説明

3B族窒化物結晶板の製法

【課題】フラックス法により種結晶基板上に窒化ガリウムの結晶を生成させた窒化ガリウム結晶板であって、高品質なものを提供する。
【解決手段】種結晶基板54を金属ガリウム及び金属ナトリウムを含む混合融液に浸漬した容器50を、700〜1000℃で加圧窒素ガスの雰囲気下、種結晶基板54上での窒化ガリウムの結晶成長速度が10〜20μm/hとなるように回転させる。その後、容器50にエタノールを加えて金属ナトリウムを溶かし、溶け残った窒化ガリウム結晶板を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3B族窒化物結晶板の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウムなどの3B族窒化物を用いて青色LEDや白色LED、青紫色半導体レーザなどの半導体デバイスを作製し、その半導体デバイスを各種電子機器へ応用することが活発に研究されている。従来の窒化ガリウム系半導体デバイスは、主に気相法により作製されている。具体的には、サファイア基板やシリコンカーバイド基板の上に窒化ガリウムの薄膜を有機金属気相成長法(MOVPE)などによりヘテロエピタキシャル成長させて作製される。この場合、基板と窒化ガリウムの薄膜との熱膨張係数や格子定数が大きく異なるため、高密度の転位(結晶における格子欠陥の一種)が窒化ガリウムに生じる。このため、気相法では、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることが難しかった。一方、気相法のほかに、液相法も開発されている。フラックス法は、液相法の一つであり、窒化ガリウムの場合、フラックスとして金属ナトリウムを用いることで窒化ガリウムの結晶成長に必要な温度を800℃程度、圧力を数MPaに緩和することができる。具体的には、金属ナトリウムと金属ガリウムとの混合融液中に窒素ガスが溶解し、窒化ガリウムが過飽和状態になって結晶として成長する。こうした液相法では、気相法に比べて転位が発生しにくいため、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることができる。
【0003】
こうしたフラックス法に関する研究開発も盛んに行われている。例えば、特許文献1には、従来のフラックス法における窒化ガリウムの厚み方向(C軸方向)の結晶成長速度が10μm/h程度の低速であることや気液界面で不均一な核発生が起こりやすいことから、これらの課題を克服する窒化ガリウムの作製方法が開示されている。具体的には、金属ナトリウムと金属ガリウムとの混合融液を撹拌することにより、混合融液と窒素ガスとが接する気液界面から混合融液の内部に向かって流れを生じさせている。その結果、窒化ガリウムの結晶成長速度が50μm/h以上に向上し、気液界面及び坩堝内壁面に不均一な核発生が生じなかったとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−263622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように窒化ガリウムの結晶成長速度を高速化した場合、インクルージョン(窒化ガリウムに取り込まれた混合融液の固化物)の含有率が高くなり、高品質な窒化ガリウムの結晶が得られないことがあった。
【0006】
本発明は、フラックス法により種結晶基板上に3B族窒化物の結晶を生成させた3B族窒化物結晶板であって、高品質なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、加圧した窒素ガスを含む雰囲気下で種結晶基板を金属ガリウム及び金属ナトリウムを含む混合溶融液に浸漬した容器を、種結晶基板上での窒化ガリウムの結晶成長速度が比較的緩やかとなるように回転させ、その後、この容器に有機溶剤を加えて該有機溶剤にフラックスを溶かし、溶け残った窒化ガリウムの結晶を回収したところ、インクルージョンの含有率の低い高品質な窒化ガリウム結晶板が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の3B族窒化物結晶板の製法は、種結晶基板を3B族金属及びフラックスを含む混合融液に浸漬した容器を、窒素ガスを含む加圧雰囲気下で加熱した状態で、前記種結晶基板上での3B族窒化物の結晶成長速度が5〜25μm/hとなるように前記容器を回転させることにより、3B族窒化物結晶板を得るものである。
【0009】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法によれば、インクルージョンの含有率が従来のものに比べて格段に低い3B族窒化物結晶板が得られる。インクルージョンの含有率とは、板面を研磨加工したあと撮影した画像に2値化処理を施すことにより得られる2値画像の黒色部分の面積の占有率のことをいう。このようにして得られる3B族窒化物結晶板は、高品質であることが要求される技術分野、例えばポスト蛍光灯といわれている高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータに用いるパワーデバイスなどに用いることができる。
【0010】
ここで、3B族窒化物としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化タリウム(TlN)などが挙げられるが、このうち窒化ガリウムが好ましい。種結晶基板としては、例えば、サファイア基板やシリコンカーバイド基板、シリコン基板などの表面に3B族窒化物と同じ種類の薄膜が形成されたものを用いてもよいし、3B族窒化物と同じ種類の基板を用いてもよい。
【0011】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法では、種結晶基板上での3B族窒化物の結晶成長速度が5〜25μm/h、好ましくは10〜25μm/hとなるように回転させる。結晶成長速度が5μm/hを下回ると結晶育成時間が過大となり現実的に製造するのが困難になり、結晶成長速度が25μm/hを上回るとインクルージョンの含有率が増加する傾向にあるため好ましくない。
【0012】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法において、前記容器を回転させるにあたり、前記容器を反転させることなく一方向に回転させてもよい。こうすれば、混合融液が深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎることがなく、結晶成長速度を上述した範囲に制御しやすい。このように容器を一方向に回転させる場合には、回転速度を例えば1〜100rpm、好ましくは5〜60rpmに設定する。回転速度が1rpm未満では、回転が遅すぎるため、回転させない場合と同様、インクルージョンの含有率が増加しやすい。また、回転速度が100rpmを超えると、結晶成長速度が速すぎてインクルージョンの含有率が増加しやすい。
【0013】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法において、前記容器を回転させるにあたり、一方向に1分間以上回転させたあと逆方向に1分間以上回転させるという操作を繰り返してもよい。この場合も、混合融液が深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎることがなく、結晶成長速度を上述した範囲に制御しやすい。これより短い周期で反転を繰り返すと、結晶成長速度が速すぎてインクルージョンの含有率が増加しやすい。
【0014】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法において、前記容器を回転させるにあたり、、一方向に5秒間以上回転させたあと0.1秒以上停止し、その後同じ方向に5秒間以上回転させるという操作を繰り返してもよい。この場合も、混合融液が深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎることがなく、結晶成長速度を上述した範囲に制御しやすい。これより短い周期で間欠回転を繰り返すと、結晶成長速度が速すぎてインクルージョンの含有率が増加しやすい。
【0015】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法において、前記容器を回転させるにあたり、前記容器の中心軸と回転軸とを略一致させた状態で前記容器を水平方向に回転させることが好ましい。この場合も、混合融液が深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎることがなく、結晶成長速度を上述した範囲に制御しやすい。
【0016】
本発明の3B族窒化物結晶板の製法において、前記加圧雰囲気の圧力を、1〜7MPaの範囲で設定することが好ましい。こうすれば、数100MPaの圧力に設定する場合に比べて、製造装置の耐圧性は低くてよいため、小型・軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】結晶板製造装置10の全体の構成を示す説明図(断面図)である。
【図2】実施例1で得られた窒化ガリウム結晶板の写真である。
【図3】実施例4で得られた窒化ガリウム結晶板の写真である。
【図4】実施例7で得られた窒化ガリウム結晶板の写真である。
【図5】比較例1で得られた窒化ガリウム結晶板の写真である。
【図6】比較例2で得られた窒化ガリウム結晶板の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の3B族窒化物結晶板を製造するための好適な装置について、図1を用いて以下に説明する。図1は、結晶板製造装置10の全体構成を示す説明図(断面図)である。
【0019】
結晶板製造装置10は、図1に示すように、真空引きをしたり加圧窒素ガスを供給したりすることが可能な耐圧容器12と、この耐圧容器12内で回転可能な回転台30と、この回転台30に載置される外容器42とを備えている。
【0020】
耐圧容器12は、上下面が円板である円筒形状に形成され、内部にヒータカバー14で囲まれた加熱空間16を有している。この加熱空間16は、ヒータカバー14の側面の上下方向に配置された上段ヒータ18a、中段ヒータ18b及び下段ヒータ18cのほか、ヒータカバー14の底面に配置された底部ヒータ18dによって内部温度が調節可能となっている。この加熱空間16は、ヒータカバー14の周囲を覆うヒータ断熱材20によって断熱性が高められている。また、耐圧容器12には、窒素ガスボンベ22の窒素ガス配管24が接続されると共に真空ポンプ26の真空引き配管28が接続されている。窒素ガス配管24は、耐圧容器12、ヒータ断熱材20及びヒータカバー14を貫通して加熱空間16の内部に開口している。この窒素ガス配管24は、途中で分岐して耐圧容器12とヒータ断熱材20との隙間にも開口している。ヒータカバー14は、完全に密閉されているわけではないが、ヒータカバー14の内外で大きな圧力差が生じないようにするために、窒素ガスをヒータカバー14の内外に供給する。窒素ガス配管24のうち加熱空間16の内部に通じている分岐管には、流量を調節可能なマスフローコントローラ25が取り付けられている。真空引き配管28は、耐圧容器12を貫通し、耐圧容器12とヒータ断熱材20との隙間に開口している。ヒータカバー14の外側が真空状態になれば窒素ガス配管24によって連結された加熱空間16も真空状態になる。
【0021】
回転台30は、円盤状に形成され、加熱空間16の下方に配置されている。この回転台30の下面には、内部磁石32を有する回転シャフト34が取り付けられている。この回転シャフト34は、ヒータカバー14及びヒータ断熱材20を通過して、耐圧容器12の下面と一体化された筒状のケーシング36に挿入されている。ケーシング36の外周には、筒状の外部磁石38が図示しないモータによって回転可能に配置されている。この外部磁石38は、ケーシング36を介して回転シャフト34の内部磁石32と向かい合っている。このため、外部磁石38が回転するのに伴って内部磁石32を有する回転シャフト34が回転し、ひいては回転台30が回転することになる。また、外部磁石38が上下に移動するのに伴って内部磁石32を有する回転シャフト34が上下に移動し、ひいては回転台30が上下に移動することになる。
【0022】
外容器42は、有底筒状で金属製の外容器本体44と、この外容器本体44の上部開口を閉鎖する金属製の外容器蓋46とを備えている。外容器蓋46には、下面中心から斜め上方に窒素導入パイプ48が取り付けられている。この窒素導入パイプ48は、回転台30の回転に伴って外容器42が回転して窒素ガス配管24に最接近したとしても、窒素ガス配管24に衝突しないように設計されている。具体的には、窒素導入パイプ48が窒素ガス配管24に最接近したときの両者の距離は、数mm〜数十cmに設定されている。外容器本体44の内部には、有底筒状でアルミナ製の育成容器50が配置されている。育成容器50には、円板状でアルミナ製の種結晶基板トレー52が配置されている。この種結晶基板トレー52は、中央部分に円板状の種結晶基板54をはめ込むための凹みを有しており、一端がトレー台56に載せられ、他端が育成容器50の底面に接している。種結晶基板54は、サファイア基板の表面に窒化ガリウムの薄膜が形成されたものを用いてもよいし、窒化ガリウム薄板を用いてもよい。また、育成容器50には、金属ガリウムやフラックスが収容されている。フラックスとしては、アルカリ金属が好ましく、金属ナトリウムや金属カリウムがより好ましく、金属ナトリウムが更に好ましい。金属ガリウムやフラックスは加熱することにより混合融液となる。本実施形態では、外容器42及び育成容器50は、回転台30の回転中心と同軸になるように配置されている。このため、回転中は育成容器50内の混合融液は水平方向に回転し、垂直方向に大きく揺れ動くことはない。
【0023】
このようにして構成された本実施形態の結晶板製造装置10の使用例について説明する。この結晶板製造装置10は、フラックス法により3B族窒化物を製造するのに用いられる。以下には、3B族窒化物結晶板として窒化ガリウム結晶板を製造する場合を例に挙げて説明する。この場合、種結晶基板54としてはGaNテンプレート、3B族金属としては金属ガリウム、フラックスとしては金属ナトリウムを用意する。育成容器50内で種結晶基板54を金属ガリウム及び金属ナトリウムを含む混合融液に浸漬し、回転台30を回転させると共に各ヒータ18a〜18dで加熱空間16を加熱しながら混合融液に加圧窒素ガスを供給することにより、混合融液中で種結晶基板54上に窒化ガリウムの結晶を成長させる。混合融液にカーボンを適量加えると、雑晶の生成が抑制されるため好ましい。雑晶とは、種結晶基板54以外の場所に結晶化した窒化ガリウムを意味する。育成容器50内の混合融液中で成長した窒化ガリウム結晶板は、冷却後、容器に有機溶剤(例えばメタノールやエタノールなどの低級アルコール)を加えて該有機溶剤にフラックスなどの不要物を溶かすことにより回収することができる。こうして得られた窒化ガリウム結晶板は、インクルージョンの含有率が0〜10%(成長条件によっては0〜2%)となる。インクルージョンは、窒化ガリウムの結晶中に取り込まれた混合融液(金属ガリウムと金属ナトリウムとの融液)が固化したものである。インクルージョンの含有率は、窒化ガリウム結晶板の板面を研磨加工したあと撮影した画像に2値化処理を施すことにより得られる2値画像の黒色部分の面積の占有率である。
【0024】
上述したように窒化ガリウム結晶板を製造する場合、加熱温度は加圧窒素ガス雰囲気下での混合融液の沸点以下に設定する。具体的には、700〜1000℃に設定するのが好ましく、800〜900℃に設定するのがより好ましい。加熱空間16の温度を均一にするには、上段ヒータ18a、中段ヒータ18b、下段ヒータ18c、底部ヒータ18dの順に温度が高くなるように設定したり、上段ヒータ18aと中段ヒータ18bを同じ温度T1に設定し、下段ヒータ18cと底部ヒータ18dをその温度T1よりも高い温度T2に設定したりするのが好ましい。また、加圧窒素ガスの圧力は、1〜7MPaに設定するのが好ましく、2〜6MPaに設定するのがより好ましい。加圧窒素ガスの圧力を調整するには、まず、真空ポンプ26を駆動して真空引き配管28を介して耐圧容器12の内部圧力を高真空状態(例えば1Pa以下とか0.1Pa以下)とし、その後、真空引き配管28を図示しないバルブによって閉鎖し、窒素ガスボンベ22から窒素ガス配管24を介してヒータカバー14の内外に窒素ガスを供給することにより行う。窒化ガリウム結晶が成長している間、窒素ガスは混合融液に溶解して消費されて加圧窒素ガスの圧力が低下するため、結晶成長中は加熱空間16に窒素ガスをマスフローコントローラ25により所定流量となるように供給し続ける。この間、窒素ガス配管24のうちヒータカバー14の外側に通じている分岐管は図示しないバルブにより閉鎖する。
【0025】
また、種結晶基板54を混合融液に浸漬した育成容器50は、種結晶基板54上での窒化ガリウムの結晶成長速度が5〜25μm/h、好ましくは10〜25μm/hとなるように回転させる。結晶成長速度が5μm/hを下回ると結晶育成時間が過大となり現実的に製造するのが困難になり、結晶成長速度が25μm/hを上回るとインクルージョンの含有率が増加する傾向にあるため好ましくない。また、育成容器50を回転させるにあたり、反転させることなく一方向に回転させるか、一方向に1分間以上回転させたあと逆方向に1分間以上回転させるという反転操作を繰り返すか、一方向に5秒間以上回転させたあと0.1秒以上停止し、その後同じ方向に5秒間以上回転させるという間欠操作を繰り返すことが好ましい。後者の場合、これより短い周期で反転操作や間欠操作を繰り返すと、結晶成長速度が速くなり過ぎ、インクルージョンの含有率が増加してしまうため好ましくない。更に、混合融液が深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎると、結晶成長速度が速くなり過ぎ、インクルージョンの含有率が増加してしまうため好ましくない。窒化ガリウム結晶の成長時間は、加熱温度や加圧窒素ガスの圧力に応じて適宜設定すればよく、例えば数時間〜数100時間の範囲で設定すればよい。
【0026】
以上詳述したように、本実施形態の結晶板製造装置10によれば、密閉された耐圧容器12内で混合融液の入った育成容器50を穏やかに回転させながら高温下で窒素ガスを導入することにより、インクルージョンの含有率が10%以下、好ましくは2%以下の3B族窒化物結晶が得られる。このため、3B族窒化物結晶が高品質であることが要求される各種の技術分野、例えばポスト蛍光灯といわれている高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータに用いるパワーデバイスなどに用いることができる。
【0027】
また、中央に種結晶基板54を嵌め込んだ種結晶基板トレー52を用い、その一端をトレー台56に載せて傾けた状態で育成容器50内に配置しているため、種結晶基板54の全面において結晶の成長が十分進みやすい。育成容器50の底面の周縁は混合融液が淀みやすいため、その付近に種結晶基板54の一部が位置しているとその部分の結晶の成長が不十分になりやすい。しかし、本実施形態では、種結晶基板トレー52を用いているため、育成容器50の底面周縁付近に種結晶基板54が位置することはなく、種結晶基板54の全面において結晶の成長が十分進むのである。
【0028】
更に、窒素ガス配管24と窒素導入パイプ48とを分断したため、回転台30と共に外容器42が回転するのをこれらの配管24やパイプ48が妨げることがない。
【0029】
更にまた、上、中、下段ヒータ18a〜18cに加えて底部ヒータ18dを配置したため、加熱空間16のうち温度が不均一になりやすい底面付近も含めて全体を均一な温度に維持することができる。
【0030】
そしてまた、ケーシング36の外周に配置した外部磁石38が回転及び上下移動するのに伴って内部磁石32と一体化された回転シャフト34が回転及び上下移動するようにしたため、耐圧容器12の内部を密閉状態に保ったまま外容器42を回転及び上下移動させることができる。
【0031】
(実施例1)
図1に示す結晶板製造装置10を用いて、窒化ガリウム結晶板を作製した。以下、その手順を詳説する。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、内径φ100mmの育成容器50内の一端にトレー台56を置き、種結晶基板トレー52をトレー台56に立て掛けて角度が10°になるよう育成容器50の底面中央に斜めに置き、その種結晶基板トレー52の中央に種結晶基板54としてφ3インチGaNテンプレートを配置した。さらに金属ナトリウム110g、金属ガリウム130g、炭素300mgを育成容器50内に充填した。この育成容器50を外容器本体44内に入れ、外容器本体44の開口を窒素導入パイプ48の付いた外容器蓋46で閉じた。この外容器42を、予め真空ベークしてある回転台30の上に設置し、耐圧容器12に蓋(図示せず)をして密閉した。
【0032】
そして、耐圧容器12内を真空ポンプ26を駆動して0.1Pa以下まで真空引きした。続いて、上段ヒータ18a、中段ヒータ18b、下段ヒータ18c及び底部ヒータ18dをそれぞれ855℃、855℃、880℃、880℃となるように調節して加熱空間16の温度を870℃に加熱しながら、4.5MPaまで窒素ガスボンベ22から窒素ガスを導入し、外容器42を中心軸周りに30rpmの速度で回転させた。そして、この状態で150時間保持した。その後、室温まで自然冷却したのち、耐圧容器12の蓋を開けて中から育成容器50を取り出し、育成容器50にエタノールを投入し、金属ナトリウムをエタノールに溶かしたあと、成長した窒化ガリウム結晶板を回収した。この窒化ガリウム結晶板の大きさはφ3インチであり、厚さは約1.5mmであり、結晶成長速度は約10μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板を厚さ500μmとなるよう研磨加工し、撮影した画像に2値化処理を施し、種結晶基板54の外周部を除いた70%の領域内のインクルージョンの面積(2値画像の黒色部分の面積)を求め、70%の領域の全体に占めるインクルージョンの面積の割合すなわちインクルージョン含有率を算出した。
【0033】
具体的なインクルージョン含有率の算出法を図2を用いて以下に説明する。図2は、実施例1の窒化ガリウム結晶板の写真である。この写真は、得られた窒化ガリウム結晶板の研磨前の写真の上に研磨後に割れたかけらを元の位置に戻した合成写真である。また、写真中の点線で示した円は種結晶基板の外周部を除く70%領域の境界を表し、この領域を縦横2本ずつの線分によって区切られた9つの分割領域のうち上中下左右の5つにつき、それぞれインクルージョン含有率を数値で示した。図2から明らかなように、インクルージョン含有率は0〜10%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。更に、転位密度は3×104個/cm2であった。転位密度は以下の手順で求めた。すなわち、まず、窒化ガリウム結晶の表面(Ga面)をダイヤラップして、250℃の酸性液(硫酸:リン酸=1:3(体積比)の混合溶液)に約2時間浸してエッチング処理を行った。その後、光学顕微鏡を用いて微分干渉像観察を行って単位面積あたりの転位に起因するエッチピットの数を目視により求めた。
【0034】
(実施例2)
実施例1と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は1rpmとした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ3インチであり、厚さは約750μmであり、結晶成長速度は約5μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜10%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。更に、転位密度は1×104個/cm2であった。
【0035】
(実施例3)
実施例1と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は5rpmとした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ3インチであり、厚さは約1mmであり、結晶成長速度は約7μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜1%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。更に、転位密度は2×104個/cm2であった。
【0036】
(実施例4)
実施例1と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、種結晶基板トレー52は用いず、種結晶基板54を直接トレー台56に載せた。また、種結晶基板54はφ2インチGaNテンプレートを用い、育成容器50は内径φ70のアルミナ容器を用い、金属ナトリウム60g、金属ガリウム40g、炭素150mgを育成容器50内に充填した。外容器42の回転速度は15rpmとした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約1.5mmであり、結晶成長速度は約10μm/hであった。図3は、実施例4の窒化ガリウム結晶板の写真である。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜1%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0037】
(実施例5)
実施例4と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は60rpmとした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約1.5mmであり、結晶成長速度は約10μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜5%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0038】
(実施例6)
実施例4と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は100rpmとした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約1.5mmであり、結晶成長速度は約10μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜10%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0039】
(実施例7)
実施例4と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は30rpmで5分毎に反転させた。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約2mmであり、結晶成長速度は約13μm/hであった。図4は、実施例7の窒化ガリウム結晶板の写真である。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜1%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。更に、転位密度は5×104個/cm2であった。
【0040】
(実施例8)
実施例7と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は30rpmで3分毎に反転させた。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約2.5mmであり、結晶成長速度は約17μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜1%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0041】
(実施例9)
実施例7と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は30rpmで1分毎に反転させた。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約3.8mmであり、結晶成長速度は約25μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜10%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0042】
(実施例10)
実施例7と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42は回転速度30rpmで5秒回転しそののち1秒停止しそののち同方向に5秒回転させる間欠運動を繰り返した。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約3mmであり、結晶成長速度は約20μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜5%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。
【0043】
(比較例1)
実施例4と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42は回転させなかった。得られた窒化ガリウム結晶の大きさはφ2インチであり、厚さは約1.5mmであり、結晶成長速度は約10μm/hであり、色は部分的に褐色に着色していた。図5は、比較例1の窒化ガリウム結晶板の写真である。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜42%であった。また、転位密度は5×104個/cm2であった。
【0044】
(比較例2)
実施例1と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42の回転速度は30rpmで15秒毎に反転させ、結晶育成時間は100時間とした。得られた窒化ガリウム結晶の大きさはφ3インチであり、厚さは約3mmであり、結晶成長速度は約30μm/hであった。図6は、比較例2の窒化ガリウム結晶板の写真である。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、6〜30%であった。また、転位密度は1×105個/cm2であった。
【0045】
(比較例3)
実施例10と同様の条件で窒化ガリウム結晶の育成を行った。但し、外容器42は回転速度30rpmで3秒回転しそののち1秒停止しそののち同方向に3秒回転させる間欠運動を繰り返した。また、結晶育成時間は100時間とした。得られた窒化ガリウム結晶板の大きさはφ2インチであり、厚さは約3mmであり、結晶成長速度は約30μm/hであった。この窒化ガリウム結晶板についても実施例1と同様にして5つの分割領域のインクルージョン含有率を測定したところ、0〜20%であった。また、水銀ランプの光を照射したところ、青色の蛍光を発した。更に、転位密度は1×105個/cm2であった。
【0046】
なお、実施例1〜10及び比較例1〜3の結晶成長条件及び結果を表1に示した。表1から明らかなように、比較例1(回転なし)に比べて、実施例1〜6(回転あり)ではインクルージョン含有率を10%以下に抑えることができた。また、比較例2(30rpmで15秒毎に反転)では、回転させたにもかかわらずインクルージョン含有率が高かったが、これは混合融液の深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎて結晶成長速度が速くなりすぎたことによると考えられる。これに対して、実施例7〜9(30rpmで5〜1分毎に反転)では、反転させるものの、周期が長いため、結晶成長速度が穏やかになりインクルージョン含有率が低くなったと考えられる。また、比較例3(30rpmで3秒毎に間欠動作)では、回転させたにもかかわらずインクルージョン含有率が高かったが、これは混合融液の深さ方向(垂直方向)に混ざりすぎて結晶成長速度が速くなりすぎたことによると考えられる。これに対して、実施例10(5秒毎に間欠動作)では、間欠周期が長いため、結晶成長速度が穏やかになりインクルージョン含有率が低くなったと考えられる。
【0047】
【表1】

【符号の説明】
【0048】
10 結晶板製造装置、12 耐圧容器、14 ヒータカバー、16 加熱空間、18a 上段ヒータ、18b 中段ヒータ、18c 下段ヒータ、18d 底部ヒータ、20 ヒータ断熱材、22 窒素ガスボンベ、24 窒素ガス配管、25 マスフローコントローラ、26 真空ポンプ、28 真空引き配管、30 回転台、32 内部磁石、34 回転シャフト、36 ケーシング、38 外部磁石、42 外容器、44 外容器本体、46 外容器蓋、48 窒素導入パイプ、50 育成容器、52 種結晶基板トレー、54 種結晶基板、56 トレー台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶基板を3B族金属及びフラックスを含む混合融液に浸漬した容器を、窒素ガスを含む加圧雰囲気下で加熱した状態で、前記種結晶基板上での3B族窒化物の結晶成長速度が5〜25μm/hとなるように前記容器を回転させることにより、3B族窒化物結晶板を得る、
3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項2】
前記容器を回転させるにあたり、前記容器を反転させることなく一方向に回転させる、
請求項1に記載の3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項3】
前記容器を回転させるにあたり、一方向に1分間以上回転させたあと逆方向に1分間以上回転させるという操作を繰り返す、
請求項1に記載の3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項4】
前記容器を回転させるにあたり、一方向に5秒間以上回転させたあと0.1秒以上停止し、その後同じ方向に5秒間以上回転させるという操作を繰り返す、
請求項1に記載の3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項5】
前記容器を回転させるにあたり、前記容器の中心軸と回転軸とを略一致させた状態で前記容器を水平方向に回転させる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項6】
前記加圧雰囲気の圧力を、1〜7MPaの範囲で設定する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の3B族窒化物結晶板の製法。
【請求項7】
前記3B族窒化物は、窒化ガリウムである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の3B族窒化物結晶板の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168236(P2010−168236A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11265(P2009−11265)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】