説明

カーボンナノチューブ膜デバイス製造方法

【課題】 カーボンナノチューブ電子電界エミッタ構造を含む改良された電界放出デバイスを実現する。
【解決手段】 接着性カーボンナノチューブ膜(単層あるいは多層ナノチューブを含む)が、比較的平坦な導電性基板上に形成される。本発明は、強く接着するカーボンナノチューブ膜を実現する。さらに、放出特性を向上させるために、膜中のナノチューブの一部(例えば、少なくとも50体積%)を、ほぼ同じ方向に整列させ、それらの長軸を、基板表面に垂直な向きにすることが可能である。一実施例では、単層カーボンナノチューブが、炭素溶解性元素(例えば、Ni、Fe、Co)あるいはカーバイド形成元素(例えば、Si、Mo、Ti、Ta、Cr)のような炭素と反応する材料を含む基板上に形成される。また、アルミニウムのような低融点材料を有する基板を使用することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む電界放出デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている真空マイクロエレクトロニクスデバイスには、マイクロ波パワー増幅器、イオン銃、電子線リソグラフィ、高エネルギー加速器、自由電子レーザ、電子顕微鏡および電子マイクロプローブで使用されるフラットパネルディスプレイ、クライストロンおよび進行波管がある。このようなデバイスにおける好ましい電子源は、適当なカソード(陰極)材料から真空中への電子の電界放出である。代表的な電界放出デバイスは、複数の電界(フィールド)エミッタチップ(先端)を有するカソードと、カソードから離間されたアノード(陽極)からなる。アノードとカソードの間にかかる電圧により、アノードへ向かう電子の放出が起こる。
【0003】
電界エミッタの1つの有望な応用は、薄型のマトリクスアドレス型フラットパネルディスプレイである(例えば、
Semiconductor International, December 1991, 46
・C. A. Spindt et al., "Field Emitter Arrays for Vacuum Microelectronics", IEEE Transactions on Electron Devices, Vol.38, 2355 (1991)
・I. Brodie and C. A. Spindt, Advances in Electronics and Electron Physics, edited by P. W. Hawkes, Vol.83 (1992)
・J. A. Costellano, Handbook of Display Technology, Academic Press, 254 (1992)
を参照。)従来の電界放出フラットパネルディスプレイは、平らな真空セルを有する。真空セルは、カソード上に形成された微小エミッタと、透明な前面プレート上の蛍光体で被覆されたアノードとのマトリクスアレイを有する。カソードとアノードの間には、グリッドあるいはゲートと呼ばれる導電性素子がある。カソードとゲートは一般に、交差するストリップ(通常は直交するストリップ)であり、その交点がディスプレイのピクセルを規定する。ピクセルは、カソード導体ストリップとゲート導体の間に電圧をかけることによって活性化される。放出される電子に比較的高いエネルギー(例えば400〜5000eV)を与えるために、さらに正の電圧をアノードにかける(例えば、米国特許第4,940,916号、第5,129,850号、第5,138,237号および第5,283,500号を参照)。
【0004】
また、電界放出は、パワー増幅器のようなマイクロ波真空管デバイスにも使用されている。このようなデバイスは、通信、レーダ、およびナビゲーションシステムのような、現代のマイクロ波システムの重要なコンポーネントである(A. W. Scott, Understanding Microwaves, John Wiley & Sons, 1993, Ch.12、を参照)。半導体マイクロ波増幅器も利用可能であるが、マイクロ波管増幅器は、そのような半導体増幅器よりも数桁大きいマイクロ波エネルギーを提供することが可能である。この高いパワーは、電子が、半導体材料中よりも真空中のほうがずっと速く移動することができることによる。その高い速度により、移動時間が許容できないほど増大することなく、大きい構造を使用することが可能となり、構造が大きくなるほど、提供されるパワーも大きくなる。
【0005】
電界放出デバイスのカソード材料について、期待されるさまざまな特性が知られている。放出電流は、市販の集積回路から得ることが可能な範囲のドライバ電圧で、電圧制御可能であることが好ましい。代表的なデバイス寸法(例えば、ディスプレイにおける1μmのゲート・カソード間隔)の場合、代表的なCMOSドライバ回路には、25V/μm以下の電界で放出を行うカソードが一般に好ましい。放出電流密度は、フラットパネルディスプレイのアプリケーションでは1〜10mA/cm2の範囲、マイクロ波パワー増幅器アプリケーションでは100mA/cm2以上が好ましい。放出特性は、複数の放出源で再現性があることが好ましく、非常に長期間(例えば、数万時間)にわたって安定であることが好ましい。放出ゆらぎ(ノイズ)は、デバイス性能を制限しないほどに十分に小さいことが望ましい。カソードは、イオン衝撃、残留気体との化学反応、非常な高温、およびアークのような、真空環境における好ましくない現象に耐えられることが好ましい。最後に、カソードの製造は、安価であることが好ましい。例えば、非常に困難なプロセスがなく、さまざまなアプリケーションに適応可能であることが好ましい。
【0006】
電界放出デバイス用の従来のカソード材料は、一般に、鋭い、ナノメートル程度のサイズのチップ(先端)を有する金属(例えばMo)または半導体材料(例えば、Si)からなる。これらの材料では有用な放出特性が実証されているが、これらの仕事関数が大きいために、放出に必要な制御電圧は比較的高い(100V程度)。高電圧動作は、エミッタチップ上のイオン衝撃および表面拡散によって引き起こされる損傷不安定性を増大させるとともに、要求される放出電流密度を生成するために外部ソースから高いパワー密度が供給されることを必要とする。さらに、特に大面積にわたって、一様な鋭いチップを製造することは、困難で、面倒で、高価であることが多い。実際のデバイス動作環境において、これらの材料が、イオン衝撃、化学的活性種との反応、および非常な高温のような現象に対して脆弱であることも問題である。
【0007】
マイクロ波管デバイスの場合、従来の電子源は、熱電子放出カソードであり、代表的には、Ir−Re−Os合金から、あるいは、BaO/CaO/SrOやBaO/CaO/Al23のような酸化物から形成され、これらを金属(例えばタングステン)で被覆あるいは含浸したものである。このようなカソードは、1000℃以上まで加熱されると、十分な熱電子放出(1平方センチメートルあたり数アンペアのオーダーで)を生じる。しかし、これらの熱電子カソードを加熱する必要があることは、問題を生じる可能性がある。加熱は、例えば、カソード表面からバリウムを蒸発させることによって、カソードの寿命を縮めることになる。例えば、いくつかの進行波管の寿命は1年未満である。また、加熱は、放出が起こるまでに、例えば約4分の予熱(warm-up)遅延を伴う。このような遅延は、商業的には好ましくない。また、高温動作は、例えば冷却システムの、大きな付属機器を必要とする。
【0008】
エミッタ材料を改良しようとする試みにより、最近では、炭素材料が、電子電界エミッタとして有用である可能性が高いことが示されている。ダイヤモンドエミッタおよび関連する放出デバイスは、例えば、
・米国特許第5,129,850号、第5,138,237号、第5,616,368号、第5,623,180号、第5,637,950号および第5,648,699号
・Okano et al., Appl. Phys. Lett., Vol.64, 1994, 2742
・Kumar et al., Solid State Technol., Vol.38, 1995, 71
・Geis et al., J. Vac. Sci. Technol., Vol.B14, 1996, 2060
に記載されている。ダイヤモンドは、その水素末端表面に対して負のあるいは低い電子親和力により、電界エミッタとして有利であるが、さらなる改良が望まれる。
【0009】
もう1つの、最近発見された炭素材料は、カーボンナノチューブである(例えば、
・S. Iijima, "Helical microtubules of graphitic carbon", Nature Vol.354, 56 (1991)
・T. Ebbesen and P. Ajayan, "Large scale synthesis of carbon nanotubes", Nature, Vol.358, 220 (1992)
・S. Iijima, "Carbon nanotubes", MRS Bulletin, 43 (Nov. 1994)
・B. Yakobson and R. Smalley, "Fullerene Nanotubues: C1,000,000 and Beyond", American Scientists, Vol.85, 324 (1997)
を参照)。ナノチューブには、本質的に、単層(チューブの直径は約0.5〜約10nm)と多層(チューブの直径は約10〜約100nm)の2つの形態がある。このようなナノチューブを電子電界エミッタとして使用することは、例えば、
・ドイツ国特許第4,405,768号
・Rinzler et al., Science, Vol.269, 1550 (1995)
・De Heer et al., Science, Vol.270, 1179 (1995)
・De Heer et al., Science, Vol.268, 845 (1995)
・Saito et al., Jpn. J. Appl. Phys., Vol.37, L346 (1998)
・Wang et al., Appl. Phys. Lett., Vol.70, 3308 (1997)
・Saito et al., Jpn. J. Appl. Phys., Vol.36, L1340 (1997)
・Wang et al., Appl. Phys. Lett., Vol.72, 2912 (1998)
に記載されている。カーボンナノチューブは、高いアスペクト比(>1,000)と、チップ(先端)の曲率半径が小さいこと(〜10nm)を特徴とする。これらの幾何学的特性は、チューブの比較的高い機械的強度および化学的安定性とともに、カーボンナノチューブが電子電界エミッタとして有用である可能性を示す。しかし、カーボンナノチューブは一般に、粉末や多孔性マットのような形態でしか得られず、これらはいずれも、デバイス構造に組み込むことは困難である。さらに、従来の研究では、性質を改良しようとしてナノチューブを整列させることが考察されているが、この整列は、商業的に実現可能であるとは思われない技術でしか実行されていない(例えば、De Heer et al., Science, Vol.268, 845 (1995)、を参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、改良された電子電界放出材料に基づく真空マイクロエレクトロニクスデバイスが必要とされている。特に、カーボンナノチューブエミッタを含むデバイスであって、現在の技術よりも容易にナノチューブをこのようなデバイスに組み込むことが可能であるようなものが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カーボンナノチューブ電子電界エミッタ構造を含む改良された電界放出デバイスを提供する。本発明によれば、接着性カーボンナノチューブ膜(単層あるいは多層ナノチューブを含む)が、比較的平坦な導電性基板上に形成される。(接着性の膜とは、厚さが0.1〜100μmで、接着強度が、直径0.141インチ(3.58ミリメートル)のスタッドを用いた通常のスタッド引張り試験で測定して少なくとも1.0kpsi(6.89Mpa)である連続膜を示す。ナノチューブ膜とは、少なくとも50体積パーセントのナノチューブを含む膜をいう。)従来は、ナノチューブの完全フラーレン構造のため、基板への粉末あるいはマット状ナノチューブの中程度の接着を達成することさえ困難であった。ナノチューブの完全フラーレン構造は、化学結合を起こすことが可能なダングリングボンドや欠陥サイトがないからである。本発明は、この問題点を克服し、強く接着するカーボンナノチューブ膜を実現する。さらに、放出特性を向上させるために、膜中のナノチューブの一部(例えば、少なくとも50体積%)を、ほぼ同じ方向に整列させ、それらの長軸を、基板表面に垂直な向きにすることが可能である。(ほぼ同じ方向に整列するとは、X線ロッキングカーブが、多層ナノチューブのシェル間隔を表すピークに対して、または、単層ナノチューブのバンドル内のチューブ間隔を表すピークに対して、90°以下の半値全幅を示すことを示す。)
【0012】
本発明の一実施例では、単層カーボンナノチューブが、炭素溶解性元素(例えば、Ni、Fe、Co)あるいはカーバイド形成元素(例えば、Si、Mo、Ti、Ta、Cr)のような炭素と反応する材料を含む基板上に形成される。このような基板上にナノチューブ膜を形成すると、ナノチューブと比較して高濃度の無定形炭素(a−C)を最初に生成して基板と反応させるようなナノチューブ形成プロセスを調整するのに有利である。このプロセスは、ナノチューブを基板に固定する基板/膜界面で、ナノチューブが、散在するa−Cとともに形成されるようにして、ナノチューブ生成を増大させるように緩やかに調整される。
【0013】
また、あらかじめ形成されたナノチューブを溶媒と混合してスラリを形成してから、炭素溶解性またはカーバイド形成材料を含む表面層を有する基板上にそのスラリを、例えばスピンオン法、スプレー法、あるいはプリンティング法によって形成することも可能である。また、アルミニウムのような低融点材料(すなわち、700℃以下)を有する基板を使用することも可能である。その後の加熱により、炭素溶解性またはカーバイド形成材料とナノチューブの反応、または、表面層の融解が起こり、ナノチューブが基板に固定される。また、あらかじめ形成したナノチューブを溶媒およびバインダ(および、オプションとしてハンダ)と混合し、その混合物を基板上に形成するというような方法によって、接着性ナノチューブ膜を形成することも可能である。その後の加熱により、バインダが活性化され、あるいは、ハンダが融解し、ナノチューブが基板に固定される。
【0014】
上記の実施例では、ナノチューブを磁界または電界中で形成することによって、非等方的なナノチューブが形成中にその長軸が力線(磁力線あるいは電気力線)と整列するようにして、ナノチューブを同時にほぼ同じ方向に整列させることが可能である。ナノチューブの整列は、整列したチューブ端における効率的で効果的な電界集中により、放出特性を改善すると考えられる。また、あらかじめ形成されたナノチューブの整列も、ナノチューブを導電性ポリマーと混合して複合材料を形成してから、その複合材料を一軸性負荷で引っ張ることによって達成される。(導電性ポリマーとは、1Ω・cmより小さい電気抵抗率を示すもののことである。)その後、その複合材料を基板上に接着することが可能である。
【0015】
このようにして、本発明は、ナノチューブ膜の基板への強力な接着と、オプションとして、ほぼ一様な整列により、改良されたカーボンナノチューブ膜エミッタ構造を含むデバイスを提供する。このようなナノチューブエミッタは、好ましい放出特性、例えば、低いしきい値電圧(10mA/cm2の電流密度で約3〜4V/μm以下)、高い電流密度(0.2A/cm2以上)ならびに優れた再現性および耐久性を示す。さらに、放出表面を数か月間空気にさらした後でも、放出特性はほぼ同じままである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カーボンナノチューブ電子電界エミッタ構造を含む改良された電界放出デバイスが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、接着性カーボンナノチューブ膜(単層あるいは多層ナノチューブを含む)を含むデバイスを提供する。このような膜は、電界エミッタ構造に特に有用である。
【0018】
一実施例では、電界エミッタ構造は次のように形成される。比較的平坦な表面を有する基板を用意する。この基板は一般に金属、半導体あるいは導電性酸化物である(導電性とは、103Ω・cmより小さい抵抗率を示す)。また、基板に導電性層を形成する場合、基板は絶縁性とすることも可能である。カーボンナノチューブは、基板表面上の接着性膜構造として形成される。現在、カーボンナノチューブは一般に、粉末または多孔性マットとして調製することが可能である。粉末も多孔性マットも、デバイスにおける強固な接着性カソード構造の調製には向いていない。カーボンナノチューブの接着性膜を製造することが困難であるのは一般に、ナノチューブ内の炭素原子が、基板への化学結合が起こるダングリングボンドや欠陥サイトのない完全フラーレン構造で配置されることによる。その結果、ナノチューブは、多くの基板に対して低い接着性を示すことになる。具体的には、形成されたナノチューブは、形成後、外力がなくても剥離しやすく、また、基板の取扱中に基板表面から飛んだり削れたりする。
【0019】
接着性のカーボンナノチューブ膜は、ナノチューブの形成中に(以下「in situ」という。)、または、あらかじめ形成されたナノチューブの処理により(以下「ex situ」という。)形成される。いずれの方法の場合でも、カーボンナノチューブ自体は、炭素アーク放電、炭化水素の触媒熱分解による化学蒸着、触媒金属含有グラファイトターゲットのレーザアブレーションおよび凝縮相電気分解などのさまざまな方法で生成することが可能である(例えば、前掲の
・S. Iijima, "Carbon nanotubes", MRS Bulletin, 43 (Nov. 1994)
・B. Yakobson and R. Smalley, "Fullerene Nanotubues: C1,000,000 and Beyond", American Scientists, Vol.85, 324 (1997)
を参照)。調製の方法および特定のプロセスパラメータ(これは、主として、グラファイト化および螺旋性の程度ならびにチューブの直径を制御する。)に依存して、ナノチューブは、主に、多層チューブ、単層チューブ、または単層チューブの束(バンドル)として生成することが可能である。同様に、チューブは、直線状、曲線状、キラル、アキラル、および螺旋状のような、さまざまな形態をとることが可能である。一般に、ナノチューブは、無定形炭素と、その中に(例えば、約20〜40体積%)混合された触媒粒子とともに形成されるが、無定形炭素および触媒粒子は、酸素プラズマ中でエッチングすることによって(これは、ナノチューブよりも無定形炭素に対して選択的である。)、空気中あるいは酸素分圧下で600℃以上の温度に加熱することによって(T. W. Ebbesen, Annual Rev. Mater. Sci., Vol.24, 235-264 (1994)、を参照)、酸中でエッチングすることによって、または濾過によって(K. B. Shelimov et al., Chem. Phys. Lett., Vol.282, 429 (1998)、を参照)、除去することが可能である。
【0020】
図1は、レーザアブレーション法により接着性薄膜ナノチューブを形成するのに用いられる装置の概略図である。本発明の一実施例では、この装置は以下のように用いられる(このレーザアブレーション実施例の変形も可能である)。ターゲット10は、当業者に周知のように、グラファイト粉末を金属触媒およびグラファイトセメントと混合することによって形成される。結果として得られる混合物を、通常の方法により圧し固めてペレットにし、例えば大気圧で100〜150℃で数時間加熱した後アルゴン流中で800℃で10時間加熱することによって、硬化する。結果として得られるターゲット10を、炉12内に配置された石英管11(例えば、外径1.5インチ(3.8センチメートル))の中央に置く。この管には、一定のアルゴン流が(例えば、約80torr(10.7kPa)で)流される。アルゴン流量は一般に、流量計13によって制御され、一般に、10〜50SCCMの範囲内にする。炉は、約1150℃の温度まで緩やかに加熱される。エネルギー密度が30〜70mJ/mm2のNd:YAGパルスレーザ14が一般に、ターゲット10のアブレーションに使用される。レーザビームは一般に、集光レンズ15により直径約1〜約5mmに集光され、水平光スキャナ16および垂直光スキャナ17によりターゲット10の表面を走査する。石英管11の前にカメラ18(例えばCCDカメラ)を置いて、アブレーションプロセスをモニタすることも可能である。上記の材料から形成された基板20は、石英管11内に、ターゲット10の下流に配置される。ターゲット10が、レーザ14によりアブレーションされると、カーボンナノチューブの膜が基板20上に形成される。以下で説明するように、ナノチューブの接着を改善するために無定形炭素の堆積が所望される場合、主にグラファイトから形成される第2のターゲット21(これが無定形炭素を生成することになる)を含めることも可能である。第1のターゲット10と第2のターゲット21のアブレーションの程度は、基板上に堆積されるナノチューブと無定形炭素の比を制御する。
【0021】
図2に、化学蒸着によってナノチューブ膜を形成するのに用いられる装置を示す。この装置は、真空容器30内に配置されたヒータ31を含む。CH4、C22、CO、あるいはCO2のような反応性炭素含有ガス32が、アルゴン、水素、あるいは窒素のような不活性キャリアガス33とともに容器30内に送られる。流量は、質量流量計34、35によって制御される。容器30の圧力は、ポンピング経路に設置された圧力バルブ36によって制御される。堆積中、基板37はヒータ31の上に置かれ、一般に400〜1200℃の範囲の温度に加熱される。気相中の炭素濃度は一般に5〜30原子%であり、容器圧力は一般に10〜200torr(1.3〜26.7kPa)である。カーボンナノチューブの核を形成するため、基板は、ニッケル、コバルト、フェライト、またはそれらの合金のような触媒金属であらかじめ被覆される。また、触媒は、フェロセンや鉄酸(ferric acid)の使用により気相を通じて提供することも可能である(R. Sen et al., Chem. Phys. Lett., Vol.267, 276 (1997)、および、L. C. Qin, Appl. Phys. Lett., Vol.72, No.26, 3437 (1998)、を参照)。本発明のいくつかの実施例の場合のように無定形炭素の堆積が所望される場合、例えば、基板温度を600℃以下に下げるか、あるいは、気相中の炭素濃度を50原子%以上に上げることによって、そのような無定形炭素を得るように成長条件を調整することが可能である。
【0022】
接着性ナノチューブ膜のin situ形成の場合、選択される基板材料は一般に炭素と反応性がある。炭素反応性材料には、炭素溶解性元素およびカーバイド形成元素がある。炭素溶解性材料は当業者に周知であり、例えば、T. B. Massalski, Binary Alloy Phase Diagrams, Vol.I, ASM International、に記載されており、Ni、Fe、Co、およびMnのような元素がある。カーバイド形成材料も、T. B. Massalskiの前掲書に記載されているように、同様に周知であり、Si、Mo、Ti、Ta、W、Nb、Zr、V、Cr、およびHfがある。基板が炭素反応性でない場合、基板上に炭素反応性材料の層を堆積することが可能である。一般に、カーボンナノチューブがこのような基板に接着するようにするために、初期a−C層を基板上に堆積する。上記のように、代表的なナノチューブ製造プロセスは、少なくとも20体積%のa−Cを生成し、これはナノチューブと混合する。例えば、成長温度を下げること、触媒金属の濃度を低下させること、グラファイトターゲットを追加すること(レーザアブレーション法の場合)、または、気相中の炭素濃度を増大させること(化学蒸着の場合)により、a−Cの濃度が高くなるようにプロセスのパラメータを調整することが可能である。接着性の層を形成するため、プロセスは、まず、例えば50体積%以上のa−Cを生成するように調整される。a−Cは、完全なナノチューブの原子構造を示さないため、a−Cの方が容易に(例えば、約500℃以上の比較的高温で堆積する場合には、上記の基板における溶解あるいはカーバイド形成によって)さまざまな基板に接着する。薄いa−C層(例えば、100Å以下)を堆積した後、形成プロセスは、生成されるナノチューブの割合を増大させるように緩やかに調整される。結果として得られる膜はa−Cおよびナノチューブを含み、界面の、および、混合するa−Cがナノチューブを固定する。a−Cとナノチューブの膜の全体の厚さは一般に約0.1〜約100μmである。
【0023】
こうして、ナノチューブは、接着性膜として基板上に(無定形炭素と混合して)直接に堆積することが可能である。(接着性とは、上記のように、ナノチューブ膜が、直径0.141インチ(3.58ミリメートル)のスタッドを用いたスタッド引張り試験で測定して少なくとも1.0kpsi(6.89Mpa)、好ましくは1.5kpsi(10.3Mpa)の接着強度を示すことである。)
【0024】
このようなin situ法を使用すると、ナノチューブ形成蒸着プロセスに少量の炭素反応性気体種を追加してさらに良好な接着を達成することも可能である。例えば、アセチレンガス(ナノチューブの熱分解堆積の場合)および非炭素反応性基板(例えば酸化物)を用いた形成プロセスでは、反応の初期段階の間に反応容器内に少量のシランを追加することが可能である。生成される炭素は、気体Si種と反応して、基板上にシリコンカーバイドを形成する。このカーバイドは一般に、ほとんどの酸化物基板材料と良好に接着し、生成されるa−Cおよびナノチューブは、形成中のシリコンカーバイドとさらに容易に接着する。
【0025】
接着性ナノチューブ薄膜は、あらかじめ形成されたナノチューブからex situで製造することも可能である。このナノチューブは、上記のような任意の既知の方法によって形成される。このようなex situ法では、ナノチューブ含有生成物は、同時堆積したa−Cを除去するために、混合前に精製すると有効である。このような精製は一般に、空気中で600℃以上に加熱することによって、酸素プラズマを使用してナノチューブ膜のa−C成分をエッチングすることによって、酸エッチングによって、あるいは、堆積物を濾過することによって行われる。
【0026】
ex situの一実施例では、超音波槽中でナノチューブ粉末をメタノールのような溶媒と混合することが可能である。その後、サスペンション(懸濁液)あるいはスラリを、スピンやスプレーのような方法により基板上に堆積する。基板は一般に、上記のような炭素反応性あるいはカーバイド形成元素であらかじめ被覆される。また、基板を、アルミニウムのような低融点(<700℃)材料で被覆することも可能である。その後の加熱により、ナノチューブと炭素反応性あるいはカーバイド形成元素との間の反応、または、低融点材料の融解が起こり、ナノチューブが基板に固定される。
【0027】
また、ナノチューブ粉末を溶媒およびバインダと混合して溶液あるいはスラリを形成することも可能である。オプションとして、この混合物に、単体金属または合金(例えばハンダ)のような導電性粒子を含めて、さらに接着を促進することも可能である。その後、この混合物を、例えばスプレー法やスピンオン法あるいは電気泳動によって、基板上にスクリーンプリントあるいは分散して、所望のエミッタ構造を形成する。次に、一般に、空気中、真空中または不活性雰囲気中で、例えば約150〜約250℃の温度で、アニーリングを実行して、溶媒を追い出してバインダを活性化することにより、基板上に接着性ナノチューブ構造を得る。ハンダ粒子、特に、200℃以下の低融点のハンダ(例えば、Sn、In、Sn−In、Sn−BiあるいはPb−Sn)を使用する場合、アニーリング温度は一般にハンダを溶融するのに十分であり、これは、ナノチューブの接着を向上させる。
【0028】
あるいは、ナノチューブ粉末を導電性ポリマー(例えば銀系ポリマー)と混合し、その混合物を、スクリーンプリント法、スプレー法もしくはスピンオン法または電気泳動のような従来の方法によって、あるいは、圧迫のような単純な機械的方法によって、基板に付着させ、接着性ナノチューブ含有膜を形成する。
【0029】
オプションとして、接着性ナノチューブ膜を形成するin situ法またはex situ法のいずれの場合でも、ナノチューブの長軸が、基板の表面に垂直に、ほぼ同じ方向に整列するようにナノチューブを膜内で配列して、放出特性を向上させる。従来のナノチューブ調製では、ナノチューブはランダムな向き(ねじれて、互いに交差する)になる。ナノチューブからの厳密な放出機構は完全には理解されていないが、1次元のナノチューブを、向き(配向)をそろえて(すなわち、チューブの長軸が電子放出の方向に沿って整列するように)整列させることによって、放出特性は、チューブ端における効率的で一様な電界集中により改善されると考えられる。上記の接着性膜にこのような向きを与えると有効である。整列の程度(膜内で互いにほぼ整列しているナノチューブの体積百分率)は、約50体積%以上であると有効であり、特に約75体積%以上であると有効である。
【0030】
接着性ナノチューブ膜のin situ法とともに用いる1つのin situ整列法では、基板上に直接にナノチューブを堆積している間に磁界あるいは電界を加える。ナノチューブの非等方性により、チューブは磁界あるいは電界と相互作用して、系の全エネルギーを下げるために力線に沿って長軸を整列させる。力線は一般に、所望の配列を与えるために、基板表面に垂直に加えられる。配列の程度は、場(電界あるいは磁界)の強さとともに増大すると期待される。103から106V/cmの電界および50Oe以上の磁界が適当であると期待される。
【0031】
あらかじめ形成されたナノチューブのex situ整列は一般に、キャスティング、モールディングなどの成形法によってナノチューブ/ポリマー複合体(例えば、上記の導電性ポリマーを使用して)を調製することを含む。次に、ポリマーマトリクス内にあるナノチューブを整列させることが可能である。これを行う1つの方法は、マトリクスの軟化温度以上で複合体に一軸性負荷をかけ、ナノチューブを負荷の方向に整列させるものである。(軟化温度とは、大規模な分子移動が始まる温度、すなわち、その温度以下でポリマーはガラス状になり、その温度以上でポリマーがゴム状になるような温度を指す。一般に、軟化温度は、ガラス転移温度である。)所望のレベルの整列が得られた後、軟化温度以下で負荷を外し、ナノチューブの構造を維持する。複合材料の延伸比を制御することによって、整列の程度を調整することが可能である。また、このような複合材料内のナノチューブの整列は、例えばロールキャスティング(roll-casting)法を用いた剪断力により引き起こすことも可能である。この場合、複合体混合物は、2つの偏心した同時に回転するシリンダ間で加工される。このような場合に、ナノチューブは、剪断力の方向に長軸を向けて整列する。図5は、例2による透過電子顕微鏡(TEM)の顕微鏡写真であり、機械的整列後(すなわち、複合体シートに一軸性負荷を加えた後)のナノチューブ/ポリマー複合体を示す。この場合、ナノチューブの大部分は、応力方向と平行に整列している。
【0032】
その後、(基板と、複合体のポリマー材料とに依存して)バインダ、接着剤、またはハンダの使用などのさまざまな方法によって、あるいは、単純な機械的圧迫によって、向きづけられた(配向した)複合体シートを接着性膜として基板上に付けることが可能である。
【0033】
接着性ナノチューブ膜の形成後、膜に隣接して、放出を励起するための電極を形成する。オプションとして、この電極は、米国特許第5,698,934号に記載のような高密度開口ゲート構造とすることが可能である。このような高密度ゲート開口構造は、ミクロンあるいはサブミクロンサイズの粒子マスクを利用することにより実現することが可能である。接着性ナノチューブ膜を基板上に堆積した後、マスク粒子(最大寸法が5μm以下の金属、セラミックまたはプラスチックの粒子)を、例えばスプレー法や散布(sprinkle)法によって、膜表面に付着させる。SiO2のような誘電体層を、蒸着やスパッタリングなどによってマスク粒子の上に堆積し、その後、ゲート金属膜を堆積する。陰影(shadow)効果のため、各マスク粒子の下のエミッタ領域には、誘電体や金属膜がない。その後、マスク粒子は容易に掃き去られ、あるいは吹き飛ばされ、高密度の開口を有するゲート電極が残る。
【0034】
ディスプレイアプリケーションでは、ディスプレイの各ピクセル内のエミッタ材料(冷陰極)は、とりわけ、放出特性を平均化し、ディスプレイ品質の一様性を保証するために、複数のエミッタからなることが好ましい。カーボンナノチューブの微小性により、エミッタは多くの放出点を提供する。代表的には、チューブの直径が100nmで、ナノチューブ密度が50%であると仮定すると、100×100μm2のピクセルあたり105以上の放出チップ(先端)がある。本発明におけるエミッタ密度は少なくとも10/μm2であり、好ましくは少なくとも100/μm2である。低電圧下での効率的な電子放出は一般に、加速ゲート電極が近接して(一般に約1μmの距離)存在することにより達成されるため、与えられたエミッタ領域にわたって複数のゲート開口を設け、複数のエミッタの能力を最大限に利用すると有効である。また、放出効率を最大にするため、できるだけ多くのゲート開口を有する微小なミクロンサイズの構造とするのが有効である。
【0035】
本発明の低電圧エミッタの重要な使用法は、電界放出フラットパネルディスプレイのような電界放出デバイスの製造におけるものである。図3は、薄膜ナノチューブ電界エミッタを用いたフラットパネルディスプレイの概略断面図である。ディスプレイは、複数のナノチューブエミッタ47を有するカソード41と、真空シール内でエミッタから離間して配置されたアノード45とを有する。透明絶縁基板46上に形成されたアノード導体49には、蛍光体層44が設けられ、支柱(図示せず)上にマウントされる。カソードとアノードの間で、エミッタの近くに離間して、孔のある導電性ゲート層43がある。ゲート43は、薄い絶縁層42によってカソード41から離間させると都合がよい。
【0036】
アノードとエミッタの間の空間は密閉されて排気され、電源48によって電圧が加えられる。ナノチューブエミッタ47からの電界放出電子は、各ピクセル内の複数のエミッタ47から、ゲート電極43によって加速され、アノード基板46上に被覆されたアノード導電層49(一般に、インジウムスズ酸化物のような透明な導体)のほうへ移動する。蛍光体層44が、電子エミッタとアノードの間に配置される。加速された電子が蛍光体層44に当たると、ディスプレイ画像が生成される。
【0037】
また、ナノチューブエミッタ構造は、進行波管(TWT:traveling wave tube)のようなマイクロ波真空デバイスにも有用である(例えば、A. Gilmour, Jr., Microwave Tubes, Artech House, 1986、を参照)。図4は、TWT50の概略図である。TWTは、真空管52、電子源(ここでは電子銃54)、マイクロ波入力信号を導入するための入力窓56、電子が入力信号と相互作用する場所である相互作用構造58、および、電子から導出されるマイクロ波パワーが管から取り出される場所であるマイクロ波出力窓60を含む。TWTの他のコンポーネントには、相互作用構造58を通して電子のビームを集める収束マグネット(図示せず)、出力マイクロ波パワーが生成された後に電子ビームを収集するコレクタ62、および、出力における不整合から管内に反射して戻るマイクロ波パワーを吸収する内部減衰器(図示せず)がある。相互作用領域58は一般に、広帯域アプリケーションでは導電性ヘリックスであり、高出力アプリケーションでは結合キャビティ領域である。
【0038】
電子銃54は、所望の軌跡に従う電子ビームを発生し、加速し、収束させる。TWTアプリケーションでは、比較的低電圧で大電流の長く薄い電子ビームが好ましい。電子銃は、例えば、平面カソードと平面アノードが対向したものから、ピアス(Pierce)銃、円錐形ダイオード電極、同心シリンダ、および球面キャップカソードのような複雑な設計のものまで、さまざまな構成がある(例えば、前掲のA. Gilmour, Jr., Microwave Tubes、を参照)。TWTの動作時には、電子ビーム64は、カソード66から、グリッド68とアノード70にかかる高電圧によって加速され、制御電極72によって収束される。ビーム64は、相互作用構造58に向けられ、そこで、電子と信号がともに相互作用構造58を通る際に、ビーム64は、増幅されるべきマイクロ波入力信号と相互作用する。電子は、相互作用構造58で、マイクロ波信号と同じ速度で移動すると有効である。変調された電子ビームは、出力60において、増幅された形式の入力信号を生成する。
【0039】
本発明の低電界ナノチューブエミッタは、x−yマトリクスアドレス可能電子源、電子線リソグラフィ用の電子源、および当業者には明らかな類似のアプリケーションなどの、他の電界放出デバイスにおける冷陰極としても有用である。
【0040】
本発明は、以下の例によってさらに明らかとなる。
【0041】
[実施例]
[例1]
図1に示すようなレーザアブレーションシステムを用いて、単層カーボンナノチューブを合成した。グラファイトと、ニッケル/コバルト触媒材料との混合物のターゲットを炉内に置き、一定のAr流のもとで1150℃に加熱した。ターゲットは、パルスNd:YAGレーザ(λ=1064nm)(Quanta-Ray DCR-2Aレーザ)の一次ビームによってアブレーションされた。生成された材料は、冷表面上のマットの形態であった。透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、およびラマンスペクトル分光によれば、この原材料は約70体積%の単層ナノチューブを含み、その平均直径は1.4〜1.5nmであり、残りの30体積%は無定形炭素および混合された触媒粒子からなっていた。この原材料を、ナノチューブを溶媒中に超音波分散し、多重濾過を行うことによって精製した。
【0042】
3個のシリコンウェハを、スパッタリングあるいは熱蒸着によって、それぞれ鉄、クロム、およびアルミニウムの薄い層であらかじめ被覆した。金属層の厚さは約10〜100nmであった。(鉄は炭素溶解性元素であり、クロムはカーバイド形成元素であり、アルミニウムは低融点金属である。)
【0043】
エアスプレー法を用いて、ナノチューブを被覆基板上に付着させた。具体的には、通常の噴霧器スプレーノズルを、約20psi(約138kPa)でアルゴンを運ぶ高圧ガスラインに取り付け、噴霧器の入口を、メタノール中にナノチューブを分散させたもので満たしたビーカーに入れた。溶媒とナノチューブの微細噴霧が生成された。基板は約200℃に加熱され、スプレーノズルから約12インチ(約30.5cm)に配置された。この配置は、ナノチューブが基板表面に接触する前に溶媒が十分に蒸発することが可能であると考えられた。なめらかな、スプレーされた膜が生成された。
【0044】
被覆された基板を10-6torr(1.3×10-4Pa)の真空中に置き、800℃で3時間加熱した。このアニーリングプロセスは、ナノチューブと鉄の間、または、ナノチューブとクロムの間の化学反応を促進し、あるいは、アルミニウムの場合、ナノチューブが冷却後に固定されるように、融解したアルミニウムがナノチューブの一部を被覆すると考えられる。アニーリング後、膜は、上記のスタッド引張り試験により測定して1.2〜1.7kpsi(8.3〜11.7Mpa)の範囲の高い接着強度を示した。さらに、SEM検査によれば、通常のScotch(R)ブランドのテープの着脱では、ナノチューブは基板から離脱しなかった。また、メタノール中で超音波処理しても同様にナノチューブは基板から離れなかった。
【0045】
これらの接着性ナノチューブ膜に対して、10-8torr(1.3×10-6Pa)の真空容器内で室温で電子放出測定を実行した。実験装置は、W. Zhu et al., "Electron field emission from chemical vapor deposited diamond", J. Vac. Sci. Technol., Vol.B14, 2011 (1996)、に記載されている通りである。簡潔にいえば、接地されたナノチューブサンプルから放出される電流を収集する球面タングステンプローブ(直径0.5mm)に2kVまでの電圧をかけた。精密ステップモータを用いて、プローブとサンプル表面の間の距離を、3.3μmのステップサイズで変化させた。電流電圧(I−V)特性を、約6μm〜約320μmまで、アノード・カソード間距離の関数として収集した。
【0046】
図6のAに、鉄被覆サンプルの場合に、6.6μm〜320.1μmのアノード・カソード間距離で、かけた電圧に対する電子放出電流を示す。なめらかで一貫性のあるI−V曲線が、履歴とは独立に、再現性を持って測定されていることが明らかである。図6のBに、図6のAと同じデータで、log(I/V2)対1/Vのプロットを示す。これは、特徴的なFowler-Nordheim線形性を示している。
【0047】
図7は、鉄被覆サンプルの場合に、ターンオン電界(すなわち、1nAの放出電流を生成する電界)がたった1.7V/μmであること、および、しきい値電界(すなわち、10mA/cm2の放出電流密度を生成する電界)が2.8V/μmであることを示している。これらの値は、他のタイプのエミッタ(例えば、モリブデン、シリコン、およびダイアモンドエミッタ)に要求される電界よりも1桁小さい。
【0048】
同様の放出特性は、他のナノチューブサンプルでも示された。
【0049】
[例2]
上記のレーザアブレーションプロセスによって形成されたカーボンナノチューブを微細粉末に粉砕し、溶媒中で室温で1時間超音波処理した。Dow Chemical Co.から入手した熱可塑性ポリマーであるポリヒドロキシアミノエーテル(PHAE)(ガラス転移温度は室温より低い)を、ナノチューブ/溶媒サスペンションに溶解した。さらに超音波処理した後、サスペンションをテフロンモールドに移し、換気フード内で一晩空気乾燥させた。テフロンモールド内に形成された黒色の薄膜を剥がして取り出した。このようにして、ナノチューブ重量百分率が50%に達する膜が形成され、これを約5mm×3mmのストリップに切断した。膜を、90〜100℃(ポリマーのガラス転移温度以上)の温度で、さまざまな負荷を用いて一定負荷をかけることによって、機械的に引き延ばした。膜は一般に、破断せずに500%(最終長さ/最初の長さ)まで延ばされた。所望の延伸比に達した後、負荷を外す前に、サンプルを室温まで冷却した。
【0050】
引き延ばしたサンプルと引き延ばしていないサンプルの両方について、X線回折パターンを得た。これには、1.5kW Cu源、HOPG(002)モノクロメータ、および2次元イメージングプレート検出器(2500×2500ピクセルで80μmのピクセル解像度を有するMAC Science DIP2000)を透過モードで用いた。多層ナノチューブの構造は従来研究されている(例えば、O. Zhou et al., Science, Vol.263, 1744 (1994)、を参照)。回折パターンは、3.4Å付近に中心を有する強いブラッグピークによって支配され、これは、同じナノチューブ内のシェル間隔に対応する((002)ピークという)。
【0051】
ナノチューブがランダムに配向している場合、d間隔が3.4Åで一様な強度分布の粉末回折リングが期待される。ナノチューブが好ましい配向を有する場合、ブラッグ強度は、Ki(入射X線)によって規定される平面とQ002(逆空間ベクトル)との交点の2点に集中するであろう。キャストした膜の代表的な2次元X線回折パターンを図8のAに示す。データは、方位角φに対して2θがプロットされている。ナノチューブシェル間隔d002に対応するブラッグピークは、2θ=26.1°(d=3.41Å)付近に中心を有し、0から360°までのφに対して(回折リングの周に沿って)ほぼ一定である。
【0052】
約50重量%のナノチューブを有する引き延ばした(330%)膜のX線回折パターンを図8のBに示す。このデータは、膜表面と延伸方向に垂直なKiに対してとったものである。(002)ブラッグ強度は、φ=90°および270°を中心とする2点に集中した。図8のAからの回折パターンの変化は、延伸した膜におけるナノチューブが、その長軸を延伸方向に平行にして整列していることを示している。2D強度データの当てはめおよび解析を行うことにより、整列しているナノチューブの割合、および整列の程度を決定することが可能である。図8のBのサンプルの場合、ナノチューブの58%が、20°のモザイク角のコーンで、応力方向に沿ってほぼ整列している。
【0053】
ナノチューブの分散および整列を、透過電子顕微鏡(TEM)によって検査した。複合体サンプルを、ダイヤモンドブレードによる切片作製法を用いて厚さ約90nmの膜に切断した。ナノチューブと不純物微粒子は、顕著な集積なしにマトリクス中に分散しており、図5に反映されているように、ポリマーによってほぼぬらされていた。図5は、延伸方向(矢印で示す)に平行にスライスした膜サンプルを示す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ナノチューブを形成するのに用いられるレーザアブレーション装置の概略図である。
【図2】ナノチューブを形成するのに用いられる化学蒸着装置の概略図である。
【図3】電界放出ディスプレイデバイスの概略図である。
【図4】進行波管マイクロ波エミッタデバイスの概略図である。
【図5】例1によるナノチューブ/ポリマー複合体を機械的に引っ張ることによって生成された整列したカーボンナノチューブを示すTEM顕微鏡像の図である。
【図6】本発明による接着性ナノチューブ膜の放出特性を示す図である。
【図7】本発明による接着性ナノチューブ膜の放出特性を示す図である。
【図8】AおよびBはそれぞれ、引張り前および引張り後のナノチューブ/ポリマー複合体膜のX線回折パターンの図である。
【符号の説明】
【0055】
10 (第1の)ターゲット
11 石英管
12 炉
13 流量計
14 Nd:YAGパルスレーザ
15 集光レンズ
16 水平光スキャナ
17 垂直光スキャナ
18 カメラ
20 基板
21 第2のターゲット
30 真空容器
31 ヒータ
32 反応性炭素含有ガス
33 不活性キャリアガス
34 質量流量計
35 質量流量計
36 圧力バルブ
37 基板
41 カソード
42 絶縁層
43 導電性ゲート層
44 蛍光体層
45 アノード
46 透明絶縁基板
47 ナノチューブエミッタ
48 電源
49 アノード導体
50 進行波管(TWT)
52 真空管
54 電子銃
56 入力窓
58 相互作用構造(領域)
60 マイクロ波出力窓
62 コレクタ
64 電子ビーム
66 カソード
68 グリッド
70 アノード
72 制御電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を準備し、該基板上に接着性カーボンナノチューブ膜を配置させ、
該カーボンナノチューブの少なくとも50体積パーセントが同一方向に整列されているデバイス製造方法において、
該基板が炭素溶解性元素、カーバイド形成元素及び低融点材料からなるグループの少なくとも1つの材料からなるものであるデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−287699(P2007−287699A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162461(P2007−162461)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【分割の表示】特願2004−302950(P2004−302950)の分割
【原出願日】平成11年9月20日(1999.9.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(596092698)ルーセント テクノロジーズ インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】