説明

エンジン制御装置

【課題】 触媒劣化診断の精度を従来よりもいっそう向上させる。
【解決手段】 エンジン制御装置(3)は、圧縮比を変更可能に構成されたエンジン(1)の運転を制御するものであって、ガスセンサ(318b)と、圧縮比制御部及び触媒診断部(300)と、を備えている。ガスセンサは、エンジンから排出される排気ガスを浄化するための触媒(205)よりも排気ガスの流動方向における下流側の排気通路(202)に介装されていて、触媒を通過した排気ガス中の特定成分の濃度に対応した出力を生じるようになっている。圧縮比制御部(300)は、運転状態に応じてエンジンの圧縮比を制御するようになっている。触媒診断部(300)は、ガスセンサの出力に基づいて触媒の劣化度を診断するようになっている。圧縮比制御部は、触媒診断部による触媒の劣化度の診断中に、圧縮比の変更を禁止するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比を変更可能に構成されたエンジンの運転を制御する、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンを搭載したシステム(例えば自動車等)においては、排気ガスを浄化するために、排気通路に触媒が介装されている。この触媒が、燃料中の有害成分(鉛や硫黄等)等により劣化すると、排気ガス浄化率が悪化し、排気エミッションが増大する。そこで、この劣化を判定するための装置が、従来種々提案されている(例えば特開平5−133264号公報等)。
【0003】
この種の触媒として、いわゆる三元触媒が広く用いられている。この三元触媒は、酸素吸蔵機能あるいは酸素貯蔵機能と称される機能を有している。この機能は、(1)燃料混合気の空燃比がリーンである場合に、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)から酸素を奪うことでNOxを還元して、この奪った酸素を内部に吸蔵(貯蔵)するとともに、(2)燃料混合気の空燃比がリッチである場合に、吸蔵されている酸素を排気ガス中の未燃成分(HC,CO等)の酸化のために放出する、という機能である。
【0004】
したがって、三元触媒が吸蔵し得る酸素量(以下、「酸素吸蔵量」と称する。)の最大値(以下、「最大酸素吸蔵量」と称する。)が大きいほど、三元触媒の浄化能力は高くなる。換言すれば、三元触媒の劣化状態は、最大酸素吸蔵量によって判定され得る。
【0005】
そこで、特開平5−133264号公報に開示された触媒劣化度検出装置は、以下のように構成されている。排気通路における三元触媒の上流側には、第1空燃比センサが配置されている。また、排気通路における三元触媒の下流側には、第2空燃比センサが配置されている。そして、かかる装置は、上述の三元触媒の劣化判定(最大酸素吸蔵量算出)を、以下のように行うようになっている。
【0006】
まず、エンジンのシリンダ内に供給される燃料混合気の空燃比が、所定のリーン空燃比に所定時間設定される。これにより、吸蔵能力の限界まで、三元触媒に酸素が吸蔵される。その後、燃料混合気の空燃比が、所定のリッチ空燃比に強制的に変化させられる。すると、第2空燃比センサにより検出される空燃比は、一定時間Δtだけ理論空燃比に維持された後に、リッチ側に変化する。このときの、理論空燃比とリッチ空燃比との差Δ(A/F)と、Δtと、吸入空気量と、に基づいて、最大酸素吸蔵量が求められる。
【特許文献1】特開平5−133264号公報
【特許文献2】特開2005−69129号公報
【特許文献3】特開2007−85300号公報
【発明の開示】
【0007】
ところで、従来、圧縮比を変更可能に構成されたエンジン(可変圧縮比エンジン)が知られている(例えば特開2005−69129号公報や特開2007−85300号公報等参照)。この可変圧縮比エンジンにおいては、圧縮比が変更されると、排気温度が変化する。これにより、触媒温度も変化する。触媒温度が変化すると、当該触媒の性能もまた変化する。具体的には、三元触媒の温度が上昇すると、最大酸素吸蔵量が大きくなる。
【0008】
したがって、触媒劣化診断中に、運転状態に応じて圧縮比が変更されると、触媒劣化診断の精度が悪くなる可能性がある。本発明は、かかる課題に対処するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、触媒劣化診断の精度を従来よりもいっそう向上させることにある。
【0009】
<構成>
本発明のエンジン制御装置は、圧縮比を変更可能に構成されたエンジンの運転を制御するように構成されている。ここで、「圧縮比」には、以下に説明するように、「機械的圧縮比」と、「実圧縮比」とがある。本発明は、機械的圧縮比を変更可能な場合に限定されず、広く実圧縮比を変更可能な場合に適用され得る。
【0010】
機械的圧縮比は、隙間容積(ピストン上死点における燃焼室容積)とピストン行程容積との和を隙間容積で割った値であって、公称圧縮比あるいは幾何学的圧縮比とも称される。この機械的圧縮比は、例えば、クランクシャフトが回転可能に支持されたクランクケースと、シリンダヘッドが上端部に固定されたシリンダブロックとを、シリンダの中心軸に沿って相対移動させることで変更され得る。あるいは、機械的圧縮比は、コンロッド(ピストンと前記クランクシャフトとを連結する部材)が屈曲可能に構成されている場合に、このコンロッドの屈曲状態を変更することで変更され得る。
【0011】
実圧縮比は、吸入空気に対する実効的な圧縮比であり、典型的には、吸入空気の圧縮開始時の燃焼室容積を圧縮終了時の燃焼室容積で割った値となる。この実圧縮比は、当然、上述のような機械的圧縮比の変更に伴って変更され得る。また、この実圧縮比は、機械的圧縮比の変更とともに、あるいは、機械的圧縮比の変更に代えて、吸気バルブや排気バルブの動作タイミングを可変とすることによって変更され得る。
【0012】
本発明の適用対象である前記エンジンには、排気通路が接続されている。この排気通路は、前記エンジンから排出される排気ガスの通路である。この排気通路には、触媒が介装されている。この触媒は、前記排気ガスを浄化するように構成されている。
【0013】
本発明のエンジン制御装置は、ガスセンサと、圧縮比制御部と、触媒診断部と、を備えている。
【0014】
前記ガスセンサは、前記触媒よりも前記排気ガスの流動方向における下流側の前記排気通路に設けられている。このガスセンサは、前記触媒を通過した前記排気ガス中の特定成分の濃度(例えば酸素濃度)に対応した出力を生じるように構成されている(このガスセンサは燃料混合気の空燃比に対応する出力を生じるために「空燃比センサ」とも称され得る)。
【0015】
前記触媒診断部は、前記ガスセンサの出力に基づいて前記触媒の劣化度を診断するように構成されている。ここで、この触媒診断部は、例えば、以下のように構成され得る:この触媒診断部は、前記ガスセンサの出力に基づいて前記触媒の最大酸素吸蔵量を取得する最大酸素吸蔵量取得部を備えている。そして、この触媒診断部は、前記最大酸素吸蔵量取得部による前記最大酸素吸蔵量の取得値と、所定の基準値と、に基づいて、前記劣化度を診断するように構成されている。
【0016】
また、本エンジン制御装置は、前記触媒の温度を取得する温度取得部をさらに備え得る。具体的には、この温度取得部は、圧縮比と、前記エンジンの吸入空気量に関連するパラメータと、に基づいて、前記温度を推定するように構成され得る。あるいは、この温度取得部は、前記触媒に装着された温度センサから構成され得る。
【0017】
前記圧縮比制御部は、運転状態に応じて前記エンジンの圧縮比を制御するように構成されている。
【0018】
※本発明の特徴は、前記圧縮比制御部が、前記触媒診断部による前記劣化度の診断中(少なくとも前記最大酸素吸蔵量取得部による前記最大酸素吸蔵量の取得中)に、圧縮比の変更を禁止するように構成されていることにある。
【0019】
※本発明においては、以下のように、所定条件下で、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更が許可されるように構成され得る(この場合、前記触媒診断部は、圧縮比の変更量が所定の上限量よりも大きい場合に、前記劣化度の診断を中断するように構成され得る。)。
【0020】
・本エンジン制御装置は、前記触媒の使用期間(車両走行距離、燃焼サイクル数、機関運転時間、等)を取得する使用期間取得部をさらに備え得る。この場合、前記圧縮比制御部は、前記使用期間が所定レベルより小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可するように構成され得る。
【0021】
・前記圧縮比制御部は、前記劣化度又はその変動が所定レベルより小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可するように構成され得る。
【0022】
・前記圧縮比制御部は、圧縮比の変更量が所定量(前記劣化度の診断の中断条件である前記上限量とは一応区別される)より小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可するように構成され得る。
【0023】
・前記圧縮比制御部は、前記触媒の前記温度に応じて、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可するように構成され得る。具体的には、例えば、前記圧縮比制御部は、前記温度が所定温度より高い場合に、前記触媒の保護のために、前記劣化度の診断中に圧縮比を高くする変更を許可するように構成され得る。
【0024】
前記触媒診断部は、前記温度に応じて前記劣化度の診断を中断するように構成され得る。具体的には、例えば、前記触媒診断部は、前記温度が所定範囲外である場合に、前記劣化度の診断を中断するように構成され得る。あるいは、前記触媒診断部は、前記触媒の診断中における圧縮比の変更による前記温度の変動が、所定温度差よりも大きい(と推定される)場合に、前記劣化度の診断を中断するように構成され得る。
【0025】
※前記触媒診断部は、前記劣化度の診断結果に基づいて前記触媒の異常判定を行う、異常判定部をさらに備え得る。この場合、前記異常判定部は、今回の前記劣化度の診断中に圧縮比が変更された場合、前回の前記診断結果と今回との前記診断結果の差が所定レベルより小さいときに、今回の前記診断結果に基づいて前記異常判定を行うように構成され得る。
【0026】
※本エンジン制御装置は、前記ガスセンサの出力波形が安定しているか否かを判定するセンサ判定部をさらに備え得る。この場合、前記触媒診断部は、前記出力波形が安定していないと判定されたときに、前記劣化度の診断を中断するように構成され得る。
【0027】
<作用・効果>
※本発明のエンジン制御装置においては、前記触媒診断部による前記触媒の前記劣化度の診断中には、圧縮比の変更が(原則的に)禁止される。これにより、圧縮比の変更に起因する、前記触媒の温度の変動が、良好に抑制され得る。したがって、触媒劣化診断の精度が従来よりもいっそう向上され得る。
【0028】
※例えば、前記触媒が新品あるいはそれに近い状態である場合、当該触媒の温度変化に伴う性能変化の度合いは小さく、前記劣化度及び/又はその変動も比較的小さい。このような場合、前記触媒の前記劣化度の診断中に、運転状態に応じて圧縮比が変更されても、(圧縮比や触媒温度の変動が過大でない範囲であれば)前記劣化度の診断に関する特段の問題は生じない。
【0029】
また、前記触媒の前記劣化度の診断中に、圧縮比を低くする要求がある場合(例えば前記エンジンを搭載する車両の加速時等)、かかる要求を許可して圧縮比を低下させても、これによって排気温度が上昇して前記触媒の性能が向上(前記最大酸素吸蔵量が増大)する。よって、この場合、前記触媒の前記劣化度の診断中に圧縮比を低下させても、(低下幅が過大でなければ)特段の問題は生じない。
【0030】
このように、前記触媒の前記劣化度の診断中に、運転状態に応じて圧縮比が変更されても差し支えない場合があり得る。そこで、このような場合、前記触媒の前記劣化度の診断中であっても、圧縮比の変更禁止が解除(圧縮比の変更が許可)され得る。これにより、触媒劣化診断の精度を悪化させることなく、運転者要求を良好に満足させることが可能になる。
【0031】
※前記触媒の前記劣化度の診断中に圧縮比が(比較的大幅に)変更されることで、前回の前記診断結果と今回との前記診断結果の差が大きくなり、今回の前記診断結果の信頼性が乏しくなる場合があり得る。
【0032】
そこで、このような場合、今回の前記診断結果が、前記触媒の前記異常判定に反映されないようにされ得る。換言すれば、前記触媒の前記劣化度の診断中に圧縮比が変更されても、今回の前記診断結果の信頼性があると考えられるとき(前回の前記診断結果と今回との前記診断結果の差が所定レベルより小さいとき)には、今回の前記診断結果に基づいて前記異常判定が行われ得る。これにより、触媒劣化診断の精度が、良好に維持され得る。
【0033】
※前記ガスセンサの出力に基づいて前記触媒の前記劣化度が診断されるため、当該ガスセンサの出力波形が安定していないと、前記劣化度の良好な診断は行われ難い。そこで、前記出力波形が安定していない場合、前記劣化度の診断が中断され得る。これにより、触媒劣化診断の精度が、良好に維持され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において出願人が最良と考えている実施形態)について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。実施形態に対する変形例(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、首尾一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0036】
<システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用されたシステムS(車両等)の全体構成を示す概略構成図である。このシステムSには、直列複数気筒のエンジン1が搭載されている(なお、図1には、気筒配列方向と直交する面によるエンジン1の側断面図が示されているものとする。)。
【0037】
このエンジン1は、後述するように、機械的圧縮比と吸排気バルブタイミングとを変更することで、実圧縮比を変更可能に構成されている。このエンジン1には、吸排気通路2が接続されている。また、本実施形態のエンジン制御装置3は、エンジン1の運転を制御するように構成されている。
【0038】
<エンジン>
エンジン1は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、クランクケース13と、可変圧縮比機構14と、を備えている。
【0039】
シリンダブロック11には、略円柱形状の貫通孔であるシリンダボア111が形成されている。シリンダボア111の内側には、ピストン112が、シリンダ中心軸(シリンダボア111の中心軸線)CCAに沿って往復移動可能に収容されている。
【0040】
シリンダブロック11の上端部(ピストン112の上死点側の、シリンダブロック11の端部)には、シリンダヘッド12が接合されている。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11に対して相対移動しないように、シリンダブロック11の前記上端部に対して、図示しないボルト等によって固定されている。
【0041】
シリンダヘッド12の下端部には、複数の凹部が、各シリンダボア111の上端部に対応する位置に設けられている。すなわち、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に接合されて固定された状態における、ピストン112の頂面よりも上側(シリンダヘッド12側)のシリンダボア111の内側の空間と、上述の凹部の内側(下側)の空間と、によって、燃焼室CCが形成されている。この燃焼室CCに連通するように、シリンダヘッド12には、吸気ポート121及び排気ポート122が形成されている。
【0042】
シリンダヘッド12には、また、吸気バルブ123と、排気バルブ124と、可変吸気バルブタイミング装置125と、可変排気バルブタイミング装置126と、インジェクタ127と、が備えられている。
【0043】
吸気バルブ123は、吸気ポート121と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。排気バルブ124は、排気ポート122と燃焼室CCとの連通状態を制御するためのバルブである。
【0044】
可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126は、吸気バルブ123及び排気バルブ124の開閉タイミングを変更することで、実圧縮比を変更し得るように構成されている。かかる可変吸気バルブタイミング装置125及び可変排気バルブタイミング装置126の具体的な構成については周知なので、その説明を省略する。
【0045】
インジェクタ127は、燃焼室CC内に供給するための燃料を、吸気ポート121内に噴射し得るように構成されている。
【0046】
クランクケース13内には、クランクシャフト131が回転可能に支持されている。クランクシャフト131は、気筒配列方向と平行に配置されている。このクランクシャフト131は、ピストン112のシリンダ中心軸CCAに沿った往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド132を介して、ピストン112と連結されている。
【0047】
本実施形態の可変圧縮比機構14は、シリンダブロック11とシリンダヘッド12との接合体を、クランクケース13に対して、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動させて、隙間容積を変更することで、機械的圧縮比を変更し得るように構成されている。
【0048】
可変圧縮比機構14は、特開2003−206771号公報や特開2007−85300号公報等に記載されているものと同様の構成を備えている。したがって、本明細書においては、この機構の詳細な説明は省略され、概要のみが説明されている。
【0049】
可変圧縮比機構14は、連結機構141と、駆動機構142と、を備えている。連結機構141は、シリンダブロック11とクランクケース13とを、シリンダ中心軸CCAに沿って互いに相対移動可能に連結するように構成されている。駆動機構142は、モータやギヤ機構等を備えていて、シリンダブロック11とクランクケース13とをシリンダ中心軸CCAに沿って(すなわち図中上下方向に沿って)互いに相対移動させ得るように構成されている。
【0050】
<吸排気通路>
吸排気通路2は、インテークマニホールドやサージタンク等を含む吸気通路201と、エキゾーストマニホールドを含む排気通路202と、を含んでいて、吸気通路201は吸気ポート121と接続され、排気通路202は排気ポート122と接続されている。
【0051】
吸気通路201には、スロットルバルブ203が介装されている。スロットルバルブ203は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ204によって回転駆動されるように構成されている。
【0052】
排気通路202は、排気ポート122を介して燃焼室CCから排出される排気ガスの通路である。この排気通路202には、上流側触媒205及び下流側触媒206が介装されている。上流側触媒205及び下流側触媒206は、酸素吸蔵機能を有する三元触媒をその内部に備えていて、排気ガス中のHC、CO、及びNOxを浄化可能に構成されている。上流側触媒205は、下流側触媒206よりも、排気ガスの流動方向における上流側に設けられている。
【0053】
<エンジン制御装置>
エンジン制御装置3は、本発明の触媒診断部、圧縮比制御部、最大酸素吸蔵量取得部、温度取得部、使用期間取得部、異常判定部、及びセンサ判定部を構成する、エンジン電子制御ユニット(以下、「ECU300」と称する。)300を備えている。
【0054】
ECU300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、バックアップRAM304と、インターフェース305と、バス306と、を備えている。CPU301、ROM302、RAM303、バックアップRAM304、及びインターフェース305は、バス306によって互いに接続されている。
【0055】
ROM302には、CPU301が実行するルーチン(プログラム)、及びこのルーチン実行の際に参照されるテーブル(ルックアップテーブル、マップ)やパラメータ等、が予め格納されている。RAM303は、CPU301がルーチンを実行する際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るように構成されている。バックアップRAM304は、電源が投入された状態でCPU301がルーチンを実行する際にデータが格納されるとともに、この格納されたデータが電源遮断後も保持され得るように構成されている。
【0056】
インターフェース305は、後述する各種のセンサと電気回路的に接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU301に伝達し得るように構成されている。また、インターフェース305は、可変吸気バルブタイミング装置125、可変排気バルブタイミング装置126、インジェクタ127、駆動機構142、等の動作部と電気回路的に接続されていて、これらの動作部を動作させるための動作信号をCPU301からこれらの動作部に伝達し得るように構成されている。すなわち、エンジン制御装置3は、インターフェース305を介して上述の各種のセンサからの信号を受け取り、当該信号に応じたCPU301の演算結果に基づいて、上述の動作信号を各動作部に向けて送出するように構成されている。
【0057】
<<各種センサ>>
冷却水温センサ311は、シリンダブロック11に装着されている。この冷却水温センサ311は、シリンダブロック11内の冷却水温Twに対応する信号を出力するように構成されている。
【0058】
クランクポジションセンサ312は、クランクケース13に装着されている。このクランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。具体的には、クランクポジションセンサ312は、クランクシャフト131が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに、クランクシャフト131が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するように構成されている。すなわち、クランクポジションセンサ312は、エンジン回転数Neに対応する信号を出力するように構成されている。
【0059】
吸気カムポジションセンサ313及び排気カムポジションセンサ314は、シリンダヘッド12に装着されている。吸気カムポジションセンサ313は、吸気バルブ123を往復移動させるための図示しない吸気カムシャフト(可変吸気バルブタイミング装置125に含まれている)の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。排気カムポジションセンサ314も、同様に、図示しない排気カムシャフトの回転角度に応じたパルスを有する波形の信号を出力するように構成されている。
【0060】
エアフローメータ315、吸気温センサ316、及びスロットルポジションセンサ317は、吸気通路201に装着されている。エアフローメータ315は、吸気通路201内を流れる吸入空気の質量流量である吸入空気流量Gaに対応する信号を出力するように構成されている。吸気温センサ316は、吸入空気の温度に対応する信号を出力するように構成されている。スロットルポジションセンサ317は、スロットルバルブ203の回転位相(スロットルバルブ開度TA)に対応する信号を出力するように構成されている。
【0061】
上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bは、排気通路202に介装されている。上流側空燃比センサ318aは、上流側触媒205よりも排気ガスの流動方向における上流側に配置されている。下流側空燃比センサ318bは、上流側触媒205よりも排気ガスの流動方向における下流側であって、下流側触媒206よりも同方向における上流側に配置されている。
【0062】
図2Aは、図1に示されている上流側空燃比センサ318aの出力特性を示すグラフである。図2Bは、図1に示されている下流側空燃比センサ318bの出力特性を示すグラフである。
【0063】
上流側空燃比センサ318aは、図2Aに示されているように、幅広い空燃比の範囲で比較的リニアな出力特性を有する全領域型の空燃比センサである。具体的には、この上流側空燃比センサ318aは、限界電流式酸素濃度センサから構成されている。
【0064】
本発明のガスセンサとしての下流側空燃比センサ318bは、図2Bに示されているように、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側にてほぼ一定である一方で理論空燃比の前後において急変する出力特性を有する空燃比センサである。具体的には、この下流側空燃比センサ318bは、固体電解質型のジルコニア酸素センサから構成されている。
【0065】
再び図1を参照すると、アクセル開度センサ319は、運転者によって操作されるアクセルペダル320の操作量Accpに対応する信号を出力するように構成されている。
【0066】
車速・走行距離出力部321は、図示しない車輪速センサからの矩形波パルス信号を処理することで、車速信号及び走行距離信号を生成するとともに、これらの信号をECU300に向けて出力するようになっている。
【0067】
また、運転者によって視認されやすい位置には、警報装置322が設けられている。この警報装置322は、警告表示灯等を備えている。
【0068】
<動作の概要>
本実施形態のシステムSにおいては、エンジン制御装置3によって、以下の処理が行われる。
【0069】
[1:空燃比制御] スロットルバルブ開度等に基づいて、目標空燃比が設定される。この目標空燃比は、通常は理論空燃比に設定される。一方、必要に応じて、理論空燃比から若干リッチ側あるいはリーン側にシフトした値に目標空燃比が設定され得る。
【0070】
また、エンジン1の始動後の定常運転中に所定の条件(触媒OBD条件)が成立した場合、上流側触媒205の劣化判定(触媒OBD:OBDはon-board diagnosisの略)が実行される。本実施形態においては、この触媒OBDは、1トリップ(1回の始動から停止までの期間)あたり1回実行されるものとする。この触媒OBDが実行される場合、目標空燃比は、理論空燃比からリッチ側にシフトした値と、理論空燃比からリーン側にシフトした値と、の間で、矩形波的に変化するように設定される。
【0071】
上述のようにして設定された目標空燃比と、吸入空気流量等と、に基づいて、インジェクタ127から噴射される燃料量の基本値(基本燃料噴射量)が取得される。
【0072】
エンジン1の始動直後で上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bが充分に暖機されていない場合等、所定のフィードバック制御条件が成立していない場合は、基本燃料噴射量に基づくオープンループ制御が行われる(このオープンループ制御では学習補正係数に基づく学習制御が行われ得る)。
【0073】
これらのセンサの活性化後にフィードバック制御条件が成立した場合は、基本燃料噴射量が、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいてフィードバック補正されることで、インジェクタ127からの実際の燃料噴射量(指令燃料噴射量)が取得される。また、上流側空燃比センサ318a及び下流側空燃比センサ318bからの出力に基づいて、上述のオープンループ制御の際の学習補正係数を取得するための空燃比学習が行われる。
【0074】
[2:圧縮比制御] 暖機状態や負荷状態等の、エンジン1の運転状態に基づいて、圧縮比が設定される。本実施形態においては、運転状態に基づいて、可変圧縮比機構14による機械的圧縮比の変更が行われる。
【0075】
但し、触媒OBDが実行される場合、運転状態に応じた機械的圧縮比の変更は原則的に禁止され、機械的圧縮比が一定に保持される。
【0076】
もっとも、触媒OBDの実行中に機械的圧縮比が変更されても差し支えないような所定の条件(かかる条件については具体例を用いて後述する)の下では、触媒OBDの実行中であっても、可変圧縮比機構14による機械的圧縮比の変更が許可される。
【0077】
<動作の詳細>
次に、図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置3の動作の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明及び図面において、「ステップ」は“S”と略記されている。
【0078】
<<触媒OBD条件判定>>
CPU301は、図3に示されている触媒OBD条件判定ルーチン300を、所定タイミング毎に実行する。
【0079】
このルーチン300が起動されると、まず、S310にて、触媒推定温度Tceが取得される。この触媒推定温度Tceは、上流側触媒205の温度のオンボード推定値であって、後述する触媒推定温度取得ルーチン600(図6参照)の実行によって取得される。
【0080】
次に、S320にて、触媒推定温度Tceが、所定の下限温度TLと、所定の上限温度THと、の間であるか否かが判定される。すなわち、触媒推定温度Tceが下限温度TLと上限温度THとの間であることが、上流側触媒205の温度に関する触媒OBD条件とされている。
【0081】
触媒推定温度Tceが下限温度TLと上限温度THとの間である場合(S320=Yes)、処理がS330に進行し、他の触媒OBD条件が成立しているか否かが判定される。このS330における触媒OBD条件は、エンジン1の暖機後(冷却水温Tw≧Tw0)、スロットルバルブ開度TAの単位時間あたりの変化量が所定量以下、車速が所定速度以上、及び吸入空気流量が所定量以下(上流側触媒205におけるいわゆる「吹き抜け」が生じない程度の吸入空気流量)、等である。
【0082】
すべての触媒OBD条件が成立している場合(S320及びS330=Yes)、処理がS340に進行し、今回の触媒OBD条件の成立がエンジン1の始動後の初回であるか否かが判定される。今回の触媒OBD条件の成立がエンジン1の始動後の初回である場合(S340=Yes)、処理がS350に進行し、触媒OBDフラグXcがセットされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0083】
一方、触媒OBD条件が成立していない場合(S320又はS330=No)、あるいは今回の触媒OBD条件の成立がエンジン1の始動後の初回でない場合(S340=No)、処理がS360に進行し、触媒OBDフラグXcがリセットされ(あるいは触媒OBDフラグXcのリセット状態が維持され)、本ルーチンが一旦終了する。
【0084】
<<触媒OBD>>
CPU301は、図4に示されている触媒OBDルーチン400を、所定タイミング毎に実行する。なお、本実施形態においては、エンジン制御装置3(CPU301)における本ルーチン400の処理によって、本発明の触媒診断部(手段)が実現されている。すなわち、本実施形態においては、下流側空燃比センサ318bの出力に基づいて、上流側触媒205の最大酸素吸蔵量Cmax(上流側触媒205の劣化度の指標となる値)が、以下のようにして取得される。
【0085】
このルーチン400が起動されると、まず、S410にて、触媒OBDフラグXcがセットされているか否かが判定される。触媒OBDフラグXcがセットされている場合(S410=Yes)、処理がS420以降に進行する。触媒OBDフラグXcがセットされていない場合(S410=No)、S420以降の処理がスキップされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0086】
次に、S420にて、触媒OBD中断条件が成立しているか否かが判定される。この触媒OBD中断条件については後述する。
【0087】
触媒OBD中断条件が成立していない場合(S420=No)、処理がS430に進行し、触媒OBDが実行される(あるいは触媒OBDの実行状態が維持される)。
【0088】
ここで、図5は、触媒OBDの実行の様子を示すグラフである。図5中、(i)は、触媒OBDの実行中における空燃比変化を示すグラフである。(ii)は、(i)に示された空燃比変化に対応して変化する、上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAを示すグラフである。(iii)は、(i)に示された空燃比変化及び(ii)に示された酸素吸蔵量OSAの変化に対応する、下流側空燃比センサ318bの出力Voxsを示すグラフである。
【0089】
まず、図5の(i)に示されているように、触媒OBD開始時刻t1より、空燃比が理論空燃比(stoich)よりもΔA/Fだけリーンに設定される。すると、上流側触媒205にリーンな空燃比の排気ガスが流入する。よって、図5の(ii)に示されているように、上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAは、次第に増大し、時刻t2にてピーク値Cmax2に達する。
【0090】
上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAがピーク値Cmax2に達すると、上流側触媒205にてこれ以上の酸素が吸蔵できなくなる。よって、時刻t2より、上流側触媒205の下流側に、酸素を含む排気ガス(リーン空燃比の排気ガス)が流出し始める。このため、図5の(iii)に示されているように、下流側空燃比センサ318bの出力Voxsは、理論空燃比よりリーン側に大きく変位した値に変化する。
【0091】
時刻t2にて、下流側空燃比センサ318bの出力Voxsが理論空燃比よりリーン側に大きく変位した値に変化したことが判定されると、図5の(i)に示されているように、空燃比が理論空燃比よりもΔA/Fだけリッチに設定される。すると、上流側触媒205にリッチな空燃比の排気ガスが流入する。このとき、上流側触媒205に吸蔵された酸素が、流入する未燃HC,COの酸化のために消費される。よって、図5の(ii)に示されているように、上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAは、Cmax2から次第に減少し、時刻t3にて上流側触媒205の酸素吸蔵量が「0」となる。
【0092】
上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAが0になると、上流側触媒205にてこれ以上の未燃HC,COの酸化ができなくなる。よって、時刻t3より、上流側触媒205の下流側に、リッチ空燃比のガスが流出し始める。このため、図5の(iii)に示されているように、下流側空燃比センサ318bの出力Voxsは、リーンを示す値からリッチを示す値に変化する。
【0093】
時刻t3にて、下流側空燃比センサ318bの出力がリーンを示す値からリッチを示す値に変化したことが判定されると、図5の(i)に示されているように、再度、空燃比が理論空燃比よりもΔA/Fだけリーンに設定される。これにより、図5の(ii)に示されているように、上流側触媒205の酸素吸蔵量OSAは、「0」から増大し続け、時刻t4にてピーク値Cmax4に達する。すると、上述と同様に、時刻t4にて、下流側空燃比センサ318bの出力Voxsは、リッチを示す値からリーンを示す値に変化する。時刻t4における上述のような下流側空燃比センサ318bの出力Voxsの変化が判定されると、触媒OBDは終了され、空燃比制御が通常制御に戻される。
【0094】
上述のような矩形波状の空燃比制御(アクティブ制御)を実行することで、上流側触媒205の最大酸素吸蔵量Cmaxが、以下の式によって取得され、当該取得値はバックアップRAM304に順次格納される。なお、以下の式において、値「0.23」は、大気中に含まれる酸素の重量割合である。mfrは、所定時間(計算周期tsample)内の燃料噴射量Fiの合計量である。
ΔO2=0.23・mfr・ΔA/F
Cmax2=ΣΔO2(区間t=t2〜t3)
Cmax4=ΣΔO2(区間t=t3〜t4)
Cmax=(Cmax2+Cmax4)/2
【0095】
この式に示されているように、区間t=t2〜t3における、所定時間tsample内の噴射量の合計量mfrに、空燃比A/Fの理論空燃比からの偏移ΔA/Fを乗じることで、当該所定時間tsampleにおける空気の不足量が求められ、この空気の不足量に酸素の重量割合を乗じることで、当該所定時間tsampleにおける酸素吸蔵量変化量(吸蔵酸素の消費量)ΔO2が求められる。そして、酸素吸蔵量変化量ΔO2を時刻t2〜t3にわたって積算することで、上流側触媒205が酸素を最大限貯蔵していた状態から酸素をすべて消費した状態となるまでの酸素消費量、すなわちピーク値Cmax2が推定・算出される。同様に、区間t=t3〜t4においても、酸素吸蔵量変化量ΔO2を積算することで、上流側触媒205が酸素をすべて消費した状態から酸素を最大限に吸蔵した状態となるまでの酸素吸蔵量、すなわちピーク値Cmax4が推定・算出される。
【0096】
なお、触媒OBD実行中に筒内吸入空気量Mcが一定(すなわち吸入空気流量Gaが一定)である場合には、上式は、以下のように簡略化され得る。
Cmax2=0.23・mfr・ΔA/F・(t3−t2)
Cmax4=0.23・mfr・ΔA/F・(t4−t3)
Cmax=(Cmax2+Cmax4)/2
【0097】
以上のようにして上流側触媒205の最大酸素吸蔵量Cmaxを取得する処理によって、本発明の最大酸素吸蔵量取得部(手段)が実現されている。
【0098】
続いて、S440にて、触媒OBDが終了したか否かが判定される。触媒OBDの終了前(S440=No)は、S450ないしS470の処理はスキップされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0099】
触媒OBDが終了すると(S440=Yes)、処理がS450に進行し、上流側触媒205に劣化異常が発生したか否かが判定される。この判定は、具体的には、劣化度診断結果としての最大酸素吸蔵量Cmaxが、所定の基準値Cmax_err以上であるか否かによって行われる。この処理によって、本発明の異常判定部(手段)が実現されている。
【0100】
最大酸素吸蔵量Cmaxが所定の基準値Cmax_errより小さくなった場合、触媒劣化異常であると判定され(S450=Yes)、警報装置322を介して運転者に対して警報が発せられる(S460)。上流側触媒205に劣化異常が発生していない場合(S450=No)、S460の処理がスキップされる。その後、処理がS470に進行し、触媒OBDフラグがリセットされ、本ルーチンが一旦終了する。
【0101】
触媒OBD中断条件が成立している場合(S420=Yes)、S430ないしS470の処理がスキップされて、処理がS480に進行し、触媒OBDが中断され、本ルーチンが一旦終了する。なお、触媒OBD中断条件の成立が解消されると(S420=No)、触媒OBDが再開される。このとき、触媒OBDは最初から行われる(中断前の処理結果は破棄される)ものとする。
【0102】
<<触媒推定温度取得>>
CPU301は、図6に示されている触媒推定温度取得ルーチン600を、所定タイミング毎に実行する。
【0103】
このルーチン600が起動されると、まず、S610にて、エンジン回転数Ne、負荷率KL、及び現在の機械的圧縮比εが取得される。ここで、機械的圧縮比εは、エンジン制御装置3による駆動機構142の動作制御状態(例えばモータの回転角度等)をCPU301が把握することで、容易かつ比較的正確に取得され得る。
【0104】
次に、S620にて、機械的圧縮比εが所定値εa(例えば最小値εmin)である条件でエンジン回転数Ne及び負荷率KLをパラメータとして作成された触媒温度マップと、S610にて取得されたエンジン回転数Ne及び負荷率KLと、に基づいて、温度Tce(εa)が取得される。同様に、続くS630にて、機械的圧縮比εが所定値εb(>εa:例えば最大値εmax)である条件で作成された触媒温度マップと、S610にて取得されたエンジン回転数Ne及び負荷率KLと、に基づいて、温度Tce(εb)が取得される。
【0105】
続いて、S640にて、Tce(εa)と、Tce(εb)と、S610にて取得された機械的圧縮比εと、所定のマップあるいは関数と、に基づいて、触媒推定温度Tceが取得される。例えば、エンジン回転数Ne及び負荷率KLが一定の場合における、機械的圧縮比εの変化による触媒温度の変化が直線に近似されるとすると、以下のようにして触媒推定温度Tceが取得され得る。
Tce=
Tce(εa)+(ε−εa)・(Tce(εb)−Tce(εa))/(εb−εa)
その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0106】
なお、本実施形態においては、エンジン制御装置3(CPU301)におけるS620ないしS640の処理によって、本発明の温度取得部(手段)が実現されている。
【0107】
<<圧縮比制御>>
CPU301は、図7に示されている圧縮比制御ルーチン700を、所定タイミング毎に実行する。なお、本実施形態においては、エンジン制御装置3(CPU301)における本ルーチン700の処理によって、本発明の圧縮比制御部(手段)が実現されている。
【0108】
まず、S710にて、エンジン1が暖機後であるか否か(冷却水温Tw≧Tw0であるか否か)が判定される。エンジン1が暖機中である場合(S710=No)、処理がS720に進行する。S720においては、排気温度を上昇させることでエンジン1や上流側触媒205の暖機を促進するために、機械的圧縮比εが、低めの値ε0に設定される。その後、処理がS730に進行し、機械的圧縮比εの設定状態がバックアップRAM304に格納され、本ルーチンが一旦終了する。
【0109】
エンジン1が暖機後である場合(S710=Yes)、処理がS740に進行し、触媒OBDフラグXcがセットされているか否かが判定される。触媒OBDフラグXcがセットされていない場合(S740=No)、現在の運転状態は、エンジン1の暖機後の通常運転である。よって、この場合、処理がS750に進行する。S750においては、機械的圧縮比εが、エンジン回転数Neや負荷率KL等のエンジンパラメータに基づいて、マップ等を用いて取得される。なお、負荷率KLは、周知の通り、吸入空気流量Ga、スロットルバルブ開度TA、あるいはアクセル操作量Accpに基づいて取得され得る。その後、処理がS730に進行し、機械的圧縮比εの設定値がバックアップRAM304に格納され、本ルーチンが一旦終了する。
【0110】
エンジン1が暖機後であり(S710=Yes)、且つ触媒OBDフラグXcがセットされている場合(S740=Yes)、触媒OBDの実行中である。この場合、まず、処理がS760に進行し、触媒OBDの実行中における機械的圧縮比の変更要求(例えばアクセルペダル320の操作等)があるか否かが判定される。
【0111】
圧縮比変更要求がある場合(S760=Yes)、処理がS770に進行し、圧縮比変更許可条件が成立しているか否かが判定される。この圧縮比変更許可条件については後述する。圧縮比変更許可条件が成立している場合(S770=Yes)、処理が上述のS750及びS760に進行して、圧縮比変更要求に応じた機械的圧縮比の変更が許可され、本ルーチンが一旦終了する。
【0112】
圧縮比変更要求がない場合(S760=No)、S770の処理がスキップされることで、機械的圧縮比が前回と同一とされる。すなわち、機械的圧縮比が一定に維持される。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0113】
また、圧縮比変更許可条件が成立していない場合(S770=No)、処理がS750及びS760に進行せず、機械的圧縮比が前回と同一とされたまま、本ルーチンが一旦終了する。すなわち、この場合、圧縮比変更要求があっても、機械的圧縮比の変更が禁止されることになる。
【0114】
<<圧縮比変更許可条件の詳細>>
以下、圧縮比変更要求があった場合(S760=Yes)の、圧縮比変更許可条件が成立しているか否かの判定(S770)の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、以下の各具体例は、単独で、あるいは、複数のものが適宜組み合わされた状態で適用され得る。
【0115】
<<<具体例1>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定800は、上流側触媒205の使用期間に基づいて行われるものであって、具体的には、以下のようにして行われる。
【0116】
まず、新品の上流側触媒205が装着されてからの車両の走行距離が、車速・走行距離出力部321から出力された走行距離信号に基づいて取得される(S810)。次に、この走行距離が所定距離以下であるか否かが判定される(S820)。
【0117】
走行距離が所定距離以下である場合(S820=Yes)、上流側触媒205の劣化があまり進んでいない(劣化度が小さい)ことが推認される。この場合、触媒OBDの実行中に機械的圧縮比が変更されても差し支えないので、圧縮比変更許可条件が成立していることとされる(S830)。
【0118】
一方、走行距離が所定距離より長い場合(S820=No)、上流側触媒205の劣化が比較的進んでいる(劣化度が所定程度を超える)ことが推認される。この場合、触媒OBDを精度よく実行して上流側触媒205の劣化度(最大酸素吸蔵量Cmax)を精度よく取得する必要があるため、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S840)。
【0119】
なお、本具体例においては、上述の走行距離が、本発明の使用期間に相当する。また、エンジン制御装置3(CPU301)におけるS810の処理によって、本発明の使用期間取得部(手段)が実現されている。
【0120】
<<<具体例2>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定900は、前回の触媒OBDの実行時における上流側触媒205の劣化度に基づいて行われるものであって、具体的には、以下のようにして行われる。
【0121】
まず、前回の触媒OBDの実行によって取得された最大酸素吸蔵量Cmaxが、バックアップRAM304から読み出される(S910)。次に、前回の最大酸素吸蔵量Cmaxが所定値Cmaxrより大きいか否かが判定される(S920)。すなわち、前回の触媒OBDの実行時に診断された、上流側触媒205の劣化度が、所定レベルよりも小さいか否かが判定される。この判定結果に基づいて、上述の具体例と同様に、圧縮比変更許可条件の成立の可否が判定される。
【0122】
すなわち、上流側触媒205の劣化度が所定レベルよりも小さい場合(Cmax>Cmaxr:S920=Yes)、圧縮比変更許可条件が成立していることとされる(S930)。一方、上流側触媒205の劣化度が所定レベル以上である場合(Cmax≦Cmaxr:S920=No)、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S940)。
【0123】
<<<具体例3>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定1000は、前回の触媒OBDの精度(劣化度診断値の変動度合い)に基づいて行われる。すなわち、本具体例においては、以下の通り、上流側触媒205の劣化度の変動が所定レベルよりも小さいか否かによって、圧縮比の変更の許可あるいは禁止が判定される。
【0124】
まず、前回(N−1回目)の触媒OBDの実行時の、前々回(N−2回目)からの最大酸素吸蔵量Cmaxの変動分ΔCmaxが取得される(S1010)。このΔCmaxは、以下の式によって計算される。
ΔCmax=Cmax(N−1)−Cmax(N−2)
【0125】
次に、このΔCmaxが所定値ΔCmaxrより小さいか否かが判定される(S1020)。すなわち、前回(N−1回目)の触媒OBDの実行時における、劣化度の取得値の変動が所定以上であるか否かが判定される。この判定結果に基づいて、上述の具体例と同様に、圧縮比変更許可条件の成立の可否が判定される。
【0126】
すなわち、ΔCmaxが所定値ΔCmaxrより小さい場合(S1020=Yes)、前回(N−1回目)の触媒OBDの精度が良かったことが推認される。また、この場合、現在装着されている上流側触媒205の劣化度が、異常判定が必要な程度には高くないことが推認される(前回のエンジン1の運転時に精度よい触媒OBDが実行された後で、今回エンジン1が起動されている。よって、前回の触媒OBD時の上流側触媒205が交換されずに今回の触媒OBD時にも装着されている状態で今回エンジン1が起動されているとすれば、この上流側触媒205は前回の精度よい触媒OBDの実行時に異常判定されなかったものであるので、この上流側触媒205の劣化度は異常判定レベルには達していないことが推認される。一方、前回の精度よい触媒OBDの実行時に上流側触媒205の異常判定がされた後に今回エンジン1が起動されているとすれば、この劣化した上流側触媒205は今回のエンジン1の起動前に新品に交換されていることが推認される。)。
【0127】
よって、この場合、触媒OBDの実行中に機械的圧縮比が変更されても差し支えないので、圧縮比変更許可条件が成立していることとされる(S1030)。
【0128】
一方、ΔCmaxが所定値ΔCmaxr以上である場合(S1020=No)、前回(N−1回目)の触媒OBDの精度が良くなかったことが推認される。よって、この場合、今回の触媒OBDを精度よく実行して上流側触媒205の劣化度を精度よく取得する必要があるため、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S1040)。
【0129】
<<<具体例4>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定1100は、触媒OBDの実行中に要求された圧縮比変更量に基づいて行われるものであって、具体的には、以下のようにして行われる。
【0130】
まず、運転者要求等に基づく機械的圧縮比の目標値(目標圧縮比ε1)が取得される(S1110)。次に、現在の機械的圧縮比εと目標圧縮比ε1との差分Δεが計算される(S1120)。この差分Δεに基づいて、目標圧縮比ε1への変更の許可又は禁止が判定される(S1130〜S1160)。
【0131】
差分Δεが正の場合(S1130=Yes)、現在の機械的圧縮比εから目標圧縮比ε1への変更は、低圧縮比化である。このような圧縮比変更は、主として運転者によるアクセルペダル320の操作に基づくものである(例えば追い越しのための車両加速時等)。よって、可能な範囲で運転者要求に沿った運転制御が行われることが好ましい。
【0132】
ここで、低圧縮比化は、排気温度が上昇して上流側触媒205の最大酸素吸蔵量Cmaxが増加する方向の圧縮比変更である。よって、差分Δεが正の場合(S1130=Yes)の、現在の機械的圧縮比εから目標圧縮比ε1への変更は、精度が悪化するような大幅な変更でなければ、触媒OBDの途中に行われても差し支えない。
【0133】
そこで、本具体例においては、差分Δεが正であって所定値Δε0よりも小さい場合(S1130=Yes→S1140=Yes)、圧縮比変更許可条件が成立していることとされる(S1150)。一方、差分Δεが正であっても所定値Δε0以上である場合(S1130=Yes→S1140=No)、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S1160)。
【0134】
差分Δεが負の場合(S1130=No)、現在の機械的圧縮比εから目標圧縮比ε1への変更は、高圧縮比化であり、排気温度及び最大酸素吸蔵量Cmaxの低下を招くものである。また、このような圧縮比変更は、主として高燃費化のための要求に基づくものである。
【0135】
よって、この場合、高圧縮比化よりも、高精度の触媒OBDの実行の方が優先であるので、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S1160)。
【0136】
<<<具体例5>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定1200は、上流側触媒205が比較的高温である場合に触媒温度を下げるような高圧縮比化を許可するように、以下のようにして行われる。
【0137】
まず、触媒推定温度取得ルーチン600により触媒推定温度Tceが取得され(S1210)、この触媒推定温度Tceが所定の高温TH1(>TH)よりも高いか否かが判定される(S1220)。
【0138】
触媒推定温度Tceが所定温度TH1よりも高い場合(S1220=Yes)、目標圧縮比ε1、及び現在の機械的圧縮比εと目標圧縮比ε1との差分Δεが取得され、(S1230,S1240)この差分Δεに基づいて、目標圧縮比ε1への変更の許可又は禁止が判定される(S1250)。
【0139】
すなわち、差分Δεが負の場合(S1250=Yes)、現在の機械的圧縮比εから目標圧縮比ε1への変更は、高圧縮比化であり、排気温度の低下を招くものである。よって、この場合、触媒温度を下げて上流側触媒205を保護するために、圧縮比変更許可条件が成立していることとされる(S1260)。
【0140】
一方、差分Δεが正の場合(S1250=No)、現在の機械的圧縮比εから目標圧縮比ε1への変更は、低圧縮比化であり、排気温度及び触媒温度の上昇を招くものである。よって、この場合、触媒温度のさらなる上昇を抑制するために、圧縮比変更許可条件が成立していないこととされる(S1270)。
【0141】
また、触媒推定温度Tceが所定温度TH1以下である場合(S1220=No)、触媒保護のための圧縮比変更の必要はないので、触媒OBDの精度よい実行のため、圧縮比変更が禁止される(S1270)。
【0142】
<<<具体例6>>>
本具体例における圧縮比変更許可条件判定1300は、上流側触媒205の温度変化が大きくなるような圧縮比変更を禁止する(上流側触媒205の温度変化があまり大きくならないような圧縮比変更は許可する)ように、以下のようにして行われる。
【0143】
まず、触媒推定温度取得ルーチン600により現在の触媒推定温度Tceが取得される(S1310)。次に、目標圧縮比ε1が取得される(S1320)。続いて、機械的圧縮比が目標圧縮比ε1に変更された場合の触媒推定温度Tce1が取得される(S1330)。この触媒推定温度Tce1は、触媒推定温度取得ルーチン600のS640におけるεを目標圧縮比ε1とすることによって取得される。
【0144】
その後、現在の触媒推定温度Tceと、機械的圧縮比が目標圧縮比ε1に変更された場合の触媒推定温度Tce1と、の差である温度偏差ΔTceが計算され(S1340)、この温度偏差ΔTceに基づいて、目標圧縮比ε1への変更の許可又は禁止が判定される(S1350〜S1370)。
【0145】
すなわち、温度偏差ΔTceが所定値ΔTce0より小さい場合(S1350=Yes)、目標圧縮比ε1への変更が許可される(S1360)。これにより、触媒OBDによる最大酸素吸蔵量Cmaxの測定値に大きな変動が生じない(精度よい触媒OBDが実行され得る)範囲で、圧縮比変更要求に応じた機械的圧縮比の変更が行われる。
【0146】
一方、温度偏差ΔTceが所定値ΔTce0以上である場合(S1350=No)、目標圧縮比ε1への変更が禁止される(S1370)。これにより、最大酸素吸蔵量Cmaxの測定値に大きな変動が生じるような、触媒OBD実行中の圧縮比変更が禁止される。
【0147】
<<触媒OBD中断条件の詳細>>
以下、触媒OBD中断条件が成立しているか否かの判定(S420)の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、以下の各具体例も、単独で、あるいは、複数のものが適宜組み合わされた状態で適用され得る。
【0148】
<<<具体例1>>>
本具体例における触媒OBD中断条件判定1400は、上流側触媒205の温度に基づいて行われる。すなわち、本具体例においては、触媒OBDの実行中に上流側触媒205の温度が所定範囲を外れた場合に、触媒OBDが中断される。
【0149】
具体的には、まず、触媒推定温度取得ルーチン600により現在の触媒推定温度Tceが取得される(S1410)。次に、この触媒推定温度Tceが所定の温度範囲(TLerrとTHerrとの間:TH1<THerr,TLerr<TL)にあるか否かが判定される。(S1420)。そして、触媒推定温度Tceが所定範囲外である場合(S1420=No)、触媒OBDが中断される(S1430)。一方、触媒推定温度Tceが所定範囲以内にある場合(S1420=Yes)、触媒OBDは中断されない。
【0150】
この具体例によれば、触媒OBDの実行中の運転状態の変化(特に運転者要求に基づく機械的圧縮比の変更)によって、上流側触媒205の温度が、触媒OBDの実行に適さない温度範囲に達した場合に、触媒OBDが中断される。これにより、触媒OBDの精度が確保され得る。
【0151】
<<<具体例2>>>
本具体例における触媒OBD中断条件判定1500は、上流側触媒205の温度変化が大きくなる場合に、触媒OBDが中断される。
【0152】
具体的には、まず、触媒推定温度取得ルーチン600により現在の触媒推定温度Tceが取得される(S1510)。次に、目標圧縮比ε1、及び、機械的圧縮比が目標圧縮比ε1に変更された場合の触媒推定温度Tce1が取得される(S1520,S1530)。続いて、温度偏差ΔTceが取得され(S1540)、この温度偏差ΔTceに基づいて、触媒OBDが中断されるか否かが判定される(S1550,S1560)
【0153】
すなわち、温度偏差ΔTceが所定値ΔTce_err以上である場合(S1550=No)、触媒OBDが中断される(S1560)。一方、温度偏差ΔTceが所定値ΔTce_errより小さい場合(S1550=Yes)、触媒OBDは中断されない。
【0154】
この具体例によれば、触媒OBDの実行中の運転状態の変化(特に運転者要求に基づく機械的圧縮比の変更)によって、上流側触媒205の温度変化が大きくなって触媒OBDの精度よい実行が確保され難い状態となった場合に、触媒OBDが中断される。これにより、触媒OBDの精度が確保され得る。
【0155】
<<<具体例3>>>
本具体例における触媒OBD中断条件判定1600は、触媒OBD中の圧縮比変更量が所定の上限量よりも大きい場合に、触媒OBDが中断される。
【0156】
具体的には、まず、目標圧縮比ε1が取得される(S1610)。次に、現在の機械的圧縮比εと目標圧縮比ε1との偏差δεが計算される(S1620)。続いて、この圧縮比偏差δεに基づいて、触媒OBDが中断されるか否かが判定される(S1550,S1560)
【0157】
すなわち、圧縮比偏差δεが所定の上限量δεerr以上である場合(S1630=No)、触媒OBDが中断される(S1640)。一方、圧縮比偏差δεが上限量δεerrより小さい場合(S1630=Yes)、触媒OBDは中断されない。
【0158】
この具体例によれば、触媒OBDの実行中に、運転者要求等に基づいて機械的圧縮比が大きく変更される場合、触媒OBDの精度よい実行が確保され難いため、触媒OBDが中断される。これにより、追い越しのための急加速等の運転者要求を満たしつつ、触媒OBDの精度が確保され得る。
【0159】
<<<具体例4>>>
本具体例における触媒OBD中断条件判定1700は、空燃比アクティブ制御中の下流側空燃比センサ318bの出力波形(図5参照)が不安定になった場合に、触媒OBDが中断される。この具体例においては、エンジン制御装置3(CPU301)における触媒OBD中断条件判定1700の処理によって、本発明のセンサ判定部(手段)が実現されている。
【0160】
具体的には、まず、下流側空燃比センサ318bの応答状態が取得される(S1710)。具体的には、リッチ→リーン応答とリーン→リッチ応答との間の経過時間(図5の(iii)におけるt2−t3間やt3−t4間の経過時間)の変動状態がチェックされる。次に、この応答状態が正常であるか(上述の経過時間の変動が所定程度よりも小さいか)が判定される(S1720)。
【0161】
下流側空燃比センサ318bの応答状態が正常でない場合(S1720=No)、触媒OBDが中断される(S1730)。一方、下流側空燃比センサ318bの応答状態が正常である場合(S1720=Yes)、触媒OBDは中断されない。
【0162】
この具体例によれば、触媒OBDの実行中に、運転状態の変化(特に運転者要求に基づく機械的圧縮比の変更)等によって、下流側空燃比センサ318bの出力波形が不安定になった場合、触媒OBDの精度よい実行が確保され難いため、触媒OBDが中断される。これにより、触媒OBDの精度が確保され得る。
【0163】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具体的構成例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態に示された具体的構成に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0164】
以下、変形例について幾つか例示する。ここで、以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、当該変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0165】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0166】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成は、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0167】
(1)本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他の任意のタイプの内燃機関に適用され得る。気筒数、気筒配列方式(直列、V型、水平対向)、燃料噴射方式(ポート噴射、筒内直接噴射)も、特に限定はない。
【0168】
(2)可変圧縮比機構14を含むエンジン1の構成も、上述の実施形態のものに限定されない。例えば、コンロッド132がマルチリンク構造を有していて、このコンロッド132の屈曲状態が変更されることで機械的圧縮比が変更されるように、エンジン1が構成されていても、本発明は良好に適用される。
【0169】
(3)上述の実施形態における圧縮比制御は、主として機械的圧縮比に対するものであった。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126による実圧縮比制御に対しても、本発明は同様に適用され得る。また、運転状態に応じた実圧縮比の変更は、可変圧縮比機構14による機械的圧縮比の変更と、可変吸気バルブタイミング装置125や可変排気バルブタイミング装置126によるバルブタイミングの変更と、を併用することでも行われ得る。本発明はこの場合に対しても良好に適用され得る。
【0170】
(4)上述の実施形態においては、触媒OBDが1トリップあたり1回行われていた。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、触媒劣化度に応じて、触媒OBDが1トリップ中に複数回行われてもよい。この場合、触媒劣化度に応じてOBDの実行頻度が変えられてもよい。
【0171】
(5)S320における所定温度THと、S1220における所定温度TH1と、S1420における所定温度THerrとの大小関係については、特に限定はない。例えば、上述の具体例とは大小関係が逆であってもよいし、これら3つの温度のうちの2つあるいは3つ全部が等しくてもよい。同様に、S320における所定温度TLと、S1420における所定温度TLerrとの大小関係についても、特に限定はない。
【0172】
(6)S450における上流側触媒205の劣化異常判定は、最大酸素吸蔵量Cmaxが所定の基準値Cmax_err以上であるか否かによって単純に行われるものに限定されない。
【0173】
例えば、上述のように、触媒OBDの実行中に、運転者要求等により、圧縮比が変更される場合がある。このような場合、触媒OBDの精度が悪くなる可能性がある。そこで、今回の触媒OBDの精度が悪いと推認される場合には、今回のOBDの結果が触媒異常判定に反映されないように、触媒異常判定が行われ得る。具体的には、例えば、触媒異常判定は、以下のように行われ得る。
【0174】
図18は、本変形例の触媒異常判定1800を示すフローチャートである。この変形例の触媒異常判定1800においては、まず、前回(N−1回目の)最大酸素吸蔵量Cmaxの取得値がバックアップRAM304から読み出される(S1810)。次に、今回の最大酸素吸蔵量Cmaxの取得値と、前回の取得値と、の偏差ΔCmaxが計算される(S1820)。
【0175】
偏差ΔCmaxが所定値ΔCmax_errより小さい場合(S1830=Yes)、今回の最大酸素吸蔵量Cmaxの取得値が、N回目の値として採用され、この値がバックアップRAM304に格納される(S1840)。そして、この値の基準値Cmax_errとの大小関係によって、上流側触媒205の劣化異常判定が行われる(S1850〜S1870)。
【0176】
一方、偏差ΔCmaxが所定値ΔCmax_err以上である場合(S1830=No)、今回の最大酸素吸蔵量Cmaxの取得値はN回目の値として採用されず、上流側触媒205の劣化異常判定も行われない。
【0177】
(7)本発明の温度取得部(手段)に対応する処理や構成も、上述の実施形態や各具体例の記載に限定されない。
【0178】
例えば、触媒温度推定は、上述の実施形態のように、2つの圧縮比に対応する温度マップを用いて内挿あるいは外挿により行う他にも、様々な方法で行われ得る。例えば、いくつかの標準圧縮比に対応する温度マップを用意して、触媒OBD実施時の実際の圧縮比に最も近い標準圧縮比のマップを選択することで、触媒温度推定が行われるようになっていてもよい。
【0179】
また、図19に示されているように、上流側触媒205には触媒床温センサ323が装着され得る。この場合、上述の各フローチャートにおいて、触媒推定温度Tceに代えて、触媒床温センサ323による測定触媒床温Tcrが用いられてもよい。
【0180】
(8)触媒OBD中の圧縮比の変更の禁止は、触媒OBDの実行開始から終了(触媒異常判定終了)までの全期間にわたって行われる必要はなく、例えば、少なくとも最大酸素吸蔵量Cmaxの取得中に、圧縮比の変更が禁止されれば充分である。
【0181】
(9)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0182】
さらに、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の一実施形態が適用されたシステム(車両等)の全体構成を示す概略構成図である。
【図2A】図1に示されている上流側空燃比センサの出力特性を示すグラフである。
【図2B】図1に示されている下流側空燃比センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD条件判定)の具体例を示すフローチャートである。
【図4】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD)の具体例を示すフローチャートである。
【図5】図4に示されている触媒OBDの実行の様子を示すグラフである。
【図6】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒推定温度取得)の具体例を示すフローチャートである。
【図7】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比制御)の具体例を示すフローチャートである。
【図8】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)の具体例を示すフローチャートである。
【図9】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)の他の具体例を示すフローチャートである。
【図10】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図11】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図12】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図13】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(圧縮比変更許可条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図14】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD中断条件判定)の具体例を示すフローチャートである。
【図15】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD中断条件判定)の他の具体例を示すフローチャートである。
【図16】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD中断条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図17】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒OBD中断条件判定)のさらに他の具体例を示すフローチャートである。
【図18】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の動作(触媒異常判定)の一変形例を示すフローチャートである。
【図19】図1に示されている本実施形態のエンジン制御装置の一変形例の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0184】
S…システム
1…エンジン
11…シリンダブロック 12…シリンダヘッド 13…クランクケース
14…可変圧縮比機構 141…連結機構 142…駆動機構
2…吸排気通路
202…排気通路 205…上流側触媒 206…下流側触媒
3…エンジン制御装置
300…ECU 318b…下流側空燃比センサ
321…車速・走行距離出力部 322…警報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮比を変更可能に構成されたエンジンの運転を制御する、エンジン制御装置であって、
前記エンジンから排出される排気ガスを浄化するための触媒よりも前記排気ガスの流動方向における下流側の排気通路に介装されていて、前記触媒を通過した前記排気ガス中の特定成分の濃度に対応した出力を生じる、ガスセンサと、
運転状態に応じて前記エンジンの圧縮比を制御する、圧縮比制御部と、
前記ガスセンサの出力に基づいて前記触媒の劣化度を診断する、触媒診断部と、
を備え、
前記圧縮比制御部は、前記触媒診断部による前記劣化度の診断中に、圧縮比の変更を禁止することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置であって、
前記触媒診断部は、
前記ガスセンサの出力に基づいて前記触媒の最大酸素吸蔵量を取得する、最大酸素吸蔵量取得部を備え、
前記最大酸素吸蔵量取得部による前記最大酸素吸蔵量の取得値と、所定の基準値と、に基づいて、前記劣化度を診断することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置において、
前記触媒の使用期間を取得する、使用期間取得部をさらに備え、
前記圧縮比制御部は、前記使用期間が所定レベルより小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置であって、
前記圧縮比制御部は、前記劣化度又はその変動が所定レベルより小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置であって、
前記圧縮比制御部は、圧縮比の変更量が所定量より小さい場合に、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1項に記載のエンジン制御装置において、
前記触媒の温度を取得する、温度取得部をさらに備えたことを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジン制御装置であって、
前記温度取得部は、圧縮比と、前記エンジンの吸入空気量に関連するパラメータと、に基づいて、前記温度を推定することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のエンジン制御装置であって、
前記圧縮比制御部は、前記温度に応じて、前記劣化度の診断中における圧縮比の変更を許可することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエンジン制御装置であって、
前記圧縮比制御部は、前記温度が所定温度より高い場合に、前記劣化度の診断中に圧縮比を高くする変更を許可することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のエンジン制御装置であって、
前記触媒診断部は、前記温度が所定範囲外である場合に、前記劣化度の診断を中断することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項11】
請求項8に記載のエンジン制御装置であって、
前記触媒診断部は、前記触媒の診断中における圧縮比の変更による前記温度の変動が、所定温度差よりも大きい場合に、前記劣化度の診断を中断することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項12】
請求項3ないし請求項11のうちのいずれか1項に記載のエンジン制御装置であって、
前記触媒診断部は、圧縮比の変更量が所定の上限量よりも大きい場合に、前記劣化度の診断を中断することを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項13】
請求項3ないし請求項12のうちのいずれか1項に記載のエンジン制御装置であって、
前記触媒診断部は、前記劣化度の診断結果に基づいて前記触媒の異常判定を行う、異常判定部をさらに備え、
前記異常判定部は、今回の前記劣化度の診断中に圧縮比が変更された場合、前回の前記診断結果と今回との前記診断結果の差が所定レベルより小さいときに、今回の前記診断結果に基づいて前記異常判定を行うことを特徴とする、エンジン制御装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のうちのいずれか1項に記載のエンジン制御装置において、
前記ガスセンサの出力波形が安定しているか否かを判定する、センサ判定部をさらに備え、
前記触媒診断部は、前記出力波形が安定していないと判定された場合、前記劣化度の診断を中断することを特徴とする、エンジン制御装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−264151(P2009−264151A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112091(P2008−112091)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】