説明

SiC単結晶製造方法、およびそれを用いて製造するSiC結晶

【課題】低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶を、高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることのできるSiC単結晶製造方法を提供する。
【解決手段】SiC単結晶基板15とSiを含む原料を加熱かつ融解して得られた融液層16とを接触させることによって、基板15上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶製造方法において、大気圧下または加圧下で、基板15との接触部とは反対側の融液層16の表面16b側から、Siを含む分子とCを含む分子とを含むプラズマ17を供給し、かつ融液層16の基板15との接触部における温度を融液層16の表面16bにおける温度より低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC(炭化ケイ素)単結晶を液相成長法により製造するSiC単結晶製造方法に関するものであり、特に、パワーデバイス(電力用半導体素子)用の基板を作製するSiC単結晶製造方法に関する。さらに、このようなSiC単結晶製造方法を用いて製造するSiC結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、イオン性を有する共有結合結晶であり、結晶学上同一の組成でc軸方向に対して多様な積層構造を有するポリタイプ(結晶多形)を示す。SiCをSi(ケイ素)と比較すると、SiCの禁制帯幅(バンドギャップの大きさ)はSiの禁制帯幅の3倍、SiCの熱伝導率はSiの熱伝導率の3倍、さらにSiCの絶縁破壊電圧はSiの絶縁破壊電圧の7倍となっている。このような点で、SiCの特性はSiの特性よりも優れており、SiCはSiパワーデバイスの性能限界を超えるパワーデバイス用の材料として特に注目されている。
【0003】
SiCには、4H、6H、3C、15Rなど、様々な種類のポリタイプを示すものが存在する。このポリタイプの違いによって、SiCの発生確率は異なり、さらに、SiCの熱的安定性、禁制帯幅、移動度、不純物準位などが異なる。そのため、SiCを、光デバイス、電子デバイスなどのパワーデバイスに用いる場合、複数種類のポリタイプが混在していない均質なSiC単結晶基板を用いることが望ましい。そこで、パワーデバイスには、禁制帯幅が大きい4H−SiCを用いることが多くなっている。
【0004】
従来のSiC単結晶製造方法で用いられるSiC単結晶の成長方法としては、昇華法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、および溶液成長法が挙げられる。昇華法は、高純度のSiC粉末を2200℃〜2500℃に加熱することによって昇華ガスを発生させて、昇華ガスを低温に設定したSiC成長用の種結晶表面に供給して再結晶化する方法である。昇華法は、常温下でSiCに液相が存在しないので、現在最も広く用いられている。
【0005】
CVDは、SiC成長用の種結晶基板上に水素希釈した炭化水素およびシランを同時に供給することによって基板表面で化学反応を発生させて、SiC単結晶をエッチングと堆積とのバランスを取りながらエピタキシャル成長させる方法である。
【0006】
溶液成長法は、SiおよびCを含む融液とSiC成長用の種結晶とを接触させ、種結晶の温度を融液の温度より低くすることにより融液を過飽和状態として、種結晶の表面にSiC単結晶を成長させる方法である。溶液成長法は、格子欠陥が少なく、かつ複数種類のポリタイプが発生し難いので、高品質のSiC単結晶が得られるという点で、昇華法およびCVD法より優れる。また、溶液成長法について、特許文献1には、Si、Tiなどの複数の金属元素を含む原料を融解した融液を用いるとともに、2000℃以下の低温で融液のC溶解度を上げることによって、SiC単結晶を成長させることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、融液中のSiが蒸発し難い低温下でSiC単結晶を成長させる場合に、C(炭素)の不足を防ぐため、Siおよび金属元素を含む原料を融解した融液とSiC単結晶基板とを接触させて、大気圧下または加圧下で、炭化水素を含むガスを融液に供給する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007− 76986号公報
【特許文献2】特開2002−356397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、昇華法では、昇華ガス中にSiとCとから成る様々な化学種が発生し、これらの化学種のそれぞれが異なる反応経路によって結晶化する。そのため、多形転移が起こり易く、転移密度(EPD)が高くなる傾向にある。転移密度が高くなることは、格子欠陥密度を高める要因の一つとなる。特に、SiC単結晶基板をSiCPNダイオードに用いる場合には、転移はリークの発生原因となるので問題である。
【0010】
CVD法では、エッチングと堆積とのバランスを取りながらエピキャシタル成長させるため、SiC単結晶の成長速度が遅いという問題がある。
【0011】
溶液成長法でもまた、Si融液に対するCの溶解度が非常に低いため、SiC単結晶の成長速度が遅い。そこで、SiC単結晶の成長速度を早めるために、Si融液を2000℃以上に加熱して、Cの溶解度を高めようとした場合、高Si分圧下でSiの蒸発を抑えるために複雑かつ大掛かりな装置が必要となり、製造が難易化し、かつ製造コストが増加して問題となる。また、特許文献1の溶液成長法でも、SiC単結晶の成長速度を大幅に向上させるまでに至っていない。
【0012】
さらに、昇華法、CVD法、および溶液成長法のいずれにおいても、SiC単結晶の成長に従って、融液中のSiおよびCは減少するため、SiC単結晶を長時間安定して成長させることが困難となっている。
【0013】
そこで、特許文献2のように、低温下で炭化水素を含むガスを融液に供給しながらSiC単結晶を成長させるようとした場合、SiC単結晶の成長が進むに従って、融液中のSiが減少する。そのため、SiCの溶媒であるSiの不足に伴って、Cの溶解度が減少するため、融液の組成比は初期状態から結晶の成長に従って変化することとなる。このような場合、金属炭化物、金属−Si−C系化合物などが初晶として析出するため、SiC単結晶の成長が阻害されて、SiC単結晶の成長速度が遅れ、問題となる。
【0014】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶を、高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることのできるSiC単結晶製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
課題を解決するために、本発明のSiC単結晶製造方法は、SiC単結晶基板とSiを含む原料を加熱かつ融解して得られた融液層とを接触させることによって、前記基板上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶製造方法において、大気圧下または加圧下で、前記基板との接触部とは反対側の前記融液層の表面側から、Siを含む分子とCを含む分子とを含むプラズマを供給し、かつ前記融液層の基板との接触部における温度を前記融液層の表面における温度より低くすることを含む。
【0016】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記Siを含む原料がSiと一種類以上の金属元素とを含む。
【0017】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記プラズマがCを含む気体とSiを含む気体とを分解することによって得られる。
【0018】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記Cを含む気体が炭化水素である。
【0019】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記Siを含む気体が、シラン、ジシラン、およびSiHCl4−x(x=1、2、3)のいずれかである。
【0020】
さらに、本発明のSiC結晶は、上述のSiC単結晶製造方法を用いて製造される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明のSiC単結晶製造方法は、SiC単結晶基板とSiを含む原料を加熱かつ融解して得られた融液層とを接触させることによって、前記基板上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶製造方法において、大気圧下または加圧下で、前記基板との接触部とは反対側の前記融液層の表面側から、Siを含む分子とCを含む分子とを含むプラズマを供給し、かつ前記融液層の基板との接触部における温度を前記融液層の表面における温度より低くすることを含む。
そのため、前記プラズマによって前記融液層の表面側に供給されるSiおよびCは、イオン、ラジカルなどの化学的に活性な状態で前記融液層に供給され、さらに、前記融液層の表面側から供給される前記プラズマの加熱効果によって、前記融液層の温度が、前記融液層の表面から前記融液層の基板との接触部に向かって低下して、前記融液層に温度勾配が生じることとなる。その結果、前記融液層の表面における原料の溶け込みが促進され、さらに前記融液層の基板との接触部側におけるSiおよびCの過飽和が促進される。従って、SiC単結晶の成長が進んでSiおよびCが減少した場合にも、SiおよびCが前記プラズマから効率良く供給されて、長時間安定してSiC単結晶を成長させることができる。また、前記融液の組成比が初期状態から結晶の成長に従って変化し難くなり、金属炭化物、金属−Si−C系化合物などが初晶として析出し難くなるので、SiC単結晶の成長が阻害されず、高いSiC単結晶の成長速度を維持することができる。よって、前記基板と前記融液層とを接触させるとともに、前記基板上で成長する低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶について、高い成長速度で、かつ長時間安定した成長を実現できる。
【0022】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記Siを含む原料がSiと一種類以上の金属元素とを含むので、金属元素が触媒となって、前記融液中のCの溶解度を高めることができ、その結果、iCの溶解量の温度依存性を高くすることができる。よって、低温下で多くのSiC単結晶を成長させることができ、SiC単結晶の成長速度を高くすることができる。
【0023】
本発明のSiC単結晶製造方法では、前記プラズマがCを含む気体とSiを含む気体とを分解することによって得られる。また、前記Cを含む気体が炭化水素であると好ましい。前記Siを含む気体が、シラン、ジシラン、およびSiHCl4−x(x=1、2、3)のいずれかである。そのため、さらに効率的に、低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶を、高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることができる。
【0024】
本発明のSiC結晶は、上述のSiC単結晶製造方法を用いて製造される。
そのため、上述のように、良質なSiC単結晶を高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることができる製造方法によって、前記SiC結晶が製造できるので、高い製造効率で、かつ低い格子欠陥密度で良質なSiC結晶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態におけるSiC単結晶製造装置の一例を、模式的に示した縦断面図である。
【図2】(a)図1のSiC単結晶製造装置のるつぼを拡大して示した図である。(b)SiC単結晶基板と融液層との間に成長層が形成された場合における図2(a)のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態におけるSiC単結晶製造装置およびSiC単結晶製造方法と、当該SiC単結晶製造方法を用いて製造するSiC結晶とについて以下に説明する。
図1を参照して、本発明の実施形態におけるSiC単結晶製造装置(以下、「製造装置」という)1の一例を説明する。製造装置1は、図1に仮想線で示す圧力調節室2を備え、圧力調節室2の内部には雰囲気ガスが充填可能に構成され、圧力調節室2の内部は加圧可能に構成されている。この圧力調節室2の内部には、黒鉛製のるつぼ3が配置されており、るつぼ3の下方には、るつぼ3の底部3aの温度を調節可能とするようにヒーター4が設けられている。さらに、圧力調節室2の内部には、プラズマ供給手段5が配置されており、プラズマ供給手段5は、るつぼ3の開口部3bに挿入されて配置されている。
【0027】
プラズマ供給手段5は、るつぼ3の底部3aに対して略垂直方向に延びる針状の陰極6を備えている。陰極6の先端部6aは、製造装置1の下方を向いており、尖った形状に形成されている。一方で、プラズマ供給手段5は、るつぼ3の底部3aに対して略垂直方向に延びる筒状の陽極7を備えている。筒状の陽極7の周壁部7a外周は、るつぼ3の開口部3bに対応して形成され、陽極7の周壁部7a内には水冷手段8が設けられている。また、陽極7の上端および下端には、それぞれ上側開口部7bおよび下側開口部7cが設けられており、上側開口部7bと下側開口部7cとの間には空間7dが形成されている。
【0028】
陰極6は、陽極7の上側開口部7bから挿入されており、陰極6の先端部6aが陽極7の空間7d内に配置されている。このような陰極6の先端部6aに対応して、空間7dの下端部は先細り形状となっている。また、陽極7の周壁部7aの上端には絶縁体9が配置されており、陰極6の中間部には、略円板状の陰極取付部10が設けられており、この陰極取付部10が、陽極7の周壁部7a上端に配置された絶縁体9上に載置されている。陰極6と陽極7とは、直流電源11を介して電気的に接続されており、この直流電源11によって、陰極6と陽極7との間に直流電力が印加可能となっている。
【0029】
陰極取付部10には、るつぼ3の底部3aに対して垂直方向に延びるとともに陽極7の空間7dと連通する第1のガス供給通路12が設けられている。陽極7の周壁部7aには、るつぼ3の底部3aに対して水平方向に延びるとともに陽極7の空間7dと連通する第2のガス供給通路13および第3のガス供給通路14が設けられている。
【0030】
このような製造装置1にて、るつぼ3の底部3aには、種結晶となるSiC単結晶基板(以下、「基板」という)15が載置可能に構成され、るつぼ3の底部3aと基板15との接触部とは反対側の基板15の表面15a上には、融液層16が形成可能に構成されている。また、製造装置1は、陽極7の下側開口部7cからるつぼ3の底部3aに向かってプラズマ17を供給可能とするように構成されている。このプラズマ17を生成するためのキャリアガス18は、第1のガス供給通路12から陽極7の空間7d内に供給可能に構成され、Siを含む気体19は、第2のガス供給通路13から陽極7の空間7d内に供給可能に構成され、Cを含む気体20は、第3のガス供給通路14から陽極7の空間7d内に供給可能に構成されている。
【0031】
ここで、図1、図2(a)、および図2(b)を参照しながら、本発明のSiC単結晶製造方法について説明する。
るつぼ3の底部3aに種結晶となる基板15を載置し、さらに基板15の表面15a上にSiおよび1種類以上の金属元素から成る原料を載置する。その後、圧力調節室2内に雰囲気ガスを充填し、圧力調節室2内を加圧するとともに、ヒーター4によって、るつぼ3内を加熱する。当該加熱によって、Siおよび1種類以上の金属元素から成る原料が溶解し、融液層16が形成される。
【0032】
次に、第1のガス供給通路12から陽極7の空間7dにキャリアガス18を供給し、直流電源11により陰極6と陽極7との間に直流電力を印加して、プラズマを生成する。さらに、第2のガス供給通路13から陽極7の空間7dにSiを含む気体19を供給し、かつ第3のガス供給通路14から陽極7の空間7dにCを含む気体20を供給する。その結果、Siを含む気体19およびCを含む気体20がプラズマと反応して分解されることよって、Siを含む分子とCを含む分子とを含むプラズマ17が生成され、このプラズマ17は陽極7の下側開口部7cから放出される。
【0033】
図2(a)、および図2(b)を参照すると、陽極7の下側開口部7cから放出されたプラズマ17は、融液層16の基板15との接触部16aとは反対側に位置する融液層16の表面16bに供給されることによって、融液層16の表面16bに、CおよびSiがイオン、ラジカルなどの活性した状態で供給される。さらに、プラズマ17の加熱効果によって、融液層16の表面16bから融液層16の接触部16aに向かって温度が低下して、融液層16に温度勾配が生じる。すなわち、融液層16の接触部16aの温度は、融液層16の表面16bの温度より低くなり、その結果、融液層16の表面16bにおけるCおよびSiの溶け込みが促進される。なお、この構成では、融液層16の接触部16a側がヒーター4によって加熱され、融液層16の表面16b側がプラズマ17によって加熱される。プラズマ17による加熱温度は、ヒーター4による加熱温度より高くなるので、融液層16の表面16bの温度を、融液層16の接触部16aの温度より高くし易くなっている。
【0034】
このとき、融液層16の表面16bから融液層16の接触部16aに向かってSiおよびCの濃度が低下して、融液層16にはCおよびSiの濃度勾配が生じる。これによって、CおよびSiは、融液層16の表面16bから融液層16の接触部16aに向かって矢印Bで示すように拡散する。
【0035】
CおよびSiの拡散の流れについては、融液層16の厚さをdとし、融液層16の表面16b側におけるCおよびSiの濃度をCdとし、融液層16の接触部16a側におけるCおよびSiの濃度をCoとした場合、当該流れの流速Jは、以下の(式1)により算出される。
J=−D(Cd−Co)/d [mol/m・s] (D:拡散定数)・・・(式1)
【0036】
このような拡散の流れによって、基板15の表面15aにCおよびSiが供給され、融液層16と接触する基板15の表面15a上でSiC単結晶が成長して、成長層21が形成される。このような製造方法によって、SiC単結晶またはSiC結晶が製造されることとなる。
【0037】
ここで、本発明の実施形態におけるSiC単結晶の製造装置1および製造方法について、さらなる好ましい形態の一例を説明するが、本発明のSiC単結晶の製造装置1および製造方法は、これに限定されない。
圧力調節室2内の雰囲気ガスは、Ar、He、Ne(ネオン)などの希ガスから成る不活性ガスであるとよく、雰囲気ガスには2種類以上の希ガスが含まれていてもよい。
ヒーター4により加熱した場合のるつぼ3内の温度は、2000℃以下であるとよく、特に、1500℃〜1700℃であると好ましい。
基板15は、4H−SiC単結晶基板であると特に好ましいが、その他のSiC単結晶基板であってもよい。例えば、基板15を、6H−SiC単結晶基板、3C−SiC単結晶基板、15R−SiC単結晶基板などとしてもよい。
融液層16の原料は、SiおよびTiから成る原料であると特に好ましいが、Siおよび1種類以上の金属元素から成る原料であれば、その他の原料であってもよい。金属元素としては、特に、遷移金属、希土類元素などが好ましく、具体的には、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Ti、Sc(スカンジウム)、Dy(ジスプロシウム)、Er(エルビウム)、Ce(セリウム)、Al(アルミニウム)などが好ましい。
融液層16は薄く形成されているとよく、例えば、融液層16の厚さが100μm以下であると好ましい。CおよびSiの基板15への供給速度が高くなり、SiC単結晶の成長速度が向上することとなる。
プラズマ17を生成するキャリアガス18は、H(水素)、N(窒素)、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)などの希ガス、またはこれらの混合気体であるとよい。
Siを含む気体19は、シラン類であるとよく、特に、シラン、ジシラン、およびSiHCl4−x(x=1、2、3)のいずれかであると好ましい。
Cを含む気体20は、炭化水素であるとよく、例えば、炭化水素は、メタン、プロパン、ブタン、ペンタンなどであるとよい。
【0038】
以上のように本発明の実施形態によれば、プラズマ17によって融液層16の表面16bに供給されるSiおよびCは、イオン、ラジカルなどの化学的に活性な状態で融液層16に供給され、さらに、融液層16の表面16b側から供給されるプラズマ17の加熱効果によって、融液層16の温度が、融液層16の表面16bから融液層16の接触部16aに向かって低下して、融液層16に温度勾配が生じることとなる。その結果、融液層16の表面16bにおける原料の溶け込みが促進され、さらに融液層16の接触部16a側におけるSiおよびCの過飽和が促進される。従って、SiC単結晶の成長が進んでSiおよびCが減少した場合にも、SiおよびCがプラズマ17から効率良く供給されて、長時間安定してSiC単結晶を成長させることができる。また、融液の組成比が初期状態から結晶の成長に従って変化し難くなり、金属炭化物、金属−Si−C系化合物などが初晶として析出し難くなるので、SiC単結晶の成長が阻害されず、高いSiC単結晶の成長速度を維持することができる。よって、基板15と融液層16とを接触させるとともに、基板15上で成長する低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶について、高い成長速度で、かつ長時間安定した成長を実現できる。
【0039】
本発明の実施形態によれば、融液層16を形成するためのSiを含む原料が、Siと一種類以上の金属元素とを含むので、金属元素が触媒となって、融液中のCの溶解度を高めることができ、その結果、SiCの溶解量の温度依存性を高くすることができる。よって、低温下で多くのSiC単結晶を成長させることができ、SiC単結晶の成長速度を高くすることができる。
【0040】
本発明の実施形態によれば、プラズマ17が、Siを含む気体19とCを含む気体20とを分解することによって得られる。また、Siを含む気体19が、シラン、ジシラン、およびSiHCl4−x(x=1、2、3)のいずれかであると好ましい。Cを含む気体20が炭化水素であると好ましい。このような構成によって、さらに効率的に、低い格子欠陥密度で良質なSiC単結晶を、高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることができる。
【0041】
本発明の実施形態におけるSiC単結晶製造方法を用いて、SiC結晶が製造可能である。そのため、本発明の実施形態のように、良質なSiC単結晶を高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることができる製造方法によって、SiC結晶が製造できるので、高い製造効率で、かつ低い格子欠陥密度で良質なSiC結晶を提供できる。
【0042】
ここまで本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0043】
例えば、本発明の実施形態の第1変形例として、るつぼ3およびプラズマ供給手段5が大気圧下に置かれた状態で、本発明のSiC単結晶製造方法が実施されてもよい。本発明の実施形態と同様の効果が得られる。
【0044】
本発明の実施形態の第2変形例として、Cを含む分子とSiを含む分子とを含むプラズマ17の生成方式について、Siを含む気体およびCを含む気体を分解可能なプラズマの生成方法であれば、直流放電以外の方式、例えば、交流放電、高周波放電、パルス放電、ECRプラズマなどの方式が用いられてもよい。本発明の実施形態と同様の効果が得られる。
【0045】
本発明の実施形態の第3変形例として、Siを含む気体19とCを含む気体20とが、1つのガス供給通路から陽極7の空間7dに供給されてもよく、また、3つ以上のガス供給通路から陽極7の空間7dにそれぞれ供給されてもよい。本発明の実施形態と同様の効果が得られる。
【0046】
[実施例]
本発明の実施例について説明する。実施例では、本発明の実施形態の製造装置1および製造方法を用いて、SiC単結晶を製造する。種結晶となる基板15は、4H−SiC単結晶基板とし、昇華法により作成する。基板15の形状は、幅10mm、奥行き10mm、厚さ0.35mmとする。融液層16を形成するための原料の組成比は、Si0.7Ti0.15Ni0.15とする。圧力調節室2内にはArガスを充填し、圧力調節室2内の圧力を1MPaとする。直流電源11によって陰極6と陽極7との電極間に印加する直流電力は、1.5kWとする。プラズマ17を生成するキャリアガス18をArガスとし、このArガスを第1のガス供給通路12から陽極7の空間7dに3slm供給して、アルゴンプラズマジェットを生成する。Siを含む気体19をメタンガスとし、このメタンガスを第2のガス供給通路13から陽極7の空間7dに200sccm供給する。Cを含む気体20をシランガスとし、このシランガスを第3のガス供給通路14から陽極7の空間7dに500sccm供給する。このような条件の下、5時間かけてSiC単結晶を成長させる。
【0047】
実施例の結果、得られた結晶に対してラマンスペクトル測定を実施したところ、この結晶が種結晶である基板15と同様に4H−SiCとなっていることが確認できた。5時間かけて基板15上で成長した結晶の厚さは15mmであり、結晶の成長速度が約300μm/hrとなり、十分な成長速度を達成できた。また、得られた結晶をスライスし、スライスされた結晶の表面を光学研磨した後に、光学研磨した結晶に対して500℃の溶融KOH溶液中でエッチングを行い、この結晶のエッチピットを顕微鏡により観察した。その結果、結晶のEPD(Etch Pit Density、エッチピット密度)が、5000個/cmであることが確認できた。よって、良質なSiC単結晶を、高い成長速度で、かつ長時間安定して成長させることのできることが確認できた。
【符号の説明】
【0048】
1 SiC単結晶製造装置(製造装置)
2 圧力調節室
3 るつぼ
3a 底部
4 ヒーター
5 プラズマ供給手段
6 陰極
7 陽極
11 直流電源
12 第1のガス供給通路
13 第2のガス供給通路
14 第3のガス供給通路
15 基板
15a 表面
16 融液層
16a 接触部
16b 表面
17 プラズマ
18 キャリアガス
19 Siを含む気体
20 Cを含む気体

B 矢印
d 融液層の厚さ
Cd 融液層の表面側の濃度
Co 融液層の接触部側の濃度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板とSiを含む原料を加熱かつ融解して得られた融液層とを接触させることによって、前記基板上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶製造方法において、
大気圧下または加圧下で、前記基板との接触部とは反対側の前記融液層の表面側から、Siを含む分子とCを含む分子とを含むプラズマを供給し、かつ前記融液層の基板との接触部における温度を前記融液層の表面における温度より低くすることを含むSiC単結晶製造方法。
【請求項2】
前記Siを含む原料がSiと一種類以上の金属元素とを含む、請求項1に記載のSiC単結晶製造方法。
【請求項3】
前記プラズマがCを含む気体とSiを含む気体とを分解することによって得られる、請求項1または2に記載のSiC単結晶製造方法。
【請求項4】
前記Cを含む気体が炭化水素である、請求項3に記載のSiC単結晶製造方法。
【請求項5】
前記Siを含む気体が、シラン、ジシラン、およびSiHCl4−x(x=1、2、3)のいずれかである、請求項4に記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載されたSiC単結晶製造方法を用いて製造されるSiC結晶。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73915(P2011−73915A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226715(P2009−226715)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】