説明

エッチング液及びエッチング方法

【課題】 金又は金合金をエッチングするにあたり、高いエッチング速度をもち、かつ金又は金合金のみを高い選択性をもってエッチングでき、他の金属膜の腐食を抑制できる、エッチング液及びエッチング方法を提供する。
【解決手段】
基板上に形成された金又は金を含む合金よりなる薄膜をエッチングするためのエッチング液であって、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含み、pHが6〜8の範囲であるエッチング液及びこれを用いたエッチング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金又は金合金をエッチングするための液及び方法に関し、例えば半導体又は液晶用基板等に用いられるエッチング液及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置の微細電極配線パターンを形成するための材料として、金や金合金からなる薄膜が広く使用されている。パターンの微細加工技術としては、ドライエッチング法、エッチング液を用いるウエットエッチング法などがあるが、ウエットエッチング法は、高価な装置が不要であり、大面積を一度に処理できるなどの点で優れている。
金又は金合金からなる薄膜のエッチング液としては、ヨウ素、ヨウ化物塩及び水からなるヨードエッチング液(特許文献1)、臭素、臭化物塩及び水からなる臭素エッチング液、或いは王水(硝酸/塩酸混合液)、シアン化カリウムと有機酸化剤の混合液(特許文献2)等がある。なかでもヨードエッチング液は、金とよく反応し、エッチング速度が速く、また液が取り扱い易いという利点がある。
【0003】
またエッチング液にアルコールやグリセリン等の添加物を含有させることで、エッチング液の表面張力を低下させ、金薄膜と樹脂製フォトレジスト膜の双方に対するエッチング液の親和性を改善し、エッチング精度を向上させることが提案されている(特許文献3、4)。
一方、近年の半導体装置や液晶表示装置のさらなる高密度化、微細化の要求に伴い、微細電極配線に、金と、より卑な金属であるニッケル等を積層膜として用いることも提案されている(特許文献5)。
【特許文献1】特公昭51−020976号公報
【特許文献2】特開平06−333911号公報
【特許文献3】特開2003−224116号公報
【特許文献4】特開昭63−176483号公報
【特許文献5】特開2004−031598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、金とニッケルとを積層した場合、ニッケルは金より卑な金属であるため、金のエッチング液でニッケルもエッチングされてしまう虞がある。
本発明は、金又は金合金をエッチングするにあたり、高いエッチング速度をもち、かつ他の金属膜を侵すことなく金又は金合金のみを高い選択性をもってエッチングできるエッチング液及びエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、pH緩衝剤を用いてエッチング液のpHを所定範囲に制御することで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明者らの検討によれば、ヨウ素及びヨウ素化合物を含むエッチング液によりエッチングを行う際、液のpHが低く酸性が強いと金と同時に卑金属もエッチングされやすく、液のpHを中性に近い範囲内にすれば金や金合金のみの選択的エッチングが行われることが分った。
【0006】
通常、ヨウ素及びヨウ素化合物を含むエッチング液は、調液した初期状態ではpHが6付近であるが、経時的にヨウ素酸が生成し、pHの著しい低下が見られる。
KOHなどアルカリ性の金属水酸化物を加えてエッチング液のpHを7以上に調液することは可能だが、時間と共にヨウ素酸が発生するため徐々にpHが低下してしまうため、エッチング液の酸性化は避けられない。
【0007】
しかし例えばニッケルはpHがおよそ4〜5以下になるとエッチングされてしまう。特に、基板/ニッケル層/金層/パターン化フォトレジスト層のような積層体の金層をエッチングする場合、液の拡散状態が十分でないと、パターンの凹部で局所的にさらにpHが下がり、ニッケル面がより浸蝕されやすくなる傾向がある。そして、ニッケル層がエッチングされると、金とニッケルとの間の電池効果によりサイドエッチングが急速に進行するため、パターンの寸法変化が大きくなってしまう。このためエッチング液のpHを予め所定範囲内に制御しておくことが強く望まれる。
【0008】
本発明の第1の要旨は、基板上に形成された、金又は金合金よりなる薄膜(以下、金薄膜と称することがある。)をエッチングするためのエッチング液であって、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含み、pHが6〜8の範囲であることを特徴とするエッチング液に存する。本発明の第2の要旨は、基板上に形成された金薄膜を、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含み、pHが6〜8の範囲であるエッチング液を用いてエッチングすることを特徴とするエッチング方法に存する。金又は金合金よりなる薄膜は基板上に直接形成されていてもよいし、任意の他の層を介して形成されていてもよい。
【0009】
すなわちエッチング液にpH緩衝剤を含ませてpH6〜8の範囲で調液し、その後の経時的pH変動をpH緩衝剤により抑制し、エッチング液のpHを6〜8の範囲に保つことを特徴とする。これによれば、他の卑金属を侵すことなく、高いエッチング速度で金薄膜を選択的にエッチングすることができる。しかも経時的なエッチング液のpH変動が抑えられるため、エッチング液を長期保存してもエッチング性能が変化せず、安定的にエッチングが行える利点がある。
【0010】
本エッチング液は、基板と金薄膜とのあいだに、卑金属を含む合金よりなる下地膜が形成されてなる対象物の金薄膜のエッチングに用いると、サイドエッチングが少なくパターンの寸法安定性が高い利点がある。より望ましくは下地膜が、ニッケル、クロム、モリブデン及びチタンからなる群の少なくとも1種、或いはそれを含む合金よりなる場合である。
【0011】
また本エッチング液は、金薄膜上に、フォトレジストよりなるパターン化膜が形成されてなる対象物の金薄膜のエッチングに用いると、pHの局所的低下による浸蝕が抑えられる利点がある。更に本エッチング液は、金薄膜上に、例えば、狭ピッチの金バンプのような、複数の金又は金合金からなるバンプ(突起)が形成されてなる対象物の金薄膜のエッチングに用いても、同様な効果を得られる利点がある。
【0012】
本発明において、金合金とは、複数種の金属からなり、金の含有量(重量%)が他のいずれの金属よりも多い合金を言う。金としての性質を重視する場合、通常、金を50重量%以上含むことが望ましく、より望ましくは80重量%以上含む。またニッケル合金とは、複数種の金属からなり、ニッケルの含有量(重量%)が他のいずれの金属よりも多い合金を言う。ニッケルとしての性質を重視する場合、通常、ニッケルを50重量%以上含むことが望ましく、より望ましくは80重量%以上含む。他の金属の合金についても同様である。
【0013】
pH緩衝剤は、緩衝作用を持つ溶液、即ちpHの変化が純水の場合よりも小さい溶液を指すが、本発明においては、本エッチング液の液性をpH6〜8付近に制御しうるpH緩衝剤であれば特に制限なく使用できる。好ましくはpH7付近に制御する作用を持つpH緩衝剤を用いる。
pH緩衝剤はリン酸系pH緩衝剤及び/又はクエン酸系pH緩衝剤であることが好ましい。より好ましくはリン酸系pH緩衝剤であり、なかでもKHPO/KHPO系の緩衝剤が好ましい。
【0014】
エッチング液は、更にアルコール類及び/又はグリコール類を含有することが好ましい。より好ましくはアルコール類及び/又はグリコール類の炭素数が1〜4の範囲である。またエッチング液が更に界面活性剤を含むことが好ましい。
エッチング液には、ヨウ素化合物としてヨウ化物塩を含むことが好ましく、より好ましくはヨウ化カリウム及びヨウ化アンモニウムの少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、他の卑金属を侵すことなく、高いエッチング速度で金薄膜を選択的にエッチングすることができる。また卑金属層との積層膜の場合、サイドエッチングが少なくパターンの寸法安定性が高い。しかも経時的なエッチング液のpH変動が抑えられるため、エッチング液を長期保存してもエッチング性能が変化せず、安定的にエッチングが行える利点がある。従って、半導体装置や液晶表示装置などの電子材料製造における、金又は金合金を用いた素子や電極配線素子等の形成に有用である。なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明エッチング液及びエッチング方法についてより詳細に説明する。
本発明のエッチング液は、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含有する。 通常、ヨウ素は水に溶解し難いが、ヨウ素化合物の水溶液には比較的容易に溶解する。特にヨウ化物塩の水溶液には溶解しやすいため、ヨウ素化合物としてはヨウ化物塩を用いるのが好ましい。半導体装置などの微細加工分野においては腐食の問題からナトリウムの存在は望ましくないため、なかでもヨウ化カリウムやヨウ化アンモニウムが好ましい。
【0017】
本発明のエッチング液中のヨウ素の濃度は、金薄膜のエッチングが可能であれば特に限定されないが、十分なエッチング性能を得るためには、通常0.1重量%以上とする。好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは1.5重量%以上とする。但し、エッチング液に十分に溶解させるためには、ヨウ素の濃度は通常20重量%以下とする。好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは8重量%以下、特に好ましくは5重量%以下とする。
【0018】
ヨウ素化合物は、溶解させようとするヨウ素のモル数の、2〜10倍のモル数をエッチング液に含有させることが好ましい。ヨウ素を溶解させるためのヨウ素化合物水溶液はヨウ素化合物を1種類のみ含有してもよく、2種類以上のヨウ素化合物を含有してもよい。
pH緩衝剤は、緩衝作用を持つ溶液、即ちpHの変化が純水の場合よりも小さい溶液を指すが、本発明においては、本エッチング液の液性をpH6〜8付近に制御しうるpH緩衝剤であれば特に制限なく使用できる。好ましくはpH7付近に制御する作用を持つpH緩衝剤を用いる。
【0019】
例えば、pH標準液として用いられるNBSリン酸緩衝液を始めとして、中性領域で一般的に用いられる、リン酸緩衝液、KHPO/NaOH緩衝液、イミダゾール/HCl緩衝液、更には、クエン酸/リン酸一水素ナトリウムやクエン酸/リン酸一水素カリウムを使用した広域緩衝液、等が挙げられるが、pH緩衝作用が大きい点でリン酸系pH緩衝剤及び/又はクエン酸系pH緩衝剤が好ましい。特に半導体装置などの微細加工分野においては腐食の問題からナトリウムの存在は望ましくないため、カリウム塩を用いることが好ましく、なかでもKHPO/KHPO系緩衝剤が好ましい。
【0020】
pH緩衝剤の組成比や添加量は、調製されたエッチング液のpHが6〜8の範囲内となるように適宜選択すればよい。例えば、50kgのエッチング基本液に対して、KHPO/KHPO系緩衝剤であれば、pHを6とするためにはKHPO:KHPO=408g:58gを、pHを8とするためにはKHPO:KHPO=23g:552gを添加すればよい。
【0021】
エッチング液のpHは6〜8の範囲とする。エッチング時の金属選択性を上げるためにpHは6以上とする必要がある。一方、pHが8を超えるとヨウ素が分解してしまうため、pHは8以下とする。ヨウ素酸の発生によりエッチング液のpHは経時的に下がる傾向があるため、好ましくは調製時(初期状態)のpHを6.5〜8とし、より好ましくは調製時のpHを7〜8とする。
【0022】
エッチング液は、更にアルコール類及び/又はグリコール類を含有することが好ましい。エッチング液の金薄膜に対する親和性が高まり、エッチングが促進される利点がある。添加するアルコール類及び/又はグリコール類は特に限定されないが、例えば、アルコール類としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール等が挙げられ、グリコール類としてはプロピレングリコールやジエチレングリコール等が挙げられる。特に、粘度が低くエッチング時の均一性に悪影響を及ぼさない、炭素数が1〜4の範囲のアルコール類及び/又はグリコール類が好ましい。例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールやジエチレングリコールである。より好ましくは蒸発しにくくエッチング液の組成変化を招きにくい点で、1−プロパノール、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0023】
アルコール類及び/又はグリコール類の濃度は、エッチング液の性能に悪影響を及ぼさない範囲で適宜決定すればよいが、あまり多いと濃度の上昇に見合う効果の期待ができず、またヨウ素の溶解性が低下するため、通常、40重量%以下である。好ましくは30重量%以下とし、より好ましくは25重量%以下とする。一方、アルコール類及び/又はグリコール類の添加効果を十分得るためには、通常、1重量%以上とし、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上とする。
【0024】
本発明のエッチング液は、更に界面活性剤を含有してもよい。エッチング液の金薄膜に対する親和性が高まり、エッチングが促進される利点がある。界面活性剤は、エッチング液の効果を阻害しないものであれば特に限定されず界面活性剤としてはノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いうるが、エッチング液中のヨウ素によって酸化され難いものが好ましい。具体的には炭素数3〜20の炭化水素基を有する化合物が好ましい。炭化水素基は直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよく、また飽和、不飽和の何れでもよい。また、主鎖に1以上の窒素原子及び/又は酸素原子を含有していてもよい。例えば、炭素数9の飽和アルキル鎖を有するN−ジエタノールアミド、C19CO−N(OCなどである。
【0025】
界面活性剤の濃度は、エッチング液の性能に悪影響を及ぼさない範囲で適宜決定すればよいが、あまり多いと濃度の上昇に見合う効果の期待ができず、またエッチング液が発泡する場合があるため、通常、5重量%以下である。好ましくは1重量%以下とする。一方、界面活性剤の添加効果を十分得るためには、通常、0.001重量%(10重量ppm)以上とし、好ましくは0.01重量%(100重量ppm)以上、より好ましくは0.05重量%(500重量ppm)以上とする。
【0026】
本発明のエッチング液には、エッチング性能に悪影響を及ぼさない範囲で種々の添加剤を任意の量添加することができる。
本発明のエッチング液を半導体装置や液晶表示装置の製造工程に使用する場合には、できるだけ不純物含有量の少ない高純度の薬品を用いて調製することが好ましい。各々の薬品のメタル不純物は少ないほどよく、1重量ppm以下であることが特に好ましい。
【0027】
エッチング液中に存在する微粒子は、基板上のパターンサイズが微細化するに伴い、均一なエッチングを阻害するおそれがあるので除去しておくことが望ましく、粒径0.5μm以上の微粒子数は1000個/ml以下とすることが好ましい。微粒子の除去は、例えば調製されたエッチング液を精密フィルターで濾過することにより行うことが出来る。この場合、濾過の方式はワンパス式でも良いが、微粒子の除去効率の点から循環式がより好ましい。用いる精密フィルターの孔径は0.2μm以下であることが好ましい。フィルターの素材は特に限定されないが、例えば高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂系素材等を使用することができる。
【0028】
本発明のエッチング液は種々の基板上の金薄膜のエッチングに使用できるが、特に、半導体装置や液晶表示装置の製造工程の微細電極配線パターン形成に用いると、金薄膜のみを高い選択性で精度良くエッチングでき、寸法安定性に優れたパターンが形成できるので好ましい。しかも長期にわたりエッチング液のpH変動が小さくエッチング性能が変化しないため、安定的に製造が行える利点がある。
【0029】
ここで半導体装置や液晶表示装置用の基板とは、半導体装置等の製造に用いるウエハや、表面上に半導体装置等を製造する工程中の基板、及び液晶表示装置の駆動回路装置等を設ける基板、等を含む。基板の材料は特に限定されず、シリコン、ガラス等さまざまなものを用いうる。金又は金合金よりなる薄膜は基板上に直接形成されていてもよいし、任意の他の層を介して形成されていてもよい。また金又は金合金よりなる薄膜上に他の層が形成されていてもよい。
【0030】
本発明において、金又は金を含む合金からなる薄膜の厚みは、目的に応じて選択すればよく特に限定されないが、通常、10nm〜10μm程度であり、好ましくは100nm〜500nm程度である。
金や金を含む合金は、電気抵抗が低く電気を通しやすいため、高密度化、微細化の進む電極配線パターン形成に広く使用されている。しかし金はシリコンやガラスとの密着性が悪く、従って、密着性が良い金属よりなる下地膜を成膜し、この下地膜上に金薄膜を形成することが好ましい。下地膜としては通常、卑金属が用いられ、特にはニッケル、クロム、モリブデン及びチタンからなる群の少なくとも1種、或いはそれを含む合金が、密着性に優れ好ましい。なかでもニッケルやクロムは取扱い性に優れ好ましい。下地膜は1層でもよいし、必要に応じて2層以上からなってもよい。下地層の厚みはその目的にかなう範囲で特に限定されないが、通常、1nm〜10μm程度であり、好ましくは10nm〜500nm程度である。また下地膜と基板との間に更に他の層が形成されていてもよい。
【0031】
本発明においてエッチングの対象となる半導体基板等の表面に設けられている金薄膜の形状は任意であり、基板の用途や配線パターンに応じて様々の形状をとりうる。金薄膜にパターンを形成する方法は種々あるが、例えば、基板上の金薄膜の上にフォトレジスト層を塗布成膜し、フォトリソグラフィー法により所望の配線パターンに応じた潜像を形成したのち現像してフォトレジスト層に凹凸パターンを形成、パターン化膜とする。このパターン化膜をマスクとしてエッチングを行うことで金薄膜に配線パターンに応じた凹凸パターンが形成できる。
【0032】
また、ワイヤーボンディングやフリップチップボンディング等を目的として、各種基板上に金又は金合金または、はんだ(Sn−Ag,Sn−Pb合金等)からなるバンプ(突起)を形成したい場合があり、例えば、金バンプであれば以下のようにして形成できる。
まず基板上に金又は金合金からなる導電性薄膜をスパッタリングなどで成膜したのち、
所望のバンプ形状・位置・数に応じて、その上にレジストでパターンを形成し、導電性薄膜を一部露出させる。次いで電解メッキにより、露出した導電性薄膜上に金や金合金からなる層を厚く(通常、数十〜数百μm程度)めっきした後、レジスト層を除去すると金薄膜上にバンプ(突起)が形成されたものが得られる(電解めっきによる湿式バンプ形成法)。このままではバンプ同士が金薄膜を通して導通してしまうため、金薄膜をバンプ形状に従ってエッチングし、バンプ同士を電気的に切り離す。このようにしてバンプを持つ基板を得ることができる。なお、めっき成膜した層は薄膜に比べて十分厚いためエッチングの影響は殆ど受けない。
【0033】
この他にも、基板上に金属層をめっきやスパッタリングなどにより成膜し、その上にレジストでパターンを形成したのち金属層をエッチングすることでも同様のものを作製することができる。その際、金属層が複数の異なる金属や合金の積層膜からなるときは、上の層から順に各金属または合金からなる膜に適したエッチャントを用いてエッチングしていくが、途中に金薄膜が含まれている場合に本発明に係わるエッチング液やエッチング方法を適用することができる。このような積層膜のエッチングでは金薄膜と、上にある各金属又は合金層とのエッチング選択性が高いことが非常に重要であるが、本発明のエッチング液によればエッチング選択性が高いので、このような用途に好適に用いることができる。
【0034】
本発明のエッチング液は、公知の種々のウエットエッチング方式に適用できる。例えば浸漬式ウエットエッチング法やスプレー式ウエットエッチング法などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例にて本発明を更に詳しく説明するが、その例示は本発明の範囲を限定するものではない。
各実施例で用いたエッチング液の組成を表−1に示す。ここで、pH緩衝剤量(重量部)は、水、ヨウ素、ヨウ化カリウム及び1−プロパノールで構成されるエッチング基本液の総量を100重量部とし、これに対して添加した量で示した。
【0036】
なおエッチング液調製に用いた薬品は、いずれも純度99.9%以上の高純度品である。
【0037】
【表1】

【0038】
また、厚さ0.5mmの金(Au)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)の板をそれぞれ幅10mm×長さ10mmにカットしたものを、金属溶解速度評価用試験片とした。
【0039】
実施例1
水71.2重量部にヨウ素3重量部、ヨウ化カリウム11.8重量部、1−プロパノール14重量部を添加してエッチング基本液を調製し、このエッチング基本液に対して、更にpH緩衝剤として、KHPO1.3重量部とKHPO6.7重量部を添加してエッチング液を調製した。このエッチング液200gを300mlビーカーに入れ、液温を25℃に保った。
【0040】
<金属溶解速度評価試験>
このエッチング液に各試験片を2時間浸漬させ、浸漬前後の重量差から各金属の溶解速度を算出した。また本エッチング液の金属選択性の指標としてエッチング速度比(Auのエッチング速度/各金属のエッチング速度)を算出した。金属選択性の数値が大きいほどその金属に対する金のエッチング速度が速く、選択性が高いエッチング液である。
【0041】
また、エッチング液の経時変化を調べるため、30日後に再び金属溶解速度評価試験を実施した。
これらの結果を表−2に示す。表−2から明らかなように、実施例1のエッチング液はニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)に対して高いエッチング選択性を有しており、これらの金属を侵すことなく金(Au)のみを選択的にエッチングできることが分かる。
【0042】
本エッチング液のpHの経時的変化を図1に示す。pH緩衝剤を含む実施例1のエッチング液は、30日間ほとんどpHの変動が見られなかった。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例2
pH緩衝剤として、KHC0.20重量部とK9.8重量部を添加した以外は実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。このエッチング液200gを300mlビーカーに入れ、液温を25℃に保った。
実施例1と同様に金属溶解速度評価試験を行った。これらの結果を表−3に示す。表−3から明らかなように、実施例2のエッチング液はニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)に対して大きなエッチング選択性を有しており、これらの金属を侵すことなく金(Au)のみを選択的にエッチングできることが分かる。
【0045】
本エッチング液のpHの経時的変化を図1に示す。実施例2のエッチング液のpHは多少変動はあるものの常に6〜8の範囲で、30日間大きなpHの変動は見られなかった。
【0046】
【表3】

【0047】
比較例1
pH緩衝剤を加えず、代わりに20重量%水酸化カリウム水溶液を用いて初期pHを7.5に調整した以外は実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。このエッチング液200gを300mlビーカーに入れ、液温を25℃に保った。
実施例1と同様に金属溶解速度評価試験を行った。これらの結果を表−4に示す。表−4から明らかなように、実施例1、2に比べてエッチング選択性が低く、ニッケル(Ni)に対してほとんど選択性がないことが分かる。なお、2時間の浸漬後にpHが5.63にまで低下しており、このためニッケル(Ni)のエッチングが進んだと考えられる。
【0048】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0049】
上述のように、本発明のエッチング液及びエッチング方法によれば、基板上の金又は金を含む合金よりなる薄膜を、安定的にかつ高いエッチング速度でエッチングできる。しかも金属選択性に優れるので、他の金属膜を侵すことなく金や金合金をエッチングできるので、電子材料製造における、金又は金合金を用いた素子や電極配線素子等の形成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例におけるエッチング液のpH変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、金又は金合金よりなる薄膜(以下、金薄膜と称する。)をエッチングするためのエッチング液であって、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含み、pHが6〜8の範囲であることを特徴とするエッチング液。
【請求項2】
前記pH緩衝剤が、リン酸系pH緩衝剤及び/又はクエン酸系pH緩衝剤である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記基板と前記金薄膜とのあいだに、卑金属を含む合金よりなる下地膜が形成されてなる、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記下地膜が、ニッケル、クロム、モリブデン及びチタンからなる群の少なくとも1種、或いはそれを含む合金よりなる、請求項3に記載のエッチング液。
【請求項5】
基板上に形成された金薄膜を、少なくともヨウ素、ヨウ素化合物及びpH緩衝剤を含み、pHが6〜8の範囲であるエッチング液を用いてエッチングすることを特徴とするエッチング方法。
【請求項6】
前記pH緩衝剤が、リン酸系pH緩衝剤及び/又はクエン酸系pH緩衝剤である、請求項5に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記基板と前記金薄膜とのあいだに、卑金属を含む合金よりなる下地膜が形成されてなる、請求項5又は8に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記下地膜が、ニッケル、クロム、モリブデン及びチタンからなる群の少なくとも1種、或いはそれを含む合金よりなる、請求項7に記載のエッチング方法。
【請求項9】
前記金薄膜上に、フォトレジストよりなるパターン化膜が形成されてなる、請求項5乃至8のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項10】
前記金薄膜上に、複数の金又は金合金からなるバンプが形成されてなる、請求項5乃至8のいずれか1項に記載のエッチング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−199987(P2006−199987A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11240(P2005−11240)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】