説明

エンジンの制御装置

【課題】自動再始動後におけるエンジンの運転安定性を確保しながら、排ガス性能の低下を抑制することが出来るようにする。
【解決手段】排ガス空燃比AF1に基づいてエンジンの燃料噴射量Finjを調整するフィードバック(FB)噴射制御実行手段47と、排ガス空燃比AF1に基づかずに燃料噴射量Finjを調整するオープンループ(OL)噴射制御実行手段48と、エンジンを自動停止/自動再始動させる自動停止再始動手段41と、排気系の温度に相関する排気系温度指標値CTをエンジン自動停止中は減算補正する温度指標値補正手段44と、FB噴射制御実行手段47およびOL噴射制御実行手段48を制御する噴射制御モード選択手段52と、エンジンが自動再始動され且つ温度指標値CTが排気系温度閾値CTthを上回ると排ガス空燃比センサ28が活性状態にあるとみなすセンサ活性判定手段51とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載されたエンジンの燃料噴射量は、基本的に、エンジンの回転数および負荷に基づき制御されるようになっているが、このような基本的制御に加え、フィードバック制御あるいはオープンループ制御が加味されるようになっている。
ここで、フィードバック制御とは、排気系に設けられたO2センサやLAFS(Linear A/F Sensor)といった空燃比センサによって検出された排ガス空燃比に基づいて燃料噴射量の目標値(即ち、目標燃料噴射量)を調整する制御である。一方、オープンループ制御とは、空燃比センサの検出結果には拠らずに目標燃料噴射量を調整する制御である。
【0003】
このようなフィードバック制御とオープンループ制御とは、主に、空燃比センサが活性化しているか否かに応じて切換えられるようになっている。これは、一般的な空燃比センサが、ある程度昇温度されないと活性化せず、正確に排ガス空燃比を検出することが出来ないという特性を有していることによる工夫である。なお、空燃比センサが活性化する温度をセンサ活性化温度という。
【0004】
例えば、比較的長い期間停止していたエンジンが始動された直後において、O2センサは冷えているため活性化していない。このような状況において、フィードバック制御を実行したとしても、空燃比センサの検出結果が正確ではないため、目標燃料噴射量が誤って調整される事態が生じる。
そこで、このような事態を防ぐため、空燃比センサの活性化が完了し、空燃比センサの検出精度が高まるまでは、フィードバック制御の実行を禁止、即ち、オープンループ制御を実行する手法が採られるのである。もっとも、オープンループ制御では、排ガス空燃比を正確に調整することは困難である。つまり、オープンループ制御の実行中は、フィードバック制御の実行中に比べ、触媒の浄化効率が低下し、大気に放出される排ガスの性能が低下してしまうおそれがある。このため、オープンループ制御を実行する期間は、出来るだけ短くすることが好ましい。
【0005】
また、フィードバック制御とオープンループ制御を切換える上述の手法では、エンジン始動後の所定期間が経過すると、空燃比センサの昇温が完了し、空燃比センサが活性化したとみなす手法が採られていることが一般的である。
ところで近年、地球環境保護の観点から、車両に搭載されたエンジンのアイドリング期間を短くすることで、エンジンから排出される排ガス量を低減することを狙った技術、いわゆる、アイドルストップ制御に関する技術に注目が集まっている。そして、このような、アイドルストップ制御を採用した車両においては、当然に、エンジンは自動停止と自動再始動とを頻繁に繰り返すこととなる。
【0006】
そこで、以下の特許文献1の技術においては、同文献の図4のフローチャートに開示されるように、アイドルストップ制御を採用した車両において、エンジンが自動再始動(自動始動)した場合は(ステップB20のYesルート)、O2センサが活性化していると擬似的に判定するようになっている。これは、エンジンが自動再始動(自動始動)した場合は、エンジンが冷態であることは少なく、O2センサは活性状態である場合が多いことに鑑みた手法である(同文献の〔0046〕〜〔0048〕段落の記載参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3982159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジンの自動再始動後における排ガス性能を向上させるという課題は、上述の特許文献1の技術によってもある程度は解決できると考えられる。
しかしながら、アイドルストップ制御により車両のエンジンの燃費を向上させることや、エンジンから排出される排ガスの性能向上についてのニーズは近年ますます強くなっており、特許文献1の技術では、このようなニーズを十分に満たすものではない。
【0009】
つまり、従来の一般的な技術のように、エンジンの始動後、所定期間、フィードバック制御を禁止するといった単純な制御では、無用なオープンループ制御を実行することで、排ガス性能の低下を招くおそれがある。
逆に、オープンループ制御を過剰に禁止してしまうと、フィードバック制御が精度の低い状態で実行されることを許容することとなり、排ガス性能の低下を招くだけではなく、エンジンの運転安定性を損なうおそれもある。
【0010】
また、特許文献1の技術のように、エンジンが自動再始動した場合は、O2センサは活性状態であるとみなす手法では、排ガス性能を十分に向上させることは難しい。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、自動再始動後におけるエンジンの運転安定性を確保しながら、排ガス性能の低下を抑制することが出来る、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のエンジンの制御装置(請求項1)は、車両に搭載されたエンジンの制御装置であって、第1活性化温度以上に昇温されると活性し該エンジンの排ガス空燃比を検出する排ガス空燃比センサと、該排ガス空燃比センサにより検出された該排ガス空燃比に基づいて該エンジンの燃料噴射量を調整するフィードバック噴射制御を実行するフィードバック噴射制御実行手段と、該排ガス空燃比に基づかないオープンループ噴射制御を実行することで該エンジンの燃料噴射量を調整するオープンループ噴射制御実行手段と、自動停止条件が成立すると該エンジンを自動停止させ、該自動停止後に自動再始動条件が成立すると該エンジンを自動再始動させる自動停止再始動手段と、該エンジンの排気系の温度に相関する排気系温度指標値を推定する排気系温度指標値推定手段と、該自動停止再始動手段によって該エンジンが自動停止している間は該排気系温度指標値推定手段により推定された該排気系温度指標値を減算補正する温度指標値補正手段と、該フィードバック噴射制御実行手段および該オープンループ噴射制御実行手段を制御する噴射制御モード選択手段と、該自動停止再始動手段により該エンジンが自動再始動され且つ該温度指標値補正手段によって補正された該排気系温度指標値が排気系温度閾値を上回っている場合に、該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定するセンサ活性判定手段とを備え、該噴射制御モード選択手段は、該自動停止再始動手段により該エンジンが自動再始動されると、該センサ活性判定手段により該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定された場合、該フィードバック噴射制御実行手段による該フィードバック噴射制御を実行させ、該センサ活性判定手段により該排ガス空燃比センサは活性状態にあると判定されなかった場合、該オープンループ噴射制御実行手段による該オープンループ噴射制御を実行させることを特徴としている。
【0012】
また、請求項2記載の本発明のエンジンの制御装置は、請求項1記載の内容において、該車両のドライバに操作され該エンジンをマニュアル始動するマニュアル始動手段を備え、該センサ活性判定手段は、該マニュアル始動手段により該エンジンがマニュアル始動されると、該排ガス空燃比センサからの検出結果に基づいて該排ガス空燃比センサが活性状態にあるか否かを判定することを特徴としている。
【0013】
また、請求項3記載の本発明のエンジンの制御装置は、請求項1または2記載の内容において、該センサ活性判定手段は、該エンジンが該自動停止再始動手段により自動再始動されたか或いは該マニュアル始動手段によりマニュアル始動されたかに関わらず、該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定した後、該排ガス空燃比センサからの出力電圧が第1判定期間に亘って閾値電圧未満である場合に、該排ガス空燃比センサは不活性状態にあると判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジンが自動停止している期間に応じて減算補正される排気系温度指標値が排気系温度閾値以下になるか否かに応じ、フィードバック噴射制御またはオープンループ噴射制御のいずれかを実行させることが可能となる。つまり、排気系温度指標値が排気系温度閾値を上回っている場合には、排気系温度指標値が排気系温度閾値以下である場合よりも、オープンループ噴射制御の実行期間を短縮することが可能となる。これにより、自動再始動後におけるエンジンの運転安定性を確保しながら、排ガス性能の低下を抑制することが出来る。(請求項1)
また、エンジンがマニュアル始動された場合は、自動再始動された場合よりも、排ガス空燃比センサが冷えている、即ち、排ガス空燃比センサが不活性である可能性が高い。このため、エンジンがマニュアル始動された場合は、排ガス空燃比センサの状態を直接的に示す排ガス空燃比センサの検出結果に応じて、排ガス空燃比センサが活性化状態にあるか否かを判定する検出するようになっている。これにより、エンジンがマニュアル始動された場合であっても、排ガス空燃比センサが活性状態にあるか否かを正確に判定することが出来る。(請求項2)
また、排ガス空燃比センサが、活性状態にあると一旦は判定されたとしても、その後、排ガス空燃比センサからの出力電圧が比較的低い期間が続く状況であれば、排ガス空燃比センサは不活性状態である可能性が高い。このため、排ガス空燃比センサからの出力電圧が第1判定期間に亘って閾値電圧未満である場合に、該排ガス空燃比センサは不活性状態にあるとみなすようになっている。これにより、排ガス空燃比センサの活性化判定の精度を向上させることが出来る。(請求項3)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置の全体構成を示す模式的なブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置による、排気系温度カウンタ値の推定動作および補正動作を示す模式的なフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置による、排気系温度カウンタ値に応じた噴射制御モードの切換制御を示す模式的なフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置の動作の一例を示す模式的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、車両10に搭載されたエンジン1のシリンダヘッド2には点火プラグ11が設けられている。この点火プラグ11の先端はシリンダ3の燃焼室に突出している。また、この点火プラグ11には高電圧の電力を供給する点火コイル(図示略)が接続されている。また、この車両10には、エンジン1のクランキングを行なうスタータモータ(図示略)が搭載されている。
【0017】
また、シリンダヘッド2には、吸気ポート5が形成されている。また、この吸気ポート5には、吸気弁14が設けられている。
吸気弁14は、クランク軸7の回転に応じて回転する吸気カムシャフト(図示略)の吸気カム(図示略)の動作に応じて開閉し、燃焼室4に対して吸気ポート5を開閉するようになっている。
【0018】
また、シリンダヘッド2には、排気ポート6が形成されている。また、この排気ポート6には、排気弁24が設けられている。
排気弁24は、クランク軸7の回転に応じて回転する排気カムシャフト(図示略)の排気カム(図示略)の動作に応じて開閉し、燃焼室4に対して排気ポート6を開閉するようになっている。
【0019】
そして、このエンジン1には、吸気弁14および排気弁24の開弁期間,開閉タイミングおよびリフト量を連続的に変更可能な可変動弁機構(バルブ動作状態検出手段)30が設けられている。
また、このエンジン1には、エンジン1の内部に形成されたウォータジャケット(図示略)を流通する冷却水の温度WTを検出する冷却水温センサ12が設けられている。なお、この冷却水温センサ12による検出結果WTは、後述するECU(Electric Control Unit)40に読み込まれるようになっている。
【0020】
クランク軸7の回転数、即ち、エンジン回転数Neは、エンジン回転数センサ23によって検出されるようになっている。そして、このエンジン回転数センサ23の検出結果Neは、ECU40によって読み込まれるようになっている。
吸気ポート5には、吸気マニホールド15の下流端が接続されている。
吸気マニホールド15には、スロットルバルブ16が設けられるとともに、このスロットルバルブ16の開度(スロットルバルブ開度)θを検出するスロットルポジションセンサ17が設けられている。
【0021】
吸気マニホールド15には、吸気マニホールド圧センサ18が設けられている。この吸気マニホールド圧センサ18は、スロットルバルブ16よりも下流側における吸気マニホールド15内の気圧Pinを検出するものであって、検出結果はECU40によって読み込まれるようになっている。
さらに、吸気マニホールド15よりも上流側における吸気管(吸気通路)19には、エアフローセンサ(吸気量センサ)20が設けられている。このエアフローセンサ20は、吸気管19を通過して吸気マニホールド15に流れ込む吸気量Qinを検出するものであって、検出結果は後述するECU40によって読み込まれるようになっている。
【0022】
吸気マニホールド15には、電磁式の燃料噴射弁21が取り付けられている。この燃料噴射弁21には、燃料パイプ22を介し、図示しない燃料タンクから燃料が供給されるようになっている。
排気ポート6には、排気マニホールド(排気系)25の上流端が接続されている。
排気マニホールド25の下流端には、排気管(排気系)26が接続されている。また、この排気管26には、排ガス浄化触媒として三元触媒(排気系)27が介装されている。
【0023】
この三元触媒27は、エンジン1から排出された排ガスに含まれる一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)および窒素化合物(NO)を、窒素(N),二酸化炭素(CO2)および水(H2O)へ化学変化させることで、排ガスを浄化するものである。
三元触媒27の上流側における排気管26には、上流O2センサ(排ガス空燃比検出手段,排ガス空燃比センサ,上流排ガス空燃比センサ)28が設けられている。また、三元触媒27の下流側における排気管26には、下流O2センサ(排ガス空燃比検出手段,排ガス空燃比センサ,下流排ガス空燃比センサ)29が設けられている。
【0024】
上流O2センサ28は、エンジン1から排出され、三元触媒27に流入する前の排ガス空燃比である上流側空燃比AF1を検出するものである。
下流O2センサ29は、三元触媒27から排出され、大気に放出される排ガス空燃比である下流側空燃比AF2を検出するものである。
また、これらの上流O2センサ28や下流O2センサ29は、いずれもセラミック製の検出素子を備えており、センサ活性化温度(第1活性化温度;例えば、300℃程度)に昇温されると活性化する特性を有している。
【0025】
また、上流O2センサ28には、上流O2センサ28の検出素子を昇温する上流ヒータ(昇温手段,上流センサ昇温手段)28Aが設けられている。
また、下流O2センサ29には、下流O2センサ29の検出素子を昇温する下流ヒータ(昇温手段,下流センサ昇温手段)29Aが設けられている。
これらの上流ヒータ28Aおよび下流ヒータ29Aは、いずれも、車両10に搭載されたバッテリ(電源;図示略)から供給される電力により電気的に発熱するものである。なお、上流ヒータ28Aは、バッテリと上流ヒータ28Aとの間で電気的に介装された第1スイッチ(図示略)によりオン/オフされるようになっている。同様に、下流ヒータ29Aは、バッテリと下流ヒータ29Aとの間で電気的に介装された第2スイッチ(図示略)によりオン/オフされるようになっている。
【0026】
また、上流O2センサ28による検出結果AF1および下流O2センサ29による検出結果AF2は、いずれも電圧値(例えば、0〜1[V])としてECU40に出力されるようになっている。本実施形態において、上流O2センサ28および下流O2センサ29は、排ガスのリーン化が強くなるにしたがって、出力電圧値が0[V]に近づく特性を有している。一方、上流O2センサ28および下流O2センサ29は、排ガスのリッチ化が強くなるにしたがって、出力電圧値が1[V]に近づく特性を有している。そして、上流O2センサ28および下流O2センサ29は、排ガスが理論空燃比である場合に、出力電圧値が0.5[V]となる特性を有している。
【0027】
また、この車両10のブレーキペダル(図示略)には、図示しないストップランプスイッチが設けられている。このストップランプスイッチは、ブレーキペダル(図示略)が踏込まれていない場合にはオフになり、ブレーキペダルが踏み込まれた場合にオンになる電気スイッチである。また、このストップランプスイッチは、車両10のブレーキランプ(図示略)に接続されている。したがって、このストップランプスイッチがオンになると車両10のブレーキランプが点灯し、オフになるとブレーキランプが消灯するようになっている。なお、このストップランプスイッチはECU40にも接続され、ストップランプスイッチがオンであるか否かをECU40が確認することが出来るようになっている。
【0028】
また、この車両10には遊星歯車機構を有するオートマチックトランスミッション(図示略)が搭載されている。また、この遊星歯車機構の変速比は、図示しないシフトレバーの位置に応じて変更されるようになっている。
また、この車両10の車輪(図示略)には、図示しない車輪速センサが設けられている。この車輪速センサは、車輪の回転速度を検出するものであって、検出結果はECU40によって読み込まれるようになっている。
【0029】
また、車両10には、ECU40が設けられている。
このECU40は、いずれも図示しないメモリやCPU(Central Processing Unit)を有する電子制御ユニットである。また、このECU40のメモリには、いずれもソフトウェアとして、アイドル制御部(アイドル制御手段)41,排気系温度カウンタ値推定部(排気系温度指標値推定手段)42,燃料カット制御部(燃料カット制御手段)43およびカウンタ値補正部(温度指標値補正手段)44が記録されている。
【0030】
また、このECU40のメモリには、フィードバック噴射制御部(フィードバック噴射制御手段)47,オープンループ噴射制御部(オープンループ噴射制御手段)48,センサ活性判定部(センサ活性判定部)51および噴射制御モード選択部(噴射制御モード選択手段)52が記録されている。
さらに、図示はしないが、このECU40のメモリには、ソフトウェアとして、車速検出部も記録されている。
【0031】
これらのうち、アイドル制御部41は、自動停止条件が成立するとエンジン1を自動停止させ、エンジン1の自動停止後に自動再始動条件が成立するとスタータモータを作動させエンジン1を自動再始動させるものである。なお、アイドル制御部41の制御を受けて作動したスタータモータによるクランキングを、オートクランキングという。一方、車両10のドライバがシリンダキー(図示略)をイグニッションポジションまで回転させることで作動したスタータモータによるクランキングを、単にクランキングという。また、クランキングによるエンジン1の始動をマニュアル始動という。
【0032】
そして、アイドル制御部41は、以下の条件(1)〜(3)が満たされれば、自動停止条件が満たされたと判定するようになっている。
条件(1): ストップランプスイッチがオンである
条件(2): 車速Vsがゼロである
条件(3): シフトレバーがドライブ(D)ポジションにある
また、アイドル制御部41は、以下の条件(4)が満たされれば、自動再始動条件が満たされたと判定するようになっている。
【0033】
条件(4): ストップランプスイッチがオンからオフになる
なお、車速Vsは、車輪速センサにより検出された車輪の回転速度に基づいて車速検出部(図示略)が演算するようになっている。
排気系温度カウンタ値推定部42は、排気系温度カウンタ値CTを推定するものである。この排気系温度カウンタ値CTは、エンジン1の排気系(即ち、排気マニホールド25,排気管26および三元触媒27)の温度を示す指標である。そして、排気系温度カウンタ値推定部42は、エアフローセンサ20により検出されたエンジン1の吸気量Qinに応じて、この排気系温度カウンタ値CTを増大,低減あるいは維持することで、排気系温度カウンタ値CTを推定するようになっている。なお、本実施形態において、この排気系温度カウンタ値CTの下限値はゼロとして設定されている。したがって、排気系温度カウンタ値推定部42は、この排気系温度カウンタ値CTをゼロよりも小さい値として推定することはない。また、後述するカウンタ値補正部44も、排気系温度カウンタ値CTをゼロよりも小さい値に補正することはない。
【0034】
より具体的に、排気系温度カウンタ値推定部42は、吸気量Qinが比較的多い場合、所定周期T(例えば、T=2秒)毎に排気系温度カウンタ値CTを10加算するようになっている。
また、排気系温度カウンタ値推定部42は、吸気量Qinが比較的少ない場合、所定周期T毎に排気系温度カウンタ値CTを1減算するようになっている。
【0035】
また、排気系温度カウンタ値推定部42は、吸気量Qinが比較的多くもなく且つ少なくもない場合、所定周期T毎に排気系温度カウンタ値CTの加算も減算も行なわない、即ち、その時点における排気系温度カウンタ値CTを保持するようになっている。
燃料カット制御部43は、燃料カット条件が成立すると、燃料噴射弁21による燃料噴射を一時的に禁止する制御、即ち、燃料カット制御を実行するものである。
【0036】
なお、燃料カット制御部43は、以下の条件(5)および条件(6)の両方が満たされれば、減速時における燃料カット条件が満たされたと判定するようになっている。
条件(5)アクセルペダルの踏み込み量Accが実質的にゼロであること
条件(6)エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上であること
なお、ここで、所定回転数Ne1は、アイドル回転数Ne0よりも少し高い回転数として設定されたものである。
【0037】
また、アクセルペダル(図示略)の踏込み量Accは、図示しないアクセルペダルポジションセンサにより検出され、ECU40により読み込まれるようになっている。
カウンタ値補正部44は、排気系温度カウンタ値推定部42により推定された排気系温度カウンタ値CTを、エンジン1の運転状態に応じて補正するものである。
より具体的に、このカウンタ値補正部44は、アイドル制御部41によってエンジン1が自動停止されている間、排気系温度カウンタ値CTを第1度合R1(例えば、R1=2[2秒毎])で減算補正するようになっている。
【0038】
また、このカウンタ値補正部44は、燃料カット制御部43により燃料カット制御が実行されている間、排気系温度カウンタ値CTを第2度合R2(例えば、R2=10[2秒毎])で減算補正するようになっている。
さらに、このカウンタ値補正部44は、アイドル制御部41によってエンジン1が自動再始動している間(いわゆる、オートクランキング中)は、排気系温度カウンタ値CTを第3度合R3(例えば、R3=0[2秒毎])で補正するようになっている。
【0039】
つまり、これらの第1度合R1,第2度合R2および第3度合R3は、下式(A)の関係が成立するように設定されている。
R3 < R1 < R2 ・・・(A)
また、フィードバック噴射制御部47は、スロットルポジションセンサ17によって検出されたスロットルバルブ開度θと、エアフローセンサ20によって検出された吸気量Qinと、上流O2センサ28により検出された排ガス空燃比AF1とに基づいて、燃料噴射弁21による燃料噴射量Finjを調整するフィードバック噴射制御を実行するものである。
【0040】
オープンループ噴射制御部48は、スロットルポジションセンサ17によって検出されたスロットルバルブ開度θと、エアフローセンサ20によって検出された吸気量Qinには基づくものの、上流O2センサ28により検出された排ガス空燃比AF1に基づかずに、燃料噴射弁21による燃料噴射量Finjを調整するオープンループ噴射制御を実行するものである。
【0041】
センサ活性判定部51は、上流O2センサ28が、活性状態にあるか否かを判定するものである。
具体的に、このセンサ活性判定部51は、アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動され、且つ、カウンタ値補正部44によって補正されたカウンタ値CTが下限閾値(排気系温度閾値)CTthを上回っている(CT>CTth)場合に、上流O2センサ28は活性状態にあるとみなすようになっている。なお、本実施形態において、下限閾値CTthは0として設定されている。
【0042】
これは、上流O2センサ28がセンサ活性化温度(第1活性化温度)以上に暖められないと、本来の精度で排ガス空燃比を検出できないことによるものであり、且つ、三元触媒27が触媒活性化温度以上に暖められないと、本来の浄化性能を発揮出来ないことによるものである。
つまり、排気系温度カウンタ値CTが下限閾値CTth以下になったということは、上流O2センサ28により検出された上流側空燃比AF1の精度が低く、且つ、三元触媒27が活性化温度に達していない可能性が極めて高いのである。
【0043】
換言すれば、この下限閾値CTthは、センサ活性化温度と触媒活性化温度とに応じて設定されている。
一方、このセンサ活性判定部51は、エンジン1がマニュアル始動された場合、または、カウンタ値補正部44によって補正されたカウンタ値CTが下限閾値CTth以下である(CT≦CTth)場合、原則的に、上流O2センサ28は不活性状態にあるとみなすようになっている。
【0044】
もっとも、このセンサ活性判定部51は、エンジン1がマニュアル始動された場合、または、カウンタ値CTが下限閾値CTth以下である場合であっても、エンジン始動後第2判定期間P2(例えば、P2=5秒)が経過し、且つ、上流O2センサ28の出力電圧が閾値電圧Eth以上である場合には、上流O2センサ28は活性状態にあるとみなすようになっている。
【0045】
また、このセンサ活性判定部51は、一旦、上流O2センサ28が活性状態にあるとみなしたとしても、その後、上流O2センサ28の出力電圧が、第1判定期間P1(例えば、P1=20秒)に亘って閾値電圧Eth未満である場合には、上流O2センサ28が不活性状態にあるとみなすようになっている。

噴射制御モード選択部52は、フィードバック噴射制御実行部47およびオープンループ噴射制御実行部48を制御するものである。
【0046】
より具体的に、この噴射制御モード選択部52は、以下の条件(A)および(B)が満たされたか否かを判定するようになっている。
条件(A): アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動された
条件(B): センサ活性判定部51により上流O2センサ28が活性状態にあるとみなされた
ここで、この噴射制御モード選択部52は、上記の条件(A)および(B)の双方が満たされていると判定した場合、即ち、エンジン1が自動再始動され、且つ、排気系温度カウンタ値CTが下限温度閾値CTthを上回っている場合は、直ちに、フィードバック噴射制御部47によるフィードバック噴射制御を実行させるようになっている。
【0047】
一方、この噴射制御モード選択部52は、上記の条件(A)または(B)が満たされていないと判定した場合、即ち、エンジン1がマニュアル始動された場合、または、排気系温度カウンタ値CTが下限温度閾値CTth以下である場合は、エンジン始動後第2判定期間P2が経過し、且つ、上流O2センサ28の出力電圧が閾値電圧Eth以上であるという場合を除き、オープンループ噴射制御部48によるオープンループ噴射制御を実行させるようになっている。
【0048】
なお、第1判定期間P1は第2判定期間P2よりも長い(P1>P2)期間として設定されている。
本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置は上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
図2のフローチャートに示すように、まず、エンジン1が運転中である場合、ECU40がエアフローセンサ20によって検出された吸気量Qinを読み込む(ステップS11)。
【0049】
そして、排気系温度カウンタ値推定部42が、読み込まれたエンジン1の吸気量Qinに応じて、排気系温度カウンタ値CTを増大,低減あるいは保持することで、排気系温度カウンタ値CTを推定する(ステップS12)。
その後、燃料カット制御部43が、上記の条件(5)および条件(6)の両方が満たされたか否か、即ち、燃料カット条件が満たされたか否か判定する(ステップS13)。
【0050】
ここで、燃料カット条件が満たされたと判定された場合は(ステップS13のYesルート)、燃料カット制御部43は、燃料噴射弁21による燃料噴射を一時的に禁止する制御、即ち、燃料カット制御を実行する(ステップS14)。
そして、燃料カット制御部43により燃料カット制御が実行されている間、カウンタ値補正部44が、排気系温度カウンタ値CTを第2度合R2(例えば、R2=10[2秒毎])で減算補正する(ステップS15)。
【0051】
また、アイドル制御部41は、上記の条件(1)〜(3)が満たされたか否か、即ち、自動停止条件が成立したか否かを判定する(ステップS16)。なお、燃料カット制御部43が、燃料カット条件は満たされなかったと判定した場合も(ステップS13のNoルート)、上記のステップS14およびステップS15をスキップして、このステップS16における判定が実行される。
【0052】
ここで、自動停止条件が成立した場合(ステップS16のYesルート)、アイドル制御部41は、エンジン1を自動停止させる(ステップS17)。
そして、カウンタ値補正部44は、アイドル制御部41によってエンジン1が自動停止されている間、排気系温度カウンタ値CTを第1度合R1(例えば、R1=2[2秒毎])で減算補正する(ステップS18)。
【0053】
なお、カウンタ値補正部44が、自動停止条件は満たされなかったと判定した場合は(ステップS16のNoルート)、後述するステップS19〜S21をスキップしてリターンする。
その後、アイドル制御部41は、上記の条件(4)が満たされたか否か、即ち、自動再始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS19)。
【0054】
ここで、自動停止条件が成立した場合には(ステップS19のYesルート)、アイドル制御部41は、スタータモータを作動させることでオートクランキングを行ない、エンジン1を自動再始動させる(ステップS20)。
そして、カウンタ値補正部44は、アイドル制御部41によってエンジン1が自動停止されている間、排気系温度カウンタ値CTを第3度合R3で補正し(ステップS21)、その後、リターンする。なお、本実施形態においては、第3度合R3が0として設定されている。このため、カウンタ値補正部44は、ステップS12において、排気系温度カウンタ値推定部42により推定された排気系温度カウンタ値CTを保持することとなる。
【0055】
上述のように、この図2のフローチャートを繰り返し実行することで、排気系温度カウンタ値CTは、随時推定され、且つ、補正されている。
そして、排気系温度カウンタ値CTを考慮した上流O2センサ28の活性化判定に応じた噴射制御モードの選択制御は、図3のフローチャートに示すように実行される。
まず、センサ活性判定部51は、アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動されたか否かを判定する(ステップS51)。
【0056】
アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動された場合(ステップS51のYesルート)、センサ活性判定部51は、カウンタ値補正部44によって補正された排気系温度カウンタ値CTが、下限閾値CTthを上回っているか否かを判定する(ステップS52)。
ここで、補正後の排気系温度カウンタ値CTが、下限閾値CTthを上回っている場合(ステップS52のYesルート)、センサ活性判定部51は、上流O2センサ28が活性状態にあるとみなす(ステップS53)。
【0057】
このとき、噴射制御モード選択部52は、上記の条件(A)が満たされ(即ち、アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動された(ステップS51のYesルート))、且つ、上記の条件(B)も満たされた(即ち、センサ活性判定部51により上流O2センサ28が活性状態にあるとみなされた(ステップS53)ことに基づき、フィードバック噴射制御部47によるフィードバック噴射制御を実行させる(ステップS54)。
【0058】
もっとも、センサ活性判定部51により上流O2センサ28が活性状態にあるとみなされ、フィードバック噴射制御部47によるフィードバック噴射制御の実行が開始されたとしても、その後、上流O2センサ28の出力電圧が、過度に低い期間が続いた場合には上流O2センサ28が不活性状態に陥った可能性が高い。このため、センサ活性判定部51は、第1判定期間P1(例えば、P1=20秒)に亘って閾値電圧Eth未満である場合、上流O2センサ28が不活性状態にあるとみなし(ステップS59のYesルートおよびステップS57)、且つ、噴射制御モード選択部52は、オープンループ噴射制御部48によるオープンループ噴射制御を実行させる(ステップS58)。
【0059】
一方、アイドル制御部41によりエンジン1が自動再始動されたのではなく、車両10のドライバがシリンダキーをイグニッションポジションまで回転させることに起因してエンジン1が始動した、即ち、エンジン1がマニュアル始動された場合(ステップS51のNoルート)、または、補正後の排気系温度カウンタ値CTが、下限閾値CTth以下である場合(ステップS52のNoルート)、センサ活性判定部51は、エンジン始動後第2判定期間P2(例えば、P2=5秒)が経過するのを待ってから(ステップS55のYesルート)、上流O2センサ28の出力電圧が閾値電圧Eth未満であるか否かを判定する(ステップS56)。
【0060】
ここで、上流O2センサ28の出力電圧が閾値電圧Eth未満である場合(ステップS56のYesルート)、センサ活性判定部51は、上流O2センサ28は不活性状態にあるとみなし(ステップS57)、その後、噴射制御モード選択部52は、オープンループ噴射制御部48によるオープンループ噴射制御を実行させる(ステップS58)。
他方、上流O2センサ28の出力電圧が閾値電圧Eth以上である場合(ステップS56のNoルート)、センサ活性判定部51は、上流O2センサ28は活性状態にあるとみなし(ステップS53)、その後、噴射制御モード選択部52は、フィードバック噴射制御部47によるフィードバック噴射制御を実行させる(ステップS54)。
【0061】
以下、図4に示すタイムチャートを用い、本発明の一実施形態に係る車両の排気系の温度推定装置の作用を、具体的について説明しておく。
まず、車両10のドライバがシリンダキーをイグニッションポジションまで回転させることで、スタータモータによるクランキングが開始された(周期T1)。
その後、エンジン回転数Neがクランキング回転数Ne1(例えば、Ne1=600[rpm])以上になり、クランキングが完了する(周期T2)。その後、周期T3までエンジン1がアイドル運転を行なった。
【0062】
つまり、周期T1から周期T3までの間、スロットルバルブ開度θはエンジン1がアイドル運転を行なうのに必要な開度(即ち、実質的に全閉)であり、吸気量Qinは極めて少ない。このため、排気系温度カウンタ値推定部42は、排気系温度カウンタ値CTを周期的に1ずつ減算する。もっとも、上述のように、排気系温度カウンタ値CTの下限値は0であるので、周期T1から周期T3までの間、排気系温度カウンタ値CTは0のまま維持される。
【0063】
その後、車両1を加速させるべく、ドライバがアクセルペダルを踏込み、アクセルペダル踏み込み量Accが増大した(周期T4)。このとき、スロットルバルブ開度θは30%以上になり、吸気量Qinが比較的多くなった。このため、排気系温度カウンタ値推定部42は、排気系温度カウンタ値CTを10加算する(周期T4)。
その後、ドライバがアクセルペダルを緩め、スロットルバルブ開度θが20%程度になり、吸気量Qinが比較的多くもなく且つ少なくもなくなった(周期T4〜T8)。このため、排気系温度カウンタ値推定部42は、周期T4から周期T8までの間、排気系温度カウンタ値CTの加算も減算も行なわず、周期T4における排気系温度カウンタ値CTを保持する。
【0064】
そして、周期T9から周期T12までの間、アイドル制御部41が、エンジン1の自動停止を行なった。このため、カウンタ値補正部44は、周期T9から周期T12までの間、排気系温度カウンタ値CTを第1度合R1(R1=2)ずつ減算補正した。
その後、アイドル制御部41が、エンジン1の自動再始動を行なった(周期T13)。このため、カウンタ値補正部44は、オートクランキングが行なわれている間、排気系温度カウンタ値CTを第3度合R3で補正する。もっとも、本実施形態において、第3度合R3は0であるので、カウンタ値補正部44は、排気系温度カウンタ値CTの補正を行なわない。
【0065】
そして、エンジン1の自動再始動後、周期T14において、車両1を加速させるべく、ドライバがアクセルペダルを踏込み、アクセルペダル踏み込み量Accが増大した。このとき、スロットルバルブ開度θは30%以上になり、吸気量Qinが比較的多くなった。このため、排気系温度カウンタ値推定部42は、排気系温度カウンタ値CTを10加算する(周期T14)。
【0066】
その後、車両10の走行路が下り坂となり、ドライバは、アクセルペダルの踏み込みをやめたが、エンジン1の回転数Neはクランキング回転数Ne1よりも高くなっている。つまり、このとき、燃料カット制御部43は、燃料カット条件として上述した条件(5)と条件(6)とが満たされと判定し、燃料カット制御を実行した(周期T16〜T17)。このため、カウンタ値補正部44は、周期T16から周期T17までの間、排気系温度カウンタ値CTを第2度合R2(R2=10)ずつ減算補正している。もっとも、上述のように、排気系温度カウンタ値CTの下限値は0であるので、周期T16から周期T17までの間、排気系温度カウンタ値CTは0のまま維持されている。
【0067】
その後、車両10の走行路が登り坂となり、ドライバは、車両1を加速させるべくアクセルペダルを踏込み、アクセルペダル踏み込み量Accが増大した。このとき、スロットルバルブ開度θは30%以上になり、吸気量Qinが比較的多くなった。このため、排気系温度カウンタ値推定部42は、排気系温度カウンタ値CTを10加算している(周期T18)。
【0068】
このように、本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置によれば、エンジン1が自動停止している期間に応じて減算補正される排気系温度カウンタ値CTが下限温度閾値CTth以下になるか否かに応じて、フィードバック噴射制御またはオープンループ噴射制御のいずれかを実行させることが可能となる。つまり、排気系温度カウンタ値CTが下限温度閾値CTthを上回っている場合には、三元触媒27や上流O2センサ28が活性化しているとみなすことが可能となり、排気系温度カウンタ値CTが下限温度閾値CTth未満である場合よりも、オープンループ噴射制御の実行期間を短縮することが可能となる。
【0069】
これにより、オープンループ噴射制御の実行期間が必要以上に長くなることを防ぎ、排ガス性能の低下を抑制することが出来る。また、オープンループ噴射制御の実行期間が必要以上に短くなることを防ぎ、自動再始動後のエンジン1の運転が不安定になる事態を回避することで、エンジン1の運転安定性を確保することが出来る。
また、排気系温度カウンタ値CTは、自動停止している期間に応じて減算補正されるだけでなく、燃料カット制御部43により実行される燃料カット制御や、アイドル制御部41によるオートクランキングといった種々の状況に応じて補正されるようになっている。したがって、より正確に排気系の温度を推定することが出来る。
【0070】
エンジン1がマニュアル始動された場合は、自動再始動された場合よりも、上流O2センサ28が冷えている、即ち、上流O2センサ28が不活性である可能性が高い。このため、エンジン1がマニュアル始動された場合は、上流O2センサ28の状態を直接的に示す上流O2センサ28からの出力電圧に応じて、この上流O2センサ28が活性状態にあるか否かを判定する検出するようになっている。
【0071】
これにより、エンジン1がマニュアル始動された場合であっても、上流O2センサ28が活性状態にあるか否かを正確に判定することが出来る。
上流O2センサ28が、一旦は活性状態にあると判定されたとしても、その後、上流O2センサ28からの出力電圧が比較的低い期間が続く状況であれば、排上流O2センサ28は、故障あるいは温度低下のため不活性状態に陥った可能性が高い。このため、上流O2センサ28からの出力電圧が第1判定期間P1に亘って閾値電圧Eth未満である場合に、上流O2センサ28は不活性状態であるとみなし、上流O2センサ28の活性化判定の精度を向上させる。
【0072】
また、エンジン1がマニュアル始動された直後は、上流O2センサ28の検出結果が不安定になっている可能性が高い。このため、エンジンのマニュアル始動後、第2判定期間P2が経過してから上流O2センサ28からの出力電圧が閾値電圧Ethを超えたか否かを判定するようになっている。
これにより、エンジン1がマニュアル始動された場合であっても、上流O2センサ28の活性化判定の精度をより向上させることが出来る。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。その例を以下に示す。
上述の実施形態においては、エアフローセンサ20により吸気量Qinを検出する場合について説明したが、このような場合に限定するものではない。例えば、エアフローセンサ20の代わりに、吸気マニホールド圧センサ18によって検出された吸気マニホールド15内の気圧Pinに基づいて、吸気量Qinを推定しても良い。
【0074】
また、上述の実施形態においては、燃料噴射弁21が吸気ポート5内に燃料を噴射する場合について説明したが、エンジン1がこのような燃料噴射方式、即ち、ポート噴射方式を採用したものに限定するものではない。例えば、エンジン1が、シリンダ3の燃焼室内に燃料を噴射する方式、即ち、直噴方式を採用したものであってもよい。
また、上述の実施形態においては、エンジン1が自然吸気方式のものである場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、エンジン1がターボチャージャやスーパーチャージャといった過給機を備えたものであってもよい。
【0075】
また、上述の実施形態においては、ストップランプスイッチ(図示略)によってブレーキペダル(図示略)が踏み込まれているか否かが検出される場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、ブレーキペダルの変位量(即ち、踏込量)を検出するブレーキペダルポジションセンサを用いても良い。
また、上述の実施形態においては、車両10に遊星歯車機構のオートマチックトランスミッションが搭載されている場合を説明したが、これに限定するものではない。例えば、CVT(Continuously Variable Transmission)を有するオートマチックトランスミッションであってもよいし、オートマチックトランスミッションに換えてマニュアルトランスミッションを用いるようにしてもよい。なお、車両10にマニュアルトランスミッションを搭載した場合、上述した条件(1)〜(3)に換えて、以下の条件(1a)〜(3a)を自動停止条件の一部として設定すればよい。そして、アイドル制御部41が、以下の条件(1a)〜(3a)が満たされた場合に、自動停止条件が満たされたと判定するようにすればよい。
【0076】
条件(1a): シフトレバーがニュートラルポジションにある
条件(2a): クラッチペダルが解放されている
条件(3a): 車速Vsがゼロである
また、車両10にマニュアルトランスミッションを搭載した場合、上述した条件(4)に換えて、以下の条件(4a)を自動再始動条件として設定すればよい。そして、アイドル制御部41が、以下の条件(4a)が満たされた場合に、自動再始動条件が満たされたと判定するようにすればよい。
【0077】
条件(4a): クラッチペダルが踏み込まれた
また、上述の実施形態においては、アイドル制御部41が、上記の条件(1)〜(3)が満たされれば、自動停止条件が満たされたと判定するようになっている場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、以下の条件(9)および(10)が満たされると、自動停止条件が満たされたと判定されるようにしても良い。
【0078】
条件(9): 車速Vsがゼロである
条件(10): シフトレバーがパーキング(P)またはニュートラル(N)ポジションにある
また、上述の実施形態においては、アイドル制御部41が、上記の条件(4)が満たされれば、自動再始動条件が満たされたと判定するようになっている場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、上記の条件(9)および(10)が満たされたことにより、エンジン1が自動停止した場合には、以下の条件(11)および(12)が満たされると、自動再始動条件が満たされたと判定されるようにしても良い。
【0079】
条件(11): ストップランプスイッチがオン
条件(12): シフトレバーがドライブ(D),リバース(R),セカンド(2nd)またはファースト(1st)ポジションに変更された
また、上述の実施形態においては、上記の条件(5)および(6)の両方が満たされた場合に燃料カット制御部43が燃料カット制御を実行する場合について説明したが、これは、車両10が減速する場合に実行される燃料カット制御(いわゆる、減速時燃料カット)であって、これに限定するものではない。例えば、燃料カット制御として、エンジン1が過回転することを抑制するための燃料カット制御(いわゆる、オーバーレボカット)が実行されるようにしてもよい。
【0080】
また、上述の実施形態においては、第1度合R1,第2度合R2および第3度合R3が式(A)の関係を満たすように規定されている場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、第1度合R1と第3度合R3とを同じ値とする、即ち、R3=R1<R2という関係を満たすように第1度合R1,第2度合R2および第3度合R3を規定してもよい。
【0081】
また、上述の実施形態においては、触媒劣化推定部45が、条件(7)または条件(8)の双方が満たされれば、触媒推定実行条件が満たされたと判定するようになっている場合について説明したが、これに限定するものではなく、種々のカスタマイズが可能である。
また、上述の実施形態においては、車両10のドライバがシリンダキー(図示略)をイグニッションポジションまで回転させることで作動したスタータモータによるクランキングによるエンジン1の始動をマニュアル始動という場合を説明した。しかしながら、シリンダキーに代えて、エンジンスタートボタン(図示略)を車両10に設けるようにする場合もあり得る。この場合、エンジンスタートボタンが押下されたことによるクランキングでエンジン1が始動した場合もマニュアル始動に該当する。つまり、シリンダキーおよびエンジンスタートボタンは、エンジン1をマニュアル始動させる手段(マニュアル始動手段)に該当する。
【0082】
また、上述の実施形態においては、図2のフローチャートに示すように、燃料カット条件が成立したか否か(ステップS13)の判定を行なったあとで、自動停止条件が成立したか否か(ステップS16)の判定、および、自動再始動条件が成立したか否か(ステップS19)の判定を行なう場合について説明したが、このような順番に限定されるものではない。
【0083】
また、上述の実施形態の上流O2センサ28および下流O2センサ29に代えて、LAFS(Linear A/F Sensor)を用いるようにしてもよい。
また、上述の実施形態においては、排気系温度カウンタ値CTは、エンジン1の排気系の温度を模擬的に示す指標として用いた場合を説明したがこれに限定するものではない。例えば、排気系に設けられた触媒や、排気系に設けられた部品の温度を仮想的に示す指標としてこの排気系温度カウンタ値CTを用いても良い。
【0084】
また、上述の実施形態においては、排気系の温度が上昇するに連れて、排気系温度カウンタ値CTが大きくなる場合について説明したが、これとは逆に、排気系の温度が上昇するに連れて、排気系温度カウンタ値CTが小さくなるようにしてもよい。この場合、上述した劣化推定禁止部46が、排気系温度カウンタ値CTが排気系温度閾値CTth以上である場合、触媒劣化推定制御条件(即ち、上記の条件(7)および条件(8))が満たされていたとしても、触媒劣化推定部45による劣化推定制御の実行を禁止するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、車両の製造産業を中心に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 エンジン
10 車両
25 排気マニホールド(排気系)
26 排気管(排気系)
27 三元触媒(排気系)
28 上流Oセンサ(排ガス空燃比センサ)
41 アイドル制御部(自動停止再始動手段)
42 排気系温度カウンタ値推定部(排気系温度指標値推定手段)
44 カウンタ値補正部(温度指標値補正手段)
47 フィードバック噴射制御実行部(フィードバック噴射制御実行手段)
48 オープンループ噴射制御実行部(オープンループ噴射制御実行手段)
51 センサ活性判定部(センサ活性判定手段)
52 噴射制御モード選択部(噴射制御モード選択手段)
AF1 排ガス空燃比
CT 排気系温度カウンタ値(排気系温度指標値)
Eth 閾値電圧
Finj エンジンの燃料噴射量
P1 第1判定期間
P2 第2判定期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの制御装置であって、
第1活性化温度以上に昇温されると活性し該エンジンの排ガス空燃比を検出する排ガス空燃比センサと、
該排ガス空燃比センサにより検出された該排ガス空燃比に基づいて該エンジンの燃料噴射量を調整するフィードバック噴射制御を実行するフィードバック噴射制御実行手段と、
該排ガス空燃比に基づかないオープンループ噴射制御を実行することで該エンジンの燃料噴射量を調整するオープンループ噴射制御実行手段と、
自動停止条件が成立すると該エンジンを自動停止させ、該自動停止後に自動再始動条件が成立すると該エンジンを自動再始動させる自動停止再始動手段と、
該エンジンの排気系の温度に相関する排気系温度指標値を推定する排気系温度指標値推定手段と、
該自動停止再始動手段によって該エンジンが自動停止している間は該排気系温度指標値推定手段により推定された該排気系温度指標値を減算補正する温度指標値補正手段と、
該フィードバック噴射制御実行手段および該オープンループ噴射制御実行手段を制御する噴射制御モード選択手段と、
該自動停止再始動手段により該エンジンが自動再始動され且つ該温度指標値補正手段によって補正された該排気系温度指標値が排気系温度閾値を上回っている場合に、該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定するセンサ活性判定手段とを備え、
該噴射制御モード選択手段は、
該自動停止再始動手段により該エンジンが自動再始動されると、
該センサ活性判定手段により該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定された場合、該フィードバック噴射制御実行手段による該フィードバック噴射制御を実行させ、
該センサ活性判定手段により該排ガス空燃比センサは活性状態にあると判定されなかった場合、該オープンループ噴射制御実行手段による該オープンループ噴射制御を実行させる
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
該車両のドライバに操作され該エンジンをマニュアル始動するマニュアル始動手段を備え、
該センサ活性判定手段は、
該マニュアル始動手段により該エンジンがマニュアル始動されると、該排ガス空燃比センサからの検出結果に基づいて該排ガス空燃比センサが活性状態にあるか否かを判定する
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
該センサ活性判定手段は、
該エンジンが該自動停止再始動手段により自動再始動されたか或いは該マニュアル始動手段によりマニュアル始動されたかに関わらず、該排ガス空燃比センサが活性状態にあると判定した後、
該排ガス空燃比センサからの出力電圧が第1判定期間に亘って閾値電圧未満である場合に、該排ガス空燃比センサは不活性状態にあると判定する
ことを特徴とする、請求項2記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185385(P2010−185385A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30522(P2009−30522)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】