説明

エンジンシステム

【課題】外部に捨てられていた高温のEGRガスの熱エネルギーを、電力または動力として回収することとし、システム全体のエネルギー効率を向上させたエンジンシステムを提供する。
【解決手段】このシステムは、エンジン1から排出された排気ガスにより駆動される排気タービン43と、排気タービン43により駆動され、外部から吸入した空気を圧縮して圧縮空気を吐出するコンプレッサ42とを有するターボ過給機4と、エンジン1から排出された排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジン1の吸気部に還流させるEGR通路5とを備え、更に、コンプレッサ42から吐出された圧縮空気の一部を流通させる分岐空気通路6と、EGR通路5を流通する高温のEGRガスの熱エネルギーを分岐空気通路6を流通する圧縮空気に伝達させて、分岐空気通路6を流通する圧縮空気を加熱するガス‐ガス熱交換器7と、ガス‐ガス熱交換器7において加熱された圧縮空気により駆動される空気タービン8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR(Exhaust Gas Recirculation、排気ガス再循環)機構を備えたターボ過給機付きエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に搭載された内燃エンジンシステムでは、エンジンの排気部から排出された排気ガスの一部をエンジンの吸気部に還流し、吸気の酸素濃度を低下させることにより、エンジンの燃焼温度を下げて、NOx(窒素酸化物)の発生を低減するEGRが行われている。EGRを行うための機構として、エンジンシステムには、エンジンの排気部と吸気部とを接続するEGR通路が設けられる。また、EGR通路には、高温の排気ガスの一部をEGRガスとして再びエンジンに吸入させることによるエンジンの吸気充填効率の低下を防止するため、EGRクーラが設けられる。EGRクーラを流れる高温のEGRガスは、例えば、EGRクーラ用に分流されたエンジン冷却液により冷却され、高温のEGRガスの熱エネルギーは、エンジン冷却液を介して、エンジン冷却液放熱用のラジエータから外部(大気中)に放出される。このEGRクーラにより冷却されて外部に捨てられていた高温のEGRガスの熱エネルギーを電力として回収して、システム全体のエネルギー効率を向上させるEGR機構を備えたターボ過給機付きエンジンシステムが提供されている。このものによれば、EGR通路に水循環回路の蒸発器を配設して、循環ポンプで昇圧した液体の水を、EGR通路を流れる高温のEGRガスにより加熱して水蒸気とし、その高温高圧の水蒸気により蒸気タービンを回転駆動し、蒸気タービンに接続された発電機で発電を行う。蒸気タービンを駆動して圧力及び温度が低下した水蒸気は、凝縮器で冷却されて液体の水に戻され、循環ポンプに吸入される(特許文献1)。これにより、従来、EGRクーラにより冷却されて外部に捨てられていた高温のEGRガスの熱エネルギーを電力として回収でき、システム全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−242726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に係るエンジンシステムによれば、作動媒体としての水を循環させることを必須としている。よって、水循環回路には、蒸発器、蒸気タービンのほかに、蒸気タービンから排出された水蒸気を冷却して液体の水に戻す凝縮器と、その液体の水を昇圧して蒸発器に送る循環ポンプとが必要であり、また、水循環回路には、水及び水蒸気の漏れを回避する高い気密性が要求される。そのため、システムが全体として不可避的に大型化、重量化、高コスト化する。
【0005】
更に、水を作動媒体としており、寒冷環境下においては、エンジン停止時に水が凍結し、システムが始動できなくなったり、氷生成に伴う体積膨張により、システムが破損したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、エンジンから排出された排気ガスの一部である高温のEGRガスの熱エネルギーを電力または動力として回収し、システム全体のエネルギー効率を向上させることが可能な小型、軽量、低コストであり、更に、寒冷環境下においても、システムが、始動できなくなったり、破損したりするおそれを抑えることができるエンジンシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の様相1に係るエンジンシステムは、吸気部と排気部とを有するエンジンと、外部から吸入した空気を含む吸気をエンジンの吸気部に供給する吸気通路と、エンジンの排気部から排出された排気ガスを外部に排出する排気通路と、排気通路に設けられ、エンジンの排気部から排出された排気ガスにより駆動される排気タービンと、吸気通路に設けられ、排気タービンにより駆動され、外部から吸気通路に吸入された空気を圧縮して圧縮空気を吐出するコンプレッサとを有するターボ過給機と、エンジンの排気部から排出された排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジンの吸気部に還流させるEGR通路とを具備しており、更に、ターボ過給機のコンプレッサよりも下流側の吸気通路から分岐され、ターボ過給機のコンプレッサから吐出された圧縮空気の一部を流通させる分岐空気通路と、EGR通路と分岐空気通路との間に設けられ、EGR通路を流通するEGRガスの高温の熱エネルギーを、分岐空気通路を流通する圧縮空気に伝達させて、分岐空気通路を流通する圧縮空気を加熱すると共に、EGR通路を流通するEGRガスを冷却するガス‐ガス熱交換器と、ガス‐ガス熱交換器から下流側の分岐空気通路に設けられ、発電機または被駆動機構に接続され、ガス‐ガス熱交換器において加熱された圧縮空気により駆動される空気タービンとを具備する。
【0008】
本様相によれば、ターボ過給機のコンプレッサから吐出された圧縮空気の一部を分岐空気通路に流通させ、EGR通路と分岐空気通路との間に設けたガス‐ガス熱交換器において、高温のEGRガスの熱エネルギーを、分岐空気通路を流通する圧縮空気に伝達し、高温に加熱された圧縮空気により空気タービンを回転駆動して、電力または動力として回収でき、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0009】
また、本様相によれば、高温のEGRガスの熱エネルギーが伝達され、空気タービンを回転駆動する圧縮空気として、ターボ過給機のコンプレッサから吐出された圧縮空気の一部を利用する。このため、従来の特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体を昇圧するための循環ポンプに相当する機器が不要であり、システムを小型化、軽量化、低コスト化できると共に、循環ポンプの駆動に必要な動力も削減され、更に、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0010】
更に、本様相によれば、従来の特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体は水ではなく、空気であり、外部から吸入され、空気タービンを駆動した後、外部へ排出される。このため、従来の特許文献1に係る水循環回路における凝縮器に相当する機器は不要であり、システムを小型化、軽量化、低コスト化することができる。また、水の場合とは異なり、高い気密性は必要なく、システムを小型化、軽量化、低コスト化するのに有利である。
【0011】
更に、本様相によれば、特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体が水とは異なる空気であり、寒冷環境下でも凍結することがなく、寒冷環境下においても、システムが、始動可能であり、破損するおそれを抑えることができる。
【0012】
本発明の様相2に係るエンジンシステムによれば、上記様相において、吸気通路から分岐空気通路に流入する圧縮空気の流量を調節する吸気分流バルブを具備する。この場合、エンジンの回転数の変化に応じて、吸気分流バルブの開度を制御し、分岐空気通路へ流入する圧縮空気の流量を調節することで、エンジンの吸気圧力を排気圧力に対して所定の圧力だけ低く維持して、EGRを可能にすると共に、分岐空気通路に流入した圧縮空気を利用して、高温のEGRガスの熱エネルギーを電力または動力として回収でき、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0013】
本発明の様相3に係るエンジンシステムによれば、上記様相において、被駆動機構がターボ過給機である。この場合、エンジンに供給される吸気のうち、EGRガスの占める割合の大きい高EGR率のエンジンシステムにおいて、エンジンから排出されて排気タービンに流入する排気ガス流量の減少により、ターボ過給機のコンプレッサを回転駆動する排気タービンの動力が減少した分を、流量が増加したEGRガスで高温に加熱されて分岐空気通路を流通する圧縮空気により回転駆動される空気タービンの動力により補うことができる。このため、エンジンに必要とされる圧縮空気の流量が確保され、高い吸気圧力での運転が可能となり、エンジンの比出力が向上し、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0014】
本発明の様相4に係るエンジンシステムによれば、上記様相において、ガス‐ガス熱交換器が向流形熱交換器である。この場合、互いに逆向きに流れながら熱伝達を行うEGRガスと圧縮空気との間の、ガス‐ガス熱交換器に沿っての各位置での温度差を小さくすることができ、EGRガスの熱エネルギーを圧縮空気へ伝達する過程での温度低下幅を小さく抑えることができる。このため、高温のEGRガスの熱エネルギーを圧縮空気に効率よく伝達して、電力または動力として回収することができ、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0015】
本発明の様相5に係るエンジンシステムによれば、上記様相において、空気タービンが可変容量機構を有する半径流タービンである。この場合、分岐空気通路を流れる圧縮空気の流量の変動に応じて、タービンの流量特性を変えることができ、広範囲の圧縮空気流量に対して、効率よく空気タービン作動させることができる。このため、広範囲のエンジン回転数に対して、高温のEGRガスの熱エネルギーを効率よく電力または動力として回収することができ、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温のEGRガスの熱エネルギーを電力または動力として回収し、システム全体のエネルギー効率を向上させた小型、軽量、低コストであるエンジンシステムを提供することができる。更に、従来技術とは異なり、作動媒体としての水を廃止して、空気を使用するため、寒冷環境下においても、システムが、始動できなくなったり、破損したりするおそれを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係り、エンジンシステムを示す回路図である。
【図2】実施形態1に係り、エンジン回転数と圧力、吸気分流バルブ開度との関係を模式的に示すグラフである。
【図3】実施形態2に係り、エンジンシステムを示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1の概念を示す。エンジンシステムは、図1に示すように、エンジン1と、吸気通路2と、排気通路3と、ターボ過給機4と、EGR通路5とを備え、更に、分岐空気通路6と、ガス‐ガス熱交換器7と、空気タービン8とを備えている。
【0019】
エンジン1は、複数の気筒を直列に配置した往復動ピストン形の内燃エンジンであり、軽油等を燃料とする圧縮着火式でも、ガソリン、液化石油ガス、天然ガス等を燃料とする火花点火式でもよい。エンジン1は、シリンダブロック、シリンダヘッド等からなるエンジン構造体11と、各気筒に吸入される吸気を分配する吸気マニホルド12(吸気部)と、各気筒から排出される排気ガスを集合する排気マニホルド13(排気部)と、図示しないクランク機構及び動弁機構とからなる。エンジン1から出力される動力は、図示しない動力伝達機構を介して車両の走行や、圧縮機等の駆動に利用されるか、あるいは、図示しない発電機を駆動することにより、電力に変換されて利用される。
【0020】
吸気通路2は、外部から吸入した空気を含む吸気をエンジン1の吸気マニホルド12に供給する通路であり、一端が外部に開口され、他端がエンジン1の吸気マニホルド12に接続されている。吸気通路2には、上流側から順に、外部から吸入した空気からダスト等の異物を除去するエアクリーナ21と、外部から吸入した空気を圧縮して圧縮空気を吐出する遠心式のコンプレッサ42と、圧縮されて温度上昇した圧縮空気を冷却して、エンジン1の吸気充填効率を向上させるインタクーラ22とが設けられている。インタクーラ22を流れる圧縮空気は、インタクーラ用冷却液通路92を流れるインタクーラ用冷却液により冷却される。
【0021】
排気通路3は、エンジン1の排気マニホルド13から排出された排気ガスを外部に排出する通路であり、一端がエンジン1の排気マニホルド13に接続され、他端が外部に開口されている。排気通路3には、上流側から順に、エンジン1から排出された排気ガスにより回転駆動される半径流式の排気タービン43と、排気ガス中に含まれる有害成分を浄化する触媒等の排気浄化装置31と、排気騒音を低減する消音器32とが設けられている。
【0022】
吸気通路2に設けられたコンプレッサ42と、排気通路3に設けられた排気タービン43とが、第1連結軸41により接続され、ターボ過給機4が構成される。エンジン1から排出された排気ガスにより、排気タービン43が回転駆動され、排気タービン43により、コンプレッサ42が回転駆動される。
【0023】
EGR通路5は、エンジン1の排気マニホルド13から排出された高温の排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジン1の吸気マニホルド12に還流させる通路である。EGR通路5の上流側の一端は、排気通路3の排気分岐部3aに接続され、EGR通路5の下流側の他端は、吸気通路2の吸気合流部2bに接続されている。なお、インタクーラ22と吸気合流部2bとの間の吸気通路2には、エンジン1の出力調節用の図示しないスロットルバルブが設けられる場合もある。
【0024】
ターボ過給機4のコンプレッサ42から延設された下流側の吸気通路2の吸気分岐部2aから、分岐空気通路6が分岐されている。分岐空気通路6には、コンプレッサ42から吐出された圧縮空気の一部が流通される。吸気分岐部2aは、特に限定されないが、吸気通路2において吸気合流部2bよりも上流側に設けられることが好ましい。また、吸気分岐部2aは、吸気通路2においてインタークーラ22の上流側に設けられていることが好ましい。なお、インタークーラ22は吸気合流部2bよりも下流側の吸気通路2に設けても良い。
【0025】
分岐空気通路6とEGR通路5との間には、ガス‐ガス熱交換器7が設けられている。ガス‐ガス熱交換器7は、EGR通路5を流通する高温のEGRガスの熱エネルギーを、分岐空気通路6を流通する圧縮空気に伝達させて、圧縮空気を加熱すると共にEGRガスを冷却する向流形熱交換器である。向流形熱交換器は、熱伝達を行う2つの媒体の流れる向きが互いに逆向きである熱交換器である。ガス‐ガス熱交換器7において、EGRガスは、チューブ側通路71を、チューブ側通路入口71aからチューブ側通路出口71bに向けて流れ、圧縮空気は、シェル側通路72を、シェル側通路入口72aからシェル側通路出口72bに向けて流れる。ガス‐ガス熱交換器7に沿っての各位置で、チューブ側通路71を流れる相対的に圧縮空気よりも高温のEGRガスの熱エネルギーが、シェル側通路72を流れる相対的にEGRガスより低温の圧縮空気に伝達される。ガス‐ガス熱交換器7は、向流形熱交換器であるため、互いに逆向きに流れながら熱伝達を行うEGRガスと圧縮空気との間の、ガス‐ガス熱交換器に沿っての各位置での温度差を小さくすることができ、EGRガスの熱エネルギーを圧縮空気へ伝達する過程での温度低下幅を小さく抑えることができる。これにより、高温のEGRガスの熱エネルギーを圧縮空気に効率よく伝達することができる。
【0026】
ガス‐ガス熱交換器7から下流側のEGR通路5には、ガス‐ガス熱交換器7において冷却されたEGRガスを更に冷却するためのEGRクーラ51が設けられている。EGRクーラ51を流れるEGRガスは、EGRクーラ用冷却液通路91を流れるエンジン冷却液により冷却される。ガス‐ガス熱交換器7において、高温のEGRガスは、圧縮空気により冷却されるため、EGRクーラ51でのEGRガスの必要冷却熱量は、従来に比べて大きく減少する。このため、従来から使用されていたEGRクーラを小型化、軽量化、低コスト化することができる。場合によっては、従来から使用されていたEGRクーラを廃止することもできる。
【0027】
ガス‐ガス熱交換器7よりも下流側の分岐空気通路6には、空気タービン8が設けられている。空気タービン8は、ガス‐ガス熱交換器7でEGRガスにより加熱された高温の圧縮空気により回転駆動される。空気タービン8は、内部に図示しない可変容量機構を有する半径流タービンである。空気タービン8の可変容量機構としては、スクロール入口の面積を可動式フラップで連続可変にする可動フラップ式や、羽根車周囲に設けた可変ノズル羽根を揺動させてノズル面積を変える可変ノズル羽根式等が例示される。空気タービン8は、分岐空気通路6を流れる圧縮空気の流量変動に応じて、タービンの流量特性を変えることができ、広範囲の圧縮空気流量に対して、効率よく空気タービンを作動させることができる。
【0028】
空気タービン8には、第2連結軸81を介して発電機82が接続されており、空気タービン8により、発電機82が回転駆動され、発電が行われる。発電された電力は、インバータ83を介して、蓄電池またはキャパシタ等の蓄電デバイス84に蓄電されるか、あるいは、補機類86を駆動するモータ85に供給される。吸気通路2の吸気合流部2bと吸気マニホルド12との間には、エンジン1に吸入される吸気の酸素濃度を検知する吸気酸素濃度センサ24と、吸気圧力を検知する吸気圧力センサ23とが設けられている。排気通路3の排気マニホルド13と排気分岐部3aとの間には、エンジン1から排出される排気ガスの酸素濃度を検知する排気酸素濃度センサ34と、排気圧力を検知する排気圧力センサ33と、排気温度を検知する排気温度センサ35とが設けられている。
【0029】
EGRクーラ51と吸気合流部2bとの間のEGR通路5には、EGR通路5を流れるEGRガスの流量を調節するEGRバルブ52が設けられている。EGRバルブ52の開度は、吸気酸素濃度センサ24及び排気酸素濃度センサ34の計測値から算出される実EGR率(エンジン1に吸入される吸気のうち、EGRガスの占める割合)が、エンジン1の回転数やエンジン1への燃料供給量から算出される目標EGR率になるように、図示しない制御装置により制御される。
【0030】
吸気分岐部2aから下流側の分岐空気通路6には、吸気分流バルブ61が設けられている。図2は、エンジン1の回転数が変化した場合の、吸気圧力センサ23により計測される吸気圧力(特性線a)、排気圧力センサ33により計測される排気圧力(特性線b)、吸気分流バルブ61の開度(特性線c)について示したものである。EGRを行うためには、吸気圧力が排気圧力に対して、所定の圧力だけ低くなっていることが必要であり、図中の特性線cで示したように、エンジン1の回転数の変化に応じて、吸気分流バルブ61の開度が図示しない制御装置により制御される。吸気分流バルブ61の開度を制御することにより、分岐空気通路6に流入する圧縮空気の流量が調節されて、EGRを可能にすると共に、余剰の圧縮空気が分岐空気通路6に流通され、高温のEGRガスの熱エネルギーが電力として回収される。なお、エンジンシステムの冷間始動等で、暖機運転を行う場合には、吸気分流バルブ61は全閉とされる。排気通路3に設けた排気温度センサ35により計測される排気ガスの温度が所定の温度以上に上昇し、エンジンシステムの暖機が完了したと判断されると、吸気分流バルブ61が開けられる。
【0031】
次に、本実施形態のエンジンシステムの作用について説明する。本実施形態に係るエンジンシステムの通常運転時(暖機完了後の非アイドリング運転時)には、エンジン1に、燃料燃焼により、例えば、熱として50kWが入力され、エンジン1から、例えば、動力として15kWが出力され、排気ガスとして20kWの熱が800℃の温度で排出される。このときのエンジン1のエネルギー効率(=動力出力/熱入力)は、30%である。
【0032】
EGRバルブ52及び吸気分流バルブ61の開度が制御されることにより、排気圧力が、例えば、絶対圧力で0.35MPa(以下、圧力は、絶対圧力を示すものとする。)に、吸気圧力が、例えば、0.30MPaに調節され、エンジン1から排出された排気ガスのうち、例えば、30%がEGRガスとしてEGR通路5に流入し、残りの70%により排気タービン43が回転駆動される。この場合、EGRガスとして6kWの熱がEGR通路に流入する。そして、排気タービン43により回転駆動されたコンプレッサ42から圧縮空気が、例えば、圧力が0.32MPa、温度が150℃で吐出され、その圧縮空気のうち、例えば、70%がエンジン1へ向けてインタクーラ22に流入し、余剰の30%が分岐空気通路6に流入する。
【0033】
EGR通路5に流入したEGRガスは、ガス‐ガス熱交換器7のチューブ側通路入口71aに、例えば、750℃で流入し、分岐空気通路6に流入した圧縮空気は、ガス‐ガス熱交換器7のシェル側通路入口72aに、例えば、140℃で流入する。ガス‐ガス熱交換器7に沿っての各位置において、相対的に温度の高いチューブ側通路71を流れるEGRガスの熱エネルギーが、相対的に温度の低いシェル側通路72を流れる圧縮空気に伝達され、圧縮空気は、例えば、650℃に加熱されてシェル側通路出口72bから流出し、EGRガスは、例えば、200℃に冷却されてチューブ側通路出口71bから流出する。これにより、ガス‐ガス熱交換器7において、EGRガスから圧縮空気に、例えば、5kWの熱が、650℃の高温に維持されて伝達される。ガス‐ガス熱交換器7は、向流形熱交換器であるため、EGRガスの熱エネルギーを圧縮空気へ伝達する過程で、温度低下幅を100℃に抑えることができ、熱エネルギーを効率よく伝達することができる。
【0034】
650℃の高温に加熱された圧縮空気は、分岐空気通路6から空気タービン8に流入して、空気タービン8を回転駆動する。空気タービン8に流入する前の圧縮空気の圧力は、例えば、0.3MPaとなり、空気タービン8から排出される圧縮空気の圧力は、例えば、0.1MPaとなる。このとき、空気タービン8での熱‐動力変換の理論効率は40%となる。空気タービン8は、内部の可変容量機構の制御により、例えば、タービン効率が85%で作動可能であり、空気タービン8の実際の熱‐動力変換効率は、34%となる。その結果、EGRガスから圧縮空気に伝達された5kWの熱のうち、1.7kWが動力に変換される。
【0035】
更に、空気タービン8は、発電機82を回転駆動し、発電が行われる。発電機82の発電機効率は、例えば、88%にでき、発電機82から1.5kWの電力が出力される。この電力は、エンジン1への熱入力50kWの3%にあたり、エンジン1のエネルギー効率の30%とあわせると、システム全体のエネルギー効率は33%となる。エンジン1のエネルギー効率の30%を基準にすると、高温のEGRガスの熱エネルギーを電力として回収することにより、システム全体のエネルギー効率が、10%向上される。
【0036】
空気タービン8を駆動して、圧力及び温度が低下した空気は、空気分岐通路6から外部へ排出される。
【0037】
EGRクーラ51に流入したEGRガスは、EGRクーラ用冷却液通路91を流れるエンジン冷却液により、例えば、100℃の温度まで冷却される。EGRクーラ51で冷却されたEGRガスは、EGRバルブ52を通って、吸気合流部2bにおいて、インタクーラ22で冷却された圧縮空気と合流して、エンジン1に吸入される。
【0038】
上記した本実施形態によれば、次のような作用効果が得られる。
【0039】
ターボ過給機4のコンプレッサ42から吐出された圧縮空気の一部を分岐空気通路6に流通させ、EGR通路5と分岐空気通路6との間に設けたガス‐ガス熱交換器7において、高温のEGRガスの熱エネルギーを、分岐空気通路6を流通する圧縮空気に伝達し、高温に加熱された圧縮空気により空気タービン8を回転駆動して、電力または動力として回収でき、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0040】
また、本実施形態によれば、高温のEGRガスの熱エネルギーが伝達され、空気タービン8を回転駆動する圧縮空気として、ターボ過給機4のコンプレッサ42から吐出された圧縮空気の一部を利用する。このため、従来の特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体を昇圧するための循環ポンプに相当する機器が不要であり、システムを小型化、軽量化、低コスト化できると共に、循環ポンプの駆動に必要な動力も削減され、更に、システム全体のエネルギー効率が向上する。
【0041】
更に、本実施形態によれば、従来の特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体は水ではなく、空気であり、外部から吸入され、空気タービン8を駆動した後、外部へ排出される。このため、従来の特許文献1に係る水循環回路における凝縮器に相当する機器は不要であり、システムを小型化、軽量化、低コスト化することができる。また、水の場合とは異なり、高い気密性は必要なく、システムを小型化、軽量化、低コスト化するのに有利である。更に、本実施形態によれば、特許文献1に係るシステムとは異なり、作動媒体が水とは異なる空気であり、寒冷環境下でも凍結することがなく、寒冷環境下においても、システムが、始動可能であり、破損するおそれを抑えることができる。
【0042】
(実施形態2)
図3は、実施形態2の概念を示す。本実施形態のエンジンシステムは、前述した実施形態1のエンジンシステムにおける空気タービン8を、図3に示すように、第2連結軸81を介して、ターボ過給機4(被駆動機構)に接続したものであり、他の構成については実施形態1と同じである。ターボ過給機4のコンプレッサ42は、ターボ過給機4の排気タービン43により回転駆動されると共に、空気タービン8によっても回転駆動される。
【0043】
EGR率が、例えば、50%程度に大きく設定される場合、ターボ過給機4の排気タービン43に流入する排気ガスの流量が減少するので、排気タービン43の動力が低下し、コンプレッサ42に対する駆動力が不足する。一方、EGR通路5に流入するEGRガスの流量は増加するので、ガス‐ガス熱交換器7において、分岐空気通路6を流通する圧縮空気に伝達される熱エネルギーは増加し、空気タービン8において発生する動力は増加する。
【0044】
本実施形態によれば、高EGR率のエンジンシステムにおいて、エンジン1から排出されて排気タービン43に流入する排気ガス流量の減少により、ターボ過給機4のコンプレッサ42を回転駆動する排気タービン43の動力が減少した分を、流量が増加したEGRガスで高温に加熱された圧縮空気により回転駆動される空気タービン8の動力により補うことができる。このため、エンジン1に必要とされる圧縮空気の流量が確保され、高い吸気圧力での運転が可能となり、エンジン1の比出力が向上し、システム全体のエネルギー効率が向上する。その他の作用効果は、実施形態1と基本的に同じである。
【0045】
(その他)
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。本エンジンシステムは、車両用でも、船舶用でもよいし、ガスヒートポンプ用あるいはコジェネレーション用等の定置用でもよい。車両としては、エンジンからの動力のみを駆動源とする通常車両でもよいし、エンジンおよび走行用モータ(電動モータ)を併有するハイブリッド車両でもよい。
【符号の説明】
【0046】
1はエンジン、11はエンジン構造体、12は吸気マニホルド(吸気部)、13は排気マニホルド(排気部)、2は吸気通路、2aは吸気分岐部、2bは吸気合流部、21はエアクリーナ、22はインタクーラ、23は吸気圧力センサ、24は吸気酸素濃度センサ、3は排気通路、3aは排気分岐部、31は排気浄化装置、32は消音器、33は排気圧力センサ、34は排気酸素濃度センサ、35は排気温度センサ、4はターボ過給機(被駆動機構)、41は第1連結軸、42はコンプレッサ、43は排気タービン、5はEGR通路、51はEGRクーラ、52はEGRバルブ、6は分岐空気通路、61は吸気分流バルブ、7はガス‐ガス熱交換器、71はチューブ側通路、71aはチューブ側通路入口、71bはチューブ側通路出口、72はシェル側通路、72aはシェル側通路入口、72bはシェル側通路出口、8は空気タービン、81は第2連結軸、82は発電機、83はインバータ、84は蓄電デバイス、91はEGRクーラ用冷却液通路、92はインタクーラ用冷却液通路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気部と排気部とを有するエンジンと、
外部から吸入した空気を含む吸気を前記エンジンの前記吸気部に供給する吸気通路と、
前記エンジンの前記排気部から排出された排気ガスを外部に排出する排気通路と、
前記排気通路に設けられ、前記エンジンの前記排気部から排出された排気ガスにより駆動される排気タービンと、前記吸気通路に設けられ、前記排気タービンにより駆動され、外部から前記吸気通路に吸入された空気を圧縮して圧縮空気を吐出するコンプレッサとを有するターボ過給機と、
前記エンジンの前記排気部から排出された排気ガスの一部をEGRガスとして前記エンジンの前記吸気部に還流させるEGR通路とを具備しており、更に、
前記ターボ過給機の前記コンプレッサよりも下流側の前記吸気通路から分岐され、前記ターボ過給機の前記コンプレッサから吐出された前記圧縮空気の一部を流通させる分岐空気通路と、
前記EGR通路と前記分岐空気通路との間に設けられ、前記EGR通路を流通する前記EGRガスの高温の熱エネルギーを、前記分岐空気通路を流通する前記圧縮空気に伝達させて、前記分岐空気通路を流通する前記圧縮空気を加熱すると共に、前記EGR通路を流通する前記EGRガスを冷却するガス‐ガス熱交換器と、
前記ガス‐ガス熱交換器から下流側の前記分岐空気通路に設けられ、発電機または被駆動機構に接続され、前記ガス‐ガス熱交換器において加熱された前記圧縮空気により駆動される空気タービンとを具備するエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1において、前記吸気通路から前記分岐空気通路に流入する前記圧縮空気の流量を調節する吸気分流バルブを具備するエンジンシステム。
【請求項3】
請求項1、2のいづれかにおいて、前記被駆動機構が前記ターボ過給機であるエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいづれか1項において、前記ガス‐ガス熱交換器が向流形熱交換器であるエンジンシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいづれか1項において、前記空気タービンが可変容量機構を有する半径流タービンであるエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−32751(P2013−32751A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169759(P2011−169759)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】