説明

ガラス切断方法およびその装置

【課題】貼合わせガラスのように板厚の厚いガラス板や中空ガラスを、水平クラックによる傷や切断面の欠けを発生させずに短時間で切断できるガラス切断方法およびその装置を提供する。
【解決手段】中空ガラス101を垂直に立て、中空ガラス101を挟んで対向設置した一対のカッター115、116を、押圧装置107、109で互いに相等しい押圧力で中空ガラス101に押圧させ、一対のカッター115、116を移動装置114で紙面に対して垂直方向に移動して、中空ガラス101に一対の切断線を同時に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板を切断するガラス切断方法およびその装置に関し、特に2枚のガラス平板を間隙を設けて貼り合せた中空ガラスの切断に有用なガラス切断方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型、大型化に適した表示装置としてプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと言う)や液晶ディスプレイパネルなどが注目されている。これらのディスプレイパネル(以下、略してパネルと言う)は、電極・誘電体・リブ・発光体・カラーフィルタなどの表示素子部材を担持させた2枚の平板状ガラス基板を所望の間隙を設けて接合材で貼り合わせた構成になっている。
【0003】
ところで、パネルの製造工程で発生した不良品や、販売した使用済みのパネルは、従来、埋め立てなどによって廃棄処理されていた。しかし、埋め立て地の不足もさることながら、資源の有効活用・再生・再利用・省資源化など地球環境保全に対する世論の高まりもあって、パネルの再生・再利用が社会的な課題になってきている。
【0004】
このような背景から、パネルの主要構成材料であるガラス板を再利用する研究開発が活発になってきている。ガラス板を再利用するには、ガラス板上の表示素子部材を取り除くために、まず貼り合わされたガラス板の貼り合わせ部を切断して、2枚のガラス板に分離する必要がある。
【0005】
従来、ガラス板を切断する方法としては、ガラス板をテーブルの上に水平に載置してカッターで切断線をガラス板に形成する方法が一般に良く知られている。しかし、この方法は、ガラス板の面積が大きくなるとテーブルの設置面積が大きくなるため装置コストが高くなる問題がある。
【0006】
そこで、この問題を解決するために、ガラス板を垂直に立てた状態にして切断線を一方のガラス面に形成して切断するガラス切断装置が提案されている。図5は、従来から提案されている代表的なガラス切断装置の要部を示した横断平面概略図である。
【0007】
図5において、501はガラス板、502はガラス板501を吸引して紙面に対して垂直に立てた状態に支持するための吸引装置である。503は切断線形成部であり、ガラス板501に切断線を形成するためのカッター504と、摺動体505と、ガラス板501面に対して垂直方向に伸長、収縮するシリンダ506とを備えている。カッター504は、摺動体505の先端に設けてあり、摺動体505に接続してあるシリンダ506の伸長、収縮作用によって突出、没入するようになっている。以下に、ガラス板501に鉛直方向の切断線を形成する方法について説明する。
【0008】
シリンダ506を伸長してカッター504を垂直に立てたガラス板501に押圧させる。この状態で切断線形成部503を伝動装置(図示せず)で鉛直方向に走行させることによって、ガラス板501に鉛直方向の切断線を形成していた。
【0009】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2001−302264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のガラス切断装置は、ガラス板の片面のみにしか切断線を形成しないため、板厚の厚い貼合わせガラスや中空ガラスを切断して再利用する目的には不適当であった。
【0011】
すなわち、例えば厚さが2mm以上のガラス板を2枚貼り合わせた貼合わせガラスを切断するには大きな荷重が必要となり、水平クラックによる傷や切断面の欠けが発生する。したがって、切断したガラス板を再利用するためには傷や欠けを取り除く後処理が必要になる問題があった。
【0012】
また、PDPのような中空ガラスの場合は、片面ずつ切断線を形成しなければならないため、工数が多くなる問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、貼合わせガラスのように板厚の厚いガラス板や中空ガラスを、水平クラックによる傷や切断面の欠けを発生させずにしかも短時間で切断できるガラス切断方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるガラス切断装置は、ガラス平面を鉛直方向に保持したガラス板を挟んで対向設置した一対のカッターと、一方のカッターをガラス板の一方の面に水平方向から押圧力Pで押圧する第1押圧部と、他方のカッターをガラス板の他方の面に水平方向から押圧力Pで押圧する第2押圧部と、押圧力Pでガラス板を押圧している一対のカッターを対にして移動させる移動部とを有することを特徴とする。
【0015】
このような構成にすることによって、水平クラックによるガラス板の傷や欠けの発生を防止することができる。また、第1押圧部および第2押圧部による押圧力を相等しくすることができるため、押圧制御部の構成が簡単になりしかも押圧力の調整作業が容易になる。
【0016】
本発明によるガラス切断方法は、ガラス板のガラス平面を鉛直方向に保持する工程と、ガラス板を挟んで対向設置した一対のカッターを互いに相等しい押圧力でガラス板に押圧する工程と、一対のカッターとガラス板とを相対的に移動させてガラス板に一対の切断線を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
このような構成にすることによって、一対の切断線を1回の工程で形成することができるため、作業時間の短縮が図れる。また、水平クラックによるガラス板の傷や欠けの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス切断方法およびその装置によれば、板厚の厚い貼合わせガラスや中空ガラスを、水平クラックによる傷や切断面の欠けを発生させずに切断することができる効果が得られる。
【0019】
また、本発明のガラス切断装置によれば、装置構成が簡単になりしかも貼合わせガラス切断作業時間の短縮が図れる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のガラス切断方法およびその装置の実施形態について図1〜図4の図面を用いて説明する。尚、各図面において同じ構成要素には同じ符号を付し、重複する構成要素の説明は省略した。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明によるガラス切断装置の一構成例を上方から見た平面概略図である。図2および図3は、図1のガラス切断装置を矢印Aの方向から見た側面概略図である。図2と図3との相違点は、移動装置の形態が異なっている点である。尚、本実施形態では、被切断ガラスとして中空ガラスを用いた場合を例にして説明する。
【0022】
[ガラス切断装置の構成]
図1において、100はガラス切断装置、101は第1ガラス平板102と第2ガラス平板103との周縁部をフリットガラス、エポキシ樹脂接着剤などの接合体104で接合した中空ガラス、105は中空ガラス101を垂直に立てた状態に保持するガラス板保持部である。
【0023】
ガラス切断装置100は、第1ガラス平板102に切断線を形成するための第1切断線形成部106と、第2ガラス平板103に切断線を形成するための第2切断線形成部108と、第1切断線形成部106と第2切断線形成部108とを紙面に対して垂直同方向へ同時に移動させる移動装置114とから構成されている。第1切断線形成部106および第2切断線形成部108は、それぞれ支持腕部113を介して移動装置114に結合されている。
【0024】
第1切断線形成部106は、第1カッター115と、第1カッター115を第1ガラス平板102に対して垂直方向から押圧するための第1押圧装置107とから構成されている。
【0025】
第2切断線形成部108は、第1切断線形成部106と同じ構成であって、第2カッター116と、第2カッター116を第2ガラス平板103に対して垂直方向から押圧するための第2押圧装置109とから構成されている。
【0026】
そして、第1カッター115と第2カッター116とが対向するように、第1切断線形成部106と第2切断線形成部108とが支持腕部113を介して移動装置114に結合されている。
【0027】
カッターとしては、超硬合金ホイールやダイヤモンドホイールなど一般に良く知られている切断線形成手段であればいずれでも適用できる。
【0028】
押圧装置としては、空圧装置・油圧装置など通常よく知られている押圧手段であればいずれでも用い得る。本実施形態では押圧装置として空圧装置を用いている。したがって、以下の説明では押圧装置と空圧装置を同義語として用いる。
【0029】
111はエアコンプレッサ(図示せず)で生成した圧縮空気を空圧装置のエアシリンダに供給する吸気管、112はエアシリンダから圧縮空気を排気する排気管、110はエアシリンダ内の空気圧を調節して押圧力を調節する押圧制御装置である。押圧制御装置110で所定の空気圧に設定すると、第1押圧装置107と第2押圧装置109とには相等しい押圧力が発生するように構成されている。
【0030】
ガラス板保持部105は、切断時に中空ガラス101が動かないように固定するものであればいずれの固定手段でも用い得る。例えば中空ガラス101の自重だけで固定できる場合は、図1に示すように支持台で固定することができる。自重だけで固定できない場合は、図5で説明した吸引装置あるいは万力などで固定すればよい。
【0031】
本発明に適用できるガラス材料としては、青板ソーダガラス・白板ガラス・石英ガラス・無アルカリの耐熱性ガラス・高歪点ガラスなど一般に良く知られているガラスであればいずれでも用い得る。被切断ガラスの形態としては、図1に示した中空ガラスの他に、2枚のガラス平板の全面を接合体で接合した貼合わせガラス、あるいは板厚が4mm以上の厚いガラス平板でも適用できることは勿論である。つぎに、図2を用いて移動装置の実施形態例について詳しく説明する。
【0032】
移動装置114aは、ボールネジ201、スライドガイド(一般にLMガイドと呼ばれている)202、稼動部203、ACサーボモータなどの駆動モータ204、架構205から構成されている。
【0033】
稼動部203には雌ネジが設けてあり、駆動モータ204でボールネジ201を回転させると稼動部203がスライドガイド202に沿って上下方向に移動する。駆動モータ204、ボールネジ201、スライドガイド202は、架構205によって図2のように支持・固定されている。
【0034】
第2切断線形成部108は支持腕部113と結合され、支持腕部113は稼動部203と結合されている。したがって、移動装置114aで稼動部203を駆動させると、第2切断線形成部108が矢印の方向に上下移動する構成になっている。
【0035】
図3は、他の移動装置の実施形態例である。図2の移動装置114aと異なる点は稼動部の駆動手段である。したがって、ここでは相違点のみについて説明する。
【0036】
移動装置114bの稼動部203は、駆動モータ204に接続されたタイミングベルト301に固定されている。駆動モータ204でタイミングベルト301を回転させることによって、第2切断線形成部が矢印の方向に上下移動する構成になっている。
【0037】
尚、図1では被切断ガラスを固定して切断線形成部を移動させたが、切断線形成部を固定して被切断ガラスを移動させても同じ効果が得られる。
【0038】
[ガラス切断方法]
図1のガラス切断装置100を用いて中空ガラス101に切断線を形成する方法について、以下に説明する。尚、本実施形態では、接合体104で接合されている接合部を切り落として、第1ガラス平板102と第2ガラス平板103とを分離する方法について説明する。
【0039】
まず、図1に示すように中空ガラス101を垂直に立て、切断線を形成する位置(接合部より内側)に固定する。つぎに、押圧制御装置110で所定の空気圧に調節した圧縮空気を、吸気管111を通じて第1押圧装置107および第2押圧装置109に供給し、第1カッター115および第2カッター116を、図4に示すように、第1ガラス平板102および第2ガラス平板103に所定の押圧力で押圧させる。
【0040】
つぎに、移動装置114を駆動して、第1カッター115と第2カッター116とを中空ガラス101の上端から下端まで移動させる。すると、対向する一対の切断線が中空ガラス101に形成される。つぎに、切断線上をハンマーなどで叩いて垂直クラックを生成させて接合部を切り落とす。
【0041】
同様の方法で中空ガラス101の他の接合部を全て切り落とすことによって、第1ガラス平板102と第2ガラス平板103とを分離することができる。
【0042】
(具体的実施例1)
下記仕様のPDPを図1に示したガラス切断装置で切断した。
【0043】
イ)パネルの寸法:42インチ(縦:570mm、横:980mm)、厚さ5.75mm
ロ)パネルの構成:2枚のガラス基板(板厚:2.8mm)の周囲をフリットガラス(接合幅:6〜7mm)で貼り合わせたもの。フリットガラスはガラス基板の周端部から10〜15mmの位置に形成されている。また、ガラス基板間の間隙は約0.15mmである。
【0044】
ハ)ガラス基板:高歪点ガラス
このPDPを垂直に立て、第1カッター115および第2カッター116として超硬合金ホイールを用い、両ホイールのホイール角度およびホイール押圧荷重を同じにして下記条件で切断線をPDPの両面に形成した。
【0045】
ニ)ホイール角度:120〜165度
ホ)ホイール押圧荷重:5〜10kg
へ)切断線の形成位置:ガラス基板の端部から20〜35mm
その結果、切断線の直下部に深さ0.3〜0.4mmの垂直クラックが生成された。尚、水平クラックの生成は認められなかった。
【0046】
つぎに、切断線上をハンマーで叩いて垂直クラックをガラス基板の裏面まで伸展させてパネルを分断した。このとき発生したガラス粉の大きさを顕微鏡で測定したところ数μm以下であった。
【0047】
PDPの残りの3辺を同様の方法で分断して、互いに分離させた2枚のガラス基板を得た。分離したガラス基板を研磨剤で研磨して、ガラス基板上の表示素子部材を除去したところ、ガラス切断時に発生したガラス粉による傷のない良好なガラス板を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によるガラス切断方法およびその装置は、特にPDP・液晶パネルなどの中空ガラスや板厚の厚い貼合わせガラスを再利用する分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によるガラス切断装置の一構成例を示す平面概略図
【図2】図1のガラス切断装置の側面概略図
【図3】本発明による他のガラス切断装置の側面概略図
【図4】本発明によるガラス切断方法の動作説明図
【図5】従来のガラス切断方法の動作説明図
【符号の説明】
【0050】
100 ガラス切断装置
101 中空ガラス
106 第1切断線形成部
107 第1押圧装置
108 第2切断線形成部
109 第2押圧装置
110 押圧制御装置
113 支持腕部
114 移動装置
115 第1カッター
116 第2カッター
201 ボールネジ
202 スライドガイド
203 稼動部
204 駆動モータ
205 架構
301 タイミングベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス平面を鉛直方向に保持したガラス板を挟んで対向設置した一対のカッターと、前記カッターの一方を前記ガラス板の一方の面に水平方向から押圧力Pで押圧する第1押圧部と、前記カッターの他方を前記ガラス板の他方の面に水平方向から前記押圧力Pで押圧する第2押圧部と、前記押圧力Pで前記ガラス板を押圧している前記一対のカッターを対にして移動させる移動部とを有することを特徴とするガラス切断装置。
【請求項2】
前記ガラス板が、第1ガラス平板と第2ガラス平板とを間隙を設けて貼り合せた中空ガラスであることを特徴とする請求項1に記載のガラス切断装置。
【請求項3】
ガラス板のガラス平面を鉛直方向に保持する工程と、前記ガラス板を挟んで対向設置した一対のカッターを互いに相等しい押圧力で前記ガラス面に押圧する工程と、前記一対のカッターと前記ガラス板とを相対的に移動させて前記ガラス板に一対の切断線を形成する工程とを有することを特徴とするガラス切断方法。
【請求項4】
前記ガラス板が、第1ガラス平板と第2ガラス平板とを間隙を設けて貼り合せた中空ガラスであることを特徴とする請求項3に記載のガラス切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−1160(P2010−1160A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281086(P2006−281086)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】