説明

ひずみ印加半導体デバイス

多数キャリアが正孔であるトランジスタにおいて、少なくとも1つの狭いバンドギャップの領域または層が、p型にドーピングされるかまたは過剰の正孔を含み、かつ機械的圧縮ひずみを受け、これによって、正孔の移動度がかなり増大し得る。pチャネル量子井戸FETでは、量子井戸のInSb井戸のp型層5(変調ドーピングまたは直接ドーピングされている)が、In1−xAlSb層4と、In1−xAlSb層6との間にあるが、ここで、xは、軽い正孔および重い正孔が、kTをはるかに超える量だけ分離されるような範囲にまで、層5中にひずみを導入するに十分な値である。pnpバイポーラデバイスを含む、本発明の範囲内にあるトランジスタは、相補型論理回路における電子が多数キャリアである従来の等価物と一緒に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭いバンドギャップを持つ半導体領域がひずみを受ける、半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
アンチモン化インジウムInSbなどの狭いバンドギャップを持つ半導体は、電子有効質量が非常に低く、電子移動度が非常に高く、および飽和速度が非常に高いなどの有用な特性を有している。このような特性は、超高速トランジスタの応用分野では潜在的に非常に関心をもたらすものである。特にInSbは、高速で電力消費が非常に低いトランジスタにとっては有望な材料であるが、それは、これらの点でシリコンより良好な特性を有するGaAsと比較しても、低い電場での電子移動度μがGaAsの9倍以上あり、また、飽和速度vsatが5倍以上であるからである。InSbは、また、0.5ミクロンを超える大きい弾道平均自由行程を有すると予測されている。このことは、InSbが、高速低電圧動作に非常に適していることを示唆しており、結果として得られる低電力消費によって、携帯式でデバイス密度の高い応用分野にはInSbは理想的なものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ひずみを半導体に印加することは、特徴を変更させるための方法として確立されていることである。これは、レーザや光検出器などの電気光学デバイスに主として応用されているが、米国特許第5,382,814号では、Alを15%含むAlIn1−xSb層を含むMISFETが開示されている。この層には、広範囲にわたってひずみがかけられるが、その理由は、Al原子の格子への付加により、隣接する材料に対する格子定数が減少するからである。しかしながら、本従来技術によるp(ギャップが広い)p構造においては、AlIn1−xSbの広いギャップ層は、伝導帯中でバリアとして機能し、これによって、電子が、p接触領域からp型の活性領域に移動するのを防止するようになっている。これは、その層内部およびその層に沿ってキャリア移送が発生する層として機能することはなく、また、内部にひずみが存在することは、デバイスの動作によっては不可欠なことではない。
【0004】
ひずみの存在によってトランジスタの特性に有用な影響がある、圧縮ひずみが印加されている領域または層を持つトランジスタを構築することが可能であることが、現在では認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、p型正孔がドーピングされたまたは過剰な正孔を含み、機械的圧縮ひずみを受ける、狭いバンドギャップの領域または層を少なくとも1つ含んでいるトランジスタを提供する。
【0006】
狭いバンドギャップは、1.0eVを超えないことが好ましく、0.75eV以下、さらには0.5eV以下であれば最も好ましい。このような狭いバンドギャップを持つ材料では、バンドに対するひずみの効果は、有用に作用するに十分であろう。
【0007】
機械的圧縮ひずみは、異なった格子定数を持つ少なくとも1つのさらなる層または領域に隣接している、狭いバンドギャップ領域に対して印加されることができる。狭いバンドギャップの層または領域の両側の各々に、少なくとも1つのさらなる層または領域が存在することが好ましい。
【0008】
本発明によるデバイスでは、ひずみ領域中の多数キャリアは、正孔である。一般に、ひずみ領域または層は、キャリア移送の利用を可能とするような領域または層、またはしばしば、主要なキャリアの移送が、たとえば、このような層の内部と層に沿って発生するような領域または層である。
【0009】
本発明は、特に、FET、たとえば、pチャネル型の量子井戸効果FETと、また、バイポーラトランジスタ、たとえば、n−p−nトランジスタに応用されることができる。
【0010】
本発明者らの国際特許出願第PCT/GB03/01148号は、量子井戸の電界効果トランジスタを開示しかつ請求し、量子井戸は、一次伝導チャネルと、一次伝導チャネルのすぐ隣にあって接触している少なくとも1つの二次伝導チャネルとを備え、二次伝導チャネルが、一次伝導チャネルの有効バンドギャップEg(有効値)より大きい有効バンドギャップを有し、有効衝撃イオン化閾値IIT(有効値)と、一次伝導チャネルと二次伝導チャネルとの間の有効伝導バンドオフセットΔEc(有効値)との間の差のモジュラスが、0.5Eg(有効値)を超えない。前記出願は、また、量子井戸の電界効果トランジスタを開示しかつ請求し、量子井戸は、一次伝導チャネルと、一次伝導チャネルのすぐ隣にあって接触している少なくとも1つの二次伝導チャネルとを備え、二次伝導チャネルが、一次伝導チャネルの有効バンドギャップEg(有効値)より大きい有効バンドギャップを有し、有効衝撃イオン化閾値IIT(有効値)と、一次伝導チャネルと二次伝導チャネルとの間の有効伝導バンドオフセットΔEc(有効値)との間の差のモジュラスが、0.4eVを超えない。
【0011】
本発明者らが以前に出願した英国特許出願第2362506号は、抽出(extracting)トランジスタを開示しかつ請求し、(a)この抽出トランジスタが、少なくとも部分的に量子井戸から成る伝導領域を含む電界効果トランジスタであり、(b)トランジスタにバイアスがかかっておらずかつ通常の動作温度にあるときには、量子井戸が、少なくとも部分的に真性伝導レジーム(regime)にあり、(c)抽出トランジスタが、少なくとも1つの接合を含み、この接合は、量子井戸中での真性伝導を減少させ、大部分の電荷キャリアを、不純物飽和レジームにしか対応しない1つのタイプに制限するように、バイアスがかけられることが可能であることを特徴とする。
【0012】
本発明者らの国際特許出願第PCT/GB02/05904号は、バイポーラトランジスタを開示しかつ請求し、このバイポーラトランジスタは、ベース接触を備えるベース領域と、ベース領域から少数キャリアを抽出するように構成されたエミッタ領域およびコレクタ領域とを有する垂直幾何形状と、少数キャリアがベース接触を介してベース領域に進入してくることを防止する構造とを持ち、ベース領域のバンドギャップが、0.5eVを超え、ドーピングレベルが1017cm−3を超える。このタイプの構造では、ベースに圧縮ひずみをかけて、効率的なn−p−nデバイスで必要に応じて軽い正孔を移送させることが可能である。
【0013】
加えて、本発明者らの国際特許出願第PCT/GB01/002284号は、バイポーラトランジスタを開示しかつ請求し、このバイポーラトランジスタは、ベース領域から少数キャリアを抽出するように構成されたエミッタ領域とコレクタ領域と、少数キャリアがベース接触を介してベース領域に進入してくることを防止する構造とを持ち、ベース領域のバンドギャップが、0.5eV未満であり、ベース領域のドーピングレベルが、1017cm−3を超える。
【0014】
本発明は、これらの従来技術による構造には制限されないが、このような量子井戸FETおよびバイポーラトランジスタは、特に、InSbベースであることができる。このような場合、十分により低い格子定数を有する1つ以上のAlIn1−xSb層が存在することによって、強い圧縮性のひずみが、量子井戸またはベース領域にそれぞれ導入される。InSb材料中のひずみ効果は、非常に強く、原理上、軽い正孔および重い正孔のエネルギーが、kTよりはるかに大きい量だけ分割されることを可能にする。InSb(重い正孔より低いエネルギーバンドにある)の中の軽い正孔の移動度は、電子の移動度とほぼ同じである(そして、通常ひずみなしInSbで主に移送する重い正孔の移動度よりはるかに大きい)ので、高性能正孔ベースのデバイスが作成される可能性が生じる。高性能正孔ベースのデバイスが、対応するがより従来式の電子ベースのデバイスと一緒に用いられると、良好な回路性能と静止時の電力消費の低い、非常に高速で低電力相補型の論理回路の設計が可能となる。
【0015】
InSb中ではひずみ効果は大きく、したがって、圧縮ひずみを受ける狭バンドギャップ領域にとって好ましい材料は、InSbである。しかしながら、本発明によるトランジスタでInAsなどの他の材料を同様に用いることも可能である。
【0016】
本発明のさらなる特徴と長所は、読者が向けられる添付の特許請求の範囲を熟読し、また、添付図面を参照している本発明の実施形態に関する以下のより詳細な説明を考慮すれば、明瞭となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1において、キャリアを抽出するための任意に高くn型でドーピングされた背面接触層2が、たとえば、GaAsから成る絶縁性基板1上に直接置かれている。p型ドーパントで変調ドーピングされたまたは直接ドーピングされたInSbから成る層5が、In1−xAlSbから成る層4と層6との間に量子井戸を形成している。使用されるなら、変調ドーピングは、層6と層7との間、または層3と層4との間、あるいはこれらの両方で、ドーパントのシートによって提供される。In1−xAlSbから成るさらなる層3が、層4と背面接触2との間にあり、In1−xAlSbから成る別の層7が、層6の上にある。p型導電チャネルの各端への接続は、それぞれ、p型接触8、9、および上にある金属接触10、11によって提供され、ショットキゲート(または酸化物ベースのゲート)12が、チャネル伝導を制御するために備えられている。
【0018】
層4および層6におけるxの値は、軽い正孔と重い正孔が、kTをはるかに超える量だけ分離される十分なひずみを層5に導入するに十分に高い値である。
【0019】
層の厚さとxとの一般的な値は、次のとおりである。
層2、厚さ0.5μm〜3μm、x=0.15〜0.30
層3、厚さ0.5μm〜0.75μm、x=0.15〜0.30
層4、厚さ3nm〜10nm、x=0.15〜0.30
層5、厚さ5nm〜20nm
層6、厚さ3nm〜10nm、x=0.15〜0.30
層7、厚さ10nm〜20nm、x=0.15〜0.30。
【0020】
図2は、たとえば、図1の一般的構造の量子井戸トランジスタにおけるバンド構造に対する、圧縮ひずみの効果を絵で示すが、面内で重い正孔のバンドと軽い正孔のバンドとが交差しており、しかもこれら2つのバンドが平面に対して直交方向に分離していることに留意されたい。
【0021】
図3に、図1の一般的構造の量子井戸トランジスタの計算された面内サブバンド分散を示すが、井戸の厚さが、5nmの場合(図3aと図3b)および10nmの場合(図3cと図3d)に、InSbの量子井戸が、In0.81Al0.19Sbから成るバリア間にある。プロットは、「重い」正孔と「軽い」正孔が存在する良い証拠を提供する。最初の計算は、1011cm−1から1012cm−1の範囲のシート正孔密度が、電子移動度に匹敵する移動度を有する正孔によって達成可能であり、相補型デバイス回路においてデバイス特徴が良好に整合する可能性が与えられることを示唆している。
【0022】
図4に、ベース領域19が、p型でドーピングされたInSbから成っているn−p−nバイポーラトランジスタを示す。ベースは、また、p層14の上にベース接触金属13を含んでいる。さらなるp層15が、領域19と層14との間にこれらと接触して存在している。エミッタは、n層17上にエミッタ接触金属16を含んでいる。さらなるn層18が、層17とベース領域19との間にこれらと接触して存在している。コレクタは、半絶縁性基板23とn型コレクタ層20との間に、これらと接触して存在しているn層22を含んでいる。層22上にオーム接触金属層21があり、また、層20が、層22とベース領域19との間にこれらと接触して存在している。各層15、18、20、および22は、バンドギャップのより大きい(そして格子定数のより小さい)AlIn1−xSbから成っており、AlIn1−xSbが存在することによって、より狭いバンドギャップのベース層19に対して圧縮ひずみが与えられている。本構造によってベース層20にひずみが与えられることを可能にし、軽い正孔の移送をもたらし、また、電力利得が改善されるようにベースアクセス抵抗を低く、デバイス速度を高くすることが可能となる。
【0023】
層の厚さとxとの一般的な値は、次のとおりである。
層14、厚さ5nm〜20nm
層15、厚さ5nm〜20nm、x=0.15〜0.30
層17、厚さ5nm〜20nm
層18、厚さ5nm〜20nm、x=0.15〜0.30
層19、厚さ5nm〜20nm
層20、厚さ0.3μm〜2μm、x=0.15〜0.30
層22、厚さ0.5nm〜5μm、x=0.15〜0.30。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による量子井戸FETの略式断面図である。
【図2】図1のトランジスタに示されるタイプの量子井戸層への圧縮ひずみの効果を絵で示す図である。
【図3a】図1に示すタイプの量子井戸トランジスタの計算された分散を示す図である。
【図3b】図1に示すタイプの量子井戸トランジスタの計算された分散を示す図である。
【図3c】図1に示すタイプの量子井戸トランジスタの計算された分散を示す図である。
【図3d】図1に示すタイプの量子井戸トランジスタの計算された分散を示す図である。
【図4】本発明によるバイポーラトランジスタの略式断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型にドーピングされているかまたは過剰な正孔を含み、かつ機械的圧縮ひずみを受ける、少なくとも1つの狭いバンドギャップの領域または層を含む、トランジスタ。
【請求項2】
前記狭いバンドギャップの領域または層が、多数キャリアを移送するように構成されている、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記狭いバンドギャップの領域または層が、異なった格子定数を持つ少なくとも1つのさらなる領域または層と接触し、これによって、前記狭いバンドギャップの領域または層が、前記機械的圧縮ひずみを受ける、請求項1または2に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記さらなる層が、少なくとも2つ存在し、すなわち、前記狭いバンドギャップの領域または層の各々の側に1つずつ存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記狭いバンドギャップの領域または層が、InSbまたはInAsを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のトランジスタ。
【請求項6】
トランジスタが、量子井戸FETである、請求項1から5のいずれか一項に記載のトランジスタ。
【請求項7】
量子井戸が、一次伝導チャネルと、一次伝導チャネルのすぐ隣にあって接触している少なくとも1つの二次伝導チャネルとを備え、二次伝導チャネルが、一次伝導チャネルの有効バンドギャップEg(有効値)より大きい有効バンドギャップを有しており、有効衝撃イオン化閾値IIT(有効値)と、一次伝導チャネルと二次伝導チャネルとの間の有効伝導バンドオフセットΔEc(有効値)との間の差のモジュラスが、0.5Eg(有効値)を超えない、請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項8】
量子井戸が、一次導電チャネルと、一次伝導チャネルのすぐ隣にあって接触している少なくとも1つの二次伝導チャネルとを備え、二次伝導チャネルが、一次伝導チャネルの有効バンドギャップEg(有効値)より大きい有効バンドギャップを有しており、有効衝撃イオン化閾値IIT(有効値)と、一次伝導チャネルと二次伝導チャネルとの間の有効伝導バンドオフセットΔEc(有効値)との間の差のモジュラスが、0.4eVを超えない、請求項7に記載のトランジスタ。
【請求項9】
抽出トランジスタの形態であり、(a)抽出トランジスタが、少なくとも部分的に量子井戸から成る伝導領域を含む電界効果トランジスタであり、(b)トランジスタにバイアスがかかっておらずかつ通常の動作温度にあるときに、量子井戸が、少なくとも部分的に真性伝導レジームにあり、(c)抽出トランジスタが、少なくとも1つの接合を含み、該接合は、量子井戸中での真性伝導を減少させ、電荷キャリアの大部分を、不純物飽和レジームにしか対応しない1つのタイプに制限するように、バイアスがかけられることができることを特徴とする、請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項10】
トランジスタが、n−p−nバイポーラトランジスタである、請求項1から5のいずれか一項に記載のトランジスタ。
【請求項11】
ベース接触が備えられたベース領域と、ベース領域から少数キャリアを抽出するように構成されるエミッタ領域およびコレクタ領域とを有する垂直幾何形状と、少数キャリアがベース接触を介してベース領域に進入してくることを防止する構造とを持ち、ベース領域のバンドギャップが、0.5eVを超え、ドーピングレベルが、1017cm−3を超える、請求項10に記載のトランジスタ。
【請求項12】
狭いバンドギャップが、1.0eVを超えない、請求項1から11のいずれか一項に記載のトランジスタ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のトランジスタを含む、相補型論理回路。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載のトランジスタ、または請求項13に記載の相補型論理回路を含む、集積回路。
【請求項15】
添付図面のうちの図1または図4を参照して本明細書に記載される、トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−511915(P2007−511915A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540571(P2006−540571)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004722
【国際公開番号】WO2005/053030
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】