説明

エンジンの補機給油装置

【課題】本体ハウジング内のカム部収納空間とシリンダヘッド内のオイル通路とを連通させるためのオイル通路を、補機ハウジング部材の取付のために用いられるメタルガスケットを有効に利用して構成する。
【解決手段】補機手段としての燃料ポンプ3が、カム軸10の一端部に形成されたカム部11によって駆動される。燃料ポンプ3の補機ハウジング部材20が、カム部11を覆うようにしてシリンダヘッドの一端側に形成された取付部30に固定される。補機ハウジング部材20と取付部30との間に、メタルガスケット40が介在される。メタルガスケット40には、取付部30に開口されたオイル供給孔32に連通する孔部44と、孔部44とカム部収納空間23とを連通させるスリット45と、が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの補機給油装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの中には、カム軸の一端側をシリンダヘッドの外部に延長させて、この延長部位に形成したカム部でもって、各種補機手段を駆動するようにしたものがある。特許文献1、特許文献2には、上記カム部によって駆動される補機手段を燃料ポンプとしたものが開示されている。勿論、補機手段は、カム部によって駆動される被駆動部を有しているものであり、燃料ポンプの場合は被駆動部がプランジャとされるのが一般的である。。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−184688号公報
【特許文献2】特開2004−270557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したカム軸の延長部位に形成されたカム部によって補機手段を駆動する場合、補機手段の補機ハウジング部材が、シリンダヘッドの一端側の端部に形成された取付面に取付けられる。そして、補機ハウジング部材は、前記カム部によって駆動される被駆動部を保持すると共に、該カム部を覆うようにして取付面に取付けられることになる。
【0005】
上述のようにしてシリンダヘッド側に形成された取付面に取付けられた補機ハウジング部材内には、前記カム部を収納したカム部収納空間が形成される。このカム部収納空間には、潤滑等のためのオイルを、シリンダヘッド内のオイル供給通路から供給する必要がある。そして、カム部収納空間を外部とシールするために、シリンダヘッド側の取付面と補機ハウジング部材との間に、メタルガスケットを介在させることも行われている。
【0006】
上記カム部収納空間に供給するオイルは少量でよいが、安定してオイルを供給できることが望まれるものである。このため、シリンダヘッド内に形成されたオイル通路とカム部収納空間とを連通させる通路を、小断面積とする必要性から、例えば小径のドリル加工によって形成することが考えられる。しかしながら、別途ドリル加工によってカム部収納空間とシリンダヘッド内オイル通路とを連通させる孔加工することは面倒であり、またドリルが小径であることかどうしてもドリルが折損し易いものとなる。
【0007】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、本体ハウジング内のカム部収納空間とシリンダヘッド内のオイル通路とを連通させるためのオイル通路を、補機ハウジング部材の取付のために用いられるメタルガスケットを有効に利用して構成できるようにしたエンジンの補機給油装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような第1の解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
シリンダヘッドに回転自在に保持されたカム軸の一端側に、シリンダヘッドよりも外方に延長して位置されるカム部が形成され、
補機手段用の補機ハウジング部材が、前記カム部によって駆動される被駆動部を保持すると共に該カム部を覆うようにして前記シリンダヘッドの一端側に形成された取付面に固定され、
前記シリンダヘッド内に形成されたオイル通路から、前記取付面に形成されたオイル孔を介して、前記補機ハウジング部材内のカム部収納空間へオイルを供給するようにしたエンジンの補機給油装置であって、
前記取付面と前記補機ハウジングとの間に、前記カム部収納空間と外部とをシールするメタルガスケットが介在され、
前記メタルガスケットには、前記取付面に開口された前記オイル孔に連通する孔部と、該孔部と前記カム部収納空間とを連通させるスリットと、が形成されている、
ようにしてある。
【0009】
上記解決手法によれば、シリンダヘッド内のオイル通路からのオイルは、取付面に形成されたオイル孔から、メタルガスケットに形成された孔部およびスリットを介してカム部収納空間に供給されることになる。スリットの幅を適切に設定することにより、少量のオイルを安定してカム部収納空間に供給することができる。また、スリットは、メタルガスケットを例えばプレス成形する際に同時に形成できる。
【0010】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記メタルガスケットには、前記孔部を含むように囲うシール用の環状ビード部と、該環状ビード部に連なると共に前記スリットの幅方向両側に沿って延びる左右一対のシール用の線状ビード部と、が形成されている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、環状ビード部と線状ビード部とによって、カム部収納空間を確実に外部に対してシールすることができる。
【0011】
前記スリットは、前記環状ビード部よりも内方側に形成されており、
前記環状ビード部の一部が、前記スリットの外側において該スリットの近傍に位置するように設定されて、該スリットの近傍に位置する該環状ビード部が前記線状ビード部の一方を兼用している、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、環状ビード部の一部で一方の線状ビード部を兼用させて、メタルガスケットの構造を極力簡単化する上で好ましいものとなる。
【0012】
前記補機手段が、前記被駆動部としてのプランジャを有して、燃料噴射弁に供給する高圧燃料を発生させるための高圧燃料ポンプとされており、
前記取付面には、前記カム部収納空間に臨ませて、前記カム部収納空間に溜まる余剰オイルをシリンダヘッド内に戻すためのオイルリターン孔が形成されている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、カム部収納空間に溜まる余剰オイルを、オイルリターン孔を介して確実に回収することができる。
【0013】
前記スリットの前記カム部収納空間内への開口位置が、前記オイルリターン孔と略同等あるいはそれ以上の高さ位置に設定されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、エンジン停止時つまりカム軸の回転停止時に、カム部収納空間内のオイルがスリットを介して逆流することによってカム部収納空間内のオイル量が極端に少なくなってしまうような事態を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メタルガスケットを有効に利用して、シリンダヘッド内からカム部収納空間への少量のオイル供給を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】補機手段部分をエンジンの吸気系側から見た図。
【図2】補機手段部分をエンジンの上方から見た図。
【図3】補機手段部分をエンジンの排気系側から見た図。
【図4】補機手段部分をカム軸の一端側から見た図。
【図5】図4の状態から補機ハウジング部材を取外した状態を示す図。
【図6】図4のX6−X6線相当断面図。
【図7】図4のX6−X6線相当断面図。
【図8】補機手段部の取付部分の分解斜視図。
【図9】メタルガスケットの平面図。
【図10】図9のX10−X10線相当断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図5において、1はシリンダヘッド、2はシリンダヘッドカバー、3はエンジンの気筒配列方向一端側において、シリンダヘッド1側に取付けられた燃料ポンプ(燃料噴射弁用の高圧燃料ポンプ)である。
【0017】
図7に示すように、シリンダヘッド1には、カム軸10が回転自在に保持されている。このカム軸10は、シリンダヘッド1の一端側より外部に延長されて、この延長部位に、カム部11が形成されている。そして、補機手段としての燃料ポンプ3は、カム部11によって駆動されるようになっている。
【0018】
燃料ポンプ3は、補機ハウジング部材20を有する。この補機ハウジング部材20は、前記カム部11によって駆動される被駆動部としてのプランジャを有している(プランジャそのものは図示を略すが、プランジャを保持した保持部が符合21で示される)。
【0019】
図7、図8において、シリンダヘッド1の一端面側には、補機ハウジング部材20を取付けるための取付面構成用の取付部)30が形成されている。この取付部30は、シリンダヘッド1に一体成形された下取付部30Aと、カム軸10を上方から覆ってシリンダヘッド1に固定された上取付部(キャップ部材)30Bとの上下分割構成とされている。そして、上取付部30Bは、シリンダヘッド1のみならず、シリンダヘッドカバー2にも取付けられる。上記シリンダヘッド1側に形成された取付部30には、補機ハウジング部材20を取付けるための取付孔31A〜31Cが形成されている(図8参照)。
【0020】
前記補機ハウジング部材20は、取付部30に向けて開口されたカップ状部分を有して、このカップ状部分の開口縁部を、取付部30に着座させた状態で、取付ボルト32A〜32Cを取付部30の取付孔31A〜31Cに螺合することによって固定される。この固定状態では、補機ハウジング部材20に保持された被駆動部としてのプランジャがカム部11に当接されて、カム軸10の回転に応じてプランジャが往復動されて、燃料を加圧するようになっている。
【0021】
補機ハウジング部材20によってカム部11が全体的に覆われることになる。つまり、カム部11周囲の補機ハウジング部材20内は、カム部収納空間21とされる(図7参照)。このカム部収納空間21は、外部に対してシールされる必要があり、このため、補機ハウジング部材20と取付部30との間には、メタルガスケット40が介在される(図7、図8参照)。
【0022】
メタルガスケット40は、図8、図9に詳細に示すように、環状とされて、中央部にカム部11が挿通可能な大きな中央開口部41を有する。また、メタルガスケット40の外周縁部には、取付ボルト32A〜32Cが挿通される挿通孔42A〜42Cが形成されている。さらに、メタルガスケット40には、その外周縁部に沿うようにして、環状とされたシール用の環状ビード部43が形成されている(図10をも参照)。
【0023】
カム部収納空間21にオイルを供給するため、取付部30にオイル供給孔32(図8参照)が形成され、このオイル供給孔32は、シリンダヘッド1内のオイル供給通路12(図7参照)に連通されている。また、取付部30には、オイル供給孔32よりも高い位置において、オイルリターン孔33が形成されている(図8参照)。このオイルリターン孔33は、図示を略すシリンダヘッド1内のオイルリターン通路に連通されている。
【0024】
メタルガスケット40には、取付部30に形成されたオイル供給孔32に連なる孔部44が形成されている。また、メタルガスケット40には、一端が孔部44に連通されると共に他端がカム部収納空間23に連通されたスリット45が形成されている。メタルガスケット40そのものは薄肉なので、スリット45の幅設定のみによって、孔部44からカム部収納空間23に供給されるオイル量を少量の適切な量に設定することができる。
【0025】
上記孔部44およびスリット45は、それぞれ環状ビード部43の内側に位置されている。スリット45の近傍には、スリット45に沿って左右一対の線状ビード部46A、46Bが形成されている(環状ビード部43と同様なビード形状)。実施形態では、環状ビード部43の一部が、スリット45の外側近傍でスリット45に沿うように形成されて、このスリット45に沿う部分が一方の線状ビード部46Bを構成している(環状ビード部43の一部で線状ビード部46Bを兼用している)。
【0026】
以上のような構成において、シリンダヘッド1内に形成されたオイル供給通路12からのオイルは、取付部30のオイル供給孔32,メタルガスケット40に形成された孔部44,スリット45を経て、カム部収納空間23へと少量だけ安定して供給されることになる。カム部収納空間23内の余剰オイルは、取付部30に形成されたオイルリターン孔33を介して、シリンダヘッド1内のオイルリターン通路へ戻される。
【0027】
環状ビード部43によって、カム部収納空間23内は外部を確実にシールされることになる。また、線状ビード部46A、46Bによって、スリット45の設定幅に応じた少量のオイルが安定して供給されることになる。ここで、スリット45のカム部収納空間23内への連通位置を、オイルリターン孔33と略同一あるいはそれ以上の高さ位置に設定するのが好ましいものである。すなわち、エンジンを停止した際に、スリット45を介してカム部収納空間23内のオイルが逆流して、カム部収納空間23内のオイル量が不足する場合が考えられるが、上記のような高さ位置の設定によって、少なくともほぼオイルリターン孔33の高さ位置の量のオイルをカム部収納空間23内に溜めておくことができる(エンジン再始動時のときのカム部11の潤滑を確実に確保)。
【0028】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。補機手段としては、燃料ポンプ3に限らず、適宜の種類の補機手段を選択することができる。燃料ポンプ3の外側にさらに別の補機手段(例えばバキュームポンプ)を設けるようにしてもよい。この場合、例えば燃料ポンプ3の補機ハウジング部材20に、メタルガスケット40の孔部44と別の補機手段のハウジング内とを連通するオイル通路を形成して、別の補機手段のハウジング内へオイルを供給するようにすればよい(オイルのリターン通路についても同じ)。環状ビード部43をスリット45の近傍でかつスリット45に沿って形成しない場合は、一方の線状ビード部46Bを環状ビード部43とは別個独立して形成すればよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は自動車用エンジンに適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1:シリンダヘッド
3:燃料ポンプ(補機手段)
10:カム軸
11:カム部
12:オイル供給通路(シリンダヘッド内)
20:補機ハウジング部材
21:保持部(プランジャ用)
22:取付ボルト
23:カム部収納空間
30:取付部(取付面)
31A〜31C:取付孔
32:オイル供給孔
33:オイルリターン孔
40:メタルガスケット
41:中央開口部(カム部挿通用)
42A〜42C:挿通孔(取付ボルト用)
43:環状ビード部
44:孔部
45:スリット
46A:線状ビード部
46B:線状ビード部(環状ビード部で兼用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに回転自在に保持されたカム軸の一端側に、シリンダヘッドよりも外方に延長して位置されるカム部が形成され、
補機手段用の補機ハウジング部材が、前記カム部によって駆動される被駆動部を保持すると共に該カム部を覆うようにして前記シリンダヘッドの一端側に形成された取付面に固定され、
前記シリンダヘッド内に形成されたオイル通路から、前記取付面に形成されたオイル孔を介して、前記補機ハウジング部材内のカム部収納空間へオイルを供給するようにしたエンジンの補機給油装置であって、
前記取付面と前記補機ハウジングとの間に、前記カム部収納空間と外部とをシールするメタルガスケットが介在され、
前記メタルガスケットには、前記取付面に開口された前記オイル孔に連通する孔部と、該孔部と前記カム部収納空間とを連通させるスリットと、が形成されている、
ことを特徴とするエンジンの補機給油装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記メタルガスケットには、前記孔部を含むように囲うシール用の環状ビード部と、該環状ビード部に連なると共に前記スリットの幅方向両側に沿って延びる左右一対のシール用の線状ビード部と、が形成されている、ことを特徴とするエンジンの補機給油装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記スリットは、前記環状ビード部よりも内方側に形成されており、
前記環状ビード部の一部が、前記スリットの外側において該スリットの近傍に位置するように設定されて、該スリットの近傍に位置する該環状ビード部が前記線状ビード部の一方を兼用している、
ことを特徴とするエンジンの補機給油装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記補機手段が、前記被駆動部としてのプランジャを有して、燃料噴射弁に供給する高圧燃料を発生させるための高圧燃料ポンプとされており、
前記取付面には、前記カム部収納空間に臨ませて、前記カム部収納空間に溜まる余剰オイルをシリンダヘッド内に戻すためのオイルリターン孔が形成されている、
ことを特徴とするエンジンの補機給油装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記スリットの前記カム部収納空間内への開口位置が、前記オイルリターン孔と略同等あるいはそれ以上の高さ位置に設定されている、ことを特徴とするエンジンの補機給油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−38431(P2011−38431A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184742(P2009−184742)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】