説明

PC鋼より線の防錆被膜形成方法及びPC鋼より線

【課題】従来のPC鋼より線に形成された防錆被膜は、耐候性環境においては劣るという問題点を有しているので、PC鋼より線として耐食性と耐候性を向上させる。
【解決手段】PC鋼より線1をより戻して側線を芯線から緩解し、緩解状態にある芯線及び側線のそれぞれ外周面に合成樹脂粉体塗料を塗布すると共に加熱して均等に付着させた後に冷却して防錆被膜を形成し、その後に芯線に対して側線を元の状態により合わせるようにしたPC鋼より線1の防錆被膜形成方法であって、性質の異なる一次塗膜と二次塗膜が溶融結合し一体化して硬化後に芯線に対して側線を元の状態により合わせて、耐食性と耐候性が向上したPC鋼を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物並びに土木構造物等に於けるプレストレストコンクリート工法のポストテンショニング方式またはプレテンショニング方式の緊張材や張設材用として、または、塩害腐食の虞がある海洋構造物や斜張橋の張設材または斜張材用ケーブルとして用いられるPC鋼より線の芯線及び側線に、合成樹脂粉体塗料で防錆被膜を形成する方法と該方法によって得られたPC鋼より線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にPC鋼より線の構造は、芯線の周囲に複数本の側線がより合わされた構造となっている。その理由は、PC鋼より線に柔軟性を付与するためと、側線のより合せによって形成される螺旋状溝部でコンクリートとの付着強度を得るためである。従って、PC鋼より線の防錆加工方法としても、上記の特性を阻害することのない方法が望まれている。現在、PC鋼より線の防錆加工方法として幾つかの方法が公知になっている。
【0003】
その公知に係る第1の従来技術として、図8に示す断面形状のPC鋼より線がある。このPC鋼より線の防錆方法は、先ずPC鋼より線を加熱しストランドオープナーによって側線1bを一時的に芯線1aの周囲からより戻し、その側線1bのより戻されている部分が静電粉体塗装機内に15インチないし18インチは入った所でより戻されている側線1bは、元のより合せ状態に再構成され、芯線1a及び側線1bに付着溶解中(ゲルタイム中)の樹脂は側線1bのより合わされる応力によって芯線1aと側線1b間の空隙部分に移動(流動)して充填され、更にその側線1bのより合せによる螺旋状溝部に発生するピンホールを防ぐために厚い被膜50(500〜600μm)を形成して内外部を一体化して複合体となるPC鋼より線の防錆方法である(特許第2597795号の特許公報)。
【0004】
ところで、形成された厚い被膜は、芯線1aおよび側線1bに個別に形成されるものではなく、PC鋼より線の外周面全体を覆って連続した被膜となっているため、一般的なPC鋼より線よりも防錆性は向上しているが、PC鋼より線が有する柔軟性が失われている。
【0005】
これに対して、第2の従来技術に係る防錆方法が公知になっている。この防錆方法は、PC鋼より線の撚り合わせ部分を順次一時的により戻し、そのより戻された部分を拡開維持手段により維持すると共に余剰となる芯線を調整し、より戻された部分の芯線と側線のそれぞれの外周面全面に、合成樹脂粉体塗料付着膜をそれぞれ形成し、それらの付着膜を加熱溶着させて芯線と側線のそれぞれの外周面全面に被膜を形成し、これら被膜を冷却した後に芯線と側線を再度より合わせることを特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成加工方法である(特許第2691113号の特許公報)。
【0006】
このようにして形成されたPC鋼より線は、芯線及び側線それぞれの外周面全面に渡って単独に1本1本被膜が形成されていることからして、PC鋼より線として要求されている柔軟性、およびコンクリートとの付着強度等の特性が全く阻害されることはなく、しかも、防錆機能は十分であり、この防錆方法はPC鋼より線の究極の防錆方法であると評価されているものである。
【0007】
この種の被膜厚さの規定としては、業界では一応次の様になっている。即ち、被膜厚さは耐食性能と力学性能(耐衝撃性・曲げ特性・コンクリートの付着性)とを満足されるために多くの研究結果によると、粉体型エポキシ樹脂塗装であれば、200±50μmの被膜厚さが妥当であると報告され、またアメリカ合衆国のFHWA(アメリカ連邦道路局)の実験結果でも約170±50μmの範囲が好ましいと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2597795号の特許公報
【特許文献2】特許第2691113号の特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記第1の従来技術においては、形成される被膜はエポキシ系樹脂粉体が使用され、芯線1aおよび側線1bに個別に形成されるものではなく、PC鋼より線の外周面全体を覆って連続した被膜となっていることから、耐食性には優れているが、PC鋼より線として要求されている柔軟性が失われてしまうばかりでなく、耐候性の問題については全く言及されていないのである。
【0010】
また、前記第2の従来技術においても、形成される被膜はエポキシ系樹脂粉体が使用され、前記第1の従来技術とは違って芯線1aおよび側線1bにそれぞれ個別に被膜が形成されるものであることから、耐食性に優れると共にPC鋼より線として要求されている柔軟性にも優れているが、耐候性の問題については全く言及されていないのである。
【0011】
エポキシ樹脂系粉体塗料と他の樹脂系粉体塗料の耐食性と耐候性とを試験した。その試験方法と試験結果は、表1と表2に示す通りであった。
【表1】

【表2】

【0012】
従って、いずれの従来技術においても、形成された防錆被膜は、耐食性環境においては優れているが、耐候性環境においては劣るという問題点を有しているのであり、PC鋼より線として耐食性と耐候性を向上させることに解決課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述の従来例の課題を解決する具体的手段として、第1の発明は、PC鋼より線をより戻して側線を芯線から緩解し、緩解状態にある芯線及び側線のそれぞれ外周面に合成樹脂粉体塗料を塗布すると共に加熱して均等に付着させた後に冷却して防錆被膜を形成し、その後に芯線に対して側線を元の状態により合わせるようにしたPC鋼より線の防錆被膜形成方法であって、前記合成樹脂粉体塗料として最初に金属との密着性と耐食性とに優れた合成樹脂粉体塗料を一次塗膜として塗布して加熱溶融し、該一次塗膜が加熱溶融中に、その表面に耐食性と耐候性に優れた合成樹脂粉体塗料を二次塗膜として塗布して加熱溶融し、前記性質の異なる一次塗膜と二次塗膜が溶融結合し一体化して硬化後に芯線に対して側線を元の状態により合わせることを特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成方法を提供するものである。
【0014】
この発明においては、前記一次塗膜がエポキシ樹脂であり、前記二次塗膜がアクリル樹脂であることを付加的な要件として含むものである。
【0015】
また、第2の発明として、前記第1の発明に係る方法によって得られる防錆被膜が形成されたことを特徴とするPC鋼より線を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法によれば、芯線と側線にそれぞれ形成された被膜は、性質の異なる一次塗膜と二次塗膜による一体化した防錆被膜として形成されるのであり、しかも内側の一次塗膜が金属との密着性と耐食性を有する樹脂で、外側の二次塗膜が耐食性と耐候性を有する樹脂で形成されているので、金属との密着性と耐食性および引張疲労特性にも優れるばかりでなく、被膜の外表面が耐候性に優れた樹脂で形成されており、過酷な耐候性環境においても充分耐えられるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の形態に係る加工方法を実施する加工ラインの概略を示した側面図である。
【図2】同実施の形態で加工されるPC鋼より線を示す断面図である。
【図3】同実施の形態において使用される緩解装置(緩閉装置)を示す略示的正面図である。
【図4】同実施の形態において使用される拡開装置を示す略示的正面図である。
【図5】同実施の形態において使用される一例の芯線調整装置を略示的に示した側面図である。
【図6】本発明の方法によって防錆被膜が形成され、芯線に対して側線を緩閉しない状態のPC鋼より線を示した拡大断面図である。
【図7】本発明の方法によって防錆被膜が形成され、芯線に対して側線を元の状態により合わせた状態のPC鋼より線を示した拡大断面図である。
【図8】従来技術(特許文献1)のPC鋼より線の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。図1は、本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成加工方法を実施するための加工ラインの概略図である。そして、使用される一例のPC鋼より線1は、図2に示すように、中央部に芯線1aがあり、その外周に複数本(6本)の側線1bが螺旋状により合わされた7本のPC鋼より線である。
【0019】
一般に、この種のPC鋼より線1は、長尺のものがコイル状態に巻き取られており、その巻き取られているPC鋼より線1をコイル状態のまま従来例と同様に加工ラインの始端部側にセットし、その始端部側から順次繰り出しながら防錆被膜の形成を行うのである。
【0020】
本発明に係る加工ラインの工程の概要は、コイル状態に巻いたPC鋼より線1がセットされる架台2が設けられ、その架台2にセットされたPC綱より線1は、防錆被膜形成加工のために順次各工程に向けて送り出される。即ち、前処理工程A、塗装工程Bを経て元のより線状態に戻した後に、加工ラインの終端部側で塗装済みのPC鋼より線をコイル状に巻き取る巻取工程Cからなるのである。以下、各工程について説明する。
【0021】
まず、連続運転開始にあたって、準備作業として同種のダミーのPC鋼より線を使用して、手作業によって加工ラインの始端から終端まで、予め各工程のカテゴリまたは手法に沿った状態にして挿通させておき、架台2にセットされた新たに防錆加工するPC鋼より線1の芯線1aおよび側線1bの端部とダミーのPC鋼より線の対応する芯線および側線の端部とを夫々突き合わせ状態に溶接して準備し、この準備作業が終了した後に連続運転が開始される。
【0022】
装置の運転が開始されると、PC鋼より線1が始端部側から終端部側まで一定の速度で移動し、その間に芯線1aと各側線1bとの各外周面にそれぞれ均一な塗膜が形成され且つ元の撚り合わせ状態になって巻取られるのである。
【0023】
架台2にセットされたPC鋼より線1は、まず最初に芯線調整装置5を経て前処理工程Aを通過する。この場合に、図3に示した緩解装置3によって芯線1aから側線1bがより戻されて拡開され、その拡開された状態を図4に示した拡開維持装置4a〜4dによって維持され、その拡開状態に維持された状態で塗膜が形成される塗装工程Bまで設定された速度でPC鋼より線1が通過する。
【0024】
緩解装置3は、ベアリング17を介して回転リング18が回転自在に配設され、該回転リング18には、その中央部にPC鋼より線1の芯線1aが挿通される芯線通過孔19が設けられると共に、該芯線通過孔19から所要間隔をもって放射状に6個の側線1bが挿通される側線通過孔20が設けられている。
【0025】
拡開維持装置4a〜4dは、前記緩解装置3と略同じ構成で一回り大径であって、緩解したPC鋼より線1の拡開状態を維持するものであり、ベアリング27を介して回転リング28が回転自在に配設され、該回転リング28には、その中央部にPC鋼より線1の芯線1aが挿通される芯線通過孔29が設けられると共に、該芯線通過孔29から所要間隔をもって放射状に6個の側線1bが挿通される側線通過孔30が設けられており、前記緩解装置3と異なる点は、芯線通過孔29と側線通過孔30との間隔が広くなっている点であり、各孔の大きさは略同じである。
【0026】
この前処理工程Aによるショットブラスト装置6においては、拡開状態にある芯線1a及び側線1bの外周面全面に研掃材(0.3mm程度の鋼球)を高速回転ブレードによって投射し、それぞれの外周面に付着している油、錆等の異物を除去すると共に、外周面全面の素地調整、例えば、梨地状の素地状態にして塗膜(被膜)との接着性を向上させるものである。
【0027】
図5に示した芯線調整装置5は、架台2と前処理工程Aとの間で、拡開維持装置4aと4bとの間に配設されるものであり、一対の外輪21と、該一対の外輪21を所定間隔で維持する滑車アーム23と、該滑車アームに沿って移動し且つ張力調整スプリング22で緩解装置3側に一定のテンションで引っ張られている可動滑車24と、滑車アーム23に取り付けられている固定滑車25とからなるものであり、拡開維持装置4aの芯線通過孔29を通した芯線1aは、先に固定滑車25に掛けUターンさせ可動滑車24に掛けてから拡開維持装置4b側に至るようにすることによって、順次の防錆被膜形成と側線1bを元のより合わせ状態に戻すことによって余剰になった芯線1aを引き戻すことにより調整するものである。
【0028】
なお、可動滑車24の移動距離、または滑車の溝数は吸収または回収すべき余剰芯線長さに応じて定められるものであり、例えば滑車溝数を2本づつにすれば、余剰芯線集積吸収量は4倍となる。可動滑車24は常時張力状態にある張力調整スプリング22によって緩解装置3側に一定のテンションで引っ張られているので、終端部側で芯線1aに対して側線1bが元の状態により合わされることで余剰となった芯線1aを自動的吸収又は回収するものである。また、芯線調整装置としては滑車方式に限定するものではない。
【0029】
前処理工程Aで処理された芯線1aおよび側線1bは、拡開維持装置4c、4dによって拡開された状態を維持すると共に必要な間隔に拡げられ、その拡げられた間隔の間に塗装工程Bが設けられている。この塗装工程Bには、一次塗膜の塗装装置7a、加熱装置8、二次塗膜の塗装装置7b、加熱装置9、冷却装置10とが順次隣接状態に設けられており、一次塗膜の塗装装置7aと二次塗膜の塗装装置7bとでは、異なる性質の樹脂粉体塗料が供給されて一次塗膜26aと二次塗膜26bとが、図6に示したように、一体になった防錆被膜26として形成される。そして、その防錆被膜26を冷却装置10によって充分冷却して表面硬度を高める。
【0030】
この異なる性質の樹脂粉体塗料による防錆被膜26については、一次塗膜の塗装装置7aでは金属との密着性と耐食性に優れたエポキシ樹脂粉体塗料を供給して一次塗膜26aを形成し、該一次塗膜26aが加熱装置8によって加熱溶融の状態にある時に、その上に二次塗膜の塗装装置7bから耐食性と耐候性に優れたアクリル樹脂粉体塗料を供給して二次塗膜26bを形成し加熱装置9によって加熱溶融するのである。
【0031】
このように一次塗膜26aの加熱溶融中に、その上に二次塗膜26bを形成して加熱溶融することによって、溶融状態にある一次塗膜26aと二次塗膜26bとが、仮想線で示した境目部分で一部が相互に混じり合って結合し、実質的に一次塗膜26aと二次塗膜26bとの間に境目が存在しない状態で一体化した樹脂被膜26が形成されるのである。
【0032】
加熱装置8、9は、例えば、120〜230℃の範囲でそれぞれ温度調節が容易にできる高周波誘導加熱方式が望ましい。また、粉体塗料の供給方法は、ガン吹付法、或いは流動浸漬法のいずれであっても良く、要するに静電粉体塗装方法を用いるのが望ましい。さらに、加熱の仕方および温度と、静電ガンの種類と個数及び配置の位置、更にエアー状態と、粉体塗料の粒径等によって、樹脂塗膜の形成状態、すなわち厚さと品質とが決定できるのである。
【0033】
冷却装置10としては、ある程度の長さに渡って冷水をシャワー状に振りかけて冷却すれば良いのである。この場合に、シャワー状の水滴として、小径の水滴が密集する状態で振り掛けるようにし、水滴の接触圧を小さくすることで塗膜表面が全体的に略均一で滑らかに仕上がるのである。
【0034】
塗装工程Bで形成される防錆被膜26の厚さは、例えば、略200±50μm程度であり、この塗装工程Bで防錆被膜26が形成され冷却装置10によって冷却された後、側線1bは緩閉装置11によって芯線1aに対して元の状態により合わされる。この場合に、緩閉装置11は、図3に示した前記緩解装置3を逆向きに使用したものであり、実質的に同一の構成を有するものであるので、その説明は省略し、緩閉装置11として符号を付したものである。そして、緩閉装置11により、側線1bはより癖がそのまま残っているので、芯線1aに対して速やかに元の状態により合わせることができ、その元の状態により合わせたPC鋼より線12の断面形状は、図7に示す通りであり、芯線1aおよび側線1bの全周に均一厚さの防錆被膜26が形成されているのである。
【0035】
防錆被膜26の形成後に元の状態により合わされたPC鋼より線は、被膜検査装置としての膜厚測定装置13によって表面膜厚が測定され、その膜厚が設定された許容値以外であるとそれを報知するための警報を発すると共に、許容値に満たないのか或いは許容値を超えているのかの信号が発せられる。更に、ピンホール検出装置14によって、被膜の状態が検査される。その検査方法は被膜に損傷を与えないように非接触型の、例えば光学式検出手段を用いピンホールが検出された場合、その検出位置にマーキングを施し警報信号を発するようにしてある。
【0036】
このように検査されたPC綱より線12は、上下に無端ゴムベルトが配された引取装置15によって引き取られ巻取装置16で巻き取られる。なお、引取装置15は防錆被膜に傷を付けることのない構造であり、またこの引張装置15はこの加工ラインの速度設定装置になっているのでインバータモーターを使用し、ライン速度を自由に変換可能な構造となっている。そして、ライン速度によって形成される被膜厚さが異なってくるのであり、ライン速度を選択することによって任意厚さの被膜が形成できるのである。
【0037】
連続運転が進行して架台2にセットされているPC鋼より線1がなくなった時点で、加工ラインの駆動を停止し塗膜形成を一時停止して新たなPC鋼より線を架台2にセットして、先のPC鋼より線1のエンド側後端と新たにセットされたPC鋼より線1の先端とをバット溶接して接続することにより運転が再開され、塗膜形成作業が効率よく連続して可能になるのである。
【0038】
このようにして形成されたPC鋼より線12は、芯線1a及び側線1bの表面にそれぞれ独立又は単独の状態で防錆被膜26が形成されているので、この種PC鋼より線で要求されている柔軟性が失われないばかりでなく、耐食性及び耐引張疲労特性を向上させることができると共に、特に、外被部分が耐候性に優れたものとなるのである。
【0039】
本願発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法は、異なる性質の樹脂粉体塗料を適正な部位に塗装し、特に、密着性と耐食性に優れたエポキシ樹脂粉体塗料を内側に塗布して芯線1aおよび側線1bとの密着性を充分なものとし、その上に耐食性と耐候性に優れたアクリル樹脂粉体塗料を塗布し、しかも、先に塗布したエポキシ樹脂塗料が加熱溶融状態の内にアクリル樹脂粉体塗料を塗布して加熱溶融させ、両塗料が溶融状態でその境界部分が相互に混じり合って実質的な境界が生じない状態で一体化することにより、両者間に剥離現象等が全く生じないで、それぞれの特性を生かした理想的な防錆被膜が形成されるのである。なお、エポキシ樹脂以外に密着性と耐食性に優れた樹脂であればそれに代えて使用できるし、また、アクリル樹脂以外に耐食性と耐候性に優れた樹脂であれば、それに代えて使用できることはいうまでもなく本発明の範疇に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法は、前記したように、異なる性質の樹脂粉体塗料を適材適所に使用するものであるが、一次塗膜と二次塗膜とが単なる重ね塗膜ではなく、一次塗膜が加熱溶融中に二次塗膜を形成し、両塗膜が溶融状態でその境界部分の一部が相互に混じり合って実質的な境界が生じない状態で一体化した樹脂被膜を形成するのであり、両塗膜間に剥離現象等が全く生じないで、それぞれの特性を生かすことができるのであり、さらに、同じ方法で別の特性を有する他の合成樹脂塗料の塗膜を形成することができるのであり、この種PC鋼より線の防錆加工技術に広く利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 PC鋼より線
1a PC鋼より線の芯線
1b PC鋼より線の側線
2 架台
3 緩解装置
4a、4b、4c、4d 拡開維持装置
5 芯線調整装置
6 ショットブラスト装置
7a 一次塗膜の塗装装置
7b 二次塗膜の塗装装置
8、9 加熱装置
10 冷却装置
11 緩閉装置
12 樹脂被膜を形成したPC鋼より線
13 膜厚測定装置
14 ピンホール検出装置
15 引取装置
16 巻取装置
17、27 ベリング
18、28 回転リング
19、29 芯線通過孔
20、30 側線通過孔
21 外輪
22 張力調整スプリング
23 滑車アーム
24 可動滑車
25 固定滑車
26 防錆被膜
26a 一次塗膜
26b 二次塗膜
A 前処理工程
B 塗装工程
C 巻取り工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼より線をより戻して側線を芯線から緩解し、緩解状態にある芯線及び側線のそれぞれ外周面に合成樹脂粉体塗料を塗布すると共に加熱して均等に付着させた後に冷却して防錆被膜を形成し、その後に芯線に対して側線を元の状態により合わせるようにしたPC鋼より線の防錆被膜形成方法であって、
前記合成樹脂粉体塗料として最初に金属との密着性と耐食性とに優れた合成樹脂粉体塗料を一次塗膜として塗布して加熱溶融し、
該一次塗膜が加熱溶融中に、その表面に耐食性と耐候性に優れた合成樹脂粉体塗料を二次塗膜として塗布して加熱溶融し、
前記性質の異なる一次塗膜と二次塗膜が溶融結合し一体化して硬化後に芯線に対して側線を元の状態により合わせること
を特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成方法。
【請求項2】
前記一次塗膜がエポキシ樹脂であり、前記二次塗膜がアクリル樹脂であること
を特徴とする請求項1に記載のPC鋼より線の防錆被膜形成方法。
【請求項3】
前記請求項1または2によって得られる防錆被膜が形成されたこと
を特徴とするPC鋼より線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−240552(P2010−240552A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90991(P2009−90991)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【特許番号】特許第4427602号(P4427602)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】