説明

ひび割れ検出方法及び検出装置

【課題】スペックルパターンの明暗模様の時間変化の測定に基づくひび割れの検出方法において、その検出感度を向上する。
【解決手段】検査対象物Mの表面で反射されて位相変調された信号光2と、この検査対象物Mの表面で位相変調されていない参照光3との干渉によってフォトリフラクティブ結晶4中に生じたダイナミックホログラムで参照光3を回折し、この回折した参照光3を複数の検出チャンネル5を備えたマルチチャンネル検出器6で受光する。複数の検出チャンネル5のうち受光強度が最も高い受光強度を検出した検出チャンネル5から、予め決めた順番に相当する受光強度を検出した検出チャンネル5をディスクリミネータ7で弁別し、この弁別された検出チャンネル5の受光強度をマルチプレクサ8で積分してノイズを除去する。このノイズ除去によって位相変調を明確にとらえることができ、深いひび割れを高感度に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、トンネル内壁等のコンクリート構造体等に生じたひび割れを、レーザー光のスペックルパターンの明暗変化によって評価するひび割れ検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内壁等のコンクリート構造体等は、その安全性を維持するために、定期的に構造体中のひび割れの有無の検査(強度検査)が行われる。このひび割れ検査方法の一つとして、コンクリート構造体等の検査対象物の表面に照射したレーザー光の反射光(散乱光)を信号光とし、この信号光のスペックルパターンの明度変化によってその検査を行うようにしたものがある。
【0003】
スペックルパターンとは、図5にその典型例を示すように、レーザー光を物体表面に照射したときの反射光において観察される、明部と暗部とからなる斑点状のレーザー光の明暗模様のことをいう。この明暗模様は、前記物体表面の凹凸によって前記反射光の中で位相差が生じ、この位相の異なる反射光同士が干渉することに起因するものであって、位相の揃ったレーザー光を入射光として用いた際に観察される特有の現象である。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の発明は、金属の溶接部におけるひずみの測定にスペックルパターンを利用している。この測定方法は、前記溶接部の近傍にレーザー光を照射して、スペックルパターンの明暗模様の時間変化を測定することによって、溶接部の凝固過程におけるひずみ量を動的に測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−39308号公報
【0006】
スペックルパターンを物体表面近傍におけるひび割れ有無の評価に適用する場合、コンクリート構造体等の検査対象物の表面にレーザー光を照射するとともに、この検査対象物に打撃を与えて衝撃波を生じさせる。この衝撃波は、前記レーザー光の反射光の位相変調を生じさせ、この位相変調によって、スペックルパターンの明暗模様が時間変化する。また、図6(a)及び(b)に示すように、この衝撃波12は、ひび割れ15があるとそれを迂回して進むため、ひび割れ15がない場合と比較して衝撃波12の伝播が遅延する。このため、ひび割れ15がない場合と比較した、前記明暗模様の時間変化の遅延の有無から、検査対象物M中のひび割れ15の有無を検知することができる。この衝撃波12は、ハンマーで検査対象物Mの表面を打撃したり、炭酸ガスレーザーを照射したりすることによって発生させる(同図中の下向き矢印を参照)ことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スペックルパターンの明暗模様の時間変化を測定することによって、ひび割れ検査を行う場合においては、検査対象物に衝撃波を与える前(信号光が位相変調を受ける前)の受光強度と、衝撃波を与えた後(信号光が位相変調を受けた後)の受光強度との強度差を明確に区別する必要がある。しかしながら、この受光強度は、大気の影響、レーザー光源から発振されるレーザー光強度の変動等、種々の要因によって変動しやすい。この変動は、信号光のノイズ成分となって、位相変調が生じる前後における受光強度の強度差を明確に区別できなくなり、特に、深いひび割れの検出感度が低下する問題がある。
【0008】
そこで、本願発明は、スペックルパターンの明暗模様の時間変化の測定に基づくひび割れの検出方法において、その検出感度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明は、検査対象物の表面にレーザー光を照射しつつ、前記表面に衝撃波を与え、前記レーザー光のうち前記表面で反射され、かつ、前記衝撃波によって位相変調された成分を信号光としてフォトリフラクティブ結晶に入射するとともに、前記レーザー光のうち前記検査対象物の表面で位相変調されていない成分を参照光として前記フォトリフラクティブ結晶に入射して、前記信号光と参照光とを干渉させてダイナミックホログラムを構成し、このダイナミックホログラムで回折された前記参照光を複数の検出チャンネルを備えたマルチチャンネル検出器に入射し、前記複数の検出チャンネルのうち、受光強度が所定範囲内の検出チャンネルのみをディスクリミネータで弁別し、この弁別された前記検出チャンネルの受光強度をマルチプレクサで積分し、この積分された受光強度の時間変化から、前記検査対象物中のひび割れの有無を判断するように、ひび割れ検出方法を構成した。
【0010】
スペックルパターンには明部、暗部、両者の中間の明度の部分がそれぞれ分布し、検査対象物に衝撃波を与えたときの明度変化は各部分で異なる。このように明度変化が異なる部分を区別せずに、視野全体として、あるいは、測定箇所をランダムにピックアップして明度変化を測定すると、各部分における明度変化が混在して衝撃波の影響が不明確になりやすい。そこで、この明度変化が類似する受光強度が所定範囲内の検出チャンネルのみをディスクリミネータで弁別して、これらの検出結果を採用することにより、上記のような明度変化の混在の問題を防止して、ひび割れの高感度検出が可能となる。
【0011】
各検出チャンネルで検出した受光強度は、上述したように種々の要因によって変動しやすく、それがノイズとなって、位相変調前後の信号光の区別がつきにくくなることがある。この場合、深いひび割れに対して検知感度が低下して、ひび割れの見落としにつながる恐れがある。そこで、弁別した検出チャンネルにおける受光強度をマルチプレクサで積分してノイズを平滑化することによって、位相変調前後の信号光を明確に区別し、深いひび割れの検出感度を一層向上することができる。
【0012】
前記構成においては、前記各検出チャンネルで検出した受光強度を高いものから低いものに順番に並べ、そのうち最も高い受光強度を前記所定範囲の上限とする一方で、予め決めた順番に相当する受光強度を前記所定範囲の下限とするのが好ましい。
【0013】
このようにして決めた所定範囲は、スペックルパターンの明部を主に含んでいる。後述する図2に示すように、この明部は、暗部と比較して、衝撃波によって位相変調された際の明度変化が大きいことが実験的に確認されている。そこで、この明部に相当する位置の検出チャンネルの検出結果をディスクリミネータで弁別することで、その明度変化を効率良く検知することができ、ひび割れの検出感度を一層向上することができる。
【0014】
例えば、64の検出チャンネルを備えたマルチチャンネル検出器と、8の入力端子を備えたマルチプレクサを用いる場合、前記64の検出チャンネルのうち、最も受光強度が高い検出チャンネルから8番目に受光強度が高い検出チャンネルまでディスクリミネータで弁別し、弁別した各検出チャンネルにおける受光強度をマルチプレクサに送るようにする。この弁別数は、マルチプレクサの入力端子数を上限として適宜決める(本例の場合、4や6等)のが一般的である。
【0015】
上記のひび割れ検出方法を採用したひび割れ検出装置は、コンクリート構造体等の検査対象物の表面にレーザー光を照射するレーザー光源と、前記表面で反射されて位相変調された信号光及び前記検査対象物の表面で位相変調されていない参照光とを干渉させるフォトリフラクティブ結晶と、このフォトリフラクティブ結晶中で構成されたダイナミックホログラムで回折された参照光を受光する複数の検出チャンネルを備えたマルチチャンネル検出器と、前記複数の検出チャンネルのうち受光強度が所定範囲内の検出チャンネルを弁別するディスクリミネータと、前記ディスクリミネータで弁別された前記検出チャンネルの複数の受光強度を積分するマルチプレクサと、から構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、検査対象物の表面で反射された信号光と参照光を干渉させてダイナミックホログラムを構成し、このダイナミックホログラムで回折された参照光を、複数の検出チャンネルを備えたマルチチャンネル検出器で検出し、この複数の検出チャンネルのうち、受光強度が所定範囲内の検出チャンネルの結果のみを弁別し、その検出チャンネルの受光強度をマルチプレクサで積分してノイズを平滑化した上で、位相変調された信号光を検出するようにした。この方法によると、この位相変調されていない信号光と、位相変調された信号光とを明確に区別できるため、ノイズ除去されていない状態では検知が困難な深いひび割れであっても、高感度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係るひび割れ深さ測定装置を示す装置構成図
【図2】図5に示すスペックルパターンの強度のA−A線に沿う一次元分布を示す模式図
【図3】マルチチャンネル検出器の各検出チャンネルの中で、スペックルパターンの信号光強度が高い検出チャンネルの弁別過程を示す模式図
【図4】信号光の波形を示す図であって、(a)はノイズ除去前、(b)はノイズ除去後
【図5】典型的なスペックルパターンを示す図
【図6】衝撃波の伝播を示す図であって、(a)はひび割れがない場合、(b)はひび割れがある場合
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係るひび割れ深さ測定装置の装置構成図を図1に示す。このひび割れ深さ測定装置は、コンクリート構造体等の検査対象物Mの表面にレーザー光を照射するレーザー光源1と、前記表面で反射されて位相変調された信号光2及び検査対象物Mの表面で位相変調されていない参照光3とを干渉させるフォトリフラクティブ結晶4と、このフォトリフラクティブ結晶4中で構成されたダイナミックホログラムで回折された参照光3aを受光する複数の検出チャンネル5を備えたマルチチャンネル検出器6と、複数の検出チャンネル5のうち受光強度が所定範囲内の検出チャンネル5を弁別するディスクリミネータ7と、このディスクリミネータ7で弁別された検出チャンネル5の複数の受光強度を積分するマルチプレクサ8と、マルチプレクサ8からの出力データを処理するデータ処理装置9(コンピュータ)とを備えている。光路中にはミラー10及びハーフミラー11が設けられ、参照光3がフォトリフラクティブ結晶4に導かれる。
【0019】
このレーザー光源1として、Nd:YVOレーザーが用いられ、その第二高調波(波長532nm)が検査対象物Mに照射される。また、フォトリフラクティブ結晶4としてBiSi12(BSO)結晶が用いられている。マルチチャンネル検出器6は、64の検出チャンネル5を備えている。また、加熱用レーザー(炭酸ガスレーザー)(図示せず)からのレーザー光をこの検査対象物Mの表面に照射し、この照射に伴う局所的な体積膨張によって、検査対象物M内に衝撃波12を発生させている。本構成で用いるマルチチャンネル検出器6、ディスクリミネータ7、マルチプレクサ8は光学測定用として市販されている汎用品をベースとして、信号入力端子の増設等、適宜必要な改良を加えたものである。
【0020】
図5に示すスペックルパターンの、同図中のA−A線に沿う強度の一次元分布を図2に模式的に示す。この強度の一次元分布は、明部13(同図中で矢印を付した範囲)と暗部14のパターンからなり、この発明に係る検出方法においては、各検出チャンネル5で検出した受光強度を高いものから低いものに順番に並べ、そのうち最も高い受光強度を検出した検出チャンネル5から、8番目に高い受光強度を検出した検出チャンネル5までをディスクリミネータ7によって弁別する。図3に示す8×8の碁盤目6aが、マルチチャンネル検出器6の一つ一つの検出チャンネル5に対応し、その中で×印をつけた8箇所が、ディスクリミネータ7で弁別した検出チャンネル5に対応する。
【0021】
弁別された検出チャンネル5の受光強度は、マルチプレクサ8で積分される。この積分によって、図4(a)に示すように受光強度を大きく変動させる原因となっていたノイズが、図4(b)に示すようにそのほとんどが相殺されて平滑化され、位相変調前後の信号を明確にとらえることが可能となる。このため、大気の影響、レーザー光源1から発振されるレーザー光強度の僅かな変動等に起因するノイズの影響をあまり受けることなく、より深いひび割れ15を高感度に検知することができる。
【0022】
このひび割れ測定装置を用いれば、衝撃波12の伝播の遅延時間に基づいて、ひび割れ15の深さを定量的に行うこともできる。この定量評価に際しては、ひび割れ15の深さが既知の試験片を用いた衝撃波12の遅延時間の測定実験に基づいて、衝撃波12の遅延時間と、ひび割れ15の深さとの関係を記録したデータベースを予め用意して、データ処理装置9に格納しておく。そして、このひび割れ測定装置によって測定した遅延時間と、データベースに記録した遅延時間とを突き合わせて、ひび割れ深さの定量評価を行う。
【0023】
この実施形態においては、最も高い受光強度から8番目に高い受光強度を検出した検出チャンネル5をディスクリミネータ7で弁別したが、この強度範囲は適宜変更することができる。例えば最大強度の40〜60%の範囲内(明部13と暗部14の中間の明度の部分)と定めることもできる。このスペックルパターンの明度がサインカーブ的に変化する場合には、衝撃波12による信号光2の微小な位相変化に対して、中間明度の位置(明部13と暗部14の中間位置)の明度変化が大きくなって、その位相変化を一層明確に検知できる場合もあり得るからである。
【0024】
また、この実施形態においては、64の検出チャンネル5を備えたマルチチャンネル検出器6を用いたが、そのチャンネル数は当然これに限定されず、データ処理装置9の処理能力や、ひび割れの検出感度等を考慮して適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 レーザー光源
1a レーザー光
2 信号光
3 参照光
4 フォトリフラクティブ結晶
5 検出チャンネル
6 マルチチャンネル検出器
7 ディスクリミネータ
8 マルチプレクサ
9 データ処理装置
10 ミラー
11 ハーフミラー
12 衝撃波
13 明部
14 暗部
15 ひび割れ
M 検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物(M)の表面にレーザー光(1a)を照射しつつ、前記表面に衝撃波(12)を与え、前記レーザー光(1a)のうち前記表面で反射され、かつ、前記衝撃波(12)によって位相変調された成分を信号光(2)としてフォトリフラクティブ結晶(4)に入射するとともに、前記レーザー光(1a)のうち前記検査対象物(M)の表面で位相変調されていない成分を参照光(3)として前記フォトリフラクティブ結晶(4)に入射して、前記信号光(2)と参照光(3)とを干渉させてダイナミックホログラムを構成し、このダイナミックホログラムで回折された前記参照光(3)を複数の検出チャンネル(5)を備えたマルチチャンネル検出器(6)に入射し、前記複数の検出チャンネル(5)のうち、受光強度が所定範囲内の検出チャンネル(5)のみをディスクリミネータ(7)で弁別し、この弁別された前記検出チャンネル(5)の受光強度をマルチプレクサ(8)で積分し、この積分された信号強度の時間変化から、前記検査対象物(M)中のひび割れの有無を判断するようにしたひび割れ検出方法。
【請求項2】
前記各検出チャンネル(5)で検出した受光強度を高いものから低いものに順番に並べ、そのうち最も高い受光強度を前記所定範囲の上限とする一方で、予め決めた順番に相当する受光強度を前記所定範囲の下限とした請求項1に記載のひび割れ検出方法。
【請求項3】
検査対象物(M)の表面にレーザー光(1a)を照射するレーザー光源(1)と、前記表面で反射されて位相変調された信号光(2)及び前記検査対象物(M)の表面で位相変調されていない参照光(3)とを干渉させるフォトリフラクティブ結晶(4)と、このフォトリフラクティブ結晶(4)中で構成されたダイナミックホログラムで回折された参照光(3)を受光する複数の検出チャンネル(5)を備えたマルチチャンネル検出器(6)と、前記複数の検出チャンネル(5)のうち受光強度が所定範囲内の検出チャンネル(5)を弁別するディスクリミネータ(7)と、前記ディスクリミネータ(7)で弁別された前記検出チャンネル(5)の複数の受光強度を積分するマルチプレクサ(8)と、からなり、請求項1又は2のひび割れ検出方法によってひび割れ検出を行うひび割れ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92497(P2013−92497A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235901(P2011−235901)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(591114803)公益財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】