説明

エンジンユニット、車両及び鞍乗り型車両

【課題】複数のクラッチを備えた構成において、小型化を図ることができ、エンジン駆動の振動を少なくして、快適に走行できる車両を実現すること。
【解決手段】車両の略左右方向に配置されたクランクシャフト60と平行に、ドライブシャフト73が配置され、左端部のスプロケット76を介して後輪13に駆動力を出力する。第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、車両中心線を通る鉛直な車両中心面に対して左右に離間して配置され、第2クラッチ74とスプロケット76とを隔てる位置にベルハウジング152が、第2クラッチ75とともに着脱自在に設けられている。また、クランクシャフト60のベルハウジング152側の端部には、エンジンの動弁系カム軸駆動用のカム軸駆動部110が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速装置に関し、特に、複数のクラッチを備えるツインクラッチ式の変速装置と、この変速装置に組み合わせるエンジンとを有するエンジンユニット、車両及び鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の迅速な変速動作を可能にするために複数のクラッチを備えた変速装置が知られている。この変速装置では、複数のクラッチを選択的に接続することによって、変速時に動力遮断を行うことなく、クランク軸からのトルクを、主軸部を介して、異なる変速比で出力軸に伝達して円滑に変速することができる。
【0003】
このように、自動車に搭載される複数のクラッチを備える変速装置を、搭載スペースに制限のある自動二輪車に搭載することが考えられている。この変速装置としては、例えば、特許文献1、2に示すように、複数のクラッチを、主軸部の一端側に重ねて配設した構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−255840号公報
【特許文献2】特開2011−169394号公報
【特許文献3】特開2010−106983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数クラッチを備える変速装置を自動二輪車に搭載する場合、搭載スペースの制限により変速機自体の小型化を図ることに加えて、搭載される自動二輪車の構造上、搭載されるエンジンとともに重心を車幅方向の略中心に位置させて重量バランスを左右に偏ることを無くす必要がある。
【0006】
クラッチは、駆動伝達系を構成する部材として比較的重量がある。よって、本出願人は変速装置自体の左右のバランスをより取りやすいように、特許文献1、2の構成と異なり、複数のクラッチを、出力軸或いはメイン軸に対して左右両側に位置させた構成の変速装置を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
このように左右にクラッチを配置した変速装置において、エンジン駆動における振動を更に防止するために、クランクシャフトにおけるカウンターウェイトの機能を有するバランスシャフトを設けたいという要望がある。これにより、変速を円滑に行うことで快適に走行できる変速装置を備える自動二輪車を実現できる。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、複数のクラッチを備え、小型化を図ることができ、エンジン駆動の振動を少なくして、快適に走行できる車両を実現するエンジンユニット、車両及び鞍乗り型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンジンユニットの一つの態様は、搭載される車両の略左右方向に配置されるクランク軸と、前記クランク軸と平行に配置され、前記左右方向の一方側の端部に設けられたスプロケットを介して駆動輪に駆動力を出力する出力軸と、前記出力軸と平行に配置され、前記クランク軸から伝達される回転動力により回転し、奇数段の変速ギア機構を介して前記出力軸に出力する第1主軸部と、前記第1主軸部と同一軸心上に配置され、前記クランク軸から伝達される回転動力により回転し、偶数段の変速ギア機構を介して前記出力軸に出力する第2主軸部と、車両中心線を通る車両中心面に対して左右に離間して設けられ、前記出力軸の左右の両側方にそれぞれ位置する第1クラッチ及び第2クラッチと、を有し、第1クラッチにより前記クランク軸から前記第1主軸部に伝達される前記回転動力を切断又は接続し、第2クラッチにより前記クランク軸から前記第2主軸部に伝達される前記回転動力を切断又は接続するエンジンユニットであって、前記第1クラッチ及び第2クラッチのうち前記左右方向の一方側に位置する一方側のクラッチと前記スプロケットとを隔てる位置にベルハウジングが、前記一方側のクラッチとともに着脱自在に設けられ、前記クランク軸の一方側の端部には、エンジンの動弁系カム軸駆動用のカム軸駆動部が配設されている構成を採る。
【0010】
本発明の車両の一つの態様は、上記構成のエンジンユニットを備える構成を採る。また、本発明の鞍乗り型車両の一つの態様は、上記構成のエンジンユニットを備える構成を採る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のクラッチを備えた構成において、小型化を図ることができ、エンジン駆動の振動を少なくして、快適に走行できる車両を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るエンジンユニットを備える自動二輪車の左側面図
【図2】図1に示すエンジンユニットが備える変速装置の構成の説明に供する概略模式図
【図3】図1に示す自動二輪車におけるエンジンユニットにおいて各軸部の位置関係を模式的に示す左側面図
【図4】図1に示す自動二輪車におけるエンジンユニットの拡大図
【図5】図3のA−A線で示す部位に相当する変速装置の断面図
【図6】図4のB−B線矢視断面図
【図7】同変速装置において第2クラッチを覆うハウジングカバーを取り外したエンジンユニットの部分平断面図
【図8】同変速装置において第2クラッチを覆うハウジングカバーを取り外したエンジンユニットの左側面図
【図9】同変速装置において第2クラッチを覆うハウジングカバーを取り外したエンジンユニットを備える自動二輪車の左側面図
【図10】同変速装置においてハウジングカバーと第2クラッチとを取り外したエンジンユニットの部分平断面図
【図11】同変速装置においてハウジングカバーと第2クラッチとを取り外したエンジンユニットの左側面図
【図12】同変速装置においてハウジングカバー、第2クラッチ及びベルハウジング、第1クラッチカバーを取り外したエンジンユニットの部分平断面図
【図13】同変速装置においてハウジングカバー、第2クラッチ及びベルハウジングを取り外したエンジンユニットの左側面図
【図14】同変速装置においてハウジングカバー、第2クラッチ及びベルハウジングを取り外したエンジンユニットを備える自動二輪車の左側面図
【図15】同変速装置において第1クラッチカバーを示す自動二輪車の右側面図
【図16】本発明の一実施の形態に係るエンジンユニットの変形例を示す概略模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態ではエンジンユニットを備える車両を自動二輪車として説明する。また、本実施の形態において前,後,左,右とは、上記自動二輪車のシートに着座した状態で見た場合の前,後,左,右を意味する。
【0014】
本実施の形態のエンジンユニットは変速装置を有し、この変速装置は、奇数段と偶数段の変速ギア段の動力伝達をそれぞれ交互に行うことで、切れ目ない変速を実現する複数の摩擦伝動式のクラッチを備える。本実施の形態の変速装置は、1基のエンジンとともにエンジンユニットを形成し、車両である自動二輪車に搭載されている。なお、本実施の形態に係るエンジンユニットが搭載される車両を自動二輪車としたが、これに限らない。本実施の形態に係るエンジンユニットが搭載される車両としては、運転者が跨いで乗車する鞍乗り型車両、例えば、3輪或いは4輪の鞍乗り型車両としてもよい。まず、本実施の形態に係る変速装置を備えるエンジンユニットが搭載された自動二輪車の概要について説明する。
【0015】
(1)自動二輪車の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える自動二輪車の左側面図である。
【0016】
図1に示すように、自動二輪車10では、メインフレーム1の前端側にヘッドパイプ2が設けられている。このメインフレーム1は、後方に延びつつ下方に傾斜して形成され、その内部には、エンジン6、変速装置100等を含むエンジンユニット8が配置されている。ヘッドパイプ2には、上部にハンドル5が取り付けられたフロントフォーク3が回動可能に設けられ、このフロントフォーク3の下端で回転自在に取り付けられた前輪4を支持している。
【0017】
このハンドル5には、運転者の操作によりエンジンユニット8(図2参照)の変速装置100に変速動作させるシフトスイッチ7(図2参照)が設けられている。なお、シフトスイッチ7は、図示しないがシフトアップボタンおよびシフトダウンボタンを有する。これらシフトアップボタンが運転者に押下されることによって、変速装置100はシフトアップ動作を実行し、シフトダウンボタンが運転者に押下されることによって、変速装置100はシフトダウン動作を実行する。
【0018】
メインフレーム1において、エンジンユニット8の上方にシート9及び燃料タンク9aが配置されている。なお、これらシート9及び燃料タンク9aとエンジンユニット8との間には、自動二輪車10の各部の動作を制御するECU11(Electronic Control Unit;電子制御ユニット、図2参照)が配設されている。このECU11(図2参照)によって、1基のエンジン6に対して、それぞれ奇数段と偶数段の変速ギア段(変速ギア機構)の動力伝達を行う2基の摩擦伝動式クラッチを装備したツインクラッチ式の変速装置100の動作は制御される。
【0019】
また、メインフレーム1内に配置されたエンジンユニット8において、エンジン6のクランクシャフト60(図2参照)は、シリンダヘッドの下方で車両の前後方向に直交する方向(左右方向)に略水平に延在するように配置されている。このクランクシャフト60は、車両中心軸を中心部分に位置させて左右に延びており、車両の左右方向の略中心に配置されている。エンジン6は、クランクシャフト60を収容するクランクケース801(図4及び図6参照)から前側上方に斜めに突出してシリンダ64が配置されている。
【0020】
このように配置されたエンジン6の後方側には、クランクシャフト60に接続され、クランクシャフト60を介して入力される動力を用いる変速装置100が設けられている。なお、エンジン6と変速装置100との間に、変速装置100にギアシフトさせるモータ83(図13及び図14参照)が配設されている。このモータ83(図2参照)は、変速装置100のシフト機構80のシフトカム81(図2参照)を回転駆動してギアシフトを行う。
【0021】
また、メインフレーム1において下方に傾斜する後端辺部から、リアアーム12が後方に延在して接合されている。リアアーム12は、後輪13と、ドライブチェーン14が巻回されたドリブンスプロケット15とを回転可能に保持している。
【0022】
変速装置100は、車両において、変速機構70の左右方向全幅における略中心と自動二輪車10の左右方向における中心CL(図5参照)、つまり、車両中心面とが一致する或いは近接するように設けられている。なお、車両中心面とは、車両を水平面に対して垂直に立てた状態において、車両中心線を通る鉛直な面を意味する。
【0023】
(2)変速装置100の全体構成
図2は、図1に示すエンジンユニット8が備える変速装置100の構成の説明に供する概略図であり、図3は、図1に示す自動二輪車のエンジンにおいて各軸部の位置関係を模式的に示す左側面図である
【0024】
図2に示す変速装置100は、クランクシャフト60から伝達されるトルクを可変して後輪13側に伝達する変速機構70と、変速機構70における可変動作を行うシフト機構80とを有する。なお、エンジン6は、クランクシャフト60と、カム軸駆動部110と、発電機120と、バランスシャフト140とを有する。これらカム軸駆動部110、発電機120及びバランスシャフト140は、クランクシャフト60の回転により駆動する。
【0025】
(2−1)変速機構70の概略構成
変速機構70は、第1メインシャフト(第1主軸部)71と、第2メインシャフト(第2主軸部)72と、ドライブシャフト(出力軸)73と、第1クラッチ74と、第2クラッチ75とを有する。変速機構70は、更に、第1クラッチアクチュエータ77と、第2クラッチアクチュエータ78と、シャフト71〜73間の動力伝達を行う各ギア791〜796、711、712、721、722、731、732と、ドライブスプロケット(以下「スプロケット」という)76等とを有する。
【0026】
第1メインシャフト(第1主軸部)71、第2メインシャフト(第2主軸部)72及びドライブシャフト(出力軸)73は、車両と直交する方向で略水平に配置されたクランクシャフト60と平行に配置される。
【0027】
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72を挟んで車両の左右側にそれぞれ配置されている。クランクシャフト60の両端部には、それぞれカム軸駆動部110と、エンジンの補機(Accessory Drive)としての発電機120とが配設されている。
【0028】
なお、補機はエンジンにより駆動されるもの、エンジン駆動で用いられる機器であり、例えば、発電機、エンジン駆動に必要なエンジンスタータ、エンジンによって駆動する冷却ファン(Cooling fan)、ウォーターポンプ等のポンプ類等がある。カム軸駆動部110は、エンジン6の動弁系カム軸を駆動する。ここでは、カム軸駆動部110は、図3に示すように、カムチェーン112と、カムチェーン112が巻回されるとともに、クランクシャフト60に固定されクランクシャフト60の回転に伴い回転するカムギア114とを有する。
【0029】
このカムチェーン112は、吸排気用弁を駆動するカム動弁軸116のギアに巻回されている。これにより、クランクシャフト60の回転によりカムギア114は回転し、この回転に伴いカムチェーン112を介してカム動弁軸116を回転させる。発電機120は、車両中心線CLを通る車両中心面を挟み、平面視して、カム駆動部110に対して左右に離間して配置されている。
【0030】
図2に戻り、変速機構70では、第1及び第2メインシャフト71、72に伝達される動力は、各ギア791〜796、711、712、721、722、731、732を適宜選択して、後方に配置されたドライブシャフト73に伝達される。ドライブシャフト73の一端部(左側端部)に固定されたスプロケット76には、後輪13の回転軸に設けられたドリブンスプロケット15に巻回されたドライブチェーン14が巻回されている。スプロケット76が、ドライブシャフト73の回転に伴い回転することによって、ドライブチェーン14を介して駆動力を駆動輪である後輪13(図1参照)に伝達される。
【0031】
第1メインシャフト71において奇数段の変速ギア段(各ギア791、793、795、711、712、731)を介して後輪13に出力する駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72において偶数段のギア段(各ギア792、794、796、721、722、732)を介して後輪13に出力する駆動力の伝達部位とは、略同径の外径である。
【0032】
また、これら第1メインシャフト71の駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72の駆動力の伝達部位とは、同心円上で重なることなく配置されている。この変速機構70では、互いに同径の外径を有する第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72が同一軸線上に左右に並べて配設され、それぞれ独立で回動する。
【0033】
第1メインシャフト71は、第1クラッチ74に連結され、第2メインシャフト72は、第2クラッチ75に連結されている。第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、車両中心線(CL)を中心に略線対称の位置で、左右方向で離間して配置されている。第2クラッチ75は、第2メインシャフト72に、スプロケット76の少なくとも一部とドライブシャフト73の軸方向側方で重なる位置で脱着自在に接続されている。なお、ここでは、第1クラッチ74も、第1メインシャフト71に、ドライブシャフト73の軸方向側方で重なる位置で脱着自在に接続されている。
【0034】
第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77のプルロッド77aに連結されている。第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77を介してECU11により動作を制御され、奇数ギア(1速ギア791、3速ギア793および5速ギア795)群を有する奇数ギア段の動力伝達を行う。
【0035】
また、第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78のプルロッド78aに連結されている。第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78を介してECU11により動作を制御され、偶数ギア(2速ギア792、4速ギア794および6速ギア796)群を有する偶数ギア段の動力伝達を行う。
【0036】
変速機構70において各ギア791〜796、711、712、721、722、731、732に対して行われるギアシフトは、シフト機構80におけるシフトカム81の回転によって可動するシフトフォーク811〜814によって行われる。
【0037】
このように変速装置100を用いた自動二輪車10では、クランクシャフト60からのエンジン6の駆動力は、第1及び第2クラッチ74、75、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72を有する独立の2系統からドライブシャフト73を介して出力される。この出力された駆動力は、ドライブチェーン14を介してドリブンスプロケット15に伝達され、後輪13を回転させる。
【0038】
(2−2)シフト機構80
シフト機構80は、変速装置100において、シフトフォーク811〜814を介して、変速機構70の各スプラインギア712、722、731、732を軸方向移動してギアシフトを行う。
【0039】
具体的には、シフト機構80は、シフトフォーク811〜814と、シフトフォーク811〜814をそれぞれ可動させるシフトカム81と、シフトカム81を回転駆動させるシフトカム駆動装置82と、モータ83と、伝動機構84とを有する。
【0040】
シフトフォーク811〜814は、先端部で各スプラインギア731、712、722,732に連結され、それぞれ長尺をなしている。シフトフォーク811〜814は、各スプラインギア731、712、722,732とシフトカム81との間に架設されており、互いに、第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73、シフトカム81の軸方向で離間して配置されている。これらシフトフォーク811〜814は互いに平行するように並べられ、それぞれが円筒状のシフトカム81における回転軸の軸方向に移動自在に配置されている。
【0041】
シフトフォーク811〜814は、基端側のピン部を、シフトカム81の外周に形成された4本のカム溝81a〜81dにおけるそれぞれの溝内に、移動自在に配置させている。すなわち、シフトフォーク811〜814は、シフトカム81を原節とした従節をなしており、シフトカム81のカム溝81a〜81dの形状によって第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73の軸方向にスライド移動する。このスライド移動によって、先端部に連結される各スプラインギア731、712、722,732は、各々の内径に挿通されている各軸上を軸方向にそれぞれ移動する。
【0042】
シフトカム81は、第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73と平行に配置される回転軸を中心に回転する。このシフトカム81は、伝動機構84を介してシフトカム駆動装置82に伝達されるモータ83の駆動力によって回転駆動する。この回転によって、カム溝81a〜81dの形状に応じてシフトフォーク811〜814のうち少なくとも一つを回転軸の軸方向に移動させる。
【0043】
このようなカム溝81a〜81dを有するシフトカム81の回転に追従して可動するシフトフォーク811〜814によって、その移動したシフトフォークに連結されるスプラインギアが移動して、変速装置100(変速機構70)のギアシフトが行われる。
【0044】
本実施の形態においては、運転者がシフトスイッチ7のシフトアップボタンまたはシフトダウンボタンを押下することによって、そのことを示す信号(以下、シフト信号と称する)がシフトスイッチ7からECU11へ出力される。ECU11は、入力されるシフト信号に基づいて、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78ならびにモータ83を制御する。この制御によって、第1および第2クラッチ74,75のいずれか一方、または、これらクラッチ74,75の両方が切断されるとともにシフトカム81が回転し、変速装置100(変速機構70)のギアシフトを行う。
【0045】
なお、このシフト機構80は、変速装置100において、変速機構70の上部、言い換えれば、エンジンユニット8の上部に配置されている(図13及び図14参照)。具体的には、シフト機構80のモータ(シフトアクチュエータ)83は、エンジン6におけるシリンダとトランスミッションケース(以下、「ミッションケース」という)802において第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の斜め前方に配置されている(図13及び図14参照)。シフトカム駆動装置82は、ドライブシャフト73の上方で、且つ、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の斜め後ろ上方に配置されている。これらモータ83とシフトカム駆動装置82との間に伝達機構(ロッド)84が架設されており、燃料タンク9a下方のスペースに効率よく配置されている。
【0046】
ここで、変速装置100の変速機構70について、より具体的な構成を説明する。
【0047】
(2−1)変速装置の変速機構
図5は、図3のA−A線で示す部位に相当する変速装置の断面図であり、図6は、図4のB−B線矢視断面図である。なお、図5では、便宜上、構成部材の断面を示すハッチングは省略し、ベルハウジング部分にのみハッチングを施している。なお、図6では、シリンダ64のうち左側の2つのシリンダ及びこれらシリンダ上部のカム軸部分をB−B線とは異なる部分断面として、右側の2つシリンダで示すプラグ119を中心に前後に配置される吸気弁118a、排気弁118bを示している)
【0048】
変速機構70は、エンジン6を一体的に備えるエンジンユニット8のユニットケース800内に配設されている。
【0049】
ユニットケース800では、クランクケース801内部のシャフト収容部801aに、クランクシャフト60が左右方向に向けて配設されている。このシャフト収容部801aに隣接し、且つ、シャフト収容部801aの長手方向に沿って中空のミッションケース802が形成されている。このようなシャフト収容部801aと、ミッションケース802を含む領域に変速機構70は配設されている。
【0050】
ユニットケース800は、クランクケース801、ミッションケース802、カム軸駆動部カバー(カムチェーンカバー)803、第1クラッチカバー804、第2クラッチケース150を有する。図5において、T1はクランクケース801及びミッションケース802と第1クラッチカバー804との間の分割線、T2は第2クラッチケース150におけるベルハウジング152とハウジングカバー154との分割線をそれぞれ示している。また、図5において、T3はクランクケース801とカム軸駆動部カバー803との分割線を示している。
【0051】
このユニットケース800では、クランクケース801の左側端部には、カム軸駆動部110を左側から覆うカム軸駆動部カバー803が着脱自在に取り付けられている。なお、このカム軸駆動部カバー803は、単独で、クランクケース801にボルトで固定されている。
【0052】
また、クランクケース801の右側端部には、第1クラッチ74とともに発電機(ACM)120を右側から覆う第1クラッチカバー804が着脱自在に取り付けられている。
【0053】
また、ミッションケース802の左側端部には、第2クラッチ75を収容する第2クラッチケース150が、ドライブシャフト73の軸方向側方で重なる位置で着脱自在に取り付けられている。
【0054】
第2クラッチケース(第2クラッチ75のケーシング部材)150は、ドライブチェーン14のメンテナンスのために、ドライブチェーン14の有る側にクランクケース801に対して脱着可能に形成している。
【0055】
この第2クラッチケース150は、第2メインシャフト72を挿通してミッションケース802に着脱自在に取り付けられるベルハウジング152と、第2クラッチ75を覆うようにベルハウジング152に着脱自在に取り付けられるハウジングカバー154とを有する。
【0056】
ベルハウジング152は、ドライブシャフト73及びスプロケット76と、第2クラッチ75と、を仕切る隔壁部材である。ベルハウジング152は、ミッションケース802の後方で左側方に突出するドライブシャフト73の左側端部を左側方から覆うことで、第2クラッチケース150内の第2クラッチ75と、後輪13への駆動力伝達装置であるスプロケット76とを隔てている。
【0057】
このベルハウジング152は、第1クラッチ74及び第2クラッチ75のうち左右方向の一方側に位置する一方側のクラッチ(ここでは第2クラッチ75)とスプロケット76とを隔てる位置に配置されている。ベルハウジング152は、第2クラッチ75とともに変速装置100(詳細にはミッションケース802)から着脱自在となっている。なお、図5では、便宜上、ベルハウジング152をハッチングで示す。
【0058】
クランクケース801のシャフト収容部801a内には、クランクシャフト60とともに、クランクシャフト60と平行にバランスシャフト140が回動自在に配設されている。
【0059】
このバランスシャフト140は、クランクシャフト60と共にカウンターウェイトとして機能し、クランクシャフト60に発生する偶力に対応して配置されており、この偶力が車両に振動として伝達することを防止する。
【0060】
バランスシャフト140は、クランクシャフト60よりも短く、クランクシャフト60の近傍に配設されている。ここでは、バランスシャフト140は、クランクシャフト60及び、ミッションケース802より前方で、且つ、エンジン6のシリンダ64より下方に配置されている(図3参照)。
【0061】
また、バランスシャフト140の一端(右側端)側にバランサドリブンギア142が固定されている。このバランサドリブンギア142は、クランクシャフト60に固定されたバランサ駆動ギア67に歯合している。なお、図5では、バランスシャフト140は、エンジンユニット8において、平面視して、車両中心線CL(車両中心面に相当)を基準にして発電機120側に配置されている。この位置によって、エンジンユニット8における左右の重量バランスを調整可能となっている。
【0062】
クランクシャフト60、バランスシャフト140等を収容するシャフト収容部801aに対して、ミッションケース802は、シャフト収容部801aの延在方向と平行に形成されている。
【0063】
ミッションケース802は、第1及び第2メインシャフト71、72の一部と、ドライブシャフト73と、各ギア791〜796、711、712、721、722、731、732とを収容している。
【0064】
第1クラッチカバー804において第1クラッチ74を覆う部位と、第2クラッチケース150のハウジングカバー154は、それぞれベル状に形成されている。これら第1クラッチカバー804と、第2クラッチケース150のハウジングカバー154とで、両クラッチ74,75を、エンジンユニット8(クランクケース801及びミッションケース802)の両側方(左右側)から覆う。
【0065】
図5に示すように、エンジンユニット8のユニットケース800内では、エンジン6(図1及び図6参照)のクランクシャフト60は、複数のクランクウェブ61及び62を有する。クランクシャフト60は、延在方向の中央部分を、車幅方向の略中心に位置するようにシャフト収容部801a内に配置されている。
【0066】
クランクシャフト60は、図6に示すように、コンロッド63を介してシリンダ64内のピストン65に接続されている。シリンダ64は、車両或いはエンジンユニット8の左右方向の略中心部分に位置するように、各軸71〜73の延在方向に沿って並べて配置されている。ここでは、エンジン6は、4つのシリンダ(4気筒)を有し、車両中心面或いは、エンジンユニット8の左右方向の略中心を挟み2気筒ずつ配置された構成としたが、1気筒でもよく、また2気筒以上のエンジンとしても良い。
【0067】
このクランクシャフト60は、その両端部をクランクケース801の両端側から突出させて、クランクケース801に回動自在に取り付けられている。
【0068】
クランクシャフト60における左右の両軸端部のうち、第2クラッチケース150のベルハウジング152が配置された側の軸端部に、カム軸駆動部110が取り付けられている。また、クランクシャフト60の両端部のうち、カム軸駆動部110が取り付けられていない側の端部に、発電機120が取り付けられている。これらカム軸駆動部110及び発電機120は、それぞれクランクシャフト60の回転により駆動する。
【0069】
カム軸駆動部110では、クランクシャフト60の左側端部に固定されたカムギア114が回転することによってカムチェーン112が回動する。
【0070】
カムチェーン112の回動によって、図3及び図6に示すように、カムチェーン112にギアを介して巻回されたカム動弁軸116が回転する。これにより、エンジン6では、カム軸のカムの回転により吸排気弁(図6では図中左側の2つのシリンダで吸気弁118a、排気弁118bを示し、図中右側の2つのシリンダでプラグ119を示す)が駆動する。
【0071】
カム軸駆動部110は、カム軸駆動部カバー(カムチェーンカバー)803により被覆されている。
【0072】
発電機120は、クランクシャフト60に固定されるロータ122と、ロータ122の外周に配置されたステータ124とを有する。発電機120は、第1クラッチカバー804の発電機カバー部分により被覆されている。クランクシャフト60の両軸端部60a、60bにそれぞれが取り付けられるカム駆動部110と発電機120とは排他的関係となっている。
【0073】
クランクシャフト60において発電機120が配設された軸端側に、バランスシャフト140に回転力を伝達するバランサ駆動ギア(バランスシャフト駆動ギア)67が固定されている。すなわち、バランスシャフト140は、変速装置100において車両中心面(車両中心線を通る面)に対して、駆動力伝達装置としてのドライブチェーン14の有る側とは、反対側で、クランクシャフト60から動力を伝達される。
【0074】
クランクシャフト60の軸上において、カム軸駆動部110の外径は、発電機120を含むエンジン駆動に関する補機類のどの外径よりも小さい。すなわち、ここでは、カム軸駆動部110をカバーするカム軸駆動部カバー803の直径は、補機の一つである発電機120を覆う発電機カバー部分804aの直径よりも小さいものとなっている。
【0075】
このクランクシャフト60における複数のクランクウェブ61のうち、クランクシャフト60の一端部のクランクウェブ61aは、外周にギア溝が形成された外歯歯車である。また、複数のクランクウェブ61のうち、クランクシャフト60の他端部側に固定されたクランクウェブ61bは、外周にギア溝が形成された外歯歯車である。
【0076】
クランクケース801の両端側(軸方向の両端側)で第1クラッチ74及び第2クラッチ75側(ここでは後方)には、開口部801b、801cが形成されている。これら開口部801b、801cから第1クラッチカバー804内及びベルハウジング152内に臨む位置にクランクウェブ61a、61bは配置される。
【0077】
外歯歯車であるクランクウェブ61a、61bのうち、クランクシャフト60の一端部に配置されるクランクウェブ61aは、シャフト収容部801a内において第1クラッチ74の第1プライマリドリブンギア(「第1入力ギア」ともいう)40と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の一端部のクランクウェブ61aから第1入力ギア40に伝達される動力は、第1クラッチ74を介して、クランクシャフト60の一端部側から第1メインシャフト71に伝達される。
【0078】
一方、クランクウェブ61a、61bのうち、他端部に配置されるクランクウェブ61bは、クラッチケース内において第2クラッチ75における第2プライマリドリブンギア(「第2入力ギア」といもいう)50と歯合している。
【0079】
この歯合により、クランクシャフト60の他端部のクランクウェブ61bから第2入力ギア50に伝達される動力は、第2クラッチ75を介して、クランクシャフト60の他端部側から第2メインシャフト72に伝達される。
【0080】
これらクランクウェブ61bと第2入力ギア50との歯合部分は、ユニットケース800においてシャフト収容部801aの他端側(左側)で第2クラッチケース150内に連通する連通部分に配置されている。この連通部分は、シャフト収容部801aの他端部側の開口部801cに連続する部分であり、ベルハウジング152の接合部分に形成された貫通孔150aと、開口部801cと、により形成される。すなわち、貫通孔150aは、ベルハウジング152と、ミッションケース802との接合部分に形成されている。貫通孔150aには、入力ギア50に歯合してクランクシャフト60側からの回転動力を伝達する動力伝達部分が配置されている。
【0081】
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、クランクシャフト60の両軸端部60a、60b、つまり、発電機120及びカム軸駆動部110のそれぞれに、クランクシャフト60の後方で対向して配置されている。第1クラッチ74には第1メインシャフト71の基端部71aが連結され、第2クラッチ75には、第2メインシャフト72の基端部72aが連結されている。
【0082】
第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、第1クラッチ74及び第2クラッチ75から互いに対向する方向に向かって延在して設けられている。第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、同一軸線上で、自動二輪車10の前後方向に対して略直角に交差する方向(ここでは左右方向)に配置されている。
【0083】
具体的には、第1メインシャフト71の先端部(他端部)71b側および第2メインシャフト72の先端部(他端部)72b側は、ミッションケース802内に挿入されている。ここでは、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、ミッションケース802に、それぞれの基端部(一端部)71a、72a側をそれぞれ、ミッションケース802の両側方向から左右に向かって突出させた状態で配設されている。
【0084】
同一軸線上で、互いに対向する第1メインシャフト71の先端部71b及び第2メインシャフト72の先端部72bどうしは、ミッションケース802内において、軸受802a、802bにそれぞれ挿入されて回動自在に軸支されている。なお、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bの端面どうしは、フランジ部802c内において、互いに対向する。これら軸受802a、802bは、ミッションケース802の内面の略中央から後方に突出するフランジ部802cの開口部に内嵌されている。
【0085】
なお、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bは、ミッションケース802内のフランジ部802c内の軸受802a、802bに挿入されていることによってクランクケース801に回動自在に軸支されているが、これに限らない。
【0086】
例えば、中空の第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bの一方のみをミッションケース802内に設けられたフランジ部内の軸受で受けた構成とする。この構成において、先端部71b、72bの一方の内周にニードルベアリングを取り付けて、このニードルベアリング内に、先端部71b、72bの他方を挿入した構成とする。
【0087】
すなわち、同軸上に一列に並べて配置される第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72において隣り合う端部どうしの他方の端部を、一方の端部に回動自在に挿入する。加えて、他方の端部が回動自在に挿入された一方の端部のみを軸受を介してミッションケース802のフランジ部802cに支持させる。簡略して言えば、同軸上に配置された2つのメインシャフトのうち、一方のメインシャフトにおける端部に、他方のメインシャフトの端部を挿入し、一方のメインシャフトの当該端部のみをミッションケース802内において回動自在に支持させる。この構成によれば、メインシャフトの双方を中空にして、それぞれの中空部分を潤滑油の流路とする場合、2つのメインシャフトの双方が重なる端部または端部近傍の一点で潤滑油を流入させるだけで、メインシャフトの双方内に好適に潤滑油を流すことができる。
【0088】
このように、自動二輪車10における変速装置100では、ドライブシャフト(出力軸)73が、クランクシャフト60と平行に配置され、左右方向の一方側の端部に設けられたスプロケット76を介して後輪(駆動輪)13に駆動力を出力する。
【0089】
このドライブシャフト73と平行に、第1メインシャフト(第1主軸部)71と第2メインシャフト(第2主軸部)72とが配置されている。第1メインシャフト71は、クランクシャフト60から伝達される回転動力により回転して、奇数段の変速ギア機構を介してドライブシャフト73に出力する。また、第1メインシャフト71と同一軸心上の第2メインシャフト72は、クランクシャフト60から伝達される回転動力により回転し、偶数段の変速ギア機構を介してドライブシャフト73に出力する。
【0090】
また、変速装置100は、車両中心面に対して、左右に離間して配置された第1クラッチ74及び第2クラッチ75を有する。
【0091】
第1クラッチ74は、クランクシャフト60から第1メインシャフト71に伝達される回転動力を切断又は接続する。第2クラッチ75は、クランクシャフト60から第2メインシャフト72に伝達される回転動力を切断又は接続する。
【0092】
そして、変速装置100は、ミッションケース802に着脱自在に取り付けられ、且つ、左側からスプロケット76を覆うベルハウジング152と、このベルハウジング152側のクランクシャフト60の軸端部に配設されたカム軸駆動部110とを備える。
【0093】
変速装置100において後輪13に駆動力を伝達する駆動力伝達装置(ドライブチェーン14、ドライブシャフト73、スプロケット76等)のメンテナンスを行う場合について説明する。
【0094】
この変速装置100を備える自動二輪車10において、図5において、第2クラッチ75を覆うハウジングカバー154を変速装置100(具体的には、ミッションケース802)から取り外す。このとき、ハウジングカバー154は、その前側に位置するカム軸駆動部110を覆うカム軸駆動部カバー803に何ら干渉することなく取り外すことができる。
【0095】
すると、図7〜図9に示すように、エンジンユニット8の左側、つまり、自動二輪車10の左側で、第2クラッチ75が外部に露出する。なお、図7は、図5に示すエンジンユニット8からハウジングカバー154を取り外した状態を示す。また、図8及び図9は、図1に示すエンジンユニット8及び自動二輪車10からハウジングカバー154を取り外した状態を示す。
【0096】
これにより、図9に示すように第2クラッチ75に対して、変速装置100の一部として自動二輪車10に搭載された状態で、メンテナンスが可能となる。
【0097】
そして、ドライブシャフト73及びスプロケット76のうち、一方又は双方のメンテナンスを行う場合、ハウジングカバー154を変速装置100から取り外した後、つまり、図7〜図9に示す状態の後で、第2クラッチ75を取り外す。
【0098】
すると図10及び図11に示すように、エンジンユニット8の左側、つまり、自動二輪車10の左側で、ベルハウジング152が露出する。なお、図10は、図7に示すエンジンユニット8から第2クラッチ75を取り外した状態を示し、図11は、図8に示すエンジンユニット8から第2クラッチ75を取り外した状態を示す。
【0099】
図11に示すように、第2クラッチ75をミッションケース802から外した状態では、クランクシャフトに取り付けられたクランクウェブ61bの外歯が開口部801cから露出する。
【0100】
そして、ベルハウジング152をミッションケース802から取り外す。このとき、クランクシャフト60の左側の軸端部に取り付けられ、且つ、ベルハウジング152の前方に位置するカム軸駆動部110は、ベルハウジング152には干渉していない。
【0101】
このため、ベルハウジング152をミッションケース802から容易に取り外すことができる。これにより、図12〜図14に示すように、エンジンユニット8の左側、つまり、自動二輪車の左側で、ドライブシャフト73と、スプロケット76とが外部に露出する。
【0102】
なお、図12は、図10に示すエンジンユニット8からベルハウジング152及び第1クラッチカバー804を取り外した状態を示し、図13は、図11に示すエンジンユニット8からベルハウジング152を取り外した状態を示す。また、図14は、図9に示す自動二輪車10において、第2クラッチ75、ベルハウジング152を外した状態を示す。
【0103】
このように自動二輪車10では、変速装置100全体を車両本体から取り外すことなく、第2クラッチケース150、第2クラッチ75を外して、ドライブシャフト73、スプロケット76を外部に露出させることできる。すなわち、ツインクラッチ、バランスシャフト140を備えたエンジンユニット8において、ドライブチェーン14、ドライブシャフト73、スプロケット76を含む駆動力伝達装置のメンテナンスを、エンジン6が車両に搭載された状態で行うことができる。
【0104】
なお、自動二輪車10では、クランクシャフト60において、ベルハウジング152と反対側の軸端部に、発電機120が配設されている。
【0105】
図15は、変速装置100において第1クラッチカバー804を示す自動二輪車の右側面図である。詳細には、図15において、図15Aは、変速装置100の右側面図であり、図15Bは、図15Aでハッチングで示す第1クラッチカバー804をユニットケース800のミッションケース802から取り外した状態の変速装置100の右側面図である。
【0106】
この発電機120を覆う発電機カバー部分804aは、図5及び図15Aに示すように、第1クラッチカバー804として、第1クラッチ74を覆う部位と一体に形成されている。
【0107】
よって、第1クラッチカバー804をミッションケース802から取り外す(図12及び図15B参照)と、エンジンユニット8の右側、つまり、自動二輪車の右側で、第1クラッチ74ととともに発電機120を外部に露出させることができる。これにより、発電機120は、第1クラッチ74とともに、変速装置100を自動二輪車10に搭載した状態でメンテナンスを行うことができる。
【0108】
なお、変速装置100では、クランクシャフト60の両軸端部において、ベルハウジング152が有る側とは逆側の軸端部に発電機120が取り付けられた構成としたが、これに限らず、図16に示すように、発電機120以外の補機90が取り付けられても良い。
【0109】
<変形例>
図16は、本発明の一実施の形態に係るエンジンユニットの変形例を示す概略模式図である。
【0110】
なお、この図16に示すエンジンユニット8Aは、エンジンユニット8において、変速装置100における変速機構70において、発電機120に代えて、発電機以外の補機90とした変速装置100Aを備えるものである。これにより、エンジンユニット8Aは、エンジンユニット8と比較して、発電機120に代えて補機90とした構成以外は、同様の構成であり、同様の効果を有する。よって、エンジンユニット8Aの変速装置100Aにおいて、変速装置100と同様の構成には同名称、同符号を付して説明は省略する。
【0111】
図16に示すエンジンユニット8Aの変速装置100Aが備える補機(Accessory Drive)90は、エンジン駆動に必要なエンジンスタータ、エンジンによって駆動する冷却ファン(Cooling fan)、ウォーターポンプ等のポンプ類等が挙げられる。
【0112】
この変速装置100Aでは、車両の車両中心面を挟み左右に離間して配置された複数のクラッチ(第1クラッチ74及び第2クラッチ75)を備える。この変速装置100Aでは、バランスシャフト140と平行なクランクシャフト60の両端部に、カム軸駆動部110と補機90とが取り付けられている。なお、補機90は、車両中心面に対して、カム駆動部110と左右に離間して配置されている。また、補機90は、発電機120と同様に、第1クラッチカバー804に一体的に形成された補機カバー部分(発電機カバー部分に相当)により覆われる。これにより、補機90のメンテナンスは、エンジン6(図1参照)が自動二輪車両に搭載された状態で、第1クラッチカバー804を外すだけで、容易に行うことができる。
【0113】
このように、変速装置100Aでは、クランクシャフト60を挟んで左右にカム軸駆動部110と補機90とが離間して配置されている。これにより変速装置100Aは、エンジン6(図1参照)を含むエンジンユニット8Aの重量バランスの中心を車両中心面に近接させ、そのズレ量を小さく出来る。
【0114】
また、クランクシャフト60の右側の端部に、補機90が配置される一方で左側の端部、つまり、車両中心面に対してベルハウジング152が有る側の端部に、補機90よりも外径の小さいカム軸駆動部110が配置されている。
【0115】
これにより変速装置100Aにおいて、カム軸駆動部110を覆うカム軸駆動部カバー803(図5参照)と、補機90を覆う第1クラッチカバー804の補機カバー部分(図5の発電機カバー部分804aに相当)との外方への突出度合いを略同じ長さにできる。
【0116】
これにより、図6に示すように、変速装置100を備える自動二輪車10のバンク角(θ)が左右で著しく不均等になることを防止する。
【0117】
また、トランスミッション側の幅中心と、クランクシャフト60と同軸に配置する補機類(ここでは発電機120)を含めたエンジン6の幅中心とのズレ量が更に大きくなることが無い。これにより、自動二輪車のバンク角(θ)が左右でほぼ等しくなり、エンジン6を搭載する自動二輪車のバンク角(θ)が左右で著しく不均等になることがなく、二輪車に搭載するに好適である。
【0118】
このように、本実施の形態のエンジンユニット8、8Aにおいて、変速装置100、100Aは、バランスシャフト140とともに、クランクシャフト60における左右の両軸端部側にそれぞれ第1クラッチ74、第2クラッチ75を備える。また、変速装置100、100Aは、ドライブチェーン14、ドライブシャフト73及びスプロケット76を含む駆動力伝達装置を、側方から覆うベルハウジング152を有する。
【0119】
ベルハウジング152は、第2クラッチ75と動力伝達装置(特にスプロケット76)とを隔てる隔壁部材である。ベルハウジング152は、エンジンユニット8(主に変速装置100)を車両に搭載した状態で、ミッションケース802から第2クラッチ75とともに着脱できる。
【0120】
変速装置100、100Aでは、クランクシャフト60における両軸端部のうち、ベルハウジング側の軸端部60bにはカム軸駆動部110が配設され、カム軸駆動部110はカム軸駆動部カバー803により覆われている。また、この変速装置100、100Aでは、クランクシャフト60における両軸端部のうちの一方と逆側の軸端部60aには、発電機120或いは補機90が配設されている。これらは、第1クラッチ74を覆う第1クラッチカバー804に一体的に形成されたカバー部分(発電機カバー部分804a)により覆われている。
【0121】
また、変速装置100、100Aでは、クランクシャフト60が左右方向に配置され、ベルハウジング152を備える側に、発電機120、補機90等の補機類よりも外径の小さいカム軸駆動部110を配置している。すなわち、カム軸駆動部110をカバーするカム軸駆動部カバー803の直径は、発電機120を覆う発電機カバー部分の直径よりも小さい。
【0122】
よって、クランクシャフト60の左右の軸端部において、カム軸駆動部110は、ドライブチェーン14等の駆動力伝達装置を有する側、つまり、ベルハウジング152側に、これらに干渉することなく、単独で配置されている。
【0123】
このように、エンジンユニット8、8A及び自動二輪車10によれば、左右に複数のクラッチを備える構造において、バランスシャフト140によりエンジンの振動を効果的に防ぐことができる。加えて、バランスシャフト140を備えたツインクラッチ式の変速装置自体、ひいてはエンジンユニット8、8Aのコンパクト化及び重量バランスの均等化を図ることができる。よって、変速装置100、100Aにより、複数のクラッチを備えたエンジンユニット8、8Aにおいて、小型化を図ることができ、エンジン駆動の振動を少なくして、運転者に快適な走行をさせる車両を実現する。
【0124】
また、クランクシャフト60のベルハウジング152側に、カム軸駆動部110を覆うカム軸駆動部カバー803が、ベルハウジング152、ハウジングカバー154に干渉することなく、単独で配置されている。これにより、ベルハウジング152、ハウジングカバー(クラッチ部のカバー部材)154、発電機120のカバー部分の形成あるいは、これらとクランクケース801との密閉に用いるシールの取付が困難にならない。
【0125】
また、エンジンユニット8、8Aの変速装置100、100Aでは、偶数段の変速を行う動力伝達経路を構成する第2クラッチ75、第2メインシャフト72側、つまり、車両の左側に、ベルハウジング152、カム軸駆動部110を配置した構成としたが、これに限らない。
【0126】
例えば、変速装置100、100Aを、車両中心面で左右反転させ、ドライブシャフト73の右端部に、後輪に駆動力を伝達するスプロケット76を設けて、車両の右側に、ベルハウジング152、カム軸駆動部110を配置した構成としてもよい。その際、クランクシャフト60の右側軸端部に、カム軸駆動部110が配置され、クランクシャフト60の左側軸端部に、発電機120或いは補機90が配置される構成となる。また、本実施の形態の変速装置100、100Aでは、車両右側、つまり、偶数段変速を行う動力伝達経路側に、ベルハウジング152、カム軸駆動部110を配置した構成としたが、これらを、奇数段変速を行う動力伝達経路側に配置した構成としてもよい。
【0127】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係るエンジンユニット、車両及び鞍乗り型車両は、複数のクラッチを備えた構成において、小型化を図ることができ、エンジン駆動の振動を少なくして、快適な走行を実現できる効果を有し、車両、鞍乗り型車両のうち特に、自動二輪車に搭載されるツインクラッチ式のエンジンユニットとして有用である。
【符号の説明】
【0129】
6 エンジン
8、8A エンジンユニット
10 自動二輪車(車両、鞍乗り型車両)
12 リアアーム
13 後輪
14 ドライブチェーン
15 ドリブンスプロケット
60 クランクシャフト
60a、60b 軸端部
67 バランサ駆動ギア
70 変速機構
71 第1メインシャフト(第1主軸部)
71a、72a 基端部
71b、72b 先端部
72 第2メインシャフト(第2主軸部)
73 ドライブシャフト(出力軸)
74 第1クラッチ
75 第2クラッチ
76 スプロケット(ドライブスプロケット)
77 第1クラッチアクチュエータ
78 第2クラッチアクチュエータ
80 シフト機構
81 シフトカム
82 シフトカム駆動装置
83 モータ
84 伝動機構
90 補機
100、100A 変速装置
110 カム軸駆動部
112 カムチェーン
114 カムギア
116 カム動弁軸
118a 吸気弁
118b 排気弁
119 プラグ
120 発電機
122 ロータ
124 ステータ
140 バランスシャフト
142 バランサドリブンギア
150 第2クラッチケース
150a 貫通孔
152 ベルハウジング
154 ハウジングカバー
711、712、721、722、731、732、791、792、793、794、795、796 ギア(変速ギア機構)
800 ユニットケース
801 クランクケース
801a シャフト収容部
801b、801c 開口部
802 ミッションケース
803 カム軸駆動部カバー
804 第1クラッチカバー
804a 発電機カバー部分(補機カバー部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載される車両の略左右方向に配置されるクランク軸と、
前記クランク軸と平行に配置され、前記左右方向の一方側の端部に設けられたスプロケットを介して駆動輪に駆動力を出力する出力軸と、
前記出力軸と平行に配置され、前記クランク軸から伝達される回転動力により回転し、奇数段の変速ギア機構を介して前記出力軸に出力する第1主軸部と、
前記第1主軸部と同一軸心上に配置され、前記クランク軸から伝達される回転動力により回転し、偶数段の変速ギア機構を介して前記出力軸に出力する第2主軸部と、
車両中心線を通る車両中心面に対して左右に離間して設けられ、前記出力軸の左右の両側方にそれぞれ位置する第1クラッチ及び第2クラッチと、を有し、第1クラッチにより前記クランク軸から前記第1主軸部に伝達される前記回転動力を切断又は接続し、第2クラッチにより前記クランク軸から前記第2主軸部に伝達される前記回転動力を切断又は接続するエンジンユニットであって、
前記第1クラッチ及び第2クラッチのうち前記左右方向の一方側に位置する一方側のクラッチと前記スプロケットとを隔てる位置にベルハウジングが、前記一方側のクラッチとともに着脱自在に設けられ、
前記クランク軸の一方側の端部には、エンジンの動弁系カム軸駆動用のカム軸駆動部が配設されている、
エンジンユニット。
【請求項2】
前記カム軸駆動部は、カムチェーンと、
カムチェーンが巻回されるとともに、前記クランク軸に固定されクランク軸の回転に伴い回転するカムギアとを有する、
請求項1記載のエンジンユニット。
【請求項3】
前記クランク軸の他方の端部には、クランク軸の回転により駆動する補機が配設されている、
請求項1又は2記載のエンジンユニット。
【請求項4】
前記補機は、発電機である、
請求項3記載のエンジンユニット。
【請求項5】
前記補機は、冷却ファンである、
請求項3記載のエンジンユニット。
【請求項6】
前記補機は、スタータ駆動ギア、ウォーターポンプのうちの一つである、
請求項3記載のエンジンユニット。
【請求項7】
前記クランク軸に平行に配置され、前記クランク軸の回転により駆動するバランスシャフトを備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載のエンジンユニット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のエンジンユニットを備える車両。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載のエンジンユニットを備える鞍乗り型車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−96261(P2013−96261A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237823(P2011−237823)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】