説明

ガソリンエンジン

【課題】異常燃焼を回避しつつ幾何学的圧縮比を高くして圧縮自着火燃焼を実現することができるとともに、触媒の活性を促進することができるガソリンエンジンを提供する。
【解決手段】排気ポート10に接続される独立排気通路52の下流端を下流側の方がより流路面積が小さくなる形状としてエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52に接続された排気ポート10内に負圧が生成されるようにするとともに、低負荷かつ低速域において、混合気が自着火により燃焼する自着火燃焼モードを実行するとともに、高負荷かつ低速域において、吸気弁11の開弁期間と排気弁12の開弁期間とを所定のオーバーラップ期間重複させ、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒2の前記オーバーラップ期間を他方の気筒2の排気弁12が開弁している時期に重複させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室および吸気ポートと排気ポートとがそれぞれ形成されるとともに前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と前記排気ポートを開閉可能な排気弁とが設けられた複数の気筒と、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を前記燃焼室に噴射するインジェクタとを備えたガソリンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて、高い熱効率が得られると言われている。
【0003】
前記圧縮自己着火燃焼が適用されたガソリンエンジンの具体例として、例えば下記特許文献1に開示されたものが知られており、この特許文献1には、気筒の幾何学的圧縮比を14以上として混合気を自着火可能な温度にまで高めることが開示されている。
【0004】
ここで、幾何学的圧縮比を14以上という高い値に設定した場合、燃焼室内の混合気の温度が過剰に上昇してしまう結果、低速高負荷領域等において、ノッキング等の異常燃焼が生じるという問題がある。
【0005】
これに対して、下記特許文献2に開示されるようないわゆる4−2−1タイプの排気システムを用いることで、燃焼室の掃気を促進して燃焼室内の残留ガスを低減し、これにより、混合気の過剰な温度上昇を抑制することが検討されている。この排気システムでは、4気筒エンジンにおいて、各気筒の排気ポートにそれぞれ接続される4つの排気通路が2本づつ集合した後、これら2本の排気通路が1本に集合されており、排気ガスが徐々に集合することによって背圧や排気脈動の影響を抑制して、掃気が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−154859号公報
【特許文献2】特開2002−276356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記4−2−1タイプの排気システムでは、掃気性能が向上することで異常燃焼の発生を抑制できる一方、排気通路が長くなる結果、この排気通路に設けられる触媒に流入する排気温度が低下し、これにより、触媒の活性に時間がかかる、または、触媒の活性状態を維持するのが困難になるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、異常燃焼を回避しつつ幾何学的圧縮比を高くして自着火燃焼を実現することができるとともに、触媒の活性を促進することができるガソリンエンジンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、燃焼室および吸気ポートと排気ポートとがそれぞれ形成されるとともに前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と前記排気ポートを開閉可能な排気弁とが設けられた複数の気筒と、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を前記燃焼室に噴射するインジェクタとを備えたガソリンエンジンであって、前記吸気弁と排気弁の動作および前記燃焼室内の燃焼形態を制御する制御手段と、1つの気筒あるいは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続される独立排気通路と、前記各独立排気通路を通過したガスが集合するように当該各独立排気通路の下流端に接続された集合部と、前記集合部を通過したガスが流入するように当該集合部よりも下流側に配置されて、理論空燃比の雰囲気下で三元触媒機能を有する触媒とを備え、前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、前記各独立排気通路のうち排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路は互いに隣り合う位置で前記集合部に接続されており、前記各独立排気通路の下流端部分は、各気筒から各排気ポートおよび各独立排気通路を通って前記集合部に排気が排出されるのに伴いエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路およびこの独立排気通路に接続された排気ポート内に負圧が生成されるように、下流側の方が上流側よりも流路面積が小さくなる形状を有し、前記制御手段は、少なくともエンジンの低負荷かつ低速域において、前記燃焼室内の混合気が自着火により燃焼する自着火燃焼モードを実行するとともに、少なくともエンジンの高負荷かつ低速域において、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を開弁動作させることを特徴とするガソリンエンジンを提供する(請求項1)。
【0010】
本発明によれば、排気ポートから触媒までの排気通路の長さを長くすることなく低速高負荷領域において高い掃気性能を実現することができる。そのため、異常燃焼を回避しつつ、気筒の幾何学的圧縮比を14以上として混合気の自着火燃焼を実現、ひいては高い熱効率を実現することができるとともに、触媒に流入する排気の温度を高くして触媒の活性を促進することができる。
【0011】
具体的には、本発明では、各独立排気通路の下流端部分が下流側の方が上流側よりも流路面積が小さくなる形状を有しており、所定の独立排気通路から集合部に高速で排気が流入し、これによりエゼクタ効果が得られ、他の独立排気通路が負圧になるよう構成されているとともに、低速高負荷領域において所定の気筒のオーバーラップ期間中に他の気筒の排気弁が開弁されているので、この低速高負荷領域において、エゼクタ効果によりオーバーラップ期間中の気筒の排気ポート内に負圧を生成してこの負圧によりオーバーラップ期間中の掃気を促進することができる。従って、幾何学的圧縮比を高くしても前記低速高負荷領域において異常燃焼が発生するのをより確実に回避することができ、幾何学的圧縮比が高いことに伴う適正な圧縮自己着火燃焼を実現することができる。
【0012】
さらに、高い掃気性能がエゼクタ効果の利用により実現されており、排気通路の長さを長くする必要がないので(4−2−1タイプの排気システムに比べて排気通路の長さを短くすることができ)、触媒に到達するまでの排気の放熱量を小さく抑えて、触媒に流入する排気の温度を高くすることができ、触媒の活性を促進することができる。特に、燃焼温度が低く排気の温度が低いために触媒が活性しにくい圧縮自己着火燃焼の実施時においても、触媒の活性を促進することができ、高い熱効率を得つつ触媒を活性させることができる。また、前記のように独立排気通路から集合部に向かって排気が高速で流入するため、この排気が他の独立排気通路に回りこんで膨張するのが抑制され、この膨張に伴う排気の温度低下も抑制される。
【0013】
本発明において、前記集合部は、下流側の方が上流側よりも流路面積が小さくなる形状を有するのが好ましい(請求項2)。
【0014】
このようにすれば、前記集合部を通過する排気の流速を高めることができ、前記排気ポートに生成される負圧量を高くして掃気性能をより高めることができる。
【0015】
また、本発明において、前記集合部と前記触媒との間に下流側の方が上流側よりも流路面積が大きくなる形状を有する連結部を設けるのが好ましい(請求項3)。
【0016】
前述のように、排気は集合部を高速で通過しており、この流速の増加に伴って集合部を通過する排気の温度は低下する。そのため、このような構造を有する連結部を設ければ、この連結部において排気の流速および温度を復帰させることができ(流速は低下し温度は増加する)、触媒に流入する排気の温度を高く維持することができる。さらに、排気の温度の低下に伴い、前記集合部での外部への放熱量は小さく抑えられる。このように、この構成によれば、集合部での放熱量を小さく抑えつつ連結部において排気の温度を高く復帰させることができ、連結部の流路面積が一定の場合に比べて、触媒に流入する排気の温度を高くすることができる。
【0017】
本発明において、前記制御手段は、エンジンの高負荷かつ低速域に加えて、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域の少なくとも一部の領域においても、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を開弁動作させるのが好ましい(請求項4)。
【0018】
このようにすれば、熱効率が高く排気温度が低い自着火燃焼モード領域においても、エゼクタ効果によってオーバーラップ期間中の気筒の排気が下流側に吸い出され、この排気が他の独立排気通路に回りこむのがより確実に回避されるため、この回りこみに伴う排気の膨張を回避して、この排気の温度の低下を抑制することができる。このことは、触媒の活性をより促進する。
【0019】
本発明において、前記制御手段は、前記インジェクタにより前記燃焼室内に噴射される燃料重量Fに対する前記燃焼室内の全ガスの重量Gの割合であるG/Fを制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域において、前記燃料重量Fに対する燃焼室内の全ガス重量Gの割合G/Fを30以上に制御するとともに、高負荷側ほど前記燃料重量Fに対する燃焼室内の全ガス重量Gの割合G/Fを小さくするのが好ましい(請求項5)。
【0020】
このように燃焼室の空燃比が非常に高いリーン状態において圧縮自己着火燃焼を実行すれば、NOxの生成をより確実に抑制することができるとともに、燃焼温度を低下させてより高い熱効率を得ることができる。ここで、燃焼温度の低下に伴い排気の温度は低下するが、本発明では、前記のように、触媒に流入する排気温度が高くされるため、適正な圧縮自己着火燃焼を実現しつつ触媒の活性を促進することができる。また、この構成では、高負荷側ほど前記燃料重量Fに対する燃焼室内の全ガス重量Fの割合G/Fが小さくされて燃料量の増大に合わせて適正なG/Fとされており、適正な圧縮自己着火燃焼を実現しつつエンジントルクを確保することができる。
【0021】
また、本発明において、前記制御手段は、前記インジェクタの動作を制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域において、前記インジェクタにより吸気行程あるいは圧縮行程の前期に前記燃焼室内に燃料を噴射させるのが好ましい(請求項6)。
【0022】
このようにすれば、燃焼室内に噴射された燃料が自着火するまでの間に十分に空気と混合されて燃焼室内の混合気濃度が均質化されるため、燃焼温度をより確実に低下させて、これにより、より高い熱効率を得ることができる。ここで、燃焼温度の低下に伴い排気の温度は低下するが、本発明では、前記のように、触媒に流入する排気温度が高くされるため、高い熱効率を実現しつつ触媒の活性を促進することができる。
【0023】
また、本発明において、前記燃焼室内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグを備え、前記制御手段は、前記点火プラグの動作を制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行する運転領域よりも高負荷側の領域において、前記自着火燃焼モードのときよりも燃焼室内の平均空燃比をリッチにさせる多量の燃料を30MPa以上の噴射圧力で前記インジェクタから噴射させる燃料噴射と、前記点火プラグによる火花点火とを、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内に実行することにより、前記燃焼噴射に基づく混合気を、圧縮上死点を所定期間以上過ぎてから火炎伝播により急速に燃焼させる急速リタードSIモードを実行するのが好ましい(請求項7)。
【0024】
このようにすれば、30MPa以上の高い圧力での燃料噴射が圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内といった遅角側で実行されており、燃焼室が最も高温・高圧化する圧縮上死点をある程度過ぎるまで、高い噴射圧力による大きな乱流エネルギーを維持しつつ、多量の燃料を十分に気化霧化させて比較的均質な(もしくは弱成層化した)混合気を形成することができる。そして、この状態で、点火プラグの火花点火に基づく火炎伝播燃焼を開始させることにより、前記高圧噴射に基づく混合気を、圧縮上死点を過ぎてから短期間で燃焼し切ることができる。このため、吸気行程等の早いタイミングで燃料を噴射する従来の火花点火式燃焼と異なり、プリイグニッションやノッキングといった異常燃焼の発生を確実に回避でき、燃焼期間の短い熱効率に優れた火炎伝播燃焼を実現することができる。このように、この構成によれば、前記エゼクタ効果による掃気性能の向上に伴う異常燃焼の抑制に加えて、燃焼形態によっても異常燃焼を抑制することができ、より確実に、異常燃焼の発生を回避することができるとともに、より広い運転領域で高い熱効率を得ることができる。また、この燃焼形態では、燃焼温度が過度に上昇することがなく、燃料の気化霧化が不十分なまま燃焼が開始されることもないため、NOxやスートの増大が回避され、エミッション性についても良好に維持される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、異常燃焼を回避しつつ幾何学的圧縮比を高くして自着火燃焼を実現することができるとともに、触媒の活性を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るガソリンエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すエンジンの排気系の構成を示す図である。
【図3】図1に示すエンジンのピストン冠面の形状を示す概略断面図である。
【図4】図2に示す排気系の概略側面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】急速リタードSI燃焼モードにおける吸気弁および排気弁のバルブタイミングを説明するための図である。
【図7】図2に示す排気系の作用効果を説明するための図である。
【図8】図1に示すエンジンの制御系を示すブロック図である。
【図9】エンジンの運転状態に応じた制御モードを選択するための制御マップの一例を示す図である。
【図10】図9の第1運転領域A1で実行されるリーンHCCI燃焼モードの制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図11】図9の第2運転領域A2で実行される急速リタードSI燃焼モードの制御内容を説明するためのタイムチャートである。
【図12】急速リタードSI燃焼モードにおいて圧縮行程後期に噴射された燃料がキャビティ内で拡散する様子を説明するための図である。
【図13】吸気弁および排気弁のバルブタイミングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるガソリンエンジンの全体構成を示す図である。図2は、このエンジンの一部(主に排気系)を示す図である。図1に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、所定の方向並ぶ4つの気筒2(図2参照)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。具体的には、図2の右から順に第1気筒2a,第2気筒2b,第3気筒2c,第4気筒2dが形成されている。なお、エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものであればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。
【0028】
前記エンジン本体1は4サイクルエンジンであって、各気筒2a〜2dにおいて、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程がそれぞれ180℃Aずつずれるように構成されている(図6参照)。本実施形態では、第1気筒2a→第3気筒2c→第4気筒2d→第2気筒2bの順に点火が行われてこの順に排気行程等が実施される。
【0029】
前記ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されており、前記ピストン5の往復運動に応じて前記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
【0030】
前記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。この燃焼室6には吸気ポート9および排気ポート10が開口し、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12が、前記シリンダヘッド4にそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、各気筒につき前記吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、前記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0031】
なお、「燃焼室」とは、狭義には、上死点時におけるピストン5の上方空間のことを指すが、本明細書でいう燃焼室6とは、ピストン5の上下位置にかかわらずその上方に形成される空間のことを指すものとする(広義の燃焼室)。
【0032】
ここで、当実施形態のエンジン本体1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮自己着火燃焼の安定化等を目的として、14以上という比較的高い幾何学的圧縮比を有するように設定されている。なお、幾何学的圧縮比の上限値は、実用上の観点等から20程度であると考えられるため、前記エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、14以上20以下の範囲の適宜の値に設定される。
【0033】
エンジンには、各種センサが取り付けられている。例えば、エンジン冷却水の温度を検出するための水温センサSW1、クランク軸7の回転角度(クランク角)ひいてはエンジンの回転速度を検出するためのクランク角センサSW2、前記カムシャフトの角度を検出して気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用の信号を出力するカム角センサSW3、燃焼室に流入する新気の温度を検出するための外気温センサSW4が、エンジン本体に取り付けられている。
【0034】
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0035】
前記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15およびVVT16がそれぞれ組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。また、VVT16は、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11の開閉タイミング(位相角度)を可変的に設定するものである。これらCVVL15およびVVT16は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量および開閉タイミングを変更できるように設けられており、CVVL15およびVVT16の両方が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量および開閉タイミングが同時に変更されるようになっている。
【0036】
前記のような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって前記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。また、前記VVT16についても、液圧式、電磁式、機械式など、種々のタイプのものが既に公知であり、その中から適宜のものを採用し得る。
【0037】
前記排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の開閉タイミング(位相角度)を可変的に設定する可変バルブタイミング機構であるVVT17が組み込まれている。以下、前記CVVL15を吸気CVVL15といい、吸気弁11用の前記VVT16を吸気VVT16といい、排気弁12用の前記VVT17を排気VVT17という。
【0038】
前記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、点火プラグ20およびインジェクタ21が、各気筒2につき1組ずつ設けられている。
【0039】
前記インジェクタ21は、燃焼室6をその天井面(燃焼室6を覆うシリンダヘッド4の下面)から臨むように設けられている。各気筒2のインジェクタ21にはそれぞれ燃料供給管23が接続されており、各燃料供給管23を通じて供給される燃料(ガソリンを主成分とする燃料)が前記インジェクタ21の先端部から噴射されるよ。
【0040】
より具体的に、前記燃料供給管23の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプが接続されているとともに、この高圧燃料ポンプと前記燃料供給管23との間には、全気筒に共通の蓄圧用のコモンレールが設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ21に供給されることにより、各インジェクタ21から、30MPa以上の高い圧力の燃料が噴射される。なお、燃料噴射圧力の上限値は、実用上の観点等から120MPa程度であると考えられるため、前記インジェクタ21からの噴射圧力は、30MPa以上120MPa以下の範囲の適宜の値に設定される。
【0041】
また、前記インジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口を有している。これらの噴口の設置部(インジェクタ21の先端部)は、燃焼室6天井の中央部に位置しており、各噴口は、その開口方向がボア径方向外側の斜め下方を向くように穿孔されている。このため、前記インジェクタ21の各噴口から燃料が噴射された場合、その燃料は、ピストン5の冠面(上面)に近づくほどボア径方向外側に拡がるように放射状に噴射される。
【0042】
前記点火プラグ20は、各気筒2の燃焼室6を上方から臨むように前記インジェクタ21と隣接して配置されている。具体的に、この点火プラグ20は、燃焼室6に露出する電極を先端部に有し、図外の点火回路からの給電に応じて前記電極から火花を放電する。
【0043】
前記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気マニホールド50がそれぞれ接続されている。排気マニホールド50の下流側には触媒装置60が接続されている。外部からの吸入空気(新気)は、前記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(既燃ガス)は、前記排気マニホールド50および触媒装置60を通じて外部に排出される。排気マニホールド50および触媒装置60の詳細構造については後述する。以下、排気マニホールド50と触媒装置60とを合わせて排気系と呼ぶ場合がある。
【0044】
前記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの下流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられて前記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
【0045】
前記吸気通路28および排気系の間には、この排気系を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。具体的に、外部EGR装置30は、吸気通路28の各共通通路部28cと触媒装置60の後述するケーシング62の上流端61とを連通させるEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられ、その内部を通過する排気ガスの流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気ガスの温度を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
【0046】
前記吸気通路28の共通通路部28cには、スロットルバルブ25が開閉可能に設けられている。ただし、当実施形態では、前記吸気CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、排気VVT17により排気弁12の開閉タイミングが調整されることにより、燃焼室6内のEGRガス量や新気量が調整されるため、スロットルバルブ25は、エンジンの停止時等を除いて、全開状態に維持される。
【0047】
図3は、前記ピストン5の冠面の形状を具体的に説明するための拡大図である。この図3および先の図1に示すように、ピストン5の冠面中央部には、凹状のキャビティ40が設けられている。キャビティ40は、前記インジェクタ21と対向する上向きの開口部40aを上端に有しており、この開口部40aの面積(開口面積)は、キャビティ40の内部の最大断面積(キャビティ40の各高さ位置における水平方向断面積の最大値)よりも小さく設定されている。すなわち、キャビティ40は、その開口部40aから所定深さまでの範囲において、上方に至るほど内径が狭くなるように上窄まり状に形成されている。
【0048】
(2)排気系の構成
図4は、図2の一部の側面図である。なお、この図2では、構成がより明確になるよう、後述する外側管58を切断して、この外側管58の内側が露出した状態で示している。この図4および図2に示すように、前記排気マニホールド50は、上流側から順に、3つの独立排気通路52と、略円筒状の集合部56と、略円筒状の連結部57とを備えている。
【0049】
前記各独立排気通路52は、前記各気筒2の排気ポート10に接続されている。具体的には、前記気筒2のうち第1気筒2aの排気ポート10と第4気筒2dの排気ポート10とは、それぞれ個別に独立排気通路52a、52dに接続されている。一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2気筒2bと第3気筒2cの排気ポート10は、これら各気筒2b,2cから同時に排気が排出されることがないため、構造を簡素化する観点から、1つの独立排気通路52bに接続されている。より詳細には、この第2気筒2bと第3気筒2cの排気ポート10に接続されている独立排気通路52bは、その上流側において2つの通路に分離しており、その一方に第2気筒2bの排気ポート10が接続され、他方に第3気筒2cの排気ポート10が接続されている。本実施形態では、第2気筒2bおよび第3気筒2cの排気ポート10に対応する独立排気通路52は、これら気筒2b,2cの中央部分すなわちエンジン本体1の略中央部分と対向して直線的に延びており、他の気筒12a,12dの排気ポート10に対応する独立排気通路52は、対応する各排気ポート10と対向する位置から前記第2気筒2bおよび第3気筒2cに対応する独立排気通路52に向かって湾曲して延びている。
【0050】
これら独立排気通路52は、互いに独立しており、第2気筒2bあるいは第3気筒2cから排出された排気と、第1気筒2aから排出された排気と、第4気筒2dから排出された排気とは、互いに独立して各独立排気通路52内を通って下流側に排出される。各独立排気通路52を通過したガスは前記集合部56に流入する。
【0051】
前記各独立排気通路52および前記集合部56は、各独立排気通路52から高速で排気が噴出されてこの排気が高速で前記集合部56内に流入するのに伴い、この高速の排気の周囲に発生した負圧作用すなわちエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52およびこの独立排気通路52と連通する排気ポート10内に負圧が生成されこの排気ポート10内のガスが下流側に吸い出されるような形状を有している。
【0052】
具体的には、前記各独立排気通路52は、排気が各独立排気通路52から高速で前記集合管56内に噴出されるよう、下流に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。本実施形態では、図5に示すように、各独立排気通路52は、略楕円形断面を有する上流側部分から下流に向かうに従ってその断面積が縮小されており、その下流端では上流側部分の楕円形断面積の略1/3となる扇形となっている。そして、これら独立排気通路52は、扇形をなす各下流端が、互いに隣接して全体として略円形断面を形成するように集合して前記集合部56に接続されている。
【0053】
そして、前記集合部56は、前記各独立排気通路52から排出された排気が高い速度を維持したまま下流側に流れるよう、下流側ほどその流路面積が小さくなる形状を有している。本実施形態では、排気の速度をより高めるべく前記集合部56の下流端の流路面積は、前記各独立排気通路52の下流端の流路面積の合計よりも小さく設定されている。
【0054】
ここで、前記独立排気通路52の下流端の断面積は、この断面積と同じ面積を有する真円の直径をa(図4参照)とし、前記集合部56の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をD(図4参照)とした場合に、a/Dがa/D≧0.5の範囲に設定されていれば前記集合部56を排気が十分に高い速度で通過して高いエゼクタ効果が得られることが分かっている。そこで、本実施形態では、前記独立排気通路52等を、前記構成に加えてa/D≧0.5を満足するように構成している。なお、前記独立排気通路52から前記集合部56への排気の流入速度をより高めるべく、前記独立排気通路52の下流端に流路面積が小さくされた部分すなわち絞り部分が設けられている場合には、この絞り部分の流路面積の直径をaとして、前記連結部57がa/D≧0.5となるような形状とされるのが好ましい。
【0055】
また、本実施形態では、集合部56や連結部57で圧力の不均一が生じ、これにより下流側へのガスの吸出し力が低下するのを抑制するべく、前記集合部56の上流側部分の内側面を独立排気通路52の下流端からガスの流れ方向と直交する方向に離間させている。具体的には、前記集合部56の上流側部分56aは、前記各独立排気通路52の下流端で形成される円筒部分よりも内径が大きく上下流方向に流路面積がほぼ一定とされている。そして、集合部56の下流側部分56bが、下流に向かうに従って流路面積が縮小する形状とされている。
【0056】
前記連結部57は、その上流側部分を構成し、上下流方向に流路面積がほぼ一定のストレート部57aと、その下流側部分を構成し、略円錐台状であって下流に向かうに従って流路面積が拡大するディフューザー部57bとからなる。
【0057】
このように構成された前記集合部56およびディフューザー部57bでは、排気の放熱量が小さく抑えられ、温度が高く維持された排気が下流側に排出される。
【0058】
具体的には、前述のように、前記集合部56、詳細には、前記集合部56の下流側部分56bの流路面積は、下流側ほど小さくなっている。また、前記連結部57のストレート部57aの流路面積はほぼ一定とされている。そのため、独立排気通路52から排出された排気はこの集合部56とストレート部57aとを高速で通過する。このとき排気の圧力・温度は低下するため、この集合部56およびストレート部57aにおいて、排気の外部への放熱量は小さく抑えられる。そして、このストレート部57aを通過した排気は、下流に向かうに従って流路面積が拡大するディフューザー部57bに流入することで、その圧力・温度が回復され、高い温度を維持したまま下流側に排出される。
【0059】
さらに、本実施形態では、前記集合部56と連結部57とが、中空の外側管58内に挿入されており、集合部56の上流端から連結部57の下流端までの部分は二重管構造となっている。そのため、これら集合部56および連結部57の通過時において、排気の外部への放熱はより一層抑制され、より高い温度の排気が下流側に排出される。
【0060】
前記触媒装置60は、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。この触媒装置60は、触媒本体(触媒)64とこの触媒本体64を収容するケーシング62とを備えている。ケーシング62は排気の流れ方向と平行に延びる略円筒状を有している。触媒本体64は、排気中の有害成分を浄化するためのものであり、理論空燃比の雰囲気下で三元触媒機能を有する。この触媒本体64は、例えば、三元触媒を含有する。
【0061】
前記触媒本体64は、前記ケーシング62の上下流方向の中央部分に収容されており、このケーシング62の上流端61には所定の空間が形成されている。前記ディフューザー部57bの下流端はこのケーシング62の上流端61に接続されており、ディフューザー部57bから排出された排気はこのケーシング62の上流端61に流入した後、触媒本体64側へ進行する。前記EGR通路31は、このケーシング62の上流端61に接続されており、前記ディフューザー部57bから排出された排気の一部は、EGRバルブ32の開閉動作に応じてEGR通路31内に流入する。
【0062】
(4)排気系の作用効果
以上のように構成された排気系では、独立排気通路52から集合部56および連結部57に高速で排気が噴出、流入し、これに伴いエゼクタ効果によって他の独立排気通路52内に負圧が生成される。そのため、後述するように、低速高負荷領域において、所定の気筒(排気行程気筒)2の排気弁12の開弁時に、排気順序がこの排気行程気筒2の1つ前に設定された他の独立排気通路52に連通する気筒(吸気行程気筒)2の吸気弁11と排気弁12とを互いに開弁させてこれら弁11,12をオーバーラップさせることで、排気行程気筒2から排出された排気により生成された負圧を吸気行程気筒2に作用させて吸気行程気筒2の掃気を促進することができ、高圧縮比下の低速高負荷領域において生じやすいノッキング等の異常燃焼の発生の回避および燃焼室6への新気の導入の促進を実現することができる。すなわち、高いエンジントルクを確保しつつエンジンの高圧縮比化を実現することができる。
【0063】
図7に、1500rpmの全負荷での体積効率とノック限界トルク(ノッキングが生じない範囲での最大エンジントルク)とを調べた結果を示す。この図7において、実線は、本エンジンの排気系での結果であり、破線は、掃気を促進するために排気通路を長くしたいわゆる4−2−1タイプの排気系での結果であり、鎖線は、いわゆる4−1タイプの排気系での結果である。なお、4−1タイプの排気系とは、掃気性能を特に考慮していない従来から多く用いられている排気系であり、排気ポート10にそれぞれ接続される4つの排気通路を途中で合流させることなく1本に集合させたものである。
【0064】
この図7に示されるように、本エンジンの排気系では、他の排気系に比べて最大体積効率を高めることができるとともに、掃気がより促進される(燃焼室6内の残留ガス量がより低減される)ことに伴い、ノッキングを回避するために燃焼時期を遅角側に調整する必要がなく、同じ体積効率においてもエンジントルクを高めることができる。
【0065】
しかも、本エンジンの排気系ではエゼクタ効果を利用することで掃気を促進しており、高いエンジントルクを確保しつつ、掃気を促進するために排気通路を長くしたいわゆる4−2−1タイプの排気系よりも、排気ポート10(詳しくは排気ポート10が開口するシリンダヘッド4の開口部分)から触媒装置60(詳しくは、触媒装置60のケーシング62の上流端61)までの距離L(図2参照)を短くすることができる。そのため、触媒本体64に流入する排気の温度をより高くして、触媒本体64の活性を促進することができる。例えば、4−2−1タイプの排気系では、排気ポート10から触媒装置60までの距離Lが600mm程度であるのに対して、掃気性能を同様に維持しつつ本エンジンの排気系ではこの距離Lを400mm程度まで短くすることができる。
【0066】
また、前述のように、本エンジンの排気系では、独立排気通路52から排出された排気が集合部56および連結部57を高速で通過しており、この排気が他の独立排気通路52に回りこんで膨張し低温化するのが抑制されるとともに、連結部57のディフューザー部57bで排気の圧力・温度が回復されており、この集合部56および連結部57での放熱が小さく抑えられて、触媒本体64に流入する温度を高くすることができる。さらに、前記集合部56の上流端から連結部57の下流端までの部分が二重管構造とされていることで、触媒本体64に流入する温度を高くすることができる。
【0067】
(5)制御系
図8は、エンジンの制御系を示すブロック図である。この図8に示されるECU100は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置(本発明にかかる制御手段)であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0068】
前記ECU100には、エンジンに設けられた各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU100は、エンジンに設けられた前記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、および外気温センサSW4等と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW4からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、および新気の温度といった種々の情報を取得する。
【0069】
また、ECU100には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、車両には、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSW5が設けられており、このアクセル開度センサSW5により検出されたアクセル開度が、前記ECU100に入力される。
【0070】
前記ECU100が有するより具体的な機能について説明すると、前記ECU100は、その主な機能的要素として、判定手段101、インジェクタ制御手段102、吸気制御手段103、外部EGR制御手段105、および点火制御手段106を有している。
【0071】
前記判定手段101は、クランク角センサSW2の検出値から特定されるエンジン回転速度と、アクセル開度センサSW4の検出値から特定されるエンジン負荷(目標トルク)とに基づいて、エンジンをどのような態様で制御すべきかを都度判定するものである。なお、以下では、エンジン回転速度をNe、エンジン負荷をTとする。
【0072】
図9は、前記エンジン回転速度Neおよび負荷Tに基づき決定される制御の種類を区分けして示す設定図(制御マップ)である。エンジンの運転中、前記判定手段101は、この図9の制御マップに従うようにエンジンの制御内容を決定する。なお、図9の制御マップは、基本的に、エンジン水温センサSW1により検出された冷却水温が所定値(例えば80℃)以上となる温間状態のときのものである。エンジンが冷間状態にあるときの制御マップは図9とは異なり得るが、ここではその説明については省略する。
【0073】
図9の制御マップにおいて、エンジン負荷Tが低い領域(低負荷域)には、低速域(エンジンの回転速度が低い領域)を含む全てのエンジン回転速度域にわたって第1運転領域A1が設定されており、この第1運転領域A1よりも負荷Tが高い高負荷域には、低速域(エンジンの回転速度が低い領域)を含む全てのエンジン回転速度域にわたって第2運転領域A2が設定されている。
【0074】
エンジンの運転中においては、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Neの各値から特定される制御マップ上でのポイント)が前記図9中のどの運転領域(A1、A2)に該当するかが都度判断され、各運転領域に応じた適切な制御が実行されるようになっている。
【0075】
再び図8に戻って、前記インジェクタ制御手段102は、前記インジェクタ21に内蔵された図外のニードル弁(インジェクタ21の先端部の噴口を開閉する弁)を電磁的に開閉することにより、インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。
【0076】
前記吸気制御手段103は、前記吸気CVVL15および吸気VVT16を駆動することにより、吸気弁11のリフト量(開弁量)および開閉タイミングを変更するとともに、排気VVT17を駆動することにより排気弁12の開閉タイミングを変更する制御を行うものである。
【0077】
前記外部EGR制御手段105は、前記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を調節することにより、排気通路29から吸気通路28に排気ガスを還流する操作(外部EGR)の有無を切り替えるとともに、その外部EGRによる排気ガスの還流量(外部EGR量)を制御するものである。
【0078】
前記点火制御手段106は、前記点火プラグ20による火花点火のタイミング(点火時期)等を制御するものである。
【0079】
(6)各運転領域での制御内容
次に、以上のような機能を有するECU100の制御に基づき、図9に示した各運転領域(A1,A2)で、それぞれどのような制御が実施されるのかを説明する。なお、ここでの説明の前提として、エンジンの冷却水温は十分に暖まっている(つまり温間時の運転である)ものとする。このようにエンジンが温間状態で運転されているとき、ECU100は、前記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転速度Ne)が図9の制御マップにおけるどの運転領域に該当するかを逐次判定する。そして、判定された運転領域が、図9中の第1運転領域A1と第2運転領域A2のいずれであるかに応じて、それぞれ以下のような制御を実行する。
【0080】
(i)第1運転領域A1
第1運転領域A1では、点火プラグ20による混合気の点火は停止されて、十分に混合された燃料と空気の混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、リーンHCCI燃焼(Homogeneous−Charge Compression Ignition Combustion、予混合圧縮自己着火燃焼)モードが実行される。
【0081】
図10は、前記リーンHCCI燃焼モードが実行された際の、燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。この図10に示すように、このリーンHCCI燃焼モードでは、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)よりも十分に早いタイミングで燃料が噴射され、燃料と空気の混合が十分に混合された圧縮上死点付近においてこの混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる。
【0082】
具体的に、当実施形態において、このリーンHCCI燃焼モードで運転されているときには、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に対し比較的少量の燃料が噴射(P)され、この1回の燃料噴射Pにより一括噴射された少量の燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)とに基づき形成される均質でかつリーンな混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
【0083】
前記リーンHCCI燃焼モードでは、燃焼室6内に噴射される燃料重量Fに対する燃焼室6内の全ガスの重量Gの割合であるG/Fが、30以上(例えば35)となるように設定される。ただし、このように大幅にリーンでかつ均質な空燃比下では、燃焼室内の温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。前述のように、本ガソリンエンジンでは、エンジン本体の幾何学的圧縮比が14以上と高い値に設定されており、ピストン5の圧縮作用により燃焼室内の温度をある程度まで高めることができるが、燃焼室内の温度が低い低負荷領域においてより安定した燃焼を実現するために、本実施形態では、燃焼室6内の内部EGRガス量を多く確保する制御が実施される。具体的には、このリーンHCCI燃焼モードでは、図10のリフトカーブEX(排気弁12のリフトカーブ)およびリフトカーブIN(吸気弁12のリフトカーブ)に示すように、排気弁12と吸気弁11とが同時に開弁せず、排気弁12と吸気弁11とがともに閉じるネガティブオーバーラップ期間が形成されるように、前記吸気CVVL15および吸気VVT16と前記排気VVT17とは、吸気弁11および排気弁12の開閉タイミングを制御し、これにより、燃焼室6で生成された排気ガスの多くを燃焼室6内に残留させる(内部EGRを行う)。このように、高温の排気ガス(内部EGRガス)を燃焼室6に残留させることで、燃焼室6は高温化して、安定した圧縮自着火燃焼が実現される。
【0084】
ここで、負荷Tが高く燃料噴射量が増大すると、必要な新気量が増大する。そこで、このリーンHCCI燃焼モードでは、負荷Tの増大とともに内部EGRガス量を減少させて、新気の導入を促進させる。具体的には、負荷Tの増大とともに、図10中の実線のリフトカーブEXから破線のリフトカーブEXへというように、排気弁12の閉タイミングを遅角側に変更して、燃焼室6から独立排気通路52側に排出される排気ガス量を増大させる。また、吸気弁11のリフト量を、負荷Tの高まりとともに徐々に増大する。図10中の一点鎖線のリフトカーブINは、吸気弁11が小リフト状態のときのリフトカーブであり、この状態から負荷Tが高まると、それに伴って吸気弁11のリフト量が破線のリフトカーブを上限として徐々に増大設定される。このように吸気弁11のリフト量を増大させる際には、吸気弁11の閉時期が吸気下死点(吸気行程と圧縮行程の間のBDC)の近傍に固定されたまま、吸気弁11の開時期のみが排気上死点(排気行程と吸気行程の間のTDC)に向けて徐々に進角するように、吸気弁11の開閉タイミングおよびリフト量が前記吸気CVVL15および吸気VVT16によって調整される。
【0085】
なお、このリーンHCCI燃焼モードでは、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度は全閉とされて、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流すなわち外部EGRは停止される。
【0086】
このようにして、前記リーンHCCI燃焼モードでは、G/Fが30以上という大幅にリーンの混合気が自着火燃焼するため、NOxの発生を抑制しつつ、燃焼温度ひいては冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。
【0087】
(ii)第2運転領域A2
高負荷域に設定された前記第2運転領域A2では、多量の燃料が噴射されるため、圧縮自己着火燃焼を行わせようとすると、燃焼騒音が著しく増大する、また、ノッキングが生じるという問題がある。そこで、この第2運転領域A2では、圧縮自己着火燃焼に代わり、混合気に点火して火炎伝播させる火花点火燃焼(SI燃焼)を実施する。
【0088】
ここで、SI燃焼においても、燃焼室6内の温度が過度に高い場合には、ノッキングが生じる。特に、本ガソリンエンジンでは圧縮比が非常に高い値に設定されている。そのため、燃焼室6内の温度は高くなりやすい。
【0089】
そこで、本ガソリンエンジンでは、この第2運転領域A2において、前記エゼクタ効果を利用して掃気を促進し、燃焼室6内の残留ガス(内部EGRガス)量を減少させて燃焼室6内の温度を低下させるとともに新気量を確保して、ノッキングを回避しつつエンジントルクを高めている。
【0090】
具体的には、この第2運転領域A2では、図6に示すように、吸気弁11および排気弁12の目標バルブタイミングが、排気弁12の開弁期間と吸気弁11の開弁期間とが吸気上死点(TDC)を挟んでオーバーラップし、かつ、排気弁12が他の気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に開弁を開始するように調整される。詳細には、第1気筒2aの吸気弁11と排気弁12とがオーバーラップしている期間中に第3気筒2cの排気弁12が開弁し、第3気筒2cの吸気弁11と排気弁12とがオーバーラップしている期間中に第4気筒2dの排気弁12が開弁し、第4気筒2dの吸気弁11と排気弁12とがオーバーラップしている期間中に第2気筒2bの排気弁12が開弁し、第2気筒2bの吸気弁11と排気弁12とがオーバーラップしている期間中に第1気筒2aの排気弁12が開弁するよう調整される。
【0091】
このように、この第2運転領域A2では、所定の気筒(排気行程気筒)2の排気弁12の開弁時に、排気順序がこの排気行程気筒2の1つ前に設定された他の独立排気通路52に連通する気筒(吸気行程気筒)2の吸気弁11と排気弁12とがオーバーラップされることで、排気行程気筒2の排気弁12の開弁してこの排気行程気筒2から独立排気通路52を通って前記集合部56に排気が高速で排出されるのに伴って、前記オーバーラップ期間中の吸気行程気筒2の独立排気通路52ひいては排気ポート10内にエゼクタ効果により負圧が生成され、掃気が促進される。すなわち、燃焼室6内の残留ガス(内部EGRガス)量の多くが独立排気通路52側に排出されるとともにより多くの新気が燃焼室6内に導入されるため、ノッキングを回避しつつエンジントルクを高めることができる。特に、排気弁12の開弁開始直後は気筒12から非常に高速で排気(いわゆるブローダウンガス)が排出され、これに伴い高い負圧が生成される。
【0092】
なお、本エンジンにおいて、前記吸気弁11および排気弁12の開弁時期、閉弁時期とは、それぞれ、図13に示すように、各弁11,12のリフトカーブにおいてリフトが急峻に立ち上がるあるいは立ち下がる時期であり、例えば0.4mmリフトの時期をいう。
【0093】
さらに、本実施形態では、ノッキング等の異常燃焼をより確実に回避するべく、圧縮上死点よりもかなり前(例えば吸気行程中)に燃料を噴射して圧縮上死点付近で火花点火を行わせる通常のSI燃焼ではなく、図11に示すように、圧縮行程中にインジェクタ21から燃料を噴射させ(P1,P2)、この燃料噴射P1,P2の後に点火プラグ20に火花点火を行わせて、圧縮上死点を過ぎたタイミング(膨張行程の初期)から短時間で火炎伝播により混合気を燃焼させる急速リタードSI燃焼モードを実行する。図11は、前記急速リタードSI燃焼モードが実行された際の、燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。なお、当明細書において、ある行程の「後期」とか「初期」とかいう場合は、その行程を初期、中期、後期に3分割したときの後期あるいは初期を指すものとする。例えば、圧縮行程の後期であれば、圧縮上死点前(BTDC)60〜0°CAの範囲を指し、膨張行程の初期であれば、圧縮上死点後(ATDC)0〜60°CAの範囲を指すことになる。
【0094】
具体的には、図11に示すように、急速リタードSI燃焼モードでは、圧縮行程の後期に設定された2回の噴射時期(P1,P2)に分けてインジェクタ21から、30MPa以上の高圧で燃料が噴射される。各燃料噴射P1,P2のタイミングとしては、例えば、1回目の噴射P1の開始時期から、2回目の噴射P2の完了時期までの期間が、概ね圧縮上死点前(BTDC)20°〜0°CA程度の期間内に収まるように設定される。
【0095】
このような噴射制御が実施されるこの急速リタードSI燃焼モードでは、前記のように30MPa以上(例えば40MPa)という非常に高い噴射圧力で燃料が噴射されることで、噴射期間を短くすることができるとともに燃料噴霧を微粒化することができ、短時間で多量の燃料を十分に気化霧化させて比較的均質な(もしくは弱成層化した)混合気を形成することができる。また、噴射圧力が高いために、燃焼室6が最も高温・高圧化する圧縮上死点をある程度過ぎるまで大きな乱流エネルギーを維持することができる。従って、燃料が噴射されてから短時間、ひいては、燃料噴射に伴う乱流エネルギーの減衰が小さい期間内(乱流エネルギーが大きい期間内)に火花点火による燃焼を開始させることができ、この比較的大きな乱流エネルギーによって燃焼期間を短くすることができる。そして、この燃焼期間の短縮化に伴って、燃焼が引き起こされる前に適正な火炎伝播によって混合気を燃焼し切ることができる。すなわち、ノッキング等の異常燃焼を回避しつつ、熱効率およびエンジントルクを高く維持することができる。また、圧縮上死点を過ぎたタイミングで燃焼が開始されるため燃焼温度が過度に上昇せず、燃料の気化霧化が不十分なまま燃焼が開始されることもないため、NOxやスートの増大が回避され、エミッション性についても良好に維持される。
【0096】
さらに、燃料が2回に分けて噴射されて2回目の燃料噴射の後に点火が行われており、1回目の燃料噴射P1によって燃料を霧化させつつ、2回目の燃料噴射により点火時点での乱流エネルギーを大きくすることができる。また、12個という多数の噴口から噴射されることによっても乱流エネルギーは増大される。また、多噴口型のインジェクタ21と、ピストン5に設けられたキャビティ40との組み合わせによって、図12に示すように、圧縮行程後期の燃料噴射P1,P2により噴射された燃料の噴霧を、その乱流エネルギーにより、主にキャビティ40内で迅速に拡散させることができるため、燃焼期間をより短縮することができる。
【0097】
ここで、点火時期を図11の例よりもさらに進角させれば、これに伴って燃焼開始時期が圧縮上死点により近づくため、熱効率および出力トルクのさらなる向上が期待できるが、点火時期を早めるとノッキングが起き易くなるため、点火時期は、ノッキングを起こさないという制約の下、できるだけ進角側に設定される。このような事情から、点火時期は、例えば、圧縮上死点後(ATDC)0°〜20°CA程度の範囲内に設定される。
【0098】
なお、前記急速リタードSI燃焼モードでは、前記燃料噴射P1,P2によるトータルの噴射量に対して燃焼室6全体の平均の空燃比が理論空燃比(空気過剰率λ=1)となるように新気量が制御される。具体的には、この第2運転領域A2では、負荷Tの増大に応じてCVVL15が駆動され、吸気弁11のリフト量が増大され(図11のリフトカーブINが鎖線から破線側へ制御され)、これに伴って燃料噴射量に応じた新気が導入される(図11のリフトカーブIN)。なお、本実施形態では、吸気弁11のリフトピーク位置を固定したままリフト量が増大される。
【0099】
また、前記急速リタードSI燃焼モードのときは、EGR通路31を通じて排気ガスをEGRクーラ33で冷却した後、吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。なお、エンジンの全負荷近傍では、より多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
【0100】
(7)作用効果等
以上説明したように、本エンジンでは、高負荷領域A2において、エゼクタ効果によって掃気が促進されており、気筒2の圧縮比を高圧縮比として低負荷領域A1での適正な圧縮自己着火を実現して熱効率を高めつつ、高負荷領域でのノッキングを回避して高いエンジントルクを確保することができる。しかも、前記掃気の促進がエゼクタ効果を利用することで行われており、高い掃気性能を維持しつつ、前述のように排気ポート10から触媒装置60までの距離を短くすることができるため、触媒本体64に到達するまでの間での排気の放熱量を小さく抑えて、触媒本体64に流入する排気の温度を高くし、これにより触媒本体64の早期活性化、触媒本体64の活性状態の維持を実現することができる。
【0101】
特に、本エンジンでは、独立排気通路52から排出された排気が集合部56および連結部57を高速で通過するとともに、連結部57のディフューザー部57bで排気の温度が回復されており、この排気が他の独立排気通路52に回りこんで膨張し低温化するのが抑制されるとともに、集合部56および連結部57での放熱が小さく抑えられて、触媒本体64に流入する温度を高くすることができる。さらに、前記集合部56の上流端から連結部57の下流端までの部分が二重管構造とされていることで、触媒本体64に流入する温度を高くすることができる。
【0102】
また、本エンジンでは、高負荷領域A2において、急速リタードSI燃焼モードが実行されており、エンジントルクを確保しつつノッキングをより確実に回避することができるとともに、全運転領域で高い熱効率を得ることができる。
【0103】
ここで、前記実施形態では、第1運転領域A1において排気弁12と吸気弁11とをネガティブオーバーラップさせる(オーバーラップさせない)場合について示したが、この第1運転領域A1においても第2運転領域A2と同様に、これら排気弁12と吸気弁11とをオーバーラップさせてもよい。例えば、第1運転領域A1のうち高負荷側の領域では、負荷が比較的高いことに伴い内部EGRガス量を比較的少なくしても圧縮自己着火燃焼を実現することができるため、この第1運転領域A1のうち高負荷側の領域において、排気弁12と吸気弁11とをオーバーラップさせてもよい。また、この第1運転領域A1のうちの高負荷側の領域において、所定の気筒2のオーバーラップ期間中にこの気筒2よりも排気行程が1つ前の気筒2の排気弁12を開弁させるようにしてもよい。このようにすれば、この運転領域においてもエゼクタ効果により掃気を促進してより多くの新気を導入することができ、より高負荷領域までリーンの予混合圧縮自己着火燃焼を実現することができる。
【0104】
また、前記実施形態では、第2運転領域A2の全域において排気弁12と吸気弁11とをオーバーラップさせる場合について示したが、エンジンの回転速度が高く排気流量が大きい運転領域では、背圧が高くなる結果十分なエゼクタ効果が得られない場合がある。そのため、このような高速領域では、エゼクタ効果を利用するために排気弁12と吸気弁11とをオーバーラップさせ、かつ、このオーバーラップ期間中に他の気筒2の排気弁12を開弁させるという制御は停止してもよい。すなわち、排気弁12と吸気弁11とをネガティブオーバーラップさせる、あるいは、オーバーラップ期間と他の気筒2の排気弁12の開弁期間とを重複させないという制御を行ってもよい。
【0105】
また、前記実施形態では、第1運転領域A1の全域においてHCCI燃焼モードを実施する場合について示したが、エンジンの回転速度が高い領域では、燃料の吸熱時間が少なくなるため適正な圧縮自己着火燃焼が困難になるおそれがある。そのため、このような場合には、第1運転領域A1のうち低速域のみでHCCI燃焼モードを実施し、高速域では他の燃焼モード(例えば、SI燃焼や、火花点火により混合気の自着火が促進されるよう構成された燃焼)が実施されてもよい。
【0106】
また、前記実施形態では、前記第1運転領域A1において内部EGRガス量を増大させるために吸気弁11と排気弁12とをネガティブオーバーラップさせる場合について示したが、排気弁12を排気行程に加えて吸気行程においても開弁可能なように構成し、排気弁12を排気行程に加えて吸気行程でも開弁させることで、排気ポート10に排出された高温の排気を燃焼室6内に逆流させ、これにより、燃焼室6内のEGRガス量を増大させてもよい。ただし、この場合には、前記エゼクタ効果による掃気性能の向上によって、排気の燃焼室6内への逆流が十分に行われないおそれがある。そのため、この場合には、高いエゼクタ効果が得られるように構成された前記独立排気通路52の少なくとも下流部分から連結部57の下流端までの部分をバイパスするバイパス通路と、このバイパス通路を開閉する制御弁とを設け、前記第2運転領域A2では高いエゼクタ効果が得られるように前記制御弁によりバイパス通路を封鎖する一方、前記第1運転領域A1では前記制御弁によりバイパス通路を開放して、実質、エゼクタ効果が発揮されないよう、すなわち、エゼクタ効果により燃焼室6内への排気の逆流が阻害されるのを回避されるように構成してもよい。
【0107】
また、前記実施形態では、図10,図11等を用いて、各種運転領域での燃料の噴射時期や点火時期について例示したが、これらはあくまで一例に過ぎず、前記燃料噴射時期や点火時期はエンジンの特性等によって適宜変更し得るものである。
【0108】
また、リーンHCCI燃焼モードの実行領域である第1運転領域A1では、吸気行程中の1回(燃料噴射P)で所要量の燃料が噴射されるものとしたが、この一括噴射Pの時期は、圧縮上死点までの間にある程度の燃料の撹拌時間が確保されるようなタイミング(例えば圧縮行程の中期以前)であればよく、必ずしも吸気行程中に限られない。
【0109】
また、前記実施形態では、リーンHCCI燃焼モードにおいて、G/Fを30以上に制御する場合について例示したが、G/Fではなく理論空燃比λを制御し、この理論空燃比をλ=2以上とする制御を実施してもよい。
【0110】
また、急速リタードSIモードの実行領域である第2運転領域A2では、圧縮行程後期に2回に分けて燃料噴射P1,P2を実施するものとしたが、その回数および噴射時期は、圧縮行程後期の範囲内で適宜変更可能である。例えば、燃料噴射量が比較的少ない第2運転領域A2の低負荷側では、1回で所要量の燃料を噴射する一括噴射を行ってもよい。逆に、第2運転領域A2の高負荷側(最高負荷付近)では、3回以上に分けて燃料を噴射してもよい。
【0111】
また、前記実施形態では、急速リタードSIモードの実行領域である第2運転領域A2で、排気通路29から吸気通路28に排気ガスを還流させる外部EGRを実行するようにしたが、さらなる燃焼の急速化を目指す観点から、外部EGRを停止しかつスロットルバルブ25による流量調整(スロットリング)を行うことにより、燃料およびλ=1相当の新気のみが燃焼室6内に充填されるようにしてもよい。
【0112】
一方、前記実施形態のように、急速リタードSIモードのときにEGRクーラ33において十分に冷やされた低温の排気を吸気側に導入する外部EGRを実行した場合には、プリイグニッションやノッキング等の異常燃焼をより効果的に防止することができる。このため、圧縮比が特に高く、異常燃焼が起き易いエンジンにあっては、排気性能向上の観点から急速リタードSI燃焼モードの実施時に、この低温の排気を導入する外部EGRを実行するのがよい。
【0113】
また、高負荷領域において急速リタードSI燃焼モードではなく、圧縮上死点よりもかなり前に燃料を噴射して圧縮上死点付近で火花点火を行わせる通常のSI燃焼を実施してもよい。ただし、前述のように、急速リタードSI燃焼モードを実施すれば、異常燃焼をより確実に回避しつつ熱効率を高めることができる。
【0114】
また、前記実施形態では、インジェクタ21が多噴口型のインジェクタであり、その先端部に12個の噴口が設けられるものとしたが、噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。
【0115】
また、前記実施形態では、インジェクタ21からの燃料の噴射圧力を、30MPa以上で一定としたが、噴射圧力は一定でなくてもよく、運転領域に応じて可変的に設定されるものであってもよい。ただし、この場合でも、少なくとも急速リタードSIモードの実行領域(第2運転領域A2)では、燃料噴射圧力が30MPa以上に設定される。
【符号の説明】
【0116】
2 気筒
6 燃焼室
10 排気ポート
11 吸気弁
12 排気弁
21 インジェクタ
52 独立排気通路
57 集合部
60 触媒装置
64 触媒本体(触媒)
100 ECU(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室および吸気ポートと排気ポートとがそれぞれ形成されるとともに前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と前記排気ポートを開閉可能な排気弁とが設けられた複数の気筒と、少なくとも一部がガソリンからなる燃料を前記燃焼室に噴射するインジェクタとを備えたガソリンエンジンであって、
前記吸気弁と排気弁の動作および前記燃焼室内の燃焼形態を制御する制御手段と、
1つの気筒あるいは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続される独立排気通路と、
前記各独立排気通路を通過したガスが集合するように当該各独立排気通路の下流端に接続された集合部と、
前記集合部を通過したガスが流入するように当該集合部よりも下流側に配置されて、理論空燃比の雰囲気下で三元触媒機能を有する触媒とを備え、
前記気筒の幾何学的圧縮比は14以上に設定されており、
前記各独立排気通路のうち排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路は互いに隣り合う位置で前記集合部に接続されており、
前記各独立排気通路の下流端部分は、各気筒から各排気ポートおよび各独立排気通路を通って前記集合部に排気が排出されるのに伴いエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路およびこの独立排気通路に接続された排気ポート内に負圧が生成されるように、下流側の方が上流側よりも流路面積が小さくなる形状を有し、
前記制御手段は、少なくともエンジンの低負荷かつ低速域において、前記燃焼室内の混合気が自着火により燃焼する自着火燃焼モードを実行するとともに、少なくともエンジンの高負荷かつ低速域において、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を開弁動作させることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記集合部は、下流側の方が上流側よりも流路面積が小さくなる形状を有することを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のガソリンエンジンにおいて、
前記集合部と前記触媒との間に配置されて、下流側の方が上流側よりも流路面積が大きくなる形状を有する連結部を有することを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のガソリンエンジンにおいて、
前記制御手段は、エンジンの高負荷かつ低速域に加えて、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域の少なくとも一部の領域においても、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を開弁動作させることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガソリンエンジンにおいて、
前記制御手段は、前記インジェクタにより前記燃焼室内に噴射される燃料重量Fに対する前記燃焼室内の全ガスの重量Gの割合であるG/Fを制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域において、前記燃料重量Fに対する燃焼室内の全ガス重量Gの割合G/Fを30以上に制御するとともに、高負荷側ほど前記燃料重量Fに対する燃焼室内の全ガス重量Gの割合G/Fを小さくすることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のガソリンエンジンにおいて、
前記制御手段は、前記インジェクタの動作を制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行するエンジンの低負荷かつ低速域において、前記インジェクタにより吸気行程あるいは圧縮行程の前期に前記燃焼室内に燃料を噴射させることを特徴とするガソリンエンジン。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガソリンエンジンにおいて、
前記燃焼室内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグを備え、
前記制御手段は、前記点火プラグの動作を制御可能であって、前記自着火燃焼モードを実行する運転領域よりも高負荷側の領域において、前記自着火燃焼モードのときよりも燃焼室内の平均空燃比をリッチにさせる多量の燃料を30MPa以上の噴射圧力で前記インジェクタから噴射させる燃料噴射と、前記点火プラグによる火花点火とを、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内に実行することにより、前記燃焼噴射に基づく混合気を、圧縮上死点を所定期間以上過ぎてから火炎伝播により急速に燃焼させる急速リタードSIモードを実行することを特徴とするガソリンエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−207627(P2012−207627A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75201(P2011−75201)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】