説明

エンジンの排気浄化装置

【課題】尿素SCRシステムにおいて尿素から派生する化合物の結晶が排気通路内で尿素水の十分な分散を図るためのミキシング部材に付着することによる排気抵抗増加の問題ひいてはそれに伴う出力性能低下の問題を抑制する。
【解決手段】排気通路3の尿素水供給手段13と選択還元触媒16との間に尿素水供給手段13で供給された尿素水と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシング部材15を備える。ミキシング部材15の直上流と直下流との差圧を検出する第2差圧センサ22を備え、このセンサ22で検出された差圧が所定値以上となったとき排気ガスの温度を上昇させる。これにより、ミキシング部材15に付着した化合物の結晶が溶融除去され、ミキシング部材15の開口が再び広くなり、排気通路3内の排気抵抗の増加が低減し、エンジン1のトルク性能ひいては出力性能低下の問題が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置、特に、エンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物の低減を図るエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を低減する技術として尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムが知られている。これは、エンジンの排気通路に、NOxを選択還元する選択還元触媒を配設し、この選択還元触媒の上流に、排気通路内に尿素水を噴射する尿素水噴射ノズルを配設したもので、このノズルから排気通路内に噴射された尿素水が排気ガスの熱により熱分解又は加水分解してアンモニアが生成し、このアンモニアが選択還元触媒に吸着されて、排気ガス中のNOxと脱硝反応を起こし、NOxを窒素(N)と水(HO)とに還元するようにしたものである。
【0003】
その場合に、前記尿素水噴射ノズルから噴射された尿素水が排気通路内で十分に分散しないと、この尿素水から生成するアンモニアが偏って選択還元触媒に吸着され、その結果、アンモニア濃度の高い部分では余剰のアンモニアが大気中に排出されるアンモニアスリップの問題が起き、一方、アンモニア濃度の低い部分ではNOxの浄化性能が低下してNOx排出量の低減が不十分となる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されるように、尿素水噴射ノズルと選択還元触媒との間の排気通路に、前記ノズルから噴射された尿素水と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシング部材を配設することが提案される。このミキシング部材は、例えば、排気通路の断面積より小さい断面積の開口が形成された仕切板で構成され、排気ガスがこの仕切板に衝突して開口を通過することにより排気ガスの流れが乱れ、その結果、排気ガス中に噴射された尿素水と排気ガスとが攪拌されて尿素水が排気ガス中で十分に分散することとなる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−232218(段落0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者等は、尿素水噴射ノズルから噴射された尿素水中の尿素から派生してできたと考えられる化合物の結晶がミキシング部材に付着する場合があることを見出した。この結晶は、尿素水噴射ノズルから噴射された尿素水中の尿素が最初に熱分解反応を起こして生成するイソシアン酸が3分子集まってできたシアヌル酸の結晶であろうと考えられる。このような結晶の付着が進めば、ミキシング部材に形成された開口が塞がれて狭くなり、排気通路内の排気抵抗が増加して、エンジンのトルク性能ひいては出力性能の低下をもたらすという問題が生じる。
【0007】
本発明は、排気ガス中のNOxを低減する尿素SCRシステムにおいて、排気通路内での尿素水の十分な分散を図るためのミキシング部材を備えた場合の前記不具合に対処するもので、尿素から派生する化合物の結晶がミキシング部材に付着することによる排気抵抗増加の問題、ひいてはそれに伴う出力性能低下の問題を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。
【0009】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの排気通路に配設され、排気ガス中のNOxを選択還元する選択還元触媒と、この選択還元触媒の上流の排気通路に尿素還元剤を供給する尿素還元剤供給手段と、この尿素還元剤供給手段と前記選択還元触媒との間の排気通路に配設され、前記尿素還元剤供給手段で供給された尿素還元剤と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシング部材とを有するエンジンの排気浄化装置であって、前記ミキシング部材の直上流と直下流との差圧を検出する差圧検出手段と、この差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったとき、排気ガスの温度を上昇させる排気ガス温度上昇手段とが備えられていることを特徴とする。
【0010】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置であって、前記尿素還元剤供給手段の上流の排気通路に配設され、排気ガス中の微粒子を捕集するためのフィルタ部材と、このフィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値以上となったとき、排気ガスの温度を上昇させることにより、前記フィルタ部材に堆積した微粒子を燃焼除去するフィルタ再生手段とが備えられ、前記排気ガス温度上昇手段は、このフィルタ再生手段で構成されると共に、前記排気ガス温度上昇手段は、前記差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったときは、前記フィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値未満であっても、排気ガスの温度を上昇させることを特徴とする。
【0011】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置であって、前記フィルタ部材の上流の排気通路に酸化触媒が備えられ、前記フィルタ再生手段は、エンジンで燃料を後噴射し、この後噴射した燃料を前記酸化触媒で酸化燃焼させることにより、排気ガスの温度を上昇させるものであることを特徴とする。
【0012】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置であって、前記排気ガス温度上昇手段は、排気ガスの温度が、前記尿素還元剤供給手段で供給された尿素還元剤から生成され、前記ミキシング部材に付着した化合物の結晶の溶融温度に達していないときに、排気ガスの温度を上昇させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
まず、請求項1に記載の発明によれば、尿素還元剤(尿素水)と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシング部材が、尿素還元剤供給手段(尿素水噴射ノズル)と選択還元触媒との間の排気通路に配設された構成の尿素SCRシステムにおいて、前記ミキシング部材の直上流と直下流との差圧を検出する差圧検出手段を設けたから、この差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったときは、前記ミキシング部材に付着した化合物の結晶の量が所定値以上となったと判断できる。そして、そのようなときは、排気ガスの温度を上昇させるようにしたから、ミキシング部材に付着した化合物の結晶が溶融して除去され、これにより、塞がれていたミキシング部材の開口が再び広くなり、排気通路内の排気抵抗の増加が低減して、エンジンのトルク性能ひいては出力性能低下の問題が解消されることとなる。
【0014】
次に、請求項2に記載の発明によれば、尿素還元剤供給手段の上流の排気通路に配設されたフィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値以上となったときに、排気ガスの温度を上昇させることによって、前記フィルタ部材に堆積した微粒子を燃焼除去するフィルタ再生手段が備えられている場合に、このフィルタ再生手段を用いて、ミキシング部材に付着した化合物の結晶を溶融除去するための排気ガスの温度上昇を行わせるようにしたから、車載設備の兼用が図られ、車載設備の複雑化が免れることとなる。
【0015】
しかも、その場合に、前記差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったときは、前記フィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値未満であっても、排気ガスの温度上昇を行わせるようにしたから、フィルタ部材に堆積した微粒子の燃焼除去に加えて、ミキシング部材に付着した結晶の溶融除去が、相互に干渉されずに、確実に実行されることとなる。
【0016】
次に、請求項3に記載の発明によれば、フィルタ部材の上流の排気通路に酸化触媒が備えられている場合に、前記フィルタ再生手段は、エンジンで燃料を後噴射し、この後噴射した燃料を前記酸化触媒で酸化燃焼させることによって、排気ガスの温度を上昇させるものとしたから、フィルタ部材に堆積した微粒子の燃焼除去や、ミキシング部材に付着した結晶の溶融除去のために、例えばヒータやバーナ等の専用設備を追加装備して排気ガスの温度を上昇させる必要がなくなる。
【0017】
次に、請求項4に記載の発明によれば、排気ガスの温度が、尿素還元剤から生成した化合物の結晶の溶融温度に達していないときに、排気ガスの温度を上昇させるようにしたから、換言すれば、排気ガスの温度が、尿素還元剤から生成した化合物の結晶の溶融温度に達しているときは、排気ガスの温度を上昇させないようにしたから、無駄な排気ガスの温度上昇が回避されて、排気系の熱劣化の問題や、エネルギコストの問題(ヒータやバーナを使う場合)、あるいは燃費の悪化の問題(燃料を後噴射する場合)等が抑制されることとなる。
【0018】
ここで、排気ガスの温度が化合物の結晶の溶融温度に達しているか否かは、直接排気ガスの温度を検出することの他、エンジン回転数やエンジン負荷等からも判定することができる。例えば、シアヌル酸の結晶の融点は、およそ360℃であり、エンジン回転数やエンジン負荷が相対的に小さい中回転以下あるいは中負荷以下では排気ガスの温度が360℃以上に達していないと判定できる。以下、発明の最良の実施形態を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本実施形態に係るエンジン1の排気浄化装置10の全体構成図である。エンジン1はディーゼルエンジンであって、吸気通路2、排気通路3、排気ガスの一部を吸気側へ還流するEGR通路4、及び該EGR通路4上のEGRバルブ5を備えている。
【0020】
排気通路3上には、上流側から、排気ガス中の未燃燃料を酸化燃焼するための酸化触媒11、排気ガス中の微粒子(パティキュレート)を捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)12、尿素水タンク14から供給される尿素水を排気通路3内に噴射するための尿素水噴射ノズル13、このノズル13から噴射された尿素水と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシングプレート15、排気ガス中のNOxを選択還元するSCR触媒16、及び、前記ノズル13から噴射された尿素水から生成したアンモニアの余剰分が大気中に放出されるのを防ぐためのアンモニア酸化触媒17が、この順に配設されている。
【0021】
排気通路3には、さらに、DPF12の直上流と直下流との差圧を検出する第1差圧センサ21、ミキシングプレート15の直上流と直下流との差圧を検出する第2差圧検出センサ22、ミキシングプレート15に流れ込む排気ガスの温度を検出するために尿素水噴射ノズル13の直上流に配設された排気ガス温度センサ23、及びSCR触媒16の直下流のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサ24が備えられている。
【0022】
ここで、第1差圧センサ21で検出される差圧(第1差圧)が所定値以上のときは、DPF12に堆積した微粒子の量が所定値以上となったことを表すもので、そのようなときは、DPF12に堆積した微粒子を燃焼除去してDPF12を再生する必要がある。
【0023】
一方、第2差圧センサ22で検出される差圧(第2差圧)が所定値以上のときは、ミキシングプレート15に付着した化合物の結晶(尿素から派生したもの:後述する)の量が所定値以上となったことを表すもので、そのようなときは、ミキシングプレート15に付着した化合物の結晶を溶融除去してミキシングプレート15が排気通路3に配設されたことによる排気抵抗の増加を低減する必要がある(便宜上、これをミキシングプレート15の清掃という)。
【0024】
本実施形態に係る排気浄化装置10は、特に、エンジン1の排気ガスに含まれる窒素酸化物を低減するための尿素SCRシステムでなり、その浄化反応機序は、およそ次の通りである。
【0025】
まず、尿素水噴射ノズル13から噴射された尿素水中の尿素は、次の反応式(化1)に示すように、排気ガスの熱により熱分解反応を起こして、アンモニア及びイソシアン酸を生成する。この熱分解反応は、およそ135℃以上で開始し、主に尿素水噴射ノズル13からSCR触媒16までの区間内で起きる。
【化1】

【0026】
また、尿素水噴射ノズル13から噴射された尿素水中の尿素、及び、熱分解反応で生成したイソシアン酸は、次の反応式(化2、化3)に示すように、加水分解反応を起こして、それぞれアンモニア及び二酸化炭素を生成する。この加水分解反応は、およそ160℃以上で開始し、主に尿素水噴射ノズル13からSCR触媒16までの区間内で起きる。
【化2】

【化3】

【0027】
そして、尿素から生成したアンモニアは、次の反応式(化4)に示すように、NO及びNOと脱硝反応を起こして、これらの窒素酸化物を窒素及び水に還元する。この還元反応は、およそ200℃以上で開始し、主にSCR触媒16内で起きる。
【化4】

【0028】
また、尿素から生成したアンモニアは、次の反応式(化5)に示すように、酸素の存在下、NOと脱硝反応を起こして、この窒素酸化物を窒素及び水に還元する。この還元反応は、およそ200℃以上で開始し、主にSCR触媒16内で起きる。
【化5】

【0029】
ここで、前記反応式(化4)と前記反応式(化5)とをまとめると、次の反応式(化6)のようになる。つまり、排気ガス中のNOの濃度とNOの濃度との比は、1:1が最も反応速度が大きく効率がよいことが判る。
【化6】

【0030】
なお、還元反応にあずからなかった余剰のアンモニアは、次の反応式(化7)に示すように、酸素の存在下、窒素及び水に分解される。この酸化反応は、アンモニア酸化触媒17内で起きる。
【化7】

【0031】
図2に、本実施形態で採用可能なミキシングプレート15の具体的構成の1例を示す。図示したように、ミキシングプレート15は、排気通路3を横断するように接続された仕切板本体部15aを有し、この仕切板本体部15aの一部(図例では扇形の4箇所の部分)15bが切り込まれて下流側に曲り折げ加工されることにより、仕切板本体部15aに排気通路3の断面積より小さい断面積の開口15cが形成された構造である。
【0032】
これにより、図2(b)に矢印で示したように、排気通路3を上流から流れてきた排気ガスがこのミキシングプレート15に衝突して開口15cを通過することにより排気ガスの流れが乱れ、その結果、上流で排気ガス中に噴射された尿素水と排気ガスとが攪拌されて尿素水が排気ガス中で十分に分散することとなる。
【0033】
このように、ミキシングプレート15は、排気通路3内での尿素水の十分な分散を図ることができるが、排気ガスの乱流度を増すために、開口15cの断面積が小さくされたり、折り曲げ部分15bの傾斜が緩くされている。したがって、ミキシングプレート15は、排気通路3内における排気ガスの流れの抵抗となり、排気圧力を上昇させるので、エンジン1のトルク性能ひいては出力性能を低下させる可能性がある。
【0034】
しかも、本発明者等の知見によれば、尿素水噴射ノズル13から噴射された尿素水中の尿素から派生してできたと考えられる化合物の結晶がミキシングプレート15に付着する場合のあることがわかっている。このような結晶の付着が進めば、ミキシングプレート15に形成された開口15cが塞がれてさらに狭くなり、ミキシングプレート15による排気抵抗の増加がより増長され、それに伴い出力性能の低下もより増長されることとなる。そして、ミキシングプレート15がそのような状態になったことは、第2差圧センサ42で検出される第2差圧が所定値以上となったことで判定可能である。
【0035】
なお、ミキシングプレート15に付着する化合物の結晶は、尿素水噴射ノズル13から噴射された尿素水中の尿素が最初に熱分解反応を起こして生成するイソシアン酸(化1参照)が3分子集まってできたシアヌル酸の結晶であろうと考えられる。このシアヌル酸の結晶の融点は、およそ360℃であるが、エンジン負荷やエンジン回転数が相対的に小さい中回転以下あるいは中負荷以下の運転が続くと、排気ガスの温度が360℃以上に達せず、その結果、結晶が溶融せずにミキシングプレート15に付着し堆積してしまうのである。
【0036】
図3に示すように、この排気浄化装置10のコントロールユニット50は、前記第1差圧センサ21からの信号、前記第2差圧センサ22からの信号、前記排気ガス温度センサ23からの信号、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ31からの信号、及び、吸気通路2を通過する吸入空気量を検出する吸入空気量センサ32からの信号等を入力し、その結果に応じて、前記尿素水噴射ノズル13、及びエンジン1の燃料噴射弁33等へ制御信号を出力する。
【0037】
図4は、この排気浄化装置10のコントロールユニット50が行う具体的制御動作の1例を示すフローチャートである。
【0038】
まず、ステップS1で、各種信号を読み込み、ステップS2で、メイン噴射(エンジン1において圧縮工程上死点付近で行う燃料噴射)の燃料噴射量を例えば吸入空気量に応じて演算する。
【0039】
次いで、ステップS3で、第1差圧センサ21で検出される第1差圧が所定値β未満か否かを判定する。ここで、図5に示すように、所定値βは、略ゼロに近い、極小さい値に設定されている。つまり、DPF12に微粒子がほとんど堆積していないことを確認するのである。
【0040】
その結果、NOのとき、つまり、第1差圧センサ21で検出される第1差圧が所定値β以上のときは、ステップS4で、第1差圧センサ21で検出される第1差圧が所定値α以上か否かを判定する。ここで、図5に示すように、所定値αは、所定値βよりも大きい値に設定されている。つまり、DPF12に微粒子が相当量堆積しており、DPF12の再生を行う必要があるか否かを判定するのである。
【0041】
その結果、YESのとき、つまり、DPF12の再生を行う必要があるときは、ステップS5で、再生フラグの値を1にセットしたうえで、ステップS6で、ポスト噴射(後噴射)を設定する。すなわち、エンジン1において燃料をメイン噴射の後の例えば排気工程で後噴射し、この後噴射した燃料をDPF12の上流の酸化触媒11で酸化燃焼させることにより、排気ガスの温度を上昇させ、これにより、DPF12に堆積した微粒子を燃焼除去してDPF12の再生を図るのである。
【0042】
その後、ステップS7で、燃料噴射を実行してリターンする。この場合、燃料噴射は、ステップS2で演算したメイン噴射量及びステップS6で設定した後噴射に係る噴射量を含んだ燃料噴射となる。
【0043】
これに対し、ステップS4でNOのときは、ステップS8で、再生フラグの値が1か否かを判定する。その結果、YESのとき、つまり、DPF12の再生を実行中のときは、ステップS6に進み、NOのとき、つまり、DPF12の再生を実行中でないときは、ステップS9に進む。一方、ステップS3でYESのときも、ステップS9に進む。
【0044】
ステップS9では、再生フラグの値を0にリセットする。その後、ステップS10で、排気ガス温度センサ23で検出された排気ガス温度(より詳しくはミキシングプレート15に流れ込んでいる排気ガス温度)が所定温度A未満か否かを判定する。ここで、所定温度Aは、ミキシングプレート15に付着した結晶の溶融温度(例えば結晶がシアヌル酸の場合、その融点の360℃)に設定されている。
【0045】
その結果、YESのとき、つまり、ミキシングプレート15に付着した結晶を溶融除去するために排気ガス温度を上昇させる必要があるときは、ステップS11で、第2差圧センサ22で検出される第2差圧が所定値γ以上か否かを判定する。ここで、図5に示すように、所定値γは、最小所定値minよりも大きい値に設定されている。つまり、ミキシングプレート15に尿素から生成した化合物の結晶が相当量付着しており、ミキシングプレート15の清掃を行う必要があるか否かを判定するのである。
【0046】
その結果、YESのとき、つまり、ミキシングプレート15の清掃を行う必要があるときは、ステップS12で、ポスト噴射を所定時間tの間設定する。ここで、図5に示すように、所定時間tは、ミキシングプレート15に付着した結晶が溶融除去されるのに十分な値に設定されている。すなわち、エンジン1において燃料をメイン噴射の後の例えば排気工程で後噴射し、この後噴射した燃料をミキシングプレート15の上流の酸化触媒11で酸化燃焼させることにより、排気ガスの温度を上昇させ、これにより、ミキシングプレート15に付着した結晶を溶融除去してミキシングプレート15の清掃を図るのである。
【0047】
その後、ステップS7で、燃料噴射を実行してリターンする。この場合、燃料噴射は、ステップS2で演算したメイン噴射量及びステップS12で設定した後噴射に係る噴射量を含んだ燃料噴射となる。
【0048】
一方、ステップS10でNOのとき、つまり、ミキシングプレート15に流れ込んでいる排気ガス温度がミキシングプレート15に付着した結晶の溶融温度A以上であって、ミキシングプレート15に付着した結晶を溶融除去するために排気ガス温度を上昇させる必要がないときは、ステップS13で、ポスト噴射を非設定とする(たとえ前記所定時間t内であってもポスト噴射を停止する)。
【0049】
その後、ステップS7で、燃料噴射を実行してリターンする。この場合、燃料噴射は、ステップS2で演算したメイン噴射量のみを含んだ燃料噴射となる。
【0050】
また、ステップS11でNOのとき、つまり、ミキシングプレート15の清掃を行う必要がないときも、ステップS13で、ポスト噴射を非設定とする(ただし前記所定時間t内はポスト噴射を続行する)。
【0051】
その後、ステップS7で、燃料噴射を実行してリターンする。この場合、燃料噴射は、ステップS2で演算したメイン噴射量のみを含んだ燃料噴射となる(ただし前記所定時間t内はステップS2で演算したメイン噴射量及びステップS12で設定した後噴射に係る噴射量を含んだ燃料噴射となる)。
【0052】
以上のような制御の結果、図5に示すように、DPF12での微粒子の堆積量を代表する第1差圧、及びミキシングプレート15での結晶の付着量を代表する第2差圧は、時間の経過に連れて、増加減少を繰り返すこととなる。
【0053】
例えば、符号アで示したように、第1差圧が所定値αまで増加すると(ステップS4でYES)、再生フラグの値が1にセットされて(ステップS5)、ポスト噴射が実行され(ステップS6,S7)、DPF12の再生が開始されることとなる。このとき、第1差圧が減少するばかりでなく、昇温された排気ガスがミキシングプレート15にも流れ込むから(酸化触媒11がDPF12及びミキシングプレート15の両方に対して上流にあるから:図1参照)、ミキシングプレート15に付着した結晶の溶融除去も同時に起こって、第2差圧も減少することとなる。そして、このDPF12の再生は、第1差圧が所定値βまで減少した時点で終了する。
【0054】
一方、符号イで示したように、第2差圧が所定値γまで増加すると(ステップS11でYES)、ポスト噴射が実行され(ステップS12,S7)、ミキシングプレート15の清掃が開始されることとなる。このとき、第2差圧が減少するばかりでなく、昇温された排気ガスがDPF12にも流れ込むから(酸化触媒11がDPF12及びミキシングプレート15の両方に対して上流にあるから:図1参照)、DPF12に付着した微粒子の燃焼除去も同時に起こって、第1差圧も減少することとなる。そして、このミキシングプレート15の清掃は、所定時間tが経過した時点で終了する。
【0055】
このように、本実施形態に係るエンジン1の排気浄化装置10は、尿素水噴射ノズル13から噴射された尿素水と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシングプレート15が、尿素水噴射ノズル13とSCR触媒16との間の排気通路3に配設された構成の尿素SCRシステムでなる。そして、ミキシングプレート15の直上流と直下流との差圧を検出する第2差圧センサ22を設けたから、この第2差圧センサ22で検出された第2差圧が所定値γ以上となったときは(ステップS11でYES)、ミキシングプレート15に付着した化合物の結晶の量が所定値以上となったと判断できる。そして、そのようなときは、ポスト噴射を行って排気ガスの温度を上昇させるようにしたから(ステップS12,S7)、ミキシングプレート15に付着した化合物の結晶が溶融して除去され、これにより、塞がれていたミキシングプレート15の開口が再び広くなり、排気通路3内の排気抵抗の増加が低減して、エンジン1のトルク性能ひいては出力性能低下の問題が解消されることとなる。
【0056】
その場合に、コントロールユニット50は、尿素水噴射ノズル13の上流の排気通路3に配設されたDPF12に堆積した微粒子の量が所定値以上となったときに(ステップS4でYES)、ポスト噴射を行って排気ガスの温度を上昇させることによって(ステップS6,S7)、DPF12に堆積した微粒子を燃焼除去するDPF12の再生を行うようになっている場合に、同様のポスト噴射を行うことによって(ステップS12,S7)、ミキシングプレート15に付着した化合物の結晶を溶融除去するための排気ガスの温度上昇を行うようになっているから、車載設備の兼用が図られ、車載設備の複雑化が免れることとなる。
【0057】
しかも、その場合に、図5からも明らかなように、第2差圧センサ22で検出された第2差圧が所定値γ以上となったときは(ステップS11でYES)、DPF12に堆積した微粒子の量が所定値未満であっても(ステップS4でNO及びステップS8でNO)、排気ガスの温度上昇を行わせるようにしたから(ステップS12,S7)、DPF12に堆積した微粒子の燃焼除去(つまりDPF12の再生)に加えて、ミキシングプレート15に付着した結晶の溶融除去(つまりミキシングプレート15の清掃)が、相互に干渉されずに、確実に実行されることとなる。
【0058】
また、排気ガスの温度が、尿素から生成した化合物の結晶の溶融温度Aに達していないときに(ステップS10でYES)、排気ガスの温度を上昇させるようにしたから(ステップS12,S7)、換言すれば、排気ガスの温度が、尿素から生成した化合物の結晶の溶融温度Aに達しているときは(ステップS10でNO)、排気ガスの温度を上昇させないようにしたから(ステップS13,S7)、無駄な排気ガスの温度上昇が回避されて、排気系の熱劣化の問題や、ポスト噴射による燃費の悪化の問題等が抑制されることとなる。
【0059】
なお、前記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、さらに種々の修正や変更を施してよいことはいうまでもない。例えば、前記実施形態は、DPF12の上流ひいてはミキシングプレート15の上流の排気通路3に酸化触媒11を備え、DPF12の再生時及びミキシングプレート15の清掃時には、エンジン1で燃料を後噴射し、この後噴射した燃料を酸化触媒11で酸化燃焼させることによって、排気ガスの温度を上昇させるようにしたから、DPF12に堆積した微粒子の燃焼除去や、ミキシングプレート15に付着した結晶の溶融除去のために、専用設備を追加装備する必要がないという利点があるが、それに限らず、状況に応じて、例えばヒータやバーナ等の専用設備を追加装備して排気ガスの温度を上昇させるようにしても一向構わない。
【0060】
また、前記実施形態では、ミキシングプレート15の清掃を所定時間tだけ行うようにしたが(ステップS12)、それに限らず、所定値γまで増加した第2差圧が例えば最小所定値minに減少するまで、ミキシングプレート15の清掃を行うようにすることもできる。
【0061】
その場合に、DPF12再生時の排気ガスの上昇温度、ミキシングプレート15清掃時の排気ガスの上昇温度、DPF12の再生時間(所定値α,β)、ミキシングプレート15の清掃時間(所定値γ,min、又は所定時間t)等は、種々の条件に応じて適宜変更してよいものである。
【0062】
また、前記実施形態では、排気ガス温度センサ23を用いて、ミキシングプレート15に流れ込む排気ガスの温度を直接検出することにより、排気ガス温度が、ミキシングプレート15に付着した結晶の溶融温度Aに達しているか否かを判定するようにしたが(ステップS10)、それに限らず、エンジン回転数やエンジン負荷あるいはエンジンの運転領域から、排気ガス温度が結晶の溶融温度Aに達しているか否かを判定することも可能である。例えば、前述したように、中回転以下あるいは中負荷以下の運転領域では、排気ガス温度が、シアヌル酸の結晶の融点である約360℃以上に達していないと判定することが可能である。
【0063】
そして、ミキシングプレート15をバイパスするバイパス通路及び該通路と排気通路3との切替弁を設けておいて、第2差圧が所定値γを超えているのに、走行条件等により排気ガス温度を上昇させることができず、ミキシングプレート15に付着した結晶を溶融除去することが困難な場合には、排気ガスを前記バイパス通路に導いて、ミキシングプレート15を通過させないようにするとよい。これにより走行性能の確保が図れる。また、その場合、併せて、運転者にはメータパネルのインジケータ等で異常を報知し、整備工場への車両の持込みを促すようにするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、排気ガス中のNOxを低減する尿素SCRシステムにおいて、排気通路内での尿素水の十分な分散を図るためのミキシング部材を備えた場合に、尿素から派生する化合物の結晶がミキシング部材に付着することによる排気抵抗増加の問題、ひいてはそれに伴う出力性能低下の問題を抑制することが可能な技術であるから、エンジンの排気浄化装置、特に、エンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物の低減を図るエンジンの排気浄化装置の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の最良の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】前記排気浄化装置に備えられたミキシング部材としてのミキシングプレートの(a)は正面図、(b)は(a)のb−b矢視断面図である。
【図3】前記排気浄化装置の制御システム図である。
【図4】前記排気浄化装置のコントロールユニットが行う具体的制御動作の1例を示すフローチャートである。
【図5】前記制御動作の作用を表すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
3 排気通路
10 エンジンの排気浄化装置
11 酸化触媒
12 パティキュレートフィルタ(フィルタ部材)
13 尿素水噴射ノズル(尿素還元剤供給手段)
15 ミキシングプレート(ミキシング部材)
16 SCR触媒(選択還元触媒)
21 第1差圧センサ
22 第2差圧センサ(差圧検出手段)
23 排気ガス温度センサ
50 コントロールユニット(排気ガス温度上昇手段、フィルタ再生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設され、排気ガス中のNOxを選択還元する選択還元触媒と、
この選択還元触媒の上流の排気通路に尿素還元剤を供給する尿素還元剤供給手段と、
この尿素還元剤供給手段と前記選択還元触媒との間の排気通路に配設され、前記尿素還元剤供給手段で供給された尿素還元剤と排気ガスとのミキシングを促進するためのミキシング部材とを有するエンジンの排気浄化装置であって、
前記ミキシング部材の直上流と直下流との差圧を検出する差圧検出手段と、
この差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったとき、排気ガスの温度を上昇させる排気ガス温度上昇手段とが備えられていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置であって、
前記尿素還元剤供給手段の上流の排気通路に配設され、排気ガス中の微粒子を捕集するためのフィルタ部材と、
このフィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値以上となったとき、排気ガスの温度を上昇させることにより、前記フィルタ部材に堆積した微粒子を燃焼除去するフィルタ再生手段とが備えられ、
前記排気ガス温度上昇手段は、このフィルタ再生手段で構成されると共に、
前記排気ガス温度上昇手段は、前記差圧検出手段で検出された差圧が所定値以上となったときは、前記フィルタ部材に堆積した微粒子の量が所定値未満であっても、排気ガスの温度を上昇させることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの排気浄化装置であって、
前記フィルタ部材の上流の排気通路に酸化触媒が備えられ、
前記フィルタ再生手段は、エンジンで燃料を後噴射し、この後噴射した燃料を前記酸化触媒で酸化燃焼させることにより、排気ガスの温度を上昇させるものであることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジンの排気浄化装置であって、
前記排気ガス温度上昇手段は、排気ガスの温度が、前記尿素還元剤供給手段で供給された尿素還元剤から生成され、前記ミキシング部材に付着した化合物の結晶の溶融温度に達していないときに、排気ガスの温度を上昇させることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−24655(P2009−24655A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190449(P2007−190449)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】