説明

アクチュエータ

【課題】繰り返しの応力に対して信頼性の高いアクチュエータを提供する。
【解決手段】配線14を備えた可動部9と、この可動部9を捩れ運動または曲げ運動、もしくはその両方で駆動させるための駆動部12と、からなり、配線14は導電性有機高分子としたことを特徴とするアクチュエータである。このように、繰り返しの応力が印加される可動部9に設けた、下部電極、上部電極、配線などを金属でなく導電性有機高分子で形成することにより、マイグレーションが生じることはなく、また可動部の可撓性を高めることができるので、高い信頼性を有するアクチュエータを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種センサや電子部品に用いられるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの小型化を目的としてMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用したセンサやアクチュエータが提案されている。
【0003】
図4にMEMS技術を利用した光走査装置用のアクチュエータの一例を示す。このアクチュエータ1は、光源からの光束を反射するミラー部2と、このミラー部2の対向する両端を、弾性連結部3a,3bを介して両持ちで支持する内ジンバル4と、この内ジンバル4を、弾性連結部5a,5bを介して両持ちで支持する外ジンバル6を有している。この外ジンバル6に静電力、磁力、または圧電効果による周期的な外力を印加することにより、各々の弾性連結部7a,7b,5a,5b,3a,3bが三つの軸i,j,kを中心として一定の中心角度で捻り振動するものである(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−217520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のアクチュエータ1では、外部から周期的な駆動力を印加した際、各ジンバル4,6とミラー部2とを連結する弾性連結部7a,7b,5a,5b,3a,3bに捻りによる繰り返しの応力が印加される。そのため、これら弾性連結部7a,7b,5a,5b,3a,3bにモニタや駆動用の配線を設けると、繰り返しの応力によりマイグレーションが生じやすく、配線が断線して動作不良の原因となる課題があった。
【0006】
そこで本発明は、構造を複雑にすることなく、マイグレーションを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、配線を備えた可動部と、この可動部を捩れ運動または曲げ運動、もしくはその両方で駆動させるための駆動部と、からなり、前記配線は導電性有機高分子としたものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、駆動部により配線部に繰り返しの応力が印加された場合であっても、配線にマイグレーションが発生することがないので、断線の無い信頼性の高いアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態のアクチュエータを説明する正面図
【図2】本実施の形態の別のアクチュエータを説明する斜視図
【図3】本実施の形態の別のアクチュエータを説明する正面図
【図4】従来のアクチュエータを説明する正面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面とともに説明する。
【0011】
(実施の形態1)
図1に本実施の形態におけるアクチュエータの一例を示す。
【0012】
図1は本発明のアクチュエータを電磁駆動方式の光学反射素子に適用した事例である。
【0013】
図1の正面図より本実施の形態のアクチュエータ8は、光源からの光束を反射させるためのミラー部9と、このミラー部9の対向する両端9a、9bを一端で支持するとともに、他端を支持体10の内側面に支持するトーションバー11からなる素子部と、この素子部の周辺部に配置された一対の磁石12で構成されている。なお、上記のミラー部9、トーションバー11、支持体10はシリコンなどを用いて一体で設けられている。
【0014】
また、支持体10には対向する桟に一対の電極パッド13が設けられており、この一方の電極パッド13から一方のトーションバー11、ミラー部9、他方のトーションバー11を介して他方の電極パッド13に接続される配線14が設けられている。ミラー部9における配線14は、ミラー部9の外周部で上下方向、あるいは面内方向に巻回することでコイル15を形成している。本実施の形態のアクチュエータ8は、ミラー部9の駆動に電磁力を利用する。そのため、ミラー部9に設けたコイル15に対し、垂直な磁力線が作用するように磁石12を配置するものである。
【0015】
コイル15に流す電流と、素子の周辺に設けた磁石12による磁界により、ミラー部9の周辺部、特に磁石に隣接した一辺(図1のミラー部における長辺)に垂直方向のローレンツ力が生じることにより、トーションバー11を軸としてミラー部9が一定の中心角で往復回動するものである。
【0016】
このように、ミラー部9に電磁力を利用して周期的な外力を作用させるためには、ミラー部9やトーションバー11などの駆動部に配線14やコイル15を設ける必要がある。しかしながら、特にトーションバー11はミラー部9の往復回動と同期した捩れ運動と、この捩れ運動に起因する応力が集中することとなる。そのため、トーションバー11に設けた配線にはこの応力が集中することによりマイグレーションが生じやすく、最悪の場合、断線してアクチュエータ8が機能しなくなる。そこで、本発明は、ミラー部9、トーションバー11などの可動部に設けた配線14やコイル15を、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンなどの可撓性の高い導電性有機高分子で形成するものである。このように、特に応力が集中しやすいトーションバー11などの配線材料に導電性有機高分子を用いることで、金属配線を用いたときのように応力に起因するマイグレーションが発生することはなく、その結果、断線等による動作不良の無い信頼性の高い光学反射素子を提供することができる。特に、ポリエチレンジオキシチオフェンを用いた場合には、電気伝導度が高い上に、環境安定性も高く、高い信頼性を有する光学反射素子を提供することができる。
【0017】
なお、導電性有機高分子のパターニングについては、金属配線の時と同様に、フォトレジストを用いたフォトエッチングと呼ばれる方法を用いることができ、金属配線と同程度の微細なパターニングが実現可能である。特に、ポリピロールを用いた場合には蒸着法により形成することが可能であり、薄層化できることから、より微細なパターニングが実現可能となる。
【0018】
(実施の形態2)
次に本発明におけるアクチュエータの別の実施の形態について説明する。
【0019】
図2は、本発明におけるアクチュエータを角速度センサに適用した事例である。
【0020】
図2の斜視図より、本実施の形態のアクチュエータ16は二本のアーム部17a,17bを有する音叉形状をしており、角速度を検出する際、二本のアーム部17a,17bをX軸方向に振動させて、このX軸方向に振動させたアーム部17a,17bが回転時に受けるZ軸方向のコリオリ力を角速度として検出するものである。
【0021】
本実施の形態におけるアクチュエータ16は、シリコンなどで形成された可動部18と、この可動部18を支持する支持部19とから構成されている。可動部18は、二本のアーム部17a,17bと、これら二本のアーム部17a,17bを支持する振動遷移部20とを備え、それぞれのアーム部17a,17bの主面には、二本の駆動部21a,21bと、これら二本の駆動部21a,21bに挟まれるように一本の検出部22が設けられている。駆動部21a,21bおよび検出部22は、それぞれアーム部17a,17b側より順に、下部電極、PZTなどの圧電体、上部電極で構成されている。また、各下部電極または上部電極は、配線23を介して振動遷移部20または支持部19に設けた外部電極24に接続されており、これらの外部電極24に交流電圧を印加することで、圧電体に周期的な歪を生じさせることでアーム部17a,17bを駆動する。
【0022】
一本のアーム部17aにおいてその周縁部に一対の駆動部21a,21bが設けられている。これらの一対の駆動部21a,21bに外部電極24から互いに逆位相の電圧を印加することで、一方の駆動部21aにおける圧電体はY軸の正方向に伸び、逆に他方の駆動部21bにおける圧電体はY軸の負方向に収縮する。その結果、一本のアーム部17aはX軸方向に撓むことになる。これらを周期的に繰り返し、さらにそれぞれのアーム部17a,17bが逆位相に撓むようにそれぞれのアーム部17a,17bに設けた一対の駆動部21a,21bに印加する電圧の位相を制御することで、一対のアーム部17a,17bはXY面内で繰り返し振動を生じるものである。
【0023】
このように、一対のアーム部17a,17bがXY面内で繰り返し振動している状態で、Y軸周りに角速度が作用すると、コリオリ力に基づき一対のアーム部17a,17bは互いに逆方向となるようにZ軸方向に撓むこととなる。このコリオリ力によるそれぞれのアーム部17a,17bのZ軸方向の撓みを角速度として検出するものである。すなわち、アーム部17a,17bの撓みにより生じる検出部22に設けた圧電体から生じる電荷を、上部、下部電極を介して外部電極24から取り出して角速度として検出するものである。
【0024】
なお、駆動部21a,21bによりアーム部17a,17bは周期的に振動するが、このアーム部17a,17bの振動は、支持部19に達する前に振動遷移部20で徐々に減衰するものである。
【0025】
上述した繰り返し振動を利用するアクチュエータ16では、アーム部17a,17bや振動遷移部20などの可動部18上に設ける上部電極や配線23に、振動に応じた撓みによる引張りや圧縮の応力が常に印加されることになる。このように繰り返しの応力が印加される場合、上部電極や下部電極、または配線23を金属材料で構成するとマイグレーションが生じやすく、最悪の場合は断線して駆動ができなくなる、あるいは角速度を検出できなくなるなどの動作不良の原因となる。本発明は、これらの上部電極または配線23をポリエチレンジオキシチオフェンなどの可撓性の高い導電性有機高分子で形成するものである。こうすることにより、大きな繰り返しの撓みが生じるアクチュエータであっても、応力に起因するマイグレーションが発生しないため、断線による配線不良が生じることなく、信頼性の高い角速度センサを実現することができる。また、可撓性の高い導電性有機高分子を用いることにより、アーム部の剛性が低下し、Z軸方向の撓みが大きくなることから、センサの感度を高めることができる。
【0026】
また、本実施の形態では、下部電極、上部電極ともに導電性有機高分子材料としたが、下部電極を金属、もしくは導電性無機酸化物としてもよい。導電性有機高分子の分解温度は、金属や圧電体に比べて低いために、アーム部17a,17b上に駆動部21a,21bを形成する工程においてアーム部17a,17bの冷却や圧電体の形成温度など、温度管理を厳しくする必要がある。少なくとも下部電極に金属または導電性無機酸化物とすることで、圧電体の形成条件の制約が緩和され、高い圧電特性を有する駆動部21a,21bを実現することができる。
【0027】
(実施の形態3)
次に本発明におけるアクチュエータの別の実施の形態について説明する。
【0028】
図3は、本発明のアクチュエータを圧電駆動方式の光学反射素子に適用したものである。
【0029】
図3の正面図に示すように、本実施の形態におけるアクチュエータ25は、ミラー部26と、このミラー部26を介して対向し、このミラー部26の端部26a,26bとそれぞれ連結された一対の振動子27と、ミラー部26および一対の振動子27の外周を囲う枠形状の支持体31とを備えている。
【0030】
振動子27は、Y軸方向に平行に伸びた複数の直線部27aと、この直線部27a間を接続する折り返し部27bからなり、直線部27aが同一平面上で折返し部27bを介して連結されたミアンダ形状である。これらミアンダ形状の振動子27とミラー部26とで可動部28を形成している。
【0031】
振動子27を構成する直線部27aには、下側から下部電極、PZT等の圧電体、上部電極とからなる駆動部29を、一本おきに配置している。また、上部電極は、配線30を介して枠形状の支持体31に設けた外部電極32へ接続されており、下部電極は、枠形状の支持体31から一対の振動子27、ミラー部26にわたって形成された共通電極であり、下部電極と配線または上部電極間は、SiO2などの酸化物により電気的に絶縁されている。下部電極の一部は、枠形状の支持体の一部にSiO2を除去して露出させることにより共通外部電極33を形成している。
【0032】
次にアクチュエータ25の動作について説明する。
【0033】
図3に示すように、ミアンダ形状の振動子27における直線部27a上には、一本おきに駆動部29が配置されている。ここで、共通外部電極33と外部電極32間に電圧を印加することにより、圧電体には厚み方向に電界が印加され、長さ方向に撓みが生じる。この撓みは、圧電体の厚み方向に電界を印加した際に生じる長さ方向の伸縮を利用したものである。すなわち、圧電体の下面側は下部電極で拘束されることで、下部電極側と上部電極側で圧電体の伸縮量に差が生じることで、撓みが生じるものであり、一端を固定することで他端が大きく変位することになる。外部電極32と共通外部電極33間に交流電圧を印加することにより、圧電体は一端を固定されて他端が上下に撓み運動するとともに、振動子27の直線部27aに対して一本おきに駆動部29を設けることで、各直線部27aが交互に逆位相で運動することにより各直線部27aの変位量が重畳し、S1軸を中心として振動子27およびミラー部26が一定の中心角で回動するものである。なお、交流電圧の周波数をアクチュエータ25の共振周波数と一致させることで最大の回動量を得ることができる。
【0034】
上記のような一定の中心角で可動部28を回動運動させた場合、振動子27の直線部27aでは撓みによる曲げ応力が、これら直線部27aを接続する折り返し部27bでは捩れの応力が一定の周期で繰り返し印加されることとなる。このように繰り返しの応力が印加される場合、上部電極や下部電極、または配線30を金属材料で構成するとマイグレーションが生じやすく、最悪の場合は断線して駆動ができなくなる、あるいはミラー部26を正確に駆動できなくなるなどの動作不良の原因となる。本発明は、これらの上部電極または配線30をポリエチレンジオキシチオフェンなどの可撓性の高い導電性有機高分子で形成するものである。こうすることにより、繰り返しの大きな曲げや捩れが生じるアクチュエータであっても、応力に起因するマイグレーションが発生しないため、断線による配線不良が生じることなく、信頼性の高い光学反射素子を実現することができる。
【0035】
なお、本実施の形態では、下部電極、上部電極共に同じ導電性有機高分子としたが、例えば下部電極側の分子量を臨界分子量より大きくし、上部電極側の分子量を臨界分子量より小さくすることで、上部電極と比較して下部電極のヤング率や硬さを大きくしてもよい。このような構成とすることで、圧電体の厚み方向に関して、上面側より相対的に下面側の拘束力が高くなるとともに、上面側の可撓性が高くなる。その結果、圧電体の厚み方向に対して上下面の伸縮量の差を大きくすることができるので、低電圧で大変位が得られる光学反射素子を実現することができる。
【0036】
また、本実施の形態では、下部電極、上部電極ともに導電性有機高分子としたが、下部電極を金属、もしくは導電性無機酸化物としてもよい。導電性有機高分子の分解温度は、金属や圧電体に比べて低いために、振動子27上に駆動部29を形成する工程において振動子27の冷却や圧電体の形成温度など、温度管理を厳しくする必要がある。少なくとも下部電極を金属または導電性無機酸化物とすることで、圧電体の形成条件の制約が緩和され、高い圧電特性を有する駆動部29を実現することができる。
【0037】
さらに、下部電極を金属もしくは導電性無機酸化物とすることで、圧電体の下部電極側を上部電極側より強く拘束できることから、圧電体の厚み方向の伸縮量の差を大きくして大きな撓み変位を得ることができる。
【0038】
なお、下部電極に金属を用いる場合は、白金、モリブデン、タングステンなどの高融点かつヤング率の高い材料が望ましい。このような材料を選択することで、上記と同様の効果が得られるとともに、下部電極の応力によるマイグレーションも著しく低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアクチュエータは、繰り返しの応力に対してマイグレーションを低減することができる効果を有し、各種センサや電子部品に有用である。
【符号の説明】
【0040】
8 アクチュエータ
9 ミラー部
9a,9b ミラー部の両端
10 支持体
11 トーションバー
12 磁石
13 電極パッド
14 配線
15 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線を備えた可動部と、
この可動部を捩れ運動または曲げ運動、もしくはその両方で駆動させるための駆動部と、からなり、
前記配線は導電性有機高分子としたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
駆動部は、可動部上の少なくとも一部に、下から順に下部配線、圧電体、上部配線を積層したものであって、
少なくとも前記上部配線を導電性有機高分子としたことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
下部配線を上部配線より硬くしたことを特徴とする請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
下部配線は金属配線とした請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
金属配線は、白金、モリブデン、またはタングステンであることを特徴とした請求項4に記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−243974(P2012−243974A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113162(P2011−113162)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】