説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】乗員をその形態に応じてより適切に拘束できるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ14は、乗員に対向可能な乗員対向面部21を有し膨張ガスの導入により膨張展開する袋状のエアバッグ本体部13を備える。エアバッグ本体部13の乗員対向面部21の一部に、乗員対向面部21を前側へと引っ張ることで乗員対向面部21の展開を規制する引っ張り部材25の一端側を接続する。エアバッグ本体部13を第1の展開状態とする場合には、乗員対向面部21の一部を引っ張り部材25により引っ張って屈曲させることで乗員側への展開を規制し、屈曲させた乗員対向面部21を縫合部27により接合する。エアバッグ本体部13を第2の展開状態とする場合には、引っ張り部材25による乗員対向面部21の引っ張りと縫合部27による乗員対向面部21の接合とをそれぞれ開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張ガスの導入により膨張展開する袋状のエアバッグ本体部を有するエアバッグ及びこれを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のインストルメントパネル部に備えられる助手席乗員用のエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置は、膨張ガスを供給するインフレータと、所定の形状に折り畳まれた袋状のエアバッグ本体部を有するエアバッグとを備えている。そして、自動車の衝突などの際には、インフレータから膨張ガスを供給して、助手席に位置する被保護物である乗員の前方にエアバッグを膨張展開させ、乗員を拘束して衝撃を緩和するようになっている。
【0003】
このようなエアバッグにおいて、ウインドシールドであるフロントガラスに沿って展開する薄型の第1のバッグ部と、インストルメントパネル部に沿って展開する薄型の第2のバッグ部とを備え、例えば乗員がシートベルトを着用している場合には乗員の頭部のみを保護するように設定したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、この構成の場合、シートベルトを着用していない乗員の保護には改善の余地がある。
【0005】
また、例えばエアバッグ本体部の内部に配置したベルトの一端側を乗員対向面部に接続するとともに他端側をエアバッグ本体部の基端側に接続し、このベルトがエアバッグ本体部の膨張に従い徐々に伸張することで乗員対向面部が乗員に対して柔軟に接触するようにした構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、この構成の場合、エアバッグ本体部の内圧によってベルト長を制御している一方で、インフレータからの出力は一定であるため、エアバッグの最終形状や内圧は一定であり、シートベルトを着用している乗員と着用していない乗員とのそれぞれで効率よく乗員を拘束することが容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−145098号公報 (第5−7頁、図1−2)
【特許文献2】特開平6−191366号公報 (第5−6頁、図1−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、乗員の形態に応じた適切な拘束が可能なエアバッグが望まれている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、乗員をその形態に応じてより適切に拘束できるエアバッグ及びこれを備えたエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のエアバッグは、乗員に対向可能な乗員対向面部を有し膨張ガスの導入により膨張展開する袋状のエアバッグ本体部と、このエアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部に一端側が接続されてこの乗員対向面部を引っ張ることによりこの乗員対向面部の乗員側への展開を規制可能な引っ張り部材と、前記エアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部を開放可能に接合する接合部とを具備し、前記エアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部を前記引っ張り部材により引っ張って屈曲させることで乗員側への展開を規制するとともにこの屈曲させた乗員対向面部の前記接合部により接合した第1の展開状態と、前記引っ張り部材による前記乗員対向面部の引っ張りと前記接合部による前記乗員対向面部の接合とをそれぞれ開放した第2の展開状態とに選択的に展開可能であるものである。
【0011】
請求項2記載のエアバッグ装置は、シートベルトを備えた座席に着席した乗員に乗員対向面部を対向させる請求項1記載のエアバッグと、このエアバッグのエアバッグ本体部を、乗員が前記シートベルトを装着した状態で第1展開状態とするとともに、乗員が前記シートベルトを装着していない状態で第2の展開状態とする制御部とを具備したものである。
【0012】
請求項3記載のエアバッグ装置は、請求項2記載のエアバッグ装置において、制御部は、エアバッグのエアバッグ本体部の第1の展開状態では引っ張り部材の他端側を係止し、前記エアバッグ本体部の第2の展開状態では前記引っ張り部材の他端側の係止を解除するアクチュエータを備えているものである。
【0013】
請求項4記載のエアバッグ装置は、請求項2または3記載のエアバッグ装置において、制御部は、エアバッグのエアバッグ本体部に対して、第1の展開状態での膨張ガスの供給量よりも第2の展開状態での膨張ガスの供給量が多いインフレータ装置を備えているものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のエアバッグによれば、第1の展開状態では、展開したエアバッグ本体部の容量及び乗員対向面部の面積が低減し、例えばシートベルトを着用した乗員の主として頭部を適切に拘束できるとともに、第2の展開状態では、展開したエアバッグ本体部の容量及び乗員対向面部の面積が第1の展開状態よりも増加し、例えばシートベルトを着用していない乗員を適切に拘束できるなど、乗員をその形態に応じてより適切に拘束できる。
【0015】
請求項2記載のエアバッグ装置によれば、制御部が、エアバッグのエアバッグ本体部を、乗員がシートベルトを装着した状態で第1展開状態とするとともに、乗員がシートベルトを装着していない状態で第2の展開状態とするため、乗員をそのシートベルトの着用状態に応じて、より適切に拘束できる。
【0016】
請求項3記載のエアバッグ装置によれば、請求項2記載のエアバッグ装置の効果に加え、制御部が、エアバッグ本体部の第1の展開状態では引っ張り部材の他端側を係止し、エアバッグ本体部の第2の展開状態では引っ張り部材の他端側の係止を解除するアクチュエータを備えることで、このアクチュエータの動作によってエアバッグ本体部を第1の展開状態から第2の展開状態に容易に切り換えできる。
【0017】
請求項4記載のエアバッグ装置によれば、請求項2または3記載のエアバッグ装置の効果に加え、エアバッグのエアバッグ本体部に対して、第1の展開状態での膨張ガスの供給量よりも第2の展開状態での膨張ガスの供給量が多いインフレータ装置を備えることにより、第1の展開状態と第2の展開状態とでエアバッグ本体部の内圧をより適切に設定できるとともに、エアバッグ本体部が第2の展開状態となる際に、このエアバッグ本体部の内圧を利用して接合部を開放できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置の一実施の形態の一部を示し、(a1)はエアバッグ本体部の第1の展開状態を示す斜視図、(a2)はエアバッグ本体部の第1の展開状態を示す平面図、(b1)はエアバッグ本体部の第2の展開状態を示す斜視図、(b2)はエアバッグ本体部の第2の展開状態を示す平面図である。
【図2】同上エアバッグ本体部の展開挙動を(a)ないし(e)の順に模式的に示す説明図である。
【図3】同上エアバッグ本体部の第1の展開状態での乗員の拘束状態を模式的に示す説明図である。
【図4】同上エアバッグ本体部の第2の展開状態での乗員の拘束状態を模式的に示す説明図である。
【図5】同上エアバッグ本体部の第1の展開状態と第2の展開状態とでのインフレータ装置及びアクチュエータの作動状態とエアバッグ本体部の容量との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1ないし図4において、10はエアバッグ装置で、このエアバッグ装置10は、移動体である車両としての自動車の助手席、すなわち被保護物としての助手席の乗員Dの前方に位置する被設置部としてのインストルメントパネル部11の内側に配置され、助手席乗員用のエアバッグ装置10を構成している。なお、以下、前後方向、両側方向、及び上下方向は、それぞれエアバッグ装置10を自動車に取り付けた状態における自動車の直進方向を基準として説明する。
【0021】
そして、このエアバッグ装置10は、エアバッグモジュールとも呼び得るもので、基布にて構成された袋状の外殻部であるエアバッグ本体部13などを有するエアバッグ14、エアバッグ本体部13にガスを供給するインフレータ装置15、これらエアバッグ14とインフレータ装置15となどが取り付けられる図示しないケース体、図示しないリテーナ、展開前のエアバッグ14を覆う図示しないカバー体、及びインフレータ装置15の動作を制御する図示しない制御手段などを備えている。さらに、このエアバッグ装置10は、自動車のインストルメントパネル部11に取り付けられ、制御装置16に電気的に接続して構成される。
【0022】
ケース体は、略箱状に形成され、正面側あるいはインストルメントパネル部11の上方に連続するウインドシールドであるフロントガラス18に向かう上側を開口部である矩形状の突出口とし、内側が、折り畳んだエアバッグ本体部13(エアバッグ14)を収納するエアバッグ収納部とされている。また、このケース体の底部には、インフレータ装置15の取り付け用の取付孔が形成されている。そして、この突出口は、通常時は、カバー体により覆われている。
【0023】
また、インフレータ装置15は、種々の形状とすることが可能であるが、本実施の形態において、第1及び第2のインフレータ15a,15bが設定されている。これら第1及び第2のインフレータ15a,15bは、内部に点火器及び薬剤が収納され、図示しないコネクタを介して伝えられる制御手段からの電気信号により、点火器が薬剤を燃焼させ、ガス噴射口から膨張用のガスを急速に供給するようになっている。そして、これら第1及び第2のインフレータ15a,15bは、例えばケース体の底部などに配置され、ガス噴射口からエアバッグ本体部13の内側へと膨張ガスを供給可能となっている。なお、第1及び第2のインフレータ15a,15bは、例えば円柱状に形成してエアバッグ本体部13の内側に配置する構成を採ることもできる。
【0024】
また、リテーナは、枠状に形成されており、エアバッグ本体部13(エアバッグ14)とともにインフレータ装置15(第1及び第2のインフレータ15a,15b)を取り付けるための図示しない取付ボルトが突設されている。
【0025】
また、カバー体は、樹脂にてインストルメントパネル部11と一体あるいは別体をなして形成され、他の部分より薄肉で容易に破断するテアラインが平面略H字状などに形成されている。
【0026】
そして、エアバッグ本体部13は、単数、あるいは複数の基布を縫製、接着あるいは溶着などにより組み合わせて接合することで全体としては袋状に形成され、全開状態よりも容量及び内圧を抑制した展開状態である第1の展開状態(図3)と全開状態でかつ第1の展開状態よりも内圧が高い第2の展開状態(図4)とに選択的に展開可能である。このエアバッグ本体部13は、第2の展開状態で乗員Dに対向して上下方向及び左右方向(幅方向)に延びる乗員対向面部である乗員拘束面部21を後端部に有し、この乗員拘束面部21の両側から反乗員D側すなわち乗員D側と反対側、換言すれば前側に前後方向に沿って延びる側面部22,22が連続し、これら乗員拘束面部21及び側面部22,22の上部間に前後方向に沿って延びる上面部23が連続し、かつ、乗員拘束面部21及び側面部22,22の下部間に前後方向に沿って延びる下面部24が連続している。また、このエアバッグ本体部13の内側で、かつ、乗員拘束面部21の反乗員D側には、引っ張り部材25が接合されており、この引っ張り部材25がアクチュエータ26によって保持されることで、乗員拘束面部21の上下方向の中央部が前方へと引っ張られて屈曲され、この乗員拘束面部21の乗員D側が接合部である縫合部27によって開放可能(破断可能)に接合(縫合)されることによって、第1の展開状態となるように構成されている。
【0027】
乗員拘束面部21は、エアバッグ本体部13の第1の展開状態では、引っ張り部材25によって反乗員D側である前側へと屈曲されて折り込まれ、乗員D側への展開が規制される。すなわち、この乗員拘束面部21は、本実施の形態では、エアバッグ本体部13の第1の展開状態で、引っ張り部材25と接合された被接合部としての上下方向の中央部21aが前側へと引っ張られることにより、この中央部21aよりも上側の部分、すなわちこの中央部21aから上面部23へと連続する一方の拘束面部としての上側連続部21bと、この中央部21aよりも下側の部分、すなわちこの中央部21aから下面部24へと連続する他方の拘束面部としての下側連続部21cとが互いに上下に対向するようにエアバッグ本体部13の内側へと折り込まれ(タッキングされ)、エアバッグ本体部13の外部に露出しないようになっている。したがって、この乗員拘束面部21の屈曲により、エアバッグ本体部13は、上面部23と下面部24とが互いに隣接する状態となり、第1の展開状態での上下方向の容量が抑制される。また、この乗員拘束面部21は、エアバッグ本体部13の第2の展開状態では、シートベルトSBを着用していない(非着用の)乗員Dが前方へ移動してきた際に反力を与えることで乗員Dを拘束する。すなわち、この乗員拘束面部21は、最大に展開した状態で乗員Dの頭部H、胸部C及び腹部Aに亘る面積を有している。
【0028】
また、各側面部22には、膨張ガスの排出を許容する円形状のベントホール29がそれぞれ上下方向の上側寄りの位置に形成されている。これらベントホール29は、エアバッグ14(エアバッグ本体部13)の展開状態での余剰の膨張ガスを排出することでエアバッグ本体部13の内圧を適切に設定するものである。
【0029】
また、上面部23は、乗員拘束面部21及び側面部22,22の下側を連結しており、エアバッグ本体部13の第1の展開状態では、乗員Dの頭部Hを拘束する乗員頭部拘束面部となり、エアバッグ本体部13の第2の展開状態ではフロントガラス18に当接してエアバッグ本体部13を前後方向に支持する部分となるものである。
【0030】
そして、下面部24は、乗員拘束面部21及び側面部22,22の下側を連結しており、エアバッグ本体部13の各展開状態で、インストルメントパネル部11に当接してエアバッグ本体部13を前後方向及び上下方向に支持する部分となるものである。また、この下面部24は、インストルメントパネル部11に対向する位置である前側に、インフレータ装置15の第1及び第2のインフレータ15a,15bのガス噴射口から噴射された膨張ガスがエアバッグ本体部13の内部へと供給される図示しないガス導入口が形成されている。また、この下面部24は、ガス導入口の周縁部がインフレータ装置15(第1及び第2のインフレータ15a,15b)とともにケース体のエアバッグ収納部に一体的に固定されている。
【0031】
そして、引っ張り部材25は、一端側部材としての平面視で三角形状の三角布31を一端側である後側(乗員D側)に備えるとともに、この三角布31に連結された他端側部材としてのストラップ32を他端側である前側(反乗員D側)に備えている。
【0032】
三角布31は、一端側、すなわち乗員D側が乗員拘束面部21の中央部21aの反乗員D側の面に対して、例えば縫製などによって水平方向に沿って車幅方向に長手状に延びて接合(縫合)された引っ張り部材接合部33となっており、この一端側から他端側、すなわち反乗員D側へと徐々に幅寸法が小さくなるように形成され、他端部であるストラップ32との連結部分が頂点部34となっている。すなわち、この三角布31は、反乗員D側から乗員D側へと、徐々に車幅方向に拡開する略二等辺三角形状に形成されている。
【0033】
また、ストラップ32は、紐状に形成されており、他端側である前側(反乗員D側)が例えば下面部24に形成された導出口35などからエアバッグ本体部13の外部へと導出されて、アクチュエータ26に係止されている。なお、この導出口35としては、ガス導入口などを用いることも可能である。
【0034】
さらに、アクチュエータ26は、引っ張り部材25のストラップ32が係止される伸縮可能な保持部36を備えており、例えばインストルメントパネル部11内に配置されており、制御装置16からの電気信号により動作が制御されている。
【0035】
また、制御装置16は、乗員DがシートベルトSBを着用しているかどうかを検出する検出センサなどの各種センサを備えており、この検出センサによって検出した乗員DのシートベルトSBの着用あるいは非着用に応じて、インフレータ装置15からの膨張ガスの供給量を変えることが可能となっている。具体的に、本実施の形態では、エアバッグ本体部13を第1の展開状態とするときには第1のインフレータ15aのみを動作させ、第2の展開状態とするときには第1及び第2のインフレータ15a,15b及びアクチュエータ26を動作させる(図5)。すなわち、エアバッグ本体部13の第1の展開状態と第2の展開状態とでは、動作するインフレータの個数が異なっており、第2の展開状態とするときの方が第1の展開状態とするときよりも、動作するインフレータの個数が多く、インフレータ装置15からの膨張ガスの供給量が多くなるように設定されている。なお、図5においては、乗員Dとして、比較的小柄な女性の乗員を模したダミー(AF05)、または、比較的大柄な男性の乗員を模したダミー(AM50)を用いるものとする。そして、この制御装置16、インフレータ装置15(第1及び第2のインフレータ15a,15b)、アクチュエータ26、及び制御手段などにより、エアバッグ本体部13を、乗員DがシートベルトSBを装着した状態で第1展開状態とするとともに、乗員DがシートベルトSBを装着していない状態で第2の展開状態とする制御部38が構成されている。
【0036】
さらに、縫合部27は、第1の展開状態でのエアバッグ本体部13の内圧では接合(縫合)状態を維持し、第2の展開状態でのエアバッグ本体部13の内圧により開放(破断)するように形成されている。
【0037】
次に、エアバッグ装置10の展開挙動を説明する。
【0038】
このエアバッグ装置10の動作の概略としては、自動車の衝突などの際に、制御装置16が制御手段を介してインフレータ装置15を作動させ、このインフレータ装置15から膨張ガスを噴射させると、折り畳み状態でエアバッグ収納部に収納されたエアバッグ本体部13が、ガス導入口からの膨張ガスの流入に伴い膨張展開してカバー体のテアラインを破断して突出口から突出し、乗員D側へと展開する。
【0039】
例えば、乗員DがシートベルトSBを着用しているときには、乗員Dの胸部C及び腹部AはシートベルトSBによって反力が与えられて座席(助手席)に拘束されているため、乗員Dは上体が腹部Aを支点としていわばお辞儀をするように前方下側へと倒れる。
【0040】
したがって、制御装置16は、インフレータ装置15の第1のインフレータ15aのみを動作させることで、エアバッグ本体部13は、乗員拘束面部21が、アクチュエータ26の保持部36によりストラップ32が保持された引っ張り部材25により前方へと引っ張られかつ縫合部27により縫合された状態が維持され、比較的内圧が低く容量が小さい第1の展開状態に展開することで、上面部23に当接した乗員Dの頭部Hに比較的弱い反力を与え、この頭部Hを確実に拘束する。このとき、シートベルトSBによって拘束されている乗員Dの胸部Cには、エアバッグ本体部13が当接することがなく、この胸部Cにエアバッグ本体部13からの入力がない。
【0041】
一方、乗員DがシートベルトSBを着用していないときには、乗員Dは座席(助手席)に拘束されず、自動車の衝突などの際には座席から前方へと移動する。
【0042】
したがって、制御装置16は、図2(a)ないし図2(e)に示すように、アクチュエータ26を動作させて保持部36を収縮させ、引っ張り部材25のストラップ32を開放するとともに、インフレータ装置15の第1及び第2のインフレータ15a,15bをそれぞれ動作させることで、第1の展開状態とするときよりも多くの膨張ガスをエアバッグ本体部13に導入し、内圧を第1の展開状態よりも高い状態としてエアバッグ本体部13を展開させる。この結果、縫合部27が内圧によって破断されて乗員拘束面部21が開放されて面状に最大に展開し、エアバッグ本体部13が最大容量となって、比較的強い反力で乗員Dの頭部H、胸部C及び腹部Aを確実に拘束する。
【0043】
このように、本実施の形態によれば、制御部38により、エアバッグ本体部13は、乗員DがシートベルトSBを装着した状態で第1展開状態となるとともに、乗員DがシートベルトSBを装着していない状態で第2の展開状態となる。そして、第1の展開状態では、エアバッグ本体部13の容量及び乗員拘束面部21の面積が低減し、本実施の形態では乗員拘束面部21が乗員Dに対向しない状態となるので、より迅速に展開してシートベルトSBを着用した乗員Dの主として頭部Hのみを適切に拘束でき、シートベルトSBにより拘束されている胸部Cへの影響を軽減できる。また、第2の展開状態では、展開したエアバッグ本体部13の容量及び乗員拘束面部21の面積が第1の展開状態よりも増加し、シートベルトSBを着用していない乗員Dを適切に拘束できる。したがって、乗員Dをその形態、本実施の形態ではシートベルトSBの着用状態に応じて、より適切に拘束できる。
【0044】
特に、乗員拘束面部21をエアバッグ本体部13の内側に折り込むだけでなく、上側連続部21bと下側連続部21cとを縫合部27により接合(縫合)することで、これら連続部21b,21cが互いに上下に押し合った状態となり、これら上側連続部と下側連続部とを接合しない場合と比較して、上側連続部21bと下側連続部21cと開き角が小さくなって第1の展開状態でのエアバッグ本体部13の容量をより低減できるとともに、頭部Hが上側連続部と下側連続部との間の凹部内に入り込むことを防止できる。
【0045】
また、エアバッグ本体部13の第1の展開状態では引っ張り部材25のストラップ32を係止し、エアバッグ本体部13の第2の展開状態では引っ張り部材25のストラップ32の係止を解除するアクチュエータ26を制御部38が備えることで、このアクチュエータ26の動作によってエアバッグ本体部13を第1の展開状態から第2の展開状態に容易に切り換えできる。
【0046】
さらに、エアバッグ本体部13の第1の展開状態でのインフレータ装置15からの膨張ガスの供給量よりもエアバッグ本体部13の第2の展開状態でのインフレータ装置15からの膨張ガスの供給量を多くすることにより、第1の展開状態と第2の展開状態とでエアバッグ本体部13の内圧をより適切に設定できるとともに、エアバッグ本体部13が第2の展開状態となる際に、このエアバッグ本体部13の内圧を利用して縫合部27を開放できる。すなわち、乗員Dの頭部Hを拘束する第1の展開状態では、内圧を相対的に弱く設定することができ、乗員Dの頭部H、胸部C及び腹部Aを拘束する第2の展開状態では、相対的に大きい反力によって乗員Dを確実に受け止めて拘束できる。
【0047】
しかも、インフレータ装置15は、動作させるインフレータ(第1及び第2のインフレータ15a,15b)の個数を変えることでエアバッグ本体部13の第1の展開状態と第2の展開状態とでの膨張ガスの供給量を変えることにより、各インフレータ15a,15bの動作をオンオフ制御するだけでよく、制御をより簡略化できる。
【0048】
なお、上記の一実施の形態において、引っ張り部材25は、第1の展開状態では乗員拘束面部21の引っ張りを維持し、第2の展開状態ではこの引っ張りを開放するように構成されていれば、例えばアクチュエータ26を用いることなく、エアバッグ本体部13の基端側の位置に他端側を係止し、第2の展開状態でのエアバッグ本体部13の内圧によって引っ張り部材接合部33が開放(破断)するように乗員拘束面部21に接合(縫合)するなど、より簡略化した構成としてもよい。
【0049】
また、エアバッグ本体部13の第1の展開状態において、乗員拘束面部21はエアバッグ本体部13の内側へと完全に折り込んだが、第1の展開状態において必要なエアバッグ本体部13の容量に応じて、一部を乗員D側に露出させてもよい。
【0050】
さらに、縫合部27に代えて、例えば接着剤あるいは溶着などを用いて乗員拘束面部21の乗員D側を接合する構成としてもよい。
【0051】
また、インフレータ装置15は、インフレータの個数を変えることによって第1の展開状態と第2の展開状態とでの膨張ガスの供給量を変化させる構成だけでなく、例えば可変容量型のインフレータを備え、このインフレータからの膨張ガスの供給量を変化させるように制御してもよいし、これらを組み合わせてもよい。
【0052】
そして、エアバッグ14は、乗員DのシートベルトSBの着用あるいは非着用に対応して第1の展開状態と第2の展開状態とを切り換えるように構成したが、乗員Dのその他の任意の形態に応じて切り換えるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば助手席乗員用のインストルメントパネル部に備えるエアバッグとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 エアバッグ装置
13 エアバッグ本体部
14 エアバッグ
15 インフレータ装置
21 乗員対向面部である乗員拘束面部
25 引っ張り部材
26 アクチュエータ
27 接合部である縫合部
38 制御部
D 乗員
SB シートベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員に対向可能な乗員対向面部を有し膨張ガスの導入により膨張展開する袋状のエアバッグ本体部と、
このエアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部に一端側が接続されてこの乗員対向面部を引っ張ることによりこの乗員対向面部の乗員側への展開を規制可能な引っ張り部材と、
前記エアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部を開放可能に接合する接合部とを具備し、
前記エアバッグ本体部の前記乗員対向面部の一部を前記引っ張り部材により引っ張って屈曲させることで乗員側への展開を規制するとともにこの屈曲させた乗員対向面部の前記接合部により接合した第1の展開状態と、前記引っ張り部材による前記乗員対向面部の引っ張りと前記接合部による前記乗員対向面部の接合とをそれぞれ開放した第2の展開状態とに選択的に展開可能である
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
シートベルトを備えた座席に着席した乗員に乗員対向面部を対向させる請求項1記載のエアバッグと、
このエアバッグのエアバッグ本体部を、乗員が前記シートベルトを装着した状態で第1展開状態とするとともに、乗員が前記シートベルトを装着していない状態で第2の展開状態とする制御部と
を具備したことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項3】
制御部は、エアバッグのエアバッグ本体部の第1の展開状態では引っ張り部材の他端側を係止し、前記エアバッグ本体部の第2の展開状態では前記引っ張り部材の他端側の係止を解除するアクチュエータを備えている
ことを特徴とする請求項2記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
制御部は、エアバッグのエアバッグ本体部に対して、第1の展開状態での膨張ガスの供給量よりも第2の展開状態での膨張ガスの供給量が多いインフレータ装置を備えている
ことを特徴とする請求項2または3記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107598(P2013−107598A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256490(P2011−256490)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】