説明

エンジンのバルブタイミング制御装置

【課題】 エンジン始動時の振動を低減させることができるとともに、燃費悪化を最低限に抑制しつつ始動後のエンジン出力の早期向上を図ることができる技術を提供する。
【解決手段】 クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプと、バッテリ電力により駆動力を得て流体を供給する電動式ポンプと、機械式ポンプおよび/または電動式ポンプにて供給された流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構と、エンジン停止中における車両に対する加速要求の度合いに応じて前記電動式ポンプの駆動力を制御する電動式ポンプ駆動制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能なバルブタイミング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、出力向上、ドライバビリティ向上、低エミッション化等を意図して、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更してエンジン(内燃機関)の吸気バルブの作動タイミングを変更するバルブタイミング制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトと同期して回転するハウジングと、カムシャフトに結合されハウジングに対して相対的に回転可能なベーンと、油の流入によってその体積を広げてベーンのクランクシャフトに対する回転位相を進角させる進角室と、油の流入によってその体積を広げてベーンのクランクシャフトに対する回転位相を遅角させる遅角室とを備え、進角室と遅角室への油の流入を制御することにより、吸気バルブを駆動するカムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を可変とし、これによって吸気バルブの作動タイミングを変更できるようになっている。
【0004】
一般的に、エンジンが冷えた状態でエンジンを始動させる際には、吸気圧縮比を上げることで容易に始動させることができ、一方、機関暖機状態では、吸気圧縮比を下げ、高めのクランキング回転数とすることにより、低振動にて静粛に始動させることができる。
【0005】
ゆえに、バルブタイミング制御装置にて、冷間始動時には、クランクシャフトの回転に対する吸気バルブの開閉タイミングを最も早くすべくクランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を最進角位相にし、温間(暖機完了後)始動時には、クランクシャフトの回転に対する吸気バルブの開閉タイミングを最も遅くすべくクランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を最遅角位相にすることが好ましい。
【0006】
また、燃費向上および低エミッション化の観点から注目されてきている、信号待ち等の車両一時停止時にエンジンを一時停止させるエコラン運転を行う車両やエンジンによる駆動と電動機による駆動とを適宜織り交ぜて駆動力を得るハイブリッド車両においては、温間始動が頻繁に行われる。ゆえに、これらの車両においては、クランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を最遅角位相にロックするロック機構を備え、頻繁に行われる温間始動に備えるべく、エンジンの停止時にはロック機構により吸気カムシャフトの回転位相を最遅角位相に固定することが実用化されている。
【0007】
このロック機構は、例えばベーンに往復動可能に配設されたロックピンと、ロックピンの先端部が挿入されるハウジングの係止孔とを備える。このロック機構では、カムシャフトが所定の回転位相であり、かつ作動油の圧力が低いときにロックピンの先端部が係止孔に挿入される。このロックピンによりハウジングとベーンとの相対回転が規制され、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相が最遅角位相に保持される。また、ロック機構にはロック解除用の圧力室が設けられており、この圧力室への油の流入により圧力が十分に高まると、ロックピンが係止孔から抜け出てロックが解除され、ハウジングとベーンとの相対回転が可能となるものである。
【0008】
そして、エンジンの停止時に、ロック機構により吸気カムシャフトの回転位相を最遅角
位相に固定する場合において、エンジンの停止時に加速要求がある場合などには、それに応える必要があるため、ロックを解除し、その後吸気圧縮比を上げるべくクランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を進角させる必要があるので、ロック解除用の圧力室および進角室へ油を流入させる必要がある。
【特許文献1】特開2000−320356号公報
【特許文献2】特開2002−61522号公報
【特許文献3】特開2003−278566号公報
【特許文献4】特開2003−247434号公報
【特許文献5】特開2004−19497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ロック解除用の圧力室および進角室へ油を流入させて油圧を高めるために、エンジンの駆動力から駆動力を得る機械式のオイルポンプを利用するのでは、エンジンの回転数に応じた駆動力を得ることができるのみであり、始動時に迅速に油圧を高めることができない。ゆえに、機械式のオイルポンプを利用するのみでは、エンジンの停止時からの加速要求に十分に応えることができない。
【0010】
エンジンの駆動力とは独立して駆動される電動式のオイルポンプを用いることにより上述した問題を解消することができるが、頻繁に行われる温間始動時に常に電動式のオイルポンプを使用するとその分燃費が悪化してしまう。
【0011】
本発明は、上記した事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン始動時の振動を低減させることができるとともに、燃費悪化を最低限に抑制しつつ始動後のエンジン出力の早期向上を図ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るエンジンのバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプと、バッテリ電力により駆動力を得て流体を供給する電動式ポンプと、前記機械式ポンプおよび/または電動式ポンプにて供給された流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構と、エンジン停止中における車両に対する加速要求の度合いに応じて前記電動式ポンプの駆動力を制御する電動式ポンプ駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
信号待ち等の車両一時停止時にエンジンを一時停止させるエコラン運転を行う車両やエンジンによる駆動と電動機による駆動とを適宜織り交ぜて駆動力を得るハイブリッド車両においては、エンジンが自動的に停止し、当該車両の使用者によりアクセルが踏込まれて車両に対して加速要求がなされることなどを条件に、エンジンが自動的に始動される。ゆえに、かかる車両においては、エンジンが温まった状態で始動される、温間始動が頻繁に行われる。
【0014】
また、一般的に、エンジンが冷えた状態で始動させる際には、吸気圧縮比を上げることで容易に始動させることができ、一方、温間時(暖機完了後)には、吸気圧縮比を下げ、高めのクランキング回転数とすることにより、低振動にて静粛に始動させることができる。
【0015】
ゆえに、これらの車両に搭載されるエンジンの吸気バルブの作動タイミングを制御するバルブタイミング制御装置においては、頻繁に行われる温間始動に備えるべく、エンジン停止時に吸気バルブの作動タイミングを、吸気圧縮比を下げ得るように固定することが好
ましい。ただし、このように始動時の吸気バルブの作動タイミングを、吸気圧縮比を下げ得るように固定する場合には、始動後、エンジン出力を上げるために吸気圧縮比を上げるように吸気バルブの作動タイミングを変更する必要がある。
【0016】
そして、潤滑油(オイル)あるいはエンジン冷却用の冷却水である流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構においては、流体の圧力が高くなければカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることができない。
【0017】
ゆえに、クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプのみを備える場合においては、エンジン始動直後などエンジン回転数が低い場合には、カムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させるのに十分な流体を供給することができずに、エンジン始動後迅速に吸気バルブの作動タイミングを変更することができない。
【0018】
これに対して、本発明に係るバルブタイミング制御装置は、機械式ポンプとは別に電動式ポンプを備えているので、エンジンの駆動とは独立して可変バルブタイミング機構に流体を供給することができ、吸気バルブの作動タイミングを任意に変更することができる。ただし、電動式ポンプを駆動させるとバッテリ電力が消費されるので、適切な時に電動式ポンプを駆動させないと、燃費が悪化してしまう。
【0019】
本発明に係るエンジンのバルブタイミング制御装置は、電動式ポンプ駆動制御手段が、エンジン停止中における車両に対する加速要求の度合いに応じて電動式ポンプの駆動力を制御する。ゆえに、例えば、車両に対する加速要求値が所定値以上である場合には電動式ポンプの駆動力を最大にすることで、始動後、迅速に吸気バルブの作動タイミングを変更することができ、動力性能を向上させることができる。一方、車両に対する加速要求値が所定値より小さい場合など、加速要求の度合いが低い場合には電動式ポンプの駆動力を小さくすることで、燃費向上を図ることができる。なお、加速要求値は、アクセル踏込み量(開度)に比例して大きくなるものであることを例示することができる。
【0020】
また、上記のバルブタイミング制御装置が、エンジンと、当該エンジンが出力する動力を利用して発電を行う発電機と、車両の駆動軸に駆動力を供給する電動機とを備え、前記発電機の発電電力とバッテリ電力を併用して前記電動機の駆動力を上昇させて加速可能なハイブリッド車両のエンジンの吸気バルブの作動タイミングを制御するものである場合、前記電動式ポンプ駆動制御手段は、前記電動機によって車両を駆動させている際に加速要求があったとしても、前記電動機が前記発電機の発電電力とバッテリ電力をその駆動力を上昇させるのに使いきれない場合には、前記電動式ポンプの駆動を禁止することを特徴とする。
【0021】
電動機に電力を多く供給したとしても、電動機が出力することができるトルクには制限がある。このトルク制限により、電動機が発電機の発電電力とバッテリ電力をその駆動力を上昇させるのに使いきれない場合には、始動後迅速に吸気バルブの作動タイミングを変更してエンジン出力を上昇させても、その分電動機の駆動力が上昇するわけではなく、車両の加速性能は向上しない。ゆえに、かかる場合には、前記電動式ポンプの駆動を禁止することにより、無駄に電力が消費されることを防止することができるので、燃費向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明に係るエンジンのバルブタイミング制御装置は、クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプと、バッテリ電力により駆動力を得て流体を供給する電動式ポンプと、前記機械式ポンプおよび/または電動式ポンプにて供給された流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることによ
り吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構と、エンジン停止中にエンジン始動タイミングを予測し、当該予測タイミングの直後にはカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることができるようにエンジン停止中に前記電動式ポンプを駆動開始させる電動式ポンプ駆動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
電動式ポンプ駆動制御手段が電動式ポンプを駆動開始させたとしても、カムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させるのに十分な圧力を発生させることができる量の流体を供給するまでには、ある程度の時間を要するという、油圧応答遅れが生じる。ゆえに、始動直後迅速に吸気バルブの作動タイミングを変更させるためには、エンジン始動に先立って電動式ポンプを駆動開始させることが好ましい。さらに、油圧応答遅れ時間分だけエンジン始動に先立って電動式ポンプを駆動開始させることにより、低振動にて静粛に始動させることと、電動式ポンプのための消費電力を少なくすることの両立を図ることができる。
【0024】
本発明に係るエンジンのバルブタイミング制御装置においては、電動式ポンプ駆動制御手段が、エンジン停止中にエンジン始動タイミングを予測し、当該予測タイミングの直後にはカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることができるようにエンジン停止中に電動式ポンプを駆動開始させるので、低振動にて静粛に始動させることができるとともに、燃費悪化を最低限に抑制しつつエンジン出力を早期に向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、エンジン始動時の振動を低減させることができるとともに、燃費悪化を最低限に抑制しつつ始動後のエンジン出力の早期向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を以下の実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0027】
図1は、本実施例に係るハイブリッドシステム1を搭載したハイブリッド車両100の概略構成図である。図1に示すように、ハイブリッドシステム1は、内燃機関(エンジン)2、第1の電動発電機(以下、「MG1」と称し、図中においても「MG1」と記す。)、第2の電動発電機(以下、「MG2」と称し、図中においても「MG2」と記す。)、動力分割機構3、減速機4、インバータ5、バッテリ6、電子制御装置(ECU)7等を主要な構成要素として含む。
【0028】
エンジン2のクランクシャフト21と、MG1の回転軸と、MG2の回転軸とは、動力分割機構3を介して相互に連結される。動力分割機構3は、周知の遊星歯車(プラネタリーギア)を利用して、エンジン2からの動力(クランクシャフト21の回転力)をMG1の回転軸とMG2の回転軸とに分割して伝達する。また、MG2の回転軸とクランクシャフト21とは、適宜連結することや、切り離すことが可能である。
【0029】
また、MG2の回転軸は、減速機4を介して駆動輪8,9の回転軸(駆動軸)8a,9aに連結されている。ゆえに、MG2の回転軸とクランクシャフト21とが連結されている状態では、エンジン2が出力する動力(エンジン動力)が、駆動輪8,9の回転力として伝達されるとともに、MG1を駆動して電力を発生させる。
【0030】
また、MG2は、バッテリ6あるいはMG1から電力の供給を受けて駆動輪8,9に回転力を付与するように機能する場合と、逆に駆動輪8,9から回転力を付与されることで発電を行いバッテリ6に充電用の電力を供給するように機能する場合とがある。
【0031】
ECU7は、ハイブリッドコントロールコンピュータ(以下、「HVCC」という。)と、エンジンコントロールコンピュータ(以下、「ECC」という。)を備えている。これらHVCCおよびECCは、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどからなる算術論理演算回路である。
【0032】
HVCCには、ハイブリッド車両100に取り付けられたアクセルポジションセンサ(図示省略)、シフトポジションセンサ(図示省略)等の各種センサが電気配線を介して接続され、各種センサの出力信号がHVCCに入力されるようになっている。また、HVCCには、バッテリコンピュータからバッテリ充電状態(SOC)が入力される。そして、HVCCは、各種センサの検出値あるいはSOCに基づいて必要なエンジンパワーを求めてECCに要求値を出力するとともに、必要なトルクを求めてMG1およびMG2を制御する。
【0033】
一方、上記したECCには、クランクポジションセンサ(図示省略)、カムポジションセンサ(図示省略)等の各種センサが電気配線を介して接続され、各種センサの出力信号がECCに入力されるようになっている。また、ECCには、燃料噴射弁(図示省略)、スロットル(図示省略)等が電気配線を介して接続され、各種センサからの出力信号よりエンジンの運転状態(エンジン回転数等)を判定し、判定した運転状態、HVCCから出力される要求値および予め作成されROMに記憶されたマップに基づいて燃料噴射弁およびスロットルを制御する。
【0034】
そして、ハイブリッドシステム1においては、ECU7が実行する制御に基づいてエンジン2及びMG2の発生する動力(トルク)を適宜使い分けて車両の駆動輪8,9に伝達する他、適宜、エンジン2の発生するエネルギーや車両の減速に伴って発生するエネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ6を充電する。
【0035】
以下、ハイブリッドシステム1の作動について、具体例を挙げて説明する。
図2は、エンジン2及びMG2の発生する動力やバッテリ6に蓄えられた電力が、ハイブリッドシステム1の状態に応じてどのように活用されるのかを、動力や電力の伝達経路を中心に説明する模式図である。なお、図2において、実線の矢印は動力の伝達経路を示し、破線の矢印は電力の伝達経路を示す。
【0036】
(1)システム起動時
ハイブリッドシステム1の起動時には、エンジンのスターターとしての機能を持つMG1に通電し、エンジン2を始動させ、暖機を行う。この際、エンジン2の発生するエネルギーの一部はMG1を介して電気エネルギーに変換され、バッテリ6に蓄えられる(図2(a))。エンジン2の暖機が完了すると、エンジン2の運転を停止する。
【0037】
(2)発進・軽負荷走行時
ハイブリッド車両100が発進する際、あるいは低速走行を行う際等、エンジン2の熱効率が低くなる条件下においては、MG2が発生する動力を優先的に活用して車両(駆動輪8,9)を駆動する(図2(b))。かかる場合においては、エンジン2は停止したままとなる。
【0038】
ただし、SOC低下時は基本的にMG2の駆動力により発進・軽負荷走行を行い、エン
ジン2を始動させ、MG1を駆動して発電し、その電力を使ってMG2を駆動させると同時にバッテリを充電する。
【0039】
(3)定常走行時
エンジン2の機関効率のよい運転領域では、主にエンジン2が発生する動力を用いて走行する。エンジン動力は動力分割機構3で2経路に分割され、一方は動力として駆動輪8,9に伝達される。もう一方はMG1を駆動して発電を行い、その電力によりMG2を駆動することでエンジン動力を補助する。そして、エンジン2が発生する動力と、MG2が発生する動力とが最適な比率で協動して車両(駆動輪8,9)を駆動するように制御を行う(図2(c))。
【0040】
ただし、SOC低下時などバッテリ6の充電が必要な場合には、エンジン出力を上げることでMG1での発電も同時に行い、この電力を使ってMG2を駆動するのと同時にバッテリ6を充電する。
【0041】
(4)加速時
加速を行う場合、エンジン2の回転数を上げるとともにMG1による発電量を増加する。そして、MG1の発電による電力(発電電力)とバッテリ6による電力(バッテリ電力)を使ってMG2に動力を発生させ、その駆動力とエンジン動力とで加速する(図2(d))。
【0042】
ここで、エンジン2は、4サイクルエンジンであり、当該エンジンには、吸気バルブの作動タイミングをクランクシャフト21の回転角度に対して連続的に変更することができるバルブタイミング制御装置22が設けられている。
【0043】
バルブタイミング制御装置22は、吸気側カムシャフトをクランクシャフト21に対して相対回転させることにより、吸気バルブの作動タイミングを図3に示す如く変更可能に制御することを実現している。そして、特にその閉じ位相をピストンの往復動位相に対し相対的に進めたり遅らせたりすることにより、吸気弁が閉じられる瞬間にシリンダ室内に吸入される吸気の量を増減して吸気の圧縮比を可変に制御するものである。
【0044】
このバルブタイミング制御装置22は、図4に示すように、可変バルブタイミング機構30、オイルコントロールバルブ(OCV)60、及びロック機構70を備えている。
【0045】
次に、図4,5,6を用いて可変バルブタイミング機構30について説明する。
吸気側カムシャフト31は、シリンダヘッドに回転可能に支持されている。吸気側カムシャフト31の端部には、内部ロータ32がボルト33によって一体回転可能に取付けられている。カムシャフト31の端部外周にはスプロケット34が嵌合されており、このスプロケット34とクランクシャフト21側のスプロケットとにチェーン(図示省略)が掛け渡されている。このようにして、カムシャフト31及びクランクシャフト21が、スプロケット34、チェーン等を介して駆動連結されている。スプロケット34には、ハウジング35がボルト36によって一体回転可能に取付けられている。ハウジング35は円環形状をなしており、その内周面の周方向に互いに離間した箇所には複数の突部37が形成されている。
【0046】
一方、内部ロータ32は、その中央部に位置する円筒状のボス38と、そのボス38の外周の互いに離間した箇所に設けられた複数のベーン39とを備えている。そして、ボス38の外周面が各突部37の先端に摺動可能に接触した状態で、各ベーン39が隣合う突部37間に位置し、ハウジング35の内周面に摺動可能に接触している。
【0047】
内部ロータ32は、流体の圧力をベーン39で受けることによりハウジング35に対し相対回転する。この相対回転により、クランクシャフト21に対するカムシャフト31の回転位相が変化する。内部ロータ32の回転位相は、図5に示すように少なくとも1つのベーン39がカムシャフト31の回転方向(図では時計回り方向)についての後ろ側の突部37に接触したとき「最も遅い位相(最遅角位相)」になる。また、同回転位相は、少なくとも1つのベーン39が、カムシャフト31の回転方向についての前側の突部37に接触したとき「最も進んだ位相(最進角位相)」になる。
【0048】
内部ロータ32を相対回転させるための流体の圧力として、エンジン2のオイル(潤滑油)の油圧が利用されている。詳しくは、ハウジング35内の隣合う突部37間の空間は、ベーン39によって2つの空間に区画されている。これらのうち、カムシャフト31の回転方向についてベーン39よりも前側の空間は遅角側油圧室40を構成し、後ろ側の空間は進角側油圧室41を構成している。
【0049】
上記可変バルブタイミング機構30では、両油圧室40,41内の油圧によって内部ロータ32がハウジング35に対して相対回転する。すなわち、遅角側油圧室40内の油圧を進角側油圧室41の油圧に対して高くすると、内部ロータ32はハウジング35に対してカムシャフト31の回転方向と逆方向に相対回転され、カムシャフト31の回転位相はクランクシャフト21の回転位相に対して遅角される(図5の状態)。これとは逆に、進角側油圧室41内の油圧を遅角側油圧室40内の油圧に対して高くすると、内部ロータ32はハウジング35に対してカムシャフト31の回転方向に相対回転する。このとき、カムシャフト31の回転位相はクランクシャフト21の回転位相に対して進角される(図6の状態)。そして、これらの回転位相の変更によって吸気バルブの作動タイミングを可変としている。
【0050】
上記両油圧室40,41内に対するオイルの供給及び排出を行うために、シリンダヘッド、カムシャフト31、内部ロータ32等には、遅角側油圧室40に繋がる遅角側通路42と、進角側油圧室41に繋がる進角側通路43とが形成されている。両通路42,43には、オイルコントロールバルブ(OCV)60を介して供給通路44及び2つの排出通路45,46が接続されている。なお、OCV60は電磁駆動式の流量制御弁であり、ECU7によって制御される。
【0051】
供給通路44は機械式オイルポンプ(以下、「MOP」と称し、図中においても「MOP」と記す。)および電動式オイルポンプ(以下、「EOP」と称し、図中においても「EOP」と記す。)を介してオイルパン10に繋がり、両排出通路45,46は直接オイルパン10に繋がっている。
【0052】
MOPは、クランクシャフト21が回転することにより駆動され、オイルを圧送供給する機械式のオイルポンプであり、周知の4歯5葉トロコイド型ポンプを例示することができる。そして、このMOPの作用により、オイルパン10内に貯えられたオイルが、オイルストレーナを介して吸い上げられ、オイルフィルタ(図示省略)で異物が除かれた後、クランクジャーナル等のエンジンの各部位に供給される。
【0053】
また、MOPにて吸い上げられたオイルがエンジン各部位至る経路は、図4に示したように途中で分岐しており、分岐点からOCV60へ至る経路の途中には、チェック弁11が設けられている。このチェック弁11は、MOP側からOCV60側にオイルが流れる場合に、オイルの圧力(油圧)が開弁圧以上の場合に開弁してオイルが流れることを許容し、他方、OCV60側からMOP側にオイルが流れるのを阻止するものである。
【0054】
EOPは、クランクシャフト21の回転とは独立して駆動され、オイルパン10内に貯
えられたオイルを吸い上げ、OCV60に圧送供給する電動式のオイルポンプである。このEOPは、バッテリ6を駆動源とするオイルポンプであり、ECU7の指令信号により電圧が印加されると、その印加電圧に応じた分の流量のオイルをOCV60に供給する。そして、EOPにて吸い上げられたオイルがOCV60へ至る経路の途中には、上記チェック弁11と同じ機能を有するチェック弁12が設けられている。
【0055】
OCV60は、複数のポートが形成されたケーシング61を備えている。ポートには、遅角側通路42、進角側通路43、供給通路44及び両排出通路45,46が接続されている。ケーシング61の内部には、複数の弁部62を備え、かつばね63によって弾性付勢されたスプール64が往復動可能に収容されている。OCV60では、ECU7により電磁ソレノイド65への通電時間がデューティ制御される。この制御に応じてスプール64の軸方向における位置が変更され、弁部62によって各ポートが開閉される。
【0056】
例えば、デューティ比が0%の場合には、図5に示すように、ばね63が伸張してスプール64が右端側に配置される。これにより、遅角側通路42と供給通路44とが接続され、オイルパン10内のオイルが供給通路44、遅角側通路42等を通って遅角側油圧室40に供給される。また、進角側通路43と一方の排出通路45とが接続され、進角側油圧室41内のオイルが進角側通路43、排出通路45等を通ってオイルパン10に戻される。その結果、ハウジング35に対し内部ロータ32がカムシャフト31の回転方向とは反対方向(遅角方向)へ相対回転する。この相対回転は、図5に示すように、ベーン39がカムシャフト31の回転方向についての後側の突部37に接触したところで止まる。
【0057】
また、デューティ比が100%の場合には、図6に示すように、スプール64がばね63を圧縮させて左側に配置される。これにより、進角側通路43と供給通路44とが接続され、オイルパン10内のオイルが供給通路44、進角側通路43等を通って進角側油圧室41に供給される。また、遅角側通路42と他方の排出通路46とが接続され、遅角側油圧室40内のオイルが遅角側通路42、排出通路46等を通ってオイルパン10に戻される。その結果、ハウジング35に対し内部ロータ32がカムシャフト31の回転方向(進角方向)へ相対回転する。この相対回転は、図6に示すように、ベーン39がカムシャフト31の回転方向についての前側の突部37に接触することで止まる。
【0058】
そして、デューティ比を0〜100%の間で任意に変更することにより、遅角側油圧室40及び進角側油圧室41へのオイルの供給・排出を行い、各油圧室40,41内の油圧を調整することができる。この調整により、内部ロータ32の回転位相を最遅角位相から最進角位相までの範囲で任意に変更することができる。
【0059】
そして、吸気バルブの作動タイミングの制御は、吸気カムシャフト31の実変位角、及び吸気バルブの作動タイミングの目標変位角に基づき、バルブタイミング制御装置22を駆動することによって行う。なお、吸気カムシャフト31の実変位角は、カムポジションセンサおよびクランクポジションセンサの検出値に基づき求められる。目標変位角は、例えばエンジン回転数Ne、エンジン負荷等といったエンジン運転状態に応じて算出される。エンジン負荷は、例えばエンジン2の吸入空気量に関係するパラメータ(例えばスロットル開度、アクセル開度、吸気圧等)に基づき算出される。
【0060】
そして、カムシャフト31の変位角が早期に目標変位角となるように、エンジン回転数に依存するMOPの駆動力を補うようにEOPの駆動力を制御する。具体的には、車速、アクセル開度(アクセルポジションセンサの検出値)およびEOP駆動力の相関関係を示すマップを予め実験等の経験則に基づいて作成してECU7内のROMに記憶しておき、ECU7が逐次、当該マップに、車速およびアクセル開度を代入することによりEOPの駆動力を算出し、当該駆動力に相当する分の電圧をEOPに印加する。以下、これを「E
OP通常制御」という。
【0061】
ここで、エンジン2が冷えた状態の時(冷間時)にエンジン2を容易に始動させるためには、吸気圧縮比をできるだけ上げる必要があり、図3に示す変更可能な範囲においてはできる限り進角位相にしてからクランキングを行うことが好ましい。一方、エンジン2が温まった状態の時(温間時)には、吸気圧縮比を下げても容易に始動させることができることから、バルブタイミングをできるかぎり遅角位相にして、高めのクランキング回転数とすることにより、低振動にて静粛に始動させることができる。
【0062】
かかる事項に鑑み、本実施例に係るハイブリッド車両100においては、温間時始動が頻繁に繰り返されることを考慮して、クランクシャフトに対する吸気カムシャフト31の回転位相を最遅角位相にロックするロック機構70を備えている。そして、頻繁に繰り返される温間時始動に備えるべく、エンジン停止時にはロック機構70により吸気カムシャフト31の回転位相を最遅角位相に固定することとしている。
【0063】
以下にロック機構70について説明する。
内部ロータ32のベーン39の1つには、カムシャフトに平行にピン挿入孔71が形成されており、ロックピン72がこの挿入孔71内に往復摺動可能に収容されている。ロックピン72はばね73によって常にハウジング35側へ弾性付勢されている。一方、ハウジング35において挿入孔71に対応する箇所には係止孔74が形成されており、内部ロータ32の相対回転に伴い挿入孔71が係止孔74に合致したとき、ばね73によって弾性付勢されたロックピン72の先端が係止孔74に挿入される。この挿入により、ハウジング35に対する内部ロータ32の相対回転が規制され、相対回動位置関係を維持した状態で吸気カムシャフト31とスプロケット34とが一体に回転する。なお、挿入孔71に対応する箇所とは、カムシャフト31の回転位相が最遅角位相となったときに挿入孔71に合致する箇所である。
【0064】
ロックピン72を係止孔74から抜き出してロックを解除するために、挿入孔71を有するベーン39には油路が設けられている。この油路は進角側油圧室41及び係止孔74に連通しており、進角側油圧室41に供給された油圧が係止孔74にも導入される。また、ロックピン72のフランジ部分と挿入孔71の段差部分との間には環状油空間が形成されている。この環状油空間は、遅角側油圧室40と連通しており、同遅角側油圧室40に供給された油圧が環状油空間にも導入される。そして、両油圧がばね73の付勢力に打ち勝つと、ロックピン72が係止孔74から外れ、ロックピン72の係止が解除される。この解除に伴い、ハウジング35及び内部ロータ32間の相対回転が許容され、進角側油圧室41及び遅角側油圧室40に供給される油圧に基づいて、ハウジング35に対する内部ロータ32の回転位相の調整が可能となる。
【0065】
このように構成されたハイブリッド車両100においては、車両停止時あるいは発進・軽負荷走行時などエンジン2が停止状態にある状態に加速要求があった場合には、エンジン2を始動させるとともに、加速要求に迅速に応えるべく、ロック機構70によるロックを解除し、吸気圧縮比を上げるためにクランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を早期に進角させる必要がある。そして、そのためには、ロック解除用の圧力室および進角側油圧室41へ早期にオイルを流入させる必要がある。
【0066】
そして、本実施例においては、OCV60を介してロック解除用の圧力室および進角側油圧室41へオイルを供給する手段として、MOPおよびEOPを備えていることから、以下に説明するようにEOPの駆動力を制御するようにする。
【0067】
概略としては、加速要求の度合いに応じてEOPの駆動力を変更するものである。より
具体的には、車速とアクセル開度(アクセルポジションセンサの検出値)をパラメータとするマップに基づいて加速要求値を算出し、当該加速要求値が所定値以上である場合には、EOPの駆動力を最大にし、加速要求値が所定値未満である場合には、上述したEOP通常制御を実行する。なお、加速要求値は、アクセル踏込み量(開度)に比例して大きくなるものであることを例示することができる。
【0068】
これにより、急加速が要求される場合など加速要求の度合いが高い場合には、EOPの駆動力が最大にされるので、早期に進角側油圧室41の油圧が上昇し、吸気バルブの作動タイミングが、エンジン始動時の最遅角位相から早期に進角側の位相に変更される。そして、これによりエンジン始動後に早期に吸気圧縮比が上昇するので、早期にエンジン出力を上昇させることができ、迅速に車両を加速させることができる。
【0069】
一方、緩加速が要求される場合など加速要求の度合いが低い場合には、上述したEOP通常制御が実行されるので、EOPの駆動力を最大にするのと比較すると吸気バルブの作動タイミングの進角化が遅れるが、EOPの駆動力が小さい分、消費電力を少なくすることができる。
【0070】
したがって、このように加速要求の度合いに応じてEOPの駆動力を制御することにより、加速性能の向上と燃費向上の両立を図ることができる。また、加速要求があった後に行われるエンジン始動時には、吸気バルブの作動タイミングが最遅角位相に固定されているので、吸気圧縮比を下げて高めのクランキング回転数とすることにより、低振動にて静粛に始動させることができる。
【0071】
以下、具体的に、図7に示すフローチャートを用いて本実施例に係るEOP駆動制御について説明する。この制御ルーチンは、予めECU7のROMに記憶されているルーチンであり、一定時間の経過、あるいはクランクポジションセンサからのパルス信号の入力などをトリガとした割り込み処理としてECU7が実行するルーチンである。
【0072】
先ず、S101において、加速要求値が所定値以上であるか否かを判別する。これは、予め実験等による経験則に基づいて作成してECU7内のROMに記憶した、車速、アクセル開度および加速要求値の相関関係を示すマップに、車速およびアクセル開度を代入することにより加速要求値を算出し、当該加速要求値が予め定めされた所定値以上であるか否かを判別するものである。
【0073】
そして、S101で肯定判定された場合には、S102へ進み、EOPを最大限に駆動させる。一方、S101で否定判定された場合には、S103へ進み、上記したEOP通常制御を実行する。
【0074】
なお、本実施例においては、ハイブリッド車両100におけるエンジン2に適用した場合のバルブタイミング制御装置について述べたが、特にハイブリッド車両に限定されるわけではなく、燃費向上および低エミッション化の観点から注目されてきている信号待ち等の車両一時停止時にエンジンを一時停止させるエコラン運転を行う車両に適用しても、上述した効果と同様の効果を奏することができる。
【実施例2】
【0075】
本実施例に係るハイブリッド車両100には、実施例1に係るハイブリッド車両100に対してさらにナビゲーションシステム80が備えられている。そして、ECU7は、ナビゲーションシステム80と電気配線を介して接続されている。
【0076】
図8に示したのがナビゲーションシステム80を例示するブロック図である。ナビゲー
ションシステム80は、GPS( Global Positioning System )およびマップマッチングを利用したシステムであり、図示するように、地球周回軌道上にあるGPS衛星から送信される信号を受信すると共に受信した信号に基づいて演算される車両の走行位置,走行方向および車速を求める受信装置81と、CD−ROMあるいはハードディスク(以下、「HD」という。)に格納されている地図情報を読み込むと共に読み込んだ地図情報を出力するCD−ROMプレイヤあるいはHDドライブ82と、地図情報や車両の走行位置等を表示すると共に目的地や走行経路等の入力を行なうタッチパネルディスプレイ83と、これらを制御するディスプレイコントローラ84とを備える。
【0077】
受信装置81は、地球周回軌道上にあるGPS衛星から送信される信号を受信するGPSアンテナ85と、GPSアンテナ85により受信した信号を増幅する増幅器86と、増幅された信号に基づいて車両の走行位置,走行方向および車速を演算すると共にこの情報をディスプレイコントローラ84に出力するGPS受信機87とを備える。CD−ROMプレイヤあるいはHDドライブ82は、CD−ROMあるいはHDに格納されている地図情報を読み込み、この読み込まれた地図情報をディスプレイコントローラ84に出力する。
【0078】
なお、CD−ROMあるいはHDに格納されている地図情報としては、高速道路か一般道路か道路の種類や道路の幅や車線数,制限速度等の道路情報はもとより、市街地のように信号待ちの多い区域か郊外の道路のように比較的信号待ちの少ない区域か或いは上り下りの多い山間部の区域かの区域情報や、道路の各位置の標高や勾配等の情報等も含まれている。
【0079】
また、タッチパネルディスプレイ83には、目的地や走行経路を設定するための各種情報を入力する入力部が設けられており、運転者は、この入力部からタッチパネルディスプレイ83に表示された地図を参照して目的地や経由地等を入力すると共にその走行経路を入力して、目的地や走行経路を設定することができる。
【0080】
そして、このナビゲーションシステム80から得られる道路の各位置の勾配や標高等の情報を利用することにより、当該ハイブリッド車両の負荷を予測することができる。具体的には、ナビゲーションシステム80より、現時点以降の自動車の走行経路から走行する道路の勾配や標高の情報を取得し、これらの情報から、車両が登板路を走行する等を予測する。そして、ECU7が、現時点ではエンジン2を停止させてMG2の駆動力のみで走行しているとしても、今後車両100が登板路を走行するから、その時にエンジン2を始動させる必要がある等を予測することができる。
【0081】
実施例1のように、エンジン停止中に急加速要求があった場合などにおいて、EOPの駆動力を最大にしてエンジン始動後の吸気バルブの作動タイミングを早期進角しようとしても、EOPに、その駆動力を大きくさせる旨の指令を出力してから実際にロック解除用の圧力室および進角側油圧室41の油圧が上昇するまでにはそれなりの時間を要するという、油圧応答遅れが生じる。それゆえ、始動直後迅速に吸気バルブの作動タイミングを進角させるためには、エンジン始動に先立ってEOPを駆動開始させることが好ましい。
【0082】
ただし、油圧応答遅れ時間よりも前にEOPを駆動させると、エンジン始動時にロックが解除されるおそれがあるので、油圧応答遅れ時間分だけエンジン始動に先立ってEOPを駆動開始させることにより、低振動にて静粛に始動させるとともに、EOP駆動のための消費電力を少なくすることができる。
【0083】
そこで、本実施例に係るハイブリッド車両100においては、EV走行中に、ナビゲーションシステム80から得られる情報を基にエンジン始動のタイミングを予測し、油圧応
答遅れ時間を考慮して予め定められた所定時間Tf前になったら、エンジン始動に先立ってEOPを駆動させるようにする。なお、所定時間Tfは、例えば、EOPを定格で運転した場合に、EOP駆動開始から、ロック解除用の圧力室および進角側油圧室41へ、ロック解除のための圧力およびロータ32を変位させるための圧力を十分に発生させることができるまでの時間であり、実験等の経験則に基づいて予め定めておく。
【0084】
以下、具体的に、図9に示すフローチャートを用いて本実施例に係るEOP駆動制御について説明する。この制御ルーチンは、予めECU7のROMに記憶されているルーチンであり、一定時間の経過、あるいはクランクポジションセンサからのパルス信号の入力などをトリガとした割り込み処理としてECU7が実行するルーチンである。
【0085】
先ず、S201において、エンジン2が停止しているか否かを判別する。そして、本ステップで肯定判定された場合にはS202へ進み、予測されるエンジン始動までの時間Tpreが予め定められた所定時間Tf以内かどうかを判別する。なお、エンジン始動までの時間Tpreは、上述したようにナビゲーションシステム80から得られる情報を基に算出することができる。
【0086】
そして、S202で肯定判定された場合にはS203へ進み、EOPを駆動させる。かかる場合の駆動力は、現時点からエンジン始動までの時間Tpreに応じて変化させることが好適である。例えば、上述したように、所定時間TfがEOPを定格で運転した場合の油圧応答遅れに相当する時間である場合には、Tpreと所定時間Tfが等しい場合に、EOPを定格運転させ、Tpreが短くなるにつれて定格運転より大きな駆動力にする。一方、S202で否定判定された場合にはS204へ進み、EOPを停止させたままにしておく。また、S201で否定判定された場合にはS205へ進み、かかる場合はEOP通常制御を実行する。
【0087】
そして、このように、EV走行中にエンジン始動のタイミングを予測し、油圧の応答遅れ時間を考慮して、エンジン始動に先立ってEOPを駆動させるようにすることで、エンジン始動後に早期にバルブタイミングを進角させることができるので、動力性能を向上させることができる。また、EOPを前もって駆動させるのは、油圧応答遅れに相当する時間だけであるので、消費電力を少なくすることができ、燃費悪化を最低限に抑制することができる。
【0088】
ただし、ナビゲーションシステム80を用いても、精度よくエンジン始動のタイミングを予測することができないおそれがある。そして、かかる場合には、予測よりも早目に運転者の加速要求に基づいてエンジンが始動されるおそれがある。かかる事項に鑑み、エンジン運転中であっても、EV走行後の始動直後である場合には、EOP通常制御実行中であるにもかかわらず、EOPを最大限に駆動させるようにすることが好適である。ただし、エンジン始動後のエンジン回転数によっては、MOPで十分に油圧を高めることができるので、エンジン始動後の経過時間が、エンジン回転数が例えば400rpmになるまでの時間以内である場合に限ることが好ましい。
【0089】
なお、このEOP駆動制御は、ハイブリッド車両におけるエンジンに適用した場合について述べたが、エコラン運転を行う車両に適用しても、上述した効果と同様の効果を奏することができる。
【0090】
また、上述したように、本実施例に係るハイブリッド車両においては、現時点ではエンジンを停止させてMG2の駆動力のみで走行(EV走行)しているとしても、バッテリ充電状態(SOC)が規定値A以下に低下したら、エンジンを始動させ、MG1を駆動して発電し、その電力を使ってMG2を駆動させると同時にバッテリ6を充電させる。
【0091】
ゆえに、EV走行中において、SOCが前記所定値Aよりやや大きいBまで低下したら、もうすぐエンジン始動が行われると予測することができる。そして、ECU7には、バッテリコンピュータからSOCが入力されるようになっているので、EV走行中であって、入力されたSOCが前記Aより大きく前記Bより小さくなったときに、EOPを駆動させるようにする。このようにすることで、エンジン始動に先立つ適度な時間にEOPを駆動開始させることができるので、SOCが低下している時に、加速要求があったとしても、応答性を向上させることができるとともに燃費悪化を最低限に抑制することができる。
【0092】
なお、前記Bは、例えば、EOPを定格で運転した場合に、EOP駆動開始から、ロック解除用の圧力室および進角側油圧室41へ、ロック解除のための圧力およびロータ32を変位させるための圧力を十分に発生させることができるまでの時間が、SOCが前記Bから前記Aへ低下する時間と等しくなるように決定されるものである。例えば、EV走行中のMG2の負荷などに応じて変更するのが好適であり、実験等の経験則に基づいて定められる。
【0093】
以下、具体的に、図10に示すフローチャートを用いて本実施例に係るEOP駆動制御について説明する。この制御ルーチンは、予めECU7のROMに記憶されているルーチンであり、一定時間の経過、あるいはクランクポジションセンサからのパルス信号の入力などをトリガとした割り込み処理としてECU7が実行するルーチンである。そして本制御ルーチンは、図9に示すフローチャートに対してS202の処理がS202´に置き換わるのみであり、その他の処理は図9と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0094】
そして、S202´においては、EV走行中であって、現時点のSOCが前記Aより大きく前記Bより小さいか(A<SOC<B)どうかを判別する。そして、本ステップで肯定判定された場合にはS202へ進み、否定判定された場合にはS203へ進む。
【0095】
SOCが低下している時に加速要求がある場合には、バッテリ6からMG2へ十分な電力を供給することができずに、十分にその要求に応えることが困難となるが、このように、EV走行中にSOCに基づいてエンジン始動のタイミングを予測し、油圧の応答遅れ時間を考慮して、エンジン始動に先立ってEOPを駆動させるようにすることで、かかる不具合を防止することができる。また、EOPを前もって駆動させるのは、油圧応答遅れに相当する時間だけであるので、消費電力を少なくすることができ、燃費悪化を最低限に抑制することができる。
【実施例3】
【0096】
上述したように、エンジン始動時にEOPを駆動することにより、エンジンの動力性能が向上してハイブリッド車両100の加速性能が向上するが、EOPを駆動させるとその分消費電力が多くなるので燃費が悪化する。
【0097】
また、ハイブリッド車両100においては、MG2の回転軸が減速機4を介して駆動輪8,9の回転軸8a,9aに連結されているので、ハイブリッド車両100がMG2の駆動力のみで低車速で走行している場合には、MG2の回転数も低い。一方、動力分割機構3の遊星歯車の軸回転数を図示した共線図は、縦軸に示される回転数において、MG1回転数、エンジン回転数およびMG2回転数が必ず直線で結ばれる関係となる。
【0098】
ゆえに、ハイブリッド車両100がMG2の駆動力のみで低車速で走行している状態のときから、加速要求があり、エンジン2を始動させてその出力を向上させた場合の共線図は図11のようになる。そして、エンジン出力は、MG1回転数がその許容最高回転数を超えない範囲でしか増加させることができないので、ハイブリッド車両100が低速でE
V走行中であるときに加速要求があったとしても、吸気バルブの作動タイミングを早期に進角して動力性能を向上させてもその効果が小さい。
【0099】
また、MG2回転数とMG2が出力するトルクは図12に示すような関係にあり、MG2回転数が低いときには、MG2の出力トルクには上限がある。ゆえに、ハイブリッド車両100がMG2の駆動力のみで低車速で走行している状態のときに、加速要求があり、エンジン始動後の吸気バルブの作動タイミングを早期に進角させてエンジン出力を早期に上昇させたとしても、このトルク制限のために、MG2が、MG1が発電する電力(発電電力)にバッテリ電力を加えた量の電力を車両の駆動力上昇のためにフルに使うことができない。それゆえ、ハイブリッド車両100が低速でEV走行中であるときに加速要求があったとしても、吸気バルブの作動タイミングを早期に進角して動力性能を向上させてもその効果が小さい。
【0100】
一方、ハイブリッド車両100が高速で走行していたとしても、アクセル開度が小さいときには、加速要求の度合いが小さいと考えられることから、吸気バルブの作動タイミングを早期に進角させてエンジン出力を早期に上昇させる必要はない。
【0101】
このように、車両100の車速とアクセル開度によっては、吸気バルブの作動タイミングを早期に進角させてエンジン出力を早期に上昇させても、その効果が小さいかあるいは必要がない領域が存在する。かかる領域においては、EOPを駆動して吸気バルブの作動タイミングを早期に進角させて動力性能を優先させるよりは、EOPを駆動させずに消費電力を抑制することにより燃費悪化を抑制して燃費を優先させる方が好ましい。
【0102】
そこで、本実施例に係るEOP駆動制御においては、図13に示すように、車速とアクセル開度をパラメータとして、動力性能優先領域と燃費優先領域とに予め分けておき、EV走行中の車速とアクセル開度とからどちらの領域であるかを判別し、動力性能優先領域である場合はEOPを駆動させ、燃費優先領域である場合はEOPを駆動させないようにする。
【0103】
以下、具体的に、図14に示すフローチャートを用いて本実施例に係るEOP駆動制御について説明する。この制御ルーチンは、予めECU7のROMに記憶されているルーチンであり、一定時間の経過、あるいはクランクポジションセンサからのパルス信号の入力などをトリガとした割り込み処理としてECU7が実行するルーチンである。
【0104】
先ず、S301において、エンジン2が停止しているか否かを判別する。そして、本ステップで肯定判定された場合にはS302へ進み、上述した動力性能優先領域であるか否かを判別する。これは、現時点の車速、アクセル開度および図13に示したマップに基づいて判別するものである。そして、本ステップで肯定判定された場合にはS303へ進み、EOPを駆動させる。一方、S302で否定判定された場合にはS304へ進み、EOPを停止させたままとする。また、S301で否定判定された場合にはS305へ進み、EOP通常制御を実行する。
【0105】
なお、S303でEOPを駆動させる際のEOPの駆動力は、予め実験等による経験則に基づいて作成してECU内のROMに記憶した、車速、アクセル開度およびEOPの駆動力の相関関係を示すマップに、車速およびアクセル開度を代入することにより算出して決定してもよいし、一律に最大限に駆動させるようにしてもよい。
【0106】
そして、このようにEOPの駆動を制御することにより、燃費悪化を最低限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施例1に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係るハイブリッドシステムの動力および電力の伝達経路を示す概略図である。
【図3】実施例1に係る吸・排気バルブの作動タイミングを示す図である。
【図4】バルブタイミング制御装置の概略構成を示す図である。
【図5】吸気バルブの作動タイミングを遅角側の位相に変更させる際のオイルの流れを示す図である。
【図6】吸気バルブの作動タイミングを進角側の位相に変更させる際のオイルの流れを示す図である。
【図7】実施例1に係るEOP駆動制御の制御ルーチンのフローチャートである。
【図8】ナビゲーションシステムの概略構成を示す図である。
【図9】実施例2に係るEOP駆動制御の制御ルーチンのフローチャートである。
【図10】実施例2に係る他のEOP駆動制御の制御ルーチンのフローチャートである。
【図11】EV走行から加速する際のハイブリッドシステムの共線図である。
【図12】MG2回転数とMG2の出力トルクの相関関係を示す図である。
【図13】車速およびアクセル開度をパラメータとする優先領域を示す図である。
【図14】実施例3に係るEOP駆動制御の制御ルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1 ハイブリッドシステム
2 エンジン
3 動力分割機構
4 減速機
5 インバータ
6 バッテリ
7 ECU
8,9 駆動輪
10 オイルパン
11,12 チェック弁
21 クランクシャフト
22 バルブタイミング制御装置
30 可変バルブタイミング機構
60 OCV
70 ロック機構
80 ナビゲーションシステム
100 ハイブリッド車両
MG1 第1の電動発電機
MG2 第2の電動発電機
MOP 機械式オイルポンプ
EOP 電動式オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプと、
バッテリ電力により駆動力を得て流体を供給する電動式ポンプと、
前記機械式ポンプおよび/または電動式ポンプにて供給された流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構と、
エンジン停止中における車両に対する加速要求の度合いに応じて前記電動式ポンプの駆動力を制御する電動式ポンプ駆動制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンのバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記電動式ポンプ駆動制御手段は、車両に対する加速要求値が所定値以上である場合には前記電動式ポンプの駆動力を最大にすることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
エンジンと、当該エンジンが出力する動力を利用して発電を行う発電機と、車両の駆動軸に駆動力を供給する電動機とを備え、前記発電機の発電電力とバッテリ電力を併用して前記電動機の駆動力を上昇させて加速可能なハイブリッド車両のエンジンの吸気バルブの作動タイミングを制御する請求項1又は2に記載のバルブタイミング制御装置であって、
前記電動式ポンプ駆動制御手段は、前記電動機によって車両を駆動させている際に加速要求があったとしても、前記電動機が前記発電機の発電電力とバッテリ電力をその駆動力を上昇させるのに使いきれない場合には、前記電動式ポンプの駆動を禁止することを特徴とするエンジンのバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
クランクシャフトの回転により駆動力を得て流体を供給する機械式ポンプと、
バッテリ電力により駆動力を得て流体を供給する電動式ポンプと、
前記機械式ポンプおよび/または電動式ポンプにて供給された流体の圧力によりカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることにより吸気バルブの作動タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構と、
エンジン停止中にエンジン始動タイミングを予測し、当該予測タイミングの直後にはカムシャフトをクランクシャフトに対して相対回転させることができるようにエンジン停止中に前記電動式ポンプを駆動開始させる電動式ポンプ駆動制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンのバルブタイミング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−257913(P2006−257913A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73401(P2005−73401)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】