説明

TDC回路

【課題】検出可能範囲の拡大と分解能の向上とを両立可能なTDC回路を提供する。
【解決手段】2n個の遅延量の異なる反転遅延素子を直列接続して形成されたループをそれぞれ含む第1の遅延回路および第2の遅延回路に、第1パルス信号駆動回路および第2のパルス信号駆動回路により、第1の遅延回路および第2の遅延回路にそれぞれ検出対象エッジとリセットエッジを有するパルス信号伝搬させる構成を持つバーニアディレイに、第1の遅延回路の反転遅延素子のいずれかと第2の遅延回路の反転遅延素子のいずれかに対して、伝搬されるリセットエッジの入力に対応する論理反転を選択的に遮断する操作をそれぞれ行う遮断回路と、第1の遅延回路および第2の遅延回路に含まれる遮断対象の反転遅延素子に対して、伝搬された検出対象エッジの入力に応じて反転した論理をリセットする操作をそれぞれ行うリセット回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パルス信号を用いて、時間差を量子化してデジタルデータに変換するTDC(Time to Digital Converter)回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置において、これまでアナログ素子を用いて構成されてきたRF回路をデジタル化することが検討されている。その一例として、PLL(Phase Locked Loop)回路に対応する、ADPLL(All Digital phase Locked Loop)回路が提案されている。
【0003】
TDC回路は、ADPLL回路において、2つのクロックの位相差を検出し、この位相差に相当するデジタル値を生成する役割を果たす。そして、ADPLL回路を実現する上で、TDC回路の分解能を向上する技術が課題の一つとなっている。
【0004】
TDC回路は、例えば、位相差検出対象のクロック信号を直列接続された複数の遅延素子に入力し、これらの遅延素子の出力を基準クロックに同期してラッチするように構成される(特許文献1参照)。
【0005】
また、位相検出対象のクロック信号が入力される一連の遅延素子を含む第1の系列とは別に、同数の別の遅延素子を直列に接続した遅延素子を含む第2の系列を備えた構成も提案されている(特許文献2参照)。この構成では、第2の系列に基準クロックを入力し、各遅延素子の出力信号に同期して、第1の系列に含まれる対応する遅延素子の出力がラッチされる。
【0006】
更に、パルス信号の伝搬が連続して起きるように、奇数個のインバータをループ状に接続した遅延回路を有するTDC回路も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−076886号公報
【特許文献2】特開2007−110370号公報
【特許文献3】特表2005−521059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に示された構成のTDC回路の分解能は、直列接続された遅延素子それぞれの遅延量に制限される。一方、特許文献2に開示された構成のTDCの分解能は、第1の系列に含まれる遅延素子の遅延量と第2の系列に含まれる遅延素子の遅延量との差に相当する。したがって、二つの系列に含まれる遅延素子の遅延量の差を小さくすることにより、分解能を向上することができる。
【0009】
しかしながら、いずれの構成でも、TDC回路で検出可能な位相差の最大値は、直列接続された遅延素子全体による遅延量によって制限される。したがって、検出可能な位相差の最大値を大きくするためには、多数の遅延素子を直列に接続した構成が必要となり、回路規模が増大してしまう。
【0010】
これに対して、特許文献3に開示されたTDC回路は、遅延回路がループ状に接続されているので、回路規模を増大させずに、検出可能な位相差の最大値を大きくすることが可能である。しかしながら、このようなループ状の遅延回路を備えたTDCでは、検出可能な位相差の範囲を拡大することが可能である反面、分解能を向上することが難しかった。
【0011】
本件開示の装置は、検出可能範囲の拡大と分解能の向上とを両立可能なTDC回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的は、以下に開示するTDC回路によって達成することができる。
【0013】
一つの観点によるTDC回路は、2n個の第1の反転遅延素子を直列接続して形成されたループを含む第1の遅延回路と、第1の反転遅延素子とは遅延時間が異なる第2の反転遅延素子を2n個、直列接続して形成されたループを含む第2の遅延回路と、第1の遅延回路に含まれる第1の反転遅延素子それぞれの出力論理値を、第1の反転遅延素子に対応する第2の反転遅延素子の出力信号に同期してラッチするラッチ回路と、時間差検出の対象となる入力信号の論理反転のタイミングを示す検出対象エッジと当該検出対象エッジに対応して反転した論理をリセットする第1リセットエッジとを持つパルス信号を発生し、第1の遅延回路のループにおいて伝搬させる第1パルス信号駆動回路と、入力信号とは別の基準信号の入力に応じて、入力信号との時間差検出の基準となるタイミングを示す基準エッジと当該基準エッジに対応して反転した論理をリセットする第2リセットエッジとを持つパルス信号を発生し、第2の遅延回路のループにおいて伝搬させる第2パルス信号駆動回路と、第1の遅延回路に含まれる第1の反転遅延素子のいずれかに対して、伝搬される第1リセットエッジの入力に対応する論理反転を選択的に遮断する操作を行う第1の遮断回路と、第1の遮断回路による遮断対象の第1の反転遅延素子に対して、伝搬された検出対象エッジの入力に応じて反転した論理をリセットする操作を行う第1のリセット回路と、第2の遅延回路に含まれる第2の反転遅延素子のいずれかに対して、伝搬される第2リセットエッジの入力に対応する論理反転を選択的に遮断する操作を行う第2の遮断回路と、第2の遮断回路による遮断対象の第2の反転遅延素子に対して、伝搬された基準エッジの入力に応じて反転した論理をリセットする操作を行う第2のリセット回路と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本件開示のTDC回路によれば、検出可能範囲の拡大と分解能の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】TDC回路の一実施形態を示す図である。
【図2】バーニアディレイ型のTDCの構成例を示す図である。
【図3】遅延量のばらつきを説明する図である。
【図4】安定状態の発生を説明するタイミング図である。
【図5】反転遅延素子の一実施形態を示す図である。
【図6】遮断回路およびリセット回路の動作を説明するタイミング図である。
【図7】第2の遅延回路の別実施形態を示す図である。
【図8】ADPLL回路の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1に、TDC回路の一実施形態を示す。
【0018】
図1に示したTDC回路は、第1の遅延回路101と第2の遅延回路102とを備えたバーニアディレイ型のTDC回路に、それぞれリセット回路111,112および遮断回路113、114を備えて構成される。第1の遅延回路101および第2の遅延回路102は、いずれも、偶数個の反転遅延素子(例えばインバータ)をループ状に接続した構成を含んでいる。リセット回路111は、第1のリセット回路に相当し、遮断回路113は、第1の遮断回路に相当する。同様に、リセット回路112は、第2のリセット回路に相当し、遮断回路114は、第2の遮断回路に相当する。
【0019】
図1に示したTDC回路の説明に先立って、バーニアディレイ型のTDC回路について説明する。
【0020】
図2に、バーニアディレイ型のTDC回路の構成例を示す。なお、図2に示した構成要素のうち、図1に示した構成要素と同等のものについては、同一の符号を付して示す。
【0021】
図1,2に示した第1の遅延回路101および第2の遅延回路102は、それぞれ2n個(nは自然数)の反転遅延素子であるインバータをループ状に接続した構成を含む。なお、図1、図2に示した例では、第1の遅延回路101は、ループ状に接続された8個のインバータ(INV)11〜INV18を含んでいる。また、第2の遅延回路102は、同数のINV21〜INV28がループ状に接続された構成を含んでいる。また、第1の遅延回路101に含まれる各インバータ(INV)11〜INV18の遅延時間dは、第2の遅延回路102に含まれる各インバータ(INV)21〜INV28の遅延時間dよりも小さくなるように選択することができる。
【0022】
また、図1、2に示したラッチ回路105は、第1の遅延回路101および第2の遅延回路102に備えられた8個のインバータに対応して、同数のラッチを備えている。これらのラッチは、第2の遅延回路102に含まれる各インバータの出力の反転に同期して、第1の遅延回路102に含まれる各インバータの出力の論理値を保持する。そして、これらのラッチの出力は、位相差算出制御部108による位相差算出処理に供される。
【0023】
上述した第1の遅延回路101に含まれるINV11〜INV18の出力論理は、TDC回路による計測を開始するのに先立って、位相差算出制御部108により、初期値が設定される。例えば、位相差算出制御部108は、制御信号INITによって偶数段目のインバータをリセットすることにより、これらのインバータに初期値として論理「H」を設定することができる。これに応じて、奇数段目のインバータの出力は、論理「L」に設定される。同様にして、第2の遅延回路102に含まれるINV21〜INV28にも初期値が設定される。
【0024】
また、図1、2に示した第1の遅延回路101は、入力信号の入力に応じてパルスを生成するパルス信号駆動回路103を備えている。このパルス信号駆動回路103は、第1のパルス信号駆動回路に相当する。図1、2に示した例では、フリップフロップとインバータとナンドゲートとを含むパルス信号駆動回路103により、5段目のインバータ(INV15)を入力信号の立ち上がりに応じてリセットして、このINV15の出力を強制的に立ち上げる。そして、このパルス信号駆動回路103は、1段目のINV11と4段目のINV15との出力信号を利用して、上述したINV15の出力を初期値と同じ論理「L」に戻す操作を行う。これにより、ループ状に接続された8個のインバータによる遅延時間dの総和8×dを1周期とし、デューティ比0.5のパルス信号が生成される。
【0025】
このようにして生成されたパルス信号は、INV11〜INV18を含むループを循環する。そして、このパルス信号がINV11〜INV18を含むループを循環した回数が、カウンタ106によって計数される。
【0026】
第2の遅延回路102も、上述したパルス信号駆動回路103と同様の構成を含むパルス信号駆動回路104を備えている。このパルス信号駆動回路104は、第2のパルス信号駆動回路に相当する。図1、2の例では、このパルス信号駆動回路104は、第2の遅延回路102に含まれるループ状に接続されたインバータのうち5段目のINV25を操作する。なお、パルス信号駆動回路104には、上述した入力信号の代わりに基準信号が入力され、INV25のリセット操作に用いられる。そして、このパルス信号駆動回路104により、基準信号の入力に応じて、ループ状に接続された8個のインバータによる遅延時間dの総和8×dを1周期とし、デューティー比1/2のパルス信号が生成される。
【0027】
このようにして生成されたパルス信号は、同様に、INV21〜INV28を含むループを循環する。そして、このパルス信号がINV21〜INV28を含むループを循環した回数が、カウンタ107によって計数される。
【0028】
位相差算出制御部108は、上述したラッチ回路105の出力およびカウンタ106,107の計数値に基づいて、入力信号と基準信号との位相差の計測結果を示す値REVを算出する。また、位相差算出制御部108は、計測結果が収束したタイミングを示す制御信号EOCを出力する。
【0029】
なお、バーニアディレイ型のTDC回路による位相差算出処理の詳細については、本出願人による特願2009−802886「TDC回路及びADPLL回路」を参照されたい。
【0030】
このように構成されたバーニアディレイ型のTDC回路では、回路規模を抑制しつつ、入力信号と基準信号との位相差の検出可能範囲の拡大と分解能の向上との両立を図ることができる。また、第1の遅延回路101、第2の遅延回路102においてループ状に接続したインバータの数を偶数個としたことにより、ラッチ回路105に備えられる各ラッチのメタステーブル状態を回避することができる。
【0031】
ところで、インバータへの入力信号の論理変化がインバータの出力の論理変化に反映されるまでの遅延時間は、生成される論理変化が論理「L」から論理「H」への立ち上がりであるか、逆の立下りであるかによって異なる場合がある。
【0032】
そして、このような遅延時間のばらつきを持つ偶数個のインバータを接続したループに、上述したようにして生成されたパルス信号を循環させる構成では、パルス信号を循環させているうちにパルス波形が消失してしまう可能性がある。つまり、上述したように構成されたバーニアディレイ型のTDC回路では、インバータを接続したループが安定状態となるおそれがある。
【0033】
次に、複数個のインバータをループ状に接続した構成を有するバーニアディレイ型のTDC回路において、インバータを接続したループが安定状態となるメカニズムについて説明する。なお、以下の説明では、パルス信号駆動回路103,104によって生成されたパルス信号において、入力信号あるいは基準信号の入力タイミングでの論理反転に対応するエッジを検出対象エッジと称する。そして、このパルス信号において、検出対象エッジで反転した論理値を初期値に戻す方向の論理反転に対応するエッジをリセットエッジと称する。
【0034】
図3に、遅延量のばらつきを説明する図を示す。また、図4に、安定状態の発生を説明するタイミング図を示す。なお、以下では、基準信号が入力信号に先立って入力される第2の遅延回路102の動作を例として説明する。
【0035】
図3に示した例では、図1,2に示した第2の遅延回路102に含まれる偶数段目のINV22、INV24、INV26、INV28では、立ち上がり遅延時間が立ち下がり遅延時間dよりも差分Δだけ短い。そして、奇数段目のINV21、INV23、INV25、INV27では、逆に、立ち下がり遅延時間が立ち上がり遅延時間dよりも差分Δだけ短い。
【0036】
そして、偶数個のインバータをループ状に接続させた構成では、パルス信号を循環させる過程において、図3に示したような遅延時間のばらつきが、パルス信号の2つのエッジの伝播時間にそれぞれ蓄積されていく。
【0037】
例えば、図4において、時刻Tに対応して示したINV21の立ち下りエッジは、偶数段目のINV22、INV24、INV26、INV28では立ち上がりエッジとして伝搬される。一方、奇数段目のINV23、INV25、INV27では立ち下がりエッジとして伝搬される。
【0038】
つまり、このINV21の立ち下りエッジは、各段のインバータによって短い方の遅延時間で伝搬されていくので、上述した差分Δがインバータの段数分にわたって蓄積されていく。このため、このINV21の立ち下りエッジがループを一周するのに要する時間は、遅延時間dの8倍よりも短い8(d−Δ)となる。
【0039】
一方、図4において、時刻Tに対応して示したINV21の立ち上がりエッジは、偶数段目のINV22、INV24、INV26、INV28では立ち下がりエッジとして伝搬される。逆に、奇数段目のINV23、INV25、INV27では立ち上がりエッジとして伝搬される。このため、このINV21の立ち上がりエッジがループを一周するのに要する時間は、遅延時間dのちょうど8倍の8dとなる。
【0040】
上述したINV21の立ち下りエッジおよび立ち上がりエッジは、パルス信号駆動回路104によって生成されたパルス信号の検出対象エッジあるいはリセットエッジに対応している。つまり、図3に示したような遅延時間のばらつきは、検出対象エッジがループを伝搬する周期とリセットエッジがループを伝搬する周期とに差を生じさせる。このため、図4に示したように、パルス信号がループを循環するごとに、パルス信号のデューティー比が徐々に変化していく。
【0041】
例えば、図4において時刻T1に対応して示したINV21の立ち下りエッジから始まる1周期に注目すると、INV21の出力が論理「H」である期間4d−8Δは、INV21の出力が論理「L」である期間4dに比べて短くなっている。そして、図4において時刻Tに対応して示したINV21の立ち下がりエッジから始まる1周期に注目すると、INV21の出力が論理「H」である期間は更に短くなって4d−16Δとなる。その一方、INV21の出力が論理「L」である期間は4d+8Δとなり、パルス信号のデューティーが更に変化していることがわかる。
【0042】
図3、図4に示した例では、パルス信号がループを一周するごとに、INV21の出力が論理「H」である期間が8Δずつ短くなっている。そして、この短縮が蓄積していき、INV21の出力が論理「H」である期間が0となったときに、8段のインバータを接続したループは安定状態となる。例えば、遅延時間dおよびばらつきΔをそれぞれ100psおよび0.25psとすると、パルス信号がループを1610周したときに、二つのエッジが重なり、パルス信号が消失してしまう。
【0043】
したがって、以上で説明したようなパルス信号の消失が発生するまでの範囲が、偶数段のインバータをループ状に接続したバーニアディレイ型のTDC回路による位相差の検出可能範囲となる。上述した例では、第1の遅延回路101に含まれる各インバータの遅延時間dを90psとすると、基準信号と入力信号との位相差が、160.1nsまで範囲が検出可能となる。
【0044】
なお、図3、図4に示した例は、個々のインバータの遅延時間が、検出対象エッジが伝搬する周期とリセットエッジが伝搬する周期との差を増大させるようにばらついた極端な例である。故に、各インバータの遅延時間のばらつきが、検出対象エッジが伝搬する周期とリセットエッジが伝搬する周期との差を相殺するようにインバータ素子を選択することにより、検出可能範囲を実用上問題のない程度にまで延長することができる。例えば、上述した特願2009−802886「TDC回路及びADPLL回路」では、ループ状に接続したインバータを擬似差動とすることにより、検出対象エッジが伝搬する周期とリセットエッジが伝搬する周期との差の縮小が図られている。
【0045】
とはいえ、個々のインバータの遅延時間のばらつきを完全に相殺することは難しい。このため、図2に示したように構成されたバーニアディレイ型のTDC回路では、位相差の検出可能範囲が、安定状態が発生するまでの範囲に限られてしまうことが課題となっていた。
(実施形態1)
次に、図1に示したリセット回路111,112および遮断回路113,114により、以上で説明したような安定状態の発生を回避する方法について説明する。
【0046】
図1に示したリセット回路111は、第1の遅延回路101に含まれる1段目のインバータINV11の出力を用いて、6段目のインバータINV16をリセットする。同様に、リセット回路112は、第2の遅延回路102に含まれる1段目のインバータINV21の出力を用いて、6段目のインバータINV26をリセットする。図1に示した例では、インバータINV16が、第3の反転遅延素子に相当し、他のインバータは、第1の反転遅延素子に相当する。
【0047】
また、図1に示した遮断回路113は、第1の遅延回路101に含まれる7段目のインバータINV17の出力を用いて、6段目のインバータINV16への入力信号を遮断する操作を行う。同様に、遮断回路114は、第2の遅延回路102に含まれる7段目のインバータINV27の出力を用いて、6段目のインバータINV26への入力信号を遮断する操作を行う。図1に示した例では、インバータINV26が、第4の反転遅延素子に相当し、他のインバータは、第2の反転遅延素子に相当する。
【0048】
このような第3の反転遅延素子および第4の反転遅延素子は、リセット機能を持つ相補入出力型のインバータのリセット機能部を変形することで実現することができる。
【0049】
図5に、反転遅延素子の一実施形態を示す。図5(a)は、第3の反転遅延素子および第4の反転遅延素子の実施形態の一例である。また、図5(b)に、第1の反転遅延素子および第2の反転遅延素子の構成例を示す。なお、図5(b)に示したインバータの詳細な動作については、上述した特願2009−802886「TDC回路及びADPLL回路」を参照されたい。
【0050】
図5(a),(b)を比べれば分かるように、図5(a)に示したインバータでは、相補型入力IN,INxを受ける入力側の回路の動作を制御する遮断信号SHT、SHTxと、出力側の回路の動作を制御するリセット信号RST、RSTxとが分離されている。
【0051】
そして、遮断信号SHTxとして論理「L」を、相補関係にある遮断信号SHTとして論理「H」を入力することにより、このインバータにおいて、入力端子IN,INxと出力端子OUT,OUTxとが遮断される。
【0052】
一方、リセット信号RSTxとして論理「L」を、相補関係にあるリセット信号RSTとして論理「H」を入力することにより、このインバータの出力OUT,OUTxは、それぞれ論理「H」と論理「L」とにリセットされる。
【0053】
このように、図5(a)に示したインバータでは、出力論理をリセットする出力リセット部と入力論理と出力論理とを分離する入力遮断部とを、相補的な遮断信号SHT,SHTxと同じく相補的なリセット信号RST,RSTxに応じて独立に動作させることが可能となっている。なお、図5(a)に示したインバータを第3の反転遅延素子として用いられる場合に、リセット信号RST,RSTxが入力される2つのトランジスタは、第1出力リセット部に相当する。一方、遮断信号SHT,SHTxが入力される4つのトランジスタは、第1入力遮断部に相当する。同様に、図5(a)に示したインバータを第4の反転遅延素子として用いられる場合に、リセット信号RST,RSTxが入力される2つのトランジスタは、第2出力リセット部に相当する。一方、遮断信号SHT,SHTxが入力される4つのトランジスタは、第2入力遮断部に相当する。
【0054】
なお、リセット信号RST,RSTxに応じて実行されるリセット操作のタイミングは、入力端子IN,INxと出力端子OUT,OUTxとの間が遮断されている期間内であることが望ましい。
【0055】
また、図1に示した第1の遅延回路101に含まれるインバータおよび第2の遅延回路102に含まれるインバータの出力は相補性である。したがって、これらのインバータの出力をそのまま遮断信号SHT,SHTxおよびリセット信号RST,RSTxとして利用することができる。
【0056】
このように構成された第1の遅延回路101では、ループを循環するパルス信号のリセットエッジは、リセット回路111が6段目のインバータINV16をリセットすることによって一周ごとに新たに生成される。このとき、遮断回路113は、リセット回路111による操作が正常に為されるように、前段のINV15からリセットエッジが伝搬してくるタイミングの前後でインバータINV16の入力を遮断する。
【0057】
同様に、リセット回路112および遮断回路114を備える第2の遅延回路101では、ループを循環するパルス信号のリセットエッジは、6段目のインバータINV26に対してリセット操作を行うことによって一周ごとに新たに生成される。
【0058】
図6に、遮断回路およびリセット回路の動作を説明するタイミング図を示す。以下では、第2の遅延回路102に備えられた6段目のINV26の出力に注目して説明する。
【0059】
このINV26は偶数段目であるので、初期値は論理「H」であり、立ち下がりエッジが検出対象エッジでリセットエッジは立ち上がりエッジである。なお、図6において、検出対象エッジを符号「S」を付した矢印で示し、リセットエッジを符号「R」を付した矢印で示した。
【0060】
図6において、時刻Tに対応して示したINV26の出力の検出対象エッジSは、細い実線の矢印で示したように、ループ状に接続されたインバータの格段によって順次に伝搬される。このようにしてループを一周した検出対象エッジは、時刻Tにおいて再びINV26に到達する。そして、この検出対象エッジが時刻T10においてINV27に伝搬され、INV27の出力論理が反転したときに、図1に示した遮断回路113により、このINV27の出力を用いて、INV26を遮断状態にする操作が行われる。
【0061】
例えば、遮断回路113は、INV27の出力OUTxを遮断信号SHTxとしてINV26に入力することで、このINV26を遮断状態とする操作を実現することができる。この遮断信号SHTxは、遮断制御入力に相当する。なお、図6において、この遮断操作を符号(1)を付した太い破線の矢印で示した。
【0062】
一方、上述した検出対象エッジが更に伝搬していき、時刻T12においてINV21の出力論理が反転したときに、図1に示したリセット回路114により、このINV21の出力を用いて、INV26をリセットする操作が行われる。
【0063】
例えば、リセット回路114は、INV21の出力OUTxをリセット信号RSTxとしてINV26に入力することで、このINV26をリセットする操作を実現することができる。このリセット信号RSTxは、リセット制御入力に相当する。なお、図6において、このリセット操作を符号(2)を付した太い破線の矢印で示した。
【0064】
このように、INV26が遮断状態となっている期間に、上述したようにして、リセット回路114により、リセット信号をINV26に入力することにより、リセット操作を正常に動作させることができる。このリセット操作に応じてINV26の出力論理が反転するタイミングは、時刻Tに対応して示した検出対象エッジの伝搬によりINV21の出力論理が反転するタイミングで決定される。つまり、図1に示した第2の遅延回路102では、リセットエッジはループを循環することなく、INV26に対するリセット操作によって、一周ごとに新たに生成される。なお、リセットエッジがループ状に接続された各段のインバータを伝搬していく様子を、図6において、細い破線の矢印で示した。
【0065】
上述したリセット操作に応じて新たなリセットエッジが生成されるタイミングに、前段のINV25から前回に生成されたリセットエッジが到達するタイミングは反映されない。したがって、図1に示したように、リセット回路112と遮断回路114を備えて構成された第2の遅延回路102では、偶数個のインバータを接続したループにおける安定状態の発生を回避することができる。
【0066】
同様に、図1に示したように、リセット回路111と遮断回路113を備えて構成された第1の遅延回路101においても、偶数個のインバータを接続したループにおける安定状態の発生を回避することができる。
【0067】
なお、図6に示したように、リセット操作によって生成されたリセットエッジが伝搬していき、時刻T13においてINV27に到達し、その出力論理を反転させる。そして、この論理反転のタイミングで、遮断回路114がINV26に入力する遮断信号SHTxの論理も反転する。これに応じて、INV26に対する遮断操作が解除され、遮断期間が終了する。なお、図6において、遮断操作の解除を符号(3)を付した太い破線の矢印で示した。
【0068】
そして、このリセットエッジが更に伝搬していき、時刻T15において、INV21に到達し、その出力論理を反転させる。そして、この論理反転のタイミングで、リセット回路112がINV26に入力するリセット信号RSTxの論理も反転する。これに応じて、INV26に対するリセット操作が解除され、リセット期間が終了する。なお、図6において、リセット操作の解除を符号(4)を付した太い破線の矢印で示した。
【0069】
なお、第1の遅延回路101において、第3の反転遅延素子は、パルス信号駆動回路103による操作を受けるINV15以外であれば、いずれのインバータの位置にも配置することができる。そして、リセット回路111は、第3の反転遅延素子から複数段離れたインバータの出力を利用して、第3の反転遅延素子に対するリセット操作を行うことができる。また、遮断回路113は、リセット回路111によって利用されるインバータと第3の反転遅延素子との間に位置するインバータの出力を利用して、第3の反転遅延素子に対する遮断操作を行うことができる。
【0070】
また、リセット回路111が出力を利用するインバータは、ループを循環している検出対象エッジが第3の反転遅延素子に到達する前に、図6に示したようなリセット期間が終了するように選択することができる。例えば、リセット回路111が出力を利用するインバータと第3の反転遅延素子との間に挟まれるインバータの段数を、ループに接続されたインバータの数2nの半数以下とすることで、上述した条件を満たすことができる。
(実施形態2)
図7に、第2の遅延回路の別実施形態を示す。なお、図7に示した構成要素のうち、図1に示した構成要素と同等のものについては、同一の符号を付して示し、その説明は省略する。
【0071】
図7に示した第2の遅延回路102では、リセット回路112は、第2段のINV22の出力OUTをリセット信号RSTxとしてINV26に入力する回路を備えている。また、遮断回路114は、第8段のINV28の出力OUTを遮断信号SHTxとしてINV26に入力する回路を備えている。
【0072】
図7に示した例では、第2の遅延回路102において、第3の反転遅延素子に対応するINV26とINV22との間にループ接続されたインバータの段数の半数にあたる4段のインバータが挟まれている。したがって、この第2の遅延回路102に備えられたループでは、循環するパルス信号のデューティ比は0.5となる。
【0073】
なお、図7において、奇数段目のインバータの出力OUT,OUTxは、ラッチ回路105に備えられた対応するラッチのクロック端子CK,CKxにそれぞれ入力されている。一方、偶数段目のインバータの出力OUT,OUTxは、対応するラッチのクロック端子CKx,CKにそれぞれ入力されている。
【0074】
図7に示した第2の遅延回路102と同様に、第1の遅延回路101に備えられるリセット回路111および遮断回路113を構成することも可能である。
【0075】
このように構成された第1の遅延回路101および第2の遅延回路102でも、図1に示した第1の遅延回路101および第2の遅延回路102と同様に、偶数個のインバータを接続したループにおける安定状態の発生を回避することができる。
【0076】
つまり、図1および図7に示したように構成された遅延回路を備えることにより、偶数個のインバータを接続したループを備えたTDC回路における課題を解決し、TDC回路による位相差検出可能範囲の拡大と分解能の向上とを両立することができる。
【0077】
これにより、ADPLL回路において必要とされる精度と検出可能範囲とを兼ね備えたTDC回路を提供することができる。
(実施形態3)
図8に、ADPLL回路の実施形態を示す。
【0078】
図8に示したADPLL回路において、積分器211,212は、それぞれ設定周波数データ(FCW)の積分と出力クロックCLKOUTの積分を行う。積分器212による積分結果は、ラッチ213を介して加算器219に渡され、積分器211による積分結果から差し引かれる。
【0079】
ADPLL回路に入力される基準信号REFは、TDC回路215に設けられたstart端子を介して第2の遅延回路102に入力される。また、ラッチ214は、この基準信号REFを出力クロックCLKOUTに同期してラッチする。このラッチ214の出力は、TDC回路215に設けられたstop端子を介して入力され、第1の遅延回路101への入力信号として用いられる。そして、TDC回路215は、start端子に入力された基準信号とstop端子を介して入力された入力信号との位相差を、上述した2つの積分器211,212による計数単位よりも小さい範囲について検出する。
【0080】
このTDC回路215によって生成された位相差検出結果REVは、クロック生成部(CLKGEN)216,正規化部217および乗算器218によって正規化される。そして、正規化された位相差検出結果は、上述した加算器219に渡され、2つの積分器211,212の差分に加算される。
【0081】
この加算器219の出力は、ループフィルタ(LPF)222を介してデジタル制御発振器(DCO)223に渡され、出力クロックの制御に用いられる。また、ロック検出部(LOCK)221は、加算器219の出力に基づいて、基準信号と出力クロックCLKOUTとの同期の確立を検出する。
【0082】
このように構成されたADPLL回路では、TDC回路215により、基準信号と入力信号との間に、出力信号CLKOUTの1周期に近い位相差がある場合でも確実に位相差を検出することができる。
【0083】
以上に説明したように、図1および図7に示したように構成された遅延回路を備えるTDC回路では、上述した安定状態の発生が回避できる。したがって、ADPLL回路で必要とされる以上に大きな位相差検出可能範囲を実現することができる。
【0084】
故に、図1および図7に示したように構成された遅延回路を備えるTDC回路は、ADPLL回路への適用以外にも、例えば、光の発射時刻と物体からの反射光の入射時刻との差をTDC回路を用いて求め、物体との距離を精密に計測する用途などに適用できる。
【符号の説明】
【0085】
101,401 第1の遅延回路
102,402 第2の遅延回路
103,104 パルス信号駆動回路
105 ラッチ回路
106,107 カウンタ
108 位相差算出制御部
111,112 リセット回路
113,114 遮断回路
211,212 積分器
213,214 ラッチ
215 TDC回路
216 クロック生成部(CLKGEN)
217 正規化部
218 乗算器
219 加算器
221 ロック検出部(LOCK)
222 ループフィルタ(LPF)
223 デジタル制御発振器(DCO)
INV11〜INV18,INV21〜INV28 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2n個の第1の反転遅延素子を直列接続して形成されたループを含む第1の遅延回路と、
前記第1の反転遅延素子とは遅延時間が異なる第2の反転遅延素子を前記2n個、直列接続して形成されたループを含む第2の遅延回路と、
前記第1の遅延回路に含まれる前記第1の反転遅延素子それぞれの出力論理値を、前記第1の反転遅延素子に対応する前記第2の反転遅延素子の出力信号に同期してラッチするラッチ回路と、
時間差検出の対象となる入力信号の論理反転のタイミングを示す検出対象エッジと当該検出対象エッジに対応して反転した論理をリセットする第1リセットエッジとを持つパルス信号を発生し、前記第1の遅延回路の前記ループにおいて伝搬させる第1パルス信号駆動回路と、
前記入力信号とは別の基準信号の入力に応じて、前記入力信号との時間差検出の基準となるタイミングを示す基準エッジと当該基準エッジに対応して反転した論理をリセットする第2リセットエッジとを持つパルス信号を発生し、前記第2の遅延回路の前記ループにおいて伝搬させる第2パルス信号駆動回路と、
前記第1の遅延回路に含まれる前記第1の反転遅延素子のいずれかに対して、前記伝搬される前記第1リセットエッジの入力に対応する論理反転を選択的に遮断する操作を行う第1の遮断回路と、
前記第1の遮断回路による遮断対象の前記第1の反転遅延素子に対して、前記伝搬された前記検出対象エッジの入力に応じて反転した論理をリセットする操作を行う第1のリセット回路と、
前記第2の遅延回路に含まれる前記第2の反転遅延素子のいずれかに対して、前記伝搬される前記第2リセットエッジの入力に対応する論理反転を選択的に遮断する操作を行う第2の遮断回路と、
前記第2の遮断回路による遮断対象の前記第2の反転遅延素子に対して、前記伝搬された前記基準エッジの入力に応じて反転した論理をリセットする操作を行う第2のリセット回路と、
を備えることを特徴とするTDC回路。
【請求項2】
請求項1に記載のTDC回路において、
前記第1の遅延回路は、前記所定数の第1の反転遅延素子のいずれかを、前記第1の反転遅延素子と遅延時間が同等である第3の反転遅延素子に置き換えた構成を含み、
前記第2の遅延回路は、前記所定数の第2の反転遅延素子のいずれかを、前記第2の反転遅延素子と遅延時間が同等である第4の反転遅延素子に置き換えた構成を含み、
前記第3の反転遅延素子は、
遮断制御入力の論理値に応じて、当該第3の反転遅延素子への入力と出力とを切り離す第1入力遮断部と、
リセット制御入力の論理値に応じて、当該第3の反転遅延素子の出力論理をリセットした状態を継続させる第1出力リセット部とを備え、
前記第4の反転遅延素子は、
遮断制御入力の論理値に応じて、当該第4の反転遅延素子への入力と出力とを切り離す第2入力遮断部と、
リセット制御入力の論理値に応じて、当該第4の反転遅延素子の出力論理をリセットした状態を継続させる第2出力リセット部とを備え、
前記第1のリセット回路は、前記第1の遅延回路の前記ループにおいて、前記第3の反転遅延素子から信号の伝搬方向に複数段離れて位置する前記第1の反転遅延素子の出力信号を、前記第3の反転遅延素子に備えられる前記第1出力リセット部のリセット制御入力として入力する回路を有し、
前記第1の遮断回路は、前記第3の反転遅延素子と前記第1のリセット回路で用いられる前記第1の反転遅延素子との間に位置する別の前記第1の反転遅延素子の出力信号を、前記第3の反転遅延素子に備えられる前記第1入力遮断部の遮断制御入力として入力する回路を有し、
前記第2のリセット回路は、前記第2の遅延回路の前記ループにおいて、前記第4の反転遅延素子から信号の伝搬方向に複数段離れて位置する前記第2の反転遅延素子の出力信号を、前記第4の反転遅延素子に備えられる前記第2出力リセット部のリセット制御入力として入力する回路を有し、
前記第2の遮断回路は、前記第4の反転遅延素子と前記第2のリセット回路で用いられる前記第2の反転遅延素子との間に位置する別の前記第2の反転遅延素子の出力信号を、前記第4の反転遅延素子に備えられる前記第2入力遮断部の遮断制御入力として入力する回路を有する、
ことを特徴とするTDC回路。
【請求項3】
請求項2に記載のTDC回路において、
前記第1のリセット回路は、前記第1の遅延回路の前記ループにおいて、前記第3の反転遅延素子とn以下の自然数であるk段離れて位置する前記第1の反転遅延素子の出力信号を用い、
前記第2のリセット回路は、前記第2の遅延回路の前記ループにおいて、前記第4の反転遅延素子とn以下の自然数であるk段離れて位置する前記第2の反転遅延素子の出力信号を用いる、
ことを特徴とするTDC回路。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−259292(P2011−259292A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133032(P2010−133032)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】