説明

エンジンの冷却構造

【課題】冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジンの冷却性を高めることが可能なエンジンの冷却構造を提供する。
【解決手段】エンジンの冷却構造1は、エンジン10Aのシリンダブロック2およびシリンダヘッド3と、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3間に設けられ、シリンダブロック2との接触面に高熱伝導材4bを備えるとともに、シリンダヘッド3との接触面に断熱材4cを備えるヘッドガスケット4Aと、を備える。シリンダブロック2にはシリンダ2aとウォータジャケット2bとが設けられている。ウォータジャケット2bはボア周辺部2cに隣接するようにして吸気側および排気側に設けられている。ウォータジャケット2bはシリンダブロック2のデッキ面2dに開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの冷却構造に関し、特にエンジンの冷却性を高めるヘッドガスケットを備えるエンジンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロック、シリンダヘッド間に設けられるヘッドガスケットでエンジンの冷却性を高める技術が知られている。特許文献1から3では、シリンダブロックに形成されるウォータジャケット内にヘッドガスケットの一部を設けることで、エンジンの冷却性を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−154722号公報
【特許文献2】特開2004−92547号公報
【特許文献3】特表2000−502768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの冷却は、例えばノッキングの発生を抑制するために行われる。しかしながら、必要以上に冷却を行うと、冷却損失が増大する結果、熱効率の低下、すなわち燃費の悪化を招くことになる。したがって、エンジンを冷却するにあたっては、冷却の必要性が高い部分の冷却性を高めることで、エンジンの冷却性を高めると同時に冷却損失の増大を抑制することが望ましい。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み、冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジンの冷却性を高めることが可能なエンジンの冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はエンジンのシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、前記シリンダブロックおよび前記シリンダヘッド間に設けられ、前記シリンダブロックとの接触面に高熱伝導材を備えるとともに、前記シリンダヘッドとの接触面に断熱材を備えるヘッドガスケットと、を備えるエンジンの冷却構造である。
【0007】
また本発明は冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記シリンダブロックのボア周辺部に隣接して設けられるとともに、前記シリンダブロックのデッキ面に開口しており、前記ヘッドガスケットが、前記冷却媒体通路内に挿入される鍔部をさらに備える構成であることが好ましい。
【0008】
また本発明は前記鍔部が、前記エンジンの排気側に設けられている構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジンの冷却性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のエンジンの概略構成図である。
【図2】クランク角度に応じた燃焼室の熱伝達率および表面積割合を示す図である。
【図3】実施例2のエンジンの概略構成図である。
【図4】鍔部の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1はエンジン10Aの概略構成図である。エンジン10Aは、エンジンの冷却構造(以下、冷却構造と称す)1Aを備えている。冷却構造1Aは、シリンダブロック2、シリンダヘッド3およびヘッドガスケット4Aを備えている。エンジン10Aは冷却構造1Aのほか、例えばピストン5を備えている。なお、図1では説明の便宜上、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3間で、各構成の間に適宜隙間を設けている。
【0013】
シリンダブロック2にはシリンダ2aとウォータジャケット(以下、W/Jと称す)2bとが設けられている。シリンダ2aはボアを形成する。W/J2bは冷却媒体通路に相当し、冷却媒体である冷却水を流通させる。
【0014】
W/J2bはシリンダ2aの周辺部に設けられている。具体的にはW/J2bは、シリンダブロック2のうち、シリンダ2aの壁部をなすボア周辺部2cに隣接するようにして吸気側および排気側に設けられている。W/J2bはシリンダブロック2のデッキ面2dに開口している。すなわち、シリンダブロック2はオープンデッキタイプのシリンダブロックとなっている。
【0015】
シリンダヘッド3は、シリンダブロック2のデッキ面2dに対して設けられている。シリンダヘッド3は、ヘッドガスケット4Aを介してシリンダブロック2に設けられている。したがって、ヘッドガスケット4Aはシリンダブロック2およびシリンダヘッド3間に設けられている。
【0016】
ヘッドガスケット4Aは、複数(ここでは2つ)のガスケット層4aが積層された積層ガスケットとなっている。ガスケット層4aの材質は例えばSUSである。なお、複数のガスケット層4aは同一のものでなくてもよい。ヘッドガスケット4Aはシリンダブロック2側の表面に高熱伝導材4bを備えている。そしてこれにより、シリンダブロック2との接触面に高熱伝導材4bを備えている。また、ヘッドガスケット4Aはシリンダヘッド3側の表面に断熱材を備えている。そしてこれにより、シリンダヘッド3との接触面に断熱材4cを備えている。高熱伝導材4bおよび断熱材4cは対応する表面(接触面)それぞれにコーティングされている。高熱伝導材4bは例えば銅やグラファイトであり、断熱材4cは例えばゴムである。
【0017】
ピストン5はシリンダ2a内に収容されている。ピストン5は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3とともに燃焼室Eを形成している。なお、図示省略しているが、シリンダヘッド3には燃焼室Eに吸気を導く吸気ポートおよび燃焼室Eからガスを排出する排気ポートが設けられている。
【0018】
次に冷却構造1Aの作用効果について説明する。図2はクランク角度に応じた燃焼室Eの熱伝達率および表面積割合を示す図である。図2から、熱伝達率は圧縮行程上死点付近で高まることがわかる。そして、圧縮行程上死点付近では、シリンダヘッド3とピストン5の表面積割合が大きくなることがわかる。したがって、冷却損失については、シリンダヘッド3の温度の影響力が大きいことがわかる。一方、ノッキングは圧縮端温度に依存する。そして、圧縮端温度に影響する吸気圧縮行程では、シリンダ2aの表面積割合が大きいことがわかる。したがって、ノッキングについてはシリンダ2aの温度の影響力が大きいことがわかる。
【0019】
これに対し冷却構造1Aでは、高熱伝導材4bが、燃焼の影響を受けて高温となるボア周辺部2cからW/J2b内の冷却水への伝熱を促進する。そしてこれにより、ボア周辺部2cの冷却性を高める。同時に冷却構造1Aでは、断熱材4cが、冷却損失が増大し易いシリンダヘッド3をシリンダブロック2から断熱する。そしてこれにより、ボア周辺部2cの冷却性を高めつつ、シリンダブロック2が冷却されることを抑制する。このため、冷却構造1Aは冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジン10Aの冷却性を高めることができる。結果、具体的にはノッキングの改善と燃費の向上とを両立して図ることができる。
【0020】
また、冷却構造1Aはシリンダブロックとして、オープンデッキタイプのシリンダブロック2を備えることで、ボア周辺部2cから冷却水への伝熱を好適に促進できる。そしてこれにより、エンジン10Aの冷却性を好適に高めることができる。
【実施例2】
【0021】
図3はエンジン10Bの概略構成図である。エンジン10Bは冷却構造1Aの代わりに冷却構造1Bを備える点以外、エンジン10Aと実質的に同一である。冷却構造1Bはヘッドガスケット4Aの代わりにヘッドガスケット4Bを備える点以外、冷却構造1Aと実質的に同一である。ヘッドガスケット4Bは鍔部4dをさらに備える以外、ヘッドガスケット4Aと実質的に同一である。ヘッドガスケット4Bは、例えば伝熱促進の観点から、シリンダブロック2との接触面からさらに鍔部4dにかけて高熱伝導材4bを備えてもよい。
【0022】
鍔部4dは複数のガスケット層4aのうち、最もシリンダブロック2側に配置されるガスケット層に設けられている。鍔部4dは例えば溶接によって設けることができる。また、例えばプレス加工による折り曲げによって形成することができる。プレス加工による折り曲げによって形成することで、鍔部4dを容易に設けることができる。鍔部4dはW/J2bに対応させて形成されている。このため、鍔部4dはW/J2b内に挿入されている。鍔部4dは、W/J2bの上部を内側に位置するW/J2baと外側に位置するW/J2bbとに2分している。鍔部4dはエンジン10Bの排気側に設けられている。
【0023】
図4は鍔部4dの上面図である。図4では鍔部4dをシリンダブロック2とともに示している。矢印Fは冷却水の流通方向を示す。鍔部4dは直列配置された複数のシリンダ2aに沿って設けられている。鍔部4dは冷却水の上流側端部において、2分したW/J2ba、2bbのうち、外側のW/J2bbを閉じるように設けられている。
【0024】
次に冷却構造1Bの作用効果について説明する。冷却構造1Bでは、W/J2b内に挿入した鍔部4dで冷却水の流れをコントロールすることで、ボア周辺部2c上部の冷却性を高めることができる。具体的には、冷却構造1Bでは直列配置された複数のシリンダ2aに沿って設けた鍔部4dでW/J2bの上部を2分することで、さらには冷却水の上流側端部において、W/J2bbを鍔部4dで閉じるようにすることで、W/J2baを流通する冷却水の流速を高めている。そしてこれにより、ボア周辺部2c上部の冷却性を好適に高めている。
【0025】
一方、このようにして冷却性を高めても、冷却構造1Bでは断熱材4cがあることから、シリンダヘッド3で冷却損失が増大することを抑制できる。このため冷却構造1Bは、冷却構造1Aと比較して、冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジン10Bの冷却性を好適に高めることができる。
【0026】
また、冷却構造1Bは鍔部4dをエンジン10Bの排気側に設けることで、ボア周辺部2cの排気側上部の冷却性を高めることができる。この点、ボア周辺部2cの排気側上部は、高温の排気ガスの影響を受ける結果、特に高温になり易い部分となっている。また、筒内に流入した吸気が当たる結果、吸気温度が上昇し易い部分となっている。これに対し冷却構造1Bは、特に冷却の必要性が高いボア周辺部2cの排気側上部の冷却性を高めることで、冷却損失の増大を抑制可能な態様でエンジン10Bの冷却性をさらに好適に高めることができる。
【0027】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、鍔部は必ずしも上述した鍔部4dに限られず、例えば鍔部4dとは異なる位置および範囲に異なる形状で設けられたものなど、適宜のものであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
冷却構造 1A、1B
シリンダブロック 2
シリンダ 2a
W/J 2b、2ba、2bb
ボア周辺部 2c
デッキ面 2d
シリンダヘッド 3
ヘッドガスケット 4A、4B
ガスケット層 4a
高熱伝導材 4b
断熱材 4c
鍔部 4d
ピストン 5
エンジン 10A、10B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、
前記シリンダブロックおよび前記シリンダヘッド間に設けられ、前記シリンダブロックとの接触面に高熱伝導材を備えるとともに、前記シリンダヘッドとの接触面に断熱材を備えるヘッドガスケットと、を備えるエンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの冷却構造であって、
冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記シリンダブロックのボア周辺部に隣接して設けられるとともに、前記シリンダブロックのデッキ面に開口しており、
前記ヘッドガスケットが、前記冷却媒体通路内に挿入される鍔部をさらに備えるエンジンの冷却構造。
【請求項3】
請求項2記載のエンジンの冷却構造であって、
前記鍔部が、前記エンジンの排気側に設けられているエンジンの冷却構造。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−87677(P2012−87677A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234977(P2010−234977)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】