説明

III族窒化物系半導体素子

【課題】III族窒化物系半導体領域の表面がc面から傾斜している場合に、該半導体層上に設けられる電極と該半導体領域との接触抵抗を小さく抑えることが可能なIII族窒化物系半導体素子を提供する。
【解決手段】III族窒化物系半導体素子は、III族窒化物結晶からなる非極性表面13aを有する半導体領域13と、半導体領域13の非極性表面13aに設けられた金属電極17とを備え、非極性表面13aは半極性及び無極性のいずれかであり、半導体領域13にはp型ドーパントが添加されており、半導体領域13のIII族窒化物結晶と金属電極17との間に、金属電極17の金属と半導体領域13のIII族窒化物とが相互拡散して成る遷移層19を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物系半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、(0001)面(所謂c面)上に成長したp型GaN層上にオーミック電極を形成するための方法として、p型GaN層上にNi/Auを蒸着した後、酸素雰囲気中で熱処理(アニール)を施すことが記載されている。この方法では、p型GaN層の表面に存在する酸化膜をNiが吸収し、該酸化膜の酸素原子とNiとが結合することによって酸化膜が除去され、Auがp型GaN結晶に接することができ、オーミック接合が形成されるものと考えられている。
【0003】
また、特許文献3には、サファイア基板上にp型のIII族窒化物半導体層を成長させ、基板を300℃に加熱した後、III族窒化物半導体層の表面にPtまたはNiを蒸着した場合に、接触抵抗を調べた結果が記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、p型GaNコンタクト層上にPtを蒸着した後、酸素雰囲気中で500℃〜600℃の範囲で熱処理を行うことにより、電極の合金化処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−291621号公報
【特許文献2】特開平9−64337号公報
【特許文献3】特開2004−247323号公報
【特許文献4】特開平11−186605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばIII族窒化物系の半導体発光素子を作製する際、要求される発光波長によっては、インジウム(In)を含むIII族窒化物系半導体(InGaNやInAlGaNなど)を、GaN基板等のIII族窒化物系半導体基板上に成長させる場合がある。In原子の直径はGa原子の直径よりも大きいので、Inの組成を高めると格子不整合によりInを含む層の内部歪が大きくなる。その結果、大きなピエゾ電界が当該層内に誘起され、再結合確率が低下して発光効率が抑えられてしまう。
【0007】
このような問題点を解決するための技術として、Inを含むIII族窒化物系半導体を、III族窒化物系半導体結晶のc面から大きく傾斜した表面上に成長させる技術が研究されている。このようにc面から傾斜した面上に成長させることにより、Inを含む層に生じるピエゾ電界を低減できるからである。
【0008】
しかしながら、上述した従来のオーミック電極では、表面がc面であるIII族窒化物系半導体領域上に電極を形成する場合には低い接触抵抗が得られるが、表面がc面から傾斜したIII族窒化物系半導体領域上に電極を形成する場合には、接触抵抗が高くなってしまうことがわかった。これは、III族窒化物系半導体領域の表面がc面から傾斜していることにより、厚い表面酸化膜が形成されたことが原因であると考えられる。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、III族窒化物系半導体領域の表面がc面から傾斜している場合に、該半導体層上に設けられる電極と該半導体領域との接触抵抗を小さく抑えることが可能なIII族窒化物系半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明によるIII族窒化物系半導体素子は、III族窒化物結晶からなる非極性表面を有する半導体領域と、半導体領域の非極性表面に設けられた金属電極とを備え、非極性表面は半極性及び無極性のいずれかであり、半導体領域にはp型ドーパントが添加されており、半導体領域のIII族窒化物結晶と金属電極との間に、金属電極の金属と半導体領域のIII族窒化物とが相互拡散して成る遷移層を有することを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、非極性面を表面に有するp型のIII族窒化物半導体領域上にオーミック電極を形成する際に、電極とIII族窒化物結晶との界面に遷移層を生成することにより、接触抵抗を効果的に低減できることを見出した。すなわち、表面が非極性であるIII族窒化物半導体領域においては、該非極性表面の結晶状態が金属と結合し易い状態であるため、c面を表面とするIII族窒化物半導体領域上に電極を形成する場合と異なり、III属窒化物半導体領域と電極との間に遷移層(金属電極の金属と半導体領域のIII族窒化物結晶とが相互拡散して成る層)を生成することができる。この遷移層により、III属窒化物半導体領域と電極との密着性が改善され、接触抵抗を小さく抑えることができる。
【0012】
また、III族窒化物系半導体素子は、遷移層の厚さが0.5nm以上3nm以下であることを特徴としてもよい。このような厚さの遷移層によって、より効果的に接触抵抗を低減できる。
【0013】
また、III族窒化物系半導体素子は、金属電極がPd及びPtの少なくとも一方を含むことを特徴としてもよい。このような金属電極によって、半導体領域との間に遷移層を好適に生じさせることができる。
【0014】
また、III族窒化物系半導体素子は、金属電極が、半導体領域の非極性表面上に金属膜が形成されたのち、熱処理を経ずに完成されたことを特徴としてもよい。このIII族窒化物系半導体素子によれば、半導体領域との間に遷移層を好適に生じさせることができる。
【0015】
また、III族窒化物系半導体素子は、半導体領域の非極性表面の法線と半導体領域のIII族窒化物結晶のc軸との成す角度が、10度以上80度以下または100度以上170度以下の範囲内にあることを特徴としてもよい。このIII族窒化物系半導体素子によれば、非極性表面は、10度以上80度以下または100度以上170度以下の範囲内にある半極性面である。
【0016】
また、III族窒化物系半導体素子は、半導体領域の非極性表面の法線と半導体領域のIII族窒化物結晶のc軸との成す角度が、63度以上80度以下または100度以上117度以下の範囲内にあることを特徴としてもよい。このIII族窒化物系半導体素子によれば、非極性表面は、63度以上80度以下または100度以上117度以下の範囲内にある半極性面である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るIII族窒化物系半導体素子によれば、III族窒化物系半導体領域の表面がc面から傾斜している場合に、該半導体層上に設けられる電極と該半導体領域との接触抵抗を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係るIII族窒化物系半導体素子を製造する方法における主要な工程を示す図面である。
【図2】図2は、図1に示された主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図3】図3は、図1に示された主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【図4】図4(a)は、第1実施例において作製されたエピタキシャル基板の構成を示す図である。図4(b)は、フォトリソグラフィで形成した内側の電極と、これと隔てられた外側の電極とを含むPd電極構造を示す図である。
【図5】図5は、接触抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、第2実施例におけるエピタキシャル基板の分析結果を示すグラフである。図6(a)及び図6(b)はGa2pスペクトルを示している。
【図7】図7は、第2実施例におけるエピタキシャル基板の分析結果を示すグラフである。図7(a)及び図7(b)はN1sスペクトルを示している。
【図8】図8は、第2実施例において作製されたエピタキシャル基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。図8(a)はPd電極が形成され且つ熱処理を経ていないエピタキシャル基板の断面を示しており、図8(b)はPd電極が形成され且つ熱処理(310℃、1分)を経たエピタキシャル基板の断面を示している。
【図9】図9は、第2実施例において作製されたエピタキシャル基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。図9(a)及び図9(b)は、Au/Ni電極が形成されたエピタキシャル基板の断面を示している。
【図10】図10は、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板において、表面処理の有無によるスペクトルの相違を示すグラフである。図10(a)及び図10(b)はGa2pスペクトルを示している。
【図11】図11は、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板において、表面処理の有無によるスペクトルの相違を示すグラフである。図11(a)及び図11(b)はN1sスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるIII族窒化物系半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明に係るIII族窒化物系半導体素子を製造する方法における主要な工程を示す図面である。また、図2及び図3は、図1に示された主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。III族窒化物系半導体素子は、例えばレーザダイオード及び発光ダイオードといった光素子、または例えばpn接合ダイオード及びトランジスタといった電子デバイスであることが好ましい。
【0021】
図1の工程S101では、図2(a)に示される基板11を準備する。好適な実施例では、基板11は非極性主面を有することが好ましい。基板11は、例えばウルツ鉱構造のIII族窒化物系半導体からなる。III族窒化物系半導体としては、例えばAlN、並びにAlGaN及びGaNといった窒化ガリウム系半導体等がある。これらの窒化ガリウム系半導体において、基板11の主面11aは非極性を示す。非極性は、半極性又は無極性である。図2(a)に示される軸Cxは、基板11のIII族窒化物系半導体のc軸(<0001>軸)の方向を示しており、軸Cxの向きはc軸ベクトルVCとして表される。法線ベクトルNVは、基板11の主面11aに垂直である。基板11の法線ベクトルNVとc軸ベクトルVCとの成す角度Alphaは、例えば10度以上170度以下の範囲にある。
【0022】
工程S102では、図2(b)に示されるように、成長炉といった処理装置10aに基板11を配置した後に、基板11の主面11a上に半導体領域13を成長する。半導体領域13はIII族窒化物結晶からなり、例えば一又は複数の窒化ガリウム系半導体層を含むことが好ましい。本実施例では、半導体領域13は、基板11の主面11aへのエピタキシャル成長によって提供され、この結晶成長は例えば有機金属気相成長法又は分子線エピタキシ法等で行われる。半導体領域13の表面13aは非極性を有する。この非極性もまた半極性又は無極性である。また、半導体領域13の非極性表面13aはp型III族窒化物系半導体、例えば窒化ガリウム系半導体からなる。p型III族窒化物系半導体には、例えばMgといったp型ドーパントが高濃度で添加されている。p型III族窒化物系半導体の形成は、エピタキシャル成長に限定されるものではない。これらの工程により第1の基板生産物P1が作製される。
【0023】
工程S103では、処理装置10aから第1の基板生産物P1を取り出す。このとき、大気にさらされた半導体領域13の非極性表面13a(半極性面及び無極性面)は、c面(極性面)に比べて酸化されやすい。つまり、大気にさらされた半導体領域13の非極性面には、比較的厚い酸化物(いわゆる、厚い自然酸化膜)が形成される。処理装置10aから成膜装置へ基板生産物P1を移動するときに、自然酸化膜が形成されて、図2(c)に示されるように、第1の基板生産物P1の表面には酸化物15が存在する。
【0024】
必要な場合には、工程S104として、第1の基板生産物P1の前処理を行う工程を設けてもよい。前処理のための溶液として、例えば王水、フッ酸及び塩酸の少なくともいずれかを用いることが好適である。これらの溶液によって、半導体領域13の非極性表面13aに形成された酸化物15を或る程度除去できる。
【0025】
そして、図3(a)に示されるように、工程S105では、成膜装置10bに第1の基板生産物P1を配置する。
【0026】
必要な場合には、成膜装置10bへの配置に先立って、第1の基板生産物P1上にリフトオフのためのマスクを形成することができ、このマスクはレジスト層を含む。成膜装置10bに基板生産物P1を配置した後に速やかに、成膜装置10bを真空排気して、1×10−6Torr(1Paは0.0075Torrで換算される)程度の真空度を達成する。成膜装置10bを用いて、図3(b)に示されるように、工程S106では、第1の基板生産物P1の表面に金属電極17を膜状に堆積する。金属電極17の形成は、例えば電子ビーム蒸着法または抵抗加熱法等を用いることができる。このときの基板11の温度は、例えば15℃以上100℃以下であることが好ましい。金属電極17はパラジウム(Pd)を含む。一実施例では、金属電極17はPd層からなり、その厚みは例えば10nm以上であることが好ましい。
【0027】
金属電極17を堆積すると、この金属電極17と半導体領域13の非極性表面13aとの界面に、遷移層19が生じる。遷移層19は、PdとGaNが相互拡散している層であり、金属電極17の堆積と同時に生じる。本実施形態では、半導体領域13の非極性表面13aが非極性であるため、c面と異なり金属と結合しやすいことから、このような遷移層19が広がる。
【0028】
金属電極17の形成により、半導体領域13の非極性主面13aに電気的接触を成すオーミック電極を形成できる。また、この工程により、基板生産物P1の半導体領域13上に設けられた金属電極17と、半導体領域13及び金属電極17の界面に生じた遷移層19とを含む第2の基板生産物P2が作製される。
【0029】
工程S107では、成膜装置10bから第2の基板生産物P2を取り出す。リフトオフのためのマスクを第1の基板生産物P1上に形成していたとき、リフトオフの処理を行う工程を行って、パターン形成された電極を形成する。リフトオフ処理は、例えばアセトン等を用いて行われる。
【0030】
その後、一般的には、熱処理装置に第2の基板生産物P2を配置して400℃程度の熱処理を行うところ、本実施形態では、そのような熱処理を行うことなく、オーミック電極の形成を完了する。そして、第2の基板生産物P2をチップ状に切断することにより、III族窒化物系半導体素子が完成する。
【0031】
以上に説明した本実施形態のIII族窒化物系半導体素子及びその製造方法が奏する効果について説明する。
【0032】
本発明者らは、GaN結晶のc面上にオーミック電極を形成するための先行技術(特許文献1,2)を、GaN非極性面上に電極を形成する際に適用することを試みた。しかし、GaNの非極性面(例えば(11−22)面)上にNi/Au金属膜を形成し、酸素雰囲気中で該金属膜を合金化しても、低い接触抵抗を有するオーミック電極を得ることはできなかった。また、他の先行技術(特許文献3,4)のように、高温状態でPt電極を非極性面上に作製しても、良好なオーミック電極は得られなかった。つまり、これらの先行技術では、GaN結晶のc面上には良好なオーミック電極を形成できるが、GaN結晶の非極性面上には良好なオーミック電極を形成することが困難であることが明らかとなった。
【0033】
そこで、本発明者らは、GaN結晶の非極性面上に低温でPd電極を作製したところ、良好なオーミック特性が得られた。この理由を考察するために、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて表面分析を行ったところ、GaN結晶の非極性面上に低温形成されたPd電極には、他の場合では見られなかったサブピークを確認することができた。すなわち、GaN結晶の非極性面とPd電極との間に、PdとGaNが相互拡散して成る層(遷移層)が新たに生じ、これによってGaN結晶とPd電極との接触抵抗が改善されたものと考えられる。また、非極性面上では結晶表面の結合状態がc面とは異なるので、GaNとPdとが結合し易く、このような遷移層がGaN結晶とPd電極との界面に広がったものと推測される。このような作用は、GaN以外のIII族窒化物系半導体においても同様に生じるものと考えられる。
【0034】
本実施形態においては、上述したように、半導体領域13が非極性表面13aを有し、この非極性表面13a上にPdを含む金属電極17が形成されたことにより、半導体領域13と金属電極17との間に遷移層19が生じている。この遷移層19によって、半導体領域13と金属電極17との密着性が改善され、これらの接触抵抗を小さく抑えることができる。
【0035】
また、遷移層19の厚さは0.5nm以上3nm以下であることが好ましい。本発明者らが遷移層19の厚さと電気特性との関係を調べたところ、上記範囲で良好な特性を得ることができた。すなわち、このような厚さの遷移層19によって、より効果的に接触抵抗を低減できる。
【0036】
また、本実施形態のように、金属電極17はPdを含むことが好ましい。このような金属電極17によって、半導体領域13との間に遷移層19を好適に生じさせることができる。なお、遷移層19を生じさせる金属はPdに限られず、例えば金属電極17がPtを含むことによって同様の遷移層を生じさせることができる。
【0037】
また、本実施形態のように、金属電極17は、半導体領域13の非極性表面13a上に金属膜が形成されたのち、熱処理を経ずに完成されたものであることが好ましい。これにより、半導体領域13との間に遷移層19を好適に生じさせることができる。
【0038】
(第1の実施例)
図4(a)に示されるエピタキシャル基板を、n型半極性GaN基板31を用いて有機金属位相成長法で作製した。GaN基板31の主面(m面)にはn型GaNバッファ層32を形成した。エピタキシャル基板Epi1は、1μm厚のSiドープn型GaN層33と、0.4μm厚のMgドープGaN層34と、50nm厚の高濃度Mgドープp型GaN層(p層)35とを含み、これらの窒化ガリウム系半導体層は基板31上に順に成長された。
【0039】
そして、p型電極となる金属膜の蒸着前に、円環状の開口を有するレジストをフォトリソグラフィにより形成した。この後に、1×10−6Torr程度の真空度で、蒸着装置内で電子ビーム法により厚さ500Åのパラジウム電極をエピタキシャル基板上に蒸着した。その後、レジストをアセトンでリフトオフして、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィで形成した内側の電極EINと、これと隔てられた外側の電極EOUTとを含むPd電極構造を作製した。なお、これらの電極構造に対しては熱処理を行っていない。
【0040】
このようなドーナツ形の開口で分離された電極構造を用いて、電極の接触抵抗を測定した。図5は、接触抵抗の測定結果を示すグラフである。なお、図5には、上記と同様の方法によって作製されたNi/Au電極構造に関する接触抵抗の測定結果も併せて示している。図5に示すように、本実施例のPd電極構造によれば、Ni/Au電極構造と比較して接触抵抗が効果的に低減されていることがわかる。
【0041】
(第2の実施例)
第1実施例と同様の手順により作製したエピタキシャル基板に対し、アセトンや2−プロパノール等を用いて超音波有機洗浄を行った後、塩酸、王水、及びフッ酸による洗浄をそれぞれ5分ずつ行った。その後、エピタキシャル基板上に、電子ビーム法により厚さ100Åのパラジウム電極を室温で蒸着した。一方、同じ工程を経て作製及び洗浄されたエピタキシャル基板上に、Ni/Au電極を蒸着し、熱処理を行った。Niは電子ビーム法を用い、Auは抵抗加熱法を用いて蒸着し、それぞれの厚さを50Åとした。こうして2種類のp型電極が作製された各エピタキシャル基板に対し、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、GaN結晶とp型電極との界面の分析を行った。
【0042】
図6及び図7は、各エピタキシャル基板の分析結果を示すグラフである。図6(a)及び図6(b)はGa2pスペクトルを示しており、図7(a)及び図7(b)はN1sスペクトルを示している。また、図6及び図7において、グラフG1及びG2はPd電極が形成されたエピタキシャル基板のスペクトルを示しており、グラフG3及びG4はNi/Au電極が形成されたエピタキシャル基板のスペクトルを示している。図6(a)及び図6(b)に示すように、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板では、Ga2pスペクトルにおいて、高エネルギー側にサブピークが見られた。しかし、Ni/Au電極が形成されたエピタキシャル基板では、そのようなピークは見られなかった。すなわち、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板において、GaN結晶以外の新たな層(遷移層)が生じていることが確認された。
【0043】
また、図8及び図9は、これらのエピタキシャル基板の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。図8(a)はPd電極が形成され且つ熱処理を経ていないエピタキシャル基板の断面を示しており、図8(b)はPd電極が形成され且つ熱処理(310℃、1分)を経たエピタキシャル基板の断面を示している。図9(a)及び図9(b)は、Au/Ni電極が形成されたエピタキシャル基板の断面を示している。
【0044】
図8(a)及び図8(b)に示すように、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板では、Pd電極とGaN層との間に生じた薄い新たな層(遷移層19)が確認された。しかし、図9(a)及び図9(b)に示すように、Ni/Au電極が形成されたエピタキシャル基板では、このような層は確認されなかった。また、図8(a)と図8(b)とを比較すると、図8(a)では遷移層19の厚さは0.5nmであるのに対し、図8(b)では遷移層19の厚さは2.0nmに拡大していた。このように、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板に熱処理を施すと遷移層が深さ方向に広がる傾向があり、Pd電極とGaN層との間の接触抵抗がやや低下することがわかった。
【0045】
図10及び図11は、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板において、表面処理の有無によるスペクトルの相違を示すグラフである。図10(a)及び図10(b)はGa2pスペクトルを示しており、図11(a)及び図11(b)はN1sスペクトルを示している。また、図10及び図11において、グラフG11及びG12は表面処理がされていない場合のスペクトルを示しており、グラフG13及びG14、並びにG15及びG16は表面処理がなされた場合のスペクトルを示している。
【0046】
図10及び図11に示すように、表面処理がされたエピタキシャル基板では、表面処理がされてないエピタキシャル基板に比べてサブピークの高さが若干高いが、バンド曲がりには殆ど差がなかった。すなわち、Pd電極が形成されたエピタキシャル基板においては、表面処理の有無にかかわらず遷移層が好適に形成されることが確認された。
【0047】
本発明によるIII族窒化物系半導体素子は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、本発明に係るIII族窒化物系半導体素子は、例えば半導体レーザ、発光ダイオードといった半導体光素子に適用され、さらにp型ドーパントが添加されたIII族窒化物系半導体からなる非極性表面に形成される電極を有する半導体素子に適用される。
【符号の説明】
【0048】
11…基板、11a…基板主面、Cx…軸、VC…c軸ベクトル、NV…法線ベクトル、Alpha…角度(オフ角)、10a…処理装置、10b…成膜装置、13…半導体領域、13a…非極性表面、P1、P2…基板生産物、15…酸化物、17…金属電極、19…遷移層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物結晶からなる非極性表面を有する半導体領域と、
前記半導体領域の前記非極性表面に設けられた金属電極と
を備え、
前記非極性表面は半極性及び無極性のいずれかであり、
前記半導体領域にはp型ドーパントが添加されており、
前記半導体領域のIII族窒化物結晶と前記金属電極との間に、前記金属電極の金属と前記半導体領域のIII族窒化物とが相互拡散して成る遷移層を有することを特徴とする、III族窒化物系半導体素子。
【請求項2】
前記遷移層の厚さが0.5nm以上3nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のIII族窒化物系半導体素子。
【請求項3】
前記金属電極がPd及びPtの少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のIII族窒化物系半導体素子。
【請求項4】
前記金属電極が、前記半導体領域の前記非極性表面上に金属膜が形成されたのち、熱処理を経ずに完成されたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物系半導体素子。
【請求項5】
前記半導体領域の前記非極性表面の法線と前記半導体領域のIII族窒化物結晶のc軸との成す角度が、10度以上80度以下または100度以上170度以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物系半導体素子。
【請求項6】
前記半導体領域の前記非極性表面の法線と前記半導体領域のIII族窒化物結晶のc軸との成す角度が、63度以上80度以下または100度以上117度以下の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物系半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146639(P2011−146639A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8232(P2010−8232)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.3 No.1(2010) 発行日及び掲載日 平成22年1月8日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.2 No.8(2009) 発行日及び掲載日 平成21年7月17日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 APPLIED PHYSICS EXPRESS Vol.2 No.9(2009) 発行日及び掲載日 平成21年8月21日 発行所 The Japan Society of Applied Physics(応用物理学会) 刊行物名 日刊工業新聞 平成21年8月20日号 発行日 平成21年8月20日 発行所 日刊工業新聞社 刊行物名 日経エレクトロニクス 平成21年8月24日号 発行日 平成21年8月24日 発行所 日経BP社
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】