説明

インモールドコート塗装方法およびインモールドコート塗装装置

【課題】良好な品質の皮膜を得ることができるインモールドコート塗装方法、およびインモールドコート塗装装置を提供する。
【解決手段】インモールドコート塗装方法は、成型前に、塗料を噴霧する塗装ガン110によって金型に塗料を塗布して皮膜510を形成するインモールドコート塗装方法であって、冷却した圧縮エアー134を塗装ガンに供給する。そして、冷却した圧縮エアーを、塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インモールドコート塗装方法およびインモールドコート塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成型品表面を塗料によって被覆する方法として、成型した基材に塗料を吹き付けたり塗ったりする方法とは別に、金型内で基材とともに皮膜を形成するインモールドコーティング法がある。インモールドコーティング法は、大別して2つある。
【0003】
1つは、金型内に樹脂を注入して先に基材を成型しておき、その後、金型内に塗料を注入して基材の表面に皮膜を形成する方法である。もう1つは、成型前に、金型に塗料を塗布して皮膜を形成しておき、その後、金型内に樹脂を注入して基材を成型する方法である。後者の例として、特許文献1が挙げられる。
【0004】
特許文献1のような方法では、塗料を噴霧する塗装ガンによって金型に塗料を塗布するのが一般的である。塗装ガンは、圧縮された圧縮エアーを、塗料を霧化して噴射するための霧化エアー、および噴射される塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用い、噴霧した塗料が、粒子の状態で金型に付着する。
【特許文献1】特開平9−254183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、皮膜形成後に金型内に注入する樹脂の流動性を良好にし、成型後、離型剤の機能を発揮させるために金型は加温されており、この金型の熱によって、粒子状の塗料内の溶媒が瞬間的に蒸発するため、塗料の流動性が低下する。このため皮膜厚さが不均一になり皮膜に品質不良が生ずる虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、良好な品質の皮膜を得ることができるインモールドコート塗装方法、およびインモールドコート塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のインモールドコート塗装方法は、成型前に、塗料を噴霧する塗装ガンによって金型に塗料を塗布して皮膜を形成するインモールドコート塗装方法であって、冷却した圧縮エアーを塗装ガンに供給する。そして、冷却した圧縮エアーを、塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いる。
【0008】
上記目的を達成するための本発明のインモールドコート塗装装置は、成型前に金型に塗料を塗布して皮膜を形成するためのものであって、塗料を金型に噴霧するための塗装ガンと、冷却した圧縮エアーを塗装ガンに供給する圧縮エアー供給部と、を有する。そして、冷却した圧縮エアーを、塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は霧化エアーおよびパターンエアーとして冷却した圧縮エアーを用いるため、塗料内の溶媒の蒸発を一時的に抑制して塗布直後の塗料の流動性を保て、皮膜厚さの均一性に優れた良好な品質の皮膜を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。共通する機能を有する部材には類似の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は実施形態の概要を説明するための構成図、図2は皮膜形成時の構成図、図3は表皮材形成時の金型の断面図である。
【0012】
図1において概説すると、本実施形態のインモールドコート塗装装置100は、成型前に金型300に塗料を塗布して皮膜510を形成するための装置である。インモールドコート塗装装置100は、塗料を金型300に噴霧するための塗装ガン110と、冷却した圧縮エアー134を塗装ガン110に供給する圧縮エアー供給装置120(圧縮エアー供給部に相当する)と、を有する。そして、冷却した圧縮エアー134を、塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いる。インモールドコート塗装装置100はまた、塗装ガン110に塗料を供給する塗料供給装置140と、塗装ガン110に離型剤を供給する離型剤供給装置150と、を有する。
【0013】
金型300は、2分割構造を有し、互いに近接離隔する上型310および下型320を有する。下型320は、成型品形状の一部を有するキャビティ322を備える。上型310および下型320は、熱媒体が流れる流路を内部に有する。熱媒循環式の温調機(不図示)が、熱媒体を循環させ、上型310および下型320の温度を調節する。熱媒体は、例えば、水またはスチームである。
【0014】
上型310および下型320の温度は、成型品の脱型を円滑にするための離型剤、および皮膜形成後に金型300に注入する樹脂520に依存する。つまり、金型300の温度は、離型剤がその機能を発揮し、また、皮膜形成後に金型300内に樹脂520を注入したとき、樹脂520がキャビティ322内に均一に流動しかつ樹脂520の硬化が進行するような温度とする。金型300の温度は、例えば、70℃〜90℃程度である。
【0015】
塗装ガン110は、例えばニードルバルブを内蔵するエアースプレータイプのものであり、トリガー112の操作にニードルバルブが連動し、塗料を噴霧するノズルの開度が変化する。塗装ガン110は、圧縮エアー134を分ける2つの流路を内部に有する。塗装ガン110は、この2つの流路によって、圧縮エアー134を、霧化エアーとパターンエアーとに分ける。塗料を霧化することによって、ムラを極力抑えて塗料を塗布できる。
【0016】
噴霧する塗料は、例えば、主剤と硬化剤とを混ぜ合わせて塗料とする2液タイプのもので、水系タイプのウレタン樹脂である。2液タイプの塗料は、主剤であるウレタン樹脂などの樹脂間を硬化剤によって架橋し成膜させるのが特徴であり、加温した下型320からの熱によって塗料内の溶媒が蒸発し硬化が進行する。溶媒とは、塗料内の固形分以外の蒸発する成分を意味し、例えば水を含む。
【0017】
環境面から2液タイプの塗料が好ましいが、1液タイプの塗料であってもよい。1液タイプの塗料は、皮膜中の水分が減ることによって樹脂が融合し成膜することが特徴であり、皮膜中の残水分量が品質に影響する。
【0018】
塗料供給装置140は、塗料の主剤を収容するタンク141、塗料の硬化剤を収容するタンク142、および主剤と硬化剤とを均一に混合して塗料にする混合装置145を有する。タンク141と混合装置145とは連通しており、塗料供給装置140は、タンク141と混合装置145との間に定量供給用のギヤポンプ143を有する。また、タンク142と混合装置145とは連通しており、塗料供給装置140は、タンク142と混合装置145との間に定量供給用のギヤポンプ144を有する。離型剤供給装置150は、離型剤を収容するタンク151と、タンク151に接続した定量供給用のギヤポンプ152と、を有する。
【0019】
塗料供給装置140と塗装ガン110とを連通させるための管146、および離型剤供給装置150と塗装ガン110とを連通させるための管153は、管146、153と塗装ガン110との連通を切り換える切換バルブ160に接続している。
【0020】
圧縮エアー供給装置120は、圧縮した外気131および冷却し圧縮した冷風132(冷却用エアーに相当する)を混合して圧縮エアー134とするマニホールド133(混合部に相当する)を有する。圧縮エアー供給装置120はまた、外気131の温度に基づいて外気131と冷風132との混合比を変えて圧縮エアー134の温度を制御するコントローラ130(制御部に相当する)を有する。
【0021】
圧縮エアー供給装置120は、外気を取り込んで圧縮する2つのコンプレッサ121、122を有している。マニホールド133は、コンプレッサ121、122と接続している。圧縮エアー供給装置120は、マニホールド133とコンプレッサ121とを接続する管135に、外気131の流量を調節する流量調節バルブ129を有する。圧縮エアー供給装置120はまた、外気131の温度を測定する温度センサ125、および外気131の圧力を落とす減圧弁123を管135に有する。
【0022】
外気131は減圧弁123を通過し、流量調節バルブ129に達する。温度センサ125は、減圧弁123と流量調節バルブ129との間に位置する。流量調節バルブ129は、例えば電動弁である。温度センサ125は、例えばサーミスタである。
【0023】
圧縮エアー供給装置120は、マニホールド133とコンプレッサ122とを接続する管136に、コンプレッサ122が吐出する外気を冷却して冷風132を発生させる冷却装置126を有する。圧縮エアー供給装置120はまた、冷風132の流量を調節する流量調節バルブ128と、コンプレッサ122が吐出する外気の圧力を落とす減圧弁124と、を有する。
【0024】
コンプレッサ122が吐出する外気は、減圧弁124および冷却装置126を通った後、冷風132となって流量調節バルブ128に達する。冷却装置126は、減圧弁124と流量調節バルブ128との間に位置する。流量調節バルブ128は、例えば電動弁である。
【0025】
冷却装置126として公知技術を利用できる。冷却装置126は、例えば、コンプレッサ122からの外気を高速回転させながら細管の中を通過させて冷風132と温風とに分けるものであり、一定温度の冷風132を発生させる。このような原理の冷却装置126は、約−30℃程度の冷風132を発生できる。
【0026】
コントローラ130は、流量調節バルブ128、129および温度センサ125に電気的に接続している。コントローラ130は、CPUおよびメモリを主体として構成され、流量調節バルブ128、129の動作を制御するためのプログラムをメモリに記憶している。コントローラ130は、温度センサ125が測定する外気131の温度に基づいて、流量調節バルブ128、129の開度を調節し外気131と冷風132との混合比を変える。
【0027】
本実施形態では、霧化エアーおよびパターンエアーとして冷却した圧縮エアー134を用いることによって、塗料内の溶媒の蒸発を一時的に抑制して塗布直後の塗料の流動性を保つ。しかし、圧縮エアー134の温度が0℃程度であると、例えばウレタン樹脂などの塗料がゲル化し、皮膜の性能が低下する虞がある。そこで、コントローラ130は、圧縮エアー134の温度がおよそ0℃以下にならないように、流量調節バルブ128、129を制御し外気131と冷風132との混合比を調節する。圧縮エアー134の温度は、およそ10℃±5℃程度であることが好ましい。
【0028】
外気131の温度は変動し、年間を通じて例えば15℃〜25℃の範囲にある。このため、外気131の温度が例えば約15℃程度となる冬季では、コントローラ130は、冷風132の混合比を抑える。こうすることによって、コントローラ130は、圧縮エアー134の温度が例えば10℃±5℃程度となるように調節し、0℃以下となるのを防止する。一方、コントローラ130は、外気131の温度が高くなる夏季では冷風132の混合比を増やし、圧縮エアー134の温度が例えば10℃±5℃程度となるように調節する。
【0029】
インモールドコート塗装方法について説明する。
【0030】
概説するとインモールドコート塗装方法は、成型前に、塗料を噴霧する塗装ガン110によって金型300に塗料を塗布して皮膜510を形成するインモールドコート塗装方法であって、冷却した圧縮エアー134を塗装ガン110に供給する。そして、冷却した圧縮エアー134を、塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いる。
【0031】
インモールドコート塗装方法では、まず、作業者400が、成型品の脱着性を良くするために、塗装ガン110によって離型剤をキャビティ322に塗布する。離型剤は、公知のものを使用でき、例えばシリコン系樹脂である。
【0032】
次に図2に示すように、作業者400は、切換バルブ160を切り換えて塗装ガン110と塗料供給装置140とを連通させ、塗装ガン110によって塗料をキャビティ322の必要な部位に噴霧する。
【0033】
作業者400が塗装ガン110によって塗料を噴霧するとき、圧縮エアー供給装置120は、圧縮した外気131と、冷却し圧縮した冷風132とを混合して圧縮エアー134とし、外気131の温度に基づいて外気131と冷風132との混合比を変えて圧縮エアー134の温度を制御している。
【0034】
塗料の噴霧が終了した後、所定の時間放置して塗料を乾燥させる。放置する時間は、塗料内の溶媒濃度および皮膜510の厚さ等に応じて適宜設定できる。所定の時間放置し乾燥させることによって溶媒を減少させ、皮膜510でのフクレやワレの発生を抑制する。
【0035】
図3に示すように、皮膜510の形成後、上型310を下型320に向かって下降させ金型300を閉じる。そして成型品の基材となる樹脂520を注入して加圧、成型を行う。注入する樹脂520は、皮膜510との接着性を考慮して用い、例えば皮膜510と同種のウレタン樹脂である。樹脂520が硬化したら、上型310を上昇させ、作業者400は、皮膜510と樹脂520とが一体となった表皮材500を金型300から取り外す。
【0036】
表皮材500は、例えば、ステアリングホイール表面に用いる表皮材である。表皮材500はまた、大面積で形状が複雑なインストパネルやドアインナー表面に用いる表皮材であってもよい。近年、質感向上等の目的でインストパネルやドアインナーの製造へのインモールドコーティング法の採用が多くなりつつある。
【0037】
実施形態の効果を述べる。
【0038】
実施形態では、霧化エアーおよびパターンエアーとして冷却した圧縮エアー134を用いるため、塗料内の溶媒の蒸発を一時的に抑制して塗布直後の塗料の流動性を保て、皮膜厚さの均一性に優れた良好な品質の皮膜510が得られる。
【0039】
厚さの均一性に優れた皮膜510が得られるため、膜厚の薄い薄膜部を補正するための余分な塗料の使用が減少し、塗料の節約や塗装時間の減少につながり、コスト低減を図れる。また、薄膜部の発生が抑制でき、歩留まりを良好にして生産性向上を図れる。また、皮膜510が厚さの均一性に優れるため、長期的な品質の確保および商品性の向上が図れる。
【0040】
実施形態では、外気131の温度に基づいて外気131と冷風132との混合比を変え、圧縮エアー134の温度を制御する。このため、外気131の温度が変動しても圧縮エアー134の温度を保て、例えば温度低下による塗料のゲル化を防いで、良好な品質の皮膜510を作製できる。
【0041】
以下、実施形態についてより具体的に述べる。
【0042】
作業者400は、約85℃に加温した下型320のキャビティ322に対して塗料を噴霧した。塗料は、ISL社製の2型水系塗料である。塗料の主剤(SOTAN−WB−16268/9393(ブラック))と硬化剤(SOTAN−WH−15268/0083)との混合比は、80:20である。
【0043】
コンプレッサ121、122はおよそ0.5MPaで外気を供給し、減圧弁は0.2〜0.4MPa程度に圧力を落とす。塗装ガン110とキャビティ322との距離は、20〜30cm程度である。キャビティ322に噴霧した塗料のパターン幅は、100〜300mm程度である。また、塗装ガン110から噴霧される塗料の吐出量は、100〜300g/min程度である。冷却装置126として、トラスコ中山株式会社製のエアージェットAJ−Cを用いた。圧縮エアー134の温度は、10℃±5℃とした。
【0044】
塗装が終了して約1分経過した後、金型300を閉じ、樹脂520を金型300内に注入し、加圧、および成型を行った。このとき、上型310および下型320の温度は、約85℃程度とした。樹脂520として、BIP社製のウレタンES4710/116グレーを用いた。
【0045】
次に、冷却した圧縮エアー134を用いずに塗料を噴霧する比較例について説明し、実施形態と比較する。
【0046】
図4は比較例の概要を説明するための構成図、図5は皮膜内の固形分割合の変化を示すグラフ、図6は比較例によって作製した表皮材の表面を模式的に示す平面図である。図7は比較例によって作製した表皮材の断面を模式的に示す断面図、図8は実施形態によって作製した表皮材の断面を模式的に示す断面図である。
【0047】
図4において概説すると、比較例は実施形態と略同様であるが、比較例では圧縮エアー供給装置120の代わりにコンプレッサ221が塗装ガン210に接続しており、冷風を混合せずに、圧縮した外気234を塗装ガン210に直接供給する。
【0048】
コンプレッサ221は外気を取り込んで圧縮し、減圧弁223が、コンプレッサ221が吐出する外気を0.2〜0.4MPa程度に減圧して圧縮エアー234とする。実施形態のように冷風132を混合しないため、比較例の圧縮エアー234の温度は、実施形態の圧縮エアー134より高い。圧縮エアー234の温度は、例えば15℃〜25℃程度の温度範囲で年間を通して変動する。
【0049】
図5に、実施形態および比較例における皮膜の乾燥の様子を示す。図5の破線で示すように、比較例では下型320の熱によって皮膜610内の水分等が抜け、固形分の割合(以下単にNV値と称す)が、時間に比例するように直線的に変化した。比較例では、水等の溶媒の減少が著しく早く、NV値は急激に上昇していく。このため塗料の流動性が低い。噴霧する塗料のNV値は当初35%〜45%程度であり、塗布した直後、NV値は50%程度となった。
【0050】
一方、図5の円によって囲んだ箇所で示すように、実施形態では塗布直後のNV値の変化の傾きが比較例に場合に比べて緩やかである。すなわち実施形態では冷却した圧縮エアー134によって塗料を噴霧するため、塗布直後、比較例に比べて塗料内の溶媒の蒸発量が少なく、下型320の熱によって溶媒が蒸発するのに要する時間が延び、塗料が流動性を保てる。
【0051】
作製した皮膜510、610を比較する。
【0052】
比較例では塗布直後の塗料の流動性が低いため、作製した皮膜610の厚さが不均一で、凹凸が生じ、図6に示すように皮膜610の厚さが標準的な膜厚より薄い薄膜部614が点在する。皮膜の指触面での標準的な膜厚は、例えばおよそ30〜60μmである。図6は、皮膜610の裏側から照射した光が薄膜部614を透過した状態を模式的に示す図であり、明暗を逆転して示している。すなわち、図6において黒く塗りつぶした薄膜部614を光が透過し、その他の部分では光が透過していない。なお、図6の符号612は、表皮材のシボの盛り上がった部分を表している。
【0053】
比較例ではまた、図7に示すようにシボの窪みの底部で塗料の付着量が著しく少ない薄膜部616が生じた。特に、シボの窪みの深い箇所では薄膜部616が生じ易い傾向にある。シボの窪みは、200μm程度の深いものもある。
【0054】
薄膜部614、616が生ずると、その部分での物性が悪化し易く長期的に良好な皮膜性能を得られない虞がある。また、薄膜部614、616の発生を抑制するために重ね塗りを繰り返すと、塗料の使用量の増加や、工数の増加に繋がる。
【0055】
これに対し実施形態では塗布直後の急激なNV値の上昇を抑制して塗料の流動性を保て、図8に示すような均一で凹凸の少ない皮膜510が得られた。
【0056】
ところで、均一な皮膜を得るために塗料中へ表面調整剤を投入したり塗料中の水分を増やしたり(約20%程度の水分を投入)してNV値を低下させ、塗布直後の塗料の流動性を良好にすることが考えられる。しかし、これらは実施形態に比べて効果が小さいことを確認している。また、塗料の希釈によって皮膜の膜厚が薄くなるため、規定の膜厚を得るために重ね塗りが必要となり塗装にかかる時間が増加した。
【0057】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。例えば、本実施形態では、外気131と冷風132とを混合することによって圧縮エアー134として用いたが、本発明はこれに限定されず、単一の気体を冷却するとともに圧縮して用いる他の形態を含む。
【0058】
本実施形態ではまた、作業者400が塗装ガン110を操作して皮膜510を形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。つまり、本発明は、例えば塗装ガン110を備える工業用ロボットが塗料を噴霧して自動で皮膜510を形成する形態を含む。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態の概要を説明するための構成図である。
【図2】皮膜形成時の構成図である。
【図3】表皮材形成時の金型の断面図である。
【図4】比較例の概要を説明するための構成図である。
【図5】皮膜内の固形分割合の変化を示すグラフである。
【図6】比較例によって作製した表皮材の表面を模式的に示す平面図である。
【図7】比較例によって作製した表皮材の断面を模式的に示す断面図である。
【図8】実施形態によって作製した表皮材の断面を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
100、200 インモールドコート塗装装置、
110、210 塗装ガン、
120、220 圧縮エアー供給装置(圧縮エアー供給部)、
121、122、221 コンプレッサ、
123、124、223 減圧弁、
125 温度センサ、
126 冷却装置、
128、129 流量調節バルブ、
130 コントローラ(制御部)、
131 外気、
132 冷風(冷却用エアー)、
133 マニホールド(混合部)、
134 圧縮エアー、
140 塗料供給装置、
141、142 タンク、
143、144 ギヤポンプ、
145 混合装置、
150 離型剤供給装置、
151 タンク、
152 ギヤポンプ、
300 金型、
310 上型、
320 下型、
322 キャビティ、
400 作業者、
500 表皮材、
510、610 皮膜、
520、620 樹脂、
614、616 薄膜部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型前に、塗料を噴霧する塗装ガンによって金型に前記塗料を塗布して皮膜を形成するインモールドコート塗装方法であって、冷却した圧縮エアーを前記塗装ガンに供給し、冷却した当該圧縮エアーを、前記塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた前記塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いるインモールドコート塗装方法。
【請求項2】
圧縮した外気と、冷却し圧縮した冷却用エアーとを混合して前記圧縮エアーとし、前記外気の温度に基づいて前記外気と前記冷却用エアーとの混合比を変えて、前記圧縮エアーの温度を制御する請求項1に記載のインモールドコート塗装方法。
【請求項3】
成型前に金型に塗料を塗布して皮膜を形成するためのインモールドコート塗装装置であって、
前記塗料を前記金型に噴霧するための塗装ガンと、
冷却した圧縮エアーを前記塗装ガンに供給する圧縮エアー供給部と、を有し、
冷却した前記圧縮エアーを、前記塗料を霧化して噴射させるための霧化エアー、および噴射させた前記塗料のパターンを調節するためのパターンエアーとして用いるインモールドコート塗装装置。
【請求項4】
圧縮した外気および冷却し圧縮した冷却用エアーを混合して前記圧縮エアーとする混合部と、前記外気の温度に基づいて前記外気と前記冷却用エアーとの混合比を変えて前記圧縮エアーの温度を制御する制御部と、を前記圧縮エアー供給部が有する請求項3に記載のインモールドコート塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−149331(P2010−149331A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328209(P2008−328209)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】