説明

SPICEモデルパラメータ出力装置及び出力方法

【課題】高周波MOSFETやアナログMOSFETの基板抵抗を正確にモデル化することが可能なSPICEモデルパラメータ出力装置及び出力方法を提供。
【解決手段】MOSFETの形状データと、MOSFETの周波数特性に関する測定データとを入力するためのデータ入力部101と、測定データに基づいて、MOSFETに関する1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出する基板抵抗算出部102〜105と、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗と、形状データとに基づいて、SPICEモデルパラメータを算出して出力するSPICEモデルパラメータ出力部106とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)回路シミュレーションに使用されるMOSFETモデルに関し、特に、高周波回路、RFアナログ回路に利用されるMOSFETのSPICEモデルに適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の回路設計の際には、熱雑音をモデリングすべく、高周波MOSFETの基板抵抗モデルパラメータ(例えばRSUB1、RSUB2、RSUB3、及びRSUB4)が算出される。
【0003】
基板抵抗モデルパラメータの最適値は、例えば、Sパラメータ(特にS22)に対して基板抵抗モデルパラメータの値を振ることで算出可能である。この方法では、真値でなくともあわせこむことが出来るものの、正しい熱雑音シミュレーション結果が得られない場合が多い。
【0004】
非特許文献1では、ゲート電圧を閾値電圧よりも低い値に設定して測定したSパラメータを用いて、等価回路の算出を行っている。しかしながら、この方法では、MOSFETのドレイン−ソース間(gds)及び基板−ドレイン/ソース間(gmb)のコンダクタンスが除去できているとはいえず、寄生成分のみを含むSパラメータが得られず、正確な基板抵抗の抽出が困難となる。更には、対象としている基板抵抗モデルが1端子モデルであるため、高周波での精度が落ちる。
【0005】
また、特許文献1には、Sパラメータデータを、各素子がオンする条件とオフする条件とで測定して、等価回路モデルを作成する等価回路モデル作成方法が記載されている。
【0006】
なお、半導体集積回路の回路設計の際には、アナログMOSFETの基板抵抗モデルパラメータが算出されることも多い。この場合にも、高周波MOSFETの場合と同様の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−268417号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jeonghu Han et al., "A Simple and Accurate Method for Extracting Substrate Resistance of RF MOSFETs", IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS, VOL. 23, NO. 7, JULY 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高周波MOSFETやアナログMOSFETの基板抵抗を正確にモデル化することが可能なSPICEモデルパラメータ出力装置及び出力方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は例えば、半導体回路のシミュレーション用に、高周波又はアナログMOSFETのSPICEモデルパラメータを出力するSPICEモデルパラメータ出力装置であって、前記MOSFETの形状データと、前記MOSFETの周波数特性に関する測定データとを入力するためのデータ入力部と、前記測定データに基づいて、前記MOSFETに関する1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出する基板抵抗算出部と、前記1端子基板抵抗モデルの前記基板抵抗と、前記形状データとに基づいて、前記SPICEモデルパラメータを算出して出力するSPICEモデルパラメータ出力部と、を備えることを特徴とするSPICEモデルパラメータ出力装置である。
【0011】
本発明の別の態様は例えば、半導体回路のシミュレーション用に、高周波又はアナログMOSFETのSPICEモデルパラメータを出力するSPICEモデルパラメータ出力方法であって、前記MOSFETの形状データと、前記MOSFETの周波数特性に関する測定データとを情報処理装置に入力し、前記測定データに基づいて、前記MOSFETに関する1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を前記情報処理装置により算出し、前記1端子基板抵抗モデルの前記基板抵抗と、前記形状データとに基づいて、前記SPICEモデルパラメータを前記情報処理装置により算出して出力する、ことを特徴とするSPICEモデルパラメータ出力方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高周波MOSFETやアナログMOSFETの基板抵抗を正確にモデル化することが可能なSPICEモデルパラメータ出力装置及び出力方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態のSPICEモデルパラメータ出力装置の構成を示す概略図である。
【図2】高周波MOSFETのマクロモデルの一般的構成を示した回路図である。
【図3】本実施形態で取り扱うMOSFETがアレイ状に配置された様子を示す平面図である。
【図4】Sパラメータ1及び2を測定する際のMOSFETの内部等価回路を示した回路図である。
【図5】図4に示す状態において、MOSFETをゲート側から見た際に定義できるアドミッタンスを示した回路図である。
【図6】図4に示す状態において、MOSFETをドレイン側から見た際に定義できるアドミッタンスを示した回路図である。
【図7】本実施形態の手法により実際に得られたRe(1/Y22)及び基板抵抗RBの値を示したグラフである。
【図8】1端子基板抵抗モデルから4端子基板抵抗モデルへの変換について説明するための回路図である。
【図9】図3に示す構造と4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4とを関連付けて表現した側方断面図である。
【図10】本実施形態の手法で得られたRSUB1〜RSUB4の値を用いて、本実施形態のモデルと実測結果とを比較したグラフである。
【図11】本実施形態で取り扱うMOSFETの寄生素子を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態のSPICEモデルパラメータ出力装置の構成を示す概略図である。図1のSPICEモデルパラメータ出力装置は、半導体回路のシミュレーション用に、高周波MOSFET(RF−MOSFET)のSPICEモデルパラメータを出力する装置となっている。
【0016】
図1の装置は、このような処理用のブロックとして、データ入力部101と、Yパラメータ算出部102と、容量算出部103と、ゲート抵抗算出部104と、1端子基板抵抗算出部105と、4端子基板抵抗算出部106とを備える。Yパラメータ算出部102、容量算出部103、ゲート抵抗算出部104、及び1端子基板抵抗算出部105は、本発明の基板抵抗算出部の例であり、4端子基板抵抗算出部106は、本発明のSPICEモデルパラメータ出力部の例である。これらのブロックの動作の詳細については、図2から図11を参照しつつ説明する。
【0017】
図2は、高周波MOSFETのマクロモデルの一般的構成を示した回路図である。図2には、高周波MOSFETに相当するNMOS及びPMOSの回路図が示されている。本実施形態では、図2に示すマクロモデル、或いはこれと同様の等価回路を具備するMOSFET用のSPICEモデルを取り扱う。図2には更に、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗RBと、4端子基板抵抗モデルの基板抵抗RSUB1、RSUB2、RSUB3、及びRSUB4が示されている。
【0018】
図1のデータ入力部101には、このようなMOSFETに関し、MOSFETの形状データと、MOSFETの周波数特性に関する測定データとが入力される。
【0019】
本実施形態では、MOSFETの形状データとして、ゲート長Lg(単位:m)、単位フィンガー長Wf(単位:m)、フィンガー数NF、マルチフィンガー型MOSFETの場合の隣接するゲート間の距離SD(単位:m)、ダミーフィンガーを除くソース/ドレイン端からバックゲート(ウェルコンタクト)までの距離Dist_BDS1(単位:m)、及びソース/ドレイン端からバックゲートまでの距離Dist_BDS2(単位:m)が入力される。
【0020】
これらの形状データの詳細を、図3に示す。図3は、本実施形態で取り扱うMOSFETがアレイ状に配置された様子を示す平面図である。図3では、フィンガー構造が延びる方向が矢印Xで示され、フィンガー構造が繰り返す方向が矢印Yで示されている。図3には更に、MOSFET本体の中心部からバックゲートまでの距離Dist_BDS_ALL(単位:m)が示されている。
【0021】
また、本実施形態では、MOSFETの周波数特性に関する測定データとして、MOSFETの2つのバイアス状態におけるSパラメータ(Sパラメータ1及び2)の実測値が入力される(図1参照)。Sパラメータの実測値は、例えば、ネットワークアナライザ等の測定器を用いて測定される。
【0022】
Sパラメータ1は、MOSFETがオフの場合のSパラメータに相当し、MOSFETの全端子の電圧が0V、即ち、ゲート電圧Vg、ドレイン電圧Vd、ソース電圧Vs、及び基板電圧Vbが全て0Vである場合のSパラメータとなっている。
【0023】
一方、Sパラメータ2は、MOSFETがオンの場合のSパラメータに相当する。より詳細には、Sパラメータ2は、MOSFETが線形動作領域(3極管領域)で動作する場合のSパラメータとなっている。本実施形態では、ゲート電圧VgをMOSFETに許容される電源電圧VDD、ドレイン電圧Vdを50mV程度、ソース電圧Vs及び基板電圧Vbを0Vに設定することで、Sパラメータ2を取得する。なお、ドレイン電圧Vdの値については、50mV以外の値に設定しても構わない。
【0024】
これらのバイアス条件によれば、図4に示すように、MOSFETの内部のコンダクタンスの影響が取り除かれた状態を作り出すことができる。図4は、Sパラメータ1及び2を測定する際のMOSFETの内部等価回路を示した回路図である。図4では、MOSFETに内在するゲート−ドレイン間(gm)、ドレイン−ソース間(gds)、及び基板−ドレイン/ソース間(gmb)のコンダクタンスの影響が取り除かれており、得られるSパラメータには、純粋に寄生素子の影響のみが含まれることとなる。
【0025】
このようなSパラメータによれば、寄生素子に対する直接的な観測が可能となり、高周波用途のMOSFETに付加される寄生素子を、観測されたSパラメータから直接算出することが可能となる。
【0026】
なお、本実施形態では、MOSFETの形状データは、例えば、ユーザーにより図1の装置に入力される。また、MOSFETの周波数特性に関する測定データは、例えば、ネットワークアナライザ等の測定器により測定され、測定器から図1の装置に入力される。本実施形態では、測定器により測定された測定データを、ユーザーが図1の装置に入力しても構わない。
【0027】
続いて、図1に示すYパラメータ算出部102、容量算出部103、ゲート抵抗算出部104、及び1端子基板抵抗算出部105の動作について説明する。
【0028】
Yパラメータ算出部102は、SパラメータをYパラメータに変換する。これにより、MOSFETの全端子の電圧が0Vの場合のYパラメータとして、Sパラメータ1からYパラメータ1が算出される。更には、MOSFETが線形動作領域で動作する場合のYパラメータとして、Sパラメータ2からYパラメータ2が算出される(図1参照)。このように、Sパラメータは、個々にYパラメータに変換される。
【0029】
Yパラメータ1及び2については、それぞれ異なる処理が行われる。Yパラメータ1については、容量算出部103による容量算出処理が行われ、Yパラメータ2については、ゲート抵抗算出部104によるゲート抵抗算出処理が行われる。
【0030】
ここで、Yパラメータ(アドミッタンスマトリックス)の詳細について、解析的に説明する。
【0031】
上述のように、上記の2つのバイアス条件によれば、図4に示すように、MOSFETの内部のコンダクタンスの影響が取り除かれた状態を作り出すことができる。このバイアス条件下でMOSFETの入出力アドミッタンスを計算する際には、図5及び図6に示す状態から計算を始めることが出来る。図5は、図4に示す状態において、MOSFETをゲート側から見た際に定義できるアドミッタンスを示した回路図である。また、図6は、図4に示す状態において、MOSFETをドレイン側から見た際に定義できるアドミッタンスを示した回路図である。
【0032】
図5からは、式(1)に示す回路方程式が得られ、図6からは、式(2)及び(3)に示す回路方程式が得られる。ただし、Y11、Y12、Y21、Y22は、Yパラメータを構成する成分を表し、Zp及びYpはそれぞれ、式(4)及び(5)のように与えられる。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【0033】
これらの式において、RG、RD、RSはそれぞれ、MOSFETのゲート抵抗、ドレイン抵抗、ソース抵抗を表し、RBは、MOSFETの(1端子基板抵抗モデルの)基板抵抗を表す。また、CGG、CGBはそれぞれ、MOSFETのゲート容量、ゲート−ウェル間容量を表し、CFGD及びCFGSは、MOSFETのオーバーラップ容量を表す(図5、図6参照)。また、ωは周波数(角周波数)を表し、jは虚数単位を表す。
【0034】
式(1)から(3)の回路方程式を解くと、式(6)から(9)に示すYパラメータが得られる。
【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【0035】
なお、RBは、MOSFETの4端子基板抵抗モデルの基板抵抗RSUB1、RSUB2、RSUB3、RSUB4を用いて、式(10)のように表される。また、CGGは、CGB、CFGD、CFGSを用いて、式(11)のように表される。
【数10】

【数11】

【0036】
容量算出部103及びゲート抵抗算出部104は、式(6)から(9)の関係を用いることで、寄生パラメータを直接的に抽出することができる。具体的には、容量算出部103は、Y11の虚部からゲート容量CGGを算出し(式(12)参照)、Y12の虚部からオーバーラップ容量CFGD及びCFGSを算出し(式(13)参照)、これらの容量を式(11)に代入して、ゲート−ウェル間容量CGBを算出する。また、ゲート抵抗算出部104は、式(14)のように、Y11の虚部、Y12の虚部、及びY12の実部からゲート抵抗RGを算出する。
【数12】

【数13】

【数14】

【0037】
このように、容量算出部103及びゲート抵抗算出部104は、Yパラメータから、ゲート抵抗RG、ゲート容量CGG、オーバーラップ容量CFGD,CFGS、及びゲート−ウェル間容量CGBを抽出することができる。
【0038】
ここで、1/Y22の実部に着目する。式(9)から、1/Y22の実部は、式(15)のように表される。
【数15】

【0039】
式(15)の右辺の第1項は、周波数に依存しない項となっており、第2項は、周波数に依存する項となっている。1/Y22の実部の値は、周波数が低くなると第1項の値に近付き、周波数が高くなるに従い第2項の値が支配的となってくる。また、通常のMOSFETでは、RBGB2>>RSFGS2が成り立つため、第2項中のRSFGS2の項は無視することができる。そのため、式(15)は、式(16)のように変形することができる。
【数16】

【0040】
1端子基板抵抗算出部105は、式(16)の関係を用いることで、Yパラメータ、ゲート抵抗RG、及びゲート−ウェル間容量CGBに基づいて、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗RBを算出することができる。具体的には、1端子基板抵抗算出部105は、式(16)の右辺に相当する、1/Y22の実部の周波数依存項の傾きを、2ωRG2GB2で割ることで、基板抵抗RBを算出する。
【0041】
図7は、本実施形態の手法により実際に得られたRe(1/Y22)及び基板抵抗RBの値を示したグラフである。図7の横軸は、周波数を表し、図7の縦軸は、Re(1/Y22)及び基板抵抗RBを表す。図7のグラフは、110nm RF−CMOSプロセスによる1.5V−VS NMODの実測データから得られたものである。
【0042】
図7において、曲線A1及びA2は、Re(1/Y22)を表し、これらの接線に相当する直線B1及びB2は、接点の位置の周波数におけるRe(1/Y22)の傾きを表す。式(16)の関係から、基板抵抗RBは、Re(1/Y22)の傾きを2ωRG2GB2で割ることで算出できる。曲線C1及びC2は、こうして算出された基板抵抗RBを表す。
【0043】
このように、図1のYパラメータ算出部102、容量算出部103、ゲート抵抗算出部104、及び1端子基板抵抗算出部105は、MOSFETの周波数特性に関する測定データに基づいて、MOSFETの1端子基板抵抗モデルの基板抵抗RBを算出することができる。
【0044】
続いて、図1に示す4端子基板抵抗算出部106の動作について説明する。
【0045】
高周波MOSFETのマクロモデルでは、通常、4端子基板抵抗モデル又は5端子基板抵抗モデルが用いられる。前者の場合には、SPICEモデルパラメータとして、4端子基板抵抗モデルの基板抵抗が算出され、後者の場合には、SPICEモデルパラメータとして、5端子基板抵抗モデルの基板抵抗が算出される。
【0046】
4端子基板抵抗算出部106は、SPICEモデルパラメータとして、4端子基板抵抗モデルの基板抵抗RSUB1、RSUB2、RSUB3、及びRSUB4を算出して出力する。以下、4端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出する処理の詳細について説明する。
【0047】
図8は、1端子基板抵抗モデルから4端子基板抵抗モデルへの変換について説明するための回路図である。
【0048】
図8(A)は、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗RBを示した回路図である。図8(A)に示す回路図は、図8(B)に示す回路図への等価回路変換が可能である。図8(B)では、抵抗値2RBを有する2つの抵抗が並列接続されている。
【0049】
一方、本実施形態では、MOSFETのソースとドレインのバイアスが等しい(或いはほぼ等しい)とみなすことが出来る。よって、図8(A)に示す回路図は、図8(C)又は(D)に示す回路図への等価回路変換が可能である。図8(C)又は(D)には、抵抗値RSUB1、RSUB2、RSUB3、及びRSUB4を有する4つの抵抗と、2つのダミー抵抗RDMY1及びRDMY2が示されている。ダミー抵抗RDMY1及びRDMY2は、4端子基板抵抗モデルでは必要ないが、4端子基板抵抗モデルではオープン抵抗とみなすことが出来る。
【0050】
ここで、1端子基板抵抗モデルから4端子基板抵抗モデルへの変換について、図8(D)を参照して説明する。図8(D)において、P5はゲート直下のウェルを表し、P6はウェルコンタクトを表す。また、DRAIN及びSOURCEはそれぞれ、ドレイン及びソースのコンタクトを表す。
【0051】
式(16)で求まる基板抵抗RBは、図8(D)に示す6つの抵抗から計算される抵抗値となる。本実施形態では、MOSFETのバイアスがソースとドレインにほぼ等しく掛かっているため、図8(D)のDRAINとSOURCEはほぼ同じ電位である仮定できる。図8(D)に示す抵抗は、下記の式(17)及び(18)の表現で、基板抵抗RBと関係付けることが出来る(RDMY1及びRDMY2はこの場合無視できる)。
【数17】

【数18】

【0052】
式(17)は、図8(B)に示す左側の抵抗2RBが、図8(D)に示すRSUB1,RSUB2の和に等しいことを表す。一方、式(18)は、図8(B)に示す右側の抵抗2RBが、図8(D)に示すRSUB3,RSUB4の和に等しいことを表す。
【0053】
ここで、ウェル内は同一の材料で形成されており、ウェル内の抵抗率が同一の値ρsubで表されるとすると、RSUB1〜RSUB4は、式(19)及び(20)のように表される。
【数19】

【数20】

【0054】
ただし、式(20)中のBist_BDS_ALLは、NFが偶数の場合には式(21)のように表され、NFが奇数の場合には式(22)のように表される。なお、int(NF/2)は、NF/2の値の整数部分、即ち、NF/2の値の小数点以下を切り捨てた値を表す。
【数21】

【数22】

【0055】
式(19)及び(20)は、図9を元に、RSUB1〜RSUB4を、図3に示す変数で表すことで導出可能である。図9は、図3に示す構造と4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4とを関連付けて表現した側方断面図である。
【0056】
図3に示す変数の値は、上述のように、MOSFETの形状データとしてデータ入力部101に入力される(図1参照)。よって、4端子基板抵抗算出部106は、1端子基板抵抗算出部105により算出された1端子基板抵抗RBと、データ入力部101に入力された形状データを、式(19)及び(20)に代入することで、4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4を算出することができる。算出された4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4は、SPICEモデルパラメータ(基板抵抗モデルパラメータ)として、図1の装置の外部(又は内部)に出力される。
【0057】
このように、4端子基板抵抗算出部106は、MOSFETの1端子基板抵抗モデルの基板抵抗RBと、MOSFETの形状データとに基づいて、MOSFETのSPICEモデルパラメータを算出して出力することができる。本実施形態では、4端子基板抵抗算出部106は、SPICEモデルパラメータとして、MOSFETの4端子基板抵抗モデルの基板抵抗RSUB1〜RSUB4を算出して出力する。
【0058】
ここで、図7で得られた1端子基板抵抗RB=70Ωから、4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4を算出してみる。形状データとしては、Lg=0.11μm、Wf=5.2μm、NF=10、SD=0.5μm、Dist_BDS1=Dist_BDS2=1μmを用いる。この場合、抵抗率ρsub及び4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4は、以下の値となる。
ρsub = 323Ω
RSUB2 = RSUB3 = 15.9Ω
RSUB1 = RSUB4 = 68.3Ω
【0059】
図10は、本実施形態の手法で得られたRSUB1〜RSUB4の値を用いて、本実施形態のモデルと実測結果とを比較したグラフである。図10において、実線は本実施形態のモデルを示し、破線は実測結果を示している。
【0060】
以上のように、本実施形態では、MOSFETの周波数特性に関する測定データに基づいて、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出し、MOSFETの形状データと、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗とに基づいて、MOSFETのSPICEモデルパラメータを算出して出力する。本実施形態によれば、SPICEモデルパラメータとして、例えば、4端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出して出力することができる。
【0061】
このように、本実施形態によれば、MOSFETの基板抵抗モデルパラメータ(例えば4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4)を、実測値から算出することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、4端子基板抵抗等の基板抵抗モデルパラメータを、当該パラメータの値を振る手法等によらず、実測値から算出された1端子基板抵抗を用いて算出するため、高周波MOSFETの基板抵抗を正確にモデル化し、正確な基板抵抗モデルパラメータを得ることが可能となる。本実施形態によれば、PDK(Process Design Kit)開発で必要な高精度MOSFETスケーラブルモデルの実現が容易となる。また、本実施形態では、基板抵抗モデルパラメータの最適化手法に頼らず、実測値から基板抵抗モデルパラメータを算出するため、モデルパラメータのロバスト性が保たれる。
【0063】
また、本実施形態では、実測値としてSパラメータを採用し、SパラメータをYパラメータに変換し、変換により得られたYパラメータから1端子基板抵抗を算出する。本実施形態では、式(16)の関係を利用することで、1端子基板抵抗をYパラメータから簡単に算出することができる。
【0064】
なお、実測値として、SパラメータではなくYパラメータを採用することも考えられるが、この場合には、端子間の短絡により、V1=0やV2=0(図5、図6参照)を実現する必要がある。しかしながら、これらの実現は、高周波領域では困難であるという問題がある。そこで、本実施形態では、実測値としてSパラメータを採用することで、この問題を回避している。
【0065】
また、本実施形態では、2つのバイアス状態のSパラメータ(Sパラメータ1及び2)が採用される。Sパラメータ1は、MOSFETがオフの場合のSパラメータに相当し、MOSFETの全端子の電圧が0Vの場合のSパラメータとなっている。一方、Sパラメータ2は、MOSFETがオンの場合のSパラメータに相当し、より詳細には、MOSFETが線形動作領域で動作する場合のSパラメータとなっている。
【0066】
本実施形態では、これらのバイアス条件を採用することで、MOSFETの内部のコンダクタンスの影響が取り除かれた状態を作り出すことができる。Sパラメータには、純粋に寄生素子の影響のみが含まれることとなる。これにより、本実施形態では、MOSFETの寄生素子の値を、精度よく算出することが可能となる。
【0067】
ここで、寄生素子と熱雑音との関係について、図11を参照して説明する。図11は、本実施形態で取り扱うMOSFETの寄生素子を示した回路図である。図11には、MOSFETに加え、4端子基板抵抗RSUB1〜RSUB4が示されている。
【0068】
MOSFETにおける熱雑音には、主に2つの原因があると考えられる。1つは、チャネルの熱雑音であり、もう1つは、ウェルの熱雑音である。図11では、チャネルの熱雑音の大まかな発生位置が、円X1で示され、ウェルの熱雑音の大まかな発生位置が、円X2で示されている。
【0069】
一般に、MOSFETにおける熱雑音について考察する際には、チャネルの熱雑音が算出される。しかしながら、文献によると、トータルの熱雑音に占めるウェルの熱雑音の割合は、1/3程度もあるとされている。よって、MOSFETにおける熱雑音を正確に評価する際には、チャネルの熱雑音も考慮に入れる必要がある。
【0070】
ウェルの熱雑音には、図11に示すように、寄生素子である基板抵抗が影響する。本実施形態によれば、1端子基板抵抗、更には、4端子基板抵抗を正確に算出することができるため、ウェルの熱雑音を正確にモデル化することが可能となる。これにより、ノイズシミュレーションの精度を向上させることが可能となる。
【0071】
以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0072】
本実施形態では、SPICEモデルパラメータとして、1端子基板抵抗から4端子基板抵抗が算出され出力される。しかしながら、本実施形態では、1端子基板抵抗から4端子基板抵抗以外のN端子基板抵抗(Nは2以上の整数)を算出し、これを出力してもよい。このようなN端子基板抵抗の例としては、5端子基板抵抗が挙げられる。
【0073】
また、図1の装置により行われる処理は、例えば、当該処理を実行する回路により実現してもよいし、当該処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムにより実現してもよい。このようなコンピュータプログラムは、例えば、CD−ROM、DVD、半導体メモリ、磁気記録メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて利用される。上記の回路を備えるコンピュータや、上記のコンピュータプログラムがインストールされたコンピュータは、本発明の情報処理装置の例である。
【0074】
また、本実施形態により出力されたSPICEモデルパラメータは、SPICEによる回路シミュレーションに使用される。回路シミュレーションを実行する装置は、図1の装置を含む装置でもよいし、図1の装置とは別個の装置でもよい。回路シミュレーションを実行する装置は、当該装置にSPICEプログラムをインストールすることで実現可能である。本実施形態によれば、例えば、SPICEによるノイズシミュレーションの精度を向上させることが可能となる。
【0075】
また、本実施形態は、高周波MOSFETに限らず、種々のアナログMOSFETにも適用可能である。この場合、本実施形態は、高周波の回路設計に限らず、低周波の回路設計にも適用可能である。
【0076】
以上のように、本実施形態では、MOSFETの周波数特性に関する測定データに基づいて、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出し、MOSFETの形状データと、1端子基板抵抗モデルの基板抵抗とに基づいて、MOSFETのSPICEモデルパラメータを算出して出力する。これにより、本実施形態では、高周波又はアナログMOSFETの基板抵抗を正確にモデル化し、正確な基板抵抗が反映されたSPICEモデルパラメータを出力することが可能となる。
【0077】
本実施形態では、SPICEモデルパラメータとして、例えば、4端子基板抵抗等の基板抵抗モデルパラメータを算出して出力することができる。これにより、本実施形態では、SPICEモデルパラメータとして、正確な基板抵抗モデルパラメータを出力することが可能となる。
【0078】
以上、本発明の具体的な態様の例を、本発明の実施形態により説明したが、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0079】
101 データ入力部
102 Yパラメータ算出部
103 容量算出部
104 ゲート抵抗算出部
105 1端子基板抵抗算出部
106 4端子基板抵抗算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体回路のシミュレーション用に、高周波又はアナログMOSFETのSPICEモデルパラメータを出力するSPICEモデルパラメータ出力装置であって、
前記MOSFETの形状データと、前記MOSFETの周波数特性に関する測定データとを入力するためのデータ入力部と、
前記測定データに基づいて、前記MOSFETに関する1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を算出する基板抵抗算出部と、
前記1端子基板抵抗モデルの前記基板抵抗と、前記形状データとに基づいて、前記SPICEモデルパラメータを算出して出力するSPICEモデルパラメータ出力部と、
を備えることを特徴とするSPICEモデルパラメータ出力装置。
【請求項2】
前記測定データは、ネットワークアナライザを用いて測定されたSパラメータであり、
前記基板抵抗算出部は、前記MOSFETがオフの場合のSパラメータと、前記MOSFETがオンの場合のSパラメータとに基づいて、前記基板抵抗を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のSPICEモデルパラメータ出力装置。
【請求項3】
前記基板抵抗算出部は、前記MOSFETのゲート電圧、ドレイン電圧、ソース電圧、及び基板電圧が全て0Vである場合のSパラメータと、前記MOSFETが線形動作領域で動作する場合のSパラメータとに基づいて、前記基板抵抗を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載のSPICEモデルパラメータ出力装置。
【請求項4】
前記基板抵抗算出部は、前記SパラメータをYパラメータに変換し、前記Yパラメータから前記MOSFETのゲート抵抗、オーバーラップ容量、ゲート容量、及びゲート−ウェル間容量を抽出し、前記Yパラメータ、前記ゲート抵抗、及び前記ゲート−ウェル間容量に基づいて前記基板抵抗を算出し、
前記SPICEモデルパラメータ算出部は、前記SPICEモデルパラメータとして、前記MOSFETに関するN端子基板抵抗モデル(Nは2以上の整数)の基板抵抗を算出して出力する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のSPICEモデルパラメータ出力装置。
【請求項5】
半導体回路のシミュレーション用に、高周波又はアナログMOSFETのSPICEモデルパラメータを出力するSPICEモデルパラメータ出力方法であって、
前記MOSFETの形状データと、前記MOSFETの周波数特性に関する測定データとを情報処理装置に入力し、
前記測定データに基づいて、前記MOSFETに関する1端子基板抵抗モデルの基板抵抗を前記情報処理装置により算出し、
前記1端子基板抵抗モデルの前記基板抵抗と、前記形状データとに基づいて、前記SPICEモデルパラメータを前記情報処理装置により算出して出力する、
ことを特徴とするSPICEモデルパラメータ出力方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−204004(P2011−204004A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70578(P2010−70578)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】