説明

3次元成形回路部品の製造方法

【課題】枠型の基体の上側表面、下側表面、及び内壁の面に跨る導電性回路と、この基体の外壁の全表面に亘たるシールド層とを同時に形成する。
【解決手段】絶縁材からなる枠型の基体1の表面に導電性回路2となる部分及びシールド層3となる部分を残して被覆材6を射出成形し、触媒付与後に、この被覆材を溶出除去する。被覆材6で覆われていなかった部分に、無電解めっきを選択的に行なう。導電性回路2となる部分は、基体1の周囲壁12の上側表面12a、下側表面12b、及び内壁面12cに金型の内側面を当接させて、被覆材6で覆われないようにして形成する。シールド層3は、基体1の外壁面12dの全表面に金型の内側面を当接させて、被覆材6で覆われないようにして形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元成形回路部品の製造方法に関し、特に枠型の基体の上側表面と内側表面と下側表面とに跨る導電性回路、及びこの基体の外周表面を覆うシールド層を有する3次元成形回路部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層からなる導電性回路を選択的に形成する、成形回路部品の製造方法が各種提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
また近年において大容量の画像データの伝送が増えるに従い、上記導電性回路を流れる伝送信号速度は、KHz〜MHz帯から、GHz以上の高速に移行している。ところが伝送信号速度が高速になると、導電性回路からの電磁波(ノイズ)が漏洩して、混線(クロストーク)が発生するという問題がある。
【0004】
そこで、この電磁波(ノイズ)の漏洩を防止して、混線(クロストーク)を回避する手段として、導電性回路を形成した成形回路部品を、シールド層で囲む手段が提案されている(例えば特許文献2参照。)。この手段は、その明細書の段落「0122」と、添付図面8とに記載されているように、四角形の枠形状のシート状基体10の上側表面10aと、下側表面10bと、内壁面となる側面10cに跨る導電性回路からなる配線20が形成してあり、このシート状基体の外周面には、金属箔等からなるシールド層45が設けてある。
【0005】
上記成形回路部品は、2層の回路基板の間に挿着して、これらの回路基板にそれぞれ形成された電子回路を相互に接続する接続部材であって、その外周をシールド層によって取り囲むものである。すなわち外周をシールド層で取り囲むと、2層の回路基板を接続する導電性回路を外周に重ねて設けることができなくなるため、接続部材を枠形状にして、この枠形状の内側に導電性回路を設けて、2層の回路基板を接続するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−145583号公報
【特許文献2】特開2006−40870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに上述した特許文献2では、上側表面と下側表面と内壁面とに跨る導電性回路は、導電性回路を積層した熱硬化性樹脂フィルムを、半硬化状態にして折りたたんだり、連結したりして成形される。したがって、工程が多くかつ複雑となると共に、歩留まりも低く、製造コストが高くなるという問題がある。また熱硬化性樹脂フィルムが厚い場合には、折りたたんだときに、表面に積層した導電性回路が伸ばされて破損し易くなり、あるいは熱硬化性樹脂フィルムの折れ曲がり部分が圧縮されて変形して、折れ曲がり後の上下幅を精度良く成形することが困難となる。したがって上述した特許文献2では、上下幅が厚い成形回路部品を成形することは困難であり、2層の回路基板の間隔が広い場合には適用が難しい。
【0008】
そこで本発明の目的は、枠型の基体の上側表面、内壁面、及び下側表面に跨る導電性回路と、この基体の外壁の全表面に亘たるシールド層とを、同時に形成する3次元成形回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による3次元成形回路部品の製造方法の特徴は、絶縁材からなる枠型の基体の表面に導電性回路となる部分及びシールド層となる部分を残して被覆材を射出成形し、この導電性回路となる部分及びシールド層となる部分にめっきするものであって、この導電性回路となる部分は、この枠型の基体の上側表面、下側表面、及びこれらを連結する内壁面に跨って相互に連結するように形成され、このシールド層となる部分は、この枠型の基体の外壁面の全表面に亘って形成されることにある。上記枠型の基体は、熱可塑性樹脂を射出成形して成形されることが望ましい。
【0010】
ここで「絶縁材からなる枠型の基体」の「絶縁材」とは、基体自体が絶縁性の材料からなる場合に限らず、導電性の部材の表面を絶縁性の材料によって覆ったものも含まれる。「枠型」とは、開口孔の周囲を壁で取囲んだ形状を意味する。以下、この開口孔を取り巻く壁の内周面を「内壁面」、この壁の外周面を「外壁面」、この壁の上面を「上側表面」、この壁の下面を「下側表面」という。また「枠型」の外周及び開口孔の形状は問わない。外周及び開口孔が共に矩形形状、多角形形状、円形形状、若しくは楕円形状の場合、外周と開口孔との形状が異なる場合、またはこれらの形状の開口孔が複数個である場合等も含む。
【0011】
また「基体」は、シート状の部材に限らず、板状の部材、あるいはブロック状の部材も含む。「導電性回路となる部分にめっきする」の「めっき」には、無電解めっきの他、無電解めっきの表面に電解めっきを積層する場合も含む。
【発明の効果】
【0012】
絶縁材からなる枠型の基体の表面に導電性回路となる部分及びシールド層となる部分を残して被覆材を射出成形し、この被覆材で覆われていない基体の表面をめっきすることによって、この枠型の基体の上側表面、下側表面、及びこれらを連結する内壁の表面に跨って相互に連結する導電性回路、及びこの基体の外壁の全表面に亘るシールド層を、同時にかつ低コストで形成することができる。また基体の表面に被覆材を射出成形することによって、高密度の導電性回路を正確に形成することができる。さらに導電性回路及びシールド層を備え、かつ上下幅の大きい3次元成形回路部品を、容易かつ高精度で製造することができる。
【0013】
熱可塑性樹脂を射出成形して成形することによって、枠型の基体を容易、かつ高精度で成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】枠型の基体の表面に導電性回路とシールド層とを形成した3次元成形回路部品の斜視図である。
【図2】枠型の基体の斜視図である。
【図3】枠型の基体の表面に被覆材を射出成形した場合の斜視図である。
【図4】枠型の基体の表面に被覆材を射出成形した場合の一部上面図である。
【図5】金型内において枠型の基体の表面に被覆材を射出成形した場合の断面図である。
【図6】金型内において枠型の基体の表面に被覆材を射出成形した場合の他の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図6を参照しつつ、本発明による3次元成形回路部品の製造方法を説明する。まず最初に、この3次元成形回路部品の構成を説明する。図1に示すように、3次元成形回路部品は、枠型の基体1の表面に、めっきによって導電性回路2及びシールド層3等を形成したものである。基体1は、2つの開口孔11、11の周囲を周囲壁12で取囲む枠型であって、この2つの開口孔の間には、中央壁13が設けてある。なお周囲壁12の外周と、開口孔11、11とは、それぞれ矩形形状を有している。また周囲壁12の上側表面12aと下側表面12bとは、互いに平行になっている。
【0016】
周囲壁12の上側表面12aと下側表面12bと内壁面12cとには、上側回路2aと下側回路2bと内壁回路2cとが、それぞれ形成してあり、これらは相互に連結して、全体で導電性回路2を構成している。基体1の周囲壁12の外壁面12dの全表面には、シールド層3が形成してある。なお中央壁13の中央部分には、上側表面13aと下側表面13bとに、それぞれ上側導電性回路4と下側導電性回路4とが形成してある。また周囲壁12の中央壁13に対向する部分14、14の中央部には、その上側表面14aと下側表面14bと内壁面14cとを跨ぐシールド延伸層延伸5、5がそれぞれ設けてあり、これらのシールド延伸層は、周囲壁12の外壁面12dに形成したシールド層3と連結している。
【0017】
次に図2〜図6を参照しつつ、上述した3次元成形回路部品の製造方法を説明する。初めに図2に示す枠型の基体1を、合成樹脂を用いて射出成形する。なお合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が望ましいが、熱硬化性樹脂であってもよい。かかる合成樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。なお基体1を射出成形する合成樹脂には、必要に応じて無機フィラー等を混合してもよい。
【0018】
次の工程において、基体1の表面を粗化する。基体1の表面に小さな凹凸を形成し、アンカー効果によって、後工程における無電解めっきの密着性を向上すると共に、親水性を付与するためである。具体的には、まず枠型の基体1を、トリクロルエチレン等の溶剤や、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液によって脱脂処理する。次に例えば、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、アルコール性ナトリウム、アルコール性カリウム等のアルカリ金属アルコラートの水溶液、またはジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して、これらの液を基体1の表面に塗布したり、これらの液中にこの基体を浸漬したりして表面をエッチングする。
【0019】
次の工程として、図3に示すように、基体1の粗化した表面を被覆材6で被覆する。被覆材6は、基体1の表面であって導電性回路2、4となる部分、シールド延伸層5となる部分、及びシールド層3となる部分を残して被覆する。なお被覆材6で覆われない部分は、後述する工程で無電解めっきをする部分であるため、図3において明示すべくハッチングを付している。なおこのハッチングで示す部分は、後述する金型の内側面が隙間なく基体1の表面に当接する部分であって、金型内において被覆材6を射出成形する際に、この基体の表面と金型の表面との間に、この被覆材が侵入しない部分となっている。
【0020】
図4に、被覆材6で被覆した基体1の一部を、上方から見た場合を示す。すなわち基体1の円周壁12に形成する導電性回路2は、上側表面12aと、下側表面12bだけでなく、内壁面12cにも跨っているため、この内壁面において内壁回路2cとなる部分が、被覆材6で覆われないようにする。つまり内壁回路2cとなる部分は、図4に示すように、被覆材6の上下面を貫通する開口孔61が開口している。すなわち金型の一部が開口孔61を貫通し、金型内に射出成形した被覆材6が、この開口孔に侵入しないようになっている。中央壁13については、上側表面13aと下側表面13bとだけに、上側導電性回路4と下側導電性回路4とを形成し、内壁面13cには、導電性回路を設けないため、この上側導電性回路と下側導電性回路となる部分のみ被覆材6で覆わない。なお中央壁13cに対向する部分14には、内壁面14cにも、シールド延伸層5を跨って形成するため、上述した内壁回路2cとなる部分と同様に、被覆材6の上下面を貫通する開口孔62が開口している。
【0021】
被覆材6としては、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂を使用する。後述する工程において、この被覆材を容易に除去できるようにするためである。なお被覆材6としては、アルカリ水溶液によって容易に加水分解できる高分子材料であるポリグリコール酸、ポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体若しくは共重合体を使用してもよい。被覆材6は、基体1を上金型Aと下金型Bとの間に形成したキャビティ内に収納し、この基体の開口孔11、11部分に、熱可塑性樹脂を射出成形する。以下被覆材6の射出成形について詳述する。
【0022】
図5は、金型内において、基体1の表面に被覆材6を射出成形した場合であって、図3における断面A−A、すなわち周囲壁12の一辺を切断した断面等を示している。基体1の周囲壁12の上側表面12aと下側表面12bであって、上側導電性回路2aと上側導電性回路2bとになる部分には、上金型Aの下面と下金型Bの上面とに、それぞれ突設した突起部A1、B1の先端が、この周囲壁の上側表面と下側表面とに当接して密着している。そして突起部A1、B1に隣接する部分には、被覆材6を射出形成するキャビティA2,B2が、それぞれ上金型Aの下面と下金型Bの上面とに設けられている。また基体1の外壁面12dには、下金型Bが当接して密着し、この外壁面が被覆材6で覆われないようにしている。
【0023】
図6は、金型内において、基体1の表面に被覆材6を射出成形した場合であって、図3における断面B−B、すなわちこの基体の開口孔11、11を前後に2分した断面等を示している。基体1の中央壁13の上側表面13aと下側表面13bとは、それぞれ導電性回路4を形成する部分であるため、上金型Aの下面と下金型Bの上面とに、それぞれ突設した突起部A3、B3の先端が、この中央壁の上側表面と下側表面とに当接して密着している。中央壁13に対向する部分14、14は、上側表面13aと内壁面13cと下側表面13bとには、これらを跨いでシールド延伸層5が形成されるため、上金型Aの下面と、下金型Bの上面及び突起部B5とが、このシールド延伸層が形成される部分に当接して密着している。
【0024】
中央壁13の両側の内壁面13cには、導電性回路が形成されないため、この内壁面と、上述した下金型Bの突起部B5との間、すなわち図1に示した基体1の開口孔11、11に相当する部分には、上金型Aに設けた湯道A5から被覆材4が射出成形される。なお基体1の開口孔11、11に相当する部分は、上金型Aの下面と下金型Bの上面とに、それぞれ設けたキャビティA4,B4によって形成されている。したがって基体1の開口孔11、11に相当する部分に射出された被覆材6は、キャビティA4,B4の底部分をそれぞれ通って、周囲壁12、中央壁13、及びこの中央壁に対抗する部分14、14の表面であって、導電性回路2、4やシールド延伸層5を形成しない部分であるキャビティA2,B2等に侵入する。
【0025】
さて次の工程として、基体1表面であって被覆材6で被覆されていない部分に、無電解めっきが析出する核となる触媒を付与する。触媒の付与は公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、基体1を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0026】
次の工程において、基体1の表面に射出成形した被覆材6を除去する。上述したように、被覆材6は水溶性であるため、80℃の温湯に10分間程度浸漬することによって、被覆材6を溶出除去する。
【0027】
次の工程において、基体1の表面に無電解めっきを行なう。被覆材6を溶出除去した部分は、前工程において、この被覆材で覆われていたために触媒が付与されておらず、無電解めっきは形成されない。他方被覆材6で被覆されていなかった部分は、触媒が付与されているので無電解めっきが形成され、導電性回路2、4、シールド層3、及びシールド延伸層5が選択的に形成される。
【0028】
なお無電解めっきは、公知の手段が使用できる。例えば無電解銅めっきの場合には、めっき液として、金属塩として硫酸銅を5〜15g/l、還元剤としてホルマリンの37容量%の溶液を8〜12ml/l、錯化材としてロッシェル塩を20〜25g/l、そしてアルカリ剤として水酸化ナトリウムを5〜12g/l混合した、温度20℃の溶液を使用することができる。
【0029】
なお無電解銅めっきの替わりに無電解ニッケルめっきを行なうこともできる。また無電解めっきの上に重ねて、他の金属の無電解めっき、あるいは電解めっきを行うことも容易にできる。
【0030】
さらに被覆材6として、上述したアルカリ水溶液で加水分解するポリグリコール酸、ポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体若しくは共重合体を使用する場合には、この被覆材を除去する前に、無電解めっきを行い、この無電解めっきの後に、この被覆材を、除去してもよい。被覆材を除去する手段としては、温度25〜70℃のアルカリ水溶液(濃度2〜15重量%)に、1〜120分間程度浸漬する。なおこれらのポリグリコール酸等は、耐酸性を有するので、無電解めっきは、浴塑性が酸性または中性のもので行なう。
【産業上の利用可能性】
【0031】
枠型の基体の上側表面、下側表面、及び内壁の面に跨る導電性回路と、この基体の外壁の全表面に亘たるシールド層とを、めっきによって同時に形成できるので、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 基体
12 周囲壁
12a 上側表面
12b 下側表面
12c 内壁面
13 中央壁
2 導電性回路
3 シールド層
4 導電性回路
5 シールド延伸層
6 被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材からなる枠型の基体の表面に導電性回路となる部分及びシールド層となる部分を残して被覆材を射出成形し、この導電性回路となる部分及びシールド層となる部分にめっきすることによって3次元成形回路部品を製造する方法であって、
上記導電性回路となる部分は、上記枠型の基体の上側表面、下側表面、及びこれらを連結する内壁面に跨って相互に連結するように形成され、
上記シールド層となる部分は、上記枠型の基体の外壁面の全表面に亘って形成される
ことを特徴とする3次元成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記枠型の基体は、熱可塑性樹脂を射出成形して成形される
ことを特徴とする3次元成形回路部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−219313(P2010−219313A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64520(P2009−64520)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】