説明

3次元形状測定方法及び装置並びに3次元形状測定用顕微鏡装置

【課題】段差部を有する鏡面反射性物体の形状を高精度に測定することが可能な3次元形
状測定方法及び装置並びに3次元形状測定用顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】デフレクトメトリの手法を用いて被検面4の局所スロープ情報及び形状情報
を求めた後、投影光学系2による面光源1の共役位置3が記被検面4上に位置するように
設定するとともに、開口絞り22の絞り半径を小さくして、面光源像を被検面4に投影す
る。観察光学系5により観察される面光源画像における歪情報と、先に求めた局所スロー
プ情報及び形状情報に基づき、被検面が有する段差部の段差量情報を求め、その段差量情
報に基づき形状情報を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元形状測定に用いられるデフレクトメトリ(deflectometry)、及び微
細構造を高感度で観察できるマイクロデフレクトメトリ(micro deflectometry)の技術
に関し、特に、被検面の形状を測定するための3次元形状測定方法及び装置、並びに被検
面の微細形状を測定するための3次元形状測定用顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の3次元形状測定には、パターン投影法を含むステレオ計測手法が広く用い
られている。これらは三角測量の原理に基づき、様々な物体の形状を測定するものである
が、鏡面反射性を有する物体の形状測定には適していない。鏡面反射性を有する物体の形
状測定には干渉計が用いられることがあるが、干渉計では、基準とする平面あるいは球面
からの参照光の波面形状と、物体面からの物体光の波面形状との乖離が大きいと干渉縞密
度が高くなりすぎて干渉縞を検出することが困難となるので、測定可能な形状範囲が限ら
れてしまうという問題がある。
【0003】
それに対して、デフレクトメトリは下記非特許文献1に記載されているように、次述す
るような構成及び手法により、鏡面反射性を有する物体の形状を測定することができる。
【0004】
すなわち、まず、周期的な強度分布を有する面光源の像を投影光学系により被検面に投
影する。このとき、投影光学系による面光源の共役位置と被検面との間に所定の間隔が形
成されるように設定しておく。次に、観察光学系のピントを被検面に合わせ、被検面に投
影された面光源像の画像(ピントの外れた画像となる)を取得し、この面光源画像におけ
る歪情報に基づき、被検面の各点における傾斜量を示す局所スロープ情報を求める。そし
て、この局所スロープ情報に基づき被検面の形状情報を求めるものである。
【0005】
また、これらの構成及び手法を顕微鏡装置に適用することによって、微細な3次元構造
の計測を可能にするマイクロデフレクトメトリも提案されている(例えば、下記非特許文
献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.C.Knauer,et.al.“Phase Measuring Deflectometry: a new approach to measure specular free-form surafaces ”Proc. SPIE 5457, 366-376 (2004)
【非特許文献2】G.Hausler,et.al.“Deflectometry: 3D-Metrology from Nanometer to meter ”Opt. Lett. Vol.33, 396-398 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のデフレクトメトリ及びマイクロデフレクトメトリは、被検面上に高さが急激に変
化する部分(以下「段差部」と称する)が存在すると、この段差部の局所スロープ情報を
正しく求めることができないという特性を有しており、このため、段差部を有する被検面
の形状測定においては、段差部の高低差(以下「段差量」と称する)の情報も含めた正確
な形状情報を得ることが難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、段差部を有する鏡面反射性物
体の形状を高精度に測定することが可能な3次元形状測定方法及び装置並びに3次元形状
測定用顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を例示する3次元形状測定方法の一態様は、周期的な強度分布を有する面光源の
像を被検面に投影する投影光学系による前記面光源の共役位置と前記被検面との間に所定
の間隔が形成されるように設定して、前記投影光学系により前記面光源の像を前記被検面
に投影する第1の投影ステップと、前記被検面にピントを合わせた観察光学系により観察
される、前記被検面に投影された前記面光源の像の画像である第1の面光源画像を取得す
る第1の面光源画像取得ステップと、取得された前記第1の面光源画像における歪情報に
基づき、前記被検面の各点における傾斜量を示す局所スロープ情報を求める局所スロープ
情報取得ステップと、求められた前記局所スロープ情報に基づき前記被検面の形状情報を
求める形状情報取得ステップと、を実行した後に、前記投影光学系による前記面光源の共
役位置が前記被検面上に位置するように設定して、前記投影光学系により前記面光源の像
を前記被検面に投影する第2の投影ステップと、前記観察光学系により観察される、前記
被検面に投影された前記面光源の像の画像である第2の面光源画像を取得する第2の面光
源画像取得ステップと、取得された前記第2の面光源画像における歪情報と、前記第1の
面光源画像に基づき求められた前記局所スロープ情報と、該局所スロープ情報に基づき求
められた前記形状情報とに基づき、前記第2の面光源画像の歪情報中に含まれる、前記被
検面が有する段差部の段差量情報を求める段差量情報取得ステップと、求められた前記段
差量情報に基づき前記形状情報を補正する形状情報補正ステップと、を実行することを特
徴とする。
【0010】
また、本発明を例示する3次元形状測定装置の一態様は、周期的な強度分布を有する面
光源と、前記面光源の像を被検面に投影する投影光学系と、前記投影光学系により前記被
検面に投影された前記面光源の像の画像を取得する観察光学系と、前記観察光学系により
取得された前記面光源の像の画像を解析する解析装置と、を備えた3次元形状装置であっ
て、前記投影光学系による前記面光源の共役位置を調整する面光源共役位置調整手段と、
前記投影光学系の絞り半径を調整する絞り調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明を例示する3次元形状測定用顕微鏡装置の一態様は、周期的な強度分布を
有する面光源と、前記面光源の像を前記被検面に投影して該被検面を照明する照明光学系
と、前記照明光学系により前記被検面に投影された前記面光源の像の画像を取得する、対
物レンズを有する観察光学系と、前記観察光学系により取得された前記面光源の像の画像
を解析する解析装置と、を備えた3次元形状測定用顕微鏡装置であって、前記照明光学系
は、前記観察光学系の前記対物レンズを介して前記被検面を照明する同軸落射型のもので
あり、前記照明光学系による前記面光源の共役位置を調整する面光源共役位置調整手段と
、前記照明光学系の絞り半径を調整する絞り調整手段と、前記照明光学系の絞り位置を該
照明光学系の光軸と垂直な方向に調整する絞り位置調整手段と、を備えたことを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、段差部を有する鏡面反射性物体の形状(被検面の形状)を高精度に測
定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る3次元形状測定装置の局所スロープ情報取得時の構成を示す図である。
【図2】図1に示す3次元形状測定装置による形状計測結果(シミュレーション)と真の形状とを対比するグラフを示す図である。
【図3】図1に示す3次元形状測定装置の段差量情報取得時の構成を示す図である。
【図4】段差量の測定原理を説明する図である。
【図5】段差量の測定解析で用いる変数Dの測定値(シミュレーション)のグラフを示す図である。
【図6】段差量の補正を行っていない状態における変数Dの計算値(シミュレーション)のグラフを示す図である。
【図7】段差量の補正を行った状態における変数Dの計算値(シミュレーション)のグラフを示す図である。
【図8】段差量補正後の形状計測結果(シミュレーション)と真の形状とを対比するグラフを示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る3次元形状測定用顕微鏡装置の局所スロープ情報取得時の構成を示す図である。
【図10】図9に示す3次元形状測定用顕微鏡装置の段差量情報取得時の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について上記図面を参照しながら説明する。なお、図1及び図
3においては、方向を示すためのX軸及びZ軸を図示しているが、これら2軸に対し垂直
な方向(紙面と垂直な方向)をY軸方向(紙面奥側が正)と称する。
【0015】
〈第1実施形態〉
図1及び図3に示す第1実施形態に係る3次元形状測定装置は、マクロな鏡面反射性物
体(被検面4)の3次元形状を測定するための態様を例示するものであり、周期的な強度
分布を有するインコヒーレントな面光源1と、この面光源1の像(以下「面光源像」と称
する)を被検面4に投影する投影光学系2と、この投影光学系2により被検面4に投影さ
れた面光源像を観察する観察光学系5と、この観察光学系5により観察される面光源像を
撮像するCCDやCMOS等からなる2次元撮像素子6と、この2次元撮像素子6により
撮像された面光源像の画像を解析する解析装置7を備えてなる。
【0016】
面光源1は、強度分布を制御することが可能な空間変調型の面光源であり、本実施形態
では、一方向に正弦波状の強度分布を有する周期パターンを形成するように構成されてい
る。この面光源1は、例えば、ランプ、パターンマスク等で構成される。パターンマスク
の場合は、透過型の液晶素子等で構成され、電気信号によって強度分布を制御できるよう
に構成される。また、面光源1は、ステージ等からなる面光源共役位置調整手段11によ
り、投影光学系2に対して移動可能に支持されており、投影光学系2に対する面光源1の
位置を変えることにより、投影光学系2による面光源1の共役位置を調整することが可能
となっている。
【0017】
投影光学系2は、複数のレンズ(2つのレンズ21,23を例示)と、開口絞り22と
、この開口絞り22の絞り半径を調整する絞り調整手段24を備えている。この投影光学
系2は、大きな結像NAを有しており、絞り調整手段24により開口絞り22の絞り半径
を調整することによって、結像NAを調節することが可能に構成されている。
【0018】
観察光学系5は、複数のレンズ(2つのレンズ51,53を例示)と開口絞り52を備
えており、被検面4の像を2次元撮像素子6上の撮像面に形成するように構成されている

【0019】
次に、本発明に係る3次元形状測定方法の一実施形態について説明する。以下では、上
述の第1実施形態に係る3次元形状測定装置に適用した場合を例にとって説明するが、後
述する第2実施形態に係る3次元形状測定用顕微鏡装置に対しても同様に適用することが
可能である。
【0020】
まず、面光源共役位置調整手段11により投影光学系2に対する面光源1の位置を調整
することによって、投影光学系2による面光源1の共役位置3と被検面4との間に所定の
間隔が形成されるように設定し、投影光学系2により面光源像を被検面4に投影する(第
1の投影ステップ)。このとき、投影光学系2の開口絞り22は、絞り調整手段24によ
り絞り半径が大きく設定されており、これにより、投影光学系2のNAが大きくなり、横
分解能が高められる。
【0021】
次に、観察光学系5のピントを被検面4に合わせ、被検面4に投影された面光源像を観
察光学系5によって取り込み、その面光源像の画像(以下「第1の面光源画像」と称する
)を2次元撮像素子6により撮像する(第1の面光源画像取得ステップ)。投影光学系2
による面光源1の共役位置3が被検面4から離れているため、2次元撮像素子6により撮
像される第1の面光源画像はボケ像となる。
【0022】
次いで、解析装置7において、取得された第1の面光源画像の歪情報に基づき、被検面
4の各点における傾斜量を示す局所スロープ情報を求め(局所スロープ情報取得ステップ
)、さらに、求められた局所スロープ情報に基づき被検面4の形状情報を求める(形状情
報取得ステップ)。
【0023】
以上の手順は、従来のデフレクトメトリにおいて行われる手順と同じである。なお、デ
フレクトメトリには定性的に、面光源1の共役位置3と被検面4との間隔が大きいほど、
また、面光源1の周期パターンのピッチが小さいほど、感度及び分解能が高くなるが、面
光源1の共役位置3と被検面4との間隔を大きくし、かつ面光源1の周期パターンのピッ
チを小さくすると、撮像される面光源像の周期パターンのボケがひどくなり、S/Nが低
下するというトレードオフの関係がある。このため、このトレードオフの関係に基づき、
面光源1の周期パターン(正弦波状の強度分布)のピッチと、面光源1の共役位置3と被
検面4との間隔を、適宜調整することが好ましい。
【0024】
上述の局所スロープ情報及び形状情報を求める手法は従来公知のものと同様であるが、
その原理は以下の通りである。
【0025】
すなわち、被検面4が完全な平面形状の場合には、正弦波状の強度分布をもつ面光源1
のボケ像に歪はなく、面光源1と同じ位相をもった像が形成される(正弦波状の強度分布
はボケてもその位相は保存される性質を利用している)。これに対し、被検面4が平面形
状からずれている場合、被検面4の各点における傾斜量に対応して面光源像が歪むことに
なる。その歪み状態を解析することにより被検面4の局所スロープ情報を求めることがで
きる。
【0026】
具体的には、観察光学系5において、被検面4上の各点からの主光線の方向と、被検面
座標(被検面4上に設定された座標)と検出面座標(2次元撮像素子の撮像面上に設定さ
れた座標)との対応関係は、観察光学系5の設計値あるいは校正によって既知となる。さ
らに、投影光学系2により形成される面光源1の像(共役位置3での面光源像)の横座標
(X軸方向及びY軸方向の位置)と、被検面4及び2次元撮像素子6の各横座標との対応
関係は、撮像された第1の面光源画像における周期パターンの歪みから求められるので、
共役位置3での面光源像から被検面4上の各点に向かう光線方向も求まることになる。被
検面4の各点に対して、入射光、射出光の方向が求まるので、各座標における被検面4の
傾斜量を求めることが可能となる。
【0027】
なお、高精度な測定を行うためには、面光源1の正弦波状の強度分布の位相を、例えば
、0、π/2、π、3π/2と変えて測定を行い、測定毎に撮像された面光源像の画像デ
ータに対し、周知の位相シフト法を用いて解析することが好ましい。また、被検面4の形
状情報を求めるためには、直交する2方向の各々に沿った局所スロープ情報を求める必要
があるので、面光源1で形成する強度分布のパターンの方向をX軸方向に揃えた場合とY
軸方向に揃えた場合との計2セットのデータ取得を行い、画像解析を行う。画像解析によ
って求めたX軸方向及びY軸方向の2方向の局所スロープ情報を積分することにより、被
検面4の形状情報を求めることができる。
【0028】
以上の手順により求められる被検面4の形状情報のシミュレーション結果を図2(縦軸
及び横軸の数値は無単位。以下の図5〜図8において同じ)に示す。被検面4は段差部を
有する形状に設定してある。図2において、点線で表されているのが、予め設定した被検
面4の真の形状であり、実線で表されているのが、シミュレーションで得られた計測結果
である。図2に示すように、これまでのデフレクトメトリにおける測定手法では、段差部
おける局所スロープ情報を正しく求めることができず、その結果、計測データの段差部(
図中の実線が分離した部分)に誤差が重畳してしまうことが分かる。
【0029】
次に、本発明に係る3次元形状測定方法の特徴部分である、段差部の段差量情報を求め
る手順に移る。
【0030】
まず、図3に示すように、面光源1の位置を光軸方向にシフトさせることにより、投影
光学系2による面光源1の共役位置が被検面4上に位置するように設定するとともに、図
1に示す態様との比較において、投影光学系2の開口絞り22の絞り半径を小さくして、
投影光学系2により面光源像を被検面4に投影する(第2の投影ステップ)。
【0031】
開口絞り22の絞り半径を小さくすることにより、被検面4への入射光束の指向性が高
くなり、その結果、段差部に対する測定感度は高くなる。一方、開口絞り22の絞り半径
を小さくすると、投影光学系2のNAが小さくなるため、面光源1の周期パターンのピッ
チ(正弦波状の強度分布の周期)を小さくすると解像度が低下してしまう。そこで、被検
面4の形態や、投影光学系2及び観察光学系5の条件等によって、面光源1の周期パター
ンのピッチを必要に応じて適宜変更することが好ましい。
【0032】
次に、観察光学系5のピントを被検面4に合わせ、被検面4に投影された面光源像を観
察光学系5により取り込み、その面光源像の画像(以下「第2の面光源画像」と称する)
を2次元撮像素子6により撮像する(第2の面光源画像取得ステップ)。
【0033】
次いで、解析装置7において、取得された第2の面光源画像における歪情報と、先に、
第1の面光源画像に基づき求められた上述の局所スロープ情報と、この局所スロープ情報
に基づき求められた上述の形状情報とに基づき、第2の面光源画像の歪情報中に含まれる
、被検面4が有する段差部の段差量情報を求める(段差量情報取得ステップ)。この段差
量情報取得ステップにおける具体的手順は、以下の通りである。
【0034】
まず、上記第2の面光源画像における歪情報に基づき、被検面4の各点における高さ量
及び傾斜量との間に所定の関係式(後述する式(4))が成立する所定の変数(後述する
D)の計測値(後述するD(x2))を求める(変数計測値取得ステップ)。
【0035】
次に、上記第1の面光源画像に基づき求められた上述の局所スロープ情報と、この局所
スロープ情報に基づき求められた上述の形状情報と、上記所定の関係式とに基づき、上記
所定の変数Dの計算値(後述するDa(x2)及びDb(x2))を求める(変数計算値取得
ステップ)。そして、上記所定の変数の計測値と計算値との差に基づき、被検面4が有す
る段差部の段差量を算出する(段差量算出ステップ)。
【0036】
この段差量情報取得ステップの終了後、求められた段差量情報に基づき、上述の形状情
報を補正し(形状情報補正ステップ)、段差部を含めた被検面4の形状情報を求める。
【0037】
ここで、上述の段差量算出ステップにおいて段差量を算出する原理について、図4を参
照しながら説明する。図4では、被検面4の、X軸方向に沿った断面の一部を太い曲線で
示している。また、投影光学系2の投影角度(投影光学系2の光軸とZ軸とのなす角度)
をφ、被検面4上の任意の点Qにおける傾き量をθ、高さ量をf(x1)で示している。
さらに、X軸上に、投影光学系2による面光源1の共役位置と観察光学系5のピント合致
位置が位置するものとし、このX軸を含む紙面に垂直な平面を基準面としている。
【0038】
図4において、角度φで被検面4上の点Q(x1,f(x1))に入射した光線は、矢印
Kの方向に反射される。この光線の2次元撮像素子6への入射位置は、基準面上での点R
(xz,0)に対応する。一方、被検面4が理想的な平面(基準面)で形成されていた場
合、上記光線の2次元撮像素子6への入射位置は、基準面上での点P(x0,0)に対応
する。すなわち、被検面4上の点Qにおける高さ量f(x1)と傾斜量θによって、点P
から点Rへと座標がシフトし、これにより面光源像における正弦波状の強度分布が歪みを
持つことになる。したがって、この歪み量を解析することにより、点Pから点Rへのシフ
ト量を表す変数Dの計測値D(x2)(=x2−x1)を求めることができる。今回のシミ
ュレーションで与えた被検面4の形状に対しては、図5に示すようなD(x2)のグラフ
(曲線)が得られる。なお、ここでも、上述の位相シフト法を適用することにより、高精
度に歪み量を検出することが可能となり、D(x2)の計測精度も高くすることができる

【0039】
上述のx0,x1,x2,φ,θ,f(x1)の間には、下記の式(1)、式(2)の関係
が成立する。また、θは、f(x1)の微分値f´(x1)として表せるので、下記の式(
3)の関係が成立する。したがって、上記計測値D(x2)と、被検面4上の点Qにおけ
る高さ量f(x1)と傾斜量θ(=f´(x1))との間には、下記の式(4)の関係が成
立する。
【0040】
【数1】

【0041】
一方、上述の局所スロープ情報取得ステップにおいて求められた被検面4の局所スロー
プ情報(詳細には被検面4上の各点における傾斜量)をθ、上述の形状情報取得ステッ
プにおいて求められた被検面4の形状情報(詳細には被検面4上の各点における高さ量)
をfm(x1)とすると、θmとfm(x1)との間には下記の式(5)の関係が成立する。
【0042】
θmとfm(x1)は、段差部を除いては、被検面4の情報を正しく示しているので、段
差部の手前までの被検面4の形状は下記の式(6)により、段差部の後の被検面4の形状
は下記の式(7)により、それぞれ表すことができる。ここで、式(6)中の定数Ca
式(7)の定数Cbは、積分の初期値であるとともに、段差部の補正に関わる補正定数で
ある。
【0043】
【数2】

【0044】
式(5)〜式(7)の関係を、式(4)にあてはめることにより、上記変数Dの計算値
a(x2)、Db(x2)を算出することができる。算出されたDa(x2)、Db(x2)と
、上記計測値D(x2)との差が最小となるように、補正定数Ca、Cbの値を決定し、決
定された補正定数Ca、Cbの値を、式(6)及び式(7)に代入することにより、段差量
が補正された被検面4の形状情報を求めることができる。
【0045】
補正定数Ca、Cbの値を決定する前の計算値Da、Dbは、図6に示す曲線となるが、値
を決定した後は図7に示す曲線となる。また、段差量が補正された被検面4の形状計測結
果も図8に示すように真の形状に近づくことが確かめられた。
【0046】
〈第2実施形態〉
図9及び図10に示す本発明の第2実施形態に係る3次元形状測定用顕微鏡装置は、ミ
クロな鏡面反射性物体(被検面4)の3次元形状を測定するための顕微鏡への適用態様を
例示するものであり、周期的な強度分布を有するインコヒーレントな面光源1と、この面
光源1の像(面光源像)を被検面4に投影する照明光学系2A(投影光学系としても機能
する)と、この照明光学系2Aにより被検面4に投影された面光源像を観察する観察光学
系5と、この観察光学系5により観察される面光源像を撮像するCCDやCMOS等から
なる2次元撮像素子6と、この2次元撮像素子6により撮像された面光源像の画像を解析
する解析装置7を備えてなる。
【0047】
上述の第1実施形態と同様、面光源1は、ステージ等からなる面光源共役位置調整手段
11により、照明光学系2Aに対して移動可能に支持されており、照明光学系2Aに対す
る面光源1の位置を変えることにより、照明光学系2Aによる面光源1の共役位置を調整
することが可能となっている。
【0048】
観察光学系5は、複数のレンズ(対物レンズOLとレンズ53を例示)と開口絞り52
を備えており、被検面4の像を2次元撮像素子6上の撮像面に結像させるように構成され
ている。また、観察光学系5の光軸上にはビームスプリッタBSが配置されている。
【0049】
照明光学系2Aは、観察光学系5の対物レンズOLを介して被検面4を照明する同軸落
射型のものであり、レンズ21及び開口絞り22を介して図中左方に導いた面光源1から
の光線を、ビームスプリッタBSにより対物レンズOLに導き、面光源像を投影するよう
に構成されている。また、この照明光学系2Aは、開口絞り22の絞り半径を調整する絞
り調整手段24と、開口絞り22の絞り位置を照明光学系2Aの光軸と垂直な方向に調整
する絞り位置調整手段25を備えている。
【0050】
被検面4の局所スロープ情報を求める場合の構成及び手順は、上述の第1実施形態と同
様であるが、本実施形態の場合、傾斜量の検出感度が半減することに注意する必要がある
(前掲の非特許文献2を参照)。
【0051】
被検面4の段差量情報を求める場合には、図10に示すように、面光源1の位置を光軸
方向にシフトさせることにより、照明光学系2Aによる面光源1の共役位置が被検面4上
に位置するように設定するとともに、図9に示す態様との比較において、照明光学系2A
の開口絞り22の絞り半径を小さくして、照明光学系2Aにより面光源像を被検面4に投
影する。この点は、上述の第1実施形態と同様である。ただし、本実施形態の場合、開口
絞り22の絞り半径を小さくするだけではなく、面光源1の周期パターンに対し垂直な方
向(図10では下方)に絞り位置をシフトさせ、このシフト操作によって被検面4への照
明光の入射角を制御する。被検面4の段差量情報を求める解析方法や原理は上述の第1実
施形態と同様である。
【符号の説明】
【0052】
1 面光源
2 投影光学系
2A 照明光学系
3 (面光源の)共役位置
4 被検面
5 観察光学系
6 2次元撮像素子
7 解析装置
11 面光源共役位置調整手段
22,52 開口絞り
24 絞り調整手段
25 絞り位置調整手段
OL 対物レンズ
BS ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な強度分布を有する面光源の像を被検面に投影する投影光学系による前記面光源
の共役位置と前記被検面との間に所定の間隔が形成されるように設定して、前記投影光学
系により前記面光源の像を前記被検面に投影する第1の投影ステップと、
前記被検面にピントを合わせた観察光学系により観察される、前記被検面に投影された
前記面光源の像の画像である第1の面光源画像を取得する第1の面光源画像取得ステップ
と、
取得された前記第1の面光源画像における歪情報に基づき、前記被検面の各点における
傾斜量を示す局所スロープ情報を求める局所スロープ情報取得ステップと、
求められた前記局所スロープ情報に基づき前記被検面の形状情報を求める形状情報取得
ステップと、を実行した後に、
前記投影光学系による前記面光源の共役位置が前記被検面上に位置するように設定して
、前記投影光学系により前記面光源の像を前記被検面に投影する第2の投影ステップと、
前記観察光学系により観察される、前記被検面に投影された前記面光源の像の画像であ
る第2の面光源画像を取得する第2の面光源画像取得ステップと、
取得された前記第2の面光源画像における歪情報と、前記第1の面光源画像に基づき求
められた前記局所スロープ情報と、該局所スロープ情報に基づき求められた前記形状情報
とに基づき、前記第2の面光源画像の歪情報中に含まれる、前記被検面が有する段差部の
段差量情報を求める段差量情報取得ステップと、
求められた前記段差量情報に基づき前記形状情報を補正する形状情報補正ステップと、
を実行することを特徴とする3次元形状測定方法。
【請求項2】
前記第2の投影ステップでは、前記第1の投影ステップのときと比較して、前記投影光
学系の絞り半径を小さくする、ことを特徴とする請求項1に記載の3次元形状測定方法。
【請求項3】
前記段差量情報取得ステップは、
前記第2の面光源画像の歪情報に基づき、前記被検面の各点における高さ量及び傾斜量
との間に所定の関係式が成立する所定の変数の計測値を求める変数計測値取得ステップと

前記第1の面光源画像に基づき求められた前記局所スロープ情報と、該局所スロープ情
報に基づき求められた前記形状情報と、前記所定の関係式と基づき、前記所定の変数の計
算値を求める変数計算値取得ステップと、
前記所定の変数の前記計測値と前記計算値との差に基づき、前記被検面が有する段差部
の段差量を算出する段差量算出ステップと、を含むことを特徴とする請求項1または2に
記載の3次元形状測定方法。
【請求項4】
周期的な強度分布を有する面光源と、
前記面光源の像を被検面に投影する投影光学系と、
前記投影光学系により前記被検面に投影された前記面光源の像の画像を取得する観察光
学系と、
前記観察光学系により取得された前記面光源の像の画像を解析する解析装置と、を備え
た3次元形状装置であって、
前記投影光学系による前記面光源の共役位置を調整する面光源共役位置調整手段と、
前記投影光学系の絞り半径を調整する絞り調整手段と、を備えたことを特徴とする3次
元形状測定装置。
【請求項5】
前記投影光学系の前記被検面側の光軸と前記観察光学系の前記被検面側の光軸とが互い
に一致する同軸光学系として構成され、
前記投影光学系の絞り位置を該投影光学系の光軸と垂直な方向に調整する絞り位置調整
手段を備えている、ことを特徴とする請求項4に記載の3次元形状測定装置。
【請求項6】
周期的な強度分布を有する面光源と、
前記面光源の像を前記被検面に投影して該被検面を照明する照明光学系と、
前記照明光学系により前記被検面に投影された前記面光源の像の画像を取得する、対物
レンズを有する観察光学系と、
前記観察光学系により取得された前記面光源の像の画像を解析する解析装置と、を備え
た3次元形状測定用顕微鏡装置であって、
前記照明光学系は、前記観察光学系の前記対物レンズを介して前記被検面を照明する同
軸落射型のものであり、
前記照明光学系による前記面光源の共役位置を調整する面光源共役位置調整手段と、
前記照明光学系の絞り半径を調整する絞り調整手段と、
前記照明光学系の絞り位置を該照明光学系の光軸と垂直な方向に調整する絞り位置調整
手段と、を備えたことを特徴とする3次元形状測定用顕微鏡装置。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−24737(P2013−24737A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160102(P2011−160102)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】