説明

エンジン始動制御装置

【課題】 適正なエンジン始動を達成可能なエンジン始動制御装置を提供すること。
【解決手段】 内燃機関の停止時に、所定の気筒の燃焼室に燃料を噴射して点火することでスタータモータを用いることなく内燃機関を始動する自爆始動手段と、前記所定の気筒の燃焼室内の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、前記筒内圧検出手段により検出された筒内圧が自爆始動可能な所定圧以上のときは、前記自爆始動手段により内燃機関を始動し、前記筒内圧が所定圧未満のときは前記スタータモータにより内燃機関を始動する始動制御手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が信号待ちなどで停止し、エンジンのアイドリングを自動的に停止することで燃費の改善を図るアイドリングストップ車両が知られている。また、発進意図が検出されたときは、エンジンを直ちに再始動するにあたり、気筒内に導入してある混合気を着火燃焼させ、その燃焼エネルギを用いてクランク軸に回転力を付与してエンジンを始動させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−144662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、気筒内の内圧が十分に確保されていない場合、例えピストン位置が内圧を確保していると考えられる位置にあったとしても、やはり適正な始動を行うことができず、スタータモータによる始動が必要となり、再始動遅れ等が生じるおそれがあった。
本発明の目的とするところは、適正なエンジン始動を達成可能なエンジン始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のエンジン始動制御装置では、内燃機関の停止時に、所定の気筒の燃焼室に燃料を噴射して点火することでスタータモータを用いることなく内燃機関を始動する自爆始動手段と、前記所定の気筒の燃焼室内の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、前記筒内圧検出手段により検出された筒内圧が自爆始動可能な所定圧以上のときは、前記自爆始動手段により内燃機関を始動し、前記筒内圧が所定圧未満のときは前記スタータモータにより内燃機関を始動する始動制御手段と、を備えた。
【発明の効果】
【0006】
よって、検出された筒内圧に基づいて始動を制御するため、適正なエンジン始動を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のエンジン始動制御装置の構成を表すシステム図である。
【図2】実施例1の筒内圧センサの構成を表す概略図である。
【図3】実施例1のホイートストンブリッジ回路を表す回路図である。
【図4】実施例1のひずみセンサとダミー抵抗の形状とシリコン基板の結晶方位との関係を示す図である。
【図5】実施例1のエンジン始動制御処理を表すフローチャートである。
【図6】実施例1の自爆始動時における燃料噴射量と筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図7】実施例1の自爆始動時における点火ディレイと筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図8】実施例1の自爆始動時におけるエギゾーストバルブ開閉タイミングと筒内圧との関係を表す制御マップである。
【図9】実施例1のエンジン始動制御処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
図1は実施例1のエンジン始動制御装置の構成を表すシステム図である。内燃機関であるエンジン1は、エンジンブロック2と、エンジンブロック2内に形成された複数の気筒14と、気筒14内に燃料混合気を吸入するインテークマニホールド3と、複数の気筒14と接続され燃焼ガスを排気するエギゾーストマニホールド4と、気筒14内において上下運動を行なうピストン5と、ピストン5の上下運動を回転運動に変換するクランクを介して回転するクランクシャフト6とを有する。
【0009】
インテークマニホールド3には、制御信号に基づいて所定の燃料を噴射するインジェクタ7と、気筒14内とインテークマニホールド3との間の開閉を行なうインレットバルブ8とが設けられている。インレットバルブ8はクランクシャフト6の回転に同期して作動するカムシャフト9により開閉動作が行なわれる。エギゾーストマニホールド4には、気筒14内とエギゾーストマニホールド4との間の開閉を行なうエギゾーストバルブ10が設けられている。エギゾーストバルブ10はクランクシャフト6の回転に同期して作動するカムシャフト11により開閉動作が行なわれる。このカムシャフト11とクランクシャフト6との間にはバルブタイミング制御機構12が設けられ、エギゾーストバルブ10の開閉タイミングをクランクシャフト6の作動角に対して進角もしくは遅角することで開閉タイミングの最適化を実施可能に構成されている。バルブタイミング制御機構12は図外の油圧源から供給される制御圧により進角量もしくは遅角量が制御される。尚、油圧に限らず電磁力等によって変更するタイプであってもよい。インテークマニホールド3とエギゾーストマニホールド4との間には、筒内に臨む点火プラグ13が設けられ、所定のタイミングで点火プラグ13により着火することで筒内爆発を発生させる。
【0010】
また、バッテリにより駆動されるスタータモータ15が設けられ、クランクシャフト6にリングギヤ等を介して回転駆動力を供給することでエンジン始動を達成する。また、エンジンブロック2の気筒14が並ぶ両端には、筒内圧センサ30が設けられている。この筒内圧センサ30はエンジンブロック2の歪を検出し、この歪に基づいて筒内圧を推定検出するものである。気筒14の並びの両端に筒内圧センサ30を設けることで、どの気筒にどの程度の筒内圧が残存しているかを精度良く推定することができる。尚、筒内圧センサの詳細については後述する。また、クランクシャフト6の回転角を検出するクランク角センサ31と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ32とを有する。
【0011】
エンジンコントローラ20は、筒内圧センサ30、クランク角センサ31及びエンジン回転数センサ32等のセンサ信号を入力し、エンジン作動状態を制御する。エンジンコントローラ20内には、所定の条件が成立したときにエンジンアイドリング作動を自動停止するアイドリングストップ制御部21と、自動停止したエンジンを再始動する際の始動制御を行う始動制御部22とを有する。
【0012】
アイドリングストップ制御部21は、走行中の交差点で停止等する場合、運転者がブレーキペダルを踏み込み、車速が所定車速以下であるといった所定の条件が成立した場合、エンジンのアイドリングを停止する制御を行う。このとき、アイドリングの停止にあたっては、所定の気筒14が膨張行程となるピストン位置となるようにエンジンを停止する。これにより、筒内圧14内には所定の筒内圧が保持され、エンジン再始動時にスタータモータ15を用いることなくエンジン始動を行う自爆始動を可能とする。アイドリング停止後、所定の条件が不成立もしくは他のエンジン始動条件が成立したときは、速やかにエンジン再始動を行う。尚、アイドリングストップ制御自体は、公知の技術が適宜採用できるため詳細な説明は省略する。
【0013】
始動制御部22では、アイドリングストップ制御によるエンジン停止後、再始動するときに、スタータモータ15によるエンジン再始動を行うか、スタータモータ15を用いることなく燃料噴射と点火によってエンジン再始動を行う自爆始動のいずれかを選択し、選択された方法によってエンジン再始動を行う。
【0014】
〔筒内圧センサの構成について〕
ここで、筒内圧センサ30の詳細について説明する。図2は実施例1の筒内圧センサの構成を表す概略図である。この筒内圧センサ30は、同一の単結晶シリコン基板141上に、少なくともピエゾ抵抗効果を利用したひずみセンサ142とダミー抵抗142aを有するホイートストンブリッジ回路144、ひずみセンサアンプ群143、アナログ/デジタルコンバータ145、整流・検波・変復調回路部146、通信制御部147、接着部148、アンテナ149を備えている。尚、以下ではシリコン基板141と、シリコン基板141上に構成した薄膜群を総称してチップ140と記載する。アンテナ149は、電力を稼ぐために外部に大きなアンテナを形成しても良いが、ここではチップ140内に内蔵する場合を例に説明する。
【0015】
アンテナ149を内蔵している場合には、筒内圧センサ30がチップ140に相当し、アンテナを外付けとした場合にはチップ140とアンテナ149を併せて筒内圧センサ30とする。チップ140内にアンテナを内蔵しているため、外部接続用の電極パッドが不要となり、電極がチップ表面に露出することがなく、劣悪な環境下で用いる場合にも、電極パッドの腐食等が起こらず、信頼性が高い。筒内圧センサ30は接着部148によりエンジンブロック2に接着され、シリコン基板141にひずみが伝達される。シリコン基板141全体にひずみが付加されると、シリコン基板141中のひずみセンサ142の抵抗が変化し、ひずみセンサアンプ群143、アナログ/デジタルコンバータ145を通してデジタル信号に変換され、アンテナ149からリーダに送信される。一方、リーダから送られた電力用高周波信号をアンテナ149で受信し、整流・検波・変復調回路部146で平滑化し、一定電圧の直流電力にしてチップ140内の各回路に電源として供給する。尚、実施例1ではアンテナに誘導電磁界を形成する電磁誘導を用いたもの、もしくはマイクロ波を受信、復調して用いたもの、光を用いてエネルギ供給及び交信を行なってもよい。尚、シリコン基板裏面をエンジンブロック2との接着面とする。尚、実施例1では、筒内圧センサ30に対する電力供給やセンサ信号の送受信を無線により行なうこととしたが、有線により行なってもよい。この場合は配線等の制約が生じるものの、無線関係機器等を削減することができるため、外乱ノイズへの耐性を確保しやすくなる。
【0016】
筒内圧センサ30は素子形成面に対向したシリコン基板裏面に接着部148が配されている。そして、エンジンブロック2のひずみがシリコン基板全体に接着部148を通してひずみを与えることによってひずみを計測する。すなわち、ひずみセンサ142とその処理回路が同一のシリコン基板中に高集積されるため、コンパクトな構成を達成している。このとき、シリコン基板の厚さを100μm以下にすることが望ましく、その場合にはエンジンブロック2のひずみの値とひずみセンサ142の位置でのひずみの値をほぼ一致させることができる。すなわち、シリコン基板141の厚さを100μm以下にすることによって測定精度を向上している。また、シリコン基板141の厚さを100μm以下にすると、エンジンブロック2との接着面が曲面を持っていたとしても、破壊することなく該曲面に沿って貼り付けることができる。さらに、シリコン基板141は絶縁膜に比べて熱伝導率が高いため、シリコン基板141の裏面に接着部148を配したことによってエンジンブロック2の温度がシリコン基板141の表面のひずみセンサ142に伝わりやすく、温度補正を行なった際にも温度不均一による精度の低下が発生しないという利点もある。また、エンジンブロック2に接着した状態で温度が上昇すると、チップ140とエンジンブロック2の間に大きな熱応力が発生する場合がある。しかしながら、この筒内圧センサ30は、シリコン基板裏面に接着部148を配しており、シリコン基板裏面のほうがガラス等で構成されているチップ表面よりも接着強度や破壊強度が大きいため、エンジンブロック2の温度が上昇した場合でも、接着部148での破壊や剥離が起きず、信頼性ある測定ができる。接着部148はシリコンの裏面を荒らした構造を有しており、凹凸の大きさは粗さで1ミクロン以上と、チップ表面の凹凸に比べて大きくする。これにより凹凸によるアンカー効果が発生し、エンジンブロック2との接着性が更に向上する。
【0017】
また、同一のシリコン基板中にひずみセンサ142と、ひずみセンサアンプ群143及びアナログ/デジタルコンバータ145を形成し、更にこれらの回路をチップ内で配線した構造を持つため、ひずみセンサ142と他の部分をつなぐ配線の長さを非常に短くすることができ、これにより電磁誘導もしくはマイクロ波で供給された電力を用いて動作させた場合でも、ノイズの混入が非常に小さく出来る。誘導電流を電源に用いて回路の動作をさせる際にはセンサの消費電力の低減が必須であるが、この場合においてもセンサのデータがノイズに埋もれることなく正しい測定が可能となる。
【0018】
また、通常考えられるように、ひずみセンサのみを被測定物に接着し、他の回路はひずみを受けないように、センサとは別に形成した場合には、電磁誘導もしくはマイクロ波用の電波を受けた際にリード線からノイズが乗りやすく、特別な考慮なしでは実質はノイズに埋もれて測定は不可能となる。これはセンサとその他の回路が離れた場所に存在するために、電波照射時にセンサと他の回路で位相差が生じ、異なった電位となるためである。一方、実施例1では、ひずみ測定に関与する箇所は電波の広がりに対してほぼ点であるとみなせることから、位相のずれがなく、ノイズの混入が非常に小さく出来るため、正しい測定が可能となる。
【0019】
更に、実施例1では、ひずみセンサ142とひずみセンサアンプ群143が隣に形成され、さらにひずみセンサアンプ群143とアナログ/デジタルコンバータ145が隣に形成されている。ひずみセンサ142とひずみセンサアンプ群143、及びひずみセンサアンプ群143とアナログ・デジタルコンバータ145が整流・検波・変復調回路部146、通信制御部147に比べて近距離に配置されているため、配線長さが短く、電波照射時にもノイズが混入しにくいという利点がある。
【0020】
図3はホイートストンブリッジ回路を表す回路図である。ホイートストンブリッジ回路144において、ひずみセンサ142はシリコン基板141中に局所的にP型の不純物層を拡散して形成され、その長手方向は<110>方向とする。またダミー抵抗142aは同様にシリコン基板中に局所的にP型の不純物層を拡散して形成され、図2に示すようにV字型とし、そのV字型を形成する直線部分の長手方向は<100>となるようにする。さらにひずみセンサ142とダミー抵抗142aの抵抗値はほぼ同じ値となるように形成する。また、ダミー抵抗142aはV字型をしているが、V字を形成する二つの直線部分の長さが等しくなるように折れ曲がるようにする。
【0021】
図4はひずみセンサとダミー抵抗の形状とシリコン基板の結晶方位との関係を示す図である。ひずみセンサ142をP型不純物拡散層で形成し、<110>方向を長手とすることで、長手方向の応力感度が大きく出来る。また、ダミー抵抗142aをP型不純物拡散層で形成し、長手方向を<100>とすることで垂直応力に対する感度を打ち消すことができるので、更にダミー抵抗142aの感度を低下させることができる。
【0022】
このように、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ142及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗142aからなる4辺のホイートストンブリッジ回路144を有し、ひずみセンサ142及びダミー抵抗142aをP型不純物拡散層で形成し、ひずみセンサ142の長手方向は<110>方向とし、ダミー抵抗142aはV字状をなし且つ当該V字を形成する直線部分の長手方向が<100>方向となるように形成したことで、ノイズの混入が非常に小さく、正しい測定ができる。
【0023】
尚、このセンサのひずみセンサ142とダミー抵抗142aの組み合わせと、各センサ及び抵抗の長手方向の関係は以下のように、
1)ひずみセンサをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗をP型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、二つのひずみセンサ及び二つのダミー抵抗が平行配置されているもの
2)ひずみセンサをN型不純物拡散層で<100>方向を長手とし、ダミー抵抗をN型不純物拡散層で、ダミー抵抗はV字形状でV字を形成する直線部分の長手方向が<110>方向とされているもの
3)ひずみセンサをP型不純物拡散層で、ダミー抵抗をN型不純物拡散層で形成し、ひずみセンサ及びダミー抵抗をともに<110>方向を長手とするように形成し、かつ、二つのひずみセンサ及び二つのダミー抵抗が平行配置されているもの
の組み合わせのいずれかであってもよい。
【0024】
(エンジン始動制御処理)
次に、上記筒内圧センサ30を用いたエンジン始動制御処理について説明する。図5は実施例1のエンジン始動制御処理を表すフローチャートである。実施例1のアイドリングストップ制御において、アイドリングを停止するときは、気筒内に所定の筒内圧が保持できるよう、膨張行程でピストン5が停止するように制御するため、基本的には筒内圧は確保されているはずである。しかしながら、車両停止時間が非常に長い場合や、エンジンの経年変化によって、エンジン再始動時にも継続的に筒内圧が保持されているか否かは不明確である。そこで、実施例1では、筒内圧を検出することで自爆始動もしくはスタータモータ15を用いたエンジン始動を切り替えることとした。
【0025】
ステップS1では、アイドリングストップ中か否かを判断し、アイドリングストップ中のときはステップS2に進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。
ステップS2では、筒内圧センサ30により膨張行程気筒の筒内圧を検出する。筒内圧センサ30は、極めて精度良く歪を検出することが可能であることから、図1(b)に示すように気筒14が並んでいた場合、各気筒の筒内圧を精度良く検出できる構成とされている。
ステップS3では、自爆始動可能か否かを判断し、自爆始動可能と判断したときはステップS4に進み、それ以外のときはステップS7に進む。ここで、自爆始動可能か否かは、膨張行程の気筒14の筒内圧が予め設定された所定圧以上か否かで判断する。
ステップS4では、自爆始動用の燃料噴射量、点火タイミング、エギゾーストバルブタイミングを演算する。この演算内容については後述する。
ステップS5では、エンジン始動要求の有無を判断し、始動要求があったときはステップS6に進み、それ以外のときはステップS2からS4を繰り返し実施する。
ステップS6では、ステップS4において演算された制御量に基づいて自爆始動を実施する。
【0026】
ステップS7では、スタータモータ15により始動する場合の燃料噴射量、点火タイミング、エギゾーストバルブタイミングを演算する。この演算は、公知のアイドリングストップ車両における始動処理内容を実施すればよいため、詳細な説明は省略する。
ステップS8では、始動要求の有無を判断し、始動要求があったときはステップS9に進んでステップS7において演算された制御量に基づいてスタータモータ15を駆動しつつエンジン始動を実施する。始動要求がない場合はステップS7に戻って再度適切なエンジン始動制御量の演算を繰り返す。
【0027】
次に、ステップS4における各演算処理内容について説明する。
(燃料噴射量制御)
図6は実施例1の自爆始動時における燃料噴射量と筒内圧との関係を表す制御マップである。図5のステップS3において、筒内圧が所定圧以上であると判断されているため、自爆始動は可能である。ただし、所定圧以上であっても、筒内圧が低めのときは、筒内圧を素早く上昇させてスムーズなエンジン始動を行う必要がある。そこで、筒内圧が低いほど燃料噴射量を増量することで、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。
【0028】
(点火タイミング制御)
図7は実施例1の自爆始動時における点火ディレイと筒内圧との関係を表す制御マップである。図5のステップS3において、筒内圧が所定圧以上であると判断されているため、自爆始動は可能である。ただし、所定圧以上であっても、筒内圧が低めのときは、筒内圧を素早く上昇させてスムーズなエンジン始動を行う必要がある。燃料の燃焼による爆発力は、十分な燃料の気化時間を確保する必要があることから、燃料噴射が行なわれてから点火プラグ13により着火するまでの時間をディレイ時間と定義し、このディレイ時間を筒内圧が低いほど長く設定することとした。これにより、十分な燃料の気化時間を確保することができ、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。尚、筒内圧が低いときは燃料が増量されていることからも、気化時間の確保は有効である。
【0029】
(バルブタイミング制御)
図8は実施例1の自爆始動時におけるエギゾーストバルブ開閉タイミングと筒内圧との関係を表す制御マップである。図5のステップS3において、筒内圧が所定圧以上であると判断されているため、自爆始動は可能である。ただし、所定圧以上であっても、筒内圧が低めのときは、筒内圧を素早く上昇させてスムーズなエンジン始動を行う必要がある。燃料の噴射による爆発力は、エギゾーストバルブ10が開くタイミングが遅れるほど、気筒14内の圧力を高めに維持することが可能であることから、筒内圧が低いほど、バルブタイミング制御機構12によりエギゾーストバルブ10の開くタイミングを遅らせることとした。これにより、点火によってピストン5が押し下げられるときに、より長い時間、気筒14を閉空間とすることができ、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。
【0030】
図9は実施例1のエンジン始動制御処理を表すタイムチャートである。図9(a)は、始動要求時における筒内圧が所定圧よりも高い場合を示し、図9(b)は、始動要求時における筒内圧が所定圧よりも低い場合を示す。
【0031】
図9(a)に示すように、ピストン位置が膨張行程を表す所定位置にあり、筒内圧が自爆始動可能残圧である所定圧以上のときは、自爆始動を実施する。これにより、スタータモータ15を使用することなくスムーズにエンジン始動でき、不要な電力を消費しないため、燃費を向上することができる。
【0032】
一方、図9(b)に示すように、ピストン位置が膨張行程を表す所定位置にあったとしても、エンジンの経年変化や車両停止時間が長時間にわたることで、筒内圧が所定圧よりも低くなる場合がある。仮に、このとき、ピストン位置が適正であると判断して自爆始動を行ったとしても、十分な筒内圧が得られていないことから自爆始動できず、スタータモータ始動に切り換える等の対応が必要となり、エンジン始動タイミングが遅れてしまうという問題がある。これに対し、実施例1では、筒内圧が所定圧未満に低下していることを検知しているため、ピストン位置に関わらず最初からスタータモータ15によるエンジン始動を実施することができ、エンジン始動の応答性を確保することができる。尚、言い換えると、自爆始動によるエンジン始動の応答遅れを回避するために、例えば所定圧を高めに設定することも考えられるが、不用にスタータモータ15による始動を行う回数が増え、燃費向上の妨げになることは言うまでもない。
【0033】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(1)エンジン1(内燃機関)の停止時に、所定の気筒の燃焼室に燃料を噴射して点火することでスタータモータ15を用いることなくエンジン1を始動する始動制御部22(自爆始動手段)と、所定の気筒14の燃焼室内の筒内圧を検出する筒内圧センサ30(筒内圧検出手段)と、筒内圧センサ30により検出された筒内圧が自爆始動可能な所定圧以上のときは、自爆始動によりエンジン1を始動し、筒内圧が所定圧未満のときはスタータモータ15によりエンジン1を始動する始動制御部22(始動制御手段)と、を備えた。
よって、検出された筒内圧に基づいて始動を制御するため、適正なエンジン始動を達成できる。
【0034】
(2)始動制御部22(自爆始動手段)は、筒内圧が所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べて燃料の噴射量を増量する。
よって、筒内圧が低い場合であっても燃料の増加によって爆発力を高めることができ、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。
【0035】
(3)始動制御部22(自爆始動手段)は、筒内圧が所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べてディレイ時間(燃料の噴射から点火までの時間)を長くする。
よって、筒内圧が低い場合であっても気化時間を確保することで爆発力を高めることができ、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。
【0036】
(4)気筒14のエギゾーストバルブ10(排気バルブ)の開閉タイミングを変更可能なバルブタイミング制御機構12(バルブタイミング変更手段)を有し、始動制御部22(自爆始動手段)は、筒内圧が所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べてバルブタイミング制御機構12によりエギゾーストバルブ10の開くタイミングを遅らせる。
よって、筒内圧が低い場合であっても気筒14内の筒内圧が高い状態を長めに得ることができ、筒内圧の上昇勾配を確保することができる。
【0037】
(5)筒内圧センサ30は、エンジン1のシリンダブロック2の歪を検出するセンサである。よって、筒内圧と相関の高い部材の歪を用いて筒内圧を検知することができ、検出精度を高めることができる。また、筒内圧を直接検知する場合に比べて簡易な構成でセンサを設置することができる。
【0038】
(6)筒内圧センサ30は、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ14及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗からなる4辺のホイートストンブリッジ回路144と、該ホイートストンブリッジ回路144からの信号を増幅してデジタル信号に変換するアナログ/デジタルコンバータ145(変換回路)と、該デジタル信号と前記シリコン基板の外部に電送するための通信制御部147(電送回路)と、前記シリコン基板の外部から受けた振動等に基づいて各回路に電源を供給するアンテナ149及び整流・検波・変復調回路部146(電源回路)と、を有するセンサである。
よって、非常にコンパクトな構成でありながら、極めて高精度な歪量を検出することができ、筒内圧を精度良く検出することができる。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、具体的構成は上記に限定されない。実施例1ではエンジンブロック2に筒内圧センサ30を設けた例を示したが、シリンダヘッド等、筒内圧の影響によって変形が考えられる場所であれば適宜設定可能である。また、実施例1では、気筒14の並びの両端に二つの筒内圧センサ30を設けたが、一つのセンサで全て推定してもよい。また、両端に設置する場合に限らず、一端とエンジンブロック中央部分に設置してもよいし、気筒毎に複数のセンサを設置してもよい。また、アイドリングストップ制御を行う車両に基づいて説明したが、ハイブリッド車両のように一時的にエンジンを停止する車両であっても同様に適用可能である。この場合、スタータモータに代えてハイブリッド用のモータを用いることなくエンジン始動できるため、燃費の改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
2 エンジンブロック
5 ピストン
10 エギゾーストバルブ
11 カムシャフト
12 バルブタイミング制御機構
13 点火プラグ
14 気筒
20 エンジンコントローラ
21 アイドリングストップ制御部
22 始動制御部
30 筒内圧センサ
140 チップ
141 シリコン基板
142 ひずみセンサ
142a ダミー抵抗
143 センサアンプ群
144 ホイートストンブリッジ回路
145 アナログ・デジタルコンバータ
146 整流・検波・変復調回路部
147 通信制御部
148 接着部
149 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の停止時に、所定の気筒の燃焼室に燃料を噴射して点火することでスタータモータを用いることなく内燃機関を始動する自爆始動手段と、
前記所定の気筒の燃焼室内の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記筒内圧検出手段により検出された筒内圧が自爆始動可能な所定圧以上のときは、前記自爆始動手段により内燃機関を始動し、前記筒内圧が所定圧未満のときは前記スタータモータにより内燃機関を始動する始動制御手段と、
を備えたことを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン始動制御装置において、
前記自爆始動手段は、前記筒内圧が前記所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べて前記燃料の噴射量を増量することを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジン始動制御装置において、
前記自爆始動手段は、前記筒内圧が前記所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べて前記燃料の噴射から点火までの時間を長くすることを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一つに記載のエンジン始動制御装置において、
気筒の排気バルブの開閉タイミングを変更可能なバルブタイミング変更手段を有し、
前記自爆始動手段は、前記筒内圧が前記所定圧以上の範囲において低いときは、高いときに比べて前記バルブタイミング変更手段により前記排気バルブの開くタイミングを遅らせることを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載のエンジン始動制御装置において、
前記筒内圧検出手段は、前記内燃機関のシリンダブロックの歪を検出するセンサであることを特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジン始動制御装置において、
前記センサは、単結晶シリコン基板の(001)面に、互いに対向する2辺に設けられた二つのひずみセンサ及び他の互いに対向2辺に設けられた二つのダミー抵抗からなる4辺のホイートストンブリッジ回路と、該ホイートストンブリッジ回路からの信号を増幅してデジタル信号に変換する変換回路と、該デジタル信号と前記シリコン基板の外部に電送するための電送回路と、前記シリコン基板の外部から受けた振動等に基づいて各回路に電源を供給する電源回路と、を有するセンサであることを特徴とするエンジン始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−68142(P2013−68142A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206718(P2011−206718)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】