OATP−Rトランスポーターの転写活性因子
【課題】本発明の目的は、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤を提供することにある。
【解決手段】アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を用いる。
【解決手段】アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルハイドロカーボン受容体(AHR:Aryl Hydrocarbon receptor)に結合する物質であって、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全と腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。また、高齢者では、腎機能の低下によって薬物の体内蓄積が起こり、投与された薬物の予期せぬ反応や副作用が現れ、問題となっている。特に、高血圧、糖尿病、膠原病など多剤併用療法を受けている患者では、薬剤に起因する腎障害と蓄積性が急増しており、腎不全などの重篤な合併症を起こすことが多いことから、早急な対策が望まれている。
【0003】
生体内での薬物体内動態(吸収・分布・消失)には肝臓と腎臓が大きく関与しており、水溶性の物質や、体内での代謝により水溶性に化学変化を受けた物質は、腎臓から尿中に排泄される。肝臓で代謝された物質の場合、そのほとんどは胆管を通して腸管に排出されるが、残りの部分が腸管循環に移行して再吸収されてしまう。腎臓で代謝を受けた物質の場合、尿中への一方向で排泄されるため、生体にとっては非常に都合がよい。しかしながら、今のところ薬物などの蓄積性に関わる腎臓側の因子や増悪因子が解明されておらず、薬剤選択や投与計画を立てる上で適切な対応策がないことや、透析では除去できない尿毒症物質の体内への蓄積が大きな問題となっていた。
【0004】
他方、有機アニオントランスポーターは、主に肝細胞、尿細管上皮細胞に存在することが知られており、有機アニオントランスポーターの種類によって臓器特異的に発現している。該有機アニオントランスポーターは、イオン性薬物を認識し能動的に細胞内に取り込む血管側底膜トランスポーターと、細胞内の薬物やそれらの代謝産物を胆汁又は尿中へ汲み出す胆管又は尿管側膜トランスポーターとに大別でき、現在、Na+非依存性有機アニオントランスポーター(oatp1, organic anion transporting polypeptide)の他、ラットでは腎臓の近位尿細管血管側の有機アニオントランスポーターとして、OATトランスポーターファミリー(oatp2、oatp3、OAT−K1、OAT−K2、OAT1、OAT2など)が同定されている。しかし、ヒトの有機アニオントランスポーターは、薬理的にこれらトランスポーターとは性質が異なり、未知であった。
【0005】
前記有機アニオントランスポーターに関しては、腎臓からのアニオン性薬物の再吸収と排泄の役割に関与し、腎のみに存在する新規な有機アニオントランスポーター(ヒトOATP−M1及びラットoatp−M1)を提供するものであって、その動物細胞安定発現細胞株を使用してインビトロでの医薬品適正使用へ応用する方法や(例えば、特許文献1参照。)、有機アニオン輸送活性を有する新規タンパク質(oatp/LST)や、該タンパク質をコードするDNA、該タンパク質の活性を促進又は阻害する化合物のスクリーニング方法、該スクリーニング方法で得られる化合物(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。しかしながら、既知のOATトランスポーターファミリーは、比較的水溶性で分子量の低い化合物しか輸送しないため、腎臓が本来持っている多様な有機化合物の排泄能を説明することはできなかった。
【0006】
本発明者らは、腎臓が持っている多様な有機化合物の排泄能の仕組みを明らかにすべく研究を行った結果、腎臓からの薬物排泄において重要な役割を担う新規遺伝子OATP−R(OATP4C1)を発見し同定した(例えば、非特許文献1参照。)。OATP−Rは、腎臓の近位尿細管の血管側のみに特異的に発現する12回膜貫通型の膜タンパクであり、血液から腎臓にジゴキシン、甲状腺ホルモン、胆汁酸、cAMP等の薬物を送り込むトランスポーターであることが判明した。
【0007】
また、従来、腎臓からのジゴキシンの排泄経路は、主に尿管側の多剤耐性遺伝子(MDR1)が司るものと考えられていたが、腎不全ラットモデルにおいては、多剤耐性遺伝子の発現に変化がないにもかかわらず、OATP−Rの発現が著しく低下することを本発明者らは見い出した(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。これらの事実は、MDR1がジゴキシンを尿細管細胞から尿管へ取り込む前段階として、OATP−Rがジゴキシンを血管から尿細管細胞に取り込む段階が、ジゴキシンの排泄やジゴキシンの血中濃度のコントロールに関して重要であることを示唆するものである。しかし、OATP−Rの発現を促進する物質は知られていなかった。
【0008】
一方、ダイオキシンは、強力な毒性を有する化合物として知られており、生体内に入ると、解毒酵素等の様々な酵素の発現が誘導されることが知られている。その誘導のメカニズムの中心的な役割は、受容体型転写因子アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が果たしているといわれている。ダイオキシンの1種である2,3,7,8−テトラクロロジベンゾパラジオキシン(TCDD)が細胞内に取り込まれた場合における、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)を介した転写制御の模式図を図1に示す。図1に記載されているように、AHRにTCDDがリガンドとして結合すると、AHRはコンフォメーション変化を起こし、AHR/ARNTへテロ二量体を形成する。このAHR/ARNTへテロ二量体は、xenobiotic responsive element(XRE)というエンハンサー配列に結合してCyp1a1等の種々の遺伝子の転写を活性化する。一方、AHRR/ARNTヘテロ二量体は構成的にXREに結合して転写を抑制することが知られていた。
【0009】
【特許文献1】特開2004−65086号公報
【特許文献2】特開2004−81196号公報
【非特許文献1】科学技術振興機構報 第32号 平成16年2月27日 科学技術振興機構
【非特許文献2】PNAS March 9, 2004. Vol.101, no.10, 3569-3574
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、ヒトOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子又はOATP4C1遺伝子とも呼ばれる)の5’上流転写領域を詳細に解析したところ、ダイオキシンの核内受容体(Aryl hydrocarbon receptor:AHR)が結合する繰り返し配列(CACGCCCACGC;配列番号5)として知られるxenobiotic responsive element(XRE)が、ヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域に存在することを初めて見い出した。また、ラットとマウスのOATP−R遺伝子の5’上流領域についても同様に詳細に解析したところ、マウスには前述の繰り返し配列(XRE)はなかったが、ラットには全く同じ繰り返し配列(XRE)が存在した(図2参照)。本発明者らはこの知見に基づき、さらに鋭意研究を進めたところ、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、OATP−Rの発現を増強する活性を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、(2)3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、(3)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤に関する。
【0013】
また本発明は、(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いて、ヒト腎臓細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法や、(5)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(6)3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(7)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤を経口投与することを特徴とする腎疾患を予防・治療する方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、(9)以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とするヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判定するステップ
や、(10)被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする上記(9)に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(11)被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする上記(9)に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(12)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする上記(9)〜(11)のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(13)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法に関する。
【0015】
本発明はまた、(14)以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とする腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判定するステップ
や、(15)被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする上記(14)に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(16)被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする上記(14)に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(17)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする上記(14)〜(16)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(18)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(14)〜(17)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤は、腎臓の近位尿細管の血管側のみに特異的に発現するOATP−R遺伝子の発現を増強することができる。有機アニオントランスポーターOATP輸送体系タンパクは、胆汁酸、ジゴキシンやウアバイン、cAMP等の腎不全物質を体外に排出する活性を有することが知られており、OATP−Rトランスポーターの発現を増強することによって、腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎疾患の予防効果や治療効果が得られると考えられる。
【0017】
また、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いることによって、透析では除去できない尿毒症物質を排泄することが可能となる。さらに、腎疾患患者に対して本発明の腎疾患予防・治療剤を投与した場合、腎疾患の進行を止めるか又は遅らせることができるため、透析等の煩雑な治療を行う必要がなくなったり、透析等の煩雑な治療を導入する時期を遅らせることができる。腎疾患の進行を少なくとも遅らせることができれば、その間にその腎疾患患者に効果的な治療剤や投与方法を選択する猶予が得られ、個々の腎疾患患者にとって最適な治療法を選択することが可能となる。
【0018】
また、肝硬変、肝不全時には血中にビリルビンや胆汁酸が蓄積するが、そのような病態では肝臓の血管側にあるビリルビンや胆汁酸トランスポーターの発現が低下していることが知られる。本発明の腎疾患予防・治療剤によって発現が増強されるOATP−Rは、ビリルビン等を体外に排出する機能を有することが考えられており、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いることによって、肝硬変や肝不全による黄疸や肝機能障害の軽減も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤としては、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子のOATP−Rする活性を有する物質(以下、「OATP−R発現増強物質」ということがある)であれば特に制限はされず、例えば、多環芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素であって、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物であって、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を挙げることができ、より具体的には3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、イミダゾール骨格を有するオメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、抗腫瘍薬であるフルタミド(FLU)、ピオグリタゾン、フラボノイド類のケルセチン、胆汁酸であるタウロコール酸及びインドール骨格を有するインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を挙げることができ、中でも3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を好ましく挙げることができる。なお、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)は、それぞれ、プロトンポンプ阻害薬、前立腺がん治療薬として既に実用化されているため、投与量設定や副作用の予想が容易である点で好ましい。
【0020】
図3に、AHRの典型的なリガンドとして知られる2,3,7,8−テトラクロロジベンゾパラジオキシン(TCDD)、3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンゾ[a]ピレン(B[a]P)、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾールの構造式を示す。また、図4には、AHRの非典型的なリガンドとして知られるフルタミド(FLU)、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、及びインドール−3−カルビノール(I3C)の構造式を示す。
【0021】
また、本発明のOATP−R発現増強物質には、便宜上、該物質の薬学上許容され得る塩も含まれる。「薬学上許容され得る塩」には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩のような鉱酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなスルホン酸塩;シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、アスコルビン酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩のような有機酸塩等の酸付加塩、好適には塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩が含まれる。
【0022】
本発明のOATP−R発現増強物質の誘導体とは、本発明の物質の置換基の位置を変更した物質や、本発明の物質のある分子を別の分子に置換した物質や、本発明の物質に特定の置換基を付加した物質や、本発明の物質から特定の置換基を取り除いた物質等を意味する。
【0023】
上記の「アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質」としては、ヒトAHRタンパクや、ラットAHRタンパクに結合する物質である限り特に制限されないが、例えば、ヒトAHRや、ラットAHRのリガンドを挙げることができる。また、上記の「ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質」とは、AHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を発現し得るヒト細胞株と共培養したり、ヒトに投与した場合に、不存在又は非投与の場合と比較して、腎細胞等のAHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を発現し得る細胞内におけるOATP−Rの発現がmRNAレベル及び/又はタンパクレベルで上昇する物質をいう。
【0024】
OATP−Rの発現の上昇の程度は、特に制限されないが、OATP−R mRNAの発現の場合は、例えばDMSOをコントロール物質として用いたときを基準として1.3倍以上に上昇することが好ましく、1.5倍以上に上昇することがより好ましく、1.8倍以上に上昇することがさらに好ましく、3倍以上に上昇することがさらにより好ましい。
【0025】
本発明のOATP−R発現増強物質としては、市販されている物質を用いてもよいし、適当な化学物質を原料として公知の反応を用いて合成してもよい。なお、AHR遺伝子の配列は、Genbank accession NM 001621(ヒトAHR遺伝子)、Genbank accession NM 013149(ラットAHR遺伝子)やGenbank accession NM 013464(マウスAHR遺伝子)に記載されており、OATP−R遺伝子の配列は、Genbank accession NM 180991(ヒトOATP−R遺伝子:ヒトSLCO4C1遺伝子)、Genbank accession NM 001002024(ラットOATP−R遺伝子:ラットSLCO4C1遺伝子)やGenbank accession NM 172658(マウスOATP−R遺伝子:マウスSLCO4C1遺伝子)に記載されている。これらの配列情報に基づいて、適当なプライマーを設計することによって、これらの遺伝子を単離することもできるし、単離したこれらの遺伝子の配列を適当なベクターに組み込んで該ベクターを適当な細胞に導入して発現させるなどして、AHRタンパクやOATP−Rタンパクを入手することもできる。
【0026】
OATP−Rは、腎臓において胆汁酸、ビリルビン、ジゴキシンやウアバイン、cAMP等の腎不全物質を体外に排出するトランスポーターであるため、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤は、腎疾患予防・治療剤としても用いうることができる。本発明の腎疾患予防・治療剤は、OATP−R発現増強物質や本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を有効成分とする。本明細書において「腎疾患予防・治療剤」とは、腎疾患予防及び/又は治療剤を意味する。また、本発明の腎疾患予防・治療剤においては、OATP−R遺伝子の発現増強によって、腎疾患の予防・治療効果が得られる限り、そのメカニズムは特に制限されない。
【0027】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤は、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性や腎疾患の予防・治療効果を阻害しない限り、他に任意の成分を含有してもよい。例えば本発明の腎疾患予防・治療剤の場合、本発明の物質以外に公知の腎疾患予防・治療剤を配合してもよいし、さらにこれら公知の腎疾患予防・治療剤との併用療法も可能である。また、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤の場合、本発明の物質以外のOATP−R遺伝子の発現増強剤を配合してもよいし、本発明の物質を用いること以外の、OATP−R遺伝子の発現増強手段と併用してもよい。
【0028】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤の投与形態は特に制限は無く、経口的に投与してもよいし、血液中に注入する等、非経口的に投与してもよいが、投与の簡便性の観点から経口的に投与することが好ましい。本発明の腎疾患予防・治療剤の有効成分である本発明の物質は単独で配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分である本発明の物質の配合量は、腎疾患の予防効果や治療効果が得られる限り特に制限されず、製剤の投与量等の条件に応じて適切な配合量を選択することが可能である。
【0029】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。
【0030】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤又はシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいも又はタピオカの澱粉、及びアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、及びポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトース又は乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液及び/又はエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料又は香味料、着色料又は染料と併用する他、必要であれば乳化剤及び/又は懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、及びそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0031】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油又は落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射及び皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0032】
本発明の腎疾患予防・治療剤の投与量は特に限定されず、腎疾患の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。また、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤の投与量についても、OATP−R遺伝子の発現が増強し得る限り特に制限はされず、種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。
【0033】
本発明の腎疾患予防・治療剤の対象となる腎疾患は、本発明の化合物を投与することにより、予防効果及び/又は治療効果を発揮する限り特に制限はなく、例えば、急性腎不全、急性尿細管壊死、慢性腎不全、尿細管間質障害、急性腎炎、慢性腎炎、ネフローゼ、腎機能障害、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症などが挙げられるが、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症などに対して特に優れた予防効果及び/又は治療効果を発揮する。
【0034】
本発明の本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤の投与対象としては、AHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を有する哺乳動物である限り特に制限はされず、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、サル、ウシ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ及びハムスター、トリ等を好ましく挙げることができ、中でも、ヒト、ラットを特に好ましく挙げることができる。
【0035】
また、本発明の物質の1つであるオメプラゾール(OME)は、肝臓の酵素であるCYP1a1の発現を誘導することが知られている。後述の実施例6に示されているように、オメプラゾールをラットに投与したところ、肝臓細胞において、CYP1a1 mRNAの発現が実際に上昇した。CYP1a1(シトクロームP−450 1A1)は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、本発明の物質は、腎疾患を予防・治療するだけでなく、肝臓の解毒作用をも向上すると考えられる。この点において、本発明の腎疾患予防・治療剤は、腎疾患と肝機能の低下を併発している患者に対して特に優れた効果を発揮することが期待される。
【0036】
また、本発明における細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法は、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いる限り特に制限されず、具体的には、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を哺乳動物又は哺乳動物の腎細胞にインビボ又はインビトロで投与することによって、該哺乳動物の腎細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法を挙げることができる。OATP−R遺伝子の発現が増強しているかどうかは前述のルシフェラーゼアッセイ等により簡単に確認することができる。
【0037】
本発明における腎疾患を予防・治療する方法としては、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いる限り特に制限されず、具体的には、本発明の腎疾患予防・治療剤をヒトに経口投与することによって、ヒトの腎疾患を予防・治療する方法を挙げることができる。
【0038】
本発明のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法としては、(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ、(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ、(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ、(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ、及び(e)対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判断するステップ、の各ステップを備えた方法であれば特に制限されず、また、本発明の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法としては、(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ、(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ、(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ、(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ、及び(e)対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判断するステップ、の各ステップを備えた方法であれば特に制限されず、上記アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株としては、本来AHRを発現しているヒト細胞株の他、AHR遺伝子を発現ベクターで導入し、転写制御領域と一緒に人工的にAHRを発現し得るヒト細胞株を挙げることができ、より具体的には、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)や本来AHRを発現しているヒトACHN細胞株等の腎癌由来のヒト細胞株や、ヒト子宮頸部癌細胞(HeLa細胞)等のヒト由来の細胞株の他、AHRを発現し得るように形質転換されたヒト由来の細胞株を挙げることができるが、ヒトACHN細胞株、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)等の腎癌由来のヒト細胞株をより好ましく挙げることができる。なお、AHRを発現し得るように形質転換する際に用いるヒト由来の細胞株は、本来AHRを発現していないヒト細胞株であってもよいし、本来AHRを発現しているヒト細胞株であってもよい。AHR遺伝子が組み込まれた発現ベクターを、本来AHRを発現しているヒト細胞株に導入すると、AHRがより安定的に発現する点で好ましい。
【0039】
上記ステップ(a)におけるアリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域としては、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−100塩基付近のXRE領域を含む領域、好適にはヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−114塩基から下流+125塩基までの配列などを例示することができる。また、上記レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、重金属耐性遺伝子由来のコーディング配列、より具体的には、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、細菌ルシフェラーゼ遺伝子、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼ遺伝子、フォチヌス(Photinus)ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ジフテリアトキシン耐性遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、ウレアーゼ遺伝子、カタラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子等を挙げることができる。XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子は、哺乳動物細胞等で発現するプラスミドベクターにインテグレートされ、公知の方法で前記AHR遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入され、形質転換細胞株を調製する。
【0040】
被検物質としては特に制限されないが、AHRのリガンド物質として、多環芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族炭化水素化合物や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物が多く知られているため、より効率良く所望の活性を有する化合物を得る観点から、多環芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族炭化水素化合物や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることが好ましい。被検物質を形質転換細胞株に接触させる方法としては、被検物質の存在下で形質転換細胞株を培養する方法を好適に例示することができる。
【0041】
被検物質を投与した場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度が、該被検物質を投与しなかった場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度よりも高い場合には、その被検物質はOATP−R遺伝子の発現増強剤、又は腎疾患予防・治療剤であると判定し、被検物質を投与した場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度が、該被検物質を投与しなかった場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度と同等、若しくは低い場合には、その被検物質はOATP−R遺伝子の発現増強剤、又は腎疾患予防・治療剤でないと判定する。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
[プラスミドの構築]
ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−2049塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−2049/+125の配列」という;配列番号1)を、ヒトゲノムDNAをテンプレートとしたPCR法により増幅した。−2049/+125の配列には、ヒトOATP−R遺伝子のコード領域はN末端側しか含まれていない。このPCRにより得られた−2049/+125の配列からなるポリヌクレオチドを、Photinus luciferase reporter vectorであるpGL3-basic vector(Promega社製)に組み込み、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)を構築した。また、PCRには配列番号6と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを用いた。
【0044】
上述の−2049/+125の配列に代えて、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−114塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−114/+125の配列」という;配列番号2)、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−96塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−96/+125の配列」という;配列番号3)、又は、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−67塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−67/+125の配列」という;配列番号4)をpGL3-basic vector(Promega社製)に組み込み、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)をそれぞれ構築した。また、PCRには、−114/+125の配列用として配列番号8と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを、−96/+125の配列用として配列番号9と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを、−67/+125の配列用として配列番号10と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーをそれぞれ用いた。
【実施例2】
【0045】
[培養細胞のトランスフェクション]
1)ACHN細胞のトランスフェクション
ACHN細胞株は東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより供与された。ACHN細胞株はヒト腎癌細胞株であり、OATP−R遺伝子及びAHR遺伝子を共に発現し得る。このACHN細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり2.4×105cellずつ分注し、特定の培地(RPMI1640培地に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地)中、37℃、5%CO2の条件下で48時間培養した。ACHN細胞が70−80%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEMIに交換し、実施例1で構築した4種の組換えプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションは1ウェルあたり、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)2μlと、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3 1.2μgと、pHRL-TK vector 50ngとを用いて行った。なお、pHRL-TK(Promega社製:Renilla luciferase reporter vector)は、後述のルシフェラーゼアッセイにおいて内部標準として利用するために用いた。また、コントロールとして、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3に代えて、pGL3-basic vectorを用いてトランスフェクションを行った。これらのトランスフェクションの結果、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、ACHN細胞/pGL3-basic vectorを得た。
【0046】
2)Hela細胞のトランスフェクション
HeLa細胞株はATCCより入手した(ATCC CCL−2)。HeLa細胞株は、ヒト子宮頸部癌細胞であり、AHR遺伝子を発現している。このHeLa細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり1.2×105cellずつ分注し、特定の培地[ダルベッコ改変イーグル培地(以下DMEM)に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地]中、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。HeLa細胞が80−90%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEMIに交換し、実施例1で構築した4種の組換えプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションは1ウェルあたり、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)2μlと、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3 0.8μgと、pHRL-TK vector 50ngとを用いて行った。また、コントロールとして、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3に代えて、pGL3-basic vectorを用いてトランスフェクションを行った。これらのトランスフェクションの結果、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、HeLa細胞/pGL3-basic vectorを得た。
【実施例3】
【0047】
[ルシフェラーゼアッセイ]
1)ルシフェラーゼアッセイ(HeLa細胞)
ルシフェラーゼアッセイは、Promega社製のDual-Luciferase(登録商標)Reporter Assay Systemのマニュアルに基づいて行った。具体的には、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、及びHeLa細胞/pGL3-basic vectorをトランスフェクション後に無血清培地で4時間培養した後、24ウェル内の無血清培地と等量の特定の培地を、それぞれのウェル内に添加した。この特定の培地としては、20%FBS/RPMI1640培地に、AHRの典型的なリガンドである3−メチルコランスレン(3-methylcholanthrene:3−MC)を最終濃度5μMで添加した培地を用いた。また、対照培地として、20%FBS/RPMI1640培地に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度1重量%で添加した培地、及び、20%FBS/RPMI1640培地を用いた。
【0048】
これらの特定の培地を添加してから48時間培養した後、培養細胞中のpGL3-basic vectorや、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3由来のPhotinus luciferase(ホタルルシフェラーゼ)の蛍光、及び、培養細胞中の内部標準用のpHRL-TK由来のRenilla luciferase(ウミシイタケルシフェラーゼ)の蛍光を測定した。これらの蛍光の測定には、Lumat LB 9507(BERTHOLD TECHNOLOGIES社製)を用いた。ホタルルシフェラーゼの蛍光の測定値をウミシイタケルシフェラーゼの蛍光の測定値で割ることにより、Photinus/Renilla activity ratioを算出した。HeLa細胞/pGL3-basic vectorにおいて、DMSOも3−MCも添加しなかった場合のPhotinus/Renilla activity ratioを1としたときの、各場合のPhotinus/Renilla activity ratioを図5に示す。また、図5における同種の細胞の結果において、DMSO存在下での各Photinus/Renilla activity ratioを1とした場合の、3−MC存在下での各Photinus/Renilla activity ratioを図6に示す。図5及び図6の結果から、3−MC存在下では、ヒトOATP−R遺伝子の転写が上昇する傾向があり、特に、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−100塩基付近のXRE領域が存在する場合において、この傾向が顕著であることが分かった。また、3−MCを添加すると、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)においては、コントロールであるDMSOを添加した場合と比較してヒトOATP−R遺伝子の転写活性が有意に上昇した。これらの結果から、3−MC存在下におけるヒトOATP−R遺伝子の転写向上には、XRE領域が関連している可能性が示唆された。
【0049】
2)ルシフェラーゼアッセイ(ACHN細胞)
上記HeLa細胞におけるルシフェラーゼアッセイで見られた、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性の上昇が、HeLa細胞に代えてACHN細胞を用い、AHRのリガンドとして3−MCに代えてオメプラゾール(OME)を用いた場合でも見られるかどうかを調べるために、実施例2で作製したACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)及びACHN細胞/pGL3-basic vectorを用いて、同様にルシフェラーゼアッセイを行った。ただし、3−MC5μMに代えてオメプラゾール50μMを用い、コントロールとしてDMSO1重量%を用いた。
【0050】
また、オメプラゾール、DMSO下での細胞の培養時間は20時間とした。ACHN細胞/pGL3-basic vectorにおいて、DMSOもオメプラゾールも添加しなかった場合のPhotinus/Renilla activity ratioを1としたときの、各場合のPhotinus/Renilla activity ratioを図7に示す。また、図7の結果において、DMSO存在下でのACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)のPhotinus/Renilla activity ratioを1とした場合の、OME存在下でのACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)の各Photinus/Renilla activity ratioを図8に示す。図7及び図8の結果から分かるように、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)とオメプラゾールを用いた場合は、対照物質(DMSO)を用いた場合と比較してヒトOATP−R遺伝子の転写活性が有意に上昇した。
【実施例4】
【0051】
[オメプラゾール投与ラットの腎臓におけるOATP−R mRNAの発現]
オメプラゾール投与によるOATP−Rの発現の上昇が、インビボにおいても見られるかどうかを確認するために次の実験を行った。9匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(3匹)、フルタミド(FLU)投与群(3匹)、オメプラゾール(OME)投与群(3匹)に分けた。FLU投与群にはコーンオイルを溶媒としてFLUを5mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。また、OME投与群には、コーンオイルを溶媒としてOMEを125mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、FLU投与群やOME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。
【0052】
3日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、腎臓を摘出した。摘出した腎臓1gを10mlのTRIZOL液(Invitrogen社)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジエナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランド cDNA 合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量PCRを行い、ラット腎臓のOATP−Rの発現量を定量した。また、コントロールとしてGAPDHの発現量も定量した。その結果を図9に示す。図9に示されているとおり、オメプラゾール投与群やFLU投与群のラットの腎臓においては、コントロール群のラットの腎臓に比べてOATP−R mRNAの発現が有意に上昇していた。
【実施例5】
【0053】
[オメプラゾール投与ラットにおけるジゴキシン排泄実験]
10匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(5匹)、オメプラゾール(OME)投与群(5匹)に分けた。OME投与群にはコーンオイルを溶媒としてオメプラゾールを125mg/kg/dayで12日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、OME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。投与開始から11日目において、両投与群のラットに、体重1kg当たり5mgの割合でデキサメタゾンを腹腔内投与し、その翌日(投与開始から12日目)に以下のようなジゴキシン排泄実験を行った。
【0054】
ラットをケタミン及びキシラジンで麻酔した後、大腿動脈と大腿静脈にそれぞれP50チューブを挿入し、大腿動脈及び大腿静脈を確保した。その後、大腿静脈側から0.1mg/kgのジゴキシンを静注した。一方、該ジゴキシンの静注前、静注後1分、3分、5分、10分、30分、60分、120分のそれぞれの時点において、動脈側より採血を行った。各採血の間はヘパリン生理食塩水にてチューブ内を置換した。麻酔は適宜静脈側より追加した。採取した各血液サンプルを4℃に保存し、翌日、各血液サンプル中のジゴキシン濃度を測定した。その結果を図10に示す。図10に示されているとおり、ジゴキシンの静注直後においては両群の間にジゴキシン濃度の差はほとんど見られなかったが、ジゴキシンの静注後5分後以降では、OME投与群(Treat)は、コントロール群(Non-Treat)に比べてジゴキシンの血中濃度が低下していた。この結果は、OMEの投与によって、ジゴキシンの排出が促進されていることを示すものである。
【実施例6】
【0055】
[オメプラゾール投与ラットの肝臓CYP1a1 mRNAの発現]
9匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(3匹)、フルタミド(FLU)投与群(3匹)、オメプラゾール(OME)投与群(3匹)に分けた。FLU投与群にはコーンオイルを溶媒としてFLUを5mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。また、OME投与群には、コーンオイルを溶媒としてOMEを125mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、FLU投与群やOME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。
【0056】
3日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、肝臓を摘出した。摘出した肝臓1gを10mlのTRIZOL液(Invitrogen社)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランド cDNA 合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量PCRを行い、ラット肝臓のCYP1a1の発現量を定量した。また、コントロールとしてGAPDHの発現量も定量した。その結果を図11に示す。図11に示されているとおり、コントロール投与群と比較して、オメプラゾール投与群やフルタミド投与群のラット肝臓ではCYP1a1 mRNAの発現が有意に上昇していた。CYP1a1は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、オメプラゾールやフルタミドは、腎疾患を予防・治療するだけでなく、肝臓の解毒作用をも向上すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ダイオキシンが細胞内に取り込まれた場合における、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)を介した転写制御の模式図を示す図である。
【図2】ヒトOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)と、マウスOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)と、ラットOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)における5’上流転写領域の比較解析結果を示す図である。
【図3】AHRの典型的なリガンドであるダイオキシンの各種異性体を示す図である。
【図4】AHRの非典型的なリガンドであるオメプラゾールやフルタミドなどを示す図である。
【図5】ヒトOATP−R遺伝子の種々の領域を組み込んだ各種プラスミドをトランスフェクションしたHela細胞において、AHRの典型的なリガンドである3−メチルコランスレンを添加した場合のルシフェラーゼレポーターアッセイの結果を示す図である。
【図6】図5において、3−メチルコランスレンとDMSOの結果を比較し易いようにした図である。
【図7】プラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)等をトランスフェクションしたACHN細胞における、AHRの非典型的なリガンドであるオメプラゾールを添加した場合のルシフェラーゼレポーターアッセイの結果を示す図である。
【図8】図7において、オメプラゾールとDMSOの結果を比較し易いようにした図である。
【図9】オメプラゾールを投与したラットの腎臓におけるOATP−R mRNAの発現を示す図である。
【図10】オメプラゾールを投与したラットにおけるジゴキシン排泄実験の結果を示す図である。
【図11】オメプラゾールを投与したラットの肝臓におけるCYP1a1 mRNAの発現を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルハイドロカーボン受容体(AHR:Aryl Hydrocarbon receptor)に結合する物質であって、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全と腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。また、高齢者では、腎機能の低下によって薬物の体内蓄積が起こり、投与された薬物の予期せぬ反応や副作用が現れ、問題となっている。特に、高血圧、糖尿病、膠原病など多剤併用療法を受けている患者では、薬剤に起因する腎障害と蓄積性が急増しており、腎不全などの重篤な合併症を起こすことが多いことから、早急な対策が望まれている。
【0003】
生体内での薬物体内動態(吸収・分布・消失)には肝臓と腎臓が大きく関与しており、水溶性の物質や、体内での代謝により水溶性に化学変化を受けた物質は、腎臓から尿中に排泄される。肝臓で代謝された物質の場合、そのほとんどは胆管を通して腸管に排出されるが、残りの部分が腸管循環に移行して再吸収されてしまう。腎臓で代謝を受けた物質の場合、尿中への一方向で排泄されるため、生体にとっては非常に都合がよい。しかしながら、今のところ薬物などの蓄積性に関わる腎臓側の因子や増悪因子が解明されておらず、薬剤選択や投与計画を立てる上で適切な対応策がないことや、透析では除去できない尿毒症物質の体内への蓄積が大きな問題となっていた。
【0004】
他方、有機アニオントランスポーターは、主に肝細胞、尿細管上皮細胞に存在することが知られており、有機アニオントランスポーターの種類によって臓器特異的に発現している。該有機アニオントランスポーターは、イオン性薬物を認識し能動的に細胞内に取り込む血管側底膜トランスポーターと、細胞内の薬物やそれらの代謝産物を胆汁又は尿中へ汲み出す胆管又は尿管側膜トランスポーターとに大別でき、現在、Na+非依存性有機アニオントランスポーター(oatp1, organic anion transporting polypeptide)の他、ラットでは腎臓の近位尿細管血管側の有機アニオントランスポーターとして、OATトランスポーターファミリー(oatp2、oatp3、OAT−K1、OAT−K2、OAT1、OAT2など)が同定されている。しかし、ヒトの有機アニオントランスポーターは、薬理的にこれらトランスポーターとは性質が異なり、未知であった。
【0005】
前記有機アニオントランスポーターに関しては、腎臓からのアニオン性薬物の再吸収と排泄の役割に関与し、腎のみに存在する新規な有機アニオントランスポーター(ヒトOATP−M1及びラットoatp−M1)を提供するものであって、その動物細胞安定発現細胞株を使用してインビトロでの医薬品適正使用へ応用する方法や(例えば、特許文献1参照。)、有機アニオン輸送活性を有する新規タンパク質(oatp/LST)や、該タンパク質をコードするDNA、該タンパク質の活性を促進又は阻害する化合物のスクリーニング方法、該スクリーニング方法で得られる化合物(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。しかしながら、既知のOATトランスポーターファミリーは、比較的水溶性で分子量の低い化合物しか輸送しないため、腎臓が本来持っている多様な有機化合物の排泄能を説明することはできなかった。
【0006】
本発明者らは、腎臓が持っている多様な有機化合物の排泄能の仕組みを明らかにすべく研究を行った結果、腎臓からの薬物排泄において重要な役割を担う新規遺伝子OATP−R(OATP4C1)を発見し同定した(例えば、非特許文献1参照。)。OATP−Rは、腎臓の近位尿細管の血管側のみに特異的に発現する12回膜貫通型の膜タンパクであり、血液から腎臓にジゴキシン、甲状腺ホルモン、胆汁酸、cAMP等の薬物を送り込むトランスポーターであることが判明した。
【0007】
また、従来、腎臓からのジゴキシンの排泄経路は、主に尿管側の多剤耐性遺伝子(MDR1)が司るものと考えられていたが、腎不全ラットモデルにおいては、多剤耐性遺伝子の発現に変化がないにもかかわらず、OATP−Rの発現が著しく低下することを本発明者らは見い出した(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。これらの事実は、MDR1がジゴキシンを尿細管細胞から尿管へ取り込む前段階として、OATP−Rがジゴキシンを血管から尿細管細胞に取り込む段階が、ジゴキシンの排泄やジゴキシンの血中濃度のコントロールに関して重要であることを示唆するものである。しかし、OATP−Rの発現を促進する物質は知られていなかった。
【0008】
一方、ダイオキシンは、強力な毒性を有する化合物として知られており、生体内に入ると、解毒酵素等の様々な酵素の発現が誘導されることが知られている。その誘導のメカニズムの中心的な役割は、受容体型転写因子アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が果たしているといわれている。ダイオキシンの1種である2,3,7,8−テトラクロロジベンゾパラジオキシン(TCDD)が細胞内に取り込まれた場合における、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)を介した転写制御の模式図を図1に示す。図1に記載されているように、AHRにTCDDがリガンドとして結合すると、AHRはコンフォメーション変化を起こし、AHR/ARNTへテロ二量体を形成する。このAHR/ARNTへテロ二量体は、xenobiotic responsive element(XRE)というエンハンサー配列に結合してCyp1a1等の種々の遺伝子の転写を活性化する。一方、AHRR/ARNTヘテロ二量体は構成的にXREに結合して転写を抑制することが知られていた。
【0009】
【特許文献1】特開2004−65086号公報
【特許文献2】特開2004−81196号公報
【非特許文献1】科学技術振興機構報 第32号 平成16年2月27日 科学技術振興機構
【非特許文献2】PNAS March 9, 2004. Vol.101, no.10, 3569-3574
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、ヒトOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子又はOATP4C1遺伝子とも呼ばれる)の5’上流転写領域を詳細に解析したところ、ダイオキシンの核内受容体(Aryl hydrocarbon receptor:AHR)が結合する繰り返し配列(CACGCCCACGC;配列番号5)として知られるxenobiotic responsive element(XRE)が、ヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域に存在することを初めて見い出した。また、ラットとマウスのOATP−R遺伝子の5’上流領域についても同様に詳細に解析したところ、マウスには前述の繰り返し配列(XRE)はなかったが、ラットには全く同じ繰り返し配列(XRE)が存在した(図2参照)。本発明者らはこの知見に基づき、さらに鋭意研究を進めたところ、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、OATP−Rの発現を増強する活性を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、(2)3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤や、(3)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤に関する。
【0013】
また本発明は、(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いて、ヒト腎臓細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法や、(5)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(6)3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(7)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤や、(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤を経口投与することを特徴とする腎疾患を予防・治療する方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、(9)以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とするヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判定するステップ
や、(10)被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする上記(9)に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(11)被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする上記(9)に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(12)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする上記(9)〜(11)のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法や、(13)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法に関する。
【0015】
本発明はまた、(14)以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とする腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判定するステップ
や、(15)被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする上記(14)に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(16)被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする上記(14)に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(17)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする上記(14)〜(16)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法や、(18)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする上記(14)〜(17)のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤は、腎臓の近位尿細管の血管側のみに特異的に発現するOATP−R遺伝子の発現を増強することができる。有機アニオントランスポーターOATP輸送体系タンパクは、胆汁酸、ジゴキシンやウアバイン、cAMP等の腎不全物質を体外に排出する活性を有することが知られており、OATP−Rトランスポーターの発現を増強することによって、腎不全物質の体外への排出機能が促進されて、腎疾患の予防効果や治療効果が得られると考えられる。
【0017】
また、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いることによって、透析では除去できない尿毒症物質を排泄することが可能となる。さらに、腎疾患患者に対して本発明の腎疾患予防・治療剤を投与した場合、腎疾患の進行を止めるか又は遅らせることができるため、透析等の煩雑な治療を行う必要がなくなったり、透析等の煩雑な治療を導入する時期を遅らせることができる。腎疾患の進行を少なくとも遅らせることができれば、その間にその腎疾患患者に効果的な治療剤や投与方法を選択する猶予が得られ、個々の腎疾患患者にとって最適な治療法を選択することが可能となる。
【0018】
また、肝硬変、肝不全時には血中にビリルビンや胆汁酸が蓄積するが、そのような病態では肝臓の血管側にあるビリルビンや胆汁酸トランスポーターの発現が低下していることが知られる。本発明の腎疾患予防・治療剤によって発現が増強されるOATP−Rは、ビリルビン等を体外に排出する機能を有することが考えられており、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いることによって、肝硬変や肝不全による黄疸や肝機能障害の軽減も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤としては、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子のOATP−Rする活性を有する物質(以下、「OATP−R発現増強物質」ということがある)であれば特に制限はされず、例えば、多環芳香族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素であって、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物であって、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を挙げることができ、より具体的には3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、イミダゾール骨格を有するオメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、抗腫瘍薬であるフルタミド(FLU)、ピオグリタゾン、フラボノイド類のケルセチン、胆汁酸であるタウロコール酸及びインドール骨格を有するインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を挙げることができ、中でも3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を好ましく挙げることができる。なお、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)は、それぞれ、プロトンポンプ阻害薬、前立腺がん治療薬として既に実用化されているため、投与量設定や副作用の予想が容易である点で好ましい。
【0020】
図3に、AHRの典型的なリガンドとして知られる2,3,7,8−テトラクロロジベンゾパラジオキシン(TCDD)、3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンゾ[a]ピレン(B[a]P)、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾールの構造式を示す。また、図4には、AHRの非典型的なリガンドとして知られるフルタミド(FLU)、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、及びインドール−3−カルビノール(I3C)の構造式を示す。
【0021】
また、本発明のOATP−R発現増強物質には、便宜上、該物質の薬学上許容され得る塩も含まれる。「薬学上許容され得る塩」には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩のような鉱酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなスルホン酸塩;シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、アスコルビン酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩のような有機酸塩等の酸付加塩、好適には塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩が含まれる。
【0022】
本発明のOATP−R発現増強物質の誘導体とは、本発明の物質の置換基の位置を変更した物質や、本発明の物質のある分子を別の分子に置換した物質や、本発明の物質に特定の置換基を付加した物質や、本発明の物質から特定の置換基を取り除いた物質等を意味する。
【0023】
上記の「アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質」としては、ヒトAHRタンパクや、ラットAHRタンパクに結合する物質である限り特に制限されないが、例えば、ヒトAHRや、ラットAHRのリガンドを挙げることができる。また、上記の「ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質」とは、AHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を発現し得るヒト細胞株と共培養したり、ヒトに投与した場合に、不存在又は非投与の場合と比較して、腎細胞等のAHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を発現し得る細胞内におけるOATP−Rの発現がmRNAレベル及び/又はタンパクレベルで上昇する物質をいう。
【0024】
OATP−Rの発現の上昇の程度は、特に制限されないが、OATP−R mRNAの発現の場合は、例えばDMSOをコントロール物質として用いたときを基準として1.3倍以上に上昇することが好ましく、1.5倍以上に上昇することがより好ましく、1.8倍以上に上昇することがさらに好ましく、3倍以上に上昇することがさらにより好ましい。
【0025】
本発明のOATP−R発現増強物質としては、市販されている物質を用いてもよいし、適当な化学物質を原料として公知の反応を用いて合成してもよい。なお、AHR遺伝子の配列は、Genbank accession NM 001621(ヒトAHR遺伝子)、Genbank accession NM 013149(ラットAHR遺伝子)やGenbank accession NM 013464(マウスAHR遺伝子)に記載されており、OATP−R遺伝子の配列は、Genbank accession NM 180991(ヒトOATP−R遺伝子:ヒトSLCO4C1遺伝子)、Genbank accession NM 001002024(ラットOATP−R遺伝子:ラットSLCO4C1遺伝子)やGenbank accession NM 172658(マウスOATP−R遺伝子:マウスSLCO4C1遺伝子)に記載されている。これらの配列情報に基づいて、適当なプライマーを設計することによって、これらの遺伝子を単離することもできるし、単離したこれらの遺伝子の配列を適当なベクターに組み込んで該ベクターを適当な細胞に導入して発現させるなどして、AHRタンパクやOATP−Rタンパクを入手することもできる。
【0026】
OATP−Rは、腎臓において胆汁酸、ビリルビン、ジゴキシンやウアバイン、cAMP等の腎不全物質を体外に排出するトランスポーターであるため、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤は、腎疾患予防・治療剤としても用いうることができる。本発明の腎疾患予防・治療剤は、OATP−R発現増強物質や本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を有効成分とする。本明細書において「腎疾患予防・治療剤」とは、腎疾患予防及び/又は治療剤を意味する。また、本発明の腎疾患予防・治療剤においては、OATP−R遺伝子の発現増強によって、腎疾患の予防・治療効果が得られる限り、そのメカニズムは特に制限されない。
【0027】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤は、OATP−R遺伝子の発現を増強する活性や腎疾患の予防・治療効果を阻害しない限り、他に任意の成分を含有してもよい。例えば本発明の腎疾患予防・治療剤の場合、本発明の物質以外に公知の腎疾患予防・治療剤を配合してもよいし、さらにこれら公知の腎疾患予防・治療剤との併用療法も可能である。また、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤の場合、本発明の物質以外のOATP−R遺伝子の発現増強剤を配合してもよいし、本発明の物質を用いること以外の、OATP−R遺伝子の発現増強手段と併用してもよい。
【0028】
本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤の投与形態は特に制限は無く、経口的に投与してもよいし、血液中に注入する等、非経口的に投与してもよいが、投与の簡便性の観点から経口的に投与することが好ましい。本発明の腎疾患予防・治療剤の有効成分である本発明の物質は単独で配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分である本発明の物質の配合量は、腎疾患の予防効果や治療効果が得られる限り特に制限されず、製剤の投与量等の条件に応じて適切な配合量を選択することが可能である。
【0029】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。
【0030】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤又はシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいも又はタピオカの澱粉、及びアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、及びポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトース又は乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液及び/又はエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料又は香味料、着色料又は染料と併用する他、必要であれば乳化剤及び/又は懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、及びそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0031】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油又は落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射及び皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0032】
本発明の腎疾患予防・治療剤の投与量は特に限定されず、腎疾患の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。また、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤の投与量についても、OATP−R遺伝子の発現が増強し得る限り特に制限はされず、種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。
【0033】
本発明の腎疾患予防・治療剤の対象となる腎疾患は、本発明の化合物を投与することにより、予防効果及び/又は治療効果を発揮する限り特に制限はなく、例えば、急性腎不全、急性尿細管壊死、慢性腎不全、尿細管間質障害、急性腎炎、慢性腎炎、ネフローゼ、腎機能障害、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症などが挙げられるが、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症などに対して特に優れた予防効果及び/又は治療効果を発揮する。
【0034】
本発明の本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤や腎疾患予防・治療剤の投与対象としては、AHR遺伝子及びOATP−R遺伝子を有する哺乳動物である限り特に制限はされず、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、サル、ウシ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ及びハムスター、トリ等を好ましく挙げることができ、中でも、ヒト、ラットを特に好ましく挙げることができる。
【0035】
また、本発明の物質の1つであるオメプラゾール(OME)は、肝臓の酵素であるCYP1a1の発現を誘導することが知られている。後述の実施例6に示されているように、オメプラゾールをラットに投与したところ、肝臓細胞において、CYP1a1 mRNAの発現が実際に上昇した。CYP1a1(シトクロームP−450 1A1)は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、本発明の物質は、腎疾患を予防・治療するだけでなく、肝臓の解毒作用をも向上すると考えられる。この点において、本発明の腎疾患予防・治療剤は、腎疾患と肝機能の低下を併発している患者に対して特に優れた効果を発揮することが期待される。
【0036】
また、本発明における細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法は、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いる限り特に制限されず、具体的には、本発明のOATP−R遺伝子の発現増強剤を哺乳動物又は哺乳動物の腎細胞にインビボ又はインビトロで投与することによって、該哺乳動物の腎細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法を挙げることができる。OATP−R遺伝子の発現が増強しているかどうかは前述のルシフェラーゼアッセイ等により簡単に確認することができる。
【0037】
本発明における腎疾患を予防・治療する方法としては、本発明の腎疾患予防・治療剤を用いる限り特に制限されず、具体的には、本発明の腎疾患予防・治療剤をヒトに経口投与することによって、ヒトの腎疾患を予防・治療する方法を挙げることができる。
【0038】
本発明のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法としては、(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ、(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ、(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ、(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ、及び(e)対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判断するステップ、の各ステップを備えた方法であれば特に制限されず、また、本発明の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法としては、(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ、(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ、(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ、(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ、及び(e)対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判断するステップ、の各ステップを備えた方法であれば特に制限されず、上記アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株としては、本来AHRを発現しているヒト細胞株の他、AHR遺伝子を発現ベクターで導入し、転写制御領域と一緒に人工的にAHRを発現し得るヒト細胞株を挙げることができ、より具体的には、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)や本来AHRを発現しているヒトACHN細胞株等の腎癌由来のヒト細胞株や、ヒト子宮頸部癌細胞(HeLa細胞)等のヒト由来の細胞株の他、AHRを発現し得るように形質転換されたヒト由来の細胞株を挙げることができるが、ヒトACHN細胞株、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)等の腎癌由来のヒト細胞株をより好ましく挙げることができる。なお、AHRを発現し得るように形質転換する際に用いるヒト由来の細胞株は、本来AHRを発現していないヒト細胞株であってもよいし、本来AHRを発現しているヒト細胞株であってもよい。AHR遺伝子が組み込まれた発現ベクターを、本来AHRを発現しているヒト細胞株に導入すると、AHRがより安定的に発現する点で好ましい。
【0039】
上記ステップ(a)におけるアリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域としては、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−100塩基付近のXRE領域を含む領域、好適にはヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−114塩基から下流+125塩基までの配列などを例示することができる。また、上記レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、重金属耐性遺伝子由来のコーディング配列、より具体的には、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、細菌ルシフェラーゼ遺伝子、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼ遺伝子、フォチヌス(Photinus)ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ジフテリアトキシン耐性遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、ウレアーゼ遺伝子、カタラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子等を挙げることができる。XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子は、哺乳動物細胞等で発現するプラスミドベクターにインテグレートされ、公知の方法で前記AHR遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入され、形質転換細胞株を調製する。
【0040】
被検物質としては特に制限されないが、AHRのリガンド物質として、多環芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族炭化水素化合物や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物が多く知られているため、より効率良く所望の活性を有する化合物を得る観点から、多環芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族炭化水素化合物や、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることが好ましい。被検物質を形質転換細胞株に接触させる方法としては、被検物質の存在下で形質転換細胞株を培養する方法を好適に例示することができる。
【0041】
被検物質を投与した場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度が、該被検物質を投与しなかった場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度よりも高い場合には、その被検物質はOATP−R遺伝子の発現増強剤、又は腎疾患予防・治療剤であると判定し、被検物質を投与した場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度が、該被検物質を投与しなかった場合の細胞内におけるレポーター遺伝子の発現の程度と同等、若しくは低い場合には、その被検物質はOATP−R遺伝子の発現増強剤、又は腎疾患予防・治療剤でないと判定する。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
[プラスミドの構築]
ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−2049塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−2049/+125の配列」という;配列番号1)を、ヒトゲノムDNAをテンプレートとしたPCR法により増幅した。−2049/+125の配列には、ヒトOATP−R遺伝子のコード領域はN末端側しか含まれていない。このPCRにより得られた−2049/+125の配列からなるポリヌクレオチドを、Photinus luciferase reporter vectorであるpGL3-basic vector(Promega社製)に組み込み、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)を構築した。また、PCRには配列番号6と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを用いた。
【0044】
上述の−2049/+125の配列に代えて、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−114塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−114/+125の配列」という;配列番号2)、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−96塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−96/+125の配列」という;配列番号3)、又は、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−67塩基から下流+125塩基までの配列(以下、「−67/+125の配列」という;配列番号4)をpGL3-basic vector(Promega社製)に組み込み、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)をそれぞれ構築した。また、PCRには、−114/+125の配列用として配列番号8と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを、−96/+125の配列用として配列番号9と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを、−67/+125の配列用として配列番号10と配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプライマーをそれぞれ用いた。
【実施例2】
【0045】
[培養細胞のトランスフェクション]
1)ACHN細胞のトランスフェクション
ACHN細胞株は東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより供与された。ACHN細胞株はヒト腎癌細胞株であり、OATP−R遺伝子及びAHR遺伝子を共に発現し得る。このACHN細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり2.4×105cellずつ分注し、特定の培地(RPMI1640培地に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地)中、37℃、5%CO2の条件下で48時間培養した。ACHN細胞が70−80%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEMIに交換し、実施例1で構築した4種の組換えプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションは1ウェルあたり、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)2μlと、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3 1.2μgと、pHRL-TK vector 50ngとを用いて行った。なお、pHRL-TK(Promega社製:Renilla luciferase reporter vector)は、後述のルシフェラーゼアッセイにおいて内部標準として利用するために用いた。また、コントロールとして、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3に代えて、pGL3-basic vectorを用いてトランスフェクションを行った。これらのトランスフェクションの結果、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、ACHN細胞/pGL3-basic vectorを得た。
【0046】
2)Hela細胞のトランスフェクション
HeLa細胞株はATCCより入手した(ATCC CCL−2)。HeLa細胞株は、ヒト子宮頸部癌細胞であり、AHR遺伝子を発現している。このHeLa細胞を24ウェルプレートに、1ウェル当たり1.2×105cellずつ分注し、特定の培地[ダルベッコ改変イーグル培地(以下DMEM)に、FBS、ペニシリン、ストレプトマイシンを、それぞれ最終濃度がFBS10%、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように添加した培地]中、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。HeLa細胞が80−90%のコンフルエントになったのを確認してから、培地を無血清培地であるOPTI−MEMIに交換し、実施例1で構築した4種の組換えプラスミドのトランスフェクションを行った。トランスフェクションは1ウェルあたり、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)2μlと、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3 0.8μgと、pHRL-TK vector 50ngとを用いて行った。また、コントロールとして、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3に代えて、pGL3-basic vectorを用いてトランスフェクションを行った。これらのトランスフェクションの結果、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、HeLa細胞/pGL3-basic vectorを得た。
【実施例3】
【0047】
[ルシフェラーゼアッセイ]
1)ルシフェラーゼアッセイ(HeLa細胞)
ルシフェラーゼアッセイは、Promega社製のDual-Luciferase(登録商標)Reporter Assay Systemのマニュアルに基づいて行った。具体的には、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−96/+125)、HeLa/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)、及びHeLa細胞/pGL3-basic vectorをトランスフェクション後に無血清培地で4時間培養した後、24ウェル内の無血清培地と等量の特定の培地を、それぞれのウェル内に添加した。この特定の培地としては、20%FBS/RPMI1640培地に、AHRの典型的なリガンドである3−メチルコランスレン(3-methylcholanthrene:3−MC)を最終濃度5μMで添加した培地を用いた。また、対照培地として、20%FBS/RPMI1640培地に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度1重量%で添加した培地、及び、20%FBS/RPMI1640培地を用いた。
【0048】
これらの特定の培地を添加してから48時間培養した後、培養細胞中のpGL3-basic vectorや、各組換えプラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3由来のPhotinus luciferase(ホタルルシフェラーゼ)の蛍光、及び、培養細胞中の内部標準用のpHRL-TK由来のRenilla luciferase(ウミシイタケルシフェラーゼ)の蛍光を測定した。これらの蛍光の測定には、Lumat LB 9507(BERTHOLD TECHNOLOGIES社製)を用いた。ホタルルシフェラーゼの蛍光の測定値をウミシイタケルシフェラーゼの蛍光の測定値で割ることにより、Photinus/Renilla activity ratioを算出した。HeLa細胞/pGL3-basic vectorにおいて、DMSOも3−MCも添加しなかった場合のPhotinus/Renilla activity ratioを1としたときの、各場合のPhotinus/Renilla activity ratioを図5に示す。また、図5における同種の細胞の結果において、DMSO存在下での各Photinus/Renilla activity ratioを1とした場合の、3−MC存在下での各Photinus/Renilla activity ratioを図6に示す。図5及び図6の結果から、3−MC存在下では、ヒトOATP−R遺伝子の転写が上昇する傾向があり、特に、ヒトOATP−R遺伝子の転写開始点より上流−100塩基付近のXRE領域が存在する場合において、この傾向が顕著であることが分かった。また、3−MCを添加すると、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−2049/+125)、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)、HeLa細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−67/+125)においては、コントロールであるDMSOを添加した場合と比較してヒトOATP−R遺伝子の転写活性が有意に上昇した。これらの結果から、3−MC存在下におけるヒトOATP−R遺伝子の転写向上には、XRE領域が関連している可能性が示唆された。
【0049】
2)ルシフェラーゼアッセイ(ACHN細胞)
上記HeLa細胞におけるルシフェラーゼアッセイで見られた、ヒトOATP−R遺伝子の転写活性の上昇が、HeLa細胞に代えてACHN細胞を用い、AHRのリガンドとして3−MCに代えてオメプラゾール(OME)を用いた場合でも見られるかどうかを調べるために、実施例2で作製したACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)及びACHN細胞/pGL3-basic vectorを用いて、同様にルシフェラーゼアッセイを行った。ただし、3−MC5μMに代えてオメプラゾール50μMを用い、コントロールとしてDMSO1重量%を用いた。
【0050】
また、オメプラゾール、DMSO下での細胞の培養時間は20時間とした。ACHN細胞/pGL3-basic vectorにおいて、DMSOもオメプラゾールも添加しなかった場合のPhotinus/Renilla activity ratioを1としたときの、各場合のPhotinus/Renilla activity ratioを図7に示す。また、図7の結果において、DMSO存在下でのACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)のPhotinus/Renilla activity ratioを1とした場合の、OME存在下でのACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)の各Photinus/Renilla activity ratioを図8に示す。図7及び図8の結果から分かるように、ACHN細胞/hOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)とオメプラゾールを用いた場合は、対照物質(DMSO)を用いた場合と比較してヒトOATP−R遺伝子の転写活性が有意に上昇した。
【実施例4】
【0051】
[オメプラゾール投与ラットの腎臓におけるOATP−R mRNAの発現]
オメプラゾール投与によるOATP−Rの発現の上昇が、インビボにおいても見られるかどうかを確認するために次の実験を行った。9匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(3匹)、フルタミド(FLU)投与群(3匹)、オメプラゾール(OME)投与群(3匹)に分けた。FLU投与群にはコーンオイルを溶媒としてFLUを5mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。また、OME投与群には、コーンオイルを溶媒としてOMEを125mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、FLU投与群やOME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。
【0052】
3日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、腎臓を摘出した。摘出した腎臓1gを10mlのTRIZOL液(Invitrogen社)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジエナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランド cDNA 合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量PCRを行い、ラット腎臓のOATP−Rの発現量を定量した。また、コントロールとしてGAPDHの発現量も定量した。その結果を図9に示す。図9に示されているとおり、オメプラゾール投与群やFLU投与群のラットの腎臓においては、コントロール群のラットの腎臓に比べてOATP−R mRNAの発現が有意に上昇していた。
【実施例5】
【0053】
[オメプラゾール投与ラットにおけるジゴキシン排泄実験]
10匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(5匹)、オメプラゾール(OME)投与群(5匹)に分けた。OME投与群にはコーンオイルを溶媒としてオメプラゾールを125mg/kg/dayで12日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、OME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。投与開始から11日目において、両投与群のラットに、体重1kg当たり5mgの割合でデキサメタゾンを腹腔内投与し、その翌日(投与開始から12日目)に以下のようなジゴキシン排泄実験を行った。
【0054】
ラットをケタミン及びキシラジンで麻酔した後、大腿動脈と大腿静脈にそれぞれP50チューブを挿入し、大腿動脈及び大腿静脈を確保した。その後、大腿静脈側から0.1mg/kgのジゴキシンを静注した。一方、該ジゴキシンの静注前、静注後1分、3分、5分、10分、30分、60分、120分のそれぞれの時点において、動脈側より採血を行った。各採血の間はヘパリン生理食塩水にてチューブ内を置換した。麻酔は適宜静脈側より追加した。採取した各血液サンプルを4℃に保存し、翌日、各血液サンプル中のジゴキシン濃度を測定した。その結果を図10に示す。図10に示されているとおり、ジゴキシンの静注直後においては両群の間にジゴキシン濃度の差はほとんど見られなかったが、ジゴキシンの静注後5分後以降では、OME投与群(Treat)は、コントロール群(Non-Treat)に比べてジゴキシンの血中濃度が低下していた。この結果は、OMEの投与によって、ジゴキシンの排出が促進されていることを示すものである。
【実施例6】
【0055】
[オメプラゾール投与ラットの肝臓CYP1a1 mRNAの発現]
9匹のSDラット(雌、8週齢)をコーンオイル(コントロール)投与群(3匹)、フルタミド(FLU)投与群(3匹)、オメプラゾール(OME)投与群(3匹)に分けた。FLU投与群にはコーンオイルを溶媒としてFLUを5mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。また、OME投与群には、コーンオイルを溶媒としてOMEを125mg/kg/dayで3日間、フィーディングチューブを用いて経口投与した。コントロール群には、FLU投与群やOME投与群に投与したのと同量のコーンオイルを投与した。
【0056】
3日間の投与終了後、各SDラットを解剖して、肝臓を摘出した。摘出した肝臓1gを10mlのTRIZOL液(Invitrogen社)に加え、ポリトロン破砕機の最大速度(100,000rpm)で1分間ホモジナイズした。ホモジナイズした溶液に2倍量のクロロフォルム液を加えて攪拌後、遠心分離し、水相部分を別のチューブに移した。この水相に2倍量のイソプロピルアルコールを添加し、15000rpmで冷却遠心を行ってRNAを抽出した。抽出したRNAをテンプレートとし、SuperScriptIII RTS ファーストストランド cDNA 合成キット(インビトロジェン社製)を用いてcDNA合成を行った。TaqMan Probe(アプライドバイオシステム社製)を用いて定量PCRを行い、ラット肝臓のCYP1a1の発現量を定量した。また、コントロールとしてGAPDHの発現量も定量した。その結果を図11に示す。図11に示されているとおり、コントロール投与群と比較して、オメプラゾール投与群やフルタミド投与群のラット肝臓ではCYP1a1 mRNAの発現が有意に上昇していた。CYP1a1は、低分子有機化合物を酸化的に修飾し、その他の誘導される解毒酵素とともに働いて、いわゆる解毒反応を司る酵素である。したがって、オメプラゾールやフルタミドは、腎疾患を予防・治療するだけでなく、肝臓の解毒作用をも向上すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ダイオキシンが細胞内に取り込まれた場合における、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)を介した転写制御の模式図を示す図である。
【図2】ヒトOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)と、マウスOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)と、ラットOATP−R遺伝子(slco4c1遺伝子)における5’上流転写領域の比較解析結果を示す図である。
【図3】AHRの典型的なリガンドであるダイオキシンの各種異性体を示す図である。
【図4】AHRの非典型的なリガンドであるオメプラゾールやフルタミドなどを示す図である。
【図5】ヒトOATP−R遺伝子の種々の領域を組み込んだ各種プラスミドをトランスフェクションしたHela細胞において、AHRの典型的なリガンドである3−メチルコランスレンを添加した場合のルシフェラーゼレポーターアッセイの結果を示す図である。
【図6】図5において、3−メチルコランスレンとDMSOの結果を比較し易いようにした図である。
【図7】プラスミドhOATP-R 5’UTR-pGL3(−114/+125)等をトランスフェクションしたACHN細胞における、AHRの非典型的なリガンドであるオメプラゾールを添加した場合のルシフェラーゼレポーターアッセイの結果を示す図である。
【図8】図7において、オメプラゾールとDMSOの結果を比較し易いようにした図である。
【図9】オメプラゾールを投与したラットの腎臓におけるOATP−R mRNAの発現を示す図である。
【図10】オメプラゾールを投与したラットにおけるジゴキシン排泄実験の結果を示す図である。
【図11】オメプラゾールを投与したラットの肝臓におけるCYP1a1 mRNAの発現を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項2】
3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項3】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いて、ヒト腎臓細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法。
【請求項5】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項6】
3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項7】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤を経口投与することを特徴とする腎疾患を予防・治療する方法。
【請求項9】
以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とするヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判定するステップ
【請求項10】
被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とする腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判定するステップ
【請求項15】
被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする請求項14に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項16】
被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする請求項14に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項17】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項18】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項1】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項2】
3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項3】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質からなることを特徴とするOATP−R遺伝子の発現増強剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のOATP−R遺伝子の発現増強剤を用いて、ヒト腎臓細胞内のOATP−R遺伝子の発現を増強する方法。
【請求項5】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合し、ヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項6】
3−メチルコランスレン(3−MC)、ベンツピレン、ベンズアントラセン、ポリ塩化ビフェニル、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン(TCDF)、b−ナフトフラボン(BNF)、6−ホルミルインドロ[3,2−b]カルバゾール、オメプラゾール(OME)、クロトリマゾール(CLO)、クロルプロマジン(CPZ)、フルタミド(FLU)及びインドール−3−カルビノール(I3C)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項7】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)に結合する物質が、3−メチルコランスレン(3−MC)、オメプラゾール(OME)及びフルタミド(FLU)から選択される1種又は2種以上の物質、又はこれらの物質の誘導体であってヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質を有効成分とする腎疾患予防・治療剤。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤を経口投与することを特徴とする腎疾患を予防・治療する方法。
【請求項9】
以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とするヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する物質と判定するステップ
【請求項10】
被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする請求項9に記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のヒトOATP−R遺伝子の発現増強剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
以下の(a)〜(e)のステップを備えたことを特徴とする腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
(a)アリルハイドロカーボン受容体(AHR)が結合する繰り返し配列XREを含むヒトOATP−R遺伝子の5’上流転写領域の下流にインフレームで連結したレポーター遺伝子をプラスミドに組み込み組換えプラスミドを構築するステップ
(b)構築した組換えプラスミドを、アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得るヒト細胞株に導入して形質転換細胞株を調製するステップ
(c)調製した形質転換細胞株に被検物質を接触させるステップ
(d)レポーター遺伝子の発現の程度を測定するステップ
(e)被検物質不存在下の対照と比較してレポーター遺伝子の発現の程度が大きい場合、被検物質をヒトOATP−R遺伝子の発現を増強する活性を有する腎疾患予防・治療剤と判定するステップ
【請求項15】
被検物質として、多環芳香族炭化水素化合物又はハロゲン化芳香族炭化水素化合物を用いることを特徴とする請求項14に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項16】
被検物質として、イミダゾール骨格又はインドール骨格を有する化合物を用いることを特徴とする請求項14に記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項17】
アリルハイドロカーボン受容体(AHR)遺伝子を発現し得る細胞として、腎癌細胞株を用いることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項18】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−100927(P2008−100927A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283164(P2006−283164)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】
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