説明

III族窒化物半導体結晶とその製造方法、およびIII族窒化物基板

【課題】大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】V族原料およびIII族原料の存在下でC面以外を主面とするIII族窒化物シード1上にIII族窒化物半導体結晶層3を成長させる際に、成長温度を1020℃未満にして行う低温成長工程2を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体結晶とその製造方法、およびIII族窒化物基板に関する。より詳細には、III族窒化物シード上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することと、そのようにして製造したIII族窒化物半導体結晶からIII族窒化物基板を製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体構造を有するLEDなどの半導体発光デバイス用の基板を得るために、一般にシード上にIII窒化物半導体結晶層を厚膜で成長させてIII族窒化物半導体結晶が製造されている。このとき、シードとして異種基板を用いてIII族窒化物半導体結晶層を直接厚膜成長させると、結晶欠陥が発生するために品質のよいIII族窒化物半導体結晶を提供することができない。このため、厚膜成長させようとしているIII族窒化物半導体結晶層と同種のIII族窒化物をまず異種基板上に成長させ、その上にさらにIII族窒化物半導体結晶層を厚膜成長させることにより、結晶欠陥の発生を抑えたIII族窒化物半導体結晶を製造する方法が採用されている。また、あらかじめ同種のIII族窒化物シードを用意しておき、その上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させることにより、結晶欠陥の発生を抑えたIII族窒化物半導体結晶を製造する方法も採用されている。
【0003】
これらの方法を採用すれば、極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を比較的容易に製造することができるが、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することは容易ではない。このため、非極性面や半極性面を主面とする大型のIII族窒化物半導体結晶の製造方法については、種々検討がなされ、幾つかの製造方法が提案されている。例えば、非極性面のオフ基板をシードとして並べて、その上に結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、種々の半極性面を有するシードを並べて、その上に結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。さらに、(20−21)面などの主面を有するシードを並べて、その上に結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。
一方で、異種基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させている場合には、バッファ層を形成する場合があるが、このようなバッファ層としては、V族原料とIII族原料の比(V/III)を100前後やそれ以上に高くして結晶成長させている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−275171号公報
【特許文献2】特開2011−16676号公報
【特許文献3】特開2011−26181号公報
【特許文献4】特開2006−273716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来は、異種基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させると結晶欠陥が発生するため、同種基板上になるべく結晶欠陥が小さくて良質なIII族窒化物半導体結晶層を成長することによりIII族窒化物半導体結晶を製造することが試みられてきた。そして、成長に用いるシードもなるべく結晶欠陥が少なくて良質なものを用いることが推奨されてきた。しかしながら、このような考え方に基づいて提案されている従来の製造方法によっても、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することは容易ではないという課題があった。そこで本発明者らは、従来の考え方とはまったく異なる観点から製造方法を幅広く検討することにより、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することができる方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討を進めた結果、従来は採用されていなかった条件でIII族窒化物シード上に特異成長層を形成し、その上にさらにIII族窒化物半導体結晶層を成長させることにより、大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することが可能であることを見出した。この方法を採用すれば、従来は製造することが困難であった、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶も容易に製造することができることが判明した。本発明は、このような知見に基づいて提供されたものであり、以下の態様を包含するものである。
【0007】
[1] V族原料およびIII族原料の存在下でC面以外を主面とするIII族窒化物シード上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させる結晶成長工程を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法であって、
前記結晶成長工程のうち少なくとも一部に、成長温度を1020℃未満にして行う低温成長工程を有することを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[2] 前記低温成長工程は、前記結晶成長工程全体の平均成長温度よりも20℃以上低い温度で0.1〜1時間成長させる工程である、[1]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[3] 前記低温成長工程を、前記結晶成長工程の開始時から行う、[1]または[2]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[4] 前記低温成長工程を950℃以上の温度で行う、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[5] V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)が3〜18である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[6] 前記III族窒化物シード上に前記III族窒化物半導体結晶層を500μm以上成長させる、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。[7] 前記結晶成長工程において、0.2〜8℃/時間の昇温速度で成長温度を上昇させる昇温工程を0.2〜2時間実施する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[8] 前記昇温工程の後に反応温度を一定温度に維持する定温成長工程を5時間以上行う、[7]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[9] 前記III族窒化物シードの主面が半極性面である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[10] [1]〜[9]のいずれか一項に記載の製造方法により製造したIII族窒化物半導体結晶。
[11] 前記III族窒化物シード上に、酸素濃度が8×1018cm-3以上で厚さが30〜120μmの特異成長層を有する、[10]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
[12] 前記特異成長層と前記III族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔の差が0.00005Å以上である、[11]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
[13] 前記特異成長層と前記III族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔変化Δd/daveの差が5x10-5以上である、[11]又は[12]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
[14] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法により得られたIII族窒化物半導体結晶を、スライスおよび/または研磨して得られるIII族窒化物基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法を用いれば、大型で良質なIII族窒化物半導体結晶層を成長させることが可能である。特に、従来は製造することが困難であった、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶も容易に製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような有利な特徴を有するIII族窒化物基板を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】III族窒化物シード上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させた断面図である。
【図2】III族窒化物シードの配置を説明するための斜視図である。
【図3】本発明の製造方法で用いることができる製造装置の一例を示す概略図である。
【図4】特異成長層と測定面の関係を示す結晶の断面図である。
【図5】(300)格子面間隔から算出したa軸長と成長方向の測定位置の関係を示すグラフである。
【図6】(300)格子面間隔変化と成長方向の測定位置の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明のIII族窒化物基板等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。
【0011】
本明細書においてIII族窒化物結晶の「主面」とは、当該III族窒化物結晶における最も広い面であって、結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。III族窒化物結晶では、C面はIII族面またはV族面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面またはN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(1−100)面、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、(11−20)面を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。また、本明細書において「オフ角」とは、ある面の指数面からのずれを表す角度である。また、「チルト角」とは、結晶面内で基準とする結晶軸に対するある結晶軸のずれを表す角度である。本明細書では、結晶面の主面の中心における結晶軸を基準として、主面上の他の位置における結晶軸が中心の結晶軸からどの程度ずれているかを表す角度である。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
(1)III族窒化物半導体結晶の製造方法
(成長温度)
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法は、V族原料およびIII族原料の存在下でIII族窒化物シード上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させる結晶成長工程を含む。そして、本発明の製造方法は、その結晶成長工程のうち少なくとも一部に、成長温度を1020℃未満にして行う低温成長工程を有することを特徴とする。このような低温成長工程を実施することによって、本発明の製造方法に特有な特異成長層を効率良く形成することが可能になる。
低温成長工程は、結晶成長工程において1回以上行うことが必要とされ、複数回行っても構わない。複数回行う場合は、5回以下にすることが好ましく、2回以下にすることがより好ましい。好ましい態様として、例えば結晶成長工程の開始と同時に低温成長工程を1回だけ行う態様や、結晶成長の途中に成長温度を下げることにより、低温成長工程を2回以上行う態様を挙げることができる。
低温成長工程にかける合計時間は、結晶成長工程にかける時間の0.5%以上であることが好ましく、0.6%以上であることがより好ましく、0.7%以上であることがさらに好ましい。また、低温成長工程にかける時間の合計は、結晶成長工程にかける時間の100%以下であり、50%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。低温成長工程にかける時間が長くすれば特異成長層が厚くなる傾向があり、短くすれば特異成長層が薄くなる傾向がある。
【0013】
低温成長工程を実施する温度は1020℃未満であるが、低温成長工程の少なくとも一部は1000℃以下で行うことが好ましく、980℃以下で行うことがより好ましい。また、低温成長工程の少なくとも一部は940℃以上で行うことが好ましく、950℃以上で行うことがより好ましく、960℃以上で行うことがさらに好ましい。
また、低温成長工程の少なくとも一部は、結晶成長工程全体の平均成長温度よりも20℃以上低い温度で実施することが好ましい。そのような温度で実施する時間は0.1時間以上であることが好ましく、0.2時間以上であることがより好ましく、0.5時間以上であることがさらに好ましい。また、1時間以下であることが好ましく、0.9時間以下であることがより好ましく、0.8時間以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう結晶成長工程全体の平均成長温度は、例えば結晶成長時の成長温度を一定の時間間隔(例えば1分)ごとに測定して、測定温度の平均をとることにより求めることができる。また、低温成長工程の少なくとも一部は、結晶成長工程全体の平均成長温度よりも30℃以上低い温度で実施することがより好ましく、40℃以上低い温度で実施することがさらに好ましく、50℃以上低い温度で実施することがさらにより好ましい。
【0014】
低温成長工程は、一定の温度で実施してもよいし、温度を変化させながら実施してもよいし、これらを組みあわせて実施してもよい。温度を変化させながら実施する場合は、温度を上げて行くこと(昇温)が好ましい。好ましい態様として、例えば連続的に昇温させながら実施する態様を挙げることができる。特に、結晶成長工程の開始と同時に低温成長工程を実施する場合は、連続的に昇温させながら実施することが好ましい。昇温を実施する場合は、昇温速度を0.2℃/時間以上にすることが好ましく、0.4℃/時間以上にすることがより好ましく、0.8℃/時間以上にすることがさらに好ましい。また、昇温速度は8℃/時間以下にすることが好ましく、4℃/時間以下にすることがより好ましく、2℃/時間以下にすることがさらに好ましい。昇温速度は一定に維持しても、変化させてもよい。このような昇温は、低温成長工程が終わった後も継続して、後述する定温成長工程に至るまで行うこともできる。昇温を行う場合は0.25時間以上行うことが好ましく、0.5時間以上行うことがより好ましく、0.75時間以上行うことがさらに好ましい。また、昇温は結晶成長工程を通して4時間以内にすることが好ましく、2時間以内にすることがより好ましく、1時間以内にすることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の製造方法における結晶成長工程では、上記の低温成長工程とは別に、一定の温度で結晶を成長させる定温成長工程を含むものであることが好ましい。ここでいう定温とは、±5℃以内の温度に維持することを意味する。本発明では、上記の昇温を実施した後に定温成長工程を実施することが好ましい。定温成長工程は、1時間以上行うことが好ましく、2時間以上行うことがより好ましく、5時間以上行うことがさらに好ましい。また、定温成長工程は150時間以内にすることが好ましく、130時間以内にすることがより好ましく、100時間以内にすることがさらに好ましい。また、定温成長工程は940℃以上の反応温度で行うことが好ましく、990℃以上の反応温度で行うことがより好ましく、1000℃以上の反応温度で行うことがさらに好ましく、1010℃以上の反応温度で行うことが特に好ましい。上限値については、1090℃以下の反応温度で行うことが好ましく、1070℃以下の反応温度で行うことがより好ましく、1040℃以下の反応温度で行うことがさらに好ましい。このような定温成長工程を実施することによって、安定なIII族窒化物半導体結晶層の成長を実現しやすくなる傾向がある。
【0016】
(V/III比)
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法では、結晶成長工程において、V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)を70以下にして成長を行うことが好ましい。V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)は、18以下にすることがより好ましく、15以下にすることがさらに好ましく、14以下にすることがよりさらに好ましく、13以下にすることが特に好ましい。V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)の下限については、3以上にすることが好ましく、5以上にすることがより好ましく、7以上にすることがさらに好ましい。このようなV/III比を上記の低温成長工程とともに組みあわせて採用することによって、本発明の製造方法に特有な特異成長層を効率良く形成することができる。
【0017】
本発明でいうV族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)は、例えば気相反応の場合であれば、反応容器内のV族原料ガスとIII族原料ガスの分圧の比をとることによって求めることができる。また、液相反応の場合であれば、反応容器内のV族原料濃度とIII族原料濃度の比をとることによって求めることができる。結晶成長中のモル存在比(V/III比)は、常に一定であってもよいし、変動してもよい。また、結晶成長中のモル存在比(V/III比)が常に本発明の範囲内であることは必ずしも必要とされないが、少なくとも、80μm以上の結晶が成長する間は本発明の範囲内のモル存在比(V/III比)を維持することが好ましい。また、本発明の範囲内のモル存在比(V/III比)に維持する時間は、結晶成長の開始時から少なくとも80μm以上の結晶が成長する間とすることが好ましい。
【0018】
本発明で用いるV族原料とIII族原料は、結晶成長させようとしているIII族窒化物半導体結晶の種類に応じて決定する。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合には、V族原料として例えばアンモニアなどの窒素原子を含有する原料を採用し、III族原料として塩化ガリウムなどのガリウム原子を含有する原料を採用する。V族原料とIII族原料は、それぞれ単一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
本発明の範囲内のモル存在比(V/III比)で結晶成長を実施する時間は、0.1時間以上であることが好ましく、0.2時間以上であることがより好ましく、0.5時間以上であることがさらに好ましい。本発明の範囲内のモル存在比(V/III比)で結晶成長を実施することによって、本発明の製造方法に特有な特異成長層を効率良く形成することができる。
【0019】
本発明の製造方法における結晶成長によって、III族窒化物半導体結晶層を250μm以上成長させることが好ましい。この膜厚以上に成長させれば、製造されるIII族窒化物基板上に品質の良いIII族窒化物半導体結晶層を成長させやすくなる傾向がある。成長膜厚は300μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。一方、成長膜厚の上限値は特に制限されないが、例えば10000μm以下にすることができる。好ましい厚さで結晶成長させることにより、製造されるIII族窒化物基板中に本発明の製造方法に特有な特異成長層を十分な厚さで形成させることができる。
【0020】
(特異成長層)
本発明でいう特異成長層は、本発明にしたがってIII族窒化物半導体結晶を成長させたときに形成される層であり、断面蛍光像観察を行うと蛍光像の暗い層として観察される層である。このような特異成長層は、従来の製造方法では観察されなかったものであり、本発明の製造方法により初めて形成することができたものである。本発明の製造方法で形成される特異成長層の厚さは、通常30μm以上であり、35μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、特異成長層の厚さは、通常120μm以下であり、110μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましい。特異成長層は、反応場に存在する不純物を取り込み易く、例えば、酸素、炭素、水素、珪素からなる群より選択される1以上を特異成長層以外の結晶部分(シード部分や特異成長層の上に成長するIII族窒化物半導体結晶層)よりも高い濃度で含有する。その濃度は、特異成長層の上に成長するIII族窒化物半導体結晶層の2倍以上になることがあり、10倍以上になることがあり、さらには20倍以上になることがある。また上限値については、例えば100倍以下になる。例えば、不純物として酸素を含む場合、特異成長層は黒色になる傾向がある。
【0021】
シード上に不純物濃度が高い特異成長層を敢えて形成することは、なるべく不純物濃度が低くて転位密度が小さな層を形成することを目的としてきた従来の製造方法とは逆の発想であり、従来の考え方では容易に想到し得ないものである。また、後述するように、このような不純物濃度が高くて転位密度が大きな特異成長層の上に、優れた品質を有するIII族窒化物半導体結晶層が成長することも従来は予測できなかったことである。
【0022】
本発明の製造方法において、特異成長層はシードの直上に形成してもよいし、シード上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層の上に形成してもよい。また、シード上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層の上に特異成長層を形成し、さらにその上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させてもよい。好ましいのは、図1(a)に示すように、シード(1)の直上に特異成長層(2)を形成した態様である。特異成長層(2)の上にはIII族窒化物半導体結晶層(3)が形成される。
【0023】
ここで、特異成長層の(300)面の格子面間隔dは0.92070Å以上であることが好ましく、0.92075Å以上であることがより好ましく、0.92077Å以上であることがさらに好ましく、0.92079Å以上であることが特に好ましい。また、0.92100Å以下であることが好ましく、0.92090Å以下であることがより好ましく、0.92085Å以下であることがさらに好ましく、0.92083Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0024】
また、特異成長層とIII族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔dの差は0.00005Å以上であることが好ましく、0.00007Å以上であることがより好ましく、0.00010Å以上であることがさらに好ましく、0.00013Å以上であることが特に好ましい。また、0.00040Å以下であることが好ましく、0.00035Å以下であることがより好ましく、0.00030Å以下であることがさらに好ましく、0.00025Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0025】
さらに、特異成長層と特異成長層の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層との間の(300)面の格子面間隔dの差は0.00005Å以上であることが好ましく、0.00006Å以上であることがより好ましく、0.00007Å以上であることがさらに好ましく、0.00008Å以上であることが特に好ましい。また、0.00035Å以下であることが好ましく、0.00030Å以下であることがより好ましく、0.00025Å以下であることがさらに好ましく、0.00020Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0026】
また、特異成長層とIII族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔変化Δd/daveの差は5x10-5以上であることが好ましく、1.0x10-4以上であることがより好ましく、1.5x10-4以上であることがさらに好ましく、1.8x10-4以上であることが特に好ましい。また、1.0x10-3以下であることが好ましく、5.0x10-4以下であることがより好ましく、3.0x10-4以下であることがさらに好ましく、2.5x10-4以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0027】
さらに、特異成長層と特異成長層の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層との間の(300)面の格子面間隔変化Δd/daveの差は2.0x10-5以上であることが好ましく、5.0x10-5以上であることがより好ましく、1.0x10-4以上であることがさらに好ましく、1.5x10-4以上であることが特に好ましい。また、1.0x10-3以下であることが好ましく、5.0x10-4以下であることがより好ましく、3.0x10-4以下であることがさらに好ましく、2.0x10-4以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0028】
なお、(300)面の格子面間隔変化Δd/daveは、Δd/dave=[d−dave]/daveから算出することができる。ここでdは測定点における格子面間隔を、daveは測定範囲における格子面間隔の平均値を表す。格子面間隔dの測定範囲は特に限定されないが、例えば、c軸に平行な方向に3mm以上とすることができる。中でも測定範囲内にIII族窒化物半導体結晶層、特異成長層及びIII族窒化物シードが含まれていることが好ましい。測定点数も特に限定されないが、50点以上とすることができる。
【0029】
本願実施例において測定に供したサンプルは、(20−21)面を主面とするシード上に特異成長層を含むホモエピタキシャル成長層を成長させた結晶からm面を主面とする基板を切り出したものであり、もとの成長主面((20−21)面)から約14.9°傾いた面が基板の主面となっている。したがって特異成長層の成長方向の厚さは50〜60μmであることが確認されており、測定を行ったサンプルの表面には図4に示すように、特異成長層は+c方向に厚みを減少させながら、c軸方向に約194〜233μmの幅で露出しているため、基板に特異成長層がくさび型に挿入された形になっている。本願実施例では、そのような構造をX線回折で捉えているために、格子面間隔、格子面間隔変化及びa軸長のデータには特異成長層そのものによる変化と、くさび型の層の形状の影響が反映されている。また格子定数が大きく異なる特異成長層が基板と正常成長層の間に形成されているため、その界面近傍の基板(シード)および正常成長層の格子は歪んでおり本来の値とは異なっていると考えられる。
【0030】
なお、上記の場合のように測定範囲内において、III族窒化物半導体結晶層、特異成長層及びIII族窒化物シードが明確に区別できない場合には、格子面間隔が最大値をとる測定点を特異成長層の中心とし、当該測定点における格子面間隔を特異成長層の格子面間隔とすることができる。この場合において、上記の理由により特異成長層の中心からIII族窒化物シード側に2mm以上離間した測定点における格子面間隔を、III族窒化物シードの格子面間隔とすることができる。また、特異成長層の中心からIII族窒化物半導体結晶層側に5mm以上離間した測定点における格子面間隔を、III族窒化物半導体結晶層の格子面間隔とすることができる。
上記のように(20−21)面を主面とするIII族窒化物シード上に成長させたサンプルを測定する際には、例えば、m面を主面とする基板を切り出して測定することができるが、m面を主面とするIII族窒化物シード上に成長させたサンプルを測定する際には、例えば、当該主面から60°傾いたm面を主面とする基板を切り出して測定することができる。
また、(300)面としてはその法線方向が異なる3種類の面が存在するが、本発明においては、測定対象である(300)面として、シード主面の法線となす角度が最も小さい法線を有する(300)面を選択するものとする。
【0031】
ここで、特異成長層の(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lは3.1893Å以上であることが好ましく、3.1894Å以上であることがより好ましく、3.1895Å以上であることがさらに好ましく、3.1897Å以上であることが特に好ましい。また、3.1902Å以下であることが好ましく、3.1901Å以下であることがより好ましく、3.1900Å以下であることがさらに好ましく、3.1899Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0032】
また、特異成長層の(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lと、III族窒化物シードの(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lとの差は0.0002Å以上であることが好ましく、0.0003Å以上であることがより好ましく、0.0004Å以上であることがさらに好ましく、0.0005Å以上であることが特に好ましい。また、0.0020Å以下であることが好ましく、0.0010Å以下であることがより好ましく、0.0009Å以下であることがさらに好ましく、0.0008Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0033】
さらに、特異成長層の(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lと、特異成長層の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層の(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lとの差は0.0001Å以上であることが好ましく、0.0002Å以上であることがより好ましく、0.0003Å以上であることがさらに好ましく、0.0004Å以上であることが特に好ましい。また、0.0020Å以下であることが好ましく、0.0010Å以下であることがより好ましく、0.0008Å以下であることがさらに好ましく、0.0007Å以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0034】
また、特異成長層とIII族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔から算出したa軸長変化ΔL/Laveの差は5.0x10-5以上であることが好ましく、1.0x10-4以上であることがより好ましく、1.5x10-4以上であることがさらに好ましく、1.8x10-4以上であることが特に好ましい。また、1.0x10-3以下であることが好ましく、5.0x10-4以下であることがより好ましく、3.0x10-4以下であることがさらに好ましく、2.5x10-4以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0035】
さらに、特異成長層と特異成長層の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層との間の(300)面の格子面間隔変化ΔL/Laveの差は2.0x10-5以上であることが好ましく、5.0x10-5以上であることがより好ましく、1.0x10-4以上であることがさらに好ましく、1.5x10-4以上であることが特に好ましい。また、1.0x10-3以下であることが好ましく、5.0x10-4以下であることがより好ましく、3.0x10-4以下であることがさらに好ましく、2.0x10-4以下であることが特に好ましい。下限値未満であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向があり、上限値超過であるとIII族窒化物半導体結晶層の結晶性が悪くなる傾向がある。
【0036】
なお、(300)面の格子面間隔から算出したa軸長Lは、(300)面の格子面間隔dに2√3を乗ずることで得ることができる。同様に、(300)面の格子面間隔から算出したa軸長変化ΔL/Laveは、(300)面の格子面間隔変化Δd/daveに等しい。
【0037】
(シード)
本発明の製造方法に用いるシードは、本発明の製造方法により成長させようとしているIII族窒化物半導体結晶と同じ種類のIII族窒化物結晶からなるものである。通常はIII族窒化物自立基板をシードとして用いる。III族窒化物自立基板は、例えば、特定の方向に成長させたIII族窒化物結晶塊から、本発明の製造方法により製造しようとしているIII族窒化物基板の主面と同じ主面かその主面から傾斜した面が主面となるように切り出すことにより製造することができる。例えば、III族窒化物半導体が六方晶である場合は、(0001)面成長により作製されたIII族窒化物結晶塊から、M面またはM面から若干傾斜した面が主面となるように切り出すことにより、III族窒化物自立基板を製造することができる。このIII族窒化物自立基板は、M面を主面とするIII族窒化物基板を成長させるために用いることができる。M面から傾斜した半極性面を主面とする、III族窒化物自立結晶を切り出す場合は、傾斜角を60°以下にすることが好ましく、45°以下にすることがより好ましく、30°以下にすることがさらに好ましい。切り出すIII族窒化物自立基板のサイズは、その自立基板上に結晶を成長させることができるものであることが必要とされる。通常は、製造しようとしているIII族窒化物基板の形状に対応した形状とサイズを選択する。例えば、長方形、立方径、円柱状のIII族窒化物自立基板とすることができる。III族窒化物自立基板の厚さは取り扱いの容易性や自立基板上への結晶の成長容易性等を考慮して適宜決定することができるが、例えば0.2mm以上にし、さらには0.3mm以上にすることができ、また、例えば5mm以下にし、さらには2mm以下にすることができる。
【0038】
本発明の製造方法で用いるシードの主面は、極性面であっても、半極性面であっても、非極性面であってもよい。従来技術に対する本発明の効果がより大きく現れるのは、主面が半極性面、非極性面、またはこれらの面から傾斜した面であるシードを用いた場合である。本明細書において「非極性面」とは、表面にIII族元素と窒素元素の両方が存在しており、かつその存在比が1:1である面を意味する。具体的には、M面やA面を好ましい面として挙げることができる。本明細書において「半極性面」とは、例えば、III族窒化物が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、h,k,lのうち少なくとも2つが0でなく、且つmが0でない面をいう。また、半極性面は、C面、すなわち(0001)面に対して傾いた面で、表面にIII族元素と窒素元素の両方あるいはC面のように片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。本発明のIII族窒化物基板の主面として好ましく採用できる半極性面として、例えば(10−11)面、(10−1−1)面、(20−21)面、(20−2−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面などを挙げることができる。
なお、本明細書においてC面、M面、A面や特定の指数面を称する場合には、±0.01°以内の精度で計測される各結晶軸から10°以内のオフ角を有する範囲内の面を含む。好ましくはオフ角が5°以内であり、より好ましくは3°以内である。
【0039】
本発明のシードの主面として、オフ角を有する非極性面や半極性面である特定の指数面を採用するとき、そのオフ角は傾斜後の面がC面とならない範囲内で選択する。オフ角は0.01°以上であることが好ましく、0.05°以上であることがより好ましく、0.1°以上であることがさらに好ましい。また、オフ角は10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましく、3°以下であることがさらに好ましい。傾斜方向はc軸方向を選択することが好ましい。
【0040】
本発明のシードの主面が半極性面である場合には、好ましくはM面またはM面からc軸方向に傾斜した面や、A面またはA面からc軸方向に傾斜した面であり、より好ましくはM面またはM面からc軸方向に傾斜した面である。M面またはA面からc軸方向に傾斜した面を主面とする場合、M面からc軸方向に傾斜した面の具体例として、(20−21)面や(10−11)面を挙げることができる。
【0041】
本発明の製造方法を実施する際には、シードであるIII族窒化物自立基板を単独で用いて、その上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させることも可能であるが、複数のIII族窒化物自立基板をシードとして並べて設置したうえでIII族窒化物半導体結晶層を成長させることが好ましい。複数のIII族窒化物自立基板を並べる際には、同一平面上に結晶方位をそろえて並べ、少なくとも隣り合う自立基板が互いに接するように並べることが好ましい。このとき、少なくとも自立基板の主面とC面との交線方向の辺で互いに接するように並べることが好ましい。例えば、主面とC面との交線方向の辺と、それに直交する辺を有する主面を含む直方体または立方体の同一形状のIII族窒化物自立基板を並べる際には、少なくとも主面とC面との交線方向の辺どうしが接するようにし、好ましくはそれに直交する辺どうしも接するように並べる。具体例として、a軸方向の辺とc軸方向の辺を有するM面を主面とする直方体のIII族窒化物自立基板(シード110)を並べる際には、図2に示すようにa軸方向の辺どうしが接し、c軸方向の辺どうしが接するように並べることができる。このとき、主面とC面との交線方向であるa軸方向の辺どうしが接する距離の総和(Sa)が、それ以外の辺であるc軸方向の辺どうしが接する距離の総和(Sc)よりも長くすることが好ましい。距離の総和の比(Sa/Sc)は1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。また、距離の総和の比(Sa/Sc)は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(製造装置と製造条件)
シードであるIII族窒化物自立基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させる方法としては、例えば、ハイドライド気相成長(HVPE)法、有機金属化学気相堆積(MOCVD)法、昇華法などの気相法、液相エピタキシー(LPE)法などの液相法、アモノサーマル法などを採用することが可能であり、HVPE法を好ましく用いることができる。
【0043】
本発明では、シードであるIII族窒化物自立基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させることができる製造装置を適宜選択して用いることができる。以下では、好ましい製造装置の一例として、図3を参照しながらHVPE法の製造装置を説明する。
【0044】
1)基本構造
図3の製造装置は、リアクター100内に、シード110を載置するためのサセプター108と、成長させるIII族窒化物半導体結晶の原料を入れるリザーバー106とを備えている。また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜104と、排気するための排気管109が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター107が設置されている。
【0045】
2)リアクターの材質、雰囲気ガスのガス種
リアクター100の材質としては、石英、焼結体窒化ホウ素、ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガス(キャリアガス)としては、例えば、水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0046】
3)サセプターの材質、形状、成長面からサセプターまでの距離
サセプター108の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。サセプター108の形状は、本発明で用いるIII族窒化物シードを設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に結晶成長面付近に構造物が存在しないものであることが好ましい。結晶成長面付近に成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。シード110とサセプター108の接触面は、シードの主面(結晶成長面)から1mm以上離れていることが好ましく、3mm以上離れていることがより好ましく、5mm以上離れていることがさらに好ましい。
【0047】
4)リザーバー
リザーバー106には、成長させるIII族窒化物半導体結晶の原料を入れる。具体的には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。リザーバー106にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー106に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー106にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えば水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0048】
5)窒素源(アンモニア)、セパレートガス、ドーパントガス
導入管104からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3を供給する。また、導入管101からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。このキャリアガスは原料ガス同士の気相での反応を抑制し、ノズル先端にポリ結晶が付着することを防ぐ効果もある。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiH4やSiH2Cl2、H2S等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0049】
6)ガス導入方法
導入管101〜104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、窒素源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0050】
7)排気管の設置場所
ガス排気管109は、リアクター内壁の上面、底面、側面に設置することができる。ゴミ落ちの観点から結晶成長端よりも下部にあることが好ましく、図3のようにリアクター底面にガス排気管109が設置されていることがより好ましい。
【0051】
8)結晶成長条件
上記の製造装置を用いた結晶成長は、840℃以上で行うことが好ましく、870℃以上で行うことがより好ましく、950℃以上で行うことがさらに好ましく、970℃以上で行うことがよりさらに好ましく、980℃以上で行うことが特に好ましい。また、1120℃以下で行うことが好ましく、1100℃以下で行うことがより好ましく、1090℃以下で行うことがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa以上とすることが好ましく、30kPa以上とすることがより好ましく、50kPa以上とすることがさらに好ましい。また、200kPa以下とすることが好ましく、150kPa以下とすることがより好ましく、120kPa以下とすることがさらに好ましい。
【0052】
9)結晶の成長速度
上記の製造装置を用いた結晶成長の成長速度は、成長方法、成長温度、原料ガス供給量、結晶成長面方位等により異なるが、一般的には5μm/h〜500μm/hの範囲であり、10μm/h以上が好ましく、50μm/h以上がより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。成長速度は、上記の他、キャリアガスの種類、流量、供給口−結晶成長端距離等を適宜設定することによって制御することができる。
【0053】
(結晶成長後の処理)
本発明にしたがって結晶成長工程を実施した後は、冷却後に結晶を取り出して、通常行われるスライス、外形加工、表面研磨などを行うことができる。これらの方法は、いずれか1つだけを選択して用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合は、例えば、スライス、外形加工、表面研磨の順に行うことができる。各処理について詳しく説明すると、スライスは、例えばワイヤーで切断することにより行うことができる。外形加工とは、基板形状を円形にしたり、長方形にしたりすることを意味し、例えばダイシング、外周研磨、ワイヤーで切断する方法などを挙げることができる。表面研磨の例として、ダイヤモンド砥粒などの砥粒を用いて表面を研磨する方法、CMP(chemical mechanical polishing)、機械研磨後のRIEでのダメージ層エッチングなどを挙げることができる。
【0054】
これらの結晶成長後の処理を行うことによって、得られたIII族窒化物半導体結晶にさらに結晶成長を行いIII族窒化物半導体結晶層を厚膜化することができる。このとき、成長させた結晶部分の厚さは500μm以上にすることが好ましく、750μm以上にすることがより好ましく、1000μm以上にすることがさらに好ましい。また、上述のような成長後の処理を行う場合には少なくとも特異成長層が残るようにする必要があり、例えば結晶成長によって図1(a)に示すような結晶を製造した場合は、図1(b)に示すように特異成長層(2)の上にIII族窒化物半導体結晶層(3)が残るように基板(5)を加工することが好ましい。
【0055】
(2)III族窒化物半導体結晶
本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶は、シード上に特異成長層を有するものである。本発明の典型的なIII族窒化物半導体結晶は、図1(a)に示すようにシード(1)上に特異成長層(2)とIII族窒化物半導体結晶層(3)を有する。本発明のIII族窒化物半導体結晶における特異成長層の厚さの好ましい範囲は、上記の製造方法において記載した特異成長層の好ましい成長膜厚の好ましい範囲と同じである。また、本発明のIII族窒化物半導体結晶において、特異成長層の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶層の厚さは、300μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることがさらに好ましい。一方、III族窒化物半導体結晶層の厚さの上限値は、20000μm以下であることが好ましく、18000μm以下であることがより好ましく、16000μm以下であることがさらに好ましい。本発明のIII族窒化物半導体結晶の表面は、上記の表面研磨などの実施により平滑化されていることが好ましい。
【0056】
本発明のIII族窒化物半導体結晶を構成するIII族窒化物半導体結晶の種類は特に制限されない。例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、またはこれらの混晶などを挙げることができる。混晶としては、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNなどを挙げることができる。好ましいのは窒化ガリウム(GaN)およびGaを含む混晶であり、より好ましいのは窒化ガリウム(GaN)である。
【0057】
本発明のIII族窒化物半導体結晶のサイズは、その主面上に結晶を成長させるのに十分な大きさであることが好ましい。例えば、最大径は10mm以上とすることができ、さらに17mm以上とすることができる。また、厚みは取り扱いやすい厚みであることが好ましく、例えば0.2mm以上とすることができ、さらに0.3mm以上とすることができる。形状は、長方体、立方体、円柱状など様々な形状をとりうるものであり、特に制限されない。
【0058】
本発明のIII族窒化物半導体結晶は、不純物濃度が高くて転位密度が大きな特異成長層を有しているにもかかわらず、その上に成長して形成されるIII族窒化物半導体結晶層が極めて良質になるという特徴を有する。具体的には、転位密度が小さくて、反りが小さなIII族窒化物半導体結晶層を容易に成長させることができるという優れた効果を有する。
【0059】
(3)III族窒化物基板
本発明の製造方法により得られたIII族窒化物半導体結晶を、スライスおよび/または研磨することによりIII族窒化物基板を提供することができる。
本発明のIII族窒化物基板は、III族窒化物半導体結晶層を成長させるIII族窒化物シードとして用いることができる。主面の面方位によっては通常、従来の方法では大型の良質なIII族窒化物シードを得ることが困難であったために、複数の小型のIII族窒化物シードを並べて使用することで代替していた。これに対して、本発明のIII族窒化物基板は結晶性に優れ、さらに一体で大きなサイズを有することから、III族窒化物シードとして用いる際に取り扱いが容易であり、均一性に優れたIII族窒化物半導体結晶を得ることができるためより好ましい。
III族窒化物シードとして用いる本発明のIII族窒化物基板としては、元のシードやその上に形成された特異成長層を含んでいてもよい。例えば結晶成長によって図1(a)に示すようなIII族窒化物基板を製造した場合は、図1(b)に示すように特異成長層(2)の上にIII族窒化物半導体結晶層(3)が残るように基板(5)を加工することが好ましい。
III族窒化物基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させる方法としては、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、LPE法などの液相法、アモノサーマル法などを採用することが可能であり、HVPE法を好ましく用いることができる。HVPE法の製造装置については、図3に示すものを例示することができる。製造条件については、通常のIII族窒化物半導体結晶層の成長条件を適宜選択して採用することができる。
【0060】
このときのV族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)は、例えば5以上にすることができ、6以上にすることが好ましく、8以上にすることがより好ましい。また、V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)は、例えば70以下にすることができ、35以下にすることが好ましく、20以下にすることがより好ましく、13以下にすることがさらに好ましい。成長圧力は、例えば10kPa以上にすることができ、30kPa以上にすることが好ましく、50kPa以上にすることがより好ましい。また、成長圧力は、例えば200kPa℃以下にすることができ、150kPa以下にすることが好ましく、120kPa以下にすることがより好ましい。さらに成長温度は、例えば990℃以上にすることができ、1000℃以上にすることが好ましく、1010℃以上にすることがより好ましい。また、成長温度は、例えば1090℃以下にすることができ、1070℃以下にすることが好ましく、1040℃以下にすることがより好ましい。
【0061】
本発明のIII族窒化物基板を用いて成長させたIII族窒化物半導体結晶層は、結晶欠陥が少なくて、結晶品質が高いという特徴を有する。また、本発明によれば、最大径が大きな大型のIII族窒化物半導体結晶層も容易に製造することができる。例えば、本発明によれば最大径が1cm以上のIII族窒化物半導体結晶層を製造することが可能であり、さらには最大径が2cm以上のIII族窒化物半導体結晶層を製造することも可能である。本発明では、複数のIII族窒化物基板を平面上に並べて、その上にまたがるようにIII族窒化物半導体結晶層を成長させることも可能であるが、一段と品質が良好な結晶を製造するためには、1枚のIII族窒化物基板上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させることが好ましい。その際には、製造しようとしているIII族窒化物半導体結晶層に対応するサイズのIII族窒化物基板を用いて結晶成長を行う。
【0062】
本発明では、特に、非極性面や半極性面を主面とするIII族窒化物基板を用いてIII族窒化物半導体結晶層を成長させることにより、従来の製造方法では製造することが困難であった、非極性面や半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶層を製造することができる。また、本発明では極性面を主面とするIII族窒化物基板を用いて結晶成長させることにより、極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶層を製造することも可能である。
【0063】
本発明のIII族窒化物基板を用いて、周知の製造方法にしたがって半導体発光デバイスを製造することができる。通常は、本発明のIII族窒化物基板の主面上に上記方法によりIII族窒化物半導体結晶を成長させることにより、LEDなどの半導体発光デバイスを製造する。成長させるIII族窒化物半導体結晶としては、例えばGaN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNなどを挙げることができる。本発明のIII族窒化物基板上に結晶を成長させれば、従来のIII族窒化物基板上に結晶を成長させた場合に比べて、発光効率が高い半導体発光デバイスを提供することができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
<実施例1>
(0001)面成長により作製されたGaN結晶塊から、<0001>(c軸)方向に17mm、<11−20>(a軸)方向に30mmの長方形で、主面が(20−21)面であるGaN自立基板を8枚切り出した。このGaN自立基板をシードとして、サセプター上に<0001>(c軸)方向に4列、<11−20>(a軸)方向に2列に並べた(図2参照)。その後、図3に示すように、シード110を搭載したサセプター108をリアクター100内に配置して、反応室の温度を970℃まで上げ、HVPE法にてGaN単結晶層の成長を開始した。成長開始と同時に、反応室の温度を970℃から1020℃まで1時間で昇温させた後、1020℃一定で77時間成長させた。この単結晶成長工程においては成長開始から成長終了まで成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を5.96×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を5.34×103Paとした。単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、GaN結晶を得た。得られたGaN結晶は<20−21>方向に最大で12.2mm、最小で8mm成長していた。成長膜厚分布には傾向がなく、ランダムな膜厚分布であった。
【0066】
得られたGaN結晶について外形加工、表面研磨処理を行った後、通常の手法でこれをシードの主面に対して斜めの方向にスライスし、研磨を行って、(10−10)面を主面とする厚さ400μmのGaN自立基板1を作製した。このGaN自立基板1について断面蛍光像観察を行ったところ、シード界面から80μm厚の蛍光像の暗い層として特異成長層が観察された。このGaN自立基板1は、厚さ20μmのシード部分と、厚さ80μmの蛍光像の暗い層(特異成長層)と、厚さ300μmのGaN結晶層から構成されており、貫通穴が多いことが確認された。この蛍光像の暗い層(特異成長層)のSIMS測定を行ったところ、酸素濃度が5×1019cm-3であり、それ以外の大部分の結晶(GaN結晶層)の酸素濃度が3×1018cm-3であるのと比較して、酸素濃度が高い層であることが分かった。また、特異成長層の断面をSEM−CL観察したところ、特異成長層は3kV、100pAの条件ではCL発光せず、特異成長層内の転位分布は観察不可であった。一方、シードの転位密度が6×106cm-2であったのに対して、特異成長層直上の結晶は転位密度が9×105cm-2以下であり、それより成長方向側でも2×106cm-2程度であった。このことから、特異成長層より成長方向側の結晶の転位密度はシードの転位密度より低くなっていることが分かった。さらに、特異成長層の断面について、3kV、500pA、2000倍視野でCLスペクトルを測定したところ、特異成長層からバンド端発光のピークは、特異成長層より成長方向側の結晶に比べて約1/135の強度比であった。またCLスペクトルのピーク波長は、特異成長層は364nm、特異成長層より成長方向側の結晶は366nmであった。
【0067】
得られたGaN自立基板1のうち特異成長層の上に成長したGaN結晶層の結晶性評価を実施した。基板面内における<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向のチルト角分布を、X線回折法のωスキャンを<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向にそれぞれ3点実施することにより測定した。3点の測定点は、基板中心1点と、基板中心から20mm離れた2点となる位置とした。測定結果は、40mm間隔換算で<11−20>(a軸)方向は±0.10°、<0001>(c軸)方向は±0.32°であった。<11−20>(a軸)方向のチルト角分布を<0001>(c軸)方向のチルト角分布で割った値は、0.32であった。なお、2つの軸方向のチルト角分布は主面中でほぼ一定であった。
【0068】
GaN自立基板1のうち特異成長層の上に成長したGaN結晶層を用いて、MOCVD法により405nm発光のInGaN系のLED構造を作製した。具体的には、基板1のGaN結晶層部分にInGaN/GaN量子井戸を含んだ構造を成長することによってLED構造を作製した。作製したLEDについて、中心波長325nmのHe−Cdレーザーを励起光源として用いて室温にてPL(photo−luminescence)測定を実施したところ、PL強度は最大4.877、平均1.590であった。結果は表1に示すとおりである。
【0069】
次に、上記特異成長層を含む領域のX線回折測定を実施した。X線回折測定は高分解能X線回折装置(パナリティカル製X’Pert Pro MRD)を用いて行った。
【0070】
サンプル主面に平行な(300)面のomega scan(ロッキングカーブ測定)と(300)面格子面間隔測定をc軸方向に連続測定した。この(300)面の法線は結晶成長主面(20−21)の法線から約14.9°傾いているが、ほぼ結晶成長方向の格子面間隔を捉えていると考えられる。
【0071】
X線ビームはX線管球をラインフォーカスとし、発散スリットをGe(220)非対称2回反射モノクロメーターの手前に挿入し、CuKα1線を用い、モノクロメーターの先にピンホールコリメーターを装着し、サンプル表面でガウシアン関数近似の半値全幅(full width at half maximum:FWHM)で水平方向100μm、鉛直方向100μmとなるようにした。(300)面のX線入射角(ω)は約57°であるのでサンプル表面での水平方向の照射長さは約120μmとなる。サンプルはa軸方向が鉛直方向に、c軸方向が水平方向になるようにサンプルステージに固定した。X線ビームはa軸に垂直に入射した。c軸方向に沿って、当該ライン上で(300)面(結晶主面であるm面に垂直な方向の格子面間隔)の2θ−ωスキャンを20μm間隔で連続的に行い、格子面間隔の変化を調べた。格子面間隔は2θ−ωスキャンのスペクトルをガウシアン関数によりフィッティングしピークを求め、それより動力学的理論に基づく計算により求めた。さらに屈折率補正を行った。
【0072】
2θ−ωスキャンの際受光側にはGe(220)3回反射型モノクロメーター(所謂アナライザー)と比例計数型検出器を用いた。X線装置筐体内の温度は24.5±1℃以内に制御し、温度変動の測定への影響の抑制に努めた。2θの原点は測定開始時に較正し、測定終了後ずれがないことを確認した。
【0073】
ガウシアン近似でFWHM100x100μm径の大きさのビームを用いながらも、測定ステップを20μmと細かくすることにより20μm以下の空間分解能を有するプローブを用いたがごとく、Δd/daveの変化の傾向が見て取れた。これはFWHMは100μmであるものの、回折を支配するX線強度を有するビームの中心領域がもっと狭いことに起因すると考えられる。
【0074】
図5からサンプル主面に平行な(300)回折から求めたa軸長はシードではc軸方向(+c方向)に沿って3.1892Åから3.1891Åへ漸減する傾向が認められたが、シードから特異成長層との境界でa軸長は約3.1898Åまで急激に増加することが見てとれる。特異成長層は結晶成長主面(20−21)に垂直に50〜60μmの厚さで存在しているが、測定に供したサンプルは(20−21)面から約14.9°傾いた(10−10)面で切り出しているため特異成長層は図4に示すように表面に露出している。そのため特異成長層の(300)面から求めたa軸長が3.1897Å〜3.1898Åとして捉えられていると考えられる。さらに+c方向ではa軸長は急激に減少し、その後漸減し基板のa軸長に近づいている。
【0075】
最初の急激な減少は、本サンプルでは特異成長層がくさび型に挿入されているため、表面の特異成長層が徐々に薄くなりX線回折に特異成長とともに正常成長部が強く影響を与えたためと考えられる。その後のa軸長の緩やかな減少は正常成長部そのものの格子面間隔の変化が捉えられていると考えられる。
【0076】
図6に示すようにシードと上記特異成長層の境界と思われる部分での急峻な(300)格子面間隔の変化Δd/daveは、特異成長層ではシードに比べてΔd/dave=2x10-4と大きな(300)格子面間隔の増大(基板主面に垂直な方向の格子面間隔の伸張)が生じていることがわかった。これはほぼ成長方向に格子面間隔が伸張していることを示す。これから通常のコヒーレントなエピタキシャル成長が起こっているとすると、成長面内では格子面間隔は縮小していることが推察される。特異成長層から上部の成長層にかけては格子面間隔は徐々に減少しており、シードのそれに漸近している。特異成長層上成長結晶では結晶欠陥、特に積層欠陥の形成が抑制される傾向があることから、このように成長初期に格子面間隔が変調された構造を形成することが結晶欠陥抑制に大きな効果があると考えられる。
【0077】
<実施例2>
実施例1と同様に作製したGaN結晶について外形加工、表面研磨処理を行った後、通常の手法でこれをシードの主面と平行にスライスし、研磨を行って、55mm角の正方形の(20−21)面を主面とし、シードを含む厚さ400μmのGaN自立基板2を作製した。
55mm角の(20−21)面を主面とするGaN自立基板2をサセプター108上に置き、(1)と同様にHVPE法にて反応室の温度を970℃から1020℃まで1時間で昇温させた後、1020℃一定でGaN単結晶膜を139時間成長させた。成長圧力は1.01×105Paとし、各ガスの分圧は、GaClガスG3の分圧を5.96×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を5.34×103Paとなるように設定した。 成長した結晶の膜厚は、<20−21>方向に最大で19.6mm、最小で8.6mmであった。成長膜厚分布には傾向がなく、ランダムな膜厚分布であった。
得られたGaN結晶についてダイシングにより外形加工し、通常の手法でこれをシードの主面に対して斜めの方向にスライスし、さらにダイヤモンド砥粒を用いた研磨およびChemical mechanical Polishing(CMP)により表面研磨して、厚さ400μmの(10−10)面を主面とするGaN自立基板3を31枚作製した。作製されたGaN自立基板には、貫通穴は確認されなかった。シードに存在していた貫通穴は、成長で埋まったと考えられる。
このGaN自立基板3について、断面蛍光像観察を行ったところ、シード界面から80μm厚の蛍光像の暗い層が観察された。この蛍光像の暗い層のSIMS測定を行ったところ、酸素濃度が5×1019cm-3であり、それ以外の大部分の結晶の酸素濃度が3×1018cm-3であるのと比較して、酸素濃度が高い層であることが分かった。
【0078】
得られた32枚のGaN自立基板3のうち、シード側から15番目の基板について、特異成長層の上に成長したGaN結晶層の結晶性評価を実施した。基板面内における<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向のチルト角分布を、X線回折法のωスキャンを<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向にそれぞれ3点実施することにより測定した。3点の測定点は、基板中心1点と、基板中心から20mm離れた2点となる位置とした。測定結果は、40mm間隔換算で<11−20>(a軸)方向は±0.11°、<0001>(c軸)方向は±0.35°であった。<11−20>(a軸)方向のチルト角分布を<0001>(c軸)方向のチルト角分布で割った値は、0.31であった。なお、2つの軸方向のチルト角分布は主面中でほぼ一定であった。
【0079】
シード側から14番目のGaN自立基板3のうち特異成長層の上に成長したGaN結晶層を用いて、MOCVD法により405nm発光のInGaN系のLED構造を作製した。具体的には、基板にInGaN/GaN量子井戸を含んだ構造を成長することによってLED構造を作製した。作製したLEDについて、中心波長325nmのHe−Cdレーザーを励起光源として用いて室温にてPL(photo−luminescence)測定を実施したところ、PL強度は最大4.615、平均1.282であった。結果は表1に示すとおりである。
【0080】
<比較例1>
実施例1と同様にシード準備と配置を行った。反応室の温度を1020℃まで上げ、HVPE法にてGaN単結晶膜を1020℃一定で78時間成長させた。成長圧力は1.01×105Paとし、各ガスの分圧は、GaClガスG3の分圧を4.11×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を8.22×103Paとなるように設定した。単結晶成長工程が終了後、室温まで降温し、GaN結晶を得た。結晶は[20−21]方向に最大で12.8mm、最小8.6mm以下の成長膜厚であった。成長膜厚分布には傾向がなく、ランダムな膜厚分布であった。
得られたGaN結晶について外形加工、表面研磨処理を行った後、通常の手法でこれをシードの主面に対して斜めの方向にスライスし、研磨を行って、(10−10)面を主面とする厚さ400μmのGaN自立基板4を作製した。作製されたGaN自立基板には、貫通穴が多いことが確認された。このGaN自立基板4について断面蛍光像観察を行ったが、シード界面からの蛍光像の暗い層は観察されなかった。
【0081】
得られたGaN自立基板4のうちシード上に成長した上方のGaN結晶層の結晶性評価を実施した。基板面内における<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向のチルト角分布を、X線回折法のωスキャンを<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向にそれぞれ3点実施することにより測定した。3点の測定点は、基板中心1点と、基板中心から20mm離れた2点となる位置とした。測定結果は、40mm間隔換算で<11−20>(a軸)方向は±0.12°、<0001>(c軸)方向は±0.82°であった。<11−20>(a軸)方向のチルト角分布を<0001>(c軸)方向のチルト角分布で割った値は、0.15であった。なお、2つの軸方向のチルト角分布は主面中でほぼ一定であった。
【0082】
GaN自立基板4のうちシード上に成長した上方のGaN結晶層を用いて、MOCVD法により405nm発光のInGaN系のLED構造を作製した。具体的には、基板4のGaN結晶層部分にInGaN/GaN量子井戸を含んだ構造を成長することによってLED構造を作製した。作製したLEDについて、中心波長325nmのHe−Cdレーザーを励起光源として用いて室温にてPL(photo−luminescence)測定を実施したところ、PL強度は最大1.245、平均0.555であった。結果は表1に示すとおりである。
【0083】
<比較例2>
比較例1と同様に作製したGaN結晶について外形加工、表面研磨処理を行った後、通常の手法でこれをシードの主面と平行にスライスし、研磨を行って、55mm角の正方形の(20−21)面を主面とし、シードを含む厚さ400μmのGaN自立基板5を作製した。作製されたGaN自立基板5には、貫通穴が多いことが確認された。
55mm角の(20−21)面を主面とするGaN自立基板5をサセプター108上に置き、比較例1と同様にHVPE法にて反応室の温度を1020℃一定でGaN単結晶膜を140時間成長させた。
結晶は<20−21>方向に最大で19.2mm、最小8.9mm以下の成長膜厚であった。成長膜厚分布には傾向がなく、ランダムな膜厚分布であった。得られたGaN結晶についてダイシングにより外形加工し、通常の手法でこれをシードの主面に対して斜めの方向にスライスし、さらにダイヤモンド砥粒を用いた研磨およびChemical mechanical Polishing(CMP)により表面研磨して、厚さ400μmの(10−10)面を主面とするGaN自立基板6を31枚作製した。作製されたGaN自立基板には、貫通穴は確認されなかった。シードに存在していた貫通穴は、成長で埋まったと考えられる。
この得られたGaN自立基板6について、断面蛍光像観察を行ったが、シード界面からの蛍光像の暗い層は観察されなかった。
【0084】
得られた32枚のGaN自立基板6のうち、シード側から15番目の基板の評価を実施した。基板面内における<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向のチルト角分布をX線回折法のωスキャンを、<11−20>(a軸)方向および<0001>(c軸)方向に3点実施することにより測定した。3点の測定点は、基板中心1点と、基板中心から20mm離れた2点となる位置とした。測定結果は、40mm間隔換算で<11−20>(a軸)方向は±0.12°、<0001>(c軸)方向は±0.90°であった。<11−20>(a軸)方向のチルト角分布を<0001>(c軸)方向のチルト角分布で割った値は、0.13であった。なお、2つの軸方向のチルト角分布は主面中でほぼ一定であった。
【0085】
シード側から14番目のGaN自立基板6を用いて、MOCVD法により405nm発光のInGaN系のLED構造を作製した。具体的には、基板にInGaN/GaN量子井戸を含んだ構造を成長することによってLED構造を作製した。作製したLEDについて、中心波長325nmのHe−Cdレーザーを励起光源として用いて室温にてPL(photo−luminescence)測定を実施したところ、PL強度は最大1.041、平均0.513であった。結果は表1に示すとおりである。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のIII族窒化物半導体結晶を用いれば、その上に優れた品質を有するデバイス構造を成長させることができるIII族窒化物基板が得られる。また、そのようにして成長させたIII族窒化物半導体層からなるデバイス構造を用いれば、発光効率が高いLEDなどの半導体発光デバイスを簡便に製造することができる。このため、本発明はIII族窒化物半導体結晶を利用した工業製品の開発や製造に効果的に利用することができ、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0088】
1 III族窒化物シード
2 特異成長層
3 III族窒化物半導体結晶層
4 結晶成長工程で成長した結晶
5 III族窒化物基板
100 リアクター
101 キャリアガス用配管
102 ドーパントガス用配管
103 III族原料用配管
104 窒素原料用配管
106 III族原料用リザーバー
107 ヒーター
108 サセプター
109 排気管
110 シード
G1 キャリアガス
G2 ドーパントガス
G3 III族原料ガス
G4 窒素原料ガス
G5 HClガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
V族原料およびIII族原料の存在下でC面以外を主面とするIII族窒化物シード上にIII族窒化物半導体結晶層を成長させる結晶成長工程を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法であって、
前記結晶成長工程のうち少なくとも一部に、成長温度を1020℃未満にして行う低温成長工程を有することを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記低温成長工程は、前記結晶成長工程全体の平均成長温度よりも20℃以上低い温度で0.1〜1時間成長させる工程である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記低温成長工程を、前記結晶成長工程の開始時から行う、請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記低温成長工程を950℃以上の温度で行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
V族原料のIII族原料に対するモル存在比(V/III比)が3〜18である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記III族窒化物シード上に前記III族窒化物半導体結晶層を500μm以上成長させる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記結晶成長工程において、0.2〜8℃/時間の昇温速度で成長温度を上昇させる昇温工程を0.2〜2時間実施する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記昇温工程の後に反応温度を一定温度に維持する定温成長工程を5時間以上行う、請求項7に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
前記III族窒化物シードの主面が半極性面である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法により製造したIII族窒化物半導体結晶。
【請求項11】
前記III族窒化物シード上に、酸素濃度が8×1018cm-3以上で厚さが30〜120μmの特異成長層を有する、請求項10に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【請求項12】
前記特異成長層と前記III族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔の差が0.00005Å以上である、請求項11に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【請求項13】
前記特異成長層と前記III族窒化物シードとの間の(300)面の格子面間隔変化Δd/daveの差が5x10-5以上である、請求項11又は12に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法により得られたIII族窒化物半導体結晶を、スライスおよび/または研磨して得られるIII族窒化物基板。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−82611(P2013−82611A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−218276(P2012−218276)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/LED照明の高効率化・高品質化に係る基盤技術開発/窒化物等の結晶成長手法の高度化に関する基盤技術開発」にかかわる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】