説明

アモルファススピンオングラス膜の形成方法

【課題】基板の温度を低温に保ってSOG膜をキュア処理することができ、かつキュア処理時の膜のクラックの発生を低減させることが可能なSOG膜の形成方法を提供する。
【解決手段】シリコン及び/又はシリコン化合物と有機溶媒を含有するスピンオングラス材料を基板に塗布した後に、酸素を主成分とするガスにより形成されたプラズマ中で結晶化が生じない条件下で、前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することによりアモルファススピンオングラス膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)素子などのミクロンメートルオーダーからナノメートルオーダーの微細加工技術を用いた素子の製造技術に関し、特に二層以上の導電性薄膜の間を電気的に絶縁するための層間絶縁膜及び/又は薄膜を二層以上に積層することにより生じた段差を平坦化するために用いられる、スピンオングラス(Spin on glass: SOG)膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子やMEMS素子の微細化に伴い、微細加工技術の構成には多層配線の採用が必須になっている。多層配線を有する素子の層間絶縁膜としては、上層配線と下層配線との間などの配線間の寄生容量を低減する目的から、酸化シリコン(シリカ)系の絶縁膜が主として用いられている。そして、配線層とこのシリカ系の絶縁膜が積層されることにより、層間絶縁膜の表面には大きな段差が形成される。そのように大きな段差が層間絶縁膜に形成される場合には、上層配線のパターニング時のフォトリソグラフィー技術において、フォーカスマージンの不足から精度の良いレジストパターンの形成が困難となり、また、大きな段差のために上層の配線に断線が生じやすくなるので、層間絶縁膜の表面を平坦化するための技術が各種開発されている。
【0003】
平坦化方法の一つとして、有機溶剤に分散させたシリコン化合物を回転塗布法により凹凸のある基板上に膜形成した後、加熱することにより、シリコン化合物を熱分解してシリカとし、平坦な絶縁膜を形成することが行われており、この方法は極めて簡便であるため一般に広く採用されている。以下、このように形成されたシリカ層をスピンオングラス(Spin on glass: SOG)膜と呼ぶ。
【0004】
スピンオングラス(Spin on glass: SOG)膜の形成法は幾つか提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
また、SOGに類似する技術としてプラズマ結晶化技術も知られている(特許文献4参照)が、この技術は非晶質乃至結晶性の低い薄膜を結晶化させるための技術であり、層間絶縁膜としてエッチング処理する必要があることから結晶化させないSOG膜には、適用できない技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−254143号公報
【特許文献2】特許第2758847号公報
【特許文献3】特許第3554686号公報
【特許文献4】特開2008−255373号公報
【0006】
特許文献1に記載された方法(以下、これを「第一の従来例」という)は、基板上にSOG材料をスピンコートした後、120℃程度に加熱したホットプレートで乾燥後、窒素(N)を含む雰囲気中で450℃程度の温度で加熱し、SOG材料中のシリコン化合物を分解することにより行われる。
【0007】
特許文献2に記載された方法(以下、これを「第二の従来例」という)では、基板上にSOG材料をスピンコートした後に、低温でスピンオングラス膜を焼成する工程と、酸素+オゾン+水+ヘリウムの4成分を導入しつつプラズマを発生させて、SOGをプラズマに曝しながら熱処理を施すことによりSOG膜の形成を行う。このときの熱処理温度は250℃〜450℃と記載されている。
【0008】
また、特許文献3に記載された方法(以下、これを「第三の従来例」という)では、基板上にSOG材料をスピンコートした後に、エーテル系物質であるスピンオングラス溶剤を噴射してスピンオングラス膜の表面を再溶解して平滑化した後に、熱処理温度300℃〜500℃を施してSOG膜を形成する。
これらのSOG膜の形成方法をはじめとして、従来法では概ね250℃以上の高温でSOG材を熱分解する必要がある。この様に熱分解する工程のことをキュアと呼んでいる。
【0009】
SOG膜の形成プロセスを半導体素子やMEMS素子などの微細加工プロセスに採用するにあたっての留意点の一つが、プロセス温度である。一般に、SOG膜の膜質は、キュア温度が高温になるほど良好である。例えば、1000℃程度のキュア温度で処理したSOG膜は、シリコン結晶を熱酸化して得られるシリカ膜と遜色ない膜質が得られる。
しかし、半導体素子やMEMS素子の作製プロセスにおいては、下層配線の材料がアルミニウムなどの金属からなる場合、金属の融点が低いことから、高くとも450℃程度の熱処理しか行えないという制限がある。また、ガラス基板や、プラスチック基板に半導体素子やMEMS素子を形成する際には、さらにキュア温度への制限は大きくなる。そのため、SOG膜のキュア温度を低減させることは、SOG膜の応用分野を広げる上で重要な課題となっている。
【0010】
SOG膜の形成プロセスでは、キュア温度に並び、キュアを行う雰囲気も重要な要素である。一般にSOG膜の主成分であるシリコン系化合物はポリシラザン系などの酸素を含まない化合物が用いられることが多い。そのため、半導体素子等において、良好な層間絶縁膜としての性能を有するSOG膜を形成するためには、キュアの際に酸素の供給が必要となる。また、酸素を含んでいても水酸化シリコン系の化合物を用いた場合には、形成されるSOG膜はSiOとなり、酸素供給下でキュアを施した場合のSOG膜と比べ層間絶縁膜としての性能が劣る。
【0011】
しかし、酸素雰囲気中でキュアを行うときには、SOG膜の下層の配線材料(主として金属が用いられる)が酸化されてしまうことが問題となる。我々の行ったフィールドエミッタアレイの作製の際には、フィールドエミッタアレイのエミッタ(金属)とゲート電極の間の絶縁膜にSOG膜を採用したが、SOG膜のキュアを酸素雰囲気中で行うと、エミッタが酸化され導電性が損なわれた。従来の加熱によるSOG膜のキュア法を採用する限り、下層金属膜の酸化を防ぐためには、キュア温度を低減するか、酸素の無い雰囲気でキュアするかのどちらかを選択する必要があるが、それらの条件で良好なSOG膜を形成することは実現できていない。
【0012】
SOG膜の用途は層間絶縁膜であるため、適度に早いエッチングレートが要求される。SOG膜をエッチングして、下層電極膜を露出させコンタクトホールを形成するためである。そのためキュア後のSOG膜はエッチングレートの小さいSiO結晶になってはならず、エッチングレートの大きいアモルファスのSiOになっている必要がある。
【0013】
SOG膜の形成プロセスにおけるもうひとつの留意事項は、SOG膜にクラックを発生させずにキュアを施すことである。SOG膜上にクラックが生じた場合、SOG膜上に堆積する上層電極に断線やフォトリソグラフィー時のパターニング不良が起きるため、クラックの発生は避けなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明は上記した従来技術の問題点を解消して、基板の温度を低温に保ってSOG膜をキュア処理することができ、かつキュア処理時の膜のクラックの発生を低減させることが可能なSOG膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では上記課題を解決するために、次の構成1.〜6.を採用する。
1.シリコン及び/又はシリコン化合物と有機溶媒を含有するスピンオングラス材料を基板に塗布した後に、酸素を主成分とするガスにより形成されたプラズマ中で結晶化が生じない条件下で、前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することを特徴とするアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
2.前記アモルファススピンオングラス膜がアモルファスSiOにより構成されたものであることを特徴とする1.に記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
3.前記シリコン化合物として、ポリシラザン系化合物を使用することを特徴とする1.又は2.に記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
4.前記基板の温度を100℃以下に維持し、投入電力50〜200Wでプラズマを発生させて前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
5.前記基板がシリコン、プラスチック又はガラス基板により構成されたものであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
6.前記1.〜5.のいずれかの形成方法により基板上に形成されたアモルファススピンオングラス膜。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板の温度を低温に保ち、酸素供給下でSOG膜のキュア処理を行うことができるので、従来のSOG膜の形成方法では使用することができなかったプラスチック、シリコン、ガラス等の耐熱性の低い基板を用いて、従来の高温キュア法で製造した膜と同等の性状を有するSOG膜を形成することが可能となる。また、SOG膜のキュア時の膜のクラックの発生の無いSOG膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】参考例1における、キュア時間とSOG膜の屈折率および膜厚の関係を示す図である。
【図2】実施例及び参考例において得られたSOG膜の、紫外−可視光−近赤外領域における屈折率を示す図である。
【図3】実施例及び参考例において得られたSOG膜の、紫外−可視光−近赤外領域における減衰係数を示す図である。
【図4】実施例及び参考例における、プラズマ処理の投入電力と屈折率および膜厚の関係を示す図である。
【図5】実施例及び参考例における、プラズマ処理中の基板温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、シリコン及び/又はシリコン化合物と有機溶媒を含有するスピンオングラス材料を基板に塗布した後に、酸素を主成分とするガスにより形成されたプラズマ中で結晶化が生じない条件下で、前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することによりアモルファススピンオングラス膜を形成する。
SOG膜を形成するシリコン及び/又はシリコン化合物としては特に制限はなく、有機系シリコン化合物及び無機系シリコン化合物のいずれも用いることができる。好ましいシリコン化合物としては、ポリシラザン系化合物が挙げられる。ポリシラザン系化合物としては、例えば日揮触媒化成株式会社製の商品名「SERAMATE-CIP」のような溶媒を混合した市販品を用いることができる。このようなシリコン乃至シリコン化合物を原料とすることにより、アモルファスSiOにより構成されたSOG膜を得ることができる。
【0019】
本発明では、このようなSOG材料を用いて、例えば次のような手順で基板上にアモルファスSOG膜を形成する。
(1)SOG材料をスピンコート法により基板上に塗布する。
(2)得られた膜をホットプレート上で、例えば120℃程度で2分間程度プリベークする。
(3)高周波印加装置内に酸素ガスを導入して、基板温度を100℃以下に維持し、投入電力50〜200Wでプラズマを発生させて、プリベークした膜を高密度化することによってアモルファスSOG膜を形成する。
【0020】
SOG膜を形成する基板としては特に制限はなく、例えば金属やシリコンウェハー等の導電体、各種無機化合物、各種のポリマー等、汎用の基板はいずれも用いることができ、好ましい基板としては、従来のSOG膜の形成方法を適用することが困難な耐熱性の低いシリコン;ガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、アクリル系樹脂等のプラスチックにより構成された基板が挙げられる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
以下の例では、SOG膜を形成する材料として、日揮触媒化成株式会社製の商品名「SERAMATE-CIP」を使用した。主成分はシラザン系の無機ポリマーで、シリコンがペルヒドロポリシラザン「(SiH2NH)n」の分子で含有されており(式中、nは整数を表す)、溶剤としてキシレンが用いられている。この材料は、スピンコート後プリベークしたSOG膜を、120℃に加熱したホットプレート上で3分間のプリベークを施した後、400℃に加熱した湿式酸素雰囲気による30分間の焼成処理により、緻密なシリカのSOG膜を形成するために開発されたものである(以下、この製造会社推奨のSOG膜のキュア条件をメーカー推奨条件という)。以下の例では、この材料を単に「SOG材料」という。
得られたSOG膜の屈折率は、He-Neレーザーを用いた単波長エリプソ装置により測定した。また、減衰係数は赤外域分光エリプソ装置により測定した。また、SOG膜の膜厚はHe-Neレーザーを用いた単波長エリプソ装置により測定した。
【0022】
(参考例1)
本発明のアモルファススピンオングラス膜の形成方法と対比するために、「SOG材料」をスピンコート法によりシリコン基板上に塗布し、大気中に置いたホットプレート上で120℃、2分間のプリベークを行った後、電気炉内においてメーカー推奨条件にて加熱処理を施した。メーカー推奨条件のキュア処理における、処理時間とSOG膜の屈折率の関係を図1の○のプロットに示す。図1の○のプロットからわかるように処理時間の増加とともに屈折率が初期値より減少し、純粋なシリカの屈折率1.45に近くなる。また、処理時間が30分程度で屈折率の変化は無くなり、処理時間は30分で必要十分であることがわかる。
【0023】
次に、このキュア処理を行ったSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における屈折率を測定した結果を図2の(A)の破線(0811-sample-no04-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで1000-1100 (cm-1)付近に見られるピークはシリカ(Si-O-Si)のピークである。この結果からSOG膜が良好なシリカ膜にキュアされていることがわかる。
比較のために図2の(B)の実線(0811-sample-no01-sog-mishori-g-uv-ir)にメーカー推奨条件のキュア処理を行う前のSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における屈折率を示す。このデータで850 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hの伸縮振動、2200 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hのピークである。すなわち、未処理のSOG膜はシリカのピークは見られないことがわかる。
【0024】
次に、上記のキュア処理を行ったSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における減衰係数を測定した結果を図3の(A)の破線(0811-sample-no04-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで1000-1100 (cm-1)付近に見られるピークはシリカ(Si-O-Si)特有のピークである。この結果からSOG膜が良好なシリカ膜にキュアされていることがわかる。
【0025】
(メーカー推奨条件によるキュア:膜厚とクラック)
また、処理時間とSOG膜の膜厚の関係を図1の△のプロットで示す。SOG膜の膜厚は未処理の状態で約5200Åだったものが、処理後においては4000Å以下になった。約25%の膜の収縮が見られる。
上記のメーカー推奨条件のキュア処理におけるSOG膜においてはクラックが発生しやすいことを光学顕微鏡によるSOG膜の表面観察によって確認した。
【0026】
(参考例2:プラズマ結晶化)
次に、本発明の類似の技術として、特許文献4に開示されているプラズマ結晶化技術(以下、プラズマ結晶化技術)に関して説明する。プラズマ結晶化技術では、非晶質膜および結晶性の低い薄膜を、薄膜の温度を150℃以下の低温に保ちつつ、15分以内の時間で結晶化する技術である。プラズマ結晶化技術では本発明で使用したのと同様の容量結合型高周波印加装置を用いている。プラズマ結晶化技術は、投入電力の大きさを大きくするほど結晶化が促進されることを特徴としており、概ね300W以上の電力の投入が必要とされている。
【0027】
本発明とプラズマ結晶化技術の類似点は、特許文献4に記載されているような容量結合型高周波印加装置を用いて処理を行う点であるが、特許文献4に開示されているプラズマ結晶化技術は、非晶質薄膜を結晶化する技術である。これに対して、先に述べたとおり層間絶縁膜となる本発明のSOG膜のキュアは結晶化してはならない処理であるため、本発明が対象とするSOG膜のキュア技術と、プラズマ結晶化技術は全く異なる技術である。
【0028】
特許文献4のプラズマ結晶化技術を本発明のSOG膜のキュアに用いた場合、SOG膜はキュアできないことを、以下に説明する。
参考例1と同様にして、「SOG材料」をスピンコート法によりシリコン基板上に塗布し、ホットプレート上で120℃、2分間のプリベークを行った。その後、プラズマ結晶化処理を施した。プラズマ結晶化処理は、特許文献4に開示されている容量結合型高周波印加装置を用いて行った。印加周波数は13.56MHzとした。プラズマを発生させる気体は酸素を用いた。酸素選択の理由は、使用したSOG膜の場合、メーカー推奨条件にもあるように、良好なSOG膜にキュアするためには酸素を供給することが不可欠だからである。すなわち、最もSOG膜をキュアする条件に似た条件でプラズマ結晶化処理を行った。投入電力として300 W、600 W、1000 Wの三通りを選んだ。投入電力300 W以上を選んだ理由は、特許文献4に開示されたプラズマ結晶化法では、非晶質薄膜の結晶化において300 W以上の投入電力で結晶化する、投入電力を大きくするほど結晶化の効果は大きい、と開示されているためである。処理時間はいずれも10分とした。特許文献4に開示されるプラズマ結晶化法では、10分程度で十分結晶化の有無が確認できているためである。
【0029】
プラズマ結晶化処理を施したSOG膜の屈折率をHe-Neレーザーを用いた単波長エリプソ装置により測定した結果、入電力300 Wの場合1.53、同600 Wの場合1.58、同1000 Wの場合1.54となり、良好なSOG膜とされるシリカの形成を確認することができなかった。これは予想通りの結果である。
次に、プラズマ結晶化処理を行ったSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における屈折率を測定した結果を図2の(C)の破線(0811-sample-no09-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで850 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hの伸縮振動、2200 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hのピークである。すなわち、プラズマ結晶化処理を行ったSOG膜ではシリカのピークは見られず、(B)の実線(0811-sample-no01-sog-mishori-g-uv-ir)で示す未処理のSOG膜と似たような膜になっていることがわかった。
【0030】
次に、プラズマ結晶化処理を行ったSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における減衰係数を測定した結果を図3の(C)の破線(0811-sample-no09-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで850 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hの伸縮振動、2200 (cm-1)付近に見られるピークはSi−Hのピークである。すなわち、このデータからもプラズマ結晶化処理を行ったSOG膜は未処理のSOG膜と同様、シリカのピークは見られないことがわかる。
以上の実験結果から、SOG膜のキュアにプラズマ結晶化処理は適応できないことが確認された。
【0031】
(実施例1)
今回用いた「SOG材料」は、シリコンがペルヒドロポリシラザン「(SiH2NH)n」の分子で含有されている。このSOG膜のキュアは、(1)SOG膜中へ酸素を供給する(SOG材に酸素が含まれていないため)、(2)ペルヒドロポリシラザン分子中のSi−H結合を分解する、(3)Si−O結合を形成する、という反応を必要とする。
以下、本発明の方法について説明する。「SOG材料」をスピンコート法(回転数6000 rpm)によりシリコン基板上に塗布し、ホットプレート上で120℃、2分間のプリベークを行った。その後、プラズマを用いたキュア処理を行う。プラズマ処理の際には、特許文献4と同様の装置を使用した。すなわち、直径20cmの石英ガラス製の円筒形チャンバー内に、分割された半円筒形の二つの電極を設置した容量結合型高周波印加装置を用いた。印加周波数は13.56MHzとした。プラズマを発生させる気体は酸素を用いた。酸素選択の理由は、使用した「SOG材料」の場合メーカー推奨条件にもあるように、良好なSOG膜にキュアするためには酸素を供給することが不可欠だからである。プラズマ発生させるときのチャンバー内の圧力は330 Pa、550 Pa、780 Pa、1000 Paの4通りを実施した。いずれの圧力条件でも以下同様の結果が得られた。投入電力は100 Wとした。
【0032】
本発明者等が、100 Wというプラズマ結晶化技術と比べて非常に小さい投入電力をSOG膜のキュアに選んだ理由は、以下のとおりである。この理由により、本技術を発明するにいたった。
前述のプラズマ結晶化処理を施したSOG膜の解析結果から、SOG膜をキュアするためにはSi−H結合の結晶化を抑制することでSOG膜中への酸素の供給を促進することが必要であるといえる。プラズマ結晶化処理においては、結晶化の促進効果は投入電力の増大に伴って大きくなることが分かっているため、Si-Hの結晶化を抑制するためには投入電力を逆に小さくすることが重要であると考えた。一方で、SOG膜中への酸素の供給と、Si−H結合の分解と、Si−O結合の形成を促進するために、小さいながらもある程度の投入電力が必要と考え、100 Wの投入電力を選択した。
【0033】
プラズマキュア処理を施したSOG膜の屈折率をHe-Neレーザーを用いた単波長エリプソ装置により測定した結果、概ね1.45となる良好なシリカとなったSOG膜を形成することができた。
次に、プラズマキュア処理を施したSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における屈折率を測定した結果を図2の(D)の破線(0811-sample-no06-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで1000-1100 (cm-1)付近に見られるピークはシリカ(Si-O-Si)特有のピークである。前述のメーカー推奨条件でキュアを行った参考例1のSOG膜と同様のピークが得られた。この結果からSOG膜が良好なシリカ膜にキュアされていることがわかる。
【0034】
次に、プラズマキュア処理を施したSOG膜の紫外−可視光−近赤外領域における減衰係数を測定した結果を図3の(D)の破線(0811-sample-no06-sog-g-uv-ir)で示す。このデータで1000-1100 (cm-1)付近に見られるピークはシリカ(Si-O-Si)特有のピークである。前述のメーカー推奨条件でキュアを行った参考例1のSOG膜と同様のピークが得られた。すなわち、このデータからもプラズマキュア処理を行ったSOG膜はメーカー推奨条件でキュアを施したSOG膜と同様の膜質になっていることがわかる。
【0035】
また、図4の○のプロットで、プラズマ処理の投入電力とSOG膜の屈折率をHe-Neレーザーを用いた単波長エリプソ装置により測定した結果を示す。このグラフは、プラズマ結晶化処理とプラズマキュア処理の違いを明確に示すものである。投入電力が300 W以上のデータがプラズマ結晶化処理によるもので、投入電力が100 Wのデータが本発明のプラズマキュア処理によるSOG膜の屈折率である。なお、投入電力0 Wの位置にプロットしているのは未処理のSOG膜の屈折率を示している。このグラフから、本発明のプラズマキュア処理を施したSOG膜だけが未処理のものより屈折率が減少して1.45に下がり、良好なシリカ膜が形成できていることがわかる。一方、プラズマ結晶化処理を施した投入電力300 W以上の場合では、屈折率は増大し、良好なシリカ膜を形成することができないことを示している。以上の結果から、本実施形態においては、投入電力が概ね50〜200W程度でSOG膜のキュアを実現できることが明らかとなった。
【0036】
また、プラズマ処理の投入電力とSOG膜の膜厚の関係を図4の□のプロットに示す。投入電力が100 Wのデータが本発明のプラズマキュア処理によるSOG膜の膜厚である。なお、投入電力0 Wの位置にプロットしているのは未処理のSOG膜の膜厚を示している。このグラフから、本発明のプラズマキュア処理を施したSOG膜の膜厚は約4700Åであることがわかる。すなわち処理前後の膜の収縮率は約10%である。同様の実験をスピンコートの回転数を1000 rpmと3000 rpmで作製しSOG膜でも行い、収縮率が約16%、13 %という結果がそれぞれ得られた。実施例1における、SOG膜ではクラックが生じないことを確認している。この結果から、本発明の方法は、クラック発生が生じ無いSOG膜のキュア法を提供できることが判明した。
【0037】
プラズマ処理中の、投入電力と基板温度の関係を図5に示す。プラズマ処理中の基板温度は放射温度計を用いて1分間隔で測定した。図5中の■でプロットしているデータが本発明のプラズマキュア処理した場合を示している。この図のように、10分間の処理において80℃を超えることはなく、且つ時間とともに飽和傾向を示しているので、これより長い処理を行ったとしてもこれ以上の基板温度上昇は起こらないことがわかる。この結果により、本発明のSOG膜のプラズマキュア法は、製造会社による「SOG材料」の推奨条件と比べて、300℃以上低温で実施できていることがわかる。
したがって、従来の技術ではSOG膜の形成が困難であった、プラスチックのような耐熱性の低い材料により構成された基板上に、SOG膜を効率よく形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
SOG膜は通常、シリコン基板上に形成されるが、耐熱性の低い基板において、本発明の真価が発揮される。すなわち前記したように処理中の温度は100℃以下で製造できるので、従来用いることが困難であった基板の材質、たとえば樹脂製の基板をも使用することが可能となり、有機物半導体を使った半導体素子、ディスプレイなどへの応用も可能となる。
また、本発明の方法は、層間絶縁膜や平坦化などのいわゆるSOGとしての使い方だけではなく、いわゆるゾルやゲル等を用い印刷法を使って光導波路等の光回路を形成する際に、ゾルやゲル材料を高密度化する際にも応用できる。さらに、ウェットプロセスで作製する光学膜及び光学多層膜の形成、あるいは密度の高いことが要求される酸化物や窒化物のコーティング膜(耐擦傷性膜、耐候性向上膜、耐薬品性向上膜、低透湿性や低酸素透過性や低炭素ガス透過性が要求されるバリアコートなど)の形成の際にも応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン及び/又はシリコン化合物と有機溶媒を含有するスピンオングラス材料を基板に塗布した後に、酸素を主成分とするガスにより形成されたプラズマ中で結晶化が生じない条件下で、前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することを特徴とするアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
【請求項2】
前記アモルファススピンオングラス膜がアモルファスSiOにより構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
【請求項3】
前記シリコン化合物として、ポリシラザン系化合物を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
【請求項4】
前記基板の温度を100℃以下に維持し、投入電力50〜200Wでプラズマを発生させて前記スピンオングラス材料塗膜を高密度化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
【請求項5】
前記基板がシリコン、プラスチック又はガラス基板により構成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアモルファススピンオングラス膜の形成方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかの形成方法により基板上に形成されたアモルファススピンオングラス膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−238695(P2010−238695A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81801(P2009−81801)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】