説明

アルコキシアルキルメチル基を有するβ−ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体及び当該金属錯体を用いた金属含有薄膜の製法

【課題】 本発明の課題は、即ち、低い融点を有し、且つ水分、空気及び熱に対しての安定性に優れ、CVD法による金属薄膜形成に適したアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)を提供するものである。又、本発明の課題は、当該金属錯体を用いた金属含有薄膜(例えば、周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法を提供するものでもある。
【解決手段】 本発明の課題は、アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体によって解決される。本発明の課題は、又、該金属錯体を金属供給源として用いた、化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製法によっても解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)により金属原子(周期律表第IVA族の金属原子)を含有する金属薄膜を形成させる際に使用可能な金属錯体(周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)に関する。本発明は、又、当該金属錯体を用いた金属含有薄膜(周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、電子部品、光学部品等の分野の材料として、金属錯体化合物に関しては、多くの研究、開発がなされている。例えば、周期律表第IVA族の金属化合物(例えば、チタン、ジルコニウムやハフニウム等)は、強誘電体(PZT)や半導体メモリーゲート絶縁体としての使用や研究がなされている。これらの金属原子を含有する金属薄膜又は金属酸化物薄膜の製法としては、均一な薄膜を製造し易いCVD法による成膜が最も盛んに採用されており、それに適した原料化合物が求められている。
【0003】
ところで、CVD法による金属原子を含有する薄膜製造用原料としては、例えば、β-ジケトナトを配位子とする金属錯体が幅広く使用されつつある。このβ-ジケトナトを配位子とする金属錯体は、安定性や昇華性に優れており、CVD法における金属源としては有用である。なお、β-ジケトナト配位子の具体例としては、例えば、アセチルアセトナト(acac)や2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト(dpm)が一般的に知られている。
【0004】
しかしながら、前記のβ-ジケトナトを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)のほとんどが、常温では固体であり、高い融点を有することから、CVD法による成膜の際、CVD装置内の原料供給系における配管閉塞の恐れがあり、工業的なCVD法による薄膜製造原料としては不適であった。
【0005】
そこで、金属錯体の安定化や低融点化、金属薄膜の生産性の向上をはかる試みが盛んに行われている。その中でも、β-ジケトナト及びアルコキシを配位子とすることによって、金属錯体の安定化や低融点化、金属薄膜の生産性の向上をはかる検討がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平11-199591号公報
【特許文献2】特開2002-69027号公報
【特許文献3】特開2002-69641号公報
【0006】
しかしながら、先の特許文献に記載されているβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)は、いずれも未だ高融点の金属錯体であり、工業的なCVD法による薄膜製造原料としては不適であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、即ち、低い融点を有し、且つ水分、空気及び熱に対しての安定性に優れ、CVD法による金属薄膜形成に適したアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)を提供するものである。又、本発明の課題は、当該金属錯体又は当該金属錯体の溶媒溶液を用いた金属含有薄膜(例えば、周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)によって解決される。
【0009】
本発明の課題は、又、当該金属錯体又は当該金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた、化学気相蒸着法による金属含有薄膜(例えば、周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法によっても解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、CVD法により金属原子を含有する金属薄膜を形成させる際に使用可能な金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)を提供することが出来る。又、当該金属錯体又は当該金属錯体の溶媒溶液を用いた金属含有薄膜(例えば、周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法も提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体の配位子は、一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Xは、一般式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
で示されるアルコキシアルキルメチル基(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
及び一般式(3)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Rは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示され、その金属錯体は、一般式(4)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Mは、金属原子を示し、X、Y、Z及びRは、前記と同義である。nは、1〜3の整数を示す。)
で示される。
【0020】
その一般式(4)において、Mは、周期律表第IVA族の金属原子を示すが、例えば、好ましくはチタン原子、ジルコニウム原子又はハフニウム原子が使用される。又、Xは、一般式(2)で示されるアルコキシアルキルメチル基(R及びRは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、該一般式(2)で示される基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等の炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。又、Rは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。nは、1〜3の整数を示す。
【0021】
本発明の金属錯体の配位子であるβ-ジケトナトの元となるβ-ジケトンは、例えば、反応工程式(1)
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、R及びRは、前記と同義であり、R及びRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示されるように、塩基の存在下、アルコキシ基とアルキル基を有する酢酸エステルとメチルアルキルケトン化合物との反応により合成される化合物である(後述の参考例に記載)。
【0024】
前記反応工程式(1)の反応において使用する塩基としては、例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;ナトリウムアミド、カリウムアミド等のアルカリ金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムn-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属アミド類、アルカリ金属アルコキシド類、更に好ましくはナトリウムアミド、カリウムt-ブトキシドが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0025】
前記塩基の使用量は、前記反応工程式(1)において示したメチルケトン化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜10モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。
【0026】
本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする金属錯体の具体例としては、例えば、式(5)から式(67)で示される。
【0027】
【化6】


【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
なお、CVD法においては、薄膜形成のために金属錯体を気化させる必要があるが、本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)を気化させる方法としては、例えば、金属錯体自体を気化室に充填又は搬送して気化させる方法だけでなく、金属錯体を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。)に希釈した溶液(金属錯体の溶媒溶液)を液体搬送用ポンプで気化室に導入して気化させる方法(溶液法)も使用出来る。
【0032】
基板上への金属の蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、金属錯体を酸素等の酸化性ガスとともに加熱した基板上に送り込んで金属酸化膜を蒸着させる方法、金属錯体をアンモニア等の含窒素塩基性ガスとともに加熱した基板上に送り込んで金属窒化膜を蒸着させる方法、金属錯体を水素等の還元性ガスとともに加熱した基板上に金属錯体を送り込んで金属膜を蒸着させる方法が使用出来る。又、プラズマCVD法で金属含有薄膜を蒸着させる方法も使用出来る。
【0033】
本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体(例えば、周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)を用いて金属含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、基板温度は、好ましくは50〜700℃、更に好ましくは100〜500℃、金属錯体を気化させる温度は、好ましくは50〜250℃、更に好ましくは90〜200℃である。
【0034】
なお、酸素等の酸化性ガスによる金属酸化膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸化性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜95容量%、更に好ましくは20〜90容量%である。一方、水素等の還元性ガスによる金属薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する還元性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜95容量%、更に好ましくは30〜90容量%である。又、アンモニア等の含窒素塩基性ガスによる金属薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する含窒素塩基性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜95容量%、更に好ましくは20〜90容量%である。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
参考例1(2-メトキシプロピオン酸メチルの合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積500mlのフラスコに、ナトリウムメトキシド100.6g(1862mmol)及びヘキサン300mlを加えた。次いで、氷冷下、2-ブロモプロピオン酸メチル300.3g(1798mmol)をゆるやかに滴下した後、攪拌しながら2時間反応させた。反応終了後、水冷下、水300mlを添加し、有機層を分液した。その後、有機層を水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧蒸留(74℃、12236Pa)し、無色液体として2-メトキシプロピオン酸メチル97.0gを得た(単離収率:46%)。
2-メトキシプロピオン酸メチルの物性値は以下の通りであった。
【0037】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.41(3H,d)、3.40(3H,s)、3.77(3H,s)、3.90(1H,q)
MS(m/e);88、59、31、15
【0038】
参考例2(2-メトキシ-3,5-オクタンジオン(以下、moodと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積200mlのフラスコに、ナトリウムアミド10.1g(259mmol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、トルエン100mlを加えた。次いで、水冷下、2-ペンタノン14.4g(167mmol)をゆるやかに滴下して15分間攪拌した後、参考例1と同様な方法で合成した2-メトキシプロピオン酸メチル15.0g(127mmol)を滴下して、攪拌しながら1時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水50mlを加えた後、水層を分液し、2.5mol/l硫酸で酸性化した。水層をヘキサンで抽出した後、ヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(35℃、20Pa)し、無色液体として、2-メトキシ-3,5-オクタンジオン14.3gを得た(単離収率:81%)。
2-メトキシ-3,5-オクタンジオンの物性値は以下の通りであった。
【0039】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));0.97(3H,m)、1.35(3H,d)、1.6〜1.7(2H,m)、2.29〜2.34(1.7H,m)、2.51(0.3H,m)、3.36(3H,s)、3.60(0.3H,s)、3.74(1H,q)、5.79(0.85H,s)、15.3(0.85H,s)
IR(neat(cm-1));2967、2936、1608(br)、1458、1332、1210、1110、802
(なお、1608cm-1のピークは、β-ジケトン特有のピークである。)
MS(m/e);142、113、59、28
【0040】
実施例1(トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ジルコニウム(IV)イソプロポキシド(以下、Zr(OiPr)(mood)3と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、ナトリウムメトキシド5.45g(100.9mmol)及びイソプロピルアルコール50mlを加えた後、参考例2と同様な方法で合成した2-メトキシ-3,5-オクタンジオン19.84g(115.2mmol)をゆるやかに滴下し、室温で30分間攪拌させた。攪拌終了後、反応液を濃縮し、白色固体として濃縮物を得た。攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、該濃縮物を加えた後、塩化ジルコニウム(IV)5.63g(24.2mmol)をイソプロピルアルコール60mlに溶解した溶液をゆるやかに滴下し、攪拌しながら室温で3時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、濃縮物にヘキサン80ml及び水20mlを加え、有機層を分液した。該有機層を水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、濃縮物を減圧蒸留(210℃、28Pa)し、粘性のある黄橙色液体として、トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ジルコニウム(IV)イソプロポキシド15.2gを得た(単離収率:95%)。
トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ジルコニウム(IV)イソプロポキシドは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0041】
IR(neat(cm-1));2962、2932、2847、2823、1593、1527、1419、1329、1211、1120、975、795、573、520
(β-ジケトン特有のピーク(1608cm-1)が消失し、β-ジケトナト特有のピーク(1593cm-1)が観察された。)
元素分析(C30H52O10Zr);炭素:54.4%、水素:7.88%、ジルコニウム:13.8%
(理論値;炭素:54.3%、水素:7.89%、ジルコニウム:13.7%)
MS(m/e);619、603、587、113、59
【0042】
実施例2(トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ハフニウム(IV)イソプロポキシド(以下、Hf(OiPr)(mood)3と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、テトライソプロポキシハフニウム(IV)イソプロピレート5.10g(10.7mmol)及び参考例2と同様な方法で合成した2-メトキシ-3,5-オクタンジオン7.50g(43.6mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で15分間攪拌させた。次いで、ゆるやかに170℃まで加熱し、イソプロピルアルコール3.2mlを留去した。反応液を室温まで冷却後、ヘキサン50ml及び水20mlを加え、有機層を分液した。該有機層を水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、濃縮物を減圧蒸留(220℃、25Pa)し、粘性のある黄色液体として、トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ハフニウム(IV)イソプロポキシド6.35gを得た(単離収率:79%)。
トリス(2-メトキシ-3,5-オクタンジオナト)ハフニウム(IV)イソプロポキシドは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0043】
IR(neat(cm-1));2962、2933、2874、2823、1597、1528、1430、1329、1211、1121、976、795、522
(β-ジケトン特有のピーク(1608cm-1)が消失し、β-ジケトナト特有のピーク(1597cm-1)が観察された。)
元素分析(C30H52O10Hf);炭素:48.1%、水素:6.97%、ハフニウム:23.7%
(理論値;炭素:48.0%、水素:6.98%、ハフニウム:23.8%)
MS(m/e);709、693、113、59
【0044】
参考例3(2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオン(以下、mohdと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積200mlのフラスコに、カリウムt-ブトキシド25g(223mmol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン100mlを加えた。次いで、水冷下、参考例1と同様な方法で合成した2-メトキシプロピオン酸メチル12.5g(106mmol)を滴下した後、2-ブタノン7.70g(107mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら10℃にて30分間反応させた。反応終了後、氷冷下、水70mlを加えた後、水層を分液した。分液した水層を酢酸で酸性化してメチルシクロヘキサンで抽出した後、メチルシクロヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(77℃、1.26kPa)し、無色液体として、2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオン10.4gを得た(単離収率:62%)。
2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオンの物性値は以下の通りであった。
【0045】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.08(0.48H,t)、1.16(2.52H,t)、1.30(0.48H,d)、1.36(2.52H,d)、2.38(1.68H,q)、2.56(0.32H,q)、3.37(3H,s)、3.45(0.32H,s)、3.71〜2.81(1H,m)、5.80(0.84H,s)、15.3(0.84H,s)
IR(neat(cm-1));2984、2939、2828、1610(br)、1458、1328、1210、1119、1063、882、814
(なお、1610cm-1のピークは、β-ジケトン特有のピークである。)
MS(m/e);128、99、59、43、29
【0046】
参考例4(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオン(以下、mopdと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積500mlのフラスコに、カリウムt-ブトキシド49.9g(445mmol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン250mlを加えた。次いで、水冷下、参考例1と同様な方法で合成した2-メトキシプロピオン酸メチル26.5g(224mmol)を滴下した後、3-メチル-2-ブタノン19.2g(223mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌攪拌しながら10℃にて30分間反応させた。反応終了後、氷冷下、水130mlを加えた後、水層を分液した。分液した水層を酢酸で酸性化してメチルシクロヘキサンで抽出した後、メチルシクロヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(67℃、718Pa)し、無色液体として、2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオン26.0gを得た(単離収率:68%)。
2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオンの物性値は以下の通りであった。
【0047】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.17(6H,d)、1.30(0.15H,d)、1.36(2.85H,d)、2.48〜2.57(0.95H,m)、2.59〜2.73(0.05H,m)、3.36(0.15H,s)、3.37(2.85H,s)、3.71〜3.78(1H,m)、3.78(0.1H,s)、5.81(0.95H,s)、15.4(0.95H,s)
IR(neat(cm-1));2976、2936、1607(br)、1462、1366、1328、1210、1120、910、805
(なお、1607cm-1のピークは、β-ジケトン特有のピークである。)
MS(m/e);142、113、59、43
【0048】
参考例5(2-メトキシ-3,5-オクタンジオン(以下、moodと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積300mlのフラスコに、カリウムt-ブトキシド20.4g(182mmol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン90mlを加えた。次いで、水冷下、参考例1と同様な方法で合成した2-メトキシプロピオン酸メチル10.0g(84.7mmol)を滴下した後、2-ペンタノン7.30g(84.8mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌攪拌しながら10℃にて30分間反応させた。反応終了後、氷冷下、水80mlを加えた後、水層を分液した。分液した水層を酢酸で酸性化してメチルシクロヘキサンで抽出した後、メチルシクロヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(80℃、545Pa)し、無色液体として、2-メトキシ-3,5-オクタンジオン10.2gを得た(単離収率:70%)。
【0049】
実施例3(トリス(2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシド(以下、Ti(OiPr)(mohd)3と称する)の合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及びDean-Stark装置を備えた内容積100mlのフラスコに、参考例3と同様な方法で合成した2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオン22.2g(115.2mmol)を加えた後、氷冷下、チタンテトライソプロポキシド10g(35.2mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら140で2時間反応させた。反応終了後、反応液を減圧蒸留(170℃、21Pa)し、暗緑色液体として、トリス(2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシド6.6gを得た(単離収率:32%)。
トリス(2-メトキシ-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシドは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0050】
IR(neat(cm-1));2978、2934、2878、2824、1715、1579、1524、1403、1328、1210、1120、993、812、767、623、592
(β-ジケトン特有のピーク(1610cm-1)が消失し、β-ジケトナト特有のピーク(1579cm-1)が観察された。)
元素分析(C27H46O10Ti);炭素:56.0%、水素:8.25%、チタン:8.2%
(理論値;炭素:56.1%、水素:8.01%、チタン:8.27%)
MS(m/e);519、421、362、323、221、59
【0051】
実施例4(トリス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシド(以下、Ti(OiPr)(mopd)3と称する)の合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及びDean-Stark装置を備えた内容積100mlのフラスコに、参考例4と同様な方法で合成した2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオン18.2g(106mmol)を加えた後、氷冷下、チタンテトライソプロポキシド5.00g(17.6mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら140で2時間反応させた。反応終了後、反応液を減圧蒸留(190℃、39Pa)し、暗緑色液体として、トリス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシド4.5gを得た(単離収率:41%)。
トリス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)チタニウム(IV)イソプロポキシドは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0052】
IR(neat(cm-1));2973、2933、2873、2825、1576、1531、1408、1328、1211、1121、1011、804、770、592
(β-ジケトン特有のピーク(1607cm-1)が消失し、β-ジケトナト特有のピーク(1576cm-1)が観察された。)
元素分析(C30H52O10Ti);炭素:58.3%、水素:8.49%、チタン:7.7%
(理論値;炭素:58.1%、水素:8.45%、チタン:7.7%)
MS(m/e);561、449、390、337、113、59
【0053】
実施例5〜7(蒸着実験;酸化金属薄膜の製造)
実施例1〜3で得られた金属錯体(ジルコニウム錯体(Zr(OiPr)(mood)3)、ハフニウム錯体(Hf(OiPr)(mood)3)及びチタニウム錯体(Ti(OiPr)(mohd)3)を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
評価試験には、図1に示す装置を使用した。気化器3(ガラス製アンプル)にある金属錯体20は、ヒーター10Bで加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て予熱器10Aで予熱後導入されたヘリウムガスに同伴し気化器3を出る。気化器3を出たガスは、マスフローコントローラー1B、ストップバルブ2を経て導入された酸素ガスとともに反応器4に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ6の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計5によってモニターされる。ガラス製反応器の中央部はヒーター10Cで加熱可能な構造となっている。反応器に導入された金属錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒータ10Cで所定の温度に加熱された被蒸着基板21の表面上で酸化熱分解し、基板21上に酸化金属薄膜が析出する。反応器4を出たガスは、トラップ7、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0054】
蒸着条件及び蒸着結果(膜特性)を表1に示す。なお、被蒸着基盤としては、7mm×40mmサイズの矩形のものを使用した。
【0055】
【表1】

【0056】
該結果より、本発明の金属錯体(ジルコニウム錯体(Zr(OiPr)(mood)3)、ハフニウム錯体(Hf(OiPr)(mood)3)及びチタニウム錯体(Ti(OiPr)(mohd)3))が、優れた成膜性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、化学気相蒸着法(CVD法)により金属原子(周期律表第IVA族の金属原子)を含有する金属薄膜を形成させる際に使用可能な金属錯体(周期律表第IVA族の金属原子を中心金属とする金属錯体)に関する。本発明は、又、当該金属錯体又は当該金属錯体の溶媒溶液を用いた金属含有薄膜(周期律表第IVA族の金属の含有薄膜)の製法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】蒸着装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
3 気化器
4 反応器
10B 気化器ヒータ
10C 反応器ヒータ
20 原料金属錯体融液
21 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体。
【請求項2】
アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト配位子が、一般式(1)
【化1】

(式中、Xは、一般式(2)
【化2】

で示されるアルコキシアルキルメチル基(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
であり、アルコキシ基が、一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
である請求項1記載のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体。
【請求項3】
アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体が、一般式(4)
【化4】

(式中、Mは、金属原子を示し、X、Y、Z及びRは、前記と同義である。nは、1〜3の整数を示す。)
である請求項1記載のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体。
【請求項4】
Mが、周期律表第IVA族の金属原子である請求項3記載のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の金属錯体又は金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた、化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製法。
【請求項6】
請求項5記載の金属が、周期律表第IVA族の金属原子である請求項5記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜を製法。
【請求項7】
溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類又はエーテル類である請求項5記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製法。
【請求項8】
アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト配位子の元となる、アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトンが、反応工程式(1)
【化5】

(式中、R及びRは、前記と同義であり、R及びRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示されるように、塩基の存在下、アルコキシ基とアルキル基を有する酢酸エステルとメチルアルキルケトン化合物との反応により合成される化合物である請求項1記載のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナト及びアルコキシを配位子とする金属錯体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31283(P2007−31283A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202561(P2005−202561)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】