説明

SOI基板の作製方法および作製装置

【課題】単結晶半導体基板とベース基板の界面に空気層が残ることに起因した、ベース基板から単結晶半導体基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板の作製方法および作製に用いる貼り合わせ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ボンド基板を、ベース基板の設置面に対して傾斜角を持たせた状態で貼り合わせる。これにより、貼り合わせ開始箇所を限定できる。また、ボンド基板の一部が支持台からはみ出し、且つ、支持台からはみ出した部分がベース基板に最も近くなる状態にボンド基板を設置した。これにより、ボンド基板とベース基板の接触箇所下部には支持台がなく、ボンド基板の一部は支持台の端部を支点として支持台から浮かんだ状態となり、ベース基板に近づいた部分から順次貼り合わせが進むため、ボンド基板とベース基板の界面に空気層残りが生じることなく安定した貼り合わせを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
SOI基板の作製方法および作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶半導体のインゴットを薄くスライスして作製されるシリコンウエハーに代わり、絶縁層表面に薄い半導体層を設けた基板(以下、SOI(Semiconductor on Insulator)基板と略記する。)が製造され、半導体集積回路素子の製造などに用いられている。
【0003】
SOI基板を作製する方法の1つとして、水素イオン注入剥離法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。水素イオン注入剥離法は、まず、ボンド基板(例えば、単結晶シリコンウエハーなど)の表面に絶縁薄膜(例えば、熱酸化膜など)を形成し、ボンド基板表面より水素イオンを添加することによって、添加された水素イオンにより、シリコンのダングリングボンドが終端化された微小気泡領域を、表面近傍の所定の深さに形成する。次に、微小気泡領域を形成した側の面に別の基板(例えば、シリコンウエハーやガラス基板など。以下、ベース基板と略記する)を貼り合わせて加熱処理を行う。これにより、ボンド基板中に分布する水素イオンが微小気泡領域に集中して微小気泡領域において劈開現象が生じる。そして、ベース基板からボンド基板を引き剥がすことにより、劈開面より表面側のボンド基板の一部(以下、薄膜ボンド層と略記する。)を、絶縁薄膜を介して別の基板に転載することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−124092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法によりSOI基板を作製するにあたり、ボンド基板とベース基板の貼り合わせは、ボンド基板とベース基板の一箇所を接触させることにより、当該接触箇所(以下、貼り合わせ開始箇所ともいう。)を始点として自発的に生じる。なお、この貼り合わせにはファンデルワールス力や水素結合が作用しており、常温で行うことができる。
【0006】
しかし、上記貼り合わせの際にボンド基板とベース基板の界面に空気層が残ってしまった場合、ベース基板からボンド基板を引き剥がす際に、ベース基板に薄膜ボンド層が転載されない領域(以下、転載不良領域と略記する。)が生じ、SOI基板として使用可能な面積が低下するという問題がある。また、当該SOI基板を用いて半導体装置を作製する場合、半導体装置の取り数が低下するという問題がある。
【0007】
このような問題点に鑑み、本明細書では、ボンド基板とベース基板の界面に空気層が残ることに起因した転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板の作製方法および作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
貼り合わせ処理の際にボンド基板とベース基板の界面に空気層が残ってしまう原因の一つとして、ボンド基板とベース基板の貼り合わせ開始箇所が複数生じた場合が挙げられる。
【0009】
そこで、本発明では、貼り合わせ開始箇所が複数生じないように、ボンド基板とベース基板の貼り合わせ方法に工夫を施した。また、貼り合わせに使用する装置構成に工夫を施した。具体的には、ベース基板およびボンド基板を支持台に設置した際に、ボンド基板がベース基板の設置面に対して傾斜角を持つ構造の装置を用いて貼り合わせを行う。これにより、貼り合わせ開始箇所を限定することができる。
【0010】
また、ボンド基板の一部が下部支持台からはみ出し、且つ、下部支持台からはみ出した部分がベース基板に最も近くなる状態にボンド基板を設置した。この状態でボンド基板とベース基板が接触して当該接触箇所に押圧が加わった場合、当該接触箇所の下部には下部支持台がないため、ボンド基板の一部は下部支持台の端部を支点として、一部が下部支持台から浮かんだ状態となる。ボンド基板とベース基板の貼り合わせはファンデルワールス力や水素結合などが作用しているため、ボンド基板が下部支持台から浮かんでベース基板に近づいた部分から順次貼り合わせが進む。このため、接触箇所が複数発生することを抑制でき、ボンド基板とベース基板の界面に空気層残りが生じることなく安定した貼り合わせを行うことができる。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は、ベース基板を上部支持台に設置し、表面に絶縁層が形成され、且つ内部に微小気泡領域が形成されたボンド基板を、少なくともその一端がはみ出す状態に下部支持台に設置し、一端の一部が最初にベース基板と接触するように、ボンド基板をベース基板の設置面に対して傾斜角を持たせた状態でボンド基板とベース基板を近接させ、一端の一部がベース基板に接触し、接触箇所および接触箇所の近傍に押圧を加えることにより、下部支持台の端部を支点としてボンド基板の一部を下部支持台から浮かせてボンド基板とベース基板を自発的に貼り合わせ、ボンド基板に対して加熱処理を行い、ボンド基板をベース基板から分離して、ボンド基板の一部およびボンド基板表面に形成された絶縁層をベース基板に転載するSOI基板の作製方法である。
【0012】
上記作製方法を用いることにより、ボンド基板とベース基板界面の空気層残りのない、安定した貼り合わせを行えるため、ベース基板からボンド基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板を作製することができる。
【0013】
また、上述のSOI基板の作製方法において、ボンド基板を重なり合うことなく複数枚貼り合わせ可能な大きさのベース基板を用い、ベース基板に対してボンド基板を複数枚貼り合わせ、複数枚のボンド基板に対して加熱処理を行い、複数枚のボンド基板をベース基板から分離して、複数枚のボンド基板の一部および複数枚のボンド基板表面に形成された絶縁層をベース基板に転載することにより、大面積のSOI基板を作製することができる。
【0014】
また、上述のSOI基板の作製方法において、下部支持台からのボンド基板のはみ出し量が、ボンド基板面積の5%以上50%以下となる状態に設置することが好ましい。当該はみ出し量がボンド基板面積の5%より小さい場合、ボンド基板を浮かせる際に基板の一部に強い力が加わるため、荷重集中によりボンド基板に割れや欠けが発生する可能性がある。また、当該はみ出し量がボンド基板面積の50%より大きい場合、下部支持台へのボンド基板の設置が不安定な状態となり安定した貼り合わせ処理ができないため、SOI基板の作製歩留まりを低下させる要因となりうる。
【0015】
また、上述のSOI基板の作製方法において、ベース基板に対するボンド基板の傾きを0度より大きく3度より小さくしてベース基板とボンド基板の一端の一部を接触させることにより、ボンド基板とベース基板をスムーズに安定して貼り合わせることができる。
【0016】
また、上述のSOI基板の作製方法において、下部支持台は加熱装置を備えており、当該加熱装置を用いてベース基板に対して加熱処理を行うことにより、貼り合わせ前や貼り合わせ中に加熱処理を行うことができるため、ベース基板とボンド基板の貼り合わせ強度を高め、また、SOI基板の生産性を高めることができる。例えば、劈開面形成に必要な加熱温度よりも低い温度を予めボンド基板に加えておき、貼り合わせを行った後、劈開面形成に必要な温度を速やかにボンド基板に加えることができる。
【0017】
また、本発明の一態様は、ベース基板を設置する上部支持台と、ボンド基板を設置する下部支持台を有し、上部支持台のベース基板を設置する面の面積は下部支持台のボンド基板を設置する面の面積より大きく、上部支持台はベース基板の把持機能を有し、下部支持台は上部支持台に対して傾きを有し、当該傾きは、下部支持台にボンド基板を設置し、上部支持台にベース基板を設置した際において、ボンド基板に対向するベース基板の面と、ベース基板に対向するボンド基板の面との傾きが0度超3度未満となるだけの傾きであることを特徴とする貼り合わせ装置である。
【0018】
基板の貼り合わせに用いる装置を上記構造とすることにより、ボンド基板とベース基板界面の空気層残りのない、安定した貼り合わせを行えるため、当該装置を用いて作製されるSOI基板は、ベース基板からボンド基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された高品位なSOI基板となる。
【0019】
また、上述の基板貼り合わせ装置を、下部支持台を複数備える構造とすることにより、一度の貼り合わせ処理で、ベース基板に対して複数のボンド基板を貼り合わせることができるため、面積の大きなSOI基板を短時間で作製することができる。
【0020】
また、上述の基板貼り合わせ装置において、下部支持台、上部支持台のいずれか一方または両方が加熱装置を備える構造とすることにより、貼り合わせ前の加熱処理および貼り合わせ後の加熱処理を支持台に設置したまま行えるため、SOI基板の製造時間を短縮することができる。
【0021】
また、上述の基板貼り合わせ装置において、下部支持台に対して略垂直方向に負荷が加わった際に、下部支持台がZ軸方向(上下方向とも言える)に動く構造とすることにより、ベース基板に対して複数枚のボンド基板を貼り合わせる際に、複数枚のボンド基板の中に厚いボンド基板が存在している場合においても、当該基板に力が加わることを抑制できるため、高い歩留まりでSOI基板を作製することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に記載されたSOI基板の貼り合わせ装置および作製方法を適用することにより、ボンド基板とベース基板の界面に空気層が残ることに起因した、ベース基板からボンド基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】SOI基板の作製方法を説明する図。
【図2】SOI基板の作製方法を説明する図。
【図3】SOI基板の作製方法を説明する図。
【図4】SOI基板を用いた半導体素子の構造を説明する図。
【図5】SOI基板を用いた半導体素子の作製方法を説明する図。
【図6】SOI基板を用いた半導体素子の作製方法を説明する図。
【図7】SOI基板を用いた半導体素子を備える電子機器を説明する図。
【図8】SOI基板の作製に用いる貼り合わせ装置を説明する図。
【図9】SOI基板の作製に用いる貼り合わせ装置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態では、ボンド基板とベース基板の界面に空気層が残ることに起因した、ベース基板からボンド基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板の作製方法および、作製に用いる装置について説明する。
【0026】
まず、ボンド基板100を準備し、表面に絶縁層102を形成する(図1(A)参照。)。ボンド基板100としては、例えば、単結晶シリコン基板、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板など、第14族元素でなるボンド基板を用いることができる。また、ガリウムヒ素やインジウムリン等の化合物半導体基板を用いることもできる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(100mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、ボンド基板100の形状は円形に限らず、例えば、矩形等に加工したものであっても良い。また、ボンド基板100は、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法を用いて作製することができる。
【0027】
絶縁層102は、例えば、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等を単層で、または積層させて形成すればよい。上記絶縁層102の作製方法としては、熱酸化法、CVD法、スパッタリング法などがある。また、CVD法を用いて絶縁層102を形成する場合、良好な貼り合わせを実現するためには、テトラエトキシシラン(略称;TEOS:化学式Si(OC)等の有機シランを用いて酸化シリコン膜を形成することが好ましい。
【0028】
熱酸化処理により絶縁層102を形成する場合、酸化性雰囲気中にハロゲンを添加して行うことが好ましい。
【0029】
例えば、塩素(Cl)が添加された酸化性雰囲気中でボンド基板100に熱酸化処理を行うことにより、塩素酸化された絶縁層102を形成することができる。この場合、絶縁層102は、塩素原子を含有する膜となる。このような塩素酸化により、外因性の不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)を捕集して金属の塩化物を形成し、これを外方に除去してボンド基板100の汚染を低減させることができる。また、ベース基板200と貼り合わせた後に、ベース基板からのNa等の不純物を固定して、ボンド基板100の汚染を防止できる。
【0030】
なお、絶縁層102に含有させるハロゲン原子は塩素原子に限られない。絶縁層102にはフッ素原子を含有させてもよい。ボンド基板100表面をフッ素酸化する方法としては、HF溶液に浸漬させた後に酸化性雰囲気中で熱酸化処理を行う方法や、NFを酸化性雰囲気に添加して熱酸化処理を行う方法などがある。
【0031】
また、絶縁層102の形成前に、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いてボンド基板100の表面を洗浄しておくことが好ましい。
【0032】
次に、ボンド基板100の一面からイオン添加処理104を行うことにより、ボンド基板100中の所定の深さに、微小気泡領域106を形成する(図1(B)参照。)。
【0033】
添加するイオン種としては、水素イオンを用いればよい。水素イオンを添加する場合は、Hの比率を高くすると良い。具体的には、H、H、Hの総量に対してHの割合が50%以上(より好ましくは80%以上)となるようにする。Hの割合を高めることで、イオン照射の効率を向上させることができる。また、水素イオン以外に、希ガスイオンを用いることもできる。具体的には、ヘリウムイオン、ネオンイオン、アルゴンイオン、クリプトンイオンまたはキセノンイオンを用いることができる。
【0034】
微小気泡領域106が形成される領域の深さは、添加するイオンの運動エネルギー、質量と電荷、入射角などによって調節することができる。また、微小気泡領域106は、イオンの平均侵入深さとほぼ同じ深さの領域に形成される。このため、添加するイオン種や添加条件を調整することにより、ボンド基板100から分離する薄膜ボンド層110の厚さを調節することができる。
【0035】
なお、分離される薄膜ボンド層110の厚さについては特に限定は無いが、分離された薄膜ボンド層110を、高性能な半導体集積回路を形成する用途に用いる場合は、分離される薄膜ボンド層110を厚くしすぎるとトランジスタがノーマリーオンとなってしまう恐れがあるため、1nm以上100nm以下、好ましくは3nm以上30nm以下とすることが望ましい。このため、ボンド基板100中における微小気泡領域106の形成深さが、1nm以上100nm以下、好ましくは3nm以上30nm以下程度となるように、添加するイオンの平均侵入深さを調節すればよい。
【0036】
当該イオン添加処理104は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。特にイオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種のみを半導体基板中に添加することができるため、トランジスタの特性に影響を及ぼす不純物の混入を抑制できるため望ましい。
【0037】
しかし、イオンドーピング装置を用いてイオン添加処理104を行う場合においても、絶縁層102を介してイオン添加処理104を行うことにより、トランジスタの特性に影響を及ぼす物質(例えば重金属など)を絶縁層102でトラップすることができる。
【0038】
なお、イオン添加処理104の後に結晶欠陥を回復させるための熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、微小気泡領域106において水素集中により剥離が生じない温度とする。一例として200℃以上400℃未満で加熱を行えばよい。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、ボンド基板100として用いる材質やボンド基板100中に添加するイオン種などを鑑みて適宜調整すればよく、上記範囲に限定して解釈されるものではない。
【0039】
次に、ベース基板200を準備する。ベース基板200としては、絶縁体でなる基板を用いることができる。具体的には、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板が挙げられる。ベース基板200として、特に上述の各種ガラス基板を用いる場合、ベース基板200の大面積化が可能であり、且つ価格も安価であるため、SOI基板を用いて作製する半導体装置のコスト低減を図ることができる。
【0040】
また、ベース基板200として、300℃以上の耐熱性を有するフィルム(例えば、ポリイミドフィルムなど)やプリプレグ(例えば、ガラス繊維にポリイミド樹脂を含浸させたものなど)、あるいは、金属板や金属箔を用いることもできる。これらの基板は可とう性を有しているため、本実施の形態に記載の作製方法により作製されたSOI基板を用いた半導体装置に、可とう性を持たせることができる。
【0041】
なお、ベース基板200は、ボンド基板100よりも大きなサイズの基板を用いることが望ましい。具体的には、ベース基板200に対してボンド基板100を重なり合うことなく複数枚貼り合わせ可能な大きさであることが望ましく、また、ベース基板200の面積がボンド基板100の面積の2倍より大きいことが望ましい。これにより、大面積のSOI基板を作製することが可能となり、1枚のSOI基板から多くの半導体装置を作製できるため、半導体装置のコスト低減を図ることができる。
【0042】
なお、ベース基板200は、表面をあらかじめ洗浄しておくことが好ましい。具体的には、ベース基板200に対して、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、希フッ酸(DHF)、FPM(フッ酸、過酸化水素水、純水の混合液)等を用いて超音波洗浄を行う。このような洗浄処理を行うことによって、ベース基板200表面の平坦性向上や、ベース基板200表面に残存する研磨粒子や有機物などの除去などが実現される。
【0043】
また、ボンド基板100とベース基板200を貼り合わせる前には、貼り合わせに係る表面に対して表面処理を行うことが好ましい。表面処理としては、ウェット処理、ドライ処理、またはウェット処理とドライ処理の組み合わせ、を用いることができる。また、異なるウェット処理どうしを組み合わせて用いても良いし、異なるドライ処理どうしを組み合わせて用いても良い。これにより、ボンド基板100とベース基板200との界面での接合強度を向上させることができる。
【0044】
次に、ボンド基板100のイオン添加処理104を行った面に対してベース基板200を貼り合わせるのだが、当該貼り合わせの際にボンド基板100とベース基板200において複数の貼り合わせ開始箇所が生じると、自発的に進行する貼り合わせの際にボンド基板100とベース基板200の界面に空気層が残ってしまう場合がある。そこで、本実施の形態では、ボンド基板100を、ベース基板200の設置面に対して傾斜角を持たせた状態で貼り合わせる方法を採用した。
【0045】
ここで、上述の「ボンド基板100を、ベース基板200の設置面に対して傾斜角を持たせた状態で貼り合わせる」とは、図3(A)に示す概念図のように、ベース基板200のX軸およびY軸の、Z軸方向への傾きを0度と規定した場合において、ボンド基板100のX軸が、ベース基板200のZ軸方向に0度より大きく3度より小さい範囲、好ましくは0.01度以上2度以下の範囲で傾きを有している状態、または、図3(B)に示す概念図のように、ボンド基板100のY軸が、ベース基板200のZ軸方向に0度より大きく3度より小さい範囲、好ましくは0.01度以上2度以下の範囲で傾きを有している状態の少なくともいずれかを満たしていることが望ましい。また、より好ましくは、上述状態の両方を満たす、つまり、X軸およびY軸の両方が、Z軸方向に0度より大きく3度より小さい範囲、好ましくは0.01度以上2度以下の範囲で傾きを有している状態(図示しない。)であることが望ましい。
【0046】
上述の貼り合わせに用いる装置の一例について、図8を用いて説明する。
【0047】
図8(A)は本明細書に係る貼り合わせ装置の一例を表す斜視図であり、図8(B)は図8(A)を、点線で示すZ面で分断した際の断面図である。
【0048】
図8に示す貼り合わせ装置は、ベース基板200を設置する上部支持台202と、絶縁層102および微小気泡領域106が形成されたボンド基板100を設置する下部支持台204を有している。なお、下部支持台204は軸806を介して駆動装置808に接続されており、図8(B)の矢印で示すようにZ軸方向(上下方向とも言える)に下部支持台204を動作させることができる。下部支持台204をZ軸方向に動作させ、ボンド基板100の一部がベース基板200に接触した時点で軸806のZ軸方向の動きを停止させることで、その後の貼り合わせはボンド基板100とベース基板200のファンデルワールス力や水素結合などにより自発的に進行する。
【0049】
下部支持台204は、上部支持台202のベース基板200設置面に対して略垂直な方向の負荷が加わった際に、Z軸方向に動く構造とすることが好ましい。なお、ここで言う「略垂直」とは、垂直方向からプラスマイナス10度の範囲を指すものである。このような構造とするには、力の付加により軸806がZ軸方向に動くことのできるように、軸806に可動部を取り付けた構造とすればよい。例えば、図9(A)のように、軸806に可動部810(例えば、油圧シリンダーや空気圧シリンダーなどの各種シリンダー。)を設けてもよい。また、図9(B)のように、軸806に可動部810(例えば、ウレタン等を用いたスポンジ、ゴム(天然ゴム、合成ゴムなど)など)を設けてもよい。
【0050】
上述のように、軸806の一部に可動部810を設けることにより、例えば、厚さの異なる複数枚のボンド基板100をベース基板200に対して同時に貼り合わせる際に、厚いボンド基板(つまり、ベース基板に接触するタイミングの早い基板)に加わる負荷を分散することができ、複数枚のボンド基板に対して均等に負荷を加えることができるため、貼り合わせ処理の歩留まりを高めることができる。なお、可動部810は、下部支持台204がZ軸方向に動く構造であれば、取り付け数や取り付け箇所に特段の限定はない。
【0051】
上部支持台202のベース基板200を設置する面の面積は、下部支持台204のボンド基板100を設置する面の面積より大きいことが望ましい。このような構造とすることにより、ベース基板200に対してボンド基板100を複数枚同時に貼り合わせることができる。これにより、ベース基板200が大面積の場合でも、ベース基板200とボンド基板100の貼り合わせを短時間で行うことができる。また、ベース基板200の広い範囲を、SOI基板として用いることができる。なお、図8に示す装置の構成では、ベース基板200に対してボンド基板100を同時に9枚まで貼り合わせることが可能であるが、勿論、貼り合わせ数を限定するものではない。
【0052】
なお、本実施の形態に記載する貼り合わせ装置は、下部支持台204が各々別の駆動装置808によりZ軸方向に動作する構造であるが、複数の下部支持台204が1つの駆動装置でZ軸方向に動作する構造や、1つの駆動装置で全ての下部支持台204がZ軸方向に動作する構造としてもよい。当該構造とすることで、駆動装置808の台数を少なくすることができるため、貼り合わせ装置の製造コストを低減することができる。また、本実施の形態に記載する貼り合わせ装置は、下部支持台204がZ軸方向に動作する構造であるが、上部支持台202がZ軸方向に動作する構造としてもよい。また、上部支持台202および下部支持台204の両方がZ軸方向に移動する構造としてもよい。加えて、上部支持台202および下部支持台204の一方または両方は、貼り合わせ位置を調整のためにX軸方向やY軸方向(前後方向や左右方向とも言える。)に動作する機構を備えていてもよい。
【0053】
また、上部支持台202は、下面にベース基板200を設置する構造であるため、ベース基板200を固定するための基板固定機構812を備えることが望ましい。基板固定機構812としては、図8(B)のように、吸着機構(例えば真空チャックなど。)を用いることができる。また、上部支持台202のベース基板200設置面に仮固定材料(例えば、熱剥離テープ、熱剥離接着剤、UV剥離テープまたはUV剥離接着剤など。)を設け、これを基板固定機構812としてもよい。
【0054】
下部支持台204は、後述で説明するとおり、ボンド基板100がベース基板200と接触して当該接触箇所に押圧が加わった際に、下部支持台204の端部(図8(B)の黒丸M部分)を支点としてボンド基板100が下部支持台204から浮かび上がる構造とすることが望ましい。このため、下部支持台204上にボンド基板100を設置した際に、下部支持台204からボンド基板100が滑落せず、かつ、ボンド基板100に力が付加した際に、ボンド基板100は下部支持台204から浮かび上がる必要がある。このため、下部支持台204上にボンド基板100を設置した際にボンド基板100が滑落する場合は、例えば、下部支持台204上に滑落防止材料として各種ゴムや弱粘着性テープ(弱粘着性シートとも表記できる。)を設けることが好ましい。なお、下部支持台204の傾きが小さく、滑落防止材料を設けなくともボンド基板100が滑落しない場合は、滑落防止材料を必ずしも設ける必要はない。
【0055】
また、下部支持台204は上部支持台202に対して傾きを有した構造であることが望ましい。具体的な角度としては、上部支持台202にベース基板200を設置し、下部支持台204にボンド基板100を設置した際において、ボンド基板100に対向するベース基板200の面と、ベース基板200に対向するボンド基板100の面との傾きが、0度超3度未満、好ましくは0.01度以上2度以下となる角度であることが望ましい。
【0056】
当該角度が小さすぎる場合、上部支持台202と下部支持台204が近づいてボンド基板100とベース基板200が接触した際に、貼り合わせ開始箇所が複数生じる場合があるため好ましいとはいえない。また、ベース基板200に対するボンド基板100の傾きが大きすぎる場合、ボンド基板100とベース基板200が接触して貼り合わせ開始箇所が生じても、ボンド基板100とベース基板200の間に間隔が空いているため、貼り合わせ開始箇所を始点とした自発的な貼り合わせが進行しにくい。このため、ボンド基板100とベース基板200の貼り合わせが進行しない、または一部が貼り合わされない等の不良が生じる場合があり、ベース基板200に対するボンド基板100の傾きが大きい場合は、好ましいとはいえない。
【0057】
上述の構造を有する貼り合わせ装置を用いて、ベース基板200に対してボンド基板100のX軸およびY軸の一方または両方が0度より大きく3度より小さい範囲で傾きを有している状態でボンド基板100とベース基板200を貼り合わせることにより、ボンド基板100とベース基板200の貼り合わせ開始箇所が一点となりやすいため、ボンド基板100とベース基板200の界面に空気層が残ることなく、自発的に進行する貼り合わせを安定して行うことができるため望ましい。
【0058】
また、ベース基板200とボンド基板100の位置関係は、図3(A)および図3(B)に記載するとおり、ベース基板200の下にボンド基板100が位置する構造とすることが望ましい。これは、後述にて説明するが、ボンド基板100は、ベース基板200と接触して当該接触箇所や当該接触箇所近傍に押圧が加わった場合に、下部支持台の端部を支点として下部支持台から浮かび上がる(つまり、ベース基板200に近づく。例えば、後の工程にて説明する図1(D)参照。)。この浮かび上がりにより、ボンド基板100とベース基板200の自発的な貼り合わせを安定して進行させることができる。
【0059】
貼り合わせ処理の際に上記の浮かび上がりを発生させるためには、ボンド基板100を下部支持台に固定しないことが望ましいが、ベース基板200の上にボンド基板100が位置する構造とした場合、ベース基板200とボンド基板100を対向した状態とするためには、ボンド基板100が下部支持台から落下しないように、例えば真空吸着や微粘着材料などを用いて固定する必要が生じてしまう。このような理由のため、ベース基板200とボンド基板100の位置関係は、図3(A)および図3(B)に記載するとおり、ベース基板200の下にボンド基板100が位置する構造とすることが望ましい。
【0060】
次に、ベース基板200を上部支持台202に、ボンド基板100を下部支持台204に設置する。なお、ボンド基板100は、一部が下部支持台204からはみ出し、かつ、下部支持台204からはみ出した部分がベース基板200に最も近くなる状態に、下部支持台204に設置することが望ましい(図1(C)参照。)。
【0061】
上述のように設置することにより、ボンド基板100とベース基板200が近づいて接触し、当該接触箇所や当該接触箇所近傍に押圧が加わった場合に、ボンド基板100は下部支持台204の端部(図1(D)の黒丸M部分)を支点として下部支持台204から浮かび上がる(図1(D)参照。)。この浮かび上がりにより、ボンド基板100とベース基板200の間隔が狭くなり、接触箇所を始点として、ボンド基板100とベース基板200の自発的な貼り合わせが連続的かつ安定して進行する。これにより、界面部分に空気層が残ることなく、ボンド基板100の表面に形成された絶縁層102とベース基板200を貼り合わせることができる。なお、上述の「自発的な貼り合わせ」は、ファンデルワールス力や水素結合が作用しており、常温で行うことができる。
【0062】
ここで、上述の「ボンド基板100の一部が下部支持台204からはみ出し」とは、下部支持台204からのボンド基板100のはみ出し量が、ボンド基板100の面積の5%以上50%以下となる状態に設置することが望ましい。当該はみ出し量がボンド基板面積の5%より小さい場合、ボンド基板100を浮かせる際にボンド基板100の一部(特に、下部支持台204のうち支点として作用する部分(図1(D)の黒丸部分)と接触する箇所)に強い力が加わるため、荷重集中によりボンド基板100に割れや欠けが発生する可能性がある。また、当該はみ出し量がボンド基板面積の50%より大きい場合、下部支持台204にボンド基板100を設置した際にボンド基板100が不安定な状態となり、例えば、ボンド基板100とベース基板200が接触した際にボンド基板100が下部支持台204から落下する等、安定した貼り合わせができない可能性がある。このため、SOI基板の作製歩留まりを低下させる要因となりうる。
【0063】
ボンド基板100とベース基板200の貼り合わせに際し、ボンド基板100とベース基板200の接触箇所を始点とする自発的な貼り合わせが始まった後は、上部支持台202と下部支持台204を近づける動作を停止することが望ましい。これは、自発的な貼り合わせ開始後に上部支持台202と下部支持台204を更に近づけると、下部支持台204の支点部分(図1(D)の黒丸部分)がボンド基板100の一部に強く押し当てられ、ボンド基板100とベース基板200の自発的な貼り合わせを阻害する恐れがあるためである。
【0064】
なお、ボンド基板100とベース基板200の接合強度を増加させるため、貼り合わせの前後に熱処理を行ってもよい。貼り合わせ前の熱処理としては、ボンド基板100に対して50℃以上150℃未満の温度を加えながら、ボンド基板100とベース基板200を貼り合わせればよい。また、貼り合わせ後の熱処理としては、微小気泡領域106において分離(劈開現象ともいう)が生じない温度(例えば、100℃以上400℃未満)をボンド基板100に対して加えればよい。上記熱処理には、拡散炉、抵抗加熱炉などの加熱炉、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。なお、上記温度条件はあくまで一例に過ぎず、開示する発明の一態様がこれに限定して解釈されるものではない。
【0065】
なお、本実施の形態に記載する上部支持台202は、加熱装置を備えていてもよい。上部支持台202に加熱装置を備えることで、例えば、上述の貼り合わせ前の加熱処理および貼り合わせ後の加熱処理を支持台に設置したまま行えるため、SOI基板の製造時間を短縮することができる。また、例えば、後述する「劈開面形成のための加熱処理」の前に、劈開面形成に必要な加熱温度よりも低い温度で上部支持台202を加熱しておくことで、貼り合わせを行った際、劈開面形成に必要な温度を速やかにボンド基板100に加えることができる。
【0066】
また、本実施の形態に記載する下部支持台204は、加熱装置を備えていてもよい。下部支持台204に加熱装置を備えることで、例えば、上述の貼り合わせ前の加熱処理および貼り合わせ後の加熱処理を支持台に設置したまま行えるため、SOI基板の製造時間を短縮することができる。また、例えば、後述する「劈開面形成のための加熱処理」の前に、劈開面形成に必要な加熱温度よりも低い温度で下部支持台204を加熱しておくことで、貼り合わせを行った際、劈開面形成に必要な温度を速やかにボンド基板100に加えることができる。
【0067】
次に、ボンド基板100が貼り合わされたベース基板200を上部支持台202から外し、ボンド基板100に対して加熱処理を行う。当該加熱処理を行うことで、イオン添加処理104によりボンド基板100中に添加されたイオン(水素イオンまたは希ガスイオン)が微小気泡領域106に集中し、微小気泡領域106内にて劈開現象が生じる。その後、ベース基板200からボンド基板100を分離することにより、劈開面を境界としてボンド基板100より分離された薄膜ボンド層110が、絶縁層102を介してベース基板200上に転載される(図2(A)参照。)。なお、上述において「ボンド基板100に対して加熱処理を行う」との記載があるが、これはボンド基板100のみを加熱するという意味ではない。例えば、ベース基板200に対して加熱処理を行い、副次的にボンド基板100も加熱されるような場合であっても「ボンド基板100に対して加熱処理を行う」と表現できる。
【0068】
また、ボンド基板100から薄膜ボンド層110を分離した後に100℃以上の温度で熱処理を行い、薄膜ボンド層110中に残存する水素の濃度を低減させてもよい。
【0069】
以上の工程により、ボンド基板100とベース基板200の界面に空気層が残ることに起因した、ベース基板からボンド基板を引き剥がした際に生じる転載不良領域の発生が抑制された、高品位なSOI基板210を作製することができる(図2(B)参照。)。
【0070】
なお、上記では、ベース基板200に対してボンド基板100を1枚貼り合わせ、加熱処理および分離をする説明を行ったが、図2(C)に示すようにベース基板200に対して複数枚のボンド基板100を貼り合わせ、加熱処理および分離してSOI基板を作製してもよい。これにより、ベース基板200上には絶縁層102を介して複数の薄膜ボンド層110が形成され、1枚のベース基板200から、より多くの半導体装置を作製することができる、つまり、1枚の基板からの取り数が増加するため、半導体装置のコスト低減を図ることができる。
【0071】
本実施の形態に記載の方法により作製したSOI基板を用いてトランジスタなどの半導体素子を作製することにより、ゲート絶縁層の薄膜化やゲート絶縁層の局在界面準位密度の低減が可能となる。また薄膜ボンド層110の膜厚を薄くすることにより、完全空乏型のトランジスタを作製することも可能となる。
【0072】
また、本実施の形態に係るSOI基板の製造方法は、プロセス温度を700℃以下とすることができるため、ベース基板200としてガラス基板を適用することができる。このため、上述の高性能なトランジスタを備える半導体装置を、ガラス基板等の安価且つ大面積化が可能な基板の上に作製することができる。
【0073】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0074】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に記載の方法により作製したSOI基板を用いた半導体素子について記載する。
【0075】
図4に、実施の形態1の方法により作製したSOI基板210を用いた半導体素子の一例として、トランジスタ420の構造を示す。
【0076】
トランジスタ420は、基板400上に設けられた下地層401と、下地層401上に設けられたソース領域またはドレイン領域として機能する低抵抗領域402aおよび低抵抗領域402aに挟まれたチャネル形成領域402bと、低抵抗領域402aおよびチャネル形成領域402b上に設けられたゲート絶縁層404と、ゲート絶縁層404上に設けられたゲート電極406と、ゲート絶縁層404およびゲート電極406上に設けられた第1の絶縁層408および第2の絶縁層410と、ゲート絶縁層404、第1の絶縁層408および第2の絶縁層410に形成された開口部を介して低抵抗領域402aと電気的に接続された、ソース配線またはドレイン配線として機能する配線層412を備えている。
【0077】
SOI基板210を用いてトランジスタ420を作製する方法としては、まず、実施の形態1に記載の方法により作製したSOI基板210の薄膜ボンド層110を、フォトリソグラフィ法やエッチング法などの公知の技術を用いて島状に加工して、下地層401上に半導体層402を形成する(図5(A)参照。)。なお、SOI基板210のベース基板200が本実施の形態の基板400に相当し、また、SOI基板210の絶縁層102が本実施の形態の下地層401に相当する。なお、下地層401は、基板400から半導体層402にナトリウム等のトランジスタの特性に悪影響を及ぼす不純物の拡散を抑制する機能を有している。
【0078】
次に、半導体層402に対して、n型の導電性を付与する不純物元素や、p型の導電性を付与する不純物元素を、イオン注入法などの公知の技術を用いて半導体層402に添加する。半導体層402がシリコンである場合、n型の導電性を付与する不純物元素としては、例えば、リン(P)やヒ素(As)などを用いることができる。また、p型の導電性を付与する不純物元素としては、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)などを用いることができる。
【0079】
次に、半導体層402を覆うゲート絶縁層404を、CVD法やスパッタリング法などの公知の技術を用いて形成する(図5(B)参照。)。ゲート絶縁層404は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、ハフニウムシリケート(HfSixOy(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムシリケート(HfSixOy(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムアルミネート(HfAlxOy(x>0、y>0))等を含む単層構造または積層構造とすることが望ましい。なお、ゲート絶縁層404の厚さは、例えば、1nm以上200nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下とすればよく、例えばゲート絶縁層404として、CVD法により酸化窒化シリコンと窒化酸化シリコンの積層膜を50nmの厚さで形成して用いればよい。
【0080】
次に、ゲート絶縁層404上に、スパッタリング法や蒸着法などの公知の技術を用いて導電層を形成した後に、フォトリソグラフィ法やエッチング法などの公知の技術を用いて導電層をパターン形成し、ゲート電極406を形成する(図5(C)参照。)。ゲート電極406に用いる導電層としては、アルミニウム、銅、チタン、タンタルおよびタングステン等の金属材料や、当該金属材料の窒化物を用い、単層または複層にて形成することができる。また、多結晶シリコンなどの半導体材料を用いて導電層を形成しても良い。なお、ゲート電極406の厚さは、例えば、10nm以上1000nm以下、好ましくは50nm以上500nm以下とすればよく、例えばゲート電極406として、スパッタリング法によりタンタルと銅とチタンの積層膜を300nmの厚さで形成して用いればよい。
【0081】
次に、ゲート電極406をマスクとして、イオン注入法などの公知の技術を用いて半導体層402に対して一導電型を付与する不純物元素を添加し、低抵抗領域402aおよびチャネル形成領域402bを形成する(図5(D)参照。)。例えば、n型トランジスタを形成するためには、リン(P)やヒ素(As)などの不純物元素を添加すればよく、p型トランジスタを形成するためには、硼素(B)やアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)などの不純物元素を添加すればよい。なお、不純物元素を添加した後には、活性化のための熱処理を行ってもよい。
【0082】
次に、スパッタリング法やCVD法やスピンコート法などの公知の技術を用いて、ゲート絶縁層404およびゲート電極406を覆うように第1の絶縁層408および第2の絶縁層410を形成する(図6(A)参照。)。第1の絶縁層408および第2の絶縁層410としては、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム等の無機絶縁材料を含む材料を用いることができる。また、第1の絶縁層408および第2の絶縁層410として、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等の有機絶縁材料を用いることも可能である。なお、第1の絶縁層408および第2の絶縁層410の厚さは、例えば、100nm以上5000nm以下、好ましくは300nm以上3000nm以下とすればよく、例えば第1の絶縁層408として、CVD法により酸化シリコン膜を300nmの厚さで形成した後に、第2の絶縁層410として、スピンコート法によりポリイミド樹脂を1000nmの厚さで形成して用いればよい。
【0083】
次に、ゲート絶縁層404、第1の絶縁層408および第2の絶縁層410に、フォトリソグラフィ法やエッチング法などの公知の技術を用いて、低抵抗領域402aに到達する開口部を形成する。
【0084】
次に、当該開口部を覆う状態に、スパッタリング法や蒸着法などの公知の技術を用いて導電層を形成した後に、フォトリソグラフィ法やエッチング法などの公知の技術を用いて導電層をパターン形成して配線層412を形成する。配線層412を形成するための導電層としては、ゲート電極406と同様の方法および材料を用いることができる。なお、導電層の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下、好ましくは200nm以上800nm以下とすればよく、例えば導電層として、スパッタリング法によりアルミニウムをチタンで挟んだ積層構造を500nmの厚さで形成して用いればよい。
【0085】
以上の工程により、トランジスタ420を形成することができる(図6(B)参照。)。実施の形態1にて作製したSOI基板210を用いてトランジスタ420を作製することにより、移動度が高く、且つ安定した電気特性を有するトランジスタをガラス基板などの安価で且つ大型化が可能な基板の上に形成することができる。
【0086】
(実施の形態3)
本実施の形態では、上述の実施の形態で説明したSOI基板を用いて作製した半導体素子を、電子機器に適用する場合の一例について、図7を用いて説明する。
【0087】
図7(A)は、携帯型の情報端末であり、筐体701、筐体702、第1の表示部703a、第2の表示部703bなどによって構成されている。第1の表示部703aおよび第2の表示部703bはタッチ入力機能を有するパネルとなっており、例えば図7(A)の左図のように、第1の表示部703aに表示される選択ボタン704により「タッチ入力」を行うか、「キー入力」を行うかを選択できる。選択ボタンは様々な大きさで表示できるため、幅広い世代の人が使いやすさを実感できる。ここで、例えば「タッチ入力」を選択した場合、図7(A)の右図のように第1の表示部703aにはキーボード705が表示される。これにより、従来の情報端末と同様に、キー入力による素早い文字入力などが可能となる。
【0088】
また、図7(A)に示す携帯型の情報端末は、図7(A)の右図のように、第1の表示部703aと第2の表示部703bを分離することができる。これにより、筐体701を卓上や壁などに設置し、筐体702を操作する、といった使用方法も可能であるため、当該携帯型の情報端末を複数人で使用する場合などに非常に便利である。
【0089】
図7(A)は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報を操作又は編集する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。
【0090】
また、図7(A)に示す携帯型の情報端末は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0091】
さらに、図7(A)に示す筐体701や筐体702にアンテナやマイク機能や無線機能を持たせ、携帯電話として用いてもよい。
【0092】
上述の実施の形態で説明したSOI基板を用いて作製したトランジスタは、移動度が高く高速動作が可能であり、且つ安定した電気特性を有している。また、ガラス基板などの安価で且つ大型化が可能な基板の上に形成することができる。このため、第1の表示部703aや第2の表示部703bなどに当該トランジスタを使用することにより、第1の表示部703aや第2の表示部703bの画素数を、例えば4K×2K(水平方向画素数=3840画素、垂直方向画素数=2048画素)や8K×4K(水平方向画素数=7680画素、垂直方向画素数=4320画素)のような超高精細な状態にしても正常かつ安定した動作が得られ、非常に高精細な携帯型の情報端末の提供が可能となる。
【0093】
図7(B)は、テレビジョン装置であり、筐体711、表示部712、スタンド713などで構成されている。テレビジョン装置の操作は、筐体711が備えるスイッチや、リモコン操作機714により行うことができる。このようなテレビジョン装置において、表示部712などに上述の実施の形態で説明したSOI基板を用いて作製したトランジスタを使用することにより、表示部712の画素数を、例えば4K×2K(水平方向画素数=3840画素、垂直方向画素数=2048画素)や8K×4K(水平方向画素数=7680画素、垂直方向画素数=4320画素)のような超高精細な状態にしても正常かつ安定した動作が得られ、非常に高精細なテレビジョン装置を提供できる。
【0094】
図7(C)は、半球型映像表示装置であり、本体721、座席722、ヒンジ723、表示部724などで構成されている。半球型映像表示装置は、表示部724を湾曲状態にする必要がある。上述の実施の形態にて記載したSOI基板の作製方法では、ベース基板200としてフィルム、プリプレグ、金属板および金属箔などの可とう性を有する基板を用いることが可能であるため、上述の実施の形態で説明したSOI基板を用いて作製したトランジスタを、曲面部分に形成することができる。本実施の形態に記載するような半球型映像表示装置は、表示部724が使用者のすぐ近くに存在するため、表示部724の画素数があらいと臨場感に欠ける。また、表示部724の表示レートが遅いと、特に動きの速い動画などの再生時において表示部724に動画の残像が生じ、使用者に対してストレスを与えることとなる。しかし、表示部724に当該トランジスタを使用することにより、表示部724の画素数を飛躍的に高めることが可能であり、また画像の表示レートを高く設定することができるため、非常に高精細で臨場感に溢れた半球型映像表示装置を提供できる。
【符号の説明】
【0095】
100 ボンド基板
102 絶縁層
104 イオン添加処理
106 微小気泡領域
110 薄膜ボンド層
200 ベース基板
202 上部支持台
204 下部支持台
210 SOI基板
400 基板
401 下地層
402 半導体層
402a 低抵抗領域
402b チャネル形成領域
404 ゲート絶縁層
406 ゲート電極
408 第1の絶縁層
410 第2の絶縁層
412 配線層
420 トランジスタ
701 筐体
702 筐体
703a 表示部
703b 表示部
704 選択ボタン
705 キーボード
711 筐体
712 表示部
713 スタンド
714 リモコン操作機
721 本体
722 座席
723 ヒンジ
724 表示部
806 軸
808 駆動装置
810 可動部
812 基板固定機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板を、上部支持台に設置し、
表面に絶縁層が形成され、且つ内部に微小気泡領域が形成されたボンド基板を、少なくともその一端がはみ出す状態に、下部支持台に設置し、
前記一端の一部が最初に前記ベース基板と接触するように、前記ボンド基板を前記ベース基板の設置面に対して傾斜角を持たせた状態で前記ボンド基板と前記ベース基板を近接させ、
前記一端の一部が前記ベース基板に接触し、接触箇所および前記接触箇所の近傍に押圧を加えることにより、前記下部支持台の端部を支点として前記ボンド基板の一部を前記下部支持台から浮かせて、前記ボンド基板と前記ベース基板を自発的に貼り合わせ、
前記ボンド基板に対して加熱処理を行い、
前記ボンド基板を前記ベース基板から分離して、前記ボンド基板の一部および前記ボンド基板表面に形成された前記絶縁層を前記ベース基板に転載するSOI基板の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記ベース基板は前記ボンド基板より大きく、
前記ベース基板に対して前記ボンド基板を複数枚貼り合わせ、
前記複数枚のボンド基板に対して加熱処理を行い、
前記複数枚のボンド基板を前記ベース基板から分離して、前記複数枚のボンド基板の一部および前記複数枚のボンド基板表面に形成された前記絶縁層を前記ベース基板に転載するSOI基板の作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記下部支持台からの前記ボンド基板のはみ出し量が、前記ボンド基板面積の5%以上50%以下となる状態に設置するSOI基板の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記ベース基板に対する前記ボンド基板の傾きを0度より大きく3度より小さくして、前記ベース基板と前記ボンド基板の一端の一部を接触させるSOI基板の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記ベース基板と前記ボンド基板を貼り合わせる前、貼り合わせ中あるいは貼り合わせた後に、前記ベース基板または前記ボンド基板の少なくともいずれかに対して加熱処理を行うSOI基板の作製方法。
【請求項6】
ベース基板を設置する上部支持台と、
ボンド基板を設置する下部支持台を有し、
前記上部支持台の前記ベース基板を設置する面の面積は、前記下部支持台の前記ボンド基板を設置する面の面積より大きく、
前記上部支持台は、前記ベース基板の把持機能を備え、
前記下部支持台は、前記上部支持台に対して傾きを有し、
前記傾きは、前記上部支持台に前記ベース基板を設置し、前記下部支持台に前記ボンド基板を設置した際において、前記ボンド基板に対向する前記ベース基板の面と、前記ベース基板に対向する前記ボンド基板の面との傾きが0度超3度未満となるだけの傾きであることを特徴とする、貼り合わせ装置。
【請求項7】
前記下部支持台を複数備える、請求項6に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項8】
前記下部支持台に加熱装置を備える、請求項6または請求項7に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項9】
前記上部支持台に加熱装置を備える、請求項6または請求項7に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項10】
前記上部支持台および前記下部支持台に加熱装置を備える、請求項6または請求項7に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項11】
前記上部支持台の前記ベース基板設置面に対して略垂直方向の負荷が前記下部支持台に加わった際に、前記下部支持台が可動する、請求項6乃至請求項10に記載の基板貼り合わせ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102118(P2013−102118A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134153(P2012−134153)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】