説明

インバータ制御装置、インバータ装置、及び空気調和機

【課題】スイッチング損失を低減するとともに、制御方式の切り替えを円滑に行うことを目的とする。
【解決手段】2アーム変調方式を採用し、正弦波状の基準電圧指令信号を補正して第1電圧指令信号を生成する第1信号生成部21と、正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような過変調方式による第2電圧指令信号を生成する第2信号生成部22と、第1信号生成部21の基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に第1電圧指令信号を選択し、該基準電圧指令信号の振幅が該第1閾値と等しい場合に第2電圧指令信号を選択する選択部23と、選択部23によって選択された電圧指令信号と搬送波とを比較することによりパルス幅変調信号を生成するPWM信号生成部とを備えるインバータ制御装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置及びインバータ装置に係り、特に、家庭用または業務用の空調調和機に搭載されるインバータ制御装置及びインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流モータの駆動に用いられる三相電圧形インバータの制御方法として、例えば、正弦波PWM制御と過変調PWM制御と矩形波電圧制御とを切り替えて採用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記正弦波PWM制御は、位相が互いに120°ずれた正弦波状の電圧指令値と搬送波とを比較し、その比較結果からPWM信号を生成する制御方式である。この正弦波PWM制御方式では、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。
【0004】
また、過変調PWM制御は、例えば、特許文献2に開示されるように、過変調領域における電圧指令値を正弦波PWM制御方式の電圧指令値よりも大きな電圧とすることにより、変調率を正弦波PWM制御モードにおける最高変調率よりも高めることができる制御である。
【0005】
また、矩形波電圧制御は、上記一定期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流モータに印加する制御方式であり、上記過変調PWM制御と略同等の変調率まで高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−253000号公報
【特許文献2】特開2002−247876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記正弦波PWM制御方式は、スイッチング損失が大きく、効率が悪い。また、複数の制御方式を切り替えて採用する制御方法では、制御方式の切替時において相電流や相電圧が変動し、切替を円滑に行うことができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、スイッチング損失を低減するとともに、制御方式の切り替えを円滑に行うことのできるインバータ制御装置、インバータ装置、及び空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、2アーム変調方式を採用し、正弦波状の基準電圧指令信号を補正して第1電圧指令信号を生成する第1信号生成手段と、正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような過変調方式による第2電圧指令信号を生成する第2信号生成手段と、前記第1信号生成手段の前記基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に前記第1電圧指令信号を選択し、該基準電圧指令信号の振幅が該第1閾値と等しい場合に前記第2電圧指令信号を選択する選択手段と、前記選択手段によって選択された電圧指令信号と搬送波とを比較することによりパルス幅変調信号を生成するPWM信号生成手段とを備えるインバータ制御装置を提供する。
【0010】
上記構成によれば、第1信号生成手段によって正弦波状の基準電圧指令信号が補正されて2アーム変調方式による第1電圧指令信号が生成され、第2信号生成手段によって正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような過変調方式による第2電圧指令信号が生成される。第1電圧指令信号と第2電圧指令信号とは選択手段に出力され、第1信号生成手段の基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に第1電圧指令信号が選択され、該基準電圧指令信号の振幅が第1閾値と等しい場合に第2電圧指令信号が選択される。選択された電圧指令信号は、PWM信号生成手段に出力され、搬送波と比較されることによりパルス幅変調信号が生成される。
ここで、2アーム変調方式による第1電圧指令信号の最大振幅は、搬送波の振幅を超える値に設定されないため、モータ回転数がある回転数以上となる領域では、それ以上のインバータ出力電圧を得ることができない。このため、2アーム変調方式によってはインバータ出力電圧を増加させることのできない領域においては、第2信号生成手段による過変調方式のPWM制御を行うことにより、高回転数領域における出力増加を実現することが可能となる。また、前記過変調方式によるPWM制御では効率が低下する回転数領域においては第1信号生成手段による2アーム変調方式のPWM制御が選択されることにより、効率低減を抑制することができる。更に、第1電圧指令信号の振幅が第1閾値と等しい領域では、第1信号生成手段において用いられる基準電圧指令信号の振幅と第2信号生成手段において用いられる基準電圧指令信号の振幅とが等しくなる。この基準電圧指令信号は、相電圧を意味するため、インバータ出力の線間電圧を切替前後において等しくすることができる。これにより、制御方式の切替時におけるインバータ出力の線間電圧の変動や、出力電流の歪みを低減させることができ、円滑に制御方式を切り替えることが可能となる。
上記インバータ制御装置において、前記選択手段は、モータ回転数に応じて第1電圧指令信号と第2電圧指令信号とを切り替えることとしてもよい。この場合、切替時のモータ回転数は、例えば、インバータ出力電圧がある一定の電圧値に達し、2アーム変調方式のPWM制御ではそれ以上増加させることのできない回転数或いはその回転数から所定のパーセント範囲内の値に設定されている。
【0011】
上記インバータ制御装置は、3アーム変調方式による第3電圧指令信号を生成する第3信号生成手段を備え、前記選択手段は、起動領域において、前記第3電圧指令信号を選択することとしてもよい。
【0012】
上記構成によれば、回転数指令値が起動領域においては、3アーム変調方式による第3電圧指令信号に基づくPWM制御が行われることとなる。回転数が低い領域においては、2アーム変調方式よりも3アーム変調方式(正弦波PWM制御)の方が効率が高いため、更なる高効率化を図ることが可能となる。
上記起動領域は、例えば、15Hzから20Hz以下に設定されるとよい。
【0013】
上記インバータ制御装置は、前記直流電源と前記インバータとの間の直流母線を流れる直流電流の検出値と前記パルス幅変調信号とを用いて、各相電流を検出する相電流検出手段を備え、前記相電流算出手段は、3相全てのパルス幅変調信号がオンまたはオフになる期間については、相電流として前回値を出力することとしてもよい。
【0014】
上記構成によれば、相電流算出手段が直流電流から相電流を検出できない期間においては、前回値を出力するので、相電流を検出できない期間においてもPWM制御を継続して実施することが可能となる。
【0015】
上記インバータ制御装置は、前記直流電源と前記インバータとの間の直流母線を流れる直流電流の検出値と前記パルス幅変調信号とを用いて、各相電流を検出する相電流検出手段を備え、前記相電流検出手段は、3相のうちいずれか1相のみのパルス幅変調信号がオンまたはオフとされている電流検出期間が、該相電流検出手段の電流検出能力に応じて設定された所定の時間よりも短い場合に、当該相電流として前回値を出力することとしてもよい。
【0016】
上記構成によれば、相電流算出手段が直流電流から相電流を検出できない期間においては、前回値を出力するので、相電流を検出できない期間においてもPWM制御を継続して実施することが可能となる。
【0017】
本発明は、直流電源からの直流電圧を三相交流電圧に変換してモータに出力するインバータと、前記インバータを制御する上記インバータ制御装置とを備えるインバータ装置を提供する。
本発明は、家庭用または業務用に適し、上記インバータ装置を備える空気調和機を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スイッチング損失を低減するとともに、制御方式の切り替えを円滑に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るインバータ装置の概略構成を示した図である。
【図2】相電流検出部による相電流検出について説明するための図である。
【図3】相電流検出部による相電流検出について説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る電圧指令演算部の概略構成を示したブロック図である。
【図5】第1信号生成部により生成される第1電圧指令信号の一例を示した図である。
【図6】第2信号生成部により生成される第2電圧指令信号の一例を示した図である。
【図7】2アーム変調方式のインバータ出力電圧を説明するための図である。
【図8】図5に示した2アーム変調方式による第1電圧指令信号に対するU相のPWM信号を示した図である。
【図9】図6に示した過変調方式による第2電圧指令信号に対するU相のPWM信号を示した図である。
【図10】第1信号生成部により生成された2アーム変調方式の第1電圧指令信号に基づくPWM制御から、第2信号生成部により生成された3次高調波が重畳された第2電圧指令信号に基づくPWM制御に切り替えられたときのU相電流を示した図である。
【図11】第2信号生成部において3次高調波を重畳させない第2電圧指令信号を用いた場合の制御方式切替時におけるU相電流を示した図である。
【図12】3シャント電流検出方式を適用した場合のインバータ装置の概略構成を示した図である。
【図13】モータ電流検出方式を適用した場合のインバータ装置の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るインバータ装置を家庭用空調機や業務用空調機の圧縮機に用いられる永久磁石同期モータに適用した場合の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明に係るインバータ装置は、永久磁石同期モータ以外にも、誘導モータ、誘導同期モータ、シンクロナスリラクタンスモータ、スイッチトリラクタンスモータなど、3相交流電動機一般に広く適用することが可能である。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ装置の概略構成を示した図である。図1に示されるように、インバータ装置1は、直流電源5から直流電圧が入力されるインバータ2と、インバータ2を制御するインバータ制御装置3とを備えている。また、図1において、符号4は、インバータ装置1により駆動される圧縮機モータである。
【0022】
インバータ2には、直流電源5から直流母線Lを通じて直流電圧が供給される。インバータ2は、直流電圧から3相交流電圧を生成し、生成した3相交流電圧を圧縮機モータ4に供給する。具体的には、インバータ2は、各相に対応して設けられた上側アームのスイッチング素子2a、2b、2cと下側アームのスイッチング素子2d、2e、2fとを備えており、これらのスイッチング素子がインバータ制御装置3により制御されることにより、圧縮機モータ4に供給される3相交流電圧(インバータ出力)が制御される。
【0023】
また、インバータ装置1は、直流母線Lを流れる直流電流Idcを検出するための電流センサ6を備えている。
電流センサ6により検出された直流電流Idcはインバータ制御装置3に出力される。ここで、電流センサ6の一例としては、シャント抵抗が挙げられる。なお、図1では、電流センサ6を直流電源5の負極側に設けているが、正極側に設けることとしてもよい。
【0024】
インバータ制御装置3は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)であり、以下に記載する各処理を実行するためのプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体を有しており、CPUがこの記録媒体に記録されたプログラムをRAM等の主記憶装置に読み出して実行することにより、以下の各処理が実現される。コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。
【0025】
インバータ制御装置3は、圧縮機モータ4の回転数を上位の制御装置(図示略)から与えられる回転数指令値に一致させるような各相のPWM信号Su,Sv,Swを生成し、これらをインバータ2の各相に対応するスイッチング素子に与えることでインバータ3を制御し、所望の3相交流電圧を圧縮機モータ4に供給する。
【0026】
インバータ制御装置3は、電流センサ6により検出された直流電流Idcを用いて各相電流Iu,Iv,Iwを検出する相電流検出部(相電流検出手段)11と、相電流検出部11によって検出された各相電流Iu,Iv,Iwを用いて各相の電圧指令信号Vu,Vv,Vwを生成する電圧指令演算部12と、電圧指令演算部12によって生成された電圧指令信号Vu,Vv,Vwと搬送波とを比較することによりPWM信号(パルス幅変調信号)Su,Sv,Swを生成するPWM信号生成部13とを主な構成として備えている。
【0027】
相電流検出部11は、例えば、特開2008−220117号公報などに開示されている公知の技術を用いて、直流電流Idcから各相の電流を検出する。例えば、相電流検出部11は、直流電流Idcに2相の電流情報が流れることを利用し、インバータ3のスイッチング素子2a〜2fのオンオフ情報を元に、電流センサ6によって検出された直流電流を各相別に分配して3相の電流検出値として検出する。ここで、相電流検出部11は、図2に示すように、3相のうちいずれか1相に対応するPWM信号がオンまたはオフになることを利用して検出した直流電流から相電流を得るものであるが、3相のPWM信号が全てオン(図2のモード0)またはオフ(図2のモード7)になる期間には相電流の検出ができない。
【0028】
また、例えば、図3に示すように、電流検出の時間Tvw,Tuvが短いと、電流検出の性能が追いつかず、電流検出が実施できない場合が生ずる。このように、相電流の検出が不可能な期間においては、相電流検出部11は、その相の電流値として前回値を用いることとしている。すなわち、相電流の検出が不可能な期間においては、前回得られた相電流が相電流検出部11から電圧指令演算部12に出力される。
【0029】
電圧指令演算部12は、図4に示すように、後述するような2アーム変調方式による第1電圧指令信号を生成する第1信号生成部(第1信号生成手段)21と、後述するような過変調方式による第2電圧指令信号を生成する第2信号生成部(第2信号生成手段)22と、第1信号生成部によって生成された第1電圧指令信号と第2信号生成部によって生成された第2電圧指令信号とを切り替えて採用する選択部(選択手段)23とを備えている。
【0030】
第1信号生成部21は、例えば、正弦波状の基準電圧指令信号を補正して、図5に示すような第1電圧指令信号を生成する。2アーム変調方式では、各相出力電圧の1周期中にそれぞれ設定した複数の飽和区間において、1相のスイッチング素子(例えば、U相であればスイッチング素子2a,2d)の動作をオンまたはオフ状態に固定し、他の2相のみを変調させるような第1電圧指令信号を発生させる。換言すると、2アーム変調方式では、各相の電位を歪ませながら線間電圧が望みの波形になるように制御する。この2アーム変調方式によるPWM制御は、正弦波状の電圧指令信号を生成して用いる3アーム変調方式によるPWM制御に比べてスイッチング回数を2/3倍に低減することができるため、スイッチング損失を低減させることができる。2アーム変調方式は、公知の変調方式であり、例えば、特開平6−233546号公報、特開2011−91907号公報等に開示されている。
【0031】
第2信号生成部22は、過変調方式により第2電圧指令信号を生成する。第2信号生成部22は、例えば、図6に示すように、正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような第2電圧指令信号を生成する。このような第2電圧指令信号とすることで、第1信号生成部21の第1電圧指令信号に基づく制御によって得られる最大モータ出力電圧よりも高いモータ出力電圧を得ることができる。
【0032】
なお、上記第1信号生成部21及び第2信号生成部22においては、具体的な制御手法として、例えば、d−q軸2相座標系の電流を用いる公知のベクトル制御方式や、特開2010−93931号公報等に開示されている公知のV/f制御方式などを採用することが可能である。
【0033】
選択部23は、圧縮機モータ4の回転数指令値と検出されたモータ電流に基づく前記ベクトル制御方式やV/f制御方式などで演算された第1信号生成部21及び第2信号生成部22のいずれか一方からの電圧指令信号を選択し、これをPWM信号生成部13に出力する。
【0034】
具体的には、選択部23は、第1信号生成部21において第1電圧指令信号を生成するのに用いられる正弦波状の基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に、第1信号生成部21からの第1電圧指令信号を選択し、該正弦波状の基準電圧指令信号の振幅が第1閾値と等しい場合に、第2信号生成部22からの第2電圧指令信号を選択する。
【0035】
ここで、2アーム変調方式では、モータ回転数がある回転数ω1以下の通常運転領域では、回転数に比例して第1信号生成部21において用いられる正弦波状の基準電圧指令信号の振幅が徐々に大きく設定されるため、図7に示すように、回転数に比例してインバータ出力電圧、すなわち、U相電圧、V相電圧、W相電圧のそれぞれが増加する。しかしながら、モータ回転数がある回転数ω1を超えると、上記第1電圧指令信号を生成するのに用いられる基準電圧指令信号の振幅が最大値で一定となってしまうため、インバータ出力電圧が一定となり、それ以上の出力を得ることができなくなる。この時、インバータの最大出力電圧は、直流電源5の電圧の値をVdcとすれば、Vdc/√2で求められる。また、回転数ω1は、永久磁石同期モータの誘起電圧定数とインバータの最大出力電圧の関係から決まる。
【0036】
これに対し、第2信号生成部22によって生成される第2電圧指令信号に基づくPWM制御は、回転数が低い領域では損失が大きく効率が悪いが、上記回転数がω1以上の領域では、上記第1信号生成部21によるPWM制御で得られるインバータ出力電圧以上の電圧を得ることができる。これは、回転数がω1を超える領域では、第2電圧指令信号の波形の最大振幅が搬送波の振幅を超える値に設定されるからである。
上記のように、第1信号生成部21において用いられる基準電圧指令信号の振幅が最大値であるか否かによって、換言すると、モータ回転数が回転数ω1未満か以上かによって制御方式の切替を行うことで、各信号生成部の長所を活かすことができ、効率を高めることが可能となる。
【0037】
また、第1電圧指令信号と第2電圧指令信号との切替時においては、第1電圧指令信号を生成するのに用いられる基準電圧指令信号の振幅と、第2電圧指令信号を生成するのに用いられる基準電圧指令信号の振幅とが同じ値をとるので、インバータ出力電圧の線間電圧を同じ値とすることができる。このように、制御方式の切替時における線間電圧が等しくなるので、制御方式の切替時における線間電圧の変動を低減させることができ、円滑に制御方式を切り替えることが可能となる。
【0038】
PWM信号生成部13は、電圧指令演算部12の選択部23によって選択された電圧指令信号Vu,Vv,Vwと三角波である搬送波とを比較することによりPWM信号Su,Sv,Swを生成し、これをインバータ2が備える各スイッチング素子を駆動する図示しないゲートドライブに出力する。図8は、図5に示した2アーム変調方式による第1電圧指令信号に対するU相のPWM信号を示した図であり、図9は図6に示した過変調方式による第2電圧指令信号に対するU相のPWM信号を示した図である。
【0039】
次に、上述した構成を備える本実施形態に係るモータ制御装置3及びモータ装置1の動作について説明する。
圧縮機モータ4の起動指令が出されると、電流センサ6により直流電流の検出が開始され、検出された直流電流が相電流検出部11に出力される。相電流検出部11は、直流電流の検出値を用いて各相電流Iu,Iv,Iwを検出し、電圧指令演算部12に出力する。なお、電流検出が不可能な場合には、相電流検出部11は、前回値を出力する。
【0040】
電圧指令演算部12の第1信号生成部21(図4参照)および第2信号生成部22は、各相電流Iu,Iv,Iwを用いて第1電圧指令信号および第2電圧指令信号をそれぞれ生成し、選択部23に出力する。選択部23は起動から第1電圧指令信号を生成するのに用いられる基準電圧指令信号の振幅が第1閾値に達するまでは第1信号生成部21からの第1電圧指令信号を選択し、該基準電圧指令信号の振幅が第1閾値と等しくなったところで第2信号生成部22からの第2電圧指令信号を選択して、選択した電圧指令信号Vu,Vv,VwをPWM信号生成部13(図1参照)に出力する。換言すると、モータ回転数が回転数ω1未満の領域では、第1電圧指令信号が選択され、モータ回転数が回転数ω1以上の領域では、第2電圧指令信号が選択される。
PWM信号生成部13は、入力された電圧指令信号Vu,Vv,Vwと搬送波とを比較して、各相に対応するPWM信号Su,Sv,Swを生成し、これをインバータ2に出力する。
また、第2電圧指令信号が選択されている場合において、基準電圧指令信号の振幅が第1閾値よりも小さくなると、第2電圧指令信号から第1電圧指令信号に切り替えられる。この場合においても、切替時におけるインバータ出力電圧は、同じ値を取ることとなるので、線間電圧の変動を低減させることができる。
【0041】
以上説明してきたように、本実施形態に係るインバータ制御装置3及びインバータ装置1によれば、第1電圧指令信号を生成するのに用いられる正弦波状の基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満である場合に、第1信号生成部21からの第1電圧指令信号が選択され、該基準電圧指令信号の振幅が第1閾値に等しい場合には、第2信号生成部22からの第2電圧指令信号が選択される。換言すると、回転数指令値がω1よりも低い領域において、2アーム変調方式により生成された第1電圧指令信号に基づいてPMW信号が生成され、回転数指令値がω1以上の領域において、過変調方式により生成された第2電圧指令信号に基づいてPWM信号が生成される。ここで、回転数指令値ω1は、2アーム変調方式のインバータの最大出力電圧(直流電源5の電圧の値をVdcとすれば、Vdc/√2)と、永久磁石同期モータの誘起電圧定数との関係から決まる値である。
【0042】
これにより、2アーム変調方式ではインバータ出力電圧を増加させることのできない領域においては過変調方式によるPWM制御が行われることにより、高回転数領域における出力増加を実現することができる。また、過変調方式によるPWM制御では効率が低下する回転数領域においては2アーム変調方式によるPWM制御が選択されることにより、効率低減を抑制することが可能となる。
【0043】
更に、回転数がω1の場合は、2アーム変調方式に基づくPWM制御による線間電圧と、3次高調波を重畳した過変調方式に基づくPWM制御による線間電圧とが一致する。したがって、制御方式の切替時における線間電圧の変動を低減させることができ、円滑に制御方式を切り替えることが可能となる。
【0044】
図10に、第1信号生成部21により生成された2アーム変調方式の第1電圧指令信号に基づくPWM制御から、第2信号生成部22により生成された3次高調波が重畳された第2電圧指令信号に基づくPWM制御に切り替えられたときのU相電流を示す。図10に示すように、切替前後においてU相電流にはひずみや変動が生じておらず、円滑に切替が行われていることがわかる。
【0045】
図11には、第2信号生成部22において3次高調波を重畳しない基準電圧指令信号が用いられたときの方式切替前後におけるU相電流を示す。図11に示したU相電流では、切替後において電流波形に歪みが生じていることがわかる。このように、正弦波状の基準電圧指令信号にその3次高調波が重畳された第2電圧指令信号を用いることで、U相電流の歪みや変動を解消することができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、第1電圧指令信号を生成するのに用いられる正弦波状の基準電圧指令信号の振幅に基づいて制御方式を切り替える場合について説明したが、これに限定されず、例えば、選択部23は、モータ回転数またはモータ回転数指令と予め設定されている回転数閾値とを比較することにより、制御方式を切り替えることとしてもよい。この場合、回転数閾値は、例えば、上記回転数ω1と同じ値、或いは、回転数ω1の所定パーセント範囲内に設定されている。
【0047】
また、本実施形態においては、2アーム変調方式と過変調方式とを切り替える場合について述べたが、更に、3アーム変調方式を採用して第3電圧指令信号を生成する第3電圧指令部を備えることとしてもよい。この場合、選択部23は、回転数指令値がω1よりも小さい値に設定された起動領域(例えば、15Hzから20Hz以下の回転数領域)において、第3電圧指令信号を選択する。これにより、回転数が低い起動領域では3アーム変調方式による第3電圧指令信号が、回転数が起動領域以上の回転数領域では2アーム変調方式による第1電圧指令信号が、回転数がω1以上の回転数領域では過変調方式による第2電圧指令信号が選択されることとなる。回転数が低い領域では、2アーム変調方式よりも3アーム変調方式の方が効率が高いため、上記のような構成とすることで、更なる高効率化を実現することが可能となる。
【0048】
また、第2信号生成部22による第2電圧指令信号に基づくPWM制御を行っている場合であっても、出力が追い付かずにモータ回転数が回転数指令に一致しない場合には、弱め磁束制御を実施して、モータ回転数が回転数指令に一致するように制御することとしてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、1つの1シャント抵抗を用いて、直流電流から各相電流を検出する場合について述べたが、各相電流の検出方法についてはこの方法に限定されない。例えば、図12に示すように、インバータ2が備える下アームの各スイッチング素子2d,2e,2fに流れる電流をそれぞれ検出するシャント抵抗6a,6b,6cを設け、シャント抵抗6a,6b,6cからの電流検出値に基づいて3相電流をそれぞれ求めることとしてもよい。また、図13に示すように、インバータ2から圧縮機モータ4へ出力される各相電流のうちの2相を検出する電流センサ6d,6eを設け、電流センサ6d,6eによる電流検出値に基づいて3相電流を求めることとしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 インバータ装置
2 インバータ
2a,2b,2c,2d,2e,2f スイッチング素子
3 インバータ制御装置
4 圧縮機モータ
5 直流電源
11 相電流検出部
12 電圧指令演算部
13 PWM信号生成部
21 第1信号生成部
22 第2信号生成部
23 選択部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの直流電圧を三相交流電圧に変換してモータに出力するインバータを制御するインバータ制御装置であって、
2アーム変調方式を採用し、正弦波状の基準電圧指令信号を補正して第1電圧指令信号を生成する第1信号生成手段と、
正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような過変調方式による第2電圧指令信号を生成する第2信号生成手段と、
前記第1信号生成手段の前記基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に前記第1電圧指令信号を選択し、該基準電圧指令信号の振幅が該第1閾値と等しい場合に前記第2電圧指令信号を選択する選択手段と、
前記選択手段によって選択された電圧指令信号と搬送波とを比較することによりパルス幅変調信号を生成するPWM信号生成手段と
を備えるインバータ制御装置。
【請求項2】
3アーム変調方式による第3電圧指令信号を生成する第3信号生成手段を備え、
前記選択手段は、起動領域において、前記第3電圧指令信号を選択する請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記直流電源と前記インバータとの間の直流母線を流れる直流電流の検出値と前記パルス幅変調信号とを用いて、各相電流を検出する相電流検出手段を備え、
前記相電流算出手段は、3相全てのパルス幅変調信号がオンまたはオフになる期間については、相電流として前回値を出力する請求項1または請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記直流電源と前記インバータとの間の直流母線を流れる直流電流の検出値と前記パルス幅変調信号とを用いて、各相電流を検出する相電流検出手段を備え、
前記相電流検出手段は、3相のうちいずれか1相のみのパルス幅変調信号がオンまたはオフとされている電流検出期間が、該相電流検出手段の電流検出能力に応じて設定された所定の時間よりも短い場合に、当該相電流として前回値を出力する請求項1または請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
直流電源からの直流電圧を三相交流電圧に変換してモータに出力するインバータと、
前記インバータを制御するインバータ制御装置と
を備え、
前記インバータ制御装置は、
2アーム変調方式を採用し、正弦波状の基準電圧指令信号を補正して第1電圧指令信号を生成する第1信号生成手段と、
正弦波状の基準電圧指令信号にその第3次高調波成分を重畳させた波形の振幅の最大値が搬送波の振幅以上になるような過変調方式による第2電圧指令信号を生成する第2信号生成手段と、
前記第1信号生成手段の前記基準電圧指令信号の振幅が、該基準電圧指令信号の最大振幅値に設定された第1閾値未満の場合に前記第1電圧指令信号を選択し、該基準電圧指令信号の振幅が該第1閾値と等しい場合に前記第2電圧指令信号を選択する選択手段と、
前記選択手段によって選択された電圧指令信号と搬送波とを比較することによりパルス幅変調信号を生成するPWM信号生成手段と
を備えるインバータ装置。
【請求項6】
家庭用または業務用に適し、請求項5に記載のインバータ装置を搭載する空気調和機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−59233(P2013−59233A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197070(P2011−197070)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】