸化反応を行い前記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール誘導体を製造する手法である。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物は、HETEROCYCLES,Vol.37,No.3,p.1615−1622(1994)に記載の方法およびそれに準じた方法で容易に合成できる。
一例としては、トリメチルオルトベンゾエートとマロノニトリルとを反応させた後、アンモニアと反応させてα−アミノベンジリデンマロノニトリルを合成することができる。その他の置換基を有しているものも、このような方法を参考にして類似の合成法で合成することができる。
【0032】
本発明の反応の溶媒としては、前記一般式(1)で表される化合物が溶解し、かつ反応に影響を与えないものであれば、いずれのものを使用してもよい。このような溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−t−ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒の他、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、または水等が好ましい。また、これらの溶媒を2種類以上併用して使用することもできる。より好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒の他、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、または水等である。
特に、取り扱い性、汎用性、コスト、収率、環境負荷の低さの点からしてメタノール等のアルコール系溶媒が最も好ましく、なかでも、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。また、アルコール系溶媒が使用できることは得られた化合物の取り出し工程、または後の反応工程での化合物の取り出し工程でも有利である。
【0033】
溶媒の量は、前記一般式(1)で表される化合物に対し、0.1〜100倍(質量)が好ましく、1〜50倍(質量)がより好ましく、3〜8倍(質量)が特に好ましい。
【0034】
前記一般式(1)で表される化合物と、硫化水素ナトリウムの反応させる比率は(硫化水素ナトリウムのモル数/前記一般式(1)で表される化合物のモル数)が0.8〜3.0であることが好ましく、0.9〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.3であることが最も好ましい。また反応初期から全量混合していなくても最終的に上記の比になるように、分割添加してもよい。
本発明の製造方法においては、トリエチルアミンやアンモニア存在下における硫化水素と比較すると、完全に解離しており求核性が著しく高いSHアニオンを用いている。求核性が著しく高いSHアニオンは、反応サイトの多い一般式(1)で表される化合物においてでさえ選択的にシアノ基を攻撃し、その結果、一般式(2)で表される化合物が得られたものと推定される。
【0035】
前記一般式(1)で表される化合物と、塩化マグネシウムの反応させる比率は(塩化マグネシウムのモル数/前記一般式(1)で表される化合物のモル数)が0.8〜3.0であることが好ましく、0.9〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.3であることが最も好ましい。また反応初期から全量混合していなくても最終的に上記の比になるように、分割添加してもよい。
【0036】
反応温度は、いずれの温度であっても良いが、0℃〜125℃が好ましい。より好ましくは10℃〜70℃であり、さらにより好ましくは20℃〜50℃である。
【0037】
反応時間は反応温度に依存するが、好ましくは5分〜24時間であり、より好ましくは30分〜12時間であり、最も好ましくは1時間〜7時間である。
【0038】
続いて、前記一般式(1)で表される化合物と、硫化水素ナトリウムおよび塩化マグネシウムとを反応させ、前記一般式(2)で表される化合物を合成した後、該化合物を単離することなく、過酸化水素を加え反応させることを特徴とする前記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール化合物を合成する場合の反応条件について詳細に述べる。
【0039】
前記一般式(1)で表される化合物と、硫化水素ナトリウムおよび塩化マグネシウムとを反応させ、前記一般式(2)で表される化合物を合成する。硫化水素ナトリウムと前記一般式(1)で表される化合物の比、塩化マグネシウムと前記一般式(1)で表される化合物の比、溶媒種、溶媒量、反応時間、反応温度は前記一般式(2)で表される化合物形成と同様である。さらに、該化合物を単離することなく、過酸化水素を加え反応させることで、前記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール化合物を合成する。
この際、前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体はトランス体であっても、過酸化水素を加え反応させることで環化反応が進行する。いかなる理論にも拘泥するものではないが、−NH2基とS原子の距離が離れているトランス体であっても、溶液中では前記一般式(2)中のオレフィン部位は共鳴により回転可能であるため反応は進行する。
【0040】
前記一般式(1)で表される化合物と、過酸化水素の反応させる比率は(過酸化水素のモル数/前記一般式(1)で表される化合物のモル数)が0.8〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.3であることがより好ましく、1.2〜1.8であることが最も好ましい。また反応初期から全量混合していなくても最終的に上記の比になるように、分割添加してもよい。
【0041】
反応温度は、いずれの温度であっても良いが、0℃〜125℃が好ましい。より好ましくは20℃〜70℃であり、最も好ましくは30℃〜60℃である。
【0042】
反応時間は反応温度に依存するが、好ましくは1分〜10時間であり、より好ましくは10分〜5時間であり、最も好ましくは10分〜2時間である。
【0043】
本発明の製造方法では、反応系に、反応を促進する効果や、原料や生成物の安定性を向上させる効果などを有する添加剤を併用しても良い。
【0044】
なお、単離することなく、とは、得られた化合物を取り出すことなくとの意味であり、反応後の反応液を別の反応釜に移しても良いが、好ましくは同じ反応釜で製造するのが好ましい。また、反応液を反応した反応釜中で、分液抽出しても構わないが、分液抽出することなく次工程の反応を行うことが好ましい。
【0045】
本発明の一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール誘導体は、写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料および医薬品等の合成中間体として有用で、例えば、特開平6−1081号公報、特開平9−292684号公報に記載のアゾ色素の合成中間体、特開平7−2604号公報、特表2000−502046号公報、特表2000−503307号公報、特表2000−515135号公報、特表2001−508051号公報、特表2001−514175号公報に記載の殺虫剤、殺菌剤他の合成中間体として使用できる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0047】
(実施例1)
アミノエチリデンマロノニトリル280g(2.61mol)および塩化マグネシウム六水和物560g(2.75mol)をメタノール1680mLに分散させ、内温を45℃まで上昇させた。70%硫化水素ナトリウム252g(3.14mol)を水500mLに溶解させた溶液を15分かけて滴下し、その後、内温45℃で5時間撹拌して反応混合物Aを得た。その後、反応混合物Aを酢酸エチルにより抽出、濃縮および単離することにより、3−アミノ−2−シアノ−3−メチルチオアクリルアミドの白色結晶を358g(2.54mol)、97%の収率で得た。
【0048】
【化9】

【0049】
1H−NMR(DMSO−d6)δ:8.98(s,1H),8.51(s,1H),7.68(s,1H),6.80(s,1H),2.21(s,3H)
【0050】
(実施例2)
実施例1と同じ手順により、反応混合物Aを得た。次に、3−アミノ−2−シアノ−3−メチルチオアクリルアミドを単離することなく、反応混合物Aに30%過酸化水素水448mLを注意深く内温が45℃〜55℃の範囲内になるように約1時間かけて滴下し、その後45℃にて1時間撹拌した。反応液を10℃まで冷却し、内温20℃以下で濃塩酸280mLを滴下し、室温で30分撹拌した後、反応液を5℃まで冷却した。析出している結晶を濾取し、冷水で洗浄し乾燥させることで5−アミノ−3−メチルイソチアゾール−4−カルボニトリルの白色結晶を345g(2.47mol)、94%の収率で得た。
【0051】
【化10】

【0052】
1H−NMR(DMSO−d6)δ:7.98(s,2H),2.23(s,3H)
【0053】
(実施例3)
アミノベンジリデンマロノニトリル6.77g(0.04mol)および塩化マグネシウム六水和物8.95g(0.044mol)をメタノール30mLに分散させ、内温を45℃まで上昇させた。70%硫化水素ナトリウム3.36g(0.06mol)を水20mLに溶解させた溶液を滴下し、内温45℃で6時間撹拌して反応混合物Bを得た。その後、反応混合物Bを酢酸エチルで抽出、濃縮および単離することにより、3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドの白色結晶を7.92g(0.039mol)、98%の収率で得た。
【0054】
【化11】

【0055】
1H−NMR(DMSO−d6)δ: 9.13(s,1H),8.84(s,1H),7.93(s,1H),7.55(m,5H),6.95(s,1H)
【0056】
(実施例4)
実施例3と同じ手順により、反応混合物Bを得た。次に、3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドを単離することなく、反応混合物Bに30%過酸化水素水7mLを注意深く内温が45℃〜55℃の範囲内になるように約10分かけて滴下し、その後45℃にて1時間撹拌した。反応液を10℃まで冷却し、内温20℃以下で濃塩酸5mLを滴下し、室温で30分撹拌した後、反応液を5℃まで冷却した。析出している結晶を濾取し、冷水で洗浄し乾燥させることで5−アミノ−3−フェニルイソチアゾール−4−カルボニトリルを8.05g(0.037mol)、93%の収率で得た。
【0057】
【化12】

【0058】
1H−NMR(DMSO−d6)δ:8.15(s,2H),7.80−7.85(m,2H),7.47−7.51(m,3H)
【0059】
(比較例1)
HETEROCYCLES,Vol.37,No.3,p.1615−1622(1994)に記載の方法に従い、5−アミノ−3−フェニルイソチアゾール−4−カルボニトリルを以下のようにして合成した。
アミノベンジリデンマロノニトリル5.07g(0.03mol)およびトリエチルアミン3.03g(0.03mol)をエタノール500mLに分散させ、内温を60℃まで上昇させた。硫化水素ガスを吹き込み、内温60℃のままで3時間撹拌した。その後、濃縮および単離をすることで3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドを5.80g、95%の収率で得た。
得られた3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミド6.10g(0.03mol)をメタノール250mLに分散させ、30%過酸化水素水6.0mLをゆっくり滴下し、一晩撹拌した。その後、反応液を濾過、濃縮することで5−アミノ−3−フェニルイソチアゾール−4−カルボニトリルを5.40g、90%の収率で得た。アミノベンジリデンマロノニトリルからの全工程の収率は86%であった。
【0060】
比較例1において3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドを合成する際、3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドを含有する反応生成物を室温まで冷却してしばらく放置したが、反応液は硫化水素の刺激臭があり、該反応液中に硫化水素ガスが混入していた。このため、反応液中に、窒素ガスを導入(バブリング)し、硫化水素ガスの除去を試みたが、硫化水素ガスを完全に除去することはできなかった。硫化水素と過酸化水素とは混触により激しい発熱反応が起こるため、安全上の理由から硫化水素ガスを除去する必要がある。したがって上記のように、3−アミノ−2−シアノ−3−フェニルチオアクリルアミドを単離することにより、硫化水素を除去してから次の工程に使用した。
【0061】
以上より、本発明の製造方法では、前記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体から硫化水素を使用することなく前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を製造でき、また硫化水素を使用しないため、過酸化水素による酸化反応を一貫して行うことができた。したがって、本発明の製造方法によれば、前記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体から前記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール誘導体を簡便かつ高収率で工業的に有利に製造することが可能である。さらに、硫化水素を全く使用しないことから続く過酸化水素との反応における残留硫化水素濃度についての懸念もなく、安全上も好ましい。
また、実施例1および3より、本発明の製造方法によればメタノールのようなアルコール性溶媒、すなわちプロトン性溶媒を用いた場合であっても、前記一般式(1)から前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を高収率で製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体を、塩化マグネシウム存在下に硫化水素ナトリウムと反応させることを特徴とする下記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体の製造方法。
【化1】

(一般式(1)、(2)において、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、Wは電子求引性基を表す。ここで、一般式(1)および(2)は、Rと−NH2の置換する炭素原子における位置でWとの幾何異性体を包含し、RはWとトランスであってもシスであっても構わない。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体を、塩化マグネシウム存在下に硫化水素ナトリウムと反応させ、下記一般式(2)で表される化合物を合成した後、該化合物を単離することなく、引き続いて過酸化水素を加えて反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表される5−アミノイソチアゾール類の製造方法。
【化2】

(一般式(1)〜(3)において、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、Wは電子求引性基を表す。ここで、一般式(1)および(2)は、Rと−NH2の置換する炭素原子における位置でWとの幾何異性体を包含し、RはWとトランスであってもシスであっても構わない。)
【請求項3】
前記一般式(2)で表される3−アミノチオアクリルアミド誘導体を得る反応の溶媒が、アルコール系溶媒であることを特徴とする請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール系溶媒が、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)〜(3)におけるWがシアノ基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−132639(P2009−132639A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309206(P2007−309206)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】