説明

FRP用マルチフィラメントおよびこれを用いたFRP

【課題】 FRPに使用した場合に成形物中での蛇行が起こりにくく、補強繊維の強度をFRPに十分に反映させることのできるFRP用マルチフィラメントとこれを使用したFRPを提供する。
【解決手段】 Z=Y×w×t3 /(M/L)…(1)で示されるたわみ係数Zが、2.0以下であるFRP用マルチフィラメントを使用する。式(1)中、Yはマルチフィラメントのたわみ量(単位:mm)、wはマルチフィラメントの幅(単位:mm)、tはマルチフィラメントの厚み(単位:mm)、Mは長さL(単位:m)のマルチフィラメントの質量(単位:g)を表す。マルチフィラメントとしてはガラス繊維、炭素繊維等を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、繊維強化複合材料(以下、FRPという)の補強繊維として使用されるマルチフィラメントおよびこれを用いたFRPに関する。
【0002】
【従来の技術】繊維強化複合材料は、スポーツレジャー関連から産業用途、航空機用途まで広く用いられている。FRPを製造する方法としては、中間基材であるプリプレグを用いて賦型成型する方法の他、補強繊維として使用される炭素繊維、ガラス繊維等のマルチフィラメントに低粘度の熱硬化性樹脂組成物を含浸させたものをワインディングするフィラメントワインディング(以下、FWという)成形法や、同じくマルチフィラメントに低粘度の熱硬化性樹脂組成物を含浸させたものを高温の金型の中へ通し、引き抜きながら成形する引抜成形法、あるいはマルチフィラメントを予めクロスやプリフォームの形態にし、熱硬化性樹脂組成物を含浸させるハンドレイアップ法やレジントランスファーモールディング(以下、RTMという)法などがある。ここで用いられるマルチフィラメントとは、炭素繊維、ガラス繊維等のモノフィラメント数千本程度を、サイズ剤を使用して集束させたもので、通常、モノフィラメント1000本を単位Kで表し、1K、3K、6K、12K、24K、50K等として使用されている。24Kは24000本のフィラメントが束ねられたものである。
【0003】ところで、このようなマルチフィラメントを補強繊維として使用したFRPの強度には、マルチフィラメント自身の強度が大きく反映する。特に補強繊維の長さ方向のFRPの強度には、補強繊維自身の強度が大きく影響することは周知のところである。例えば、引張強度の高い補強繊維で補強したFRPの、補強繊維の長さ方向の引張強度は優れる。ところが、いくら補強繊維自身の強度が高くても、FRP中での補強繊維の直進性が悪いと、FRPの繊維方向の強度は低下してしまう。すなわち、補強繊維と平行方向のFRPの強度を高めるには、引張強度の高い補強繊維を使用し、かつ、この補強繊維の直進性が優れていることが必要となる。
【0004】ここで直進性が優れているとは、補強繊維であるマルチフィラメントを構成している数千本の各フィラメントがそれぞれ蛇行せず、互いに略平行な状態であることをいう。すなわち、マルチフィラメント中において、蛇行せず互いに略平行な状態であるフィラメントの本数が多いほど、直進性が優れていると言える。FRP中でマルチフィラメントの直進性が低下する要因としては、マルチフィラメント自身が有する波打ちや撚り等の他、成形工程でマルチフィラメントに加わる摩擦力や樹脂のフロー等も挙げられる。FRP中で補強繊維の蛇行が起こり補強繊維の直進性が低下すると、補強繊維が有する本来の強度が発現せず、FRPの強度も低下させてしまう。従来、このような補強繊維の蛇行を解消するためには、例えば、補強繊維を供給する際のバックテンションを上げる等のプロセス条件を最適化していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、バックテンションを上げるとプロセスへの負荷が多くなったり、補強繊維の毛羽立ちが多量に発生する等の不具合が起こりやすくなるという問題があった。よって、工程条件によらず、FRP中における補強繊維の蛇行が起こりにくいマルチフィラメントの開発が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明のFRP用マルチフィラメントは以下の構成を有する。すなわち本発明のFRP用マルチフィラメントは、下記式で示されるたわみ係数Zが、2.0以下であることを特徴とする。
Z=Y×w×t3 /(M/L)…(1)
(式(1)中、Yはマルチフィラメントのたわみ量(単位:mm)、wはマルチフィラメントの幅(単位:mm)、tはマルチフィラメントの厚み(単位:mm)、Mは長さL(単位:m)のマルチフィラメントの質量(単位:g)を表す。)
上記FRP用マルチフィラメントは、ガラス繊維からなることが好ましい。上記FRP用マルチフィラメントは、炭素繊維からなることが好ましい。本発明のFRPは、上記のFRP用マルチフィラメントを用いていることを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のFRP用マルチフィラメントは、サイズ剤で複数本のモノフィラメントを集束させた通常のマルチフィラメントである。マルチフィラメントの材質としては特に制限はないが、ガラス繊維、炭素繊維は機械的な物性が良好であり、FRPとした場合に補強効果が優れるので好適に用いられる。マルチフィラメントのフィラメント数にも特に制限はない。また、サイズ剤の種類には特に制限はなく、エポキシ系、エステル系等のあらゆるサイズ剤を使用できる。また、サイズ剤の塗布方法についても特に制限はなく、例えば、サイズ剤を溶剤で希釈した溶液にマルチフィラメントを含浸し、その後、脱溶剤、乾燥させる溶剤法、溶剤として水を使用する水溶液法、または、不溶性のサイズ剤を乳化剤を用いて水中に分散させてエマルジョン化し、そのエマルジョン中にマルチフィラメントを含浸し、その後、乾燥させるエマルジョン法等が挙げられる。サイズ剤のマルチフィラメントへの付着量についても特に制限はない。
【0008】マルチフィラメントの形状としては、扁平率が大きいことが好ましい。ここで扁平率は、マルチフィラメントの厚みtに対するマルチフィラメントの幅w、すなわち、w/tで表される。また、マルチフィラメントの厚みtとは、マルチフィラメントの横断面における短径の長さであり、幅wとはマルチフィラメントの横断面における長径の長さである。扁平率が小さなマルチフィラメントでは、FRP製造時のマトリックス樹脂のピックアップ量が少なくなりすぎる場合がある。例えば、FW法や引抜成形法等でFRPを製造する際には、マルチフィラメントをクリールから引き出してレジンバス内の液状樹脂に含浸させるディップ方式、またはレジンバス内の液状樹脂をロールに一度塗布し、そのロール上にマルチフィラメントを接触させることによりマルチフィラメントに液状樹脂を含浸させるタッチロール方式により樹脂を含浸させる場合が多いが、扁平率が小さなマルチフィラメントでは扁平率が大きなマルチフィラメントよりも樹脂と接触する外表面積が小さいため、付着する樹脂量が少なくなる場合がある。このような場合、得られるFRPはレジンコンテントが低く、強度が不十分なものとなる場合がある。扁平率は、好ましくは30以上である。扁平率が30以上であると、樹脂のピックアップ量が適正となり、十分な強度を有するFRPが得られる。さらに、扁平率が40以上の場合、得られるFRPの強度がより安定するためさらに好ましい。
【0009】本発明のFRP用マルチフィラメントは下記式(1)で表されるたわみ係数Zが、2.0以下である。
Z=Y×w×t3 /(M/L)…(1)
式(1)中、Yはマルチフィラメントのたわみ量(単位:mm)、wはマルチフィラメントの幅(単位:mm)、tはマルチフィラメントの厚み(単位:mm)、Mは長さL(単位:m)のマルチフィラメントの質量(単位:g)を表す。
【0010】ここで式(1)中、Yで表されているたわみ量を測定する方法を図1を用いて説明する。まず、400mmの長さのマルチフィラメント1を、試験台2の水平面上に載せる。この場合、マルチフィラメント1の一方の端部1aからその長さ方向に200mmまでの範囲が試験台2の端から出るようにして、他方の端部1bからその長さ方向に200mmまでの範囲が試験台2上に載るように固定治具3等で固定する。この際、マルチフィラメント1の幅方向が試験台2の水平面と平行になるようにする。符号1cは、マルチフィラメント1の一方の端部1aからその長さ方向に200mmの位置を示す。すると、マルチフィラメント1の試験台2の端から出ている部分は、自重によって下方にたわんだ状態になる。この状態を1分間維持した後、試験台2の水平面からマルチフィラメント1の端部1aまでの垂直距離を測定する。この垂直距離がたわみ量Y(mm)である。この際、マルチフィラメント1に巻癖がある場合には、アイロン等で加熱プレスして巻癖をできるだけ取り除いてから、たわみ量Yを測定することが好ましい。そして、マルチフィラメント1を裏返しにして再度たわみ量Yを測定して2つの測定値の平均値を求めると、たわみ量Yに与える巻癖の影響をほとんど無視することができる。
【0011】また、式(1)中、wおよびtで表されているマルチフィラメント1の幅と厚みは、図1に示したA〜E点の5点においてそれぞれ測定された測定値の平均値とする。なお、A〜E点の5点は、マルチフィラメント上の位置1cから長さ方向に、20mm、60mm、100mm、140mm、180mmの各位置である。式(1)中、Mは長さL(単位:m)のマルチフィラメントの質量(単位:g)であり、(M/L)はマルチフィラメントの単位長さ当たりの質量、いわゆる目付であり、単位はg/mである。このようにして得られた各値を式(1)に代入し、たわみ係数Zを求める。求められたたわみ係数Zが2.0以下のマルチフィラメントを使用すると、FRPを製造する際の工程条件によらず、補強繊維の蛇行が少ないFRPを得ることができる。
【0012】このようなマルチフィラメント1を補強繊維として使用し、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として使用したFRP製のロッドは、例えば、図2に示したような装置を使用した引抜成形法で製造できる。まず、必要本数のマルチフィラメント1をクリール11から引き出す。ここで、マルチフィラメント1は、その幅方向がクリール11の軸方向と略平行になるように巻き付けられている。ついで、これらのマルチフィラメント1の張力をテンションロール12で制御しながら、マルチフィラメント1をレジンバス13内に含浸して、液状のマトリックス樹脂14を付着させる。この際、各マルチフィラメント1は、その幅方向が略水平方向になっている。ついで、マトリックス樹脂14が付着した各マルチフィラメント1を、同心円状に多数の穴が設けられた円形ガイド15の、前記穴にそれぞれ導入し、そして、各マルチフィラメント1の幅方向を略水平に維持したまま金型16内に導入し、引き抜く。ここで金型16は、マトリックス樹脂14の硬化温度に応じた温度に加熱されているため、マトリックス樹脂14は金型16内で硬化して、成形品であるロッド17が得られる。金型16は目的に応じて、円形、多角形等の任意の断面形状を有しているものを使用できる。また、マトリックス樹脂としては、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシ、フェノール等の熱硬化性樹脂組成物が使用できる。
【0013】このようにして、たわみ係数Zが2.0以下のマルチフィラメント1を使用すると、円形ガイド15を通過した後、マルチフィラメント1を構成している各フィラメントが蛇行せず、互いに略平行な状態を保ったままで金型16内に進入する。一方、たわみ係数Zが2.0を越えるマルチフィラメント1を使用すると、マルチフィラメント1を構成している各フィラメントが蛇行した状態で金型16内に進入する。したがって、たわみ係数Zが2.0以下のマルチフィラメント1を使用するとFRP中での蛇行が起こりにくく、直進性に優れるたものとなる。よって、マルチフィラメント1が有する強度が反映したFRPを製造できる。さらに、たわみ係数Zが1.5以下のマルチフィラメント1を使用すると、直進性がさらに向上し、マルチフィラメント1の強度が十分に発現したFRPを製造できる。より好ましくは、マルチフィタメント1のたわみ係数Zは1.0以下である。
【0014】このように、上記(1)式で表されるたわみ係数Zは、マルチフィラメント1が有する直進性を直接的に表している。すなわち、たわみ係数Zは、単なるたわみ量Yだけではなく、マルチフィラメント1の厚みtや幅wの影響も考慮された係数である。そのため、たわみ係数Zが小さなマルチフィラメント1をFRPに使用すると、FRP中で優れた直進性を発現する。一方、たわみ量Yが小さくてもたわみ係数Zが大きなマルチフィラメント1を使用すると、マルチフィラメント1のFRP中における直進性は低く、マルチフィラメント1の有する強度が十分に発現するFRPが得られない。よって、上記式(1)で表されるたわみ係数Zが2.0以下となるようなたわみ量Y、幅w、厚みt、目付M/Lを有するマルチフィラメント1を選択して、FRPに使用すると、強度に優れたFRPを得ることができる。一方、従来、FRP中での補強繊維の直進性は、カンチレバー方式で測定された補強繊維の硬さで評価されていた。しかし、このようにして求められた硬さは、直接的にFRP中の直進性を表わすものではなかった。すなわち、目付が同じマルチフィラメント1であっても、厚みが大きくなるとたわみは小さくなって硬さが大きくなり、厚みが小さくなるとたわみは大きくなって硬さは小さくなるが、FRP中での補強繊維の直進性と、このようにして求められた硬さとは必ずしも相関性がなかった。例えば、硬さが大きな値であってもFRP中での直進性が悪い場合があった。したがって、上記式(1)で求められたたわみ係数Zは、FRP中での補強繊維の直進性を直接的に表す優れた指標である。
【0015】このようなFRP用マルチフィラメント1は、FRPの補強繊維としてあらゆる成形法であらゆる用途に使用することができる。例えば、上述したような引抜成形用以外にも、プリプレグ用、FW用に使用したり、クロスやプリフォームとして使用してハンドレイアップ成形や、RTM成形などにも用いることができる。これらの中でも、このようなマルチフィラメント1は、低粘度の樹脂をマルチフィラメント1に直接塗布するFW法や引抜成形法での使用が特に好ましい。このようなFRP用マルチフィラメント1を使用すると、マルチフィラメント1の強度がFRPに十分反映し、補強繊維の長さ方向の強度が優れたFRPを得ることができる。
【0016】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、もちろん本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[調製例1]以下に示す組成の2種類のサイズ剤を調製した。調製方法は各エポキシ樹脂を秤量し120℃に加熱して、2種類の樹脂が均一になるように溶解した。
Aサイズ剤:Ep828/Ep1002=70質量部/30質量部Bサイズ剤:Ep828/Ep1002=80質量部/20質量部ただし、Ep828は、油化シェル社製、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート828」であり、Ep1002は、油化シェル社製、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート1002」である。
【0017】[実施例1]マルチフィラメントとして、三菱レイヨン社製炭素繊維TR50S−12Lのアンサイズ糸を使用した。これは12Kのマルチフィラメントで、サイズ剤が塗布されていないものである。このマルチフィラメントに、上記調製例1で調製したAサイズ剤をメチルエチルケトンで希釈したものを塗布し、脱溶剤した。脱溶剤後のAサイズ剤の実質の付着量はマルチフィラメント全質量に対し1.0%であった。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、0.81g/mであった。また、幅wと厚みtを図1R>1に示すA〜E点の5点で測定し、平均値を求めたところ、幅wが5.8mm、厚みtは0.14mmであった。そして、このFRP用マルチフィラメントのたわみ量Yを、図1に示した方法で測定したところ72mmであった。したがって、たわみ係数Zは1.4であった。測定結果を表1にまとめた。このようなFRP用マルチフィラメント30本を使用し、図2に示した方法で、直径5mmの引抜ロッドを成形した。マトリックス樹脂はエポキシ樹脂組成物(三菱レイヨン社製#750)を使用した。成形条件は、温度250℃、速度0.5m/分で、バックテンションはマルチフィラメント1本当たり200gで実施した。成形したロッドを50mm長にカットし、カッターで繊維方向に半分に巻き割り状に割り、内部の炭素繊維の蛇行状況を目視で確認したところ、蛇行は認められなかった。また、成形したロッドの引張試験を実施したところ、引張強度は3170MPaと良好であった。試験方法は「膨張材による定着法研究会」の方法にしたがった。結果をあわせて表1に示す。
【0018】[実施例2]実施例1で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Aサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のAサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して1.5%となるように調節した。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、0.81g/mであり、幅wと厚みtはそれぞれ6.1mmと0.14mmであった。そして、実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ32mmであった。したがって、たわみ係数Zは0.66であった。測定結果を表1にまとめた。このようなFRP用マルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。蛇行は確認されず、引張強度は3280MPaと良好であった。結果をあわせて表1に示す。
【0019】[実施例3]実施例1で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Bサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のBサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して2.0%となるように調節した。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、0.82g/mであり、幅wと厚みtはそれぞれ6.1mmと0.15mmであった。そして、実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ51mmであった。したがって、たわみ係数Zは1.3であった。測定結果を表1にまとめた。このようなFRP用マルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。蛇行は確認されず、引張強度は3130MPaと良好であった。結果をあわせて表1に示す。
【0020】[比較例1]実施例1で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Bサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のBサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して1.0%となるように調節した。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、0.81g/mであり、幅wと厚みtはそれぞれ6.0mmと0.14mmであった。そして、実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ120mmであった。したがって、たわみ係数Zは2.4であった。このようなFRP用マルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。引抜ロッド内部に蛇行が確認された。また、引張強度は2080MPaと低かった。結果をあわせて表1に示す。
【0021】[比較例2]実施例1で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Aサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のAサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して0.2%となるように調節した。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、0.81g/mであり、幅wと厚みtはそれぞれ5.8mmと0.16mmであった。そして、実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ98mmであった。したがって、たわみ係数Zは2.9であった。このようなFRP用マルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。引抜ロッド内部に蛇行が確認された。また、引張強度は1950MPaと低かった。結果をあわせて表1に示す。
【0022】[実施例4]マルチフィラメントとして三菱レイヨン社製炭素繊維TR50S−24Lのアンサイズ糸を使用した。これは24Kのマルチフィラメントでねサイズ剤が塗布されていないものである。このマルチフィラメントに、Aサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。脱溶剤後のAサイズ剤の実質の付着量はマルチフィラメントの全質量に対して1.0%であった。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は、1.62g/mであった。また、幅wと厚みtはそれぞれ8.5mmと0.17mmであった。そして、実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ58mmであった。したがって、たわみ係数Zは1.5であった。このようなFRP用マルチフィラメント120本で、直径10mmの引抜ロッドを実施例1と同様にして成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。蛇行は確認されず、引張強度は3120MPaと良好であった。結果をあわせて表1に示す。
【0023】[実施例5]実施例4で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Aサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のAサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して1.5%となるように調節した。このようにして得られたFRP用マルチフィラメントのM/L値は1.63g/mであった。また、幅wと厚みtはそれぞれ8.9mmと0.16mmであった。そして実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ36mmであった。したがって、たわみ係数Zは0.81であった。このようなFRPマルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。蛇行は確認されず、引張強度は3260MPaと良好であった。結果をあわせて表1に示す。
【0024】[比較例3]実施例4で用いた炭素繊維マルチフィラメントのアンサイズ品に、Bサイズ剤を実施例1と同様の方法で塗布した。ただし、脱溶剤後のBサイズ剤の実質の付着量をマルチフィラメントの全質量に対して1.0%となるように調節した。このようにして得られたFRPマルチフィラメントのM/Lは1.62g/mであった。また、幅wと厚みtはそれぞれ8.7mmと0.16mmであった。そして実施例1と同様にしてたわみ量Yを測定したところ120mmであった。したがって、たわみ係数Zは2.6であった。このようなFRPマルチフィラメントを使用して、実施例1と同様にして直径5mmの引抜ロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。引抜ロッド内部に蛇行が確認された。引張強度は1840MPaと低かった。結果をあわせて表1に示す。
【0025】[比較例4]比較例1で用いたFRP用マルチフィラメントを用いて、バックテンションをマルチフィラメント1本当たり500gとする以外は実施例1と同様にして直径5mmの引き抜きロッドを成形し、内部の炭素繊維の蛇行確認、引張試験を実施した。引抜ロッド内部に蛇行が確認されず、引張強度も3140MPaと高かったが、工程中で毛羽が多発し、工程安定性は非常に悪かった。
【0026】
【表1】


【0027】このように、たわみ係数Zが2.0以下のマルチフィラメントを使用して得られた引き抜きロッド中において、マルチフィラメントの蛇行は確認できず、その直進性は優れていた。また、引き抜きロッドの引っ張り強度も優れていた。さらに、工程中で毛羽が発生せず、安定にロッドを製造できた。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のFRP用マルチフィラメントは、たわみ係数Zが2.0以下であるので、FRPに使用した場合に成形物中で蛇行しにくい。また、このような蛇行しにくさは、FRP製造工程条件に依存しないため、マルチフィラメントのバックテンションを上げる等のプロセス条件を特に最適化しなくても、マルチフィラメントの強度が十分に反映された高強度FRPを安定に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 マルチフィラメントのたわみ量Yを測定する方法を示す説明図である。
【図2】 FRPを製造する製造装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1…マルチフィラメント
1a…マルチフィラメントの一方の端部
1b…マルチフィラメントの他方の端部
1c…マルチフィラメント1の一方の端部1aからその長さ方向に200mmの位置
2…試験台
3…固定治具
11…クリール
12…テンションロール
13…レジンバス
14…マトリックス樹脂
15…円形ガイド
16…金型
17…ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記式(1)で示されるたわみ係数Zが、2.0以下であることを特徴とするFRP用マルチフィラメント。
Z=Y×w×t3 /(M/L)…(1)
(式(1)中、Yはマルチフィラメントのたわみ量(単位:mm)、wはマルチフィラメントの幅(単位:mm)、tはマルチフィラメントの厚み(単位:mm)、Mは長さL(単位:m)のマルチフィラメントの質量(単位:g)を表す。)
【請求項2】 ガラス繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のFRP用マルチフィラメント。
【請求項3】 炭素繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のFRP用マルチフィラメント。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載のFRP用マルチフィラメントを用いたことを特徴とするFRP。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開2001−253952(P2001−253952A)
【公開日】平成13年9月18日(2001.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−65477(P2000−65477)
【出願日】平成12年3月9日(2000.3.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】