説明

エンジン制御装置

【課題】再加速時における加速ショックの発生を抑制するとともに、部分負荷時からの加速時における応答性を改善したエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置100を、加速要求を検出する加速要求検出手段110と、加速要求検出手段の出力に基づいてエンジン10の出力調整を行うエンジン出力調整手段120と、動力伝達機構20のバックラッシュが詰まっているか判定するバックラッシュ判定手段130とを備え、エンジン出力調整手段は、加速要求の増加に応じて前記エンジンの出力を増加させる第1の制御モード、及び、加速要求の増加に応じてエンジンの出力を第1の制御モードよりも遅延させて増加させる第2の制御モードを有し、バックラッシュが詰まっていると判定された場合には第1の制御モードを選択し、バックラッシュが開いていると判定された場合には第2の制御モードを選択する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドライバのアクセル操作等に基づいた加速要求に応じてエンジンの出力調整を行うエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンにおいては、吸気管路に設けられたスロットルバルブを用いて、吸入空気量を変化させることによって出力調整を行うことが一般的である。このようなエンジンにおいて、アクセルオフから急激にアクセルオンすること等によって、エンジン出力が急変した場合には、トランスミッション等の動力伝達機構に不可避的に設けられるバックラッシュが急激に詰まって、いわゆる加速ショック等を生じる場合がある。
これに対し、例えば特許文献1には、スロットルバルブの開弁時に、燃料噴射量を増量補正することによって加速ショックの低減を図ったエンジンの制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スロットルバルブを電動アクチュエータで駆動する電動スロットルを備えた車両の場合には、上述したような加速ショックを防止する目的で、アクセルの踏み始めにおけるスロットルバルブの開きを、アクセルペダルの操作に対して遅延させ、スロットルレスポンスを低下させる制御を行うことが提案されている。
【0005】
しかし、常時このような遅延制御を行うと、例えば一定速度の走行から加速しようとした場合や、緩やかな加速から加速度を上げる場合のようにバックラッシュが詰まっている場合にもスロットルの開きが遅くなることから、アクセル操作に対する応答性(スロットルレスポンス)が低下してしまう。
本発明の課題は、再加速時における加速ショックの発生を抑制するとともに、部分負荷時からの加速時における応答性を改善したエンジン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、動力伝達機構を介して車輪を駆動するエンジンを制御するエンジン制御装置であって、加速要求を検出する加速要求検出手段と、前記加速要求検出手段の出力に基づいて前記エンジンの出力調整を行うエンジン出力調整手段と、前記動力伝達機構のバックラッシュが詰まっているか判定するバックラッシュ判定手段とを備え、前記エンジン出力調整手段は、前記加速要求の増加に応じて前記エンジンの出力を増加させる第1の制御モード、及び、前記加速要求の増加に応じて前記エンジンの出力を前記第1の制御モードよりも遅延させて増加させる第2の制御モードを有し、前記バックラッシュ判定手段によって前記バックラッシュが詰まっていると判定された場合には前記第1の制御モードを選択し、前記バックラッシュが開いていると判定された場合には前記第2の制御モードを選択することを特徴とするエンジン制御装置である。
【0007】
請求項2の発明は、前記エンジン出力調整手段は、前記エンジンの吸気管路に設けられたスロットルバルブを開閉するアクチュエータを制御することによって前記エンジンの出力調整を行い、前記バックラッシュ判定手段は、前記スロットルバルブよりも前記エンジン側の吸気管内圧力が閾値よりも大きい場合に前記バックラッシュが詰まっていると判定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置である。
請求項3の発明は、前記バックラッシュ判定手段における前記閾値は、車両が一定速度走行する場合の吸気管内圧力に関するデータに基づいて設定されることを特徴とする請求項2に記載のエンジン制御装置である。
請求項4の発明は、前記バックラッシュ判定手段における前記閾値は、大気圧の低下に応じて小さくなるように補正されることを特徴とする請求項3に記載のエンジン制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)加速要求の増加に対するエンジン出力の増加の遅延量を、動力伝達機構のバックラッシュが詰まっているか否かに基づいて異ならせることによって、例えば減速時からの再加速時のようにバックラッシュが開いている場合にはエンジン出力の増加を遅延させることによって加速ショックを抑制し、中間負荷時からの出力向上時のようにバックラッシュが詰まっている場合には、開いている場合よりもエンジン出力の増加を早めることによって応答性を改善することができる。
(2)圧力センサによって直接検出可能であり、かつトルクとの相関性が高い吸気管内圧力に基づいてバックラッシュの有無を判定することによって、例えばエンジン回転数、燃料噴射量、スロットル開度等からエンジンの出力トルクを推定する場合に対して、バックラッシュの有無を精度よく判定することができる。
(3)吸気管内圧力の閾値を、車両が一定速度で走行する場合の吸気管内圧力に関するデータに基づいて設定することによって、車両が一定速度で走行又は加速しておりバックラッシュが詰まっているか、あるいは、車両が減速しておりバックラッシュが開いているかを良好に判定することができる。
(4)閾値が大気圧の低下に応じて小さくなるように補正されることによって、大気圧の変化によって車両の空気抵抗が変化した場合であっても良好なバックラッシュの判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用したエンジン制御装置の実施例を有する車両の構成を示す模式図である。
【図2】図1のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクとの推移の一例を示すグラフである。
【図3】図1のエンジン制御装置におけるDA制御実施の要否判断を示すフローチャートである。
【図4】図1の車両が平坦路を一定速度走行する際のインテークマニホールド内圧力を示すグラフである。
【図5】図1のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクの推移の他の例を示すグラフである。
【図6】図1のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクの推移の他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、再加速時における加速ショックの発生を抑制するとともに、部分負荷時からの加速時における応答性を改善したエンジン制御装置を提供する課題を、エンジンのインテークマニホールド内圧力に基づいて、トランスミッション等のバックラッシュが詰まっているか否かを判定し、バックラッシュが開いている場合にのみアクセル開度増加に応じたスロットル開度増加の遅延制御を行うことによって解決した。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施例について説明する。
実施例のエンジン制御装置は、例えば、乗用車等の自動車に搭載され、電動スロットルバルブを用いて出力調整を行うガソリンエンジンを制御するものである。
図1は、実施例のエンジン制御装置を有する車両の構成を示す模式図である。
【0012】
車両1は、エンジン10、トランスミッション20、アクセルペダル30、エンジン制御ユニット(ECU)100等を備えている。
エンジン10は、例えば、4ストロークガソリンエンジンであって、インテークチャンバ11、スロットル12、インテークマニホールド13等を備えている。
インテークチャンバ11は、図示しないエアフィルタで濾過された燃焼用の空気が導入される容器状の部材である。
スロットル12は、インテークチャンバ11とインテークマニホールド13との間の吸気管路に設けられている。スロットル12は、インテークマニホールド13に導入される燃焼用空気の量を調整するスロットルバルブを備えている。スロットルバルブは、図示しない電動モータ等のアクチュエータによって駆動されるいわゆる電動スロットルとなっている。
インテークマニホールド13は、スロットル12から出た空気を、エンジン10の各気筒のインテークポートに配分する分岐管である。
【0013】
トランスミッション20は、例えば前進6速、後進1速の手動変速機である。トランスミッション20は、並行して配置されたドライブシャフト及びドリブンシャフトを有する。ドライブシャフトは、クラッチを介してエンジン10のクランクシャフトと接続される入力軸である。ドリブンシャフトは、トランスファ、ディファレンシャル、ドライブシャフト等を介して車輪Wを駆動する出力軸である。ドライブシャフトとドリブンシャフトとの間には、各変速段に対応するギア列が設けられ、これらのギア列は、ドライバのシフト操作に応じてハブスリーブ等の係合手段が係合することによって選択される。
アクセルペダル30は、車室内に設けられ、ドライバが踏み込むことによって加速要求を入力する操作部である。
【0014】
エンジン制御ユニット100は、エンジン10及びその補器類を統括的に制御する情報処理装置であって、RAM、ROM等の記憶手段、CPU等の演算手段、及び、入出力インターフェイス等を備えて構成されている。
エンジン制御ユニット100は、本発明にいうエンジン制御装置であって、加速要求検出手段110、スロットル制御手段120、バックラッシュ判定手段130等を備えている。
【0015】
加速要求検出手段110は、ドライバによるアクセルペダル30の操作量(踏込量)を検出し、これに基づいてドライバ要求トルクを算出するものである。加速要求検出手段110には、アクセルペダル30の操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ111が接続されている。また、アクセルペダルポジションセンサ111の出力は、バックラッシュ判定手段130にも伝達される。
【0016】
スロットル制御手段120は、加速要求検出手段110が算出したドライバ要求トルクに基づいて、スロットル12の電動アクチュエータを制御し、スロットルバルブを開閉させるエンジン出力調整手段である。スロットルバルブは、エンジンの発生トルクがドライバ要求トルクに基づいて設定される制御目標トルクとほぼ一致するように開閉制御される。スロットル制御手段120は、スロットル12のスロットルバルブの位置を検出するスロットルポジションセンサ121を備えている。
ここで、アクセルペダル30の操作量が定常的である場合には、ドライバ要求トルクと制御目標トルクはほぼ一致するように設定される。これに対し、ドライバがアクセルペダル30を踏み込み、あるいは、戻した場合のような過渡状態においては、スロットル制御手段120は、加速ショックや減速ショックを抑制するため、制御目標トルクの変化を加速要求トルクの変化に対して時間的に遅延させる(なます)DA(Acceleration - Deceleration)制御及びAD(Deceleration - Acceleration)制御を行う。
【0017】
図2は、実施例のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクの推移の一例を示すグラフである。図2において、横軸は時間を示し、縦軸はトルクを示している。また、図2において、ドライバ要求トルクを実線、制御目標トルクを破線によって示している。(図5、6において同じ)
図2に示すように、アクセルペダル30が踏み込まれ、ドライバ要求トルクが増加した場合には、ECU100のスロットル制御手段120は、ドライバ要求トルクに対して制御目標トルクを遅延させるDA制御を行う。DA制御においては、ドライバ要求トルクの増加率(図2におけるグラフの傾き)に対する制御目標トルクの増加率を小さくするとともに、特に制御目標トルクが小さい領域で制御目標トルクの増加率をさらに小さくしている。これによって、アクセルペダル30の踏み始め時には、エンジン10が穏やかに出力を増加させてトランスミッション20等のバックラッシュを詰め、その後エンジン10の出力を増加させることによって加速ショックを抑制している。このAD制御は、エンジン10の出力トルクが増大して、ドライバ要求トルクとほぼ一致すると終了される。
【0018】
一方、AD制御においては、アクセルペダル30のオフ操作によってドライバ要求トルクが減少する場合に、ドライバ要求トルクが小さい領域ではドライバ要求トルクの減少率に対して制御目標トルクの減少率を小さくしている。これによって、エンジン10のトルクが急激に減少し、トランスミッション20のバックラッシュが加速側で詰まっている状態から減速側で詰まっている状態に急変して生じる減速ショックを抑制している。
また、実施例のECU100においては、トランスミッション20等の動力伝達機構のバックラッシュが加速側に詰まっているか否かを判定し、判定結果に応じて上述したDA制御をキャンセルする機能を備えている。この点については後に詳しく説明する。
【0019】
バックラッシュ判定手段130は、トランスミッション20や図示しないディファレンシャル、ドライブシャフト等の動力伝達機構のバックラッシュ(ガタ)が加速側(駆動力伝達側)で詰まっているか否かを判定するものである。バックラッシュ判定手段130は、車両1が平坦な路面を一定側で走行している状態のときにバックラッシュが詰まっているものと判定する。
バックラッシュ判定手段130には、インテークマニホールド圧力センサ131、大気圧センサ132、クランク角センサ133、車速センサ134、シフトポジションセンサ135等が接続されている。
【0020】
インテークマニホールド圧力センサ131は、エンジン10のインテークマニホールド13内の圧力を検出するものである。
大気圧センサ132は、車両1の周囲の雰囲気における大気圧を検出するものである。
クランク角センサ133は、エンジン10の図示しないクランクシャフトの回転に応じたパルス信号を出力するものである。バックラッシュ判定手段130は、クランク角センサ133の出力に基づいて算出されたエンジン10の回転数(回転速度)を取得可能となっている。
車速センサ134は、例えば、車輪を回転可能に支持するホイールハブ部等に設けられ、車両1の走行速度(車速)に応じたパルス信号を出力するものである。バックラッシュ判定手段130は、車速センサ134の出力に基づいて算出された車両1の車速を取得可能となっている。
シフトポジションセンサ135は、トランスミッション20において現在選択されている変速段を検出し、バックラッシュ判定手段130に伝達するものである。
【0021】
以下、上述したDA制御実施の要否判断について説明する。図3は、DA制御実施の要否判断を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:車速判断>
バックラッシュ判定手段130は、車速センサ134の出力に基づいて、車速が予め設定された所定値以上であるか判断する。
車速が所定値以上である場合は、車両1が走行中であるものとしてステップS02に進む。車速が所定値未満である場合は、車両1が停車中あるいはこれに近い微低速走行中であるものとしてステップS08に進む。
【0022】
<ステップS02:アクセル開度判断>
バックラッシュ判定手段130は、アクセルペダルポジションセンサ111の出力に基づいて検出されるアクセル開度が、予め設定された所定値以上であるか判断する。
アクセル開度が所定値以上である場合には、ドライバが加速を行う意図があるものとしてステップS03に進む。アクセル開度が所定値未満である場合は、ドライバが加速を行う意図がないものとしてステップS08に進む。
【0023】
<ステップS03:各センサ等異常判断>
バックラッシュ判定手段130は、インテークマニホールド圧力センサ131、大気圧センサ132、クランク角センサ133、車速センサ134、シフトポジションセンサ135等の各種センサ等、及び、車載LANシステム等の情報伝達手段に故障や断線等の異常がないか診断し、異常がない場合はステップS04に進み、異常がある場合はステップS08に進む。
【0024】
<ステップS04:制御目標トルクとドライバ要求トルクの差分判断>
バックラッシュ判定手段130は、制御目標トルクからドライバ要求トルクを減じた差分値を、予め設定された閾値トルクと比較し、差分値が閾値トルク以下である場合はステップS05に進み、差分値が閾値トルクを超えている場合はステップS08に進む。
この閾値トルクは、例えば、0.8Nm程度の小さい値に設定されており、DA制御のキャンセルは、制御目標トルクとドライバ要求トルクとの差が実質的にゼロに近い状態でのみ行われるようになっている。
【0025】
<ステップS05:閾値インテークマニホールド内圧力算出>
バックラッシュ判定手段130は、後述するステップS06で用いる閾値インテークマニホールド内圧力を算出する。この閾値インテークマニホールド圧力は、エンジン10の回転数及びトランスミッション20のシフトポジション(変速段)に基づいて決定される基準圧力に、大気圧に基づいて決定される補正係数を乗じることによって算出される。
【0026】
基準圧力は、例えば、車両1が大気圧760mmHgの環境下で平坦路を一定速度走行する際のインテークマニホールド内圧力(絶対圧)であって、予め測定された実験値を蓄積した基準圧力テーブルから読み出される。
基準圧力テーブルの一例を表1に示す。また、図4は、基準圧力を示すグラフであって、横軸はエンジン回転数を示し、縦軸は圧力を示している。表1及び図4に示すように、基準圧力は変速段が高速側となるほど高くなり、また、2速以上の変速段においては、エンジン回転数が高くなるほど基準圧力がほぼ2次曲線状に増加している。また、離散的なデータの中間値が必要な場合には、所定の補間処理によって所望の中間値を算出する。

【表1】

【0027】
また、補正係数は、空気が薄くなる高地等において車両1の空気抵抗が低減すると、一定速度走行に必要なエンジン出力が低下し、このときのインテークマニホールド内圧力も低下することを考慮して設けられている。表2は補正係数の一例を示す表である。表2に示すように、大気圧が760mmHgであるときには補正係数が1(補正なし)であり、ここから大気圧が低下するのに応じて、補正係数は徐々に小さくなるように設定されている。

【表2】

【0028】
<ステップS06:インテークマニホールド内圧力判断>
バックラッシュ判定手段130は、インテークマニホールド圧力センサ131が検出した実際のインテークマニホールド内圧力と、ステップS05において算出した閾値インテークマニホールド内圧力とを比較する。そして、実際のインテークマニホールド内圧力が閾値インテークマニホールド内圧力以上である場合には、トランスミッション20等のバックラッシュが加速側に詰まっているものと判断し、ステップS07に進む。これに対し、実際のインテークマニホールド内圧力が閾値インテークマニホールド内圧力未満である場合には、トランスミッション20等のバックラッシュが開いている(減速側に詰まっている)ものと判断し、ステップS08に進む。
【0029】
<ステップS07:DA制御キャンセル>
スロットル制御手段120は、バックラッシュ判定手段130によるステップS06における判定結果に応じて、ドライバ要求トルクの増加に応じた制御目標トルクの増加を遅延させるDA制御をキャンセルするか、又は、遅延量を低減したDA制御を行う。遅延量を低減したDA制御を行う場合には、例えば、通常のDA制御における制御目標トルクの変化率に所定の倍率の係数を乗じてスロットルレスポンスを向上させるとよい。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0030】
<ステップS08:DA制御実施>
スロットル制御手段120は、バックラッシュ判定手段130によるステップS06における判定結果に応じて、ドライバ要求トルクの増加に応じた制御目標トルクの増加を遅延させるDA制御を実施する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0031】
以下、上述した実施例の効果について説明する。
図5は、実施例のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクの推移の他の例を示すグラフである。
実施例においては、ドライバがアクセルペダル30をオフの状態から踏みこむと、DA制御が行われ、制御目標トルクの増加が遅延させられてスロットル12の開き始めが遅くなるため、トランスミッション20等のバックラッシュが開いた状態から急激に詰まって発生する加速ショックを抑制することができる。
【0032】
また、ドライバがアクセルオンの状態から一旦アクセルペダル30を中間位置まで戻し、この部分負荷状態から再度アクセルペダル30を踏み込んだ場合には、実際のインテークマニホールド内圧力が閾値インテークマニホールド圧力を上回り、DA制御がキャンセルさせるため、アクセルペダル30の踏み込みに対してほぼ遅延なくスロットル12が開かれ、ドライバ操作に対するエンジン出力向上の時間遅れが低減される。このとき、トランスミッション20等のバックラッシュは加速側に詰まっているため、スロットル12を早期に開いても加速ショックは発生しない。
【0033】
図6は、実施例のエンジン制御装置におけるドライバ要求トルクと制御目標トルクの推移の他の例を示すグラフである。
実施例においては、ドライバがアクセルペダル30を戻した際にAD制御が行われ、制御目標トルクがドライバ要求トルクに対して増加する。このとき、制御目標トルクからドライバ要求トルクを減じた差分値が閾値トルクを超えている場合は、上述したステップS04からステップS08に進み、DA制御が実施される。
【0034】
このようなAD制御の実施中においては、インテークマニホールド内圧力が閾値インテークマニホールド圧力よりも大きい場合であっても、トランスミッション20等のバックラッシュが開いている(エンジンブレーキにより減速側に詰まっている)ため、DA制御をキャンセルすると、ドライバがアクセルペダル30を再度踏み込んだ際に大きな加速ショックが発生してしまう。
この点、実施例によれば、AD制御によって制御目標トルクがドライバ要求トルクに対して閾値トルク以上大きくなっている場合(閾値トルクは微小なので実質的に制御目標トルクがドライバ要求トルクより大きい場合)には、DA制御を実施することによって、このような場合における加速ショックの発生を防止することができる。
【0035】
以上のように、実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバによるアクセルペダル30の操作量に基づくドライバ要求トルクの増加に対するスロットル12の制御目標トルクの増加の遅延量を、トランスミッション20等の動力伝達機構のバックラッシュが詰まっているか否かに基づいて異ならせることによって、例えば減速時からの再加速時のようにバックラッシュが開いている場合にはエンジン出力の増加を遅延させることによって加速ショックを抑制し、中間負荷時からの出力向上時のようにバックラッシュが詰まっている場合には、開いている場合よりもエンジン出力の増加を早めることによって応答性を改善することができる。
(2)インテークマニホールド圧力センサ131によって直接され、かつエンジン10の出力トルクとの相関性が高いインテークマニホールド内圧力に基づいてバックラッシュの有無を判定することによって、例えばエンジン回転数、燃料噴射量、スロットル開度等からエンジンの出力トルクを推定する場合に対して、バックラッシュの有無を精度よく判定することができる。
例えば、エンジンの出力トルクを、エンジンの回転数と燃料噴射量とのマップから導き出すことも可能であるが、この場合、得られる出力トルクはあくまでも推定値であって、マップの精度や、点火時期、可変バルブタイミング機構、可変バルブリフト機構等の状態によっては誤差が大きくなる場合がある。
この点、圧力センサの検出値であるインテークマニホールド内圧力を用いると、このような誤差を低減することができる。
(3)インテークマニホールド内圧力の閾値を、車両が一定速度で走行する場合の吸気管内圧力に関するデータに基づいて設定することによって、車両が一定速度で走行又は加速しておりバックラッシュが詰まっているか、あるいは、車両が減速しておりバックラッシュが開いているかを良好に判定することができる。
(4)インテークマニホールド内圧力の閾値が大気圧の低下に応じて小さくなるように補正されることによって、大気圧の変化によって車両の空気抵抗が変化した場合であっても良好なバックラッシュの判定を行うことができる。
【0036】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)上述した実施例では、動力伝達機構のバックラッシュの有無をインテークマニホールド内圧力に基づいて判定していたが、他の手法によって判定してもよい。例えばエンジンの出力トルクをエンジン回転数、エアフローメータ流量、スロットル開度、燃料噴射量等の各種運転条件に基づいて推定するとともに、推定された出力トルクを、推定された車両の走行抵抗と比較することによってバックラッシュの有無を判定するようにしてもよい。
(2)上述した実施例では、エンジンの出力調整をスロットルバルブによって行っているが、本発明は、他の手法によってエンジンの出力調整を行うものにも適用することができる。例えば、点火時期の遅延や、ディーゼルエンジンの場合には燃料噴射量の調節によって上述した加速要求の増加に対するエンジン出力増加の遅延を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 車両
10 エンジン 11 インテークチャンバ
12 スロットル 13 インテークマニホールド
20 トランスミッション 30 アクセルペダル
100 エンジン制御ユニット(ECU)
110 加速要求検出手段
111 アクセルペダルポジションセンサ
120 スロットル制御手段 121 スロットルポジションセンサ
130 バックラッシュ判定手段
131 インテークマニホールド圧力センサ
132 大気圧センサ 133 クランク角センサ
134 車速センサ 135 シフトポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達機構を介して車輪を駆動するエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
加速要求を検出する加速要求検出手段と、
前記加速要求検出手段の出力に基づいて前記エンジンの出力調整を行うエンジン出力調整手段と、
前記動力伝達機構のバックラッシュが詰まっているか判定するバックラッシュ判定手段と
を備え、
前記エンジン出力調整手段は、前記加速要求の増加に応じて前記エンジンの出力を増加させる第1の制御モード、及び、前記加速要求の増加に応じて前記エンジンの出力を前記第1の制御モードよりも遅延させて増加させる第2の制御モードを有し、前記バックラッシュ判定手段によって前記バックラッシュが詰まっていると判定された場合には前記第1の制御モードを選択し、前記バックラッシュが開いていると判定された場合には前記第2の制御モードを選択すること
を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記エンジン出力調整手段は、前記エンジンの吸気管路に設けられたスロットルバルブを開閉するアクチュエータを制御することによって前記エンジンの出力調整を行い、
前記バックラッシュ判定手段は、前記スロットルバルブよりも前記エンジン側の吸気管内圧力が閾値よりも大きい場合に前記バックラッシュが詰まっていると判定すること
を特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記バックラッシュ判定手段における前記閾値は、車両が一定速度走行する場合の吸気管内圧力に関するデータに基づいて設定されること
を特徴とする請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記バックラッシュ判定手段における前記閾値は、大気圧の低下に応じて小さくなるように補正されること
を特徴とする請求項3に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−174729(P2010−174729A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17934(P2009−17934)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】