説明

ガス予熱方法を用いた低温CNT成長

カーボンナノチューブの成長を促進するのに十分な第1の温度まで加熱する成長チャンバーを準備するステップと、基材を成長チャンバーに通すステップと、少なくとも一部の原料ガスを少なくとも遊離炭素ラジカルに解離するのに十分な第2の温度まで予熱した成長チャンバーに導入し、これによって基材上でカーボンナノチューブの形成を開始するステップと、を含んで構成されたカーボンナノチューブ(CNT)合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、カーボン・ナノチューブの連続合成システム、方法及び装置に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本出願は、2009年2月27日出願の米国仮出願第61/155,935号の優先権を主張するものであり、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
カーボン・ナノチューブ(「CNTs」)は、優れた物理的特性を示す。最強のCNTsは、おおよそ、高炭素鋼の80倍の強度、6倍の靭性(即ち、ヤング率)及び1/6の密度を示す。従って、これら望ましい特性を持つ複合材料の分野でのCNTsの開発には高い関心が寄せられている。
【0005】
複合材料は、巨視的尺度で形態又は組成が異なる2つ以上の異種な構成要素の組み合わせである。複合材料の2つの構成要素は、強化材とレジン・マトリックスを含む。繊維を主成分とする複合材料においては、繊維は強化材の役割を果たす。レジン・マトリックスは、繊維を所望の場所及び方向に保持し、複合材料内で繊維間の負荷伝達媒体としての役割も果たす。これらの非常に優れた機械的特性のために、CNTsは、複合材料において繊維を更に強化するために用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材料の持つ繊維特性の利点を実現するため、繊維とマトリックス間の良好な界面が必要である。これは、表面コーティング(通常「サイジング(sizing)」と称す)を用いることによって達成される。サイジングは、繊維とレジン・マトリックスとの間に物理−化学的な結合をもたらし、複合材料の機械的及び化学的特性に大きな影響を及ぼす。サイジングは、製造中の繊維に施される。一般的に、従来のCNT合成は、700℃〜1500℃の範囲の高温を必要とする。しかしながら、一般的に従来方法においてCNT合成に必要とされる高温は、多くの繊維やCNTsが形成される繊維上のサイジングに悪影響を及ぼす。低温のインラインCNT合成を提供するための代替方法及びシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によれば、カーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法は、カーボン・ナノチューブの成長を促進するのに十分に高い第1の温度まで加熱された成長チャンバーを準備するステップと、基材を前記成長チャンバーに通すステップと、少なくとも一部の原料ガスを少なくとも遊離炭素ラジカルに解離するのに十分な第2の温度まで予熱した前記成長チャンバーに導入し、これによって前記基材上でカーボン・ナノチューブの形成を開始するステップと、を含んで構成される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、カーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法は、第1の温度まで加熱された成長チャンバーを準備するステップと、基材を前記成長チャンバーを通すステップと、第2の温度まで予熱した原料ガスを準備するステップと、前記基材上でカーボンナノチューブの形成を可能とするため前記成長チャンバー内に所望の温度プロファイルを実現するため選択される第2の温度まで予熱した前記原料ガスを前記成長チャンバーに導入するステップと、を含んで構成される。
【0009】
本発明の更に別の形態によれば、カーボン・ナノチューブ(CNT)合成システムは、触媒を有する基材を受け入れる成長チャンバーと、前記成長チャンバーを前記基材上でカーボンナノチューブの成長を促進するのに十分に高い第1の温度まで加熱するヒータと、原料ガスを第2の温度まで加熱し、前記基材上でカーボンナノチューブを合成するために前記成長チャンバーに前記原料ガスを導入するガス予熱ヒータと、を含んで構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態によるガス予熱を用いる低温CNT成長システムの概略図である。
【図2】本発明の別の実施形態によるガス予熱を用いる低温CNT成長システムの概略図である。
【図3】本発明の実施形態による図2のシステムの例示的な構成部品を示す図である。
【図4】本発明の実施形態による図3の成長チャンバーの概略斜視図である。
【図5】本発明の実施形態による図3の成長チャンバーの断面図である。
【図6A】本発明の実施形態によるガス予熱を用いる低温CNT成長方法の工程を説明するフローチャートである。
【図6B】本発明の実施形態によるガス予熱を用いる低温CNT成長方法の別の工程を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の更に別の実施形態によるガス予熱を用いる低温CNT成長システムの概略図である。
【図8】本発明の実施形態によるガス予熱ヒータの配置を説明する概略図である。
【図9】本発明の別の実施形態によるガス予熱ヒータの配置を説明する概略図である。
【図10】本発明の更に別の実施形態によるガス予熱ヒータの配置を説明する概略図である。
【図11】本発明の更に別の実施形態によるガス予熱ヒータの配置を説明する概略図である。
【図12】本発明の更に別の実施形態によるガス予熱ヒータの配置を説明する概略図である。
【図13】本発明の実施形態によるCNT浸出繊維の製造システムを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、概略的には、CNTsの連続合成のためのシステム、方法、装置に関する。カーボン・ナノチューブ浸出(「CNT浸出」)基材を製造するため種々の基材上にCNTsを効果的に合成できる。基材へのCNTsの浸出は、多くの機能(例えば、湿気、酸化、磨耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤等を含む)に役立てることができる。また、CNTをベースとしたサイジングは、複合材料の基材とマトリックス材との間の接点としても機能することができる。また、CNTsは、基材を被覆するいくつかのサイジング剤の1つとしても機能することができる。更に、基材上に浸出したCNTsは、基材の種々の特性(例えば、熱的及び/又は電気的な伝導率、及び/又は引張強度等)を変化させることが可能である。CNT浸出基材を作るために用いられる処理により、CNTsに略均一な長さ及び分布が与えられて、改質しようとする基材の表面には有用な特性が均一に付与される。更に、本明細書で開示された処理により、巻き取り可能な寸法のCNT浸出基材が生成可能となる。
【0012】
また、本明細書で開示されたシステム及び方法は、種々のサイジングや、一部の従来のカーボン・ナノチューブ合成処理で利用される高い処理温度に耐えられないポリアラミド繊維(例えばケブラー等)のような基材を用いることを可能にする。更に、本発明のシステム及び方法は、少なくともある程度は成長チャンバーが比較的低い温度であるため、CNTs浸出複合材料の形成に安価な基材を用いることを可能にする。本発明のシステム及び方法のさらなる利点は、CNTsの連続合成が、予熱原料ガス流量、炭素濃度、基材供給速度、成長チャンバー温度、及び、予熱原料ガス温度の適切な調整によって得られ、その結果、CNTsを有する複合材料の大量生成が容易となる。連続合成プロセスは、動的な基材(例えば、入口を通って成長キャビティに入り、成長キャビティを通過し、成長キャビティの出口から退出する基材)で実施される。ある実施形態では、プロセスガスを外部ヒータで予熱し、原料ガスを成長チャンバーに導入する直前に前記予熱プロセスガスで予熱する。これは、システム構成部品の表面での反応(例えば、処理装置上に形成される煤等)に起因する熱損失及び遊離炭素ラジカルの損失を低減する。
【0013】
本明細書に記載された処理は、巻き取り可能な長さのトウ(tow)、テープ、織物(fabric)及び他の3次元(3D)織物構造物に沿って長さ及び分布が均一なCNTsの連続生産を可能にする。様々なマット、織布、及び不織布等に、本発明の処理によって機能を付与できるが、トウ、ヤーン(yarn)又は同様のものの母材にCNT機能を付与した後に、これら母材から当該高規則構造を生成することも可能である。例えば、CNT浸出の織布(woven fabric)をCNT浸出のトウから生成することができる。
【0014】
本明細書では、用語「基材」とは、その上にCNTsを合成できるあらゆる材料を含むことを意味し、これらに限定されないが、例えば、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、又は、これらの組み合わせを含んで構成されたあらゆる基材である。基材は、トウ(tow)(一般的に、約1000から約12000fiberを有する)に配列される繊維やフィラメントの他に、平面基材(例えば、織物(fabric)、テープ、又は他の幅広繊維商品等)で、その上にCNTsを合成できるものを含む。
【0015】
本明細書で用いられる用語「巻き取り可能な寸法」とは、基材をスプール(spool)又はマンドレルに蓄えることが可能な、長さの限定されない基材の有する少なくも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の基材は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のためのバッチ処理又は連続処理のいずれかの利用を示唆する少なくとも1つの寸法を有する。市販されている巻き取り可能な基材の1つは、例えば、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンド(Grafil,Inc.,Sacramento,CA)のAS4 12kの炭素繊維トウ(carbon fiber tow)がある。特に、工業用の炭素繊維トウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量のスプール、通常3k/12Kのトウ)のスプールで得られるが、より大きなスプールの場合は特別注文を必要とするかもしれない。
【0016】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(CNT、複数はCNTs)とは、グラフェン、気相成長炭素繊維、炭素ナノ繊維、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のあらゆるものをいう。CNTsは、フラーレンのような構造により閉塞されるか、又は終端が開口していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0017】
本明細書で、「長さが均一」とは、反応装置において成長するCNTsの長さを言う。「均一な長さ」は、約1ミクロン〜約500ミクロンの間の種々のCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の約±20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有することを意味する。1〜4ミクロン等極めて短い長さでは、この誤差は、CNTの全長の約±20%〜最大で約±1ミクロンまでの範囲、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0018】
本明細書で、「分布が均一」とは、基材上のCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」とは、基材上のCNTsの密度が、CNTsにより被覆された基材の表面積の百分率として定義される被覆率において約±10%の許容誤差の範囲内にあることを意味する。これは、5の壁を持つ直径8nmのCNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500個のCNTsに相当する。このような値からCNTsの内部空間が充填可能と見なされる。
【0019】
本明細書では、用語「浸出される(infused)」とは結合されることを意味し、用語「浸出(infusion)」とは結合処理を意味する。このような結合は、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着等を含む。例えば、ある実施形態では、CNTsを直接基材に結合する。結合は間接的でもよく、例えば、遷移金属ナノ粒子をコーティング及び/又はCNTsと基材との間に介在することによって行う基材へのCNT浸出等である。本明細書に開示されたCNT浸出基材において、CNTは、直接的又は間接的に基材に「浸出」し得る。CNTを基材に浸出させる特有の方法は、「結合モチーフ」と呼ばれる。
【0020】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、遷移金属元素ベースの塩形態(例えば、酸化物、炭化物、塩化物、塩素酸塩、アセテート、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩等)も含まれる。
【0021】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、同等の球径で約0.1〜約100ナノメートルの間のサイズの粒子をいうが、NPsは球形である必要はない。遷移金属NPsは、特に、基材上のCNT成長のための触媒として機能する。
【0022】
本明細書では、用語「原料ガス」とは、揮発、噴霧、霧化、又はその他の流体化が可能で、高温で少なくともいくらかの遊離炭素ラジカルに解離又は分解(cracking)が可能で、そして、触媒の存在で、基材上にCNTを形成可能な、炭素が合成されたあらゆる気体、固体、又は液体を言う。
【0023】
本明細書では、用語「遊離炭素ラジカル」は、CNTの成長を助長することが可能なあらゆる活性炭素をいう。理論によって限定されるものではないが、遊離炭素ラジカルは、CNTを形成するために基材表面上のCNT触媒と結合することによってCNTの成長を助長する。
【0024】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、総じて、基材(例えば、炭素繊維)の製造において、基材を完全な状態で保護し、複合材料における基材とマトリックス材との間の界面相互作用を向上させ、及び/又は、基材の特定の物理的特性を変更及び/又は高めるための、コーティングとして用いられる物質をいう。ある実施形態では、基材に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用する。
【0025】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の基材に沿った個々の位置で、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長条件にさらされている時間をいう。この定義には、多層CNT成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0026】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理に、巻き取り可能な寸法の基材を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、(複数の)CNTチャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0027】
図1は、低温処理を用いたCNTsの合成システム100の概略図を示す。本発明のある実施形態によれば、システム100は、成長チャンバー110、ヒータ120、基材供給源130、原料ガス供給源140、プロセスガス又はキャリアガス供給源150、ガス予熱ヒータ160、及びコントローラ170を含む。
【0028】
ある実施形態において、成長チャンバー110は、開放型連続運転の流水式反応炉である。このシステムは、大気圧又は大気圧を少し上回る圧力で運転できる。成長チャンバー110は、基材が連続的に入口を通って入り出口からでる少容量のキャビティ(図示省略)を含む。これによって、基材上におけるCNTsの連続合成を容易にする。キャビティは、長方形状、円形状、楕円形状、又は、成長チャンバーを通過する基材のサイズ及び形状に応じた同様の断面を有する。成長チャンバーの容積は、CNTsの合成に基づいて基材の容積が増大することを考慮して、少なくともある程度、成長チャンバーを通過する基材の最初と最後の大きさに基づいている。ある実施形態では、成長チャンバーの容積は、成長チャンバー110に供給される基材の容積の約7000%以下である。例えば、トウ(tow)状の基材は、上流の基材供給源130から基材の連続供給を可能にさせる。
【0029】
成長チャンバー110は、連続的に、チャンバーのキャビティ内へ、原料ガスと選択的にプロセスガス(即ち、キャリアガス)を含む混合気体を受け入れる。成長チャンバー110は、図4に示すように、通常はH形状に配置された2つの垂直部材435,445と2つの水平部材455,465で形成されている。垂直部材435,445と共に水平部材455,465は、基材315(図3)が通過する少容積のキャビティ425を規定する。ある実施形態では、部材435,445,455,465は、ステンレス鋼で作られている。他の実施形態では、高い運転温度に耐えられ、キャビティ425を通る要素と反応せず、且つ、一般に、これらの要素に浸透しない他の金属及び/又は合金が用いられる。
【0030】
また、成長チャンバー110は、サイジング剤及び/又は触媒粒子で被覆される繊維状の基材315(図3の)も、コントローラ170によって制御された既知の速度で、連続的に受け入れる。基材は、コントローラ170で第1の温度T1に保持されるキャビティ425を通過する。温度T1は、基材上でCNTsの成長を可能にするのに十分な高さであるが、基材の物理的及び化学的な特性に悪影響を与えるほどには高くない。ある実施形態では、温度T1は、あらゆるサイジング剤を除去するのに十分に高い。別の実施形態では、温度T1は、サイジング剤にダメージを与えることなく、又は、サイジング剤を除去することなく、CNTの成長を促進するのに十分な高さである。キャビティ425は、約450℃から約650℃の温度に保持される。
【0031】
図1に戻って、ヒータ120は、成長チャンバー110のキャビティ425を加熱し、予め設定したレベルに成長チャンバー110の運転温度T1を維持する。ヒータ120は、コントローラ170によって制御される。ある実施形態では、ヒータ120は、コントローラ170と接続する別のコントローラによって制御される。ヒータ120は、成長チャンバー110を略運転温度T1に維持できるあらゆる適切な装置であってよい。ある実施形態では、ヒータ120は、各水平部材455,465に含まれた加熱コイルを含んで構成される。水平部材455,465との間には、小さなギャップができるよう狭い間隔があけられている。水平部材455,465の間のギャップが小さいので、そこに著しい温度勾配もなく均一に加熱される。ヒータ120は、水平部材455,465の表面を加熱できるが、これは延いては、それらの間のギャップも加熱することになる。ある実施形態では、水平部材455,465の間のギャップは、約5ミリメータ(mm)から約20mmである。別の実施形態では、水平部材455,465の間のギャップは、約9.5mmである。
【0032】
基材供給源130は、成長チャンバー110へ基材を連続的に供給できる構成である。基材は、基材として用いるのに適切な上記に記載されたあらゆる材料を含み得る。ある実施形態では、基材は、サイジング物質で被覆されたE−ガラス繊維を含んで構成される。他の実施形態では、基材は、例えば、安価なガラス繊維や炭素繊維等の他の繊維を含んでよい。更に別の実施形態では、基材は、ケブラー等のアラミド繊維である。繊維は、「トウ(tows)」として知られている束で供給される。トウは、約1000から約12000fiberのフィラメントを有する。ある実施形態では、フィラメントは、約10ミクロンの直径を有するが、他の直径を有するフィラメントを使用することは可能である。また、繊維は、カーボンヤーン、カーボンテープ、一方向カーボンテープ、炭素繊維の紐、織った炭素織物、不織布の炭素繊維マット、炭素繊維プライ(ply)、3次元織布構造等も含む。
【0033】
ある実施形態では、基材はサイジング剤で被覆される。サイジング剤は、種類や機能が多岐にわたっており、これらに限定されるものではないが、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、スターチ(starch)及び、これらを混合したものを含む。そのようなサイジング剤は、CNTsそれ自体を保護したり、又は浸出したCNTsの存在では授けられない繊維の付加的な特性を提供するのに用いられる。ある実施形態では、あらゆるサイジング剤もCNT合成より前に除去される。ある実施形態では、サイジング剤の除去は、第1の温度T1で熱的手段によって達成される。
【0034】
基材供給源130から成長チャンバー110に供給される繊維は、CNTsの合成を開始するために触媒で被覆される。そのような触媒は、ナノサイズ粒子触媒の形状をとる。用いられる触媒は、上述したようにあらゆるdブッロク遷移金属のナノ粒子である。更に、ナノ粒子(NPs)は、元素形態又は塩形態のdブッロク金属の合金や非合金混合物、及び、これらの混合物を含む。前記塩形態は、これらに限定しないが、酸化物、炭化物、塩化物、塩素酸塩、酢酸塩、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩、及びこれらを混合したものを含む。限定されない例示的遷移金属NPsは、Ni,Co,Mo,Cu,Pt,Au、及びこれらの塩を含む。ある実施形態では、前記CNT形成触媒は、保護被膜(barrier coating)の付着と同時に、基材へ直接CNT形成触媒を塗布又は浸出することによって基材物質上に付着される。多くの遷移金属触媒は、例えば、フェローテックコーポレーション(Bedford,NH)を含む種々のサプライヤーから市販されている。
【0035】
理論に制約されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属NPsは、CNT成長種構造を形成することによってCNT成長の触媒作用を及ぼす。ある実施形態では、CNT形成触媒は、基材の底部に滞在し、基材の表面に浸出される。そのような場合、遷移金属NP触媒によって初期に形成された種構造は、当技術分野でしばしば観察されるように、CNT成長の先端に沿って触媒を動かすことなく連続する触媒のない種なしのCNT成長には十分である。そのような場合、遷移金属NP触媒は、CNTが基材に付着する付着点として機能する。ある実施形態では、CNT成長触媒は、成長するナノチューブの先端に追従する。そのような場合、この結果、CNTsは基材に直接結合する。CNTsと基材との間に形成された実際の結合モチーフの本質にかかわらず、浸出されたCNTは、強固であり、CNT浸出基材がカーボン・ナノチューブの特質及び/又は特徴を示すようになる。
【0036】
基材は、成長チャンバー110に入る前に触媒で被覆される。基材上に触媒を付着する操作は、溶液の噴霧又は溶液の浸漬によって、或いは、例えばプラズマ処理よる気相蒸着によって達成できる。ある実施形態では、基材は、コロイド溶液や硝酸鉄のような金属塩溶液に基材を浸すことによって触媒で被覆される。他の実施形態では、繊維を、硝酸ニッケル或いは硝酸コバルトの金属塩溶液に通す。また、他の触媒溶液或いはその応用も使用できる。ある実施形態では、市販のCNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を入手し、希釈せずに使用される。他の実施形態では、市販の触媒を希釈する。そのような溶液を希釈するか否かは、所望の密度と成長されるCNTの長さに依存する。基材に触媒を塗布するために用いられる触媒溶液は、触媒が均一に分散されるあらゆる溶媒を含む。そのような溶媒は、これらに限定されないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピル・アルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、或いは、CNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散を作り出すように制御された極性を有するあらゆる他の溶媒を含む。CNT形成触媒の濃度は、触媒と溶媒が約1:1から約1:10000の範囲内である。
【0037】
図1に戻って、原料ガス供給源140は、ガス予熱ヒータ160と流体輸送路で連結されており、コントローラ170によって制御される。別の実施形態では、ガス供給源140とプロセスガス供給源150からの各ガスは、ガス予熱ヒータ160へ供給される前に混合される。
【0038】
原料ガスは、あらゆる炭素化合物の気体、固体、又は揮発、噴霧、霧化、或いは他の流動が可能な液体で、高温で少なくともいくらかの遊離炭素ラジカルに解離又は分解が可能で、触媒の存在で基材上にCNTsを形成できるものである。ある実施形態では、原料ガスは、アセチレン、エチレン、メタノール、メタン、プロパン、ベンゼン、天然ガス、或いは、これらの組み合わせを含む。ある例示的な実施形態では、アセチレンを含む原料ガスが、温度T2(例えば、約550℃と約1000℃の間)まで加熱され、成長チャンバー110のキャビティ425(図4に示す)に注入される場合、少なくとも一部のアセチレンは、基材上の触媒の存在で炭素と水素に解離する。温度T2が高いほど、アセチレンの迅速な解離を促進するが、基材及び/又は存在するあらゆるサイジング剤の物理的及び化学的特性に悪影響を及ぼす可能性がある。低い温度T1に成長チャンバーを維持しながら、成長チャンバー110外部で、より高い温度T2まで原料ガスを加熱することによって、基材及びサイジング或いは他のコーティングの完全性が、CNT形成中に保存される。
【0039】
アセチレンのような原料ガスの使用は、酸化物を含む触媒を減少するために利用されるキャビティ425内へ水素を導入するという別の処理の必要性を低減する。原料ガスの解離により、触媒粒子を純粋な粒子或いは少なくとも許容範囲の酸化物レベルの状態にする水素を提供できる。例えば、触媒が酸化鉄の場合、原料ガスが提供する炭素ラジカルが基材上の酸化物と反応してCNTsを形成する代わりに二酸化炭素及び一酸化炭素を生成するので、そのような酸化鉄粒子はCNTsの合成を行わない。酸化物の化学成分は、更にまた、触媒粒子を介して遊離炭素ラジカルの拡散を妨げ、それによって、CNTsの成長を妨げるか或いは減少する。これは、CNTsの形成やその成長速度に役立つ炭素ラジカルの量を減少する。アセチレンが提供する水素は、効果的に、基材上の触媒粒子から酸化物を除去し、酸化物と遊離炭素ラジカルの反応を防ぐ。
【0040】
プロセスガスは、CNTsの成長にとって有害な酸素をキャビティ425(図4に示す)から除去するために用いられる。もし、酸素がキャビティ425(図4に示す)に存在すると、原料ガスから生成された炭素ラジカルは、基材上でCNTsを形成する代わりに、二酸化炭素や一酸化炭素を生成するために酸素と反応する傾向がある。このプロセスガスは、CNT成長過程に有害な影響を及ぼさないあらゆる不活性ガスを含む。ある実施形態では、プロセスガスは、これらに限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、又は、これらの組み合わせを含む。ある実施形態では、原料ガスとプロセスガスの割合は、コントローラ170で制御される。ある実施形態では、原料ガスは、混合ガス全体の約0%から約15%の範囲である。
【0041】
当業者なら、コントローラ170が、基材供給速度、第1の温度、第2の温度、原料ガス供給、及びプロセスガス供給の1つ以上を含むシステムパラメータを独立して感知し、監視し或いは制御するのに適していることを認識するだろう。コントローラ170は、パラメータデータを受信し、制御パラメータ又は手動制御装置の種々の自動調整を実行する、一体化され、自動化され、電子化されたシステムコントローラであることを、当業者は理解するだろう。
【0042】
図1に示す実施形態では、原料ガスを、キャビティ425(図4に示す)に導入する前に温度T2までガス予熱ヒータ160で予熱する。ある実施形態では、温度T2は約550℃から約1000℃の範囲にある。ガス予熱ヒータ160は、成長チャンバー110の外側にあり、成長チャンバー110へ導入する前に、原料ガス、プロセスガス、或いは原料ガスとプロセスガスの混合ガスを予熱するように機能する。ガス予熱ヒータ160は、成長チャンバー110の意図しない加熱を防ぐために成長チャンバー110から温度的に隔離されている。ガス予熱ヒータ160は、加熱されたガス或いはガス混合物からの周囲への熱損失を防止するために断熱されている。ガス予熱ヒータ160は、ガスを温度T2まで加熱可能なあらゆる装置を含む。ある実施形態では、ガス予熱ヒータ160は、これらに限定されないが、抵抗加熱トーチ、抵抗加熱されたセラミックヒータの内部で加熱されたコイル管、誘導加熱、ガス流内の熱フィラメント、及び、赤外線加熱を含む。
【0043】
ある実施形態では、ガス予熱ヒータ160の一部或いは全部の部品は、金属、特に、ステンレス鋼で構成されている。金属、特に、ステンレス鋼の使用は、炭素の付着(即ち、煤や副生成物の形成による)をもたらす。炭素は、一旦装置壁面上に付着して単分子層を形成すると、容易にその上に堆積するようになる。この過程は、ガス予熱ヒータ内の狭い通路で加速的に起こる。その結果、周期的な清掃及び保守が、原料ガス、プロセスガス、或いは両方のガスの流れを炭素の堆積が妨害するのを防ぐために行われる。
【0044】
図8に、予熱ヒータの実施形態の構成を示す。この実施形態において、拡散器280は、ガスマニホールド606の一部として、ガス予熱ヒータと成長チャンバー110の間に配置されている。ある実施形態では、原料ガス及び/又は原料ガスとプロセスガスの組み合わせは、ガス入口602を通ってガス予熱ヒータ160に入る。その後、前記ガスは、導管604を通ってガス予熱ヒータ160からガスマニホールド606へ移動する。導管604は、予熱ガスの温度及び状態に耐えられるように、適切な材料で断熱構成される。付加的及び選択的なガス入口610が、ガスマニホールド606に設けられ、これによって、原料ガス、プロセスガス、又は、その双方がガス予熱ヒータ160からの加熱ガスと混合され、そして、原料ガスとプロセスガスの所望の混合ガスを、所望の温度又は流速で成長チャンバー110へと供給することが可能となる。その後、ガスマニホールド606内の混合ガスは、拡散器280を通ってガスマニホールド606から成長チャンバー110へ移動する。拡散器280は、成長チャンバー110内で基材の規定された部分一面に、混合ガスを均一に分散させる。1つの形態において、拡散器280は、ガス排出用に均一に分散された開口部を有する板状の形状をとる。図8に示すように、拡散器280は、成長チャンバー110の選択部分に沿って伸びている。別の実施形態では、拡散器280は、成長チャンバー110の全長に沿って伸びている。ある実施形態では、拡散器280は、垂直部材435,445(図4に示す)に沿って水平方向に成長チャンバー110に隣接して置かれる。ある実施形態では、拡散器280は、水平部材455,465(図4に示す)に沿って垂直方向に成長チャンバー110に隣接して置かれる。更に別の形態では、ガス予熱ヒータ160は、拡散器280内に組込まれる。ある実施形態では、炭素原料は加熱中に分解するので、炭素の堆積が、ガス予熱ヒータ内に生じる。しかしながら、原料ガス及び/又は原料ガスとプロセスガスの混合ガスの予熱により、原料ガスが十分に予熱され成長チャンバー110に入る前に確実に分解する。
【0045】
予熱ヒータの別の形態を図9に示す。この実施形態において、ガス予熱ヒータ160は、入口602を介してプロセスガスを受け入れ、プロセスガスを加熱する。その後、加熱されたプロセスガスは、ガス予熱ヒータ160から導管604を通ってガスマニホールド606へ移動する。その後、原料ガスを、導管702を通って加熱されたプロセスガスと混合する。原料ガスは、加熱されたプロセスガスより低い温度であり、ある実施形態では、大気温度である。加熱されたプロセスガスと原料ガスの混合ガスは、成長チャンバー110への分散のために混合ガスがガスマニホールド606に入る前に温度T2の混合ガスを与える。付加的及び選択的なガス入口610が、ガスマニホールド606に設けられ、これによって、追加の原料ガス、プロセスガス、又は、その双方がガス予熱ヒータ160からの加熱ガスと混合され、そして、原料ガスとプロセスガスの所望の混合ガスを、所望の温度又は流速で成長チャンバー110へと供給することが可能となる。その後、ガスマニホールド606内のガスは、ガスマニホールド606から成長チャンバー110へ拡散器280を通って移動する。この構成を用いるある実施形態では、原料ガスの加熱は、原料ガスが成長チャンバー110に与えられる時点近くまで遅延される。この実施形態は、ガス予熱ヒータ160内及び関連機器上に形成される炭素堆積物の量を低減し、従って、必要とされる保守の量や頻度を減少する。
【0046】
図10は、ガス予熱ヒータの例示的な実施形態を示す。この実施形態では、ガス予熱ヒータ160は、入口602を介してガスを受け入れる。ガスは、その後、ガス予熱ヒータ160内のコイル802を通過する。コイル802は、コイル802の外側に熱を供給する発熱体によって加熱される。ある実施形態では、コイル802に供給された熱は、電極804を備えた抵抗発熱体によって与えられる。ガス予熱ヒータ全体は、外部環境から断熱された予熱ヒータに収納される。ガスがコイル802を通るにつれて、ガスは加熱され、排出導管604を通ってガス予熱ヒータ160の外側に移動する前にコイル内で膨張する。コイル802の長さは、ガスが所望温度に到達するように、ガスの所望滞留時間がガス予熱ヒータ160内で達成されるよう調整される。前記滞留時間は、一部、ガス流量、入口温度、出口温度、及びコイル形状(例えば、直径、長さ)に基づいて決定される。コイルは、発熱体によって供給される温度に耐えられる材料で構成される。ある実施形態では、コイルは、金属、或いは、ステンレス鋼のような金属合金で構成される。上述したように、炭素堆積は、原料ガスが原料ガス成分の解離温度を超えて加熱された場合、金属表面上に形成する。そのため、定期的な保守が、妨害物がコイル内に形成されることを防止するために行われる。ある実施形態では、コーティングは、炭素堆積が形成され増大することを防止するために、炭素堆積に晒される表面上に設ける。適切なコーティングは、これに限定されないが、アルミナ、シリカ、及び、酸化マグネシウムを含む。
【0047】
図11は、ガス予熱ヒータの別の実施形態を示す。この実施形態では、ガス予熱ヒータ160は、入口602を介してガスを受け入れる。その後、ガスは、ガス予熱ヒータ160内の膨張拡散器806を通過する。膨張拡散器806は、入口のオリフィスを介してガスを受け入れるとすぐにガスを膨張させる複数の膨張キャビティ804を含んで構成される。加熱すると、ガスは膨張し、出口のオリフィスを介して隣接する膨張キャビティ内へ流れる。このようにして、ガスは膨張しガスが排出導管604に到達するまで、一連の膨張キャビティ804を介して流れる。複数の膨張キャビティ804は、膨張拡散器806へ熱を供給する発熱体によって加熱される。ある実施形態では、膨張拡散器806へ供給された熱は、抵抗発熱体808によって供給される。ガス予熱ヒータ全体は、外部環境から断熱された適切な筐体に収納される。排出導管604に到達する前又は到達時にガスが所望の温度に達するように、ガスの所望の滞留時間は、ガス予熱ヒータ内で達成される。前記滞留時間は、一部、ガス流量、入口温度、出口温度、及び膨張拡散器形状(例えば、膨張キャビティ寸法、オリフィス形状)に基づいて決定される。膨張拡散器806は、発熱体によって供給される温度に耐えられる材料で構成される。ある実施形態では、膨張拡散器806は、金属、或いは、ステンレス鋼のような金属合金で構成される。上述したように、炭素堆積は、原料ガスが存在する場合、ガスの熱によって膨張拡散器内に形成する。この実施形態では、炭素堆積は、膨張キャビティ間のオリフィス内に形成される。そのため、定期的な保守が行われる。
【0048】
図12は、ガス予熱ヒータの更に別の実施形態を示す。この実施形態では、一連のホットフィラメント810は、拡散器280に跨って分散されている。ホットフィラメント810は、所望の予熱温度T2より高い温度に抵抗加熱できるコイル又はワイヤであり、コントローラ170によって制御される。ホットフィラメントの温度は、十分に高いので、ホットフィラメントを通過するガスは、ガスが短時間の間だけホットフィラメントに近接する場合でも所望の温度に到達できる。ある実施形態では、ホットフィラメントは、約1000℃以上の温度であり、約1100℃、約1200℃、約1300℃、約1400℃、約1500℃を含む。原料ガス、プロセスガス或いはこの双方の混合ガスは、1つ以上の入口602を介してガスマニホールドへ導入される。その後、前記ガスは、拡散器280を経由して増大される背圧によってガスマニホールド一面に広がり、一連のホットフィラメント810上を通過し、拡散器280を経て、成長チャンバー110内に入る。この実施形態では、ガスが成長チャンバーに入る直前に加熱されるので、炭素堆積はガスマニホールド内で生成される可能性は少ない。また、他の適切な予熱ヒータも、ここに記載されたプロセスやシステムに使用することができる。
【0049】
ある実施形態では、ガス予熱ヒータは、原料ガス、プロセスガス、或いは、原料ガスとプロセスガスの混合ガスの温度を温度T2へ上昇させるために使用される。ある実施形態では、温度T2は、成長チャンバーの入口或いはその前で、原料ガスの少なくとも一部を少なくともいくつかの遊離炭素ラジカルに解離或いは分解させるのに十分に高い温度である。そのような実施形態では、温度T2は、成長チャンバー及び基材の温度T1より高い。前記温度T1は、基材及び/又はあらゆる基材上のコーティング(例えば、存在するあらゆる触媒及び/又はあらゆるサイジング剤)を温度T2で起こり得るどんな劣化からも保護する。従って、原料ガスの予熱により、従来のCNT成長プロセスに採用される高温では予熱しない限りはCNTが劣化する基材を用いてCNT浸出基材の製造が可能となる。
【0050】
ある実施形態では、温度T2は、温度T1に近いので、温度T2における原料ガスの導入は、成長チャンバー内の温度プロファイルに悪影響を及ぼさない。このような実施形態では、温度T2は、温度T1の25%以内か40%以内、即ち、高いか低いかのどちらかである。この実施形態では、温度T2は、約400℃から1000℃の範囲である。ある実施形態では、温度T2は、成長チャンバー内に所望の温度プロファイル或いは温度勾配を作り出すために調整されるか、又は、より均一な温度プロファイルを作り出すために成長チャンバー内のいかなる温度勾配も低減させるため調整される。例えば、温度T2は、原料ガスが成長チャンバーに入った時点で、成長チャンバーの温度に一致するよう調整される。理論によって制限されるものではないが、所望の温度プロファイルを達成するために成長チャンバー内の温度勾配を制御することは、基材上のCNTsの成長速度及び特性を制御するのに役立つと思われる。
【0051】
図3に戻って、システム300は、低温での基材上におけるCNTsの合成のために示されている。システム300は、成長チャンバー310、成長チャンバーのヒータ320、及び4つのガス予熱ヒータ360a,360b,360c,360dを備える。示されたこの実施形態では、2つのガス予熱ヒータ360a,360bは成長チャンバー310の一方の側に置かれ、2つのガス予熱ヒータ360c,360dは成長チャンバー310の他方の側に置かれている。ガス予熱ヒータ360a,360b,360c,360dは、ここに記載されたいずれかの構成を備える。例示的な実施形態では、ガス予熱ヒータ360a,360b,360c,360dは、そこに配置されたコイル管(図示せず)を備えるセラミックヒータで構成される。示された実施形態では、前記コイルは、略9フィートのステンレス鋼で形成されている。原料ガス及び/又は原料ガスとプロセスガスの混合ガスが、その中を通って流れ、熱せられる。
【0052】
ガスマニホールドは、成長チャンバー310に対して中央に置かれており、キャビティ425(図4の)に混合ガスを均一に分散するための拡散器280を含む。予熱された原料ガスとプロセスガスの混合ガスは、ガス予熱ヒータ360a,360bからガスマニホールドに入り、成長チャンバー310内に均一に拡散される。ガス供給ライン340a,340bは、それぞれ、ガス予熱ヒータ360a,360bの入口に混合ガスを供給する。その上に触媒が付着した基材315は、当該基材315が温度T1(例えば、約500℃と約600℃の間)に加熱される成長チャンバー31の入口に与えられた速度で導入される。同時に、予熱された原料ガス及び温度T2(例えば約550℃から約1000℃)に予熱されたプロセスガスは、成長チャンバー310内に導入される。少なくとも一部の原料ガスは、基材上で解離してCNTの成長を可能にする。合成されたCNTsを備えるCNT浸出基材317は、出口で成長チャンバー310から排出される。ある実施形態では、原料ガスとプロセスガスの混合ガスの供給量は、約15リットル/秒から約20リットル/秒であり、コントローラ170(図1の)によって制御される。
【0053】
ここで図5を参照すると、成長チャンバー310の側面図が示されている。ヒータ565,567は、H形状の成長チャンバー310の頂部側と底部側に配置されている。外部に配置された断熱モジュール(modules)585,587は、成長チャンバー310に対して熱的に分離した入力と出力を与える。モジュール585,587は、成長チャンバー内側の高温ガスが成長チャンバー外側の豊富な酸素と混合すること及び成長チャンバー310に対して進入又は退出する基材に悪影響を及ぼす局所的な酸化状態を引き起こすことを防止するために、成長チャンバーの端末側終端に配置されている。成長チャンバーの入口と出口において、窒素等の冷却不活性ガスが成長チャンバー310と外気との間の緩衝剤としてポート575,577を介して供給され、不要な高温ガスが外気と混合するのを防ぐ。流入する冷却ガスは、対応するモジュールを通じて冷却ガスを分散するための拡散板を組込んだマニホールドに入る。
【0054】
図7を参照すると、ガス予熱ヒータを用いた低温CNTsの合成システム700の更に別の実施形態が示されている。システム700は、下記以外は図2に示すシステム200の実施形態と同様である。システム700では、プロセスガスだけが外部ヒータを経由して高温(例えば、約800℃)に予熱される。その後、前記予熱されたプロセスガスは、拡散器280内で、約大気温度から約250℃の範囲の低温の原料ガスと混合される。このようにして、原料ガスは、成長チャンバー110のキャビティ425(図4の)への導入直前に、予熱されたプロセスガスによって加熱される。一般的に、上述したものを含んで、あらゆる予熱ヒータ構造が、この実施形態におけるプロセスガスの加熱に用いることができる。原料ガスの予熱を遅らせる利点は、原料ガスの分解(即ち、解離)が成長チャンバー110内への原料ガスの導入時或いは導入近くまで開始されないことである。もし、原料ガスがそれより早く分解された場合、遊離炭素ラジカルは、拡散器280の壁面で反応し、基材上でCNTsの成長のために使用できる炭素ラジカルの量が減少する。
【0055】
図6Aは、CNTsの合成方法を説明するフローチャートを示す。ブロック610では、成長チャンバーを準備し、第1の温度T1に加熱する。第1の温度は、約450℃から約650℃の範囲である。ブロック620では、基材を成長チャンバーに通す。温度T1は、予熱された原料ガスの存在下で連続的に成長チャンバーを通る基材上のCNTsの合成を促進するのに十分高い温度であるが、基材及び/又は基材上に付着したサイジング剤を分解するほどには高くない。ブロック630では、原料ガスを、成長チャンバーへ導入する前に第2の温度T2に予熱する。第2の温度T2は、約550℃から約1000℃の範囲にある。遊離炭素ラジカルは、容易にそのような温度で生成される。原料ガスを本明細書に記載されたあらゆる方法或いは装置を用いて加熱することが可能である。例えば、混合ガスが成長チャンバーに入ったときに温度T2であるように、原料ガスは、当該原料ガスをT2より高い温度に加熱されたプロセスガスとを混合することによって加熱できる。予熱された原料ガスは、基材を適切な触媒粒子でコーティングした場合に、遊離炭素ラジカルの集まりを基材上でCNTsに解離する成長チャンバーへ導入される。予熱された原料ガスは基材上の触媒粒子の温度を上げるということが指摘されているが、これは基材上の触媒粒子上で炭素の塊及び表面拡散を通して迅速なCNTsの合成を増進する。しかしながら、予熱された原料ガスは、基材のバルク材温度を上昇させるほど十分な熱エネルギは持っていない。従って、基材の温度及びあらゆる任意のサイジング剤も、基材繊維が成長チャンバーを通って移動しているときはその分解温度より低い温度に維持される。ある実施形態では、温度T1は、基材及び/又はサイジング剤の合成に不適切であるが、CNT成長の速度と効率は、基材が高い温度T1に晒されている間の滞留時間を短縮するには十分である。
【0056】
図6Bは、CNTsの合成方法を説明する別のフローチャートを示す。ブロック640では、成長チャンバーを準備し、第1の温度T1に加熱する。第1の温度は、約450℃から約650℃の範囲である。温度T1は、成長チャンバー内に連続的に供給される基材上でCNTsの合成を促進するのに十分高い温度であるが、基材が基材上に被覆されたあらゆる任意のサイジング剤のどちらかを分解するほど高くない。ブロック650では、基材を成長チャンバーに通す。ブロック660では、原料ガスを、成長チャンバーへ導入する前に第2の温度T2に予熱する。第2の温度T2は、約400℃から約1000℃の範囲である。原料ガスを本明細書に記載されたあらゆる方法或いは装置を用いて加熱することが可能である。例えば、混合ガスが成長チャンバーに入ったときに温度T2であるように、原料ガスは、当該原料ガスとT2より高い温度に加熱されたプロセスガスとを混合することによって加熱できる。この温度は成長チャンバー内で所望の温度プロファイルを得るために十分である。ブロック680では、予熱された原料ガスを成長チャンバー内へ導入し、成長チャンバー内で所望の温度ファイルを達成する。その後、CNTsは、CNT浸出基材を生産するために基材上に形成される。温度T2に予熱された原料ガスは、基材のバルク材温度を上昇させるほどに十分な熱エネルギは持っていない。従って、基材の温度及びあらゆる任意のサイジング剤は、基材繊維が成長チャンバーを通って移動するときはその分解温度より低い温度に維持される。
【0057】
ここではシステムの例示的な実施形態が、図3及び図4に関連して記載されている。成長キャビティ425は、矩形断面と約0.27立方フィートの体積を有する。成長キャビティ425は、約8nmの大きさの酸化鉄粒子とヘキサンとが体積比で1対200の溶液の中を約1ft/minのラインスピードでトウ(tow)を通過させることによって得られた酸化鉄触媒をコーティングした基材トウを受け入れる。前記トウ(tow)は、約4フィート/minのラインスピードで成長キャビティを通過する。成長キャビティ425は、約550℃に維持される。約0.15〜0.2リットルのアセチレンと約15〜20リットルの窒素のプロセスガスと原料ガスの混合ガスは、約650℃の温度まで予熱される。予熱されたガスは、約15.15リットル/min〜約20.0リットル/minの速度で成長キャビティ425に導入される。成長キャビティ425から連続的に排出するトウ(tow)は、約1.0%から約2%(重量パーセント)の範囲でCNTsを有する。CNT浸出基材は、成長キャビティ425の出口で成長チャンバー110から排出する。CNT浸出基材は、実質的に均一長さのCNTsを有する。本明細書に記載されたプロセスでは、CNT成長チャンバー110における基材の滞留時間は、CNTの成長、最終的にはCNTの長さを制御するために調整される。これは、CNTsの成長の特質を制御する方法を提供する。また、CNT長さも、原料ガスとプロセスガスの流量及び反応温度の調整を通じて制御される。CNT特性の付加的制御は、例えば、CNTsを準備するために用いられる触媒のサイズを制御することによって得られる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特に、SWNTsを作成するために用いられる。より大きな触媒は主にMWNTsを作成するために用いられる。
【0058】
更に、本明細書で述べられたCNT成長方法及びシステムは、基材上に均一に分散されたCNTsを有するCNT浸出基材を提供する。ある実施形態では、被覆率、即ち、被覆されたファイバー表面積で表されるその最大分布密度は、5つの壁を持つ直径約8nmのCNTsと仮定すれば、約55%である。この被覆率は、「fillable(充填可能な)」空間としてのCNTs内部の空間を考慮して計算される。種々の分布/密度の値は、ガス成分や処理速度を制御すること及び表面上の触媒分散を変化させることで得られる。ひとつの典型的なパラメータとしては、約10%以内の被覆率が繊維表面で得られる。より高い密度やより短いCNTsは、機械的特性を改善するのに有用であるのに対し、より低密度でより長いCNTは、熱的及び電気的特性を改善するのに有用である、とは言え、密度の増加は依然好ましいものである。低密度は、CNTsが長く成長した場合に生じるが、これは、より低い触媒粒子収率となる、より高い温度及びより早い成長の結果である。
【0059】
CNT浸出基材は、例えばカーボンフィラメント、カーボンヤーン、カーボントウ、カーボンテープ、炭素繊維の紐、炭素繊維織物、不織布の炭素繊維マット、炭素繊維プライ、及び他の3次元織布構造等の基材を含む。フィラメントは、約1ミクロンから約100ミクロンの範囲の直径を持つ高アスペクト比の繊維を含む。トウは、通常は密に結合したフィラメントの束であり、一般的に、トウはを撚り合わせてヤーンが作られる。
【0060】
基材へのCNT浸入のための本発明のプロセスにより、CNTの長さを均一に制御することが可能となり、連続処理で巻き取り可能な基材が高い割合でCNTsを持って機能化されることが可能となる。成長チャンバー110内の5秒から300秒の間の部材滞留時間の場合、長さが3フィートであるシステムのための連続処理のラインスピードは、約0.5ft/minから約36ft/minの範囲内である。ある実施形態では、約5秒から約30秒の部材滞留時間で、長さが約1ミクロンから約10ミクロンのNTsを生産できる。ある実施形態では、約30秒から約180秒の部材滞留時間で、長さが約10ミクロンから約100ミクロンのNTsを生産できる。更に別の実施形態では、約180秒から約300秒の部材滞留時間で、長さが約100ミクロンから約500ミクロンのCNTsを生産できる。当業者は、これらの範囲がおおよそのものであることや、また、CNT長さは、反応温度、キャリアガスと原料ガスの濃度、及び流量によっても調節できることを認識するだろう。
【0061】
ある実施形態では、CNT浸出基材は、複合材料の形成に用いられる。そのような複合材料は、CNT浸出基材を備えた複合材料を形成するためのマトリックス材を含む。本発明において有効なマトリックス材は、これらに限定しないが、レジン(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両レジン、金属、セラミック、及び、セメントを含む。マトリックス材として有効な熱硬化性レジンには、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end−capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性レジンには、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。マトリックス材として有効な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)等のアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有効なセラミックには、炭素セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩等)、酸化物(例えば、アルミナやムライト等)、窒化物(例えば、窒化ケイ素等)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素等)が含まれる。マトリックス材として有効なセメントには、炭化物系セメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten−thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium−carbonate−nickel))、クロム−アルミナ、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0062】
実施例
この実施例は、どのようにして、アラミド繊維材が、機械的特性、特に、例えばせん断強度等の界面特性の改善を目指し、ガス予熱ヒータを用いた連続処理において低温でCNTsを浸出するのかを示す。
【0063】
この実施例では、繊維への短いCNTsの充填を目標としており、この場合、800テックスのケブラー繊維トウ(デラウエア州ウィルミントンのデュポン社から入手可能)を、繊維基材として用いる。このアラミド繊維トウにおける個々のフィラメントは、略17μmの直径を有する。
【0064】
図13は、本発明の具体例によるCNT浸出繊維の製造システム1300のフローチャートを示す。システム1300は、図のように相互に関連する、アラミド繊維材の繰り出し(ペイアウト(payout))及びテンショナーステーション1302、繊維スプレッダー(fiber spreader)ステーション1308、プラズマ処理ステーション1310、コーティング塗布ステーション1312、空気乾燥ステーション1314、第2のコーティング塗布ステーション1316、第2の空気乾燥ステーション1318、CNT浸出ステーション1320、CNT整列(alignment)ステーション1322、レジン浴1324、及び、回転マンドレル1330を含む。
【0065】
繰り出し(ペイアウト(payout))及び張力ステーション1302は、繰り出しボビン1304とテンショナー1306を含む。繰り出しボビンは、アラミド繊維材1301を処理工程に供給する。繊維は、テンショナー1306によって張力が与えられる。この実施例に関しては、アラミド繊維材は、約5ft/minのラインスピードで処理される。
【0066】
アラミド繊維材1301は、繊維スプレッダーステーション1308へ送られる。この繊維がサイジング剤なしで製造されるので、サイジング剤除去処理は、繊維スプレッダーステーション1308の一部としては組込まれない。
【0067】
アラミド繊維材1301は、プラズマ処理ステーション1310へ送られる。この実施例の場合、大気プラズマ処理は、開繊したアラミド繊維材から12mm離れたところから「ダウンストリーム」方式で利用される。ガス原料は、1.1%の酸素を含む不活性ガス(ヘリウム)である。アラミド繊維材表面の酸素含有量を制御することは、次のコーティングの密着性を高める効果的な方法であり、従って、アラミド繊維複合材料の機械的性質を高めるために好ましい。
【0068】
プラズマ強化繊維311は、コーティング塗布ステーション1312へ送られる。この実施例では、酸化鉄を主成分とする触媒と保護被膜材は、単一のハイブリッド溶液内に混入され、浸漬被覆に使用される。前記ハイブリッド溶液は、容積で、「EFH−1」(ニューハンプシャー州、ベッドフォードのフェローテックコーポレーションから入手可能な酸化鉄を主成分とする触媒)1部、「Accuglass T−11 Spin−On Glass」(ニュージャージー州、モリスタウンのハネウェル・インターナショナル社から入手可能)5部、ヘキサン24部、イソプロピルアルコール24部、及びテトラヒドロフラン146部の割合である。そのような「ハイブリッド」被覆を用いる利点は、高温で繊維劣化の影響を無視できることである。理論にとらわれることなく、アラミド繊維材の劣化は、高温での触媒NPsの焼結によって増進されると考えられる(CNTsの成長に不可欠な温度)。保護被膜自体で触媒NPを封入することによって、この影響を制御することが可能である。熱的・電気的特性ではなく、機械的特性の向上が目的であるので、それはアラミド繊維を主成分とする材料の完全性を維持するためには望ましい。従って、「ハイブリッド」被覆が用いられる。
【0069】
触媒を付着させ、保護被覆されたアラミド繊維材1313は、保護被膜の部分的硬化のために空気乾燥ステーション1314へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊したアラミド繊維全体にわたって熱風を送る。用いられる温度は、約100℃から約350℃の範囲である。
【0070】
空気乾燥後、触媒及び保護被膜担持アラミド繊維材1313は、第2のコーティング塗布ステーション1316へ送られる。これは、コーティング塗布ステーション1312と同じである。同じハイブリッド溶液が用いられる(容積で、「EFH−1」1部、「Accuglass T−11 Spin−On Glass」5部、ヘキサン24部、イソプロピルアルコール24部、及びテトラヒドロフラン146部)。この実施例の場合、多重のコーティング塗布ステーションを含む構成が、プラズマ強化繊維1311上の「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最大限にするために用いられる。
【0071】
触媒と保護被膜担持アラミド繊維1317は、保護被膜の部分的硬化のための第2の空気乾燥ステーション1318へ送られる。第2の空気乾燥ステーション1318は空気乾燥ステーション1314と同じである。
【0072】
空気乾燥後、触媒及び保護被膜担持アラミド繊維1317は、最終的にCNT浸出ステーション1320へ送られる。この実施例では、12インチの成長ゾーンを備える長方形反応炉が大気圧でCVD成長を採用するために用いられる。図8に示すものと同様のガス予熱システムは、約700℃の温度まで成長ガスを予熱するために使用される。総ガス流量の約97.6%は、不活性ガス(窒素)で残りの2.4%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは約550℃に保たれる。上述した長方形反応炉について、約550℃は比較的に低温成長温度であるが、保護被膜による断熱と共にガス予熱のために、アラミド繊維の高温劣化を防止し、CNT成長を可能にさせる。
【0073】
その後、CNT浸出繊維1321は、CNT整列システム1322を通過させるが、ここでは一連のダイスが各ロービング(roving)の方向にCNT軸を機械的に整列させるために用いられる。直径0.125インチの開口を有するテーパーダイス終端はCNTの整列を補助するために用いられる。
【0074】
CNT整列システム1322を通過した後、整列したCNT浸出繊維1323は、レジン浴1324に送られる。レジン浴は、CNT浸出繊維とレジンからなる複合材料の製造のためのレジンを含有する。このレジンは、これらに限定されないが、例えばポリエステル(例えばオルトフタルポリエステル)、改良ポリエステル(イソフタルポリエステル)、エポキシ、及びビニルエステル等の市販のレジン・マトリックスを含む。
【0075】
レジン浴1324は、種々の方法で実施されるが、そのうちの2つを下記に記載する。その1つは、レジン浴1324が、ドクター・ブレードのローラ浴として実施され、浴内に配置された研磨された回転シリンダ(例えばシリンダ1325)が回転するときにレジンを引き上げる。ドクター・バー(図13には図示せず)がシリンダに押し付けられ、シリンダ1325上に正確な厚さのレジンフィルムを得ると、浴中へ余剰レジンを戻す。アラミド繊維のロービング1323が、シリンダ1325の頂部に引き下ろされるにつれて、レジンフィルムと接触して濡れる。もう1つの方法は、レジン浴1324を浸漬浴として用い、アラミド繊維のロービング723をレジン浴内に浸漬し、その後、余剰のレジンを除去する1組のワイパー或いはローラを介して引き上げる。
【0076】
レジン浴1324を出た後、レジンで濡れたCNT浸出繊維1323は、デリバリーヘッド(図示せず)の後方に配置されている、様々なリング、小穴(eyelets)、そして、通常はマルチ・ピン(multi−pin)「くし状部(comb)」(図示せず)を通過する。くし状部は、アラミド繊維1323が回転マンドレル1330上で単一の一体化された帯の形態にまとめられるまで、それらを分離状態に保っておく。マンドレルは、機械的強度が改善された複合材料を必要とする構造のための型の役割を果たす。
【0077】
当然のことながら、前述の実施形態は単に本発明の具体例にすぎず、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱しない限りは、前述の実施形態の多くの変形例を考え出すことができる。例えば、本明細書において、数々の具体的詳細が、本発明の例示の実施形態の説明及び理解を完全にするために提供されている。しかしながら、当業者であれば、本発明の1以上の詳細がなくても、又は他の処理、材料、構成要素等を用いて本発明を実施でき得ることを認識するであろう。
【0078】
また、場合によっては、周知の構造、材料、又は工程を図示しないか、又は詳細に説明しないことにより、例示の実施形態の態様が曖昧になることを避けている。当然のことながら図面に図示された様々な実施形態は例示であり、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。本明細書全体にわたって「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「ある実施形態(実施形態の中には)」についての言及は、特定の機能、構造、材料、又は(複数の)実施形態と関連して記載した特徴は、本発明の少なくとも1つの実施形態には含まれるが、必ずしも全ての実施形態に含まれるものではない、ということを意味する。従って、本明細書の全体にわたって様々な箇所で見られる表現「1つの実施形態において」、「一実施形態において」又は「ある実施形態において」は、必ずしも全て同じ実施形態について言及しているものものとは限らない。更に、特定の機能、構造、材料、又は特徴は、1以上の実施形態においてあらゆる適切な方法により組み合わせることができる。従って、このような変形は、以下の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン・ナノチューブの成長を促進するのに十分に高い第1の温度まで加熱された成長チャンバーを準備するステップと、
基材を前記成長チャンバーに通すステップと、
少なくとも一部の原料ガスを少なくとも遊離炭素ラジカルに解離するのに十分な第2の温度まで予熱した前記成長チャンバーに導入し、これによって前記基材上でカーボン・ナノチューブの形成を開始するステップと、
を含んで構成されたカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項2】
前記第2の温度は、前記第1の温度より高い請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項3】
前記第1の温度を約450℃から約650℃の範囲に制御するステップを更に含んで構成された請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項4】
前記第2の温度を約550℃から約1000℃の範囲に制御するステップを更に含んで構成された請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項5】
前記基材が、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース系繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、及びこれらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含んで構成された請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項6】
前記基材を、触媒及びサイジング剤からなるグループから選択される少なくとも1つの物質で被覆する請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項7】
前記原料ガスと一緒にプロセスガスを前記成長チャンバー内へ導入するステップを更に含んで構成された請求項1に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項8】
前記プロセスガスと前記原料ガスを混合し、この混合ガスを、前記成長チャンバー内へ導入する前に前記第2の温度まで加熱する請求項7に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項9】
前記加熱した混合ガスを前記成長チャンバー内に拡散するステップを更に含んで構成された請求項8に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項10】
前記第2の温度T2を超える温度まで前記プロセスガスを加熱し、その後、前記原料ガスの温度を前記第2の温度まで上昇させるため、前記第2の温度より低い温度で前記原料ガスと前記プロセスガスを混合することにより、前記原料ガスを加熱する請求項7に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項11】
第1の温度まで加熱された成長チャンバーを準備するステップと、
基材を前記成長チャンバーに通すステップと、
第2の温度まで予熱した原料ガスを準備するステップと、
基材上でカーボン・ナノチューブの形成を可能とするため前記成長チャンバー内に所望の温度プロファイルを実現するために選択される第2の温度まで予熱した原料ガスを成長チャンバー内へ導入するステップと、
を含んで構成されたカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項12】
前記第2の温度が前記第1の温度の約40%以内である請求項11に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項13】
前記原料ガスと一緒にプロセスガスを前記成長チャンバー内に導入するステップを更に含んで構成された請求項11に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項14】
前記プロセスガスと前記原料ガスを混合し、その結果生じた混合ガスを、前記成長チャンバー内へ導入する前に前記第2の温度まで加熱する請求項13に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項15】
前記加熱した混合ガスを前記成長チャンバー内に拡散するステップを更に含んで構成された請求項14に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項16】
前記第2の温度T2を超える温度まで前記プロセスガスを予熱し、その後、前記原料ガスの温度を前記第2の温度まで上昇させるため、前記プロセスガスを前記原料ガスと混合することにより前記原料ガスを予熱する請求項13に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成方法。
【請求項17】
触媒を有する基材を受け入れる成長チャンバーと、
前記成長チャンバーを前記基材上でカーボン・ナノチューブの成長を促進するのに十分に高い第1の温度まで加熱するためのヒータと、
原料ガスを第2の温度まで加熱し、前記基材上でカーボン・ナノチューブを合成するために前記成長チャンバーに前記原料ガスを導入するガス予熱ヒータと、
を含んで構成されたカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項18】
前記第2の温度は、少なくとも一部の前記原料ガスを少なくとも遊離炭素ラジカルに解離するのに十分である請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム
【請求項19】
前記第2の温度は、前記第1の温度の約40%以内であり、前記成長チャンバー内に所望の温度プロファイルを実現するのに十分である請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項20】
前記ガス予熱ヒータは、制御可能に前記原料ガスを前記第2の温度に加熱する前記成長チャンバーの外側あるヒータを含んで構成された請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項21】
前記ガス予熱ヒータは、制御可能にプロセスガスを第2の温度を超える温度まで加熱する前記成長チャンバーの外側にあるヒータと、前記加熱したプロセスガスを受け入れるための入力と低温で前記原料ガスを受け入れるための入力とを有し、拡散された生成物を前記第2の温度で前記原料ガスを含む成長チャンバー内に提供するために、前記加熱したプロセスガスと前記原料ガスを混合する拡散器と、を含んで構成された請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項22】
前記基材が、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース系繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、及びこれらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択される少なくとも1つの材料を含んで構成された請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項23】
前記成長チャンバーが前記基材を受入れる速度、前記第1の温度、前記第2の温度、及び原料ガス供給量のうちの1つ以上を制御するコントローラを更に含んで構成された請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項24】
前記第1の温度は、約450℃から約650℃の範囲である請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項25】
前記第2の温度が、約550℃から約1000℃の範囲である請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項26】
前記基材は、その上にサイジング剤及び鉄を主成分とする触媒を有する繊維トウ(fiber tow)である請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項27】
前記原料ガスが、アセチレン、メタノール、エチレン、メタン、プロパン、ベンゼン、及び天然ガスからなるグループから選択される少なくとも1つのガスを含んで構成された請求項17に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。
【請求項28】
前記プロセスガスが、窒素、ヘリウム、及びアルゴンからなるグループから選択される少なくとも1つのガスを含んで構成された請求項21に記載のカーボン・ナノチューブ(CNT)合成システム。

【図1】
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【図2】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−519141(P2012−519141A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552206(P2011−552206)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/025668
【国際公開番号】WO2010/141130
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】