説明

ITO透明導電膜の成膜方法およびITO透明導電膜付きカラーフィルター基板

【課題】低抵抗で平滑なITO透明導電膜付きカラーフィルター基板を得ることを課題とする
【解決手段】ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用い、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度が90℃〜160℃であり、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜1.6kW/cmである成膜方法である。また、ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用いられ、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜3kW/cmであり、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度上昇が50℃以下であるITO透明の成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられるITO透明導電膜が形成されたカラーフィルター基板に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は光を通しかつ電気を流す特徴から、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル、太陽電池において欠かすことができない重要な部材となっており、特に酸化スズを数wt%含む酸化インジウム(ITO)は、透明導電膜で最も有名なものである。
【0003】
フラットパネルディスプレイに用いられるITO透明導電膜の多くは、真空成膜法で形成される。
【0004】
ITO透明導電膜を真空成膜法で成膜する方法としては、イオンプレーティング法、スパッタリング法、蒸着法等の方法があり、なかでもスパッタリング法が最も一般的な手法である。スパッタリング法で成膜されるITO透明導電膜に関して、基板を300℃以上に加熱して成膜することにより、抵抗値が2×10−4Ω・cm以下のITO透明導電膜の得られることが特許文献1に記載されている。
【0005】
また、プラズマガンを使用するイオンプレーティング法でITO透明導電膜を成膜した場合は、成膜粒子のエネルギーが高いことから、基板の加熱温度が200℃程度の比較的低い温度で、抵抗値が低いITO透明導電膜が得られることが開示されている(特許文献2)。
【0006】
ディスプレイで、RGBの光の3原色を発光させる際には、電子線や紫外線をこれらの光を発光する蛍光体に照射したり、白色光を原光として目的の波長以外の光を吸収することで目的の波長の光を発色するカラーフィルターを使用したりする。このカラーフィルターの一部には、有機高分子材料が用いられる(非特許文献1)。これをガラスなどの透明な基板に所定の間隔で塗布するが、その上に透明導電膜であるITOを成膜する際に、カラーフィルター付きの基板を加熱しすぎると、有機高分子であるカラーフィルターの表面や内部から、作製時に残留したガス、有機高分子の分解生成ガス、また、表面に吸着した水分などが成膜雰囲気中に放出され、ガラス基板などの無機材料でなる基板を用いる場合に比較し、特性の良いITO透明導電膜が安定して得られにくい。また、カラーフィルター上には、表面を平滑にするための有機高分子からなるオーバーコート層が積層されることが多く、このオーバーコート層からの同様なガス放出もITO透明導電膜の抵抗を増す一因となっている。このため、カラーフィルター付きの基板を加熱して、ITO透明導電膜を成膜する場合、低抵抗のITO透明導電膜を得ることは困難であった。
【0007】
プラズマガンを使用するイオンプレーティング法も、カラーフィルター上にITO膜を成膜すると抵抗が低い膜が得られることが特許文献3に記載されているが、基板温度を180℃以上に加熱すると、先に指摘したようにカラーフィルターの表面や内部から、フィルム作製時に残留したガス、過熱による有機高分子の分解生成ガス、また、表面に吸着した水分などが成膜雰囲気中にガス放出されて、抵抗率が2.0×10−4Paを下回る、極めて低抵抗なITO膜は成膜できないといった問題があった。
【特許文献1】特開平9−171188号公報
【特許文献2】特開2000−17430号公報
【特許文献3】特許2657206
【非特許文献1】佐々木学“液晶カラーフィルター”、電子材料2004年8月号別冊、p60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カラーフィルター上に成膜したITO透明導電膜において、低抵抗で平滑なITO透明導電膜付きカラーフィルター基板を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のITO透明導電膜の成膜方法は、カラーフィルターが設けられている基板上にITO透明導電膜を成膜する方法において、ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用いられ、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度が90℃〜160℃であり、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜1.6kW/cmであることを特徴とするITO透明の成膜方法である。
【0010】
また、本発明のITO透明導電膜の成膜方法は、カラーフィルターが設けられている基板上にITO透明導電膜を成膜する方法において、ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用いられ、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜3kW/cmであり、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度上昇が50℃以下であることを特徴とするITO透明の成膜方法である。
【0011】
また、本発明のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板は、ITO透明導電膜付きカラーフィルター基板の表面平滑性を示す算術平均粗さRa(ITO)が、カラーフィルターが設けられた基板の算術平均粗さRa(CF)に対して、Ra(ITO)−Ra(CF)≦1nmであることを特徴とする、前述のITO透明導電膜の成膜方法によるITO透明導電膜付きカラーフィルター基板である。
【0012】
また、本発明のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板は、ITO透明導電膜の比抵抗が1.2×10―4〜2.0×10―4Ω・cmの範囲であることを特徴とする前述のITO透明導電膜の成膜方法によるITO透明導電膜付きカラーフィルター基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板は、ITO透明導電膜が低抵抗で平滑性に優れ、液晶表示素子や有機EL表示素子などのフラットパネルディスプレイの高性能化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、本発明のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3は、カラーフィルターが設けられた基板2の表面にITO透明導電膜1が成膜されてなるものである。
【0015】
カラーフィルターが設けられた基板2は、図2に示すような構成である。通常、液晶用や有機EL用などのディスプレイデバイスに用いられるカラーフィルターは、ソーダライムガラスなどのガラス基板2aの上に、表示コントラストの向上やTFTの誤動作防止のためのブラックマトリックス2bをパターン配置し、その上にRed(R)、Green(G)、Blue(B)のRGB3色のカラー有機高分子を塗り分けてカラー画素2cとし、さらにその上に、透明な有機高分子でなるオーバーコート層2dが塗布された構造になっている。
【0016】
ガラス基板2aとしては、比較的安価なソーダライムガラスが主として用いられるが、TFT素子などに用いられる場合には無アルカリガラスなども使用される。
【0017】
ブラックマトリックス2bには金属クロムがこれまで主に用いられてきたが、表示モードの多様化と環境問題に関連して、最近では樹脂材が用いられるケースが増加している。
また、カラー画素2cには、ポリビニルアルコール系、顔料や染料を分散したアクリル系などが用いられる。また、その上に形成するオーバーコート層2dは、カラー高分子による画素で生じた段差を平滑化するためにあり、アクリル系やエポキシ系の有機高分子が、2〜3μmの厚みで形成される。
【0018】
さらに、必要に応じて、化学的耐久性やITOとの密着性を改善するために、その上に厚さが30nm程度の薄いシリカ膜、酸化窒化シリコン膜が保護膜2eとして形成されることがある。
【0019】
カラーフィルターが設けられた基板2に成膜されるITO透明導電膜1は、酸化インジウムにスズを酸化物換算で5〜10wt%添加したものである。スズの添加量が酸化物換算で5wt%未満の場合は、ITO透明導電膜中のキャリヤ濃度が低くなり、10wt%を越える場合は、キャリヤの移動度が小さくなるため、どちらの場合も導電性が低下するので、スズの添加量は酸化物換算で、5〜10wt%とすることが好ましい。
【0020】
ITO透明導電膜は、プラズマガンを使用するイオンプレーティング法を用いて、より好ましくは、圧力勾配型ホロカソードプラズマガンを用いたアークプラズマ蒸着法を用いて成膜する。
【0021】
該アークプラズマ蒸着法は、真空チャンバー内に向けてプラズマビームを生成する圧力勾配型プラズマガンと、プラズマビームの横断面を収縮させる磁石及び環状の収束コイルを備え、プラズマビームにより真空チャンバー内に配置した基板上に薄膜を形成する成膜法であり、例えば、図3に概略を示す成膜装置を用いる。
【0022】
図3に示す成膜装置は、真空チャンバー4と、真空チャンバー4の側壁に取り付けられた圧力勾配型プラズマガン5と、真空チャンバー4の底部に配置したルツボ6と、真空チャンバー4の上部に配置した基板支持ホルダー7等によって構成されている。
【0023】
ルツボ6は、カーボン製のものを使用することが望ましい。圧力勾配型プラズマガン5には、圧力勾配型ホロカソードプラズマガンを用いることが望ましい。圧力勾配型プラズマガン5は、Ta製のパイプ8とLaB製の円盤9とで構成された複合陰極であり、Ta製のパイプ8の内部に放電用アルゴンガス10を導入した際に、加熱されたTa製のパイプ8とLaB製の円盤9から熱電子が放出され、プラズマビーム11を形成する。
【0024】
圧力勾配型プラズマガン5の内部は、真空チャンバー4より常に圧力が高く保たれており、高温に曝されたTaやLaBが酸素ガスや蒸発ガスによる酸化などの劣化を防ぐ構造になっている。
【0025】
また、基板支持ホルダー7の上部には、基板加熱用ヒーター12と温度計13が配置されている。基板加熱用ヒーター12は、成膜するカラーフィルターが設けられた基板2を所定温度に保持するために設けられるもので、温度計13の測定値をもとに基板加熱ヒーター12の出力を制御している。カラーフィルターが設けられた基板2は、成膜時の温度が90℃〜160℃になるように、基板加熱ヒーター12の出力を制御する。基板加熱ヒーター12には、ランプ型ヒーターを用いることが好ましい。
真空チャンバー4の側壁には酸素ガス供給ノズル14が配置されており、この酸素ガス供給ノズル14には、マスフローコントローラ(図示せず)を介して酸素ガス15が供給される。また、真空チャンバー4には真空排気装置16が接続されており、真空計17の値をもとに真空排気装置16を稼働し、真空チャンバー4の内部を所定の圧力(真空度)に維持される。
【0026】
図3に示す成膜装置を用いて、次の手順で本発明に関わるITO透明導電膜1を成膜する。
【0027】
カーボン製のルツボ6に、粒状のITO原料18を充填し、このルツボ6を真空チャンバー4の底部にセットする。ITO原料18は、ルツボに入れるため粒状であることが好ましいが、その形状を特に限定するものではない。
【0028】
ITO透明導電膜1を成膜するカラーフィルターが設けられた基板2を基板支持ホルダー7に取り付けた後、真空チャンバー4の内部の圧が約5×10−4Pa以下になるまで排気することが望ましい。また、同時に、カラーフィルターが設けられた基板2を所定の温度に加熱して、表面に吸着したガスや内部から放出されるガスを除去することがこのましい。
【0029】
排気後、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量を10〜40sccmに制御した放電用アルゴンガス10を、圧力勾配型プラズマガン5を通して真空チャンバー4に供給する。
【0030】
次に、酸素ガス15をガス供給ノズル14から真空チャンバー4に所定量供給するとともに、真空排気装置16で真空チャンバー4の内部の圧力を0.08〜0.2Paの圧力に調整する。
【0031】
次に、圧力勾配型プラズマガン5を作動させ、プラズマビーム11をルツボ6内のITO原料18に収束させ、ITOが昇華する温度にITO原料18を加熱する。プラズマビーム11をルツボ6中のITO原料18に収束させるために、収束コイル19や磁石20などを使用する。ここで、ITO原料18に照射されるプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が1、6kW/cm2以下あるいは3kW/cm2以下なるように、収束コイルに流れる電流を調整する。この際、蒸発したITO原料18が基板に付着しないように、シャッター板22を閉じておく。プラズマビームの単位面積あたりの投入出力が1、6kW/cm2以下とする場合は、カラーフィルターが設けられている基板2の温度を160℃以下にして、ITO透明導電膜の抵抗を小さいものを作製する場合に適しており、プラズマビームの単位面積あたりの投入出力が3kW/cm2以下とする場合は、カラーフィルターが設けられた基板2の温度上昇が50℃以下にして、抵抗の均一なITO透明導電膜を成膜する場合に適している。
【0032】
プラズマビーム11によって加熱したITO原料18の蒸発が安定化した後、所定時間、シャッター22が開かれ、カラーフィルターが設けられた基板2にITOが堆積する。シャッター22が開いてITOが成膜される時間は、最大で2分程度で、通常は1分程度である。
【0033】
プラズマビーム11によって加熱・蒸発したITO原料18と導入された酸素ガス15は、プラズマ雰囲気21によってイオン化される。ITO原料18はイオン化した粒子となる。該イオン化した粒子は、プラズマ雰囲気21のもつプラズマポテンシャルと、カラーフィルターが設けられた基板2のもつフローティングポテンシャルとの電位差によってカラーフィルターが設けられた基板2に向かって加速され、約20eVという大きなエネルギーをもってカラーフィルターが設けられた基板2の下表面に到達・堆積し、低抵抗(比抵抗が1.2×10―4〜2.0×10―4Ω・cm)のITO透明導電膜1が成膜される。
【0034】
プラズマガンを使用するイオンプレーティング法では、ITO原料18を蒸発させるためにプラズマビーム11でITO原料18を高温に加熱するため、高温になったITO原料18からの輻射熱によって基板の温度が上昇する。特にカラーフィルターが設けられた基板2では、黒色のブラックマトリックス2bにより熱輻射を吸収しやすく、基板2の温度が上昇しやすい。ITO透明導電膜1を成膜するカラーフィルターが設けられた基板2の最高到達温度が90℃を下回る場合には、ITO透明導電膜が結晶化せずITO透明導電膜の抵抗値が2.0×10―4Ω・cmを超え、良好なデバイスとして用いるには厚膜化する必要が生じ、透過率の減衰などの問題が生じる。カラーフィルターが設けられた基板2の成膜時の最高到達温度が90℃以上であれば、ITO透明導電膜の抵抗値は下がって導電性がよくなるので、カラーフィルターが設けられた基板2の成膜時の温度は90℃以上とすることが好ましい。
【0035】
さらに、カラーフィルターが設けられた基板2の最高到達温度が160℃を超える温度で成膜すると、有機高分子であるカラー画素やオーバーコート層の表面や内部から、作製時に残留したガス、分解生成ガスが生じやすく、また、高分子の硬度も柔らかくなり、その結果、膜にクラックが生じて透明導電膜としての機能を果たさず、デバイスとして用いることが困難である。
【0036】
ITO原料18を蒸発させる際にITO原料18に照射するプラズマの単位面積あたりの投入出力が1.6kW/cm以下とするのは、プラズマの単位面積あたりの投入出力が1.6kW/cmを超すと、ITO原料18の温度が著しく高温になって、160℃を越えてしまうので、好ましくない。なお、投入出力が0.5kW/cmより小さくなると、ITO原料の蒸発が不十分となり、ITO透明導電膜を形成する速度が低下するので、投入出力を0.5kW/cm以上とすることが望ましい。
特に、成膜時のカラーフィルターが設けられた基板2の温度の上昇が50℃を超えると、有機高分子からなるカラーフィルターやオーバーコート層を劣化させたり、これらの有機物の内部からのガス放出が生じたり、また、ITOの厚さ方向に特性が不均一な膜が生じる。
【0037】
ITO原料18に照射されるプラズマビームの投入出力が3kW/cmを超える、もしくはプラズマビームの投入電流が40A/cmを超えると、輻射熱は著しく増加し、成膜時のカラーフィルターが設けられた基板2の温度の上昇が50℃を超え、やはり有機高分子からなるカラーフィルターやオーバーコート層を劣化させたり、これらの有機物の内部からのガス放出が生じたり良好なITO膜付きカラーフィルター基板となり得ない。従って、温度上昇を50℃以下とするために、ITO原料18に照射されるプラズマビームの投入出力は、3kW/cm以下とすることが望ましい。
【0038】
このようにして成膜されるITO透明導電膜の表面平滑性を示す算術平均粗さRa(ITO)は、カラーフィルターが設けられた基板の算術平均粗さRa(CF)に対して、Ra(ITO)−Ra(CF)≦1nmとなるものが得られる。なお、表面の算術平均粗さは、JIS B0601 に定義されている値で、表面の凹凸を測定して得られる粗さ曲線から算出される。
【0039】
通常、スパッタリング法で得られるITO透明導電膜では、導電性を増すために成膜時の基板の温度を300℃程度として成膜するとRaは5nm程度と凹凸の著しいものになるので、平滑な膜を得るためには、基板の温度を100℃程度に下げて成膜する必要があるが、基板の温度を100℃とした場合、膜の導電性は著しく低下する。
【0040】
本発明のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板は、ガラスほど耐熱性のないカラーフィルターを設けた基板に、優れた導電性と平滑性とをあわせ持つITO透明導電膜が形成されたものであり、液晶素子や有機EL素子などのディスプレイデバイスに好適に用いることができる。
【0041】
なお、図3の成膜装置は、カラーフィルターを設けた基板にITOを1枚ずつ成膜処理するバッチ式の成膜装置であるが、カラーフィルターを設けた基板を連続的に成膜室に搬送してITO膜の連続生産を可能としたインライン式の成膜装置でも作製することが可能である。
【実施例1】
【0042】
以下に本発明の実施例を述べる。実施例および比較例とも図3に示す成膜装置を用いてITO透明導電膜を成膜した。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例ともに、表面の粗さ特性を原子間力顕微鏡によって測定し、算術平均粗さを算出した。
実施例1
ITO原料18には、(株)高純度化学研究所製のITO粉粒体(Snの含有量は酸化物換算で5wt%)を使用した。これを、カーボン製のルツボ6に充填し、真空チャンバー4の底部に設置した。
【0043】
サイズ370mm×470mm、厚さ0.4mmtのソーダライムガラスを基板とするカラーフィルターが施された基板2を、カラーフィルターが施された面を下にして、基板支持ホルダー7に設置した。この後、真空チャンバー内の圧力が4.0×10−4Paに達するまで、真空排気装置16で約10分間排気した。
カラーフィルターが設けられた基板2を110℃に加熱したのち、圧力勾配型プラズマガン5に放電用アルゴンガスを25sccm流し、さらに、酸素ガス供給ノズル14より酸素ガスを25sccm流した。次に圧力勾配型プラズマガン5の出力が2.5kWになるまで徐々に電力を印加し、圧力勾配型プラズマガン5からプラズマビーム11を発生させてITO原料18に照射し、ITO原料18を加熱して蒸発させた。
【0044】
なお、圧力勾配型プラズマガン5には、圧力勾配型ホロカソードプラズマガンを用いた。このとき、真空チャンバー4の内部の圧力が0.15Paとなるように真空排気装置16の排気を制御しつつ、収束コイル19に流す電流を調整し、ITO原料18に照射されるプラズマビーム11の照射面積が3cmになるようにした。この時、ITO原料18に投入されるプラズマビーム11の単位面積あたり投入出力は0.8kW/cmであった。
【0045】
プラズマビーム11の照射、真空チャンバー4内部の圧力、およびITO原料18の蒸発が安定した後、シャッター22を63秒間開け、カラーフィルターが設けられた基板2にITO透明導電膜1を成膜した。
【0046】
なお、成膜する基板は成膜時に加熱されたITO原料18からの輻射熱を受けて温度が上昇するが、この成膜直後のITO透明導電膜付きカラーフィルター基板2の温度は145℃で、成膜前に比べて35℃上昇していた。
【0047】
得られたITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3の外観は良好で、目視検査ではクラックなどの外観不良はなかった。
【0048】
ITO透明導電膜1の厚さは157nmであり、ITO透明導電膜1のシート抵抗値は9.2Ω/□で、比抵抗は1.4×10−4Ω・cmと、抵抗の低い膜であった。
【0049】
このITO透明導電膜1の表面の算術平均粗さRa(ITO)は1.3nmであり、成膜前のカラーフィルターのRa(CF)(=0.5nm)に対し、0.8nmの増加であった。
【0050】
比較例1
カラーフィルターが施された基板2を加熱しないで、その他は全て実施例1と同様にしてITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3を作製した。
【0051】
ITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3の外観は良好で、目視検査ではクラックなどの外観不良はなかった。成膜直前の基板の温度は27℃、成膜直後のカラーフィルター基板の温度は70℃で、成膜前に比べて温度が43℃上昇していた。
【0052】
このITO透明導電膜1の表面の算術平均粗さRa(ITO)は0.6nmであり、成膜前のカラーフィルターのRa(CF)(=0.5nm)に対し、わずかに0.1nmの増加で非常に平滑な膜であった。しかし一方では、ITO透明導電膜1の厚さは155nmであり、ITO透明導電膜1のシート抵抗値は39Ω/□で、比抵抗は6×10−4Ω・cmと抵抗が高く導電性に乏しい膜であった。
【0053】
比較例2
カラーフィルターが施された基板2を190℃に加熱した以外は、全て実施例1と同様にしてITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3の作製を試みた。しかし、カラーフィルターが施された基板2の加熱温度で、カラーフィルターが施された基板2を構成する有機高分子からガス放出されたため、真空排気装置16を20分間作動させたが、真空チャンバー4内部の圧力が5.0×10−4Paに到達せず、1.5×10−3Paの圧力の状態でプラズマガン圧力勾配型プラズマガン5を作動させた。
【0054】
作製されたITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3は、顕微鏡観察により微細なクラックが観察され、使用することができないものであった。
【0055】
なお、本比較例では、成膜直後のカラーフィルター基板の温度は215℃で、成膜前に比べて温度が25℃上昇していた。
【0056】
比較例3
実施例1とは、プラズマビーム11の収束コイル19に流れる電流を、ITO原料18に照射されるプラズマビーム11の照射面積が1.5cmになるように調整した他は、全て実施例1と同様にしてITO透明導電膜を成膜した。
【0057】
なお、ITO原料18に投入されるプラズマビーム11の単位面積あたり投入出力は1.7kW/cmであった。
【0058】
作製されたITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3の外観は、顕微鏡観察によると微細なクラックがわずかに生じており、使用できるものではなかった。
【0059】
本比較例では、成膜直後のカラーフィルター基板の温度は165℃で、成膜前に比べて温度が55℃上昇していた。
【0060】
比較例4
実施例1とは、圧力勾配型プラズマガン5の出力を7.5kWにし、さらにプラズマビームの収束コイル電流を調整してITO原料18に照射されるプラズマビーム11の照射面積が3cmになるようにした他は、全て実施例1と同様にしてITO透明導電膜を成膜した。この時、ITO原料18に投入されるプラズマビームの単位面積あたり投入出力は2.5kW/cmであった。
【0061】
得られたITO透明導電膜付きカラーフィルター基板3の外観は、顕微鏡観察ではクラックが生じており、透明導電膜としては不完全なものであった。なお、今回の成膜では、成膜直後のカラーフィルター基板の温度は195℃で、成膜前に比べて温度が85℃上昇していた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】カラーフィルターが設けられた基板に成膜したITO透明導電膜の構成を示す断面の概略図である。
【図2】カラーフィルターが設けられた基板の構成を示す断面の概略図である。
【図3】プラズマガンを用いたイオンプレーティング法(圧力勾配型プラズマガンを使用する活性化反応蒸着法)の装置概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ITO透明導電膜
2 カラーフィルターが設けられた基板
2a ガラス基板
2b ブラックマトリックス
2c カラー画素
2d オーバーコート層
2e 保護膜
3 ITO透明導電膜付きカラーフィルター基板
4 真空チャンバー
5 圧力勾配型プラズマガン
6 ルツボ
7 基板支持ホルダー
8 Ta製のパイプ
9 LaB製の円盤
10 放電用アルゴンガス
11 プラズマビーム
12 基板加熱用ヒーター
13 温度計
14 酸素ガス供給ノズル
15 酸素ガス
16 真空排気装置
17 真空計
18 ITO原料18
19 収束コイル
20 磁石
21 プラズマ雰囲気
22 シャッター板
23 放電用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーフィルターが設けられている基板上にITO透明導電膜を成膜する方法において、ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用いられ、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度が90℃〜160℃であり、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜1.6kW/cmであることを特徴とするITO透明の成膜方法。
【請求項2】
カラーフィルターが設けられている基板上にITO透明導電膜を成膜する方法において、ITO透明導電膜の成膜にプラズマガンを用いるイオンプレーティング法が用いられ、ITO原料に照射するプラズマビームの単位面積あたりの投入出力が0.5〜3kW/cmであり、ITO透明導電膜を成膜されるときのカラ−フィルターが設けられた基板の温度上昇が50℃以下であることを特徴とするITO透明の成膜方法。
【請求項3】
ITO透明導電膜付きカラーフィルター基板の表面平滑性を示す算術平均粗さRa(ITO)が、カラーフィルターが設けられた基板の算術平均粗さRa(CF)に対して、Ra(ITO)−Ra(CF)≦1nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のITO透明導電膜の成膜方法によるITO透明導電膜付きカラーフィルター基板。
【請求項4】
ITO透明導電膜の比抵抗が1.2×10―4〜2.0×10―4Ω・cmの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のITO透明導電膜の成膜方法によるITO透明導電膜付きカラーフィルター基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−164817(P2006−164817A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356328(P2004−356328)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】