インダクタンス可変型共振回路及びそれを用いた放送用受信機。
【課題】 インダクタンス可変型共振回路を実現する手段を提供し、主に車載用放送受信機の感度の向上及び妨害波除去能力の向上を解決する為の手段を提供する。
【解決手段】 増幅器と誘導性素子を組み合わせ、増幅器の利得を+1未満の範囲で電子的に可変することによって、誘導性素子のインダクタンスを可変するLC共振回路を提供し、そのLC共振回路を、アンテナ容量が存在しても所望の周波数帯域を可変することが可能な同調回路及び局部信号発生器の発振器として利用することによって解決する。
【解決手段】 増幅器と誘導性素子を組み合わせ、増幅器の利得を+1未満の範囲で電子的に可変することによって、誘導性素子のインダクタンスを可変するLC共振回路を提供し、そのLC共振回路を、アンテナ容量が存在しても所望の周波数帯域を可変することが可能な同調回路及び局部信号発生器の発振器として利用することによって解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送用受信機で、小型、高感度、高選択度を実現させるために障害になっていた要素技術で、低電圧で広範囲に可変できるLC共振回路とそれを用いた放送用受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用AM放送受信機で最も障害になっていたものは、車載用アンテナ特有の条件の為に、受信機のアンテナ入力段に受信周波数に応じて可変する同調回路を設けることが出来ないことであった。
【0003】
さらに、LWからSW帯をカバーする広帯域放送用受信機においては、アンテナ入力段ばかりでなく、RF段にも同調回路も設けることが出来ないことであった。
【0004】
従来の技術では、LC共振回路は固定インダクタンスと可変容量ダイオードで構成されていた。可変容量ダイオードの容量可変範囲は0〜8Vの電圧で500pFから25pFの20倍の範囲であり、これを周波数可変範囲に換算すると約4.5倍になる。この変化率であれば少なくてもAM受信機の周波数である522KHzから1,710KHzには十分に対応できるものであった。
【0005】
しかし、車載用アンテナは受信周波数の波長に比べて極めて短いエレメントである為に高インピーダンスであり、それを1mの同軸ケーブルを介して受信機に接続される仕様になっていることから図1の等価回路になる。
【0006】
図1において、1はアンテナ起電力、2はアンテナ信号源抵抗として75Ω、3はアンテナ容量15pF、4はケーブル容量65pFである。ラジオ受信機と車載用ラジオアンテナとの互換性を持たせる為に、国内外の業界で取り決められた規格である。
【0007】
これは、受信機のフロントエンドの同調回路から見ると、アンテナ容量15pFとケーブル容量65pFの合計80pFが付加していることになり、等価的に可変容量の範囲は105pFから580pFになって、20倍からわずか5倍の範囲に減ることになる。
【0008】
これを周波数の可変範囲に換算すると実質的に約2.3倍に圧縮されてしまい、アンテナ段の同調回路はAM受信機の周波数にも対応出来なかった。
【0009】
この問題を解決する為に、図2に示すように複数のコイルを設け、受信周波数に応じてこれらのコイルを切り替え、周波数可変範囲を広げる方法を用いていた。
【0010】
図2において、1と2はコイル、3は可変容量ダイオード、4はスイッチ、5はスイッチの制御信号、6はバッファー抵抗、7はPLLシンセサイザーからの周波数制御電圧である。
【0011】
コイル切替え方式は、例えばフロントエンドに3個の同調回路を有し、局部信号発生器に1個の発振回路を有していて、それぞれ2個のコイルを切換えながら周波数対応するとすれば、合計で8個も必要であり、必然的に大型化してしまった。
【0012】
しかし、車にカセット、CD、MD、カーナビゲーションなど様々なオプションが搭載される時代になると、受信機も小型化を要求され、コイル切り替え方式は時代に合わない方法として実用化されなくなってきた。
【0013】
その結果、受信機にとって最も基本的なことであるアンテナ段の同調回路を放棄し、アンテナからの受信信号をただ単に高インピーダンスRFアンプで受けるという形にならざるを得なかった。その結果、受信機にとって最も重要な性能である高感度で、高い妨害波除去能力を犠牲にしていた。
【0014】
従来の典型的な車載用AM放送受信機のフロントエンドを図3に示す。1は図1に示す車載用アンテナの等価回路、2はRFアンプ、3と4は同調回路、5はRFミキサー、6は局部信号発生器、7は中間周波数信号出力、8はPLLシンセサイザーから供給される可変容量ダイオードの同調電圧、9は固定チョークコイルで、アンテナ容量15pFとケーブル容量65pFの合計80pFとでおよそ300KHz付近に共振点を有し、高圧送電線から受ける50、60Hzの電源ハムを減衰させる目的で挿入されている。
【0015】
このように、従来の車載用AM放送受信機では周波数可変型同調回路はRFアンプの後段にはあるが、前段には全く無い。従ってアンテナ段は、図4に示すように、妨害波に対して全く無防備な特性となっており、これが重大な欠点になっている。
【0016】
アンテナ段に受信周波数に応じて可変する同調回路が無い為に起きる損失は、15pFと65pFの容量分割によって失われる14.5dBの損失の他に、同調回路のQによって得られる通常の利得に対し、合計で20dB以上もの大きな値になる。
【0017】
アンテナ段での高い妨害波除去能力を持つことを放棄した従来の受信機は、強い妨害波が存在するとRFアンプの過負荷による混信を起こす。それを避ける為にAGC回路でアンテナ段を強く減衰し、その結果希望波も同時に減衰するといういわゆる感度抑圧を起こす受信機になっていた。
【0018】
また、近年欧州向けの車載用放送受信機は、MW帯のAM放送だけではなくLW帯からSW帯までの広帯域放送受信が主流になってきている。
【0019】
しかし、LW帯からSW帯までの広帯域放送受信機は受信周波数範囲が150KHzから22MHzまであり、周波数比で150倍近くあるので、これを可変容量比で換算すると2万倍以上になり、とても可変容量ダイオードで同調回路及び発振回路を実現することは不可能であった。
【0020】
従って、LW帯からSW帯までの広帯域放送受信機ではアンテナ段のみならずRF段にも同調回路を設けることが出来ない放送受信機になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、アンテナ段やRF段に高選択度を持った同調回路を有し、高感度で高い妨害波除去能力を持った放送用受信機を実現する手段を提供し、従来の受信機が持つ欠点を解決するものである。
【0022】
請求項1記載の発明は、電子的に利得を可変できる増幅器とコイル及びコンデンサーを組み合わせ、増幅器の電圧利得を+1未満の範囲で可変することにより、低電圧で広帯域に可変可能なインダクタンス可変型共振回路を提供することにある。
【0023】
請求項2記載の発明は、前記請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を放送用受信機のフロントエンドに利用して高感度で高い妨害波除去能力を有する受信機を実現する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路について、その原理を図5に示す回路図で説明する。
【0025】
図5において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低い、且つ電子的に電圧利得Gが+1未満の範囲で可変できる増幅器、4はPLLシンセサイザーからの周波数制御信号である。
【0026】
ここで、増幅器の入力インピーダンスは無限大で、出力インピーダンスは零とすれば、図5の回路は図6の回路と等価になる。本発明の基本となるインダクタンス可変型共振回路の原理を図5及び図6に基づいて説明する。
【0027】
コンデンサーCに流れる電流は
【数1】
であり、コイルLに流れる電流は
【数2】
となる。
【0028】
従って、並列共振回路のアドミタンスは次式で表される。
【数3】
ここで
【数4】
である。
【0029】
数式3から明らかなように、図6に示す回路は図7と等価な並列共振回路であることが証明される。図7において、1はインダクタンスが数式4に示されるL′のコイルで、2は図5の2と同じキャパシタンスのコンデンサーである。
【0030】
また、外部負荷又は利得可変アンプの入力インピーダンスが有限である場合の等価回路を図8に示す。実際はこの場合になる。図8において、1はインダクタンスがL′のコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は抵抗値がRの抵抗である。
【0031】
固定インダクタンスLと固定キャパシタンスCで共振する角周波数をω0とすれば、インダクタンス可変型共振回路の共振角周波数ωrは
【数5】
【数6】
で与えられ、増幅器の利得を+1未満の範囲で可変することによってω0中心にして、無限小から無限大の角周波数まで可変できる。
【0032】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路は、増幅器を含む帰還回路を形成する。帰還回路は帰還路の位相対振幅特性が不適切であれば不安定で発振する。しかし、本発明のインダクタンス可変型共振回路は安定な帰還回路であることを、ナイキストの判定法で証明する。
【0033】
図9において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は抵抗値がRの負荷抵抗、4は利得Gが+1未満の利得可変増幅器である。帰還路の伝達関数β及びループ利得G・βは次式で表される。
【数7】
【数8】
ここで、ループ利得G・βのナイキスト軌跡を求めると図10になる。このナイキスト軌跡は、増幅器の利得Gが+1未満であるから点(1,j0)を内側に囲まない。従って、このインダクタンス可変型共振回路は安定である。
【0034】
これは極めて重要な発見で、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路が、帰還利得が+1を越えるにもかかわらず安定な系であることが証明された。
【0035】
しかも、このインダクタンス可変型共振回路は、低電圧でも広帯域に周波数を可変することが可能である。これを、
0≦G<+1
の範囲で増幅器の利得を容易に可変できる図11の実施例を使って説明する。
【0036】
図11において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低く、利得を0から+1未満の範囲で可変できる増幅器、30は31のトランジスターと組み合わせて利得が+1の前置増幅器、32は33のトランジスターと組み合わせて利得が+1の後置増幅器、34、35及び36は定電流源、37及び38はカレントミラー回路、39及び40は差動回路、41は定電圧源、42及び43は増幅器3の最大利得を決める抵抗、44は後置増幅器のベース電流による直流オフセットを補償する抵抗、45は増幅器3の利得制御信号入力端子である。
【0037】
図11において、トランジスターの電流増幅率は十分大きく、抵抗42、43は同じ抵抗値Rであるとすれば、端子45に入力される制御信号により増幅器の利得を0から+1まで可変することができ、共振周波数をω0から無限小の角周波数まで可変できることを以下に数式で証明する。
【0038】
前置増幅器30の+端子の信号はトランジスター31のエミッターに現れるから、42と43の抵抗値をRとすれば、31のトランジスターのコレクターに流れる信号電流は
【数9】
となる。
【0039】
この信号電流はカレントミラー回路37を経て差動回路39によってi1とi2に分流する。即ち
【数10】
【数11】
である。ここで
【数12】
であり、Vidは利得制御電圧、VTはデバイスのサーマル電圧で通常26mVである。
【0040】
従ってi1をi0で表すと
【数13】
であるから、利得Gは
【数14】
となって、数式5から共振角周波数は
【数15】
となる。
【0041】
これを計算したものを図12に示す。この計算範囲では
【数16】
となって、LW帯の150kHzからSW帯の4.8MHzまで可変可能である。
【0042】
さらに範囲を広げて
【数17】
で変化率を計算してみると
【数18】
となり、LW帯の150KHzからSW帯の22.2MHzまで制御電圧が±260mVの範囲で可変できることになる。
【0043】
これは非常に注目すべきことで、本発明のインダクタンス可変型共振回路は、低電圧でも従来の可変容量ダイオードを利用した共振回路より可変範囲がはるかに広く取れること発見したものである。
【0044】
また本発明は、これを利用すれば、今まで同調回路を設けることが出来なかったLW帯からSW帯に至る広帯域放送受信機にも同調回路を設けることが可能で、高感度で妨害波除去能力を有する放送用受信機を実現することが出来ることを発見したものである。
【0045】
また、同調回路はフルタップ又は二次結合を要求されることがある。図13にフルタップ結合、図14に二次結合の実施例を示す。インダクタンス可変型共振器は利得可変増幅器の後置増幅器の出力からバイアス電圧を供給することが可能であるから、そのままトランジスターのコレクターに接続することができる。
【0046】
インダクタンス可変型共振回路に使用する利得可変増幅器については、その入力インピーダンスがコンデンサーのインピーダンスと比べて十分に高くない場合は、抵抗がコンデンサーと並列に接続された状態と等価になり、また出力インピーダンスがコイルのインピーダンスに比べて十分に低くない場合は、コイルと直列に抵抗が接続された状態と等価になり、共振回路の無負荷Qがダンプされて感度向上、妨害波除去能力向上の障害になる。従って負帰還増幅器などを用いることが望ましい。
【0047】
この共振回路に使用する利得可変増幅器の直線性が悪い場合、過負荷受信入力があると同調回路で変調歪を発生する。従って、直線性の良い利得可変増幅器を使うことが必要である。図11に示す実施例では、演算増幅器を含めた帰還型の利得可変回路を使用しているので直線性に優れている。
【0048】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を発振回路に利用した実施例を図15に示す。図15において、1は図11の実施例に示す請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路、2は差動増幅器である。
【0049】
また、利得可変増幅器の前置増幅器はAGC利得制御付きRFアンプとしても兼用出来る利点がある。図16にその実施例を示す。1はコイル、2はコンデンサー、3は図11に示すものと同じ利得可変増幅器、30は利得制御信号入力端子、4はAGC利得制御付RFアンプ、40はトランジスター、41はAGC信号によって利得制御を行う差動回路、42はAGC利得制御電圧の入力端子、43はコレクター出力端子である。
【0050】
さらに利得可変増幅器の前置増幅器は、RFミキサーとして兼用することが出来る利点がある。図17にその実施例を示す。1はコイル、2はコンデンサー、3は図11に示すものと同じ利得可変増幅器、30は利得制御信号入力端子、4はRFミキサー、40はトランジスター、41は局部発生信号によってスイッチング動作する差動回路、42はIF同調回路、43はIF出力端子である。
【0051】
図16及び図17の実施例においては、トランジスター40が前置増幅器の出力に並列接続される為、抵抗値はR/2となる。
【0052】
請求項2記載の放送用受信機は、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路をフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に利用したもので、従来の放送用受信機の持つ欠点を根本的に解決出来るものである。
【0053】
図18は従来の車載用AM放送受信機を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、3はRFアンプ、4、6は可変容量ダイオードを用いた同調回路、7はRFミキサー、8は中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、18はフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いる可変容量ダイオードの制御電圧、19は高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルである。
【0054】
従来の車載用AM受信機ではRF段に同調回路を設けることは出来るが、アンテナ段には周波数可変型同調回路を設けることは出来ない。
【0055】
図19は従来のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、3はRFアンプ、4はLPF、5は第一中間周波数に変換するRFミキサー、6は第一中間周波数の水晶フィルター、7は第二中間周波数に変換するRFミキサー、8は第二中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は第一局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、19は高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイル、20第二局部信号発生器である。
【0056】
通常第一中間周波数としては10.7MHzが用いられ、第二中間周波数としてはAM放送受信機と同様に450KHzが用いられるので、20の第二局部信号発生器としては10.25MHzが選ばれる。
【0057】
従来のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機では、可変容量ダイオードに制限されて、アンテナ段のみならずRF段にも同調回路を設けることが出来なかった。
【0058】
図20は請求項2記載のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機の実施例を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、2、4及び6は請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路、3、5はRFアンプ、7はRFミキサー、8は中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、18はフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いる利得可変増幅器の制御電圧である。
【0059】
本実施例では、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用することによってアンテナ段やRF段にも同調回路を設けることが可能である。
【発明の効果】
【0060】
昔の機械式μ同調方式時代には、アンテナ段に同調回路を設けることが出来たので受信機の感度は良好であった。しかし、可変容量ダイオードによる電子同調方式に変わった時からアンテナ段に同調回路を設けることが出来なくなり、受信機の感度は劣化せざるを得なかった。
【0061】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路はこの問題を解決し、再びアンテナ段に同調回路を設けることが出来るので、全ての周波数で約20dB以上の感度向上が期待できる。
【0062】
アンテナ入力段に同調回路を持つことにより希望波と非希望波を分離でき、アンテナ段の過負荷による混信を避けることが出来る。さらに、従来必要であった図3における9の高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルも不要になる。
【0063】
従来のコンデンサーのキャパシタンスを可変する並列共振を利用した同調回路は、バンド幅が、周波数の高い範囲では広くなり、低い範囲では狭くなるという周波数特性を持つ欠点があったが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路は、バンド幅が一定で変化するという長所を持っている。以下にそれを数式で証明する。
【0064】
図8において、同調回路の良さをQ、−3dBの角周波数バンド幅をBW、同調角周波数をωTとすると
【数19】
であるから
【数20】
となる。
【0065】
数式20で示すように、従来の可変キャパシタンスと固定インダクタンスを組み合わせた並列共振の同調回路ではバンド幅は同調角周波数の二乗に比例して大きく変化するが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路はC、Rで固定され、バンド幅が同調角周波数に無関係に一定となる。
【0066】
これは放送用受信機にとって極めて重要な要素である。何故ならば、どの放送周波数を受信しても妨害波排除能力は変わらないからである。
【0067】
世界の大都市におけるAM放送の周波数配置と送信電力の関係を見ると、放送周波数が低い放送局は送信電力が大きく、放送周波数が高い放送局は送信電力が小さい。
【0068】
ところが、従来のコンデンサー可変型の同調回路のバンド幅は高い周波数帯で広くなるので、高い周波数の放送波を受信する場合、低い周波数の大電力送信局の放送波を十分に排除出来ない。
【0069】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いたアンテナ段の同調回路はその点で極めて効果的に機能する。
【0070】
従来は、RFアンプとして直線性の良いFETを別途必要であったが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の前置増幅器を共用したAGC利得制御回路付きアンプは負帰還によって直線性に優れ、複数の強い妨害波に対して変調歪を起こし難い増幅器になっている。
【0071】
RFミキサーについても、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の前置増幅器を共用した負帰還型RFミキサーは直線性に優れ、複数の強い妨害波に対して変調歪を起こすことは無い。
【0072】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用すれば、集積回路の中の利得可変増幅器で周波数可変型同調回路を構成することが出来るので、従来必要であった可変容量ダイオードが不要になり、RFアンプも別途FETを使う必要がなく、さらに高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルも不要になるなど、大幅なコストダウンが期待できる。
【実施例】
【0073】
図11に、利得が0から+1未満まで可変できる増幅器を用いた請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の実施例を示す。
【0074】
図13に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路のフルタップ結合の実施例を示す。
【0075】
図14に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路の二次結合の実施例を示す。
【0076】
図15に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた局部信号発生器の発振回路の実施例を示す。
【0077】
図20に、請求項2記載の放送用受信機の実施例を示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、特に車載用放送受信機に利用可能性が極めて高いもので、従来の受信機が持つアンテナ段の欠点を根本的に解決するものである。
【0079】
また、家庭用及び携帯用放送受信機においても本発明は利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】 車載用アンテナの等価回路を示す図
【図2】 従来のコイル切替え方式を示す図
【図3】 従来の代表的な車載用AM放送受信機のフロントエンドを示す図
【図4】 従来の代表的なアンテナ段の特性を示す図
【図5】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の基本原理を示す図
【図6】 図5に示す回路の等価回路図
【図7】 図6に示す回路の等価回路図
【図8】 図7に示す共振回路に外部負荷が加わった図
【図9】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の帰還路を示す図
【図10】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路のナイキスト軌跡図
【図11】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路に使用する利得が0から+1未満の範囲で可変可能な増幅器の実施例を示す図
【図12】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の周波数可変範囲の一例を示す図
【図13】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路のフルタップ結合の実施例を示す図
【図14】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路の二次結合の実施例を示す図
【図15】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した発振回路を示す図
【図16】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の利得可変増幅器の前置増幅器をAGC利得制御付きRFアンプと兼用する実施例を示す図
【図17】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の利得可変増幅器の前置増幅器をRFミキサーと兼用する実施例を示す図
【図18】 従来の代表的な車載用AM放送受信機を示す図
【図19】 従来の代表的なLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機を示す図
【図20】 請求項2記載の車載用放送受信機の実施例を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送用受信機で、小型、高感度、高選択度を実現させるために障害になっていた要素技術で、低電圧で広範囲に可変できるLC共振回路とそれを用いた放送用受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用AM放送受信機で最も障害になっていたものは、車載用アンテナ特有の条件の為に、受信機のアンテナ入力段に受信周波数に応じて可変する同調回路を設けることが出来ないことであった。
【0003】
さらに、LWからSW帯をカバーする広帯域放送用受信機においては、アンテナ入力段ばかりでなく、RF段にも同調回路も設けることが出来ないことであった。
【0004】
従来の技術では、LC共振回路は固定インダクタンスと可変容量ダイオードで構成されていた。可変容量ダイオードの容量可変範囲は0〜8Vの電圧で500pFから25pFの20倍の範囲であり、これを周波数可変範囲に換算すると約4.5倍になる。この変化率であれば少なくてもAM受信機の周波数である522KHzから1,710KHzには十分に対応できるものであった。
【0005】
しかし、車載用アンテナは受信周波数の波長に比べて極めて短いエレメントである為に高インピーダンスであり、それを1mの同軸ケーブルを介して受信機に接続される仕様になっていることから図1の等価回路になる。
【0006】
図1において、1はアンテナ起電力、2はアンテナ信号源抵抗として75Ω、3はアンテナ容量15pF、4はケーブル容量65pFである。ラジオ受信機と車載用ラジオアンテナとの互換性を持たせる為に、国内外の業界で取り決められた規格である。
【0007】
これは、受信機のフロントエンドの同調回路から見ると、アンテナ容量15pFとケーブル容量65pFの合計80pFが付加していることになり、等価的に可変容量の範囲は105pFから580pFになって、20倍からわずか5倍の範囲に減ることになる。
【0008】
これを周波数の可変範囲に換算すると実質的に約2.3倍に圧縮されてしまい、アンテナ段の同調回路はAM受信機の周波数にも対応出来なかった。
【0009】
この問題を解決する為に、図2に示すように複数のコイルを設け、受信周波数に応じてこれらのコイルを切り替え、周波数可変範囲を広げる方法を用いていた。
【0010】
図2において、1と2はコイル、3は可変容量ダイオード、4はスイッチ、5はスイッチの制御信号、6はバッファー抵抗、7はPLLシンセサイザーからの周波数制御電圧である。
【0011】
コイル切替え方式は、例えばフロントエンドに3個の同調回路を有し、局部信号発生器に1個の発振回路を有していて、それぞれ2個のコイルを切換えながら周波数対応するとすれば、合計で8個も必要であり、必然的に大型化してしまった。
【0012】
しかし、車にカセット、CD、MD、カーナビゲーションなど様々なオプションが搭載される時代になると、受信機も小型化を要求され、コイル切り替え方式は時代に合わない方法として実用化されなくなってきた。
【0013】
その結果、受信機にとって最も基本的なことであるアンテナ段の同調回路を放棄し、アンテナからの受信信号をただ単に高インピーダンスRFアンプで受けるという形にならざるを得なかった。その結果、受信機にとって最も重要な性能である高感度で、高い妨害波除去能力を犠牲にしていた。
【0014】
従来の典型的な車載用AM放送受信機のフロントエンドを図3に示す。1は図1に示す車載用アンテナの等価回路、2はRFアンプ、3と4は同調回路、5はRFミキサー、6は局部信号発生器、7は中間周波数信号出力、8はPLLシンセサイザーから供給される可変容量ダイオードの同調電圧、9は固定チョークコイルで、アンテナ容量15pFとケーブル容量65pFの合計80pFとでおよそ300KHz付近に共振点を有し、高圧送電線から受ける50、60Hzの電源ハムを減衰させる目的で挿入されている。
【0015】
このように、従来の車載用AM放送受信機では周波数可変型同調回路はRFアンプの後段にはあるが、前段には全く無い。従ってアンテナ段は、図4に示すように、妨害波に対して全く無防備な特性となっており、これが重大な欠点になっている。
【0016】
アンテナ段に受信周波数に応じて可変する同調回路が無い為に起きる損失は、15pFと65pFの容量分割によって失われる14.5dBの損失の他に、同調回路のQによって得られる通常の利得に対し、合計で20dB以上もの大きな値になる。
【0017】
アンテナ段での高い妨害波除去能力を持つことを放棄した従来の受信機は、強い妨害波が存在するとRFアンプの過負荷による混信を起こす。それを避ける為にAGC回路でアンテナ段を強く減衰し、その結果希望波も同時に減衰するといういわゆる感度抑圧を起こす受信機になっていた。
【0018】
また、近年欧州向けの車載用放送受信機は、MW帯のAM放送だけではなくLW帯からSW帯までの広帯域放送受信が主流になってきている。
【0019】
しかし、LW帯からSW帯までの広帯域放送受信機は受信周波数範囲が150KHzから22MHzまであり、周波数比で150倍近くあるので、これを可変容量比で換算すると2万倍以上になり、とても可変容量ダイオードで同調回路及び発振回路を実現することは不可能であった。
【0020】
従って、LW帯からSW帯までの広帯域放送受信機ではアンテナ段のみならずRF段にも同調回路を設けることが出来ない放送受信機になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、アンテナ段やRF段に高選択度を持った同調回路を有し、高感度で高い妨害波除去能力を持った放送用受信機を実現する手段を提供し、従来の受信機が持つ欠点を解決するものである。
【0022】
請求項1記載の発明は、電子的に利得を可変できる増幅器とコイル及びコンデンサーを組み合わせ、増幅器の電圧利得を+1未満の範囲で可変することにより、低電圧で広帯域に可変可能なインダクタンス可変型共振回路を提供することにある。
【0023】
請求項2記載の発明は、前記請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を放送用受信機のフロントエンドに利用して高感度で高い妨害波除去能力を有する受信機を実現する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路について、その原理を図5に示す回路図で説明する。
【0025】
図5において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低い、且つ電子的に電圧利得Gが+1未満の範囲で可変できる増幅器、4はPLLシンセサイザーからの周波数制御信号である。
【0026】
ここで、増幅器の入力インピーダンスは無限大で、出力インピーダンスは零とすれば、図5の回路は図6の回路と等価になる。本発明の基本となるインダクタンス可変型共振回路の原理を図5及び図6に基づいて説明する。
【0027】
コンデンサーCに流れる電流は
【数1】
であり、コイルLに流れる電流は
【数2】
となる。
【0028】
従って、並列共振回路のアドミタンスは次式で表される。
【数3】
ここで
【数4】
である。
【0029】
数式3から明らかなように、図6に示す回路は図7と等価な並列共振回路であることが証明される。図7において、1はインダクタンスが数式4に示されるL′のコイルで、2は図5の2と同じキャパシタンスのコンデンサーである。
【0030】
また、外部負荷又は利得可変アンプの入力インピーダンスが有限である場合の等価回路を図8に示す。実際はこの場合になる。図8において、1はインダクタンスがL′のコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は抵抗値がRの抵抗である。
【0031】
固定インダクタンスLと固定キャパシタンスCで共振する角周波数をω0とすれば、インダクタンス可変型共振回路の共振角周波数ωrは
【数5】
【数6】
で与えられ、増幅器の利得を+1未満の範囲で可変することによってω0中心にして、無限小から無限大の角周波数まで可変できる。
【0032】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路は、増幅器を含む帰還回路を形成する。帰還回路は帰還路の位相対振幅特性が不適切であれば不安定で発振する。しかし、本発明のインダクタンス可変型共振回路は安定な帰還回路であることを、ナイキストの判定法で証明する。
【0033】
図9において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は抵抗値がRの負荷抵抗、4は利得Gが+1未満の利得可変増幅器である。帰還路の伝達関数β及びループ利得G・βは次式で表される。
【数7】
【数8】
ここで、ループ利得G・βのナイキスト軌跡を求めると図10になる。このナイキスト軌跡は、増幅器の利得Gが+1未満であるから点(1,j0)を内側に囲まない。従って、このインダクタンス可変型共振回路は安定である。
【0034】
これは極めて重要な発見で、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路が、帰還利得が+1を越えるにもかかわらず安定な系であることが証明された。
【0035】
しかも、このインダクタンス可変型共振回路は、低電圧でも広帯域に周波数を可変することが可能である。これを、
0≦G<+1
の範囲で増幅器の利得を容易に可変できる図11の実施例を使って説明する。
【0036】
図11において、1はインダクタンスがLのコイル、2はキャパシタンスがCのコンデンサー、3は入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低く、利得を0から+1未満の範囲で可変できる増幅器、30は31のトランジスターと組み合わせて利得が+1の前置増幅器、32は33のトランジスターと組み合わせて利得が+1の後置増幅器、34、35及び36は定電流源、37及び38はカレントミラー回路、39及び40は差動回路、41は定電圧源、42及び43は増幅器3の最大利得を決める抵抗、44は後置増幅器のベース電流による直流オフセットを補償する抵抗、45は増幅器3の利得制御信号入力端子である。
【0037】
図11において、トランジスターの電流増幅率は十分大きく、抵抗42、43は同じ抵抗値Rであるとすれば、端子45に入力される制御信号により増幅器の利得を0から+1まで可変することができ、共振周波数をω0から無限小の角周波数まで可変できることを以下に数式で証明する。
【0038】
前置増幅器30の+端子の信号はトランジスター31のエミッターに現れるから、42と43の抵抗値をRとすれば、31のトランジスターのコレクターに流れる信号電流は
【数9】
となる。
【0039】
この信号電流はカレントミラー回路37を経て差動回路39によってi1とi2に分流する。即ち
【数10】
【数11】
である。ここで
【数12】
であり、Vidは利得制御電圧、VTはデバイスのサーマル電圧で通常26mVである。
【0040】
従ってi1をi0で表すと
【数13】
であるから、利得Gは
【数14】
となって、数式5から共振角周波数は
【数15】
となる。
【0041】
これを計算したものを図12に示す。この計算範囲では
【数16】
となって、LW帯の150kHzからSW帯の4.8MHzまで可変可能である。
【0042】
さらに範囲を広げて
【数17】
で変化率を計算してみると
【数18】
となり、LW帯の150KHzからSW帯の22.2MHzまで制御電圧が±260mVの範囲で可変できることになる。
【0043】
これは非常に注目すべきことで、本発明のインダクタンス可変型共振回路は、低電圧でも従来の可変容量ダイオードを利用した共振回路より可変範囲がはるかに広く取れること発見したものである。
【0044】
また本発明は、これを利用すれば、今まで同調回路を設けることが出来なかったLW帯からSW帯に至る広帯域放送受信機にも同調回路を設けることが可能で、高感度で妨害波除去能力を有する放送用受信機を実現することが出来ることを発見したものである。
【0045】
また、同調回路はフルタップ又は二次結合を要求されることがある。図13にフルタップ結合、図14に二次結合の実施例を示す。インダクタンス可変型共振器は利得可変増幅器の後置増幅器の出力からバイアス電圧を供給することが可能であるから、そのままトランジスターのコレクターに接続することができる。
【0046】
インダクタンス可変型共振回路に使用する利得可変増幅器については、その入力インピーダンスがコンデンサーのインピーダンスと比べて十分に高くない場合は、抵抗がコンデンサーと並列に接続された状態と等価になり、また出力インピーダンスがコイルのインピーダンスに比べて十分に低くない場合は、コイルと直列に抵抗が接続された状態と等価になり、共振回路の無負荷Qがダンプされて感度向上、妨害波除去能力向上の障害になる。従って負帰還増幅器などを用いることが望ましい。
【0047】
この共振回路に使用する利得可変増幅器の直線性が悪い場合、過負荷受信入力があると同調回路で変調歪を発生する。従って、直線性の良い利得可変増幅器を使うことが必要である。図11に示す実施例では、演算増幅器を含めた帰還型の利得可変回路を使用しているので直線性に優れている。
【0048】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を発振回路に利用した実施例を図15に示す。図15において、1は図11の実施例に示す請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路、2は差動増幅器である。
【0049】
また、利得可変増幅器の前置増幅器はAGC利得制御付きRFアンプとしても兼用出来る利点がある。図16にその実施例を示す。1はコイル、2はコンデンサー、3は図11に示すものと同じ利得可変増幅器、30は利得制御信号入力端子、4はAGC利得制御付RFアンプ、40はトランジスター、41はAGC信号によって利得制御を行う差動回路、42はAGC利得制御電圧の入力端子、43はコレクター出力端子である。
【0050】
さらに利得可変増幅器の前置増幅器は、RFミキサーとして兼用することが出来る利点がある。図17にその実施例を示す。1はコイル、2はコンデンサー、3は図11に示すものと同じ利得可変増幅器、30は利得制御信号入力端子、4はRFミキサー、40はトランジスター、41は局部発生信号によってスイッチング動作する差動回路、42はIF同調回路、43はIF出力端子である。
【0051】
図16及び図17の実施例においては、トランジスター40が前置増幅器の出力に並列接続される為、抵抗値はR/2となる。
【0052】
請求項2記載の放送用受信機は、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路をフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に利用したもので、従来の放送用受信機の持つ欠点を根本的に解決出来るものである。
【0053】
図18は従来の車載用AM放送受信機を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、3はRFアンプ、4、6は可変容量ダイオードを用いた同調回路、7はRFミキサー、8は中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、18はフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いる可変容量ダイオードの制御電圧、19は高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルである。
【0054】
従来の車載用AM受信機ではRF段に同調回路を設けることは出来るが、アンテナ段には周波数可変型同調回路を設けることは出来ない。
【0055】
図19は従来のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、3はRFアンプ、4はLPF、5は第一中間周波数に変換するRFミキサー、6は第一中間周波数の水晶フィルター、7は第二中間周波数に変換するRFミキサー、8は第二中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は第一局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、19は高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイル、20第二局部信号発生器である。
【0056】
通常第一中間周波数としては10.7MHzが用いられ、第二中間周波数としてはAM放送受信機と同様に450KHzが用いられるので、20の第二局部信号発生器としては10.25MHzが選ばれる。
【0057】
従来のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機では、可変容量ダイオードに制限されて、アンテナ段のみならずRF段にも同調回路を設けることが出来なかった。
【0058】
図20は請求項2記載のLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機の実施例を示す図で、1は図1に示すものと同じアンテナ等価回路、2、4及び6は請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路、3、5はRFアンプ、7はRFミキサー、8は中間周波数のセラミックフィルター、9はIFアンプ、10は検波器、11はオーディオアンプ、12はスピーカー、13はAGC用制御信号発生器、14はAGC信号、15は請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた局部信号発生器、16はPLLシンセサイザー、17は基準信号を発生する水晶発振器、18はフロントエンドの同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いる利得可変増幅器の制御電圧である。
【0059】
本実施例では、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用することによってアンテナ段やRF段にも同調回路を設けることが可能である。
【発明の効果】
【0060】
昔の機械式μ同調方式時代には、アンテナ段に同調回路を設けることが出来たので受信機の感度は良好であった。しかし、可変容量ダイオードによる電子同調方式に変わった時からアンテナ段に同調回路を設けることが出来なくなり、受信機の感度は劣化せざるを得なかった。
【0061】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路はこの問題を解決し、再びアンテナ段に同調回路を設けることが出来るので、全ての周波数で約20dB以上の感度向上が期待できる。
【0062】
アンテナ入力段に同調回路を持つことにより希望波と非希望波を分離でき、アンテナ段の過負荷による混信を避けることが出来る。さらに、従来必要であった図3における9の高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルも不要になる。
【0063】
従来のコンデンサーのキャパシタンスを可変する並列共振を利用した同調回路は、バンド幅が、周波数の高い範囲では広くなり、低い範囲では狭くなるという周波数特性を持つ欠点があったが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路は、バンド幅が一定で変化するという長所を持っている。以下にそれを数式で証明する。
【0064】
図8において、同調回路の良さをQ、−3dBの角周波数バンド幅をBW、同調角周波数をωTとすると
【数19】
であるから
【数20】
となる。
【0065】
数式20で示すように、従来の可変キャパシタンスと固定インダクタンスを組み合わせた並列共振の同調回路ではバンド幅は同調角周波数の二乗に比例して大きく変化するが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路はC、Rで固定され、バンド幅が同調角周波数に無関係に一定となる。
【0066】
これは放送用受信機にとって極めて重要な要素である。何故ならば、どの放送周波数を受信しても妨害波排除能力は変わらないからである。
【0067】
世界の大都市におけるAM放送の周波数配置と送信電力の関係を見ると、放送周波数が低い放送局は送信電力が大きく、放送周波数が高い放送局は送信電力が小さい。
【0068】
ところが、従来のコンデンサー可変型の同調回路のバンド幅は高い周波数帯で広くなるので、高い周波数の放送波を受信する場合、低い周波数の大電力送信局の放送波を十分に排除出来ない。
【0069】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いたアンテナ段の同調回路はその点で極めて効果的に機能する。
【0070】
従来は、RFアンプとして直線性の良いFETを別途必要であったが、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の前置増幅器を共用したAGC利得制御回路付きアンプは負帰還によって直線性に優れ、複数の強い妨害波に対して変調歪を起こし難い増幅器になっている。
【0071】
RFミキサーについても、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の前置増幅器を共用した負帰還型RFミキサーは直線性に優れ、複数の強い妨害波に対して変調歪を起こすことは無い。
【0072】
請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用すれば、集積回路の中の利得可変増幅器で周波数可変型同調回路を構成することが出来るので、従来必要であった可変容量ダイオードが不要になり、RFアンプも別途FETを使う必要がなく、さらに高圧送電線の電源ハムを減衰させるチョークコイルも不要になるなど、大幅なコストダウンが期待できる。
【実施例】
【0073】
図11に、利得が0から+1未満まで可変できる増幅器を用いた請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の実施例を示す。
【0074】
図13に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路のフルタップ結合の実施例を示す。
【0075】
図14に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた同調回路の二次結合の実施例を示す。
【0076】
図15に、請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を用いた局部信号発生器の発振回路の実施例を示す。
【0077】
図20に、請求項2記載の放送用受信機の実施例を示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、特に車載用放送受信機に利用可能性が極めて高いもので、従来の受信機が持つアンテナ段の欠点を根本的に解決するものである。
【0079】
また、家庭用及び携帯用放送受信機においても本発明は利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】 車載用アンテナの等価回路を示す図
【図2】 従来のコイル切替え方式を示す図
【図3】 従来の代表的な車載用AM放送受信機のフロントエンドを示す図
【図4】 従来の代表的なアンテナ段の特性を示す図
【図5】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の基本原理を示す図
【図6】 図5に示す回路の等価回路図
【図7】 図6に示す回路の等価回路図
【図8】 図7に示す共振回路に外部負荷が加わった図
【図9】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の帰還路を示す図
【図10】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路のナイキスト軌跡図
【図11】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路に使用する利得が0から+1未満の範囲で可変可能な増幅器の実施例を示す図
【図12】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の周波数可変範囲の一例を示す図
【図13】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路のフルタップ結合の実施例を示す図
【図14】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した同調回路の二次結合の実施例を示す図
【図15】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を利用した発振回路を示す図
【図16】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の利得可変増幅器の前置増幅器をAGC利得制御付きRFアンプと兼用する実施例を示す図
【図17】 請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路の利得可変増幅器の前置増幅器をRFミキサーと兼用する実施例を示す図
【図18】 従来の代表的な車載用AM放送受信機を示す図
【図19】 従来の代表的なLW帯からSW帯までの広帯域放送用受信機を示す図
【図20】 請求項2記載の車載用放送受信機の実施例を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低い増幅器の入力端に誘導性素子の一端を接続し、出力端に誘導性素子の他の一端を接続し、さらに増幅器の入力端に容量性素子の一端を接続し、容量性素子の他の一端は接地して共振回路を構成し、増幅器の電圧利得を+1未満の範囲で可変することにより、かかる共振回路の共振周波数を可変可能としたことを特徴とするインダクタンス可変型共振回路。
【請求項2】
前記請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を、受信機の同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いたことを特徴とする放送用受信機。
【請求項1】
入力インピーダンスが十分に高く、出力インピーダンスが十分に低い増幅器の入力端に誘導性素子の一端を接続し、出力端に誘導性素子の他の一端を接続し、さらに増幅器の入力端に容量性素子の一端を接続し、容量性素子の他の一端は接地して共振回路を構成し、増幅器の電圧利得を+1未満の範囲で可変することにより、かかる共振回路の共振周波数を可変可能としたことを特徴とするインダクタンス可変型共振回路。
【請求項2】
前記請求項1記載のインダクタンス可変型共振回路を、受信機の同調回路及び局部信号発生器の発振回路に用いたことを特徴とする放送用受信機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−172761(P2008−172761A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280945(P2007−280945)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(595164305)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(595164305)
【Fターム(参考)】
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