説明

Ni基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法及び溶接継手

【課題】Ni基超合金に対して異種金属である鉄鋼材料を溶接により接合するに際して、両者を溶け合わせた金属とNi基超合金との境界に割れの無い健全な溶接継手を得ることが可能であるNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法及び溶接継手を提供する。
【解決手段】Ni基超合金であるタービン翼車4と、鉄鋼材料であるロータ軸2とを各々の境界部で溶接により互いに溶け合わせて接合するに際して、電子ビームEBの照射位置を制御して、タービン翼車4のNi基超合金とロータ軸2の鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属6の混合比を0.5〜0.8とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基超合金に対して、異種金属である低合金鋼等の鉄鋼材料を溶接により接合するのに用いられるNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法及びこの溶接方法により製作された溶接継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車の過給機の分野において、翼車にはインコネル713Cが採用され、心棒には低合金鋼が採用され、これらは電子ビーム溶接により接合されていた。
この溶接は、溶接金属を別に用いる溶接ではなく、翼車であるインコネル713Cと心棒である低合金鋼とを互いに溶け合わせる溶接である。
近年、環境に配慮して、排気ガスの高温化が図られるのに対応して、翼車により融点の高い(耐熱性に優れた)Mar-M材のようなNi基超合金が採用されるようになった(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ガスタービン学会誌 Vol.33 No.4 (2005) p3-p10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した耐熱性に優れたNi基超合金から成る翼車と、低合金鋼から成る心棒とを電子ビーム溶接により接合する場合、両者を溶け合わせた金属とNi基超合金との境界に、融点の著しい違いによる高温割れ(境界割れ)が生じる可能性があるという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、Mar-M材のようなNi基超合金に対して異種金属である鉄鋼材料を溶接により接合するに際して、両者を溶け合わせた金属とNi基超合金との境界に割れの無い健全な溶接継手を得ることが可能であるNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法及び溶接継手を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る発明は、少なくともIN100,Mar-M246,Mar-M247のいずれかが含まれるNi基超合金と、このNi基超合金とは異なる異種金属である低合金鋼等の鉄鋼材料とを各々の境界部で溶接により互いに溶け合わせて接合するに際して、前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.5〜0.8とする構成としたことを特徴としており、この構成のNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
なお、Ni基超合金と鉄鋼材料とを溶け合わせた溶接金属の混合比とは、この溶接金属においてNi基超合金が占める割合のことであり重量比である。すなわち、混合比=Ni基超合金/(Ni基超合金+鉄鋼材料)である。
【0007】
ここで、溶接ビームの狙い位置をNi基超合金と鉄鋼材料との境目に設定すると、当然のことながら、Ni基超合金と鉄鋼材料とを溶け合わせた溶接金属の混合比はほぼ0.5になり、この混合比は、溶接諸条件によって溶接ビームの狙い位置や溶接深さを変えることでコントロールすることができる。
【0008】
上記したように、Ni基超合金と鉄鋼材料とを溶け合わせた溶接金属の混合比を0.5程度にコントロールすると、溶接継手の強度を高め得るNi基超合金の種類がかなり限定される。
この際、上記混合比を0.6程度にコントロールすると、溶接継手の強度を高め得るNi基超合金の種類が増すので好ましく、上記混合比を0.7程度にコントロールすると、大半のNi基超合金が溶接継手の強度を高め得るので、より好ましい。
【0009】
そこで、本発明の請求項2に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法では、前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.6〜0.8とする構成とし、本発明の請求項3に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法では、前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.7〜0.8とする構成としている。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法は、前記Ni基超合金と、前記鉄鋼材料とを各々の境界部で電子ビーム溶接又はレーザ溶接により互いに溶け合わせて接合する構成としており、電子ビーム溶接及びレーザ溶接のいずれの溶接においても、溶接ビーム径は、0.1〜0.8mmとすることが望ましい。
【0011】
一方、本発明の請求項5に係る溶接継手は、上記いずれかのNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法により形成された構成を成している。
【0012】
本発明に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法では、Ni基超合金と鉄鋼材料との境界部において、例えば、溶接ビームの狙い位置を変えることで、Ni基超合金と異種金属である鉄鋼材料とを溶け合わせた溶接金属の成分を適切に制御し得るので、この溶け合わせた金属の融点とNi基超合金の融点との差を小さく抑え得ることとなり、その結果、IN100のような添加元素の多いNi基超合金に対して異種金属である鉄鋼材料を溶接により接合する場合に、境界割れの無い健全な溶接継手が得られることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法では、上記した構成としているので、Ni基超合金に対して異種金属である鉄鋼材料を溶接により接合する場合に、Ni基超合金及び異種金属である鉄鋼材料の双方を溶け合わせた溶接金属とNi基超合金との境界に割れが生じるのを防ぐことができ、その結果、境界割れの無い健全な溶接継手を得ることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る溶接継手を有するターボチャージャを示す概略構成説明図である。
【図2】図1のターボチャージャにおける溶接継手の溶接前の状態を示す部分拡大断面説明図である。
【図3】図1のターボチャージャにおける溶接継手の溶接後の状態を示す部分拡大断面説明図である。
【図4】本発明に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法の効果を示すグラフである。
【図5】図1のターボチャージャにおける溶接継手の製作に用いるレーザ溶接装置の概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る溶接継手の一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る溶接継手をターボチャージャの溶接部分に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0016】
図1に示すように、このターボチャージャ1は、鉄鋼材料である低合金鋼(例えば、CrMo鋼)からなるロータ軸2と、このロータ軸2の一端部に固定されて低合金鋼よりも耐熱性の高いNi基超合金(例えば、IN100)からなるタービン翼車4が備えられている。なお、このターボチャージャ1のロータ軸2における他端部には、図示しないコンプレッサ翼車が備えられている。
【0017】
このような構成のターボチャージャ1は車両の内燃機関に搭載されて、排気通路にタービン翼車4が位置し、吸気通路にコンプレッサ翼車が位置するようにして設置される。このように設置することで、排気流によってタービン翼車4が回転し、このタービン翼車4の回転がロータ軸2を介してコンプレッサ翼車に伝達されることにより、コンプレッサ翼車が回転して吸入空気を圧縮する。
【0018】
この場合、ロータ軸2のタービン翼車4側の端面中央には、円形状の凸部2aが形成されている。一方、タービン翼車4の端面中央には、円形状の凹部4aが形成されている。これらのロータ軸2の凸部2a及びタービン翼車4の凹部4aが互いに嵌合してインロー継手を形成しており、このインロー継手の互いに突き合わされている部分、すなわち、ロータ軸2及びタービン翼車4の各端面同士を溶接により接合して溶接継手5とすることで、ターボチャージャ1が形成されている。
【0019】
このターボチャージャ1の溶接継手5は、凸部2aと凹部4aとを互いに嵌合させて一体化した低合金鋼であるロータ軸2及びNi基超合金であるタービン翼車4を芯出し状態でセットした後、ロータ軸2の軸心周りに回転させながら、上記突き合わせ部分に全周にわたって電子ビームを照射して溶接することで形成される。
【0020】
次に、上記したターボチャージャ1の溶接継手5を得るための溶接方法、すなわち、本発明に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法について説明する。
【0021】
図2に示すように、溶接前においては、ロータ軸2の凸部2aを囲む環状の端面と、タービン翼車4の凹部4aを囲む環状の端面とが互いに突き合わされて、ロータ軸2の軸心と直交する境界面Fが形成されている。
【0022】
そして、一体化させたロータ軸2及びタービン翼車4をロータ軸2の軸心周りに回転させながら、図示しない電子銃より上記突き合わせ部分に向けて電子ビームEBを照射することで、突き合わせ部分の全周を溶接する。
【0023】
この溶接が終了すると、図3に示すように、境界面Fを含んでロータ軸2及びタービン翼車4の溶融した溶接金属6が形成される。この溶接金属6は、ロータ軸2とタービン翼車4とが溶融したもの、すなわち、低合金鋼とNi基超合金とを溶け合わせた金属である。
【0024】
上記溶接において、ビーム照射位置(電子ビームの狙い位置)W1を突き合わせ部分における境界面Fの近傍に設定すると、Ni基超合金と低合金鋼とを溶け合わせた溶接金属6の混合比(溶接金属6におけるNi基超合金が占める割合)はほぼ0.5になる。この際、この溶接金属6のNi含有量とタービン翼車4のNi基超合金のNi含有量との差が大きくて各融点の差が大きいと、境界部分において図3に仮想線で示すような溶接割れNGが生じやすい。
【0025】
この実施例に係る溶接方法では、溶接諸条件を考慮しつつ、例えば、図3に白抜き矢印で示すように、電子ビームEBの照射位置W1をタービン翼車4側の照射位置W2に変更することで、溶接金属6の混合比をコントロールして、溶接金属6及びタービン翼車4であるNi基超合金の各融点の差が小さくなるようにしている。
なお、溶接諸条件を考慮しつつ、電子ビームEBの照射深さを上下させることでも、溶接金属6の混合比をコントロールすることができる。
【0026】
上記した実施例に係る溶接方法では、ロータ軸2及びタービン翼車4の境界部において、電子ビームEBの照射位置W1をタービン翼車4側の照射位置W2に変えることによって、例えば、ビーム径0.1〜0.8mmの電子ビームの照射位置をタービン翼車4側に0.1mmずらすことによって、Ni基超合金と低合金鋼とを溶け合わせた溶接金属6の混合比(成分)を適切に制御するようにしているので、この溶接金属6の融点とタービン翼車4のNi基超合金の融点との差を小さく抑え得ることとなり、その結果、境界割れの無い健全な溶接継手5が得られることとなる。
【0027】
そこで、タービン翼車4のNi基超合金としてIN100,Mar-M246,Mar-M247を一種類ずつ採用し、一方、異種金属であるロータ軸2の鉄鋼材料の低合金鋼としてCrMo鋼を採用した場合の各溶接継手強度比に及ぼす溶接金属の混合比(=Ni基超合金/(Ni基超合金+鉄鋼材料);重量比)の影響を調べたところ、図4に示す結果を得た。
【0028】
図4に示すように、IN100,Mar-M246,Mar-M247のいずれの場合も、Ni基超合金と低合金鋼とを溶け合わせた溶接金属6の混合比を大きくすれば、これに伴って高い溶接継手5の強度比が得られることが判る。
【0029】
この際、混合比を0.5程度に制御すると、IN100及びMar-M246の二種類のNi基超合金の場合に溶接継手5の強度比を高め得ることとなり、電子ビームの照射位置を変えたり、照射深さを変えたりして上記混合比を0.6程度に制御すると、混合比0.5のときと同じくIN100及びMar-M246の二種類のNi基超合金の場合に溶接継手5の強度比を高め得ることとなる。そして、上記混合比を0.7程度にコントロールすると、IN100,Mar-M246,Mar-M247のいずれものNi基超合金が溶接継手5の強度比を高め得ることが判る。
【0030】
したがって、この実施例に係る溶接方法では、Ni基超合金と異種金属である低合金鋼とを溶け合わせた溶接金属6の混合比(成分)を適切に制御すれば、溶接継手5の強度比を高め得ることが判り、これにより、境界割れの無い健全な溶接継手5が得られることが実証できた。
【0031】
上記した実施例では、ロータ軸2及びタービン翼車4の突き合わせ部分に向けて電子ビームEBを照射することで、溶接継手5を得る場合を示したが、他の構成として、図5に簡略的に示すレーザ溶接装置を用いてもよい。
【0032】
このレーザ溶接装置は、ベッド10上に配置される面盤11と、この面盤11に対向してベッド10上に配置される芯押し台12と、ロータ軸2及びタービン翼車4の各端面同士の突き合わせ部分にレーザビームLBを照射するレーザ発振器13と、レーザ出力やレーザビーム照射位置等の溶接条件をコントロールする制御部14を備えている。
【0033】
このレーザ溶接装置では、ベッド10上の面盤11及び芯押し台12間に、一体化させた低合金鋼であるロータ軸2及びNi基超合金であるタービン翼車4を芯出し状態でセットした後、面盤11の作動によりロータ軸2の軸心周りに回転させながら、ロータ軸2及びタービン翼車4の突き合わせ部分に全周にわたってレーザビームLBを照射して溶接するようになっている。
【0034】
このレーザ溶接装置では、溶接諸条件に基づく制御部14からの指令によりベッド10を動作させて、ロータ軸2及びタービン翼車4の境界部において、レーザビームLBの照射位置を変えることによって、Ni基超合金と低合金鋼とを溶け合わせた溶接金属6の混合比を適切に制御する。
【0035】
このレーザ溶接装置を用いた場合も、溶接金属6の融点とタービン翼車4のNi基超合金の融点との差を小さく抑え得ることとなるので、境界割れの無い健全な溶接継手5が得られることとなる。
【0036】
本発明に係るNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法及び溶接継手の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0037】
2 ロータ軸(鉄鋼材料)
4 タービン翼車(Ni基超合金)
5 溶接継手
6 溶接金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基超合金と、このNi基超合金とは異なる異種金属である鉄鋼材料とを各々の境界部で溶接により互いに溶け合わせて接合するに際して、
前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.5〜0.8とする
ことを特徴とするNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法。
【請求項2】
前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.6〜0.8とする請求項1に記載のNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法。
【請求項3】
前記Ni基超合金と前記鉄鋼材料との境界部で互いに溶け合わせて成る溶接金属の混合比を0.7〜0.8とする請求項2に記載のNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法。
【請求項4】
前記Ni基超合金と、前記鉄鋼材料とを各々の境界部で電子ビーム溶接又はレーザ溶接により互いに溶け合わせて接合する請求項1〜3のいずれか一つの項に記載のNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかのNi基超合金に対する鉄鋼材料の溶接方法により形成された溶接継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−61498(P2012−61498A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207977(P2010−207977)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】