説明

X線センサ、X線診断装置および骨密度測定装置

【課題】必要スペースが小さく、X線受光量感度のダイナミックレンジが広いX線センサを提供する。
【解決手段】X線量に応じたスペクトルで発光するカラーシンチレータ2と、カラーシンチレータが発した光を受光し、受光した光のスペクトルに対し、光を複数の色ごとの電気信号に変換する受光素子4を1次元または2次元に配列して構成された半導体素子3と、半導体素子が変換した複数の電気信号を外部へ出力する信号出力部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーシンチレータを用いたX線センサ、そのX線センサを用いたX線診断装置および骨密度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線フィルムに代わり、入射するX線量をシンチレータによって光の発光量に変換し、さらにCCDやCMOSイメージセンサなどにより発光量を電荷量に変換する半導体素子を備えたX線センサが普及しつつある。これにより、フィルムの現像が不要となり、また即座にX線画像を見ることができるようになるなど、その効用は計り知れない。このシンチレータは、入射するX線量に応じた発光強度、すなわち輝度が変化する単光色(たとえば緑色系統など)を発するものである。
【0003】
被照射物がたとえば生体である場合、軟骨などの軟組織部と骨部の硬組織部でX線吸収率が大きく異なる。そのため、上述したようにシンチレータが単光色で発光すると、軟組織部と硬組織部の両方を見る必要がある場合、1回のX線照射の画像ではその両方を精細に見ることはできない。
【0004】
すなわち、まず1回目のX線を照射(撮影)する。その後に、被照射物を透過するX線量を変えるため、X線発生装置の管電圧を切り替えるなどにより被照射物に照射するX線のエネルギを変える。そして、シンチレータをそれに応じた特性のものに変える。その後、2回目の撮影を行う。X線撮影を2回行うことにより、時間がかかると共に、生体に余計なX線を浴びさせてしまう不都合が生じる。
【0005】
そこで、入射X線量に応じて、異なる発光色で発光するカラーシンチレータが提案され、その色帯域ごとの出力を1つにつなぎ合わせる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、そのカラーシンチレータを用いたイメージインテンシファイヤ(以下IIと略す)が提案されている(例えば特許文献2参照)。このIIは、カラーシンチレータに面して曲面を有する受光センサを配し、受光センサで受ける光を電子に変換して小さい面に集め、さらに変換された電子により蛍光を発生させてCCDカメラで撮る構成である。
【0006】
また、X線発生装置の管電圧を変えて異なるエネルギのX線を被照射物に対して別々に照射することにより、X線透過率を求め、X線透過率から骨密度を算出する方法が示されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−202382号公報
【特許文献2】特開2005−106541号公報
【特許文献3】特開2005−87280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、いわゆるIIは、装置が大掛かりとなり、費用がかかることとなり、一般への普及は困難である。
【0008】
また、IIの装置は、シンチレータに対して、被照射物と反対側に電荷を飛ばすために、奥行き方向に広いエリアが必要である。このため、たとえば、歯科用口腔内撮影装置などにおいて、生体の口腔内にX線センサを入れてX線撮影をする必要がある場合には適用できないという問題もある。
【0009】
また、骨密度測定を行う際に、X線照射を2回行う必要があるため、生体には好ましくなく、また、同時に計測していないことから生体が動くことが考えられ、演算結果に多少なりとも誤差が生じることが予想される。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するため、必要スペースが小さく、X線受光量感度のダイナミックレンジが広いX線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のX線センサは、X線量に応じたスペクトルで発光するカラーシンチレータと、前記カラーシンチレータが発した光を受光し、前記受光した光のスペクトルに応じた電気信号に変換する受光素子を1次元または2次元に配列して構成された半導体素子と、前記半導体素子が変換した電気信号を外部へ出力する信号出力部とを備えたことを特徴とする。この構成により、ダイナミックレンジを広く、かつX線量の分解能を小さくすることができる。また、小型化することもできる。
【0012】
また、前記スペクトルは、前記カラーシンチレータが複数の発光側特定波長帯域の光を、受信したX線量に応じた強度で発して形成され、前記受光素子は、前記受光側特定波長帯域の光を透過し、前記受光側特定波長帯域が相異なる複数種のフィルタと、相異なる前記複数種のフィルタごとに対応する複数の光電変換素子とを備え、前記電気信号は、同種のフィルタに対応した光電変換素子ごとに形成される構成にすることもできる。
【0013】
また、前記カラーシンチレータは、前記半導体素子に密着して配置された構成にすることができる。この構成により、カラーシンチレータで変換された光を効率よく受光素子に入射することができる。
【0014】
また、前記カラーシンチレータは、光ファイバを束ねて形成されたファイバオプティカルプレートを介して前記半導体素子と接続された構成にすることもできる。この構成により、この構成により、カラーシンチレータで変換された光を効率よく受光素子に入射することができる。また、ファイバオプティカルプレートを放射状に形成することにより、X線センサの受光面より小さい半導体素子を用いることができる。
【0015】
また、前記半導体素子は、CCDまたはCMOSイメージセンサである構成にすることもできる。
【0016】
また、本発明のX線画像表示装置は、上記記載のX線センサと、光電変換素子からの前記単数種もしくは複数種のフィルタに対応した電気信号に基いて、X線量を示す画像データを生成する画像処理装置と、前記画像データをX線画像として表示する表示部とを備え、前記画像処理装置は、前記X線画像データを、どの1または複数の電気信号に基づいて前記X線画像データを形成するかを切り替えるX線量帯域表示切り替え部を有することを特徴とする。
【0017】
また、前記表示部は、前記X線量を表示濃度を変えて表示する構成にすることもできる。
【0018】
また、前記表示部は、前記X線量をカラー表示する構成にすることもできる。
【0019】
また、本発明のX線診断装置は、X線を発生するX線発生装置と、上記記載のX線画像表示装置とを備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の骨密度測定装置は、前記X線発生装置から照射され、生体の所定部位を透過するX線を受ける上記記載のX線センサと、前記X線センサの前記光電変換素子ごとの信号出力から前記X線量を演算するX線量演算部と、前記X線量演算部で演算したX線量に基づいて、X線が照射された前記生体の所定部位の骨密度を計算する骨密度計算部とを備えたことを特徴とする。この構成により、一度のX線照射により、骨密度を測定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、必要スペースが小さく、X線受光量感度のダイナミックレンジが広いX線センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のX線センサ、X線画像表示装置および骨密度計測装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るX線診断装置の構成を示す図である。X線診断装置は、X線を照射するX線発生装置11aと、X線を受光する半導体センサ1と、半導体センサ1からの信号を処理するX線画像表示装置21と、信号処理された信号をX線量に応じて、画素ごとに表示濃度あるいは色を変えてX線画像を表示する表示部24で構成されている。
【0024】
半導体センサ1は、X線発生装置11aからの照射X線12aがX線被照射物13aを透過したX線14a(透過X線)を受光する。カラーシンチレータ2は、半導体センサ1の表面に配置され、透過X線14aのX線量に応じて赤(R)、緑(G)、青(B)(発光側特定波長帯域)の光を発する既存の物である。半導体素子3は、カラーシンチレータ2に密着し、受光素子4を2次元に配列して構成される。受光素子4は、赤(R)、緑(G)、青(B)(受光側特定波長帯域)の光をそれぞれ透過するフィルタと、それぞれのフィルタに対して設けられた光電変換素子で構成され、カラーシンチレータ2で発せられた光を受光する。信号出力部5は、半導体素子3で受光した信号を、ケーブル7を介して外部に出力する。センサケース6は、シンチレータ2、半導体素子3、および信号出力部5を覆うケースである。
【0025】
A/D変換部22は、X線センサ1からの赤(R)、緑(G)、青(B)のアナログ信号を少なくとも8ビット階調のデジタル信号に変換する。表示帯域切り替え部23は、表示部24で表示するX線画像を入射するX線量に対し、透過X線14aの量を限定した帯域のX線画像のみを表示するか、透過X線14aの量の全範囲におけるX線画像を表示するかを選択する。
【0026】
なお、A/D変換部22でデジタル化された信号を表示部24に表示する方法については、パーソナルコンピュータなどを用いた周知の技術であるので説明を省略する。
【0027】
図2は、本実施の形態に係るX線センサ1の受光面を示す図である。受光素子4を説明するため、シンチレータ2の表示を省略する。受光素子4は、シンチレータ2が発する光の赤色成分を検出する受光素子4R、緑色成分を検出する受光素子4G、および青色成分を検出する受光素子4Bで構成される。X線センサ1に透過X線14aが入射されると、X線強度に応じた各色の信号が、2次元に配置された各受光素子4から順次、信号出力部5へ送られ、ケーブル7を介してX線画像表示装置21へ出力される。
【0028】
図3は、カラーシンチレータ2に入射される透過X線14aの量と各色成分の発光量の特性を示すグラフである。発光特性31はカラーシンチレータ2の赤(R)の発光特性を示し、発光特性32は緑(G)の発光特性を示し、発光特性33は青(B)の発光特性を示す。受光素子4において、透過X線14aの量に対して発光量が変化する領域は、各色成分において連続している。従って、カラーシンチレータ2は、透過X線14aの量と1対1に対応するスペクトルを有する光を発する。
【0029】
例えば、リウマチの診断などX線被照射物13が人体の膝関節である場合、X線吸収率が大きくX線を透過しにくい硬組織部と、X線吸収率が小さくX線を透過しやすい軟組織部を見ることが必要である。このカラーシンチレータ2を用いることで、透過X線14aの量が大きく異なるX線被照射物13aのX線画像を1回のX線照射により、撮影することができる。
【0030】
軟組織部からの透過X線量が、図3の発光特性33が透過X線量に対して変化している領域内となるように、硬組織部からの透過X線量が、発光特性31が変化している領域内となるように、X線発生装置11aの管電圧を適切な値に設定する。そのように設定すると、X線センサ1の撮影可能帯域において、軟組織部から硬組織部まで透過X線量を感知できる。すなわち、X線発生装置11aの管電圧を適切な値に設定することで、軟組織部および硬組織部を1回の撮影で同時に見ることができる。
【0031】
また、表示帯域切り替え部23は、A/D変換された赤(R)、緑(G)、青(B)信号を、例えば赤(R)で示されるX線量帯域のみのX線画像を表示するか、赤(R)、緑(G)、青(B)のすべてで示されるX線量帯域のX線画像を表示するかを選択できる。つまり、特定のX線量帯域のX線画像を表示することができる。これにより、硬組織部の陰影を精細に見たい場合、軟組織部をきめ細かく陰影を見たい場合、硬組織部および軟組織部を含めた全体を見たい場合に自由に設定を切り替えることができる。
【0032】
図4は、軟組織部42と硬組織部43の両方を撮影する例とした人体の膝関節部41のX線画像を示す図である。X線の透過率が高い軟組織部42と、X線の透過率が低い硬組織部43とを1回の撮影で得られる。さらに、表示切り替え部23により、軟組織部42あるいは硬組織部43のみを詳細に表示することができる。
【0033】
次に、シンチレータ2と受光素子4の配置関係について、図5、図6を参照しながら説明する。図5は、シンチレータ2と受光素子4の関係を示す断面図である。シンチレータ2と半導体素子3は密着して配置されている。なお、図5では、説明のため、シンチレータ2と半導体素子3に隙間を設けている。カラーシンチレータ2により、直線性を有する透過X線14aから変換された可視光15は、散乱により光が分散するまでに受光素子4に入射する。従って、カラーシンチレータ2から、受光素子4に入射されるべき光が近隣の受光素子4に入り混じったりすることを極力抑えることができる。
【0034】
これにより、いわゆるボケの少ない解像度の高い画像を得ることができる。さらには、X線センサ1の背面に大きなエリアを必要とすることもない。つまり、X線被照射物13aが例えば口腔内撮影の様に、X線センサ1を口腔内に挿入する必要がある時も、邪魔になることなく有用である。
【0035】
図6は、図5とは、別のシンチレータ2と受光素子4の関係を示す断面図である。カラーシンチレータ2と受光素子4との間に、柱状の光ファイバを束ねたファイバーオプティカルプレート16が設けられている。ファイバーオプティカルプレート16は、画素ごとに、カラーシンチレータ2と受光素子4を接続する。従って、カラーシンチレータ2を半導体素子3上に密着せずに配置する構造に比べ、隣接する画素との信号の混合は少なくなり、分解能を高くすることができる。
【0036】
また、図示しないが、ファイバーオプティカルプレート16を、直線状ではなく、X線が入射する面を大きくし、半導体素子3側の面を小さくするように、放射状に配置することもできる。この構成にすることにより、大きなX線被照射物13aに対しても、小さい半導体素子3でX線画像を得ることができる。
【0037】
次に、以上のような構成のX線診断装置の動作について説明する。まず、X線発生装置11aから所定のエネルギを持ったX線12aを発生させ、X線被照射物13aにX線を照射する。X線発生装置11aにおけるX線発生の詳細な原理、構成については説明を省略するが、X線被照射物13aのX線吸収率および観察したい部分、部位により、操作者がX線を発生させる源となるX線管の管電圧を変更し、照射X線12aのX線のエネルギを変える。なお、本実施の形態においては、X線画像を得ることができる照射X線12aのエネルギ帯域が広いので、その設定に不必要に注意を払う必要はない。
【0038】
X線発生装置11aから所定エネルギ帯域で所定時間、照射X線12aが照射され、照射X線12aがX線被照射物13aを透過した透過X線14aがX線センサ1に入射する。透過X線14aは、X線被照射物13aを構成する物質のX線吸収率とその厚みに応じて、部分ごとに異なる透過X線量となる。さらに、カラーシンチレータ2が透過X線14aの量に応じた色で発光し、それを受光素子4は赤(R)、緑(G)、青(B)ごとに受光し、その強度に応じて電気信号に変換する。変換された電気信号を信号出力部5は、X線画像表示装置21へ電気信号を出力する。
【0039】
次に、A/D変換部22は、信号出力部5からの各電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。さらに、X線画像表示装置21は、デジタル化された各電気信号の透過X線量を濃度表示データに変換する。次に、操作者が表示帯域切り替え部23を操作し、見たい透過X線量帯域のX線画像のみを見るか、全体または2つ以上の帯域のX線画像を同時に見るかを切り替え、該当する濃淡表示データに基づいて、X線画像を表示部24に表示する。ここで表示部24は通常、CRTや液晶モニタであるが、これらに限定するものではない。
【0040】
また、上記で説明したように、カラーシンチレータ2の発光色を忠実に再生すると、透過X線量の帯域ごとで異なる色、すなわち赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の濃淡で同時に異なる色で表示することができる。また、各色が受け持つ透過X線量帯域を透過X線量の大小順に、各色の濃淡出力をつなぎ合わせることで、単色(たとえば、グレースケール)で、透過X線量を表示することができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るX線診断画像は、1回のX線照射により、X線透過率の低い硬組織部と、X線透過率の高い軟組織部を撮影可能である。従って、生体にX線を照射する回数を減らすことができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施の形態におけるX線センサを用いた骨密度測定装置の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る骨密度測定装置は、X線を発生するX線発生装置11bと、X線発生装置11bからのX線を受光するX線センサ1と、X線センサ1が受光したX線の量から骨密度を算出する骨密度計測装置51と、算出結果を表示する表示部54で構成されている。生体13bは、骨密度を計測する対象である。X線センサ1は、第1の実施の形態のX線センサと同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
なお、X線発生装置11bは、所定のエネルギ帯域を有する照射X線12bを発生するものである。そして、X線発生装置11bは、軟組織部および硬組織部で構成される生体13bに照射X線12bを照射させたときに透過する透過X線14bが、軟組織部および硬組織部でのX線吸収量の違いを計測できるエネルギになるように設定されている。
【0044】
ここで上記したように、X線センサ1のカラーシンチレータ2は、X線量の帯域に応じて異なる色帯域で輝度差を生じさせる。これによりX線センサ1は、異なるX線量帯域を示す信号を同時に出力することができる。このことはすなわち、異なるX線エネルギ入力に対する出力を同時に知ることができることと同じである。
【0045】
すなわち、高エネルギのX線の入力に対する特性を、カラーシンチレータ2のX線量の多い色帯域、すなわち青(B)における出力信号とし、低エネルギのX線の入力に対する特性を、カラーシンチレータ2のX線量の少ない色帯域すなわち赤(R)における出力信号とする。
【0046】
なお、本実施の形態のX線センサ1における半導体素子は、CCDを用いてもCMOSを使用してもよい。
【0047】
また、X線センサ1で受光したX線量に関する信号は、骨密度計測装置51に入力され、計測結果を表示部54に表示する。X線量演算部52は、X線センサ1から出力される信号を受光色(受光側特定波長帯域)ごとの信号出力からX線量帯域ごとのX線量を演算する。骨密度計算部53は、X線量演算部52で演算した各X線量帯域のX線量からX線照射された生体13bの所定部位の骨密度を計算する。なお、X線量演算部52および、骨密度計算部53は、パーソナルコンピュータ等で実現されてもよい。
【0048】
以下、本実施の形態における骨密度測定装置の動作について説明する。先ず、X線センサ1を骨密度を測定したい生体13bに対し、X線発生装置11bに正対するように設置する。そして、上記したような所定のエネルギ帯域を有するようにX線発生装置11bの管電圧を所定値に設定する。この状態でX線発生装置11bが生体13bに対して照射X線12bを照射し、生体13bを透過した透過X線14bをX線センサ1が受光する。
【0049】
X線量演算部52は、信号ケーブル7を介してXセンサ1が受光して生成された信号を受け取ってX線量を算出する。この時、X線センサ1からの信号は、各X線量帯域によって異なる色、すなわち赤(R)、緑(G)、青(B)の各色の信号が個別に伝送され、各色での信号を処理することで各X線量帯域におけるX線量を算出する。なお、本実施の形態では前述したようにこのうち赤(R)と青(B)の2つの帯域の信号について取り扱うものとする。
【0050】
ここで、図8に示す通り、X線の透過率は、空間照射後のX線強度61に対して、X線エネルギが高ければ筋肉等の軟組織部透過後のX線強度62は、骨などの硬組織部透過後のX線強度63との比が小さく、X線エネルギが低いほどその比が大きいことが知られている。この特性を利用して2種のエネルギに対する透過強度の変化を測定し、計算処理すれば筋肉などの軟組織部による吸収と、骨などの硬組織部による吸収とを分離することが可能となる。この方法を差分法と言う。そこで、軟組織部による吸収分を除いて、硬組織部による吸収分だけを計算すると顎骨の骨密度を測定することが出来る。以下、骨密度を算出するための計算式と算出するまでのステップについて説明する。
【0051】
一般的にエネルギEのX線の吸収透過の基本式は、物質の質量吸収係数をμ(E)、厚さをt、密度をρとし、照射したX線強度をI0(E)とすると、その物質を透過するX線の強度I(E)は(式1)で示される。
【0052】
I(E)=I0(E)・exp(−μ(E)・t・ρ) ・・・(式1)
【0053】
そして、生体内では骨(硬組織部)は筋肉等(軟組織部)にはさまれているので、生体内を透過するX線の強度は(式2)と表すことができる。
【0054】
I(E)=I0(E)・exp(−μB(E)・tB・ρB−μM(E)・tM・ρM) ・・・(式2)
【0055】
ただし、μB(E)はエネルギEにおける骨の質量吸収係数(cm2/g)、μM(E)はエネルギEにおける筋肉等の質量吸収係数(cm2/g)、tB、tMは骨および筋肉等の厚さ(cm)、ρB、ρMは骨および筋肉等の密度(g/cm3)である。
【0056】
ところで、高エネルギのX線で照射した場合のI(E)及びI0(E)には、高いエネルギ成分と低いエネルギ成分との両方が含まれている。このことからI(E)及びI0(E)をそれぞれIL+H及びI0L+Hと表すこととする。また、低エネルギで照射したときのI(E)及びI0(E)には低いエネルギ成分しか含まれていないことから、それぞれI(E)及びI0(E)をIL及びI0Lと表すこととする。IL+Hは(式3)、I0L+Hは(式4)と表すことができる。
【0057】
L+H=IL+IH ・・・(式3)
0L+H=I0L+I0H ・・・(式4)
【0058】
そして、低エネルギのX線を含む高エネルギのX線を照射したときの信号から、低エネルギのX線で照射したときの信号を差し引くと、高いエネルギ成分の寄与する信号だけを抽出でき、それは(式5)と(式6)で表すことができる。
【0059】
H=IL+H−IL ・・・(式5)
0H=I0L+H−I0L ・・・(式6)
【0060】
それゆえ、生体内を透過するX線の強度を表す上記した(式2)は、高いエネルギ成分により表される(式7)および低いエネルギ成分により表される(式8)となる。
【0061】
L=I0L・exp(−μBL・tB・ρB−μML・tM・ρM) ・・・(式7)
H=I0H・exp(−μBH・tB・ρB−μMH・tM・ρM) ・・・(式8)
【0062】
(式7)および(式8)の両辺の対数を取ることによりそれぞれ(式9)と(式10)となる。
【0063】
ln(IL/I0L)=−μBL・tB・ρB−μML・tM・ρM ・・・(式9)
ln(IH/I0H)=−μBH・tB・ρB−μMH・tM・ρM ・・・(式10)
【0064】
そして、高いエネルギ成分により表される(式10)を変形すると、筋肉等の厚さと筋肉等の密度の積であるtM・ρMは、(式11)となる。
【0065】
M・ρM=(−ln(IH/I0H)−μBH・tB・ρB)/μMH ・・・(式11)
【0066】
この(式11)を上記(式9)に代入して計算すると、骨の厚さと骨の密度の積であるtB・ρBは(式12)となる。
【0067】
B・ρB=(ln(IL/I0L)−ln(IH/I0H)μML/μMH)/(−μBL+μBHμML/μMH) ・・・(式12)
【0068】
そして、μML/μMH=Rm、μBL/μBH=Rb、μBH=mbとすると、この(式12)は、(式13)となる。
【0069】
B・ρB=(ln(IL/I0L)−ln(IH/I0H)Rm)/(Rm−Rb)mb ・・・(式13)
【0070】
この(式13)を用いることで、骨の単位面積あたりの密度tB・ρB(g/cm2)を、求めることができる。
【0071】
ここで、Rmは筋肉等の軟組織部における質量吸収係数(cm2/g)の低エネルギと高エネルギとの比であり、Rbは骨の質量吸収係数(cm2/g)の低エネルギと高エネルギとの比である。またmbは高エネルギでの骨の質量吸収係数(cm2/g)であり、いずれも機器の校正時に容易に求められる機器ごとに異なる定数である。
【0072】
また、IHおよびI0Hは、高エネルギのX線で照射した場合のカラーシンチレータ2の色帯域青(B)で検出した信号レベルから算出したもので、I0Hは生体に入射する前の出力からあらかじめ求められ、IHは生体透過後のX線センサ1から算出して求められる。
【0073】
同様にILおよびI0Lは、低エネルギのX線で照射した場合のカラーシンチレータ2の色帯域赤(R)で検出した信号レベルから算出したもので、I0Lは生体に入射する前の出力からあらかじめ求められ、ILは生体透過後のX線センサから算出して求められる。
【0074】
なお、本実施の形態では、一実施の形態として上記(式1)から(式13)までの演算を行うプログラムを骨密度計算部53において実行することで骨密度を算出するものである。
【0075】
本発明の第1および第2の実施の形態に係るX線センサのシンチレータが発する光(赤(R)、緑(G)、青(B))の発光側特定波長帯域は、受光素子4R、4G、4Bが受光する受光側特定波長帯域と同一であることが好ましい。しかし、両波長帯域がずれていても、演算を行うことにより分離させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のX線診断装置は、小型であり、一度の測定でX線の透過率の大きい部位と小さい部位を詳細に検出することができ、被検体に照射するX線量を減らすことができるという利点を有し、骨密度測定などX線診断において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線診断装置の構成を示す図
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るX線センサのX線入射側から見た平面図
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るカラーシンチレータの透過X線量と各色の発光量の特性を示す図
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るX線センサのカラーシンチレータと受光素子の位置関係を示す図
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るX線センサのカラーシンチレータと受光素子の位置関係を示す図
【図6】人体の膝関節のX線画像を示す図
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る骨密度測定装置の構成を示す構成図
【図8】軟組織および硬組織に対するX線エネルギと透過率の関係を示す図
【符号の説明】
【0078】
1 半導体センサ
2 カラーシンチレータ
3 半導体素子
4 受光素子
5 信号出力部
6 センサケース
7 ケーブル
11a、11b X線発生装置
12a、12b 照射X線
13a X線被照射物
13b 生体
14a、14b 透過X線
15 可視光
16 ファイバーオプティカルプレート
21 X線画像表示装置
22 A/D変換部
23、52 X線量演算部
24、54 表示部
31、32、33 発光特性
41 膝関節部
42 軟組織部
43 骨部
51 骨密度計測装置
53 骨密度計算部
61 空間照射後のX線強度
62 軟組織部透過後のX線強度
63 硬組織部透過後のX線強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線量に応じたスペクトルで発光するカラーシンチレータと、
前記カラーシンチレータが発した光を受光し、前記受光した光のスペクトルに応じた電気信号に変換する受光素子を1次元または2次元に配列して構成された半導体素子と、
前記半導体素子が変換した電気信号を外部へ出力する信号出力部とを備えたことを特徴とするX線センサ。
【請求項2】
前記スペクトルは、前記カラーシンチレータが複数の発光側特定波長帯域の光を、受信したX線量に応じた強度で発して形成され、
前記受光素子は、
前記受光側特定波長帯域の光を透過し、前記受光側特定波長帯域が相異なる複数種のフィルタと、
相異なる前記複数種のフィルタごとに対応する複数の光電変換素子とを備え、
前記電気信号は、同種のフィルタに対応した光電変換素子ごとに形成される請求項1記載のX線センサ。
【請求項3】
前記カラーシンチレータは、前記半導体素子に密着して配置された請求項1または2記載のX線センサ。
【請求項4】
前記カラーシンチレータは、光ファイバを束ねて形成されたファイバオプティカルプレートを介して前記半導体素子と接続された請求項1または2記載のX線センサ。
【請求項5】
前記半導体素子は、CCDまたはCMOSイメージセンサである請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線センサ。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載のX線センサと、
光電変換素子からの前記単数種もしくは複数種のフィルタに対応した電気信号に基いて、X線量を示す画像データを生成する画像処理装置と、
前記画像データをX線画像として表示する表示部とを備え、
前記画像処理装置は、前記X線画像データを、どの1または複数の電気信号に基づいて前記X線画像データを形成するかを切り替えるX線量帯域表示切り替え部を有するX線画像表示装置。
【請求項7】
前記表示部は、前記X線量を表示濃度を変えて表示する請求項6記載のX線画像表示装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記X線量をカラー表示する請求項6記載のX線画像表示装置。
【請求項9】
X線を発生するX線発生装置と、
請求項6〜8のいずれか一項に記載のX線画像表示装置とを備えたX線診断装置。
【請求項10】
X線を発生するX線発生装置と、
前記X線発生装置から照射され、生体の所定部位を透過するX線を受ける請求項2〜5のいずれか一項に記載のX線センサと、
前記X線センサの前記光電変換素子ごとの信号出力から前記X線量を演算するX線量演算部と、
前記X線量演算部で演算したX線量に基づいて、X線が照射された前記生体の所定部位の骨密度を計算する骨密度計算部とを備えた骨密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−159925(P2007−159925A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362096(P2005−362096)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】