説明

エンジンの始動制御装置

【課題】エンジン停止中の給油後にエンジン始動する場合に、始動性能を確保するとともにエミッションの悪化を抑制できるエンジンの燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料タンク45内の燃料が燃料配管42、46を介して供給される燃料噴射弁41を備え、燃料の燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定して燃料噴射弁41から燃料を噴射するエンジン100の始動制御装置であって、エンジン運転中に燃料の燃料性状を判定し、その燃料性状を学習値として更新する燃料性状学習手段S102、S103と、エンジン停止中に燃料タンク45内に燃料が給油されたか否かを判定する給油判定手段S112と、給油後最初のエンジン始動の場合に、給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定してエンジン始動する初回始動制御手段S114と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定するエンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンには、軽質燃料や重質燃料などの気化特性(以下「燃料性状」という)の異なる燃料が使用される。この燃料性状の相違に対応するために、燃料性状を検出し、検出された燃料性状に基づいて燃料噴射量を制御するエンジンが広く知られている。しかしながら、エンジン運転中に燃料性状を検出するエンジンでは、エンジン停止時に燃料が給油された場合に、エンジンが始動するまでは給油された燃料の燃料性状を特定することができないという問題があった。
【0003】
特許文献1には、エンジン停止中に燃料が給油されたか否かを判定し、この給油判定の結果に基づいてエンジン始動時の燃料噴射量を決定するエンジンが開示されている。つまり、特許文献1に記載のエンジンでは、エンジン停止中に燃料が給油されたと判定したときに、気化特性の最も悪い重質燃料に適合するように燃料噴射量を軽質燃料の場合よりも増量してエンジン始動する。これにより、エンジン停止時に給油された燃料の燃料性状にかかわらず、エンジンの始動性能や運転性能を確保することができる。
【特許文献1】特開平7−286549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン停止時に燃料が給油された場合であっても、燃料噴射弁から燃料パイプの間には給油前の燃料が残存しているので、特許文献1に記載のエンジンのようにエンジン始動したのでは、実際の使用燃料の燃料性状に対応することができない場合がある。つまり、燃料噴射弁などに残存している燃料が気化しやすい軽質燃料である場合に、重質燃料に適合するように燃料噴射制御してエンジン始動したのでは、空燃比がオーバーリッチとなってエミッションが悪化してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、エンジン停止時に給油された場合のエンジン始動において、始動性能を確保するとともに、エミッションの悪化を抑制することができるエンジンの燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、燃料タンク(45)内の燃料が燃料配管(42、46)を介して供給される燃料噴射弁(41)を備え、燃料の燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定して燃料噴射弁(41)から燃料を噴射するエンジン(100)の始動制御装置であって、エンジン運転中に燃料の燃料性状を判定し、その燃料性状を学習値として更新する燃料性状学習手段(S102、S103)と、エンジン停止中に燃料タンク(45)内に燃料が給油されたか否かを判定する給油判定手段(S112)と、給油後最初のエンジン始動の場合に、給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定してエンジン始動する初回始動制御手段(S114)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、給油後初めてのエンジン始動時には、給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定する。そのため、エンジン停止中に燃料が給油され、燃料噴射弁から燃料配管の間には給油前の燃料が残留している場合であっても、エンジンの始動性能を確保することができるとともにエミッションの悪化を抑制することができる。このように燃料噴射弁に残存している給油前の燃料を考慮するため、給油後のエンジン始動毎に重質燃料として燃料噴射量を設定する従来手法と比較して、無駄に燃料を噴射することが低減され、燃費性能が改善する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のエンジンの概略構成図である。
【0011】
エンジン100は、吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射式エンジンであって車両前方に配置される。このエンジン100は、図1に示すようにシリンダヘッド1に吸気ポート2と排気ポート3とを形成する。この吸気ポート2と排気ポート3は、燃焼室4と連通する。
【0012】
吸気ポート2には、吸気マニホールド21が接続する。そして、この吸気マニホールド21には吸気通路22が接続する。
【0013】
吸気通路22は、外部から取り入れた空気を、吸気マニホールド21を介して吸気ポート2に流す。この吸気通路22には、エアフローメータ23と、スロットルバルブ24とが吸気通路上流側から順次配置される。
【0014】
エアフローメータ23は、熱線式のエアフローメータである。このエアフローメータ23は、エンジン100に吸入される吸気の吸気量を検出する。
【0015】
スロットルバルブ24は、エアフローメータ23よりも下流側の吸気通路22に設置される。スロットルバルブ24は、吸気通路22の吸気流通面積を変化させることで、燃焼室4に導入される吸気量を調整する。そして、スロットルバルブ24を通過した吸気は、吸気マニホールド21を介してエンジン100の各気筒に分配される。
【0016】
吸気マニホールド21には、燃料噴射装置40が設置される。この燃料噴射装置40は吸気ポート内に燃料を噴射する装置であって、燃料噴射弁41と、デリバリパイプ42と、プレッシャレギュレータ43と、燃料ポンプ44と、燃料タンク45とを備える。
【0017】
燃料噴射弁41は吸気マニホールド21に設置され、エンジン100の気筒毎に設けられる。燃料噴射弁41に供給される燃料は、燃料タンク45に貯蔵される。燃料タンク45は車両後方に配置される。燃料タンク45に貯蔵された燃料は、燃料タンク内に設けられた燃料ポンプ44から吐出される。吐出された燃料は、車両の床下に配置される燃料パイプ46を通って車両後方から前方に向けて流れ、デリバリパイプ42に供給される。デリバリパイプ42にはプレッシャレギュレータ43が設けられる。プレッシャレギュレータ43は、燃料ポンプ44から圧送された燃料を所定の圧力に調整する。このプレッシャレギュレータ43は、エンジンの吸入負圧と燃料圧力との差圧を一定にすべく、吸入負圧に対して燃料圧力が所定以上に高い場合には、燃料をリターンパイプ47から燃料タンク45に戻して燃料圧力を調整するものである。そして、プレッシャレギュレータ43によって所定の圧力に調整された燃料は、デリバリパイプ42を介して燃料噴射弁41に供給される。燃料噴射弁41は、エンジン運転状態に応じた燃料を吸気マニホールド内に噴射して混合気を形成する。
【0018】
なお、上記した燃料タンク45には、燃料タンク内に蓄えられた燃料量を検出する燃料レベルセンサ48が設置される。
【0019】
一方、排気ポート3には、排気マニホールド31が接続する。この吸気マニホールド31には排気通路32が接続する。排気通路32には、三元触媒33が配置される。三元触媒33よりも上流側の排気通路32には、空燃比センサ34が設置される。空燃比センサ34は、排気通路内を流れる排気中の酸素濃度を検出し、後述するコントローラ50に出力する。
【0020】
また、エンジン100は、吸気ポート2を開閉する吸気バルブ5と、排気ポート3を開閉する排気バルブ6とをシリンダヘッド1に備える。
【0021】
吸気バルブ5は、図示しない吸気カムシャフトによって駆動される。吸気バルブ5が吸気ポート2を開くと、吸気ポート内に形成された混合気が燃焼室4に導入され、導入された混合気は燃焼室上部に設置された点火プラグ7によって点火されて爆発燃焼する。そして、シリンダヘッド1に設置された排気バルブ6が図示しない排気カムシャフトによって駆動され、排気バルブ6が排気ポート3を開くことで燃焼により生じた排気が排気ポート3に排出される。この排気は排気通路32を流れ、三元触媒33によって浄化されて外部に放出される。
【0022】
エンジン100は、燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状を判定したり、燃料性状に基づいて燃料噴射量を制御したりするためにコントローラ50を備える。コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。このコントローラ50には、エアフローメータ23や空燃比センサ34、燃料レベルセンサ48のほか、アクセルペダルセンサ51、イグニッションスイッチ52、クランク角度センサ53などのエンジン運転状態を検出するセンサからの出力信号が入力する。そして、コントローラ50は、上記した各種センサからの検出信号に基づいて燃料性状を判定したり、燃料噴射弁41などを制御したりする。
【0023】
上記のように構成されるエンジン100においては、軽質燃料や重質燃料など燃料性状の異なる燃料が使用されるので、燃料噴射弁41に供給される燃料の燃料性状を空燃比フィードバック補正量に基づいて判定し、その燃料性状に基づいて燃料噴射量を調整する。
【0024】
ところで、エンジン運転中に燃料性状を検出する従来手法のエンジンでは、エンジン停止時に燃料が給油された場合に、エンジンが始動するまでの間は給油された燃料の燃料性状を特定することができない。そのため従来手法のエンジンは、エンジン停止中に燃料が給油されたか否かを判定し、燃料が給油されたと判定したときには、給油された燃料の燃料性状にかかわらず、気化特性の最も悪い重質燃料に適合するように燃料噴射量を軽質燃料の場合よりも増量してエンジンを始動することで、エンジンの始動性能を確保する。
【0025】
しかしながら、エンジン停止時に燃料が給油された場合であっても、燃料噴射弁や燃料パイプの中には給油前の燃料が残存している。そのため、燃料噴射弁などに残存している燃料が気化しやすい軽質燃料である場合に、従来手法のように重質燃料に適合するように燃料噴射制御してエンジン始動したのでは、エンジンの始動性能を確保することができても、空燃比がオーバーリッチとなるのでエミッションが悪化するという問題がある。
【0026】
そこで、本実施形態のエンジン100では、エンジン停止中に燃料が給油された場合に、燃料噴射弁41などに残存している給油前の燃料を考慮して、給油前に学習記憶された燃料性状に基づいて燃料噴射量を決定してエンジン始動することで、始動性能を確保するとともにエミッションの悪化を抑制する。
【0027】
本実施形態のエンジン100のコントローラ50が実行する制御について、図2〜図5を参照して説明する。
【0028】
図2は、燃料性状を判定する制御ルーチンを示すフローチャートである。この制御は、エンジン運転開始ともに実施され、一定周期、例えば10ミリ秒周期でエンジン運転終了まで実施される。
【0029】
ステップS101では、コントローラ50は、エンジン100が暖機後のアイドル運転中か否かを、エアフローメータ23やアクセルペダルセンサ51、クランク角度センサ53などの検出値に基づいて判定する。エンジン100が暖機後のアイドル運転中である場合には、燃料性状を判定すべくステップS102に移る。それ以外の場合には、燃料性状を判定することなく処理を終了する。
【0030】
ステップS102では、コントローラ50は、空燃比センサ34の検出値に応じて空燃比をフィードバック制御するときの空燃比フィードバック補正量に基づいて、燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状fnewを判定し、ステップS103に移る。例えば、燃料が軽質燃料であるとして運転時の燃料噴射量を決定している場合には、フィードバック補正量が基準範囲を超えたときに、現在の燃料の燃料性状fnewは重質燃料であると判定する。同様に、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を決定している場合には、フィードバック補正量が基準範囲を超えたときに、現在の燃料の燃料性状fnewは軽質燃料であると判定する。
【0031】
ステップS103では、コントローラ50は、ステップS102で判定した燃料性状fnewを学習し、燃料性状学習値flearnとして記憶して、処理を終了する。
【0032】
このように本実施形態では、エンジン100が暖機後のアイドル運転中に、燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状fnewを判定し、その燃料性状fnewを学習値flearnとして更新する。このように構成されるエンジン100は、エンジン停止中に燃料が給油された場合に、図3〜図5に示すフローチャートにしたがってエンジン始動する。
【0033】
図3は、エンジン始動時にコントローラ50が実行する制御を示すフローチャートである。この制御は、エンジン始動時に実施される。
【0034】
ステップS111では、コントローラ50は、イグニッションスイッチ52からの出力信号に基づいてエンジン始動要求があるか否かを判定する。
【0035】
イグニッションスイッチ52がオフからオンに切り替わった場合には、エンジン始動要求があると判定し、ステップS112に移る。それ以外の場合には、エンジン始動要求がないと判定して処理を終了する。
【0036】
ステップS112では、コントローラ50は、燃料レベルセンサ48によって検出される燃料量に基づいて、エンジン停止中に燃料タンク内に燃料が給油されたか否かを判定する。
【0037】
エンジン停止後再始動するときの燃料タンク内の燃料量とエンジン停止前の燃料タンク内の燃料量との偏差が所定値よりも大きい場合に、エンジン停止中に燃料が給油されたと判定して、ステップS113に移る。それ以外の場合には、エンジン停止中に燃料が給油されていないと判定して、ステップS116に移る。
【0038】
ステップS113では、コントローラ50は、給油されてから最初のエンジン始動であるか否かを判定する。これは給油後の始動回数をイグニッションスイッチ52からの出力信号に基づいてカウントすることで判定することができ、給油時にはゼロにリセットされる。そして、給油されてから最初のエンジン始動である場合には、ステップS114に移る。これに対して、給油後2回目以降のエンジン始動である場合には、ステップS115に移る。
【0039】
ステップS114では、コントローラ50は初回始動制御を実行する。この初回始動制御の詳細については、図4を参照して後述する。
【0040】
ステップS115では、コントローラ50は初回以降始動制御を実行する。この初回以降始動制御の詳細については、図5を参照して後述する。
【0041】
ステップS116では、コントローラ50は通常始動制御を実行する。この通常始動制御は燃料が給油されていない場合のエンジン始動時に実行される。燃料が給油されていない場合には燃料タンク内の燃料性状に変化はないので、エンジン停止前の燃料性状の学習値flearnに基づいて燃料噴射量が設定される。例えば、エンジン停止前の燃料性状の学習値flearnが重質燃料である場合には、軽質燃料である場合と比較して燃料噴射量を多く設定する。
【0042】
次に、初回始動制御について、図4を参照して説明する。図4は、コントローラ50が実行する初回始動制御を示すフローチャートである。
【0043】
エンジン停止中に給油された後最初のエンジン始動時に、図4に示すように初回始動制御が実施される。
【0044】
ステップS141では、コントローラ50は、燃料タンク内に燃料が給油されてから最初のエンジン始動までの時間が所定時間(例えば3ヶ月)を経過したか否かを判定する。
【0045】
燃料が給油されてから最初のエンジン始動までの時間を計測し、この計測された時間が3ヶ月を経過している場合には、ステップS144に移る。ステップS144では、コントローラ50は燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定し、その燃料噴射量に基づいて燃料噴射弁41から燃料を噴射する。このように給油後、長期間経過してからエンジン始動される場合に、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定するのは、燃料噴射弁41などに残留する燃料や給油された燃料が軽質燃料であっても経時変化によって重質燃料に変化するからである。
【0046】
これに対して、燃料が給油されてから最初のエンジン始動までの時間が3ヶ月を越えていない場合には、ステップS142に移る。
【0047】
ステップS142では、コントローラ50は、ステップS116の通常始動制御と同様に、給油前の燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定し、燃料噴射弁41を制御して燃料を噴射する。
【0048】
給油直後などにエンジン始動する場合には、給油前の燃料の燃料性状と異なる性状の燃料が給油されたとしても、燃料噴射弁41や燃料パイプ46などには給油前の燃料が残留している。そのため、給油された後の1回目のエンジン始動時には、重質燃料として燃料噴射量を設定せずに、給油前の燃料性状学習値flearn、つまり給油前の燃料の燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定する。
【0049】
ステップS142でエンジン始動をした後に、ステップS143において、コントローラ50は、エンジン運転中に消費される燃料の消費量を積算して燃料消費量積算値Sを演算し、処理を終了する。燃料消費量積算値Sは、エンジン運転状態に応じて設定される燃料噴射弁41の燃料噴射パルスに基づいて演算することができる。この燃料消費量積算値Sは、後述する初回以降始動制御において使用される。
【0050】
上記の通り、給油したから最初のエンジン始動時は、燃料噴射弁41などに残存している給油前の燃料を考慮して、基本的に給油前の燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定する。このようにエンジン始動をした後に、エンジン100が暖機状態のアイドル運転状態になると、図2のフローチャートに従って燃料性状fnewが判定され、燃料性状学習値flearnが更新される。しかしながら、燃料噴射弁41などには給油前の燃料が残留しているため、給油後に更新された燃料性状学習値flearnが、給油前の燃料の燃料性状を判定したものなのか、給油後の燃料の燃料性状を判定したものなのかが判別できない。そのため、給油後1回目のエンジン始動時に燃料性状学習値flearnが更新されてエンジンが停止し、その後エンジンを再始動する場合に初回始動制御と同様に燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定するのでは、始動性能やエミッションが悪化することがある。
【0051】
例えば、給油前の燃料が軽質燃料であって、給油された燃料が重質燃料である場合において、給油後1回目のエンジン始動をして、そのエンジン運転中に給油前の燃料性状(軽質燃料)を学習したとする。その後燃料性状を判定する機会がなく、給油前の軽質燃料が全て消費されて給油後の重質燃料に切り替わった状態でエンジン100が停止した場合には、給油後2回目以降のエンジン始動時に初回始動制御と同様の制御でエンジン始動すると、実際の燃料は重質燃料であるにもかかわらず、燃料性状学習値flearnに基づいて軽質燃料として燃料噴射量を設定することとなって、燃料噴量が足りずに始動性能が悪化してしまう。
【0052】
そこで、給油後2回目以降のエンジン始動では、給油後に燃料性状学習値flearnが更新されている場合に、その更新された学習値flearnが給油前の燃料の燃料性状であるのか、給油後の燃料の燃料性状であるのかを判定し、その結果にしたがって燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定して、始動性能とエミッションの悪化を抑制する。
【0053】
この給油後2回目以降のエンジン始動時に実施される初回以降始動制御について、図5を参照して説明する。図5は、コントローラ50が実行する初回以降始動制御を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS151では、コントローラ50は、給油後に燃料性状学習値flearnが更新されたか否かを判定する。給油後に燃料性状学習値flearnが更新された場合には、更新された燃料性状学習値flearnが給油前の燃料の燃料性状であるか、給油後の燃料の燃料性状であるかを判定すべくステップS152に移る。それ以外の場合にはステップS154に移る。
【0055】
ステップS152では、コントローラ50は、給油後に燃料性状学習値flearnが更新されたときの燃料消費量積算値Sが所定値S0よりも大きいか否かを判定する。ここで、基準となる所定値S0は、燃料噴射弁41とデリバリパイプ42と燃料パイプ46の容量から決定されるものであって、例えば各容量の和に基づいて設定される。
【0056】
燃料消費量積算値Sが所定値S0よりも大きい場合には、燃料噴射弁41などに残留していた給油前の燃料が全て消費された後に、給油後の燃料の燃料性状が判定されて燃料性状学習値flearnが更新されたとして、ステップS153に移る。これに対して、燃料消費量積算値Sが所定値S0よりも小さい場合には、給油前の燃料の燃料性状が判定されて燃料性状学習値flearnが更新されたとして、ステップS154に移る。
【0057】
ステップS153では、コントローラ50は、給油後に更新された燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定する。そして、コントローラ50は、設定された燃料噴射量で燃料を噴射するように燃料噴射弁41を制御し、エンジン100を始動して処理を終了する。エンジン始動時に燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状と燃料性状学習値flearnによる燃料性状とは一致するので、燃料性状学習値flearnに基づいて燃料噴射量を設定して燃料噴射をしても、エンジン100の始動性能やエミッションが悪化することがない。
【0058】
ステップS154では、コントローラ50は、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定し、燃料噴射弁41を制御して燃料を噴射して、エンジン始動する。
【0059】
給油後に燃料性状学習値が更新されていない場合(S151でNo)や、給油前の燃料の燃料性状を学習している場合(S152でNo)には、エンジン始動時に燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状と燃料性状学習値flearnによる燃料性状とは必ずしも一致しない。このような場合には、重質燃料に適合するように燃料噴射量を設定することで、始動性能や運転性能を優先してエンジン100を始動する。
【0060】
ステップS155では、コントローラ50は、ステップS154でのエンジン始動後、燃料消費量積算値Sを前回始動時から引続き演算して処理を終了する。
【0061】
以上により、第1実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0062】
エンジン停止中に燃料が給油された場合であっても、燃料噴射弁41から燃料パイプ46の間には給油前の燃料が残留しているので、エンジン100では給油後初めてのエンジン始動時には給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定する。そのため給油後1回目のエンジン始動時において、始動性能を確保することができるとともに、エミッションの悪化を抑制することができる。また、エンジン100では、燃料噴射弁41に残存している給油前の燃料を考慮するので、従来手法のように給油後のエンジン始動のたびに重質燃料として燃料噴射量を設定することがなく、無駄に燃料を噴射することが低減され、燃費性能も改善できる。
【0063】
また、給油後初めてのエンジン始動時において、燃料が燃料タンク内に給油されてから長期間経過した後にエンジン始動が始動される場合には、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定する。そのため燃料噴射弁41などに残留する燃料や給油された燃料が経時変化によって重質燃料に変化した場合であっても、エンジン始動時の始動性を確保することができるとともに、エミッションの悪化を抑制することができる。
【0064】
さらに、給油後2回目以降のエンジン始動であって、給油後に燃料性状学習値が更新されているときには、学習値更新時における燃料消費量積算値Sが所定値S0よりも大きく、給油後の燃料の燃料性状を学習したと判定した場合に限り、燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定する。そのため給油後2回目以降のエンジン始動においても、エンジン始動時の始動性能を確保することができるとともに、エミッションの悪化を抑制することができる。
【0065】
(第2実施形態)
第2実施形態のエンジン100は、第1実施形態とほぼ同様であるが、エンジン運転中の燃料性状判定の仕方において一部相違する。つまり、エンジン始動直後の回転速度変化度合に基づいて燃料性状を判定するようにしたもので、以下にその相違点を中心に説明する。
【0066】
図6は、第2実施形態における燃料性状判定の制御ルーチンを示すフローチャートである。この制御は、エンジン運転開始ともに実施される。
【0067】
ステップS201では、コントローラ50は、エンジン始動直後の所定期間内か否かを判定する。この所定期間は、エンジン始動時において最初の気筒に燃料を噴射してから他の気筒に順番に燃料を噴射して一巡するまでの期間である。そして、エンジン始動直後の所定期間である場合には燃料性状を判定すべくステップS202に移り、そうでない場合には燃料性状を判定することなく処理を終了する。
【0068】
このような所定期間内に燃料性状を判定するのは、エンジン始動直後においてはエンジン温度が比較的低く、重質燃料と軽質燃料との気化特性の差が大きくなるため、燃料の燃料性状を特定しやすいからである。
【0069】
ステップS202では、コントローラ50は、気筒毎にエンジン回転速度変化度合ΔWを演算してステップS203に移る。エンジン回転速度変化度合ΔWは、膨張行程での最大角速度と圧縮上死点時の角速度との差から演算される角加速度である。なお、エンジン回転速度変化度合ΔWに使用される角速度は、クランク角度センサ53の出力信号に基づいて算出される。
【0070】
ステップS203では、コントローラ50は、エンジン回転速度変化度合ΔWに基づいて燃料性状fnewを判定し、ステップS204に移る。
【0071】
例えば燃料噴射弁41から噴射される燃料が気化しにくい重質燃料であると、燃料噴射弁41から噴射された重質燃料の一部は吸気ポート内に壁流として残る。したがって、この重質燃料を軽質燃料と同量だけ噴射したとしても、重質燃料の場合には軽質燃料の場合よりも吸気に対する燃料の割合(混合気濃度)が低下する。そのため、燃料噴射弁41から噴射される燃料が重質燃料である場合には、軽質燃料を噴射する場合よりも膨張行程での最大角速度や圧縮上死点時の角速度が低下し、これによりエンジン回転速度変化度合ΔWも低下する。
【0072】
そこで本実施形態では、燃料性状に起因して変化するエンジン回転速度変化度合ΔWに基づいて、燃料が重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。つまり、演算された各気筒のエンジン回転速度変化度合ΔWの一つが所定値ΔW0よりも大きい場合に、燃料噴射弁41から噴射されている燃料は軽質燃料であると判定する。これとは逆に、各気筒のエンジン回転速度変化度合ΔWの全てが所定値ΔW0よりも小さい場合に、燃料噴射弁41から噴射されている燃料は重質燃料であると判定する。
【0073】
ステップS204では、コントローラ50は、ステップS203で判定した燃料性状fnewを学習し、燃料性状学習値flearnとして記憶して処理を終了する。このように本実施形態では、エンジン始動直後の所定期間内に、エンジン回転速度変化度合ΔWに基づいて燃料噴射弁41から噴射される燃料の燃料性状fnewを判定し、その燃料性状fnewを学習値flearnとして更新する。
【0074】
そして、上記のように構成されるエンジン100は、エンジン停止中に燃料が給油された場合に、第1実施形態と同様に図3〜図5に示すフローチャートにしたがってエンジン始動する。
【0075】
以上により、第2実施形態のエンジン100では、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第1実施形態のエンジンの概略構成図である。
【図2】燃料性状を判定する制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】エンジン始動時に実行される制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】初回始動制御を示すフローチャートである。
【図5】初回以降始動制御を示すフローチャートである。
【図6】第2実施形態の燃料性状判定の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
100 エンジン
23 エアフローメータ
34 空燃比センサ
41 燃料噴射弁
42 デリバリパイプ(燃料配管)
43 プレッシャレギュレータ
44 燃料ポンプ
45 燃料タンク
46 燃料パイプ(燃料配管)
47 リターンパイプ
48 燃料レベルセンサ
50 コントローラ
51 アクセルペダルセンサ
52 イグニッションスイッチ
53 クランク角度センサ
S101〜S103、S201〜S204 燃料性状学習手段
S112 給油判定手段
S114 初回始動制御手段
S143、S155 燃料消費量積算値算出手段
S115 初回以降始動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料が燃料配管を介して供給される燃料噴射弁を備え、燃料の燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定して前記燃料噴射弁から燃料を噴射するエンジンの始動制御装置であって、
エンジン運転中に燃料の燃料性状を判定し、その燃料性状を学習値として更新する燃料性状学習手段と、
エンジン停止中に前記燃料タンク内に燃料が給油されたか否かを判定する給油判定手段と、
給油後最初のエンジン始動の場合に、給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定してエンジン始動する初回始動制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
給油後のエンジン運転中に消費された燃料の燃料消費量積算値を算出する燃料消費量積算値算出手段と、
給油後2回目以降のエンジン始動であって、給油後に燃料性状学習値が更新されている場合には、学習値更新時における燃料消費量積算値が積算所定値よりも大きいときに、更新した燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定してエンジン始動する初回以降始動制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
前記初回以降始動制御手段は、学習値更新時における燃料消費量積算値が積算所定値よりも小さいときに、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定してエンジン始動する、
ことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項4】
前記燃料消費量積算値算出手段は、エンジン運転状態に応じて設定される燃料噴射パルスに基づいて燃料消費量積算値を算出する、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項5】
前記積算所定値は、前記燃料噴射弁から前記燃料配管の間の容量に基づいて設定される、
ことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか一つに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項6】
前記初回始動制御手段は、給油してから所定期間を経過した後にエンジン始動をするときに、燃料が重質燃料であるとして燃料噴射量を設定してエンジン始動する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項7】
前記燃料性状学習手段は、エンジン暖機後のアイドル運転中に、空燃比のフィードバック補正量に基づいて燃料性状を判定する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一つに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項8】
前記燃料性状学習手段は、エンジン始動直後の所定期間内に、エンジン回転速度変化度合に基づいて燃料性状を判定する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一つに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項9】
前記エンジン回転速度変化度合は、少なくとも一つの気筒についての、膨張行程での最大角速度と圧縮上死点時の角速度との差である、
ことを特徴とする請求項8に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項10】
前記エンジン始動直後の所定期間は、エンジン始動時において最初の気筒に燃料を噴射してから他の気筒に順番に燃料を噴射して一巡するまでの期間である、
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項11】
燃料タンク内の燃料が燃料配管を介して供給される燃料噴射弁を備え、燃料の燃料性状に基づいて燃料噴射量を設定して前記燃料噴射弁から燃料を噴射するエンジンの始動制御方法であって、
エンジン運転中に燃料の燃料性状を判定し、その燃料性状を学習値として更新する燃料性状学習工程と、
エンジン停止中に前記燃料タンク内に燃料が給油されたか否かを判定する給油判定工程と、
給油後最初のエンジン始動の場合に、給油前の燃料性状学習値に基づいて燃料噴射量を設定してエンジン始動する初回始動制御工程と、
を備えることを特徴とするエンジンの始動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−156056(P2009−156056A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332230(P2007−332230)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】