説明

ガラス基板の研磨方法

【課題】EUVL光学基材用での成膜面における凹欠点の発生が抑制されたEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法の提供。
【解決手段】両面研磨装置10の上下定盤12,14の研磨面でキャリア20に保持されたガラス基板22を挟持し、上定盤12に設けられた供給孔から研磨粒子を含む流体を供給しつつ、上下定盤12,14と、キャリア20に保持されたガラス基板22と、を相対的に移動させてガラス基板22の両主表面を研磨するEUVリソグラフィ(EUVL)光学基材用ガラス基板22の研磨方法であって、EUVL光学基材での成膜面が、下定盤14の研磨面と対面するようにガラス基板22を挟持EUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の研磨方法に関する。より具体的には、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光を用いたリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の際に使用される反射型マスクや反射型ミラーの基材として使用されるガラス基板(以下、「EUVL光学基材用ガラス基板」と略する。)の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造工程においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く使用されている。近年、半導体集積回路の高集積化、高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、回路パターンをウェハ面上に正確に結像させるために、露光装置のフォトマスクに使用される光学基材用ガラス基板は高度の平坦性と平滑性が求められている。
【0003】
さらに、このような技術動向にあって、次の世代の露光光源としてEUV光を使用したリソグラフィ技術(すなわち、EUVL技術)が、45nm以降の複数の世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUV光とは軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。現時点では、リソグラフィ光源として13.5nmの波長光の使用が検討されている。このEUVLの露光原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のリソグラフィと同じであるが、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないために屈折光学系は用いることができず、反射光学系を用いることとなり、反射型マスクや反射型ミラーが用いられる(特許文献1参照)。
【0004】
EUVLに用いられる反射型マスクは、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜、(3)反射多層膜上に形成された吸収体層から基本的に構成される。反射型ミラーの場合は、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜から基本的に構成される。
反射型マスクや反射型ミラーの製造に用いられる基材(EUVL光学基材)としては、EUV光照射の下においても歪みが生じないよう低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有するガラスや結晶化ガラスで作製されたガラス基板(EUVL光学基材用ガラス基板)が検討されている。EUVL光学基材用ガラス基板は、これらガラスや結晶化ガラスの素材を、高精度に研磨、洗浄することによって製造される。
【0005】
一般に、磁気記録媒体用基板や半導体用基板などを平滑度の高い表面に研磨する方法は知られている。例えば、特許文献2には、メモリーハードディスクの仕上げ研磨や半導体素子用基板などの研磨について、研磨後の被研磨物の表面粗さが小さく、かつ微小突起(凸状欠点)を低減させる研磨方法として、水、研磨材、酸化合物を含有してなり、pHが酸性かつ研磨材の濃度が10重量%未満である研磨液組成物と、研磨パッドと、を用いて機械研磨することが記載されている。そして、研磨材として酸化アルミニウム、シリカ、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが、またpHを酸性にするための酸として硝酸、硫酸、塩酸や有機酸などがそれぞれ例示されている。
【0006】
EUVL光学基材用ガラス基板についても、特定の研磨スラリーと、研磨パッドと、を用いて機械研磨することによって、基板表面の凸欠点や凹欠点を減少させて、ガラス基板の表面平滑性を向上させる方法が特許文献3〜7に記載されている。
ガラス基板表面の凸欠点や凹欠点を減少させることが求められるのは、凸欠点や凹欠点が存在するガラス基板表面上に反射多層膜を形成すると、反射多層膜の周期構造が乱され、位相欠陥を生じるからである。
したがって、EUVL光学基材用ガラス基板において、表面平滑性の向上が特に重要となるのは、反射型マスクや反射型ミラーの製造時に反射多層膜や吸収体層が形成されるガラス基板の成膜面である。以下、本明細書において、EUVL光学基材用ガラス基板の成膜面といった場合、ガラス基板の両主表面(すなわち、ガラス基板の表裏面)のうち、反射型マスクや反射型ミラーの製造時に反射多層膜や吸収体層が形成される側の主表面を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−505891号公報
【特許文献2】特開2003−211351号公報
【特許文献3】特開2005−59184号公報
【特許文献4】特開2005−275388号公報
【特許文献5】特開2006−35413号公報
【特許文献6】特開2007−213020号公報
【特許文献7】特開2009−12164号公報
【特許文献8】特開2010−139588号公報
【特許文献9】特開2010−221370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
EUVL光学基材用ガラス基板(以下、単に「ガラス基板」と記載する場合がある。)を機械研磨する場合、研磨に要する時間を短縮できる、表裏面の基板平坦度を同時に確保できる、板厚偏差(TTV)を小さくできる等の理由から、また、片面研磨では非研磨面をチャッキングする必要があり、非研磨面となる基板表面でパーティクル付着が発生する等の理由から、通常は両面研磨機が使用される(特許文献3、4、8、9)。
両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する場合、特許文献3、4、8、9に示すように、それぞれ研磨パッドが取り付けられた上定盤と、下定盤と、で、キャリアに保持されたガラス基板を挟持し、上下定盤の研磨パッドと、ガラス基板と、の間に研磨液(研磨スラリー)を供給しつつ、ガラス基板を保持するキャリアを公転および自転させながら、ガラス基板の両主表面を同時に研磨する。
両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する場合、ガラス基板の下面は、自重により定盤(下定盤)に取り付けられた研磨パッドに吸着しやすく、下定盤に取り付けられた研磨パッドから取り外す際に傷が生じるおそれがあるので、EUVL光学基材用ガラス基板の成膜面側を上向きにした状態(すなわち、ガラス基板の成膜面が上定盤に取り付けられた研磨パッドと対面した状態)で両面研磨を行うことが好ましいと考えられていた。
【0009】
しかしながら、EUVL光学基材用ガラス基板の成膜面側を上向きにした状態で両面研磨機を用いてガラス基板を研磨した場合に、研磨後のガラス基板の成膜面にピットやスクラッチと呼ばれる凹欠点が生じる場合があることを本願発明者は見出した。
両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する場合、ガラス基板と、上下定盤に取り付けられた研磨パッドと、の間に研磨スラリーを供給するが、この際、重力を利用して、ガラス基板と、上下定盤に取り付けられた研磨パッドと、の間に研磨液(研磨スラリー)を供給するために、特許文献8、9に示すように、上定盤および該上定盤に取り付けられた研磨パッドに研磨液(研磨スラリー)供給用の孔を設け、該孔から研磨液(研磨スラリー)を供給することが好ましいとされている。
本願発明者は、この研磨液(研磨スラリー)供給用の孔の存在が、上定盤に取り付けられた研磨パッドで研磨されるガラス基板の成膜面に、ピットやスクラッチと呼ばれる凹欠点が生じる原因であることを見出した。
【0010】
なお、特許文献3〜7に記載の発明では、両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する際に、ガラス基板の一方の面にピットやスクラッチと呼ばれる凹欠点が生じること、および、凹欠点の原因が上定盤(および該上定盤に取り付けられた研磨パッド)設けられた研磨液(研磨スラリー)供給用の孔であることは全く認識されていなかった。
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、EUVL光学基材用での成膜面における凹欠点の発生が抑制されたEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、両面研磨装置の上下定盤の研磨面でキャリアに保持されたガラス基板を挟持し、上定盤に設けられた供給孔から研磨粒子を含む流体を供給しつつ、前記上下定盤と、前記キャリアに保持された前記ガラス基板と、を相対的に移動させて前記ガラス基板の両主表面を研磨するEUVリソグラフィ(EUVL)光学基材用ガラス基板の研磨方法であって、
EUVL光学基材での成膜面が、前記下定盤の研磨面と対面するように前記ガラス基板を挟持することを特徴とするEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【0013】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記上下両定盤を同心の回転軸で回転させつつ、
前記キャリアを、その中心が前記研磨面上の前記定盤の回転軸と一致しない位置に配置し、前記研磨面上で前記ガラス基板を保持する前記キャリアを前記定盤の回転軸を中心に相対的に公転させ、かつ、前記キャリアの中心を回転軸として前記研磨面上で該キャリアを自転させることによって、前記ガラス基板の両主表面を研磨することが好ましい。
【0014】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記上下両定盤の研磨面による研磨荷重が1〜120g/cm2であることが好ましい。
【0015】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記上下両定盤には、表面の最大山と最小山の高低差が50μm以下のパッド表面を有するスウェード系研磨パッドが取り付けられていることが好ましい。
【0016】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨パッドの平均開口径が5〜100μmであることが好ましい。
【0017】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記下定盤に取り付けられた研磨パッドの平均開口径と、前記上定盤に取り付けられた研磨パッドの平均開口径と、の差(下定盤の研磨パッド平均開口径 − 上定盤の研磨パッドの平均開口径)が、0.01μm以上であることが好ましい。
【0018】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨パッドのパッド表面がドレス板でドレッシング加工されていることが好ましい。
ここで、前記ドレス板が電着ダイヤであることが好ましい。
【0019】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨粒子がコロイダルシリカまたは酸化セリウムであることが好ましい。
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨粒子が平均一次粒子径が5〜100nmのコロイダルシリカであることがより好ましい。
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨粒子を含む流体におけるコロイダルシリカの含有率が5〜40質量%であることがより好ましい。
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、前記研磨粒子を含む流体のpHが8以下のコロイダルシリカ水溶液であることがより好ましい。
【0020】
本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法において、表面粗さ(Rms)が1nm以下、平坦度(P−V値)が1μm以下となるように、ガラス基板の被研磨面が予備研磨されていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基板両主表面が平滑性に優れ、かつ、EUVL光学基材での成膜面における凹欠点の発生が抑制されたEUVL光学基材用ガラス基板を得ることができる。
本発明において、上定盤に取り付けられる研磨パッドの平均開口径を、下定盤に取り付けられる研磨パッドの平均開口径よりも小さくした場合、研磨終了後、上定盤の研磨面(研磨パッドのパッド面)にガラス基板が吸着することになり、ガラス基板の成膜面が下定盤の研磨面(研磨パッドのパッド面)に吸着することがない。この結果、両面研磨装置からガラス基板を取り外す際に、ガラス基板の成膜面に傷が生じるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法に用いる両面研磨装置の一構成例を示した側断面図である。
【図2】図2は、図1に示す両面研磨装置10内におけるガラス基板22の配置の一構成例を示した図である。
【図3】図3は、図1に示す両面研磨装置10における上定盤12の一構成を示す図である。
【図4】図4は、図1に示す両面研磨装置10におけるガラス基板22の公転及び自転の動作について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法(以下、「本発明の基板研磨方法」という。)を説明する。
本発明の基板研磨方法では、両面研磨装置を用いてEUVL光学基材用ガラス基板の両主表面を研磨する。ここで、ガラス基板の主表面とは使用時に基板として機能する面を指し、具体的には端面を除く表裏面である。以下、本明細書において、ガラス基板の両面研磨といった場合、ガラス基板の両主表面、すなわち、ガラス基板の表裏面を研磨することを指す。
両面研磨装置には様々な構成のものがあるが、上下定盤の研磨面でキャリアに保持されたガラス基板を挟持し、上定盤に設けられた供給孔から研磨粒子を含む流体(以下、本明細書において、「研磨スラリー」という。)を供給しつつ、上下定盤と、キャリアに保持されたガラス基板と、を相対的に移動させることにより、ガラス基板の両面を研磨する点では共通である。
以下、図面を参照して両面研磨装置について説明するが、本発明の基板研磨方法に用いる両面研磨装置は上記を満たすものであればよく、両面研磨装置の構成、動作機構、両面研磨装置でのガラス基板の配置等はこれに限定されない。
【0024】
図1は、本発明のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法に用いる両面研磨装置の一構成例を示した側断面図である。
図1に示す両面研磨装置10は、ガラス基板22の両面を研磨する遊星歯車方式の研磨装置である。図1に示す両面研磨装置10は、上定盤12、下定盤14、太陽歯車16、及び内歯歯車18を備える。詳しくは後述するが、太陽歯車16及び内歯歯車18は、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)と、キャリア20に保持されたガラス基板22と、を相対的に移動させる手段である。
上下両定盤(上定盤12、下定盤14)は、中心部に空洞12a,14aを有するドーナツ状である。
【0025】
図2は、図1に示す両面研磨装置10内におけるガラス基板22の配置の一構成例を示した図であり、下定盤14上にガラス基板22を保持したキャリア20を配置した状態を示している。図2において、下定盤14上(実際には、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の間)には、複数のキャリア20が配置されている。複数のキャリア20は、例えば、図1における太陽歯車16と内歯歯車18との間のドーナツ状の領域において、下定盤14(実際には上定盤12及び下定盤14)の円周方向へ並べて配置される。
また、キャリア20は、ガラス基板22を収容する4角穴状の貫通部を中央に有する円板状体であり、外周に歯車が設けられており、外周部において太陽歯車16及び内歯歯車18と噛み合う。各キャリア20は、ガラス基板22をそれぞれ1枚保持する。なお、図2では、各キャリア20は、ガラス基板22をそれぞれ1枚保持しているが、各キャリアが複数のガラス基板を保持していてもよい。
【0026】
上定盤12及び下定盤14は、ガラス基板22の上側及び下側の定盤である。上定盤12及び下定盤14は、ドーナツ状体であり、これらのドーナツ状体の中心軸である定盤中心軸102を中心にして、キャリア20に保持されたガラス基板22をその研磨面(上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面))の間に挟みつつ、同じ方向へ回転する。
上定盤12及び下定盤14は、基板22と対向する面に研磨パッド24が取り付けられている。本明細書において、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面と言った場合、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)に取り付けられた研磨パッド24のパッド表面を指す。
【0027】
図3は、図1に示す両面研磨装置10における上定盤12の一構成例を示す図である。図3に示すように、上定盤12には、研磨スラリーの供給孔30が設けられている。これにより、両面研磨装置10は、上定盤12及び下定盤14の研磨面に設けられた研磨パッド24と、基板22と、の間に、研磨スラリーを供給する。図3において、上定盤12には、複数の供給孔30が設けられている。なお、図3では、上定盤12における供給孔30を示しているが、上定盤12の研磨面に設けられた研磨パッドにも、図3と同様の供給孔が存在する。
複数の供給孔30は、上定盤12の回転軸側から外側に、かつ上定盤12の回転方向の進行側に向かって、螺旋状に等間隔で配置されている。但し、図3は、上定盤12における研磨スラリー供給孔30の配置の一構成例を示したものであり、上定盤12における研磨スラリー供給孔30の配置はこれに限定されない。
【0028】
太陽歯車16及び内歯歯車18は、キャリア20の外周面と噛み合うギアである。太陽歯車16は、上定盤12及び下定盤14の中心側からキャリア20と接する外歯の歯車であり、上下両定盤(上定盤12及び下定盤14)中心部の空洞12a,14aに備えられ、上下両定盤(上定盤12及び下定盤14)の回転軸である定盤中心軸102と同心の回転軸で回転する。また、内歯歯車18は、上定盤12及び下定盤14の外周側からキャリア20と接する内歯の歯車である。内歯歯車18は、リング状で内側に歯車を有する歯車であり、上下両定盤(上定盤12及び下定盤14)の外周に備えられ、定盤の回転軸である定盤中心軸102と同心の回転軸で回転する。
【0029】
そして、太陽歯車16と内歯歯車18は、キャリア20の歯車と噛み合うことによって、キャリア20を回転させる。また、これにより、太陽歯車16及び内歯歯車18は、上定盤12と下定盤14との間において、ガラス基板22を保持するキャリア20を公転及び自転させる。詳しくは後述するが、本明細書でキャリア20の公転といった場合、定盤中心軸102に対してキャリア20が相対的に公転することを指す。なお、両面研磨装置10では、ガラス基板22を保持するキャリア20が公転及び自転することによって、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)と、ガラス基板22と、が相対的に移動する。
【0030】
両面研磨装置10を用いてガラス基板22を研磨する場合、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)を同心の回転軸(定盤中心軸102)で同一方向に回転させる。また、ガラス基板22を保持するキャリア20を、その中心が上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面上の定盤の回転軸(定盤中心軸102)と一致しない位置に配置して、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面上で(定盤中心軸102)を定盤の回転軸(定盤中心軸102)を中心に相対的に公転させる。また、キャリア20の中心を回転軸104として、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)と例えば同じ方向に回転させて、該キャリア20を上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面上で自転させる。これにより、両面研磨装置10は、ガラス基板20の両面を研磨する。図示した例では、キャリア20が1枚のガラス基板22を保持しているため、ガラス基板22の被研磨面の中心と、それを保持するキャリア20の中心と、が一致している。このため、キャリア20の自転により、ガラス基板22も被研磨面の中心を回転軸104として自転する。これに対し、キャリアが複数のガラス基板を保持する場合は、ガラス基板の被研磨面の中心と、それを保持するキャリアの中心と、が一致しないため、キャリアが自転する際に、ガラス基板は自転しない。
なお、キャリア20の中心(回転軸104)を定盤の回転軸(定盤中心軸102)と一致しない位置に配置するのは、定盤中心軸102に対してキャリア20が相対的に公転させるためである。
【0031】
図4は、図1に示す両面研磨装置10におけるガラス基板22の公転及び自転の動作について説明する図である。上述したように、両面研磨装置10における太陽歯車16及び内歯歯車18がキャリア20の歯車と噛み合うことによって、キャリア20を回転させる。図4において、キャリア20は、例えば矢印Aで示す方向へ自転する。また、キャリア20は、太陽歯車16と内歯歯車18と間に回転数差を設ける、例えば、内歯歯車18の回転数の方を早くすると、矢印Bで示す方向へ移動することにより、定盤中心軸102の周りを周回する。そして、キャリア20のこの移動と、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)自体の回転により、キャリア20は、上下両定盤(上定盤12、下定盤14)の研磨面に対して矢印Bの方向への公転運動を行う。キャリア20の自転の方向や、研磨面に対する相対的な公転の方向は、図4に図示した方向と逆方向に回転させてもよい。また、キャリア20の自転の方向や、研磨面に対する相対的な公転の方向は、互いに方向が同じでも違っていてもよい。
【0032】
本発明の基板研磨方法は、両面研磨装置10で用いてEUVL光学基材用ガラス基板を研磨する際に、EUVL光学基材での成膜面(すなわち、該ガラス基板をEULV光学基材として使用する際の成膜面)が、下定盤14の研磨面と対面するようにガラス基板22を挟持することを特徴とする。
上述したように、上定盤12(および上定盤12に取り付けられた研磨パッド)には研磨スラリーの供給孔30が設けられている。研磨スラリーの供給孔30は、多孔体である研磨パッド表面の孔径を示す目的で用いる平均開口径(後述)と比較した場合、(1)供給孔30のほうがはるかに径が大きいこと(供給孔30の径は通常5〜10mm程度である)、(2)研磨パッド表面には凹凸形状が均一に分布しているのに対して、図3に示すように、上定盤12(および上定盤12の研磨面に設けられた研磨パッド)における供給孔30の分布は不均一であること、(3)研磨パッド表面の凹凸形状とは違い、上定盤12(および上定盤12の研磨面に設けられた研磨パッド)に貫通孔として設けられた供給孔30は端部が粗く、両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する際に、ガラス基板の被研磨面のうち、上定盤12の研磨面による被研磨面にはピットやスクラッチと呼ばれる凹欠点が生じるおそれがある。
【0033】
研磨後のガラス基板をEULV光学基材として使用する際に、該EUVL光学基材の成膜面にこのような凹欠点が存在すると、反射型マスクや反射型ミラーの製造時に、該EUVL光学基材の成膜面上に形成される反射多層膜の周期構造が乱され、位相欠陥を生じるおそれがある。
位相欠点に関する要求は、EUVLを実施して作製する半導体デバイスによって異なるが、たとえば32nmハーフピッチの半導体デバイスの作製時に使用する反射型マスクや反射型ミラーの場合、球相当直径(SEVD)換算で30nm以上の欠点が、反射多層膜において、10個未満であることが求められる可能性がある。
なお、反射多層膜での位相欠陥の防止という観点からは、該EUVL光学基材の成膜面には深さ3nm超の凹欠点が存在しないことが好ましく、深さ2nm超の凹欠点が存在しないことがより好ましい。
【0034】
本発明の基板研磨方法では、両面研磨装置10で用いてEUVL光学基材用ガラス基板を研磨する際に、EUVL光学基材での成膜面(すなわち、該ガラス基板をEULV光学基材として使用する際の成膜面)が、下定盤14の研磨面と対面するようにガラス基板22を挟持するため、EUVL光学基材での成膜面が下定盤14の研磨面によって研磨される。下定盤14の研磨面には研磨スラリーの供給孔が存在しないため、研磨後のガラス基板において、EUVL光学基材での成膜面に凹欠点が生じることが抑制される。この結果、研磨後のガラス基板をEUVL光学基材として使用した際に、該EUVL光学基材の成膜面上に形成される反射多層膜に位相欠陥を生じることが抑制される。
【0035】
なお、特許文献3〜7に記載の発明において、両面研磨機を用いてガラス基板を研磨する際に、上定盤によるガラス基板の被研磨面に研磨スラリー供給孔に起因する凹欠点が生じることが認識されていなかったのは、反射多層膜での位相欠陥の発生原因として、反射多層膜の成膜時に膜中に混入する異物が重視されていたためと考えられる。その後、反射多層膜の成膜技術の向上により、膜中に混入する異物は減少したことにより、研磨後の成膜面に生じた凹欠点が、反射多層膜での位相欠陥の発生原因として重要であることを本願発明者は見出した。また、EUVLの検証が進むにつれ、反射型マスクや反射型ミラーに要求される位相欠陥サイズはより小さくなり、研磨後の成膜面に生じた微小サイズの凹欠点が反射多層膜での位相欠陥の発生原因として重要となってきた。
【0036】
本発明のガラス基板研磨方法を実施する場合、以下の点に留意する必要がある。
研磨終了時において、ガラス基板の下面(すなわち、EUVL光学基材での成膜面)は、自重によって下定盤の研磨面に吸着するおそれがある。このような吸着が起こると、下定盤の研磨面からガラス基板を取り外す際に、ガラス基板の下面(すなわち、EUVL光学基材での成膜面)に傷が生じるおそれがある。
このため、本発明のガラス基板研磨方法を実施する際には、下定盤の研磨面へのガラス基板の吸着が起こらないようにする必要がある。または、ガラス基板の下面の吸着が起こった場合であっても、下定盤の研磨面からガラス基板を取り外す際に、ガラス基板の下面(すなわち、EUVL光学基材での成膜面)に傷が生じないようにする必要がある。
【0037】
下定盤の研磨面へのガラス基板の吸着が起こらないようにするためには、研磨終了時において、上定盤の研磨面にガラス基板の上面が吸着するようにすればよい。定盤(上定盤、下定盤)の研磨面と、ガラス基板の両主表面と、の吸着のしやすさは、両者の接触面積に影響され、両者の接触面積が大きいほど吸着が起こりやすい。したがって、上定盤の研磨面とガラス基板との接触面積を、下定盤の研磨面とガラス基板との接触面積よりも大きくすれば、上定盤の研磨面にガラス基板が吸着することになる。
上定盤の研磨面とガラス基板との接触面積を大きくする方法としては、たとえば研磨パッドとして、後述するスウェード系研磨パッドを使用する場合には、上定盤に取り付ける研磨パッドの平均開口径を、下定盤に取り付ける研磨パッドの平均開口径よりも小さくすればよい。なお、研磨パッドの平均開口径については後述する。
また、上定盤の研磨面とガラス基板との接触面積を大きくする方法としては、上定盤の研磨面に取り付ける研磨パッドを、下定盤の研磨面に取り付けられる研磨パッドよりも軟質の研磨パッドとする方法がある。
【0038】
また、下定盤の研磨面からガラス基板を取り外す際に、ガラス基板の下面(すなわち、EUVL光学基材での成膜面)に傷が生じないようにするためには、研磨終了後、すみやかにガラス基板を取り外す方法がある。研磨終了から時間が経過すると、下定盤の研磨面と、ガラス基板の下面と、の間に存在する研磨スラリーが乾燥して、より強固に吸着するからである。目安としては、研磨終了後、5分以内、より好ましくは3分以内、さらに好ましくは、30秒以内にガラス基板を取り外すことが好ましい。
また、下定盤の研磨面と、ガラス基板ガラス基板の下面と、の間に窒素ガス等を吹き付けて、両者の間に存在する研磨スラリーを強制的に除去して、吸着力を下げることで、ガラス基板の下面(すなわち、EUVL光学基材での成膜面)に傷が生じないようにすることもできる。
【0039】
本発明の基板研磨方法における好ましい態様を以下に示す。
【0040】
[基板]
本発明の基板研磨方法を用いて研磨するガラス基板は、EUVL光学基材用ガラス基板であることから、該ガラス基板を構成するガラスは、熱膨張係数が小さくかつそのばらつきの小さいガラスであることが好ましい。具体的には20℃における熱膨張係数が0±30ppb/℃の低膨張ガラスが好ましく、20℃における熱膨張係数が0±10ppb/℃の超低膨張ガラスがより好ましく、20℃における熱膨張係数が0±5ppb/℃の超低膨張ガラスがさらに好ましい。
上記低膨張ガラスおよび超低膨張ガラスとしては、SiO2を主成分とするガラス、典型的には石英ガラスが使用できる。具体的には例えばSiO2を主成分とし1〜12質量%のTiO2を含有する合成石英ガラス、ULE(登録商標:コーニングコード7972)を挙げることができる。ガラス基板は通常四角形状の板状体で研磨されるが、形状はこれに限定されない。
【0041】
[研磨スラリー]
上述したように、本発明における研磨スラリーとは、研磨粒子を含む流体である。
研磨粒子としては、コロイダルシリカ又は酸化セリウムなどが好ましい。コロイダルシリカを使用した場合には、より精密にガラス基板を研磨することが可能になり、その結果、より良好な精度で、凹状の欠陥が低減された又は除去されたガラス基板を得ることができるので、特に好ましい。
【0042】
コロイダルシリカを用いる場合、平均一次粒子径は、好ましくは、5nm以上100nm以下である。より好ましくは10nm以上50nm以下である。ここで、コロイダルシリカの平均一次粒子径が、5nm以上である場合には、ガラス基板の研磨効率を向上させることが可能になる。一方、コロイダルシリカの平均一次粒子径が、100nm以下である場合には、研磨スラリーを用いて研磨された基板の表面粗さを低減することが可能になる。
【0043】
研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率は、好ましくは、5質量%以上40質量%以下である。より好ましくは、10質量%以上30質量%以下である。研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率が、5質量%以上である場合には、ガラス基板の研磨効率を向上させることが可能になる。一方、研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率が、40質量%以下である場合には、研磨されたガラス基板の洗浄の効率を向上させることが可能になる。
【0044】
研磨スラリーにおける流体とは、研磨粒子の分散媒体である。分散媒としては、水、有機溶剤が挙げられ、水が好ましい。
【0045】
上記の研磨粒子および該研磨粒子の分散媒体を含む研磨スラリーとしては、pHが8以下のコロイダルシリカ水溶液を用いることが好ましい。
研磨粒子が凝集すると、ガラス基板上に付着しやすくなると考えられるが、研磨スラリーのpHが8を超えると、研磨粒子が付着していない部分のガラス基板の表面が、研磨スラリーによって溶解し、凸状の欠陥を生じさせるおそれがある。研磨スラリーのpHが8以下であることにより、このような凸状の欠陥は生じにくいものと考えられる。研磨スラリーのpHは7以下であることがより好ましい。pHは1〜4であることがさらに好ましい。
研磨スラリーのpHは、無機酸及び/又は有機酸を用い調整できる。例えば、無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸などが挙げられ、硝酸が好ましい。有機酸としては、シュウ酸、クエン酸などが挙げられる。
【0046】
[研磨パッド]
上下両定盤の研磨面には研磨パッドが設けられていることが好ましい。研磨パッドとしては、不織布などの基布に、ポリウレタン樹脂を含浸させ、湿式凝固処理を行って得られたポリウレタン樹脂発泡層を有する研磨パッドなどが挙げられる。研磨パッドとしては、スウェード系研磨パッドが好ましい。
スウェード系研磨パッドにおけるナップ層の厚さは0.3〜1.0mm程度が実用上で好ましい。また、スウェード系研磨パッドとしては、適度の圧縮弾性率を有する軟質の樹脂発泡体が好ましく使用でき、具体的には例えばエーテル系、エステル系、カーボネート系などの樹脂発泡体が挙げられる。
【0047】
スウェード系研磨パッドは、平均開口径が5〜100μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、5〜30μmであることがさらに好ましく、10〜25μmであると特に好ましい。
ここで、研磨パッドの平均開口径とは、多孔体である研磨パッド表面の孔径を示す目的で用いる平均開口径を指し、後述する方法で算出することができる。
研磨パッドの平均開口径が100μm超であると、研磨荷重の分布が生じ、所定の研磨品質を維持することが困難になるおそれがある。また、研磨パッドの平均開口径が5μm未満であると、研磨スラリーを保持してムラなく研磨することができなくなるおそれがある。
【0048】
研磨パッドの平均開口径は、CCDカメラを用いて200倍の倍率でパッド表面の画像を取り込み、得られた画像を2値化処理して算出することができる。具体的には、ドーナツ状の研磨パッドの場合、研磨パッドの任意の半径方向におけるパッド内縁から20mmの部分をx、外縁から20mmの部分をy、およびこれらx、yの中間部分をzとし、これら3箇所の各開口径を求め、平均値を算出したものが平均開孔径である。なお、ドーナツ状でない研磨パッドの場合(中心部分に空洞の無い円形の研磨パッドの場合)は、xをパッド中心から20mmの部分とする。
【0049】
上述したように、研磨終了後、上定盤の研磨面にガラス基板が吸着させるためには、下定盤に取り付ける研磨パッドの平均開口径と、上定盤に取り付ける研磨パッドの平均開口径と、の差(すなわち、下定盤の研磨パッドの平均開口径 − 上定盤の研磨パッドの平均開口径)が0.01μm以上、より好ましくは1μ以上、さらに好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上となるように両者の差を設定すればよい。
【0050】
スウェード系研磨パッドは、パッド表面の最大山と最小山の高低差(以下、最大高さ差Rhとする)が50μm以下であることが好ましい。この最大高さ差Rhは30μm以下がより好ましく、さらに好ましくは20μm以下である。定盤に取り付けられた直後の研磨パッドのパッド表面は、一見したところでは平坦を呈しているが、実際には微細な凹凸が存在する。このような凹凸における最大山(高さが最も高い山)と最小山(高さが最も低い山)との高低差として規定される。
なお、上記最大高さ差Rhは、例えば表面粗さ測定装置を用いて求めることができる。具体的には、上記した平均開口径の測定箇所と同じ研磨パッドの半径方向の3箇所x、y、zの研磨面粗さを、表面粗さ測定装置を使用して測定して各測定箇所のそれぞれの最大高さ差Rhを求め、それらの中の最大のものを該研磨パッドの最大高さ差Rhとすることができる。
【0051】
一般に、新規の研磨パッドはパッド表面の凹凸が尖鋭な先部を有しさらに高さの不揃いの程度が大きいため、パッド表面の最大高さ差Rhは60〜100μm程度となっている。このような最大高さ差Rhを有する研磨パッドを使用した場合、研磨荷重の分布や研磨材の偏りが生じやすく、また凹凸の不揃いが支障してガラス基板を満足に研磨することが得られないことが懸念される。
すなわち、最大高さ差Rhの大きいパッド表面を有する研磨パッドでガラス基板を研磨した場合、研磨荷重の分布や研磨粒子に偏りが生じるために凹状欠点が生じやすく、かつ均一な研磨が得られ難くい。また、突出度の高い凹凸が主体にガラス基板に接触して研磨が行われるため、研磨パッドとガラス基板との接触部が少なくなり、研磨効率が低下してしまうという問題も生じる。
パッド表面の最大高さ差Rhが50μm以下であると、研磨荷重を小さくしても所定の研磨効率を維持し、また凹状欠点を抑制しながらガラス基板を均一かつ高精緻に研磨できる。
【0052】
新規の研磨パッドを使用する場合、研磨パッドのパッド表面をドレッシング加工することによって、パッド表面の最大高さ差Rhを50μm以下にすることができる。ここでドレッシング加工とは、研磨パッドのパッド表面をドレス板で研磨することによって、パッド表面の尖鋭な先部を除去し、凹凸の高さをより均一な状態とする処理を指す。
ドレッシング加工は、図示した両面研磨装置10のキャリア20にガラス基板22の代わりにドレス板を設置し、研磨を実施することで容易に実施できる。
ドレッシング加工に用いるドレス板としては平坦度の良い基板にダイヤ微粒子を接着したものが好ましく使用できる。具体的には電着ダイヤ、メタルボンドダイヤ、レジンボンドダイヤ、ビトリファイドボンドダイヤ等が挙げられる。なかでも、電着ダイヤは表面の凹凸を小さく抑えやすく、またダイヤの脱落が稀少であり、脱落ダイヤが研磨パッドに残存してガラス基板の被研磨面に引掻き傷を発生させることが少ないので好ましい。上記基板の材質としては耐薬品性の高いSUSが優れている。その平坦度は10μm以下であることが好ましい。
基板に接着するダイヤ微粒子のサイズは限定されないが、ドレッシング加工の作業性と所望の最大高さ差Rhが得られるように#100〜#1200メッシュのものが好ましく、#300〜#1000メッシュのものがより好ましく、#300〜#600メッシュのものが特に好ましい。
また、ドレス板のサイズや形状は、両面研磨装置10のキャリア20に対応して適宜決めることができ限定されない。例えば、形状としては円形または正方形が好ましく、サイズは30〜700mmの範囲を目安に径または辺の長さを決めることができる。
【0053】
本発明の基板研磨方法を実施する際、上下両定盤の研磨面による研磨荷重を1〜120g/cm2とすることが、ガラス基板を凹状欠点が少なく表面平滑性の優れる表面に研磨できることから好ましい。研磨荷重が1g/cm2未満では、研磨パッドの荷重制御が困難になるとともに、研磨効果が実質的に得られなくなるおそれがある。また、120g/cm2より大きい研磨荷重では、凹状欠点の発生を抑え表面粗さの改善を図ることが困難になる。
また、本発明の基板研磨方法の実施時における研磨荷重は一定であってもよく、徐々にまたは段階的に変化させてもよい。例えば、研磨開始時は大きい荷重とし、徐々にまたは段階的に研磨荷重を下げ、研磨終了時は小さい荷重としてもよい。逆に、研磨開始時は小さい荷重とし、徐々にまたは段階的に研磨荷重を上げ、研磨終了時は大きい荷重としてもよい。
例えば、研磨荷重50〜120g/cm2で、好ましくは、50〜100g/cm2で研磨を開始し、徐々にまたは段階的に研磨荷重を下げ、研磨終了時の荷重を5〜50g/cm2で、より好ましくは、5〜20g/cm2とすることができる。また、逆に、研磨開始時は荷重を5〜50g/cm2、より好ましくは、5〜20g/cm2として、徐々にまたは段階的に研磨荷重を上げ、荷重50〜120g/cm2で、好ましくは、50〜100g/cm2で研磨を終了してもよい。
また、例えば、50〜120g/cm2、好ましくは、50〜100g/cm2の一定荷重で研磨することもできる。
【0054】
本発明の基板研磨方法は、ガラス基板を研磨度の異なる複数の研磨工程で研磨するときの最後に行う仕上げ研磨として特に適している。このためガラス基板は、本発明の方法で研磨する前にあらかじめ所定の厚さに粗研磨し、端面研磨と面取り加工を行い、更にその両主表面を表面粗さ、および、平坦度が一定以下になるように予備研磨しておくことが好ましい。予備研磨方法は限定されないで公知の方法によってできる。例えば、複数の両面ラップ研磨機を連続して設置し、研磨材や研磨条件を変えながら該研磨機で順次研磨することにより、ガラス基板の両主表面を所定の表面粗さおよび平坦度に予備研磨できる。予備研磨後の表面粗さ(Rms)としては、1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましい。予備研磨後の平坦度(P−V値)としては、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。さらに好ましくは0.2μmである。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
火炎加水分解法で製造されたTiO2を7質量%含有する合成石英ガラスのインゴットを、縦153mm×横153mm×厚さ6.75mmの板状に内周刃スライサーを用いて切断し、60枚の合成石英ガラスの板材試料(以下、「試料基材」という)を作製した。さらに、これら試料基材を市販のダイアモンド砥石を用い、縦、横の外形寸法が152mm、面取り幅が0.2〜0.4mmになるよう面取り加工した。
次に、この試料基材を両面ラップ機(スピードファム社製)を使用して厚さが6.51mmになるまでその主表面を研磨したあと、両面ポリッシュ機(スピードファム社製)を使用して、表面粗さ(Rms)が約0.8nm、平坦度(P−V値)が約0.6μmになるように予備研磨した。試料基材の外周も研磨して端面を表面粗さRa0.05μmに鏡面加工した。
【0056】
次いで、予備研磨した30枚の試料基材を15枚づつ実施例1、比較例1に分け、図示した両面研磨装置10を用いて、試料基材の両主表面を仕上げ研磨した。実施例1では、試料基材の両主表面のうち、評価対象面を研磨スラリーの供給孔が設けられてない下定盤14の研磨面(下定盤14に取り付けられた研磨パッド24のパッド面)と対面するように設置して仕上げ研磨を実施した。比較例1では、評価対象面を研磨スラリーの供給孔30が設けられた上定盤12の研磨面(上定盤12に取り付けられた研磨パッド24のパッド面)と対面するように設置して仕上げ研磨を実施した。使用した研磨スラリーはすべて同一であり、平均一次粒子径10〜20nmのコロイダルシリカを純水に20質量%含有させた研磨スラリーに、硝酸を添加しpHを2に調整して用いた。また、研磨パッドはスウェード系パッドを使用し、試料基材の仕上げ研磨に先がけて電着ダイヤでドレッシング加工したものを用いた。仕上げ研磨の研磨条件は以下の通りである。
(研磨条件)
研磨機 :両面研磨装置
研磨パッド :スウェード系研磨パッド
Rh :3μm
平均開口径 :12μm
研磨定盤回転数 :35rpm
研磨荷重 :80g/cm2
研磨時間 :50分
希釈水 :純水(比抵抗値4.2MΩ・cm、0.2μm以上異物濾過)
スラリー流量 :10L/min
上記条件で試料基材を仕上げ研磨したあと、第一槽目が界面活性剤溶液による洗浄槽、これ以降を超純水によるすすぎ槽とIPAによる乾燥槽で構成した多段式自動洗浄機で洗浄した。この洗浄した試料基材の表面対象面をフォトマスク用表面欠点検査機(レーザーテック社製M1350A)で検査し、142mm×142mm内における凹欠点数を実施例1および比較例1で検出した。検査はそれぞれ15枚全てについて行い、凹欠点の検出数を比較した。その結果、実施例1では15枚全てで凹欠点は検出されなかった。一方、比較例では凹欠点の検出数の平均値が5個/枚であった。
【0057】
次に試料基材の評価対象面に、イオンビームスパッタリング法を用いて多層反射膜(Si/Mo多層反射膜)を形成した。具体的には、Si膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5+2.3)×40)のSi/Mo多層反射膜を形成した。最後にキャップ層として膜厚11.0nmになるようにSi層を形成した。
なお、Si膜およびMo膜の成膜条件は以下の通りである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
Si/Mo多層反射膜の表面(キャップ層としてのSi層表面)をフォトマスク用表面欠点検査機(レーザーテック社製M1350A)で検査し、142mm×142mm内における凹欠点数を実施例1および比較例1で検出した。検査はそれぞれ15枚全てについて行い、SEVD34nmの凹欠点の検出数を比較した。その結果、実施例1では検出数の平均値が15個/枚であったのに対して、比較例1では検出数の平均値が120個/枚であった。
【符号の説明】
【0058】
10:両面研磨装置
12:上定盤
12a:空洞
14:下定盤
14a:空洞
16:太陽歯車
18:内歯歯車
20:キャリア
22:ガラス基板
24:研磨パッド
30:研磨スラリー供給孔
102:定盤中心軸
104:キャリアの回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面研磨装置の上下定盤の研磨面でキャリアに保持されたガラス基板を挟持し、上定盤に設けられた供給孔から研磨粒子を含む流体を供給しつつ、前記上下定盤と、前記キャリアに保持された前記ガラス基板と、を相対的に移動させて前記ガラス基板の両主表面を研磨するEUVリソグラフィ(EUVL)光学基材用ガラス基板の研磨方法であって、
EUVL光学基材での成膜面が、前記下定盤の研磨面と対面するように前記ガラス基板を挟持することを特徴とするEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項2】
前記上下両定盤を同心の回転軸で回転させつつ、
前記キャリアを、その中心が前記研磨面上の前記定盤の回転軸と一致しない位置に配置し、前記研磨面上で前記ガラス基板を保持する前記キャリアを前記定盤の回転軸を中心に相対的に公転させ、かつ、前記キャリアの中心を回転軸として前記研磨面上で該キャリアを自転させることによって、前記ガラス基板の両主表面を研磨することを特徴とする請求項1に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項3】
前記上下両定盤の研磨面による研磨荷重が1〜120g/cm2である、請求項1または2に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項4】
前記上下両定盤には、表面の最大山と最小山の高低差が50μm以下のパッド表面を有するスウェード系研磨パッドが取り付けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨パッドの平均開口径が5〜100μmである、請求項4に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項6】
前記下定盤に取り付けられた研磨パッドの平均開口径と、前記上定盤に取り付けられた研磨パッドの平均開口径と、の差(下定盤の研磨パッドの平均開口径 − 上定盤の研磨パッドの平均開口径)が、0.01μm以上であることを特徴とする請求項5に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨パッドのパッド表面がドレス板でドレッシング加工されている、請求項4〜6のいずれかに記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項8】
前記ドレス板が電着ダイヤである、請求項7に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項9】
前記研磨粒子がコロイダルシリカまたは酸化セリウムである、請求項1〜8のいずれかに記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項10】
前記研磨粒子が、平均一次粒子径が5〜100nmのコロイダルシリカである、請求項9に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項11】
前記研磨粒子を含む流体におけるコロイダルシリカの含有率が5〜40質量%である、請求項10に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項12】
前記研磨粒子を含む流体が、pHが8以下のコロイダルシリカ水溶液である、請求項10または11に記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。
【請求項13】
表面粗さ(Rms)が1nm以下、平坦度(P−V値)が1μm以下となるように、前記ガラス基板の両主表面が予備研磨されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のEUVL光学基材用ガラス基板の研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171042(P2012−171042A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34779(P2011−34779)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】