説明

イオンビームスパッタ用ターゲット、酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法

【課題】スパッタ粒子の無駄を抑え、有効に使用できるイオンビームスパッタ用ターゲット、該ターゲットを用いた酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法の提供。
【解決手段】本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットは、イオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を基材上に堆積させて、該基材上に成膜するイオンビームスパッタ法に用いられるターゲットであって、中央板部3と、この中央板部3に隣接して配置された側板部1、2を備え、側板部1、2は、中央板部3のイオンビームが照射される面3Aの内側向きに傾斜されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームスパッタ用ターゲット、酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体を導体として使用するためには、テープ状の長尺基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要があるが、一般には、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に直接、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成させることは難しい。そこで、金属テープからなる長尺基材の上に、結晶配向性に優れたMgO、GdZr(GZO)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの中間層を形成し、この中間層上に、YBaCu系などの希土類系酸化物超電導体の薄膜を成膜する試みが行なわれており、中間層の成膜にはイオンビームスパッタ法、レーザ蒸着法等が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、ターゲットはその表面が平らなものが使用され、成膜の際、ターゲットは基材の表面と所定の角度をなして向き合うようにターゲットホルダによって支持される。
イオンビームスパッタ法は、イオンガンからのイオンビームをターゲットに照射し、ターゲットからスパッタ粒子を叩き出し、このスパッタ粒子を基材の表面に堆積させることにより成膜を行う。
ターゲットからのスパッタ粒子を効率よく基材に堆積させて、成膜スピードを上げる方法としては、イオンガンのビーム電流を上げる方法や、イオンビームの電流密度を上げる方法などがある。また、ターゲット表面を平面ではなく凹形状とすることにより、スパッタ粒子の飛散範囲を制御する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
テープ状の長尺基材上にイオンビームスパッタ法により中間層などを形成する場合、図6(a)に示すように、送出リール101に巻きつけた長尺基材103の端部を巻取リール102に取付け、送出リール101、巻取リール102間の長尺基材103と対向するようにターゲット105をターゲットホルダ104により保持し、イオンガン106よりイオンビーム106Bをターゲット105に照射しつつ、送出リール101および巻取リール102を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより長尺基材103を送出リール101から巻取リール102へと搬送し、長尺基材103の長手方向に連続的に成膜する方法が行われている。
【0005】
しかし、図6(a)に示す成膜装置では、ターゲット105からのスパッタ粒子が効率よく基材103上に堆積されず、ターゲット105を有効使用できない問題があった。図6(b)に、図6(a)に示す装置の成膜領域付近の様子を模式的に示す。図6(b)に示すように、イオンガン106からのイオンビーム106Bによりターゲットから叩き出されたスパッタ粒子は、図6(b)の破線で示す領域に拡がるように飛散する。この形態の成膜装置では、スパッタ粒子が飛散する成膜領域107が基材103の幅よりも大きく拡がっており、スパッタ粒子の多くが長尺基材103の表面に付着せず、無駄になってしまう。
【0006】
そこで、本出願人は、テープ状の長尺基材を一対の巻回部材間に複数回巻回し、スパッタ粒子が飛散している成膜領域内に長尺基材をレーン状に配置することにより、ターゲットを有効活用する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO01/059173号パンフレット
【特許文献2】特開2004−292871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に本出願人が先に提案している成膜方法を可能とする成膜装置の要部構成を示す。図5に示す成膜装置200は、水平に配置されたターゲットホルダ201上にターゲット202が保持されるとともに、ターゲット202の上方にテープ状の長尺基材203が複数配列された状態で走行するようにレーン状に配列されており、これらの基材203は基材ホルダ204の面上を走行している。なお、実際の装置ではリール状の巻回部材を同軸位置に複数配置して巻回部材群を構成し、この巻回部材群を2つ対向配置してこれらの間に長尺基材203を往復走向できるように架け渡すが、図5では往復走向できるように配列されている基材203のターゲット202上の位置関係のみを示し、基材203を支持している巻回部材は記載を略している。
【0009】
図5に示す成膜装置200では、スパッタ粒子が飛散している成膜領域206にて複数配列されて移動している基材203のそれぞれにスパッタ粒子を堆積させることができるため、図6に示す成膜装置よりもスパッタ粒子の無駄が少なく、ターゲット202を有効使用できる。しかし、図5に示す成膜装置200においてもなお、長尺基材203の表面に付着せず無駄になってしまうスパッタ粒子の飛散領域206a、206bがあり、より効率的にスパッタ粒子を長尺基材203上に堆積させる技術が望まれている。また、飛散領域206aを飛散するスパッタ粒子の一部がイオンガン205のグリッドに付着すると、イオンガン205のイオンビームが不安定になったり、イオンガン205の寿命が短くなるおそれがある。特許文献2に記載の技術のように、ターゲット表面を凹形状とすることも一つの方法ではあるが、ターゲットの加工に手間や時間がかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、スパッタ粒子の無駄を抑え、有効に使用できるイオンビームスパッタ用ターゲット、該ターゲットを用いた酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットは、イオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を基材上に堆積させて、該基材上に成膜するイオンビームスパッタ法に用いられるターゲットであって、中央板部と、この中央板部に隣接して配置された側板部を備え、前記側板部は、前記中間板部のイオンビームが照射される面の内側向きに傾斜されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットは、ターゲットの側板部が中央板部のイオンビームが照射される面の内側向きに傾斜していることにより、スパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度を高くできる。そのため、従来のように平板状のターゲットを使用する場合に比べて、スパッタ粒子が基材の存在しない領域まで飛散することを抑制できる。従って、スパッタ粒子を収率良く基材上に堆積させることができるので、有効使用可能なターゲットとなる。また、本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットを用いて成膜を行うならば、スパッタ粒子を効率良く(高収率で)基材上に堆積させて成膜できるので、成膜スピードを向上させることができる。
【0013】
本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットは、前記中央板部表面に対する前記側板部表面の傾斜角度が、10°以上30°以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、側板部の表面が中央板部の表面に対して傾斜角度10°以上30°以下の範囲内で傾斜していることにより、スパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度をより高くできる。そのため、イオンビームによりターゲットから叩き出されたスパッタ粒子が成膜する基材の存在しない領域まで飛散することをより効果的に抑制できる。従って、本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットを用いて成膜を行うならば、ターゲットからのスパッタ粒子をより効率良く(高収率で)基材上に堆積させて、成膜できる。従って、スパッタ粒子の無駄をより削減でき、有効使用可能なターゲットとなる。また、成膜スピードの向上をより確実に図れる。
【0014】
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、上記本発明のイオンビームスパッタ用ターゲットを用い、前記ターゲットの前記側板部が基材に対して傾斜するように該ターゲットを配置し、イオンビームを前記ターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を前記基材上に堆積させて、前記基材上に金属酸化物の中間層を形成することを特徴とする。
【0015】
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、上記本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲットを用いる構成である。そのため、スパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度を高くできるので、従来のような平板状のターゲットを使用する場合に比べて、スパッタ粒子が基材の存在しない領域まで飛散することを抑制できる。従って、スパッタ粒子を収率良く基材上に堆積させることができるので、ターゲットを有効使用でき、且つ成膜スピードを向上させることができる。
【0016】
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記基材の移動方向を転向させる転向部材を少なくとも一対、対向配置するとともに、これらの転向部材間に前記基材が複数の隣接するレーンを構成するように前記基材を巻回し、該転向部材間にて複数のレーンを構成した状態の前記基材の表面に対して前記ターゲットの前記側板部が傾斜するように該ターゲットを配置し、前記基材を前記転向部材間を周回させることにより前記ターゲットの構成粒子の堆積領域を複数回通過させて、該堆積領域を通過毎に前記基材上に前記構成粒子を堆積させて前記中間層を形成することが好ましい。
この場合、基材が成膜領域にて複数列レーンを構成するように配置することにより、堆積領域(成膜領域)に占める基材の割合が高くなるため、ターゲットからのスパッタ粒子をより良好な収率で基材上に堆積させることができる。従って、成膜スピードをさらに効果的に高め、また、ターゲットをより有効利用することができる。
【0017】
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記ターゲットの前記中央板部と前記側板部との隣接部が、前記転向部材間にて複数レーンを構成している前記基材の長手方向に沿うように前記ターゲットを配置することも好ましい。
この場合、堆積領域(成膜領域)の基材と対向配置されたターゲットの隣接部が、転向部材間にて複数レーンを構成している基材の長手方向に沿うように配置され、且つ、ターゲットの側板部が堆積領域の基材の表面に対して起立して傾斜するように配置される構成となる。そのため、ターゲットにイオンビームを照射するときに、イオンビームが転向部材や手前側の基材によって遮られることがなく、奥側のターゲットの側板部に届くので、ターゲット表面の広い領域にイオンビームを照射でき、ターゲットをより有効に利用できる。
【0018】
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、記堆積領域の前記基材に対して斜め方向からアシストイオンビームを照射することもできる。
この場合、イオンビームをターゲットに照射して、ターゲットからのスパッタ粒子を基材表面上に飛来させるとともに、基材表面にアシストイオンを照射する所謂イオンビームスパッタ法により中間層を形成する構成となる。そのため、アシストイオンの照射により基材上に結晶配向性良好にスパッタ粒子を堆積して成膜することができる。従って、スパッタ粒子を収率良く基材に堆積させるとともに、結晶配向性良好な中間層を成膜することができる。
【0019】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、上記本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法により酸化物超電導導体用基材を形成した後に、前記基材上の前記中間層の上に酸化物超電導層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スパッタ粒子の無駄を抑え、有効に使用できるイオンビームスパッタ用ターゲット、該ターゲットを用いた酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(a)は本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲットの一実施形態を示す概略斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示すイオンビームスパッタ用ターゲットの側面図である。
【図2】本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法に使用されるイオンビームスパッタ装置の第1実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】図2に示すイオンビームスパッタ装置の成膜時の様子を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法に使用されるイオンビームスパッタ装置の第2実施形態を示す概略斜視図である。
【図5】平板状のターゲットを用いたイオンビームスパッタ法の成膜時の様子を模式的に示す図である。
【図6】図6(a)は従来のイオンビームスパッタ装置の一例を示す概略模式図であり、図6(b)は図6(a)に示すイオンビームスパッタ装置の成膜時の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲット、酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態について、図面に基づき説明する。
【0023】
図1(a)は本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲットの一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示すイオンビームスパッタ用ターゲットの側面図である。
図1に示すイオンビームスパッタ用ターゲット10は、イオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を基材上に堆積させて、該基材上に成膜するイオンビームスパッタ法に用いられるターゲットであって、中央板部3と、この中央板部3の両側に隣接して配置された第1側板部1および第2側板部2を備えてなる。第1側板部1は、中央板部3のイオンビームが照射される面3Aの内側向き(図1に示す例では上面内側向き)に傾斜して配置されている。また、第2側板部2は、中央板部3のイオンビームが照射される面3Aの内側向き(図1に示す例では上面内側向き)に傾斜して配置されている。図1において、イオンビームスパッタ用ターゲット10は、ターゲットホルダ5により保持されている。なお、以下の説明において、イオンビームスパッタ用ターゲット10を「ターゲット10」と略称することがある。
【0024】
中央板部3、第1側板部1および第2側板部2は、いずれも長方形板状であり、同一の材質より構成されている。また、中央板部3、第1側板部1および第2側板部2の厚さ、長さおよび幅は、夫々略同一とされている。
中央板部3と第1側板部1はそれらの長辺同士が隣接部7で連続的に接しており、中央板部3の第1側板部1とは接していない側の長辺は、第2側板部2の長辺と隣接部8で連続的に接している。
ターゲット10は、形成しようとする薄膜と同等または近似した組成の材料の焼結体から構成されている。
【0025】
第1側板部1の表面1Aは、中央板部3の表面3Aに対して傾斜角度θだけ上方(イオンビーム照射側)に傾いており、図1に示す例では、第1側板部1の表面1Aは、中央板部3との隣接部7側よりも外側(中央板部3とは反対側)の表面高さが高くなっている。同様に、第2側板部2の表面2Aは、中央板部3の表面3Aに対して傾斜角度θだけ上方(イオンビーム照射側)に傾いており、図1に示す例では、第2側板部2の表面2Aは、中央板部3との隣接部8側よりも外側(中央板部3とは反対側)の表面高さが高くなっている。
【0026】
傾斜角度θとしては、10°以上30°以下の範囲内が好ましい。傾斜角度θをこのような範囲に設定することにより、ターゲット10を用いてイオンビームスパッタを行った場合、ターゲット10からのスパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度を高くすることができ、スパッタ粒子を効率良く(高収率で)基材上に堆積させて成膜できる。従って、スパッタ粒子の無駄を減らして、有効使用可能なターゲットとなる。また、成膜スピードの向上を図ることができる。
なお、図1に示す例では、第1側板部1および第2側板部2の傾斜角度θが同一である例を示しいているが、本発明はこの例に限定されず、第1側板部1および第2側板部2の傾斜角度θは、前記角度範囲を満たしていれば、異なっていてもよい。また、使用するイオンビームスパッタ装置のイオンビーム照射装置の設置位置に合わせて、第1側板部1または第2側板部2のいずれか一方のみが傾斜角度θで傾斜する構成としてもよい。
【0027】
中央板部3、第1側板部1、第2側板部2は、3枚の板状ターゲットから構成されていてもよいし、1枚のターゲットから構成されていてもよいが、3枚の板状ターゲットから構成されている方が、1枚のターゲットから構成する場合と比較して製造が簡便であり、傾斜角度θの調節も容易になるので好ましい。また、1枚のターゲットから製造される場合には、加工時やイオンビーム照射時に、熱影響でターゲットが割れやすくなる場合があるが、3枚の板状ターゲットより構成されることにより、熱影響により割れが発生することを低減できる。
【0028】
図1に示す例では、第1側板部1および第2側板部2の横断面形状が長方形であり、中央板部3の横断面形状は下辺側が上辺よりも長い台形であるが、本発明はこの例に限定されず、中央板部3、第1側板部1、第2側板部2の断面形状や寸法は適宜調整可能である。
例えば、ターゲット10は横断面形状が長方形である3枚の同一形状の板状ターゲットから構成されていてもよい。
【0029】
また、ターゲット10において、中央板部3の形状は矩形、方形のいずれでもよい。
第1側板部1および第2側板部2の幅は、特に限定されず適宜変更可能であるが、中央板部3の幅に対して0.5〜1倍程度に設定することが好ましい。
【0030】
図1に示す例では、ターゲット10はターゲットホルダ5に保持されている。ターゲットホルダ5は平板状の第1保持部材5aと、ターゲット10の第1側板部1および第2側板部2を中央板部3に対して傾斜角度θで傾斜させて配置するために第1保持部材5a上に設けられた第2保持部材5bよりなる。
なお、ターゲットホルダ5の形状は、ターゲット10を保持できれば特に限定されない。第1保持部材5aと第2保持部材5aが一体に形成されていてもよく、別々に形成されていてもよい。
ターゲットホルダ5はその内部に流路を形成しておき、冷却水などの冷媒を流せる構成であり、ターゲット10を冷却可能な構成とされていることが好ましい。これにより、スパッタ中のターゲット10を冷却するこができ、スパッタ中にターゲット10の温度が高くなり過ぎて、ターゲット10が割れることを防ぐことが出来る。
【0031】
本実施形態のターゲット10は、従来公知の各種イオンビームスパッタ装置におけるターゲットとして用いることができる。以下、本実施形態のターゲット10を用いた、本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法の実施の形態について、使用されるイオンビームスパッタ装置も含めて説明する。
【0032】
図2は本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法に使用されるイオンビームスパッタ装置の第1実施形態を示す概略斜視図である。
図2に示す本実施形態のイオンビームスパッタ装置20は、イオンビームBによって上記した本発明に係るターゲット10から叩き出されたスパッタ粒子を長尺基材25上に堆積させ、このスパッタ粒子による薄膜を長尺基材25上に形成する、イオンビームスパッタ法による成膜装置である。なお、以下の説明において、成膜領域27とはイオンビームBの照射によりターゲット10から叩き出されたターゲット10の構成粒子(スパッタ粒子)が飛散した領域(堆積領域)を意味する。
【0033】
図2に示す成膜装置20は、テープ状の長尺基材25を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置されて長尺基材25の移動方向を転向する一対の転向部材群23、24と、転向部材群23の外側に配置された長尺基材25を送り出すための送出リール21と、転向部材群24の外側に配置された長尺基材25を巻き取るための巻取リール22と、転向部材群23、24の巻回により複数列とされた長尺基材25を支持する基材ホルダ26と、転向部材郡23、24間を走行する長尺基材25と対向配置されたターゲット10と、ターゲット10を支持する水平に配置されたターゲットホルダ5と、ターゲット10にイオンビームBを照射するイオンビーム照射装置28とを備えて構成されている。転向部材群23、24、送出リール21及び巻取リール22を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール21から送り出された長尺基材25が転向部材群23、24を周回し、巻取リール22に巻き取られるようになっている。
【0034】
長尺基材25は、成膜面が外側となるように一対の転向部材群23、24に巻回されており、これらの転向部材群23、24を周回することにより、ターゲット10からのスパッタ粒子の堆積領域(成膜領域)27にて複数列レーンを構成するように配置されている。そのため、成膜装置20は、イオンビームBをターゲット10の表面に照射し、ターゲット10から叩き出されたスパッタ粒子を、ターゲット10に対向する領域である成膜領域27を走行する長尺基材25の表面に向けて、長尺基材25上にスパッタ粒子を堆積させることができる。また、長尺基材25が成膜領域27にて複数列レーンを構成するように配置されていることにより、ターゲット10からの蒸着粒子を良好な収率で長尺基材25上に堆積させることができ、ターゲット10を有効利用することができる。
【0035】
長尺基材25、長尺基材25の移動方向を転向させる転向部材群23、24、送出リール21、巻取リール22、ターゲット10、ターゲットホルダ5および基板ホルダ26は、真空チャンバ内に収容されている。
本実施形態で用いる真空チャンバは、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。この真空チャンバには、真空チャンバ内にキャリアガス及び反応ガスを導入するガス供給手段と、真空チャンバ内のガスを排気する排気手段が接続されているが、図2ではこれら供給手段と排気手段を略し、各装置の配置関係のみを示している。
【0036】
図3は、図2に示すイオンビームスパッタ装置20の、成膜領域27付近における長尺基材25の幅方向に沿う断面模式図である。なお、図3において、図面を見やすくするために、成膜領域27に複数列とされた複数の基材25の一部を省略して描いているため、成膜領域27におけるレーン数が図2とは異なっているが、実際には同一である。
図3に示すように、長尺基材25が走行する成膜領域27に面するように配置されたターゲット10は、その中央板部3と第1側板部1との隣接部7、および中央板部3と第2側板部2との隣接部8が、長尺基材25の長手方向に沿うように配置されている。ターゲット10は、第1側板部1および第2側板部2が、長尺基材25の表面に対して傾斜するように配置されている。イオンビーム照射装置28は、ターゲット10に対して斜め方向に対向するように配置されており、図2および図3に示す例では、第2側板部2の外側からイオンビームBが照射され、第1側板部1がイオンビームBの飛来方向に対して起立して傾斜する配置となっている。
このように、成膜領域27の長尺基材25と、ターゲット10と、イオンビーム照射装置28とを配置することにより、ターゲット10にイオンビームBを照射するときに、イオンビームBが転向部材23、24や手前側の長尺基材25によって遮られることがなく、奥側のターゲット10の第1側板部1に届くので、ターゲット10表面の広い領域にイオンビームBを照射でき、ターゲット10をより有効に利用できる。
【0037】
イオンビーム照射装置28は、ターゲット10に対してイオンビームを照射してターゲット10の構成粒子を叩き出すことができるものである。
イオンビーム照射装置28としては、例えば、筒状の容器の内部に、引出電極とフィラメントとArガス等の導入管とを備えて構成され、容器の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるイオンガンを使用できる。
【0038】
イオンビーム照射装置28は、図3に示すようにその中心軸をターゲット10の中央板部3の上面3Aの法線に対して傾斜角度φでもってイオンビームBを照射できるように傾斜させて対向されている。この傾斜角度φは45〜65°の範囲が好ましく、50〜60°の範囲がより好ましい。
イオンビーム照射装置28によってターゲット10に照射するイオンは、He、Ne、Ar、Xe、Kr 等の希ガスのイオン等で良い。
【0039】
なお、図3ではターゲット10が長尺基材25よりもイオンビーム照射装置28に近い側に配置されている例を示しているが、本発明はこの例に限定されない。ターゲット10が長尺基材25の真正面に配置されていてもよく、図3に示す例とは逆に、ターゲット10が長尺基材25よりもイオンビーム照射装置28に遠い側に配置されていてもよい。
【0040】
次に、図2に示すイオンビームスパッタ装置を用いて、長尺基材25上に金属酸化物の中間層などの薄膜を成膜する本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法について説明する。
【0041】
図2に示す構成のイオンビームスパッタ装置20を用いて長尺基材25の上に薄膜を成膜するには、まず、形成しようとする薄膜(例えば、金属酸化物の中間層など)と同等または近似した組成の材料の焼結体からなる図1に示す構造のターゲット10を準備する。次に、図2および図3に示すように、成膜時に成膜領域27に配置される長尺基材25に対向し、且つターゲット10の隣接部7、8が長尺基材25の長手方向に沿うようにターゲットホルダ5上に配置する。
次いで、送出リール21に巻回されている長尺基材25を引き出しながら、転向部材群23、24に成膜面が外側となるように順次巻回し、その後、長尺基材25の先端側を巻取リール22に巻き取り可能に取り付ける。
これによって、一対の転向部材群23、24に巻回された長尺基材25が、これらの転向部材群23、24を周回し、ターゲット31に対向する位置に複数列並んで移動するようになる。
【0042】
次に、角度調整機構(図示略)を調節してイオンビーム照射装置28から照射されるイオンビームBを、水平に配置されたターゲットホルダ5にセットされたターゲット10の中央板部3の法線に対して傾斜角度φで照射できるようにする。傾斜角度φは、45〜65°の範囲が好ましく、50〜60°の範囲とすることがより好ましい。傾斜角度φでイオンビームBをターゲット10に照射することにより成膜レートを向上することができる。
【0043】
続いて、長尺基材25が収納された真空チャンバ内を図示略のガス排出手段により所定の圧力に減圧した後、真空チャンバに接続された図示略のガス供給手段により、真空チャンバ内にAr等のイオンソースガスや雰囲気ガスを導入する。この際、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。
【0044】
次に、長尺基材25の温度を、所定の温度に設定する。成膜される長尺基材25の温度は、形成しようとする薄膜の材質などに合わせて適宜調整すればよい。なお、長尺基材25の温度制御は、必要に応じて、例えば、基材ホルダ26内部に備えられた加熱ヒータを作動させて、長尺基材25を加熱することにより行うことができる。
【0045】
続いて、送出リール21から長尺基材25を送り出しつつ、イオンビーム照射装置28を作動させ、イオンビームBをターゲット10に照射する。
イオンビーム照射装置28からターゲット10にイオンビームBを照射すると、図3に示すようにターゲット10の構成粒子が叩き出されたスパッタ粒子は、複数列並んで移動している長尺基材25の表面上に飛来する。
【0046】
本実施形態のイオンビームスパッタ装置20において、長尺基材25が転向部材群22、23を周回する間に成膜領域27を複数回通過することにより、長尺基材25上にスパッタ粒子が繰り返し堆積して成膜され、必要な厚さに積層される。
以上の工程により、長尺基材25上に薄膜を形成できる。
【0047】
本実施形態のイオンビームスパッタ装置20および本実施形態の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲット10を用いる構成である。そのため、図3に示す如く、ターゲット10の第1側板部1および第2側板部2が中央板部3に対して傾斜角度θで傾斜していることにより、イオンビームBの照射によりターゲット10から叩き出されたスパッタ粒子は、複数列並んで移動している長尺基材25全体の幅と略同一または若干幅広となるように長尺基材25側に飛散して成膜領域27を構成する。本実施形態のイオンビームスパッタ用ターゲット10を用いることにより、スパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度を高くできるので、図5に示す如く平板状のターゲットを使用する場合に比べて、スパッタ粒子が長尺基材25の存在しない領域まで飛散することを抑制できる。従って、スパッタ粒子を収率良く長尺基材25上に堆積させることができるので、ターゲット10を有効使用でき、且つ成膜スピードを向上させることができる。また、イオンビーム照射装置28に近い側の第2側板部2が、中央板部3の表面3Aの内側(長尺基材25側)に向いて傾斜しているため、スパッタ粒子がイオンビーム照射装置28側に飛び難いので、スパッタ粒子がイオンビーム照射装置28側に飛散してイオンビーム照射装置28のグリッド等に付着することを抑制できる。そのため、イオンビーム照射装置28のグリッドにスパッタ粒子が付着してイオンビームBが不安定になることを防ぎ、さらに、イオンビーム照射装置28の寿命を長期化できる。
【0048】
図4は、本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法に使用されるイオンビームスパッタ装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
図4に示すイオンビームスパッタ装置30は、図2に示すイオンビームスパッタ装置20の構成に加え、成膜領域27を走行する長尺基材25の法線に対し斜め方向から対向するようにアシストイオンソース源(アシストイオンビーム照射装置)31が配置された構成である、所謂イオンビームアシストスパッタ装置である。図4に示すイオンビームスパッタ装置30において、上記第1実施形態のイオンビームスパッタ装置20と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。また、図4では送出リール、巻取リール、基材ホルダを省略し要部のみを示しており、アシストイオンソース源31以外の構成は上記第1実施形態のイオンビームスパッタ装置20と同様である。
【0049】
本実施形態のイオンビームスパッタ装置30は、テープ状の長尺基材25が配置される略長方形状の成膜領域27に面するように本発明に係るターゲット10が配置され、このターゲット10に対して斜め方向に対向するようにイオンビーム照射装置28が配置されるとともに、成膜領域27の法線に対し所定の角度で(例えば45゜あるいは55゜など)斜め方向から対向するようにアシストイオンソース源31を配置し構成されている。
【0050】
本実施形態のイオンビームスパッタ装置30においても、上記第1実施形態のイオンビームスパッタ装置20と同様に、長尺基材25が走行する成膜領域27に面するように配置されたターゲット10は、その中央板部3と第1側板部1との隣接部7、および中央板部3と第2側板部2との隣接部8が、長尺基材25の長手方向に沿うように配置されている。ターゲット10は、第1側板部1および第2側板部2が、長尺基材25の表面に対して傾斜するように配置されている。イオンビーム照射装置28は、ターゲット10に対して斜め方向に対向するように配置されており、図4に示す例では、第2側板部2の外側からイオンビームBが照射され、第1側板部1がイオンビームBの飛来方向に対して起立して傾斜する配置となっている。
アシストイオンソース源31は、イオンビーム照射装置28と同等の構成をなす。
【0051】
次に、図4に示すイオンビームスパッタ装置30を用いて、長尺基材25上に金属酸化物の中間層などの薄膜を成膜する本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法であるイオンビームスパッタ方法(イオンビームアシストスパッタ方法)について説明する。以下の説明においては、長尺基材上に中間層と呼ばれる薄膜を形成して、酸化物超電導導体用基材を製造する場合を例に説明するが、この例は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【0052】
中間層とは、金属基材上に酸化物超電導体の薄膜(酸化物超電導層)を形成して酸化物超電導導体とする際に、酸化物超電導層の結晶配向性を制御し、金属基材中の金属元素の酸化物超電導層への拡散を防止するものであり、また、金属基材と酸化物超電導層との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するものである。
中間層の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。中間層は、単層でも良いし、複数層でも良い。複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0053】
このように、良好な配向性を有する中間層上に酸化物超電導層を形成すると、酸化物超電導層も中間層の配向性に整合するように結晶化する。よって良好な配向性を有する中間層上に形成された酸化物超電導層は、結晶配向性に乱れが殆どなく、酸化物超電導層を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、長尺基材25の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、長尺基材25の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、長尺基材25の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0054】
長尺基材25上に中間層を成膜して酸化物超電導導体用基材を作製する場合、長尺基材25を構成する材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に、好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えてセラミック製の基材、非晶質合金の基材などを用いても良い。また、長尺基材25としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層および酸化物超電導層を形成してもよい。
【0055】
長尺基材25上に中間層を成膜した酸化物超電導導体用基材は、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはY、Gd、La、Nd、Sm、Eu等の希土類元素)の薄膜を成膜して酸化物超電導層を形成し、酸化物超電導導体を製造するのに好適である。
【0056】
次に、図4に示すイオンビームスパッタ装置30を用いて、長尺基材25上に中間層の薄膜を成膜する本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法であるイオンビームスパッタ方法(イオンビームアシストスパッタ方法)について説明する。
まず、形成しようとする中間層の薄膜と同等または近似した組成の材料の焼結体からなる図1に示す構造のターゲット10準備する。次に、図4に示すように、成膜時に成膜領域27に配置される長尺基材25に対向し、且つターゲット10の隣接部7、8が長尺基材25の長手方向に沿うようにターゲットホルダ5上に配置する。
次いで、長尺基材25を転向部材群23、24に成膜面が外側となるように順次巻回し、一対の転向部材群23、24に巻回された長尺基材25が、これらの転向部材群23、24を周回し、ターゲット31に対向する位置に複数列並んで移動可能となるように配置する。
【0057】
次に、角度調整機構(図示略)を調節してイオンビーム照射装置28から照射されるイオンビームBを、ターゲットホルダ5にセットされたターゲット10の中央板部3の法線に対して傾斜角度φで照射できるようにする。傾斜角度φは、45〜65°の範囲が好ましく、50〜60°の範囲とすることがより好ましい。傾斜角度φでイオンビームBをターゲット10に照射することにより成膜レートを向上することができる。
さらに、角度調整機構を調節してアシストイオンソース源31から照射されるイオンを成膜領域27の法線に対し所定の角度で(例えば45゜あるいは55゜など)斜め方向からで照射できるようにアシストイオンソース源31の設置位置を調整する。
【0058】
続いて、長尺基材25が収納された真空チャンバ内を図示略のガス排出手段により所定の圧力に減圧した後、真空チャンバに接続された図示略のガス供給手段により、真空チャンバ内にAr等のイオンソースガスや雰囲気ガスを導入する。この際、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。
【0059】
次に、長尺基材25の温度を、所定の温度に設定する。成膜される長尺基材25の温度は、形成しようとする薄膜の材質などに合わせて適宜調整すればよい。なお、長尺基材25の温度制御は、必要に応じて、例えば、基材ホルダ26内部に備えられた加熱ヒータを作動させて、長尺基材25を加熱することにより行うことができる。
【0060】
続いて、送出リールから長尺基材25を送り出しつつ、図4に示すようにイオンビーム照射装置28を作動させてイオンビームBをターゲット10に照射してスパッタ粒子を叩き出し、複数列並んで移動している長尺基材25の表面上にスパッタ粒子の堆積を行うとともに、アシストイオンソース源31からイオンビームを成膜領域27の基材25に対し斜め方向所定角度から照射しつつ先のスパッタ粒子の堆積を行なう。
以上の操作によりターゲット10から発生させたスパッタ粒子を良好な結晶配向性でもって均等な膜厚で基材25の上に成膜することができ、結晶配向性に優れた目的の中間層を堆積できる。
【0061】
本実施形態のイオンビームスパッタ装置30および本実施形態の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、本発明に係るイオンビームスパッタ用ターゲット10を用いる構成である。そのため、ターゲット10の第1側板部1および第2側板部2が中央板部3に対して傾斜角度θで傾斜していることにより、イオンビームBの照射によりターゲット10から叩き出されたスパッタ粒子は、複数列並んで移動している長尺基材25全体の幅と略同一または若干幅広となるように長尺基材25側に飛散して成膜領域27を構成する。本実施形態のイオンビームスパッタ用ターゲット10を用いることにより、スパッタ粒子の飛散領域を狭く絞って、その領域におけるスパッタ粒子の密度を高くでき、スパッタ粒子が長尺基材25の存在しない領域まで飛散することを抑制できる。従って、スパッタ粒子を収率良く長尺基材25上に堆積させることができるので、ターゲット10を有効使用でき、且つ成膜スピードを向上させることができる。また、イオンビーム照射装置28に近い側の第2側板部2が、中央板部3の表面の内側(長尺基材25側)に向いて傾斜しているため、スパッタ粒子がイオンビーム照射装置28側に飛び難いので、スパッタ粒子がイオンビーム照射装置28側に飛散してイオンビーム照射装置28のグリッド等に付着することを抑制できる。そのため、イオンビーム照射装置28のグリッドにスパッタ粒子が付着してイオンビームBが不安定になることを防ぎ、さらに、イオンビーム照射装置28の寿命を長期化できる。
【0062】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
まず、上述した本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法により、長尺基材25上に中間層を形成して酸化物超電導導体用基材を作製する。次に、長尺基材25上に形成した中間層の上に、酸化物超電導層を形成する。
【0063】
酸化物超電導層は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
【0064】
酸化物超電導層は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で形成でき、なかでもレーザ蒸着法で形成することが好ましい。
以上の工程により、長尺基材25上に形成された中間層の上に酸化物超電導層を形成して、酸化物超電導線材を製造できる。
なお、酸化物超電層を形成した後、必要に応じて、酸化物超電導層上に銀層や銅層などの良導電性の材料からなる層を形成してもよい。このような良導電性の材料からなる層は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、酸化物超電導層の電流が転流するバイパスとして機能するため、酸化物超電導線材をより安定化することができる。
【0065】
以上、本発明のイオンビームスパッタ用ターゲット、酸化物超電導導体用基材の製造方法、イオンビームスパッタ装置および酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態について説明したが、上記実施形態において、成膜装置を構成する各部、成膜方法などは一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1:製造例1〜5」
図1に示すターゲットの傾斜角度θを0°〜40°まで変化させた5種類のターゲットを作成し、図2に示すイオンビームスパッタ装置を用い、幅5mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製のテープ状の長尺基材上に、Alの薄膜を成膜した。
ターゲットは、Alよりなる幅60mm長さ80mm厚さ5mmの板状の3枚のターゲットを準備し、長辺が隣接するように3枚並べ、両脇の板状ターゲット(第1側板部および第2側板部)を中央のターゲット(中央板部)に対し、傾斜角度θ=0°、10°、20°、30°、40°で傾斜させて配置することにより作製した。
【0067】
長尺基材はレーン数5となるように一対の転向部材間に複数回巻回し、成膜領域において複数列に並んだ長尺基材全体の幅は8cmであった。
ターゲットと、成膜領域の長尺基材と、イオンビーム照射装置とは、図3に示す位置関係となるように配置した。
ターゲットは、対向する長尺基材とターゲット中央板部との距離が17cmとなるように設置した。また、ターゲットは、ターゲットの幅方向中心位置の方が、成膜領域の長尺基材全体の幅方向中心位置よりも、イオンビーム照射装置側に3cm近くなるように配置した。
【0068】
イオンビーム照射装置は、ターゲットからの水平距離9cm、ターゲットの中央板部表面からの高さ12cmの位置に配置し、750mA、1500Vで、ターゲットの中央板部の法線方向に対して50°の傾斜角度でイオンビームを照射した。
また、成膜は、30℃(室温)で行った。
ターゲットの傾斜角度θを変化させた以外は同一条件で成膜を行い、30分間成膜した後の膜厚を測定することにより、各製造例におけるスパッタ粒子の収率を求め、傾斜角度θ=0°の場合と比較した倍率(各製造例の収率/θ=0°の収率)を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1の結果より、第1側板部および第2側板部を中央板部に対して傾斜角度θ=10°〜30°の範囲で傾斜させることより、傾斜角度θ=0であり板状のターゲットを使用した製造例1よりもスパッタ粒子の収率が向上していた。
【符号の説明】
【0071】
1…第1側板部、2…第2側板部、3…中央板部、5…ターゲットホルダ、7、8…隣接部、10…イオンビームスパッタ用ターゲット、20…イオンビームスパッタ装置、21…送出リール、22…巻取リール、23、24…転向部材、25…長尺基材、26…基材ホルダ、27…成膜領域、28…イオンビーム照射装置、30…イオンビームスパッタ装置、31…アシストイオン源(アシストイオンビーム照射装置)、B…イオンビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を基材上に堆積させて、該基材上に成膜するイオンビームスパッタ法に用いられるターゲットであって、
中央板部と、この中央板部に隣接して配置された側板部を備え、
前記側板部は、前記中央板部のイオンビームが照射される面の内側向きに傾斜されてなることを特徴とするイオンビームスパッタ用ターゲット。
【請求項2】
前記中央板部表面に対する前記側板部表面の傾斜角度が、10°以上30°以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のイオンビームスパッタ用ターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイオンビームスパッタ用ターゲットを用い、前記ターゲットの前記側板部が基材に対して傾斜するように該ターゲットを配置し、
イオンビームを前記ターゲットに照射し、該ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子を前記基材上に堆積させて、前記基材上に金属酸化物の中間層を形成することを特徴とする酸化物超電導導体用基材の製造方法。
【請求項4】
前記基材の移動方向を転向させる転向部材を少なくとも一対、対向配置するとともに、
これらの転向部材間に前記基材が複数の隣接するレーンを構成するように前記基材を巻回し、
該転向部材間にて複数のレーンを構成した状態の前記基材の表面に対して前記ターゲットの前記側板部が傾斜するように該ターゲットを配置し、
前記基材を前記転向部材間を周回させることにより前記ターゲットの構成粒子の堆積領域を複数回通過させて、該堆積領域を通過毎に前記基材上に前記構成粒子を堆積させて前記中間層を形成することを特徴とする請求項3に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットの前記中央板部と前記側板部との隣接部が、前記転向部材間にて複数レーンを構成している前記基材の長手方向に沿うように前記ターゲットを配置することを特徴とする請求項4に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
【請求項6】
前記堆積領域の前記基材に対して斜め方向からアシストイオンビームを照射することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法により酸化物超電導導体用基材を形成した後に、前記基材上の前記中間層の上に酸化物超電導層を形成することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201927(P2012−201927A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67826(P2011−67826)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】